- 5
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:09:41.47 ID:7KTh8VYGO
- 〜track-ε〜
━━鮫のようなフォルムは殺意。エンジンの唸りはその覚悟。握る長ドスがそれを行使する。
(;'A`)「うぉぉおぉっ!?」
腹の底から叫び、身を投げ出す。
オレの脇を突風のように、一台のソードフィッシュが掠めた。
从゚∀从「昨日の報復にでも来たのか?」
オレとは反対方向に跳んだハインが、駆け抜けていったソードフィッシュの方を見やり、P90のマガジンを交換する。
ソードフィッシュ。昨日の今日でそれを忘れる訳がない。突然の襲撃者は間違いない。「ヘブンズゲート」だ。
- 6
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:13:49.51 ID:7KTh8VYGO
- (;'A`)「何でオレ達を狙うんだよ?オレ達のファンか?ファンなのか?」
从゚∀从「判らぬ。判らぬが……」
<ヽ●∀●>「お客が来た以上、追い返す訳にもいかんだろう」
从゚∀从「それが接客業の性だ」
語調を合わせ、薄ら笑いを浮かべ、二人はソードフィッシュへとその銃口を向ける。
大通りへと出たソードフィッシュが後輪を滑らせターン。
エンジンの唸りとマズルフラッシュの閃きは同時。
銃声、着弾、蜂の巣、爆発、炎上。
奇襲に失敗したソードフィッシュは為す術もなく灰となった。
- 7
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:15:34.31 ID:7KTh8VYGO
- (;'A`)「ったく…こっちは“族”なんか相手にしてる暇は無いっつうのに……」
从゚∀从「まだ来るぞ!」
ハインの忠告に、振り返る。
ビルとビルの間。人一人がやっと通れるその隙間を、五台のソードフィッシュが並んで突進して来ていた。
('A`)「馬っ鹿でぇ!そう何度も同じ手を……」
オレの余裕は、一発の銃声と同時にかき消された。
(`_´ノ;)「あ…にき……」
陳龍の構成員の一人が、目を見開いたまま地面に倒れ伏す。
('A`)「え?」
- 8
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:17:43.79 ID:7KTh8VYGO
- 銃声の元を辿って見上げれば、廃ビルの非常階段の踊場で拳銃を構えたヤクザ風の男が二人。
そいつらが、こちらを狙って引き金に指をかけた。
(;'A`)「た、タンマタンマタンマタンマァァァァア!」
たまらず駆け出すオレの頬を銃声と共に硬い“何か”が掠める。
(#'A`)「てめぇ、オレ様を甘く見ると……」
振り返りカスタムデザートイーグルを抜けば、ソードフィッシュとこんにちは。
(;'A`)「…なーんて。冗談っすよ、冗談」
頭上からの銃撃。背後からの追撃。これでは前に逃げるしかない。
- 9
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:19:30.39 ID:7KTh8VYGO
- 从゚∀从「バイクに乗っていては路地での戦闘は不利。それを頭上からの援護射撃でカバーするとは。指揮官はなかなかの手腕だな」
併走するコンバットマシンが、賛辞の言葉を述べる。
(;'A`)「君は!どっちの!味方だ!」
全力疾走に舌を噛まないよう開く口。
フル回転の更に上を行くリミッターブレイキンな走りに、ついていけなくなったのか。
(;゚A゚)「おっ!?おっ!?おぉっ!?」
もつれる脚が路上の何かに引っかかり、つんのめる体。姿勢制御に失敗。
体制を崩したオレが、地面に熱烈なキスをぶちかます寸前。
从゚∀从「愛の味方だ」
守護天使(アークエンジェル)がオレの襟首を掴み、地を蹴った。
(;゚A゚)「おぉぉぉお!?」
宙に浮く体。重力からの束の間の解放。
ハインに抱きかかえられ刹那のスクランブルフライトを体験したオレは、そのまま小路を脱出。
二人仲良く大通りへと、もみくちゃになりながら転がる。
(;'A`)「むわっぷ!」
もつれ合い、絡み合い転がる中で、体のあちこちに感じるのは、柔らかいマシュマロのようなハインの感触。
- 10
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:22:08.55 ID:7KTh8VYGO
- (*゚A゚)「むほっ!むひょー!うっほー!」
時代錯誤な叫びで興奮を表すオレ。
大佐!もう辛抱たまらんです!
从゚∀从「━━っ!」
やがて回転が止まり互いの体が離れると、ハインは即座に立ち上がりP90を小路に向けてありったけの弾を叩き込む。
トップスピードで走り出て来た剣魚達は、オレ達の目前5メートルで次々横と転。
爆炎が巻き起こり、熱波がオレの頬をなぶった。
('A`)「熱いぜ…色んな意味で……」
尻を叩き、立ち上がる。
剣魚の骸を火種に燃え盛る炎の揺らめき。
ふと、大切な何かを忘れている事にオレは気付いた。
- 11
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:25:14.56 ID:7KTh8VYGO
- ('A`)「えぇと……」
从゚∀从「クライアントが、居ない」
(;'A`)「……あ」
ヤバい。これは、ガチで、ヤバい。
从;゚∀从「先のどさくさではぐれたか……私とした事が、貴様の世話を焼くのに集中していて彼まで手が回らなかった」
いや、はぐれただけならまだ何とかなるんだけど……。
(;'A`)「これ…生きてるか…?」
オレは、燃え盛る炎の前に立ち尽くすしか無かった。
- 14
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:27:06.63 ID:7KTh8VYGO
- ※ ※ ※ ※
━━気がつくと、風を切っていた。
「━━はい。ギコさんです。えぇ。ニーソクの貸し事務所の前で…はい。はい」
(,,メД#)「……な…んだ…?」
血で染まった視界が、高速で背後へ流れていく。どうやら、バイクか何かに乗せられているようだ。
(;´つ')「ぎ、ギコさん!気付きやしたか!?」
オレを抱えるようにしていた運転手が、携帯端末をしまいながら、切迫した声で聞いてくる。おそらくはオオカミの男だろう。
オレは彼とボンネットの間に挟まれ、ニーソクのストリートをスラムに向けて疾走していた。
(;'つ`)「ほんと、ギコさんが血だらけでぶっ倒れてるのを見つけた時は、どうなるかと……」
(,,メД#)「血…だらけ……」
混乱する頭に何が有ったのか思い出そうとした瞬間、顔面に灼けるような痛みが走った。
(,;メД#)「ぐっ…ぇぉう……」
(;'つ`)「だ、大丈夫ですか!?」
名も知らぬ運転手の気遣いに左手を上げ、応える。
思い出した。そうか。やはり、オレは負けたのか。
- 15
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:29:12.34 ID:7KTh8VYGO
- (,,メД#)「……情けない…ものだ…」
屈辱が喉元までせり上がる。
飛び道具如きに遅れをとった自分が、不甲斐なかった。
(;'つ`)「なぁ、ギコさん…オレ達どうなっちまうんですかね……」
運転手の呟きに、顔を上げる。
彼は今にも泣き出しそうな顔で、前を向いていた。
(;'つ`)「陳龍どころか、『シベリア』まででばって来て…オオカミは、どうなっちまうんですかね?生き残れるんですかね?」
(,,メД#)「……」
そんなものは、目に見えている。
ダイオードの絶望的なまでの火力を目にした前では、とてもオオカミがかなう相手には見えない。
それに『氷の旅団』の戦力はあれだけでは無いだろう。
奴らの容赦のなさは、以前仕事を引き受けた時に見ている。
間違いなく、オオカミは今日のうちに地上から姿を消す。
(;'つ`)「フサの兄貴も、これから最後の特攻をかますって…今、その準備をしに……」
(,;メД#)「兄貴…が…!?」
その単語に、オレが言葉を返そうとした時だった。
- 17
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:31:42.93 ID:7KTh8VYGO
- (;'つ`)「な、なんだありゃ!?」
運転手が奇声を上げ、ハンドルを思い切り切った。
車体のふらつきにオレがバランスを崩すと同時、遠耳にコーラの栓を開けたような音が鳴り。
(;'つ`)「うわぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁあ!!」
2トンハンマーで殴られたような衝撃と共に、オレ達を爆炎が包んだ。
(,;メД#)「っあぐぁあ!?」
玩具のように為す術もなくオレは宙を舞う。
落下の衝撃が体を襲い、全身の傷口が絶叫を上げ、アスファルトに転がる体。
気が遠くなりそうな痛みに顔を歪め、顔を上げれば。
【=:Φ:】『こちらキリル一等兵。ポイント・アキームにて、対象を確認。これより殲滅を開始せり』
紅蓮の炎。燃え盛るバイクの残骸。
ガンメタルに輝く甲冑がグレネードマウントを装着した50ミリライフルを構え、オレへと重々しく歩いて来ていた。
(,;メД#)「ちぃっ!」
満身創痍に鞭を打ち、体に力を入れて立ち上がる。
内骨格の悲鳴を聞きながら計った彼我の距離は、五十メートル強。
強化装甲服(アーマーギア)の進行速度を考えれば、何とか逃げられる。
- 18
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:33:57.80 ID:7KTh8VYGO
- (,;メД#)「どこか…逃げ道は……」
霞む視界の中、左右に目をさまよわせれば、右手に裏路地の暗がり。
考えるより先に、体が動いた。
生存本能が野獣の如き強力で全身の痛みを抑えつけ、オレの体は裏路地へと転がり込む。
一拍遅れて豪雨の如き銃声が響き、対物鉄鋼弾の群れがオレの元居たアスファルトを削り砕いた。
追撃を回避する為に、オレは光学迷彩を起動する。相手がサーモセンサーを搭載していようが、オレの強化外骨格は熱を外に出さない。
これで一先ずは凌げるだろう。
(,,メД#)「……」
背中合わせの死に、再び湧き上がる高揚感を理性で押し止め、オレは一人呟く。
(,,メД#)「兄貴……」
自分でもそれが、酷く弱々しいものに思えた。
- 19
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:35:56.57 ID:7KTh8VYGO
- ※ ※ ※ ※
(;'A`)「最悪…だ……」
ニダーが最後に立っていたであろう小路を、炎越しに見つめる。
これで、彼に死なれでもしてみろ。
昨日からオレ達がくぐり抜けて来た戦場とか、さっき擦りむいた膝小僧の傷とか、今回の弾薬費とか、その他諸々が全てパーだ。
(;'A`)「あぁ…死にてぇ……」
从゚∀从「まだ彼が死んだとは限らん。可能性が有る限り、任務は継続するべきだ」
('A`)「……なぁ、安楽死に必要な書類ってどこで発行してくれんの?」
从゚∀从「所望なら私が書類無しで行うが?」
今世紀稀に見る最悪な出来事だ。
ドクオズ・ミステイク・オブ・ザ・センチュリーだ。
審査員席で太鼓腹の禿爺が、スタンディングオベーションしてやがる。
『見事なまでの大失敗だった。正直、ここに来てこのクォリティには驚いた』
うるせえハゲ。オレも意外過ぎて小便チビるとこだったよ。
(;A;)「あぁ…オレの金が……」
跪き、むせび泣くオレ。
あぁ、あれも買いたかったこれも買いたかったなんて、エロゲのタイトルを思い出していると、再びあの忌まわしいエンジン音が耳に飛び込んで来た。
- 20
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:38:19.88 ID:7KTh8VYGO
- (;'A`)「また…来やがったのかよ……」
もうてめぇらの獲物はここには居ねぇよと、脳内で悪態をつきながら立ち上がる。
大通りの向こう、霜柱を割りながら近付いて来るソードフィッシュの群れ、群れ、群れ。
総勢17台のバイクの集団が掲げているのは、ヘブンズゲートの旗。
冷えた空気を震わせて、彼らはエンジン音を轟かせ。
(#@Д@)「ぶっ殺せぇぇぇえ!」
一斉にオレ達目掛け、そのタイヤを向けた。
(;'A`)「だから何でオレらなんだよ!?」
从゚∀从「知らぬ。この場合そんなものはどうでもいい」
- 21
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:39:16.03 ID:7KTh8VYGO
- 剣魚というよりは、猛牛か。
怒涛の勢いで迫り来る彼らの得物は皆一様に長ドス。
オレ達が奴ら全員をシモ・ヘイヘ宜しく蜂の巣にするのが先か。
それとも奴らがオレ達をアスファルトの染みにするのが先か。
結果は明白だ。
从゚∀从「この場合、重要なのは……」
('A`)「オレ達の保険金が、誰に渡るかって事か?」
从゚∀从「いや、違う」
('A`)「じゃあ何だよ」
从゚∀从「如何にして、流れ弾に当たらないようにするか、だ」
- 22
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:40:58.73 ID:7KTh8VYGO
- 言うが否か、オレを横合いから抱きすくめるようにして押し倒す鬼畜機械娘。
(*'A`)「ちょ!積極的過ぎ……」
直後、ヘリのローター音と勘違いする程に壮絶な銃声が、ストリートを揺らした。
(;'A`)「な、何だ!?何だ何だ!?」
レイプ機械に覆い被さられたオレは、何が起こって居るのかもわからずに戸惑うばかり。
機関砲か何かの間断無い掃射音が鼓膜を痛めつけんばかりにがなり、次々と爆音が上がる。
銃声、悲鳴、怒号、絶叫、爆発、熱波、薬莢の落下音、何か重い物が地を歩むような音。
从 ∀从「おい、性欲の権化」
オレに覆い被さったまま、鬼畜機械娘が耳元で怒鳴る。
从 ∀从「私が貴様の上から退いたら、直ぐに目の前の裏路地へ飛び込め」
(;'A`)「ちょっ!一体何が起こって……」
从 ∀从「『シベリア』だ。いいから行け!」
怒鳴り声と同時、背中に押し当てられていた「やぁらかい」膨らみが離れる。
(*'A`)「あっ…もうちょっとだけ……」
从# ∀从「何をしている!早くしろ1ビット脳!」
尻を蹴飛ばされ、オレは仕方無く目の前の裏路地へと駆け出す。
- 24
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:43:04.13 ID:7KTh8VYGO
- 飛び交う銃弾に頭を低くし、滑り込む。
壁に背を預け、腰を下ろしたところで大通りで一際大きい爆発音がした。
(;'A`)「うぉっ!?」
思わず肩が震える。
(;'A`)「大丈夫か、ハイ……」
大通りへ目を向けたオレは、そこで言葉を失った。
(;゚A゚)「おまっ……」
壁に手をつき、かろうじて立つハイン。
黒のワンピースは右肩口から半分がずたずたに破れ、そこから覗く右半身の人工表皮は焼け爛れ。
从メ∀从「全ク…貴様が…もタもたシテいるカら……」
顔面の右半分から特殊カーボネイドの茶色の装甲が、剥き出しになっていた。
- 26
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:45:13.06 ID:7KTh8VYGO
- (;'A`)「あっ…おっ……」
言葉を紡ごうにも、舌は回らず。
壮絶な出で立ちの彼女を前に、口を魚みたいにぱくつかせる事しか出来ないオレ。
从メ∀从「…ドけ…!」
そんなオレに構わず、彼女は右手にぶら下げたP90を片手で持ち上げる。
(;'A`)「……?」
その銃口が向けられた先は、オレの背後。
振り返る。
(,,メД#)「あ…がっ…ぎぎぎ……」
そこに、もう一人の半死人が居た。
- 27
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:47:03.27 ID:7KTh8VYGO
- ※ ※ ※ ※
━━背中を預けた扉を、衝撃が伝う。
<ヽ●∀●>「何時からここは鈴鹿サーキットになったんだ?騒がしくてかなわん」
懐を弄り、葉巻を切らしていた事に気付いた。
(、`〜´)「兄貴、どうぞ」
舎弟の一人が、自分の煙草を差し出したのを受け取り、火を貰う。
<ヽ●∀●>yー~「すまんな」
立ち上る紫煙越しに室内を見渡せば、そこはどうやら元はモーテルだったのか。
板で打ち付けられ窓から漏れる日の光に、木でできたカウンターが浮かび上がっていた。
突然の襲撃者達から逃れるよう、駆け込んだドアの向こう。
見回せば、そこに立つのは三人の部下達。あの何でも屋達の姿は無い。
先のどさくさではぐれてしまったのだろう。
<ヽ●∀●>yー~「まったく。ジャパニーズはきっちり仕事をこなす、真面目さだけが取り柄だと聞いていたが……」
はぐれてしまったものは仕方ない。
そんな事より今は、何よりも優先させなければいけないことが有る。
<ヽ●∀●>「……取りあえず、外の様子を確認するぞ」
- 28
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:49:05.29 ID:7KTh8VYGO
- そう、部下に指示を出した時。
天井から、誰かが動くような物音がした。
(;、`〜´)「あ、兄貴……」
<ヽ●∀●>「間抜けな“トム・キャット”のお出ましだ」
耳を澄まし、ベレッタM76を構え、音の位置を探る。
みしり、みしり、と天井を軋ませ歩く何者か。
その動きが我が頭上でぴたりと止まった瞬間。
<ヽ●∀●>「そこだ!」
カウンター脇の階段から顔を出した“そいつ”目掛け、引き金を引く。
苦鳴を漏らしながら、転げ落ちるヤクザ風の男。
ワンテンポ遅れて、我が舎弟達が天井へ向けてサブマシンガンを乱射した。
上階で、何かの倒れる音。
それに続いて、天井を慌ただしく駆ける足音が続く。
<ヽ●∀●>「ちっ…クリスマスパーティーでもやってやがったか?」
三人ではこちらが不利か。
階段を駆け下りて来る奴らへ向かって牽制の弾を放ち、室内を見渡す。
打ち付けられた窓のうち、一つだけ板の釘が外れかかったものを発見。鉛玉を叩き込み、脱出路を確保。
- 30
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:53:23.73 ID:7KTh8VYGO
- <ヽ●∀●>「おい、お前ら……」
舎弟達を振り返る。
(;、`〜´)「兄貴は先に行って下せぇ!」
(;ヽ━〃━)「オレ達が足止めしやすから!早く!」
<;ヽ●∀●>「何をいっちょ前に……」
(`∵´;)「大将を失うわけにゃいかんでしょう!孫子も言ってます!」
サブマシンガンで応戦する彼らの言葉に、束の間、迷う。
迷う間も、激しくなる銃撃。流れ弾の一つが頬を掠めたところで、決心がついた。
- 31
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:54:03.23 ID:7KTh8VYGO
- <ヽ●∀●>「すまんな……」
背後に迫る銃声から逃れるよう、窓枠からダイブ。
アスファルトを転がる我が身。その慣性を利用し立ち上がり、振り返る。
<;ヽ●∀●>「ちっ……」
屋内から響く銃声と、断末魔。それが全てを伝えた。
<#ヽ●∀●>「……」
ベレッタM76のグリップを握る手に力がこもる。
胸の中で憤怒が渦を巻くのを自覚した。
だが、今はそれに構っている場合では無い。
<ヽ●∀●>「お前らの分も、きっかり勘定にいれとくぜ」
今にも溢れ出そうとする憤激と殺意を無理矢理に飲み下し、銃声に背を向け走り出す。
今はただ、奴だけを目指して。
- 32
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:56:27.19 ID:7KTh8VYGO
- ※ ※ ※ ※
━━櫛を洗面台に置き、鏡を覗く。
ミ,,゚Д゚彡「こんなもんか」
真っ黒に染め上げた自らの長髪を指ですき、オレは後ろの壁にかかった黒のトレンチコートを羽織った。
ミ,,゚Д゚彡「我ながら、なかなか似合うじゃねぇか」
数十分前にヘブンズゲートの一人から掛かって来た電話の内容を思い出す。
やはり、オレの予想は間違っていなかった。
奴らは、黒狼が……ギコが、オオカミの中核を担っていると思いこんでる。
「若ぁ!陳龍のボスの居場所がわかりやしたぜ!」
洗面所の扉越しに、舎弟達が出発の合図を告げる。
オレは無言で壁に立てかけた日本刀を握ると、もう一度鏡を見つめた。
ミ,,゚Д゚彡「……なぁ、ギコ」
知らず、呟く弟の名。
ミ,,゚Д゚彡「悪いが、オヤジの仇はオレが討たせて貰うぜ」
鏡の中のオレは、まさにその弟と瓜二つだった。
- 33
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 21:58:13.34 ID:7KTh8VYGO
- ※ ※ ※ ※
━━銃口を塞いだ手に、心なしか力がこもる。
从メ∀从「ドウいウ…つモり…ダ……」
人工角膜が剥がれ、剥き出しになったハインのカメラアイが、収縮を繰り返する。
オレはゆっくりと、押し殺すようにして言葉を吐き出した。
('A`)「こいつを撃つことは、許さない」
背後でうずくまる、満身創痍の鬼神を振り返る。
焼け爛れ、造形が崩れた顔はケロイド。
(,,メД#)「……」
彼はハイン同様、オレの行動が理解出来ないとでも言うように、こちらに訝しげな目を向けて居た。
从メ∀从「何故…ダ?そイツは…敵だゾ?」
('A`)「それは知ってる。だけどよ、このとおりずたぼろで虫の息だ。わざわざオレ達が殺すまでもねぇよ」
从メ∀从「……納得出来ンな」
予想通り、ハインはオレの言葉にもトリガーから指を離そうとしない。
だが、ここで彼女に発砲を許可する事は出来ない。
それは意地だった。
あの秋の終わりの日、“黒狼”に曲がりなりにも命を救われたオレが立てた、クソ下らない意地だ。
- 35
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:02:13.42 ID:7KTh8VYGO
- ('A`)「これは命令だ、ハインリッヒ。今回に限り、こいつを撃つことを禁じる」
从メ∀从「……了承した」
“命令”という単語をオレは嫌う。
それを知るハインは、オレが本気だと悟ったのか大人しく銃口を下げた。
('A`)「あんたには、あの時見逃して貰ったからな。今度はオレが見逃す番だ。これで貸し借りは完全にチャラだ」
貸し借り。オレと“黒狼”の間に有るのは、ただ、それだけ。
- 36
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:02:38.98 ID:7KTh8VYGO
- (,,メД#)「……」
こいつには初対面からろくな目に合わされていないのだ。
誇り高き武人を気取っているようで、実の所は薄汚い殺し屋をやっているというところも気に入らない。
つまるところのそれは、同族嫌悪。
('A`)「どこへなりとも、さっさと消えろ」
だから、背を向け立ち去ろうとする“黒狼”が振り返り。
(,,メД#)「……心遣い感謝する」
頭を下げたとき。
('A`)「……待てよ」
オレが奴を呼び止め。
('A`)「……お前を、ニダーが狙ってる」
そんな言葉を口走ったのは。
('A`)「身内の仇として、な」
ただの気紛れだ。
- 37
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:04:48.95 ID:7KTh8VYGO
- (,,メД#)「……そうか」
“黒狼”は一瞬顔を歪め。
(,,メД#)「お互い様……ってわけか」
意味深な呟きを残し、光学迷彩を起動した。
('A`)「……」
オレは、奴が消えた辺りの虚空を見つめる。
お互い様。
奴の言葉は、この復讐劇のもう一つの側面をほのめかすかのよう。
だとしたら、因果な話だ。
互いに互いを仇として、殺意を抱き、殺し合う。
殺し殺され、幾つもの憎悪と怨恨を生み、それは鎖の如く連綿と続く。
('A`)「……悪循環、だな」
从メ∀从「いヤ……負の連鎖ダ」
ハインの訂正する声が、朝靄の残り滓の中に虚しく響いた。
- 38
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:06:51.12 ID:7KTh8VYGO
- ※ ※ ※ ※
━━日の出の終わりの刹那は、一種独特の静けさを伴って訪れた。
遠くでこだます銃声も、今はどこか遠い世界のものに思える。
血と、硝煙に包まれた万魔殿も今は、神殿の如き静謐の中にあった。
ミ,,゚Д゚彡「おあつらえむきだ。何もかも、あおつらえむきの日だ。……そうは思わないか?」
日本刀の柄を軽く握り締め、オレは目の前に立つ男を見据える。
<ヽ●∀●>「一騎打ちにはもってこいの演出だと。そう言いたいのか?」
コートのポケットに手を突っ込みオレに背を向けたそいつは、口の端に笑みを浮かべながら振り返った。
<ヽ●∀●>「まるでOK牧場の決闘だな。“抜きな。どっちが速いか試してみようぜ”ってか?」
仇。
そいつは、殺すべき相手。
オヤジの、西村の、オオカミの、仇。
この八年間、オレが泥の中を這いずり回って追い掛けてきた、オレの全て。
陳龍が香主、ニダー。
ミ,,゚Д゚彡「悪くない趣向だ。だがよ、そんなもんはお飾りにしても些かちゃちい」
- 40
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:10:12.02 ID:7KTh8VYGO
- <ヽ●∀●>「そうだな。この復讐劇の幕引きには、それは余りにもお粗末な装飾だ」
そう言って、奴は丸サングラスに手をかけてそれを外し。
<ヽ†∀´>「そんなお飾りは、“黒狼”…お前さんが殺したヒッキーに対する、侮辱以外の何ものでも無い」
その下に隠れた、隻眼をオレの前に晒した。
<ヽ†∀´>「覚えてるか?ヒッキーを。覚えてるか?お前さんに付けられた、この傷を。ウリは忘れもしない。目を閉じる度にこの傷が疼くからな」
元は細くつり上がっていたであろう、瞼。
そこを縦に走る裂傷は、おそらくは刀傷。
奴はその傷が、オレの握る日本刀によって付けられたものだと思い込んでいる。
昨日の襲撃以来、敵情視察の報告を聞く度に奴が“黒狼”を執拗に追い掛けている事が舎弟達の口に登っていた。
ギコに何の恨みが有るのかは知らない。
だが、奴には死ぬまでオレをギコだと思っていて貰う。
それが、オレが出した「もう誰も死なせない」という数式の解。
その為にわざわざ黒いトレンチコートにボディアーマー、日本刀まで揃えてオレは“黒狼”を演じるのだ。
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名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:12:53.89 ID:7KTh8VYGO
- ミ,,゚Д゚彡「お互い様だ。こっちも、てめぇらには数え切れないだけの身内が世話になった。
おかげで、予定していたクリスマスパーティーの人数が合わなくて困ってる」
<ヽ†∀´>「それは済まない事をした。詫びといっちゃあ何だが、ここで代わりのクリスマスパーティーを開かないか?」
ミ,,゚Д゚彡「二人だけでか。はっ、そいつぁ薄ら寂しいな」
<ヽ†∀´>「なに、退屈はさせないニダ。むしろ、最高に盛り上がる事を保証する」
ミ,,゚Д゚彡「……確かに。最高に、盛り上がるだろうなぁ」
二人、向き合う、ストリートの上。
冷えた空気の中、腰を落としたお互いの間。流れるのは、沈黙。
今にも落ちてきそうな空の下、交錯するのは殺意と憎悪。
じり、とニダーの足が動いた。それが合図。
ミ,#゚Д゚彡「最高になぁぁぁぁあぁああ!!」
地を蹴り、飛び出し、疾駆。
目の前の仇だけを見据え、日本刀を引き抜く。
<#ヽ†∀´>「遅いッ!」
同じく右手で拳銃を引き抜くニダー。
閃くマズルフラッシュ。吐き出される弾丸。
- 42
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:15:13.64 ID:7KTh8VYGO
- 着弾。鈍い衝撃が肩口を貫くもオレの前進は止まらない。
ミ,#゚Д゚彡「あぁぁぁあぁぁぁあ!」
続けざまに引かれる引き金。
次々と身に食らいつく弾丸。血しぶきを撒き散らし進むオレが、奴の懐に飛び込む。
血路を開くとはこの事か。
ミ,#゚Д゚彡「ニダァァァァァァァァアア!!」
とっさに引き金を引くニダー。
しかしその銃口から弾が吐き出されることは無い。弾切れだ。
<;ヽ†∀´>「ちぃっ!」
ミ,#゚Д゚彡「死ぃぃぃいいねぇぇぇえ!!」
大上段に構えた日本刀。
後ろ腰へ手を伸ばすニダー。
刃が先か、弾丸が先か。
赤の飛沫が、宙に弧を描いた。
- 43
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:17:08.65 ID:7KTh8VYGO
- ミ,,゚Д゚彡「……」
<ヽ†∀´>「……」
静寂。
二人、固まったまま、動くものは無い。
その背後で、血の赤だけが、スローモーションのように地へ降り注ぐ様をオレは見つめ。
- 46
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:22:47.87 ID:7KTh8VYGO
- ミ,,゚Д゚彡「……ぁ」
オレは、膝をついた。
<ヽ†∀´>「……呆気ないもんだな」
体の力が抜ける。
それに任せて、身を地面に横たえた。
<ヽ†∀´>「……本当に、呆気ないもんだ」
- 47
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:23:47.36 ID:7KTh8VYGO
- 苛立たしげな言葉を残し去っていくニダーの背を見つめながら、ぼんやりと考える。
これで、あいつはギコがもう死んだと思うのだろう。
そうすればもう、ギコが奴らに狙われる事は無い。
結局、オヤジの仇を討つのはしくじったが、それでもここで不毛な復讐ごっこが終わるなら、それでいいか。
ああ…でも、あいつの事だからな。オレが死んだら、真っ先に陳龍の奴らの中に突っ込んで行くんだろうな。
ははは。結局、オレは何にも解決出来てないわけか。
情けないな。こんなとこで犬死になんてよ。
ミ,,゚Д゚彡「情けねぇ…よな……」
- 48
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:27:49.30 ID:7KTh8VYGO
- ちらほらと、雪が舞い落ちてきた。
……そう言えば今日はクリスマスイブだったな。
しぃはどうしてるんだろうな。
今頃、病室の中で膨れっ面してるんだろうな。
済まないな、しぃ。妹との約束も守れないような、ダメな兄貴でよ。
それでも、プレゼントは荒巻の爺に預けてるから大丈夫か。
ああ、でも、あの爺は当てにならないからなぁ。
どうしたもんかなぁ。
埋め合わせようにも、体が動かねえしなぁ。
あーあ畜生。何一つ、約束守れてねぇや。オレ。
カッコ悪いな。ダサいな。
- 49
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:30:12.00 ID:7KTh8VYGO
- ミ,,;Д;彡「ホントに…ダサい…よな……」
ごめんな、しぃ。オレはお前に何もしてやれなかったな。
ごめんな、ギコ。お前には迷惑ばっかかけてたよな。
ごめんな、オヤジ。結局仇は討てなかったよ。
ミ,,;Д;彡「ごめ…んな……」
……くそ、何だか頭がボーっとして来やがった。
眠い。めちゃくちゃ眠い。
待てって。まだ、みんなに謝ってねぇんだ。まだ寝るわけにはいかねぇ。
おい、待てって。
まだ、寝る…わけ…に……は……。
ミ,, Д 彡
━━。
- 51
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:31:52.27 ID:7KTh8VYGO
- ※ ※ ※ ※
━━降り出した雪に、顔を上げる。
灰色の雪雲に隠され、太陽は見えない。
日の出は終わっていた。
('A`)「……」
視線を戻す。
目の前で、ボロボロの強化外骨格に覆われた男が、俯いていた。
(,,メД#)「……」
はぐれたニダーを捜すため、ハインに彼の携帯端末の位置情報を検索させ、走った先。
万魔殿の奥、名も無き通りの真ん中。
辿り着いたそこに、既に彼の姿は無く。
(,,メД#)「兄貴……」
目を閉じ、横たわった男と、それを前にうなだれる黒狼が、この戦いの終わりを無言のうちに告げていた。
- 52
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/12/25(木) 22:32:21.28 ID:7KTh8VYGO
- 从メ∀从「…解せンな」
ハインの呟きが、オレの胸中を代弁する。
ニダーが追っていたのは、“黒狼”では無かったのか。
なのに何故、その“黒狼”は今、オレの目の前で俯いている。
('A`)「わからねぇ。わからねぇよ」
ただ一つ言えるのは。
(,,メД#)「……殺して…やる」
この復讐劇がまだ、終わっていないという事だけだった。
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