5 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:05:46.38 ID:B56S/Ns0O
〜track-γ〜

━━メロウな曲調のジャズは、さっきから延々と同じ節を繰り返していた。
照明の少ない店内。聞こえるのはそのジャズナンバーだけ。

ξ゚听)ξ「これが、今回のターゲット?」

写真を一瞥しただけで嫌な気分になった私は、手元の赤ワインが入ったグラスを煽る。

「バーボンハウス」ニューソク本店。シックな70年代風のバーの中、私達は今回の胸糞悪い仕事の話をしていた。

(,,゚Д゚)「いや、ターゲットと言っても殺る分けでは無い。こいつを探し出して、あのいけ好かない女狐に差し出すのが我々の仕事だ」

隣でジンのグラスを握りしめている黒狼は、炭のような色合いのトレンチコートで全身を覆っている。
流石に四六時中、あのいかつい強化外骨格をさらけ出している訳では無いみたいだ。

ξ゚听)ξ「探し出すって……それじゃあ、わざわざ私達を呼ぶ必要なんて無いんじゃないのかしら?あくまで私達は“兵隊”よ。推理ゲームはシャーロキアンのお仕事でしょうに」
8 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:09:21.71 ID:B56S/Ns0O
(,,゚Д゚)「……さてな、オレにしてもクライアントの事情は知る由も無い。そういったところは貴様の方が詳しいのではないか?ビジネスパートナーなのだろう?」

ξ゚听)ξ「……誤解しないで。あくまで私の社長が彼女とつるんでるってだけよ。私はその下で働いてるだけ。何も知らないわ」

(,,゚Д゚)「成る程、確かに。……お前も不振に思っているようだが、オレも依頼を受けた時あの女狐は随分と含みのある言い方をしたのが引っかかっている。まるで、これから一山有るような……」

ξ゚听)ξ「何者かの妨害…襲撃が予想される、という事かしら」

(,,゚Д゚)「かも知れん。見つけ出して連れ帰ってそれで終わり、とは行きそうには無いな」

ξ゚听)ξ「……そう。まぁ、どんな展開が待っているにしろ私はただ仕事をこなすだけよ」

どんな事が有ろうが関係ない。
私が望むのは、その先に有る結果だけ。
飛び上がった後に、踏み台を気にする奴がどこに居ようか。つまりはそういう事だ。

(,,゚Д゚)「その言葉は“冷静さ”の現れと解釈させて貰っていいのか」

ξ゚听)ξ「それ以外にどういう捉え方が有るのかしら?」
10 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:15:17.97 ID:B56S/Ns0O
(,,゚Д゚)「そう噛みつくな。前言を撤回するぞ?」

ξ゚听)ξ「噛みつけって腕を差し出したのはあなたでしょう?……まぁいいわ、わざわざ下らないお喋りをしにきたんじゃないし。
で、どうするの?あなたの本業は探偵さんじゃ無いんでしょう?」

私の言葉に嘲るような笑みを浮かべる黒狼。嫌な予感がした。

(,,゚Д゚)「それなら問題ない。わざわざあの女狐がオレと貴様を組ませたんだ。この意味が分かるだろう?」

ξ゚听)ξ「……やっぱりそう来るのね。いいわね男は。出された皿にかぶりついて貪り喰うだけなんだから」

(,,゚Д゚)「そういう話では無い。“役割分担”だという事だ。オレは剣を振るうのが得意、貴様はスコープを覗くのが得意。適材適所というだろう?」

ξ゚听)ξ「男尊女卑の考え方をする男は必ずそういう喩えを出してくるのよね」

(,,゚Д゚)「フェミニストは直ぐに感情的になる」

ξ#゚听)ξ「何よ」

(,,゚Д゚)「真実を述べただけだ」

黒狼の浅黒い顔を嫌という程睨み付ける。
余裕を孕んだ含み笑いを浮かべる精悍な顔が、何故かアイツの締まらないにやけ面と重なり堪らなく気に食わなかった。
12 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:18:27.43 ID:B56S/Ns0O
(,,゚Д゚)「ははっ……ようやく、人間らしい顔を見せたな。いいぞ、そっちの方が貴様には似合う」

ξ;゚听)ξ「なっ……」

何を言うかと思えば調子に乗って。

ξ;゚ー゚)ξ「とんだ色男ね。何?私を口説いてるつもり?」

(,,゚Д゚)「そう肩肘を張るな。殺し屋である前にオレ達は人間だ。幾ら気張ったところで、キリングマシーンになぞなれはせんよ。
そうやって何もかも押さえ込んじまってたら、いつか必ず耐えきれなくなる」

ξ#゚听)ξ「そんな事、あなたに言われる筋合いは……」

(,,゚Д゚)「いいか、殺し屋だからこそ人間の情ってのは大切に閉まっておかねばならん。さもなくば、ストリートのゴミと仲良く肩を並べるだけだ」

ξ;゚ ー゚)ξ「……っ」

(,,゚Д゚)「……さて、糞の肥やしにもならん説教はここまでだ。何はともあれ、貴様の情報収集能力はアテにしている。頼むぞ、“ホルス・アイズ”。その左目は伊達や酔狂では無いのだろう?」

そう言って、自らの左目を指さす黒狼。

ξ゚听)ξ「……まぁ、ね」
14 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:20:48.88 ID:B56S/Ns0O
グラスに映った私の顔に並ぶ二つの瞳は、青と…金。
親から貰ったのは青の方だ。

(,,゚Д゚)「……そういう訳で、ターゲットの場所を炙り出すのは貴様に一任する。特定出来たら、オレを呼べ」

一方的に話を打ち切ると、黒狼は立ち上がりレジへと足を向ける。
お開きにすることに異存は無いので、私も黙って見送る事にした。

(,,゚Д゚)「……しかし、何から何までいけ好かない仕事だ。なぁ、そうは思わないか?」

そのまま出て行くとばかりに思えた黒狼が振り返り、私の手元にある写真を見詰める。

ξ゚听)ξ「……私は、ただ仕事をこなすだけよ」

奴の説教をそのまま受け入れるのはなんだか癪に触るので、お節介はそのまま突っ返してやった。

(,,゚Д゚)「はっ…可愛げの無い女だ」

そうして今度こそ背中を向けて店を出て行く黒狼を見送った後、私は彼と同じように写真を見詰める。

ξ゚听)ξ「……ホント、お節介ね」

長生きするタイプじゃない。

彼も、アイツも、そして私も。

そう、何時だって生き残るのは“憎まれっ子”なのだから。
16 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:26:58.12 ID:B56S/Ns0O
 ※ ※ ※ ※

━━おい、不審者が居るぞ。誰か通報しろよ。オレ?やだよ警察って面倒そうだもん。

('A`)「そういう視線を一身に浴びても尚、オレは負けずに走り抜けたのだった……」

ヘリカルを連れてニューソク内のデパートの中を爆走する事五分弱。
子供服売り場の前のベンチで、オレは精神的苦痛と沸き起こる達成感のない交ぜとなった複雑な感情の中で、犬かきをしていた。

*(;‘‘)*「ね、ねぇお兄ちゃん……」

隣にちょこんと腰掛けたロリっ子社員が、おずおずとオレを見上げる。

('A`)「あ?何でしょうか」

*(;‘‘)*「これ……あの……」

彼女が示す包装紙に包まれたモノは、オレが苦難の果てに勝ち取った戦利品。

*(;‘‘)*「貰って…いいの?」

('A`)「何を言っているんだチミは。オレが何のために、世間の手厳しい視線の十字砲火の中を疾走したと思っているんだ。着替えが無いんだろ?」

*(;‘‘)*「でも…そんな…私……」

ふむ。自分の食い扶持は自分で稼ぐと言った手前、こんな施しを受け取るのは心苦しいというわけですな。

17 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:29:04.57 ID:B56S/Ns0O
('A`)「泥だらけのままうちの中を彷徨かれても困るしな。まぁ、なんだ、お前はうちの社員なんだし制服だと思えや」

*(;‘‘)*「う、うん……」

('A`)「それに、ガキが遠慮なんてすんな。貰い物は素直に受け取る。有難うと微笑む。これがロリータの正しい在り方だ」

にやっと笑うオレ。
それにつられて、パッと笑顔を浮かべるヘリカル。

*(*‘‘)*「……うんっ!有難う!」

('A`)「そう、それでいい」

*(*‘‘)*「ねぇねぇ、開けていい?」

(;'A`)「いや、服なんだから家で開けろ。な?」

オレ達は、賑やかに家路を辿るのだった。
19 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:31:04.69 ID:B56S/Ns0O
 ※ ※ ※ ※

━━そんな感じでハシャいでいたヘリカルも、事務所の入った雑居ビルが見える頃にはオレの背中の上で寝息を立てていた。

*( - -)*「Zzz……」

歩きながら船を漕ぎ始めた辺りで、おんぶを推奨したのだが、なかなかどうして頑固に拒否し続けていた。

('A`)「大人びてるのか、子供っぽいのか……」

まぁ、結局は眠気に勝てなくてオレの申し出を受け入れたのだが。

*( - -)*「ぅ…ん……」

今日一日で疲れたのだろう。それでも、オレが買ってやった服の入った袋を堅く握って離さないところなんかを見ると、可愛いと思えるわけで。

('A`)「娘が居るってこんな感じかね……」

悪くないかも。

('A`)「なんつってねぇー。……ただいまー」

事務所のドアを開けると、仏頂面の鬼子母神がそこに立っていた。

从゚∀从「おかえり。随分と遅いご帰宅だな」

('A`)「あぁ、ちょいと野暮用でね。それより、こいつ下ろすの手伝ってくんねーか?」

背中のヘリカルを顎で示す。
ぶつぶつ言いながらも手伝うハインは、さしずめ古女房といったところか。
21 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:33:06.89 ID:B56S/Ns0O
('A`)「古女房というには瑞々し過ぎるだろ、見た目的に考えて」

从゚∀从「誰が誰の女房だと?」

('A`)「気にすんな、こっちの話だ」

釈然としない面もちで、ハインはヘリカルをソファに寝かしつける。
すーすーと寝息を立てるその寝顔を見つめながら、果たしてこいつはどのような理由でこんな場所に居るのだろう、という忘れかけていた疑問が湧き上がってきた。

('A`)「ただの家出……ってわけでも無さそうだしな」

“自分の食い扶持は自分で稼ぐから、ここに置いてほしい”

義務教育真っ只中の12歳の少女をしてそこまで言わせるのは、何なのか。

('A`)「……どこにも行くあてが無いんだろうな」

从゚∀从「おい、梅毒」

('A`)「童貞なのに梅毒とはこれいかに」

从゚∀从「これは何だ」

彼女がつまみ上げているのは、オレがヘリカルに贈った服の入った包みだ。

('A`)「あぁ、こいつ服の替えが無いっていうからさ……」

从゚∀从「貴様が買い与えたのか」

('A`)「……悪いか?」
23 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:35:09.30 ID:B56S/Ns0O
从゚∀从「悪いな。貴様の所持金は貴様だけのものでは無いのだ。私のメンテナンス費や、弾薬費にもあてねばならぬのだ。昨日今日拾ったばかりのような子供の為に……」

(#'A`)「ほっとけ無いんだよ!相手はまだ12歳のガキだぞ?オレ達が見放したら、どうなるかは目に見えてる!それでも君は、自分達の損得だけで物事を考えろって言うわけ?」

从゚∀从「当然だ。主の存命を最優先に考慮するのが私の役目。それ以外の事などどうでもいい。むしろ、貴様がそのような“感情論”を持ってくるとは私も意外だ」

(#'A`)「感情論って…当たり前だろうが!オレはヒトだ!お前とは違う!」

从゚∀从「……いつもは他人の事など鼻にもかけない、誰がどこでどう死のうと自分には関係ない、というのが貴様のスタンスだったと思うが…今回はどういった訳だ?説明を求める」

冷たいハインの言葉が、激昂するオレの意識を急激に冷ます。

(;'A`)「……」

自分でもわからない。どうして、オレはこうもヘリカルの事となるとムキになるのだろうか。

24 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:37:07.87 ID:B56S/Ns0O
从゚∀从「まぁいい。貴様が何故彼女に肩入れするのかは、この際置いておくとしよう。だが、貴様はそうやって彼女に傾倒する事でその先に一体何を求めているのだ?」

(;'A`)「何を求めているって……」

从゚∀从「このまま、養って行くというのか?それは出来ない。貴様にはそれだけの稼ぎが無いし、有ったところで貴様に彼女を育てるだけの覚悟は有るのか?」

(;'A`)「……それは」

从゚∀从「ヒト、なのだ。人間なのだ。猫や犬やガイノイドとは違う。貴様に、一人の人間の人生を背負うだけの覚悟は有るのか」

(;'A`)「別に、そんなつもりは……」

从゚∀从「では、どういうつもりだったのだ?“一時的に寝床を貸すだけ”だったというでも言うのか?」

(;'A`)「そ、そうだ」

从゚∀从「だとしたら、何故服なぞ買い与える。そんな事をしたところで、あの少女が益々腰を重くするだけだ」

(;'A`)「さ、最低限の施しだろうが…」

从゚∀从「中途半端な情けは止めろ。無責任な貴様の偽善は、彼女を傷つけるだけだ」

25 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:40:07.24 ID:B56S/Ns0O
(#'A`)「偽善…だと……」

从゚∀从「あぁ、偽善だ。貴様がやっている事は、捨て猫を拾ってきてエサを与え、そのまま放り出すのと同じだ。その猫を飼う覚悟も無いのに、目先の快楽に酔いしれて無責任な事をする、偽善者のそれだ」

(#'A`)「…やらない善よりやる偽善って言葉もあるぜ」

从゚∀从「やる偽善か。……その結果、傷付くのは誰だ?寝床を与えて、飯を与えて、服を与えて。衣食住を提供したうえで、最後には追い出すというのは裏切り行為に相当するのでは無いのか?」

(;'A`)「……」

从゚∀从「残念だが、彼女と貴様が同じ屋根の下で送る生活に、未来は無い。納得しろ、とは言わぬ。ただ理解はしておけ」

('A`)「……」

从゚∀从「別れなければ、ならない。いつか、必ずな。それを決めるのは貴様だ」

静かに語り終えると、彼女はオレから視線を外す。

窓から差し込むネオン光が照らすヘリカルの寝顔。

('A`)「もう少し、時間をくれ……」

逃げ出すオレ。

いつだってオレは弱虫だ。
27 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:42:07.26 ID:B56S/Ns0O
 ※ ※ ※ ※

━━モーニングコーヒー片手にマルボロを吹かす。それがオレの目覚ましの儀式だ。が、今日はマルボロはお休みだ。

('A`)「おーいまだかー?」

キッチンの奥に向かって、呼び掛ける。ここ最近事務所に寝泊まりするのが続いている為、ここのキッチンも使用頻度が上がっている。

*(;‘‘)*「ちょっと待ってぇー。んしょ…んしょ…」

最も、今は別の用途で使用中なのだが。

('A`)「あんまり遅いと……」

*(;‘‘)*「絶対に覗いちゃダメ!」

小さな姫君はオレの行動を見透かしたかのように、駄目だしを入れる。

('A`)「へっ…ガキの下着姿なんざ見たって腹は膨れんよ」

ここで断っておくが、オレは「小さいお友達」に邪な劣情を抱くような男じゃない。ああ、断じて違うぞ。マジで。

*(‘‘)*「……んー。よしっ!オーケー!」

キッチンの奥でごそごそやる音が止まる。程なくして、小さなお顔がひょっこりと覗いた。

*(*‘‘)*「えへへー」

自信と恥じらいの入り混じった複雑な表情の姫君。
その愛らしいお顔は一瞬躊躇い、そして。
29 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:44:13.53 ID:B56S/Ns0O
*(‘‘)*「じゃんっ!」

効果音付きで飛び出した。

('A`)「……おぉー」

感嘆の声でお出迎えするオレ。
満を持して登場した姫君が纏っているのは、ピンクのフリル地のワンピース。
無論、昨日オレが彼女に買い与えた品だ。

*(*‘‘)*「に、似合う……かな?」

御約束の台詞。最早形式的な受け答えになるだろうが、しかしオレは本心からこう言おう。

('A`)「ああ、最高に似合ってる」

*(*‘‘)*「本当!?」

笑顔の花咲かせ、飛び上がる小さな姫君。フリルをなびかせ、くるりくるりと回る様は全身で喜びを表しているようだ。

('A`)「まるでビスクドールみたいだ。いや、マジ。次クールに第八ドールとして出演したらいんじゃね?」

しかしまぁ、フリルのワンピースとは我ながらワンパターンだなと思う。
女の子の服なんて、女性経験が皆無に等しいオレにはさっぱり見当もつかんから、服を選べと言われるとこれぐらいしか思いつかないのだ。

*(*^ ^)*「えへへ…有難う、お兄ちゃん!」

何はともあれ、姫君が喜んで下さっているのだから問題なしか。

30 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:47:24.89 ID:B56S/Ns0O
*(*‘‘)*「…お洋服買って貰うのなんて久し振りだから、ホントに嬉しいよ」

恥じらいながらも、含みのある事を言うヘリカル。

('A`)「そっか……」

そこに触れようとしないオレ。どんな事情が有るのかはわからないが、それはオレの口から聞く事じゃない。その筈、だ。

*(‘‘)*「……」

('A`)「……」

しばらくの沈黙。
朝の日差しが窓から差し込む中、オレ達は互いに次の言葉を探して口を噤む。

('A`)「なぁ、ヘリカル…」

*(‘‘)*「ねぇ、お兄ちゃん…」
32 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:49:29.67 ID:B56S/Ns0O
ぶつかる言葉、噛み合わないタイミング。

(;'A`)「「あ……」」*(‘‘;)*

宙ぶらりんの言葉は、戸口を出ぬまま喉の奥へと引き返す。

古今東西の御伽噺は、こうして登場人物の気持ちを黙殺しながら進んでいくのだ。

(;'A`)「そ、そうだ!」

*(;‘‘)*「ふぇ?」

(;'A`)「今日は、暇か?」

“阿呆な事を抜かす口だな”、と脳内哲学者のフョードル先生(オレの第四人格。諦観的)が嘲ったのをきっかけに、いつものオマヌケ思考が戻ってきた。

33 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:54:05.00 ID:B56S/Ns0O
*(;‘‘)*「ひ、暇かって……私は暇なの?」

('A`)「んー…そうだな、お前は暇だ」

*(;‘‘)*「……お仕事は?」

('A`)「休みをやろう」

*(;‘‘)*「ふぇ…それって……」

戸惑う少女、コートを羽織るオレ。

('A`)「ちょっくら付き合えや」

有無を言わさず掴んだ手。

逃避行の幕開けだ。
35 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:56:03.43 ID:B56S/Ns0O
 ※ ※ ※ ※

━━殺意とか殺気とか、そういった類の所謂“負の感情”ってのは得てして背中に突き刺さるものだ。

从゚∀从「……」

鋭利。それはあまりにも鋭く研ぎ澄まされた凶器。だが少し待って欲しい。
何故?こやつにはそれ以前に感情というものが存在しない筈。

(;'A`)「針のむしろ……つうか、マジでアイアンメイデンの懐に抱かれた気分なんだが」

从゚∀从「その認識は間違っていない。現に私は今、貴様の背に抱きついているのだから」

言葉と同時、オレの胴に両手が回され。

(;゚A゚)「のわぁぁぁぁあ!」

必殺のベアバッグ!又の名をサーフボードストレッチ!万力が如き締め付けは人外の領域!

*(;‘‘)*「……うわぁ」

(;゚A゚)「痛い痛い痛い痛い痛い離して離して離して離して離して離してぇぇぇぇぇぇえ!」

从゚∀从「承諾しかねる。先ずはこの状況に対して合理的な説明を求める」

(;゚A゚)「わかったわかったわかったわかったわかったからぁぁあ!」

オレの悲鳴が、ニューソクの街並みにこだまする。
36 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 21:58:03.40 ID:B56S/Ns0O
……。よろしい。ならば、状況説明だ。

('A`)「ストレス。それは時間に追われ、殺伐とした現代社会を生きる我ら国奴に蔓延した一種の病理である」

从゚∀从「貴様とは縁のない世界の例えを持ち出すな」

('A`)「シャラップ。今はオレの独演会。オーケー?」

*(‘‘)*「おーけー」

('A`)「続けよう。そうやって日々を生きる為の糧を得るために酷使され、掴んだのは泡銭。酔いどれ酒場の溜め息の、なんとやるせない事。こんな時代に誰がした。責任者、怒らないから前へ出ろ」

从゚∀从「少なくとも貴様に彼らを糾弾する資格は無い」

('A`)「くたびれたスーツの襟は、誰が直してくれる?生きがいは?救いは?何を求め人はさ迷う?」

从゚∀从「叙情的に彩れば許される、とでも?」

(#'A`)「オアシス!束の間の休息!一服の清涼剤!それが我々哀れなプロレタリアートには必要だ!休憩時間がー!」

从゚∀从「……と言うわけで、遊園地へ行こうと?」

*(*‘‘)*「遊園地!?」

ヽ('A`)ノ「そういうことでーす!きゃほぅ!」
38 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:00:41.76 ID:B56S/Ns0O
頭を抑え、かぶりを振る機械化鬼畜乙女。人間らしいジェスチャーが鼻につくぅ!

从゚∀从「何度言えばいいのだろうか。貴様の立場、私の焦燥、それらをどのような形で語れば貴様は目を覚ましてくれるのだ?」

(人'3`)「目覚ましと言えば、チッスですよ、チッス。ME☆ZA☆MEのチッス!」

んー……まっ。

从^ー从「いいや、鉄拳覚醒法だ」

がっしぼかっ。

(#)A`)「バイオレンスな姫騎士だこと」

*(‘‘)*「へいわだなー」

いいぞ、少女よ。君も我々の交わすハイスタンダードな日常会話に着いてこれるようになったとはな。将来が楽しみだ。

('∀`)「HAHAHA!未来は明るいぜベニーボーイ!」

馬鹿笑い(文字通り)を響かせ、オレは二人の手を握ると両手に華とばかりに走り出す。

从゚∀从「おい、表皮組織がかぶれるから触るな」

*(;‘‘)*「あわわっ!待ってよお兄ちゃん!」

(*'∀`)「バーロー!もたもたすんな!青春は待ってくれやしねぇぞ!」

泣くのは嫌だ、笑っちゃお!進めぇ!……畜生、いい歌だなぁ。
39 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:02:29.81 ID:B56S/Ns0O
 ※ ※ ※ ※

━━接続端子を外すと、左目を拳で抑える。
何時ものことながら、ハック後の“左目”の神経は灼けるような鈍痛を発していた。

ξ゚")ξ「……どうして」

街中の監視カメラやドロイド達の目を“借りて”、ターゲットを探し続けること二日。
標的を見つけた私の口から初めに出たのは、疑問の言葉だった。

ξ゚")ξ「……なんで、あいつが居るのよ」

ワタナベから与えられた、ラウンジの一等地に立つV.I.P.御用達のホテルの一室。

胸に湧き上がるのは、錆び付いた憎悪と使いものにならない憤り。何故、今になってあいつが出て来るというのだ。

ξ゚")ξ「……どうしてよ」

知らず、握り締めていた拳が震える。

ξ#゚")ξ「どうして!どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてあんたはまた私の前に出て来るのよっ!」

気付けば、何度も拳をテーブルに叩き付けていた。

ξ#゚")ξ「また、私の邪魔をするっていうの…?」

切り捨てた筈の過去が、どんよりと鎌首をもたげる。
41 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:05:14.48 ID:B56S/Ns0O
“お前が無理する姿は見たくねぇんだよ”

ξ#゚")ξ「五月蝿い!黙れ!黙りなさいったら!」

“だから、ここで止める”

ξ#;")ξ「黙れ!黙れ黙れ黙れぇぇええ!」

頭をかきむしり、テーブルを叩き、そこで右手首の痣に気付く。

ξ;")ξ「はぁ…はぁ…はぁ…」

思考が急速に冷えていく。

何をしているのだろう、私は。

落ち着け。冷静に。それが商売道具では無かったか。

ξ; ー")ξ「……ふぅ」

どう考えても、ただの偶然だ。それ以外に何が考えられる。
そうだ、取り乱す必要は無い。それは愚者の選択だ。
43 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:07:24.51 ID:B56S/Ns0O
ξ゚ ー")ξ「…やれやれ、ね」

やる事は一つ。目的の達成。障害はただ、排除するだけ。
目的を見いだした体が震え出す。

ξ゚")ξ「……久し振りね、この感覚」

武者震い、とはまた違った曖昧なそれの再来は、果たして喜ぶべきか否か。ただ、こうなった時の対処法は変わらない。

立ち上がり、フリーザーを確認する。無数の高級なワインの中に混じって並ぶ、みすぼらしい自前のボトルを取り出すと口を開けた。
45 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:09:42.20 ID:B56S/Ns0O
ξ゚")ξ「えぇ…“あなた”とも久し振りね」

真っ赤な液体が冠するは、中世の女悪魔の名。

私を満足させる、唯一の媚薬。

今宵酔うは、血をたぎらす為の戦の儀式。

幾年かの歳月を経て私は今、再びブラッディ・マリーに口を付けた。

46 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:12:06.27 ID:B56S/Ns0O
 ※ ※ ※ ※

ヽ(*'∀`)ノ「おーてぇーてぇー」

*(*^ ^)*「つぅーないでー」

ヽ(*'∀`)ノ「よーみぃーちぃーをゆぅけぇーばぁー」

*( ゚ ゚)*「お嬢さん、いくらだい?」

( ゚A゚)「援助交際だぁー!」

从゚∀从「外宇宙の哲学か何かか?理解不能だ」

平日の遊園地VIP最大のテーマパークを歩くものはオレ達ぐらいで、うら寂しい空気を肌で感じながらも負けちゃ駄目だと自分に言い聞かせる今日この頃。
皆さんいかがお過ごしでしょうか。ドクオです。

*(*‘‘)*「ねねねっ!次は何乗る?何乗るのぉ?」

オレの右手をもぎ取ろうとするかのごとく振り回すヘリカル。
我ながら、この数日で随分と懐かれたものだと思う。

('A`)「えー、お父さん疲れちゃったからママと行きなさい」

*(#‘‘)*「えぇー、お兄ちゃんとじゃなきゃヤダー!」

これが素顔なのか。事務所に転がり込んで来た時の生意気さはどこへやら、今じゃ12歳という実年齢よりも幼く見えるものだ。これも打ち解けたという事か。

47 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:14:09.26 ID:B56S/Ns0O
从゚∀从「……」

('A`)「おい」

从゚∀从「……」

('A`)「…ママ、嫌われてんな」

从゚∀从「……」

(*'A`)「ざまぁwww」

嘲笑うオレを黙殺するママ。
普段通りの苛烈な言葉責めがないのはつまらない。

('A`)「へそ曲げちゃったよ」

んなこたぁない。くどいようだけど、機械だからね。

*(*‘‘)*「ねぇー!ねぇーっ!お兄ちゃん!」

('A`)「はいはいみんなのドクオお兄さんですよぉ。炊事洗濯何でもござれ!でも、お歌だけは勘弁な!」

48 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:16:25.21 ID:B56S/Ns0O
ヘリカル嬢は、小猿のようにオレの右腕にぶら下がる。

*(*‘‘)*「観覧車!観覧車乗りたいっ!」

('A`)「なるほど、観覧車か」

しばし思案。思い立ち、ぶら下がったままの小猿ごと右腕を振り回した。

*(;゚ ゚)*「あーうー!ちーがーうー!」

('A`)「違うの?もぉーワガママだなー」

ぴたっと止める、腕の回転。慣性の法則に乗っ取り、宙を舞う小猿姫。

*(;゚ ゚)*「わぁー!」

(;゚A゚)「ぎゃー!」
51 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:18:24.46 ID:B56S/Ns0O
弧を描く、彼女の着地点は芝生。

*(;><)*「わぶっ!」

激しい葉ずれの音と共に、落着。

(;'A`)「だーいじょーぶだー?」

*(;‘‘)*「志村ー!逆!逆!」

葉っぱを髪に絡ませ、立ち上がる不死身のヘリカル嬢。凄い…無傷だ。

(;'A`)「幼女を投げ飛ばしても死なない……」

从゚∀从「……1320時ジャスト、コミック力場の発生を確認」

ヽ*(#‘‘)*ノ「もぉー!酷いよお兄ちゃん!MUROHUSHIは無いよっ!」

ぷんすかっぷんっといった擬音が似合うジェスチャーで怒りを表現する姫君。

52 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:20:11.63 ID:B56S/Ns0O
<( 'A`)「すまんのう、わざとじゃないんだ。今日の星占いが、幼女を投げ飛ばすと厄も一緒に吹き飛ぶっていうからさ」

*(#‘‘)*「いい歳してマスコミに踊らされないでよっ!」

怒り心頭、収まりがつかないな。こういう場合は。

('A`)「わりぃわりぃ。今度は本物の観覧車、乗ろうな」

こうやって、右手を開いて差し出す。

*(*‘‘)*「うんっ!」

するとほら、こんなにも無邪気に握り返して来るんだ。
54 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:22:26.10 ID:B56S/Ns0O
('A`)「ハインも乗るか?答えは聞いてない」

从゚∀从「以心伝心が出来ていて助かる。私はそこのベンチで待っていよう」

つれないのは何時もの事と割り切り、右手の感触を確かめる。

('A`)「……」

*(*^ ^)*「えへへ…観覧車ー♪観覧車ー♪」

この手を何時までも握っていられたのなら。
都合のいい幻想にすがりながら歩き出そうとするオレの耳に、ハインリッヒがすれ違いざまに呟いた。

从゚∀从「……楽しんで、来い」
56 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:28:13.19 ID:B56S/Ns0O
 ※ ※ ※ ※

━━回る、回るよ、時代は回る。そう詩にしたのは、何時の時代の歌手だったか。

('A`)「……」

*(‘‘)*「……」

回る、回るよ、観覧車は回る。
二人の沈黙を乗せたまま、ゆっくりと、確実に。
四合目に差し掛かったオレ達のゴンドラから見える景色は、橙に染まりつつある。
落日は短い。刹那とすら言えよう。それ故に、オレ達の胸を鮮烈にかき乱すのだ。
最初の方はハシャいでいたヘリカルは、今ではぼんやりと外の景色を眺めたまま一言も言葉を発さない。

('A`)「……」

楽しんで来い、とハインは言った。
それは、ここでオレに決断を下せという遠回しな恫喝だろう。
これが最後だと、だからせめて楽しんで来いと、そう、言いたいのだろう。

('A`)「……なぁ、ヘリカ…」

*(‘‘)*「ねぇ、お兄ちゃん」

中途半端な決心を遮り、ヘリカルが背を向けたままに語りかけてきた。

('A`)「……ん?なんだ?」

正直、彼女が遮ってくれた事に安堵するオレが居る。
情けないヤツだ。昔から、進歩が無い。
57 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:30:50.54 ID:B56S/Ns0O
*(‘‘)*「今日は、スッゴく楽しかったよ」

('A`)「ん…」

*(‘‘)*「ジェットコースターも、ゴーカートも、メリーゴーランドも、お化け屋敷も、ぜんぶぜんぶ、みーんな楽しかった」

('A`)「そいつは良かった。連れてきたかいがあったってもんだな」

月並みな返事しか出来ない程に、焦燥感。
いつもの冗談が出ない。こういう時の為の自己防衛手段だろうが。

*(‘‘)*「私ね、遊園地に連れてきて貰ったのなんて初めてなんだぁ。へへっ」

('A`)「そっか…」

58 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:33:08.52 ID:B56S/Ns0O
*(‘‘)*「……ねぇ、お兄ちゃん」

('A`)「ん?」

*(‘‘)*「私、お兄ちゃんにはスッゴくかんしゃしてる。突然押し掛けて、いそーろーさせて貰って…服も買ってもらったし…遊園地にも……」

('A`)「あぁ…うん」

*(‘‘)*「私は何もじじょーとか話さないのに、お兄ちゃんはスッゴく優しくしてくれて…まぁ、ちょっぴり意地悪もするけど……」

('A`)「…悪かったな」

*(‘‘)*「私ね、お兄ちゃんが大好きだよ」

そのあまりにも真っ直ぐな好意に、なんと答えていいのか困った。
60 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:35:07.81 ID:B56S/Ns0O
('A`)「……」

*(‘‘)*「物を買ってくれるから…とか、そんなんじゃないよ?だって、ドクオお兄ちゃんは私の事受け入れてくれたから」

*(‘‘)*「本当はね、ドクオお兄ちゃんのとこに行く前にも、何件か置いてくれるとこが無いか、あたってみたんだ」

*(‘‘)*「でも、みんな私がその理由を言った途端に、首を横に振るの。誰も、私の事を助けてくれない」

*(‘‘)*「電話帳の一番上に載ってたから選んだなんて、嘘。ここが駄目なら、諦めて自分一人で生きていこうと思ったの」

*(‘‘)*「それでも…お兄ちゃんは、私を受け入れてくれた。助けてくれた。だからね、本当に嬉しかった。涙が出るくらい、嬉しかったよ?」

とうとうとした言葉が途切れ、再び訪れる沈黙。
ゴンドラは気付かぬうちに頂上にたどり着いていたようだ。
眼下に広がる茜色に染まったVIPの街は、ここが災厄とヘドロにまみれた掃き溜めの地である事を一瞬だけ忘れさせた。
63 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:37:05.64 ID:B56S/Ns0O
*(‘‘)*「私は、お兄ちゃんが大好きだよ」

唐突に、先の想いを繰り返すヘリカル。
その言葉に涙が浮かびそうになった。

*(‘‘)*「だから、お兄ちゃんには…私がどうして、お兄ちゃんのとこに転がり込んだのか言っておきたいの」

止めろ。音にしようとして、言葉は喉元でばらばらになる。

*(‘‘)*「……でも、やっぱり…不安だよ。お兄ちゃんに言って、それで…お兄ちゃんにまで見捨てられたら……」

聞きたく無い。聞く覚悟が無い。聞く資格が無い。止めろ。止めてくれ。

*(‘‘)*「ねぇ…やっぱり、お兄ちゃんが私に聞いて?…どうして、うちに転がり込んできたのかって。ねぇ、お願い」

振り返り、向き合ったヘリカルの双眸には涙の滴が溜まっていた。

*(‘‘)*「お兄ちゃんに聞かれたのなら、私……話せるから……ねぇ」

訴えるように、助けを求めるように、オレの膝にすがる少女。その内に、何を秘めているのか。
止めろ。オレを頼るな。オレにすがるな。

64 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:39:43.05 ID:B56S/Ns0O
('A`)「いいんだよ……」

*(‘‘)*「…えっ?」

('A`)「いいんだ…話さなくて、いい。何も…話さなくて」

*(‘‘)*「それって……」

('A`)「オレは、お前が例えどんな境遇に置かれていたとしても、お前を見捨てたりしない」

*(‘‘)*「……っ」

ヘリカルが息を飲む音が、耳に遠い。

('A`)「オレは、何があっても……お前を、裏切らない」

*(‘‘)*「お兄…ちゃん」
66 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:41:44.92 ID:B56S/Ns0O
くしゃり。少女の顔が歪む。

*( ; ;)*「お兄ちゃぁぁあん!」

途端。涙は奔流となり、少女はオレの胸に顔を埋める。

*( ; ;)*「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……うっ…ひっく…うぅ……」

彼女の頭をかき抱き、その温もりに頬を寄せる。謝るのはお前じゃない。

('A`)「大丈夫。絶対に、裏切らない」

オレは、嘘つきだ。

67 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:44:07.99 ID:B56S/Ns0O
 ※ ※ ※ ※

━━暮れなずむVIPの街。
落日が残照へと切り替わる、その一時の刹那。

从'ー'从「ゆうや〜けこやけぇ〜の赤ト〜ン〜ボ〜♪」

思わず歌い出してしまう程に、私はこの景色が好きだ。

从'ー'从「うふふ…順調、順調♪順風満帆♪」

先ほどツンから受けた連絡は、私の胸を躍らせた。

从'ー'从「舞台設定完了ー。後は、開幕を待つだけだねぇ」

今回の演目は実に充実している。
例えるなら、ハムレットとオセローを同時公演するようなものだ。

从'ー'从「そしてぇ、演劇を楽しみながら私は野苺摘み〜♪」

なんと素敵なことか。こんな贅沢、例えかのマリー・アントワネットでも成し得た事などなかろう。
69 : ◆cnH487U/EY :2008/11/03(月) 22:46:26.33 ID:B56S/Ns0O
从'ー'从「欲しいものはぜぇ〜んぶ手に入れるの。それって私だから、出来ることじゃない?」

('、`*川「…仰有る通りです」

傍らの秘書は相変わらずつまらないけれど、今夜はそれすらも気にならない。

从'ー'从「トソン、コートを用意して。そう、観劇用ので一番上等なやつねぇ〜」

心踊る、とはこの事か。
安くないギャラを弾んでオファーを出した役者達は、どのような素晴らしい演技を見せてくれるだろうか。

从'ー'从「……本当に、楽しみぃ」

嗚呼……開幕が、近い。



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