- 4 :
◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:03:36.08 ID:inLLJW+bO
- track-δ
━━ブラックからブルーへ。
どん底から頂上へ。
それは追い風を受けて羽ばたく一羽の荒鷲のように。
逆転劇から快進撃へ。
快進撃から一方的な略奪へ。
('A`)「コール」
(・∠@=)「ショーダウン」
チップをかき集めるべく出す手。オレの勝利。これで通算十五度目となる。
_
( ;゚∀゚)「……むぅ」
ハインとの通信を切ってからこっち、オレの勝利は止まることを知らない。
レイズをすれば向こうがフォールドし、コールをかければオレの役が相手を上回り。
- 7 :
◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:05:25.07 ID:inLLJW+bO
- 特別手札に恵まれている訳では無い。相手の手札が悪いわけでも無い。
“勝利への道が見える”
神懸かり的なこのゲーム展開を表すなら、その一言に尽きた。
('A`)「……いい調子だ」
今までは、勝負所であろうと出費を抑える為に敢えてフォールドして来た。
それをちょっと強気に攻めてみればこの通り。
無理だと思ったら引く。行けると思ったら押す。
何のことは無い。ポーカーに置ける基本的な駆け引きをただ尊守しているだけで、オレはどこまでも勝ち続けることが出来た。
- 9 :
◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:07:02.05 ID:inLLJW+bO
- 从゚∀从「……」
そんなオレの様子を、ハインはただ黙って眺めている。
彼女はまだディーラーとラテン男のイカサマを探しているのだろうか。
そんなことをしていたら日が暮れてしまうのは、目に見えている。
ここに来てイカサマの存在など無いことはもう証明されたも同然だ。
今ならわかる。マダムも御曹司も、ただポーカーという“勝負”の駆け引きに負けただけ。
冷静な判断でもってゲームに望めば、決して負けることは無い。
イカサマを見付けるよりも、ポーカーで正々堂々と戦いカジノからチップを巻き上げる。こうなった以上、そっちの方が依頼遂行への近道となろう。
(・∠@=)「ショーダウン」
ディーラーの声に、オレとラテン男は手札を開く。
_
( ;゚∀゚)「……」
ツーペアとワンペア。またオレの勝ち。
_
( ;゚∀゚)「どうやら、口先だけじゃ無いみたいだな」
数十分前まで軽薄な笑みを浮かべていたラテン男の顔も、今はぐーの音も出ない程に引きつっている。
明らかに余裕が無い。
- 10 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:08:32.65 ID:inLLJW+bO
- ('A`)「……」
ここで彼に向かって気障な台詞を言ってみてもいいだろう。
だがそれを口にした途端、慢心がオレを支配する。
勝負は熱くなったら負けだ。
一つ一つのゲームを丁寧に勝っていく。
今この場に必要とされているのは、それを実現する「集中力」だ。
_
( ゚∀゚)「面白くなって来た。いいね。こういうゲームを僕は望んでいたんだ」
ゲームとゲームの間。ディーラーがシャッフルを始めたのを見計らい、彼はオレを振り仰ぐ。
_
( ゚∀゚)「こんなに楽しい勝負は久し振りだよ。良かったら、君の名前を聞かせて貰えるかい?」
('A`)「ドクオ」
_
( ゚∀゚)「ドクオか。いい名前だ。僕はジョルジュ・アルベルダ・長岡。呼ぶ時はジョルジュでいい」
ラテン男は聞いてもいないのに名乗りを上げると、視線を外す。
_
( ゚∀゚)「これでもベガスでは名の通ったディーラーでね。今日は、久し振りのバカンスということで、物見遊山にここへ遊びに来たのさ」
- 11 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:10:19.35 ID:inLLJW+bO
- 言いながら右手に嵌めた金の指輪を外すジョルジュ。
_
( ゚∀゚)「祖父が日本人なんだが、僕の生まれはシチリアでね。日本に来るのはこれが初めてだ」
('A`)「はぁ」
_
( ゚∀゚)「日本人は真面目で堅実な奴らばかりだと思っていたが……君みたいな食わせものが居るなんてね。興味が湧いたよ」
('A`)「……」
窮地に立たされているというのに、お喋りな男だ。
こちらとしては彼とお喋りを楽しむつもりは無いのだが。
そう思っていると、丁度ディーラーがシャッフルを終えた。
_
( ゚∀゚)「……」
流石に彼もゲームを中断してまで喋るつもりは無いのか、口を噤む。
- 12 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:12:10.62 ID:inLLJW+bO
- 再び訪れる静寂。
右から左へ、カードが一枚ずつ配られていく。
(・∠@=)「ブラインドベッドをどうぞ」
ディーラーズボタンはオレの前。
配られたカードはハートの4とスペードの4。いきなりついてやがる。
('A`)「チェック」
从゚∀从「フォールド」
ハインのフォールドで順番はジョルジュへ。
_
( ゚∀゚)「レイズ」
彼は手堅く10ドルチップを放る。
('A`)「コール」
ベッド成立。ディーラーがコミュニティーカードをオープンした。
- 13 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:13:16.11 ID:inLLJW+bO
- クラブの5、クラブのQ、ダイヤのQ。
勿論オレはチェックする。
_
( ゚∀゚)「……レイズ」
ジョルジュは20ドルでのレイズ。
20ドル。曖昧な数字だ。自信が有るとも見れるし、ブラフにも見える。
('A`)「コール」
彼の真意がどうだろうと、ここは強気で攻めていくべきだ。
(・∠@=)「ベッド成立です」
ディーラーがコミュニティーカードをオープンする。
クラブの9。
('A`)「レイズ」
10ドルチップを三枚掴む。その瞬間、指先にチクりとした感触が走った。
- 15 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:15:07.43 ID:inLLJW+bO
- ('A`)「……?」
静電気か何かか?
_
( ゚∀゚)「コール」
そう思う間も、ジョルジュのベッドが終わり、ゲームは最終ラウンドへ。
ディーラーが無言で開示したカードはスペードの5。
('A`)「……」
思わず舌打ちが出そうになった。
ここに来て揃った役はツーペア。
今まで強気に出ていた分、ここでチェックするのは些かいただけない。
最後のカードを見た途端尻込みするというのは、すなわち「弱い役しか持っていませんよ」と自己申告するようなもの。
- 17 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:16:43.78 ID:inLLJW+bO
- ここで重要なのはジョルジュの真意だ。
彼は手札に自信が有るのか。それともただオレを煽りたいだけなのか。
わからない。わからないが……。
一つだけ言えるのは、ここでチェックしてしまえば奴に主導権を奪われるということだ。
('A`)「レイズ」
10ドルチップを三枚掴み、マックスベッド。
オレの自信を体現するよう、チップをテーブルに力強く置く。
_
( ゚∀゚)「ほぉ…」
その様にジョルジュは面白そうに眉ねを上げた。
- 18 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:18:51.78 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)「さっき、君は本気を出すと言ったね」
('A`)「…?」
_
( ゚∀゚)「だがギャンブルには本気も何も無い。有るのは“その場の運”と“運を引き寄せる決断力”だけだ」
彼はぬらりとした眼差しをこちらへ向け。
_
( ゚∀゚)「さて、勝利の女神を口説けるのはどっちかな?」
10ドルチップを三枚放り、コールした。
(・∠@=)「ベッド成立です。ショーダウンをお願いします」
ディーラーの乾いた声。
ゆっくりと、焦らすようにお互いカードを開く。
- 19 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:20:15.10 ID:inLLJW+bO
- ジョルジュの手札はハートの5とスペードの9。
フルハウス。
('A`)「……」
深呼吸する。
_
( ゚∀゚)「……」
ジョルジュは鷹のような眼光を宿し、オレを見つめている。
面白くなってきた。先に、ジョルジュはそう言った。
面白い。確かにこれは面白くなってきた。
('ー`)「ふふ…ははは……」
_
( ゚∀゚)「ははは……」
笑いが込み上げてくる。
今まではただ、仕事の為だけに勝つゲームだった。
それが今、初めて純粋に“彼に勝ちたい”と思った。
- 22 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:22:50.05 ID:inLLJW+bO
- 任務など、どうでもいい。ただ、彼と。ジョルジュと、“勝負”がしたい。
チップを掴む。ジョルジュの瞳を見つめる。
('A`)「……」
もっと。その一言を口にしようとした矢先だった。
从゚∀从「ねぇ、ディーラーさん。お酒が飲みたいわ。バーはどちらかしら?」
藪から棒にハインが立ち上がった。
(・∠@=)「そこのスロットの列を曲がって右になります」
彼女はディーラーの応対に微笑むと、オレの肩に手をかけ。
从゚∀从「少し休憩しましょ。あなたも付いてきて?」
戸惑うオレに向かって、“最終通告”を放った。
- 23 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:24:36.78 ID:inLLJW+bO
- ※ ※ ※ ※
━━バーカウンターに着いてのハインの第一声はこうだった。
从゚∀从「何を考えている」
('A`)「……」
从゚∀从「何を考えているかと聞いている」
オレはバーテンからモスコミュールの入ったグラスを受け取ると、一口飲み口を開いた。
('A`)「イカサマが見つからないようだったから、作戦を変更しただけだよ」
从゚∀从「作戦を変更だと?ふざけた事を抜かすな。貴様はカジノを相手どって、一昔前のギャンブル映画(ホロ)を再現したいのか?」
彼女はあくまでも無表情にオレを糾弾する。
('A`)「そんなつもりじゃねぇよ。君が何時までもとろとろやってるから、オレは手っ取り早い方法を選んだまでだ。誤解するな」
从゚∀从「イカサマは必ず存在する。確かに私の能力不足は否定しない。だから今全力で探している最中だ。何故それを待てん?」
一転して諭すような口調になったハイン。
オレはモスコミュールを一気に呷ると、彼女を真正面から見据えた。
('A`)「気に食わねぇんだよ」
- 24 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:28:22.09 ID:inLLJW+bO
- 从゚∀从「……は?」
('A`)「“フォールドしろ”、“レイズしろ”、“そこは手を出すな”。うんざりだ」
从゚∀从「何を言うかと思えば…貴様は子供か?」
ぷつりと、オレの中で何かが切れる音がするのを自覚した時には遅かった。
(#'A`)「じゃあ君はオレの母親か?オレだっててめぇの器はわきまえてる。どこでどう判断すればいいかなんて、自分で出来るんだよ!」
怒りに身を任せれば、吐露されたのは典型的な子供の言い訳。
自分でもこんな台詞を吐くのはガキなんだと分かっては居る。
だが、彼女のやり方では何時まで立っても成果は上がりそうもないのだ。
从゚∀从「だから、いちいち口を出すなと。そう言いたいのか?」
(#'A`)「現にオレは今まで勝ってる。そこにイカサマだとか心理操作だとかが介入してる様子もねぇ」
从゚∀从「……」
ハインは立ち上がると、オレを見下ろし。
从゚∀从「ならば、もう何も言わん。貴様の好きなようにするがいい」
お前にはもう呆れた。ほとほと愛想が尽きたとばかりに背を向け、歩き出す。
- 25 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:30:07.63 ID:inLLJW+bO
- ('A`)「あぁ…好きなようにさせてもらうさ……」
彼女の背を見送りながら、こぼす。
胸の中でもやもやした何かが渦巻く。
ごまかす為、モスコミュールを一口飲んだ。
_
( ゚∀゚)「隣、いいかい?」
横合いからかけられた声に振り返ると、ハインと入れ替わるようにしてジョルジュが人混みから現れた。
('A`)「えぇ、構いませんよ」
さっきのやり取りを見られただろうか。だとしたら不味い。
_
( ゚∀゚)「ブラックルシアンを」
そんなオレの心中など知らぬのか。
彼はバーテンへの注文を済ませ、オレを振り返ると悪戯っぽい顔で笑った。
_
( ゚∀゚)「そういえば、彼女はどうしたんだい?」
そう質問してくるということは、先のやり取りは見られていないのだろう。
('A`)「あー……その……」
胸を撫で下ろす一方で、オレは再び胸中のもやもやを彼から突きつけられ、顔を歪める。
_
( ゚∀゚)「何だい、喧嘩でもしたってのかい?」
相変わらずにやけた顔のままで彼は問うと、バーテンから珈琲色の液体が入ったグラスを受け取り口をつけた。
- 26 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:31:59.73 ID:inLLJW+bO
- ('A`)「まぁ、そんなところですかね……」
何と返していいか分からず、言葉を濁す。
_
( ゚∀゚)「ははは。いいねぇ。若者らしいじゃないか」
('A`)「若者らしいって…あなたも、それ程オレと変わらないんじゃないんですか?」
_
( ゚∀゚)「君、幾つだい?」
('A`)「26ですけど……」
_
( ゚∀゚)「ははは!じゃあ僕より一回りも下じゃないか」
('A`)「へ?」
_
( ゚∀゚)「ぼかぁね、こう見えて43なのさ」
おいおいマジかよ。どう見ても20代後半にしか見えねえっての。金持ち女の年齢程当てにならないものは無いというが、男にもそんな奴が居るとは。
- 28 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:33:36.75 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)「で、喧嘩だっけ?何で喧嘩しちゃったの。おじさんに聞かせてくれないかな?」
(;'A`)「え?…いや……その……」
_
( ゚∀゚)「そう身構えないでくれ。カードを握ってる間はお互いにライバルだが、グラスを握ってる間は友人だっていいじゃないか?」
(;'A`)「はぁ……あの、ちょっと意見の食い違いというか…その……」
- 31 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:36:02.93 ID:inLLJW+bO
- 何故だろうか。彼を前にすると、自然と口が動いてしまう。
やはりディーラーの経験が有る人というものは、他人と自然に会話する術を身に付けて居るのだろうか。
_
( ゚∀゚)「意見の食い違いねぇ。一緒に居れば必ずあることだよね」
ジョルジュはにやけ面のままに顎をさする。
_
( ゚∀゚)「そんな時はさ、話し合うよりも頭を下げちゃえば手っ取り早いんじゃあないかな?」
('A`)「いや、でもそれじゃ……」
_
( ゚∀゚)「根本的な解決にはならないって?」
('A`)「はい」
- 32 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:37:29.72 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)「まぁ、確かにそうだよね。完全な思考停止だよ。でもね、これは一種の賭けでもあるんだ」
('A`)「賭け?」
ジョルジュの言わんとすることを計りかねて、オレは首を捻った。
_
( ゚∀゚)「そう、賭けさ。喧嘩する度に君が頭を下げる。それを繰り返してご覧。君のパートナーの価値が見えてくる」
彼はブラックルシアンを呷ると、唄うように言葉を次ぐ。
- 33 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:39:10.58 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)「君が頭を下げ続けることによって、君のパートナーがつけあがるようだったら、その時点でその子はアウト。早めに手を引いて、次の子猫ちゃんを捜すことだ」
_
( ゚∀゚)「でも逆に、君がその子に華を持たせて上げているんだという事に気付く女の子も居る。
そういう子は、自分の間違いを自分で気付ける謙虚な子なんだ」
_
( ゚∀゚)「もし君のパートナーがそういう子だったら、何が何でもその手を離しちゃいけないよ」
('A`)「はぁ……」
実際のところ、この問題は色恋沙汰では無いのだが、ここで口を挟むのも悪いので黙って耳を傾けることにした。
_
( ゚∀゚)「大抵の女の子は、君が頭を下げ続けていればつけあがっちゃうだろうね。それでも、人間っていうのは自分の間違いを他人に指摘されても認めようとしないものさ。だから僕はとやかく言わない」
('A`)「……」
_
( ゚∀゚)「……まぁ、人それぞれと言われたらそこまでだけどね。それでも僕はそうやって今まで女の子と付き合ってきた」
- 36 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:41:15.31 ID:inLLJW+bO
- ('A`)「それって疲れませんか?それに……」
不誠実なんじゃないですか?
喉元まで出かかったその言葉をまるで予想していたとでも言うように、彼は首を振る。
_
( ゚∀゚)「或いは僕も冷たい人間なのかも知れない」
ジョルジュは自重気味に目を伏せると、グラスを傾けた。
_
( ゚∀゚)「でも、男が折れるのはマナーみたいなものだろう?」
それに、と付け加え。
_
( ゚∀゚)「本当に生涯を共にすべきパートナーが見つかった時に、注ぐべき愛が品切れじゃ困るだろう?」
そう言って、肩を竦めた。
- 38 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:43:27.22 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)「まぁ、僕の“愛”なんてものはもうとっくの昔に売り切れてしまったのだけれども。……ところで、煙草を一本くれないかな?」
スーツのポケットを探る彼に、オレはマルボロを取り出し一本渡す。
('A`)「どうぞ」
_
( ゚∀゚)「悪いね……ん?マルボロ、か……」
彼は顔をしかめると、オイルライターを取り出しマルボロに火をつけた。
- 40 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:44:59.66 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)y-~「Men Always Remember Love Because Of
Romance Only」
('A`)「何です、それ?」
_
( ゚∀゚)y-~「“男は真実の愛を見つける為に何時も恋をする”…マルボロの頭文字の由来さ。こじつけだろうがね」
鼻で笑い、彼は煙を吐き出す。
('A`)「……あなたにはぴったりの文句じゃないですか」
オレの皮肉に彼は肩をすくめて、立ち上がると。
_
( ゚∀゚)y-~「ぼかぁまだ一度も“恋”なんてしたことが無いよ」
ズボンのポケットから煙草の箱を取り出し、オレに向かってほうった。
- 42 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:46:33.81 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)y-~「Kiss Only One Lady」
('A`)「は?」
_
( ゚∀゚)「クールの頭文字さ。“キスは一人の女とするもの”。吸うならそれを吸いたまえ。じゃないと、彼女から浮気癖が有るように思われてしまうぞ?」
彼が放って寄越したのはクールのソフトケース。
煙草持ってるのかよ…というオレの脳内ぼやきをよそに、彼はバーテンにチップを渡すと人混みへ歩き出す。
(;'A`)「あ、あの……」
_
( ゚∀゚)「あぁ言い忘れるところだった」
('A`)「はい?」
- 45 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:48:33.75 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)「君との勝負はなかなかに楽しめた。良かったらまた同じテーブルに来てくれ。今度はノーリミットで存分に戦おう」
(;'A`)「ノ、ノーリミット……」
ノーリミット。
マキシマムベッドに制限が無い形式のゲーム。
どこまでもレイズが可能になることで、その配当金はまさに天井知らずとなる。
当然、一回のレイズの単位も跳ね上がるのでゲームに参加するだけでも多額のチップを消費することとなる。
ハイリスク・ハイリターンのゲームだ。
(;'A`)「……」
だが、これは逆にチャンスでは無いのか?
勝負所を丁寧に見極めてベッドを吊り上げていけば、それこそ一回の勝負でカジノを潰すことすら可能だ。
_
( ゚∀゚)「どうする?受けるかどうかは君の自由だ。僕は強制しない。……ただ、君なら受けてくれる…そう思ったから、聞いただけさ」
オレは目を閉じ、大きく息を吸うと再び目を開く。
('A`)「わかりました。受けて立ちましょう」
_
( ゚∀゚)「……そうか」
オレの言葉にジョルジュは一瞬目を伏せる。
が、次の瞬間にはシニカルな笑みを浮かべてこちらを見据えた。
- 48 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:51:05.74 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)「君ならそう言ってくれると思ったよ。……ただし、一度カードを握ればまた僕らはライバル同士。何があっても恨みっこ無しだ」
それにオレは同じような笑みを浮かべて返す。
('ー`)「望むところですよ」
任務達成も重要だが、オレはこのジョルジュという男に興味がわいていた。
もっと彼を知りたい。もっと彼と勝負がしたい。この勝負を受けたのも、そういった理由が少なからずあったからだろう。
_
( ゚∀゚)「それじゃあ先のテーブルで待ってるよ。……それと最後に一つ」
- 53 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:54:12.56 ID:inLLJW+bO
- 彼はオレ背を向け。
_
( ゚∀゚)「……愛は“砂”のようなものだ。掴んでいると思っていても、気付かないうちに手をすり抜けている」
_
( ゚∀゚)「彼女とは、早く仲直りした方がいい。少なくとも、ゲームが始まる前に…な」
ぽつりと、呟く。
('A`)「……」
カジノの喧騒に消えていく彼の背中。
それを見送りながら、オレは自分の気持ちの行方を探して途方に暮れていた。
- 56 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:56:10.07 ID:inLLJW+bO
- ※ ※ ※ ※
━━目を閉じる。喉を通るつんとしたメンソールの刺激が、微かな酩酊感を誘った。
_
( ゚∀゚)y-~「Kiss Only One Ladyなんてよく言ったもんだな……」
他人に説教をするなど、何年振りだろうか。
夢を見て、ベガスに渡ってから数十年。
カジノを渡り歩き、ポーカーと出会い、無我夢中で駆け抜けた青春。負けることなど知らなかった栄光の日々。
どこまでも行けると思っていた。カードを握れば、好きなだけ勝てると思っていた。
- 58 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:57:47.11 ID:inLLJW+bO
- だが、社会がそれを許さなかった。
勝ちすぎれば、カジノに目を付けられる。今思えば、それは当然のことだった。
社会は実にバランス良く出来ている。
みんな平等に。一部の生意気なガキだけが儲けるのを、社会は許さない。
ある日、引き立てられるようにして連れ込まれたカジノの裏口。
ありもしないイカサマをでっち上げられ、叩きのめされたあの瞬間。
オレの中で世界は音を立てて崩れ、後に残ったのはどうしようもない無力感だけ。
- 60 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
21:59:47.12 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)「……」
気付けば“シベリア”なんていう物騒な連中に雇われ、カジノの収益の為に下らないメカニックをやらされて。
_
( ゚ -゚)「似てる…のかもな」
ドクオ。
カジノのいろはも知らないズブの素人にして、オレと対等な立場でやり合った男。
そんな彼に昔の自分を重ねているのか。
_
( ゚∀゚)「ははは…随分とオレも感傷的になったもんだ」
思わず出た苦笑。
遮るようにして、脳核通信のコール。
ノ从パ-ナル『例のお坊ちゃんはどうなったかしら?』
網膜に映し出された我が飼い主の傷顔に、オレは内心で舌を打つ。
- 61 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
22:00:48.50 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)『これはこれはミス・パーナル、ご機嫌麗しゅう』
ノ从パ-ナル『残念ながらご機嫌は麗しくないわ。“どうなったかしら”と私は聞いているの』
オレのおべっかにも彼女は頬一つ緩めず先を急ぐ。可愛げが無いことで。
_
( ゚∀゚)『順調ですよ。いい感じに勝負にのめり込んでます。今さっきノーリミットのゲームに引き込んだところです』
- 65 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
22:02:26.87 ID:inLLJW+bO
- ノ从パ-ナル『そう。それじゃあ速いうちに潰してちょうだい。人様の庭を嗅ぎ回るような躾のなってない野良犬は、見ていて気分のいいものじゃないわ』
_
( ゚∀゚)『じゃあさしずめ僕は保健所の職員ってところですかね。それならあなたは判子を押すだけの上司だ』
ノ从パーナル『流石はイタ公ね。面白いぐらいによく回る口だこと。あなたも躾が必要かしら?』
_
( ゚∀゚)『これは失敬。冗談も許されない職場だったとは思いませんで』
ノ从パーナル『嫌いじゃないわ。ただ、今はするべきことだけを考えろってことよ、色男(ロメオ)。
じゃないとスペインとイタリアのハイブリッドな好色の家系が、あなたの代で途絶えることになるわ』
- 67 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
22:04:49.94 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)『イエスサー、重々承知』
冗談めかして敬礼するオレ。
ビッグボスは最後まで聞かずに回線を切る。
全く、どいつもこいつもオレを色ボケ扱いしやがって。
_
( ゚∀゚)「ふぅ……」
オレはわざとらしく溜め息をついた。
_
( ゚∀゚)「……夢のない世の中だな。全く」
はだけたワイシャツの胸元から、古ぼけたロケットを取り出し開く。
_
( ゚∀゚)「お前さんも、そう思うだろう?」
そこに映った“彼女”は、あの時のままに寂しげに笑っていた。
- 69 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
22:06:32.21 ID:inLLJW+bO
- ※ ※ ※ ※
━━モスコミュールに少し火照った体で人混みを掻き分けていく。
アルコールは身を温めこそすれ、頭は驚くほどに冷静な自分が居た。
('A`)「いいぞ…へへっ…近年稀に見る絶好調だぜ」
足取りも軽やかに元居た席へと着く。
(・∠@=)「お帰りなさいませ。他の方が集まるまでしばらくお待ち下さい」
オレの顔を認めたディーラーは、カードの山をシャッフルしながら言う。
テーブルにはオレの他には彼一人だけ。
- 71 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
22:08:47.97 ID:inLLJW+bO
- ('A`)「……ハイン」
首を巡らせ、周りに彼女の姿は無いかと探す。
狐の襟巻をした婦人、タキシード姿のナイスミドル。
仏頂面で毒を吐く少女の背中は、どこにも見当たらない。
('A`)「……」
溜め息が漏れる。
何を今更。
彼女は勝手にしろとオレに言った。
ならば彼女がここに居る道理は無く、もとよりオレは彼女に頼る積もりなど毛頭無い。
そうじゃなかったか?
('A`)「……そうだろうがよ」
目を閉じ、集中する。
今必要なのは、研ぎ澄まされた集中力。勝負に雑念は禁物だ。
- 73 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
22:10:37.04 ID:inLLJW+bO
- (-A-)「……余計なことは考えるな…余計なことは……」
自分に言い聞かせるよう、囁く。
「やぁ、待たせたね」
聞き覚えの有る声に目を開ける。
_
( ゚∀゚)「彼女を迎えに行っていて、少し遅れたよ」
何時もの人懐っこい笑顔で右端の席に着こうとするジョルジュ。
('A`)「いえ、別に待っ……」
オレは彼へと言葉を返そうとし、それを失った。
- 75 : ◆cnH487U/EY :2009/01/17(土)
22:12:17.89 ID:inLLJW+bO
- _
( ゚∀゚)「おいおい、あまり引っ付かないでおくれ」
苦笑混じりにジョルジュは、自らの左腕に絡められた白い腕をやんわりとほどく。
それに対して“彼女”は拗ねたような顔をすると、ジョルジュの椅子の背もたれにしなだれかかった。
(;'A`)「ぁ……っ…ぇ……」
跳ね上がる心臓。首筋にうっすらと滲む脂汗。釘付けになる視線。
それを読み取ったのか、ジョルジュは自らの背に立つ彼女を振り返る。
_
( ゚∀゚)「どうだい、君もやってみるかい?」
ジョルジュの言葉に、彼女は。
「……いいえ」
薄い唇を蛇のように開き。
ξ゚ー゚)ξ「私は、見ているだけにするわ」
獲物を前にした蛇の如く微笑んだ。
next track coming soon...
戻る