- 5 :
◆cnH487U/EY :2008/11/13(木)
21:15:55.89 ID:uEgxo2EVO
- blank disc B-1. Crudeness days
“突然現れて ふざけて馬鹿をやったりした
そんな何でも無いことが
かけがえの無いほどの宝物になっていた
あの日の現実”
……Gackt/Black stone
- 6 :
◆cnH487U/EY :2008/11/13(木)
21:17:22.35 ID:uEgxo2EVO
- prologue
━━結線用コード、外部記憶素子、増設メモリ、クラッキングボックス、違法プログラムの入ったデータチップ、今では骨董品(アンティーク)とすらなり果てたキーボード。
棚を埋め尽くしたそれら大小様々の電子機器達は、「オレはこんな小さな枠に収まる器じゃねぇ!」と言わんばかりに通路へとはみ出し、中には床へ転がり落ちているものまである。
( ^ω^)「相変わらず汚い店だおね」
ゴミ屋敷。
そうとしか形容出来ない程に、その店、「荒巻屋」の中は混沌としていた。
/ ,'3「ほっとけい。なんならお前さんが片付けてくれるってぇかい?」
極限まで照明を落とした薄暗い店内。
電子機器に埋もれるようにして肩身狭そうに設けられたカウンターの中。
白髪混じりの小汚い翁が、CASTERをふかしながらボヤいた。
( ^ω^)「どんなに金を積まれてもお断りだお」
物色していたゴミ山、もとい電子機器の山からお目当ての増設用メモリを見付けると、それを手に僕は立ち上がる。
- 7 :
◆cnH487U/EY :2008/11/13(木)
21:19:32.67 ID:uEgxo2EVO
- ニーソク区の電気街。
その奥の奥、ビルとビルの陰に隠れるようにして存在するこの「荒巻屋」。
合法・非合法を問わずありとあらゆるネットワークソフトウェアを取り扱う店として、ここは僕達のようなハッカーの間では知る人ぞ知る隠れた名店だ。
( ^ω^)「じっちゃん、これ幾らだお?」
/ ,'3「んー…五万」
その店主である荒巻老は、競馬新聞を読み耽ったままカウンターにふんぞり返り、こちらを振り返ろうともしない。
( #^ω^)「じじいてめぇついにボケたのかお!思い付きで適当な事抜かすなお!」
/ ,'3「値札が付いてないやつぁ、全部時価。それがこの店のルールぢゃ」
( #^ω^)「“ぢゃ”じゃねぇおもうろくじじい!どこの世界に12テラのメモリを五万で売る奴が居るんだお!ぼったくりもほどほどにするお!」
僕がくそみそにこき下ろすこのご老体は、違法プログラムやクラッキングツールを作らせれば右に出る者は居ない。
……と言われる程に腕の知れた技術屋兼闇商人であり、僕達の業界では彼の名前を知らない奴はもぐりとまで言われていた。
- 9 :
◆cnH487U/EY :2008/11/13(木)
21:21:58.59 ID:uEgxo2EVO
- そんな彼の経歴は謎に包まれている。
筑波の電脳研究チームで技術責任者をやっていた、だとか。
実はロイヤルハントの電脳戦部隊で「灰の二年間」を生き延びたユーラシア帰りの退役軍人なんだ、だとか。
とにかくそういった胡散臭い噂には事欠かない。
そんな彼の手掛けたクラッキングツールは、そのどれもがピーキーながらも素晴らしい性能を持っている。
ハッカーなら一度は手に入れたいものと言われているが、如何せん店主の彼がご覧のように偏屈な性格だ。
この店の上で万年閑古鳥が鳴いているのは言うまでもない。
/ ,'3「そうカッカするな。まったく、久しぶりに顔を見せたと思えば相変わらずケツの穴の狭い事を抜かしおる」
( #^ω^)「世間一般では12テラのメモリを5万で買う奴は相当頭が“おめでたい”奴だお」
/ ,'3「ふぇふぇふぇ。お前さんがそんな“おめでたい”奴じゃったらこの店ののれんは潜らせんよ。親愛の籠もったジョークじゃ。ジョーク」
久しぶり。確かに、この店ののれんを最後に潜ったのは何年前の事だったろうか。
- 10 : ◆cnH487U/EY :2008/11/13(木)
21:23:19.61 ID:uEgxo2EVO
- たまたま新しい並列演算プログラムをインストールしようと思ったら、メモリが足りなかったので散歩ついでにこの店を訪れたのだが。
/ ,'3「7年ぶり……かのう」
そうか。もう、そんなになるのか。
/ ,'3「今までどこで油を売っとったんじゃ」
( ^ω^)「……」
/ ,'3「…いや、すまんかった。わしらの業界じゃ、干渉するのは御法度じゃったな。すまなんだ。歳を取るとどうしても世話焼きになってしまっていかんのう。ふぇふぇふぇ」
( ^ω^)「まぁ、色々だお」
/ ,'3「ふぇーっふぇ!抜かしおるわい!あのハナタレ小僧の口から出た言葉とはまっこと思えんのう!」
( #^ω^)「ハナタレとはご挨拶だおね」
/ ,'3「ふぇふぇ、その熱くなりやすい性格も変わらんのぅ。そういえば、あの時も真っ先にお前さんが真っ赤な顔をしてここに来たんじゃった」
( ^ω^)「あの時……?」
/ ,'3「ほれ、わしの店が陳龍のとこと一悶着おこした時……」
( ^ω^)「あぁ!そういえばそんな事もあったおね」
- 12 : ◆cnH487U/EY :2008/11/13(木)
21:24:17.04 ID:uEgxo2EVO
- 記憶のアルバムの奥、黄ばんだ記念写真のようにして眠っていたあの景色が、鮮烈に息を吹き返す。
忘れもしない、あれは、常に日陰を歩いてきた僕の人生の中で、唯一青春と呼べる時間だったのだから。
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