4 : ◆cnH487U/EY :2008/10/01(水) 23:49:08.04 ID:QRtp6+zEO
track-δ

 ※ ※ ※ ※

━━三途の川が見えた。

向こう岸でお母様が手を振っていた。

渡ろうとしたら船頭が渡し賃を要求してきた。

(#'A`)「死してなおオレから搾取するつもりかー!」

ぶち切れたら目が覚めた。

从゚∀从「お帰り。向こうの様子はどうだった?」

('A`)「お金が無いと死んではいけないという事が分かりました」

狭く、散らかったオレの部屋。

ベッドの上、包帯でがんじがらめのオレに一番に声を掛けてくれたのは悲しいかな、心を持たないガイノイドでありました。

6 : ◆cnH487U/EY :2008/10/01(水) 23:51:38.60 ID:QRtp6+zEO
从゚∀从「そうか、まぁ良かったじゃないか。借金もしてみるものだな」

('A`)「イテテ、首が回らないよ」

从゚∀从「そりゃそうだ。全身打撲プラス鞭打ち。そして肋に二本ほどひびが入っているのだからな」

('A`)「借金の上に鞭打ち症。こいつぁ首が回らない筈だ!ははは、こやつめ。座布団はやらんぞう♪」

从゚∀从「私のレントゲンアイで見たんだ。間違いない」

('A`)「……」

从゚∀从「二日間は絶対安静だな」

7 : ◆cnH487U/EY :2008/10/01(水) 23:53:17.57 ID:QRtp6+zEO
な。

(;'A`)「なんだってー!?」

从゚∀从「三途の川岸まで行っても貴様のリアクションのレパートリーは広がらないのだな」

冗談じゃない!

(;'A`)「冗談じゃないっ!」

从゚∀从「いや、冗談だ」

('A`)「あ、そうなんすか」

なんだよ冗談かよ。ネタにマジレスとか……ゆとり乙。

从゚∀从「貴様に二日間も惰眠を貪られては困る。意識が回復したのなら死なない程度に仕事をしてもらう」

(;'A`)「ちょ!冗談てそっちっすか!」

肋にひびが入ってるって言いましたよね?

鞭打ち症だって言いましたよね?

え?オレ、動いていいの?

8 : ◆cnH487U/EY :2008/10/01(水) 23:54:28.38 ID:QRtp6+zEO
(;'A`)「痛たたた!あぁ!痛い!肋骨が痛い!ひびが!首がぁ!」

从゚∀从「安心しろ、全部嘘だ。肋骨にひびなど入っていないし、鞭打ち症も患ってない。傷らしい傷は全身打撲だけだ」

(;'A`)「ででででも、お腹痛いよぅ」

从゚∀从「生理だろう」

(*'A`)「やんっ」

从゚∀从「分かったら起きろ。向こうは待ってはくれないぞ」

言われて、思い出した。

9 : ◆cnH487U/EY :2008/10/01(水) 23:56:12.95 ID:QRtp6+zEO
(;'A`)「そうだ!あいつは!?」

IM-17-RH。オレに全身打撲と借金の山をプレゼントしてくれた、諸悪の根元。

从゚∀从「貴様の最後っ屁は存外に役に立っているぞ」

そう言って彼女が放り投げてきたのは、携帯レーダー。

オレが意識を失う前にIM-17-RHへ向けて放り投げた発信機は、なんとか奴の機体に張り付いたのだろう。

高解像度で再現された街並みのミニチュアの中、発信機を示す赤い光点が動きながら点滅している。

('A`)「……第三埠頭からは出てないのか。まぁ、お尋ね者が身を隠す場所としては最適だしな。喋れないくせに、自分の身分は弁えてるみたいだな」

軍用のアイアンメイデンと言うものには、対人用インターフェイスが備わっていない。

彼女達の人工知能に有るのは、戦場で最も適切な判断を下す為の戦術AIと、それを周囲の味方に言葉を介さず伝える為の無線データリンクだけ。

戦場では言葉を発する必要は無いという事だろう。

なんとも、殺伐とした業界だ。
11 : ◆cnH487U/EY :2008/10/01(水) 23:58:12.18 ID:QRtp6+zEO
从゚∀从「どんな偶然か知らんが、貴様の活躍(笑)で奴の右腕を奪ったのは大きい。幸い、あれから五時間程しか経っていない。奴が右腕を修復する前にケリをつけるぞ」

オレから毛布を引き剥がし、せき立てる鬼畜機械娘。

ああ、久し振りに体を張って頑張ったからといって、やっぱりこいつに暖かみを期待するのがそもそもの間違いだったのだな。

('A`)「……まぁ待て、そう焦るなよ。ちょっとぐらい休ませろ」

それに、なんだか引っかかっている事がある。

明確に断言は出来ないのだが、なんというか些細な違和感なのだが……何とも言えないモヤモヤと言うか。

从゚∀从「休んでなどいられない。先程、どこぞの婦人がやって来て新しい依頼を頼まれたばかりだ」

('A`)「ご婦人って?」

从゚∀从「猫探しを以前に頼んだのだが、まともに取り合ってもらえなかったとか言っていたぞ」

ハインは、一枚の写真を放り投げる。

('A`)「あぁ、あれね。んなつまらない依頼より、オレの体の心配をしろと……」
13 : ◆cnH487U/EY :2008/10/01(水) 23:59:51.00 ID:QRtp6+zEO
白い毛並みの可愛らしい猫様の写ったそれを、オレはポケットにしまった。

从゚∀从「おい聾唖。まだ自分の身分が解らないようだな。いいか、貴様は怪我人である前に一人の負債者だ。収める物は収める。仕事はきちんとこなす。貧乏暇なし。とっととこの仕事を片付けて……」

げげっ、久し振りのお小言モード。

('A`)「まぁまぁ、とにかくだ。奴を追うにも、先ずは作戦だろう?いくら奴が右腕の無い手負いの状態だとは言え、向こうは軍用のアイアンメイデンだ。戦闘に関しては、君よりも確実に上手な筈。油断は出来ん」

从゚∀从「……それも、最もだな。ふむ、ならば貴様に策が有るとでも?」

胡散臭げな目でオレを見る機械化小姑。

('A`)「ちっちっち。舐めて貰っちゃ困るね。いいか、まず……」

オレは、自らの策を披露すべく口を開いた。
15 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:02:34.63 ID:4su7v4c3O
 ※ ※ ※ ※

━━久し振りに鍵を開けた武器庫の中は、黴と弾薬の臭いに溢れていた。

まぁ、久し振りと言っても昨日も開けたのだが。

('A`)「えーと、どこだったかなぁ……」

事務所の壁。一見、何の変哲も無いそこのつなぎ目に見せかけたスリットに電子キーを通すと、ご覧の通り。ニトリで買ってきた金属ラックに並べられた、いつ使うとも知れない重火器の山、山、山。

全部貰い物っていうのが、そこはかとなくオレのヒモ属性を如実に体現しているが……誰から貰ったか、とかは思い出したくも無いので言及は控えよう。

('A`)「RA・RA・RA・ライフルゥー」

金融会社みたいだな、なんて思いながら漁っていたらば目当てのものを発見。

('A`)「おぉ、あったあった」

SVDドラグノフ。俗に言うスナイパーライフル。

あいつの事を思い出すのが嫌で、ここ数年全然手入れなぞしていなかったが、果たして動くだろうか。

('A`)「……」

動作チェック。オーケー、問題はない。弾倉、オーケー。スコープ、オーケー。

銃にも、オレにも、問題はない。


18 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:04:26.42 ID:4su7v4c3O
('A`)「……あぁ、大丈夫。大丈夫だ、ドクオ」

知らず知らずのうち、浮き出てきた冷や汗を拭う。

駄目だな、この銃を手に取っただけでここまでとは。

从゚∀从「おい大腸菌、早くしろ。日が暮れる」

バーカ、日はとっくに暮れてるだろうが。

('A`)「あぁ、今行くよ」

イマクルヨ。あの二人のコンビは好きだったな。

('A`)「うん、ギャグもいつも通り。まぁ大丈夫かな」

トラウマってのは、どうも厄介なもんだな。

ギターケースに閉まったドラグノフを肩に背負い、オレは歩き出す。



19 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:06:14.29 ID:4su7v4c3O
“弾き語りでもやってんの?”

('A`)「……」

“良かったら一曲聞かせてくれよ”

(;'A`)「……」

“え?うはっ、こいつは驚いた!マジかよ!?”

(;'A`)「五月蝿い黙れ!」

拳を、壁に叩きつける。

从゚∀从「いや、私は何も言って無いが」

目の前のハインのキョトンとした顔。

急速に、頭が冷えてきた。

('A`)「……いや、何でも無い。第二の人格がちょっとな」

从゚∀从「そうか。まぁ、何にしろそいつが今の貴様の人格よりかはマトモな人格なのを期待するよ」
21 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:07:22.62 ID:4su7v4c3O
('A`)「影羅って言うんだ。今度紹介するよ」

从゚∀从「名前を聞いただけで解った。全力で遠慮する」

そう。こんなんでいい。

こんな、馬鹿臭いノリがオレにはあってる。

('A`)「シリアスなんて、願いさげだぜ」

从゚∀从「ん?」

('A`)「いや、何でもない。さぁ行こうぜ」

再び歩き出すオレ。

心なしか、ギターケースが重く感じた。

22 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:09:21.17 ID:4su7v4c3O
 ※ ※ ※ ※

━━窓から差し込む月明かりが、廃倉庫の中を部分的に照らし出す。

オレは慣れない重機の操縦を終えると、一服すべくマルボロを懐から取り出した。

('A`)y-「ふぅー……やっぱり、勤務中の喫煙は最高ですな」

ニューソク区第三埠頭、所謂倉庫街の一角。

作戦決行まで残り二分。

('A`)y-「ったく、本当に手間とらせやがってよ」

思えば、長い三日間だった。

軍用アイアンメイデン逃亡。バグか?ハッキングか?マフィア間の抗争か?振り回されるようにして追いかけ続けてきたこの事件の真相は、結局ここに至るまで全くの不明。

それが今夜、この場所で明かされるかどうかは解らないが。

('A`)y-「……どうも、釈然としねぇ」

未だに、頭の隅に引っかかっているものがある。何かを忘れているような気がする。明確にこうだと断言は出来ないが、何か……違和感を感じるのだ。

('A`)y-「まぁ、どうでもいいか」

結局、そんないい加減に考えてしまうのがオレで。こんないい加減な人間だから、今こうしてココに居るわけで。
24 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:11:11.39 ID:4su7v4c3O
('A`)y-「……やめようや」

いかんいかん。このドラグノフを引っ張り出してからこっち、どうもナーバスになりがちだ。そういうのはオレには似合わねえってのに。

『おい、ゾウリムシ。準備は終わったか?』

ハインからの脳核通信に、現実を思い出す。

('A`)y-「あぁ、完璧だ。誘導の方、頼むぜ」

『了解。一応聞くが、そっちにつく前にカタをつけても……いいのだろう?』

('A`)「馬鹿、無理すんな。今回は君とオレの共同作戦でいく。オーケー?」

しばらくの間。

『オーケー』

そこで考えるなよ。

26 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:12:23.98 ID:4su7v4c3O
('A`)「さて、それじゃあ本格的にお仕事といきますかね」

煙草をもみ消し、重機の座席を降りると階段を上って梁の上へ移動。

倉庫内を見渡せる位置に陣取り、肩からギターケースを下ろしたところで遠く銃声の響きを耳にした。

('A`)「始まったか」

うかうかはしてられない。

今回の作戦は、タイミングが重要だ。

月明かりだけを頼りにドラグノフを組み立て、軽く動作チェック。マガジンを装填。

銃床を肩に当てたところで、倉庫のシャッターが轟音を立てて凹んだ。

27 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:15:15.01 ID:4su7v4c3O
('A`)「オープンコンバット、ってか」

シャッターから入ってくる者を見極めるべく、スコープを覗く。

('A`)「果たして蛇が出るか鬼が出るか……」

打ち付けられるような音が何度も響く。響く度、シャッターの歪みは大きくなり。

从#゚∀从「おおぉぉぉ!」

それを突き破って背中から飛び込んで来たのは、銀髪の戦乙女だった。

(;'A`)「って案の定パワー負けかよ!」

機関銃の乱射音が響き、シャッターを突き抜けた弾丸が彼女に追い討ちを掛ける。

対物鉄鋼弾を使用した軍用アイアンメイデンの機銃なぞ受けたならば、流石のハインリッヒもひとたまりも無いという事か。

戦乙女は蝗の大群がごとき銃弾を飛び退き回避。自らも牽制の意を込めて、右手五指のネイルガトリングをめくら撃ちに撃ちまくった。

从;゚∀从「ちぃっ……」

自分の銃撃に意味が無い事など、彼女自身が一番良く分かっているだろう。

所詮は格納式の暗器。軍用のアイアンメイデンの装甲を考えたら、彼女のネイルガトリングの掃射など気休めにもならない。
29 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:17:40.73 ID:4su7v4c3O
川д川「!!!」

それを証明するかのように、シャッターを突き破り飛び込んでくるIM-17-RH。隻腕の彼女の左腕から突き出しているのは、格納式機関砲。

本来ならば戦闘ヘリに積む程の規格のそれを片腕に格納しているのは、やはり彼女が軍用機体である事の証だろう。

川д川「pppp...」

物言わぬ処女が不吉な電子音を鳴らす。こりゃヤバいかな。

从;゚∀从「くそっ!またか!」

予想通りにばらまかれる、機関砲の弾幕。バレルのやかましい回転音、秒間120発の弾丸の嵐。まさに暴風と表現するに相応しい。

(;'A`)「持ちこたえろよ……」

この倉庫内には遮蔽物と言える遮蔽物は無い。人間と違う次元の運動能力を持ったハインリッヒと言えど、この状況で全ての弾丸を回避するのなど不可能だろう。

せめて、銃弾の嵐が過ぎ去った後に立っていられれば。

銃撃戦に活路を見いだす事が不可能な彼女が、奴に決定的なダメージを与えられるとしたら、それは白兵戦のみ。レーザーブレードならば、奴がクリスタルシールドでも出して来ない限り確実に仕留める事が出来る。
31 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:19:07.91 ID:4su7v4c3O
幸い、奴の機関砲は格納式という事もあって装弾数はあまり無いだろう。いいとこ、五千発ぐらいだ。

(;'A`)「なんとか、凌いでくれ……」

从#゚∀从「ああぁぁぁぁぁぁあ!」

雄叫びを上げ、舞う戦乙女。

川д川「!!!!!」

左腕の機関砲を振り回す、寡黙な狩人。

弾幕に次ぐ弾幕。銃弾の雨、雨、雨、雨、雨霰。

戦乙女は舞い、跳び、跳ね、転がり、被弾を避ける。

避ける、のだが。

从;゚∀从「ぐぅ……」

右肩に、一発被弾。

一刹那間の展開を超高速演算システムは処理する事など不可能だったのか。



32 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:20:52.43 ID:4su7v4c3O
从;゚∀从「あっ!」

続けて右足に二発被弾。

右胸、腹部、左腕、なし崩し的に食らいつく銃弾。

一度食らったら最後、とでもいうのか。

蝗の大群は、次々と戦乙女に纏わりつき、装甲を抉っていく。

(;'A`)「……くそっ!」

今すぐにでも叫びたい。

彼女の名を叫び、彼女の前に躍り出、彼女の盾となりたい。

しかし、それは出来ない。

そんな事をしたら、この作戦は失敗だ。

失敗どころか、オレの人生も終わる。
34 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:23:07.88 ID:4su7v4c3O
(;'A`)「……くそったれ!」

吐き捨て、祈る。今は、それだけしか許されない。

从;゚∀从「……こな…くそ…」

銃弾の嵐は止まない。

さっきまで、舞い飛ぶように動き回っていた戦乙女も今では片膝を付き、地に這いつくばってしまっている。

彼女に、これ以上耐える事が出来るだろうか。

(;'A`)「ぁぁ……」

もう、限界じゃないのか。

このまま、彼女がなぶられるのをただ呆然と眺めるだけでいいのか。

(;'A`)「……畜生!予定変更だ!」

ドラグノフの銃床を肩から外し、梁に手を掛ける。

飛び降りろ。飛び降りて、彼女の前に立て。彼女の盾になれ。

35 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:24:06.75 ID:4su7v4c3O
(;'A`)「オレはっ!」

「待てっ!」

暴風が、唐突に止んだ。

(;'A`)「!?」

硝煙立ち込める倉庫内。

床に這いつくばった一つの影が、ゆっくりと立ち上がる光景を、目の当たりにする。

从 ∀从「……ふぅ。散々、やってくれたな」

バレルの回転する、きゅるるという機械音だけが虚しく響く中。

从 ∀从「今度は私の番だ。妹を手にかけるのは、些か気が引けるが……」
37 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:26:33.16 ID:4su7v4c3O
(;'A`)「ハイン!」

从゚∀从「行くぞ、妹よ。三分でスクラップにしてやる」

戦乙女が、駆け抜けた。

川д川「!!」

寡黙なる狩人は、相手が立っている事を計算していたのだろう。

すぐさま左腕に機関砲を収納。腰に下げた円筒を抜き構え、光子の刃を形成する。

从#゚∀从「はぁぁぁ!」

対するハインリッヒは満身創痍。

孔だらけとなった外套から伸びる左腕に握るは同じく光子の刃、携行型光学剣の白き光。

剣の舞いが、始まった。

川д川「!」

从#゚∀从「そこっ!」


40 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:28:34.06 ID:4su7v4c3O
二人の処女は、吸い寄せられるように激突。

光子の刃を打ち付け合う。

一合、二合、三合。ぶつかり合う度に激しく発光する、光の刃。

隻腕対隻腕。アイアンメイデン対アイアンメイデン。

五分五分である筈の戦いは、しかし、寡黙なる狩人の優勢に進んでいるように見えた。

从#゚∀从「お…らぁ!」

ヌンチャクがごとく光刃を振るう戦乙女。

触れた物を焼き切る光学の刃の極意は剛力に有らず。

手数と、太刀筋。それが戦力の決定的な差となる。

41 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:30:30.31 ID:4su7v4c3O
川д川「……」

故に彼女達は、自らの稼動限界までに引き出した速度で持って剣を振るう。手首の関節を回転させ、人間では不可能な角度から相手を打ち倒さんと奇剣を振るう。

超越的な速度で展開される攻防、尋常ではない角度から襲い来る太刀筋、相手の十手先まで見越して放たれる攻撃。

全てにおいて人間では到達し得ない領域の彼女達の殺し合いの結果を分けるのは、機体スペック、コンディション、そして戦術AIの演算速度。

そう。つまり決着は、始まる前からついている。

軍用機体故に始めから戦闘のみを目的として開発されたIM-17-RH。長期間の護衛を主目的とし、人間社会に適応する為の様々な機能を備えて開発されたハインリッヒ。

結果は明白だ。

从#゚∀从「まだまだぁ!」

本来ならば、数合打ち合っただけで首を飛ばされる事が確定しているハインリッヒ。

彼女の足が地につき、腕が剣を振るっていられる理由。

それは間違いなく、彼女が“機械”という枠の限界を超えた存在であるからに他ならないだろう。

42 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:31:51.86 ID:4su7v4c3O
('A`)「うちのダッチワイフを舐めて貰っちゃ困る」

自分で考え、自分で行動する。自由発想許容型AIは伊達じゃない。

勉強一辺倒の頭でっかちよりも応用力に優れる人間が天才と呼ばれるように、柔軟かつ様々な経験を持った彼女はキリングマシンを相手どっても遜色ない働きを見せている。

防戦一方とは言え、これは大した事だ。

('A`)「……そろそろかな」

そしてその守りに回る戦いにも、意味が有る。

やはり、幾ら優れた応用力が有るとは言え戦術のプロフェッショナルに彼女がトドメを刺すのは難しい。

だから。



43 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:33:10.72 ID:4su7v4c3O
从#゚∀从「どうした?もう来ないのか?」

二人の処女の斬り合いが止まった。

川д川「……」

距離をあけ、互いに互いの出方のパターンを計算し合う状況。

睨み合い、硬直する戦況。

二人の立ち位置は、予定通り。

从゚∀从「戦狂いのバーサーカーが剣を休めるとは、貴様の名が泣くぞ」

機械同士における舌戦は無意味。彼女が饒舌なのは単にOSをいじったオレの趣味だ。

45 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:36:15.90 ID:4su7v4c3O
意味が有るとすれば、超高速戦闘に磨耗した彼女の戦術AIを小休止させる事ぐらい。

それは今回、戦局を分ける程に大きな意味を持つ。

川д川「!!!!」

瞬間、猟犬が如き俊敏さでIM-17-RHがハインリッヒに飛びかかった。

从゚∀从「そうそう……それでこそ、狂戦士ってもんだ!」

飛び退く戦乙女。

翻す外套、現れた右腕。

包帯に覆われたそれは、この戦いを終わらせる隠し玉かつ切り札。

川д川「!」

47 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:38:41.72 ID:4su7v4c3O
敵の新兵器登場に虚をつかれた狂戦士は、即座に新兵器の戦術的分析にかかったのだろう。

先の斬り合いで磨耗し切った戦術AIではどこまで解析出来たのか。

从#゚∀从「トドメだ!」

狂戦士の懐へ飛び込む戦乙女。

宙で組み合い、地に落ち転がる二人のうち、マウントを取ったのは戦乙女だった。

从#゚∀从「狂犬はちゃんと繋いでおかなきゃな!」

振りかぶる右腕。歪なフォルム。

叩きつける轟音、炸裂火薬の爆音。金属を貫く、ダマスカスの杭。

パイルバンカーが狂える戦士の右肩を地に縛り付けたのを見届け、戦乙女は飛び退く。

後はオレの仕事だ。
49 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:40:29.82 ID:4su7v4c3O
('A`)「クローズドコンバット…ってか」

スコープから覗く倉庫内の一点。

クレーンから伸びるか細いワイヤーに狙いをつけ、ドラグノフの引き金を引く。

懐かしい衝撃が銃床を伝い肩を震わせ、一発のスズメバチを夜の倉庫に解き放った。

ワイヤーが吊すは二十本に及ぶ鉄骨の束。先にオレが仕掛けた、トドメのブービートラップ。

(#'A`)「美味しいとこどりでサーセン!」

スズメバチが着弾。千切れるワイヤー。戒めを解かれた鉄骨の束は、自由を謳歌するよう地面へと駆け出し。

川д川「!!!!!」

狂戦士の上へと降り注いだ。



50 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:42:04.58 ID:4su7v4c3O
轟音、轟音、轟音。鉄のシャワーが地を打つ耳障りな大音響。

止んだ後、静寂。

長い夜が終わった。

从゚∀从「……」

('A`)「……」

しばらく、オレ達はお互い放心していた。

オレは大団円の余韻に浸り、彼女は磨耗し切った戦術AIを回復させる為に。

やがて、どちらともなくオレ達は鉄骨の降り注いだ地へと足を向ける。

完全にこの夜を終わらせる為、終止符を打つ為。

51 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:44:09.92 ID:4su7v4c3O
从゚∀从「……」

梁から降りて間近に見るハインリッヒの顔は、無表情。どんな経緯があれ、やはり自らの同族に手をかけるという事は、彼女の人工知能にとって好ましい事では無かったのだろうか。

('A`)「これ、退かしてくれや」

言葉少なに命令。彼女は無言で従う。

徐々に取り除かれていく鉄骨。

やがて、鉄骨の下から現れた狂戦士の姿を目の当たりにした時、オレ達は再び言葉を失った。

('A`)「こいつは……」

从゚∀从「……」

右肩を杭に打ち付けられ、逃げる術を失った狂戦士の顔、突き立つは鉄骨の槍。頭部を粉々に砕かれ、完全に機能を停止している筈の彼女の左手はしかし、腹部装甲の真上で一本の鉄骨を握ったままに固まっていた。

('A`)「何故……」

何故、鉄骨を受け止めるだけの余力が残されていながら、彼女は自らの頭部に落ちてきた鉄骨を防がなかったのか。

答えを返すように、圧縮された空気を吐き出す音が倉庫内に響いた。

(;'A`)「なっ……」

AIが機能を停止した事により、彼女の腹部ハッチが開いた音。
53 : ◆cnH487U/EY :2008/10/02(木) 00:45:27.69 ID:4su7v4c3O
あの、脳核を収納するスペース。

「にゃー」

中から這い出してきたのは、どこかで見た事のある白い毛並みの子猫だった。

(;'A`)「まさか……」

ずっと引っかかっていた違和感の正体が、分かった。

昨日、ペットショップでこいつと対峙した後から続いていた違和感。

破壊され尽くしたペットショップの床の上、散らばるキャットフードの存在が違和感だった。

爬虫類しか扱っていないペットショップに何故キャットフードが散らばっていたのか。

あの時示し合わせたように奴が襲撃して来た理由はまさか……。

从゚∀从「…まるで、この猫を守ったようにも見えるな」

ハインリッヒが呟いた言葉が、オレの胸中を代弁した。

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