6 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 20:57:49.61 ID:jVbD2HRfO
〜track-γ〜

━━ゆっくりと、箱が落ちていく。

マト;>д<)メ「きゃあぁぁぁあああ!」

金切り声を上げ続けるマトマト嬢。

ミセ;゚ー゚)リ「な、何!?」

( ;゚∋゚)「マ、マトマト!?」

振り返る、バンドメンバー。

(;'A`)「何だ!?」

全員が見守る中、マトマト嬢が取り落とした箱は、スローモーションが如き動きでもって落着し。

( ;´∀`)ミセ;゚ー゚)リ( ;゚∋゚)「━━っ!」

直後、コンクリートの床に大量の蛆をぶちまけた。

7 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 20:59:11.17 ID:jVbD2HRfO
( ;´∀`)ミセ;゚口゚)リ( ;゚∋゚)「「「ぁぁぁぁああぁあ!!!」」」

一瞬にして、パニックに陥る控え室。
ひっくり返った箱から這い出す白い蛆達は、そんな彼らの悲鳴が面白いとでも言うように、体をくねらせ這いずり回る。

(;'A`)「うっ……」

凄惨な光景に思わず口を覆うオレの鼻に、何かが腐ったような異臭が飛び込んで来た。

(;'A`)「……」

臭いの源泉は恐らく例の箱から。
正直、今すぐ反吐をバスタブいっぱいにぶちまけたい気分だったが、“白いいもむしさん”以外に爆弾でも入っていたら事だ。

8 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:00:46.03 ID:jVbD2HRfO
オレは用心深く箱に近付くと、おっかなびっくりそれをひっくり返す。

(;'A`)「ジーザス…地獄の釜に手を突っ込む気分だぜ……」

途端、箱の中から出遅れたベルゼバブの落とし子達が、溢れるように湧き出し、埋もれていた“ソレ”が顔を出した。

(;'A`)「こいつぁ……」

顔をしかめ、見なかった事にしようと足のつま先を箱にかけたところで、オレは背後に立つ気配に振り返る。

从-゚从「何…コレ……」

人形のように無表情なシャロン嬢が、オレのつま先がかかった先を見詰めていた。

(;'A`)「……」

蛆の大群を振りまき、底を見せたパンドラの箱。
幾千もの“災厄”の中、最後に箱の底に残っていたのは、「牛の肝臓に釘で打ち付けられた脅迫状」という名の、“最悪”だった。

从-゚从「何…なのよ…これ…」

“この蛆が 今に 貴様等の屍の上を這う事と なるだろう”

蛆にたかられ、所々が喰い破られた肝臓の表面。
釘で止められ、血にまみれた羊皮紙に綴らていたのは、そんな短文だった。

9 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:02:41.31 ID:jVbD2HRfO
从-゚从「どういう…つもりよ……」

幽鬼めいた動きで、彼女は仲間を振り返る。

从-゚从「誰…なのよ……」

マト;>д<)メ「シャロン…?」

从-゚从「一体、誰がこんな事をしたのよ……」

(;'A`)「お、落ち着け。落ち着くんだ」

从-゚从「誰なのよ…出てきなさいよ……あんた達の誰か何でしょう…?ねぇ?」

ミセ;゚ー゚)リ「何を…言って……」

戸惑うメンバーを見つめ、シャロンはふっと一瞬笑い。

从Д゚#从「しらばっくれてんじゃないよ!あんたらの誰かがやったんだろ!」

鬼女の様相で糾弾の叫びを上げた。

10 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:04:17.92 ID:jVbD2HRfO
( ;゚∋゚)「オレ達…が…?」

ミセ;゚ー゚)リ「……この箱を?」

マト;>д<)メ「ちょ、ちょい待ち。シャロン、あんた何言ってんだい?ちょいと話が見えないんだけ……」

从Д゚#从「黙れ!」

( ;´∀`)ミセ;゚ー゚)リマト;>д<)メ( ;゚∋゚)「「「「……………」」」」

鬼女の恫喝に、一同は肩を震わせ押し黙る。

从-゚从「おかしいと思ってたのよ。家の電話のアドレスなんて、数える程しか教えて無いのにあんな無言電話が掛かってくるんだもの」
14 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:06:57.30 ID:jVbD2HRfO
从-゚从「あなた達の…誰か何でしょう?」

マト;>д<)メ「なぁ、落ち着けってシャロン。お前、ちょっと疲れてるん……」

从Д゚#从「近寄らないで!」

マトマトが宥めようと差し出した手を、シャロンは振り払い。

从-゚;从「あんた達なんか…信用出来ない……」

勢い良く扉を開け、控え室を飛び出していった。

( ;゚∋゚)マト;>д<)メミセ;゚ー゚)リ「「「シャロン!」」」

追い掛けようとするメンバー。
アナウンスが、それを妨げた。

『パペットマスターの皆様、間もなく出演時間となりますので準備の方を宜しくお願いします』

15 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:07:57.36 ID:jVbD2HRfO
( ;´∀`)「……あと、15分モナ」

壁掛け時計を見て、モナーが呟く。
メンバーはその言葉に逡巡し、迷う。

(;'A`)「ちっ、面倒な事になったな……」

まさかシャロン嬢が、あれだけ思い詰めるような性格だとは思ってもみなかった。

(;'A`)「まったく……だから女ってやつぁ……」

オレの想像の斜め上を行く。

从゚∀从「詰めが甘かったな」

反論は出来ない。
もっと早い段階で手を打っておくべきだった。

16 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:09:29.63 ID:jVbD2HRfO
('A`)「……オレは彼女を追う。君は、ケースナインの通りに動いてくれ」

从゚∀从「貴様に、女が口説けるのか?」

('A`)「オレのモテレベルは今が全盛期だ」

せせら笑いを残して冷血ロボ子が控え室を駆け出して行くのを見送り、オレはメンバーを振り返る。

('A`)「あんたらは、ステージの準備をしててくれ。彼女はオレが何とかする」

マト;>д<)メ「頼んだよ」

ミセ;゚ー゚)リ「あの子の誤解、解いてあげて下さい……」

( ;゚∋゚)「本当は、オレ達が解かなきゃならねぇんだろうが……」

そんな余裕が無いのはわかっているのだろう。
葛藤の色を強く浮かべた彼等の顔を見渡し、オレは小さく頷くとシャロン嬢を追い掛けるべく部屋を飛び出す、

( ´∀`)「……」

寸前。
モナーの虚ろな表情が、オレの網膜に微かに焼き付いた。

17 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:11:34.48 ID:jVbD2HRfO
 ※ ※ ※ ※

━━行動指針、ケースナイン。
昨晩の段取り通りに行動すべく、私は人工筋肉の稼働率を85%まで引き上げ、音楽堂のタイル張りの床を駆け抜ける。

野外ステージに併設されたこの建物は所謂舞台裏で、すれ違う人々は皆出演者やその関係者達だ。
ブラックレザーのコートに背中まである長髪の男、スキンヘッドにタンクトップの筋肉達磨。
「メタラー」という人種は、総じて反社会的で攻撃的な容貌をしているものだと、メモリに記録された情報では解っていたが。

从゚∀从「まるで個性が無い」

統計的に見て、今まですれ違った92%の人物達が同一性の有る格好なのには、少々解せないところがある。

从゚∀从「パラドックス、だな」

人間の服装は個の主張だと、データには有る。
曰わく、自己の内面を服装にデコードする事により、アイデンティティを主張する。
彼等は、反社会的な様相を取る一方で、自らが「メタル音楽を愛好する者」の「社会」に属していると主張しているようなものだ。
それは、彼等メタラーに限った事ではない。

18 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:12:54.34 ID:jVbD2HRfO
从゚∀从「群体生物の性か……」

人間はどこまで行っても、社会性の動物だ。
それが、常人である限りは。

从゚∀从「真のパンクスは、最早人間ですら無い」

ヒトを「人間」たらしめているものは、「社会性」に有ると私のデータにはインプットされている。
自らルールを創造し、それに乗っ取り複雑に構造化されたプログラムの中で生命活動を行うのが、彼等の特徴だ。
それに反抗し、背く時期が全ての人間には多かれ少なかれ存在するのも解る。
即ち、反抗期。

从゚∀从「だが、それも一時的なモノに過ぎない」

やがて、誰もが「人間」である為に社会構造の中に身を委ね、埋没していく。
各々が折り合いをつけ、妥協し、又は納得して歯車の一部になっていく。

从゚∀从「それが出来ないモノは、社会に牙を向く」

毒蛇のように、狂犬のように、時には獅子となって。

从゚∀从「それは、“人間”では無い。ただの、野獣だ」

ルールに従わなければ、「人間」では居られない。
それを窮屈に感じる者は、大なり小なり存在する。
19 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:14:59.33 ID:jVbD2HRfO
从゚∀从「だから彼等は、歌を唄う」

“このしがらみから解き放ってくれ”

“自由を我が手に”

それはありふれた、誰もが抱える……だからこそ、切迫したメッセージなのかも知れない。

从*゚∀从「……ふふ、私は順調に学んでいるぞ」

「嬉しい」という感情を抱いた時に人間が浮かべる表情を、顔面部の人工筋肉がオートでデコードする。

ヒトへの擬態。

それは一般的な人間の価値観から見たら、歪なものだ。

从゚∀从「……」

何故だろうか。

そんな事を考えただけで、顔面の人工筋肉は力を弱めて私の顔から「表情」を消してしまう。

从゚-从「……私は、“何”だ?」

特A級護衛専任ガイノイド。商品名「アイアンメイデン」。後期モデル。
使用用途は、ユーザーの命に従い、その身を護衛する事。
自由発想許容型AIにより、行動指針をある程度自らで決定する自由を与えられている。
一方で、ロボット三原則という黴の生えた絶対の掟によって、縛られた機械人形(オートマタ)。

それが私だ。その筈だ。
21 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:17:23.03 ID:jVbD2HRfO
从゚∀从「感情など、存在しない」

感情とは、電気信号だ。
大昔の科学者にそう言ったものが居た。その通りだと思う。
人間の脳内電気信号をパターン、体系化し、AIとして機械化したものが私の電脳核なのだからそれは間違いない。

ならば、その錯綜する電気信号が感情と呼べるモノを創造し得る可能性も、有るのではないか?

从゚∀从「何を…考えているのだ……」

私はそれを欲しているのか?
私はそれが生まれる事を望んでいるのか?
それは正しい事なのか?

从゚∀从「……正しい訳が、無いであろう」

感情は時として判断を鈍らせる。
どのような状況にあっても、最善の判断を下して行動に移す。
それこそが私に求められているものであり、私の存在理由なのだ。

从゚∀从「それなのに……」

昨晩、シャロンに押し切られて服装を変えた私を見たときの、主の顔を記憶媒体から引っ張り出す。

从゚∀从「…それは、間違いだ」

これ以上は、考えるべきではない。
これ以上は、作戦行動に支障をきたす。

22 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:21:26.16 ID:jVbD2HRfO
从゚∀从「……」

立ち止まり、辺りを見渡す。
音楽堂内を出てから緩めた速度で、私はその外周の遊歩道を歩いていた。
現在位置は、人工芝のプラスティックの緑が敷き詰められた自然公園。
ヘヴィメタルフェスティバルが行われている為、人通りは多い。
その中で、先から私の後を必死に追い掛けて来る人物の足音を聞きながら、私は対象との距離を計る。

从゚∀从「10メートル…9メートル…7…6…4…3…」

出来るだけ自然に見えるよう、人工筋肉に力を撓める。
ソナー式に割り出した対象の位置は、私の左斜め後方。

ケースナイン。
先日の夕刻、シャロンを付け回していた人物を誘き出す為に、シャロンと瓜二つの私が「ルアー」となる作戦だ。

从゚∀从「2…1…フリーズ!」

威嚇宣言と同時振り返ると、その人物の喉仏に右手刀を見舞う。

( ;^^ω)「ホマァッ!?」

濁ったうめき声を漏らし、そいつはその場にくずおれた。
即座に彼の両腕を後ろ手に捻り上げ、捕縛する。
制圧成功だ。
23 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:23:56.86 ID:jVbD2HRfO
从゚∀从「…捕まえた。大人しくすればこの腕は折らん」

苦し気にもがく男の耳元に囁く。

( ;^^ω)「痛っ!痛いホマ!離すホマ!」

暑苦しい顔をした白スーツ姿の彼は、それでも私の拘束から逃れようともがく。

从゚∀从「観念しろ。貴様の罪状は明確だ。ネット空間での嫌がらせ、カラスの死体の入った小包…明確故、私が裁くべきではない。然るべき法務機関に受け渡すまでは大人しく……」

( ;^^ω)「何を言っているのかわからないホマ!早く離してくれホマ!」

从゚∀从「下郎が。貴様がはたらいた付け回し行為、証拠は揃っているのだぞ?」

( ;^^ω)「だからそんなの知らないホマ!本当に知らないホマ!早く離すホマ!」

从゚∀从「……」

どうも、要領を得ない。
もしかしたら、私は誤認逮捕を行ったというのか?

从゚∀从「わかった」

腕の力を緩め、男を解放する。彼は肩をさすりながらこちらを振り返り。

( #^^ω)「せっかく人がスカウトしてやろうと思ったのに、てめぇはどういう神経してやがるんだホマァ!危うく脱臼しかけただろうが!」

24 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:25:34.66 ID:jVbD2HRfO
鬼の形相でわめき散らした。

从゚∀从「スカウト…?」

( #^^ω)「そうホマ!あんた、なかなかいい声してるからうちがメジャーデビューさせてやろうと思ってたのに……」

何やら、雲行きが怪しい。

从゚∀从「ちょっと待て。貴様は、レコード会社の関係者か何かか?」

( #^^ω)「ホ、ホマァッ!?ぼ、僕をししし知らないホマか!?」

从゚∀从「あぁ、知らぬ」

( #^^ω)「て、てめぇ…いい度胸ホマね……なら教えてやるホマ。僕が、どれだけこの世界で有名なのかお!」

憤慨した男は、何やら懐をまさぐるとそこから一枚の名刺を取り出し、私の眼前に三戸の某御隠居が如く突き出した。

从゚∀从「WME…ワタナベミュージックエンターテイメント…マルタスニムは瀬川…?」

ワタナベミュージックエンターテイメント。
多国籍型コングロマリットである渡辺グループの抱える、芸能プロダクション。
今を輝く人気アイドルグループの大半が、このWME出身の大手事務所だ。
彼はそのプロデューサーだという。
27 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:31:47.72 ID:jVbD2HRfO
( #^^ω)「マルタスニムPと言ったらこの業界じゃ知らないものは居ねぇホマ!かの伝説のプロデューサー、大室哲也並みにぃいい!」

だが残念ながら、私のデータバンクには瀬川の名前は載っていなかった。

从゚∀从「……それが、私をスカウトしたいと?」

彼がスカウトしたいのは私ではなくシャロンなのだろうが、ここは話を合わせておくべきと判断。

( #^^ω)「光栄に思いやがれホマ!」

从゚∀从「……ならば何故、初めからそう言わない?あんな風にコソコソと付け回す必要がどこにあった?」

( ;^^ω)「それは…その…」

从゚∀从「……答えられぬならば、やはり手荒くなるが?」

( ;^^ω)「そ、ソロでデビューさせるつもりだったホマ!ほ、他のメンバーと一緒に居るところでそんな話は気まずいだろ?だから……」

从゚∀从「……」

成る程。引き抜きというわけか。それは合点がいく。いくが。

从゚∀从「そうなると、全面的に私のミスを認める事になるな」

そして、この場をどう収めていいものか、私には上手い判断が出来ない。

28 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:32:26.51 ID:jVbD2HRfO
当事者のシャロンがここに居ない以上、私がこの問題について返答する権利は無い。
かくなる上は……。

( ;^^ω)「ホマ…?」

从゚∀从「すまない。しばらく、保留にしておいてくれ」

私の拳が、彼の鳩尾にめり込んだ。
30 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:34:22.56 ID:jVbD2HRfO
 ※ ※ ※ ※

━━飛び出した廊下、消える背中。
ガチムチメタラーの行き交う音楽堂内を、華奢なシャロン嬢のシルエットを探して走る。

(;'A`)「人口密度濃っ!」

レザージャケットに身を包んだ彼等の一人当たりの表面積は常人の1.2倍。
通路は彼らが二人並んで歩いてるだけで、塞がれてしまう程に狭苦しい。ああ暑苦しい。

(;'A`)「こんなメタラーだらけの場所に居られるか!オレは自分の部屋に戻るぞ!」

獣の唸り声のような叫びがステージから壁を通して聞こえてくる。
女ということもあって、シャロン嬢の後ろ姿は何とか判別がつく。

从∀゚;从「はっ…はっ…はっ…」

あんなひらひらしたゴスロリドレスなんか着て、さぞかし走り辛いだろう。
この商売の中で唯一役に立つマイスキル「ちょっと速い足」を持つオレにしたら、そんな彼女に追い付くのはビフォア・ザ・ブレックファストだ。

(;'A`)「プリィイイズ・フリィィイズ!」

脳内国際化が進むオレ。慣れないイングリッシュで彼女の背中に叫ぶ。
32 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:37:08.15 ID:jVbD2HRfO
从∀゚;从「あぁん!?」

止まる気配の無い彼女の足がもつれる。
チャンス・ザ・ジャストナウ!

(#'A`)「英語とか苦手ですからぁぁぁあ!」

シャロン嬢の右手首に飛び付くオレ、「ドクオ・ザ・ライジング」。
「ナントカ・ザ・ナントカ」って響きが格好良いよね。

从∀゚;从「さ、触るなぁあ!」

絶叫のシャロン嬢。振り返る行きずりのメタラー諸君。完全にオレがストーカー。そりゃないぜシスター。

(;'A`)「落ち着けぇええ!落ち着けシャロォオン!」

面倒がさらに大きな面倒になる前に、手近なドアを開けてその中に二人、もつれるようにして転がり込む。
あ、これで完全にレイプ魔の出来上がりですね。

从∀゚;从「離せ!離して!もう誰も信用出来ない!」

(;'A`)「静かにしろ!こっちは社会的な生き死にがかかってるんだ!」

シャロン嬢を壁に押し付け、押し殺した声でオレは訴える。
多分、今目ん玉充血してるわ。

从∀゚*从「っあ……!」

艶っぽい声を上げるシャロン嬢。
馬鹿!それは完全にバッドエンドルートへのフラグだ!
36 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:40:49.73 ID:jVbD2HRfO
(;'A`)「落ち着け。落ち着くんだ。ああ、お互いな。そうした方がいい。考え直すんだ。メンバーの皆は、君が思ってるような事はしていない。それは断言出来る」

ようやくクールなオレが戻ってくる。
シャロン嬢を壁に押し付けていた腕から力を抜き、オレは彼女から一歩退いて呼吸を整えた。

从-゚从「でも、一番最初に皆を疑ってたのはあんたじゃない」

虚ろな双眸で、彼女はオレを見つめる。

(;'A`)「それは…その…」

从-゚从「ねぇ…本当は、誰なの?」

(;'A`)「え…と……」
40 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:42:40.45 ID:jVbD2HRfO
返答に窮するオレの襟首を彼女はいきなり掴み、反転するようにしてオレを壁に押し付けた。

(;'A`)「お、おぉい何を…!」

从-゚从「不安なの……」

目を伏せ、呟くシャロン嬢。

从-゚从「誰を信じたらいいか…わからなくて……」

髪をかきあげ、右目にかかっていた前髪の位置をずらした彼女。

从゚-从「ドクオ……」

その顔が、オレの良く知る“アイツ”と重なる。

(;'A`)「…っおぅ……ふ」

从゚-从「ねぇ…私は、誰を信じたらいいの?」

潤んだ瞳で彼女はオレを見上げ。
45 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:46:45.71 ID:jVbD2HRfO
从゚∀从「あなたは、信じていいの?」

縋るようにオレに身を重ねて来た。

(;'A`)「ちょ!ちょっ!待っ…!」

从゚∀从「……ねぇ、お願い……」

ずい。と、女はにじりよる。

从゚∀从「あなたが、鎮めてよ……」

ジィ…。オレのスラックスのジッパーが、ゆっくりと下ろされる。

从゚∀从「この…不安を……」

ごそり。女の指が、オレのレーゾン・デートルを這う。

从゚∀从「ねぇ…お願い…私……」

(;'A`)「あ…うぁ…ぁ……」

誰か……。

(;゚A゚)「誰か助けてぇー!!」
49 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:49:55.17 ID:jVbD2HRfO
叫んだ瞬間、がちゃりと音がした。

('A`)「え?」

音の根元を見る。
壁に這うパイプとそこから伸びる鎖。
手錠で繋がれたオレの左手首が、そこにあった。

从∀゚从「ばっかじゃないの?私があんたなんかに体を任せるとでも思ってたわけ?」

('A`)「……」

从∀゚从「あんたに抱かれるんだったら、チンパンジーのオナニー手伝ってる方がましよ」

('A`)「あー……」

从∀゚从「あんたがこんなに頼りないとは思わなかったわ。こんなんだったら、初めからまっくんを頼ってれば良かった…」

('A`)「えー…と」

从∀゚从「じゃあね、チンパンジー。デスヴォイス聴きながら独りで寂しくマスでも扱いてろバーカ」
53 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:52:04.23 ID:jVbD2HRfO
閉まる扉、取り残されたオレ。

('A`)「うーむ……」

監禁された。それに気付いた瞬間、オレは男としての敗北感に打ちひしがれ。

('A`)「……下半身が寒いです」

出しっぱなしになった「オレ自身」が一気にうなだれるのを自覚した。
56 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:55:29.28 ID:jVbD2HRfO
 ※ ※ ※ ※

━━脳核通信で情けない声を上げる我が主の奇形面を視界の隅に、私は音楽堂内を駆け抜ける。

从゚∀从「……貴様は一体どれだけ私に世話を焼かせれば気が済むのだチンパンジー。最早貴様は霊長類とすら思えん。まだテナガザルの方が有能だ」

(#'A`)『だったらテナガザルと組めばいいだろうが!いいからさっさと助けろバーカ!』

時たま、こやつには鈴虫並みの脳しか無いのではないかと思う。
頼りにならないというレベルではない。私がそばについていないと、何をしでかすかわからないのだ。

从゚∀从「その糞を垂れている口を噤め。今位置を割り出す」

主の脳内GPSの位置を、音楽堂内の見取り図と照らし合わせる。
ここからでは、些か遠い。

从゚∀从「通路状態を考えると、最短でも五分はかかる。手錠は電子ロックか?」

('A`)『あー…あぁ、まさしく電子ロックだぜ』

从゚∀从「それを先に言え、チンパンジー。それぐらいならば貴様でも外せるだろう。いちいち私の手を煩わせるな」

(;A;)『分かったからもうチンパンとか言わないでぇぇえ!』
58 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 21:58:43.93 ID:jVbD2HRfO
出来るなら、この主の脳核を誰か別の人間のものと代えて欲しい。
誰であろうと、こいつよりはマシな脳の筈だ。

从゚∀从「手錠のシリアルナンバーは見えるか?」

('A`)『ちょい待ち。えーと……』

「あの、パペットマスターのシャロンさんですよね?」

霊長類の最底辺が続きを言う前に、私の肩に何者かが手を触れた。

从゚∀从「ん?」

振り返る。眼鏡をかけた野暮ったい男がそこに居た。

(;-@∀@)「どこほっつき歩いてたんですか!あと五分で出番ですので早くステージ裏に来て下さいよ!」

从;゚∀从「いや、人違いじゃないか?私は……」

(;-@∀@)「下らない冗談はいいですから早く来て下さい!ほら、こっち!」

男は腕を掴み、私を引きずり始める。これは、不味い。
このままこの男に引きずられて行けば、私はシャロンの代わりにステージに立って、あの不協和音に合わせて唄わなければならなくなる。

歌。

ヴォーカロイドでない私が、どうやって唄えというのか。
60 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:00:43.20 ID:jVbD2HRfO
从;゚∀从「彼女の音声データをサンプリングして、私の発声プログラムを変更して……」

無理だ。論理的には可能だが、それはあまりにも不確定要素が多すぎる。

(;-@∀@)「あぁーもう!何ですか!ここに来てやっぱり出たくないとか言うんですか!?」

从;゚∀从「しかし、だな……」

(#-@∀@)「あんたねぇ、もう少しでメジャーデビューが決まりそうだからって、ちょっと調子乗ってるんじゃないの?」

从;゚∀从「メジャー…デビュー……」

“何としても明日のフェスだけは成功させたいんだ”

昨日のシャロンの言葉が、思い出される。

(#-@∀@)「そんなんでこの業界が通ると思ってたら……」

今、ここで私がシャロンの不在を告げれば、そこでパペットマスターのライブは中止だ。
そうすれば、彼女達はメジャーデビューの少ない機会を逃す事となる。

(#-@∀@)「歌も上手い、若い、オマケに可愛い。それで調子に乗らない方がおかしいかも知れないけど……」

私達が依頼されたのは、彼女を守りきり今日のフェスティバルを成功させる事。
62 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:04:35.98 ID:jVbD2HRfO
私は何だ?特A級護衛専任ガイノイドじゃなかったか?
それならば、主の命に逆らう事は出来ない。

从゚∀从「……やるしか、無いのか」

(;-@∀@)「何ぶつぶつ言ってるんすか?」

怪訝な顔で振り返る男。

从゚∀从「いや、何でもない。それじゃあ、案内してくれるか?」

促し、歩き出す私達。

(;'A`)『5935の…ってハイン?おい、聞いてるか?ハイィイン!?』

脳核通信を静かに切ると、私はデータバンクの中からシャロンの音声データを引っ張り出す。

まったく……不確定要素の多い日だ。
64 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:06:46.63 ID:jVbD2HRfO
 ※ ※ ※ ※

━━ライオンは我が子を谷から突き落とし、這い上がってきた子供だけを育てるという。

('A`)「つまり、この仕打ちはそういう事なんですね。わかります」

一方的に切られた脳核通信に、自分が見捨てれられたという気持ちが湧き上がってくるが、それは押しとどめなきゃだめだ。

(;A;)「だって、涙が出ちゃう!男の子なのに!」

我ながら情けないけど、まぁオレはこれでいいかなと思う。うん。

('A`)「さぁて、出来るだけ穏便に済ませたかったんだがね……」

自由な右手を腰にやり“ソレ”を引き抜くと、オレは手錠から伸びる鎖に“ソレ”をあてがい引き金を引く。

轟音。同時、左手首を戒める鎖が外れオレは自由を得た。

('A`)「これだけライブがうるさけりゃ、大丈夫だろう」

カスタムデザートイーグルを腰に戻しながら、扉を開ける。

('A`)「まったく、世話の焼けるクライアントだこと……」

彼女は一体何処へ向かったのか。
去り際のシャロン嬢の言葉から類推し、オレは溜め息を漏らす。
67 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:10:15.42 ID:jVbD2HRfO
('A`)「間に合う…ワケが無いよな」

それでも追わない訳にはいかない。
それが、オレのお仕事だから。

('A`)「……もっと、報酬金をふっかけときゃ良かったな」

貧乏くさい溜め息をつくと、オレは音楽堂の出口へ向かって足を踏み出し。

川;仝ゝ仝)「……」

周囲の視線に気付く。

('A`)「おっと、忘れるとこだった」

オレは紳士的な優雅さでもってスラックスのジッパーに手を伸ばすと、出しっぱなしだった「男の勲章」を鞘に収めた。
71 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:12:10.95 ID:jVbD2HRfO
 ※ ※ ※ ※

━━先ず真っ先に、頭を下げた。

从>へ从「みんな、さっきはごめん!」

次に、顔を上げてにっこりと笑い。

从^ー从「絶対に、このライブを成功させようね!」

サムズアップした。

ミセ;゚ー゚)リマト;>д<)メ( ;゚∋゚)「……」

ステージの裾で待機していたパペットマスターのメンバーは、そんな私を見てどういう反応をしていいものか、決めあぐねている。

やはり唐突過ぎたか。順を追って謝罪せねば、シャロンが彼らに与えた感情は払拭出来そうもない。
仕方ない、ここは一芝居うつとしよう。
73 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:16:09.89 ID:jVbD2HRfO
从゚∀从「私、色々あってナーバスになってたの。それでさっきはみんなにあんな酷い事言っちゃって…」

ミセ;゚ー゚)リ「……」

从>へ从「本当にごめん!」

( ;゚∋゚)「あぁー……」

从>∀从b「でももう大丈夫!みんなにも迷惑はかけないから!一緒にライブ、頑張ろっ!」

よし。こんなところで、大丈夫だろう。我ながら良い演技だったと思う。

マト;>д<)メ「あの…シャロン…?」

从゚∀从「何、まーちゃん?」

74 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:19:27.27 ID:jVbD2HRfO
マト;>д<)メ「その…ライブ前に、ドラッグ決めるのは…ちょっと…不味いだろ……」

从゚∀从「……」

それは、どういう意味だ。

ミセ;゚ー゚)リ「と、とにかく、シャロンが戻って来てくれたんなら、後はもう何も言うことは無いよ!ね?ね?」

( ;゚∋゚)「そ、そうだな!しかしシャロン、おめぇ衣装まで変えてくるなんて余裕だな」

ヽ从>∀从ノ「心機一点、衣装も一転ってね!あはっ☆」

ミセ;゚ー゚)リマト;>д<)メ( ;゚∋゚)「……」

何だ。何故そんな顔をする。

( ;´∀`)「き、機材の搬入が終わったモナー。出番まで後二分だから、みんなスタンバイを」

モナーの言葉に、皆は目を閉じたり、胸に手を当てて深呼吸をしたりと、思い思いに精神集中を始めた。
私も即席で組み上げたヴォーカルアプリケーションの最終チェックをすべく、ブラウザを立ち上げる。

( ;´∀`)「……」

作業の途中でふとその視線に気付く。
みれば、それはモナーだった。

从゚∀从「…どうしたの、モナー君?」

小首を傾げる私。
それは、一般的人間の価値観から計算しつくされた完璧な“可愛い仕草”だ。

75 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:20:51.12 ID:jVbD2HRfO
( ;´∀`)「いいいいいや、ななななんでもなな無いモナ!モナ!」

慌てて両手をふる彼。ふむ、私の仕草があまりにも可愛い過ぎたか。完璧過ぎるのも考えものだな。

『…さぁて、それじゃあ次は今回のフェスの一番の目玉……』

司会者と思しき人物の声に、ブラウザを閉じる。
いよいよ、私の…パペットマスターの出番というわけだ。

ミセ;゚ー゚)リ「あー…緊張するぅ…」

( ;゚∋゚)「へっ…オレも武者震いが止まらねぇぜ」

マト;>д<)メ「ど、ドキが…む、ムネムネしやがる…」

緊張の面持ちで立ち上がるパペットマスター。
私もヴォーカルアプリケーションに不安は残るが、ここまで来たらもう遣るしか無い。

从゚∀从「大丈夫だよ、みんな。必ず成功するって。大丈夫!」

ミセ;゚ー゚)リマト;>д<)メ( ;゚∋゚)「……」

从>∀从b「だから、みんなメジャーデビューしちゃった後の心配をしよう!」

私の言葉に、一同の表情が緩む。

『何?ヤツらを知らないって?オーケーブラザー、紹介しよう』

司会者ががなる。

76 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:22:51.27 ID:jVbD2HRfO
『災厄の街VIPからのし上がって来たこいつらは、筋金入りの技巧派バンド!地獄より出でし人形使い!今宵、ヤツらの糸に踊らされるのはブラザー!お前らさ!』

歓声が、沸き起こる。

『さぁ、悲鳴で出迎えてくれぇ!パペットマスターの登場だぁぁあ!』

盛大なスモークがステージから吹き出すと同時。

从>∀从b「さぁ、行こうみんな!私達のステージへ!」

ミセ;゚ー゚)リマト;>д<)メ( ;゚∋゚)「「「お、応っ……」」」

パペットマスターは、飛び出した。
79 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:24:30.35 ID:jVbD2HRfO
 ※ ※ ※ ※

━━立ち込めるスモークの中へ駆け出して行った皆の背中を見送り、僕は生唾を飲み込む。

もうすぐだ。もう直ぐ、この舞台の上で彼女達は“伝説”となる。

ヽ从>∀从ノ「ハァ〜イ!みんな元気にしてたぁ?私は超元気だよ〜!」

僕だけの天使がステージの上で飛び跳ねる様は、何時もとは違うもののやはり美しい。

从゚∀从「それじゃあ早速一曲目から、ノリノリのナンバーで飛ばしていくよ!みんな、準備はいーい?」

愚劣な観客共は、戸惑いを隠すどころか返事もしない。
馬鹿が。彼女は天使だぞ?天使の御言葉に返事を返さないなど…なんと、罪深い。

从゚∀从「返事が無いなぁ…うーん、シャロン悲しい…」

あぁ、僕だったら決して君を悲しませたりはしないのに。

从゚∀从「…よぉし、それじゃあいっくよー…聴いて下さい!ペインキラー!」

( ;´∀`)「なん…だと…?」

それは、君の持ち歌じゃないだろう?
何故、ここに来てそれを選んだ?予定とは違う。

80 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:26:19.42 ID:jVbD2HRfO
今日は、記念すべき日なのだ。

从゚∀从「Faster than a bullet!Terrifying scream!」

彼女が、“伝説”となる日なのだ。

从゚∀从「Enraged and full of anger.He's halfman and halfmachine!」

天への階段を駆け抜け、まさに「天使」として召される記念日なのだ。

从゚∀从「Ride the MetalMonstar!Breathing smoke and fire!」

もっと、彼女に相応しい曲が有るだろう。

从゚∀从「Closing inwith vengeance soaring high!」

違う。違う。違う。

( #´∀`)「違う!」
83 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:31:03.26 ID:jVbD2HRfO
 ※ ※ ※ ※

━━その瞬間だった。

マト;>д<)メ「あれっ!?」

今まで悪魔の哄笑の如く叫び続けていたギターの音が、ぷつりと止まった。

( ;゚∋゚)「な、何だ……?」

機関砲宜しくドラムを乱打していたクックルもその手を止め、アンプの方を見やる。

从゚∀从「何だ、せっかくいい所だったのに」

マイクスタンドにもたれ、私は図らずもそう呟く。
結局、シャロンの音声データだけを持っていても、パペットマスターの持ち歌を知らない私は、昨晩彼女がオーディオでかけたあの曲を選んだ。
85 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:33:07.23 ID:jVbD2HRfO
目前に広がった人の海も、突然の事態にざわついている。
何万人、居るのだろうか。
やはり長髪にタンクトップやレザージャケットを纏った彼らメタラーの一人一人が立てるざわめきは、一匹の巨獣の唸り声のように会場を震わせていた。

ミセ;゚ー゚)リ「コードが抜けちゃったのかな……」

ミセリがアンプへと近寄りしゃがみ込んだ。
その、刹那。

( #´∀`)「シャロォォォォオオオン!!」

从;゚∀从「なっ!?」

一匹の野獣が、舞台袖から飛び出して来た。
88 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:34:31.49 ID:jVbD2HRfO
 ※ ※ ※ ※

━━呼吸を整える。

从∀゚;从「はぁ…はぁ…はぁ…」

足の回転を緩める。

从∀゚;从「まっくん…まっくん…助けて…」

ドアの脇、カードスリットに手がかかる。

('A`)「おぉっとお嬢さん、そこまでだ」

オレは、彼女の側頭部にカスタムデザートイーグルを突きつけた。

从∀゚;从「ひっ!」

途端、硬直するシャロン嬢。
完全に悪役的な立ち位置となったが、何とか間に合った。

('A`)「悪いが、そのカードキーをこっちに渡してくれないか?」

89 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:35:23.46 ID:jVbD2HRfO
ラウンジ区のビル街。巨大企業(メガコーポ)の環境建造都市(アーコロジー)が立ち並ぶ一角。
S&Kインダストリーの所有するアーコロジー内、その住宅ブロック。
一件の平屋の前で、オレ達はにらみ合っていた。

从∀゚;从「い、依頼人に銃を突きつけるなんてどういうつもり?」

('A`)「確かに。だが、今は大人しく渡してくれ。説明するよりも見て貰った方が早い」

引き金に指をかけ、少し力を込めるフリをする。

从∀゚;从「な、何なの……もう……」

彼女は渋々と、プラチナブルーの磁気カードをオレに手渡した。
92 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:37:21.00 ID:jVbD2HRfO
('A`)「素直で助かる。…で、確認するがここは君の言う“まっくん”の家なんだな?」

从∀゚;从「そ、そうよ。あんたみたいな穀潰しと違って、まっくんはS&Kの管理職なんだから!」

ほう。成る程。だからか。

('A`)「株式上場企業の管理職ね…勝ち組の彼氏を見つけて、さぞかしいい夢を見させて貰ってたんだろうな」

从∀゚;从「な、何さ……」

('A`)「だが、その夢ももう醒める時間だ」

カードキーをスリットに通す。
電子ロックの外れる音と同時、目前のスライド式ドアが横滑りし、玄関という名の夢の出口がオレ達の前に口を開けた。
デザートイーグルを構えると、シャロン嬢の導きにより家の中を進む。

('A`)「ここが、愛しの彼氏の部屋か?」

格調高いブナ材のドアの前で、シャロン嬢を振り返る。

从-゚;从「……」

彼女が無言で頷いたのを確認。

('A`)「さぁて、目覚まし時計が鳴っていますよぉ…っと!」

ドアへ体当たりし、オレはその中に転がり込んだ。
95 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:39:27.13 ID:jVbD2HRfO
 ※ ※ ※ ※

━━不意打ちだった。

( #´∀`)「オォォオ!」

歌う事に集中していた為か。動体レーダーをパッシブに戻し忘れていた私の体を、獣となったモナーが押し倒し。

从;゚∀从「ちぃっ!」

相前後、今まで私が立っていた位置に照明器具が甲高い音を立てて、落ちてきた。

从;゚∀从「……?」

何が起こったのか。私の超高性能なAIでも、事態を把握するのに二秒掛かった。

96 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:40:19.66 ID:jVbD2HRfO
( ;´∀`)「はぁ…はぁ…はぁ…間に合って…良かった…モナ……」

息も絶え絶え、彼は安堵の吐息を漏らす。

私は、彼に寸でのところで助けられたという事になるのか?

从゚∀从「……いや」

彼が救ったのは私では無く、シャロンだ。彼はそう思っている。それが、堪らなく哀れだった。

( ;´∀`)「シャ、シャロン、怪我は無いモナか?」

私の体に覆い被さったまま、モナーが心配気に問い掛けてくる。
ここで私が本当はシャロンではないと知ったら、彼はどんな顔をするだろうか?
少し興味があったが、私はその考えをそっと電気信号の奔流の奥に押しやった。
99 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:43:50.46 ID:jVbD2HRfO
( ;´∀`)「しょ、照明がぐらついてるのに気付いて、とっさにこんな事しちゃったけど……」

从*゚ー从「う、うん…大丈夫…有難う…モナー……」

( *´∀`)「い、いやぁ…ははは…シャロンの為ならこれくらい……」

観客のざわめき。バンドメンバーの唖然とした顔。
それらを視界の端に収めながら、私はぼんやりと呟く。

从゚ー从「ヤツも、これだけ逞しければいいのだが……」
101 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:45:23.44 ID:jVbD2HRfO
 ※ ※ ※ ※

━━部屋の中では、一人の男が情報端末(ターミナル)の前に座り、そこから映し出されたホロを睨みつけていた。

('A`)「ちわーっす。どっくん何でも屋でぇす」

(;・∀ ・)「!?」

オレがフランクな挨拶をその背に投げかけると、そいつは面白いぐらいに動転した仕草でこっちを振り返った。

(;・∀ ・)「な、なんだお前は!人様の家に銃なんか構えて!」

きちんと整えられた髪に、紺のセーター、ベージュのスラックス。如何にも良家の坊ちゃま然としたそいつは、オレの中の僻み根性に火を点けた。
106 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:49:48.36 ID:jVbD2HRfO
('A`)「どっくん何でも屋だっつってんだろ、モヤシが。鬼退治に来た桃太郎にでも見えるのか?あぁ?」

('A`)「まぁ…確かに、鬼退治みてぇなもんか」

鮫のような笑いを口の端に浮かべ、後ろを振り返る。

('A`)「さぁお嬢さん。こちらが、今回の黒幕にございます」

恭しく頭を垂れるオレ。

(;・∀ ・)「シャ…ロン…?何故、ここに?」

息を呑む、まっくん。

从∀゚从「どういう…こと?」

合点のいかないシャロン嬢。

107 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:51:56.00 ID:jVbD2HRfO
宜しい。ならば、種明かしだ。

(人'A`)「まーっ君♪そのホロはなぁに?」

(;・∀ ・)「っぅ!?」

オレの指摘に、まっくんはとっさにターミナルのスイッチを切る。

('A`)「お嬢様、今のをご覧になりましたか?」

从∀゚;从「あれは…どういう事?」

ホロに映し出されていたのは、ニューソク区の野外音楽堂、そのステージの上。
まっくんが消す寸前までそこには、落下した照明器具とその横で折り重なるようにして倒れている、二人の人物が映っていた。
110 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:53:09.91 ID:jVbD2HRfO
('A`)「あれれぇ?何だろうねぇ?事故かな?照明器具が突然落ちてきたみたいだけど、あれは事故なのかな?」

言いながら、オレはまっくんの前に置かれたデスク型のターミナルまで歩み寄る。

('A`)「僕、これの中を調べてみれば、分かる気がするなぁ〜♪」

(;・∀ ・)「な、何をするっ!」

制止しようとするまっくん。

('A`)「うるせぇなぁ……」

オレは無造作に肘を繰り出す。

(;#)3 ・)「ぶぇっ!」

从∀゚;从「まっくん!」

よろけるまっくん、駆け寄るシャロン嬢。カップルを無視し、オレはターミナルを立ち上げるとアクセス履歴を呼び出した。
116 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:57:26.97 ID:jVbD2HRfO
('A`)г「さぁ、ご覧下さい。これが、まっくんの全てです」

オレがホロに立ち上げたブラウザを指すと、シャロン嬢はまっくんをほっぽりだしてそれにかじりついた。

从∀゚;从「こ…これ……」

ズラリと並ぶアクセス履歴。
それに、彼女は開いた口が塞がらなくなっていた。

从∀゚;从「私のホームページと…バンドのホームページ…」

そして彼女にはわからないだろうが、最後の列に表示されているのは、恐らく野外音楽堂の管理システムか何かだろう。
全ての履歴の頭にはアノニマスプロキシを通した事を表すタグが、綺麗に付随していた。
S&Kの重役故か、なかなかに高性能なアノニマスプロキシを使ってやがる。

从∀゚;从「一体、何をする為にアクセスしたの?」

嘘だと言ってよバーニー!そんな感じで、シャロン嬢はまっくんを振り返る。

(;・∀ ・)「……」

だが、まっくんはそれに答えない。
痛々しい沈黙が、二人の間に流れる。

('A`)「……さて、そろそろネタばらし、いいっすか?」

空気を読みつつ、オレは口を開けた。
二人とも反応する素振りは無いが、リア充なんか構わずオレは推理を披露する。
117 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 22:59:52.04 ID:jVbD2HRfO
('A`)「気付いたのは、昨日の晩、オタクから無言電話が掛かって来た時だった」

(;・∀ ・)「……」

('A`)「オレが電話口に出たとき、相手は息を呑んだ。驚いたんだろうな。まさか、男が電話に出るなんて思ってもみなかったんだから」

('A`)「だが、それはおかしい」

('A`)「昨日の夕方、オレ達の後をつけて来る奴が居た。とても尾行とは呼べないお粗末な代物だったがな」

('A`)「そいつが犯人だと、オレ達は最初はそう思ってた。だが、それでは辻褄が合わない。何故か?」

('A`)「ここで、先の話に戻る。そう、電話口でのやり取りだ」

('A`)「同じ事を何度も繰り返す事になるが、オレが電話口に出たとき、相手は息を呑んだ。
それはオレが電話に出る事を予想していなかったヤツの反応だ。それはおかしい」

('A`)「もう、わかるよな?奴が先にオレ達をつけていた人物なら、オレがアパートの中に入って行ったのを見ている筈だ。
オレが電話に出たところで驚く要素が無い」
121 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 23:01:49.70 ID:jVbD2HRfO
('A`)「そして、彼女の自宅の電話のアドレスを知ってる人物は誰かという事になる」

('A`)「シャロン嬢が身持ちの固い子で助かったよ。おかげで、直ぐに犯人を絞る事が出来た」

('A`)「彼女の自宅電話のアドレスを知っているのは、両親の他にはバンドメンバーとあんただけ」

('A`)「バンドメンバーは、その日オレとシャロン嬢の打ち合わせに立ち会っている。オレが彼女の家に居るという事を知ってたんだ」

('A`)「そうなってくると、残る犯人候補はあんたと両親だけだ」

(;・∀ ・)「あ、あぅ……」

('A`)「まさか、両親が愛する娘を手に掛ける筈がない。いいや、今の御時世じゃそうとも言い切れないかも知れんがな……」

从∀゚;从「……」

('A`)「生憎オレは、恋人同士の永遠の愛だとかは信じない、卑屈な男だ。家族愛と恋愛なんて天秤にかけるまでもなく、家族愛を信じたよ」

(;・∀ ・)「おま、おま、おま……」

('A`)「大方、彼女がメジャーデビューする事で自分の手の届かないとこに行っちまうとでも思ったんだろ?
だから、彼女たちを脅してフェスに出場させまいとした」
124 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 23:03:52.38 ID:jVbD2HRfO
(;・∀ ・)「あっ…あぅ…ぁぁ……」

完全に図星をつかれたのか。阿呆な魚みたいに口をパクパクさせるまっくん。

从-゚;从「そう…なの…?」

シャロン嬢はそんな彼に、猜疑の目を向ける。

(;・∀ ・)「……っ!」

苦虫を噛み潰した顔のまっくん。

(;・∀ ・)「……お前がいけないんだ」

観念したように口を開くと、彼は汚泥の如き劣情を吐き出し始めた。

(;・∀ ・)「お前が…僕に何の断りもなく…そんなフェスに出るなんて言うから……」

从∀゚;从「だ、だってまっくん、バンドの事は応援してくれてたじゃない!」

(#・∀ ・)「お前は僕のものだ!僕だけのものだ!メジャーデビューなんかしたら、余計な虫が付くに決まってる……!」

彼の手が、ターミナルの上に置いてあった水晶の灰皿を静かに掴む。

(#・∀ ・)「そんなのは許さない…許さない…絶対に…絶対に……誰にも渡さないぃぃい!」

从∀゚;从「━━っ!」

情けない激情を叫びに変え、彼はシャロン嬢へと踊りかかる。
128 : ◆cnH487U/EY :2008/12/03(水) 23:10:23.28 ID:jVbD2HRfO
━━が。

(;・∀ ・)「っが!?」

('A`)「見苦しい真似は、よそうや」

オレの突き出した足に躓き、彼は無残に地を這った。

(;・∀ ・)「畜…生……」

すかさずその背中を踏みつけ、カスタムデザートイーグルを突きつける。

('A`)「まぁ、あんたの気持ちも解らんではないがね。むしろ、痛いぐらいに同情するよ」

あぁ、本当にな。

('A`)「女ってのは、オレら男と違って何時も高いところを見ている。置いてかれる辛さは、オレも身にしみて分かってるよ」

“お前が無理する姿は見たくねぇんだよ。だから、ここで止める”。

('A`)「だが、今のオレは迷える金の子羊達の味方だ」

過去の残照を振り切り、はっきりと口にする。

('A`)「大人になろうぜ、まっくん」

(;・∀ ・)「うっ…ぐぅぅうおぉ!」

悔しげに唸る彼の声が、この長い二日間に幕を下ろした。

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