9 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:09:01.21 ID:jai05qOKO
〜track-α〜

━━遠くで雷が鳴っている。

爪#゚Д゚)y‐「ペイン!」

目の前で亡者が叫ぶ。

('σA`)「ぬぁー」

オレは、鼻糞をほじっていた。

爪*'∀`)y‐「━━そのシャウトを聴いた瞬間、オレは思ったね。“ロブになら…抱かれてもイイッ!”…と」

気象観測所がたまげる程の巨大台風が、VIPの街に到来した夜。
相変わらず閑散としたエロゲショップ「狐の穴」で、オレ達はカウンターを挟んで向かい合っていた。

(*'A`)σ・「おぉ…久し振りの大物だ」

爪'ー`)y‐「……」

(*'A`)「……まちこ、と名付けよう」

爪#゚Д゚)y‐「ペイン!」

10 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:09:29.95 ID:jai05qOKO
(;゚A゚)「どわっ!耳元で叫ぶな馬鹿たれぇ!」

爪#'Д`)y‐「てめぇに!メタルの!何たるかを!骨の髄まで!叩き込んでやる!マーダラー!」

(;'A`)「えぇー…いいよ、別に。興味無いもん…」

オレの唯一の親友と呼べるエロゲ屋の店長は、ことヘヴィメタルの話となると抑制が効かない。
12 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:11:40.13 ID:jai05qOKO
オレが、インディーズメタルバンドの護衛依頼を受けたと話した途端、奴は口にローションと油をバケツいっぱいにぶちまけたかの如く口をくるくると回転させ始め……。

爪*'ー`)y‐『…だからさ、メタリカは一般的に初期の評価のが高いんだけど、オレはセイントアンガーも悪くないと思うんだよね。いや、彼らの新たな出発地点だとして祝福してやりたい!』

爪*'∀`)y‐「同じようにして、メンバーチェンジしたアークエネミーも賛否両論だけど、真のメタラーならどちらも許容してやる大きな懐がなきゃ!」

爪*'ー`)y‐「あ、そうそう!アンジェラで思い出した。オーテップっつうマイナーな女デス声のバンドがあってさ……」

こんな調子で、一時間近く語り続けた。

(;'A`)「正直、気持ち悪いです……」

爪#゚Д゚)y‐「口を慎めドクオ二等兵!」

(;'A`)「……」

爪#'ー`)y‐「大体なんだ、最近の若者は。何かっていうと二言目には“キモい”だの“ダルい”だの“めんどくさい”だの!」

('A`)「オレとタメだろてめぇ」
14 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:13:05.32 ID:jai05qOKO
爪#'д`)y‐「そうやって直ぐに頭ごなしに否定ばっかして、自分の興味が有ること以外には無頓着で、それ以外のものを理解しようともしないで!」

('A`)「いや、別に義務化されてるわけじゃないし……」

爪#'Д`)y‐「出た出た出た出た!出たよ!出ましたよ!“どうでもいいオーラ”!」

(;'A`)「何それ…新手のスピリチュアルワード?」

爪#'Д`)y‐「“興味ないしー”、“関係ないしー”、“つかどうでもいいしー”」

('A`)「どうでもいいけどその顔気持ち悪いから止めて」

爪#゚Д゚)y‐「そうやって何事にも興味を持たない若者ばかりだから、今の日本の政治はおかしくなったんじゃー!」

('A`)「いきなりスケールがデカくなったなおい」

爪#'Д`)y‐「“僕は二次元にしか興味ありません”……“えへへ…長門可愛いよ長門……”」

m9爪#゚Д゚)y‐「だからお前らはニートなんだよ馬鹿たれぇぇえ!」

ヽ(;'A`)ノ「馬鹿ぁぁ!それはメタ的に不味いから止めろ!」

爪#゚Д゚)y‐「ファァック!ガッデェェム!サァァック!今こそ、この社会が抱える痛みを!ロブ!あなたのペインキラーで消してくれぇぇ!」
17 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:15:31.23 ID:jai05qOKO
……さて。そろそろ収集がつかなくなってきたから、ここいらでオレのモノローグによる強制介入を行おう。

オレの名前はドクオ。世界中の女が股を濡らす程の超絶ダメ人間。
こう見えても、世界を股に挟んでは謎の生物兵器退治から、明日のテストの範囲調査までを、手広くカバーする何でも屋を営んでいる。

从゚∀从「取り込み中失礼する」

('A`)「いや、別に取り込んではいないけどな」

こいつの名前はハインリッヒ。
銀髪赤眼、真っ黒なゴスロリワンピースで固めた“正直狙い過ぎ”な外見の彼女は、特A級護衛専任ガイノイド。
アイアンメイデンと呼ばれる、歩く個人用核シェルターだ。

从゚∀从「一通り店内を回ってみたが、やはり私には理解不能だ」

爪#'Д`)y‐「けっ!ロボにメタルの素晴らしさが分かってたまるかよ!」

从゚∀从「いや、それも理解不能なのだが、何より……」

歯切れの悪い調子で、彼女は艶やかなパッケージのそれをカウンターに置く。

(;'A`)「つよ…きす…だと…?」

非立体偶像美少女達がこちらへ微笑みかけているそれは、オレの聖書ではないか!

18 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:17:08.57 ID:jai05qOKO
从゚∀从「試しに店頭端末で体験版をダウンロードしてみたが、これは何が面白いのだ?」

(;'A`)「き…き…君は……」

从゚∀从「およそ非現実的な登場人物。勢いに任せたストーリー展開に、理解不能なパロディ……」

(#'A`)「い…言うに事欠いて……」

从゚∀从「…私のOSが女性の脳を基本として形成されているからだろうか……貴様の思考体系を理解しようと、努力はしてみたのだが……」

( A )「……つ、つよ…き…すを……」

从゚∀从「済まない。私には、理解不能だ」

爪'ー`)y‐「あーあ、やっちゃった」

(#゚A゚)「つよきすを侮辱したなぁぁぁぁあ!」

遠くで雷が落ちた。

19 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:18:48.28 ID:jai05qOKO
 ※ ※ ※ ※

━━低く垂れ込めた雨雲が、恨めしそうに「リア充氏ね」的な視線でオレ達を見下ろしていた。

('A`)「違うよ。カップルじゃないよ。全然違うよ」

从゚∀从「そうだな。出来ればそう書いた貼り紙を背中に貼って、貴様は歩くべきだ」

ニューソク区、センターアーケード。
電脳ゲームセンターや、セクサロイド専門の風俗店の看板がいかがわしいネオンを放つここは、いわゆる歓楽街。
VIPの中では二番目に治安のいい区画であるニューソク区の中における、唯一のイレギュラー。

('A`)「やだよ。そしたら、オレの唯一の楽しみである“モテない男の嫉妬に狂った視線を蔑みながら歩く”という事が出来なくなるだろ?」

从゚∀从「私は貴様と歩くことが苦痛では無い。だが、貴様のそういった虚栄心を知る者として、この言葉を贈らせてもらおう」

路上を行くのは、今をときめく二十代前半の若者達。
需要があれば供給するのが資本主義。
彼らのちょっとした“背徳的なものへの好奇心”を満たす為にも、こうした場所が出来上がったのは必然と言えよう。

20 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:20:05.37 ID:jai05qOKO
(*'A`)「何々ー?何くれるのー?」

从゚∀从「貴様は、一般的な人間の価値観から見て……」

(*'A`)「うんうん」

从゚∀从「“哀れ”だ」

(゚A゚)「がーん!」

卑屈な雨雲が、オレの肩のとこまで一気に迫って来た気がして、オレは振り返る。

(ヽ'A`)「…へっ、笑うがいいさ。どうせオレは負け犬よ……」

雨雲は笑う代わりに、コールタールのような雨粒を落とし始めた。

(;'A`)「やっべ、急ぐぞハイン」

鬼畜ガイノイドを促し、塗れ始めたアスファルトの上を走り出す。
目的地である地下ライブハウスの看板を見付ける頃には、台風さんが本格的にその姿を表し、道行くカップル達へと嫉みの豪雨を叩きつけ始めた。

从゚∀从「ふぅ…間一髪だな」

タッチの差で地下階段の元へとたどり着いたオレ達は、中途半端に汚れたままに下に伸びる暗がりを見つめる。

从゚∀从「おい、マスコキ機械。そういえばまだ今回の依頼について詳しい話を聞いてなかったな。説明しろ」

(#'A`)「マス以外にもこけるもん!」

从゚∀从「わかったから、今は説明をしろ」

21 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:23:00.99 ID:jai05qOKO
実はこの子の口からマスコキ、なんて単語が飛び出した事に驚きを隠せないオレだが、今は隠して話を続けようと思う。主に世界の平和の為に。

('A`)「あー、何でも今回の依頼人はインディーズのヘヴィメタルバンドのヴォーカルをやってるらしいんだけどさ……」

从゚∀从「ほう。ヘヴィメタルという点を除けば存外にまともそうな依頼人ではないか」

('A`)「まぁね。…あー、なんつったかな、バンド名。ぱ、ぱ……」

爪;'∀`)y‐『パペットマスターだって!?』

ここには居ない“ヤツ”がピンポイントで頭をチラついてくれたお陰で、その名前を思い出した。

爪*'∀`)y‐『パペットマスターと言えば、オレの地元出身のゴシックメタルバンドじゃないか!』

('A`)『お前の地元、っつうとニューソクか』

爪*'ー`)y‐『あぁ。バンドメンバーがドラム以外全員おにゃのこってことで、出始めの頃は舐められてたが、彼女達はインディーズメタル界でも一、二を争うぐらいの実力派さ!』

('A`)『ふーん』
23 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:25:12.52 ID:jai05qOKO
爪*'ー`)y‐『中でもヴォーカルのシャロン・シャマナ嬢は、女性ヴォーカル特有の綺麗なソプラノは勿論、本場ヨーロッパのガチムチデスメタラーすら真っ青になる程の重厚なデスヴォイスまでをもカバーする希有な人材!』

('A`)「……で、おまけに超がつくほど可愛いんだとさ」

爪*'∀`)y‐『そりゃあもう、お人形さんかと思っちまうぐらいにな!』

从゚∀从「お人形さん、か」

爪*'д`)y‐『シャロンたん…シャロンたん…シャロンたん……うっ!』

……お見苦しいところをお見せした。

从゚∀从「まぁ、そんな事はどうでもいい。で、依頼の内容は?」

('A`)「そのシャロンとかいう子が、最近ストーカーに付きまとわれてるんだと。だから、護衛して欲しいってさ」

从゚∀从「護衛、か。ふむ。私達に最も相応しい依頼だな」

ハインの言葉に、ちくりと胸が痛む。

('A`)「相応しい…かね」

彼女は皮肉を込めて言った訳では無いのだろうが、その言葉にオレは少なからず嫌な思い出を喚起された。
25 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:27:11.75 ID:jai05qOKO
从゚∀从「……ドクオ?」

('A`)「いや、何でも無い。それじゃあ依頼人とのご対面タイムと行きますか」

こちらを覗き込むハインの真紅の双眸から逃れるよう、オレは階段を降り始める。

触れられたく無いことだらけな自分の過去に、嫌気がさした午後の事だった。

26 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:28:56.82 ID:jai05qOKO
 ※ ※ ※ ※

━━蛍光灯のチープな明かりの下。
ドラムセットやアンプ、配線のコードなんかによって、只でさえ狭苦しいライブハウスの中は、さらに窮屈に見えた。

('A`)「ちーっす、どっくん何でも屋でぇす。護衛用ガイノイド一匹お持ちしやしたー」

そんな窮屈なライブハウスの中。
それぞれに楽器の手入れをしていた四人の男女が、一斉に顔を上げてオレ達の訪問を歓迎してくれた。

ミセ*゚ー゚)リ「……は?」

( ´∀`)「どなた?」

( ゚∋゚)「んだよてめぇ…」

マト#゚д゚)メ「ここはモヤシの来るとこじゃねぇよ。帰ってママの尻でもファックしてな」

そりゃあもう、手厚くね。

27 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:30:17.87 ID:jai05qOKO
(;'A`)「えー…と、皆さんがパペットマスターの方々…ですか?」

インバネスだとかビスチェだとかを着込んだ彼らのご機嫌は、まるで今VIPを襲っている台風のよう。
頼む。頼むから、違うと言ってくれ。

マト#>д<)メ「だったら何だよ」

( ゚∋゚)「文句あんのか?」

( ;´∀`)「えー…と」

ミセ*゚ー゚)リ「消えろやホモ野郎」

神様の馬鹿!死ね!
29 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:32:17.03 ID:jai05qOKO
(;A;)「初対面の人達にこんなボロクソ言われたの初めてだよママン」

从゚∀从「貴様はそういった因果の星の下に生まれついたのだ。諦めろピロリ菌」

オレが理不尽な神を殺す方法を考える為に頭を捻っていると、ライブハウスの奥の扉が開いた。

「なになに〜?また喧嘩してんの?いい加減にしなっていつも……」

直感で分かった。この声の主は、きっと常識人だと。
この御人ならば、まともな会話が出来ると。

(;'A`)「あ、あのっ!僕、どっくん何でも屋のドクオという者ですけど!」

藁にも縋る思いで口を開くオレ。平身低頭になる余り、思わず漏れた敬語に内心自分でも驚いたが……。

从∀゚从「あぁ、例のボディーガードの!」

(;'A`)「ハ……」

从∀゚从「歯?」

(;゚A゚)「ハ……」

从゚∀从「破?」

(;゚A゚)「ハインが二人居るぅぅぅぅう!」

世の中には、それ以上に信じられないミラクルが存在した。

30 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:35:00.61 ID:jai05qOKO
 ※ ※ ※ ※

('A`)「…で、君が今回の依頼人のシャロンさん…でいいの?」

オープン前のライブハウス。
壁際に転がっていたパイプイスに腰掛け、オレ達はパペットマスターのメンバーと対峙していた。

从∀゚从「あぁ、私がシャロンだよ。ボディーガードの依頼をしたのは私さ」

('A`)「…はぁ」

シルバーブロンドに輝く髪、血のように真っ赤な双眸、陶磁器で出来ているかのような白い肌。
やっぱり、どう見てもハインが二人居るようにしか思えない。

ミセ;゚ー゚)リ「…ぅわぁ」

マト;>д<)メ「マジで、クリソツじゃん……」

バンドメンバーもオレと思う所は同じなのか、オレの傍らに立つ戦機械を見て呆然としている。
最も、第一印象が最悪だったこいつと感情を共有出来たって嬉しくないけどね!

('A`)「…あー、それで依頼内容について詳しく煮詰めていきたいんだが…」

从∀゚从「あんたには、今日からフェスが終わる明日の夕方頃まで、私のボディーガードを依頼したいんだ。幾らになる?」

31 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:36:07.03 ID:jai05qOKO
('A`)「あー、ちょい待ちちょい待ち。……そのフェスってのは、何時やるんだ?」

从∀゚从「明日」

('A`)「っつう事は、二日間の拘束料に、人件費、ハインのバッテリー代…諸々含めて、十二万ってとこか」

从∀゚;从「十二万…か……」

思案気に鼻の頭に皺を寄せるシャロン嬢。
オレからしたらそれは、四六時中顔を突き合わせている、文字通り「血も涙も無い」相棒に、突然感情が芽生えたかのような、そんな錯覚を覚えさせられるものだった。

('A`)「何なら、もう少し……」

おっと。バーロー、幾ら見た目が似てるからって変に情を移すことはするな。あくまで、ビジネスライクに。

从∀゚从「……わかったよ。十二万で依頼する。明日のフェスは、何としても成功させたいんだ。背に腹は代えられないってね」

吹っ切るようにして、言葉を紡ぐシャロン嬢。
正直、インディーズバンドってのがどれぐらい儲かってるのかは知らないが、やっぱり十二万は懐に痛いのか。
33 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:38:54.26 ID:jai05qOKO
('A`)「オーケー。思い切りがよくて助かる。……で、だ」

从∀゚从「まだ、何か?」

('A`)「君は、ストーカーに悩まされていると、事務所に連絡をくれた時に言ってたと思うんだが……。
よければどのような被害にあっているのか教えてくれないか?」

途端、シャロン嬢の顔が何とも言えない形に歪んだ。

从∀゚从「それ……あんたの仕事に関係あるの?」

('A`)「あぁ。君がオレにボディーガードの依頼をしてきた理由は、そのストーカーから護って欲しいからだと…オレは思ってたんだが、違うのかい?」

从∀゚;从「……」

('A`)「オレとしては、敵さんの情報は少しでも知っておきたいところだ。
そうすりゃ、ボディーガードなんて受け身に回るような事をしなくても、もしかしたら先に向こうを見つけ出してお灸を据えてやる事が出来るかも知れねぇかんな」

懐からマルボロを取り出し、火をつける。

('A`)y-~「……だが、それは君にとっても嫌な事を思い出させちまう事になる。だからオレも、強制はせんよ」

34 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:39:53.64 ID:jai05qOKO
……決まった!ヤベェ、今のオレマジでハードボイルドしてたわ。オレカッコ良すぎワロタ。

从∀゚;从「……わかった。わかったよ、協力する。その代わり、言うからにはきちんと仕事してくれよな」

('A`)y-~「あぁ、約束しよう。どっくん何でも屋は、迷える金の子羊達の味方だ」

从∀゚从「……あれは、一ヶ月くらい前かな。今回のライブ出演が決まった辺りだった。その日も、このライブハウスでみんなと練習した後、アパートに帰るその途中で誰かからつけられてる気がしたんだ」

('A`)「…気のせい、とかは…」

从∀゚从「勿論、最初はそう思ったさ。私だってそこまで自意識過剰じゃない。でさ、家に帰ってみると据置の電話が鳴ったんだ」

('A`)「…で?」

从∀゚从「ああいうのを無言電話って言うんだろうな。十秒ぐらいですぐ切れたけど、その時は間違い電話だと思って気にもしなかった」

从∀゚从「でも、その日から毎晩同じ時間に、非通知で無言電話がかかって来るようになって……」

('A`)「そこで、ストーカーの可能性を考え始めたと」
38 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:42:17.62 ID:jai05qOKO
从∀゚从「それだけじゃない。私が個人でやってるブログも、荒らされて……」

('A`)「はっ、そりゃあ随分と可愛らしいやつだな」

从∀゚#从「あんなのが可愛いわけないだろ!」

(;'A`)「おっと、すまない。当事者の君からしたら、確かに可愛いくは見えないな」

从∀゚;从「毎日毎日、アノニマスで気持ち悪い画像データ送り付けてきて、気持ち悪い…気持ち悪い…ぅっ……」

言っているうち、彼女はその事を思い出したのか。

( ;´∀`)「シャロンさん……」

口に手を当てる彼女の背中を、ローディーらしき青年がさする。

39 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:43:32.34 ID:jai05qOKO
从∀゚;从「あ、有難う…モナー……」

( *´∀`)「い、いや、別にそんな当たり前の事をしただけで僕はそのえぅ」

小太りで脂ののった顔の彼は、えへへ…と言わんばかりに頭をかいた。

从∀゚从「でも、気持ち悪いから触らないでくれる?」

( ;´∀`)「!!」

開いた口が塞がらないとは、この事か。

ミセ*゚ー゚)リ「ぷっ……」

マト#>д<)メ「……くすくす」

( ゚∋゚)「……ふひひ」
41 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:45:42.87 ID:jai05qOKO
( ;´∀`)「も、モナ……ハハハ」

バンドメンバーの嘲笑の中、苦笑いをする彼は道化。

「僕、キモいですから。あはは」と諦めて自虐的な笑いを皆に運ぶ姿は、なんとも哀れで……。

(;A;)「あれ…目から……よだれが……」

あぁ、キモメンには生きずらい世の中だよな。ホント。同情しちまうぜ。
なぁ、神様。オレ達のような「遺伝子レベルでの負け組」はどうやって生きていけばいいんだろうなぁ。
オレ、ホント疲れちまったよ……。

(;A;)「ホントに…よぉ……」

从∀゚;从「あの…続き、話してもいい…?」

(うA;)「あぁ、大丈夫だ。蔑まれるのには馴れてる」

从∀゚;从「は、はぁ……」

オレの突然の涙に戸惑いながらも、シャロン嬢は話を再開した。

从∀゚从「そんな感じで、毎日毎日付け回されるわ、無言電話はかけられるわ、気持ち悪い画像を送り付けられるわで散々だったんだけど、一週間前にさ……」

小包が届いたんだ。
差出人は不明。
家に帰ってきたら、玄関先に置かれてた。
何だか気持ち悪かったけど、知り合いからの荷物とかだったらって思うと……さ。

42 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:47:51.10 ID:jai05qOKO
……で、開けてみたら。

('A`)「カラスの死体とは……また、悪趣味な」

从∀;从「ホント…何なのさ。何で私ばっかり?私が何をしたって言うのさ…!」

涙を流しながら、力無く憤るシャロン嬢。

从∀;从「……警察に届けようとも思ったけど、今はメジャーデビューがかかった大事な時期だから、警察沙汰にはしたくないし…だからといって、私こんなの我慢出来ない……」

('A`)「メジャーデビュー……ってのは初耳だな」

从∀;从「明日のフェスは、国内外を問わずに様々なメタルバンドが集まるメタルの祭典なんだ。そこには、音楽プロダクションの人達も見に来る……」

('A`)「……で、そこで彼らの目に止まればってか」

はは、夢見ちゃって。こいつぅー。

从∀;从「…正直、まだどうなるかわからない。でも、これは傲りとかじゃなくて、実際私たちはインディーズ界でも有力候補だと思ってるんだ……」

そういや、フォックスの阿呆もパペットマスターについては高く買ってたな。
インディーズメタル界では実力派だとか言ってたっけ。

43 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:49:00.22 ID:jai05qOKO
从∀゚从「だから、何としても明日のフェスだけは成功させたいんだ」

('A`)「……」

从゚∀从「……」

顔を見合わせるオレ達どっくん何でも屋。
そんな感じで、熱い涙なんか流されちゃったら……ねぇ?

('A`)「いいでしょう。何があっても、我々がその下郎めをひっとらえ、あなた方のフェスを成功させてみせます」

从∀゚从「頼める…か?」

('A`)「えぇ、御安心を。我々どっくん何でも屋は、迷える金の子羊達の味方ですから」

珍しく真面目に啖呵なんかきっちゃうオレ。
カッコつけてみたはいいものの、オレのささやかな雄志は携帯の呼び出し音で遮られた。

从∀゚从「あぁ、ごめん私だ」

携帯情報端末を片手に、彼女は席を立つ。

从∀゚从「あぁ、まっ君〜!うん、大丈夫だよ。うん……」

彼氏からの電話だろうか。泣き顔から一転して笑顔になった彼女は、奥の扉へと消えていった。

('A`)「……ふぅ」

そうすると、必然的に残されるのは“あの”面子なわけで……。
45 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:51:31.52 ID:jai05qOKO
ミセ*゚ー゚)リ「……」

マト#>д<)メ「……」

( ゚∋゚)「……」

正直、オレこの人達すっげぇ苦手何ですけど。
ゴシック風のコスプレ集団みたいな格好してるのに、中身はスッゴくアグレッシヴで血気盛ん何ですもん。

マト#>д<)メ「なぁ」

(;'A`)「な、なんですかっ!?」

モスグリーンのゴスロリドレスにインバネスを身に付けた黒髪の女が、突然口を開いた。

マト#>д<)メ「……さっきは、怒鳴ったりして悪かったな」

(;'A`)「いえいえ、いいんです……別に、気にしてないですから……」

めちゃくちゃ気にしてるけど、何だかこの人には逆らっちゃいけないような気がする。どっかで会ったことが有るような気もするし。
何だろう。前世で、奴隷と主人みたいな関係だったのかな。

マト#>д<)メ「……あの子はさ、ホントに私たちの希望の星なんだよ。あの子がいなきゃ、正直私たちはここまでやってこられなかったと思う」

(;'A`)「は、はぁ……」

ミセ*゚ー゚)リ「私たち、演奏の方はそんなに上手くないんですよ。そりゃ、他のインディーズバンドと比べたら、勝ってる自信は有るけど」

46 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:54:26.93 ID:jai05qOKO
( ゚∋゚)「……それでも、オレ達がここまで上り詰められたのは、やっぱりシャロンのヴォーカルがあったからだと思うんだ」

影の薄そうなメッシュ頭の女に、タンクトップの筋肉だるま。彼らは皆、真摯な眼差しで語る。

マト#>д<)メ「だからさ、何としてもあの子を守ってあげてくれよ!」

(;'A`)「は、はいっ。じ、尽力を持って任務にあたりますですっ」

身を乗り出し懇願(オレには脅迫に見えた)する彼女達の気迫におされ頷く。

それに満足したのか、彼女達はホッと肩の力を抜いた。

マト#>д<)メ「……そうか。なら、私たちからも情報を提供するよ」

('A`)「はえ?」

マト#>д<)メ「さっきは、シャロンが居たから言い出せなかったけど、私たちのバンドのホームページも荒らされてるんだよね」

ミセ*゚ー゚)リ「死ねとか、さっさと解散しろとか、匿名をいいことに罵詈雑言の嵐でメッセが埋まってるんです」

( ゚∋゚)「……シャロンに心配かけるわけにはいかないから、黙ってたんだがな」

( ;´∀`)「さ、幸い、管理パスを知ってるのは僕だけなんで、シャロンは気付いてないと思うんですけど、それはもう…酷い有り様だったモナ」

47 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:56:31.16 ID:jai05qOKO
('A`)「……な、る、ほ、ど、ね」

そうなってくると、話は一気に変わってくる。
ただのストーカーだと思ってたが、これは案外に業が深い。

从∀゚从「いやぁ、ごめんごめん。急にかかってくるからさ……」

申し訳なさそうな声に振り返れば、話題の君のご帰還だ。

从∀゚从「あれ?どうしたん?みんな、神妙な顔して……」

('A`)「いや、ちょっとマルクス主義とリバイアサンについて語ってたんだ」

从∀゚从「……はぁ?」

('A`)「それより、今日はもう練習はいいのか?」

从∀゚从「んー……」

確認を取るよう、メンバーの顔を見回すシャロン嬢。皆は、無言で頷いた。

('A`)「なら、今日はとりあえずご帰宅を願う。無言電話だとか、ホームページ荒らしだとか、そういったのについてじっくりと調査したい」
50 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 00:58:03.71 ID:jai05qOKO
 ※ ※ ※ ※

━━黄昏の団地区画を、オレ達三人は無言で歩く。
ニューソク区のセンターアーケードから離れたそこは、善良なる市民の寝床。向かう先は無論、シャロン嬢の自宅マンション。
メタルバンドなんてやってる割には、クリーンな場所に住んでいるなと思った。

从゚∀从「おい、群体生物。気付いているか」

シャロン嬢が先導する後ろ。並んで歩くオレ達。傍らの相棒が、典型的な台詞を吐く。

('A`)「もち。オレを誰だと思ってる?」

彼女が言っているのは、先ほどからオレ達三人の後を付け回している根性無しの事だろう。
電柱や建物の陰に隠れてそれらしく振る舞っているつもりだろうが、全くもって馬鹿にされている気分だ。

从゚∀从「相手は素人どころじゃない。自分の行動もわからない、相当に“おめでたい”奴だ」

('A`)「真性入ってるな。中坊だってもっとマシなつけ方をする」

从゚∀从「……ヤるか?」

辺りを見渡す。
会社帰りのサラリーマン、買い物籠をぶら下げた主婦、塾帰りのお坊ちゃん。
人通りは、決して少なくない。
52 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 01:02:24.21 ID:jai05qOKO
('A`)「ここがニーソクだったら、問題ないんだが……」

流石に、ニューソクでネイルガトリングをぶっ放すのはまずい。
あそこと違ってここは熱心な公僕さんが巡回しているからな。

从゚∀从「別に発砲許可を求めているわけではない。あそこまでの素人なら、小指の爪だけで充分だ」


('A`)「まぁまぁ、焦るなって。大丈夫だ。今は泳がせとけ」

逸るコンバットマシーンを抑え、オレは呟く。

('A`)「……こりゃ案外、早くけりがつきそうだが…いやしかし……」

53 : ◆cnH487U/EY :2008/11/24(月) 01:03:47.60 ID:jai05qOKO
从∀゚从「さぁ、ついたよ。ここが私の家だ」

目の前を行くシャロン嬢の声に顔を上げるとそこは、コンクリート壁で出来た十二階立てマンションの前だった。

从∀゚从「さぁさ、上がって上がって。うちは六階だよ」

玄関ホールへと消えるシャロン嬢。
後ろを振り返り、闇の中へと目を凝らす。先の尾行者の姿はもう見えない。

('A`)「……気に食わねぇぜ。全くよ」

唾と共に吐き捨てると、オレは闇を睨む。

('A`)「面倒くせぇ事にならなきゃ、いいんだがな……」



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