9 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:22:08.74 ID:DDrAlZ+kO
〜track-α〜

━━ブルーからブラックへ。晴天から曇天へ。
人生、何時道を踏み外すかわからない。
落とし穴はそこかしこに空いていて、オレ達は目隠しをしてその穴ぼこ地帯を歩かされているようなものだ。

(;'A`)「ぐぐぐぐ……」

从゚∀从「早く決めろ、人型脳核入れ。このままでは特異点を通過し、世界が一巡してしまう」

時として目隠しをせずに歩ける人間も中には居る。
それでも落とし穴はオレ達を引き寄せようと、あらゆる手段を尽くして来るものだ。

10 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:22:56.40 ID:DDrAlZ+kO
曰わく、

从゚∀从『貴様が勝てば、貴様の望みを何でも一つ聞いてやろう』

曰わく、

从゚∀从『ブルマだろうがスパッツだろうが、貴様の望むままだ』

(;'A`)「ぐぬぬぬ……」

オレは手札を睨み付け、唸っていた。
餓えた獣のごとく、唸っていた。
まさに餓えた獣だった。

ブルマ・オア・スパッツ。

もしくは、スパッツ・オア・ダイ。

正確に言えば、レイズ・オア・フォールド。

選択は二つに一つで、失敗すれば真っ逆様に落ちていく。
ブルーからブラックへ。それは一瞬で。
13 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:24:52.47 ID:DDrAlZ+kO
手元には、スペードのカードが四枚。場違いなダイヤが一枚。

ノーハンド。つまりは、ブタ。ポーカーという世界の最底辺にして、搾取されるべきプロレタリアート。
虚勢を張るか、諦めてうなだれるか。
オレの人生を如実に表しているようで、何だか泣けてきた。

从゚∀从「レイズか、フォールドか。好きな方を選ぶがいい」

アルミ机を挟んだ向かい側で不敵に笑う、銀髪赤眼の少女。
黒いゴシックロリータ風のワンピースを召した彼女の名は、ハインリッヒ。

特A級護衛専任ガイノイド。商品名「アイアンメイデン」。つまりは、ロボット。

オレ達二人は「何でも屋」。

石油危機や金融不振から、気になるあの子のスリーサイズ調査まで、報酬次第で何でも解決するバトルエージェント。

されど今は、互いの「チップ」を賭けて争う勝負師同士。

佳境を迎えたラウンドの中、オレ達は睨み合っていた。

从゚∀从「レイズ・オア・ダイ」

何もかも悟りきったような顔で、彼女は手元のチップを弾いて回す。
16 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:26:44.24 ID:DDrAlZ+kO
(;'A`)「……」

畜生が。こいつ、オレがコールしないものとばかり思ってやがる。まぁコールなんてできっこないんですがね。

(;'A`)「れ、レイズ……」

からからになった口を辛うじて開け、それだけ言った。

从゚∀从「いいのか…?」

オレの代わりにチップをポットに置き、鬼畜賭博機械が意地の悪い笑みを浮かべる。

(;'A`)「……へへ、ここまで来たら突っ走るぜ」

精一杯の虚勢。突っ走る先は間違い無く崖なのだが、昔の人も「諦めたらそこで試合終了」だって言ってたしね!
万に一つでも、オレの勇姿に恐れをなしてハインがフォールドしないとも限らないし。

从゚∀从「そうか。ふむ。これ以上いたぶるのも酷か。よかろう。コールだ」

しかし、嗜虐的な笑みで彼女が口にしたのは、オレにとっての死刑宣告。

(;゚A゚)「え…?」

何で?何でそこで空気読んでフォールドしないの?ねぇ?何で?
オレこれ負けるじゃん?どう考えてもさっきのレイズはフェイクだったじゃん?
主に花を持たせようとか思わないわけ?何なの?反抗期なの?

17 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:28:24.80 ID:DDrAlZ+kO
从゚∀从「ショー・ダウン」

オレの心中などどこ吹く風とばかりに、手札を見せる鬼畜賭博機械娘。
スペードで統一された五つの数字は、10、J、Q、K、A。

それはロイヤルストレートフラッシュ。

65万分の1という確率で回ってくる、最強のハンド。

オレの頭の中で、血管の切れる音がした。

(#゚A゚)「てめぇふざけんなぁぁあ!そんなん絶対イカサマだろうがぁぁあ!
いくらオレでもわかんだよっ!舐めんな!ざけんな!どうやったか教えてくださいっ!」

从゚∀从「イカサマなどでは無い。純粋な運だ。さて、それでは何をしてもらうかな……」

思案気に眉ねを寄せる鬼畜賭博機械ハインリッヒ。
彼女が勝ったら、彼女の言うことを何でも聞いてやると約束していたのだ。

(;'A`)「あの…出来るだけ穏便な方で…」

从゚∀从「そうだなぁ……」

彼女は心なしか楽しそうな笑みを浮かべると、オレの目を覗き込み。

从゚∀从「キスしろ」

きっぱりと、そう言い切った。
16 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:26:44.24 ID:DDrAlZ+kO
(;'A`)「……」

畜生が。こいつ、オレがコールしないものとばかり思ってやがる。まぁコールなんてできっこないんですがね。

(;'A`)「れ、レイズ……」

からからになった口を辛うじて開け、それだけ言った。

从゚∀从「いいのか…?」

オレの代わりにチップをポットに置き、鬼畜賭博機械が意地の悪い笑みを浮かべる。

(;'A`)「……へへ、ここまで来たら突っ走るぜ」

精一杯の虚勢。突っ走る先は間違い無く崖なのだが、昔の人も「諦めたらそこで試合終了」だって言ってたしね!
万に一つでも、オレの勇姿に恐れをなしてハインがフォールドしないとも限らないし。

从゚∀从「そうか。ふむ。これ以上いたぶるのも酷か。よかろう。コールだ」

しかし、嗜虐的な笑みで彼女が口にしたのは、オレにとっての死刑宣告。

(;゚A゚)「え…?」

何で?何でそこで空気読んでフォールドしないの?ねぇ?何で?
オレこれ負けるじゃん?どう考えてもさっきのレイズはフェイクだったじゃん?
主に花を持たせようとか思わないわけ?何なの?反抗期なの?

17 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:28:24.80 ID:DDrAlZ+kO
从゚∀从「ショー・ダウン」

オレの心中などどこ吹く風とばかりに、手札を見せる鬼畜賭博機械娘。
スペードで統一された五つの数字は、10、J、Q、K、A。

それはロイヤルストレートフラッシュ。

65万分の1という確率で回ってくる、最強のハンド。

オレの頭の中で、血管の切れる音がした。

(#゚A゚)「てめぇふざけんなぁぁあ!そんなん絶対イカサマだろうがぁぁあ!
いくらオレでもわかんだよっ!舐めんな!ざけんな!どうやったか教えてくださいっ!」

从゚∀从「イカサマなどでは無い。純粋な運だ。さて、それでは何をしてもらうかな……」

思案気に眉ねを寄せる鬼畜賭博機械ハインリッヒ。
彼女が勝ったら、彼女の言うことを何でも聞いてやると約束していたのだ。

(;'A`)「あの…出来るだけ穏便な方で…」

从゚∀从「そうだなぁ……」

彼女は心なしか楽しそうな笑みを浮かべると、オレの目を覗き込み。

从゚∀从「キスしろ」

きっぱりと、そう言い切った。
19 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:30:28.05 ID:DDrAlZ+kO
('A`)「え?」

最初何を言っているのかわからなかった。
キスしろ?キス?え?誰と?え?一人しか居ないよな?え?キス?え?こいつと?え?え?え?

(//A//)「えぇぇぇえ!?」

从゚∀从「いいから、早くしろ」

いやいや待て待て。何その急なラブコメ展開。ベタ過ぎて一瞬耳を疑ったわ。
無いわ。あり得ないわ。そんなん絶対無い無い。有るわけが無い。

(//3//)「わ、わかったよ……ん〜……」
22 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:31:55.29 ID:DDrAlZ+kO
从゚∀从「床にな」

直後、激しい衝撃が後頭部を襲い、這い蹲ったドクオ・ザ・ルーザー。

(メ)3`)そ「ぶげっ!?」

从゚∀从「そのまま舌で掃除しろ」

間髪入れず、頭の上に乗せられるハインのお御脚。ぐりぐりと、床に抑え付けられるオレ。

从゚∀从「最近事務所の掃除を怠っていたようだからな。清い心は生活環境からという。埃一つ残さず舐めとるのだ」

(メ)A`)「あ、あんまりだ…」

畜生!ベタだなぁとは思っていたけど、これはちょっとバイオレンス過ぎるだろう!
ああでもでも!何だか僕、新しい快感に目覚めちゃいそう……。

(*メ)A`)「悔しい…でも…感じちゃう………」
27 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:35:04.08 ID:DDrAlZ+kO
そんな天国とも地獄ともとれぬ状態のオレの耳に、事務所のドアをノックする音が届く。

(;メ)A`)「ちょっ!客!来た!早く脚!上げて!」

慌てるオレの催促も虚しく、開かれる扉。

(゚、゚トソン「……」

硬直する来客。

(;メ)A`)「えーと……」

从゚∀从「清掃中だ」

事実を述べるハインリッヒ。

(゚、゚トソン「……そうでありますか」

オレは社会的に死んだ。
30 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:37:00.41 ID:DDrAlZ+kO
 ※ ※ ※ ※

━━執務机の前で、オレは肩を小さくして来客と向かい合っていた。

(゚、゚トソン「……」

(;'A`)「……」

オレの事務所を訪れたのは、栗色の髪をバレッタでひとまとめにしたビジネススーツのよく似合う女。
年の頃は二十代前半か。佇まいや物腰から見て、OLというよりは秘書に見える。

秘書。何と官能的な響きだろうか。なんて俗っぽい事よりも、オレには気になっていることがあった。

('A`)「あのう…前に、どこかでお会いしましたっけ?」

オレをただじっと見据えるスミレ色の瞳に、デジャブを覚えて尋ねる。
それに彼女はただ、じっとオレの顔を見つめたまま、口だけを機械的に動かして答えた。

(゚、゚トソン「その折は、より良い取引をさせて頂きまして、誠に有り難うございました」

(;'A`)「取引…?」

え?オレ取引なんてしたっけ?何時?やべぇ、もしかして知らない間に壷とか買ってることになっちゃってる?
32 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:38:34.28 ID:DDrAlZ+kO
(゚、゚トソン「本日は、ドクオ様にワタナベから依頼の旨を伝えに参った次第であります」

('A`)「……ワタ…ナベ」

ワタナベ。
それで全て思い出した。
目の前の女は、あの晩、オレの前に札束の入ったアタッシュケースを広げたあいつだ。
確か、トソンとか呼ばれていたか。

('A`)「悪いが、今は別件で立て込んでる。他を当たってくれ」

(゚、゚トソン「それでは何時頃ならば丁度良いでしょうか」

('A`)「未来永劫、暇がない」

(゚、゚トソン「それは不思議であります。未来とは基本的に予測不可能なもの。あなたはそれを、まるで……」

オレの嫌みにも糞真面目に食い下がる彼女。
オレは机に拳を叩きつけ。

(#'A`)「わからねぇかな。あんたんとこの依頼を引き受ける暇はねぇって言ってんだよ。帰りな。そして二度とその面を見せるな」

憎悪を露わにして、答えた。

(゚、゚トソン「……」

流石の彼女もそれには口をつぐみ、オレ達の間に張り詰めた沈黙が降りる。

今にも噛み付かんばかりにトソンを睨み付けるオレ。
対照的に彼女は昼下がりの湖の如く平坦な顔で、こっちを見つめていた。
34 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:43:37.89 ID:DDrAlZ+kO
从゚∀从「……少し、いいだろうか」

沈黙を破ったのは、オレの横に立っていた機械娘だった。

从゚∀从「我が主は、貴社と積極的に関わりを持つことを望んでいない」

(゚、゚トソン「……」

从゚∀从「だが、私としてはこの事務所の経営状態を鑑みると、依頼はできる限りで受けて行きたいと思っている」

(;'A`)「おいおいハイン、オレは……」

从゚∀从「そこで、依頼は私が個人で引き受ける形で、先ずは話を聞かせて貰うということでどうだろう?」
36 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:46:10.87 ID:DDrAlZ+kO
(;'A`)「おまっ!何言って……」

とんでもない事を言い出す暴走機械娘。
口を挟もうとするオレの鼻先に、静かに左手が突き出される。

从゚∀从「……無理は、しなくていい」

その瞬間、背筋を冷たい何かが通り過ぎた。

从゚∀从「無理は…しなくていい」

静かに告げられたその言葉は、オレへの気遣いなのだろう。
あの日の事が辛いなら、何も古傷を自ら抉らなくても良いと。
そう言いたいのだろう。

(;'A`)「……」

それでも、オレはその言葉に甘えていていいのか。
何時までも、嫌なことから目を背けていていいのか。

37 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:48:03.91 ID:DDrAlZ+kO
(;-A-)「……いや」

目を閉じると蘇る、あの日の光景。

嘲笑うツン、ワタナベの歪んだ笑顔、札束の山と砕けた心。そして、ヘリカルの泣き顔。

それら全てと決別する為、オレは目を開ける。

('A`)「……話が変わった。依頼の内容を聞かせて貰おうか」

从゚∀从「……ドクオ」

胸の中で、小さなトゲが疼いたような気がした。
39 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:49:26.75 ID:DDrAlZ+kO
 ※ ※ ※ ※

━━覚悟を決めていてもやはりその顔を前にした時、オレは自らの中で湧き上がる憎悪を抑える事が出来なかった。

从'ー'从ノシ『お久しぶりぃ〜どっ君♪』

トソンが懐から出した携帯式ホログラファーが映し出す立体映像。
あどけない顔をした悪魔が、こちらに手を振って来た。

从'ー'从『元気にしてたぁ?……なぁんて、どっ君とお喋りしたいのはやまやまなんだけど、あまりこっちにも余裕が無いから、早速だけど要件を言うよ』

('A`)「是非ともそうしてくれ」

顔をしかめて吐き捨てるオレに、ホロの中のワタナベは締まらない笑みを浮かべ話を切り出す。

从'ー'从『ラウンジ区に、新しく“ルサールカ”っていうカジノが出来たのは知ってる?』

('A`)「いいや、初耳だ」

从'ー'从『じゃあ、“シベリア”がVIP入りを果たしたのは?』

('A`)「VIP入り…?あの“シベリア”が?」

「シベリア」。シチリア島に本拠を置く、世界最大の犯罪組織。
先のクリスマスの折り、そのモスクワ支部の“氷の旅団”が一時的にニーソクに上陸したのは覚えているが……。
42 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:51:20.96 ID:DDrAlZ+kO
从'ー'从『彼女たちはつい先日、陳龍の後ろ盾の下、ここVIPの地に拠点を築いたの』

('A`)「陳龍の後ろ盾……」

なるほど。こないだ“氷の旅団”が陳龍に加勢したのは、そういう意味が有ったのか。

从'ー'从『そして、“ルサールカ”は彼女たち“氷の旅団”がこの街で活動資金を得る為に開設された、カジノ』

('A`)「へぇ……」

マフィアがカジノを取り仕切るのは、今のご時世では何も珍しいことでは無い。
賭博法だかなんだかで、カジノがクリーンなギャンブルを気取っていたのは一世紀も前の話だ。
今では、カジノに限らず大抵の賭場の利権は犯罪組織が握っていると言っても過言では無い。

('A`)「……って、ちょっと待て。ラウンジに?」

从'ー'从『そう。ラウンジだよ』

ラウンジ区。VIPの政治の中心。つまりは行政区。
世界に名だたる巨大企業(メガコーポ)の本社ビルや、その直営の環境建造都市(アーコロジー)が犇めく、特権階級の世界。
やれブルジョワだ議員だとか、そう言った類の人間が住むそこは、VIPの中でも屈指の治安レベルを誇る。
そこに、“氷の旅団”はカジノを開いたという。
46 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:53:24.55 ID:DDrAlZ+kO
('A`)「おいおい…お偉いさん方もそんなのよく許したな……」

从'ー'从『許すわけ、ないじゃない』

('A`)「は?」

从'ー'从『本来なら、犯罪組織…しかも国外の…“シベリア”なんかがラウンジに進出するなんて、絶対許されることじゃないよ』

確かに。現在、この街の舵取りを行っている市会議員の大半は、この街で活動する企業の息が掛かった人物ばかり。

彼らは、いわば自分たちが「互いが互いに平等に利益を上げる」ことだけに執着した俗に言う金の亡者だ。

そして、その中には渡辺グループのように日本政府と密接な繋がりを持った企業も存在する。

電脳技術の進歩とユーラシア侵攻により暴走した資本主義のせいで、最早形骸化したとすら言える日本政府だがその影響力は未だ衰えていない。
渡辺グループのような巨大企業(メガコーポ)が政界へ浸食してくるのを彼らは逆に利用し、その飽食のベヘモット達の手綱を握った。

彼らが望むのは、単純にして明解。

純粋な日本の国益追求。そして、外敵の排除。

47 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:55:43.88 ID:DDrAlZ+kO
先のワタナベの言葉通り、彼らが“シベリア”などという国敵のVIP…しかもその心臓部であるラウンジへの進出を許す訳が無い。

('A`)「それじゃあ、何故…?」

オレの疑問に、ワタナベは彼女には到底似合わない溜め息をつくと。

从'ー'从『“株”だよ』

伏し目がちに、そう呟いた。

('A`)「株って、あの株か?」

从'ー'从『そう、あの株。落とし穴だったよ…気付かなかった。ううん、あまりの対応の速さに気付けなかった……』

ブルーからブラックへ。晴天から曇天へ。まるで青天の霹靂とばかりに彼女は言葉を次ぐ。

从'ー'从『彼らは、どうやってか知らないけど、市議会に出席している企業の株を独占して、各企業の株主総会での発言力を得たの。一晩にして』

(;'A`)「……は?ちょい待ち。市議会に出席してる企業の株を一晩にして独占?いや、何を言ってるのか……」

从'ー'从『独占って言うのはちょっと語弊が有るかな。各企業の筆頭株主となれる分だけの株を集めた、と言うのが正確かもね』

48 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 21:57:41.18 ID:DDrAlZ+kO
(;'A`)「いや、それでもおかしいだろ。だって……」

巨大企業(メガコーポ)が現代の支配者として君臨出来ている理由の一つに、自社株の徹底した管理が上げられる。

株式会社というのは、そのシステム上外部の人間から投資を募り、その見返りとして株主総会での会社の運営方針に関与する権利を与えている。

株主総会にて株主達が行使出来る権利は様々で、筆頭株主ともなればその会社への業務停止まで請求出来る程にその力は絶大だ。

一昔前までは、そんな株主の権利を振りかざしてその会社を牛耳ろうとする人々も居た。俗に言う「総会屋」だ。

しかし、企業側も馬鹿では無い。提携企業同士や身内同士に株を買わせてその保有数をバラけさせ、市場に出回る株の数を抑える事で「総会屋」達が付け入る隙を無くしたのだ。
最も、それ以前に会社法などによって「総会屋」の行動自体が大きく抑制されている現在、現役で活動している「総会屋」は珍しいものとなった。
50 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 22:00:18.81 ID:DDrAlZ+kO
从'ー'从『そう。おかしいよね。市場に出ている株が大きく動けば、私だってそれには気付くよ』

('A`)「じゃあ、何で……」

从'ー'从『単純だよ』

('A`)「……まさか」

从'ー'从『持っている人から、譲って貰ったの』

譲って貰う。譲って下さいと言って株を譲る馬鹿などはいない。

譲って貰えないのならばどうするか?簡単だ。単純だ。実にシンプルだ。

譲れと言って銃を突き付ければいい。

シンプルで、スマートで、それでいて彼女達に最も似合いの手段だ。

(;'A`)「そんな…でも、一晩にしてなんて…馬鹿げたことが……」

从'ー'从『本当に馬鹿げたことだよねぇ。でも、実際にそれは起こっちゃったの。先月の株主総会で、私も彼女と会ったよ』

彼女。パーナル。“氷の旅団”を率いる、氷の暴君。ロシアの怪物。

从'ー'从『そこで、彼女はこう言ったの』

“我々のやるビジネスについて、少し寛容になって欲しいのよ、ミスワタナベ”
52 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 22:03:29.26 ID:DDrAlZ+kO
从'ー'从『きっと、同じような事を他の企業の株主総会でも言ったんだろうねぇ。誰も異を唱えることは出来ないよね。筆頭株主だもん』

从'ー'从『そんなわけで、邪魔者を黙らせた彼女たちは、のうのうと……。
まるでファーストクラスの乗客がさもありなんとした顔で席に着くように、ラウンジにカジノを開いたの』

そこでワタナベは言葉を切り、苦々し気な顔をする。

VIPへの“シベリア”の本格的な進出。
更に、自社の手綱を握られた事による怒り。
渡辺グループ会長という、一国の主とすら呼べる役所に就いているとは思えないその幼い顔は、静かな激情を漂わせていた。

从'ー'从『許されることじゃないよね?それは、絶対に許されることじゃない』

だって、と付け加え。

从'ー'从『この街は、私のものだもん。他の誰でも無い、私だけの、お城だもん』

誰にも渡さない。

从'ー'从『だからどっ君。潰してよ』

渡してなるものか。

从'ー'从『カジノを。“ルサールカ”を。合法的な手段に乗っ取って、二度とこの街で営業出来ないようにして』

53 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 22:05:22.51 ID:DDrAlZ+kO
それは、まるで玩具をとられた子供がこねる駄々のようだった。

('A`)「……具体的に、何をすればいい?」

从'ー'从『トソンに持たせたお金があるでしょ?それを元手に、カジノからゲームでお金を巻き上げて』

ワタナベの言葉に続いて、トソンがジェラルミンケースを開ける。

(;'A`)「おぉ……」

相変わらず札束は眩いばかりの輝きでオレを誘惑して来るが、いやいやちょっと待て。

(;'A`)「カジノから金を巻き上げるって…おまっ……そりゃあまりにも無謀だろうが」

幾ら卓越したギャンブラーだって、一つのカジノを潰すのなんてのは些か現実感に欠ける。漫画じゃないんだ。
あまりオレを馬鹿にしないで欲しい。

从'ー'从『なぁんてのは冗談』

(;'A`)「あんたが言うと冗談に聞こえないんだよ……」

あはは、と彼女は朗らかな笑いを上げると。

从'ー'从『もっと簡単な方法が有るから安心して。最も、それにはそこのお金が必要になって来るだろうけど。あのね……』

内緒話をするようにして、こう言った。
57 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 22:07:58.45 ID:DDrAlZ+kO
 ※ ※ ※ ※

━━リムジンの窓から見える街の灯りは、夜闇を払拭しようとするかの如く、煌々と煌めく。

ξ゚听)ξ「綺麗……」

ブラックからブルーへ。

暗闇から光の下へ。

底辺から頂点へ。

その光は、私の人生という暗闇の中に灯された、栄光の灯台の灯火にも思えた。

「いやいや、君の方が綺麗だよ。ツン」

馴れ馴れしくも退屈な世辞は、耳障り。
窓外を流れる景色を見つめたままに、私は灯台の光へと思いを馳せる。

ξ゚听)ξ「……」

全て、順調に回っていた。人生は、驚くほどの快速航行でもって、広大な海を渡っていっている。
かつて私の前に立ちはだかった荒波が、今は嘘のようなべた凪だ。
それは、苦難の道を耐え忍び、乗り越えて来た私が勝ち取った栄光への乗車切符のおかげだろうと思う。

「……ねぇ、ツン。今日のゲームなんだけれども」

乗車切符。それは、上流階級へのコネクションという名前の乗車切符。
企業貴族の中へ飛び込んで行く為の、盾にして剣。
59 : ◆cnH487U/EY :2008/12/29(月) 22:11:58.73 ID:DDrAlZ+kO
「ねぇ、聞いてるかい?」

ξ゚听)ξ「……えぇ、聞いてるわ」

愛想を作り、振りまくのもこの一時のみ。
今晩の仕事は退屈極まる“接待”。
どうでもいいことの多すぎる世の中でも、いっとうどうでもよくて……。

ξ゚听)ξ「そのくせ、一番重要なお仕事だものね」

「そう、一番重要なお仕事さ、子猫ちゃん」

私の言葉を自分へのそれだと勘違いした男が、私の耳元で囁く。
その手がイブニングドレスからはみ出した私の肩へ触れるのを感覚しながら、私は目を閉じた。

ξ--)ξ「……忍耐が、大事」

自分に言い聞かせるよう、呟く。

「あぁ。大事だね。特に、ギャンブルには」

勘違いしたままの男の声が、酷く遠いものに思えた。



next track coming soon...

戻る

inserted by FC2 system