- 95 : ◆cnH487U/EY :2008/11/08(土)
22:01:26.78 ID:LyU9t5X9O
- 〜epilogue〜
━━グラスに注がれた血色の液体を、じっと見つめる。
(,,゚Д゚)「かくて世界は事も無し。全ては収まるところに収まり、我らはただ、沈黙のうちに目を伏せた」
バーボンハウスの本店。隣に腰掛けた黒狼がジンの入ったグラスを弄びながら呟いた。
ξ゚听)ξ「随分とカビの生えた言い回しね。誰の言葉?」
(,,゚Д゚)「オレの言葉だ」
ξ゚听)ξ「センスを疑うわ。…それで、どういった意味合いなの?」
からん、と氷をかき混ぜる音。
任務は成功。報酬は上々。今の私はここ最近で一番機嫌が良かった。
(,,゚Д゚)「……オレ達は破壊と殺戮をバラまき、手前がこしらえた瓦礫の上にアグラをかいてる。その瓦礫の山を、振り返る事もなくな」
ξ゚听)ξ「その通りね。それで、それがどうしたっていうの?」
(,,゚Д゚)「……いや、ただのつまらん感傷だ。忘れてくれ」
ξ゚ー゚)ξ「ふふっ……感傷だなんて、随分とナルシストなのね」
黒狼の左肩。トレンチコートの下には、一発の弾痕が残っているのを私は知っている。
- 99 : ◆cnH487U/EY :2008/11/08(土)
22:03:11.75 ID:LyU9t5X9O
- だが、それに敢えて干渉するつもりは無い。
彼がどのように生きるにしろ、それは今の私にはどうでもいい事だから。
(,,゚Д゚)「……しかし、今日の貴様は随分と嬉しそうだな。いつもの仏頂面はどうした?」
ξ゚ー゚)ξ「あら、トゲトゲしいのがお好み?随分とマニアックね」
自分のグラスに入ったブラッディー・マリーに口をつける。
やはりこの味が一番しっくりくると、改めて思った。
ξ゚ー゚)ξ「…そうね、何か理由があるとすれば……今日が記念日、だからかしらね」
(,,゚Д゚)「ほぅ。血も涙も無い女人かと思っていたが、存外に乙女らしい事を言う」
鼻で笑う黒狼。何時もならベレッタでその脳髄を撃ち抜いているところたが、今日は特別だ。
ξ゚ー゚)ξ「今日はね、私の新しい目標…いいえ、趣味が増えた記念日。祝福すべき、旅立ちの日なの」
(,,゚Д゚)「趣味、か。そういったものを持つのもまた、いい事かも知れぬな」
そう、彼が言うとおりこれは素晴らしい事。
趣味は、すなわち生きる張り合い。
目標は達成せねばならぬが、たまには息抜きも少しは必要だ。
- 102 : ◆cnH487U/EY :2008/11/08(土)
22:04:13.76 ID:LyU9t5X9O
- ξ゚ー゚)ξ「……待ってなさいよ」
いつか。
ξ゚ー゚)ξ「必ず殺してあげるから……」
ブラッディー・マリーのグラスを掲げ、静かに宣言する。
もう、何も迷いは無かった。
- 106 : ◆cnH487U/EY :2008/11/08(土)
22:05:41.11 ID:LyU9t5X9O
- ※ ※ ※ ※
━━肌寒い日だった。
秋の終わりを告げる風が吹く中、オレは顔見知りのサイバネ技師のガレージを訪れていた。
('A`)「おぉい、順調に進んでるかぁ?」
義体用の手足や人工筋肉、血液パックなんかが転がる雑多な床を踏み分け、処置室へと続くドアをノックする。
「おぉ、ドクか。ちょうどいいとこにきた。今まさに終わったとこだよ」
('A`)「マジか」
ドア越しに聞こえる声に、ノブを捻る。
スプラッタ映画さながらに潤滑油でまみれた室内、寝台の前に立つ野暮ったい男と、横たわる彼女が目に入った。
从゚∀从「ご覧の通りだ」
上体を起こし、右手を上げてオレに仏頂面を向けるハイン。
彼女が着る白衣の隙間からは、表皮組織に入った継ぎ目が幾つも覗いている。
('A`)「やっぱり痕は残っちまったか」
( @ゝ@)「それでも努力はしたんだよ。でも傷が傷だからね。つうか傷って言うよりもう殆ど半壊みたいなもんだよ、ありゃ。おかげで内骨格から総入れ替えしなきゃならなかったよ」
- 107 : ◆cnH487U/EY :2008/11/08(土)
22:07:11.80 ID:LyU9t5X9O
- ('A`)「大変だったろ。まぁ、その分礼は弾むからよ」
( @ゝ@)「当たり前だよ。ホント、久々の長丁場でくたくたさ。金を渡したらさっさと帰ってくれ。三日ぐらいぶっ通しで眠りたい気分だ」
('A`)「はいはい、悪かったねぇ」
懐から札束が入った封筒を取り出し、放ってやった。
( @ゝ@)「お?珍しいな、お前が現金をツケにしないなんて。この金、どっから出た?競馬で勝ったのか?」
('A`)「いや、ちょっとな……」
茶を濁し、ドアノブに手をかける。
- 108 : ◆cnH487U/EY :2008/11/08(土)
22:08:15.21 ID:LyU9t5X9O
- ('A`)「それじゃあさっさとお帰り遊ばすよ。世話になったな。おい、ハイン、行くぞ」
从゚∀从「ん」
そんな感じでガレージを出ると、オレ達の頭の上に何やら冷たいものが落ちてきた。
('A`)「雨?」
見上げる空。灰色の雲で埋まったそこから舞い落ちてくるのは、白い雪。
冬が、訪れた。
('A`)「雪…か」
从゚∀从「雪…だな」
これで、二年連続という事になるのだろう。珍しいこともあるものだ。
('A`)「雪、ねぇ……」
- 111 : ◆cnH487U/EY :2008/11/08(土)
22:10:12.40 ID:LyU9t5X9O
- “もし、この街にも雪が降ったら……その時は、一緒に雪だるま作ろうね?”
('A`)「……雪だるま、か」
あの日に交わした約束が、ふと胸をよぎる。
从゚∀从「……作るか?」
('A`)「バーカ。んな歳じゃねぇよ」
かぶりを振り、マルボロに火をつける。
('A`)y-~「……ふぅ」
从゚∀从「ドクオ…あれは…」
('A`)y-~「いいんだ。いいんだよ、ハイン」
从゚∀从「しかし……」
('A`)y-~「終わった事だ。全部、終わった事なんだよ」
灰色に染まった空が低い。
- 115 : ◆cnH487U/EY :2008/11/08(土)
22:11:32.86 ID:LyU9t5X9O
- ('A`)y-~「そうやって、忘れて行くんだ。何もかも、な」
从゚∀从「……貴様は、それでいいのか」
('A`)y-~「仕方ねぇさ。それが、人間ってものだ」
笑顔も、涙も、苦しみも、幸せも、やがては風化して過ぎ去っていく。
通過点を幾つもこなしていくうちに、大切な事まで消し去って。
('A`)y-~「時々、人間って生き物が酷く残酷なものに思えるよ」
そうやって、過ぎ去っていった彼女達へと思いを馳せた。
从゚∀从「……貴様は、そうでも無いさ」
('A`)y-~「気休めはいらねぇよ」
- 118 : ◆cnH487U/EY :2008/11/08(土)
22:13:44.15 ID:LyU9t5X9O
- 从゚∀从「いいや、気休めなどでは無い。少なくとも、貴様はそうやって後悔している。その気持ちを忘れないでいる限りは……」
('A`)y-~「……」
その気持ちを忘れないでいる限り。
そうやって生きていくには、この街はあまりにも残酷で。
('A`)y-~「……」
オレは、ニコチンがもたらすまどろみの中に溺れていくのだった。
-fin-
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