54 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:47:26.99 ID:4su7v4c3O
epilogue

━━煙草の不味い夜だった。

('A`)y-「ふぅー……」

ベランダから臨むニーソクの街並みは、相変わらず汚らしい。

日本という国が吐き出した汚物が行き着く掃き溜めにして最底辺の街。

たまに、そんな景色が堪らなく嫌になってしまう事がある。

特に、こんな夜には。

('A`)「あー畜生。カフェインが足りねぇー」

軍用アイアンメイデン暴走事件から一週間。結局オレ達は何を解決したのかと、未だに思う。

あの時、IM-17-RHの腹部ハッチから這い出て来た猫は、案の定件の御婦人の飼い猫だった事が判明。オレ達はたかが猫探しにしては些か高すぎる報酬を受け取る事となった。

おかげであれだけ頭を抱えていた財政危機も乗り越え、当面の生活費にも困らないで済んでいる。

そしてもう一つの依頼。これは、最悪に胸糞の悪い結末を迎えた。
56 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:49:03.33 ID:4su7v4c3O
あの夜、IM-17-RHの機能停止を確認したオレは、依頼の完遂を告げるべく御大将の携帯端末へとコールを入れた。

しかし、返ってきたのは「このアドレスは現在使われておりません」の無機質なアナウンス。

釈然としないままに何日かを過ごしたオレは、ふとペットショップで手に入れたテキストファイルの存在を思い出し、パス破りを試みた。

果たしてそこに書かれていた事はオレのモヤモヤを完璧に振り払ってはくれたが、代わりにこのどうしようも無い怒りとも何ともとれぬ気持ちを残してくれたのだった。
58 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:51:53.61 ID:4su7v4c3O
“━━前略。お仕事お疲れ様。このファイルを開いた君は、やっぱりドクオ君なのかな?だとしたら嬉しい。君が、僕の見込んだ人物だったって事だからね。
さてさて、僕が君の為に用意したシナリオはどうだったかな?楽しめた?マフィアの人達まで相手にしなきゃいけなかったのは大変だったろうけど、オチはなかなか面白いものだったろう?
お察しの通り、君が追い掛けていたアイアンメイデンは僕がちょこっと電脳核を弄った悲劇のマリオネットさ。
三原則を取っ払って『自立心』を植え付けただけだったんだけど、なかなか面白い動きを見せてくれた。現代人には彼女みたいな真似が出来ない分、彼女は尊敬に値するよ”
61 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:54:09.79 ID:4su7v4c3O
人を小馬鹿にした文面。今回の黒幕らしい奴からの置き手紙は、最後にこんな一文で締めくくられていた。

“ところで、君はスパッツが好きだと言っていたけど、ブルマの良さも出来れば理解して欲しい。あれは、いいものだ”

(#'A`)「くそったれが……」

後日、軍部に正式に連絡を取って聞いてみたが、やはり“ショボン”という名の大将など存在しなかった。

オレ達は、一人のいけ好かないハッカーに遊ばれていたのだ。

从゚∀从「どうしたダメ人間。ついに自分のダメっぷりに愛想が尽きたか?」

窓を開け、猟奇的な彼女がやってくる。

彼女の右腕はあの後、正式なサイバネ工によって修理してもらった。

お金って素晴らしい。

('A`)「いや、ちょっとこないだの……な」

从゚∀从「……」

それだけでオレの思うところを察したのか、彼女も無言になる。

ああ、シリアスに浸る時は一人でって決めているのに君が黙り込んじゃったら、凄くいずらいでしょう空気的に。

('A`)「あの……」

从゚∀从「なぁ、ドクオ」

62 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:56:39.25 ID:4su7v4c3O
(;'A`)「は、はひっ!?」

名前で呼ばれるなんて初めてだったから、思わず声が裏返る。

从゚∀从「彼女は、自由を得たんだったよな」

彼女とは、IM-17-RHの事だろう。

('A`)「ん?あ、あぁ。三原則を無視出来たんだからな。…あのくそったれが仕組んだ事だけど」

从゚∀从「それでも、彼女は自由だった」

('A`)「あぁ……」

从゚∀从「でも、自由と言っても彼女にとっては未知の世界に放り出されたも同じだったろうな」

('A`)「ううむ……」

从゚∀从「何をしていいのか分からない。誰かに聞こうにも、彼女は言葉を持たない。独りぼっち。頼る者の居ない世界で独りぼっち」

('A`)「……」

まるで、自分の事のように語る彼女の言葉が、静かに夜気を震わす。

从゚∀从「そんな中で彼女に取ってあの子猫は、自らの鏡のような存在だったのかも知れぬ」

('A`)「迷い猫とはぐれアイアンメイデン…ね。確かに、似てるかもな」

从゚∀从「……だから、彼女は守ったんだ。自らの存在を掛けて、あの子猫を。それが、彼女にとっての……」
66 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 01:00:32.72 ID:4su7v4c3O
自己の存在を掛けて守った。

自己の存在。自我。アイデンティティ。果たしてそれがあの一機の軍用アイアンメイデンにあったのか。

言葉を持たぬ彼女がそれを語る事は無いし、言葉を発する事が出来たとしても、既に彼女は居ない。ただ、もしも機械に自我が芽生える可能性というものが有るのなら。

例えば、オレの隣に居るコイツにそれが芽生えたら。

从゚∀从「……」

オレはその時、どんな顔をしてこいつと向き合えばいいのだろうか。いや、果たして向き合う事が出来るのだろうか。

('A`)「……マンドクセ」

从゚∀从「何か言ったか?」

('A`)「いや、何でも。それより鮫の話しようぜ!」

从゚∀从「だが断る」

ぼやきは、夜の街に呑まれて消えた。





-fin-

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