7 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:19:16.41 ID:y/pv5VUHO
〜track-β〜

━━圧倒。最初にそれがあった。

(;'A`)「ワァオ…イッツァゴージャス……」

次いで、気後れが来た。

从゚∀从「ふむ。ラウンジ区に居を構えるだけはあるな。表向きはV.I.P.向けの娯楽施設を気取っているというわけか」

大理石の床、象牙の柱。ルーレットテーブル、カードテーブル、そしてスロットマシンの列。それらが広大なホールの中を座巻している。

さもありなんとした顔で思い思いに享楽に耽る人々は、誰もが煌びやかな衣装。

スロットマシンの回転音。チップのやり取りで生じるジャラジャラとした音。

そこでは、喧騒さえもが優雅さを持つことを許されている。

カジノ“ルサールカ”。

金。オレにはそこにある何もかも全てが黄金に見えた。

从゚∀从「先ずは、カウンターで資金をチップに替えるぞ」

ブルジョワワールドを目の当たりにし、茫然自失となったオレの隣。
黒のイブニングドレスに身を包んだハインが、こちらを振り返りもせずに言う。

8 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:20:50.97 ID:y/pv5VUHO
('A`)「……」

从゚∀从「…どうした、出来損ないのゆで卵みたいな顔をして」

('A`)「……いや、その、似合ってるなぁと思って」

怪訝な顔をする毒舌レディを、顎で示す。
夜のような黒のイブニングドレスは、背中が空いた大胆なデザイン。
同色の手袋が肘までを覆い、露出した肩の上ではアップにした銀髪が落ち着いた輝きを放っている。

何時ものゴスロリワンピースに見慣れたオレからすれば、彼女が衣装一つで突然大人の女の色香を漂わせるようになったことに、驚きを隠せなかった。

('A`)「凄く…エレガントです」

从゚∀从「そうか。貴様も、わりかし似合っているぞ」

そう言って、彼女は仏頂面のままにオレの体を睥睨する。
黒のスーツに蝶ネクタイ、ポマードでオールバックにしたオレ・ザ・フォーマル。
カジノへの潜入任務ということで、オレ達はワタナベから貰った軍資金を使い、それらしい服を用意したわけだが……。

9 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:22:27.91 ID:y/pv5VUHO
从゚∀从「そうしてると、幾分かましに見えるから不思議だ。ふむ。……見れなくは…無いぞ。大企業のボンクラ跡取り息子という設定の通りだ」

(#゚A゚)φ「どっからどう見ても紳士だろうがバーカ!アイ・アム・ア・ジェントルマン!ディス・イズ・ア・ペン!」

从゚∀从「落ち着け、インスタント紳士。もっとそれらしく振る舞うのだ。先ずはその万年筆をしまうことから始めろ」

そうこうしてる間に、カウンターまでやって来たオレ達。

川 'ゝ`)「今晩は、ミスターアンドミセス。今宵は“ルサールカ”におこし頂き、誠に有難うございます」

蝶ネクタイにベロアのベストを着たロシア人のレセプトが、カウンター越しにオレ達へ微笑みかけてくる。

(;'A`)「グググググーテンタタタターク」

川 'ゝ`)「…?日本語で結構ですよ」

(;'A`)「こ、これは失敬。つつつい癖でね」

从゚∀从「……落ち着け」

川 'ゝ`)「それで、何かご用ですかな?」

レセプトの胡散臭そうな目に、オレは慌ててこの日の為に買った(やはり例の軍資金で)鰐革の財布を取り出すと、そこから一枚のカードを抜きカウンターに置いた。
11 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:24:27.41 ID:y/pv5VUHO
川 'ゝ`)「……?」

(;'A`)「こ、ここに入ってる分だけチップに从゚∀从「50万ドル分をチップにして貰いたい」

川 'ゝ`)「?……かしこまりました」

怪訝な顔でレセプトがカードを受け取り、奥へと下がるのを見届けると、ハインがオレを振り返った。

从゚∀从「いきなり全額チップに還元する馬鹿がどこにいる」

(;'A`)「え?ダメなの?」

从゚∀从「1000万ドルものチップを抱えていたら、目に付くであろう。今回の我々の任務を思い出せ。出来るだけ目立たぬようにするのだ」

12 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:25:07.47 ID:y/pv5VUHO
(;'A`)「……はい、すんません」

从゚∀从「素直で宜しい。ハッカキャンディをやろう」

(*'A`)「わぁい☆」

お母さんに褒められたぞ!やったね!

川 'ゝ`)「お待たせしました。こちらがチップになります」

奥から戻って来たレセプトから、チップの入った籠とカードを受け取ると、オレは襟元を正す。

川 'ゝ`)「ごゆっくりどうぞ」

慇懃に頭を下げるレセプト。

(*'μ`)「うむ。それでは行こうか、ハイン君」

从゚∀从「……」

ハッカキャンディが、口の中でころころと音を立てた。
14 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:26:54.37 ID:y/pv5VUHO
 ※ ※ ※ ※

━━テキサス・ホールデム。

二枚の手札と、ディーラーの出す五枚の共有カード(コミュニティカード)から役を作りその優劣を競い合う、フロップゲーム・ポーカーの中でもポピュラーな部類に入るポーカー。

今、オレ達はそのテキサス・ホールデムのテーブルにつこうとしていた。

(;'A`)「ディーラー、これから二人参加したいと思うんだけど、大丈夫かね?」

緑色のカーペットが敷かれたポーカーテーブル。
既に三人の客がついた勝負の場。
ゲームとゲームの間を狙って、オレはディーラーの背中へと声をかけた。

(・∠@=)「えぇ、構いませんよ。どうぞ空いている席へとおかけ下さい」

にこやかな笑みを浮かべるディーラーにぎこちない微笑みを返し、オレは一番左端の席へと腰を下ろす。
次いで、ハインがその右隣に座わった。

('、`*川「あら、お若い方達が増えましたのね。嬉しいわぁ」

オレ達の着席を見越して、オレの二つ右隣に座ったいかにも金持ちのマダムといった出で立ちの女が声を上げる。
16 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:29:09.49 ID:y/pv5VUHO
(;'A`)「あ、はは…」

(-@∀@)「お二人は恋人同士かな?」

それにマダムの右隣に座った、御曹司然とした男が口を挟む。

(;'A`)「えっと…あぁ…っと」

アップタウンの有閑貴族達の雰囲気についていけず戸惑う、卑しい生まれのオレ。

从゚∀从「えぇ、そんなところです」

('、`*川「あらぁ、それはちょっと残念だわぁ。お兄さん、私好みだったのに」

(;'A`)「は、はは……」

機械化淑女の助け舟に救われ、何とか事なきを得た。

从゚∀从『……落ち着け。とにかく、今はこのカジノの雰囲気に慣れろ』

(;'A`)『おk 努力する』

从゚∀从『取りあえず、最初の五ゲームは貴様は様子見に集中していろ。下手なことはするな。呑まれたらそれまでだ』

彼女は脳核通信でオレに指示を出しながら、テーブルの一同に上品な笑みでもって挨拶を済ませていく。
流石アイアンメイデン。順応性が高い。

从゚∀从『今回重要なのは、出来るだけ長い時間この椅子に座り続けるのが目的だ。いいな?』

17 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:31:02.74 ID:y/pv5VUHO
オレはワタナベの言葉を思い出す。

“カジノを潰すのに一番手っ取り早い方法はね……イカサマを見付けることだよ”

イカサマ。

そう一口に言ってもその手口は千差万別、様々だ。
一人で出来るもの、共謀者あってのもの、エトセトラ。
その中から、カジノ側…つまりディーラーがするイカサマを見付けるのがオレ達の仕事だ。

イカサマに関する賭博法の取締は厳しい。
客がイカサマを行っているのがバレた場合は、入場禁止処分やその他諸々の罰金程度で済むがカジノ側のイカサマはそうはいかない。
イカサマの発覚と同時に営業停止処分が下されるのだ。

そんな訳で、昨今のカジノではカジノ側がイカサマをするというケースは極めて少ない。

だが渡辺グループの調査によれば、この“ルサールカ”では未だにカジノ側のイカサマが行われているという。

監査委員会の厳しいチェックの目を逃れて、ルサールカがどうイカサマをしているのかはわからない。が。

“将軍のお膝元でイカサマだなんて、私達を馬鹿にしているとしか思えないよね”
19 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:32:37.69 ID:y/pv5VUHO
“誰がこの街で一番偉いのか、分からせてあげて”

('A`)「……どいつもこいつも女王様ぶりやがってよ」

思わず、そんなぼやきが出てしまう。

「あはは、何を言っているのさ。レディはみんな女王様だよ、君」

横合いからの声に振り向く。
  _
( ゚∀゚)「男はさしずめ執事といったところかな。我々は彼女たちの我が儘を聞いてあげる義務があるのさ」

声の主はテーブルの右端。
白いスーツに身を包んだ彼の浅黒い顔はラテン系。年の頃は二十代後半か。
くすんだ金髪に甘いマスクと緩んだ口の端が、この男の軽薄さを存分に表現していた。

(;'A`)「…いやぁ、それだけの甲斐性があればいいんですけどね」

从゚∀从「そうね。あなたは懐が狭いんだから、もう少し背伸びしてもいいんじゃないかしら?」

ぎこちなく肩を竦めるオレに、機械化淑女は意地悪そうに目を細める。
  _
( ゚∀゚)「ははは、なかなか手厳しい女王陛下だ。君も大変だろう?」

(;'A`)「え、えぇまぁ……」

マダム方にウケの良さそうなラテン系の男の笑顔とは対象的に、オレは愛想笑い。
21 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:34:35.52 ID:y/pv5VUHO
(・∠@=)「それでは、新しくお二方を加わったところで、ゲームを始めるとしましょうか」

片眼鏡(モノクル)のディーラーが穏やかな笑みで、ゲームの開始を告げる。
  _
( ゚∀゚)「皆さん、どうぞお手柔らかに」

オレは無意識に生唾を飲み込んでいた。
24 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:36:06.07 ID:y/pv5VUHO
 ※ ※ ※ ※

━━シャッフル、シャッフル、シャッフル。まるでそれはカードの舞い。

(;'A`)「おぉ……」

本場のディーラーのカードさばきを初めて生で見たオレは、阿呆みたいに口を開け片眼鏡の手元に見入っていた。

('、`*川「あら、あなたもしかしてカジノは初めてかしら?」

そんなオレの様子に、有閑マダムがこちらを振り返る。

(;'A`)「えっと…あぁと……」

从゚∀从『ここは正直に答えておけ。玄人を気取ったところで、どのみち貴様では直ぐにボロが出る。
それなら初めから初心者宣告をしておいた方が、貴様にとっても楽であろう』

ハインの指示に従い、オレはマダムへと頷き返し。

(;'A`)「えぇ、そうなんですよ。こんな大きいカジノは今日が初めてでして……」

从゚∀从『“御先達である皆様の技を盗ませて頂ければ、なぁんて思っておるのですがね”と言え』

これまた与えられた指示通り、オレは口を開くと。

(;'A`)「御先達の技を盗ませて頂ければ、なぁんて思っておるのですがね……ははは」

心にもないことを口にする。

25 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:38:16.51 ID:y/pv5VUHO
(-@∀@)「ややや、初めてですか」

御曹司が嬉しそうな顔で、割り込んで来る。

(-@∀@)「それならば、我々も少し手加減した方が宜しいかな?」

('、`*川「良かったら、私が手取り足取り教えて差し上げましょうか?」

有閑マダムと御曹司は、顔を見合わせ金持ちチックに笑った。
  _
( ゚∀゚)「いやいや、流石にそれでは彼の格好がつかんでしょう。男ってのは恋人の前では格好付けたいもの何です。そうでしょう?」

(;'A`)「は、ははは……」

そんなやり取りにオレが引きつった笑いを浮かべているうち、ディーラーはカードを配り始める。

右から左へ一枚ずつ、二周。オレの手元に合計二枚のカードが配られた。

ちらりと見る。ハートの3と、スペードの3。

(・∠@=)「それではそちらのお客様から、ブラインドベッドをどうぞ」

ディーラーが、有閑マダムの前にディーラーズボタンを置く。

26 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:40:02.00 ID:y/pv5VUHO
ブラインドベッド。
今配られた二枚の手札だけから判断して、今回のゲームに参加するかどうかを決める、いわば参加費のようなもの。

ブラインドベッドは、先にディーラーがマダムの前に置いたディーラーズボタンが回ってきたプレイヤーから、順に時計回りで行われる。

('、`*川「チェック」

当然のごとく宣言するマダム。

チェックとは、そのゲームでディーラーズボタンを所持するプレイヤーだけが選べる選択肢だ。

これはつまり、ベッド額を保留するという意味で、彼女はこれから全てのプレイヤーがブラインドベッドを行った後に、このゲームから降りるか乗るかを決めることとなる。

手札二枚しか判断材料が無いブラインドベッドでは、定石と言えよう。

从゚∀从「レイズ」

ブラインドベッドの順番が回ってきたハインが、10ドルチップを一枚掴んでテーブルの真ん中━━ポット━━に置く。

このテーブルのレートは変動制で、現在の最低ベッド額(ミニマム)は10ドル、最高ベッド額(マキシマム)が30ドルと平均的なレートだ。
28 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:44:49.44 ID:y/pv5VUHO
ハインが10ドルでレイズしたということは、カス札では無いということか。

いや、オレ達の任務を考えるとゲームの場に溶け込む演技とも取れる。

(・∠@=)「お客様、お次はあなたです」

ディーラーの声に我にかえる。
ブラインドベッドの順番が回ってきていたようだ。

('A`)「んーむ……」

オレの手札はスペードの3とハートの3。

スリーカードやフルハウスまで幅広い役を狙えるいい手札だ。

从゚∀从『貴様の手札を教えろ』

('A`)『スペードの3とハートの3だよ』

29 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:45:58.55 ID:y/pv5VUHO
基本に則って10ドルでのコールか、少し冒険して20ドルでのレイズか。はたまた30ドルでいきなりマキシマムのレイズか。
少なくとも、フォールドする手では無い。

だが。

从゚∀从『フォールドしろ』

ハインの指示は違った。

(;'A`)『はぁ?』

オレは思わず現実の口を開きそうになる。

从゚∀从『今回はあくまでイカサマを見破るのが任務だ。積極的に勝負に加わらずとも良い』

(;'A`)『いや、でもそんな事言ってると……』
33 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:51:22.53 ID:y/pv5VUHO
(・∠@=)「では、コミュニティーカードをオープンしてみましょう」

ディーラーがオレの方を見ながら、山札から順に三枚のカードを、場に開いた状態で置いていく。

ディーラーが出したこの三枚のカードはコミュニティーカードと呼ばれ、オレ達プレイヤーは最終的に五枚まで引かれるこれらと、自分の二枚の手札とを合わせて、役を作っていくことになる。

オレ達パンピーがよく遊ぶポーカーは、プレイヤーから見えている札が一つも存在しないことから、ブラインドポーカーと呼ばれる。
勝負の判断材料が極端に少ないブラインドポーカーと違い、テキサス・ホールデムはこのコミュニティーカードがある分、より戦略性の高いゲームであると言えよう。

(・∠@=)「ベッドをどうぞ」

(;'A`)「!」

ディーラーの出したカードはスペードの7、クラブの3、ダイヤの7。

もしオレがフォールドしていなかったら、フルハウスが出来ていたところだ。
あまりの悔しさにはらわたが煮えくり返る。

('、`*川「チェック」

マダムは即座にチェック。手堅く様子見。
36 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:53:45.94 ID:y/pv5VUHO
从゚∀从「レイズ」

ハインは再び10ドルでのレイズ。任務に忠実な選択だ。
  _
( ゚∀゚)「それじゃあ…レイズしようか」

ラテン系男は場を挑発するように笑い、10ドルチップを二枚ポットに置く。

(-@∀@)「フォールド」

御曹司は早々にリタイア。

( '、`* 川「コール」

蠱惑的に笑い、マダムはこちらを見る。だからその視線は何だ!

从゚∀从「……コール」

ハインが無表情でしたその宣言で、ベッドが成立。第三ラウンドが始まる。

ディーラーが開示したカードはダイヤの8。

37 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:55:19.23 ID:y/pv5VUHO
('、`*川「…レイズ」

ここでマダムが初めてチェックの姿勢を崩した。
10ドルチップを三枚掴むと、彼女は優雅な仕草でもってポットに置く。
あと一枚、コミュニティーカードの開示が残っているのにマックスベッドとは、いい札が回ってきたのだろうか?

从゚∀从「コール」

淀みなく宣言するハイン。オレには黙っていろと言った割に、自分は随分と大胆なことをする。
  _
( ゚∀゚)「コール」

残された選択肢はコールかフォールドか。ラテン系の男は、勝負に出た。
40 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/06(火) 23:57:18.52 ID:y/pv5VUHO
  _
( ゚∀゚)「女性陣が勇敢に戦っているんだ。僕だけ逃げる訳にはいくまい?」

そう言って奴はオレの方を見る。嫌みな奴だ。

(・∠@=)「ベッドが成立しましたね。それでは、最後のラウンドです」

ディーラーが重々しく五枚目のコミュニティーカードを開く。

クラブの9。マダムが満面の笑みを浮かべた。

('、`*川「レイズ」

躊躇うことなく彼女は30ドルをポットに入れる。
本当に強い札が来たのだとしてもここはチェックして、他のプレイヤーに少しでも多くチップを出させた方がいいのではないか。

从゚∀从「コール」

(;'A`)『っておまっ!』

何を考えているんですかハインさん!

从゚∀从『なんだ。ゲーム中に無闇に通信を行うな。怪しまれる』

(;'A`)『どう見てもマダムのあの自信はブラフじゃないだろうが!つうか見た感じブラフとか出来そうに無いしな!』

从゚∀从『何も考えなしにコールした訳では無い。貴様と違って私は意味の無い行動はとらぬ。少し黙っていろ』

(;'A`)『本当かよ……』
42 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/07(水) 00:00:18.56 ID:Xt20x2ObO
納得がいかないが、とりあえずオレは場に目を戻す。

コミュニティーカードはスペードの7、クラブの3、ハートの7、ダイヤの8、クラブの9。

あのマダムの自信に溢れた顔からして、予想出来る役はフルハウスかストレートといったところか。
  _
( ゚∀゚)「お二人共、なかなかお熱いですね。それじゃあ僕が水を差す訳にはいかないかな」

ラテン系の男は大袈裟に肩を竦め。
  _
( ゚∀゚)「フォールド」

全員の宣告が終わったのを見てとり、ディーラーは。

(・∠@=)「……さて、それではショーダウンですね」

勝負の合図を出した。

43 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/07(水) 00:00:46.25 ID:Xt20x2ObO
先ずはマダムがゆっくりと自分の手札に指を這わせ、勿体ぶるようにして一枚を捲り。

('、`*川「ストレート!」

自慢気にもう一枚を開いた。

彼女の下にはクラブの6とハートの5。宣言通り、ストレートの完成だ。

从゚∀从「……」

(・∠@=)「お客様もショーダウンをお願いします」

ディーラーに促され、ハインは自らの手札にのろのろと手をかける。

从゚へ从「……」

苦い表情を作って彼女が開いたカードは、スペードの4とクラブのエース。
45 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/07(水) 00:03:39.48 ID:Xt20x2ObO
(;'A`)『ブタかよ!』

思わず脳核回線を開くオレ。

(・∠@=)「ノーハンド…ですね」

淡々と事実を告げるディーラー。

(-@∀@)「おやおや、これは……」
  _
( ゚∀゚)「なかなか肝っ玉の座ったお嬢さんだ」

苦笑する一同。
  _,
从 ゚へ从「……いけると思ったんだけど」

そんな中、ハインは悔しそうな顔でじっと自分の手札を見つめていた。

(#'A`)『いけるわけがあるか!一体君は何を考えてるんだよ!』

我慢出来ずに、オレは脳核通信で彼女へ怒鳴る。

46 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/07(水) 00:05:53.20 ID:Xt20x2ObO
从゚∀从『これでいいのだ。これで、彼らは私を完全な素人として見る』

それに彼女は平然とした態度で返す。

(;'A`)『はぁ?』

从゚∀从『そこで貴様が手札を開いて私にアドバイスをすれば、“落ち着いた青年と強気なその恋人”が完成する』

なるほど、と。そう思わざるを得なかった。

役作り。

オレが良い手札を持っていたのに早々にフォールドしたのも。

彼女がノーハンドでどこまでもブラフを通そうとしたのも。

全ては役作りの為だったというわけだ。
48 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/07(水) 00:08:42.75 ID:Xt20x2ObO
そういうことなら任せろ。演技力には自信がある。

('A`)「いやいや、流石にこれは無謀だよ。君が強気なのは分かるけど、ブラフは相手を見なきゃ」
 _,
从゚へ从「でも、ビギナーズラックって言葉も有るわよ?」

('A`)「あれはオカルト。ギャンブルの神様はそんなに易しくないんだよ」

从゚へ从「じゃああなたのカードは?」

筋書き通り、オレは手札を開く。
一同が惜しいとばかりにざわめく。

('A`)「フルハウス。君も僕を見習えってわけじゃないけど……」
  _,
从#゚へ从「あなたがカードを渡してくれてたら私勝てたのに!」

どっ、と周囲に笑いが巻き起こった。

49 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/07(水) 00:10:26.95 ID:Xt20x2ObO
(-@∀@)「ははは、いやぁ面白いことを仰るお嬢さんだ。私も彼女みたいに果敢に攻めるべきだったかな」

御曹司が笑いながら手札を見せる。ダイヤのKとスペードの5。彼もまた、ノーハンドだ。

(^、^*川「可愛い子ね。あなた、昔の私みたいよ」

マダムはハインのことが気に入ったのか、娘を見るような目でハインに笑いかけている。

些か高くついたが、これで彼らのオレ達を見る目は甘くなったろう。こうなると任務も遣りやすい。

50 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/07(水) 00:13:13.90 ID:Xt20x2ObO
<(;'A`)「本当に申し訳ない…彼女、実はあまりルールを理解出来てないみたいで……」

从゚∀从「あなたの教え方が下手なだけでしょ?」

ハインとオレの間の抜けたやり取りに再び笑いが起こる。
それを見ていたラテン系の男が、苦笑を浮かべながら自らもその中へ加わろうと口を開いた。
  _
( ゚∀゚)「いやぁ、君と僕は似た者同士なのかな」

彼はオレを見ながら、手札を捲る。

(;'A`)「なっ…?」

瞬間、目を疑った。
  _
( ゚∀゚)「勝負所を見誤ってしまう点が、共通してると思うんだ」

示された二枚のカードはダイヤの7とクラブの7。

7のフォーカード。
52 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/07(水) 00:15:42.31 ID:Xt20x2ObO
フォールドしていなければ、先の場では最強のカードだ。

場がざわめく。

勝負所を見誤った?

そんな訳が無い。

彼は初めの三枚のコミュニティーカードがオープンされた時点で、既に勝利が約束されていたようなものだ。

それを、あそこまで競っておきながら何故フォールドしたのか。
55 名前: ◆cnH487U/EY :2009/01/07(水) 00:18:47.02 ID:Xt20x2ObO
  _
( ゚∀゚)「何故か知らないけど、どうしても女性にだけは頭が上がらなくてね。業かな。参ったものだよ」

冗談めかして彼は言う。

その言葉のどこまでが本気なのか。

(;'A`)「……」

計りかねるオレの耳に、

(・∠@=)「それでは、次のゲームに移りましょうか」

ディーラーの淡々とした声が不気味に響いた。



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