48 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:37:36.14 ID:Xg4vEpT5O
track-02. 弾丸と、熊と、風船と

──穿つ弾丸、放ち、振り向く、背後。

ξ゚听)ξ「シッ!」

飛び出した的、クレー射撃のそれ。
左手首を半回転、トリガーを引き絞り、弾けるマズルフラッシュ。
間髪入れずに右手で軸合わせ。相前後、前方遥か二百メートルで飛び出した的を撃ち抜く。

舞うように上体を捻る。両手の拳銃が放射状にバラまく弾丸の雨、雨、雨。
飛び出す的。四方八方から、乱れ、跳ね、全て散る。
数瞬遅れて追いついて来た下半身。身を伏せ、拳銃を放り、足元のライフルを蹴り上げ、掴んだ。

ξ゚呀)ξ「……」

「ホルスの目」を起動、瞬時にライフルのニューラルネットワークに接続。
射撃場の各所に配置されたカメラにより、私の死角は消える。

背後で的の飛び出す姿。頭上を飛んでいく円盤の軌跡。

全て──。

ξ゚呀)ξ「把握したわ」

身を捻り、肩をよじり、宙を舞う的のその全てを、順番に、一つ、一つ、撃ち落としていく。
着弾点も、射撃角も、全て計算通り。

全て、完璧にいく筈だった。

49 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:39:35.41 ID:Xg4vEpT5O
ξ;゚呀)ξ「しまっ…!」

変化する円盤の軌跡。油断だった。

足元を掠める灰色の円盤。

咄嗟に対応しようとトリガーを引くも遅い。
的は、低い軌道のまま滑空し、滑るように人工芝の上に着地する。
弾丸が抉ったのは、その僅か数ミリ左の地面だった。

耳障りなブザー音が、試験終了の合図を告げる。

ξ゚呀)ξ「……ちっ」

舌打ちと共に溜め息。詰めが甘い。何時も私はこうだ。

「ホルスの目」とライフルの接続を断ち、芝生の上を歩く。
射撃場の中央から観測所の近くまで来て、備え付けのベンチに腰を下ろしたところで全身から汗が噴き出した。

(-@∀@)「やぁやぁ、お疲れ。いやぁ、何時もながら見事な腕だねぇ」

先にベンチに座っていた研究員が、嫌みたっぷりに言葉を掛けてくる。
無視して、スポーツタオルで首筋を拭った。

(-@∀@)「流石は“ホルス・アイズ”。大した空間認識力だ。だが、それに体がついていけなきゃ意味がない」

ξ゚听)ξ「……」
51 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:41:53.80 ID:Xg4vEpT5O
返す言葉もない。鍛えているとはいえ、生身のままでは動きには限界が存在する。

(-@∀@)「義体化か、投薬強化をお勧めするよ」

即ち、こういう事だ。

(-@∀@)「うちのラボで丁度新しい薬が開発されてね。良かったら、モニターも兼ねて……」

ξ゚听)ξ「結構よ」

(-@∀@)「…でも君さぁ、今時生身で一体何が出来るっていうの?」

“社長の秘蔵っ子っていう割には、業績も大したもんじゃないしさ”

“うちは、そんな穀潰しを置いとく程甘くないから”

そう、言いたいのだ。正論だ。全く持って、完膚なきまでに、その言葉は正しい。
だから。

ξ゚听)ξ「……急用がありますので、失礼します」

ライフルをケースにしまい頭を下げると、私は踵を返す。

(;-@∀@)「おい、君!」

ξ )ξ「……わかってるわよ。それぐらい」

肩に掛けたライフルが、今日はやけに重かった。
54 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:43:37.65 ID:Xg4vEpT5O
──大天窓から降り注ぐ日光は、変換器を通している分“外”のそれよりも一段明るいものとなっていた。

完全循環型環境建造都市。

ブラウナウバイオニクス社が誇るこのアーコロジーには、生化学社だけあって自社の技術を生かした様々な環境設備が整っている。

外の太陽の光を取り込み、その光量に応じて適切な量に増幅・削減して室内に照射する変換器、通称「大天窓」。

常に都市内の空気を清浄なものに保つよう、特別に遺伝子改良が施された植物群。

その他にも、私の知らない範囲で様々な設備が備わっていたりするのだろうが、今の私にはどうでも良いことだった。

ξ--)ξ「……はぁ」

体内の幸福を全て吐き出す程に溜め息。
気晴らしに甘いものでも、と思ったがそれもさして意味をなさなかった。

ξ--)ξ「やっぱり…向いてないのかな…」

パーラー「シュネーブルーメ」、ブラウナウバイオニクスアーコロジー店。
ドイツ産のアイスクリームショップは、噴水前広場という景観の中に屋台を出していることもあって、若い女性や親子連れで連日賑わっている。

55 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:45:34.31 ID:Xg4vEpT5O
仕事上がりにここのクランベリーシャーベットを食べると、その日一日の疲れも吹き飛ぶのだが。

ξ--)ξ「もう…やめちゃおうかな…」

今日ばかりは、そうもいかなかった。
胸の中に落ちた鉛のようなそれは、居座ったままそこをどこうとしない。

自分が“掃除課”の中で、他の社員よりも遅れを取っているのは以前から感じていたことだ。
情報工作は下手だし、団体での特務行動では何時も同僚の足を引っ張ってばかり。
だからこそ、毎日欠かさず肉体の鍛錬を積んできたのだし、戦術ソフトでのVRトレーニングも欠かさなかった。
肉体強化をしていない分は努力で補おうとしてきた。

だが、その結果が“あの様”だ。

ξ )ξ「生身じゃ…ダメなの…?」

投薬強化の四文字が、脳裏をよぎる。
人体の限界を超えた反応速度と運動能力なら、最後のあの的を撃ち漏らすことは無かっただろう。
社内でも役立たずと罵られることは無くなるだろうし、ともすれば「お父様」の下で働くこともできるかもしれない。

56 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:47:26.81 ID:Xg4vEpT5O
でも。

私は、投薬強化が齎すもう一つの側面を、この目で見て知っている。

ラボの地階、ネットから隔離された強化タングステンの檻の向こうに居る“元”人間が、どんなものなのかを私は知っている。

研究員達は口を揃えて、「あれは稀有な例だ」と言う。
確かに、「まだ処分されずに生きている」という意味でなら、稀有なものだろう。

私は廃人になる危険を侵してまで、“力”が欲しいとは思わない。
肉体を弄くるのは、「ホルスの目」が最後だともう決めていた。

ξ゚听)ξ「はぁ……」

何度目かも分からない溜め息をついた時だった。
私の耳に、水しぶきの上がる派手な音が飛び込んできた。

ξ゚听)ξ「……なに?」

何とはなしに音の出所へ目を移す。
店の前の噴水に、何やら人だかりが出来ていた。
噴水の故障か何かだろうか。

「何かしら…」

「何か降ってきたみたいだったけど…」

野次馬の弁を聞く限り、そうでは無いらしい。
58 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:49:50.03 ID:Xg4vEpT5O
聞く限り、どうも空から何かが噴水の中に落ちてきたみたいだ。
野次馬達は口々にUFOだの隕石だのと好き勝手な事を言っている。

馬鹿馬鹿しい。そもそも“空の無い”このアーコロジーには雨が降ることすら無いのだ。

ξ゚听)ξ「……じゃあ何が降ってくるってのよ」

天井部に設置された機械の一部だろうか、と頭上を見上げてみる。

ξ゚听)ξ「……見えるわけないっつの」

遥か上空、ガラス張りの天井に目を凝らすのも不毛だ。
が、一見した限りここ近辺に機械か何かが設置されている事は無かった。

ξ゚听)ξ「むうぅ……」

となると、ますます何が降ってきたのかが気になる。
あーでもないこーでもない、と私が脳内検証を行っている間にも、野次馬達は次第に興味を失い三々五々に散り始めた。

ξ#゚听)ξ「だー!わかるわけないっつの!」

様々なフラストレーションを込めて私はテーブルを叩く。

ξ#゚听)ξ「つーかんなことどうでもいいっつの!」

我ながら、支離滅裂な性分だと思った。
60 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:51:32.92 ID:Xg4vEpT5O
何だか今日は厄日だ。こんな日はさっさと家に戻って寝てしまうに限る。
立ち上がり、支払いの為に携帯端末を取り出した所で、私はそれを見つけた。

ヽ(・(エ)・)ノ

ξ゚听)ξ「──く」

背丈は大体五十センチくらいだろうか。
もふもふとした見た目、水が滴る茶色い毛並み。

そして、私を見上げるつぶらな瞳。

ξ*゚д゚)ξ「くまー!」

テーブルの下。
ずぶ濡れの熊のぬいぐるみが、私の方を見上げていた。
62 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:54:24.73 ID:Xg4vEpT5O
──取り合えずは状況の把握だ、と私の冷静な部分が告げた。

(・(エ)・)

ξ*´ー`)ξ「くまー…」

そんなわけで、私はテーブルの下に屈み込んで熊ちゃんと向き合っている。
二本の足で立っていることから、この子がペットロイドだということは分かった。

ξ*´ー`)ξ「くまぁ…」

(・(エ)・)

ぱっと見たところ、タグがついているわけでも無ければ認識コードも見当たらない。
所有者が付け忘れたのだろうか。
野良ペットロイドなんて、聞いたことが無い。

ξ*´ー`)ξ「ふにゃぁ…」

(;・(エ)・)

63 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:55:46.71 ID:Xg4vEpT5O
辺りに所有者らしき人影も見えないし、恐らくはご主人様とはぐれてしまったのだろう。

ξ*´ー`)ξ「お前はどこから来たの?」

(・(エ)・)∩

真綿のように丸っこい腕を、空に向かって上げる熊ちゃん。

ξ*´ー`)ξ「そう。お空からきたの」

( ・(エ)・)))

しきりに丸っこい頭を上下させる熊ちゃん。

ξ*´ー`)ξ「……」

(・(エ)・)

64 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:57:23.88 ID:Xg4vEpT5O
ξ*>∀<)ξ「やぁんもう限界いぃ!」

この子と相対した方ならば、きっとお分かりいただけるであろう。
我慢しろ、というのが酷というものだ。

彼は、あまりにも、その、「魅力的」過ぎるのだ。

ふわふわした体といい、つぶらな瞳といい、ちいちゃな身の丈といい、庇護欲とか母性本能とか、こう、乙女の原発的本能に直球で訴えかけてくるような……。

兎に角、だ。可愛い過ぎる。それがいけない。

で、あるからして、私が何もかもかなぐり捨てて、この子を抱きしめてもふもふとしてしまうのも仕方の無いことなのだ。
情状酌量の余地は十分すぎるだけある。

ξ*´∀`)ξ「もふもふもふもふぅ…」

(;・(エ)・)

そりゃあね。
傍目からすれば、アイスクリームショップのテーブルの下にうずくまって、
熊のペットロイドを抱き締めている女なんて、不審者以外の何者でもないでしょうよ。

ですけどね。

ですけどね。

65 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 22:59:13.53 ID:Xg4vEpT5O
ζ(゚ー゚;ζ「随分とご機嫌そうですね」

そんな冷たい目で、見なくてもいいじゃない。
68 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 23:01:33.70 ID:Xg4vEpT5O
── 一気に現実に引き戻される、というのは如何なものか。

ζ(^ー^*ζ「お暇そうで羨ましい限りです。私にもそのお時間を分けて頂きたいものですね」

それも、戻ってきた先にこの女の嘲笑が待っているなんて、何かの悪い冗談としか思えない。

ζ(゚ー゚*ζ「それとも、掃除課というのは迷いペットロイドの持ち主探しも担当するようになったんですか?」

ξ#////)ξ「いえ、これは……その……」

慌てて立ち上がろうとした拍子に、テーブルの角に思い切り頭をぶつける。

ξ><)ξ「っ〜…!」

ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、大丈夫ですか?」

恥ずかしさと憤りと痛みとで、頭が沸騰する程に熱くなった。

ζ(゚ー^*ζ「差し出がましい事かも知れませんが、もう少し周囲に気を配った方が宜しいかと思われますよ?」

ξ#゚听)ξ「御忠告、ありがとうございます」

スカートの裾を払いながらなんとか立ち上がり、このいけ好かない嫌み女と真正面から向き合う。
「チルドレン」のエースたるデレ・ツヴァイ嬢は、頬の両脇で緩く巻いた金髪を揺らして薄く微笑んでいた。

69 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 23:03:38.87 ID:Xg4vEpT5O
ξ#゚听)ξ「……」

ζ(゚ー゚*ζ「……何か?」

細身のシルエット。巻いた金髪。エメラルドの瞳。
毎度のことながら、鏡を見ているような錯覚を覚える。
私と同じ遺伝子から出来ているのだから当然なのだが。

ζ(゚ー゚*ζ「それにしても、何時になったらお姉様も私達と同じ部署に配属されるのでしょうか?」

クローン。
元々、自分と同じ顔の人間が複数存在することは私も知っている。
オリジナルじゃない私がそのことに対して何やかんや言うのはお門違いだろうし、そもそも何の感慨も持ち合わせてはいない。

気に食わないのは、この女がお父様の側付きを任せられた「成功作」であるということだ。

ζ(^ー^*ζ「“家族”なんですもの。せっかくなら、同じ部署で苦楽を共にしたいじゃないですか」

“私”という失敗作があって、“彼女達”という成功作がある。
今更どうこう出来る話じゃない。
結果は既に出ていて、それに文句を言うのは不毛なことだ。それは分かっている。

分かってはいるけど。
71 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 23:06:21.66 ID:Xg4vEpT5O
ζ(^ー^*ζ「今度、お父様に直接お話してみますね」

嘲笑を浮かべて楽しそうに去っていくその後ろ姿に、私は拳を強く握らざるを得なかった。

ξ )ξ「──」

やり切れない。ただ、ただ、やり切れなかった。

運命なんて陳腐な言葉は好かない。

認めたく無かった。
努力すれば私にも幸せを勝ち取る権利が有るのだと、証明したかった。

だが、現実はどうだ?
血反吐を吐くような訓練を積んでも、私は“彼女達”を追い越すどころか追い付くことすら出来やしない。
製造番号が違うというだけ。たったそれだけの事実が、大きな、決して超えることの出来ない壁となって私の前に立ちはだかっていた。

ξ;へ;)ξ「……ぅ…ぅう」

涙が滲む。
一滴も流すまいと、顔をしかめて上を向いた。

ξ;へ;)ξ「う……」

アーコロジーの天板が、遥か遠くで滲んでいる。
私自身の限界を暗喩しているように思えて、余計に悔しかった。
74 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 23:09:48.91 ID:Xg4vEpT5O
(・(エ)・)σ))

ふと、スカートの裾を引かれたような気がして目を落とす。

(・(エ)・)?

ξ;;)ξ「あなた…」

先のペットロイドが、私を見上げて首を傾げていた。
その様子が「どうかしたの?」と問い掛けてきているようで、私はとっさに涙を拭う。

ξう;)ξ「は、はは…カッコ悪いとこ…見られちゃったね……」

((・(エ)・≡・(エ)・))

熊が有るか無いかもわからない首を、懸命に左右に振る。

ξ゚听)ξ「あのね…お姉さん、少し疲れちゃったの。だから、今日はもうお家に帰ることにするわ」

ペットロイド相手に、私は何をしているのだろうか。自嘲の笑みが、口元をひきつらせる。
きっと、今の私は凄く皮肉っぽい表情をしているのだろう。

ξ )ξ「じゃあね、熊ちゃん。縁があったらまた逢いましょう」

これ以上、涙を堪えきれない。
そう思って、私は駆け出そうとした。

75 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 23:12:34.23 ID:Xg4vEpT5O
したが。

ξ><)ξ「へぶっ!」

何かにつまづき、見事に転んだ。

ξ;>听)ξ「っ痛〜!」

腰をさすりながら周囲を見やる。
踏んだり蹴ったりな現状に、心が折れそうだ。

∩(・(エ)・)∩

視界の隅で、茶色いもふもふが見え隠れする。
もしや、この子が私の足を引っ掛けたのだろうか。だとしたら、私もついに墜ちるところまで堕ちたものだ。

ξ;∀;)ξ「はは……」

乾いた笑いが口から漏れる。
枯れ木の間を抜ける風のようだ、と他人事のように考えた時だ。

(・(エ)・)∩

私の視界を、真っ赤なまんまるが埋め尽くした。

76 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 23:13:58.88 ID:Xg4vEpT5O
ξ;゚听)ξ「え?」

突然のことに身を引けば、それの正体は直ぐに明らかに。
赤いゴムの風船が、ふわふわ、ふわふわ。
風船?なんでここに?

視線を下げれば。

(・(エ)・)∩

茶色い熊。

私を見上げる彼の右手に、その紐が握られていた。

ξ゚听)ξ「え…と…」

一体どこから?
私の疑問を余所に、熊は私にその風船を差し出す。
78 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 23:16:39.26 ID:Xg4vEpT5O
ξ゚听)ξ「……くれるの?」

( ・(エ)・))

こくり、頷き、再び風船を差し出す。

ξ゚听)ξ「……」

少し、戸惑った。
一般的なペットロイドに組み込まれているAIの程度など、たかが知れている。
精々が、「ペットらしく」飼い主にすり寄ったり、愛想を振りまく程度だ。

ξ゚听)ξ「……あなた…」

一体何者?と聞こうとして、私は止めた。
なんだか、それがひどく無粋なことのように思えたのだ。
80 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 23:17:52.75 ID:Xg4vEpT5O
ξ゚ー゚)ξ「……ありがとう」

風船を受け取り、微笑む。

何だっていい。

この子が、私を慰めようとしてくれている。その事実に変わりはないのだから。

(・(エ)・)ノ

熊が、手を振り、背を向ける。
ぽてぽてと歩いていくその後ろ姿を、私は見送る。

ξ゚ー゚)ξ「風船…か」

ふわふわ、ふわふわ。
風に揺られる赤いまんまるに、どこか懐かしい気持ちが滲んできた。

ξ゚ー゚)ξ「ふふ……」

悩みが全部無くなったわけじゃない。

それでも、私の胸は、この赤い風船と同じく、どこかふわふわと軽くなっていたのだった。

81 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/09/30(水) 23:20:12.30 ID:Xg4vEpT5O
ξ゚ー゚)ξ「……ありがとう」

もう一度、小さく礼を言う。

何だか、この不思議な出来事を誰かに話したい。

そんな、気分だった。



-fin-

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