- 6
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:17:43.54 ID:sx0pQwbTO
- 〜track-δ〜
━━風が吹き抜ける。
湿り気を帯びたそれは、これから一雨有りそうな気配を帯びていた。
ξ゚听)ξ「……幕引きには、丁度いいわ」
ニューソク区の端に立つ、どこのものとも知れぬオフィスビルの屋上。
黄昏の終わりに沈む街並みを見下ろせば、人通りはまばらだ。
人々が規則正しく生活してくれていると、自分達みたいな人間は仕事が遣りやすくて助かる。
早速ヴァイオリンケースを開きWA2000の組み立てを始めようとした矢先、私の脳核通信回線にコールしてくる者がいた。
ξ゚听)ξ「……何かしら」
(,,゚Д゚)『仕事の段取りを確認しておこうと思ってな』
網膜に直接投影されたホログラフに映っていた顔に、私は苛立ちを覚える。
ξ゚听)ξ「結構よ。手順は全て覚えてる。心配なんかいらないわ」
(,,゚Д゚)『貴様がそんな間抜けでは無い事ぐらい分かっている。オレが心配なのはそっちじゃあない』
ξ゚听)ξ「じゃあ何だっていうのよ」
- 8
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:19:40.09 ID:sx0pQwbTO
- (,,゚Д゚)『落ち着け。目標を突き止めたと連絡があった時から、貴様は些か冷静さを欠いている。クールになれ』
ξ゚听)ξ「私は十分クールよ、“ストレイドッグ(野良犬)”。えぇ、あなたみたいに狂犬病を患ってるわけじゃないわ」
(,,゚Д゚)『感情に流されるな。いいか、オレが奴らと接触して話をつけるまで絶対に引き金は引くな。
あくまで、目的は対象をクライアントに引き渡すことだ。オレ達が居るのは、万が一向こうが抵抗した時の保険だ。無駄な血は流したくない』
組あがったWA2000のチェンバーへと弾丸を詰め込む。
ξ゚听)ξ「理解してるわ」
(,,゚Д゚)『本当か?本当に…おい、聞いているのか?くれぐれも……』
まだ噛みついてくる黒狼の言葉と共に回線を切り、スコープを覗く。
ξ゚听)ξ「最も、遅かれ早かれ、必ず引き金は引かれる事になるわ」
- 10
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:21:43.11 ID:sx0pQwbTO
- ※ ※ ※ ※
━━観覧車を降りると、係員がニヤニヤした顔でオレ達を迎えた。
(-@∀@)「昨晩はお楽しみだったようで」
('A`)「……」
下らない冗談に付き合ってやる気分じゃ無かったので、無視して歩き出す。
*(‘‘)*「……」
傍らのヘリカルは、やはり無言だ。
泣きはらした為に赤くなった目の回りは、雪のように白い肌では目立つ。
(-@∀@)「そんなおっかない顔をしないで下さい。ほら、お嬢ちゃんも風船上げるから」
間の抜けた顔で風船を差し出す係員。
- 12
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:23:50.27 ID:sx0pQwbTO
- *(;‘‘)*「え…と…」
戸惑うヘリカルは、伺いを立てるようにオレを見上げた。
('A`)「……くれるっつうんだから貰っとけ。貰うものは素直に貰う。ニッコリ笑う。それが、正しいロリータの在り方だって言ったろ?」
*(‘‘)*「……うん」
オレの言葉に、彼女はおずおずとした動作で係員から風船を受け取る。
(-@∀@)「本日は当園にお越しいただき、誠に有り難うございました。ここを訪れたことが、お客様にとって良い思い出になりますよう」
良い思い出。その単語が、耳にこびりついて離れなかった。
- 14
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:25:27.00 ID:sx0pQwbTO
- ハインが待っているベンチまで、二人、手を繋いで歩く。
从゚∀从「……戻ったか」
オレ達の姿を見つけたハインがベンチから腰を浮かす。
('A`)「待たせたな」
从゚∀从「そろそろ閉園時間だそうだ。帰るとしよう」
('A`)「……だとよ。ヘリカル、もういいかい」
*(‘‘)*「…うん」
三人、連れ立って遊園地を後にした。
皆、一様に無言でニューソクの表通りを歩く。
観覧車を降りた時はまだ地平線にかじりついていた太陽も、今では完全に姿を消し街灯がぽつぽつと灯り始めていた。
- 17
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:27:20.88 ID:sx0pQwbTO
- レジャー施設周辺という事で住宅の少ない通りには、オレ達の他には歩く者は無い。
*(‘‘)*「……ちょっと、寒くなってきたね」
首をすぼめ、白い息を吐くヘリカル。
その手が、そっとオレの右手を握った。
('A`)「あぁ、もうじき冬だ」
*(‘‘)*「……この街にも、雪は降るの?」
('A`)「……どうだろうな。その年によって違うから。去年は降ったぜ。まぁ、そんなに大した量じゃないがな」
*(‘‘)*「……そっか」
- 19
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:28:36.20 ID:sx0pQwbTO
- ('A`)「お前、この街の出身じゃないのか?」
*(‘‘)*「……うん。私、ニセコで生まれたの。軌道エレベーターと一緒に大きくなったんだよ」
('A`)「向こうは、雪が凄かったろう」
*(‘‘)*「…うん。この時期になると、もう雪が降ってたよ。もうちょっとしたら、向こうでは雪だるまが作れるかな」
故郷を懐かしむよう、彼女は目を細める。
その表情が、12歳の少女が浮かべるにはあまりにも似つかわしくなくて、オレは彼女の握る手に力を込めた。
*(‘‘)*「……ねぇ、お兄ちゃん。もし、この街にも雪が降ったら…その時は、一緒に雪だるまを作ろうね?」
オレを見上げるヘリカルの顔に浮かんだ笑顔が、ひどく脆いものに見えて。
('A`)「…あぁ、約束だ」
オレは、上手く笑い返せずにいびつな笑みを浮かべるしかなかった。
从゚∀从「……」
オレ達より少し前を歩くハインが、立ち止まる。
彼女が静かに腰を落とし肩幅に足を広げた事で、オレはこの静かな時間に終わりが訪れたのを知った。
- 23
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:30:51.52 ID:sx0pQwbTO
- 从゚∀从「……隠れて覗き見とは、無粋な真似をする輩も居たものだ」
その言葉は誰に向けられたものか。
腰から携行型光学剣の短筒を抜く彼女の目前に、その答えがゆっくりと姿を表した。
(,,゚Д゚)「そのようなつもりは無かったのだがな。…最も、この街には無粋な輩しかおらぬが」
手品か魔術の如く前触れも無しに空間に出現したのは、漆黒の強化外骨格に包まれた現代の鬼神。
(;'A`)「黒狼のギコ……」
*(;‘‘)*「……」
奴が纏う、死と血の臭いを敏感に感じ取ったのか。ヘリカルの手に汗が吹き出すのがオレの掌に伝わった。
从゚∀从「二度と合間見えぬ、と言ったのは貴様だったろう。どのような風の吹き回しだ」
(,,゚Д゚)「オレもそのつもりであった。しかし、社会というものがそれを許してはくれなくてな」
油断なく構える戦乙女に対して、黒狼は無手のままゆっくりと近づいてくる。
从゚∀从「フリーズ。それ以上近づくならば、今度は剣が折れるだけでは済まんぞ」
- 26
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:32:49.41 ID:sx0pQwbTO
- (,,゚Д゚)「ふぅ…何故こうもオレの周りの女人は血気盛んな者が多いのか。……今日は貴様と斬り結びに来たのではない。出来るだけ穏やかに依頼を解決する為、来たのだ」
从゚∀从「言ってみるがいい」
(,,゚Д゚)「貴様らが保護している、そのヘリカルという少女を渡して欲しい。大人しく渡してくれれば、無駄な血は流れるまい」
そう言って、奴はオレとヘリカルを見据えた。
*(;‘‘)*「…!」
(;'A`)「ヘリ…カル…を?」
何を言っているかわからない。何故ヘリカルなのか。
しかし、オレの手を繋ぐ彼女には何が起こったのかが理解出来ているようだった。
(;'A`)「……おい、どういう事だ?どうしてヘリカルが……」
(,,゚Д゚)「それは、オレの口から言うべき事では無い」
(;'A`)「おい、ヘリカル。これはどういう……」
*(;‘‘)*「……」
傍らで震える少女は、唇を噛んだまま黙している。
目に涙を浮かべ、肩を震わせ。
(;'A`)「ヘリカ……」
それを打ち破るよう、一発の銃声が空気を切り裂いた。
- 28
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:34:15.78 ID:sx0pQwbTO
- (;'A`)「なっ!」
ヘリカルが紐を握っていた風船が、乾いた音を立てて破裂する。
(,;゚Д゚)「くっ……やはり動いたか。あれほど手を出すなと言ったのに……」
狙撃か?迷うよりも先に、体が動いた。
(;'A`)「ヘリカルッ!」
動揺する黒狼、剣を構えたままの戦乙女。
それらを顧みず、オレはヘリカルの腕を引いて裏路地へと走り出す。
(;'A`)「ハイン、そいつの相手は頼んだ!」
从゚∀从「……」
ビルとビルの谷間へ滑り込む寸前、肩越しに振り返ったオレの目に映った彼女が小さく肩を竦めるのを確認すると、オレは前を見据えた。
*( ; ;)*「お兄……ちゃん」
涙を浮かべ、口を開けるヘリカル。
ごめんなさい。
懺悔の言葉は、誰の口から出たものか。
夜が、来る。
- 30
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:36:20.67 ID:sx0pQwbTO
- ※ ※ ※ ※
━━的を外した事に、自分でも驚きを隠せなかった。
ξ゚")ξ「……ちっ」
何故。向こうは私に気付いて無かったし、走り回っていたわけでもない。私の腕で、外すはずがない。
ξ゚")ξ「ムカつくわ」
認めたくない。
これが、メンタルから来る失敗だなんて。
ξ゚")ξ「認めるわけには……いかないのよ」
- 31
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:37:08.88 ID:sx0pQwbTO
- 先刻、嬉しそうに笑っていた奴の顔が目に浮かぶ。
傍らを歩く少女に向けられたそれは、一年もかけてついに私へ向けられることの無かったものだ。
ξ゚")ξ「……なんで」
疑問。それは理不尽と怒り。
ξ;゚")ξ「なんで、笑ってるのよ……」
苛立ち。
ξ;゚")ξ「なんでそんな風に笑うのよ!」
許さない。その笑顔は絶対に許さない。
ξ゚")ξ「ふざけてる」
笑えなくしてやる。その締まらないにやけ面に、今度こそ風穴を空けてやる。
- 35
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:38:59.60 ID:sx0pQwbTO
- ξ゚")ξ「殺すわ。絶対に」
アイツが消えた裏路地を睨む。
逃げ込みそうな場所なら、大方察しがついていた。
ξ゚")ξ「……絶対に」
殺してやる。
ブラッディー・マリーの入った小瓶を煽ると、WA2000を担ぐ。
雨が近い。
- 37
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:40:45.32 ID:sx0pQwbTO
- ※ ※ ※ ※
━━溜め息がこぼれるのを、止められない。
(,,゚Д゚)「これだから女人は困る。感情抑制剤でも渡しておくべきだった」
段取りは予想通り、あっという間に崩れ去った。
从゚∀从「何も感情的なのは女性に限った事では無い。どうしようも無いほどに情に流され易い奴なら、私も一人心当たりが有る」
(,,゚Д゚)「お互い、難儀な相方を持ったものだな」
从゚∀从「全くだ。考え無しに動いて、尻拭いをする身にもなれと言いたい」
(,,゚Д゚)「苦労を分かち合える相手が居るというのは嬉しいものだ」
背中に手を伸ばし、背骨に埋め込まれた脊髄鞘から顔を出す柄を握る。
(,,゚Д゚)「さて、同じ苦労人同士、親交が芽生えたところで一つ提案が有る」
从゚∀从「残念だが、その頼みは聞けぬな。誠に残念だがな」
機械人形は人間臭い仕草で首を傾げると、光子の刃を形成した。
(,,゚Д゚)「……そうか。残念だ。誠に残念だ」
从゚∀从「あぁ、誠に……」
(,#゚Д゚)「「残念だ!」」从∀゚#从
- 39
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:42:42.20 ID:sx0pQwbTO
- 同時、地を蹴るオレと機械人形。
抜刀せしはダマスカス製の蛇腹剣。
ワイヤーで繋がったぶつ切りの刃同士を結合させ直刀と化し、敵手の右手首を狙う。
(,,゚Д゚)「南無三!」
飛び退く戦乙女。
空を凪ぐ蛇腹の剣。
从゚∀从「変わった獲物を振るうな。日本刀はどうした?」
機械人形は反撃へ転じる為、腰を捻った。
(,,゚Д゚)「貴様と対峙する事が予測出来ていたからな。前回の轍を踏まぬよう、少々工夫させて貰った」
光子の刃が迫る。今受けるのは手の内を晒す事。それは却下。
横跳びにかわし、蛇腹の剣を腰だめに構える。
- 42
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:45:00.16 ID:sx0pQwbTO
- 从゚∀从「ならば貴様は選択を間違えたと言えよう。私と相対するならば、光学剣か戦車砲を用意するべきだった」
(,,゚Д゚)「古い型の人間でな。どうしても、近代兵器は性に合わんのだ」
お互い、動きが止まった。
(,,゚Д゚)「最も、折り合いをつける努力はしているが……」
頃合いと見て、蛇腹剣のスイッチを入れ。
(,#゚Д゚)「なっ!」
切りかかる。
- 45
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:46:44.86 ID:sx0pQwbTO
- 受けるべく光学剣を構える戦乙女。
衝突する、刃と刃。
蛇腹は、光子によって焼ききられる。機械人形はそう思ったのだろう。
蛇腹の刃が放つ微細な光が、干渉する光子を霧散させて己に食らいつこうと迫った段階で、奴はようやく自らの失策に気付いた。
从;゚∀从「ミラーコーティング!?」
飛び退き、蛇腹剣の間合いから逃れようとするが、それは許さない。
(,#゚Д゚)「引き裂け!」
刃同士の結合を解き、刀から鞭へと転じた蛇腹の刃で出遅れた右足を斬り裂く。
从;゚∀从「ちぃっ…!」
片足を奪われた機械人形は、アスファルトに身を打ちつけ無様に地を這った。
(,,゚Д゚)「さぁ、狩りの時間だ」
再び剣を形作り、這いつくばる機械人形を狙う。
从;゚∀从「くっ…!」
振り下ろし、突き、薙ぐ、剣先。
転がり、這いずり、逃げ回る機械人形。
泥沼をのた打つように転げ回っていた機械人形は、剣舞の嵐の中を紙一重で凌ぎながら、両手で地を押した反動を利用し器用に立ち上がるとオレと距離を置いた。
- 47
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:48:40.10 ID:sx0pQwbTO
- 从゚∀从「まるで黒髭危機一髪だな。しかし、ゲームバランスが悪すぎる」
(,,゚Д゚)「……あれしきで音を上げられては困る。今度は、ハズレの穴が更に増えるぞ。その身で避けられるか?」
剣を鞭へと変質させ、振るう。
縦、横、斜め、360度、およそ考えられる全ての角度から獲物を狙う荊の鞭。
从゚∀从「誤解するな。高難度なのは人間から見た場合だ」
片足不在の身である機械人形の動きは、鈍い。
鈍いが。
从゚∀从「アイアンメイデンである私にとって、これしきの剣撃……」
機械人形は限られた運動域の中ですら、身を僅かに捻るだけの動作で避け。
从#゚∀从「かわすには造作も無い!」
僅かな死角から、片足でもって飛び出し反撃を繰り出す。
从゚∀从「さぁ、狩りの時間だ」
光学剣を手放すと、右腕から突出式ブレードを生やした彼女はオレの懐に飛び込んで来た。
(,,゚Д゚)「語弊があるな。狩りとは一方的に相手を追い詰めることを言うのだ機械人形」
刃を連結。鞭から剣へ移行。ダマスカスの刃を受ける。
- 49
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:50:36.22 ID:sx0pQwbTO
- 从゚∀从「誤用では無いさ。これから貴様は逃げ回ることになる。私からなっ!」
突き、切り上げ、切り払い、振り下ろし、舞うダマスカスの刃は五月雨。
アイアンメイデンの稼働性でもって放たれるそれらは、今まで相対した“裁断屋”の中でも一等苛烈なものだ。
(,,゚Д゚)「むぅ…!」
剣だけでは受けきれないと判断。人工筋肉の稼働率を78%に引き上げ、バックステップ。
从゚∀从「いいぞ、その調子だ。狐のように逃げ惑え!」
左腕から格納式散弾銃を生やす機械人形。
セミオートで放たれる鉛の弾幕。
(,,゚Д゚)「狐…違うな。あくまでオレは“黒狼”。家畜を狩る狼よ!」
鉛の弾幕へと突進。食らいつく散弾の衝撃はしかし、オレの進行を止めるには不相応だ。
(,,゚Д゚)「格納兵装如きで強化外骨格を抜けると思うな!」
蛇腹剣を大上段に構え、振り下ろす。
ダマスカスの刃が、それを受け止めた。
金属同士がぶつかり、こすれあう耳障りな音と共に始まるつばぜり合い。
- 52
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:53:27.77 ID:sx0pQwbTO
- (,,゚Д゚)「不毛な斬り合いだ。そうは思わんか?」
从゚∀从「貴様が剣を下ろせば済む話だ」
(,,゚Д゚)「悪いがそれは出来ぬ。これも仕事でな。貴様が譲ってはくれぬか?」
从゚∀从「愚問だ」
(,,゚Д゚)「……何故そこまでしてあの男を守ろうとする。主人だからか?」
从゚∀从「それもまた愚問だ。奴を守るのに、それ以上の理由が有るとでも?」
(,,゚Д゚)「……そうであったな。貴様が“ヒト”の形をしているものだから、つい忘れてしまった」
从゚∀从「誤解するな。私は特A級護衛専任ガイノイド。主の盾となり剣となり、朽ち果てることこそが存在理由。他には何も無い」
拮抗する力は意図的なもの。どちらかが人工筋肉の稼働率を上げれば、このつばぜり合いは終わる。
どちらもそれをしないのは、この死合の刹那に訪れた触れ合いの時を堪能する為。
从゚∀从「……最も、奴のそばに居ると色々と珍しい経験が出来るから、とも言えなくは無いな」
(,,゚Д゚)「それは貴様の感情か?」
从゚∀从「いいや、私のAIは成長型のプログラムだ。成長を促す新たな情報は、歓迎すべきものだからな」
- 56
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:55:45.74 ID:sx0pQwbTO
- (,,゚Д゚)「……はっ。そういう事にしておこう」
剣を離す。死合続行の合図。
再び始まる剣戟の響き。
再開したチャンバラは、先刻の一進一退の攻防から奴が防戦に回る形へと姿を変えていた。
(,,゚Д゚)「どうした!先の暇に人工筋肉は休ませた筈だぞ!もっと食らいついて来い!」
言葉と共に振り下ろす剛剣。
それを受けた機械人形が、たたらを踏む。
从;゚∀从「……っあ!?」
崩れるバランス。立て直しは不可能。
すぐさま持ち返さんとバックステップで距離を置こうとするが、それは叶わない。
- 58
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:57:11.41 ID:sx0pQwbTO
- (,#゚Д゚)「逃さん!」
剣を鞭と成し、奴の左足へと巻き付ける。
(,,゚Д゚)「捕まえた」
人工筋肉の稼働率を85%まで上げ、柄を握る手に力を込める。
(,,゚Д゚)「踊れ」
蛇腹の鞭を満身の力を込め振るう。
从;゚∀从「……しまっ…!」
左足を戒められた機械人形は、オレの振り回す手の動きに従い宙を舞う。
地に打ちつけ、ビルの壁面を叩き、アスファルトを砕き、何度も、何度も、叩き付け。
金属のひしゃげる音、人工筋肉の千切れる音、特殊カーボネイドの悲鳴、潤滑油の飛沫。
衝突の度に表皮組織は剥がれ、皮下装甲が徐々に剥き出しになっていく機械人形。
- 60
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 21:58:52.31 ID:sx0pQwbTO
- (,,゚Д゚)「締めはスタンプといこうか。あぁ、全身を使って打ち鳴らせ」
仕上げの一撃。片足を上げ大きく振りかぶり、稼働率100%の人工筋肉の剛力をもって地に叩きつける。
轟音。砕け、陥没するアスファルト。舞う、土煙。後に静寂。勝負は決した。
从 ∀从「……ア…ガ…ギギッ……ガ…」
ノイズとなった電子音を上げ痙攣する機械人形へと、歩み寄る。
腕は折れ、ひしゃげた内骨格が表皮を突き破り露出している姿は、壊れたマネキンを想起させた。
(,,゚Д゚)「特A級護衛専任ガイノイドか……哀れなものよ。肩書きに負けたな」
巻き付けたままの蛇腹鞭をほどき、剣を形作る。
(,,゚Д゚)「今度こそ、二度と合間見える事もあるまい」
トドメを刺さんと剣を振りかぶったところで、奴の折れ曲がった右腕がオレの足を掴んだ。
(,,゚Д゚)「……」
そこに込められた力は、最後の抵抗というには余りも弱々しい。
- 62
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 22:00:28.42 ID:sx0pQwbTO
- (,,゚Д゚)「その様になっても主を守るというのか。機械故、悲しき性を背負ったものだな」
从 ∀从「…ドンな二、手の掛…かル奴でモ…私の主…ダカ…らナ……そレに……」
オレの左足を握る奴の右手に、一瞬力が籠もる。
从 ∀从「私ガ…居てヤらナイ…と…アイつは…だ、メ…に、ナ……」
しかしそれも一瞬の事。断末魔、というには呆気ない形で彼女の右手はオレの足首を離した。
(,,゚Д゚)「……」
無言。己以外に言葉を発する者が居なくなった事で、表通りは完全に静寂に包まれる。
肌を打つ冷たい感触に、雨が降り出したのがわかった。
ξ゚听)ξ『そっちは片付いたかしら』
静寂を破ったのは、事の元凶。脳核通信で割り込んできたヒステリー女に、オレは静かな憤りを覚えた。
(,,゚Д゚)「貴様のおかげで要らぬ手間が増えた。さぞかし満足だろうな」
ξ゚听)ξ『どうせアイツは交渉には応じないわ。だからクライアントも私達を雇ったんでしょうし。遅かれ早かれ、引き金は引くことになってたわ』
- 64
名前: ◆cnH487U/EY
:2008/11/07(金) 22:02:47.73 ID:sx0pQwbTO
- (,,゚Д゚)「結果論で片付けるのが女人の悪いところだ」
ξ゚听)ξ『形式に拘り過ぎて何も出来ないのが男の悪いところね』
しばし、回線越しに睨み合うオレ達。
ξ゚听)ξ『不毛ね。……とにかく、そっちが片付いたのなら早く目標を追って。ビジネスはスマートに済ませるものよ』
(,,゚Д゚)「貴様と違ってオレは地べたを這う身だ。奴らなど見失ったよ」
ξ゚听)ξ『それなら安心して。アイツの向かいそうな場所なら、大方察しはついてるわ。今から位置を転送するから、あなたもそこへ向かって。私は先行して待ち伏せているから』
そこで通信は絶たれ、すぐさま脳核に街のマップデータが送りつけられてくる。
(,,゚Д゚)「……女人か。いけ好かない奴らばかりだな」
ちらと、機械人形の残骸を見やる。
ゆっくりと強くなってきた雨足は、遮るものの無い彼女の体を、無慈悲に濡らし始めた。
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