4 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:16:31.00 ID:yUAaqRzKO
〜track-γ〜

━━極彩色のネオンが、煌びやかに、時に毒々しく笑いかけてくる。

('A`)「ここもVIPと大して変わらねえな」

横浜中華街。すぐ側に港と国際空港が有る為、道行く人々の大半は外国人。
中でもとりわけ多いのは、オレの左隣を歩く丸サングラスと同じチャイニーズだ。

<ヽ●∀●>「あそこだ」

ニダーの指差す先には、アテネはパルテノン神殿を彷彿とさせる二階建ての建物。
ローズピンクにライトアップされたその看板には「ナイトウィッシュ」とある。

<ヽ●∀●>「あそこで、シナー大香主がお待ちだ」

ニューヨコハマハイウェイでの地獄のドライブを経て、身も心もベンツもボロボロになったオレ達は、昼過ぎに横浜入りを果たした。
結局賭はオレの負けで、最後の最後にフロントガラスを盛大にぶち壊されて、オレは自らの破滅を覚悟していたのだが。

<ヽ●∀●>「……」

あの謎の襲撃以降ニダーは黙り込んだままで、横浜に入ってからもホテルのチェックアウトを済ませると、すぐに自室に籠もってしまった。
7 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:20:58.31 ID:yUAaqRzKO
そんなわけで、夜になるまでオレ達は顔を合わせることも無く。

从゚∀从「先の件は忘れるなよ」

オレとハインは割り当てられた部屋で、ポーカーをして時間を潰して今に至る。

('A`)「え?何の事?」

从゚∀从「ポーカーの結果だ。私が勝ったら、新しい格納兵装を購入してくれると約束しただろう」

('A`)「……存じあげません」

从゚∀从「ならば今刻み込んでやる。その蛆の湧いた脳核の奥深くにな」

嬉々として首筋から結線ケーブルを伸ばす鬼畜乙女。

<ヽ●∀●>「さぁ、入れ」

8 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:21:33.80 ID:yUAaqRzKO
从゚∀从「ちっ…」

ニダーの言葉に、舌打ちをするとハインはケーブルを戻す。
危ういところだった。

('A`)「記憶改竄は法律で禁じられている危険な行為です。よい子のみんなは真似しないように。
ドクオお兄さんとの約束だ!」

神殿の柱の間をくぐり、両開きの巨大な扉をくぐる。

(;'A`)「おおぉ……」

デカい。それが第一印象だった。

球場程も有ろうかというスペースに、ボックス席が碁盤の目のように幾つも並ぶフロア。
天井に吊られたシャンデリアは、ダイヤを惜しみなくあしらった豪華な作り。

9 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:22:51.39 ID:yUAaqRzKO
高級クラブの中でも一流の店。それがここ「ナイトウィッシュ」の表の顔だ。

<ヽ●∀●>「45番のボックスだ」

入り口から一段低くなったフロアへと、ニダーを先頭にオレ達は降りていく。
ベロア地の絨毯が敷かれた通路を歩きながら、脇のボックスの中へ目を向けてみれば“それ”はわかる。

('A`)「まるで、悪党たちの見本市だな…」

ホステス達と酒盛りに興じているのは、ホンの一握りの客だけ。
後の殆どは、頬や臑に傷を持つ「あちら側」の人間ばかりだ。

裏社会の人間達が、「その手の交渉話」に用いるここは奴らにとっては緩衝地帯。
オレも見知った顔がちらほらと見える辺り、この横浜もVIPと何ら変わらない悪党共の巣窟だったという事だ。

<ヽ●∀●>「ニダー香主、只今到着しましたニダ」

45と書かれている金のプレートが張られたボックスの前で、ニダーが仰々しく告げる。

「早かたね。まぁ、座るよろし」

重々しい中にも神経質そうな響きの声が返事を返したのを確認し、ニダーはボックスの中へと足を進めた。
オレもネクタイを直し、後に続く。

10 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:25:14.39 ID:yUAaqRzKO
( `ハ´)「香主になてからは時間を守るようになたね、ニダー」

クリスタルのローテーブル。
それを囲むベルベットのソファに腰掛け、こちらを仰ぎ見る中華系の男。
白地に金糸で昇竜の刺繍を入れた中華服を召した彼こそが、三合会(トライアド)幹部、大香主シナーだ。

<ヽ●∀●>「恐縮です」

ニダーは表情を変えず頭を下げると、シナーの対面のソファに腰を下ろす。
えーと、オレも座って……。

从゚∀从「ダメだ」

(;'A`)「痛っ」

小声でオレの足を踏むハイン。

( `ハ´)「そっちのジャパニーズは?」

ぬらりとした爬虫類のごとき目で、シナーがオレ達を見やる。

<ヽ●∀●>「ここまでの護衛を頼んだ何でも屋でさぁ。…お前らは後ろに控えてろ」

ニダーの言葉に、シナーは微かに頷くと後はオレ達など眼中に無いのか、早速話を切り出した。

( `ハ´)「大体の話は聞いてる。兵隊が欲しい。そうだたね?」

<ヽ●∀●>「えぇ、大香主。情けねぇ事に、未だにオオカミ達の本拠を掴めないのが現状で」

11 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:27:30.40 ID:yUAaqRzKO
クリスタルグラスに入ったスコッチを飲み下しながら、ニダーは苦々しい顔を浮かべる。

( `ハ´)「群れはあれども巣は見当たらず、と。そういう意味か?」

<ヽ●∀●>「奴ら、一つところに留まる習性ってのが無いみたいでして。遊牧民みてぇですニダ」

( `ハ´)「それで手こずってる、と」

無言で頷くニダー。

( `ハ´)「だが、それだけじゃないね。違うか?」

シナーの目に鋭さが増した時だった。

「やぁやぁやぁ、もう皆さんお揃いかしら?」

('A`)「…?」

通路から楽しげな響きを持った声が割り込み。

12 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:29:27.37 ID:yUAaqRzKO
ノ从パーナル「一足遅れ、だったかしら?」

軍用コートを羽織った、その女が入ってきた。

( `ハ´)「ミスパーナル、遠路モスクワからはるばるのご足労、感謝するよ」

ノ从パーナル「お気遣いは無用よ。むしろここはモスクワよりも暖かいから、過ごしやすいわ。黄色臭いのが少し気になるけれども」

くすんだ灰の髪は肩まで。
面はロシア人独特の彫りの深い彫刻のような顔立ち。
その白亜の面の中で、鳶色の片目が静かな凶気を孕んで輝いている。

13 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:31:59.32 ID:yUAaqRzKO
片方。もう片方を縦に走った傷に、オレはいつぞや見た国際犯罪者リストの一ページを思い出した。

(;'A`)「パー…ナル……」

世界最大のマフィア「シベリア」のモスクワ支部で頭を勤める女傑。
敵対する組織の事務所を強化装甲服(アーマーギア)の一個小隊でもって焼き尽くすような、超がつく武闘派。
限度を知らない破壊と、卓越した戦術眼から付いたあだ名は「氷の暴君」。
それが、オレの知るパーナルという女の全てだ。

<ヽ●∀●>「大香主、話が見えませんな。何故、彼女がここに?」

不信感を顔に浮かべ、ニダーは大香主を仰ぐ。

ノ从パーナル「お宅が“黒狼”相手に手間取ってると、あるお節介さんから聞いてね。援軍が必要なのでしょう、ミスターニダー?」

シナーの代わりに答えたのは、暴君だった。

<ヽ●∀●>「それをお宅が買って出るっていうのかい?悪いが、今回は花火大会をするわけじゃない。お宅の出る幕は……」

( `ハ´)「ニダー」

ニダーの反論を、シナーが静かな、それでいて殺気を孕んだ言葉で遮る。

14 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:33:55.80 ID:yUAaqRzKO
( `ハ´)「三合会は、大陸の方の統制を取るだけでやっとね。お前なら、私の心中は察してくれるな?」

トライアドは、巨大だ。所属している組織の全てを併せれば、シベリアに並ぶとすら言われている。
だが、その巨大さ故にトライアドは機動力に欠けるのだ。
ブラキオザウルスが、脳から四肢に命令を伝達するのに時間がかかるように。

<ヽ●∀●>「……」

( `ハ´)「それに、お前は些か時間をかけすぎた。たかが黒狼一匹に、お前は何セットするつもりか?」

<ヽ●∀●>「ですが大香主。あいつは…あいつだけはウリが……」

( `ハ´)「お前の私情など知らん。もう試合はデュースにはいてるよ。さっさと決着をつけるよろし」

<ヽ●∀●>「……」

( `ハ´)「その為に、私は彼女を呼んだね」

ノ从パーナル「そういう事ね」

“彼女”はいつの間に座ったのか、シナーの隣に腰を下ろしスコッチを手にニダーを睥睨していた。

<ヽ●∀●>「……」

狂犬を前に嫌悪の色を僅かに浮かべるニダーに、暴君は冷ややかな侮蔑の視線を返す。
16 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:36:50.24 ID:yUAaqRzKO
ノ从パーナル「そう邪険にしてくれるな、ニダー香主。助っ人を頼まれた以上、我々『氷の旅団』はあなた方を全面的にバックアップする」

そこで言葉を切ると、彼女はスコッチを一気に呷り。

ノ从パ-ナル「…ただし、我々は我々のやり方でやらせて頂く。そこにあなた方が関与する余地は無い。これは、絶対だ」

絶対零度の言葉でもって、そう宣言した。

(;'A`)「……」

絶対零度。その比喩は間違っていない。
まるで、背中にドライアイスの塊を突っ込まれたように、その言葉はオレを戦慄させた。

ノ从パーナル「安心してくれていい。日なたの連中は勿論、ロイヤルハント共が介入してくる程に事を荒立てるつもりはない。あなた方に都合の悪い思いはさせない。あくまでこれは、ストリートの戦争なのだからな」

<ヽ●∀●>「はっ、だといいがね、ミスパーナル。くれぐれも、街一つを消し炭にするような真似はよしてくれよ。
事が終わった後に、ウリ達のシマが焼け野原なんてのは勘弁したいニダ」

互いに互いをねめつけ、二人は黙す。
やがて、暴君が口を開いた。
18 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:39:22.42 ID:yUAaqRzKO
ノ从パ-ナル「我々『氷の旅団』は、既に現地入りを果たしている。今は敵情視察の真っ最中だ。恐らくは、もう一時間もしないうちに電脳班が狼達を見つけ出すだろう」

ノ从パ-ナル「そうしたら後は殲滅するだけだ。日の出の始まりと同時に狼煙を上げ、日の出の終わりと同時に事は収まる」

その言葉は、自信とか、そう言った不確実なところから出たのでは無い。
彼女の言葉は、「事実」を述べただけだった。
それがまだ起こっているか、いないかが違うだけで。
間違い無く、事は彼女の言葉通りに進行するだろうことがわかった。

<ヽ●∀●>「……せっかちな事だな。ロシア人は酒をかっくらって飲んだくれているだけだと思っていたが」

ノ从パ-ナル「我々は酒では“酔えない”。もう、そんな体じゃないのさ。覚えておくといい、ミスターニダー。
さぁ、これで話は終わりよ。外に迎えを用意してあるわ。あなたの車は、もう乗れそうも無かったから」

その言葉を待っていたかのように、ニダーは立ち上がる。

<ヽ●∀●>「何から何まで用意周到ニダね。……行くぞ」

(;'A`)「あ、はい……」

19 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:41:40.48 ID:yUAaqRzKO
オレは促され、退出するニダーに続く。

去り際にパーナルの前を横切った時だった。

ノ从パーナル「今後とも、我々はあなた方の“良き隣人”だ。ミスターニダー」

彼女は鮫の笑顔を口の端に浮かべた。

<ヽ●∀●>「……あぁ、是非ともそうであってくれ」

それへ無感動に返事を返し、ニダーは「ナイトウィッシュ」のフロアを出口に向かって歩いて行く。

来た道を戻り、豪奢なシャンデリアの灯りから毒々しいネオン光の下に出ると、黒塗りの反重力推進式車両(エアカー)が門柱の脇に後部座席を開けて、滞空していた。

(;'A`)「すげぇ…エアカーだ……」

反重力装置の小型化は、つい最近になってようやく実用段階に入った技術の為、それを実装したこのエアカーは、それ一台が国家予算並に値の張る代物だ。
モスクワ支部にこれだけのものが与えられている辺り、「シベリア」のでかさが知れる。

/ ゚、。 /「あなたがミスターニダーでありますか」

そのエアカーの脇に立つ巨漢が、オレ達を認めると言葉をかけてきた。

20 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:44:03.81 ID:yUAaqRzKO
2メーター半もある図体を、軍用コートで覆った彼は「シベリア」の者だろう。
超然とした雰囲気を纏った彼は、間違い無く全身義体。しかも軍用のだ。
「シベリア」の力は底が知れない。

/ ゚、。 /「話は軍曹から聞いております。お乗り下さい。VIPまでお送りしましょう」

軽く首肯するニダー。
エアカーならば、VIPまで二時間とかかるまい。
パーナルは、日の出と共に狼煙を上げると言った。

('A`)「また早起きかよ……」

多忙に次ぐ多忙。オレの体は果たしてそれで保つのか。

从゚∀从「目覚ましは任せろ。妹風味に起こしてやる」

ただ、その忙しさが今は、次第に大きくなっていくこの案件にすり減った精神を、唯一忘れさせてくれるものでもあって。

('A`)「いや、強気性天の邪鬼的幼なじみ風味で頼む」

この仕事が終わった後の事から、オレはやはり目を背けるのだった。

21 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:46:23.42 ID:yUAaqRzKO
 ※ ※ ※ ※

━━しんしんと舞い落ちる雪が、イルミネーションの灯りに照らされる様は、どこか幻想的な趣があった。

(,,゚Д゚)「……」

道行く人々の足取りは、心なしか浮いているようにも見える。
 ゚∧
川゚ヮ川『We wish a mery X'mas♪We wish a mery X'mas♪』
 ゚∧
(-@∀@)『メリィイクリスマァァアス!フォーフォッフォッ!』

ケーキ屋の前では、赤と緑のサンタコスのヴォーカロイドと、サンタのドロイドが並んで客引きをしている。

ニューソク駅の前の広場には、人口樅の巨大なシルエットが電飾に照らし出され、街はいよいよクリスマスムード一色を剥き出しにし始めていた。

それら、オレとははなから縁のない代物達の前を通り過ぎ、小路に入る。
綿雪を踏みしめながら幾つかの角を曲がると、オレはその病院の前で足を止めた。

(,,゚Д゚)「……ここ、だったか」

足を運んだのは数年ぶりだったが、その場所を忘れる事はオレには到底出来そうにない。
25 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:47:53.34 ID:yUAaqRzKO
(,,゚Д゚)「しぃ……」

“…クリスマスは三人で過ごしたいと、そう言ってた”

(,,゚Д゚)「三人で……」

“……帰ってきてくれ、なんて言ってもお前は聞かねえだろ?だけどよ、せめてクリスマスだけは……”

(,,-Д-)「会える…わけが無い……」

今更、どの面を下げて彼女と会えばいいというのか?
この強化外骨格に包まれたオレを見て、彼女はどんな顔をするのか?

彼女に会うには、オレはあまりにも多くの血を浴びすぎた。

或いは、外套を羽織れる事も出来るだろう。脱ぎさえしなければ、この忌まわしいキチン質の肌は彼女の目には触れない。

或いは、香水をつけることも出来るだろう。それで彼女の鼻を誤魔化せるかも知れない。

(,,-Д-)「そんなもの…無意味だ……」

だが、そんなもので誤魔化し通せる程に彼女は馬鹿じゃない。
13年前、オヤジにストリートで拾われてからオヤジが死ぬまでの5年間、オレ達は家族として過ごしてきた。
ともすれば家に寄り付かなかった兄貴以上に、オレは彼女の側に居たのだ。
お互いの事は全て知り尽くしている。

26 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:50:45.46 ID:yUAaqRzKO
(,,゚Д゚)「家族…家族か……」

家族。確かにオレ達は家族だった。
そう、あの日までは。

(,,゚Д゚)「……」

彼女は病院のベッドの中でひとりぼっち。
病室と、窓から見える景色だけが彼女にとっての世界の全て。

オレは殺し屋。闇を行き、標的の血糊に濡れた札束で生計を立てる汚れ役。

そんな二人に訪れる、ある年のクリスマス。

……ありふれた話だった。そこいらのホロを探せばゴロゴロと転がっているような。
そんな、安い話だった。

27 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:52:31.69 ID:yUAaqRzKO
(,,゚Д゚)「…ワンコインで買えるような人生だな」

ゆっくりときびすを返す。
病院から遠ざかるべく足を踏み出したオレの前に、見知った顔がひょっこり現れた。

(´⊇`)「おろっ!もしかして、ギコ坊かい?」

(,,゚Д゚)「五十嵐のおっさん…」

元西村の組員のおっさんはオレを認めると、心底嬉しそうな顔で近付いてくる。

(´⊇`)「まったく、どこほっつき歩いてたこのドラ息子が!みんな心配してんだぞ!」

(,,゚Д゚)「……すいません」

(´⊇`)「すいませんで住んだらオレらヤクザはいらねぇの!まったくよぉ…本当によぉ…」
29 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:53:51.30 ID:yUAaqRzKO
怒っているのか喜んでいるのかわからない形に顔を歪めて、五十嵐のおっさんはオレの肩を叩いた。

(´⊇`)「今、何してんだい?え?」

(,,゚Д゚)「……」

(´⊇`)「なんでも、汚れ仕事を請け負ってるって噂だったけどよぉ……本当なのか?」

(,,゚Д゚)「……」

縋るように問い詰めてくるおっさん。
オレが沈黙でもってそれに答えると、彼は寂しげな笑顔を浮かべた。

(´⊇`)「やっぱりか…15代目が殺られてすぐ、出ていったから…そんな気はしてたんだがよ……」

溜め息をつき、彼は空を見上げる。

(´⊇`)「…じゃあ、1ヶ月前の事務所でのドンパチの時に現れたっつう義体野郎ってのは…」

(,,゚Д゚)「……オレです」

再び、彼は溜め息をついた。

1ヶ月前に陳龍の動向を探っていたオレは、奴らがオオカミの事務所を襲撃する算段をつけついるのを知り、居てもたっていられずにオオカミの事務所に駆け付けた。
復讐を誓い、自分から姿をくらました手前、もう二度と皆の前には現れないと思ってはいたのだが。

30 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:55:51.43 ID:yUAaqRzKO
それ以来、オレは事ある毎に陳龍とオオカミの小競り合いに顔を出しては、刀を振るっている。
自分でも、自分の中途半端さが嫌になるというものだ。

(´⊇`)「……どいつもこいつも、チャカやらドスやら持ち出してよ…復讐なのかい?え?15代目の復讐の為だっつうのかい?」

(´⊇`)「なぁよ、ギコ坊。15代目の仇を討ちたい気持ちはわかる。オレだって出来るなら、陳龍の奴らはぶっ殺してやりてぇよ」

(´⊇`)「だけどよ?それを果たして、しぃちゃんがどう思うかって事だわな」

五十嵐のおっさんは、月並みな説得の言葉を並べ立てる。
決してそれは、実のないものではない。むしろ、オレの身を心から案じてくれているものだ。

(,,゚Д゚)「五十嵐のおっさん……悪いんだが、こんなやり取りは無駄なんだ」

そう、これは大昔から人々の間で繰り返されてきた“無駄なやり取り”。

(,,゚Д゚)「おっさんは、オレを引き止めたい。だが、オレは譲るつもりは毛頭無い。典型的な意地の張り合いで、解決策なんか有りっこない。だから、するだけ無駄なんだ」
32 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:57:40.51 ID:yUAaqRzKO
オレの言葉に、三度目の溜め息をつくおっさん。
或いは彼にも、このやり取りが無駄だということがわかっていたのかも知れない。

(´⊇`)「本当に、お前ら兄弟ってやつぁよ……」

(,,゚Д゚)「すまんな…」

おっさんは目を伏せると、着古したコートのポケットに手を突っ込む。

(´⊇`)「今朝のフサ坊も、今のお前みたいなツラぁしてたよ。若い衆を引き連れて、バイクに跨って…」

(,,゚Д゚)「兄貴が、バイクに?」

(´⊇`)「陳龍の親玉に特攻をかけるっつって出ていったがよ……」

(,,゚Д゚)「……」

オレは最後まで聞かずに、走り出していた。

(;´⊇`)「おい、ギコ坊!」

五十嵐のおっさんが、まだ何か言おうとしていたが、それを無視して光学迷彩を起動する。

(´⊇`)「まったく…どいつもこいつも、死に急ぎやがって………」

おっさんの言葉が、僅かに耳朶を震わせた。

33 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 21:59:55.67 ID:yUAaqRzKO
 ※ ※ ※ ※

━━時計の針が十二時を周り、真夜中を告げる鐘が鳴る。

「只今帰還しました」

その鐘の音に混じり、量産的な声音が書斎に響く。
相変わらず、決められた時間にも正確だ。

从'ー'从「おかえりー。で、どうだったぁ?」

渡辺グループの所有する環境建造都市(アーコロジー)。
その中の住宅ブロックに立つ私の自宅の書斎。
ソファに寝そべった私は、“声”のする空間へと問いかける。
それに答えるよう、目の前に“彼女”が光学迷彩を解き姿を表した。

(゚、゚トソン「やはり、『シベリア』がニーソク入りを果たしたというのは事実のようです」

機械のように平坦な口調でそう告げる彼女は、“ように”ではなく実際に機械。
特A級護衛専任ガイノイド、所謂「アイアンメイデン」だ。

(゚、゚トソン「ニーソクのスラム街を拠点に、彼らはかなりの数の装備を用意しているようであります。具体的な内約は、強化装甲服(アーマーギア)が三体、市街戦用装甲車両が……」

指を折ながら数え始める秘書兼ボディーガード。
36 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:05:20.43 ID:yUAaqRzKO
从'ー'从「あぁ、それは別に報告しなくていいよぉ」

長くなりそうなので、私はそれを遮り身を起こす。
時間厳守に忠実な任務遂行性。
決して悪い事ではないのだが、正直彼女とのやり取りには息が詰まる。

(゚、゚トソン「そうでありますか。それで、いかがなさいますか?」

藍色のビジネススーツに包まれた特殊カーボネイド性の機械人形が、無機質な青紫のカメラアイで私を見た。
バレッタで止めた栗色の髪が、合成繊維である事が私を少し苛立たせる。

从'ー'从「別にぃ」

(゚、゚トソン「別に…とは?」

从'ー'从「別に。どうもしないよぉ。私達は静観するのっ」

ソファから立ち上がり、壁際の小型フリーザーに歩み寄ると、私はそこから既製品のグラスホッパーのボトルを取り出した。

(゚、゚トソン「…宜しいのでありますか?『シベリア』が寄越したのは、モスクワ支部のパーナル率いる『氷の旅団』であります。彼女達は……」

从'ー'从「“その気になれば、街一つを消し炭に変える程に荒っぽい”」

キャビネットからカクテルグラスを一つ出し、グラスホッパーを注ぐ。

37 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:07:13.02 ID:yUAaqRzKO
(゚、゚トソン「その通りであります」

从'ー'从「それで、彼らの目的は?」

ヨモギ色の液体に口をつける。チョコミントのような味が、口の中に広がった。

(゚、゚トソン「はい。彼らは、陳龍とオオカミ間の抗争に陳龍側の援軍として関与し、ないしはVIPに拠点を築くのが目的でありましょう」

从'ー'从「……確かに、『シベリア』みたいな人達がこの街に進出してくるのは嫌だよねぇ」

(゚、゚トソン「彼らは限度を知りません。ともすれば、我が社の利益にとって邪魔な存在になりかねません」

彼女の言うことはもっともだ。
『氷の旅団』がVIPに進出してきたと過程し、彼らがドンパチする度にうちのビルや店舗が更地になるのは考えたくない。

从'ー'从「それに、傭兵派遣会社なんてうちのとこのサービスにとっても商売敵になりそうだしねぇ」

(゚、゚トソン「災厄の芽は迅速に摘むのが得策かと」

私はしばらくグラスホッパーの緑を見つめていた。
アンティークの柱時計が、ゆっくりと時を刻む無機質な音だけが室内に響いている。
トソンは、微動だにせず私の言葉を待っている。

38 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:09:30.20 ID:yUAaqRzKO
从'ー'从「……WSS(ワタナベ・セキュリティ・サービス)に、ニーソク付近で待機するように通達しておいてぇ」

ワタナベ・セキュリティ・サービス。
多発する犯罪に対応し切れなくなった公務員の仕事を肩代わりする、企業管轄の警察。
ワタナベグループの火薬庫ならば、『氷の旅団』への抑止力ともなろう。

(゚、゚トソン「了解であります。武装レベルの指定は?」

从'ー'从「SS(ダブルエス)で。でもね、ニーソク外に被害が及ばない限りは絶対に手は出さないようにって。ストリートの事は、ストリートの住人が片付けてくれるでしょ」

(゚、゚トソン「承知いたしました」

深々と礼をし、彼女は再び空気に溶けるようにかき消える。

从'ー'从「……」

私はグラスホッパーのヨモギ色の液を見つめながら、誰も居なくなった書斎で呟いた。

从'ー'从「気に食わないよね……ホント、気に食わない」

夜が、更けていく。
40 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:12:53.38 ID:yUAaqRzKO
 ※ ※ ※ ※

━━街頭の明かりだけが照らすストリート。
雪が薄く積もり始めたそこを歩くものは、オレ達以外にはいない。

<ヽ●∀●>『ちょいと野暮用があるんだ。悪いが、付き合ってくれねぇか?』

「シベリア」のエアカーに揺られ、VIPに戻ってきたオレ達に、ニダーは開口一番にそう言った。
正直、これから数時間もしたら血で血を洗う戦場に駆り出される身としては、少しでも長く休養を取りたかったのだが、護衛任務という都合上ついて行かないわけにはいかない。

('A`)「むにゃむにゃ…眠いでしゅ……」

从゚∀从「坊や、背中、乗るかい?」

ヽ(*'A`)ノ「うんっ!おんぶー!」

从゚∀从「おっと、無賃乗車はいけないな。乗車券として清い心を用意してから出直してこい」

(#'A`)「資本主義の馬鹿野郎!」

ニダーに従い、オレ達はニーソクのストリートを奥へ奥へと進む。
途中、裏通りの花屋で彼は黒百合の花束を買い、スラムの中へと更に進んでいった。

41 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:14:32.61 ID:yUAaqRzKO
建築を途中で放棄されたビルや、住む者が居なくなり荒廃したマンションが、俯くように林立している。

ニーソク区、貧民街。通称「万魔殿」。
市民ランクX、つまり、行政から市民IDを剥奪された者達が集う完全な無法地帯。
まるで廃墟の集合団地のようなそこでは、何が起ころうと「無かった」事になる。
政府警察も企業警察もここには近寄らない、野獣の檻だ。

('A`)「ねぇねぇパパァ、ここに何の用があるのぉ?」

余りの眠気に幼児退行が始まったオレは、前方のニダーの背中に指をしゃぶりながら問い掛ける。

<ヽ●∀●>「墓参りだ。すぐ済む」

振り返らず彼は言い、倒壊しかけた元アパートの中へと入っていく。

('A`)「あぁん、待ってよぉ」

从゚∀从「……」

ぐずりながらもニダーの後を追うオレに、ハインママが沈痛な眼差しを向けた。

その元アパートは外から見たところ、かつては十階以上はあったのであろう。
崩れかかった階段を登っていけば、それは今では五階までしか先が無いことがわかった。
48 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:20:28.62 ID:yUAaqRzKO
('A`)「ふぅ…歩きにくかったでしゅ……」

いい加減ウザくなってきた口調と共に最後の一段を登り終えたオレの目に、ここには有るはずも無い光景が飛び込んで来た。

(;'A`)「すっげぇ……」

アパートの朽ちた床。その一面に広がる、名前も知らない白と黄色の花々。
その中央、木で出来た粗末な十字架の前に、ニダーは立ち尽くしていた。

(;'A`)「これ……」

<ヽ●∀●>「墓だよ。見てわからねぇかい?」

ぶっきらぼうに吐き捨て、彼は十字架の前にしゃがみ込む。

('A`)「もしかして、あの、ヒッキーとか言う奴のか?」

オレの問いに、彼は肩を竦めた。

<ヽ●∀●>「まぁな」

彼は手にした黒百合の花束を十字架に供えると、しばらくそれを見詰めていた。

<ヽ●∀●>「あいつとは、長い付き合いだった」

ぽつりと、彼は零す。

<ヽ●∀●>「陳龍に入って二年目。初めての部下が、あいつだったニダ」

<ヽ●∀●>「これがまた使えないやつでな。ハジキを持たせりゃ弾を詰まらせるわ、経理ソフトウェアを渡せばバグをこさえるわでよ。何をやらせても、満足にこなせねぇ」
50 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:22:35.45 ID:yUAaqRzKO
<ヽ●∀●>「あいつは、何をするにもウリの後をついて来てな。ウリが怒鳴り散らしても、ウリが殴り飛ばしても、“有難うございます”なんて言ってよ。マゾかってんだ」

<ヽ●∀●>「それでもどこか、憎めない奴だったニダよ。気付けば、十年近く相方みてぇに一緒に居た」

<ヽ●∀●>「素直で、馬鹿みてぇに真面目で、何でこんな奴がマフィアなんかやってるんだろうと思ってな。いつだったか、聞いてみた」

<ヽ●∀●>「そしたらよ、あいつは笑いながらこう言ったんだ」

<ヽ●∀●>「オヤジのこさえた借金を返済しなきゃいけねぇ。例えてめぇが死んでも、これだけは絶対に返さなきゃ。それが筋だ…ってよ」

そこでニダーは一旦言葉を切ると、何かを堪えるように上を見上げた。

<ヽ●∀●>「馬鹿だよ、あいつは。そんな真面目な奴ぁ、この街じゃ真っ先に墓石の下に埋まるって事を知らなかったんだ。正真正銘の、馬鹿だよ」

やり切れない、とでも言うように彼は俯く。
オレは、そんな彼にどう言葉をかけていいの迷っていた。
52 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:25:55.72 ID:yUAaqRzKO
彼は、オレがヒッキーを殺したと思い込んでいる。つまりは、仇だ。
ともすればオレはこの場でベレッタの銃弾をおでこに頂戴してもおかしくない。

(;'A`)「……」

そんなオレの緊張を読み取ったのか、彼は静かにオレを振り返った。

<ヽ●∀●>「安心しな、何でも屋さん。お宅があいつの仇じゃ無いってのはとっくの昔に割れている」

(;'A`)「……は?」

<ヽ●∀●>「黒狼が殺ったってこたぁ、傷口を見りゃ一発だよ。一昨日のあれは、お前さんを聞き分けの良い坊やにする為のお芝居だ」

53 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:26:57.47 ID:yUAaqRzKO
(;'A`)「なっ!てめぇ!そりゃ詐欺ってもん……」

<ヽ●∀●>「なら依頼を放棄するかい?そいつぁいけねぇなぁ。お前さんはもう、手付け金でおもちゃを買っちまったろう?」

(;'A`)「ガッデェエム!」

<ヽ●∀●>「そう言うわけだからよ、もう少しだけ付き合ってもらうぜ」

彼は立ち上がり、十字架に背を向ける。

<ヽ●∀●>「ウリの、復讐にな」

すきま風が、足元の花畑と供えられた黒百合を揺らした。

黒百合。別名「ブラックサレナ」。花言葉は、「復讐」。

('A`)「……」

……夜が、明ける。
56 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:29:00.68 ID:yUAaqRzKO
 ※ ※ ※ ※

━━日の出前。まだ暗い店内。カウンターを挟んで、オレと爺さんは向き合っていた。

ミ,,゚Д゚彡「ヘブンズゲートのみんなが、やられた」

店の名前は荒巻屋。
昔、15代目が健在だった時に西村のシマだったここは、今では忌まわしい華僑のマフィア共に上納金を納める事で商売を営んでいる。

ミ,,゚Д゚彡「ニューヨコハマハイウェイで。陳龍の頭の乗ったベンツを蛸殴りにするつもりで、こっちが泡を食う事になった。
それでもフロントに一発くれてやったがな。今日の、朝の事だ」

/ ,'3「……」

店主の荒巻老は、静かにCASTERの煙を吐き出しながら、窓の外を見つめていた。

ミ,,゚Д゚彡「15人が死んだ。今頃は公務員さん方の検死も終わって、死体安置所(モルグ)の中だ。
皆が皆やかましい奴らだったが、今じゃ誰も騒ぐ奴ぁいない」

オレは、爺さんを前に淡々と言葉を吐き出していく。

ミ,,゚Д゚彡「残りの組員は、元ヘブンズゲートが23人、西村の生き残りが75人。全部あわせても100人にぎりぎりで届かない」

/ ,'3「ナインティナイン」

ミ,,゚Д゚彡「あぁ。オレも入れると99人だ」

57 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:31:43.55 ID:yUAaqRzKO
99。もう一度、荒巻老は呟いた。
CASTER特有のほのかなバニラの香りが、オレの鼻をくすぐる。

ミ,,゚Д゚彡「以前は200人近く居た。それが今じゃ半分以下だ。みんな、陳龍に殺られた」

そこまで言い終え、オレは口を噤む。しばらくの間。
朝の冷えた空気の静謐さの中、荒巻老は。

/ ,'3「……それで」

こちらを見ずに言った。

/ ,'3「お前さんは、詰まるところは何を言いに来たんじゃ?」

CASTERをアルミの灰皿にこすりつけ、彼は新しい一本を取り出し火をつける。

/ ,'3「老いぼれだからと言って、わしに早起きの習慣はない。若いときから夜型でな。この店も、朝の10時から開店なんじゃよ」

左耳の真下に有るソフトウェアソケットをいじる彼は、やはりこちらを見ようとはしない。

/ ,'3「それをお前さんは、こんな朝っぱらから叩き起こして。用が有るならさっさと言ったらどうだ。そうしたら、わしも二度寝が出来て助かる」

そんな荒巻老を見つめ、オレはしばらく黙り込んでいた。
60 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:34:13.20 ID:yUAaqRzKO
店内は相変わらず雑多で、オレがガキの頃遊びに来たときに見つけたアンティークのゲームソフトウェアが、全く同じ位置で埃をかぶっていた。

ここだけは、変わらない。まるで、時の流れから取り残されたように。

だからだろうか。

ミ,,゚Д゚彡「頼み事をしに、来たのさ」

オレは、一つの包みをカウンターの上にそっと乗せた。

/ ,'3「なんじゃ、これは?」

ミ,,゚Д゚彡「クリスマスプレゼントだ。しぃへのな。これを、24日にしぃに届けてくれないか」
63 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:37:12.78 ID:yUAaqRzKO
/ ,'3「……」

爺さんは、何も言わずに包みを見つめている。
その目は、全てを悟っているようにただ静かに揺れていた。

ミ,,゚Д゚彡「用ってのは、それだけだ。朝っぱらから邪魔して悪かったな」

背を向け、歩き出す。
床に散らかった電子機器達を踏み越え、ドアに手をかけたところで、荒巻老が口を開いた。

/ ,'3「二度目、じゃ」

ミ,,゚Д゚彡「…?」

肩越しに振り返るオレに、相変わらずこちらを見ぬままに荒巻老は言葉を次ぐ。

/ ,'3「今みたいに、プレゼントを預かったのはこれで二度目じゃよ」
65 : ◆cnH487U/EY :2008/12/14(日) 22:39:12.65 ID:yUAaqRzKO
ミ,,゚Д゚彡「……」

/ ,'3「8年前じゃ。忘れもせん。ちょうど、今の時期じゃった。クリスマスのプレゼントをな、お前さんのオヤジから預かった」

ひゅう、と荒巻老は紫煙を吐き出した。

/ ,'3「……だがな、わしゃあ届けんかった。プレゼントは、自分で届けるもんじゃからな」

そう言って、彼は包みを放って寄越す。

ミ,,゚Д゚彡「……」

オレはそれをキャッチし、しばらく見詰めてからまた投げ返した。

ミ,,゚Д゚彡「……もう、後には退けねぇんだ」

そのまま、オレは今度こそ荒巻屋を後にする。
ドアに手をかけ、開き、それを閉める寸前。

/ ,'3「……馬鹿もんが」

荒巻老の呟きが、ドアの隙間から漏れた気がした。



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