- 4 :
◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:22:53.35 ID:JRvUqXgBO
- 〜track-δ〜
━━無音だった。静寂だった。停滞だった。そこを表すのに、それ以上の言葉は必要無かった。
('A`)「本当に、無人だぜ」
立ち並ぶ建造物は、行政区にあるかのような清潔な佇まい。
大理石で敷き詰められた地面は、高級感以前に無機質なイメージすら与えオレ達に与えた。
“電子の海を泳ぐ街”。オレ達は、都市伝説の中にしか存在しなかった地に、今立っている。
( ;^ω^)「でも、こうも簡単に辿り着けるなんて……何だか、納得がいかないお」
確かに。
モララーの引っ張り出してきたアドレスから一瞬で跳んできて、ブーンが自慢のハッキングツールとテクを使って防壁は一瞬で解除されて。
この“街”に侵入するのにオレ達が所要した時間は僅かに五分ばかり。
今までのオレ達の調査活動やハリウッド顔負けのハイスピードアクションは何だったんだ、と怒鳴ってやりたくなる。
それに。
('A`)「手掛かりは、最初から全部揃っていたなんてな……」
そう。実はオレ達は、無駄な危険を冒してまで調査活動をする必要など殆ど無かったのである。
- 8 :
◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:25:57.67 ID:JRvUqXgBO
- ( ^ω^)「それは、どういう意味かお?」
('A`)「言葉通りだよ。オレ達がここに辿り着くのに必要な努力は、危険を冒してまでの聞き込みやウイルスとのドンパチじゃなく、ちょっとした推理だったってわけさ」
( ^ω^)「推理?」
('A`)「あぁ。お前、“街”の中に隠されているモノについての噂は知ってるよな?」
( ^ω^)「うん、まぁ。理想郷への扉だとか、アカシックレコードだとか、電脳兵器がどうたらとか、そんな胡散臭い説だお?それがどうか……」
('A`)「オレはさ、その下らない噂達が実は“街”の正体を細切れに分割した結果、囁かれるようになったものだと考えてた時期があった」
( ^ω^)「……これまた不毛な…」
('A`)「だが、結果がこうだ。現にオレ達は今“筑波学園都市”の“中枢構造体”の中に居る」
電子の空を覆わんばかりに林立する清廉なビルの群。
隙間を埋めるように点在する、ドーム型のラボラトリー達。
今では無人となったそれらは全て、十数年前までこの国の技術力の最先端を担う科学者達が、日夜研究に没頭していた建物なのだ。
- 11 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:30:21.73 ID:JRvUqXgBO
- 筑波電脳中枢都市。
十年前の軌道エレベーター事故で廃墟となった街の忘れ形見は、黙して語る事は無い。
('A`)「“理想郷へと続く扉”。それは、この電脳都市で“シャングリラ計画”の研究が行われていた事を意味しているんだろうな」
( ^ω^)「…じゃあ、アカシックレコードは?」
('A`)「筑波学園都市と言えば、日本の技術力の最先端にして総本山だ。日本の電脳技術の全てがここに集まっていると言っても過言じゃない。アカシックレコードってのは、それを誇張したものの姿じゃないのかね」
( ^ω^)「じゃあ、電脳兵器云々も……」
('A`)「あぁ。政府お抱えの研究都市だ。そういう物騒なもんの研究も行ってたんだろう。あながち、この“街”で起動実験が行われたってのも間違ってないと思う」
从゚∀从「そして、埋蔵金というものはそれら最先端の電脳技術を財産と見た暗喩表現である、と」
('A`)「その通り。…つうか、君にそんな話したっけ?」
从゚∀从「いいや全く。貴様らの戯れ言を小耳に挟んだだけだ。そろそろ私にも貴様らがここ一週間何をしていたのかを教えて貰おうか」
- 12 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:32:11.83 ID:JRvUqXgBO
- 言われて、こいつにまだ事情を説明していなかった事を思い出す。
('A`)「あー、はいはい。でも口で説明すんのはめんどいから、記憶交信でな」
从゚∀从「貴様の語学力では私も理解するのが難解だからな。是非そうしてくれ」
ハインのお手々を握り、脳核回線を開いてここ最近のオレの記憶を送信する。
データリンクってマジ便利。以心伝心って素晴らしいね!今北産業の究極系だよこれは。
('A`)「はい完了。どうだ、理解出来たか?」
从゚∀从「貴様にしては随分と理性的な日々を送っていたのだな」
('A`)「だべ?ホームズばりに頭を使ってたからな」
从゚∀从「だがカオス過ぎる。とっちらかった理性が本能の情感よりも複雑とはどういう事だ。今度貴様の脳核の情報整理を手伝ってやろうか?」
勘弁して下さい。そんな事されたら、クソ真面目な尊敬すべき人間になっちまいます。オレは自堕落が一番心地いいの。
('A`)「……で、本当に“街”が存在するのが分かったとして、だ」
( ・∀・)「して?」
('A`)「……まだ、気になる事がある」
- 15 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:35:12.34 ID:JRvUqXgBO
- ( ^ω^)「気になる事?」
('A`)「あぁ。オレ達は、ここに来るまでに誰とも接触していないんだ」
( ^ω^)「そりゃあ、ゴーストタウンに行くんだから……あ!」
('A`)「分かったか?“街”の目撃者全員が口を揃えて言っていた、電子体幽霊。それをオレ達は見ていない」
( ^ω^)「……うーん…でも、それってそんなに気にする事なのかお?」
('A`)「まぁ、そう言われると何も言えないんだけどな。ここまで来たら、ありとあらゆる噂に何かが隠されているんじゃないかって思え……」
その時、視界の隅を何かが横切った。
( ;^ω^)「ドクオ!」
( ;・∀・)「あ、あれ!」
皆も気が付いたようで、“何か”が消えていったビルの方を振り返っている。
('A`)「あぁ、見てたぜ。あのビルの蔭に隠れた。よくは見えなかったが、人の形をしていたような気がする」
( ;^ω^)「電子体幽霊…かお?」
('A`)「さぁな」
ウイルスバスターを起動し、オレはビルへ向かって一歩踏み出す。
- 17 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:36:50.24 ID:JRvUqXgBO
- ( ;^ω^)「ちょ、ちょっと待つお!」
肩にかかるブーンの手。
('A`)「ん?」
( ^ω^)「何が出て来るかわからないお。ここは…」
('A`)「お前に任せる。初めからそのつもりだが」
( ;^ω^)「てめぇ……」
('A`)「ほらほら、オレじゃ危ういからさ。頼んだよ」
後ろに回り、背中を押すオレ。こういうシチュエーションは御約束として、調べに行った奴が真っ先に殺されるオチだからな。
むざむざオレ自身が調べに行くわけねぇじゃん。
- 18 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:38:12.06 ID:JRvUqXgBO
- ('A`)「ふっ…先見の明、流石はオレだぜ……あぁ、ハイン君、君はここに居て僕達を守ってくれたまえ」
从゚∀从「……外道が」
<( '3`)>〜♪
罵倒と蔑むような視線を涼しげにかわして、ブーンの方へと視線を戻す。
( ・∀・)「……大丈夫でしょうか」
モララーがぽつりと呟く。じりじりと例のビルへと近付いていくブーンの周囲には、オレ達には見えないレベルで攻性防壁が展開されているのだろう。
('A`)「まぁ、相手が何であれあいつがそう簡単にやられるタマじゃねぇってのは確かだな」
- 20 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:40:24.81 ID:JRvUqXgBO
- やがて、ビルの壁の端まで辿り着いたブーンは、意を決して蔭を覗き込む。
( ^ω^)「……」
ブーンの動きが止まる。
('A`)「おーい、何か居たかー?」
オレの呼び掛けに、ブーンは振り返ると首を振り。
( ;^ω^)「いや、別に何も……ってドクオ!」
叫んだ。
('A`)「え?」
奴の視線はオレの背後。一体何が?振り返る。
从*‖*从「やぁ。ようこそ僕の世界に。ドクオ君」
ピエロの薄ら笑いが張り付いたマスカレイドが、オレを嘲笑していた。
(;'A`)「うぉぉぉお!?」
( ;・∀・)「はわわ!」
从゚∀从「貴様…!」
- 21 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:42:07.32 ID:JRvUqXgBO
- 動揺し後ずさるオレ達の中、ハインリッヒが攻性防壁を展開。間髪入れずに追尾式ウイルスを放つ。
が。
从*‖*从「おっと」
道化が翳した右手の前に、スズメバチの姿を成したウイルス群は跡形も無く霧散した。
从゚∀从「むっ」
从*‖*从「危ないなぁ。まぁそう殺気付かないで。殺し合いはいつでも出来るよ。まだ挨拶もちゃんと済ませてないんだ。まずは、僕の話を聞いてくれないか」
- 22 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:43:40.35 ID:JRvUqXgBO
- 恐慌するオレ達を前に、飄々とした態度で笑みを浮かべる道化師。
間違いない。以前、駅前でオレとハインを襲ったあいつだ。
(;'A`)「お前…あの時の……」
从*‖*从「ははは。僕の差し向けたドロイド君達はどうだった?安上がりの義体だったけど、結構いい動きをしてただろう?」
(;'A`)「お前は、誰なんだ…何が目的で……」
从*‖*从「僕が誰か。……それは、彼がよく知ってるんじゃないかな?」
オレの背後を指差す道化師。
振り返れば、そこには驚愕の表情を浮かべたブーンの姿。
(;'A`)「ブーン…?」
( ;^ω^)「ジョーカー……そのアバターは、もしかしてジョーカーなのかお?」
ジョーカー。その名詞には聞き覚えがある。
昨今巷を賑わせている天才ハッカー。有線、無線を問わずありとあらゆる電脳犯罪に手を染め、国家反逆罪から民法違反までその余罪は優に数百を越すと言われる稀代の電脳犯罪者だ。
(;'A`)「こいつが、ジョーカーだっていうのか?」
从*‖*从「マスコミさん方はそう呼んでるみたいだね。最も、僕に取ってどう呼ばれようがそんなものはどうでもいい事だけど」
- 24 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:45:20.29 ID:JRvUqXgBO
- カラカラと笑う姿、皮肉毛な笑みのマスカレイド。人を小馬鹿にした態度。確かに、冗談屋(ジョーカー)と言えよう。
( ;^ω^)「本当にジョーカーなのかお?…だとしたら、何が目的なんだお」
从*‖*从「質問を返すようだけど、君たちは何の目的があってこんな辺鄙なところにやってきたのかな?先ずはそれを聞かせてO・KU・RE!」
( ^ω^)「……僕は、墓参りに来たんだお」
从*‖*从「ほう。墓参り!そうかそうか!確かにここは墓場だね。多くの死者が眠っている。じゃあドクオ君、君は?」
('A`)「オレは…ちょっとした好奇心で……」
って何真面目に答えてるんだオレ。
从*‖*从「そうかそうか!好奇心!人の好奇心は猫をも殺すと言うけど…」
くるり、右手首を回転させるジョーカー。次の瞬間、奴の右手に握られていたのはナイフ。
从*‖*从「今回殺されるのは君達だ!」
言うが否か、手にしたナイフをオレ目掛け投げつける道化。
(;'A`)「うぉっ!?」
身を強ばらせるが、杞憂。投擲されたナイフは、オレの首の前に突き出されたハインの左手にしっかりと握られていた。
- 25 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:47:05.48 ID:JRvUqXgBO
- 从゚∀从「死合いの合図と受け取ってよいのか」
从*‖*从「またまたぁ!今のも挨拶だよ!ハインリッヒたんなら、これぐらい受け止めてくれると分かって投げたんだもん!分かるよね?分かるよね?」
从゚∀从「……随分と馴れ馴れしい口を聞くのだな。まだ会って間もないというのに」
从*‖*从「おやや。寂しい事言ってくれるねぇ。つれないなぁ。今日で会うのは三度目なのに」
('A`)「意味がわからねぇ。お前みたいな痛い奴、知らねえぞ?」
从*‖*从「ドクオー!君までそゆ事言う!酷いなぁ!これだからスパッツ派は嫌いなんだ!」
(;'A`)「て、てめぇまさか!」
从*‖*从「や〜っと思い出したぁ?んもぅ、鈍感さんっ♪」
(;'A`)「くそったれが。忘れるもんかよ。てめぇのせいで散々な目に遭ったからな」
( ;^ω^)「ドクオ、こいつと会った事が?」
('A`)「あぁ。前にお前に軍用アイアンメイデンの件で仕事を頼んだ時があっただろ。あの事件の黒幕が、こいつだよ」
- 26 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:49:13.84 ID:JRvUqXgBO
- 从*‖*从「あはっ!ブーンが僕のハッキングを見破ったのかぁ!どうりで、アジトがバレるのが早かったわけだ。
うんうん。流石はブーン君。“電子の王”は伊達じゃないね!」
( ;^ω^)「なっ!どうしてあんたがそれを……」
从*‖*从「おっと!口が滑った!いけないいけない」
なんだこいつは。さっきから随分とオレ達の事について詳しいが。何を知っている?
从*‖*从「そうそう、僕の目的についてまだお話して無かったね!」
(;'A`)「何なんだよ、目的ってのは……」
从*‖*从「うふふ。そう焦らずに。所で、君達はここ筑波学園都市の中枢構造体に何が有るのか…それを知っているかい?」
('A`)「そんなの、知るわけが……」
从*‖*从「あぁあぁ!全く君はダメダメさんだなぁ!本当に何も知らず好奇心だけでここにやって来たんだね!僕、そういう輩は大嫌い!」
(#'A`)「オレもお前みたいな憎たらしい奴は大嫌いだぜ」
从*‖*从「お互い様ってね!…で、何が有るのか。その話に戻らせてもらうけど……」
( ・∀・)「……」
从*‖*从「ふむむ。やっぱり止めよう」
- 30 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:53:15.08 ID:JRvUqXgBO
- ( ;^ω^)「はぁ?」
从*‖*从「君達は、あまりにも愚鈍過ぎる。何も分かっていない。自分で考える事もせずに、ただただ流れに任せて導かれるままに、ここまでやって来た。そうだろう?」
(;'A`)「……」
確かに。オレ達は、ただなし崩し的に与えられる情報に食いついてここまで来ただけだ。気に食わないが、こいつの言っている事は間違っていない。
从*‖*从「……全く。妖精さんは余計な事をしてくれるよ。義務か何か知らないが、何時までそんな下らない妄執に縛られてるんだい?」
嫌悪感も露わに、突然声を荒げる道化。
その言葉は誰に向けられたものか。少なくともオレ達では無い。
从*‖*从「……忌々しい亡霊め。こんな凡愚共を集めて、僕の庭を荒らそうなどと…それは、許される事じゃあない」
('A`)「おい、さっきから誰に向けてお前は話してるんだ?独り言か?」
从*‖*从「ふん。だから君は愚鈍なのだよドクオ君。一度遊んであげたからって、馴れ馴れしく僕に話しかけないでくれないか?僕の興味の対象は君では無く隣のハインリッヒ君にある」
- 32 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:55:44.05 ID:JRvUqXgBO
- (#'A`)「上から目線、凄くムカつきます」
从*‖*从「そしてそれも今回は無関係だ。今回僕が用が有るのはね、ブーン君。君だけだ」
( ;^ω^)「お?ぼ、僕かお?」
从*‖*从「あぁ。君はさっき、墓参りに来たと言ったね。
あんな実力も無いくせにでしゃばった末、ドジって死ぬような馬鹿の為に墓参りをするなんて、君は随分とお人好しみたいだ」
( ;^ω^)「お前、ぃょぅの事を知ってるのかお…?」
从*‖*从「だけどね、それは許してやる事は出来ない」
ふいに、道化師の姿がかき消える。
瞬間。
从*‖*从「何故なら!僕の聖域を荒らす奴は何人たりとも生かしては返さない!それが僕がここに居る目的なのだから!」
ネットのロジックを切り裂き、四方八方から小悪魔を模したアバターが現界した。
『ゴミはゴミらしく、SPAMに押しつぶされちゃえ!』
姿無き道化の声が“街”に響き。
ゴミ情報の塊である小悪魔達が、オレ達目掛けて飛来する。
( ;^ω^)「DOSアタック!?」
- 33 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:57:31.01 ID:JRvUqXgBO
- オレ達のアバターの情報処理能力では耐えきれない、莫大な情報量。
それを送り付ける事によって演算システムに過負荷を与え、ダウンさせる攻撃をDOSアタックと呼ぶ。
アバターの内部から徐々に情報を書き換えていくウイルスと違い、これは送り付けた相手の電脳を一瞬で焼ききる。
数ある電脳兵器の中でも、最も凶悪な攻撃手段の一つだ。
(;'A`)「くそったれ!インテリ気取りかと思えば、とんでもなくクルードな野郎だ!」
塊となり襲い来る小悪魔達を横跳びに回避。
存在するだけでネットのロジックを歪めるインプは、都市の床に激突。黒い大穴を穿つ。
从゚∀从「不味いな。これだけの数を揃えられると、流石の私でも処理仕切れぬ」
ハインも、舞飛ぶインプの群れになすすべもなく回避行動を強いられていた。
こいつはやくい。
( ;・∀・)「ぶ、ブーンさんどうするんですか!?」
悲鳴を上げて、インプの群れから逃げ惑うモララー教授。
( ;^ω^)「どうするも何も……」
セキュリティーフィルターを目一杯に展開し、SPAMの嵐を凌ごうとするブーン。
- 37 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
22:59:23.70 ID:JRvUqXgBO
- ( ;^ω^)「今は耐えるしか、無いお」
“電子の王”のお手上げ宣言に、八方塞がりを自覚した。
( ;^ω^)「とにかく、みんな僕の側を離れるなお!どれだけ耐えられるかわからないけど、僕にもどうする事も出来ないお!」
ブーンが展開したフィルターの中に、あたふたと駆け込むオレ達。
舞飛ぶインプの群れが爆撃なら、さしずめオレ達は防空壕の中で震える小市民と言ったところか。
(;'A`)「笑えねぇ冗談だぜ……」
フィルターに衝突しては、緑色の閃光となって散っていくインプ達。
電子の街に突如降り注いだスコールか。それにしては穏やかじゃない。致死性の酸性雨に、急ごしらえの傘はどこまで保つのか。
( ;・∀・)「あぁ!フィルターが!」
役立たず教授(オレは役立たずダメ人間だが)の悲鳴に顔を上げれば、フィルターの一部に小さな穴が空いているのを発見。
(;'A`)「おぉおい!穴あき傘なんてさしてんじゃねぇよてめぇ!」
( ;^ω^)「馬鹿言うなお!これだけのDOSアタックを受けてるんだお!まだフィルターが健在な方がおかしいんだお!」
- 41 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:02:01.08 ID:JRvUqXgBO
- (;'A`)「何かいい策はねぇのかよ!?お前孔明先生の生まれ変わりなんだろ!」
( #^ω^)「だから今それを考えてるお!つうかいつそんな電波な設定がついたお!」
(#'A`)「知るかバーカ!」
罵倒する間も、降り注ぐSPAMの豪雨。
壮絶な爆撃にフィルターが悲鳴を上げて歪んでいく。
( ;^ω^)「スケープゴートを作れば……でも、そんな時間は無いし……」
( ;・∀・)「あぁ!穴が!広がってるぅうう!」
( ;^ω^)「何か代わりになるものがあれば……」
(#'A`)「えぇい諸葛亮めっ!何をしている!」
- 42 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:03:59.41 ID:JRvUqXgBO
- ( ^ω^)「そうだお!」
突如合点するブーン。頭上に電球のアイコンが浮かんだ。
(;'A`)「お、思い付いたのか!?」
( ^ω^)「ハインちゃん、バックアップメモリは有るかお?」
从゚∀从「ん?あぁ、大した容量は無いが一応は……」
( ^ω^)「ちょっと貸してくれお!」
('A`)「は?バックアップメモリで何するんだ?」
オレの疑問をよそに、ハインは自らのバックアップメモリをアバター化すると、ブーンに手渡す。
- 44 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:05:50.69 ID:JRvUqXgBO
- ( ^ω^)「有難うだお。……それじゃあ」
そして何を思ったか、大きく振りかぶり。
(;'A`)「ってちょっと待ったぁぁぁぁあ!お前何しようとしてんの!?ねぇ、何しようとしてんの!?」
( ;^ω^)「いや、その……」
(;'A`)「オレには今お前が、オレが52万3850円も出して買ったハインのバックアップメモリを、小悪魔爆撃の雨の中にぶん投げようとしたように見えたんだけど!」
( ;^ω^)「その通りだお。見た感じ、このDOSアタックのターゲットプログラムはサーチアンドデストロイ、見つけた情報体を片っ端から潰していく無差別攻撃だお。
だから避雷針となる物があれば、それに集中してくれる筈……」
(#'A`)「てめぇはその避雷針を、オレが52万3850円も出して買ったハインのバックアップメモリにしようって言うのか!そうなのか!」
( #^ω^)「こうでもしなきゃ僕達はもう直ぐフラットラインしちまうお!」
(#'A`)「てめぇ!52万3850円だぞ!?52万3850円!オレがそれを買うためにどれだけのエロゲを我慢したと思ってるんだ!ダメだ!そんな事はさせない!許さないぃぃい!」
- 46 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:07:44.84 ID:JRvUqXgBO
- ( #^ω^)「知るかお!今はそれどころじゃ無いんだお!このままじゃエロゲだってやれなくなっちまうんだお!つうかやたらと具体的な数字だな!」
( ;・∀・)「あぁ!穴からSPAMが!」
( #゚ω゚)「えぇい、構ってられるかお!南無三っ!」
(;゚A゚)「らめぇぇぇぇえええ!!」
力強い投擲。放物線を描いて飛んでいく、52万3850円のバックアップメモリ。
セキュリティーフィルターの膜から出たそれに向かって、小悪魔達は嬉々として群がる。
(;゚A゚)「あぁ…あぁ…オレの、52万3850円が……こないだやっとローンを終えたばかりなのに…消えていく…消えていくぅぅぅぅ……」
今まで無差別に降り注いでいたのが嘘のように、小悪魔達がバックアップメモリだけを狙う様は集中豪雨。
飛びつき、ぶつかり、張り付き、押しつぶし、消え。
やがて全ての小悪魔達が消失した後には、喰い荒らされた構造体の床に空いた大穴だけが残された。
( ;^ω^)「……ふぅ。なんとか全部凌ぐ事が出来たお」
(゚A゚)「52万…3850円……」
- 47 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:10:52.90 ID:JRvUqXgBO
- 凄惨な喪失感にゲシュタルト崩壊寸前なオレをよそに、SPAMの嵐が過ぎ去った事を見て取ったブーンはフィルターを解除し立ち上がる。
( ;・∀・)「いやぁ…一時はどうなるかと……」
( ;^ω^)「あのまま黙ってたら、確実に押しつぶされてたお」
胸をなで下ろしながら、辺りを見回す一同。
从゚∀从「ドクオ……」
(゚A゚)「思い出の…品だったんだ。…ハインと初めて会った記念日に…プレゼントは何がいいかなって……初めて、他人の為に買った贈り物だったんだ……」
从゚ー从「私は…ドクオが生きててくれてたら……それだけでいいから」
(;A;)「ハイン……」
从´ー从「……プレゼント、有難うね」
聖母マリアの慈愛をたたえた笑みを浮かべ、オレを抱きしめるハイン。あぁ…このまま、時が止まってしまえばいいのに。
('A`)「ママァ…おっぱい」
从゚∀从「うむ。貴様は死刑だ」
あぁ…このままオレの心臓が止まってしまうかも知れません。
- 49 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:12:42.90 ID:JRvUqXgBO
- ( ^ω^)「しっかし派手にやってくれたおね。本当に無差別爆撃だお」
ブーンが言うとおり、辺りの建物の被害は凄まじいものだった。
まるでゴジラが暴れまわったかのように、ビルは根元から倒れドームラボラトリーは跡形もなく崩れ去っている。
都市ごとオレ達を葬るつもりだったのか。
( ^ω^)「お?ドクオ、ちょっと……」
その廃墟らしい光景の中に、ブーンは何かを見つけたのか手招きする。
('A`)「はいドクオです。何でしょうか」
( ^ω^)「あれ…あの建物だけ、無傷だお」
ブーンの指差す先には、不自然なまでに無傷なドーム状の建物。
厳重な攻性防壁が何重にも張り巡らされたそれは、“イカニモ”な形をし過ぎていて。
('A`)「これは……」
( ^ω^)「何か、あるお」
オレ達は、その建物目指して疲れた足を引きずり始めた。
- 50 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:15:39.07 ID:JRvUqXgBO
- ※ ※ ※ ※
━━総計27枚。複雑怪奇でどれもが致死性の威力を誇る攻性防壁のロック。
二十数分ほどかけてその最後の一枚を解除すると、オレ達は感慨深げに建物の中へと足を踏み入れた。
( ^ω^)「ここは……」
重々しい扉の先、広がっていたのはどこまでも続くかのような光輝くデータスタチューとグリッドの森。
外観からは有り得ない広大な室内の様子に、ここが他とは明らかに違う事をオレは確信した。
('A`)「こりゃ、間違い無く中枢データバンクだな」
( ^ω^)「おっ。ここに、この筑波構造体で研究されていた全てのデータが揃っている筈だお」
こいつぁ、とんでもないものを見つけた。
日本の技術の最先端である筑波学園都市で研究されていたものと言ったら、どれもがトップシークレットものの貴重な情報なのは間違い無い。
つまり。
('A`)「ここのデータを持ち帰って、そこはかとなくブルジョワな人達に売りさばけば……」
オレもブルジョワ!
(*'∀`)「ひゃっほう!ここに来て遂にオレの努力が報われる時がきたぜ!この日の為に主人公フラグを立てまくったかいがあった!いただきまーす!」
- 54 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:17:24.21 ID:JRvUqXgBO
- 喜び勇んでデータスタチューの一つに飛び付こうとするオレ。
( ・∀・)「ウェイト」
(;゚A゚)「ぐぶぇっ!げはっ!」
襟首を掴まれ、むせるオレ。どちらも同じオレ。
(;'A`)「て、てめぇモララー!いきなり何しやがる!」
( ・∀・)「待て、と言ったのです」
振り返り怒鳴りつけてやろうとするオレに、奴はどこから取り出したのか拳銃を突き付ける。
(#'A`)「てめぇ、マフィアごっこは帰ってからしてやる。すぐにその手を……」
パンッ。乾いた音ともに、オレの頬を銃弾の形をしたSPAMが掠めた。
- 56 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:18:55.23 ID:JRvUqXgBO
- ( ・∀・)「もう一度言います。速やかにデータスタチューから離れ、腕を後ろに組み四つん這いになりなさい」
( ;^ω^)「お?お!?モララー!?」
( ・∀・)「さあ早く」
(;'A`)「……てめぇ、裏切るつもりかよ」
なすすべもなく這い蹲るオレ。
直後、モララーの左足がオレの背中を踏みつけた。
(;'A`)「ぐぇっ!?」
( ・∀・)「あなた達も動かないで下さい。動いたら、彼はフラットラインです」
( ;^ω^)「……」
从゚∀从「……ふむ。いた仕方ない」
- 59 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:21:14.30 ID:JRvUqXgBO
- 多分オレ、リアルタイムで頭に銃を突き付けられている。
(;'A`)「畜生が…ラスボス倒して浮かれてたら…獅子心中の虫って奴か……隠しボスはねぇよ」
( ・∀・)「皆さん、お疲れ様でした。今まであなた方の実力を図っていましたが、ブーンさん、あなたは私の求めるだけの実力が有ることがわかりました」
( ;^ω^)「何を言っているのかわからないお……」
( ・∀・)「こういうシーンでは、私が今までの種明かしをするのが相場みたいですか。宜しいでしょう。全て、お話して聞かせます」
( ・∀・)「私は、この筑波学園中枢構造体の管理AI。十数年前…正確には十二年前の軌道エレベーター倒壊事故のおりより、ここの管理と一般社会からの隠蔽を託されたものです」
(;'A`)「AI…だって?まさか、だろ?」
( ・∀・)「信じられないのはわかります。私は、主より人間の感情プログラムを与えられた極めて人間に近い形で生み出された、栄えある自由発想許容型AIのプロトタイプですからね。
通常会話ではまず、私がAIだという事に気づかない人が大半でしょう」
- 62 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:23:28.85 ID:JRvUqXgBO
- 从゚∀从「研究熱心とはいえ、一般人が何故秘匿レートSクラスの政府の構造体のアドレスを知っているのか不思議だったが、それなら頷けるな」
( ・∀・)「私の後継型AIは流石に優秀ですね。気付いておりましたか」
从゚∀从「ドクオから貰った記憶の所々に違和感があったからな」
( ・∀・)「…話を戻しましょう。私が主に設定された命令は三つ」
( ・∀・)「一つは、この構造体の存在を隠蔽する事。もう一つは、ここに近付こうとするハッカー達を導く事」
( ・∀・)「そして三つめは、そのハッカー達にこの構造体を破壊させる事」
(;'A`)「はぁ!?お前のご主人様は馬鹿か?何でそんなもったいない事……」
( ・∀・)「ここで研究されていた事を、永遠に闇の中へと葬る為です」
(;'A`)「そんな事したら、オレのブルジョワへの夢が……」
( ・∀・)「しかしあなたが軽はずみでここのデータを世にばらまけば、“ヒト”という種の存在意義が根底から覆される事になります」
( ;^ω^)「それって……」
( ・∀・)「リアルでのツクバ軌道エレベーター建設工事と併走して、ここで研究されていたものは何でしたか?」
- 64 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:25:23.18 ID:JRvUqXgBO
- ( ;^ω^)「シャングリラ計画……」
( ・∀・)「その通り。人間の脳の中身を電子情報のパターンとして再現する事で、完全に独立した一つの電子体を造り上げる研究。その大成の暁には、一体どのような未来が待っているでしょうか?」
( ^ω^)「人が、電脳空間に永住する事が可能になる……」
( ・∀・)「それだけでは有りません。ヒトは、自らの手でヒトを作り上げる事が可能となるのですよ」
从゚∀从「脳の仕組みを解き明かすという事は、何も電脳空間だけに必要な技術ではないと」
( ・∀・)「そういう事です。そしてここには、その“脳”の仕組みを解き明かすまでにあと一歩まで迫った情報が眠っています」
(;'A`)「なら尚更、そんな情報を眠らせたままにしとくのはもったいないだろうが!技術の進歩の為に……」
( ・∀・)「ですが、私の主はエゴイストでした。ヒトが全生物の頂点に立つ唯一無二の存在である事を信じて疑わない人物だった」
( ;^ω^)「……」
( ・∀・)「全てを無かった事にしよう。全て、消し去ってしまおう」
- 65 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:28:57.70 ID:JRvUqXgBO
- ( ・∀・)「しかし、彼は人間でもあり独りの科学者でもあった。自らの研究成果を誰にも公開出来ずに消してしまうのは、無念だったのでしょう。
だから、研究データを自らの息子に託して構造体のデータバンクから、それを消してしまおうとした」
( ・∀・)「その矢先、あの事故があった。皆さんも今し方経験したから分かるでしょう。このデータバンクにかけられた異常なまでの攻性防壁の数を」
( ・∀・)「これは、例えそれが筑波学園都市の最高責任者であろうとパスを公開されていない、ブラックボックスのようなもの。研究者が一人でくぐり抜けられるような代物ではありません」
( ・∀・)「事故の混乱の中ならばなおのこと。だから、主は私に先の三つの命令を残したのです」
('A`)「……」
( ^ω^)「……」
( ・∀・)「さぁ、それではブーンさん。最後の防壁を解除して下さい。ここの防壁は全てAIキラーが施されていて、私では手が出せないのです」
( ^ω^)「なる程。ここの防壁を解除するだけの腕のハッカーを探してたのは、AIキラーがあったからかお」
- 66 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:31:36.24 ID:JRvUqXgBO
- ( ・∀・)「えぇ。今だから言いますが、一番最初にあなた方を襲ったウイルスは私が放ったものです。あなた方を試すのには、いささか足りないものでしたがね」
('A`)「……あーあ。最初からオレ達は金塊を爆破する為に頑張ってたって事かよ……」
溜め息を漏らすオレの眼前を、ブーンの足が通り過ぎていく。
( ^ω^)「……っと。こんな感じかおおk?」
( ・∀・)「……えぇ。それでは、自壊プログラムの起動を」
小さな電子音声の後、すぐさま緊急アラートのけたたましい警告音が鳴り響いた。
( ・∀・)「有難うございます。これで、全て私の役目は終わりました」
背中に乗せられたモララーの足がどき、オレはやっと自由を得る。
('A`)「ふぅ…。完全に骨折り損だよ」
( ・∀・)「安心して下さい。申し訳程度ですが、報酬金ぐらいは出しますよ。今から送るアドレスの口座に後でアクセスしてみて下さい」
('A`)「あぁ、まぁ期待しないでおくよ」
( ・∀・)「さぁ、それでは皆さん早くここを退去して下さい。もう直ぐ、ここはデリートされます。ここに居ては、皆さんも巻き添えをくいますよ」
- 70 : ◆cnH487U/EY :2008/10/21(火)
23:33:16.79 ID:JRvUqXgBO
- ('A`)「言われなくても。こんな場所、長居したくないしな」
精一杯の皮肉を込めて吐き捨て、奴に背を向ける。
緊急警報で真っ赤に染まったデータバンクからおさらばすべく、オレ達は足を踏み出した。
( ・∀・)「あの」
それを、憎たらしいAIの声が止める。
('A`)「あん?」
振り返る、真紅に染まったデータバンクの中。
( ・∀・)「強制はしませんが、ここを出たらリアルの筑波学園都市跡を訪れてはくれませんか?」
( ・∀・)「それで…出来たらでいいので、主に花を備えてはくれませんか」
真っ赤に照らされた、モララーの表情はAIらしい無機質なものだったが。
('A`)「それは、お前のご主人様の遺言か?」
( ・∀・)「いえ。私の“発想”です」
('A`)「……あぁ、約束する」
オレには、一人の騎士のように見えた。
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