- 13 : ◆fkFC0hkKyQ :2009/06/03(水)
22:12:08.46 ID:ZcyBZLroO
- disc 9. 善悪の虚像
“爪先まで理論武装
何と張り合ってるんだか 誰と戦ってるんだか
誰かが呟いた 「汚れてしまった」
その肩を叩いた その手も汚れてた”
……BUMP OF CHICKEN/レム
- 15 : ◆fkFC0hkKyQ :2009/06/03(水)
22:15:28.29 ID:ZcyBZLroO
- prologue
━━男は読んでいた本から顔を上げると、鉄格子の向こうへと目を向けた。
( ∵)「……」
一面が灰色のコンクリートで覆われた牢獄。
外界と内部とを隔てる厚さ2メートルのコンクリート壁に、その靴音は反響した。
(-@∀@)「食事の時間だ」
眼鏡の看守が、手に持ったトレイを鉄格子の下の窓から差し入れる。プラスチックの容器に申し訳程度に盛られた白米に、湯気は立っていない。
( ∵)「……」
手にした本を閉じ、男はトレイに手を伸ばす。囚人服の袖口から覗く白くか細い腕は、長い間日の光に当たっていないことを物語っていた。
(-@∀@)「差し入れは……今日は無い」
男の一挙手一投足を眺めながら、看守は呟く。
当の男はそれに返事を返すでもなく容器を持つと、のろのろと飯を食いだした。
(-@∀@)「何を読んでいたんだ?」
ひびの入ったコンクリート壁にもたれて看守が尋ねる。
緩慢な動作で箸を繰っていた男の動きが止まる。
( ∵)「……モンテ…クリスト伯」
その日初めて口を開いた男の声は、ひどく乾いてひび割れていた。
- 17 : ◆fkFC0hkKyQ :2009/06/03(水)
22:18:22.26 ID:ZcyBZLroO
- (-@∀@)「……へぇ」
興味無さそうに相づちを打つ看守。
牢獄内に、男が箸を動かす音だけが無機質に響く。
(-@∀@)「……じゃあ、食べ終わったら何時もどおり器は伏せておけよ」
看守はそれだけを言い残すと、牢獄を後にした。
残された男は、10分程をかけて容器の中の白米を平らげると箸を置いた。
( ∵)「……そろそろ、か」
一人ごち、首筋に手を伸ばすと埋め込まれたソケットからメモリ端子を引き抜く。
( ∵)「“復讐は神のものだ”…か。なるほど、確かに。ならば……」
無表情にそれを容器の中に入れて伏せると、彼は再び本を手に取った。
( ∵)「……」
開いたページをぼんやりと見つめる黒い瞳。
活字を前にしてそれを追おうとしない彼の瞳は、まるで文字というものを忘れてしまったかのようだった。
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