- 13
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:20:38.59 ID:9AyGUOaLO
- 〜track-α〜
━━17歳の誕生日プレゼントは、ボルトアクションのライフルだった。
ネットオークションに出されていたそれに私以外の入札は皆無。
提示金額即決で落札出来てしまった為に余った予算で、私は歳の数と同じだけの70口径ライフル弾を買った。
70口径。
友人の“つー”に話したら、強化外骨格とでも撃ち合うのかと聞かれた。
確かに、こんなバカでかい代物を生身の人間に撃ち込んだら、それこそ骨は砕けるわ内臓は爆裂するわでスプラッターホロもいいところだろう。
だが、それでいいのだ。
わざわざバレルを改造してまで、口径を合わせたのだ。
だから、それでいいのだ。
ξ--)ξ「一撃で決める…一撃で決める……」
スコープを覗く。補助機能も何も無い、非電脳の時代遅れな装備。
荒々しいビル風と相まって、仕事の難易度は上がる。
ξ--)ξ「落ち着いて…落ち着いて……」
夜の帳。街のネオン。分厚い雲のベールの向こうに、星明かりは見えない。
10mmの筒から覗いた世界。狭く、小さく、窮屈な世界。
- 17
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:23:12.79 ID:9AyGUOaLO
- ニーソク区14番街。VIP一の歓楽街。道行く人々の義体化率は、人外魔境。
ドレッドヘア、モヒカン、スキンヘッドに刻んだ入れ墨。
多種多様な頭の中から、“それ”を見つけた。
ξ-听)ξ「居たっ…!」
指を掛ける引き金。一度も引いていないそれは、重く、硬い。
渾身の力を指に込め、引く。
銃声、衝撃、肩を伝い、耳朶を震わせ、背筋を駆け抜ける。
凍てつく夜気、引き裂いて、突き進む弾丸はスズメバチ。
着弾、破裂、一瞬の沈黙━━。
「ぎゃぁぁぁあぁあ!!」
直後、悲鳴。
- 19
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:27:14.16 ID:9AyGUOaLO
- 「狙撃だ!頭を低くしろ!」
「ちっくしょぉぉお!おじき!おじきぃぃいい!」
相前後、怒号。
「どこからだ!?」
「ビルの上に━━!」
「居たぞ!あそこだ!」
「殺せ!殺せ!殺せぇぇえ!」
ξ;゚听)ξ「ちっ━━!」
気付かれた。そう思った時には、体が動いていた。
ライフルをギターケースにしまい、身を低くしての疾走。
狭い屋上、響く足音は複数。間に合わない。蹴りつける床、飛び出す宙。
落下、落下、落下。
ξ゚听)ξ「あっ」
落下先、アスファルト━━。
- 21
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:29:31.87 ID:9AyGUOaLO
- ※ ※ ※ ※
━━痛い。
ξ )ξ「痛い……」
痛い。
ξ#゚听)ξ「痛ったぁーいっ!」
叫ぶのと同時、全身の骨という骨も一瞬に絶叫を上げた。
ξ;>听)ξ「痛っ━━!」
気を失っていたのか?
一瞬、意識が完全に三途の川の向こう岸を垣間見ていた。
何か、頭の薄くなった中年オヤジが薄ら笑いを浮かべて手招きしてた。花畑なんか無かったじゃないか。嘘つき。
ξ;゚听)ξ「って、そんな場合じゃ━━!」
近くで銃声。思わず、目を閉じる。
- 22
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:30:45.68 ID:9AyGUOaLO
- ξ;><)ξ「っ!」
目を閉じた拍子に、足が何かに躓いた。
よろける体を辛うじて立て直し、壁に手をつく。
全身の鈍痛は、未だに引ききらない。
ξ;>听)ξ「うぅ…最悪……」
顔をしかめ、目を凝らす。
どうやら飛び降りた先はビルとビルの隙間、薄ら汚い裏路地のようだ。
(゚ξ彡「……」
後ろを振り返り見上げる先、ビルの屋上までは目測26メートル。
よくこんな高さから落ちて無事だったなと、自分の頑丈さに関心した。
- 24
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:33:24.91 ID:9AyGUOaLO
- 不幸中の幸いってとこかしらん。
胸中で呟き、耳をすませる。
遠耳に聞こえるサイレンの音。近くをかけていく、幾つもの足音と怒声。
しばらくはここに居た方が安全だろう。
ξ゚听)ξ「……ふぅ」
溜め息をつきながら腰を下ろし、ビルに背中を預ける。
肩の力を抜いて、自らの手を見つめたところで、言いようの無い寒気が背筋を震わせた。
ξ;゚-゚)ξ「私……人を…殺したんだ……」
かちかちと、歯がなる。
- 27
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:35:26.39 ID:9AyGUOaLO
殺人。
銃を撃つのはこれが初めてではない。むしろ、もう何度も経験していることだ。
狙いを合わせて、標的の動きを予測して、引き金を引く。
ただ、それだけのことだと。お父様と一緒にする、クレー射撃と同じだと。
そう、思っていた。
ξ;゚-゚)ξ「ぁっぅあ……」
“大丈夫ですよ、ツンさん。何も怖いことなんてありませんの。人間なんて、動く的と同じよ”
あのいけ好かない“女郎蜘蛛”はそう言ったけれど。
違う。全然違う。
そんな単純なものじゃない。
言葉では言い表せ無いが、そんなことで割り切れるようなものじゃないんだ。
- 29
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:37:42.20 ID:9AyGUOaLO
- ξ; -;)ξ「私…人を……」
零れる涙の向こう側の表通り。
そこを走り回る追っ手の存在が、私に囁く。
“人を殺すということは、自分が殺されてもいいということだ”
ξ;;)ξ「あっ…あっ…」
━━じゃりっ。
足音は、突然だった。
ξ;;)ξそ「ひっ!?」
情けない悲鳴を上げ、腰のハンドガンに手を伸ばす。
「うー……トイレトイレ」
震える手で引き抜き構えるが、引き金が下ろせない。
ξ;;)ξ「あっ…あっ…」
「ん?誰かそこに━━」
引け!引け!引け!
- 31
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:39:21.05 ID:9AyGUOaLO
- ξ;;)ξ「ああぁぁぁあぁぁあぁあ!!」
(;゚A゚)「うわぁぁぁあぁあ!!」
絶叫。引き金は、引けなかった。
ξ;;)ξ「……え?」
(;'A`)「おおお、落ち着け。ドントマインド。ドントマインド。オレは丸腰だ。オレは童貞だ。撃たないで。お願い。死にたくない」
ξう;)ξ「……追っ手じゃ…ない?」
(;'A`)「何を言ってるかわからんが、とりあえずその物騒なもんを下ろしてくれよ子猫ちゃむ」
あ、噛んだ。
ξ;゚-゚)ξ「う、うん……」
- 34
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:41:44.37 ID:9AyGUOaLO
- ゆっくりと、銃を下ろして腰のホルスターにしまう。
(;'A`)「オーケー、いい子だ。よぉし、そのまま…そのまま……」
説き伏せるように言う男。
私に背を向けズボンをもぞもぞとやり始める。
(A`;)「畜生…あまりのショックに小便が引っ込んじまった……」
まぁ漏らすよりましか、などとぼやきながら彼は再びこちらを振り向いた。
('A`)「あー……」
ξ゚听)ξ「……」
薄暗い裏路地。幾分か落ち着きを取り戻した私は、目を凝らして男の姿をねめ回す。
- 35
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:43:22.97 ID:9AyGUOaLO
- ボサボサの頭、くたびれたコート、よれよれのジャケット、しわだらけのスラックス。
ξ゚听)ξ「その……」
('A`)「ん?」
ξ*゚-゚)ξ「チャック…開いてますよ」
('A`)「開けてんだよ」
ξ*゚-゚)ξ「そう…ですか……」
('A`)「うん」
沈黙。
(;゚A゚)そ「マジで!?」
慌ててもぞもぞと前を弄る男。
そんな様子がおかしくて、私は思わず吹き出す。
ξ*゚ー゚)ξ「ぷっ…!」
(;'A`)「いや、あの、これは…その…」
ξ*゚ー゚)ξ「くっ……」
- 37
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:44:50.58 ID:9AyGUOaLO
- (;'A`)「えーと…そう…開けたら…閉めなきゃね!うん!」
しどろもどろな彼の様子がまたおかしくて、私は遂に笑いをこらえきれなくなった。
ξ*>∀<)ξ「あはっ!あはははは!」
<(;'A`)「あー…うー……」
腹を抱えて、笑い転げる。涙を滲ませ爆笑する私に、目の前の彼はバツが悪そうに頭をかいていた。
ξ*うー゚)ξ「ごめ、ごめんなさい…あんまり…その…ナチュラルだったから……」
目尻の涙を拭いながら、頭を下げる。
さっきまでの緊張や恐怖は知らぬ間にどこかへ飛んで行ってしまっていた。
<(;'∀`)「ははは、こっちも笑ってくれた方が嬉しいっす。痴漢に間違われたらどーしよっかなぁー…なんて」
ξ*゚ー゚)ξ「通報…しましょうか?」
(;'A`)ノノ「あ、いえ!冗談!冗談っすよ!あなたもお人が悪いなぁ!なははは!」
そうやって、ちぐはぐなやり取りでひとしきり笑った後、彼は不意に私の足元に転がっていたそれに目を留めた。
- 39
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:46:58.31 ID:9AyGUOaLO
- ('A`)「弾き語りでもやってんの?」
彼が見つめているのは、あのギターケース。
ξ;゚听)ξ「えと…これはその…」
('A`)「オレ、ストリートミュージシャンとか初めて見るんだよね」
ξ;゚听)ξ「は、はぁ……」
(*'A`)「良かったら一曲聞かせてくれよ」
これは困った。まさか、中にボルトアクション式のライフルが入っているなんて言えたものじゃない。
ξ;゚听)ξ「うぅ……」
(*'∀`)「ねっ!ねっ!一回だけ!」
内心で頭を抱える私にもお構いなしに、彼はギターケースへと手を伸ばし━━。
- 42
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:48:26.60 ID:9AyGUOaLO
- ξ;゚听)ξそ「だっ━━!」
(゚A゚)「え?」
開けた。
ξ;゚听)ξ「あっ…あっ…あっ…」
硬直する空気。止まる時間。
混乱で混沌で混線した頭の中、何と弁明したらいいものかと考える、考えろ、考えれば……。
(;'A`)「……うはっ、こいつは驚いた!マジかよ!?」
いたってフランクな彼の反応。
逃げ出して、それこそ通報されると思っていた私は、彼の丸くなった目に拍子抜けした。
- 47
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:52:39.93 ID:9AyGUOaLO
- ('A`)「レミントンM800か…こんな骨董品、まだ市場に出回ってるのかよ……」
ξ゚听)ξ「ネットオークションで一番安かったから…」
('A`)「へぇ…でも、これ…動くのか?」
ξ゚听)ξ「何言ってるの。今の電子管制式より、ずっと信頼性は高いのよ?今の銃なんか、ハッキングされたらそこまでじゃない」
('A`)「まぁ、それも一理有るけどさ……」
ξ゚ー゚)ξ「それよりだったら、私は自分の手で支えて自分の目で狙って、自分の指で引き金を引く銃の方が好きだわ」
('A`)「へぇ。通だね」
ξ゚ー゚)ξ「ま、お父様の受け売りなんだけどね」
- 48
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:54:10.31 ID:9AyGUOaLO
- ('A`)「……」
ξ゚ー゚)ξ「……」
いやいや待て待て。
ξ;゚听)ξ「って、何でそんなこと━━」
何をライフル談義に花を咲かせている暇が有るというのだ。
そんなことより……。
「居たぞ!」
ξ;゚听)ξ「えっ!?」
響く怒鳴り声、近付く足音、向けられた銃口。
気付けば、三人の“ヤクザ”が私たちの目の前に立ちはだかっていた。
- 51
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:57:07.99 ID:9AyGUOaLO
- (#メ゚ゝ゚)「てめぇが…てめぇがおじきを…!」
ヤクザの皆さんの視線は私の足元のレミントンM700を経由して、私の眉間へ。
人違いですぅ。てへっ。なんて言い訳は通用しそうも無い。
ξ;゚听)ξ「っあ……」
忘れていた悪寒が、背筋を這い上がってくる。
収まっていた恐怖が、脚を震わせる。
('A`)「え?何?お知り合い?」
場違い甚だしくも間抜けな声を上げ、件の男が腰を上げた。
(#メ゚ゝ゚)「許さねぇ…!脚を撃って動けなくした後、犯って犯って犯り殺してやるっ!」
ヤクザのぎらついた目。灯りがあれば、きっと血管の浮いた顔が拝めたことだろう。
ξ;゚听)ξ「っ…ぁう…」
逃げろ。逃げろ、全速力で。いや、逃げる?逃げるだって?どうやって?脚が竦んで動けない。その上、この狭い路地裏。
復讐に狂ったヤクザ三人を押しのけ、いたいけな乙女一人が逃げ切れるとでも?
死ぬ。私はここで死ぬ。
絶対的な絶望が、今、目の前に腰を据えた。
- 53
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 21:59:22.52 ID:9AyGUOaLO
- ('A`)「なぁ、お姉さん」
男が、空気を読まずに頭をかきながら私を見下ろす。
('A`)「あんた、貯金はちゃんとしてる方?」
ξ;゚听)ξ「あ、あんたこの非常時に何を……」
('A`)「いいから答えてくれよ。大切なことなんだ。ギブアンドテイクさレディ。世の中は全部それで回ってる」
ξ;゚听)ξ「はぁ!?」
('A`)「ビズの話をしてるのさ子猫ちゃん。いいから答えな。出すのか?出さないのか?言っとくがオレは安く……」
(#メ゚ゝ゚)「殺れぇぇぇえ!」
- 57
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:01:06.74 ID:9AyGUOaLO
- 銃声、銃声、銃声。
立て続けに三度閃いたマズルフラッシュが、薄暗い裏路地を刹那のうちに照らす。
あぁ、死んだ。
ゼロコンマ以下の思考で、私は人生を振り返る。
嘘。走馬灯なんてのは無い。死の瞬間は一瞬。
まばたきもせぬ間に意識は途切れ、私の命は天に召され━━。
ξ゚听)ξ「え?」
無かった。
(;'A`)「……ったく、人が商談中だってのにせっかちな方々だ」
ぼやく声に、うっすらと開ける瞼。
何かを構え、仁王立ちする男の背中が、そこに在った。
- 61
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:06:54.06 ID:9AyGUOaLO
- (#メ゚ゝ゚)「われぇ!何様のつもりじゃあ!」
怒鳴るヤクザ。彼らが放った三発の銃弾はどうなったのか?
その答えは、件の男が構えた“モノ”が教えてくれた。
(#'A`)「うるせーバーカ!こちとら顧客日照りなんだ!目の前の金蔓をみすみすおしゃかにされてたまるかっ!」
半透明な分厚い盾状の板は、純度100%の水晶製。
銃弾はおろか、目の前で1トンのTNT爆薬が爆発しようが、光学剣で切りかかられようがびくともしないそれはまさしく“無敵の盾”。
難攻不落、鉄壁の守りを誇る「クリスタルシールド」が示すのは、一つの事実。
(#'A`)「あーくそっ!くそっ!くそったれ!」
目の前で地団太を踏むこのうだつの上がらない男が、「ロイヤルガード」の国家試験をパスした、“プロのボディーガード”であるということだ。
- 70
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:13:56.50 ID:9AyGUOaLO
- (#'A`)「くそったれ!こうなったらツケにしといてやる!とにかく逃げて逃げて逃げまくるぞ!」
癇癪を起こしたように怒鳴りながら、私の手を掴む彼。
ξ;゚听)ξ「えっ?えっ?」
突然のことに戸惑う私。
(#メ゚ゝ゚)「こぉのジャリがぁぁぁあ!!」
怒髪天の怒号と共に、拳銃を乱射するヤクザ達。
(#'A`)「うぅぅうるせぇぇぇえ!」
目の前のヤクザ達へと突進する男。
右手でクリスタルシールドを構え、左手で握った私の手。
引かれた手を離す隙も無く、私は銃弾の嵐の中へと飛び込んで。
ξ;><)ξ「きゃぁぁぁぁぁあ!!」
何とも情けない悲鳴を上げるのだった。
- 73
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:16:47.91 ID:9AyGUOaLO
- ※ ※ ※ ※
━━銃声、怒号、銃声、怒号、銃声、怒号、銃声、銃声、銃声。
ξ><)ξ「いやぁぁぁあっ!」
そして悲鳴。音源は主に私。
(#'A`)「あぁぁあ!うるせぇ!うるせぇうるせぇ!うるせぇぇええ!どいつもこいつもドンパチピーチクうるっせぇんだよぉぉお!」
慢性的に怒鳴りながら、手にしたクリスタルシールドで追っ手の銃弾を防ぐ彼。
ヤクザを突き飛ばし、裏路地を飛び出し、表参道を走る、走る、走る。
追っ手はどこからともなく現れて、私たちへと弾丸のクリスマスプレゼントを贈呈してくる。
男はその全てを、時に私の背後に回り、時に私の横に回り、時に私を突き飛ばして頑なにお断りするのだった。
ξ;゚听)ξ「クリスマス…?」
自分のモノローグではたと気付く。故郷のベルリンと違って雪が降らないものだから失念していた。
そう。今宵は12月24日。聖なる夜。
駆け抜ける表参道の脇には、電飾を吊した店々。すれ違いざまに悲鳴を上げるのは、カップル、カップルまたカップル。
- 75
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:22:08.13 ID:9AyGUOaLO
- だというのに私ときたら、何が悲しいのかヤクザのコワモテおじさま達と、終わりの見えない鬼ごっこ。
(#'A`)「リア充死ねぇぇぇぇぇえ!!」
確かに私達もカップルと言えなくも無いが、この構図は正直勘弁して欲しい。私にも選ぶ権利が有るはずだ。
ξ;゚听)ξ「ねぇ!どこまで走るの!」
(#'A`)「知るか!サンタさんに聞きな!」
鳴り止まぬ銃声に、フル稼働の両足。普段の運動不足が祟ったのか、先程から私の膝は口同様に悲鳴を上げ続けている。
ξ;゚听)ξ「もうっ…げんか…」
(#'A`)「ざけんなぁ!ここで止まってみろ!二人仲良く人間ずた袋の出来上がりだ!」
ξ;゚听)ξ「そんな…はっ!こと…はっ…言ったって…!」
(#'A`)「オレの今までの努力を無駄にする気か!?泣くぞ!?泣いちゃうぞ!?君の屍の前で号泣しちゃうぞぉぉお!?」
ξ;゚听)ξ「はっ…はっ…それは…はっ…勘弁…して…」
(#;A;)「女なんか大っ嫌いだぁぁぁぁあ!」
彼が魂の慟哭を上げた時だった。
- 77
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:24:51.11 ID:9AyGUOaLO
- ξ;゚听)ξそ「あっ、あの教会っ…!」
私たちの行く手に、神の家のシルエットが飛び込んできた。
(#'A`)「ナァイスタイミンッ!」
彼は右手で振り回していたクリスタルシールドを器用に背中に背負うと、私の後ろへ回り。
ξ゚听)ξ「ふぇ?」
(#'A`)「んどすこぉぉぉい!!」
勢い良く突き飛ばしてくださりました。
ξ;゚听)ξ「ちょ!ちょ!ちょぉぉお!?」
このひょうろく玉みたいな体のどこにそんな力が有るのか。
猛牛の突進がごときぶちかましに、私の身は宙を舞い。
- 78
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:26:28.94 ID:9AyGUOaLO
- ξ;><)ξ「いやぁぁぁあ!?」
教会の扉を突き破り、真っ赤な絨毯の上をゴロゴロゴロゴロごっつんこ。
ξ。><)ξ「いだっ!!」
一番奥の祭壇にぶつかり、ようやくとまり遊ばされた。
ξ#;;)ξ「〜っ!」
頭を打って若干涙目になりつつ、後ろを振り返る。
('A`)ゝ「ふぅ…助かったぜ、ゴッド・ザ・ヤハウェ。今日からオレ、クリスチャンになるわ」
何やら世迷い言をほざきながら歩いてくるケダモノが一匹。
- 80
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:28:37.32 ID:9AyGUOaLO
- ξ#゚听)ξ「あぁぁぁあんたねぇっ!」
振り上げた拳は見事、その顔面に炸裂した。
Σ(メ)A゚)「うぅぅお…うぅぅお…うぅぅお…うぅぅお…!」
見事なKO。律儀にエコーがかかった断末魔を上げ崩れ落ちるモヤシ野郎。
ξ#゚听)ξ「いきなり突き飛ばすとか何様!?意味わかんない!何で突き飛ばす必要が有るわけ!?私を何だと思ってるの!?何なの!?死ぬの!?」
(#メ)A`)「あーあーあーあーやかましい!何様はどっちだよ!ドクオ様だよこの野郎!」
ξ#゚听)ξ「ツン様よこのうすら瓢箪!レディに対するマナーも知らないわけ!?有り得ない!そんな男が居ていいわけ!?存在が意味不明!消えて!」
(#メ)A`)「レディとして扱われたかったらもっと女らしくしろや!骨と皮ばっかりの貧相な体しやがって!」
ξ#////)ξ「〜っ!」
ξ#゚听)ξ「今のはどっからどう見てもセクハラよセクハラ!セクシャルハラスメント!然るべき手段に乗っ取って告訴した後、社会的に抹殺してやるわ!覚悟しなさい!」
(#メ)A`)「出た出た出た出た!出ました!出ましたよ!女の最終兵器訴えてやる!だぁからおなごは嫌いなんじゃ!」
- 81
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:30:24.20 ID:9AyGUOaLO
- ξ#゚听)ξ「はっ!どうせ今までの人生で女に虐げられてきたんでしょ!そういう顔してるもの!やーい残念フェイス!あんた童貞でしょ!」
(#メ)A`)「どどどど童貞ちゃうわっ!てめぇこそ誰にでも股を開くビッチなんだろ!顔に書いてあるんだよ!
“どうぞご自由にぶっかけて下さい”ってよ!やーい肉便器!この公衆便所!」
ξ#゚听)ξ「はーい名誉毀損の余罪が増えましたー!15万円以下の罰金、もしくは1ヶ月以下の懲役でーす!」
(#メ)A`)「はーいじゃあ僕も訴えまーす!公務執行妨害プラス名誉毀損プラスセクシャルハラスメントでーす!へっへーん!こっちのが賠償金が高いもんねー!」
ξ゚听)ξ「……」
(;メ)A`)「……」
ξ゚听)ξ「……はぁ」
(;メ)A`)「な、なんだよ。いきなり溜め息なんかつくなよ。なんか…持て余すだろうが」
ξ゚听)ξ「馬鹿馬鹿しい」
('A`)「……」
ξ゚听)ξ「……馬鹿馬鹿しいったらないわ。ホント」
初めての仕事でヘマをして、ヤクザの連中に追われて逃げ込んだ教会で、ヘチマみたいな顔したボディーガードと低脳な罵り合い。
考えうる限りで最低最悪なクリスマスだ。
- 83
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:31:55.58 ID:9AyGUOaLO
- ξ゚听)ξ「……ていうか、ここ教会よね」
神の家でこんな大声を出したら不味いだろう。神父様やシスターは安眠を妨害されて私たち以上にご立腹の筈だ。
('A`)「……廃教会だよ。気にすんな」
肩を竦めながら長椅子の埃を払うと、男はそこに腰を下ろしてタバコに火をつけた。
ξ゚听)ξ「ちょっと。いくら廃教会だからって、節度は守りなさいよね。神様は何時だって見てるんだから」
('A`)y-~「けっ。神様なんて居ねぇよ」
ξ゚听)ξ「……呆れた。さっきはクリスチャンになるだとかほざいてたくせに」
タバコの煙に顔をしかめ、私も男から離れた場所に座る。
彼は、紫煙の向こうで物思いに耽るようにステンドグラスを見つめている。
しばらくして、彼がぽつりと呟いた。
('A`)y-~「居たとしても死んだよ。とうの昔にな」
無表情に、無感動に、本当に何気ないその一言。
それが、彼を酷く脆いものに見せて、私は意味も分からずに苛立った。
- 84
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:33:21.37 ID:9AyGUOaLO
- ξ゚听)ξ「……今日は、有難う」
何だかこんな奴に命を救われたのがしゃくだったので、私は顔を背けて言う。
('A`)y-~「そう思ってるんだったら、きちんと護衛料を払って貰いたいもんだね」
ξ゚听)ξ「さぁね。アフターケアが最悪だったから、正直びた一文だって払いたくないわ」
(;'A`)「おまっ!そりゃねぇよ!じゃあ何か!?オレがあの銃弾の雨の中をかいくぐって君を守った報酬は、あの糞の肥やしにもならない悪口合戦の権利だったってのか!?」
悲痛な声を上げる男にも構わず、私は腰を上げる。
(;'A`)「おい!ちょっと待て!冗談じゃない!こっちはプロなんだ!ただ働きなんてする気はねぇんだよ!」
ξ゚听)ξ「だったら、名刺の一つでも持ってるんじゃないの?」
(;'A`)「それは…その…」
ξ゚听)ξ「じゃあ、免許は?有るんでしょ?プロのボディーガードなんでしょ?ねぇ?」
(;'A`)「えと…あぁー…うー…」
- 87
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:34:45.56 ID:9AyGUOaLO
- ξ゚听)ξ「免許も出せないような、胡散臭い輩に払う金は無いわ。さようなら、“お節介屋”さん」
(;'A`)「ちょ!おまっ!」
尚も追いすがる男に、ひらひらと手を振りながら歩き出す私。
(;'A`)「D-ガード!」
その背中に。
(;'A`)「ニーソク区14番街のヒロユキビル五階!D-ガードだ!払えよ!絶対払いに来いよ!」
彼の物悲しい怒鳴り声がふりかかった。
- 89
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:37:11.01 ID:9AyGUOaLO
- ※ ※ ※ ※
━━むせ返るような血の臭いが、辺りに蔓延していた。
( )「あんた、趣味が悪いんじゃなあい?」
闇の中から、声が響いた。
( )「あたしも、人のフェティズムをとやかく言うつもりはないけどさぁ……」
“これは少しやり過ぎじゃない?”
飲み込まれたその言葉が示すよう、辺りには累々たる屍の山。
衣服を剥ぎ取られ、生皮を剥がれたそれらからは、全て男根が切り取られている。
偏執的。
物言わぬ死体が語るのは、殺戮者の病的な側面だった。
- 90
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:40:07.74 ID:9AyGUOaLO
- ( )「やだ、そんなに怖い顔しないでぇん。悪かったわ。謝るわよ。あたしまでこんな風にされちゃ構わないからねん」
二人。闇の中に、二人。血池の中に、二人。
男か女か。闇に紛れて判別は付かない。
( )「……で?今日はどんなブツを仕入れてきたのかしら?」
先程から響いていた声は一つ。
それに、ぼそぼそと囁くような声が初めて返事をした。
( )「……そう。なる程…ふぅん…へぇ」
考え込むように、沈黙。
やがて。
- 92
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:44:16.14 ID:9AyGUOaLO
- ( )「それっぽっちじゃ、大した価値も無いわ。今日のご褒美はお預けねん」
声がそう言った直後だった。
もう一人の放つ空気が、明らかな殺意の色を帯びた。
( )「……何よ。やろうっての?冗談じゃないわ。これはビジネスよ。ギブアンドテイクなの。出すものも出さないで見返りを求めようなんて……」
ひょう、と。空を裂くような音。
( )「わかった。わかったわよ。あげればいいんでしょう?」
狼狽する声。ごそごそと、弄るような音。
途端に、殺意は雲散霧消する。
しばらくして、アスファルトを叩く靴音が響いた。
それが遠ざかり、消え入った頃になって、ぽつりとその声は呟いた。
( )「……ちっ。気違いジャンキーが」
闇が、深い。
- 94
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:45:54.26 ID:9AyGUOaLO
- ※ ※ ※ ※
━━鹿威しの立てる乾いた音は、聞きなれない。
ぱしゃ。かこん。
“ワビサビ”というのだろうか。“ニホンジン”の感覚はわからない。
<(' _'<人ノ「此度のお勤め、ご苦労様でした。少ないですが、お納め下さい」
昨夜の一件から一晩明けた、昼下がり。純和風料亭の離れの座敷。
私たちとテーブルを挟んで座った“女郎蜘蛛”が、布にくるまれた札束を私の隣の中華系の男の方へ差し出した。
( `ハ´)「確かに、受け取ったアルよ」
<(' _'<人ノ「これからも、陳龍の方々とは懇意にさせて頂きたく存じ上げます」
( `ハ´)「こっちもそのつもりよ。我々はもう一蓮托生ね」
慇懃な態度の“女郎蜘蛛”に対して、中華系の男は油で固めた口髭を撫でながら無表情に返す。
何が一蓮托生だ。私が昨日、西村の追っ手に追われている時に、こいつらが何をしていたのか知れたものじゃない。
( `ハ´)「さて、それでは今日はお暇するよ。おい、ニダー、ヒッキー」
(-_-)<ヽ`∀´>「へい!」
- 95
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:47:23.86 ID:9AyGUOaLO
- 中華系の男に呼ばれ、私たちの後ろで正座していた二人のチンピラが立ち上がった。
( `ハ´)「再見(ツァイチェン)」
彼らを引き連れ、離れを後にする中華系の男。名は確か、シナーとか言ったっけ。
三合会(トライアド)日本支部、「陳龍」のドンの背中を見送ってから、しばらく。
<(' _'<人ノ「……さて、ではツンさん」
“女郎蜘蛛”が柔和な笑顔を私に向けた。
ξ゚听)ξ「……はい」
返事をし、背筋を伸ばす。
一見穏やかそうな中年の女の皮を被ってはいるが、この女は侮れない。
高崎三和。
綾瀬会頭目、綾瀬剛蔵の内縁の妻にして実質的な綾瀬の顔役。
五年前に病を理由に隠居した夫に代わって、彼女が組の舵取りを始めた辺りから、綾瀬会はヤクザとしての規模を拡大し始めた。
利用出来るものは全て利用する狡猾さと、浅ましいまでに利益に食らいつく執念は、なる程“女郎蜘蛛”と呼べよう。
風の噂に聞くところでは、剛蔵が病を患ったのも彼女が毒を盛ったからだとか。
残念だが、お友達にはなりたくないような人物だ。
- 97
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:48:52.93 ID:9AyGUOaLO
- <(' _'<人ノ「西村の15代目の死、しかと見届けさせて頂きました」
ξ゚听)ξ「……」
<(' _'<人ノ「あなたのお仕事の腕前、確かなようですね」
ξ゚听)ξ「それじゃあ……」
<(' _'<人ノ「あなたを、我々綾瀬の“仕置き人”としてお迎えいたしましょう」
温和な笑みを絶やさない三和。
腹の内では何を考えているのかすら定かでない“女郎蜘蛛”。
上司にもしたくは無いなぁと。
ぼんやりと思う私の耳に、鹿威しの立てる乾いた音が染み渡った。
- 99
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2009/02/28(土) 22:51:47.10 ID:9AyGUOaLO
- ※ ※ ※ ※
(*゚∀゚)「マジでぇ!?やったじゃんツン!おめでとう!」
閑散としたバーの中に、つーの黄色い声が響き渡った。
ξ゚听)ξ「うん、まぁ…なんとかね」
甲高いその声に若干耳を塞ぎ気味の私は苦笑い。
(*゚∀゚)「いやぁ、めでたいなぁ!これで晴れてツンも、あたいと同じ釜の飯を食う中かぁ……うんうん、お姉さんは嬉しいよぉ……」
ちぎれんばかりに両手を振り回す彼女は、まるで我が事のように私の就職を祝ってくれる。
綾瀬会の経営するナイトクラブでホステスをしている彼女から、西村組の組長暗殺の仕事を紹介して貰ったのはつい先週のこと。
着の身着のままで日本に来てからというもの、定職を持たなかった私はその仕事の成功を条件に、綾瀬会のお抱え殺し屋として雇って貰うこととなった。
そうくれば紹介主であるつーが喜ぶのはおかしくは無いのだが、彼女が喜んでいるのはやはり元来の性格が一番大きいと思う。
天真爛漫というか、なんというか。そういうのは好きだ。このキンキン声はどうにかして欲しいが。
- 100 名前:
◆fkFC0hkKyQ :2009/02/28(土)
22:53:16.83 ID:9AyGUOaLO
- (*゚∀゚)「ねねね!良かったねぇ!やったねぇ!」
ξ゚听)ξ「う、うん……」
(*゚∀゚)「……どったの?あんまり、嬉しそうじゃないけど」
ξ゚听)ξ「それがさぁ、聞いてよ。もう最悪ったらないわ」
(*゚∀゚)「へ?」
ξ゚听)ξ「昨日の仕事の話何だけどさぁ…」
私は昨日の仕事の顛末をありのまま、つーに伝える。少々…いや、多分に脚色を加えたからありのままではないか。
とにかく、あのドクオとか言う似非ボディーガードが如何に人として間違っているかを、力説してやった。
(*゚∀゚)「ふんふん……」
ξ゚听)ξ「でね、私のことをビッチだとか阿婆擦れだとか言ってくれて……」
(*゚∀゚)「え?違うの?」
ξ゚ー゚)ξ「ごめんあそばせ、つーさん。私耳が最近遠くて。今何て言ったのか聞こえなかったわ。もう一度お願い出来ます?」
(;*゚∀゚)「いえ、何でもごじゃいません」
ξ゚听)ξ「もう最悪ったらないわ。何様なのかしらね。初対面の女性の前で、常識が無いにも程があるわ」
- 101 名前:
◆fkFC0hkKyQ :2009/02/28(土)
22:54:45.21 ID:9AyGUOaLO
- (*゚∀゚)「んにゃー、確かに個性的な男ですにゃー」
ξ゚听)ξ「あれは個性的ってレベルじゃないわ。遺伝子レベルでのダメ人間よ。ミトコンドリアとかが腐ってるに違いないわ。ていうか何その猫口調」
(*゚∀゚)「最近獣っ子好きなお客が居るんだわさ。その客に合わせてたら、こうなったにゃー」
ξ゚听)ξ「ふーん。あ、友達だと思われたくないからこれ以降は話し掛けないでね」
(*;∀;)「あーん!ツンちゃんが虐めるにゃー!DVだにゃー!」
ξ゚听)ξ「……」
(*;∀;)「今度はネグレクトかにゃ…でも、あたいは負けないんだにゃ…つーちゃんは健気なんだにゃ……」
ξ゚听)ξ「……」
(*゚∀゚)「その…正直反省してる」
ξ゚听)ξ「……理解してくれて有り難う。知人から気違いが出たなんて自慢にならないから」
(;*゚∀゚)「手厳しいですなぁ……」
そうやって何時もみたいな漫才を繰り広げた後、つーは自分のグラスに注がれたキールロワイヤルを一口飲むと、口を開いた。
- 102 名前:
◆fkFC0hkKyQ :2009/02/28(土)
22:56:06.33 ID:9AyGUOaLO
- (*゚∀゚)「でも、一応はピンチを救ってもらったりなんかりしちゃったわけなんでしょ?」
ξ゚听)ξ「一応は、ね」
曖昧に頷く私。
(*゚∀゚)「いいなぁ!それ、白馬の王子様じゃん!ヒロインの窮地に颯爽と駆け付け、八面六臂の大活躍!」
目を輝かせ、うっとりとした顔で語る夢見る乙女。
ξ゚听)ξ「颯爽とはしてなかったかな。うん。間違いなく」
(*゚∀゚)「そういうの、憧れるなぁ……」
プラチナブロンドのウェーブヘアに、ピンクだのブルーだののメッシュを入れていて、一見軽そうに見える彼女だが、蓋を開けてみればこの通り。
私より三つも年上のくせに心はいつでも16歳と自称する彼女は、私から見ても羨ましいくらいに純粋な乙女だ。
(*゚∀゚)「いいなぁ…いいなぁ…私にも現れないかなぁ、白馬の王子様…」
ξ゚听)ξ「あれを白馬の王子様って言ったら、王子様に失礼よ。映画のエキストラにもあそこまで不細工な奴は居ないわよ」
(*゚∀゚)「えぇー、随分と糞味噌にこき下ろすじゃん」
ξ゚听)ξ「だって!」
だって……ねぇ。ヘチマだもん。ウリ科の一年草だもん。
- 103 名前:
◆fkFC0hkKyQ :2009/02/28(土)
22:58:30.47 ID:9AyGUOaLO
- (*゚∀゚)「曲がりなりにも、命を救って貰ったら…私は惚れちゃうなぁ…ツンちゃんは少しも嬉しいとは思わなかったの?」
ξ゚听)ξ「うーん……」
どうだろう。確かに、命を救われたことに関しては有り難いことではある。
(*゚∀゚)「身を挺して、守って貰っちゃったんでしょ?ときめかなかった?」
ξ゚听)ξ「えー……」
確かに、手を引っ張られた時は…その、少しはドキドキしたけど。
ξ゚听)ξ「でもさぁ、仮にときめいたとしてもそれって吊り橋効果じゃない。そういう恋は長続きしないわよ」
_,
(*゚ぺ)「そうかなぁ…そんなもんかなぁ…」
ξ゚听)ξ「そんなもんよ」
(*゚∀゚)「んー……」
しかめ面を作り、考え込むつー。
やけにアイツの肩を持つものだ。
こんな時代だ、彼女としても身内にそういう非日常的な出来事があれば、少しでも夢を見たいものなのだろうか。
(*゚∀゚)「じゃあさ!百歩譲って、その…ドクオだっけ?そいつが、人間的にちょっとアレな男だとして……」
ξ゚听)ξ「ちょっとって言うか、大分アレだけどね」
- 104 名前:
◆fkFC0hkKyQ :2009/02/28(土)
23:00:00.51 ID:9AyGUOaLO
- (;*゚∀゚)「んもぅ!……で、だよ。それでも、ツンは命を救って貰ったんだし、一応はお礼を言いに行くべきじゃない?礼儀としとさ」
ξ゚听)ξ「はっ!あんなのに礼儀を尽くすなんて馬鹿馬鹿しいったら無いわよ!」
(*゚∀゚)「でも、それじゃあツンもそのドクオって言うのと同じ礼儀知らずになっちゃうよぉ?幾ら相手がアレな人だとしても、自分も同じことしたらめーですよっ」
ξ;゚听)ξ「うっ……」
悔しいけど、正論だ。
(*゚∀゚)「そゆことだから、ちゃんとお礼を言いに行くこと!お金を払うかどうかは、その時に決めればいいじゃないのさ」
ξ;゚听)ξ「うー……」
(*゚∀゚)「お姉さんの言うことはちゃあんと聞くもんですよぉ。ね?ツンたん♪」
こういう時ばかり、妙にお姉さん面をするのは止めて欲しい。
普段は幼稚なことばかり言ってるくせに、実は年相応に領分をわきまえているところとかも相まって、更に腹が立つ。
ξ;゚听)ξ「わかった…わかったわよ……」
ブラッディーメアリーに口をつけ、私は観念したように吐き捨てる。
- 105 名前:
◆fkFC0hkKyQ :2009/02/28(土)
23:01:04.22 ID:9AyGUOaLO
- (*゚∀゚)「それに、もっかい落ち着いて話してみれば案外イイ人かも知れないじゃん?」
猫みたいな瞳をくるくるとさせながら小首を傾げるつー。
何だか、釈然としない心持ちの私であった。
next track coming soon...
戻る