6 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:07:38.44 ID:ThVpq98xO
〜track-β〜

━━月の光が雪雲に隠された、ニーソクの空。
街頭の光が何年も前に供給を断たれたスラム街。
真闇の「万魔殿」に立ち込めるのは、糞弁と下水と血の混ざった、異臭。
約束の時間から半刻程遅れて、オレはそこに辿り着いた。

ミ,,゚Д゚彡「すまねぇな、おめぇら。ちょいと用事が長引いちまってよ」

廃ビルと、廃ビルと、廃ビルに囲まれたエアポケットのような空間。

(メ▼皿▼)「なぁにを言ってんだ、フサさんよ」

(´と`=)「フサさんが時間にルーズなのは何時ものこってしょ」

「ヘブンズゲート」創設時代から、オレ達がたまり場にしていたそこには、既に二人が集まっていた。

ミ,,゚Д゚彡「田島、てめぇいつからいっちょまえに生ぁ言えるようになった?」

鼻の頭を赤くした垂れ目の、頭を叩く。
最も、こいつは万年トナカイだが。

(´と`=;)「ってぇ〜。ホント、フサさんはヤクザんなっても変わらねえもんなぁ。すぐゲンコだもんよぉ」

ミ,,゚Д゚彡「ばあろう。おめぇが成長してねぇだけだよ」

(メ▼皿▼)「ぶひゃひゃwwざまぁwww」

ミ,,゚Д゚彡「おめぇもだよ、三本松」

7 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:09:23.65 ID:ThVpq98xO
サングラスに頬の傷がトレードマークの似非ギャングスタにも、同じく拳骨進呈。

(;メ▼皿▼)「な、なんでオレまで……」

こいつらとは、昔から何も変わらない。

オヤジがヤクザの頭だという事に我慢出来なくなったオレが、“族”を始めると言った時、一番始めに集まったのがこいつらだった。

高校時代からよく連んでたこの二人は以来、「ヘブンズゲート」が周りのチームを吸収してデカくなっていく中でも、ずっとオレの隣に居た。
オレが“族”を止めて西村組を継ぐと言った時、「ヘブンズゲートのメンバーを加えて新しい組にしやしょう」と言ったのは、他ならぬこの二人だ。

初めはそんな荒唐無稽な事は不可能だと思っていた。

だが、オヤジの暗殺のゴタゴタに巻き込まれて西村は多くの古参組員を失って、疲弊し切っていた。
だからだろうか。
“走り”と“暴力”しか知らないこいつらは、何とか西村の元組員達に受け入れられ、オレ達は「オオカミ」としてストリートに再び産声を上げる事になった。

8 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:11:33.82 ID:ThVpq98xO
(´と`=*)「ひゃひゃひゃ!たんこぶ!三本松おめぇたんこぶできてらぁ!」

(*メ▼皿▼)「おめぇもな!ぶひゃひゃ!たんこぶ!おそろのたんこぶ!」

いや、もしかしたら、こいつらの根っこの部分にある「真っ直ぐ」な部分が、西村の奴らにもわかってたのかも知れない。

ミ,,゚Д゚彡「まぁ、“真っ直ぐ”っつうか…こりゃ、ただのバカか」

(´と`=*)「ひゃひゃひゃ!バカバーカ!三本松のバーカ!」

(*メ▼皿▼)「おめぇもな!バカバーカ!田島のバーカ!」

……これは酷い。
取りあえずもう一発ずつ拳骨か。

9 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:12:11.66 ID:ThVpq98xO
(´と`=;)「いてぇ!」

(;メ▼皿▼)「ぶふっ!なんでオレまで……」

ミ,,゚Д゚彡「遊んでる場合かよ、すっとこどっこい。……おい田島ぁ。おめぇ、電話で言ってたアレ、詳しく聞かせろや」

オレが目を細めたのを見て取って、二人も表情を引き締める。
いや、引き締めるというよりこれは……。

(´と`=;)「……」

(;メ▼皿▼)「……」

言い出しづらそうに俯く二人。

ミ,,゚Д゚彡「……どうした。はっきり言えや」

10 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:14:09.57 ID:ThVpq98xO
(;メ▼皿▼)「その…フサさん…落ち着いて、聞いてくれよ…」

ミ,,゚Д゚彡「…何だ。もったいぶってねぇで早く……」

(´と`=;)「神田の旦那が…殺られた……」

ミ,,゚Д゚彡「……」

(´と`=;)「夕方頃、ニーソクで陳龍の頭を見つけたって旦那から連絡があって、そいつを追うっつったまま……」

(;メ▼皿▼)「旦那は、てめぇの服につけてた盗聴器で、奴らの会話の一部始終を聞かせてくれやした……旦那が、撃たれる、様まで、はっきりと……」

ぽたり、と。誰かが流した涙の雫が雪をそこだけ溶かした。

ミ,,゚Д゚彡「神田の、おっさんが……」

神田。元西村組の古株で、15代目の暗殺騒動での唯一の生き残り。
泣きぼくろが印象的な、オレにとっては二人目のオヤジみたいなおっさんだった。

(´と`。=)「旦那は…一旦ぶち切れると、見境ねぇって…わかってたのに…オレ…電話を受けた時も…止められなくて……」

田島が、鼻をすすり上げる。

(メ。う皿 )「違ぇよ…オレが…旦那が、事務所を出ていく時に…引き止めらんなかったからだよ…畜生…畜生……」

三本松が、サングラスをとり腕で顔を覆う。

11 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:16:16.55 ID:ThVpq98xO
ミ,,゚Д゚彡「……それで」

(メう皿;)(;と;=)「…?」

ミ,,゚Д゚彡「神田のおっさんは、最後に誰と会ってたんだ」

オレは、白い吐息と共に静かに言葉を紡ぐ。

(´と`=)「……何でも屋だよ、フサさん。どこの何でも屋かは知らねぇが、奴ら、横浜に援軍を呼びに行くみてぇだ」

ミ,,゚Д゚彡「……援軍」

(メ▼皿▼)「明日の五時にニューソクの中華街で落ち合って…そっから車で行くって…約束を取り付けてた」

ミ,,゚Д゚彡「……」

(´と`=)「盗聴器の事は、奴らにバレてる。陳龍の親玉の方はどうかわからねぇが、何でも屋の方は最後に気付きやがった」

……援軍を呼びに。どれだけの数を向こうが用意するかは知らないが、そんな事をされたら今のオオカミでは一日と保たずに皆殺しにされる。
オオカミがこの8年間、陳龍の目をかいくぐって何とかシノギを上げられていた理由は二つ。
一つは、学生相手にグレーゾーンの合法ドラッグを、本物には手を出すなと釘を刺して売っていた事。
二つは、元西村組の者以外は「ヘブンズゲート」のメンバーが主だったから、特定の事務所を持たなくてもよかったことだ。
13 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:18:19.54 ID:ThVpq98xO
特に二つ目の理由は、こと抗争時に及ぼす影響が大きい。

今現在、正式にオオカミの事務所として機能しているのは、オレがねぐらとしているニーソクのアパートの一室だけだ。

例外的に、合法ドラッグの仕入れの時だけ、ビルの貸しテナントを借りて即席の事務所を興すが、それも仕入れが終われば引き払う。

今まで小規模運営を心掛けていたオオカミは、そうやって陳龍の襲撃をかわしてきた。

だが、それも向こうが本格的に“戦争”を始めるとなったら、話は別だ。

陳龍は、恐ろしく執念深く、用意周到で、抜け目ない。
増援を呼んだとなれば、きっと虱潰しにニーソク……いや、VIP中を探し回り、オレ達を見つけ出して根絶やしにするつもりだろう。

(´と`=;)「……フサさん」

(;メ▼皿▼)「どう…しやすか……」

二人が、縋るようにオレを見上げる。

ミ,,゚Д゚彡「……」

こいつらは、喧嘩は強い。そう、喧嘩までは。殺し合いとなると、話は別だ。
チャカを持ってまともにドンパチ出来るのは、元西村の組員でもそう多くは無い。せいぜい、二十人かそこそこだろう。

14 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:20:37.71 ID:ThVpq98xO
ミ,,゚Д゚彡「……気付かれたとはいえ、今何でも屋に仕掛けるのは、得策じゃねぇ」

(´と`=;)「……」

ミ,,゚Д゚彡「その何でも屋ってのが、まだどんな奴かはわからねぇ以上、今は手を出せねぇ」

(;メ▼皿▼)「じゃ、じゃあどうしろって……」

ミ,,゚Д゚彡「慌てんなよ、間抜けぇ。奴ら、どこに、何で向かうって言ってやがった?」

(´と`=;)「え…と…横浜に……」

(;メ▼皿▼)「車で…」

ミ,,゚Д゚彡「ここから横浜に行くには、ハイウェイしかねぇ。下道じゃ、時間が掛かりすぎる」

(;メ▼皿▼)(´と`=;)「「…………」」

ミ,,゚Д゚彡「てめぇらの十八番は何だ?」

(;メ▼皿▼)(´と`=;)「「まさか…!」」

ミ,,゚Д゚彡「明日の四時まで、VIP、横浜間のハイウェイにみんなを集めろ」

目を閉じ、空を見上げる。

ミ,#゚Д゚彡「ヘブンズゲート、一日限りの復活パレードだ」

仇ばかりが増える。全く、嫌な業界だ。
16 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:21:53.51 ID:ThVpq98xO
 ※ ※ ※ ※

━━早朝の中華街。昼間は人でごった返すそこが静寂のうちに佇む姿は、逆に不気味なものだった。

('A`)「清々しい朝ですね。オレ達の未来は明るいってか?ねーよ」

眠い目を擦りながら、オレは改めて自らの格好を顧みる。

('A`)「まるで、これから釣りに行くみたいだな……」

釣り竿ケースに、クーラーボックス。
ダウンジャケット…に見える防弾チョッキ。

从゚∀从「釣果だったら心配するな。間違いなく大漁だ」

('A`)「そのフォローは全然嬉しくないです」

釣り竿ケースの中には、ライオットガンとパンツァーファスト。
クーラーボックスにはP90と手榴弾、諸々の弾薬がギッシリ。
釣りじゃなくて戦争に行くのが、本当に残念だった。

('A`)「ここまで重武装してきてなんだが……正直、これでも不安が残るぜ」

昨晩、盗聴器を見つけ出したオレは、翌日に奴らが確実に襲撃してくると予想。
携帯出来る限りの銃をかき集め、貰った手付け金で「弾薬のコンビニ」からありったけの弾丸と手榴弾を買い込んだ。
18 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:24:13.75 ID:ThVpq98xO
从゚∀从「貴様は判断力に欠けている。何が出て来ようと、私の格納兵装だけで十分だ」

('A`)「お言葉ですがねぇ、君の格納兵装なんてのはあくまで非常時のサブウェポンみたいなもんなの。強化外骨格とか出て来たら、通用しないんだから。おk?」

从゚∀从「ならば、光学剣で切り裂くまでだ」

('A`)「車上で襲われたら?」

从゚∀从「投げつける」

('A`)「……」

从゚∀从「冗談だ。真に受けるな。貴様の緊張を解す為のいわばガス抜き行為だ」

なんかこいつに心配されるのもしゃくだな。オレの保護者かと。

从゚∀从「貴様の保護者としては当然の行為だ」

('A`)「……もう何も考えるまい」

情けなすぎて溜め息が漏れた。

('A`)「しかし、遅いな。もう十分の超過だ」

待ち人を捜して、中華街の中を覗き込む。
普段なら毒々しいネオンが輝いてる筈のそこは、朝靄の中に佇む商店街のような様相をしていた。

しばらくそのめったに見られない光景(オレは基本的に夜型人間だ)を眺めていると、アーケードの向こうから黒い塊がこちらへ接近してくるのが見えた。
20 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:26:35.62 ID:ThVpq98xO
('A`)「……重役出勤乙です」

まぁ確かに重役な訳だが…なんてセルフ突っ込みを侘びしくいれてる合間にも、それは緩やかに近づいて来て、オレ達の前で静かに止まった。

(;'A`)「こいつは…すげぇや……」

感嘆の溜め息の原因は言わずもがな。
柩の如き黒。威風堂々たるフォルムは車の中の王者たる風格。
俗に言うベンツの後部座席が開き。

<ヽ●∀●>「早上好(ザオシャンハオ)、諸君。用意はいいニダ?」

丸サングラスの香主様が姿を現した。

('A`)「良い朝なわけあるかよ。用意ならもう十分過ぎるだけに整えた」

肩を竦めるオレ。
ニダーはそんなオレの格好を見て、苦笑いを浮かべた。

<ヽ●∀●>「おいおい、何だそりゃ。お前さんはピクニックでも行くつもりか?」

('A`)「ピクニックだったら最高に嬉しいんだがね」

本日何度目かの溜め息をつきながら、クーラーボックスを開けて中身を見せる。

<ヽ●∀●>「ほう…まぁ、用心深いのは何よりだ…だが」

ニダーは後腰のベレッタM76を一つ抜くと、おもむろに愛車のボンネットへ向けて引き金を引いた。
22 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:28:40.66 ID:ThVpq98xO
(;゚A゚)「うわぁぁあ!何やってんだぁぁぁあ!」

金の塊がぁぁぁあ!

('A`)「……あれ?」

持たざる者らしい叫びを上げたオレは、傷一つ無いボンネットに目をこする。

<ヽ●∀●>「ご覧の通り、この車はそこらの銃弾ぐらいじゃビクともしない。ちょっとした戦車みたいなもんニダ。だから、あまり心配するこたぁない」

香主様がベレッタM76を後腰に戻す。
確かに、これなら牛の群れが突っ込んで来ても大丈夫そうだ。

<ヽ●∀●>「……“だからこそ”、お前さんがこの車に傷一つでも付けた日には…」

(;'A`)「……」

<ヽ●∀●>「お前さんの大事な金玉が、クラッカーみてぇに弾け飛ぶと思ってくれ」

ぞっとしない事を平気で言ってのけ、彼は後部座席に身を沈める。

(;'A`)「……」

<ヽ●∀●>「どうした。看板みてぇに突っ立ってねぇで、早く出してくれ。日が暮れちまう」

(;'A`)「い、イエスボス」

オレはギクシャクした動きでもって助手席に荷物を置くと、運転席の扉を開く。

楽しい楽しいピクニックの始まりだ。
24 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:30:28.83 ID:ThVpq98xO
 ※ ※ ※ ※

━━窓外を望む。

灰色に曇ったモスクワの空は、何時もと同じように鈍色の雪を落としていた。

ノ从パ-ナル「クリスマスが近いそうだ、伍長」

シチリア島の本部から送られてきた“クリスマスカード”に目を通し、私はそれにオイルライターで火をつける。

ノ从パ-ナル「こんなモノを送り付けてくるとはな。……本部の連中は、随分と愉快な奴らが揃っているらしい」

/ ゚、。 /「……」

執務机を挟んで向かいに立つ、2メーター半は有ろうかという異形の大男は、何時ものように寡黙だった。

ノ从パ-ナル「我々がこのような辺境の地で“雪男”相手にチークを踊っている間、奴らは居間の暖炉の前で立食パーティーときた。何とも面白い連中じゃないか」

摘んだ“クリスマスカード”の七割が火に舐められ、焼け落ちていくのを確認して床に放る。

/ ゚、。 /「……」

それを、彼は無言のままに掴むと拳の中でもみ消した。

ノ从パ-ナル「何時もながら便利な特技だな、ダイオード伍長。金をかけた甲斐が有ったという事か」

25 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:32:21.83 ID:ThVpq98xO
小山のように盛り上がった肩、丸太のような腕、鎧のごとき胴。
一目見ればそれが軍用の全身義体だという事が、誰にでもわかるだろう。

ダイオード。

我が「シベリア」が一億という金を投じて作り上げた、鉄壁の城砦。「灰の二年間」を一緒に戦い抜いた同士にして、私が唯一信頼を置く騎士。

/ ゚、。 /「……軍曹。間もなく客人がお見えになります」

彼の言葉に半歩遅れるように、執務室の扉がゆっくりと開く。

(´・ω・`)「お久しぶりだね、ミスパーナル。それとも、軍曹と呼んだ方が?」

質素なボアのついたコートを着込み、白い息を吐く彼のしょぼくれた顔は、十数年前と全く同じで逆に違和感を覚えた。

ノ从パ-ナル「これは驚いた。……まさか本当にあなただったとはね、ショボン」

よそ行きの言葉で出迎えた私に微笑を浮かべ、彼は落ち着いた動作で革張りのソファに身を沈める。

(´・ω・`)「それにしても、相変わらずここは寒いね。革の手袋をしてきたのに、霜焼けが出来たよ」

そう言って手袋を脱ぐと、彼は真っ赤になった両手を見せ苦笑を浮かべた。

26 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:34:25.94 ID:ThVpq98xO
ノ从パ-ナル「私たちにはちょうどいい温度よ。何時もクールでいられるわ……でも、不思議ね。
確かあなた、ロイヤルハントのお役人達に脳髄を焼ききられて、今頃はトーキョーベイの下って話だったけど……」

執務机の引き出しからアーミーナイフと葉巻を取り出し。

ノ从パ-ナルyー~「私の聞き間違いだったかしら?」

葉巻の先端を、裁つ。

(´・ω・`)「……」

ノ从パ-ナルyー~「もし間違いだったら、うちの諜報部員に再教育が必要になるのだけれど……」

葉巻をくわえ、火をつけ、紫煙を吐き出す。

たゆたうモンテクリストの煙の向こうで、彼は相変わらずのポーカーフェイス。

(´・ω・`)「……僕が何故、“フラットライン”と呼ばれるか。あなたなら、解ると思ってたが…」

落ち着き払った物腰。腹のうちを読めない顔。さりげない仕草の中に見え隠れする“ショボン”という人間は、確かに彼、本人であろう。

(´・ω・`)「脳波計表示が水平線(フラットライン)を描いたのは、何も一度や二度じゃないさ」

だが。それら全てを鵜呑みにするほど、私も馬鹿では無い。

27 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:36:27.41 ID:ThVpq98xO
ノ从パーナルyー~「……そうね。確かに、あなたは不死身さが取り柄だものね。じゃあ、さしずめ、私の目の前に居るあなたはゾンビってところかしら?」

私は鮫の笑顔を浮かべ、彼の瞳を見つめる。

(´・ω・`)「ははは、ゾンビは心外だな、ミスパーナル。別に僕の脳は死んでるわけじゃあない」

動じぬショボン。

ノ从パ-ナルyー~「……まぁ、いいわ。それで、今日はどういったご用件かしら?まさか、モスクワ観光に来たわけじゃないでしょう?」

そう。まぁいい。

彼が“誰”であれ、彼が、“フィクサーとして私たちに接触してくる限り”、私たちのする事は今も昔も変わらない。

(´・ω・`)「そう。今日は、あなた達『シベリア』にいい話を持ってきたんだ。聞くかい?」

ノ从パ-ナルyー~「お金の踊る話かしら?」

(´・ω・`)「あぁ、諭吉がタンゴを踊るような話さ。こないだ、今こうしてるみたいにトライアドの方に業務再開の挨拶に行った時の話なんだけどね……」

ノ从パ-ナルyー~「相変わらず精力的ね」

(´・ω・`)「ウェブで済むなら二秒とかからないんだけどね。この業界は、“生”を見せなきゃ信用は買えない」

28 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:38:30.17 ID:ThVpq98xO
その信用が僕の商売道具だからね、とつけくわえ。

(´・ω・`)「どうもね、彼らはVIPでのシマの拡大に手こずってるみたいで。ニーソク区、と言ったか……」

ノ从パ-ナルyー~「あぁ、ニホンのヨハネスブルグね。VIP…忌々しい名前だわ」

(´・ω・`)「あぁ。あなた達にとっちゃ、親の敵みたいなものだろうね。……で、だ。彼らはあなた達の大嫌いなニホン人に遅れを取っているらしい」

ノ从パーナルyー~「…確か、トライアドの日本支部を担当していたのは陳龍だったかしら。あそこのニダー香主殿は、時間制限付きのチェスというものを知らない」

(´・ω・`)「いや、一概に彼が無能とは言えないよ。彼らのチェスの相手は、オオカミだ」

ノ从パ-ナルyー~「オオカミ?流行りのドラッグか何かかしら?」

(´・ω・`)「あぁ、済まない。言い方を変えよう。相手は“黒狼”だ」

ノ从パーナルyー~「“黒狼”…黒狼か…な、る、ほ、ど、なるほどなるほど…ふふ…はは…それは確かに骨の折れる話ね」

ジャパニーズ・ニンジャ、と言えばこの業界では彼の事を指すほどに、“黒狼”の名は有名だ。

29 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:40:22.57 ID:ThVpq98xO
我々シベリアも、彼には何度か請負始末なんかを依頼した事があったが、腕は文句なしの三ツ星級だった。

(´・ω・`)「大体のところは分かったろう?トライアドとしても、VIPの…特にニーソク区の収益性の高さは手に入れておきたいらしくてね。
増員の兵隊を投入してでも、奴を叩き潰したいそうだ」

ノ从パ-ナルyー~「それで、私たちにその“兵隊”を貸して欲しいと?」

(´・ω・`)「いや、これは僕のお節介なんだけどね…確かあなた達は、表向きは傭兵派遣会社という名目でこのビルを借りてたと…そう、思うんだけども……」

ノ从パ-ナルyー~「あら、そうだったわね。でも、自分の尻も拭えないような黄色人種達の小間使いを派遣してやる義理は無いわ。それとも、あなたのお国では違うのかしら?世界の警察さん」

(´・ω・`)「米帝にだってそんな奴らは居ないさ。…それと……」

途端、今まで飄々としていた彼の目が鋭く細められ。

(´・ω・`)「ステイツの話は、今後二度と出さないでくれるかい?僕たちの友情の為に、ね」

凶人のごとき殺気を孕んだ彼が、姿を表した。
31 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:42:37.09 ID:ThVpq98xO
どのような事情が有るのかは知らない。
アメリカに生まれ、アメリカで育った彼は自らの祖国を病的なまでに毛嫌いしている。
いや、それは憎悪とすら言えよう。

ノ从パーナルyー~「友情か…ははは…確かに、私も喧嘩が嫌いよ、“フラットライン”。いいわ、約束しましょう。…で、続きは?」

(´・ω・`)「…あぁ。そう…あなた達は、以前にVIPのラウンジ区に、カジノが欲しいと言ってた事がなかったかい?」

ノ从パーナルyー~「あぁ、そう言えばそんな事も言ってたわね。“ベガス”みたいなカジノが欲しいってね」

(´・ω・`)「……」

ピクリ、とショボンの右手が動きかけたのが分かった。
だが、私はそれが動かないのを知っている。
彼は、私が現役を退いても尚錆び付いていない、機械化歩兵師団のロートルだと知っているから。
だから、私は口の端に笑みを浮かべて彼を睥睨する。

(´・ω・`)「ここで、陳龍共々トライアドに恩を売っておけば、カジノの一つや二つ、容易いんじゃないのかな、と思ってね」

つまり、陳龍に兵隊を貸す事でVIPへのシベリアの進出を援助して貰える…と。
33 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:45:55.55 ID:ThVpq98xO
ノ从パ-ナルyー~「ほお…カジノの一つや二つか…ふん…笑えぬな」

(´・ω・`)「……」

ノ从パ-ナルyー~「我々に、黄色人種を頼れとな。お前にしてはつまらんジョークだな、“フラットライン”。それで我々にどんなメリットが有ると?」

自然、普段の口調が出る。
忌むべき下等人種共と手を組むなど、肥だめに手を突っ込むのと変わらない。
それは甚だ我慢ならない行為だ。

(´・ω・`)「そうだな……」

“フラットライン”はしばらく思案するように溜めると。

(´・ω・`)「イエローモンキー相手に、イカサマポーカーが出来る事、かな」

頬を緩め、言い切った。

34 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:46:37.77 ID:ThVpq98xO
ノ从パーナルyー~「ふっ…ふふ…はははは……」

(´・ω・`)「どうだい?なかなか、面白いもんだろう?」

ノ从パ∀ナルyー~「はははははは!なるほど、ショボン。いや、やはりお前はなかなか面白い事を言う。普段なら、そんな申し出はホローポイントを添えて送り返してやるところだが……」

私は葉巻を左の掌に押し付け、火を揉み消す。
既に痛覚の無い義手はしかし、ダイオードのものよりも些か“消火”性には欠いていた。
36 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:49:23.85 ID:ThVpq98xO
ノ从パーナル「いいだろう。お前がそうまで言うなら、我々も腰を上げるとしよう。クリスマスにVIPでバカンスも悪くない」

(´・ω・`)「そうかい。僕としても、この業界に戻ってきてからの初仕事が上手く纏まって嬉しいよ。偽造ビザの方は任せてくれ。復帰祝いとしてサービスしておこう」

表情を緩め立ち上がるショボン。

ノ从パーナル「期待しているぞ、“フラットライン”。お前の仕事ぶりには、私も一目置いている」

背を向け、立ち去ろうとする彼は私の言葉に振り返り。

(´-ω・`)「お任せあれ」

昔のように、ダサいウインクを投げて部屋を後にした。

/ ゚、。 /「……」

閉まった扉をじっと見つめ、ダイオードはバリトンで呟く。

/ ゚、。 /「いいのでありますか、軍曹。奴は、どう見ても怪しい。我々は奴の死亡診断書も確認しております。奴は本来、ここに立っている筈の“人間”ではありません」

ノ从パーナル「……奴がショボンをかたり、我々を罠に嵌めようとする“何者か”、だと。そう言いたいのか?」

/ ゚、。 /「……肯定であります」
38 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:51:35.06 ID:ThVpq98xO
ノ从パーナル「伍長、お前の意見は正しい。警戒をするのに越した事は無いだろう。だがな、陳龍が“兵隊”を欲しているという情報に間違いは無い。それは、お前も知っているだろう?」

/ ゚、。 /「えぇ。自分が調べた事です。否定はしません」

ノ从パーナル「ならば、疑う事はもう何も無い。私にとっては奴が誰だろうが、そんなものはデビルレイズの試合結果よりもどうでもいい事だ。
それにちょうど、本部の連中も新しい“庭”をご所望だしな」

ダイオードの拳、その中で塵となっている筈の“クリスマスカード”を顎で示す。

ノ从パーナル「たまには我々にも派手なパーティーが必要という事だよ、伍長。ついでにイカサマポーカーでも出来れば、尚のことご機嫌だ。違うか?」

/ ゚、。 /「……」

尚も表情を緩めないダイオード。彼は昔から慎重だ。時として、必要以上に。

だが、その慎重さに私が助けられたのは一度や二度ではない。

だから、私は彼を信頼しているし、彼が必要以上に意固地になっている場合は、それを奮い立たせるのが私の役目だという事も熟知している。
40 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:54:39.75 ID:ThVpq98xO
ノ从パ-ナル「伍長、我々『氷の旅団』は……あの“灰の二年間”を死に物狂いで生き延びて、何の因果か『シベリア』などという、退屈でいけ好かないマフィオーソの下にあまんじる事となった」

ノ从パ-ナル「だがな、上官が変われど、時代が変われど、我々がする事は何時も変わらん」

/ ゚、。 /「……」

ノ从パ-ナル「絶対零度の意志でもってカラシニコフを握り、立ちふさがるモノ全てを氷の槌で粉砕する。
それが、我々だ。それが、『氷の旅団』だ。我々には、硝煙立ち込める戦場だけが必要だ」

静かに、抑揚を付けて言い終えた。

/ ゚、。 /「……ヤー」

返答するダイオードの瞳に、カラフト時代の鋭い光が灯るのを見て、私は立ち上がる。

ノ从パ-ナル「伍長、全兵員に脳核通信で通達しろ。我々『氷の旅団』はこれより、VIPへと向かう!」

左目の古傷が、微かに疼いた。

41 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:56:54.78 ID:ThVpq98xO
 ※ ※ ※ ※

━━現在時刻、AM7:45。

(´A`)〜゚「ふぁ……」

欠伸をかみ殺し、ハンドルから両手を離すと、オートパイロットに切り替えオレは大きく伸びをする。
体中の骨という骨が心地よい音をたてた。

('A`)「最高に静かな朝だぜ。ドライブには持ってこいの日よりってか?」

<ヽ●∀●>「運転手さんよ、早くハンドルに手を戻すんだ。業務怠慢で事務所にクレームを入れるぞ」

後部座席で足を組んだクライアント殿が、すかさず突っ込みを入れる。

('A`)「それならあんたの隣に居る冷血女に言ってくれ。彼女が苦情係だ」

从゚∀从「ならば貴様は私の苦情を処理しろ。四年前から貯まりに貯まったクレーム、全て捌くのに何時間掛かるか測ってみるのも悪くない」

<ヽ●∀●>「……」

オレ達ひょうきん族のやり取りに、やれやれと肩を竦める香主様。
そんな事を言われても、ここまで平凡だと欠伸の一つや二つ多めに見てくれてもいいと思うものだ。

('A`)「……だりぃ」

42 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 21:58:52.14 ID:ThVpq98xO
VIPを出て、ニューヨコハマハイウェイに乗って約一時間。
途中、インターチェンジに寄ってトイレ休憩を挟んで、走行再開。
それからまた一時間。
鈍色の雲が雪を降らせる気配も無く、たまに追い抜いて行くのは長距離トラック。
この時間帯になってきて、やっと普通車両の数が増えてきたとはいえ、変化はそれだけだ。
今に至るまで、ゴールド免許のオレ様がハンドルを握らねばならないシチュエーションには、一回も出くわしていない。

順風満帆、トラブルは無し。

('A`)「こりゃ、今回は楽出来るかもな」

オレはダッシュボードの上に置いた紙コップを掴み、中のブラックコーヒーを一口啜る。ついでに一服したい気分だ。

('A`)「煙草、いいっすか?」

<ヽ●∀●>「……」

ニダーは最早あきれかえって言葉も出ないのか、黙って窓の外へ目を向けている。

('A`)「じゃ、失礼して」

マルボロに火をつけ、車備え付けの灰皿を引き出す。そこでカーステレオの存在に気付いたオレは、了解も得ずにそのスイッチを押した。
44 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:01:37.83 ID:ThVpq98xO
スピーカーからピアノの静かなメロディーが流れて来て、やがて女性ヴォーカルが優しげに歌い出す。

『When Iwas young I'd listen to the redio.

Waitin'for my favorite songs

When they played I'd sing along

It made me smile』

('A`)y-~「へぇ、カーペンターズですかい。旦那は古いのがお好みで」

<ヽ●∀●>「……」

オレの茶々にも、やはりニダーは応じる事無く、黙って流れるハイウェイを見つめている。
どちらかというとそれは、無視しているのではないように見えた。

45 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:02:25.91 ID:ThVpq98xO
『Every Sha-la-la-la Every Wo-wo-wo-wo』

サビに入った曲は、郷愁を漂わせた歌声で懐かしき日々を歌い上げていく。

イエスタデイ・ワンス・モア。

過ぎ去った日々よ、もう一度。

('A`)y-~「過ぎ去った日々、ね……」

思い出とかいうのは、都合のいい事にどれもが美しい。
人がそれをもう一度願うのは、やはり当たり前の事で。

<ヽ●∀●>「……」

後ろの彼にも、そんな日々があったのだろうか、などと柄にもなく考えてしまう。

46 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:04:18.83 ID:ThVpq98xO
('A`)y-~「……」

曲一つで、何をオレは勘ぐっているのだろうか。
彼が何処で、どんな人生を送ってきたのかなんてのは、オレが考えるべき事ではないし、それ以前にどうでもいい。

硝煙と血と、凡百の爛れた日々を過ごすうちに感情というものが錆び付いてしまったオレには。

そうして、そんな第三者的な思考回路の先には何も無い事をオレは知っているが、この街ではそうせずには生きられ無い事も同時に知っている。

('A`)y-~「何ともな……」

だからオレは、マルボロを吸いコーヒーを啜ってごまかす。
答えはいつも先送りで、逃げ回るオレはその甘美なる麻薬の怠惰からは抜け出せそうもない。

从゚∀从「……おい、ハンドルの付属品。本体を握れ」

ハインの言葉に、オレは思考先を現実に戻す。

('A`)y-~「…やれやれ、楽出来ると思ってたんだがな」

ルームミラーに映る、十台強のバイクの群れ。
明らかに交通法規を無視した彼らの走行に、後続車が慌ててハンドルを切るのを見ながら、オレは静かにハンドルに指を這わせる。

47 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:05:57.85 ID:ThVpq98xO
('A`)y-~「なぁ、ニダーさん。ちょいと賭けをしないか?」

釣り竿ケースからライオットガンを取り出す戦乙女。葉巻をくわえた香主。
二人を振り返り、オレは二の句を次ぐ。

('A`)y-~「オレが、この紙コップからコーヒーを一滴もこぼさずにハイウェイを抜けられたら、報酬は倍額。もし一滴でもこぼしたら、報酬は半分。どうだ?面白くないか?」

戦乙女がライオットガンのスライドを引き、天井のサンルーフに手をかけた。

<ヽ●∀●>y━~「……いいだろう。その代わり、前言の撤回は受け付けねぇぜ?」

そうして香主が不敵に笑った瞬間。

ルームミラーに、背後の路面で紅蓮の炎が燃え上がる様子が映し出された。

('A`)y-~「火炎瓶とは古典的な…」

オートパイロットを切り、アクセルを踏み込む。
途端、唸りを上げ加速するベンツ。

从゚∀从「おい、アルツハイマー、安全運転を心掛けろ」

サンルーフから上半身を出した戦乙女が吠える。
ルームミラーに映る、バイク集団との距離は目測三十メートル。速度計の針は120キロ超。
コーヒーは零れる気配も無い。
49 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:07:29.01 ID:ThVpq98xO
从゚∀从「射程距離外だ。速度を落として近づけろ」

(;'A`)「アホか!余計なドンパチはしなくて……」

オレの言葉は、けたたましいエンジン音に遮られた。

(;'A`)「どんだけだよ!」

一気にフルスロットルに入れたのか。
右隣に並んだバイクの上で、特効服をはためかせた男が鉄パイプを振りかぶる。

(#´谷`)「しゃぁらぁぁぁあ!」

从゚∀从「よし、ちょうどいい」

銃声。弾ける特効服の胸。真っ赤な花弁。ぶれるハンドル。制御を失ったバイクは、そのまま横転。
滑るようにして背後に流れていった。

('A`)「今のは……」

流線的でいて鋭いフォルムに、特注サイズのタイヤ。
鮫のようなシルエットのあれは、S&Kインダストリーの旧型モデル、「ソードフィッシュ」。
法定速度が変更される以前のモデルであるあのバイクは、五段階変速で最高210キロ毎時まで出るモンスターマシンだ。

('A`)「バイクと見て、侮れないな……」

このベンツの最高速度は200キロそこそこ。
振り切る事は出来そうに無い。

50 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:09:47.33 ID:ThVpq98xO
('A`)「やれやれ…荒っぽいのは好かないんだがな……」

呟きと同時、今まで距離を空けていたバイク集団が、一気にその距離を詰めてきた。

(´と`=#)「おらおらぁ!」

(#メ▼皿▼)「ちんたら走ってんじゃねぇっ!」

十五台のバイクは、全てソードフィッシュと同系のモデル。
爆音を響かせ、オレ達が乗るベンツの左右を囲んだ奴らの中で、旗を掲げた二人が交互に吠える。

その旗に描かれた、開け放たれた扉の両脇に白い翼が生えてるマークに見覚えがあった。

('A`)「ヘブンズゲート……。解散したんじゃ、無かったのか?」

関東の暴走族の中でも、一番デカいチーム。スピードだけを貪欲なまでに求める彼らは、八年前に突然ストリートから姿を消した。
当時高校を出たばかりのクソガキだったオレは、そのニュースに「永遠」は無いものなのだと、青臭い感傷に浸ったものだが……。

('A`)「復活のランか?だとしたら、嬉しい限りだね」

学生時代、ヘブンズゲートはオレみたいなクソガキの「神」だった。

51 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:13:03.94 ID:ThVpq98xO
ただ、速さだけを求める姿勢。
政府警察だろうが企業警察だろうが、彼らの「走り」を邪魔するものは全て薙払う力。

誰も彼らを止める事は出来なかった。
誰も彼らが止まる事など思いもしていなかった。

そんな彼らが何故オレ達を狙うのかは分からないが。

(#'A`)「憧れのヘブンズゲートと走れるなんて、こんなに嬉しいこたぁねぇわな!」

頭上で響く銃声。
左隣に並んだソードフィッシュが、ハイウェイの端に流れていき壁面に激突。盛大な爆炎を上げた。

(´と`=#)「てめぇらは許さねぇ!絶対!何が!あろうと!」

(#メ▼皿▼)「旦那の仇だ!遠慮すんなぁ!」

二人の一喝に、ソードフィッシュの上で各々が各々の得物を構える。
鉄パイプ、スレッジハンマー、火炎瓶、荷電子警棒。
それらが一斉にベンツに向かって降り下ろされる。

(#'A`)「どけぇぇえ!」

ハンドルを左に切る。タイヤの上げる悲鳴。ボディに叩きつけられる金属音と衝撃。
二台のソードフィッシュが、ベンツの体当たりを食らってハイウェイのスクラップと消えた。
56 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:14:50.07 ID:ThVpq98xO
(#'A`)「重さじゃこっちが勝ってるんだよ!」

すぐさまハンドルを直す。ミラーが壁面を僅かにこすり、ベンツは再び直進を開始した。
コーヒーは、まだ零れていない。

(´と`=#)「てんめぇぇぇえ!」

オレの暴挙に、距離を取ったソードフィッシュの一団の中で誰かが吠える。
間髪入れず、火炎瓶の雨が降り注いだ。

(#'A`)「捕まってな、お客さん!飛ばすぞ!」

後部座席に怒鳴り、アクセルを踏み込む。

<ヽ●∀●>「ヒュー。クレイジーな奴だ」

ニダーの口笛をかき消すよう、背後で爆音。被害はゼロ。コーヒーも同じく。

从#゚∀从「おい!歩く汚物!加速するならそう言え!」

上半身だけをサンルーフから出したままに、罵倒機械がクレームと一緒にオレの頭を蹴飛ばす。

(#'A`)「うるせぇポンコツ!君のバランサーなら問題ねぇだろうが!つうか脳核が凹むから蹴るな!」

从#゚∀从「車上射撃の前例など無い!」

(#'A`)「何のための自由発送許容型AIだよ!応用力見せろや!」

慌ててハンドルを戻す。紙コップもベンツも、それで何とか平行を保った。
59 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:17:32.99 ID:ThVpq98xO
从#゚∀从「ちっ、狙いが定まらぬ」

発砲音とポンプアクション式リロードの音が立て続けに起こる。
周りのソードフィッシュは、その散弾のめくら撃ちをエッジの効いたハンドル捌きで避けた。

从#゚∀从「ちょこまかと……」

<ヽ●∀●>「やれやれ…今時のお嬢さんは気が短いニダ。変わろう。手本を見せてやる」

後腰から二丁のベレッタM76を抜くと、ニダーは不服そうな顔のハインと入れ替わるようにサンルーフから上半身を出す。

(;'A`)「あんた、腕は確かか?」

車上カメラの映像に映る彼へと、オレは問う。

<ヽ●∀●>「“双龍”といったら、大陸じゃちょっとしたヒーローだぜ。覚えときな」

葉巻をくわえたままで、二丁拳銃を右側面に近づきつつあるソードフィッシュに向けるニダー。

<ヽ●∀●>「ちょいとダンスとしゃれ込もうじゃないか、紳士諸君。最初はタンゴだ。踊れるか?」

双頭のベレッタM76が交互に火を噴く。
立て続けに四台のソードフィッシュが横転していく中、涼しげな顔で薬莢を吐き出すスライドは、なる程タンゴを踊っているように見えた。

60 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:20:23.07 ID:ThVpq98xO
<ヽ●∀●>「お次はジルバだ。ちゃんとついて来い」

双頭の龍が断続的に火を噴く。
右、左、右、左、右、左、右、左。
二人が頭を撃ち抜かれ、三台がオイルタンクに火をつけられ、二台がタイヤを撃ち抜かれてハイウェイに沈む。
マズルフラッシュの瞬きは、それが機銃の掃射だとすら錯覚させ。

<ヽ●∀●>「……おっと、ここで一旦ブレイクタイムだ」

弾倉が空になる頃には、合計で十台のソードフィッシュをハイウェイに沈めていた。

从゚∀从「……ふくだけはあるようだな」

後部座席の窓からその戦果を見ていたハインが、素直にこいつなりの賛辞の言葉を述べる。

残るソードフィッシュは二台。あの、旗を掲げた二人だ。

(´と`=#)「く、くそがぁあ!」

(#メ▼皿▼)「舐められてたまるかよぉぉお!」

仲間がやられた事への憤激を露わにする彼らはしかし、銃撃を警戒して近付いてこようとはしない。

<ヽ●∀●>「お前たちじゃ相手にならない!黒狼を出せ!ウリはそいつに用がある!」

リロードを終えたニダーがベレッタM76を構え直した時、オレの目にそれが映った。

61 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:23:07.28 ID:ThVpq98xO
(;'A`)「頭を下げろぉぉお!」

<ヽ;●∀●>「ちっ!」

寸でのところで上半身を引っ込めたニダーの頭のあった位置を、トンネルの天井が通過した。
トンネルに入った事で道幅が狭くなった為、必然的にソードフィッシュとの距離は縮まる。

(´と`=#)「おぁぁぁあ!」

ニダーが中に引っ込んだのを見て取った片方が、旗を振り回しながら急接近。
フロントガラス目掛け、旗を繰り出した。

(;'A`)「うおっ!?くそっ!前が!」

旗により遮られた視界。
とっさにワイパーを動かすが、風圧が旗を押さえつけて上手く剥げない。
63 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:24:34.46 ID:ThVpq98xO
从;゚∀从「おい、早くブレーキを踏め!」

せっつくハイン。

(#メ▼皿▼)「あぁぁぁぁあ!!」

火炎瓶を放る敵。

('A`)「だがよ、ここでブレーキを踏む訳にゃいかねぇ」

踏んでしまったら、間違いなくコーヒーは零れる。こんな時まで金にガメツいオレだが、金は命よりも重いと昔の偉い人も言っている。

だから、ここは……。

(#'A`)「敢えて突っ込む!」

踏み込むアクセル、唸るギア、ボンネットで瓶の割れる音。

……狙い通り、炎が旗を這い。

64 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:26:49.74 ID:ThVpq98xO
(;'A`)「よぉし、視界かく……!」

遮る物の無くなったフロントガラスに、トンネルの内壁が見えた。

<ヽ;●∀●>从;゚∀从「「!!」」

(#'A`)「うぉぉぉお!!」

限界までハンドルを切る。タイヤの断末魔的絶叫。横滑りする車体。宙を舞う紙コップ。迫る内壁。
激突まで残り十メートル。九、八、七、五、三、一。

(#'A`)「まぁがれぇぇぇぇぇえ!!」

サイドミラーが潰れる嫌な音。金属の擦れる悲鳴じみた金切り声。

バッドエンドを覚悟した刹那。
66 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:27:40.19 ID:ThVpq98xO
車体は、壁を削るようにして直進コースへと戻った。

(;'A`)「危ねぇ…マジで…危なかった……っとう」

落下する寸前の紙コップをキャッチし、オレは溜め息を漏らす。車体も、コーヒーも何とか無事だ。

(#メ▼皿▼)「「死ぃねぇぇぇえ!!」」(´と`=#)

息つく暇も無く、鉄パイプを振りかぶった敵さん方が近付いてくる。

从゚∀从「懲りない奴らだ」

後部座席の扉を開け、鬼畜機械人形はパンツァーファストを構える。

从゚∀从「鬼ごっこはおしまいだ」

引く、引き金。射出音。尾を引く煙。
それがサングラスをつけた敵さんに着弾した瞬間。
68 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:30:02.97 ID:ThVpq98xO
(;メ▼皿▼)「「ぎゃぁぁぁぁあああ!!」」(´と`=;)

爆轟。

紅蓮の焔は、もう一方をも巻き込み。

剣魚達は、アスファルトの海の藻屑となって消えた。

(;'A`)「……」

<ヽ●∀●>「ふぅ…やかましいピクニックだったニダ」

後部座席のニダーが漏らした溜め息で、オレもようやく肩から力を抜く。

从゚∀从「殲滅完了、進路オールグリーン。走行に問題は無いな」

扉を閉めながら、ハインが報告する。

今度こそ、ヘブンズゲートはその姿を永久に消す事となった。他ならぬ、オレ達の手によって。

69 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:31:09.05 ID:ThVpq98xO
('A`)「……」

在りし日に憧れた彼らも、一発の銃弾でこうも簡単に死ぬ。
結局彼らは「神」なんかじゃなく、オレ達みたいなクソガキも何時かはそれに気付いて、夢から覚めるように現実を見つめ始める。

『Lookin'back on how it was

In years gone by

And the good times that I had

Makes today seem rather sad』

カーステレオは、相変わらず歌い続けている。
イエスタデイ・ワンス・モアを。

70 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:34:05.76 ID:ThVpq98xO
……こうして あの頃のことを振り返り
消えていった年月や
楽しかったことを思い出すと
あまりにも変わってしまった今日のことが
少し悲しく思えるわ

うろ覚えだが、そんな歌詞だった気がする。

あまりにも変わってしまった今日のことが。

('A`)「変わらなきゃ、生きていけねぇんだよ」

誰にともなく呟き、頭を振る。

<ヽ●∀●>「……」

ルームミラーに映るニダーの顔に「ある事」を思い出し、オレはハンドルから手を離してオートパイロットに切り替えると、コーヒーを一口啜った。
トンネルの出口が見える。

71 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:37:18.00 ID:ThVpq98xO
('∀`)「なぁ、ニダーさんよ。賭は、オレの勝ちだな」

ニヤリと笑ってやる。

<ヽ●∀●>「はっ、乞食に施しをやるのもつとめっ……」

それに仏頂面でニダーが何事かを返そうとした瞬間。

从;゚∀从「避けろ!」

とっさに切るハンドル。視界を掠めた白い影。激しい衝撃。フロントガラスを貫く、硬質な質量。

ここにきて初めて踏んだブレーキに、車体が泣きながら急停車した。
73 : ◆cnH487U/EY :2008/12/10(水) 22:39:28.12 ID:ThVpq98xO
(;'A`)「い、今のはなんだ!?」

振り返り、去っていく白い影を睨み付ける。
それはエンジン音をけたてながら次第に小さくなり、やがて見えなくなった。

(;'A`)「ハイン、見ていたか?」

从゚∀从「…いや、あまりにも速すぎて、私のカメラアイの映像もブレてしまっている」

首を振る役立たずガイノイドから視線を移し、サングラスのチャイニーズの顔を伺う。

<ヽ●∀●>「……」

サングラスの下の目は、何かを食い入るようにして見つむているのだろうか。
オレは彼の不確かな視線の先を求めて振り返る。

(;'A`)「これは……」

フロントガラスをぶち抜いて、オレと助手席の間に突き立っていたのは、ひとふりの日本刀。
それを睨み付けたまま、ニダーが憎しみを込めて呟く。

<ヽ●∀●>「“黒狼”…なのか……?」

オレのスラックスには、大きなコーヒーの染みが出来ていた。



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