- 3
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:28:17.27 ID:hrZxkgcrO
- 〜track-δ〜
━━天球に映し出せれた星の海を仰ぎ、溜め息をつく。
( ФωФ)「…まだ、遠いな」
紛い物の立体ホログラフに手を伸ばし、また溜め息。
年季の入った樫材の安楽椅子にもたれ、私は迫り来る憂鬱と戦っていた。
「…お休みのところ、失礼します」
ノックの音と同時、執務室に入ってきた声に私は振り向く。
( )「…また、星を眺めていたのですか?」
照明を落とした室内に、彼女の見た目に反して幼い声が染み渡った。
( ФωФ)「…虚しい趣味と笑うかね?それとも、欲求不満な幼子と嘲るのかな?」
私のひねくれた物言いに、彼女は顔の両脇で緩く巻いた金髪を微かに揺らして苦笑する。
何時もの悪い癖が出てしまったことに気付くと、私は首を振って話を変えることにした。
( ФωФ)「…それで、何の用かね?」
私の問いに彼女は姿勢を正すと、ゆったりとした笑みを浮かべて口を開いた。
( )「T-0の足取りが掴めました」
- 8
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:30:53.75 ID:hrZxkgcrO
- ( ФωФ)「…ほぉ」
そうか。遂に見つけたか。
( )「…現在地は日本国首都VIPです。…が、少々事情が混み合っているようで」
( ФωФ)「…と言うと?」
問い返す私の耳元に彼女は口を近付け囁く。
( ФωФ)「…ふむ。なるほど…」
さて、些か面倒だ。所詮は“失敗作”。
無理をしてでもこちらに呼び出す程の価値が有るとは思えないが。
……しかして今は一人でも優秀な人材が必要。“あれ”も一応は“チルドレン”の端くれ。回収しておくに越したことは無いだろう。
( ФωФ)「…迎えを向かわせなさい。あの子がどれだけ成長したのか、是非とも見てみたい。まぁ、どうしても無理そうなら仕方がないがね」
( )「…分かりました。それでは、私はこれで」
( ФωФ)「ああ、待ってくれ。一つ言い忘れた」
執務室を出て行こうとする彼女を呼び止める。
( ФωФ)「可愛い愛娘なんだ。丁重に、頼むよ」
それに頷き、微笑むと、彼女は今度こそ部屋を後にする。
宙に舞ったコインは、どちらを向くものか。
- 9
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:33:11.99 ID:hrZxkgcrO
- ※ ※ ※ ※
━━読んでいた書類から目を上げて、私は尋ねた。
<(' _'<人ノ「……これを、何処で?」
(*゚∀゚)「ですからぁ、こないだ接待した客がボックス席に置き忘れていったんですよ。それ以外はなぁんもわかりません」
正座というものに慣れていないのだろう。
座布団の上で、しきりに脚を気にしながらつーはそう答えた。
<(' _'<人ノ「忘れ物…ですか」
もう一度その書類を見てから、つーの顔を見つめる。
- 11
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:35:06.13 ID:hrZxkgcrO
- (*゚∀゚)「にゃ?」
あっけらかんとした顔で小首を傾げる彼女。
けばけばしい様相の割に汚れを知らない彼女の瞳は、無垢な光を称えてくるくると動いている。
本当に何も知らないのだろう。
<(' _'<人ノ「……わかりました。もう下がって下さって結構ですよ」
(*゚∀゚)ノ「ほぉーい」
待ってましたとばかりに彼女は立ち上がると、よろけながら座敷を出ていく。
<(' _'<人ノ「……忘れ物…」
かこん。鹿威しの音。
<(' _'<人ノ「これはまた…随分と大層な忘れ物ですね」
- 14
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:37:24.53 ID:hrZxkgcrO
- この書類に書かれたことが真実ならば、我々はとてつもなく大きな“お財布”を手に入れたと言えよう。
いや、ここまでくると最早“金庫”と呼んだ方がいいかもしれない。
脳核回線を開く。
<(' _'<人ノ『朝日さん、朝日さん』
(-@∀@)『あいあい、何でございましょう姉御』
<(' _'<人ノ『あなたの色宿の来客履歴から、つーさんの担当したお客様をあげていただけますか?』
(-@∀@)『えぇ、お安いご用ですが…どうしてまた?』
- 17
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:41:08.71 ID:hrZxkgcrO
- <(' _'<人ノ『いえね、少しお金を“援助”して貰える当てがありまして…』
(-@∀@)『“援助”、ですかい』
<('ー'<人ノ『えぇ、“援助”ですわ…そう、絞り込みの項目にアメリカ人を追加して下さいな』
(-@∀@)『それなら直ぐに出来ますぜ』
<(' _'<人ノ『結果が出ましたら、またこの回線に連絡を下さいな。えぇ、内密のうちにですわ。
それが済んだら、あなたにはまた別のお仕事を頼みたいのですが、よろしいですか?』
(-@∀@)『へへっ、承知しやした』
<(' _'<人ノ『…それと、もう一つ』
- 18
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:44:00.51 ID:hrZxkgcrO
- (-@∀@)『…へい?』
<(' _'<人ノ『…最近、私達の組の者が暗がりで惨殺されてるのが頻発してます。
相手の正体は今のところは不明ですが、恐らくは西村の生き残りの報復でしょう。貴方の色宿のお嬢さん方にも、一応気をつけるよう言っておいて下さいな』
(-@∀@)『…へへっ、承知しやした』
蛇のような笑いを残して彼は回線を切った。
私は静かになった座敷の中で、ニラ茶を啜りながら考える。
<(' _'<人ノ「…誰にでも、知られたくないことの一つや二つは有るものですが…」
これはまた、業が深い。
<('ー';<人ノ「ふふ…うふふ…ふふ…」
湯呑みを包む手が僅かに震えた。
- 20
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:46:53.85 ID:hrZxkgcrO
- ※ ※ ※ ※
――ドアを開けると、まん丸お月様のお目々が私を出迎えた。
(゚A゚)「――」
ξ*゚ー゚)ξノシ「やっほー♪お待たせ〜」
呆然自失の部屋の主は、私と“その背後”を認めた途端、くわえていた歯ブラシを漫画みたいに落とした。
ξ*゚ー゚)ξノシ「どしたの?なんか、スッゴい顔してるけど」
起き抜けなのだろうか。
昼過ぎだというのにしましまのパジャマにナイトキャップを被った彼の顔の前で、二、三度手を振る。
- 21
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:49:52.20 ID:hrZxkgcrO
- (゚A゚)「……もしかしてオレ、まだ寝てる?」
ξ*゚ー゚)ξ「かもね〜。何なら、私が目、覚まさせてあげよっか?」
(゚A゚)「あぁ、頼む。何か、酷い幻覚が見えるんだ」
ξ*゚ー゚)ξ「わかった♪じゃあ、目、つむって」
素直に従う彼。その薄い唇に、私は自分のそれを重ねて直ぐ離した。
ξ*゚ー゚)ξ「……えへへ。どう、目ぇ覚めた?」
(うA゚)「……いや、まだだ」
彼は目を擦り、何度もまばたきを繰り返す。
なんだか、私の唇の威力が弱いと言われているようで、若干ムッとした。
- 23
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:51:49.32 ID:hrZxkgcrO
- ξ*゚ぺ)ξ「じゃあ〜……」
致し方ありませんわね。ならば私もちょいと乙女の意地を魅せて差し上げますわ。
ξノ*><)ξノ「これならどうだ♪」
ぎゅっ、としてはぐっ。
一回はやってみたかったのよね、これ。
ξ*゚ー゚)ξ「えへへ〜」
(゚A゚)「あれれ〜?何でだろ〜?おかしいなぁ…まだ幻が見えるよ〜?」
ξ゚听)ξ「……」
なに。何なの。何なのよこのスルーっぷり。
あなたは、今、愛しの、あの子に、ぎゅっ、としてはぐっ、とされているのに。
何でありますか、その気の抜けたゴム風船のような顔は。
私を。もっと私を見なさいよ。
- 25
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:54:17.94 ID:hrZxkgcrO
- ξ*゚ー゚)ξ「ねぇ、どっくん?」
(゚A゚)「……」
ξ*゚ー゚)ξ「わかるわ。わかるわよ、あなたの気持ち。そりゃあ誰だって、朝起きて部屋の前にこんな可愛い恋人が訪ねてきたらびっくりするわ」
まぁ、朝じゃ無いけど。
ξ*゚ー゚)ξ「だからって、そんなに驚くこと無いじゃない。過剰なリアクションは時と場所を選びましょ?」
(゚A゚)「……いや、その」
ξ*゚ー゚)ξ「それとも、私が本当に同棲するなんて思ってなかった?」
- 26
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:56:14.67 ID:hrZxkgcrO
- (゚A゚)「……えと」
私たちの肩書きが、「暇つぶし相手」から「恋人」に変わってから、早いものでもう半年が過ぎた。
相変わらず私は“不定期な仕事”の合間を縫って彼と会い、彼の慢性的な依頼日照り症候群も、最近は少しずつ落ち着いて来ている。
交際は順風満帆。
そんな日々の中で、「同棲」のことを考えない日は無かった。
お互い、こんな仕事だ。明日を迎えることの出来る確率は、一般の人に比べて極端に低い。
一秒でも長く、一緒に居たかった。
それでも、私から言い出すのは何だか尻が軽いみたいだし……何より、彼がどこまで私のことを愛してくれているのかがわからなくて。
そんなこんなで、今一つ口火を切れなかった。
それが、つい一週間前のことだ。
('A`)『なぁ、ツン。引っ越しをする気は無いか?』
何時もみたいに、彼の事務所のソファーに寝転んで紅茶を飲んでいると、彼が唐突にそう切り出した。
- 28
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/15(水) 23:59:24.28 ID:hrZxkgcrO
- ξ゚听)ξ『引っ越しって?同棲?』
('A`)『あぁ、その通り。君の家は、どぶ川沿いだろ?あそこから毎日通ってくるのも面倒じゃないか。だから、さ』
カスタムデザートイーグルの手入れをしながら言う彼。
彼は照れを隠す時は、何時もそうなんだ。
ξ゚听)ξ『同棲って…そんな…簡単に言われたって……』
口ではそう言ったけど、正直な話、その場で飛び上がって彼に抱き付いて頬ずりしてキスの無双乱舞を叩き込んでやりたいぐらいに嬉しかった。
え?例えが過剰?無粋なことは言うものじゃないわ。
ξ゚听)ξ『どうせい…っちゅうねん』
('A`)『……ねぇツンさん』
ξ゚听)ξ『はい』
('A`)『僕はわりかし真面目な話を…ですね…』
ξ゚听)ξ『……ちょっと、考えさせて』
ふふ、こう言っとけば思わせぶりでミステリアスな女の色香を漂わせられるでしょ。
……まぁ、ごめん。強がり。即答しちゃったら、この嬉しさの余韻を楽しめないから。
えぇ、そりゃあもう、嬉しかったですよ。
夜中、ベッドの上でクッションを抱き締めながらムーンサルト決めちゃうぐらい。
……なによ。何か文句ある?
- 29
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:01:42.61 ID:wHrZcMCSO
- でまぁ、そんな感じで一人でこの世の幸福を一身に満喫して一週間。
クッションを二つほどしわくちゃにして冷静さを取り戻した私は、今日の日のサプライズをあなたに届けていると言うわけなの。
なのだけど。
ξ*゚ぺ)ξ「もぉ〜…どっくん?」
(ノA゚)ノ「待って。まだ、頭の整理が追い付かない」
ξ*゚听)ξ「確かに、アポなしで来た私が悪いけどさぁ…同棲しようって言ったのは、どっくんだよ?」
(゚A゚)「あぁ、そうだ。確かに、オレは君に同棲しようと持ち掛けた。だが少し待って欲しい」
ξ*>へ<)ξ「やだぁ!もぉ待てなぃ!荷物も持ってきちゃったし、早く中に入れてぇ!」
( ゚A゚)σ「その…荷物のことなんですがね……」
ξ゚听)ξ「ふぇ?」
彼に言われて振り返る背後。
(゚A゚)「君は、オレの部屋でゲリラ戦でも始めるのか?」
彼の指は、うず高く積まれた麻袋達の口から顔を出した銃火器の先を指して、震えていた。
- 31
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:03:42.61 ID:wHrZcMCSO
- ※ ※ ※ ※
━━拝啓、天国の母上様。お元気でしょうか。
私めがあなたの存在を勝手に殺しては、こんな冗談みたいな手紙風独白(西洋風に言いますとモノローグですかな)を脳内拡声器で垂れ流している今宵。
私めの人生は、そう、まさに冗談のように幸福で満ち満ち足りて御座います。
貴女の子宮口から外界に排出されて21年。
貴女以外の女性からは「蛆虫」、「ギョウ虫」、「神様の設計ミス」などと罵られてきた私めにも、遂にイイ人なぞが出来てしまいましたでござ候。
('A`)「失敬、少し酔っ払っているようですね」
はてさて、何の因果か世は奇々怪々の摩訶不思議なものでして。
私めには、彼女がどうしてまたこのような掃除用具入れの隅で忘れ去られて黴だらけになった雑巾のような男を好いてくれるのかが、とうとわかりかねます。
爪'ー`)y‐「なぁ、どういうチートコード使ったの?」
('A`)「いやぁ、人格プログラムとかインストールした覚えは無いけどなぁ…」
爪'ー`)y‐「おめぇはミック・ジャガーの人格ディスクを入れたってモテねぇよ」
- 33
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:05:53.90 ID:wHrZcMCSO
- ('A`)「ミック・ジャガー?」
爪'ー`)y‐「稀代のカリスマロッカーさ。60になっても18の美女とヤりまくってた」
ほう。世の中には、とんでもない用具入れが居たものだ。
('A`)「…でまぁ、正直不安な訳ですよ」
酒杯を傾ける、閉店後の「狐の穴」。
“彼女”と出逢う前まで、フォックスが雇われ店長をしているこのエロゲショップでは、毎週のように野郎二人きりのグダグダ飲み会が開催されていたものだ。
('A`)「久しぶりだな。お前とこうして酒を交わすのは…」
爪'ー`)y‐「よぉく考えろ。今のはさり気ないが死亡フラグだ」
やべっ。こんなところで死ねるか。まだ童貞だ。同棲してるのに。
爪'ー`)y‐「どうせ話題も無いから聞いてやるが、どうなのよ?え?」
サラサラの茶髪をかきあげながら、スケコマシイケメン(警告、この優男には多量のヲタクモネラ菌が含まれています)が気だるげな眼差しを向けて来る。
('A`)「……まぁ、ぶっちゃけ不安なわけです」
爪'ー`)y‐「どうして、彼女みたいな絶世の美女が自分の側に居てくれるか。その方程式の答えが分からないと?」
('A`)「例解を下さい、ヤー=リィチン教授」
- 34
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:07:54.68 ID:wHrZcMCSO
- 恋は人を盲目にすると、彼の偉大なるサルバトーレ・モンテスキューも言っているが(要出典)、控えめに見てもツンのヴィジュアルは凄まじい。
セキュリティーレートにするとSSクラスだ。アクセスしただけで脳髄を軍用攻性防壁(ブラックアイス)で焼き切られる。
その美しさを例えるならば、シャム猫。すらりとした肢体に、つり上がり気味のくりくりとした両目。
顔の両脇で揺れる巻き髪の金糸なぞ、三週間不眠不休で見続けていても飽きない。
('A`)「まぁ三週間も不眠不休で見続けていたら肉体的に死ぬけど、むしろ目を離すと死ぬ。
見ている間はきっと特殊な力場か何かの影響で死なない。これ、恋愛物理学の基礎な」
爪'ー`)y‐「はっ!おめぇが恋愛物理学を語るかね!」
('A`)「教授!」
爪'ー`)y‐「何だ」
('A`)「例解を下さい!」
爪'ー`)y‐「……あーあーうぜぇなぁ。アルミ缶に躓いて梅干しに頭を打ち付けて死なねえかなぁ」
オレの幸せオーラ(第136号物質)に顔をしかめながら、ヤツはビールを一気にあおると缶をカウンターに叩き付けてこう言った。
- 35
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:09:54.36 ID:wHrZcMCSO
- 爪'ー`)y‐「熱力学的見地から見た蜃気楼現象です」
(゚A゚)「らめぇぇえぇえ!」
爪'ー`)y‐「貴方の言う“彼女”、ないしは“恋人”というものは、貴方の汚れきった水晶体が映し出す幻の可能性が有ります。早急に医師の診断を受けて下さい」
(;A;)「そんな気はしていた!そんな気はしていたんですぅぅう!」
爪'ー`)y‐「目を覚ませ若人よ。恋愛なぞ、所詮は脳内電気信号が見せる幻。“性欲”という汚らわしい大罪を覆い隠す建て前でしか無いのだ!」
(;A;)「許すまじ!恋愛資本主義!月九は贖罪せよ!メディアの洗脳の縛鎖を今こそ断ち切れ!」
- 37
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:11:56.92 ID:wHrZcMCSO
- 爪'ー`)y‐「童貞万歳!膣を見ずとも、我、真理を見たり!」
('A`)「いいからマジレスくれよ。なぁ」
爪'ー`)y‐「……」
危ない。もう少しでフォースの暗黒面に囚われるところだった。
オレは騙されんぞ。分かっているんだ。ヤツら“持たざるもの”の嫉妬に狂った思惑ぐらい、お見通しさ。
爪'ー`)y‐「……まぁ、敢えて言うなら…だ」
('A`)「うむ」
爪'ー`)y‐「……遊ばれてる?」
- 40
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:13:23.28 ID:wHrZcMCSO
- ('A`)「よし死のう。今すぐ死のう。この胸の恋心が本物なうちに死のう練炭何処いったっけ」
爪'ー`)y‐「落ちつけ。落ちつけって。悪かったよ。少し悪戯が過ぎた」
('A`)「すまんなフォックス、両親へ遺言を届けてくれ。いいか…」
爪'ー`)y‐「おい、早まるなって。オレが悪かった。好きなエロゲ、タダで一本やるからよ」
(;A;)「“机の引き出しは、未来になんか繋がっていやしない”…!」
そうさ、僕らのようなダメ人間を救う猫型ロボットなんて何処にも居やしないのさ!
(;A;)「生まれ変わったら…インクになって漫画の一ページとなるんだ!」
爪'ー`)y‐「ちょっと、頭冷やそうか」
見事なげんこつ(久しぶりにこの単語を使ったな)を脳天に落とされ、オレは天国の階段から足を踏み外した。
まぁ、実際はただビールを一気飲みしてただけだが。
爪'ー`)y‐「……とにかく、だ。どういうわけでか、おめぇを好いてくれてる女は実在する。実在するとしよう」
('A`)「ぶはは。そこは言い切れよ」
- 41
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:15:48.02 ID:wHrZcMCSO
- 爪'ー`)y‐「それで、だ。おめぇはその女の子に、完全にお熱だ」
ノ(*'A`)「いやぁお恥ずかしい」
爪'ー`)y‐「正直よ、オレは驚いてんだ。あのお前が、女と付き合ってんだからな」
確かに。重度の女アレルギーなオレが、今じゃ同じベッドで女と寝ている(残念ながら性的な意味ではない)のだ。
自分でも不思議なことで、一体全体オレはどうなってしまったのか。とにかく凄い進歩だ。
爪'ー`)y‐「最近、タバコ止めたろ?」
('A`)「…わかるか?」
爪'ー`)y‐「あれだけヘビースモーカーだったおめぇからヤニの臭いがしねぇってのは、普通じゃない。異常気象だ。真夏に大寒波が吹き荒れるようなもんだ」
('A`)「…一応、気ぃ遣ってんだよ」
自他共に認める自堕落ダメ人間ドクちゃんことオレでも、彼女にしかめ面をされるぐらいならタバコも止める。
いいや、むしろ溝に捨てて唾を吐いた上から小便をかけて笑ってやるね。
爪'ー`)y‐「すげぇじゃねぇか。“努力”とか“根性”とか少年ジャソプみたいな文句が大嫌いなおめぇが、そこまで変わったんだ。本当に大したもんだよ」
- 43
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:17:53.42 ID:wHrZcMCSO
- (*'A`)「よ、よせやい…照れんべ…」
爪'ー`)y‐「…そして、その懐に忍ばせてある記録素子は何なのかな?」
言われて、はっとなる。慌てて懐を探るオレを嘲笑うよう、ヤツは手品師よろしく“その”チップメモリを指先で挟みひらひらと揺らした。
ヽ(;'A`)ノ「ばっ!返せよ!」
*
爪'ー`)y「大方、66番街の泥棒市で買ったんだろ。いくらした?」
ヤツの指先で揺れるそれは、ロイヤルガードの国家試験の過去問が詰まった記録素子だ。
“努力”なんてキャラじゃないから、他人には知られたくなかったのに…こいつと来たら。
(;'A`)「36…」
爪'∀`)y‐「ひゅー!こいつぁぶったまげた!まさか!あの!おめぇが!勉強なんかの為に!36万も!」
仰け反って馬鹿みたいに笑いながら、手を叩くヤツ。
ほら、こういう反応をされるから知られたくなかったんだよ。畜生め。
(;'A`)「…だってよ…何時までも、ライセンス無しじゃ…仕事がこねぇだろ?それは流石に…ねぇ?」
爪'ー`)y‐「なんだいなんだい?愛しの彼女の為に社会復帰かい?泣かせるねぇ!」
- 45
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:20:58.90 ID:wHrZcMCSO
- そりゃあオレは社会のつまはじきだけど、“復帰”という言葉を使われるほどに道を踏み外しているとは……。
('A`)「まぁ、負け組なのは事実ですね」
爪'∀`)y‐「ひゃひゃひゃ!傑作だ!本当に傑作だずぇ!ひーひー!助けて…笑い死ぬ…顎が…顎が…」
腹を抱え、顔を真っ赤にして、涙まで浮かべながら笑い転げるフォックスもといフォッ糞。
(#'A`)「てめぇ、いい加減失礼極まりねぇぞ。そろそろ修正が必要か?」
拳をわななかせて迫るオレ。
流石のフォッ糞もそれで懲りたのか、顔面を笑いにひきつらせながら白旗のジェスチャーをする。
爪。'ー`)y‐「悪ぃ悪ぃ。あんまり、嬉しくてよ。つい、な」
('A`)「フォックス…」
親友の不意に見せた優しさに虚を突かれたオレに、ヤツは目尻の涙を拭うと気を取り直したように缶ビールを開け。
爪'ー`)y‐「せいぜい、努力しろよ」
その中身をオレの顔にぶちまけた。
- 46
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:22:59.67 ID:wHrZcMCSO
- ※ ※ ※ ※
━━久しぶりに浴びる日の光が気持ちいい。
ヽξ´兪)ξノ「ふぁ〜」
大きく伸びて、道行く人々から目を戻す。
昼前のオープンカフェ。久し振りに訪れたニーソクでの休日。
(*゚∀゚)「あやっ、でっけぇ欠伸。寝不足ですか?夜更かしはお肌のアークエネミーですよぉ」
対面に腰掛けたつーが、大きな隈の出来た目元を広げる。
ξ゚听)ξ「あんたも人のこと言えんの?」
(*゚∀゚)「あたしの仕事知った上で言ってるのかにゃ?んにぃ?」
たまの女水入らずな休日。気心の知れた相手だからといって、メイクの手を抜くような友人に私は溜め息がこぼれた。
ξ゚听)ξ「よくそんなパンダみたいな目で出て来れたわね」
(*゚∀゚)「あちきの美貌は得失点差で隈をも打ち負かすんだよ」
ピンクとブロンドとオレンジと赤のレイヤーが入って混沌とした長髪を掻き揚げ、彼女は戯れ言を吐く。
半ば呆れた私は、ゴスパンクのメルヘン女から街頭のホロTVへと視線を移した。
- 48
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:25:05.18 ID:wHrZcMCSO
- 『━━れで被害者の数は25人目となり、政府警察は先日17時30分、企業警察の最大手であるワタナベセキュリティサービスへと正式に応援要請を提出した模様。
これに対し、渡辺グループ総帥のアヤカ・ワタナベ氏は……』
(*゚∀゚)「おぉ怖い怖い。また“屠殺屋ジャック”が出たってぇ?」
芝居がかったジェスチャーで自分の体を抱きしめる。
ξ゚听)ξ「最近何かと物騒ね。謎の復讐者に、連続殺人鬼。まぁ、VIPじゃ日常茶飯事なのかも知れないけど」
(*゚∀゚)「あたしも店長に夜道は気をつけて帰れって言われてるよぉ。人気の有る子なんか、ボーイの男の子が送り迎えする始末さ」
私の寝不足の原因となっているのが、実はこの「謎の復讐者」の存在だ。
下手に左目をサイバーアイに置き換えたせいで、“ネズミ探し”なんていらない雑用を押し付けられ、正直迷惑している。
(*゚∀゚)「…んまぁ、そんな暗い話はどだっていいのぉ。…で、最近どうなのよ?んにぃ?」
ニンマリとした笑みを浮かべるつー。嫌な笑い方だな、本当。まぁ、聞かれてやぶさかでは無い私も私だが。
- 49
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:27:42.38 ID:wHrZcMCSO
- ξ*^ー^)ξ「それがさぁ、聞いてよ!あのね、こないだ遂にどっくんとね…」
(;*゚∀゚)「なんと!もうそこまでイったの!?」
ξ゚听)ξ「まだ話して無いっつうの」
(*゚∀゚)「失礼。…で?」
ξ*>ー<)ξ「その…遂にどっくんと…ど、ど、どう…」
(*゚∀゚)「童貞?」
ξ*><)ξ「同棲することになっちゃいました〜!」
(*゚∀゚)「おい突っ込めや」
ξ*^ー^)ξ「でね、でね!どっくんったらね…」
- 50
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:28:53.46 ID:wHrZcMCSO
- これでもか、とばかりに幸せおのろけトーク全開の私。
釈明の機会をいただけるなら、こんなことを話せるのが彼女しか居ないと私は言おう。
……はいそこ、「ぼっち乙www」みたいな目で見ない。
(*゚∀゚)「いやぁ、しかしいいやねいいやね!本当におめでたいよ!これもひとえに私のおかげね!」
ξ*゚ー゚)ξ「本当よぉ。つーには感謝したってし切れないわ」
(*゚∀゚)「なっはっはっはっ!崇めたまえ奉りたまえ!」
ξ*゚ー゚)ξ「でさぁ、あんたはどうなの?」
(;*゚∀゚)「へっ?」
- 51
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:30:32.74 ID:wHrZcMCSO
- ξ*゚ー゚)ξ「こないだ言ってたじゃん!街で会った人に一目惚れしたってさ。ねぇ、どうなの?」
(;*゚∀゚)「うゆっ…それは…その…」
途端、もじもじし始める彼女。
ξ*゚ー゚)ξ「これこそ運命の出逢いだって言ってたじゃん!ねぇねぇ!どうなのよ!」
(;*゚∀゚)「あは…あはは…」
私の有閑マダムばりの追求に、彼女は照れたような苦笑いを浮かべると。
(;*゚∀゚)「そ、それよりさ!ツンに会いたいって人が居るんだけど」
無理矢理な話題転換でお茶を濁しにかかった。
ξ゚听)ξ「はいはい、ごまかしたってダメよぉ。第一、お見合い話なら私はどっくんで間に合ってますぅ」
(;*゚∀゚)「いやいや、そういうんじゃなくて!仕事絡みのことなんだけど…」
ξ゚听)ξ「は?」
仕事絡みで私に会いたい人間など、初耳だ。
組の内外を問わず、大抵の仕事は綾瀬直下の上司から回って来るものだけども。はて。
(*゚∀゚)「…ウチのクラブのお客さん何だけどね、何でも『ブラウナウバイオニクス』っていう、ドイツの生化学会社の重役さんらしくてさ…」
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名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:32:41.86 ID:wHrZcMCSO
- ξ゚听)ξ「ドイツの生化学会社?何でまた、そんな人が私に…?」
(;*゚∀゚)「それがさぁ…よく分からないんだよね。私がボックス席に入るや否や、“ツンという女性をご存知か?”なんて聞いてきてさ…」
ξ゚听)ξ「それであんた、正直に頷いたわけ?」
(;*゚∀゚)「う、うん…」
ξ;゚听)ξ「…呆れた。あんた、怪しいとか思わなかったわけ?」
こんな業界だ。個人名を指定した謁見依頼なんて、ろくなものじゃないと相場が決まっている。
(;*゚∀゚)「あ、あたしだっていきなり何も考えないで頷いたわけじゃないんだわさ!だって、その人さ…」
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名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/04/16(木) 00:36:51.85 ID:wHrZcMCSO
- ξ゚听)ξ「……何よ」
(;*゚∀゚)「“ツン君の父親が娘に会いたいと言っている”って…」
瞬間、世界から音が消えた。
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