57 名前: ◆cnH487U/EY :2008/12/25(木) 22:34:25.80 ID:7KTh8VYGO
epilogue

━━冷え冷えとした空気に肩を震わし、オレは花畑の中に立ったニダーの背中を見つめていた。

<ヽ●∀●>「報酬だ。受け取れ」

例のヒッキーという男の墓前。
振り向きもせず彼はオレへと何かを放って寄越す。
キャッチして確かめてみれば、それは純銀で出来たロケットだった。

('A`)「こいつぁどうも」

ずしりとした重みは本物の証。時価にして、九百万といったところだろうか。
中を開けてみても、何も入っていない。

<ヽ●∀●>「そこのお嬢さんの修理代には足りるだろう?なんなら、おべべの分も出してやるぜ」

その中に、何が入っていたのか。
オレには予測する事しか出来ないが、それはきっとニダーの懐の中に有るのだろう。

('A`)「いや、これだけあれば新しい格納兵装も買える。まぁ、貰える分にはやぶさかじゃないけどな」

从メ∀从「うム」

オレ達の言葉を鼻で笑うと、ニダーは携えた白百合の花束を十字架の前に備え、前に備えた黒百合を掴み上げた。
59 名前: ◆cnH487U/EY :2008/12/25(木) 22:36:09.76 ID:7KTh8VYGO
<ヽ●∀●>「仇は取った。もう、復讐はおしまいだ」

言いながら、黒百合を床の上に放ると、彼はジッポに火を灯し、黒百合の上に同じく放る。

('A`)「……」

冬の乾燥した空気の中で、黒百合はよく燃えた。

復讐は終わった。少なくとも、ニダーの復讐は。

だが、実のところはまだ、何一つ終わってなどいない。

残されたものは剣を持ち、復讐の劇は再び幕を開けるだろう。

揺らぐように、ざわめくように踊る炎。
それはまるで、これから再び起こるであろう血まみれの舞台を思い、揺れているようだった。

60 名前: ◆cnH487U/EY :2008/12/25(木) 22:38:45.20 ID:7KTh8VYGO
 ※ ※ ※ ※

━━帰り道。本格的に降り出した雪の中、私は覚束ない足取りでニーソクの裏通りを歩いていた。

从;メ∀从「むっ…!」

雪に足を取られ、よろける。先の銃撃でバランサーまでいかれたのか。
私の体は雪の上に倒れていく。

('A`)「っとお。おいおい、しっかりしてくれよ?」

それを寸でのところで支えたのは、私の損壊のそもそもの元凶である二酸化炭素製造機だった。

从メ∀从「……スまン」

納得出来ない何かを抱えたままに、私はヤツの肩に身を預ける。
これでは私本来の製造目的が果たせない。早々に修理を要求したい。
それを伝えるべく口を開こうとして、ヤツが柄にもなく小難しい顔をしているのに気付いた。

('A`)「……」

从メ∀从「どうしタ、精液の塊。そんな顔をしてイても、誰も貴様のコとを見直しタりはせぬゾ」

('A`)「……復讐」

从メ∀从「ウん?」

('A`)「オレには、復讐なんてもんが理解出来ないんだ」

从メ∀从「……ホう。そノ理由を言ってみロ」
63 名前: ◆cnH487U/EY :2008/12/25(木) 22:41:01.26 ID:7KTh8VYGO
('A`)「オレはさ、昔から情が薄かったんだよ。他人は他人、オレはオレ。我関せずって感じでさ」

从メ∀从「友人ガ少なイ人間の典型だナ」

('A`)「だからさ、その…他人の為に、命を張るとか…仇を討つとかいう行為が、いまいち理解出来ないんだ」

从メ∀从「……まぁ、そうイウ奴も居るだロウ。別に貴様に限っタことデは無い」

('A`)「だと、良いんだがね」

気休めはいらないとばかりに、ヤツは頭を振ると遠くを見るような目をし。

64 名前: ◆cnH487U/EY :2008/12/25(木) 22:42:00.69 ID:7KTh8VYGO
('A`)「そういう、熱血君達を見てるとよ。オレは人間じゃないんじゃないかなんて、思っちまうんだよ」

寂しげに、呟いた。

从メ∀从「……」

('A`)「ま、そうだとしても仕方ないかもな。何せ……」

从メ∀从「ソんナコとは、無い」

('A`)「は?」

从メ∀从「貴様ハ、人間ダ。ソれハ、間違いようも無い真実ダ」

('A`)「……」

そう。それはどう足掻いても、私には否定出来ない事実。

从メ∀从「ソの証拠に、貴様にハ体温ガ有る」

ヤツと私の間に有る、超えようもない壁。
66 名前: ◆cnH487U/EY :2008/12/25(木) 22:46:23.13 ID:7KTh8VYGO
('A`)「……ははは、確かにな」

彼は力無く笑うと、自嘲するように呟く。

('A`)「ある意味では、ニダーが羨ましいよ。オレも、一度でいいから他人の為に熱くなってみたいもんだ」

私もだ。

そう、言葉にしようとして思いとどまる。

私の中で、何かが胎動しているような。

そんな、錯覚を覚えて隣のダメ人間を見やる。

('A`)「しかし、寒いな」

彼の吐く息の白さが、とても遠いものに思えて。

从メ∀从「あァ…寒いな……」

私は、嘘をつく。

それが本当だったらいいのにと、無理な願いを込めて。
68 名前: ◆cnH487U/EY :2008/12/25(木) 22:48:02.39 ID:7KTh8VYGO
 ※ ※ ※ ※

━━彼女は、窓の外を、ちらほらと雪が舞い落ちていくのを、黙って見ていた。

『さぁて、次の曲はラジオネーム煙狐さんからのリクエストで、カーペンターズのイエスタデイ・ワンス・モアです』

つけっぱなしになったラジオから、女DJの黄色い声が流れ、せせこましい病室の中に響く。
オレはそれを聞き流しながら、彼女の膝の上に、荒巻の爺から受け取った包みを静かに置いた。

(,,゚Д゚)「メリークリスマス、しぃ」

彼女はそれに気づくと、ゆっくりとした動作でこっちを振り返ると。

(*゚ー゚)「ギコにぃ!」

満面の笑みを、そのほっそりした顔に浮かべた。

(*゚ー゚)「もう、ホント……今まで、連絡も寄越さないで…一体、どこをほっつき歩いてたのよ!」

(,,゚Д゚)「すまんな。ちょっと、仕事の方が忙しくて。なかなか顔を出せなかったんだ」

かと思うと、一瞬にしてその顔をしわくちゃにし。

(*;ー;)「ホント…心配したんだから……」

オレの腰に抱き付き、鼻をすすり始めた。

69 名前: ◆cnH487U/EY :2008/12/25(木) 22:50:09.01 ID:7KTh8VYGO
(,,゚Д゚)「悪かった。今度からは、たまには会いに来るから…」

肩を震わせる彼女の、栗色の髪に手を置き撫でる。

(*うー゚)「ホント…?約束する?」

抱き付いたままにしぃは顔を上げると、オレの顔を覗き込んで来た。
早くも赤くなっている鼻の頭が白い肌にコントラストを加え、オレを堪らなく愛おしい気持ちにさせる。

(,,゚Д゚)「あぁ。約束だ。次からちょくちょく顔を出すようにするよ」

(*゚ー゚)「ホントにホント?」

(,,゚Д゚)「今日だって、ちゃんと約束を守っただろう?」

(*゚ー゚)「うん。…フサにぃから聞いたの?」

(,,゚Д゚)「……まぁな」

フサにぃ。その言葉が、虚ろなオレの胸の中を通り抜けた。

(,,゚Д゚)「それより、プレゼントを開けてみたらどうだ?兄貴の奴が間違ってたら、オレが買い直してこなきゃならない」

(*゚ー゚)「ははは、流石にそれは無いでしょー」

くすくすと笑いながら、彼女はラッピングを綺麗に解いていく。
やがてその中から出てきたのは、二本の水彩絵の具のチューブ。
72 名前: ◆cnH487U/EY :2008/12/25(木) 22:52:15.74 ID:7KTh8VYGO
(,,゚Д゚)「絵の具…?兄貴の奴、何を考えてこんなもん……」

(*゚ー゚)「ううん。私がこれを頼んだの。あ、そこの画板とパレットを取って」

首を傾げながらも、オレは彼女の言うとおりベッドに立てかけてあった画板とパレットを取り、差し出す。
しぃはそれを受け取ると、パレットの上に貰ったばかりの絵の具チューブからそれぞれ白と黒を絞り出した。

(*゚ー゚)「ちょうど白と黒を切らしちゃっててさ。これでやっと完成するよ」

ベッドサイドに置いてあったバケツから絵筆を抜き、彼女はパレットから絵の具をすくうと、画板の上に筆を滑らせる。
楽しそうに、幸せそうに筆を握るしぃの顔にオレはしばらく呆けたように見とれていた。

やがて。

(*゚ー゚)「出来た!」

子供がはしゃぐようにして筆をバケツにさした彼女が、画板をオレに見せた時。

(,;゚Д゚)「……!」

オレは、胸が締め上げられるような感覚を覚えた。

(*^ー^)「へへぇ。どう?似てる?あ、ちょっとカッコ良くしてあるから、似てないかも」
74 名前: ◆cnH487U/EY :2008/12/25(木) 22:54:54.30 ID:7KTh8VYGO
得意気に彼女が見せて来たのは、二人の男の絵。

黒髪の男と、白髪の男が並んで肩を組んだ。

そんな絵。

(,,゚Д゚)「……」

(*゚ー゚)「結構上手いでしょ?ホントは、フサにぃも来てから見せようと思ったんだけどさ」

(*゚ー゚)「遅いよねぇ、フサにぃ。また会合かな?」

無邪気に笑う彼女。対照的に冷えていくオレの体の芯。

(,,゚Д゚)「兄貴は…来れないそうだ」

無感動にそれだけ呟きオレはベッドサイドに、今まで握り締めていた花束を置いた。

75 名前: ◆cnH487U/EY :2008/12/25(木) 22:55:43.03 ID:7KTh8VYGO
(;゚ー゚)「えぇー!?何でぇ!?何でよぉ!?約束したのにぃ!」

不満も露わにオレに食ってかかってくるしぃ。
オレはそれを無表情で見つめたまま、呟く。

(,,゚Д゚)「仕事…だそうだ」

ラジオからは、カレン・カーペンターの優しげな声が流れている。

過ぎ去った日々よ、もう一度。

それを否定するように、ベッドサイドに置いた黒百合が、微かに揺れた。



-fin-

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