10 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/11(土) 23:48:00.04 ID:wDTTb2ewO
〜track-α〜

━━先人は言った。人生に山と谷あり、と。
いい事もあれば、悪い事もある。
今日が駄目でも明日がある。
だからそう悲観するな、という事だろう。

('A`)「でもさ、オレ思ったんだけども山を登るのも、谷を降りるのも、同じくらいに辛くねぇ?」

从゚∀从「貴様の人生そのものではないか。山と谷は有っても、それらは全て艱難辛苦で出来ている」

('A`)「あーあ、なんかいい事ないかなぁ」

昼下がりの事務所。応接ソファーに寝そべるオレの横で、ネイルガトリングに弾を込める相棒。
四日前から一度も鳴らない電話。二週間前から、一度も叩かれていないドア。

我らがどっくん何でも屋は、絶賛開店休業中だ。

从゚∀从「受け身でいる人間の下に、幸福は懐かないと聞く。先ずは立ち上がってみたらどうであろうか」

('A`)「よっし!いっちょ青い鳥を探してくるかぁ!」

立ち上がり、情報端末に歩み寄る。
結線ケーブルを引っ張り、ニューロジャックに挿入。

('A`)「さーて、今日はどんな妹スレがあるのかなぁ!」

从゚∀从「仕事をしろ」

頭を叩かれました。
13 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/11(土) 23:49:35.20 ID:wDTTb2ewO
('A`)「だって仕事無いんだもん」

从゚∀从「ならば探せ。日雇いアルバイトでも何でもいい、とにかく金を稼げ労働機械」

(#'A`)「オレがそんな惨めな事出来るか!」

从゚∀从「私の維持費はどうなる」

('A`)「じゃあ君が派遣ダッチワイフの仕事をして稼げばいい」

ピコーン!私閃きました!

(*'A`)「そうだ!君をレンタルダッチワイフとして、高級官僚とか相手に出張イメクラの商売を始めよう!これは儲かるぞぉ!」

从゚∀从「確認するが、貴様の所持する18禁ゲームソフトウェアじゃないんだ。私に性行機能は付いていない」

(#'A`)「あったらオレは童貞じゃないもん!」

从゚∀从「あっても貴様には遣わせぬ」

睨み合うオレ達二人。
視線と視線、飛び散る火花。
今、コンビ結成史上最大の風雲急を告げる鐘の音が鳴り響かんとしていた。

(#'A`)「やるのか、ポンコツメイドロボ」

从゚∀从「結果は目に見えている。退くならば今のうちだぞ三葉虫」

毒舌で鬼畜な彼女の名前はハインリッヒ。
人間にあらざる非人道的な口振りからしても、彼女が人間では無い事は明白。

14 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/11(土) 23:51:51.13 ID:wDTTb2ewO
特A級護衛専任ガイノイド、“アイアンメイデン”。それが彼女の肩書きだ。

オレ達は何でも屋。アサガオの観察日記から、暗殺まで金次第で世界中のありとあらゆる面倒事を引き受けるスーパーエージェント。

(#'A`)「言ってくれるじゃねぇか。その言葉、スクラップ工場で後悔する事になるぜ」

从゚∀从「小便は済ませたか?神様へのお祈りは?部屋の隅でガタガタ震える準備はオーケー?」

しかし今は、二匹の飢えた野獣。互いに互いの喉笛を喰いちぎらんと牽制合戦の真っ最中。

あぁ、何故人はこうも虚しい争いを繰り返すのか。
全ては金が悪いのだ!金!金さえ有れば、人は鬼にならなくとも良いのに……。

15 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/11(土) 23:53:04.42 ID:wDTTb2ewO
(#'A`)「行くぞぉああ!」

从゚∀从「来いっ!」

平和への願いも虚しく、闘いの火蓋は切って落とされた。

(#'A`)「おおぉぉ!」

お互い、おおきく振りかぶって。

(#'A`)「最初はっ!」

突き出す拳。

从゚∀从「パー!」

開かれた掌。

(#;A;)「卑怯者ぉぉぉお!」

そして、敗残兵の流した涙。

争いは何も生まないという事の最も小さな例が今、証明された。

16 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/11(土) 23:54:54.50 ID:wDTTb2ewO
从゚∀从「下らぬ。……そこまでして貴様が仕事をしないというならば、致し方ない。私も少し考えさせて貰おう」

呆れた、というか愛想を尽かした、というか。

侮蔑するような眼差しをオレに向け、事務所を後にする人型毒舌機械。

('A`)「ちぇっ、どうせオレはワーキングプアーですよ」

彼女がオレの為になるよう口酸っぱく言っているのはわかる。

つうか、彼女のOSをいじって鬼畜な性格にしたのはオレだ。

例えていうなら、ドラえもんとのび太みたいな関係。駄目人間と世話焼きロボだ。

('A`)「しっかしこう依頼が無いと、どうしようも無いんだわな」

八方塞がり一歩手前。募る焦燥感。ストレス警報発令。このままでは阻止限界点を超えてしまう。

こういう時は、気分転換が重要だ。現実から目を背ける為の、逃避先が必要だ。

(*'A`)「というワケで、レッツダイブ!」

情報端末のスイッチを入れる。目を閉じ、没入を開始。

脳とインターネットが繋がり、網膜に何も無い空間にドアだけが幾つも乱立している光景が映し出される。オレの端末のエントランスだ。

17 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/11(土) 23:56:20.29 ID:wDTTb2ewO
('A`)「金が無いとここまで殺風景なのよね」

エントランスを飾るためのアプリケーションなんかも存在するが、ネットで目の保養をする為に金なんか払ってられない。

('A`)「さて、と……」

自分の体を眺める。電脳空間において、自らの体として動かす事になるこの分身はアバターと呼ばれている。
基本的には脳内での自分のイメージが反映された姿となるが、金を払えば様々な姿形のものを選ぶ事が可能だ。
勿論金のないオレのアバターは、オレ自身の姿をトレースしたうだつの上がらない二十代男性の格好をしている。

('A`)「まぁ、出逢い厨じゃなし。ありのままのオレで問題ないさね」

乱立するドアの一つに手をかける。
ゲートと呼ばれるこの扉をくぐって、オレ達は他のwebサイトへとアクセスするのだ。

('A`)「さて、何か面白い事でも有ればいいんだがねぇ……」

ドアを潜る。ダイブ、開始だ。
19 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/11(土) 23:58:45.85 ID:wDTTb2ewO
 ※ ※ ※ ※

━━ただ、ただ、グダグダとした時間が過ぎていた。

('A`)「時間の無駄使い乙」

当てもなく、何をするでもなく、何か楽しい事は無いかとネットの海をさまよい続ける事数時間。
チャットルームで厨房を煽って、電脳映画館で無銭観賞をして、ショッピングサイトで悪質なクレーマーを演じて。

('A`)「やることぬぇぇぇ」

気付けばオレは、何か面白いネット小説でも無いかと、あちこちのテキストサイトを回っていた。
痛々しい厨小説でもあったら、笑いものにしてやろうという魂胆だ。

('A`)「……」

我ながら、悲しい事をしていると思う。

(うA;)「本当はオレだって、こんな事したくないんだ……でも、他人を見下さないと…自我を保てないんだよ……ううっ…」

誰かオレを愛して下さい!

('A`)「愛を下さい!愛を!」

……虚しい。

('A`)「あーあー、何か面白いテキストサイトねぇかなぁ」

空虚な心の隙間を埋める為、再びネットの海を泳ぐ。
光のグリッドが錯綜する中、浮島のように浮かぶサイトの構造体(ストラクチャ)群をぼんやりと眺めながら平泳ぎをしていると、一つのサイトが目にとまった。

20 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:01:00.49 ID:izk9/u7UO
('A`)「“都市伝説の館”……ねぇ」

古びた洋館を模した構造体。蔦が壁を這っているあたり、なかなか手の込んだサイトであるとみた。

('A`)「都市伝説系のテキストサイトかね」

都市伝説か。暇つぶしには持ってこいだ。
オレは洋館の扉へ手をかけると、中へと入っていく。
扉の先には、十九世紀西洋風の小さな玄関ホール。レセプションカウンターと、壁際にソファが一つ。奥の壁に更にドアが二つ。
チャットルームとテキストルームの二つが備わっているようだ。

('A`)「迷わずテキストだろ」

「都市伝説編纂室」、と札のついたドアを潜り、中へ。
図書館のような内装に、林立する書架。中には、数百冊を超える革張りの本が収められている。
この一つ一つが、所謂テキストファイルなのだが、この量は個人が運営するサイトにしては少し異常だ。

('A`)「すげぇボリュームだな……どれを読んでいいのか迷っちゃうぜ」

どうせ暇を潰せればいいと思い、適当に一冊を取り出すとページを開く。

21 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:03:10.02 ID:izk9/u7UO
('A`)「えー、何々……“このように、ネットの海を漂うゴーストタウンというものは他にも幾つか目撃報告が有り”……」

ネットの海を漂うゴーストタウン、ねぇ。

('A`)「面白そうじゃん」

興味が湧いてきたので、その項目の最初から読み進めていく事にした。

('A`)「“電子の海を泳ぐ街”」

表題を口に出して読む。つうか独り言が多いなオレ。寂しすぎワロタ。

('A`)「“諸君は、ネットの海を渡り歩いている間に、奇妙な構造体を発見した事は無いだろうか”」

奇妙な構造体ってどこがどう奇妙なのよ。

('A`)「“アドレスの表示が無く、アクセスしてみようとしても強固な防壁に阻まれて入る事が出来ない。そんな構造体を、見かけた事は無いだろうか”」

アドレス表示が無い構造体、というのはアノニマス…つまりは匿名ストラクチャという事だろうか。

一般の構造体がアドレスを非表示にする事は電脳法で禁じられている。アドレスの表示が無いという事はつまり、政府関連の構造体か非合法のものであると言えよう。

22 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:04:59.70 ID:izk9/u7UO
('A`)「“その構造体は一見、小さな電脳都市のように見えるという。
しかし先述した通り、強固な防壁に守られ多くの人間は中に入る事が出来ない為、七年前までは政府管理下の構造体だと思われ、特に気にも止められていなかったそうだ”」

電脳都市というのは読んで字の如し。ネット上に造られた仮想の街で、アバターで仮想的な生活を送る事が出来る街の事だ。

金さえ払えば電脳都市の住民票を得るのは誰でも出来るが、生活するとなるとリアルでの自分の体を長い間放置する事になる。

長い間没入するという事は、その間は飲まず食わずという事だ。

そんな事だから電脳都市で暮らす者の殆どは、没入中のリアルボディのケアも万全にこなせる富裕層に限られてくるというワケだ。

('A`)「“しかしつい四、五年前、その謎の構造体に入ったという体験談がちらほらとネットの隅で囁かれるようになった”」

('A`)「“何でも、噂によるとその謎の構造体の中は、見た目通り電脳都市であるという。しかし、他の電脳都市とは違うのはそこが無人であるという事だ”」
24 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:08:21.09 ID:izk9/u7UO
無人の電脳都市ね。

大方、人気が無くなって放置された電脳都市だろう。

('A`)「“無人であるのに、どうして強固な防壁が敷かれているのか。運営者が匙を投げた電脳都市ならば、何故未だに防壁が機能しているのか”」

くそっ、いちいちオレの頭の中を読んだような文章だな。

('A`)「“これには諸説有り、その謎の電脳都市には理想郷へ続く扉が隠されているという説。
宇宙開闢からその終焉までに起こる全ての出来事を記録したアカシックレコードが隠されているという説。
都市が無人なのはネット兵器の起動実験の標的にされたからだという説、など様々だ”」

ここまで来るとめちゃくちゃだな。もう、それらしいいわく話なら何でもいいって感じだ。

('A`)「“しかしそれら有象無象の憶測は、所詮憶測でしかない。これらの説の中に真実があるかどうかはわからないが、この都市伝説を伝説たらしめている所以は他の所にある”」

ふむふむ。一応筆者は冷静なんだな。

('A`)「“それは、この電脳都市にアクセスした者が誰一人としてリアルの空気を二度と吸う事が無かったという点だ”」

25 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:10:03.25 ID:izk9/u7UO
前言撤回。

揚げ足をとるようだが、目撃者が誰一人として生還出来てないのなら、どうしてその噂が広まるのだ。

馬鹿にするな。

('A`)「止めだ止めだ。あー、やっぱりこんな下らないもん読むんじゃなかった」

まぁ、都市伝説に合理性を求めるオレが間違ってるのだが。

( ・∀・)「ややや、お気に召しませんでしたか」

(;'A`)「うわぁぁあ!でたー!」

いつの間にそこに居たのか。オレの顔を覗き込むようにして、薄ら笑いを浮かべた男が傍らに立っていた。

( ・∀・)「そんなに驚かないで下さい。電子体幽霊(ワイヤードゴースト)なんかじゃありませんから」

(;'A`)「そんなに引っ付かないで下さい。ガチホモなんかじゃありませんからっ!」

上半身を仰け反らせ、そのまま男と距離を取る。

('A`)「あんたがここの管理人?」

( ・∀・)「イグザクトリー。本日は当館にお越し下さり、誠に有難うございます。ここのところ、誰もお客が来なくて随分と暇してたんですよ」

('A`)「はぁ。じゃあ、ここのテキストファイルは全部あんたが?」

( ・∀・)「ウィ・ムッシュ。どうです、僕が収集した都市伝説の数々は!」
27 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:13:23.26 ID:izk9/u7UO
胸をそらし、誇らしげに図書館を仰ぐ男。

('A`)「凄く……膨大です」

ぶっちゃけ、それ以外に感想など持てないわけだが。

( *・∀・)「でしょうでしょう!なかなかのもんだと思いませんか!?ネットにあまたの都市伝説サイトあれど、これだけ膨大な数の都市伝説を揃えてあるサイトはうちぐらいのものですよ!」

急に弁に熱を帯び始めた男に、オレは嫌な予感がした。

('A`)「あの……」

( ・∀・)「おやや、もしやあなたが見ているのは、僕が一番最初に記した“電子の海を泳ぐ街”じゃないですか!」

(;'A`)「え…と」

( ・∀・)「なかなかあなたは見る目がありますね!その殆どが下らない若者の噂話でしかない都市伝説の中で、その伝説だけは他とは違う“何か”を秘めているんです!」

(;'A`)「はぁ……」

( ・∀・)「都市伝説と一口には切って捨てられないような真実味!僕を都市伝説というカテゴリーに惹きつけて止まない所以!僕が都市伝説を研究しようと思い立ったきっかけ!全てはこの“電子の海を泳ぐ街”から始まったと言っても……」

オレはこの男に捕まった不幸を呪いながら、腹を括るしかなかった。

28 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:15:17.36 ID:izk9/u7UO
 ※ ※ ※ ※

(#'A`)「だからこそ!我々は!我々の瞳で!何が真実かを!見抜かねば!ならぬのである!」

見事に洗脳されました。

( ;^ω^)「はぁ」

ツーショットチャットルームの中、塩豚相手に都市伝説の素晴らしさを語るオレ。

あの男から三十分程話を聞かされただけで、ここまでの変わりようとはこれいかに。

(#'A`)「虚構に埋め尽くされたこの世界!僅かな真実を見つけ出す為、敢えて我々は虚構の海へと飛び込むのだ!そう!都市伝説と呼ばれる欺瞞の渦中へ!」

( ;^ω^)「で、結局のところ何が言いたいんだお」

(*'A`)「よくぞ聞いて下さいました!」

びしぃと人差し指を突き付け、口火を切るオレ。

(*'A`)「君は、電子の海を泳ぐ街を知って居るだろうか?」

( ;^ω^)「あぁ、あの胡散臭い都市伝説かお……」

(#'A`)「胡散臭いだと!?ふっ…これだから、真実を見抜けない連中は困る…」

( ;^ω^)「都市伝説に真実も糞もあるかお…」

('A`)「…まぁいい。それで、君はその噂についてどこまで知っているのかね?」

29 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:17:06.93 ID:izk9/u7UO
( ^ω^)「…確か、アドレス非表示の謎の電脳都市の話だお?強固な防壁に守られていて、入ってみると中は無人。
でも、何故かその電脳都市に入って生還した者は誰一人として居ない。そんなんじゃ無かったかお?」

(*'A`)「その通り!しかし、何故誰一人として生還者が居ないのに、そんな噂が広まるようになったか、君はそこまでは知らないであろう」

( ^ω^)「……」

(*'A`)「いいか、よぉく聞け……」

……。

( ・∀・)『最もな疑問だね!生還者が居ないのに、そんな噂が広まる。往々にして都市伝説とか怪談話というのは、そんな矛盾を抱えている!』

男は自らをモララーと名乗り、オレに“電子の海を泳ぐ街”についての概要をこう語った。

( ・∀・)『でも、この“電子の海を泳ぐ街”に関してはそれが当てはまらない!いや、実際に生存者は居ないんだけどね……先ずは、このニュースのホロを見て下さい!』

……。

(*'A`)「そしてこれが、そのニュースのホロだぁ!」

携帯式ホログラファーに、モララーから借りてきたデータアイコンを挿入。
手のひらの上に、ニュースキャスターの姿が映し出される。

30 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:19:15.92 ID:izk9/u7UO
『昨夜、自宅の情報端末に結線したまま遺体として発見された男性について、新たな情報が入りました。
何でも男性は、死の前日に“遂に無人の電脳都市を見つけた”と友人に語っていたそうですが……』

( ^ω^)「……」

(*'A`)「そう、お察しの通りその男性が友人に語っていた“無人の電脳都市”こそが、“電子の海を泳ぐ街”の事なのだよ!」

( ^ω^)「……はぁ」

(#'A`)「はいそこ!溜め息をつかない!実は、こうした事件はこれ一つでは無いのだ!他にも何件もの……」

( ^ω^)「あぁ…いいお。分かってるお。もうそこまで分かってるなら何も言わないお」

諦観したように、肩を落とすブーン。

( ^ω^)「…で、ドクオはその“電子の海を泳ぐ街”を探したいとか言うのかお?」

(*'A`)「おうよ!一見してただの都市伝説!しかし、蓋を開けてみれば実際に存在する謎の電脳都市!
この謎を解き明かさないで居られるかってんだ!いいか、これは浪漫だ!男の浪漫なんだよ!」

( ^ω^)「ロマン、かお。謎を解き明かしたいから、その街を探すのかお?」

31 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:21:16.44 ID:izk9/u7UO
(*'A`)「その通り!だからさ、お前も一緒に……」

( ^ω^)「断るお」

(#'A`)「あぁ!?まだ理解出来ないのか!?いいか、実際に死者が……」

( ^ω^)「さっきのニュースホロ。あれ、僕のハック仲間の事だお」

('A`)「え?」

予想GUYです。

( ^ω^)「あいつも今のドクオみたいに、謎を解き明かすだとか言ってその街を探し続けてたんだお」

何時もの笑ってるような顔のまま、ブーンは淡々と語り始めた。

( ^ω^)「僕たちハッカーは、基本的に何時も退屈してるお。何か、刺激的で面白い可笑しい…そんな興味の対象を、何時も探してるような奴らばかりだお」

( ^ω^)「だから、この“電子の海を泳ぐ街”の噂は結構早い段階で僕の周りにも広まってたお。
社会に適合しようとしないハッカー達は暇だお。そんな下らない噂でも、退屈しのぎになればと何人かが探して回ってたのを今でも覚えてるお」

('A`)「お前は、探さなかったのか?」

( ^ω^)「…僕は、その時はまだ一応会高校もあったし……それに、どっちかっていうとプログラミングの方に興味があったおから…」
33 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:26:02.87 ID:izk9/u7UO
こいつの作った非合法ソフトウェアには、以前から何度か世話になっている。

先のニュースホロの事件がちょうど七年前の映像記録だから、そんなに昔からハンドメイドでプログラミングを行っていたとは。オレもまだまだ、こいつの事をよく知らないみたいだ。

( ^ω^)「で、その街を探してるハッカーの中に、僕が所属していたハッカーチームの奴が居たんだお」

('A`)「それが、さっきの……」

( ^ω^)「うん。当時、僕たちが溜まり場にしてるチャットルームがあって、そこで僕はあいつらが探偵ごっこをしている間、プログラムのロジックを調整したり、新しいハッキングツールを作ったりして、あいつらの帰りを待ってたお」

('A`)「後方支援ってやつ?」

( ^ω^)「そんな感じかお。…あの頃は楽しかったお。チーム総出であちこちの構造体を荒らしてみたり…下らない馬鹿話をしてチャットルームで一夜を明かしてみたり……。
みんながみんな、何かしらの理由で社会から爪弾きにされた奴らばかりだったけど…逆に、だから、僕たちはお互いに共感しあったのかも知れないおね」
35 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:30:29.84 ID:izk9/u7UO
懐かしそうに語る奴の表情は、本当に楽しそうで。出来るなら、あの頃に戻りたいと、痛切に叫んでいるように見えて。

('A`)「……」

オレは、挟む口を失っていた。

( ^ω^)「あぁ、すまんお。ちょっと話がそれてしまったおね。……で、そうやってみんなの帰りを待っているのが日常になったある日。
メンバーの一人が遂に無人の電脳都市を見つけたって、言い出したんだお」

( ^ω^)「いよいよ、噂の真偽が明らかになる。第一発見者のそいつを筆頭に、二、三人の仲間がその電脳都市に乗り込んで行ったお。それで……」

('A`)「それで、どうなったんだ?」

( ^ω^)「……防壁にハックを仕掛けたのは、一人。実際に電脳都市の中へ入って行ったのも一人。
みんなの前で、実力を誇示したかったのかおね。仲間が見守る中、そいつは一人で電脳都市の中へ乗り込んでいって…それっきり……」

('A`)「フラットライン、か」
37 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:32:13.75 ID:izk9/u7UO
( ^ω^)「何時まで経っても帰ってこないそいつに、嫌な予感がした僕たちは一度ログアウトする事にしたんだお。
でも、ログアウトしたところで僕たちは所詮ネットの中でしか話した事の無い関係。その乗り込んで行った奴がどうなったかなんて、知る術も無かったお」

( ^ω^)「後日、警察が突然家にやって来た時になって初めてそいつがフラットラインしたって事を知ったお。
そんな事があったからかどうかはわからないけど、それから間もなくして僕たちのチームは解散……今じゃ、あのメンバーでネットに潜ってるのも僕ぐらいになっちまったお」

('A`)「……」

( ^ω^)「その死んだ奴も、決して腕の悪いハッカーじゃなかったお。むしろ、熟練者と言ってもいいくらいの……。
そんな奴でも、あの構造体に手を出そうとすれば呆気なくフラットライン。それでも、ドクオはこの話に首を突っ込むつもりなのかお?」

('A`)「……」

首を傾げ、真っ直ぐにオレの瞳を見詰めてくるブーン。
ネット空間ですら、他人の目を直接見ることが出来ないこいつが、こんな態度を取るって事はマジなんだろうな。
40 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:37:17.27 ID:izk9/u7UO
('A`)「あの、さ」

( ^ω^)「お?」

('A`)「お前の話は、その、なんていうか……すげぇ重い。重かった。それを冒涜するつもりはないよ」

( ^ω^)「……」

(*'A`)「でもやっぱり浪漫には勝てないってわけですよ!」

( ;^ω^)「ちょっ!おまっ!これは本当に危険な話なんだお!死ぬ気かお!?」

(*'A`)「へっ!死ぬのが怖くて目の前の栄光から逃げ出せるかよ!オレの商売に命の危険はつきものだぜ!」

( ;^ω^)「だからって、何の得にもならないことに命をかけるなんて……」

(#'A`)「馬鹿野郎!損得勘定など、外道のすることだ!漢なら、浪漫だけを求めればいいんだよ!」

( ;^ω^)「……死んでも知らないお」

('A`)「え?何言ってるの?お前も手伝ってくれるんでしょ?」

( ;^ω^)「……」

('A`)「そうだろ?お前が居ればそう簡単にオレも死んだりしねぇ。しかも、だ。一説によれば、件のゴーストタウンには電子マネーの埋蔵金が隠されているかもしれないとか……。
もし見つかったら、お前にも半分やるからよ!ここは一つ、オレの浪漫に投資するつもりで!」

( ^ω^)「……本音はそれかお」
42 名前: ◆cnH487U/EY :2008/10/12(日) 00:39:23.62 ID:izk9/u7UO
(#'A`)「あったぼうよぉ!世の中金ですよ金!浪漫でオマンマが食えますかってんだ!」

( ;^ω^)「突っ込む気も起きないお……」

(*'A`)「で、勿論協力してくれるよな?」

( ^ω^)「はぁ……」

ブーンは最後に大きな溜め息をつくと、肩を竦めながら。

( ^ω^)「七割。それが僕の取り分ということで」

両手の指を七本立てた。



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