- 180 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
22:49:05.40 ID:O3VOGLgGO
- epilogue
━━悲鳴を上げる貴婦人、怒鳴る警備員、泡を吹く紳士淑女の面々。カジノの有り様はそれはもう酷いものだった。
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( ゚∀゚)y-~「……行っちまいやがりましたねぇ」
オレはそんな戦場のような光景をぼんやりと見つめながら、クールの煙を飲み込む。
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( ゚∀゚)y-~「やっぱり、愛の力は偉大だね。そうは思わないかい?」
ξ゚听)ξ「……」
振り返る、傍ら。隣のレディは仏頂面のまま、リムジンが消えていった出口を睨みつけていた。
ξ゚听)ξ「……何で」
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( ゚∀゚)y-~「ん?」
ξ゚听)ξ「何で、あいつは勝ったの?」
- 185 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
22:50:47.75 ID:O3VOGLgGO
- ポツリと零れた彼女の言葉。それにオレは紫煙を吐き出しながら答える。
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( ゚∀゚)y-~「そりゃあ君、愛の力だよ。愛。うん。実に美しい」
ξ゚听)ξ「……馬鹿らしい」
そっぽを向くレディ。歪んだ顔は、何を思うのか。
ξ゚听)ξ「……私からは…逃げたくせに」
人にドラマ有り。三者三様、それぞれにそれぞれの人生模様。
何が有ったのかは伺い知れぬ。それはまた、別の話。
今は、この素晴らしき活劇の幕を締めくくるにとどめよう。
- 190 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
22:52:19.86 ID:O3VOGLgGO
- _
( ゚∀゚)y-~「さてお嬢さん。本日のゲームはもうおしまいだ。これにて君の退屈な接待のお仕事は終わり、自由の身。
各自荷物を纏め、撤収と行こうじゃないか」
ξ゚听)ξ「言われなくてもさっさと帰らせて貰うわ。上司にこの不祥事の報告もしなきゃいけないしね。また新しいビジネスパートナーを探さなきゃ」
肩を竦め、彼女は席を立つ。
ξ゚听)ξ「あなたはどうするの?こんな大失態、明日までに首の皮が繋がってるとは思えないけど?」
_
( ゚∀゚)y-~「……」
大失態、か。
イカサマの手口を暴かれ、その上カジノはこの有様。
彼女の言うとおり、あのおっかない女上司さんはオレを許しちゃくれないだろう。
_
( ゚∀゚)y-~「でもま、何とかなるだろう」
ξ゚听)ξ「は?」
_
( ゚∀゚)y-~「偶然にもこんなところに50万ドルのチップが落ちている。新生活を始める資金にしては、充分過ぎる」
笑いながら、オレはテーブルの上に散らばったチップの山を顎でさす。
- 203 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
22:57:17.02 ID:O3VOGLgGO
- ξ゚听)ξ「……“シベリア”はそんなに甘く無いんじゃない?」
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( ゚∀゚)y-~「見つかったら、それこそ人間ミートパイでしょうよ」
ξ゚听)ξ「わかってるんじゃない」
_
( ゚∀゚)y-~「それでも、オレは約束しちまったんだ。次こそは真剣勝負しようってな」
オレの言葉にレディは呆れたような顔をすると背を向ける。
ξ゚听)ξ「何で男ってこうも救いようが無いのかしらね」
オレも背を向け歩き出す。
_
( ゚∀゚)「……それに」
チップの山をかき集めながら、誰にともなく零す。
_
( ゚∀゚)「最近、まともにギャンブルもしてねぇしな。久々にデカく張ってみたくなったのよ」
- 205 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
22:58:29.51 ID:O3VOGLgGO
- 漕ぎ出す舟は泥の舟。手札に有るのはノーハンド。
それでも負ける気はしない。負ける気はしないのだ。
_
( ゚∀゚)「この歳で他人に…しかもあんな若造に教えられるとはね」
胸のロケットを開き、彼女を見つめる。
_
( ゚∀゚)「オレにも、お前がついてるからな」
今は亡き、我が幸運の女神。
遠回りして、ようやく気付いたこの気持ち。
- 208 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
23:00:10.56 ID:O3VOGLgGO
- _
( ゚∀゚)「さぁて、出航だ。お客様に乗り遅れた方は居ませんね?」
(゚∠@=)「あぁ…ぅぅ…あぁぇぁ…」
_
( ゚∀゚)「何?お宅も同乗を希望する?しょうがねぇなぁ…船長、空き室は有りますか?」
このちっぽけな世界の中、広がる海は暗黒。
灯台は見えない。船員は二人プラスアルファ。
それでも漕ぎ出す権利が有るならば。
_
( ゚∀゚)「行けるとこまで行きましょうや」
何時の日か、再び陸地に辿り着くことを願って。
今は、一先ずとんずらだ。
- 211 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
23:01:57.00 ID:O3VOGLgGO
- ※ ※ ※ ※
━━流れるイルミネーションの光を眺めながら、ネクタイを緩める。
ポマードで固めたハズの頭は、まさに鳥の巣。
まるで酔いどれ酒場から飛び出してきた、社会の落伍者だな。
('A`)「いやぁ助かったよ。一時はどうなることかと」
从゚∀从「……」
ラウンジ区を疾走するリムジン。
隣でハンドルを握るイブニングドレスの相棒は、お馴染みのポーカーフェイス。
('A`)「…でも、君のおかげでなんとか事なきを得たわけで!やぁやぁ、やっぱり持つべきものは相棒だね!」
从゚∀从「……」
- 215 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
23:03:31.29 ID:O3VOGLgGO
- (;'A`)「あのぅ…やっぱり怒ってる?」
从゚∀从「……何故私が怒ると思う。私は機械だ。感情は無い」
(;'A`)「……そっすね」
やべぇ。やっぱ気まずい。
機械だから感情はねぇとか言うけど、だったらもっとメカっぽい格好しろよ。某通訳ロボみたいなさ。
从゚∀从「……頑張ったな」
('A`)「へ?」
今、何て?
从゚∀从「よく一人であそこまで見破った。貴様にしては上出来だ」
ちょっと待って。止めて。そういう突然のデレとか止めて。嵐の前の静けさみたいですごく怖いじゃない。
- 220 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
23:05:55.22 ID:O3VOGLgGO
- 从゚∀从「どうした?誉めているのだ。嬉しくないのか?」
(;'A`)「いや…その…」
だってさ。あれだけやらかしておいて、そんな誉められるとか…無い無い無い。無いわ。
どうせこの後家に戻ったら殺人的毒舌嗜虐殺界トークだろ?
マジでさぁ…そう言う、「持ち上げてから落とす」みたいなの勘弁して欲しいっすよ。
从゚∀从「それとも、私の指示を聞かずに独断で行動したのを悔いているのか?」
(;'A`)「……本当に申し訳ないことをしました」
从゚∀从「だから何故謝る。別にそれは問題ではない。むしろ、私の立てたプラン通り貴様が動いたことが意外だった」
('A`)「ふぇ?」
思わず萌えボイス。何?計画通り…だと…?
从゚∀从「貴様は常日頃から私にばかり頼る癖がついてる。このままでは、一人で自慰行為も出来ない依存型タンパク質になると思ってな」
('A`)「自慰行為とか乙女が言ったらめっ!」
从゚∀从「些か回りくどい方法ではあったが、貴様のバクテリア並みの自尊心を刺激して単独行動するように仕向けた」
(;'A`)「ちょ、おまっー!?」
- 226 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
23:08:11.82 ID:O3VOGLgGO
- 从゚∀从「言っただろう。私は貴様ら人間以上に人間の心理に精通している。対象が貴様なこともあって、実に容易い計画であった」
(;'A`)「じゃあ、最初からオレは君の手のひらの上で踊ってたのかよ……」
从゚∀从「私が主を見捨てるわけが無かろう」
从゚∀从「逆を返せば、貴様のようなダメ人間でも最後までその側を離れるわけにはいかぬのだ。せめて最小限の自立心だけは持って貰わねば困る」
何てこったい……オレどんだけ孫悟空だよ。つうか今日はお釈迦様大過ぎだろ……。
从゚∀从「いいか、クラミドモナス。私はアイアンメイデンだとは言え、貴様の全てをバックアップ出来るわけではない」
('A`)「……」
从゚∀从「黒狼のような相手を前にすれば、首も跳ねられる。軍用アイアンメイデンの機関砲を受ければ穴も空く。私は決して無敵では無いのだ」
彼女の言葉に、脳裏を苦い走馬灯が駆け巡る。
从゚∀从「修理が出来るとして、電脳核を潰されたらそこまで。それでなくとも、無理な稼働は電脳核の稼働寿命を縮めるのだ」
- 230 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
23:10:46.74 ID:O3VOGLgGO
- 永遠は無い。分かり切ったこととは言え、やはりその言葉にリアリティは感じられない。
彼女が居なくなる。
想像もつかない。いや、想像もしたくないのか。
从゚∀从「……だから、貴様には私が居なくとも立派に一人でやって行けるようになってもらわなければ…」
('A`)「なぁ、ハイン」
从゚∀从「何だ、まだ話の途中……」
('A`)「それって、オレが死ぬのより早いのか?」
从゚∀从「……」
('A`)「君たちは、長期間の護衛用として開発されたんだろう?稼働年数は結構長いんじゃないのか?」
沈黙。長い、長い、沈黙。
- 235 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
23:13:24.83 ID:O3VOGLgGO
- 从゚∀从「……私は」
ポツリ。それを破くようにハインは語る。
从゚∀从「あのスクラップの山で貴様と出逢った時点で、稼働年数の半分を切っていた」
('A`)「……」
从゚∀从「少なく見積もって、後二年。多くても三年が限界だろう」
時に彼女は残酷だ。
慢性的に苦言をていするその毒舌さは、逆に慈悲とすら言える。
機械故の歯に衣着せぬ言葉は、弱いオレの心を今、この瞬間、抉り抜いていった。
- 240 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
23:16:02.44 ID:O3VOGLgGO
- 从゚∀从「それでも、可能な限りは貴様の側に居よう。動かなくなるまで。出来る限り」
それは三原則故にか?
それとも……。
('A`)「……ん?」
遠くで響くサイレンに、オレの思考は中断される。
バックミラーを見れば、そこには黒と白のパトカー。国家権力の厳ついシルエット。
从゚∀从「……言い忘れていた」
('A`)「え?」
从゚∀从「このリムジンは、カジノの駐車場に停めてあったものでな」
('A`)「え?」
从゚∀从「拝借する時に、セキュリティーを外す暇が無かった」
(;'A`)「だから?」
从゚∀从「窓を破って、鍵を開けた」
- 244 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
23:17:48.06 ID:O3VOGLgGO
- ハインの指差す運転席の窓。
風通しのよくなったそこから聞こえてくるのは、拡声器を通した怒鳴り声。
_、_
(#,_ノ` )y━・~『待てぇ〜ルゥパァ〜ン!』
聞き覚えの有る声。増えるサイレンにかき消され。
(;゚A゚)「えっ?えっ?えっ?」
戸惑いに相棒を振り返れば、不敵に微笑む白磁の横顔。
从゚∀从「エアバッグが有る。安心しろ」
(;゚A゚)「えぇぇぇ!?」
- 248 : ◆cnH487U/EY :2009/01/24(土)
23:19:07.00 ID:O3VOGLgGO
- 人の世の、旅路の途中。靄がかった迷い路の向こう側。
そこに何が有るのかはまだ見えないけれど。
(;゚A゚)「お母さあぁぁぁぁあん!!」
今はただ、我が寝床にて安らかなる眠りを願うばかりのオレであった。
-fin-
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