72 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火) 23:35:59.58 ID:JRvUqXgBO
〜epilogue〜

━━ 一年中、雨の降る地。そこの雨は、肌に纏わりつく程に粘着いていた。

('A`)「辛気くせぇ……」

从゚∀从「廃墟だからな。だが少なくとも退廃的な美しさがある。貴様の面よりはましであろう」

筑波学園都市跡地。十二年前の事故でばらまかれたバクテリアの影響か、ここにはその当時から今に至るまで酸性雨が降り続いている。

一応殺菌処理はされているので、こうして防護服無しで傘を差す事も出来るが、あまり長居したい場所で無いのは確かだ。

( ^ω^)「しっかし、遅いおね……本当に来るのかお?」

赤茶けたラボの残骸や高層ビルだった瓦礫の上、朽ちた世界樹のごとく横たわる軌道エレベーターの巨大なシルエットを見つめながら、ブーンが呟いた。

('A`)「どうだかね。あいつほど胡散臭い奴なんか見たことねぇからわかんね。アバターからして胡散臭いんだよ」

オレ達が待っているのは、何とあの謎の情報提供者“オサム”。

筑波学園中枢構造体が崩壊した後、日常へ戻ったオレ達の端末に突然届けれたメールは、奴からのオフでの会合を求めるものだった。
74 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火) 23:37:35.86 ID:JRvUqXgBO
指定された場所は、ここ筑波学園都市跡地。
モララーとの約束もあった事で、今オレ達の小脇にはアイスランドポピーの赤い花束が挟まれている。

花言葉は“忘却の彼方”。皮肉を込めてこれを選んだ。

「ほほほ。確かに、胡散臭い事この上ないかもな」

背後からの低い声。待ち人の遅れた到着か。

('A`)「あぁ。趣味が悪すぎる。つうかぶっちゃけ痛い」

随分と女々しい声色だな、なんて思って振り返ったオレ達の目に飛び込んで来た現実。それはサプライズ。

lw´‐ _‐ノv「奇抜。それこそが私のアイデンティティ」

(;'A`)「女ぁ!?」

まさかの女。しかもかなりの美人。眠たげな垂れ目とか、アホ毛とか、どこのエロゲのヒロインだよと。これには流石のドクオも苦笑い。

(;'A`)「おいおい…目の錯覚か?オレにはこいつがエロゲとかの不思議ちゃん枠に見えるんだが……」

从゚∀从「極めて正常だ。貴様の女体化フィルターが作動している気配も無い」

この驚愕を隣の塩豚と分かち合おう。そう思い首を巡らせれば、やっこさんはオレ以上に驚いた様子。
開いた口が塞がらない。あんぐりアグリーって感じだ。
77 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火) 23:41:36.56 ID:JRvUqXgBO
( ;゚ω゚)「ちょ…まさか…シュール先輩…かお?」

('A`)「アグリーって何だっけ」

lw´‐ _‐ノv「久しぶりだね、ブーム君。米騒動以来だったかな」

('A`)「えーと、一致…同意…うはwwオレバカスwwww」

( ;^ω^)「ちょっ!ブーム君は止めて下さいお。その響きは生理的に虫酸が走りますお」

('A`)「……」

lw´‐ _‐ノv「済まない。米やるから許して」

('A`)「え?知己?マジ?オレ置いてけぼり?」

( ;^ω^)「相変わらず米ばっか喰ってるんですかお」

何だか、凄く親しげなんですけど。
80 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火) 23:44:00.28 ID:JRvUqXgBO
(゚A゚)「解説求む!」

( ^ω^)「ほら、僕が昔ハッカーチームに所属してたって話したお?シュール先輩は、そこのリーダーだった人だお」

lw´‐ _‐ノv「笑うシュールストレミングスとは私の事」

('A`)「うわぁ…臭うよこの人…」

( ^ω^)「…で、どうして先輩は僕たちをここに?」

lw´‐ _‐ノv「うん。まぁ、君と一緒にぃょぅの墓参りでもしようと思ってね。それに、君に伝えておかなければならない事がある」
82 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火) 23:47:50.77 ID:JRvUqXgBO
(;'A`)「こここ酷薄タイムキター!」

言っとくけど誤字じゃないからな。それぐらい、このシチュエーションがオレにとって辛いって意味だ。

( ^ω^)「…なんですかお?」

lw´‐ _‐ノv「先ずは御礼から。君は、“街”に行った。そして、モララーの願いを叶えてくれたんだろう。有難う」

( ^ω^)「は?モララーの願いって…先輩、何でそれを……」

lw´‐ _‐ノv「私も、以前彼に導かれてあの中枢構造体まで行ったんだ。でも、私の技量ではデータバンクの防壁は抜けなかった」

( ;^ω^)「それって、いつの話ですかお?」

lw´‐ _‐ノv「五年ほど前かな。チームが解散した後も、何だかハックをしてなきゃ落ち着かなくてね。
君は私が落ち着かないと米を貪る癖があるのを知っているだろう?流石に米が尽きるのは耐えられないから、気晴らしに探してたんだよ。あの“街”を」

( ;^ω^)「足を洗うって言ってませんでしたかお?」

lw´‐ _‐ノv「あぁ。確かに、ガキのおままごとみたいなハックは卒業したよ。今はネットで情報屋をやっているんだ」

( ;^ω^)「それ、足洗えてないお」

('A`)「汚ギャル乙」
84 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火) 23:52:38.44 ID:JRvUqXgBO
lw´‐ _‐ノv「まぁそんな話はどうでもいいんだ。本題に入ろうか」

( ;^ω^)「は、はいですお…」

lw´‐ _‐ノv「君たちが“街”に入った時、一人のハッカーがDOSアタックを掛けて来なかったか?」

( ;^ω^)「なんでそれを……」

lw´‐ _‐ノv「……そいつはピエロの仮面を付けたアバターで、おどけた感じの奴じゃなかったか?」

( ^ω^)「ジョーカー……恐らく、そいつで間違いありませんお」

lw´‐ _‐ノv「……そいつは━━」

その時、雨が急激に勢いを増した。

( ;^ω^)「な!?」

85 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火) 23:54:07.81 ID:JRvUqXgBO
シュール嬢が紡いだ言葉はそれにかき消され、オレの耳には届かない。

だからオレに分かったのは、ブーンがその言葉に異常な反応を示した事と、それ以降奴が黙り込んでしまった事の二つだけ。

lw´‐ _‐ノv「……」

( ;^ω^)「……」

二人の間に流れる沈黙が、オレ達全員を包み込むかと思われる程の、長い沈黙の末。

lw´‐ _‐ノv「あぁ、そうだ。墓参り、だったな」

シュール嬢が思い出したように呟いた言葉に、オレ達はのろのろと動き出した。
90 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火) 23:59:39.14 ID:JRvUqXgBO
('A`)「……」

瓦礫をまたぎ、ぬかるんだ地面を進み、軌道エレベーターの骸まで来て足を止める。

lw´‐ _‐ノv「ヒトの驕りか…ならばこれは、バベルの塔だな」

不意に零れたシュール嬢の言葉は、何を意味するのか。

('A`)「……」

ジョーカー。結局あいつは何だったのか。

アイスランドポピーの花束を、横たわるバベルの塔の前に供える。

('A`)「全ては“忘却の彼方”に消ゆ……か」

まさか自分の用意した皮肉にあざ笑われるとはな。

91 : ◆cnH487U/EY :2008/10/22(水) 00:01:55.69 ID:9JdQrpAHO
( ^ω^)「……」

隣のブーンを見やる。

( ^ω^)「……これも因縁、かお」

降りしきる雨の中、奴が呟いた言葉は何を思ってのものなのか。

その時のオレはそれがあまりに些細過ぎて気付けなかった。

後に「道化の謝肉祭事件」として世間を揺るがし、オレと、ハインリッヒの運命をも左右する程の出来事の……。

その、発端を告げる小さな小さな警鐘だったという事を。



-fin-

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