66 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:00:47.43 ID:0qBX01uwO
〜track-δ〜

━━月の無い夜だった。

( ^ω^)「あーてすてす、てすてす。ブラボーからチャーリーへ。月見酒をするにはちょいと不向きな空模様。ちょいと不向きな空模様。応答を願うお」

インカムを耳にあてがい、僕は回線の向こう側に居る彼等へと見たままの状況を伝えた。

(#゚;;-゚)『こちらチャーリー。準備の方は万全ですか?』

( ^ω^)「こちらブラボー。全て順調だお。トラップの配置及び、アルファの避難は終わったお」

/ ,'3「おい、これは一体どういうつもりじゃ?ブーン、お前さん、何を考えて……」

“アルファ”が口答えしてきたので、僕は黙ってその口にガムテープを張ると、眼下に迫る狭苦しい裏路地を見下ろした。

( ^ω^)「異常、無し」

「荒巻屋」の両脇を固めるようにしてそそり立つ二本の雑居ビル。
その向かって右側の五階、今はテナントの入っていない空きフロアの窓枠に腰掛け、僕達は“その時”を待っていた。

(=゚ω゚)「でぃが拾った陳龍の通信ログによると、奴らは今晩中にはここにやってくる」

67 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:01:51.04 ID:0qBX01uwO
携帯端末から伸びた結線コードを首筋のニューロジャックに差し込みながら、ぃょぅが言う。

(=゚ω゚)「奴さん方は、時間に五月蝿い種類の人間だからな。もうしばらくすれば、でぃが奴らのゴーサインを傍受してくるハズだ」

( ^ω^)「うん。それじゃあぃょぅは一足先に店内の監視カメラを掌握しておいてくれお。僕は引き続き、路地の見張りを。ヒートは、ぃょぅの合図が有るまでは待機」

(=゚ω゚)b「おk」

ノパ听)b「おうともよ、兄者」

(#゚;;-゚)『こちらチャーリー、聞こえますか?シュールさんが今、ターゲットの通話を傍受しました。間もなく、そちらに到着する筈です』

いよいよか。

( ^ω^)「把握した。没入の準備は整ってるかお?」

(#゚;;-゚)『はい。合図があれば、いつでも』

( ^ω^)「おk でぃちゃんとジョーンズはそのまま待機していてくれお」

(#゚;;-゚)(’e’)『ヤー』

大きく深呼吸する。いよいよだ。いよいよ、始まろうとしているのだ。

( ^ω^)「あー、おほん。諸君、ちょっと聞いてくれお」
69 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:03:08.56 ID:0qBX01uwO
インカムを通して電子の海の向こうに居る仲間達と、傍らに控える義兄弟達に僕は呼びかける。

( ^ω^)「この数日の間、諸君はよく頑張ってくれたお。思えば、僕の我が儘から始まった事とはいえ、諸君は予想以上に働いてくれた。その尽力に、感謝するお」

(=゚ω゚)ノパ听)「「……』』』(#゚;;-゚)lw´‐ _‐ノv(’e’)

( ^ω^)「その成果は今夜必ず実を結ぶだろうと、僕は断言するお」

滔々と、淡々と。

( ^ω^)「諸君。我々はこの数日間、この日の為に結束し、力を併せ、一つの目標へ向けてただひたすらに走ってきたお」

だが、確実に。

( ^ω^)「そこには、確かに仲間としての“絆”があったお」

確かな想いを込めて。

( ^ω^)「今宵、我々はその“絆”の下に旗を掲げよう」

恥ずかしいけれど、言うよ。

( ^ω^)「僕はここに宣言する!只今を持って我々は、チーム“ピーチ・ガーデン”を名乗り、全ての面白可笑しい事に首を突っ込む事を誓うと!」

ノハ*><)ノ(*=゚ω゚)ノ「「Yeahhhhhhhhh!!!!!』』』(#゚;;-゚)ノ(’e’*)ノlw´‐ _‐ノv ノ

71 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:04:47.41 ID:0qBX01uwO
( ^ω^)「総員配置に付け!現時刻をもってオペレーション・ホーンテッド発動をする!」

ノパ听)(=゚ω゚)「「サー!イエスサー!』』』(#゚;;-゚)(’e’)lw´‐ _‐ノv

夜気を切り裂き、六人の愛すべき馬鹿達の歓声が響く。

( ^ω^)「さぁ、パーティー始めようぜ」

見下ろす裏路地。二人の人影を発見する。

作戦、開始だ。
73 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:06:12.49 ID:0qBX01uwO
 ※ ※ ※ ※

━━ニューロジャックに結線コードを挿入。目を閉じ、光輝く電子の海へとダイブ。
エメラルドグリーンのグリッドが錯綜する仮想現実の海を素潜りで泳ぐ時、僕は肉体という枷から一時的に解き放たれた解放感と全能感に、一種のトリップに陥った用な気分になる。

( ^ω^)「ネット依存症かおかね……」

荒巻屋のアドレスを入力。店内の監視カメラの統括システムへとアクセス。
防壁は既にぃょぅが解除してくれていた為、僕はすんなりと入室を許可された。

(=゚ω゚)ノ「いよう、隊長殿。遂に始まったのかい?」

無数の英数字の羅列が形作るプロトコルと、セキュリティーロジックを包括した管理室。
ぃょぅのアバターが、僕に右手を上げた。

( ^ω^)「おっおっ。ついさっき、奴らが荒巻屋に到着したのを確認したお。後は、みんなの活躍をここで見守るだけだお」

(=゚ω゚)「そうか。……しっかし、さっきの演説は聞いてて恥ずかしがったぜ」

( ;^ω^)「ぼ、僕だって最後までアホやるか真面目に締めるか迷ったんだお」
75 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:07:12.95 ID:0qBX01uwO
(=゚ω゚)「ピーチ・ガーデン、ね。へへへ、それじゃあさしずめお前は劉備ってとこか」

( ^ω^)「お前が関羽かお?似合わねえwww」

(=゚ω゚)「ヒートが張飛で、シュールさんは孔明先生といった感じで」

( ^ω^)「ぶはwwwなかなかのキャスティングだおwwwww」

馬鹿で阿呆で頭の悪いやり取り。そうだ。これでいい。
あんな絆だとかこっ恥ずかしい演説をしていてなんだが、つまるところ僕らはただ面白ければ何だっていいのだ。
快楽と娯楽は全てにおいて優先される。そんな刹那的な考えに、身を任せるのが僕らにはお似合いだ。

(=゚ω゚)「さぁて、それじゃあその偉大なる諸葛亮先生の策とやら、とくと拝見させていただきやしょうか」

芝居がかった口調でぃょぅが監視カメラの一つにアクセスする。
僕もそれにならい、英数字の羅列に身を埋めた。
ノイズがかった風景が脳内に流れ込み、やがてそれは一つの像を結ぶと暗闇に浮かぶ荒巻屋の店内の様子を映し出す。

76 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:08:32.97 ID:0qBX01uwO
 ※ ※ ※ ※

━━新月の晩。月明かりも無い闇夜に、照明を切られた荒巻屋の中を照らす明かりは無い。

(#-_-)「おらクソじじい!集金の時間じゃボケェ!」

<ヽ`∀´>「ホルホルホル!遂に年貢の納め時ニダよ!」

その真闇の中に、二人組の闖入者が扉を蹴り開け登場した。

( ^ω^)「0824時、対象の侵入を確認。これより状況を開始する」

脳核通信でもって全部隊に通達すると、僕は監視カメラの暗視レンズ越しに闖入者共の格好を確認する。

(-_-)『……って、何だこの店は。電気もつけないで。もしかして、もう寝ちまったんですかね?』

小柄で痩せ細り、いかにもひょうろく玉といった感じの男が、傍らに立つエラの張った男を仰ぎ見る。

<ヽ`∀´>『ふん。だとしたら、随分と我々を舐めきった奴ニダね。とにかく、店主のじじいを捜すニダ』

恐らく、小柄な方が子分でエラ張りがその兄貴分といったところか。
暗視レンズ越しですら解るどぎつい色彩のシャツに悪趣味な龍の刺繍が入ったスーツは、いかにもヤクザやってますよといった出で立ちだ。

77 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:10:21.95 ID:0qBX01uwO
彼らはスーツのポケットに手を突っ込んだまま、歩き出す。

( ^ω^)「対象が移動を開始。まもなくポイントデルタに差し掛かる。ジョーンズ、準備はいいかお?」

(’e’)『……来い、来い……』

( ^ω^)「ジョーンズ!準備はいいかお!?」

(’e’)『行け!行け!そのまま突っ走れぇ!……ん?あぁ、わりぃわりぃ。競馬中継聞いてたわ』

( ;^ω^)「阿呆かお。今は作戦中だお。そんなん聞いてる場合かお」

(’e’)『わぁったわぁった。で?』

( ^ω^)「まもなく対象がポイントデルタに差し掛かるお。準備はおk?」

(’e’)『おうよ、任せとけ。先鋒の役目、きちんとこなして見せるぜ』

( ^ω^)「……頼んだお」

少し不安が残るが、通信を切る。
監視カメラに再び注意を向ければ、奴らは混沌とした陳列棚の間へと入って行く所だった。

(-_-)『いやぁ、なんか薄気味悪いとこっすねぇ……』

恐る恐る先導を切るのは小柄な弟分。
抜き足差し足で棚の間を歩いて行く彼は知らない。

78 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:12:02.09 ID:0qBX01uwO
雑多な陳列棚。電子機器に混じって、彼の背後に迫る小さな小さな姿を。

( ^ω^)「ちょっくら、脅かしてやりましょうかね」

僕の呟きと同時、店内に二人の足音以外の物音が響いた。

(-_-)『…!?兄貴、今……』

<ヽ`∀´>『何か、動いたみたいニダね』

足を止め、辺りを伺う二人組。
キョロキョロと頭を左右させるひょうろく玉の首筋。

lw´‐ _‐ノv“先ずは、触覚と聴覚に訴え不安感を煽る”

身の丈程の“何か”を抱えた、筆箱大の電脳パペットが棚伝いに近付き、それを思い切り押し付けた。

(;-_-)『うひゃあぁぁぁあっ!』

すっ頓狂な悲鳴をあげて飛び上がるひょうろく玉。

<ヽ;`∀´>『な、なんだヒッキー!ヒッキー何事ニダ!?』

(;-_-)『い、今!今首筋が何かヒヤッと!ヒヤッと!あばばば!』

<ヽ;`∀´>『落ち着け!落ち着けニダ!』

狼狽える二人。辺りを見渡すひょうろく玉。
彼の首筋に触れた「ヒヤッと」の正体は、こんにゃく。
僕がちゃんこ鍋の材料だと思っていたものは、このオペレーション・ホーンテッドにおいて実にベタな使われ方をした。
80 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:13:39.24 ID:0qBX01uwO
(;-_-)『ヒヤッと!ヒヤッとしたニダ!』

<ヽ#`∀´>『うつけぇ!』

(#)3-)『ぶゅわっちょ!?』

<ヽ#`∀´>『その語尾はウリのアイデンティティニダ!今度やったらジャスラックに訴えるニダよ!』

(;-_-)『す、すんまへん……いきなりヒヤッとするから驚いて……』

<ヽ`∀´>『とにかく、あのじじいを捜しだすニダ。ヒヤッとだかなんだか知らんが、どうせ気のせいニダ』

(;-_-)『……すんまへん』

ドタバタやりながらも、再び歩き出す二人組。
その足が陳列棚の間を間もなく抜けると判断した僕は、回線を開いてでぃちゃんを呼び出す。

( ^ω^)「作戦の初期段階は成功。対象はポイントデルタを抜けようとしている。今度はでぃちゃんの番だお。思いっ切り脅かしてやってくれお」

(#゚;;-゚)『ヤー……くっくっくっ……』

返事の後に陰鬱な忍び笑いを残して、でぃちゃんは回線を切った。
何だかんだ言って、今回の作戦に一番乗り気なのは彼女ではないのかと思うと、苦笑が漏れる。

81 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:15:53.74 ID:0qBX01uwO
陳列棚を抜け、突き当たりの壁に差し掛かったひょうろく玉が、左右を確認する為に首を振る。

(-_-)『クソじじいめ…どこに隠れてやがる……』

彼が左へと視線を巡らせた時、そこに彼は青白く光る鬼火を見つけた事だろう。

(;-_-)『いっ━━!』

<ヽ`∀´>『い?居たのか?』

lw´‐ _‐ノv“そして次に、視覚に訴えて恐怖の引き金を引く”

(;-_-)『イビョォォオンフォォオン!』

ふわふわと宙を漂う青白い光が、絶叫するひょうろく玉目掛けて迫る。

(;-_-)『お助け!お助けぇぇぇえ!』

<ヽ;`∀´>『お、落ち着けヒッキー!朝鮮人はうろたえない!朝鮮人は…って!』

親分の制止も振り切り全力で通路の反対側へと走り出すすひょうろく玉。
それが発光ダイオードを積んだ反重力推進式のラジコンヘリだとはつゆ知らず、彼はシュール先輩の思惑通りに右側の通路の突き当たりまで逃げ出す。

( ^ω^)「逃げ道は、無いお」

無我夢中で走りつづけるひょうろく玉。
店内のカメラを切り替えながら、僕はその背中を追う。

(;-_-)『はぁ…はぁ…はぁ…ひぃ…』
83 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:17:56.52 ID:0qBX01uwO
やがて、彼はボロ切れが蜘蛛の巣が如く垂れ下がった通路へと飛び込む。

(;-_-)『ひぃ!ひぅ!ぅわっあぁぁう!邪魔だ!邪魔だぁぁぁあ!』

「お使い班」が総力をあげて集めたありったけのエプロンは、ちゃんこ鍋大会を開く為のものではない。
恐怖にかられたひょうろく玉が逃げ道を切り開く為にそれをかき分け、引きちぎりながら進む先。
そこに、このエプロン達の意味が有る。

lw´‐ _‐ノv“弾かれた弾丸の如き恐怖に、ここで一先ずトドメだ”

(;-_-)『くそっ!くそっ!くそっ!くそぉぉおっ!』

ビリビリと引き裂かれるボロ切れ改めエプロン。

( ^ω^)「あらあら、そんなに見境無く千切ってたら……」

恐慌状態のひょうろく玉の手が、“そのエプロン”にかかり引き裂いた瞬間。

(;-_-)『えっ━━?』

今までエプロンによって宙に吊られていた「土鍋」が戒めを解かれ、勢い良く彼の脳天に直撃した。

☆⌒(#)3-)『ぐぶぇっ!』

鈍い音と共に、床に崩れ去るひょうろく玉。そのままピクリとも動かなくなった彼は、起き上がる気配も無い。

( ^ω^)「0839時、対象の片方の沈黙を確認」
85 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:19:52.77 ID:0qBX01uwO
(=゚ω゚)『ひゅー。先ずは一匹ノックアウトだ!』

回線越しに、メンバーの歓声が聞こえてくる。
ささやかな戦果に浮かれる間はない。
僕はカメラを切り替え、もう一方の兄貴分を捜す。

<ヽ;`∀´>『おいヒッキー!どこに行ったニダ!?今の音は!?一体何があったニダ!?』

律儀にも彼は、先の位置から動かずに弟分の名を大声で呼んでいる。

( ^ω^)「……全兵員に告ぐ。我々ピーチガーデンは、これより作戦の第二段階に移行する。繰り返す、これより作戦の第二段階に移行する」

ノパ听)(=゚ω゚)「「ヤー!』』』(#゚;;-゚)(’e’)lw´‐ _‐ノv

( ^ω^)「残る目標は現在、ポイントデルタに待機中。でぃちゃんとジョーンズはこれを誘導、ポイントダガーへ引き込まれたし」

(’e’)(#゚;;-゚)『了解』

通信を終えると同時、兄貴分の背後の棚でセントジョーンズの操る電脳パペットが、物音を立てる。

<ヽ;`∀´>『に、ニダ!?』

ぎくりと背筋を強ばらせ振り返る兄貴分。
タイミングを合わせるようにして、でぃちゃんが鬼火に扮したラジコンヘリを棚の角から飛び出させる。
87 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:21:40.76 ID:0qBX01uwO
<ヽ;`∀´>『人…魂……?』

ゆらゆら、ふわふわ。
不安を駆り立てるように舞い飛ぶそれを凝視したままに立ち竦む彼を誘うよう、ラジコンヘリは棚の陰に隠れた。

<ヽ;`∀´>『お化け……』

ポツリと呟かれた単語。それを否定するよう頭を振り、彼は腰から拳銃を抜き構える。

<ヽ;`∀´>『笑わせるニダ……この現代社会において、そんな下らないものなんか居るはずが無いニダ。ど、どうせトリックに決まってるニダ』

lw´‐ _‐ノv“残る目標は、好奇心で釣る”

( ^ω^)「鉄砲かお……それを撃たせる訳にはいかないお。ぃょぅ!」

(=゚ω゚)『安心しろー。もしもの為に、入店なさった時から、奴らのチャカのセキュリティは落としておいたぜ。どう頑張っても、あのチャカの引き金は降りない』

電脳化によって全ての機器類が電脳制御になった便利なこの時代。正確な射撃を追求する為、拳銃の火器管制システムにもそれは及んでいる。
利便性の裏を返せばそれは、ハッカーが付け入る隙が大きくなったこととも言えよう。
中途半端に電脳制御された銃なんかは、僕らのようなハッカーにとっては格好の餌食だ。
89 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:23:53.19 ID:0qBX01uwO
<ヽ;`∀´>『あまり、ウリを舐めない方がいいニダよ……』

油断無い足取りで、兄貴分は偽人魂の消えた棚の陰へと歩いていく。

<ヽ`∀´>『そうら捕まえた!』

勢いをつけて曲がり角の向こうへと銃を突きつけるが、それを嘲笑うかのように偽人魂は通路の奥へと消える。

<ヽ;`∀´>『ちっ、逃がすか!』

追い掛ける兄貴分。狭く暗い通路を早足で進む彼は、突き当たりで偽人魂が不意にその姿を消失させた事によって立ち止まった。

90 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:25:48.93 ID:0qBX01uwO
<ヽ;`∀´>『むっ、一体何処に…?』

銃を構えながら、偽人魂の消えた辺りを凝視する兄貴分。

( ^ω^)「対象のポイントダガー到着を確認。ジョーンズ!」

(’e’)『あいあいさー!』

彼の視線の先で、突然仄かな灯りが点る。

<ヽ;`∀´>『ん?』

電脳パペットが点したジッポーライターの小さな灯りの中、ぼんやりと浮かぶもの。

<ヽ;`∀´>『な、な、な……』

壁に、無数の釘で打ちつけられたビスクドール。
手首を、足首を、頭を、胸を、無骨な五寸釘によって戒められた彼女の濁った瞳。

lw´‐ _‐ノv“ここまでくれば、後は先に述べたものと同じ”

91 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:27:45.22 ID:0qBX01uwO
<ヽ;`∀´>『……あ、悪趣味な真似を…こ、こんなの…』

勇敢にも足を踏み出そうとする彼の背後で、物音がする。

<ヽ;`∀´>『ひぅっ!』

とっさに振り返ったその顔面目掛けて、電脳パペットが唐辛子の詰まった生卵を投げつけた。

lw´‐ _‐ノv“相手の視覚を奪い…”

<ヽ;`∀´>『のわっぁあ!?』

湿った音と同時、兄貴分の顔面を覆い尽くす唐辛子と卵白、黄身。

<ヽ; ∀ >『ぐぉぉぉお!?何だ!?何だ!?溶解液かぁぁぁぁあ!?』

視界を塞がれ、カプサイシンに眼球を刺激され、慌てふためく兄貴分。
両手をばたつかせ、たたらを踏むその足が、踏んではいけないものを思い切り踏み抜いた。

lw´‐ _‐ノv“痛みにより、動きを封じたところに”

<ヽ; ∀ >『ギャァァァァァア!!』

三枚の板に打ち付けられ、剣山の形をとった総計三十本の五寸釘。
その中央、一番釘が密集した地点を彼の右足は見事に踏みしめていた。
二本ばかりが足の甲を貫通している様は、見ているこっちですら顔をしかめる程に痛々しい。

<ヽ; ∀ >『痛っ!痛っ!あがぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃいやぁぁぁあ!』

92 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:29:33.57 ID:0qBX01uwO
右足を上げ、片足で跳ねる彼の体が棚にぶつかりその場に倒れていく。

( ^ω^)「ジョーンズ!」

(’e’)『そうら追い討ちだっ!』

小さな体躯を全力で稼働させ、電脳パペットが棚から床に着地。
身の丈以上のカセットボンベを背負い、ジッポーの灯りへと走り。

(’e’)『その汚ねぇ尻をローストしてやるよ!』

炎を挟んで向かい側に迫る兄貴分の尻へと向け、ボンベの中身を吹き付けた。

<ヽ; ∀ >『ぶびゃぁぁぁぁぁぁぁあ!?』

凄まじい勢いで燃え盛る炎。一歩間違えば火事寸前。
真っ赤な舌先に炙られた尻が二、三メートル程宙に飛び上がり、間抜けな音を立てて着地する。

<ヽ; ∀ >『あちっ!あちっ!ひぇっ!ひぇぇぇ!ひゅうっ!』

尻を叩き、右足をばたつかせ、顔面を拭う為両手をフル稼働する兄貴分。

( ^ω^)「さぁて、いよいよ仕上げだお。ヒート、準備は?」

ノパ听)『ついに私の時代がきたぜぇぇぇぇえ!』

忙しなくのたうち回る兄貴分から少し離れた、カウンターの中。
何かがゆっくりと立ち上がる音がした。
95 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:32:07.91 ID:0qBX01uwO
<ヽ; ∀ >『あひっ!あひっ!うひっ!』

自らに課せられた難行を消化するのに必死な彼は、それに気付かない。

lw´‐ _‐ノv“焦る敵。最早奴には冷静な判断力も残っていないだろう”

ノハ*゚ー゚)『へへへ……今会いに行きますよぉ……』

ゆっくりと、這い上がるようにカウンターを脱した“それ”は、引き摺るような音を立てながら兄貴分へと一歩一歩近づいていく。

<ヽ;ノ∀´>『はぁ、はぁ、はぁ……』

やっとこさ、顔面に張り付いた卵白を拭い落とした兄貴分は、肩で息をしながら銃を構えたところで、“それ”の存在に気付いた。
97 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:33:22.44 ID:0qBX01uwO
<ヽ;`∀´>『ふふふ…じじい、ついに観念して出てきやがっ……』

不敵に笑い、立ち上がろうと腰を浮かしかけた彼の顔面の筋肉が硬直する。

<ヽ;`∀´>『あっ……あっ……あっ……』

ボロ切れを纏い、有り得ない方向に折れ曲がった手足をぶら下げ、彼へと迫ってくる“それ”。

<ヽ;`∀´>『ぞ、ぞ、ぞ……』

“それ”はまるで……。

lw´‐ _‐ノv“そこで、トドメを刺す!”

<ヽ;`∀´>『ゾンビィィィイ!?』

叫ぶと同時、彼は銃の引き金を思い切り引く。
99 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:35:05.02 ID:0qBX01uwO
引こうとする……が。

<ヽ;`∀´>『え?え?え?えぇぇえ!?』

頑として動かない引き金。
迫り来る、生ける屍。

<ヽ;`∀´>『ギャァァァァァア!』

人間とは、恐怖によって追い詰められるとここまで凄まじい力を発揮するのか。
驚異の反応速度で回れ右すると、彼は五寸釘が突き刺さったままの足で駆け出す。

<ヽ;`∀´>『堪忍!堪忍してくだせぇぇぇぇぇえ!』

壁にぶち当たり、棚をなぎ倒し、電子機器を蹴飛ばし、まるで局地的な台風のようにして、彼は荒巻屋のドアを蹴り開け去っていった。

ノパ听)「……」

その余りの勢いに逆にゾンビが驚き、立ち尽くす。
ボロ切れを纏ったその不気味なシルエットは、僕ら義兄弟があの日イイ男を退けて勝ち取った廃棄ドロイドに、引きちぎったエプロンを被せたものだ。

lw´‐ _‐ノv“以上が、本作戦の概要だ”

オペレーション・ホーンテッド。

即席のお化け屋敷は、予想以上の観客の盛り上がりによって、大盛況のままに幕を閉じた。

100 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:37:17.17 ID:0qBX01uwO
( ^ω^)「……」

しばらく、兄貴分が飛び出していった後のドアを呆然と見つめていた。
思い出したように脳核回線を開くと、僕は呟く。

( ^ω^)「0902時、対象の消失を確認……作戦、成功」

ノパ听)(=゚ω゚)『『……』』

(#゚;;-゚)(’e’)lw´‐ _‐ノv『……』

( *^ω^)「僕達の……勝利だお!」

ノハ*><)ノ(*=゚ω゚)ノ『『Yeahhhhhhh!!!!!』』』(*゚;;-゚)人(’e’*)lw´‐ _‐ノv

割れんばかりの歓声が、回線を通して聞こえてくる。

僕達は、勝ったのだ。
102 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:39:46.58 ID:0qBX01uwO
(’e’)『……でも、ちょっと待てよ』

そこへ、水を刺す輩が一人。

(’e’)『奴ら、陳龍だぜ?あいつらが、これしきの事で引き下がると思うか?』

( ^ω^)「……」

ノパ听)(=゚ω゚)『『……』』

(’e’)『近いうち、また来るんじゃねぇのか?今度は、もっと重武装、大人数でよ……』

(#゚;;-゚)lw´‐ _‐ノv『……』

(’e’)『そしたら、今度は……』

誰も、反論する者はいない。
105 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:41:26.23 ID:0qBX01uwO
目先の物事を解決する事ばかりに頭がいっていて、その後の事は全く考えていなかった。
そうだ、一回の失敗で奴らが引き下がる筈が無い。
マフィアとしての対面を保つため、必ずや第二陣を送り込んで来るに決まっている。
そうなったら、僕達に打つ手は無い。

( ;^ω^)「……」

ノハ;゚听)(;=゚ω゚)『『……』』』(;゚;;-゚)(;’e’)lw;´‐ _‐ノv

僕らの間に、重苦しい沈黙が立ち込める。
結局、刹那的な考えしか持てない僕らには、どうにもならない事なのか……。

106 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:42:38.19 ID:0qBX01uwO
(=゚ω゚)『……なぁ、どうでもいいんだけどさ…』

( ^ω^)「……なんだお?」

力無く返答する僕の視角回線に、ぃょぅが店の入り口の映像を転送してくる。

(=゚ω゚)『あれ…あそこに落ちてる紙切れ……ありゃなんだ?』

ぃょぅが言う紙切れを探し、ズームしてみる。
兄貴分が散らかしていった電子機器達の中。
白く浮き彫りになったそれは、どうやら馬券のようだった。

( ^ω^)「馬券だお。馬券。それがどうし……」
108 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:44:37.32 ID:0qBX01uwO
(’e’)『なぁなぁ、番号は?』

( ^ω^)「え?いや、そんなの聞いてどうす……」

(’e’)『いや、ちょっと気になってよ』

そういえば、ジョーンズは作戦中にも競馬中継を聴いていたっけ。

( ^ω^)「あーえーと……13-13」

大局的な敗北に落胆していた僕は、半ば投げやりにそこに書かれた番号を読み上げる。

(;’e’)『……なん…だと』

( ^ω^)「だから、13-13だって……」

(;’e’)『……お前ら、ちょっと落ち着いてこれ音声回線をオープンにして欲しい』

言われるがままに、設定する。
111 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:46:03.79 ID:0qBX01uwO
『……りました!まさかの逆転!これは競馬史に残る偉大な快挙です!』

競馬の中継だろうか。ギャンブルに興味の無い僕には、実況のキャスターが叫んでいる単語の意味がよくわからない。

わからないが。

『メジロステイツ!優勝は赤いゼッケン13番、メジロステイツ!メジロステイツです!誰がこんな結末を予想していたでしょう…』
114 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:47:51.34 ID:0qBX01uwO
( ^ω^)「これって……」

(;’e’)『今日のレースの実況だ』

(;=゚ω゚)『お、おいまさか……』

(;’e’)『落ち着け。いいか、みんな落ち着いて今からオレが言う事を聞いて欲しい』

(;゚;;-゚)『……え…と』

(;’e’)『荒巻の爺は、ショバダイを払えないから陳龍に目を付けられた』

ノハ;゚听)『おいおい、こんな事って……』

(;’e’)『その額は、幾らだった?』

( ;^ω^)「えと…50万円…だったかお?」
116 : ◆cnH487U/EY :2008/11/20(木) 21:48:47.90 ID:0qBX01uwO
(;’e’)『そこの馬券は、万年最下位の駄目競走馬として有名なメジロステイツの馬券。大穴中の大穴だ』

(;=゚ω゚)『しかも、一点張り……』

( ;^ω^)「じゃ、じゃあ……!」

(;’e’)『いいか、落ち着け。落ち着くんだ。ブーン、今からそいつを拾ってきて、換金所に持って行け。そうすれば……』

( ;^ω^)「荒巻屋のショバダイは……」

(;’e’)『……払った後のお釣りで、支店も建てられるだろうよ』

ノハ*><)(*=゚ω゚)『『Wohhhhhhh!!!!』』(*゚;;-゚)lw´‐ _‐ノv

電子の海に、勝利の雄叫びが木霊した。

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