6 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:06:34.61 ID:NywnfTFcO
trak-β

 ※ ※ ※ ※

━━深呼吸してみる。

('A`)「すぅー……はぁー……」

肺に流れ込んでくる空気は、いつもより数段クリーンだ。

だというのに、何故オレはここまでブルーな気分なのか。

それは、道行く人々に目を向けて貰えれば解る。

ファッション雑誌から切り抜かれたかのような格好の男女。

アベック。カップル。仲の良さげなお友達集団。

彼等が手に持つ紙袋は、メッセサンオーのものでは無い。

ブルガリ、ドルガバ、ナンバーナイン、ステューシー、何それ食えるの。



7 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:07:48.68 ID:NywnfTFcO
('A`)「リア充氏ね」

オレのねぐらから一駅挟んだだけで、街はその様相を激しく変化させた。

ニューソク区、と呼ばれるこの区画はVIPの中でも中流階層…つまりは一般人達が住む至って平凡な区画だ。

お洒落な店があれば、デパートや百貨店、水族館に遊園地。平凡で平和で、それがオレには眩しすぎる。

('A`)「……ふっ。日陰者にここの空気は合わないぜ」

因みにオレが住む区画はニーソク区。VIP中最凶の治安の悪さを誇る掃き溜め区画だ。たった一字違うだけで、治外法権並みのダーティーな世界とはこれいかに。
9 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:09:35.11 ID:NywnfTFcO
で、どうしてまたこんな場所にオレが居るのかというと……。

('A`)「自分探しの旅です」

从゚∀从「アイスうめぇ」

(;'A`)「おいこら!君に食べ物を摂取する機能はついてない!」

从゚∀从「言ってみただけだ。食べてはいない」

お茶目なダッチワイフと二人、街角のオープンカフェにてモーニングティー。

一見、可愛い彼女と休日のニャンニャンタイムに見えるが断じて違う。これはれっきとした仕事だ。

件のアイアンメイデンの捜索の件で、オレ達は完全に行き詰まっていた。



10 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:10:52.20 ID:NywnfTFcO
アノニマスの出どころ探しをブーンに依頼したのはいいものの、正直なところその成果にオレは期待なんかしていない。

軍用アイアンメイデンの電脳核にハッキングを仕掛ける奴が、おいそれと尻尾を見せるなんて思えないからだ。

だから、オレはもう一度依頼人である御大将殿から聞いた事件のあらましを整理する為に、一夜明けた今、このリア充蔓延る午前の喫茶店で頭を捻っているという次第だ。

11 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:12:18.66 ID:NywnfTFcO
('A`)「……ったく、焦らすなよ。後から口の中洗うのはオレなんだぜ」

从゚∀从「胃袋どころか喉も無いのにアイスを食べようなんて愚は犯さないさ」

オレが糖分摂取の為に注文したチョコミントアイスをスプーンでつつきながら、ロボ娘は退屈そうに視線を左右させる。

脳の回転を促すのに、甘いものは最適だ。仕事で行き詰まると、オレは必ずここのスイーツを食べにやってくる。

('A`)「スイーツ探偵ドクオ」

从゚∀从「頭の悪そうな響きだな。スイーツ探偵(笑)ドクオ(苦笑)」



12 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:13:24.39 ID:NywnfTFcO
……。

さて、脱線する前に今までの経緯を纏めていこう。

先ず事の発端は、三日前のマフィア同士の抗争だ。

サイボーグ忍者だとか、得体の知れないものが絡んでいて胡散臭いが、こっちは調べようにも情報が少なすぎる。

重要なのはどの組織同士が争ったのか、という事だ。

あれから一度、御大将に連絡を取って聞いてみたが、解ったのは事件現場とマフィアの一方が中華系のものらしいという事だけ。
14 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:14:59.12 ID:NywnfTFcO
当時の状況を聞くには、こうだ。

一般人から、ニューソク区の埠頭倉庫街で銃の発砲音を聞いたという通報がニューソク所轄所に届く。

それを聞いたニューソク所轄所が、刑事達を向かわせたところ、現場では件のサイボーグ忍者率いるどこの者とも知れぬマフィアらしきゴロツキ達と、中華風の格好をしたゴロツキ達がドンパチやっていたそうだ。

奴らの得物がおしなべてサブマシンガンだった事から、機動隊を呼ぼうかという話になったが、サイボーグ忍者の異常なまでの身のこなしから、生身の人間では対処し切れないと判断。ここで、軍部に連絡がいく。



15 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:18:36.26 ID:NywnfTFcO
連絡をうけたVIP軍は、待機中だった件のアイアンメイデン「IM-17-RH」を起動、至急現場に向かわせた。

果たして現場に駆け付けたアイアンメイデンは、マフィア達をものの見事に武装解除。サイボーグ忍者とハリウッドも真っ青な大立ち回りを演じる。

だが、寸でのところで彼女はトドメを刺せずに相手に逃げられてしまった。同様に、それぞれのマフィア達も鋼鉄処女と機械化忍との戦いの合間に姿を眩ましたとの事。

16 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:20:10.45 ID:NywnfTFcO
捕りもの劇はぐだぐだに終わり、その報告を刑事達がしているところで、誰かがそれに気付いた。

('A`)「あれ?アイアンメイデン、いねんじゃね?」

从゚∀从「ベイビーボーイ。私はこーこに居ーるぅよ」

で、やっこさん方は大慌て。大至急、件の処女の捜索隊を編成……したいのは山々なんだが、そんなものが公になればアイアンメイデンとVIP軍の信頼に傷が付く。

('A`)「だから、やましいことのあるオレらハードボイルド探偵にこの仕事が回ってきた、と」

从゚∀从「スイーツ探偵(笑)ドクオ(苦笑)」

('A`)「……君、まだそのネタ引きずるかね」

18 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:25:49.95 ID:NywnfTFcO
从゚∀从「私の夢はこのフレーズを歴史の教科書に載せる事だ。頑張って有名になれ、スイーツ探偵(笑)」

('A`)「……」

さて、次は捜査の方針だ。

実は、鬱になるのを承知でわざわざニューソク区まででばって来たのには、ちゃんとした他の理由が有る。

先にも触れたが、三日前の事件が起こったのはここニューソク区の埠頭倉庫街。

そして、中華系マフィアの中でニューソク区にシマを持っている組となると、これが結構絞られてくる。

19 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:28:49.18 ID:NywnfTFcO
こんな仕事をしていると、イヤでも「そっち」の知識は入ってくるものだ。

大方、「陳龍」の組と見て間違いない。

('A`)「チンロンって読むんだぜ、この漢字」

从゚∀从「チンコン?えげつない名前だな」

('A`)「言うと思ったぜワンパターン娘」

从゚∀从「いや、“お約束”も時には大事だろう。安心感が違う」

つまりだ。取りあえずの方針として、三日前に抗争を起こしたマフィア達の周辺を洗えば、消えたアイアンメイデンの行方も掴めるんじゃないかって事。
21 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:30:42.94 ID:NywnfTFcO
サイボーグ忍者にマフィア同士の抗争、そしてハッキングされたと思しきアイアンメイデン。これらが無関係だとは思えない。

しかし、だ。「陳龍」となると話はかなり面倒な事になってくる。

ユーラシアが日本の植民地となった際に起こった移民期のゴタゴタに乗じて、奴らはVIPに流れてきた。

で、そのまま当時から七割方治外法権だったニューソク区に本拠を構えて、商売を始めた訳だが……この商売ってもののタチが悪い。

22 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:36:25.46 ID:NywnfTFcO
奴らが主に扱うのは大麻をメインにした麻薬の密輸、売買。

元々、中国全土に根を張っていた奴らは、その莫大な資金を元手に、VIPのあちこちに土地を購入。

その土地で、カタギの商売に見せかけた店舗を営み、そこで麻薬の売買を行っている。

つまりは、クリーンビズに擬態したアンダービズ。

('A`)「だから、そこら辺で迂闊に聞き込みなんか出来ないってわけさ」

从゚∀从「さっきから誰と話してるんですか?」
25 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:40:58.95 ID:NywnfTFcO
('A`)「金の力は強力だ。店舗の中だけじゃなく、外にも奴らの手の者が紛れてる可能性も否めない。パンピーだと思って話しかけたら、事務所に連れて行かれて壷を買わせられるかもしれん」

从゚∀从「セコいマフィアだな、おい」

('A`)「あ、ちゃんと話についてこれてますね」

从゚∀从「全部口にしてたぞ」

(;'A`)「恥ずかしいっー!」

いつからオレの脳味噌は口と直結するようになったんだ?

おいおいやべぇぜ。今のがもし「陳龍」の手の者に聞かれでもしたら……。

26 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:43:34.08 ID:NywnfTFcO
(((;'A`)))「あばばばばば」

从゚∀从「それ、気持ち悪い」

シット。最近どうもモノローグと台詞の区別が出来ていないと思っていたが。

('A`)「よし、訓練だ」

从゚∀从「?」

オレは実は女装趣味があります。

('A`)「聞こえた?」

从゚∀从「気持ち悪いから話しかけないで下さい」

(;'A`)「どっち!?ねぇ、聞こえたの!?聞こえなかったの!?」

从゚∀从「そんな事より、これからどうするんだ?」

('A`)「へ?」

从゚∀从「捜査方針だよ。その“陳龍”とかいうマフィアの周りを洗ってみるのか?どうするんだ?」



27 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:44:53.91 ID:NywnfTFcO
('A`)「んーむ……」

先に言った通り、「陳龍」は金で民間人すら買収している用心深い組織だ。

自分達の事を嗅ぎ回っている輩がいれば、問答無用で口封じに掛かってくるだろう。

まだ、件の中華系マフィアが「陳龍」だという確証は無い。が、中華系マフィアという括りで聞き込みをするだけでも、きっと奴らは動く。

('A`)「あー……畜生。だからマフィア絡みの事件はイヤなんだよ」

28 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:47:53.75 ID:NywnfTFcO
往々にして、個人の力なんてこの現代社会では微々たるものだ。

いくらオレがハインリッヒという強力な隠し玉を持っていたところで、それは変わらない。

大昔のアクションゲームじゃあるまいし、無双乱舞一つで全てが解決する訳がないんだ。

集団に刃向かったツケは、見えない所で静かに確実に返ってくる。

マフィア社会ではまだ中堅どころでしかない「陳龍」ですら、その力はオレには抗い切れない。

奴らなら、オレがこのVIPで暮らしていけなくするだけの力は有るだろう。

('A`)「うわぁ……」

考えただけで、イヤになってきた。



29 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:49:10.19 ID:NywnfTFcO
从゚∀从「なぁ、スイーツ探偵」

('A`)「んだよ。流石にもうそのネタじゃ笑いは取れねぇぞ」

从゚∀从「お前は、本当にアイアンメイデンが暴走すると思うか」

突然、奴が真面目な顔で聞いてくる。いや、基本的にこいつは無表情なんだけど、真剣味が違っていた。

('A`)「あ?だからオレ達はその暴走したアイアンメイデンを……」

从゚∀从「私は、アイアンメイデンが暴走するなんて絶対に有り得ないと思う」

30 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:50:58.11 ID:NywnfTFcO
絶対に。

その言葉が、機械の口から出た言葉とは思えない程に力強かったからか。

(;'A`)「あの……」

オレは、二の句を告げられないでいた。

从゚∀从「私達アイアンメイデンは、創造過程において『主に対しての絶対服従』を一番最初に人工知能に植え付けられる。それは自己の発想や外部知識では絶対に否定する事の出来ない鉄の掟だ」

(;'A`)「え、あ、うん……」

从゚∀从「だから、私達はどんなに知識を蓄えようが、どんなに主の命令が非合理的であろうが、主には絶対に逆らえないんだ。バグなど、もってのほか。この完璧な人工知能には先ず考えられない」
32 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:52:24.62 ID:NywnfTFcO
(;'A`)「は、はぁ……」

从゚∀从「……だから、私はその件のアイアンメイデンが暴走したというのは、間違いなく外部からのハッキングが絡んでいると思う。外部から電脳核を弄らない限り、私達は絶対に主に逆らう事など出来ないのだからな」

(;'A`)「そ、そうでございますか」

圧倒された。

ただ、ただ、圧倒された。

33 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:54:02.63 ID:NywnfTFcO
その鬼気迫るまでの弁舌もさることながら、ハインリッヒの口振りには「アイアンメイデン」としての、自己を……アイデンティティを訴える程の痛烈な叫びが感じられた。

やはり、今回の事件は相当にこいつの人工知能に揺さぶりを与えたみたいだ。

(;'A`)「……で?」

从゚∀从「詰まるところ、何が言いたいのか、と言うことであろうか」

(;'A`)「う、うん」

何だか、次の瞬間にはとって食われそうで、及び腰になってしまう。

从゚∀从「うむ。つまり、だ。先に貴様が言っていたマフィア同士の抗争に戻るのだが……」

('A`)「うんうん」



34 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:56:20.09 ID:NywnfTFcO
从゚∀从「一方はお前の推測によると、“陳龍”だとか言う中華系マフィアである可能性が高いのだろう。まぁ、それは一旦置いておく。
私がここで注目するのは、もう一方のマフィア。サイボーグ忍者が率いていたという、ゴロツキ共についてだ」

('A`)「あー、そっちの方はまだ情報が少なすぎてどう手を付けたらいいのか……」

从゚∀从「まず黙って聞くように」

(;'A`)「……はい」

35 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 21:57:43.92 ID:NywnfTFcO
从゚∀从「マフィアと言えども千差万別だ。金と知恵を使って勢力を広げていく組もあれば、腕っ節の強い輩を集めて殺し合いで勢力を広げていく武闘派も居るだろう」

从゚∀从「そんな中で、組の為に全身を義体化したチンピラなんて言うのは、往々にして限度を知らない。そうだろう?」

('A`)「あぁ、そう言えばお前にもそんな奴が居るって話をしたっけな」

裏社会のツテと金。マフィアにとって最大の武器と言えるそれを有効活用すれば、とんでもない全身義体をこしらえる事が出来るだろう。



36 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:00:07.30 ID:NywnfTFcO
噂によれば、かのシチリア系マフィア「シベリア」のゴッドファーザーの側近には、ロイヤルハントも尻尾を巻いて逃げ出すような全身武器庫の化け物サイボーグが仕えているとか。

从゚∀从「そのサイボーグ忍者が、組のものか雇われ殺し屋かはわからない。だが、そのサイボーグ忍者が出てきた事で、“陳龍”の奴らは大分焦っただろうな。何せ相手はひょっとしたら軍用義体並みのスペックを誇る化け物だ。武力ではまずかなわない」

37 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:01:47.80 ID:NywnfTFcO
('A`)「ふむ……」

从゚∀从「金で丸め込める相手じゃ無い。こっちも同じレベルの義体をこしらえる暇も無い。それじゃあ、そんな化け物義体相手に対抗するにはどうしたらいい?」

('A`)「おい、まさか……」

从゚∀从「初めから完成した義体の持ち主を雇うか……もしくは、それ以上の力を持つ兵器を用意するか」

('A`)「……つまり君は、“陳龍”が縄張り争いの為に軍のアイアンメイデンをハッキングして乗っ取ったと、そう言いたいのか?」

从゚∀从「そう考えると、すっきりする」



38 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:03:03.77 ID:NywnfTFcO
いやいや。

(;'A`)「しないから!ちょっとその考えは無理があるよ!」

从゚∀从「何だ、私の完璧な人工知能が導き出した推論に問題が有ると?いいだろう、言って見ろ」

得意気に鼻を鳴らす彼女には悪いが、その推論は穴だらけだ。

('A`)「……先ず、何故軍用のアイアンメイデンをわざわざハッキングしたのかという事。アイアンメイデンが欲しいなら、普通に業者から買えばいい事だろう。ハッキングなんて危ない橋を渡るより、よっぽど安全かつ確実だ」

39 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:04:55.56 ID:NywnfTFcO
そう。特A級ガイノイドだとか言われているが、開発元は民間の兵器企業だ。

所持に関する煩雑な法律はあるものの、“陳龍”の金とコネがあればそこら辺はどうとでもなりそうだ。

从゚∀从「アイアンメイデンを買うだけの資金が無かった、もしくは所持している事を周囲に知られたく無かったとも考えられる」

('A`)「そうだとしても、件のアイアンメイデンだけをハッキングしたところで、ハッキングしたアイアンメイデンが奴らの抗争に出動するなんて、誰が予測出来る?非現実的だ」



40 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:06:07.93 ID:NywnfTFcO
そうだ。ハッキング出来たとして、そのアイアンメイデンが先の抗争鎮圧に出動するなんて、まず考えられない。

从゚∀从「軍部に内通者が居たとしたら?」

('A`)「……もう止めろ。君の推論は甚だ現実味を欠いている。オレが柄にもなくシリアスになって否定しているんだ。それぐらい分かるだろう」

そうだぞ。こんなに理路整然とした長台詞なんてオレはめったに口にしないんだ。

从゚∀从「……むぅ」
42 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:08:07.19 ID:NywnfTFcO
('A`)「それとも何か、君の同族が暴走したってのがそんなに信じられないか?そんな滅茶苦茶な理論を出してまで、ハッカーのせいにしたいのか?悪いが……」

口に出して、後悔した。

从゚∀从「……」

(;'A`)「あっ……」

言って、タブーだと気付いた。

たとえ彼女に感情が無かったとしても、“アイアンメイデンの暴走”というワードは彼女にとってとてもデリケートなものだというのを、オレは分かっていた筈なのに。

(;'A`)「あ…あの、その……えーと…悪かった」

あぁ、本格的に自己嫌悪。

昔から、議論になると熱くなって周りが見えなくなる。この男性的過ぎる性格、なんとかならんかね。


43 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:10:12.27 ID:NywnfTFcO
从゚∀从「……そうか。そうだな。私が間違っていた。貴様の言うことは正しい」

(;'A`)「えぇと……」

从゚∀从「何より、私達は主に絶対服従だ。私がどうこう言ったところで、最終的な決定権は貴様に有る」

絶対服従。

その言葉が、オレの耳に嫌な余韻を残す。

('A`)「ちょっと待て」

从゚∀从「ん?何だ?私は貴様の決定には異を唱えんぞ。好きなように決めてもらって……」

44 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:11:49.27 ID:NywnfTFcO
絶対服従。

その言葉は、なんだか癪に触る。

('A`)「いや、方針変更だ。君の推論を元に捜査を続行する」

从゚∀从「は?いや、貴様自身がそれは非現実的だと……」

('A`)「五月蝿い、黙れ。ムカつくんだよ、そのフレーズ」

从;゚∀从「え?へ?意味が……」

珍しく動揺の仕草を見せる彼女を、睨みつける。

('A`)「絶対服従だとか、そういうつまらない言葉が気に入らないって言ってんだよ。いいから立て、行くぞ」

从;゚∀从「あの……」

('A`)「ほら、ボサボサすんな。置いてくぞ」



45 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:13:24.27 ID:NywnfTFcO
別に、モラリストを気取っているわけじゃない。

ただ、「可能性」が無いのがつまらないってだけだ。

せっかく、自由発想許容型の人工知能なんだ。彼女の考えた事を否定するのは、実につまらない。

ただ、それだけだ。

('A`)「それに、もとから“陳龍”の周りは洗うつもりだったんだ。別にお前の言いなりってわけじゃない」

从;゚∀从「…しかし、捜査すると言ってもどうするんだ?聞き込みは、貴様の身が危険に晒される可能性が……」

46 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:14:39.35 ID:NywnfTFcO
('A`)「それなら心配するな、策は考えてある」

从;゚∀从「それは本当なのか」

('A`)「……」

从゚∀从「おい」

d('∀`)b「嘘です!」

从゚∀从「なんだ嘘か」

……まぁ、なるようになるさ。

そうやって、フィジカルな方向に逃げる一方で、オレは必死に安全策を考えながら、南中した太陽の下を歩くのだった。

47 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:17:58.21 ID:NywnfTFcO
 ※ ※ ※ ※

━━メロウな曲調のジャズを聞きながら、オレはバーテンにグラスを差し出した。

('A`)「ダブルで」

如何にもバーテン然としたバーテンは、ウォッカを注ぐ。

並々と注がれた琥珀色の液体を眺めていると、ガラにもなく乾杯したい気分になった。

('A`)「……この、酒に」

自らの台詞とジャズに酔いながら、一気に呷る。

(;゚A゚)「げほっ!ぶぶぉっ!ぶぇっ!ぶぃく!ぶぃくっ!」

何だコレ!熱い!熱いなんてもんじゃあねぇ!焼ける!喉が焼ける!
49 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:19:11.68 ID:NywnfTFcO
(;'A`)「……くっ、こんな旨い酒はオレには勿体ねぇ。マスター、カシスオレンジにかえてくれ」

胡散臭げなバーテンの視線から逃れるよう、カウンターに突っ伏する。

……まるで日の光から逃れるようにして地下へと伸びる階段の先、樫材の扉にかかった看板にはこうだ。

「バーボンハウス」。

どこにでもある名前と、西部開拓時代を思わせる内装のここは、やはり日の光を嫌う日陰者達が集まるバーとしてニーソクの片隅に存在している。
51 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:20:39.41 ID:NywnfTFcO
('A`)「……ふぅ。しかし、遅いな。待ち合わせは、確かに7時って言ってた筈なんだが」

カウンターの奥の古めかしい鳩時計は、八時二十分を指していた。

('A`)「待ち人来たらず…か。まぁ、もともと無理な申し出だったからな……」

バーテンが差し出したカシスオレンジに口をつけ、懐を弄る。

店内に人影は三つ。

バーテンとオレと、テーブル席に腰掛けたストローハットの女だけ。

来ないとなったら、長居する理由なんか無い。こういうオサレな空気は、このオレにはちょいとばかしキツい。
55 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:23:19.86 ID:NywnfTFcO
そう思って腰を上げかけた時、乾いたドアベルの音が耳に届いた。

「いやぁ、参ったね。突然降り出すんだもの。もう土砂降りだよ土砂降り」

振り返らずとも分かる。天気予報は雲一つ無い快晴。待ち人さんの、遅れた御来訪だ。

「マスター、いつもの」

慣れた感じで、隣に腰を下ろす男。

声からして、まだ若い。二十代前半、てところか。

('A`)「あぁ、オレも同じのを頼む。で、両方ともオレにつけといてくれ」

予め、設定された台詞を吐く。

これで向こうも、オレが取引相手だと分かっただろう。

56 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:25:45.94 ID:NywnfTFcO
さて、それでは一つお仕事と行きますか。

先ずは先方のお顔でも拝見……。

(-_-)「お、いいのかい?悪いねぇ兄ちゃん」

(;'A`)「あれ?」

隣には、痩せ痩けた頬とろくに手入れされていないと思しき天然無造作ヘアに、ハの字眉毛なもやしっこもといひょうろく玉。

Tシャツをジーンズの中に入れている彼はどう見ても根暗引きこもりニートです本当に有り難うございました。

(;'A`)「あの……」

(-_-)「……で、あ、あんたがうちの組の助っ人に志願したいってぇ人かい?」



57 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:27:00.73 ID:NywnfTFcO
急に声を潜めて話し出したこいつは、本当にあの“陳龍”の構成員なのか?

いや、合い言葉と今の話しぶりからもこいつがオレの待ち人なのに間違いは無いんだが……。

(;'A`)「イメージが……」

凄い……ギャップです。

(-_-)「え?な、何言ってるの?」

(;'A`)「いや、何でも……」

どもってる……。

(-_-)「で、あ、あんたで間違いないのかい?」

(;'A`)「へ?あぁ、うん。間違いないさ。間違いない。間違いない……と思う」

不安だ……。
60 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:28:32.46 ID:NywnfTFcO
(-_-)「……そうか。それにしても助かるぜ。ここんとこ、うちも抗争が耐えなくてね。鉄砲玉が増えるってのは有り難い」

色々と衝撃的な事があったが、取りあえずここでネタ晴らし。

“陳龍”と件のアイアンメイデンとの関係を調査するにあたって、聞き込みではどうしても危険が伴う。

闇討ちだけならまだしも、奴らに刃向かった事が知れたらオレ達はこの街で商売を続けていく事が出来なくなるだろう。

だから、オレは一計を案じた。



61 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:29:34.86 ID:NywnfTFcO
つまりは、“陳龍”の雇われ鉄砲玉として志願する事によって“陳龍”の人間と接触し、アイアンメイデンだとかの情報を引き出すという寸法だ。

バレた時のリスクが大きいとは言え、これなら聞き込みよりも安全、かつ確実に“陳龍”の内部事情を詳しく知ることが出来る。

オレがハインの「可能性」を否定するのが嫌いだというのもあるが、件のアイアンメイデンの手掛かりが無い今、これがオレ達の取れる最善の策と言えよう。

62 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:30:43.37 ID:NywnfTFcO
(-_-)「で、いくらで受けてくれるんだい?」

('A`)「あー……」

報酬の事など考えてもいなかった。

この手の取引に置ける無難な相場はどんなだったかなと考えを巡らせていると、オレ達の前にグラスが置かれた。

(-_-)「……っと。まぁ、そういう固い話はこれを飲んでからでもいいか」

グラスの中には、乳白色の液体。

('A`)「……」

(-_-)「どうした、カルピスは嫌いか?」

カルピス……。

(*-_-)「んぐんぐんぐんぐ……ぷはぁっ!やっぱりここのカルピスは格別だぜぇ!」

大ジョッキに入ったカルピスを喉を鳴らして呑む男。

63 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:32:18.68 ID:NywnfTFcO
こいつは本当にマフィアなのかと、疑念は晴れない。

(-_-)「で?」

('A`)「あ?あぁ、金の事だったな。……まぁ、1ヶ月で7ってとこでどうだ?」

オレの提示した額に、眉をしかめて思案する男。

なんだか、こいつは相場も知らないんじゃないかとすら思えてきた。

(-_-)「んー……まぁ、悪くねぇな。一応断っておくが、その額にお前さんの働きが見合わなかった場合、減額さしてもらうことも有るってのを忘れないでくれよ」

64 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:33:56.91 ID:NywnfTFcO
('A`)「あぁ、承知してる。あんたらをがっかりさせるような事はねぇハズだ」

(-_-)「お、気合い十分ってか!いいねぇ、今の若いもんにはなかなかそういったのはいねぇよ。いやぁ、気に入った」

なんだか、居酒屋のバイトの面接みたいだな。

('A`)「そいつはどうも。……で、本格的な話になる前に一つ聞きたい事が有るんだが」

満を持して、本題に入る。

(-_-)「んあ?」

('A`)「あんたらの組、最近抗争が絶えないって言ってたよな」

(-_-)「あぁ、まぁなぁ。だからお前さんとも今日こうして商談してるわけだ」

66 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:35:19.99 ID:NywnfTFcO
('A`)「だろう?しかし、些か解せない事が一つ有る。どうしてまた、アイアンメイデンなんかが必要なんだ?戦争でも始めるのか?」

オレが奴らを釣る為にぶら下げた餌。

ハインリッヒの、アイアンメイデンの、戦力としての一時的提供。

(-_-)「あー……」

('A`)「ちょいと火力過多な気がするんだが。そこら辺、どうなんだ?」

尋ねるオレに、男はしばらく何か考えるようにグラスを睨んでいたが、意を決したかのように口を開いた。

67 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:37:04.35 ID:NywnfTFcO
(-_-)「これは、本当は外に漏らしちゃなんねぇんだが……あんたは一応、オレらの助っ人だからな。くれぐれも他言無用に頼むぜ」

('A`)「あぁ、勿論だ。あんたらに逆らって蜂の巣にされるなんてごめんだからな」

(-_-)「……つい最近のことだ。オレらのシマで、ショバダイも収めねぇでヤクをさばいている奴らが現れた」

(-_-)「初めは、ちょいと脅かすつもりだったんだろう。ドン…ニダーさんは、そいつらの元に五、六人ばかし鉄砲玉を送り込んだ。ちょいと痛めつけてやれってな感じでな」



68 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:38:11.77 ID:NywnfTFcO
(-_-)「だが、そいつらは棺桶に入って戻ってきた。あぁ、文字通り棺桶に入れられて、オレらの下に送られてきたのさ」

(-_-)「そいつらは…死んだ鉄砲玉は、うちの組織の中でも古参中の古参、何度も修羅場を潜ってきた奴らだった。義体相手にも引けを取らない、手錬だ。
そんな奴らが五人も揃って返り討ちだ……ニダーさんも、黙っちゃいなかった」

(-_-)「送られてきた棺には、手紙が添えられていた。たった一言、“家畜は狼に狩られる運命”ってな」
70 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:39:39.86 ID:NywnfTFcO
(-_-)「……“オオカミ”。最近、ストリートから腕っ節だけでのし上がってきた、日系ヤクザってのがオレ達にわかる奴らの情報の全てだ」

(-_-)「そいつらは、その事件を皮切りにオレ達のシマを次々と荒らし始めた。宣戦布告ってわけだ。オレ達も、奴らの事務所に殴り込みに行ったんだが……」

そこで男は言葉を切ると、ふいに黙り込んでしまった。

見れば、額にはたまのような汗が浮いている。

その時の光景を思い出しているのだろうか。

('A`)「……それで?」

(;-_-)「……」



71 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:41:08.19 ID:NywnfTFcO
促すオレにも、男の口の閂は上がらない。

よっぽど恐ろしい目に遭ったのか。

グラスを見つめ、ためらい、やがてそれを一気に空けると、やっとの思いで彼は重々しく閂を上げた。

(;-_-)「……二十人だ。チャカを持った鉄砲玉が二十人、たった一人の義体野郎に、皆殺しにされた」

(;'A`)「たった一人の義体に…?」

全身義体と言っても様々だが、戦闘を考慮した上で尚且つ人型を留めて作られた全身義体の戦力は、大体サブマシンガンで武装した兵士三人分くらいだと聞く。

72 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:42:44.51 ID:NywnfTFcO
随分とおおざっぱで適当な比較だし、こんなのが当てにならないのは明確だが、実際問題義体の戦闘力はそんなに大きなものではない。

先に述べた一騎当千並みの義体というのは、莫大な金と人間としての尊厳を割いて作られた、まさに戦闘機械の事を言うのだ。

人としての外見を維持した上で作られた義体では、火力や運動力などたかが知れている。

(;-_-)「あぁ。たった一人の…しかも、ひとふりの日本刀を持っただけの奴にだ。……あれは、人間じゃねぇ。化け物だ。ありゃ、化け物だよ……」

(;'A`)「日本刀だと…?」

74 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:45:31.54 ID:NywnfTFcO
日本刀。全身義体。二つのワードが、頭の中でもう一つのワードと結びついた。

(;'A`)「もしかしてその全身義体の野郎ってのは、こないだあんたんとこの組とドンパチやったって言う……」

(;-_-)「あぁ。お察しの通りさ。“黒狼”のギコ。奴らお抱えの、殺し屋だ」

なる程。事件の形が、うっすらとではあるが見えてきた気がする。

(;-_-)「……あいつの腕は最早人間業じゃねぇ。あいつの相手は人間じゃ務まらねぇ。だから、あんたらのアイアンメイデンが必要なんだよ!」

75 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:47:17.74 ID:NywnfTFcO
哀願するように、男がオレの裾を掴む。

極道の者にあるまじき男の態度に、いよいよサイボーグ忍者改め“黒狼”のギコとやらの恐ろしさが伺えた。

だが、今重要なのはそんな事ではない。

('A`)「……あぁ、出来るだけの事はする。だが、先ずはオレの質問に答えてくれ。この前、あんたらとそのオオカミの奴らがやり合った時に、一機の軍用アイアンメイデンがその場に駆け付けただろ?」

(-_-)「あ?あぁ、らしいな。それがどうしたんだ?」

らしい?という事は……。


77 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:49:37.28 ID:NywnfTFcO
('A`)「あれは、あんたらが“黒狼”に対抗する為に軍部にハッキングをかけて乗っ取ったものだって、噂になっててな」

(-_-)「はぁ?そんな噂が立ってんのか?いや、オレは何も……」

そこまで言って、男の言葉が止まる。

('A`)「?」

どうした?言う前に、オレの目前のグラスが弾けた。

(;-_-)「ひっ!?」

次いで、悲鳴を上げた男の頭が柘榴のように割れた。

(;'A`)「な、なん……」

何が起こった。

考えを巡らす前にも、本能が頭を下げろと警告した。

78 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:51:29.36 ID:NywnfTFcO
(;'A`)「くそっ!」

椅子から転げ落ち、カウンターの下に潜り込む。

瞬間、豪雨の如き銃声の嵐が「バーボンハウス」内に響き渡った。

(;'A`)「何だ?一体何が起こった!?」

店内に目を走らせる。

戸口にボアのついたレザーコートを着た男が一人。

手にはヘビーマシンガン。

現在絶賛乱射中。

銃弾の豪雨は、西部開拓時代風の店内にある備品を無差別に穿つ。

隣を見れば、既に鬼籍に入ったオレの取引相手。

鋭利な刃物で頭を唐竹割りされた彼の、被疑者を探す。

80 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:53:10.92 ID:NywnfTFcO
そう。襲撃者は少なく見て二人。

入り口の機銃男と、隣のゴロツキを殺った奴。

刃物を持って潜伏中だと思われるが、一体何処へ?

「ここだ」

姿無き声に耳を傾ける事コンマ01秒。

傾けた耳の二ミリ横を、颶風が駆け抜けた。

(;'A`)「うわぁぁあ!スリル満点ってレベルじゃねぇぞ馬鹿!」

座席の下を転がり、蜂の巣となったテーブル席のその下へ移住。

相手を見定める。

(;'A`)「見え…ない…?」

昔見たSF映画に、そんなエイリアンがいたっけな。
82 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:54:58.83 ID:NywnfTFcO
不可視の補食者。

確か、光学迷彩を纏っていて……。

('A`)「プレデ……」

「お喋りしてる暇は無いぞ」

目前に振りおろされた、日本刀の腹。

(;'A`)「こいつは……」

追い打ちをかけるように頭髪を掠める、銃弾。

(;'A`)「ヘヴィだぜ……」

コートの懐を弄る。

メンテナンスを怠っていて動くかどうかすら怪しい、このデザートイーグルでは心許ない。

だが。

('A`)「ハイン、サボってないで仕事しろ」

かの姫君ならば、なんとかなる筈。

「んん?」


84 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:56:27.53 ID:NywnfTFcO
刹那━━。

爆発音と共に機銃男の胸から薔薇が咲き。

从゚∀从「時間外手当ては弾めよな」

今まで沈黙を守り続けていたストローハットの女が、重い腰を上げた。

「……仲間、か」

彼女の右手の装甲、肉の質感を備えた特殊カーボネイドの皮膚が捲れた中から覗くのは、格納式ショットガン。

暗器を携えた鋼鉄の処女の乱入に、日本刀の主の気配が飛び退く。

散弾は狂犬の如くそれを追い、足元の床に噛み付いた。

85 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 22:58:13.98 ID:NywnfTFcO
「……やれやれ、光学迷彩もお見通しか。難儀だな」

見れば、宙に浮いた日本刀と腕からショットガンを生やしたワンピースの少女が対峙している奇妙な光景。

从゚∀从「視力はいい方なんだ」

右手を日本刀へ向ける処女。

銃口が吐き出す狂犬の牙。

そして踊る日本刀。

美しき輪舞の果てに、狂犬はその牙を全てへし折られていた。

从゚∀从「……なんとまぁ」

(;'A`)「人間業じゃねぇよ……」

散弾を剣で全て弾くなんて芸当、漫画の中だけだと思っていたよママン。

88 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:00:02.29 ID:NywnfTFcO
「飛び道具に頼るなぞ、貴様が二流の証だ」

姿無き日本刀の主は吐き捨てた。

「一流ならば……」

ふと、日本刀が主にならいその形を隠す。

「得物は手から離さぬ事だ!」

その姿を追ったオレの視線の先、処女の右腕に噛みつく刃があった。

(;'A`)「迷彩じゃ……無い?」

黙視不可能なまでの速度。その一撃は、その一言に尽きた。

从゚∀从「なら、私は一流だな。得物は手から離れてない」

刃と鍔競る彼女の右腕。

ギチギチと、金属同士がこすれる不協和音。
90 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:01:44.59 ID:NywnfTFcO
「ふん、屁理屈を」

从゚∀从「そっちこそ、一流なら姿を表したらどうだ」

余裕の両者。なる程これは、人外同士の殺し合い。

「……それも最もだな。決闘において相手と対峙せぬのは礼儀に反する。良かろう。光学迷彩は解く。だが…」

日本刀に、力がこもる。

それを知覚した瞬間には、少女の右手が宙を舞っていた。

「それは貴様も同じ土俵の上に立った後だ」

从;゚∀从「ぐっ!?」

千切れた右腕の裾から、無色の潤滑油が噴き出す。

「そういう訳で、貴様のその不躾な右腕は貰うぞ。一流ならば、こんなものハンデにも入らんだろう?」

92 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:03:12.21 ID:NywnfTFcO
失った右腕には構わず、少女は日本刀から距離を取る。

小さく素早いバックステップ。

その背が、壁についた。

从;゚∀从「……」

「……さて。これでお互い、正々堂々と闘える訳だ。では、俺も姿を見せるとしよう」

かちり、とスイッチを切る音。

同時、ゆっくりと日本刀の主の姿が浮き出てくる。
95 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:05:20.16 ID:NywnfTFcO
浅黒い肌に無精髭。精悍な顔立ちは、まるで武人のよう。

その全身を強化外骨格の硬質な鎧で覆った彼は、刀についた潤滑油を振り払い名乗りを上げた。

(,,゚Д゚)「“黒狼”のギコ。貴様に尋常な決闘を挑む」

その名に、オレの背筋に薄ら寒いものが走る。

(;'A`)「“黒狼”だと!?」

目の前の男が、二十人の鉄砲玉を一人で皆殺しにし、件のアイアンメイデンと互角に渡り合った“黒狼”。

現代の鬼神とも呼べる男との会合における畏怖。

その畏怖の源泉、不可解な事が一つ。

(;'A`)「こいつ……日本刀で、ハインの腕を斬ったよな」



96 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:06:49.02 ID:NywnfTFcO
特殊カーボネイド。それが、鋼鉄の処女の全身を覆う鉄壁の鎧の名。

一見して人の肌となんら変わらない表層面。その下、皮一枚隔てた装甲部は7ミリグレネードの直撃にすら耐える頑強さだ。

奴がどれほど神がかった業の持ち主だろうと、それを日本刀のひとふりで切り落とせる筈は無い。

それ以前に日本刀なんてものは、甚だ非実戦的な代物だ。

人一人を切っただけで血糊が切れ味を劣悪なものとし、あっという間に使いものにならなくなる。

97 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:08:31.11 ID:NywnfTFcO
奴がわざわざ日本刀なんてものを得物に選ぶ理由が分からない。

(;'A`)「いや、もしかしたら……」

それとも、あの日本刀はただの日本刀では無いのか?

例えば、何か特別な仕掛けがついた……。

从゚∀从「決闘、か。人間というものは、とかく形式的なものに拘るのだな。甚だ合理性を欠いている。理解はしているが、納得はしない」

少女の残った左腕の装甲が開き、ダマスカス製の刃が飛び出る。

日本刀相手ならば、これで事足りると彼女は思ったのだろうか。

駄目だ。それはいけない。

ダマスカスは特殊カーボネイドよりかは硬い。
100 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:10:32.03 ID:NywnfTFcO
硬いが、それ以前にあの日本刀からは何か嫌な予感めいたものを感じる。

あの日本刀には、何かが隠されている。

教えなければ。教えなければ。それを教えなければ、彼女に取り返しのつかない事が起こる。

(;'A`)「ハイン待て!そいつの刀は……」

伝えなければ。この予感を、伝えなければ。
102 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:12:33.33 ID:NywnfTFcO
从゚∀从「納得はしないが、許容しよう。それが、私の役目だ」

地を蹴る鋼鉄の処女。

ぶつかる剣と刀。

始まる死合。

届かぬ言葉。

(,,゚Д゚)「見たところ貴様はヒトでは無いな。…かといって、全身義体でも無い。アイアンメイデンか?」

袈裟切りの一撃。いなす刃はダマスカス。返す刀で斬り払う日本刀。受ける刃はダマスカス。

从゚∀从「だとしたら何だと言うのだ。ガイノイド相手では不満か?」

反撃に転じるダマスカス。突き、切り上げ、薙ぎ。

ひらり、ひらりと舞いかわす、武人の動きの華麗な様。



103 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:13:52.03 ID:NywnfTFcO
(,,゚Д゚)「いいや、不満なぞあるものか。むしろ貴様と斬り結ぶ事こそは行幸。貴様らを打ち倒す事こそ、我が本懐!」

刃と刃のぶつかり合い。突風の如き剣戟の舞いは、あまりに超越的で、最早、人の領域を逸脱していた。

(,,゚Д゚)「人を超える事こそ我が使命!行くぞカラクリ!受けてみよ、我が剣撃!」

大上段に構える、日本刀。必殺の一撃が、来る。

从゚∀从「カラクリ?あまり舐めるなよ、成り損ない!」

対する処女は、受けの構え。
105 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:15:22.53 ID:NywnfTFcO
駄目だ。それを受けてはいけない。

本能的な予感が、再び警告する。

その一撃は、受けてはいけない。

(;'A`)「ハイン!かわせ!」

(,,゚Д゚)「覚悟っ!」

消える、黒狼。

走る、颶風。

響く、鋼鉄の絶叫。

(;'A`)「ハイィィイン!」


108 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:19:34.85 ID:NywnfTFcO
(,,゚Д゚)「……」

从゚∀从「……」

処女が握るは、光の刃。レーザーブレードと呼ばれる、携行型光学剣。

いつの間に抜いたのか。光の刃は、黒狼の振るった刀の腹を、鮮やかに両断していた。

(;'A`)「あ…あ……」

从゚∀从「どれだけ切れ味が良かったのかは知らんが……流石にレーザーブレードを断つ事は出来なかったみたいだな」

牙を折られた黒狼に、トドメとばかりに処女は光刃を振るう。

黒狼はしかしその一撃を後退で避けると、つまらなそうに鼻を鳴らした。

(,,゚Д゚)「……ふん。得物を二つ以上持つなど…興が削がれたぞ。俺は帰らせてもらう」

111 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:23:50.73 ID:NywnfTFcO
(,,゚Д゚)「安心しろ。貴様らにもう興味は無い。二度と相見えることは無いだろう」

言うが否か、黒狼の姿がかき消える。

光学迷彩を起動したのか、それとも超人的速度で撤退したのか。

とにもかくにも、嵐は過ぎた。

(;'A`)「…ちぇっ、負け惜しみを。“黒狼”とか言ってるが、ただの負け犬じゃねぇか」

抜けていた腰が収まったので、いつもの減らず口を叩いてみる。

('A`)「ったく。ムカつくぜ。武人気取りが、こんなに派手に暴れてくれちゃってよぉー」

狼の牙に蹂躙されたバーボンハウスの中は、酷い有り様だ。

動くもの無き酒場に、しばしオレ達は立ち尽くす。

从゚∀从「……」

('A`)「……」
113 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:25:28.13 ID:NywnfTFcO
結局、件のアイアンメイデンと“陳龍”は無関係だったと判明。

捜査は白紙に戻された。

('A`)「あーあ、骨折り損の儲け無しかよ。つうか収支マイナスじゃん。もう最悪」

ハインリッヒは腕をもがれ、有用な情報も無し。なんだか泣けてきた。

从゚∀从「…まぁ、そう悲観するな」

('A`)「どうしたら楽観的になれるんだよ、この状況で」

溜め息が止まらない。

そんなオレの肩を叩き、鬼子母神が微笑んだ。

从゚∀从「少なくとも、私は嬉しかったぞ。貴様が、私の意見を取り入れてくれたという面ではな」


115 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:27:05.21 ID:NywnfTFcO
(*'A`)「なっ……」

その笑顔が、あまりにも……その…可愛いくて。

所詮、機械の合理的損得勘定から導き出された表情だと知っていても、胸キュンしてしまった訳で。

(*'A`)「う、うるせい」

照れ隠しにそっぽを向くオレだった。

从゚∀从「……」

そんなオレに少女はふっと笑うと、オレの肩を掴む手に力を込める。

从゚∀从「それはともかく、早くずらかるぞ。“陳龍”の奴らがこの有り様を見たら、どうなるだろうな」

('A`)「あ」

忘れてました。



116 名前: ◆cnH487U/EY :2008/09/26(金) 23:28:15.81 ID:NywnfTFcO
从゚∀从「私の肩に掴まれ。飛ばすぞ!」

無理矢理、背負われるオレ。

(;'A`)「あんっ!ちょっ!らめぇぇえ!」

目まぐるしい一日の最後は、やはり目まぐるしいままに終わりを告げるのか。

遠耳に響くサイレンの音に、今はただ、安息の日々を願わずにはいられない。

(;'A`)「豚箱はらめぇぇえ!」



next truck coming soon...

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