6 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:07:24.20 ID:INchoogqO
〜track-γ〜

(・∠@=)「ショーダウンをお願いします」

ディーラーの淡々とした声が、カジノの喧騒の中で浮き彫りになる。

(-@∀@)「ストレート」

('、`*川「フルハウス」

チップをかき集める音。

ジャラジャラと、どこか虚ろに響く。
  _
( ゚∀゚)「凄いですね。これで三連勝だ。今日はついてらっしゃるんじゃないんですか?」

ラテン系男のおべっかを遠耳に、オレはディーラーがカードを回収していく手つきを見つめる。
8 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:08:03.65 ID:INchoogqO
あれから十回程ゲームが流れた。

最低限のチップを賭け、ローリスクローリターンの勝負で場数を踏みカジノの雰囲気に慣れたオレは、本来の目的である「カジノ側のイカサマを見つける」ことに集中していた。

(・∠@=)「次のゲームまでしばらくお待ちを」

思い思いにプレイヤー達が談笑する中、ディーラーはカードの山をシャッフルし始める。
下から上へ、オーソドックスなスタイルのシャッフル。

('A`)「……」

目を凝らす。
特に、おかしなところは見られない。

9 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:09:34.04 ID:INchoogqO
実に四ゲームの間ディーラーの手元を睨んでいたが、ここまででディーラーがカードの山に細工したりする素振りは見受けられなかった。

もしかしたらオレが彼のイカサマに気付かなかっただけで、実は初めから仕組まれたゲームの中でオレ達が踊らされているのかも知れない。

どちらにしろ、オレには皆目見当もつかないというのが今の現状だ。

('A`)『なぁ、ハイン。イカサマを見破るったって、どうすればいいんだよ』

从゚∀从『そうだな、一番手っ取り早いのはディーラーの仕草に注意することだ』

('A`)『仕草?』

从゚∀从『何か繰り返している仕草が無いかどうかを探す。そして、その仕草を場の動きと関連付けて考える』

('A`)『つまり、合図か何かを送っているかも知れないってことか?』

从゚∀从『そういうことだ』

('A`)『いや、でも待てよ。まだこの中にグルが居るかなんてわからないだろう?』

从゚∀从『ディーラーが一人で行えるイカサマはカードの配置をずらすことぐらいだ』
12 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:11:53.63 ID:INchoogqO
从゚∀从『しかし、彼はそれを行っている素振りは無い。私の高解像度(ハイレゾ)カメラで見ていたのだ。それに間違いは無い』

('A`)『じゃあ、やっぱりこのディーラーはプレイヤーの中に“メカニック”を仕込んでるってことか?』

メカニック。所謂、プロのイカサマ師のことを指すスラングで、本来カジノ側にとっては排除すべき人種だ。
それでも賭博法が改定される前までは、腕の良いメカニックをカジノ側がヘッドハンティングすることもあったようだ。

从゚∀从『恐らくはな。まだ確証は無い。観察を続行するぞ』

ハインとの通信を終えると同時、ディーラーがカードを配り終えた。

(・∠@=)「ミスター、ブラインドベッドを」

オレの目の前にはディーラーズボタン。

('A`)「……チェック」

言いながらもオレの意識は、周囲のプレイヤー達へと向けられていった。

13 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:13:35.90 ID:INchoogqO
 ※ ※ ※ ※

━━マダムの手がポットに集められた200ドルものチップを攫っていった。

('、`*川「ごめんあそばせ。また私が勝ってしまいましたわ」

オレがこの席についてから何度目だろうか。
ホクホク顔でチップを自分の前に積んでいく彼女は、ここのところ連勝が続いている。

これで5連勝。

向かうところ敵無しとでも言おうか。それはまさに破竹の勢いだった。

('A`)『……なぁ、ハイン。あのマダム、どうも勝ちすぎじゃないか?』

もしかしたら、このマダムがディーラーとグルになっているメカニックでは無いのか。

从゚∀从『あぁ。誰がどう見ても、彼女は勝ちすぎている。波に乗っていると言うには異常な程だ』

ハインも思うところは同じようだ。オレは、自分の考えを彼女に伝える。

('A`)『やっぱりそう思うか。なぁ、こいつがメカニックなんじゃないのか?』

だが、彼女から返ってきた答えはオレの予期していたものとは全く違った。

从゚∀从『いや、それは無いな』
15 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:15:31.32 ID:INchoogqO
('A`)『は?』

この勝ち方はおかしい。イカサマでも使わなきゃここまで勝てないのは、ハインも認めている。
マダムがメカニックじゃないというのなら、何なのだ?

从゚∀从『彼女は、カモだ』

('A`)『カモ?』

从゚∀从『一見勝ち続けているように見えるが、彼女はディーラーに“勝たせて貰っている”……いや、“勝たされている”と言った方が正確だ』

('A`)『それは、どういう……』

从゚∀从『恐らく、そろそろ彼女の連戦記録も潰える筈だ。まぁ見ていろ』

頭にクエスチョンマークを浮かべるオレにも構わず、ハインは黙する。
気付けばゲームは既に始まっており、ハインがブラインドベッドを終えたところだった。

('A`)「フォールド」

オレはハインの言葉の意味を突きとめる為にゲームを降りると、第三者の視点から場を見渡す。

コミュニティーカードが開示され、それぞれがベッドし、時にフォールドし、ゲームは佳境である最終ラウンドを迎えた。

現時点で残っているのは、御曹司とマダムの二人。

16 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:17:23.54 ID:INchoogqO
コミュニティーカードはダイヤの2、スペードの9、ダイヤの4、ダイヤの6、クラブのK。

ベッドはマダムの番となっていた。

('、`*川「うーん…どうしましょう……」

彼女はコミュニティーカードと、御曹司の手札を交互に見やり、唸っている。
先のベッドで、御曹司がマキシマムの30ドルをベッドしたことで、自分の手札に自信が無くなったのか。

(・∠@=)「お客様、お悩みですか」

そこへ、ディーラーが何とはなしに声をかけた。

('、`*川「えぇ。ここで勝負に出るべきか、それとも退くべきか……」

(・∠@=)「勝ちが続くと、どうしても不安になってしまうものですからね」

('、`*川「そうなのよぉ。何だか、ふとした瞬間に崩れてしまいそうで……」

(・∠@=)「それでも、お客様は今まで負けていません。連勝です」

('、`*川「そ、そうね…」

(・∠@=)「自分の判断を、信じてみては?」

その言葉に、マダムはしばらく考えた末に10ドルチップを三枚掴むと。

('、`*川「…レイズ!」

自信満々にポットの中央に置いた。
18 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:19:43.73 ID:INchoogqO
(-@∀@)「コール」

それに御曹司も応対し、ベッドが成立。ショーダウンとなる。

('、`*川「どう?」

マダムが出した手札は、クラブの5とスペードの3。

2、3、4、5、6のストレートだ。

(-@∀@)「……ふぅ」

御曹司は安堵の溜め息をつくと、手札を捲る。

ダイヤの10と、ダイヤの5。

ダイヤのフラッシュ。御曹司の勝ちだ。

(-@∀@)「危ないところでしたよ……」

('、`*川「あぁん!もう少しで勝てたのに!」

(・∠@=)「惜しかったですね」
20 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:20:27.12 ID:INchoogqO
苦笑を浮かべる御曹司、口惜しそうに天を仰ぐマダム、フォローを入れるディーラー。

从゚∀从『やはりな』

('A`)『どういうことだ?』

从゚∀从『ディーラーと婦人のやり取りは聞いていたか?』

('A`)『聞いてたけど。何かおかしいところがあったか?別に、焚き付けてるようには見えなかったけど……』

从゚∀从『あれは、イエス誘導法と呼ばれる初歩の心理操作術だ』

('A`)『心理操作て…これまた大袈裟な……』
24 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:22:18.98 ID:INchoogqO
从゚∀从『だが実際に婦人はディーラーの思惑に乗って彼女は最大額を掛け、ディーラーの思惑通りに負けている』

('A`)『じゃあ、どんなトリックなのか言ってみろよ』

从゚∀从『ディーラーの質問に対する婦人の回答は、全て肯定的なニュアンスのものだ』

('A`)『あぁ、そういえばそうだな』

从゚∀从『ディーラーが質問する。婦人がイエスと答える。これを連続させていくと、どんな質問にもついついイエスと答えてしまいたくなる。それがイエス誘導法だ』

('A`)『……いや、でも最後にディーラーはレイズをそそのかすような事は……』

从゚∀从『“レイズ”と“フォールド”、肯定的なニュアンスを持つのはどっちだと思う?』

('A`)『その二択でいったら、レイズだけど……あ!』

从゚∀从『そういうことだ。それと、二人の役は何だった?』

('A`)『マダムはストレート、御曹司はフラッシュ。ぎりぎりのところで御曹司の勝ちだな。惜しい』

从゚∀从『そう、惜しい。普通ならよっぽどの事が無い限り、あのコミュニティーカードでストレートが負けることは無い』
27 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:25:00.69 ID:INchoogqO
役の序列からみて、ストレートは上から六番目。
先のコミュニティーカードで成立しうる役は、ストレートより一つ上のフラッシュだけだ。

从゚∀从『それによって、彼女は今回の負けを“偶然に起きたしょうがないもの”として捉える。それが決して、偶然から来たものでは無いとは知らずに』

マダムは思うだろう。“これだけ勝ち続けているのだ。今のはたまたま負けただけ。次はまた自分が勝つはず”。

从゚∀从『そうやって、次のゲームでも負け、その次のゲームでも負け…そして、そろそろ負けが込んで来たところで、再び勝利の甘い汁を啜らされる』

後は、ただ、それの繰り返しだ。飴と鞭で生かさず殺さず。彼女はじわじわとチップを吸われ続け、やがてはチップを全て失う。

从゚∀从『それでも彼女は何ら気にしない。むしろ、自分が一度は連勝したという“虚ろな栄光”に酔いしれたまま、笑顔で席を立つだろう。それこそが、カジノの思惑だ』

そう。まさに、水の妖精“ルサールカ”に魅入られた不幸な者のように、満面の笑いながら溺れ、堕落していくのだ。

28 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:27:01.67 ID:INchoogqO
(;'A`)『じゃ、じゃあ…!?』

从゚∀从『間違いない。彼はどんな方法かは分からぬが、イカサマをしている』

今、この場でイカサマが行われている。
証拠は無い。だが、信憑性は有る。
ここに来て遂に、オレ達はカジノの闇の片鱗に辿り着いたというわけだ。

(;'A`)『それにしてもすげぇな、君は』

从゚∀从『何が凄い?』

('A`)『いや、普通そんな心理トリックとか気付かないだろ。大したもんだよ』

从゚∀从『何も凄いことなど無い。私は極限まで人間に近付けられて創造されたのだ。心理学や人間学のアプリケーションは一通りインストールされてある』

(;'A`)『は、はぁ……』

从゚∀从『下手をすると、貴様ら人間より、私は“ヒト”に詳しいかも知れぬぞ?』

網膜に映し出された鋼鉄の処女が悪戯っぽく笑う。

(;'∀`)『あは…あはは……』

今度からこいつの前で下手な行動はとるまい。
オレは一人、心の中で誓った。
32 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:29:46.12 ID:INchoogqO
 ※ ※ ※ ※

━━椅子が引かれる音と共にマダムが立ち上がった。

('、`*川「ふぅ。今日はなかなか楽しませて頂いたわ。有難う、皆さん」

彼女は満面の笑みを浮かべてオレ達に会釈すると、毛皮のコートを羽織りカジノの喧騒の中へと消えていった。
  _
( ゚∀゚)「やや、これは残念だ。素敵なレディが減ってしまうとは」

ハインの言うとおりだった。

あれからマダムは負け続けては思い出したように勝ちを繰り返し、徐々にそのチップをすり減らしていった。

負ける度にそれを挽回しようと多額のチップを賭け、その多額のチップを負けて失い。
それならば慎重にいこうと少額のチップを賭ければ、勝ちを得る。

“波が狂った”

マダムはそう言っていたが、波など初めから存在しない。
彼女はただ、“ルサールカ”の妖艶な笑みに惑わされ、独りで踊っていたに過ぎなかった。

('A`)『いよいよ君の言葉に真実味が出て来たな』

从゚∀从『貴様と違って私は嘘など言わん。もっとも、これでイカサマを見つけ出すのも時間の問題となった事は確かだ』

33 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:31:35.57 ID:INchoogqO
プレイヤーが一人減ったことにより、メカニックの候補が絞られてきたという事だろう。
単純に考えて、メカニックは御曹司かラテン系の男のどちらかとなる。

('A`)『なぁ、ハイン。君は誰がメカニックだと思う?』

从゚∀从『先ずは貴様の意見を言ってみろ』

オレの意見。オレが、怪しいと思う人物。

('A`)『あの、御曹司風の男かな』

現時点で一番怪しいのは、やはりあの御曹司だろう。

先のマダムの連勝にピリオド打つきっかけとなったゲーム。
最後までマダムと競り合っていたのは、あの御曹司だった。
マダムのストレートに対して彼がフラッシュを引き当てたのも、ディーラーと彼がグルになっていたと考えれば自然だ。

从゚∀从『…ふむ。当然、そう考えるだろうな』

('A`)『なんだよ。含みのある言い方をするな』

从゚∀从『私は、右端のラテン系の男が一番の有力候補だと思う』

('A`)『……根拠は?』

从゚∀从『消去法だ。実際に目にしてみるのが一番早い』

34 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:34:01.79 ID:INchoogqO
彼女が言葉を切ると同時ディーラーがカードを配り終え、ゲームが始まった。
  _
( ゚∀゚)「どれどれ……」

ディーラーズボタンはラテン系の男。
彼は自分の手札を一瞥した後、定石に則りチェックする。

(-@∀@)「これは…なかなか……」

順番が回ってきた御曹司は、20ドルをポットに放りレイズ。
ハインがコールし、オレは行く末を見届けるべくフォールド。
順番が一周し、ラテン系男のブラインドベッドターン。

35 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:34:38.22 ID:INchoogqO
  _
( ゚∀゚)「20ドルかぁ…皆さん自信が有るようで…」

彼は抜かりなく周囲を見渡した後。
  _
( ゚∀゚)「触らぬ神に祟り無し…だね」

フォールドを宣言。

ディーラーがコミュニティーカードをオープンし、第二ラウンドが始まる。

オープンされたカードはクラブのA、2、3。

嫌でも作為的なものを感じる組み合わせだ。

(-@∀@)「レイズ、30ドル」

溢れる自信を隠そうともせず、御曹司は宣言する。

从゚∀从「…フォールド」

ハインのフォールドにより、御曹司の勝利が確定。
ポット内のチップをかき集めると、彼は見せびらかすように手札を捲る。

36 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:36:49.14 ID:INchoogqO
(-@∀@)「今度は僕に勝利の女神がついて来たのかな?」

彼の手札はクラブのJとQ。フラッシュ。
  _
( ゚∀゚)「あーあ…これなら僕も勝負に出るんだったなぁ」

それを見たラテン系男も、悔しそうに手札を開示する。

クラブの5と4。あからさまなストレートフラッシュだ。

(・∠@=)「残念でしたね。お客様は些か慎重過ぎるきらいがあらせられます」

ここぞとばかりにディーラーが口を挟むのに、ラテン系男は渋い顔をして頭をかく。
  _
( ゚∀゚)「うーん、今日はついてないかなぁ。何時もはこんなんじゃ無いんですけどねぇ」

(・∠@=)「ポーカーも女性と同じですよ」
  _
( ゚∀゚)「押しては引いての繰り返し、ってね。ははは!ディーラー、それを僕に言うのかい?」

(・∠@=)「申し訳ありません。差し出がましいことをしてしまいました」

親しげに談笑する中にもディーラーはシャッフルを終え、カードを配り始める。
ディーラーズボタンが御曹司に移り、次のゲームは始まった。
38 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:39:12.22 ID:INchoogqO
御曹司がチェックし、ハインが10ドルでレイズ。それにオレがコールし、ラテン男もコール。
御曹司のコールでラウンドは次へ。

(・∠@=)「ベッド成立ですね」

淡々とコミュニティーカードをオープンしていくディーラー。

スペードの5、ダイヤの3、クラブの5。

御曹司は20ドルでレイズ。
ハインはフォールド、オレもフォールド。
  _
( ゚∀゚)「レイズ」

ラテン男は言葉少なに30ドルをポットに放る。御曹司がそれにコール。

39 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:40:09.31 ID:INchoogqO
(・∠@=)「ベッド成立です」

流れるようにしてディーラーが開示したカードは、スペードの9。

(-@∀@)「チェック」

御曹司は抜かりなくラテン男の出方を窺う。
  _
( ゚∀゚)「レイズ。10ドル」

先にマックスベッドを賭けた勇猛さはどこへやら。
弱気な彼のレイズに、御曹司はここぞとばかりレイズ。

(-@∀@)「20ドル」

それにラテン男は少しの間思案するように眉間を抑えると。
  _
( ゚∀゚)「コール」

(・∠@=)「ベッド成立です」

機械的な口調でディーラーが最終ラウンドを開始する。
42 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:43:49.38 ID:INchoogqO
最後のコミュニティーカードはハートの6。

御曹司のお決まりのチェックに、ラテン男は10ドルでのレイズ。

いよいよラテン男は弱気になってきたのか。

(-@∀@)「レイズ。30ドル」

それを攻め時と見たのか。御曹司はここぞとばかりにマックスベッド。

対するラテン男の方はと言えば。
  _
( ゚∀゚)「コール」

予想に反し、10ドルチップを三枚ポットに放ると応戦の構えを取った。

(・∠@=)「ベッドが成立しました。ショーダウンをお願いします」

ディーラーの無機質な声に、ラテン男と御曹司は同時に手札を捲る。

43 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:44:47.29 ID:INchoogqO
(-@∀@)「ツーペア」

御曹司の手札はクラブの10とダイヤの10。

対するラテン男の手札はハートの5とスペードの2。
  _
( ゚∀゚)「スリーカード」

勝利を得たラテン男は特に何を口にするでもなく、ポットの中のチップをかき集めていく。
勝負が終わったのと同時、ハインから脳核通信が入った。

从゚∀从『さて、それではここで御曹司風の男の手持ちチップを見てみろ』
46 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:47:04.93 ID:INchoogqO
ハインに言われた通り、オレは御曹司のチップへ目を向ける。
オレ達がテーブルについてからこっち、確実とは言えないながらも安定した勝率を保っていた筈の彼。
それとは裏腹に彼のチップは、知らぬ間に1000ドルとちょっとにまで減じていた。

('A`)『……あれ?』

从゚∀从『今度はラテン系の男のチップだ』

パブロフの犬宜しく、オレは視線を移す。
今までのラテン系男の勝負のスタイルを一言で表すのなら、それはまさに「地に足が付いていない」に尽きた。

男同士の勝負は堂々とだとか、勝利の女神がどうのこうのだとか適当な理由で多額のレイズを行い。
かと思えば肝心な勝負所でいきなりフォールドしてみたり。
その度に勝ったり負けたりと、まさに安定さに欠けた戦術だとそう思い眺めていた。

だが。

(;'A`)『……どういう…こった』

彼の手元のチップは、およそ20000ドル。
出資を極端に落とした戦術で進めてきたオレとハインが、それぞれ10000ドル。
何故、彼が一番勝っている?
48 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:50:02.20 ID:INchoogqO
从゚∀从『これで、貴様がギャンブルには向いていないということが分かったな』

(;'A`)『どういうこったよ』

从゚∀从『貴様は、その時その時のゲームの勝敗にばかり目がいっていて、大局が見えてなかったということだ』

(;'A`)『なんかムカつくなそれ……』

从゚∀从『無理も無い。それも皆、彼の心理トリックの賜物だ』

(;'A`)『……は?』

从゚∀从『彼は自らが“負けが込んでいる”ことを印象づける為、負けたゲームの時だけ多弁になっていた。
これ見よがしに自分の負けをアピールして、実のところは誰よりも一番稼いでいる』

('A`)『何でそんなことをする必要が有るんだよ?』

自分で言ってから、オレはふとそれが何かに似ていることに気付いた。

(;'A`)『ちょっと待て。これって、さっきの……』

似ている?違う。同じだ。
静かに、ゆっくりと、だが確実にプレイヤーから搾取する。
真綿のように締め上げ徹底的に搾り尽くす。それがカジノのやり口。

从゚∀从『あぁ。間違いない。彼こそが、メカニックだ』

いよいよ、闇がその形を露わにしてきたようだ。
51 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:51:41.56 ID:INchoogqO
 ※ ※ ※ ※

━━ハインの予言が面白いくらいに的中してから、何ゲームが過ぎただろう。

('A`)「フォールド」

テーブルに座っているのは、オレとハインとラテン男の三人。
あれから御曹司はじりじりとチップを奪われ、それでも気持ちのいい笑顔を残して席を立っていった。
  _
( ゚∀゚)「コール」

ハインの言うとおり、それがカジノ側の思惑に則った当然の流れであるなら、次に狙われるのはオレかハインか。

どちらが狙われるにしろ、このラテン男がメカニックだというのは確定している。

しているのだが。

('A`)『……なぁ、ハイン。まだイカサマの手口はわからないのか?』

ハインがポットからチップをかき集めていくのを眺めながら、オレは何度目になるかわからない質問をする。

从゚∀从『少し黙っていろ。集中出来ない』

彼女とオレは、御曹司が席を立ってからこっちずっとラテン男とディーラーの動きを注視していた。
カードを配る手つき、チップを掴む指先、髪を撫でつける仕草、その全てをゲームの動きと関連付けて考えた。
55 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:53:33.50 ID:INchoogqO
それでも、彼らの動きとカードの絵柄には何の因果関係が見られることは無く、オレ達は悪戯にチップを消費していくだけ。

正直、今ではディーラーやラテン男がイカサマをしていることすら疑わしく思えてきた。
  _
( ゚∀゚)「コール」

(・∠@=)「ベッド成立です。では、ショーダウンをお願いします」

('A`)「……」

幾度目かの溜め息と共に、手札を開示する。ノーハンド。オレの負け。
  _
( ゚∀゚)「またまたやらせて頂きましたぁん♪」

ポット内のチップを鷲掴み、ラテン男は軽快な調子で口笛を吹く。

オレの負けが目立っていた。

ラテン男とディーラーの観察に徹する為、下手に食いつかずにせこせことやって来たオレ。
気付けばチップは徐々にすり減り、この調子で行けばそう遠くない未来にオレは席を立つことになるだろう。

('A`)『なぁ、ハイン……』

从゚∀从『……』

イカサマはまだ見破れないのか。
そう問おうにも、ハインは黙したままにディーラーの手元を見つめているだけで返答する気配も無い。

56 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:56:08.59 ID:INchoogqO
焦燥。

彼らはイカサマを行っている筈。

それなのにその手口がわからない。

最早言葉を発する者は無く、テーブルにはディーラーがカードの山をシャッフルする単調な音が響くばかり。

('A`)「……フォールド」

チップの消耗を抑える為、必然的にオレはブラインドベッドの段階で頻繁にフォールドすることになる。

从゚∀从「レイズ」

あくまでも一般プレイヤーの演技を貫くハインは、ラテン男に一騎打ちを挑む。
アイアンメイデンの演算能力を活用した最適解でもって戦略を立てる彼女。
それでも確率は確率。どれだけ彼女が最低限度の防衛線を張ろうが、ギャンブルに絶対は無い。
ラテン男の一見不安定なベッドは、そんなハインの計算を嘲笑うようにオレ達からチップを掠めとっていく。

ジリ貧。

オレ達が破産するのも、最早時間の問題だ。

(;'A`)『ハイン、まだイカサマは……』

从゚∀从『黙れ』

じれたオレの問いに、鋼鉄の処女は無機質な恫喝でもって答える。
59 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 21:58:35.92 ID:INchoogqO
(#'A`)『……』

苛立ちが募る。

こんなことで、本当にイカサマは見つけられるのか。
いや、本当にイカサマなど存在するのか。

(#'A`)『なぁよ、ハイン。いい加減チップの残りがヤバい。そろそろイカサマを見破ってくれないと……』

从゚∀从『黙れという言葉の意味を知らぬのか。貴様はただ、黙って自分のチップを守りきることだけを考えていればいいのだ』

(#'A`)『その限界が見えてきたからこうして急かしてんだろうが!いい加減イカサマの一つも見破れねぇのかよ!』

一旦吐き出した感情は、巻き戻しが効かない。
オレは怒りの奔流を勢いに任せて彼女に叩きつけていく。

(#'A`)『それとも、本当はイカサマなんてしてねぇんじゃねぇの?君の御自慢のハイレゾカメラでもわからないんだもんなぁ?あ?』

从゚∀从『……』

(#'A`)『もしかすると、メカニックってのも思い過ごしかもよ?ただの被害妄想かもよ?は!だとしたらお笑いぐさだわな!オレは何時間も居もしない敵と戦って……』
62 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 22:01:57.38 ID:INchoogqO
そんなオレの罵詈雑言を、彼女は静かに遮り。

从゚∀从『もう一度だけ言う。黙れ』

冷徹な言葉でもって。

从゚∀从『これ以上貴様が喚くようなら任務に支障有りと判断し、この場から降りてもらう』

最終通告を言い渡した。

(#'A`)『てめ…!』

从゚∀从『今のは警告だ。次は無いぞ』

あくまで淡々と、無感動に、彼女はオレを突き放す。

(#'A`)『……』

今すぐテーブルに拳を叩きつけたい衝動にかられる。

思い通りにならない状況。彼女に抱く初めての“怒り”にも似た感情。

やり場の無いその気持ちを持て余し、オレは歯を食いしばると拳を強く握りしめた。

(・∠@=)「ショーダウン」

そんな合間にも続いていたゲームが、ディーラーの一言でまた一つ終わりを迎える。
機械娘とラテン男が互いに札を出し合い、またもやラテン男がチップをかっさらっていった。
66 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 22:04:53.44 ID:INchoogqO
  _
( ゚∀゚)「……ずっと気になっていたのだが」

ラテン男は勝利の余韻に浸るでもなくオレを振り返る。
  _
( ゚∀゚)「どうも、君はさっきから守りにばかり回っているね」

('A`)「……」
  _
( ゚∀゚)「これでは、ギャンブルをしに来たとは言えないんじゃないかな?」

やかましい。オレだって好きでしてるわけじゃねぇんだよ。
  _
( ゚∀゚)「……それとも、カジノの雰囲気に怖じ気づいてしまったのかな?はは」

ラテン男が苦笑いを浮かべて放ったその一言。
その一言で、オレの中に残っていた最後の忍耐が死んだ。
70 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 22:07:35.05 ID:INchoogqO
('A`)「別に、そんなわけじゃありませんよ」
  _
( ゚∀゚)「これは失敬。…では、どういったおつもりで?」

彼の挑発するような言葉に努めて平素な顔を作り、オレはラテン男に目を向けると。

('A`)「今までは、新参者が出しゃばるのも宜しく無いと遠慮していたまでですよ」

从゚∀从『……おい』

('A`)「丁度良い頃合いですしね。ここから、本気を出させて頂きますよ」

憤りを辛うじて隠し、告げた。
72 : ◆cnH487U/EY :2009/01/13(火) 22:11:06.17 ID:INchoogqO
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( ゚∀゚)「ここから本気を出す…か」

ラテン男は失笑し。
  _
( ゚∀゚)「今まで僕は、そう言って自ら破滅していった男達を何人も見てきている。……君は、彼らと全く同じ雰囲気をお持ちのようだが?」

侮蔑を隠そうともせずに肩をすくめる。

('A`)「それじゃああなたは、これから例外を見ることになる」

从#゚∀从『おい、ドクオ。貴様、自分が何を言っているか……』

脳核回線を切り余計なものを閉め出す。

('A`)「さぁ、ディーラー、カードを配ってくれ」

10ドルチップを握りしめる手に、青い血管の筋が浮いていた。



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