263 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:25:25 ID:DGEbOzk.0

Track-β


――明りの落とされた駅のホームで、気がつけばギコは一人で錆ついた地下リニアの車体を前にぼんやりと佇んでいた。
高感度センサーを内蔵した視覚野の中で、空気中の微細な埃がまるで海中の雪のようにして、きらきらと舞っている。
警告灯の赤いLEDランプだけが灯るリニアの車内に目を向ければ、輪郭のはっきりしない、
黒い人影達が、おしのように黙って座席に腰掛けているのが分った。

( ∵)「………」

ちらほらと見えるその人影達の顔には、表情の無い白い仮面。
お互いに喋るでもなく、黙して座している彼らの眼は、皆一様にギコへと向けられている。
無面目に空いた黒い穴のようなその目からは、表情を窺うことは出来ない。
ギコは彼らの視線を一身に受けながら、その黒い穴の群れをぼんやりと見つめ返した。

ミ,,゚Д゚彡「どうした、乗らないのか?」

何時の間にか、傍らに立っていた義理の兄が、シケモクを消しながら言った。
ギコは束の間傍らの兄を見、それから再びリニアの車内に目を戻した。

(,,゚Д゚)「――どうだろうな。特等席はもう取ってあるんだろうが…さて……」

考えるでもなく、ぼんやりと車体を眺めるギコ。
脇から伸びてきたフサギコの手が、「綺羅星」を差し出す。
ギコが受け取りそれを咥えると、義理の兄はジッポで火をつけた。
264 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:27:31 ID:DGEbOzk.0
ミ,,゚Д゚彡「シケモクで悪いな」

(,,゚Д゚)y-~「俺には味なんざ分らんさ」

ミ,,゚Д゚彡「そう言えば、お前はヤニよりコッチだったか」

言いながら、フサギコは冗談めかして首筋に注射器をあてる仕草をする。
鼻で笑って、ギコはそれに応えた。

ミ,,゚Д゚彡「シィは、最近どうだ?」

表情の無い顔で、フサギコが言った。
紫煙をくゆらせて、ギコは押し黙った。
警告灯の赤いLEDランプが、じわりとした光で、ホームの中を照らしていた。
ギコは、風の無い麦畑のような車内の人影達を、じっと睨みつける。
仮面に空いた黒い穴の群れは、変わらず、こちらを見つめていた。

(,,゚Д゚)y-~「シィは、元気なものさ。相変わらず、車椅子だがな」

小さく呟くように言いながら、ギコは煙草を口から離す。
どんよりとした紫煙が、半開きにした口の間から漏れだす。
トンネルの向うから、何かが近づいてくる気配が、彼にはぼんやりと感じられた。

ミ,,゚Д゚彡「……そうか」

黒い、渦巻きのようなものだ。それは。
ギコは、何となく見当がついていた。そう。黒くて、大きい、渦巻き。
そんな風なイメージが、ギコの頭の中にはあった。

265 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:28:27 ID:DGEbOzk.0
ミ,,゚Д゚彡「お前は、タフだよ。タフな奴だよ」

地下鉄のホームが、地響きと共に揺れる。
穴の奥から、黒い渦巻きが近づいてくる。

ミ,,゚Д゚彡「だからお前は――」

義理の兄が何かを言おうとする。
同時、黒い奔流が地下トンネルの暗い穴からどっとあふれ出し、ホームを埋め尽くした。
コールタールめいて粘つく黒い大海嘯のうねりは、リニアの車体を押し流し、義理の兄の身体を飲み込む。

(,,゚Д゚)「……」

ごぼごぼと音を立てて沈んで行くそれらを、ギコは眠たげな眼差しでぼんやりと眺めていた。

266 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:30:01 ID:DGEbOzk.0

  ※ ※ ※ ※

――眼を覚ましたギコが最初に感じたのは、自分の身体への耐えがたいまでの違和感だった。

(´・ω・`)「おや、お目覚めかな」

横合いから掛けられた声に、首を捻る。
ワイシャツの袖を捲った、しょぼくれ眉の優男が、傍らに立っていた。
彼の背後には、罅割れ染みの浮いたコンクリートの壁と、錆ついた鉄扉が見えた。

(´・ω・`)「目覚めの挨拶の前に、先ずはクーにお礼を言いたまえ。
      彼女が駆け付けなかったら、君はサイバーテクノをBGMにしてヴァルハラに迎えられる所だったんだからね」

冗談めかして言って、優男は自分の右側を親指で示す。
親指の先、三台もの情報端末(ターミナル)と十数本のケーブルで有線直結した女が、俯けていた顔を上げた。

川 ゚ー゚)「困った時はお互い様、と言いますから。お気になさらないで下さい」

黒のゴシック・ドレスを纏った女の顔は、同色の帽子から垂れる黒いレースのヴェールで覆われている。
繻子のような黒髪と、陶磁器のような白い肌、その中で葡萄酒よりも濃い紅の双眸が、
レースのヴェール越しに気品のある輝きを浮かべてギコを見つめていた。

267 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:31:28 ID:DGEbOzk.0
(´・ω・`)「――さて、とは言ってみても、先ずは僕が謝らなければならない所なんだけど……。
      何しろ、クーが駆け付けた時点で、大分ゴアな事になってたらしいからね」

川 ゚ー゚)「童謡のビスケット、一歩手前って所でしたからね」

口元を隠し、くすくすと笑うクー。

(´・ω・`)「勝手な事だとは分っていたけれど、それどころじゃなかったんだ。むしろ、脳核だけでも無事だったのが奇跡みたいなものさ」

ゆっくりと身を起こし、ギコは自分の右手を見つめる。
悪魔の鉤爪めいて刺々しい黒のシルエットが、視覚野に飛び込んできた。
視線を右手から外し、胸元からつま先へと滑らせる。
昆虫と爬虫類と悪魔の混血染みて、禍々しく節くれだった黒い外骨格は、市場で見かける事の無いデザインだった。

(´・ω・`)「内骨格から人工筋肉まで総入れ替えとなれば、当然パーツも足りなくなってくる。
      あり合わせのものを使わせてもらった事については、勘弁してほしいとしか言えないね」

川 ゚ー゚)「それについては、マスターのハンドメイドは、二流の市販品よりもよっぽど信頼性が高いので不自由は無いかと」

施術台から降りて、ギコは優男へと向き直る。
クール言葉通り、以前の強化外骨格に比べて、動作周りや運動出力は遥かに上回っているようだった。感覚で、ギコにはそれがわかった。

268 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:33:27 ID:DGEbOzk.0
(´・ω・`)「……それで、これが問題なんだけれど、落ちついてよく聴いて欲しい」

そこで一旦言葉を切ると、優男はゆっくりと瞬きをする。

(´・ω・`)「君の新しい身体と、脳核についての非常に重要な話だ」

269 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:35:02 ID:DGEbOzk.0

  ※ ※ ※ ※

――白熱する蒼の稲光。
豪雨の中、衝突する二つの影。

(*゚∀メ)「ギィィィイイィィイコォォオオォォオ!」

<ヽ8w8>「――」

世界の時が一瞬鈍化したような、その瞬間。
鈍い衝突音と共に、時が動き出す。

(*゚∀メ)「ゲブッ――」

魔獣の如きバイク。そのホーン。
前輪から突き出した二本の角の片方。
よろけながらも前に踏み出したツーの身体が、衝突と共に悪魔の角に突き上げられるように、宙を舞っていた。

<ヽ8w8>「――……」

刹那の交錯。そのまま突き進むモンスターマシン。
宙で弧を描く赤黒の血飛沫。
強化タングステン製ダブルホーンで抉られたツーの脇腹。
臓物が零れるそこから、赤黒の触手の群れがヒュドラめいて飛び出し、バイク上のペイルライダーへと殺到する。

270 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:35:49 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「ヘヒャヒャヒャヒャ!熱烈なキスだねえ!最高だ!今のは最高にイッた!」

アスファルトの端。
円弧を描いて旋回するモンスターマシン。
鎌首をもたげた触手の群れは、規格外のバイクの巨大な胴部に絡みついた。

(*゚∀メ)「今度はアタシからもキスをさせておくれよ!飛びきり熱いヤツをよぉぉおお!」

真っ赤な口を裂けんばかりに開いて哄笑するツー。
その身体が、巻き上げワイヤーの要領で触手に引かれてモンスターマシンに急接近する。

<ヽ8w8>「――」

右手の日本刀状の振動ブレードで触手を切り落とすペイルライダー。
一本、二本、三本。
薙ぎ払う度に彼の腕を伝わる感触は、金属を叩き切る時のそれだ。

(*゚∀メ)「アヒャヒャヒャヒャ!ちゃぁあんと抱きとめておくれよぉぉおお!」

四本、五本、六本。
切りはらう度、新たに伸び来り絡みつく触手。
急接近するツーの身体。
間に合わない。

271 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:36:30 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「ダァァアイビィィインッ!」

<ヽ8w8>「……――」

腕を振りかぶる空中のツー。
赤黒くささくれ立った籠手を形成する血液。
ペイルライダーは、車体を蹴り、急激にモンスターマシンを傾ける。
摩擦熱で蒸発する雨粒。跳ねる火花。ドリフトターン。

(;*゚∀メ)「ニャニャニャ!?」

無茶な慣性で、ツーの身体はペイルライダーの頭上を飛び越して矢弾のように滑空飛行。
派手な水しぶきと血飛沫をまき散らし、アスファルトの上に叩きつけられた。

<ヽ8w8>「……」

エグゾースト音の尾を引いて、距離を離すモンスターマシン。
滅茶苦茶なマニューバにも、魔獣の唸りに変わった所は見られない。

(´・ω・`)『――計らずとも第二の生を歩む事となってしまった君に、僕からのささやかなバースディプレゼントだ』

ベヒーモス。
S&Kインダストリーの軍用バイク「タウロスLLL」のフレームを基礎として、「ショボン」と自分を名乗ったあの男が独自の改造を施したそれは、世界に二つとないワンオフ製。
バイクの規格を大きく逸脱する、総排気量10000ccの大容量エンジン。
軍用装甲車の装甲板をそのまま流用することで実現した驚異のタフネス。
強化タングステン製のダブルホーンが示す通り、このバイクは通常走行を目的としたものでは決してない。

272 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:38:01 ID:DGEbOzk.0
(´・ω・`)『たとえば君が、環状ハイウェイを走っている時に、目の前のキャデラックのちんたらした走りに苛立ちを覚えたとする。
      ベヒーモスは、そんな君の苛立ちを、一瞬にして解消してくれる素晴らしい性能を秘めている』

(´・ω・`)『この地獄の魔獣に掛れば、もう渋滞に悩まされる事も無い。
     君はただ、ハンドルを真っ直ぐに保ったまま、ベヒーモスを前進させればいい。
     それだけで万事が解決さ。煩わしい車線変更も何も必要ない。どうだい、画期的だろう?』

したり顔で言った後、下手くそなウィンクをして見せた優男の顔を思い出しながら、ペイルライダーは車体をターンさせる。
進行方向の先、アスファルトの上ではツーが再び立ち上がろうとしていた。

(´・ω・`)『陸の覇者、ベヒーモスの歩みを止める事は何人たりとも出来やしない。
      地鳴りと共に、地を制覇する…まさにこいつは、巨獣そのものだよ』

スロットルを全開。
工事用重機の如く、四本のマフラーから吐き出される黒煙。
アスファルトを焦げ付かせ、再び突進を開始する陸の巨獣、ベヒーモス。

幽鬼染みて覚束ない足取りでツーが立ちあがる。
狂った色彩のその瞳が、仄暗い愉悦の表情を湛えて歪んだ。

273 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:38:46 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「随分とカッチョいいバイクだけどさあ…そろそろ降りてきて欲しいっていうか――」

臓物を腹からぶら下げたその足元が、にわかに泡立ち始める。

(*゚∀メ)「アタシを抱き締めて欲しいって言うかァッ――!?」

相前後。
血の池から、多頭龍めいた血の触手が立ち上り、鎌首をもたげるや、突進するベヒーモスに殺到した。

(*゚∀メ)「抱きしめてくれないなら、アタシから抱きついちゃおうってねぇえええ!」

曲線、直線、様々な軌道を描く血の触手。
一つ一つが鋭い切っ先を持ったそれは、まさに赤黒の槍の集中豪雨。

<ヽ8w8>「――!」

ハンドルを握る悪魔の籠手が、小刻みに動く。
上、横、斜め前、正面、全方位から迫りくる血槍の嵐の中を、ベヒーモスの巨大な車体はまるで縫うようにして滑らかに突っ切っていく。
さながらその様子は、矢が降り注ぐ戦場を駆け抜ける、一騎の黒騎士のようでもあった。

(*゚∀メ)「アヒャヒャヒャヒャ!避ける避けるゥ!ヒャヒャヒャ!なになに!?照れてるの!?照れてるのォ!?」

274 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:40:09 ID:DGEbOzk.0
疾駆する魔獣。
狂笑する魔性。
牙持つ魔獣が、餌食を前にして上げるエグゾースト音の咆哮。
けしかけた多頭龍をいなされたツーが、前屈の形に身を折り曲げて、血の池に両手を浸し――。

(*゚∀メ)「それじゃあこれは――」

バネのように身を起こし、両手を振り上げた。

(*゚∀メ)「どうっかなあ!?」

爆発する血の池。
溢れだす赤黒の奔流。
ミクロの大津波となった血液の超質量が、地を駆けるベヒーモスを押しつぶそうと迫る。

<ヽ8w8>「――!?」

右?左?否、否、否。ハンドリングでかわせる規模のそれでは無い。
ブレーキ?否、否、否。その行動に意味は無い。
回避不能?否、否、否。
シートの上で立ち上がり、人工筋肉の稼働率を140%でオーバードライブ。
黒い強化外骨格の下で、はち切れそうな程に膨らんだ筋肉を解き放ち、ペイルライダーは飛びあがった。

275 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:41:13 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「――あん?」

陸のベヒーモスを止めるのは、海のレビアタンか。
赤黒の大海嘯が、ベヒーモスの黒く禍々しいシルエットを飲み込む。

ベヒーモスの突進の勢いをも乗せて跳躍したペイルライダー。
血の大波の上、日本刀を上段に構えた彼は急降下。
稲光を背負って強襲するは、狂える女のその眉間。

<ヽ8w8>「――――――!」

(*゚∀メ)「はあああああ!?」

大波を発生させたままの姿勢から、ツーは更に仰け反って両腕を広げる。
血だら真っ赤なその顔に浮かぶのは、恋人を前にした乙女の至福の笑み。

(*゚∀メ)「ギコ!ギコ!ギコ!やった!やった!やっと来た!やっと来たああああ!」

大津波を作りだす為に殆んどの血液を注ぎこんでしまっている為、彼女を守る赤黒の触手は最早皆無だ。
それでも彼女は焦燥するどころか、極上の笑みを浮かべて天を仰ぐ。
愛しの君が、やっと自分の腕の中に飛び込んでくる。その事実だけがあれば、ツーにとって他は全てどうでもよかった。

<ヽ8w8>「……」

対する空中のペイルライダーは、この化け物を前に何を思うのか。
黒い悪魔染みた強化外骨格のヘッドピースの髑髏は、硬質な輝きを稲光に反射させるだけだ。
277 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:44:47 ID:DGEbOzk.0
(*゚∀メ)「来て!来て!来てえええ!」

<ヽ8w8>「――――」

狂笑と鋼が、交錯する。
血に塗れた包帯だらけの肩口に、日本刀の刃が食い込む。
生白い細腕が、ペイルライダーを受け止める。
強化外骨格の全体重を乗せた一撃が、袈裟掛けにツーの身体を切り裂く。
装甲と生肌が触れ合い、ツーがペイルライダーの背中に腕を回す。
ボンテージ衣装の腰から、振動ブレードの刃が抜ける。

(*゚∀メ)「やっと、捕まえた――」

恍惚とした表情で、ツーが溜息をつく。
青ざめた唇の端から、どす黒い血の筋が垂れる。
一拍遅れて、その下半身がアスファルトの上に崩れ落ちた。

(* ∀メ)「もう、離さないんだから――」

胴から下を失ったツー。
左の腕だけで、ペイルライダーにしがみ付く彼女の口が、勢い良く開く。

(*゚∀メ)「もう離さないんだからあああああ!」

咆哮。直後、刹那のうちに彼女の口内に血で形作られた猛獣の牙が生え揃った。

<ヽ8w8>「――――!?」

278 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:46:50 ID:DGEbOzk.0
臓物と金属骨格を傷口からぶら下げた上半身だけのツー。
血の斑にそまったプラチナブロンドのハーフドレッドを振り乱し、彼女は顎の関節を引きちぎって口蓋を開く。

(*゚∀メ)「誓いのキスをををををを!」

狙うのは、ペイルライダーの顔面、牙が剥き出しの口めいた顎部装甲。
頬の肉が裂けた猛獣の口が迫る。
完全な肉迫状態。日本刀を振り抜いたままのペイルライダーでは間に合わない。

牙が伸びる。白と黒の双眸が愉悦に歪む。
ペイルライダーが上半身を捻る。生白い腕の拘束は解けない。

赤黒い牙が、噛みつく。
濁った血を啜り、悦楽の極みを噛みしめる。
自身のその姿をツーが幻視したその瞬間、彼女の頭が爆ぜた。

(*゚:::.・:∵「――ゴボッ」

側頭部を殴りつけられたように揺れるツーの頭。くぐもり、濁った苦鳴。
弾けるように飛び出し、赤と黄の弧を宙に描く脳漿。
強化外骨格の背中を掴む左腕から、力が抜ける。

ぐしゃり。

吐き気を催すような湿った音と共に、ツーの上半身はアスファルトにずり落ちた。

279 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:47:43 ID:DGEbOzk.0
<ヽ●∀●>「……やれやれだ。吸血鬼狩り(ヴァンパイア・ハント)を請け負ったつもりは無かったんだがな」

ペイルライダーとツー。二人から二十メートル程離れたアスファルトの上。
片膝をついて、面白くも無さそうに吐き捨てるニダー。
彼の右手に握られたベレッタM76の銃口が、白煙を吐きだしていた。

<ヽ●∀●>「こんな事になるんなら、銀の弾丸を持ってくるんだったぜ」

額から流れる血を左の袖で拭いながら、ニダーは両の足で立ち上がる。
足元に一個だけ転がった赤銅色の薬莢は、炸裂弾のものだった。

<ヽ8w8>「――」

頭を砕かれ、ひくひくと痙攣するツーの上半身から視線を上げて、ペイルライダーは香主を見やる。
悪魔のような黒いヘッドピースの中で、四つのカメラアイが無機質な黄金色に光った。

<ヽ●∀●>「……しかも吸血鬼が乱入したと思ったら、お次は黙示録の騎士様のご登場と来たものだ。
何だ?ワタナベは映画製作にまで手を伸ばしてやがったのか?」

松の防砂林の間を、強風が駆け抜ける。
ごう、というひと際大きな音と共に、松の林が気狂いのように一斉に頭を振った。

280 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:49:13 ID:DGEbOzk.0
<ヽ8w8>「……」

<ヽ●∀●>「今すぐにでも問いただしてやりたい所だが、肝心の秘書官さんはどういうわけか姿が見えねえ。“カスタマーセンター”に掛けても一向に通じる気配がねえ。
        これがニホンの“さらりまん”のやり方だっていうんなら、天晴れだぜ」

冗談めかした言葉をしかし淡々と口にするニダー。
彼の言葉通り、沿岸道路のアスファルトの上には、ペイルライダーとニダー、ミンチ寸前のツー以外に人影は無い。

<ヽ●∀●>「……だが、それについては今は置いておくとしよう。ビジネスも重要だが、ウリにはそれよりも気になる事がある」

そこで言葉を切ると、ニダーは丸サングラスをベレッタの銃口で直し、俯けていた顔を上げた。

<ヽ●∀●>「黒狼のギコ――。そこで伸びている化け物娘は、確かにお前さんの事をそう呼んだ。
        これは一体どういうことだ?あいつは確かに殺した筈だ。他ならねえ、ウリ自身が」

静かな怒気を含むニダーの声音は、その実はその下に困惑と恐怖を押し隠している。

<ヽ8w8>「……」

あの冬の日。ニーソク全体を巻き込む戦争の最後。
陣龍も、オオカミも、互いに血まみれになりながら迎えたあの日の朝焼け。
ケジメは、あの時にはっきりとつけた。

それじゃあ、今目の前に居るこの悪夢の中から抜け出てきた様な強化外骨格は何だ?
亡霊だとでも言うのか?

281 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:50:33 ID:DGEbOzk.0
<ヽ●∀●>「二秒以内に答えろ。お前さんは何だ?どんなわけがあってウリの前に出てきやがった?ウリはあと何回、お前さんを殺せばいい?」

つがいのベレッタM76を構えて、ニダーは押し殺せぬ殺意を歯と歯の間から吐き出す。

<ヽ8w8>「……」

答える代わりに、ペイルライダーは振動式ブレードの血糊を振り払うと、構える事も無くニダーに向かって静かに歩き出す。

<;ヽ●∀●>「……」

<ヽ8w8>「……」

二丁拳銃を構えて立つニダー。
日本刀をぶら下げたままゆっくりと歩むペイルライダー。
叩きつける豪雨の中、じりじりと、しかし確実に両者の距離が縮まる。
丸サングラス越しに、或いは四つのアイカメラ越しに、その視線が交錯する。
一歩、また一歩。
上がる前の幕の後ろに控えた、演奏前の楽団員達の間に伝わるような緊張感の中。
遂に、二人は互いの拳が届く距離にまで肉薄した。

<ヽ●∀●>「……教えろ。これは、悪夢か?」

目と鼻の先に迫った髑髏のような顔に向かって、ニダーは問いかける。

282 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:56:07 ID:DGEbOzk.0
「……亡霊」

ぽつり、と。

<ヽ8w8>「……亡霊ダ。俺ハ。今ノ、俺ハ」

その時初めて、ペイルライダーが口を開いた。
人工声帯から発せられた仮初の機械音声は、砂利をかみ砕くような濁った音となって、ニダーの耳朶を打った。

<ヽ●∀●>「……」

どういう意味だ。
問おうとするニダーの脇を、ペイルライダーは通り過ぎ、血だまりに転がったモンスターマシンの下まで歩くと、それを片手で起こして跨った。

漆黒の強化外骨格がアクセルペダルを蹴り飛ばし、スロットルを回すと、巨獣は再びあの低く唸るような咆哮を上げ始める。
血の津波の大質量に呑まれても尚、ベヒーモスの屈強な装甲は、そこここが歪んだだけで、走行に関して支障はなさそうだった。

<ヽ8w8>「……俺カラも聞かセてクレ。悪夢かラ覚メるニは、ドウシたラいイ?」

巨大な車体をその場で180度ターンさせて背を向け、ペイルライダーが問う。

<ヽ●∀●>「……」

ニダーがそれに咄嗟に答えられないでいる間にも、ベヒーモスはひと際大きな唸り声を上げて走り出す。
雨粒を切り裂き、遠ざかっていくエグゾースト音を聴きながら、ニダーは途方に暮れたように立ち尽くしていた。

283 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:56:51 ID:DGEbOzk.0
<ヽ●∀●>「――どうしたらいい?それは、こっちが聴きたいくらいだ」

構える先を失った二丁拳銃を、ニダーは力なく下ろす。

終わった筈の悪夢。
解かれた筈の呪い。
やっと脱出した筈の迷路。
楽になったつもりでいた。少なくとも、今日この日までは。

<ヽ●∀●>「碌でもねえ人生だぜ…全くよ……」

雷鳴の中で、ニダーはゆっくりと丸サングラスを外す。

<ヽ†∀´>「本当に、救いようのない人生だな…おい……」

かつての古傷が、雨に晒されて疼く感触が、たまらなく気持ち悪かった。

284 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:58:06 ID:DGEbOzk.0

※ ※ ※ ※

――機銃の掃射音。
クローン・アーミー達の上げる断末魔の叫び。
独楽のように回転して、後続車両を巻き込む装甲バン。
爆発が爆発を呼び、次々と咲き誇る紅蓮の華。

にび色の空、重金属酸性雨を孕んだ雲。
浮遊式看板のくすんだ電子文字の羅列。光を反射しない、黒塗りのモノリスが如きビルの大森林。
VIPの街の空を走る環状ハイウェイ。

天駆ける一尾の鋼鉄の鯱が齎した爆発を背にして、白塗りのリムジンはぐんぐんとスピードを上げる。
コヨーテの群れを背にした孤独なインパラが如く逃げるその背に食らいつこうと、今しも爆炎の中から飛び出してくる一つの影があった。

('、`*;川「うわ!まだ追ってくる!」

後部座席の窓から後ろを見ていたペニサスが、悲痛な叫びを上げる。
黒煙の中から鼻面を出したのは、ボンネットに真っ赤な鉤十字の紋章が描かれた、巨大な装甲トレーラーだった。

285 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 22:59:28 ID:DGEbOzk.0
「ニトロブースト、着火用意!」

「ドライ、ツヴァイ、アイン…着火!」

クロームメタルの巨大な車体の後部、ジャンボ・ジェットのエンジンの様な機関ノズルから、緑色の炎が勢いよく噴き出す。
ニトロ火薬の爆発により、20トンはあろう車体は、束の間バイソンのスプリントのようにして急加速した。

('、`*;川「何これ!?速い!速い!速い!追いつかれちゃうってえ!」

从'ー'从「だから大丈夫だってば」

('、`*;川「だって!だって!あれ、象よりもおっきいじゃないですか!潰されちゃいますよ!」

从'ー'从「だから、その前に追いつかれないから大丈夫ってこと」

ワタナベの言葉を証明せんとばかりに、上空の三十四式オルカが機銃の掃射もそのままに、機首を鉤十字のトレーラーへと向ける。
シャチのような胴部の両脇から突き出すヒレの下に備わった、対地ミサイルが白煙を吐きだして、トレーラーへと放たれた。

('、`*;川「ミサ、ミサ、ミサイルゥ!?」

宙を疾駆する四本の対地ミサイル。
流麗な弧を描く、コバンザメが如き火薬の塊がコンテナの屋根に着弾。
クロームメタル製の巨象めいた装甲トレーラーは、一瞬にして黒と紅蓮の爆炎に包まれた。

286 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:00:40 ID:DGEbOzk.0
('、;*川「死ぬ!死ぬ!だから死ぬってえ!」

10メートルにも満たない背後での爆風に煽られて、リムジンの車体が激しく揺れる。
窓ガラスに額をぶつけたペニサスは、涙目でワタナベを振り返った。
女社長は、ソファに腰掛けたまま、枝毛を探していた。

壮絶な爆炎の中で、よろめくようにして装甲トレーラーの巨大な車体が右に傾ぐ。
巨獣が力尽きるように横倒しになった車体のエンジンに更に引火。
再び上がった爆発の衝撃が、環状ハイウェイをどよもした。

後続の装甲バンの群れが、一斉にブレーキを踏む。
中央分離帯を砕いて横たわったトレーラーの車体が、ダムのようにして環状ハイウェイの流れをせき止める。
隣の車線を走っていた一般車両が、次々とクラッシュを起こし、その度に大小の爆発が巻き起こった。

誘爆に次ぐ誘爆により、物騒な花火会場と化した環状ハイウェイの上空。
装甲トレーラーの爆発と同時に、黒煙を裂いて飛び出した影が、光化学スモッグの空に金色の弧を描く。

「全く…何がクローン・アーミーですか…所詮は劣等種、全く持って使い物にならない…これでは烏合の衆ではありませんか……」

爆発の衝撃を推進力にした金色の影は、放物線を描いて飛翔。
環状ハイウェイを独走するワタナベ達のリムジンのルーフの上に片膝をついて着地した。

287 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:01:43 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「何!?何!?今度は何!?」

着地の衝撃に揺れる車内で取り乱すペニサス。

从'ー'从「……あらら」

枝毛探しを止めて、天井を仰ぐワタナベ。

「矢張り、真に信ずべきは血の優秀性……」

ルーフの上で、ゆっくりと立ち上がる金色の影。

∫ノイ゚听)ン「なればこそ、誇り高きアーリア人種の一人として、わたくしが示して見せましょう!
      真に世界の覇者となるのが誰なのか!ニホンという国が如何に欺瞞と頽廃に満ちた都かを!」

時速180キロで流れ行く風の中で上げられたその顔は、未だ年端もいかぬ10代後半の少女のそれであった。

∫ノイ゚听)ン「ゲルマン民族こそがこの世でただ一つ、頂点に立つ事を許された高潔なる存在であると!
       チルドレン・プロジェクトの完成形である!わたくしが!ノインが!直々に!証明してみせますわ!」

高らかに宣言して、自らをノインと名乗った少女は右の手を、指先をピンと伸ばした形で前に突き出す。
黄金に輝く金髪は緩く巻かれたポニーテールに、陶磁器の様に白い肌の中で強い意志を秘めた目はコバルトブルー。
かつてのナチスのSS将校制服めいた黒灰色の衣装は、動きがとり易いように丈が短く作られ、伸ばした彼女の右腕には、鉤十字――ハーケンクロイツを象った赤い腕章が巻かれていた。

288 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:02:52 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「へ?は?アーリア人種?ゲルマン民族?え?何です?何なんです!?」

从'ー'从「あはは!何だか面白い子が出てきたね〜!」

卓上サイズのホログラフとして映し出される、車載カメラの映像を前に、リムジン内の二人はそれぞれの反応を示す。
そんな足元の二人の様子など知らないノインは、ルーフの上に仁王立ちになると、
頭上をホバリングで並走飛行してくる三十四式オルカを挑戦的に睨みつけた。

∫ノイ゚ー゚)ン「ふふんっ!貴方様には散々痛い目にあわされましたが、直接ルーフの上に乗ってしまえば、もう手出しも出来ないんじゃなくって?
        そこで大人しく書き割りでも演じていなさいな!ほーっほっほっほ!」

その言葉に答えを返す様に、対地攻撃ヘリのタラップが開き、腹ばいになった狙撃手が再びその姿を現す。
雷鳴のような銃声と共に対物スナイパーライフルの銃身が跳ね上がり、ノインの頬に赤い筋が走った。

∫ノイ゚听)ン「――」

ぴたり、とノインの高笑いが止まる。
一拍遅れて、その白磁の頬を、血の滴が伝った。

∫ノイ゚听)ン「……そうですの。貴方、書き割りでは不服と仰いますのね?」

ノインの青い瞳が細められる。
狙撃手が次弾を装填する。

289 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:04:38 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ゚听)ン「――いいでしょう。ならば、このわたくしが監督として、劣等種の貴方に相応しい配役を用意しますわ」

左手の白手袋を、ノインがゆっくりと外す。
スコープを覗いて、狙撃手が再照準を合わせる。

∫ノイ#゚听)ン「粛清!」

ノインの左手が鞭のようにしなる。
空気を裂いて、ブイ字の白い影が飛ぶ。
狙撃手のリング状のヘッドギアが縦に割れ、頭ががっくりと倒れる。
露わになった狙撃手の額から、細い血の筋が垂れていた。

∫ノイ゚ー゚)ン「貴方には、“主役の強さを引き立てる為に犠牲になる三下の敵役”が相応しい事でしょう」

事切れた狙撃手の手から、アンチマテリアル・スナイパーライフルが滑り落ちる。
その様に背を向け、ノインはポニーテールを涼しげにかき上げた。

('、`*;川「え?え?今、あの人何をしたんです?」

从'ー'从「……あらら。これは、ちょっと不味いかな?」

車載カメラの映像は、敷居で隔てられた運転席の翁の視覚野の隅にもモニタリングされてある。
有線直結によってリムジンと一つになった老熟ドライバーは、この新たな敵の登場に、
その皺の寄った目を僅かに見開くと、直ぐ様ハンドルを握る手に力を込めた。

290 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:05:31 ID:DGEbOzk.0
激しい蛇行運転に、リムジンのタイヤが悲鳴を上げる。
ルーフの上のノインはしかし、肩幅に足を開いただけで容易にバランスを取って見せた。

∫ノイ゚ー゚)ン「生憎、この程度の揺れは乗馬で慣れておりますの。高貴なる者の嗜みですわ」

髑髏の印章をつけた将校帽の下で、ノインは優雅な笑みを浮かべる。

∫ノイ゚ー゚)ン「――さて、仔馬との戯れも愉快なものですが、私にも任務がございますの」

上半身を柳のように僅かに揺らしながら、彼女は右の手の白手袋を脱ぐと、勲章のぶら下がった将校服の懐に丁寧に畳んでしまう。
露わになった右の手の甲には、赤い「9」と、その上にかぶさるように黒い鉤十字を象った刺青が彫られている。
彼女は右の手を高く振りかぶった。

∫ノイ゚听)ン「我らが偉大なる総統閣下を御保護した後、逆賊共にはしかるべき制裁を」

肩よりも上にあげられた右手の表面が、まるで第二の心臓を宿しているかのように脈打つ。

('、`*;川「え?え?え?え!?」

从'ー'从「……むむっ」

∫ノイ#゚听)ン「全ては理想郷の為!栄えある第三帝国実現の為!劣等種よ、その礎となる名誉を抱き潰えるが良い!」

('、;*川「え!?え!?え!?ええええ!?」

一気呵成。
高らかな宣言と共に、ノインが右の腕を振り下ろす。
蛇行走行するリムジンが電光看板の下にさしかかったのは、奇しくも全く同じタイミングであった。

291 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:10:43 ID:DGEbOzk.0
看板。
交通規制情報や渋滞情報、その日の路面状態などをローカルネットワークで伝える、電光看板。
その上に、腕を組んで立つ一人の影あり。

「理想郷ですか。私のデータベースで検索をかけた所、それは“架空の都市”に分類されるものであるとの事でした」

平坦で抑揚のない、機械的な物言い。
感情の一欠けらも見せない言葉と共に、看板上の影が飛び立つ。
膝を抱えた姿勢で回転を決めたその影は、今しも看板の下を駆け抜けていこうとするリムジンの上に危うげなく着地、膝立ちのままにその顔を上げた。

(゚、゚トソン「一時間と五分三十四秒一七。まだまだ改良の余地がありますね」

生後一年の赤ん坊程もある、背中のジェット・パックを揺らしながら、新たな闖入者は立ち上がる。
バレッタで纏められた栗色の髪。瞬きの回数が極端に少ない菫色の瞳。
ワタナベの専任秘書官にして鋼鉄の処女たるトソンのスーツは、慌ただしい空の旅の為に、所々が激しく乱れていた。

从'ー'从「やっと来たー。もう、遅いぞぉー」

('、;*川「へっ?今度は何?ロケット人間?何なの?一体何なの?」

292 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:11:32 ID:DGEbOzk.0
未だに状況についていけないペニサス。
わざとらしい膨れ面を作るワタナベ。

(゚、゚トソン『遅れてしまい申し訳ありません。予測されていた交戦タイミングとずれてしまい、離脱タイミングを失しておりました』

从'ー'从『まあ、本命さんのご到着はまだまだ先だろうけどさぁ……』

(゚、゚トソン『懸念されていたエンジントラブルはありませんでしたが、出力に関して未だ課題が残りますね。
     元々、長距離航行が目的で無いとはいえ、強襲作戦に投入するにしても時期尚早かと』

从'ー'从『試作機だからしょうがないかっ。そこら辺はまあ、開発主任さんに任せるとして――』

(゚、゚トソン『――心得ております』

語尾を濁す主との通信を一旦切りあげ、トソンは目の前で腕を振りかぶったままのノインを真っ直ぐに見据える。
コバルトブルーの双眸が、突如現れたトソンを前に、嘲笑の形に細められた。

∫ノイ゚ー゚)ン「――なんですの?私の優秀性を証明するには、未だやられ役が不足だとでも仰いますの?」

(゚、゚トソン「貴方を排除させていただきます」

絶対的な自信を孕んだノインの嘲弄を、トソンの淡々とした言葉が受け流す。
幼さを残したノインの目元が、ぴくりと引きつった。

293 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:12:24 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚听)ン「……そう。そうですの。貴方、中々面白い事を仰いますのね。排除?このわたくしを?“シスターズ”最強のわたくしを?
      我がブラウナウバイオニクスが誇る研究機関、“アーネンエルベ”最高傑作のわたくしを?言うに事かいて、排除すると――」

振り上げた拳を顔の前に下ろし、ノインは強く握る。
血管が浮き出る程に強く握られた拳の間から、無色透明の液体が零れる。
どうやらそれが、彼女の血のようだった。

∫ノイ#゚听)ン「見上げた自信でございますわね。排除!ふんっ!その言葉は、わたくし以前の失敗作や、貴方達のような劣等種にこそふさわし――」

わなわなと拳を震わせて語るノイン。
その蜂蜜色の前髪が一筋絶たれ、風に流される。

(゚、゚トソン「恐縮ですが、口を動かす前にするべき事があるかと。……恐縮ですが」

一瞬にして肉迫したトソンが、手刀を振り抜いた姿勢で、ノインを見上げる。
本能的なレベルで上体を仰け反らせたノインの頬が、更に引きつった。

∫ノイ#゚听)ン「このっ――!」

追撃の左手刀。
電撃的な速度のそれを、ノインは右膝蹴りで受け流し、ルーフを蹴って距離を取る。
ダックスフンドのように胴の長いリムジンの車上、五歩程の間合いで二者はにらみ合う形になった。

294 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:13:22 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚听)ン「劣等種風情がこのわたくしを捕まえて説教を垂れるなど言語道断――。
        ならば、その小生意気な口を二度と利けぬよう、見せて差し上げますわ。
        わたくしの、選ばれし者の、優良種たる力というものを!」

右の掌を鉤の形に開くノイン。
赤の9と鉤十字の刺青の表面の血管が、線虫のように蠕動する。
口上の途中で既に駆け出していたトソンが、ノインの懐に飛び込んだ。

(゚、゚トソン「――」

迷いなく、鳩尾に向かって突き出される右の手刀。
空気中の微細な分子すらも切り裂こうかという速度のそれは、しかしノインの将校服めいた衣装をすら傷つけることが出来なかった。

∫ノイ゚听)ン「軽い。あまりにも、軽すぎますわ」

ノインの鳩尾の数センチ手前で静止したトソンの右手刀。
トソンの手首を掴み止めた、ノインの右手は、異形だった。

――恐らくは、爬虫類のそれ、と形容するのが最も相応しい。
将校服の袖を引き裂いて露出した右腕は、平均的な成人男性のものよりも、
二回りも三回りも太く、表面は赤銀色の鱗でびっしりと覆われている。
万力の如き絶対的な力でトソンの手刀を掴んだ指先には、猛獣めいた鉤爪が揃っており、肘からはくすんだ白の骨格が飛び出していた。

295 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:14:10 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ゚ー゚)ン「“ドラッヘン・ツィノーヴァ”。優越種たるわたくしにこそ相応しい、まさに至高の力にございましょう?」

獰猛な笑みを浮かべるノインの右の目元には、まばらに赤銀色の鱗が生え出している。
掴まれたトソンの右手首が、みしりという音を立てた。
戦車の前面装甲よりも堅い特殊カーボネイド装甲が、ノインの異常な握力によって悲鳴を上げているのだった。

(゚、゚トソン「……」

コンバット・データ・リンクによって即座に導き出された回答により、トソンはすぐさま左の手刀を繰り出す。
予備動作を既に認識していたノインは、手首を握る力を更に強めると、片腕だけで鋼鉄の処女の身体を持ち上げた。

∫ノイ゚ー゚)ン「さて、小生意気な劣等種には、少しばかり調教が必要ですわね?」

(゚、゚トソン「――むっ」

酷薄な笑みを瞳に浮かべるノイン。
相手の予想外の膂力に、僅かに菫色の双眸を見開くトソン。
視線の交錯はコンマ一秒。

∫ノイ#゚听)ン「矯正!」

ノインは大ぶりな動作で身を捩り、トソンの身体を背面投げの形でルーフに叩きつける。
大型単車程もある鋼鉄の処女のボディは、まるでモグラ叩きのハンマーででもあるかのようにして顔面から衝突。
金属のひしゃげる鈍い音と共に、リムジンのルーフがへこんだ。
296 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:15:37 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「ひゃっ!?」

衝撃と共に、車内の天井が女の顔の形にへこむ。
心配そうに天井を見上げていたペニサスが悲鳴を上げた。

( 、 トソン「ぐ――む――」

∫ノイ#゚听)ン「ほーらまだまだ行きますわよぉ――」

ルーフに叩きつけられた衝撃で僅かにバウンドするトソンのボディ。
その反動を利用し、ノインは再び身体をねじると、反対方向に向かってトソンのボディを振り下ろす。

∫ノイ#゚听)ン「更生!」

衝突。へこむルーフ。バウンドするトソン。
ノインは腕を掴む力を緩めない。

∫ノイ#゚听)ン「粛清!」

衝突。へこむルーフ。バウンドするトソン。
ノインは腕を掴む力を緩めない。

∫ノイ#゚听)ン「矯正!」

衝突。へこむルーフ。バウンドするトソン。
ノインは腕を掴む力を緩めない。

297 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:16:21 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚听)ン「更生!」

∫ノイ#゚听)ン「矯正!」

∫ノイ#゚听)ン「粛清!」

腕の一振り毎に啖呵を上げて、トソンの身体を玩具のようにして振り回すノイン。
正面、背面、正面、背面、と繰り返し何度も打ち付けられるうち、トソンの顔面の人工表皮が削げ、特殊カーボネイドの鈍いガンメタルカラーが露出し始める。

∫ノイ#゚听)ン「粛!清!ッ!」

何十度目かのバウンドの後、ノインはひと際大きな掛け声と共に異形の右腕に力を込めると、流れ行くハイウェイのアスファルト目掛け、トソンのボディを思いきり投げ飛ばす。
人外の膂力によって、砲弾のように吹き飛ぶトソン。

('、`*;川「イヤアア!」

車載カメラの映像に、両手で顔を覆うペニサス。

(゚、メトソン「ヨ――ロ――」

激突まで、コンマ一秒と少し。
相次ぐ衝撃のせいで歪みの走るトソンの視覚野。
コンバット・データ・リンクが焼き切れる程の速度で打開策を検索。
未だに有線結線したままの背中のジェット・パックが、最大出力で燃焼ガスを噴き出した。
アスファルトに踵を擦りつけながら、トソンの身体がぎりぎりの所で浮上する。
ふらふらと頼りない動作で、空中で姿勢を制御する彼女のスーツスカートは、大きく焼け焦げていた。

298 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:17:45 ID:DGEbOzk.0
('、`*川「と、飛んだー!ヤッター!助かったー!」

起死回生の復帰を成し遂げたトソンに、車内のペニサスはガッツポーズを取る。
その隣ではワタナベが、涼しげな顔で三杯目のグラスホッパーを継ぎ足していた。

(゚、メトソン「……シイ状況――とは言えませんね」

待機状態を飛ばしての無茶なジェット噴射に、試作型ジェット・パックは今にも熱暴走を起こしかねない。
くわえて、先に受けた怒涛の打撃が与えた影響は決して少なくない。
トソンの視覚野の端に映し出される、ダメージ率を表す緑色のバーは、30%強を示して点滅を繰り返している。
車上への早急な復帰が最優先だった。

∫ノイ#゚听)ン「ええい、小癪な!」

標的を仕留め損なった事を認め、ノインは左の手を宙空のトソンへ向ける。
心臓の鼓動のように、その手が脈打ち、右腕同様異形のそれへと変異していく。
異常に発達した右腕と比べ、左腕は一回り程細く、赤銀色の鱗に覆われた掌の中央には、ピンボール程の大きさの孔が空いていた。

∫ノイ#゚听)ン「再粛清ッ!」

左腕の掌の孔が、まるで芋虫の怪物の口めいて開き、そこから白い液体の弾丸が放たれる。
超高速でトソンへと飛来するそれは、空気抵抗でブイの字に歪んでおり、
どうやら先に狙撃手の頭を一撃のもとに貫いたものと同様のもののようだった。

299 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:18:42 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「え?え?てっぽう!?」

(゚、メトソン「成程。体液射出ですか」

从'ー'从「ロマネスクさんも面白い“玩具”を作るねぇ」

飛来する液体弾を、トソンの視覚野は赤い三角形のターゲットマーカーで捉える。
有線直結により、思考速度と完全に同機したジェット・パックが、燃料タンクの左右に突き出した姿勢制御ノズルからジェットを噴射。
トソンの頭の脇の空気を貫いた液体弾は、対向車線の電光看板のLEDディスプレイに直撃し、
丁度下を通過しようとしたバイクの上に、液晶ガラスの雨を降らせた。

「うえうお!?アー!」

泡を食ったノーヘルメットのライダーの、インプラントだらけのスキンヘッドが環状ハイウェイに沈む。
スピンの後、クラッシュ。爆発炎上したバイクの残骸を避けようと、他の車両も次々とハンドリングを失敗してクラッシュ。
対向車線は一瞬にして混沌の坩堝に叩き落とされた。

∫ノイ#゚听)ン「粛清ッ!粛清ッ!粛清ッ!粛清ッ!絶対粛清ッ!」

初弾を回避されたノインは、宙を漂うトソンへ向けて立て続けに液体弾を連射する。
ぶしゅっ、ぶしゅっ、ぶしゅっ。
体内で圧縮した空気により体液を吐きだす冒涜的な音。
思考速度とのタイムラグを駆逐したトソンのジェット・パックは、体液の機関銃掃射を、
必要最低限のジェット噴射により、絶妙な角度で回避していく。

300 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:19:27 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚听)ン「落ちろ!落ちろ!落ちなさい、この劣等種ッ!」

それでも際限なく飛来する液体弾の全てを回避し切るのは鋼鉄の処女にも不可能だ。
何発かが掠り、スーツの肩や裾を引き裂いたと思えば、もう何発かが強かに直撃し、人工表皮を削り抉る。
一発一発は、特殊カーボネイドの頑健な装甲に傷をつける程のものではないが、
このまま宙に釘づけにされるとジェット・パックの熱暴走の可能性が肥大するばかりで危険だ。

从'ー'从『そろそろ決めちゃって』

(゚、メトソン「ええ、そうさせて頂きます」

メイン・ブースターの出力を強めると、今までリムジンと並走するように飛行していたトソンは空中で身を捻る。
液体弾の弾幕の中を錐揉み回転で避けながらの急上昇。
車上のノインは、その動きに咄嗟に反応出来ない。

∫ノイ;゚听)ン「なっ――!?」

一瞬の隙。
無理矢理に腕を上げ、直ぐ様照準をつけようとするノイン。
だが遅い。

急上昇の頂点。
熱暴走の危険も顧みず、ジェット・パックをオーバードライブさせるトソン。
慣性の法則を無視した急降下。
車上のノイン。
その頭上、斜め上から奇襲を駆けるトソン。
肉迫する二者。視線が、交錯する。

301 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:20:14 ID:DGEbOzk.0
(゚、メトソン「恐縮ですが、これで決めさせて頂きます。…恐縮ですが」

∫ノイ;゚听)ン「ッ――!?」

両手をクロスさせ、手刀を薙ぎ払いの型に構えるトソン。
咄嗟の防御に、異形の右腕で頭を庇うノイン。

雷撃の速度で振り抜かれる、トソンの両の手刀。
それが、防御するノインの右腕、赤銀色の鱗に触れる。
触れた、瞬間だ。

ごうっ。

先に撃ち抜かれた、交通看板の液晶モニタの残骸が、突如として炎を上げた。

(゚、メトソン「!?」

後方で起こったその不可解な現象を認識していたのは、恐らくその場ではノインだけだろう。
最も、彼女が認識していた、というのでは語弊がある。
彼女は初めから分っていた。
街頭看板が燃え上がる事も。

――無論、トソンの身体が、このタイミングで燃え上がる事も。

('、`*;川「な、なんでいきなり燃え――!?」

ノインに向かって空中から急降下をかけたトソン。
そのスーツに包まれた上半身が、轟々と逆巻く緑色の炎に包まれ炎上している。
不可解なのは、その炎が、彼女のスーツの内側から燃え広がった事だった。

302 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:21:06 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ゚ー゚)ン「ふふ、惜しかったですわね。もうちょっとで、わたくしに手が届く所でしたのに」

突然の発火に威力を失ったトソンの手刀を右手で受け流し、ノインがほくそ笑む。
緑色の炎に照らされて輝く赤銀色の鱗の一部が剥がれ、花弁のように宙を舞った後、自ら炎を上げて灰となった。

∫ノイ゚ー゚)ン「“ドラッヘン・ツィノーヴァ”。古来より、支配者達はその力の象徴として、竜を用いてきましたわ。
実に…実にわたくしにこそ相応しい力だと思いませんこと?」

急降下の勢いを殺し切れないトソンを、半身を捻って後ろに流し、ノインは陶酔したような笑みを浮かべる。

('、`*;川「そん…な――」

从'ー'从「……」

( 、 トソン「――」

緑色の火だるまとなったトソンは、ルーフの上に顔面から激突。
縦長の車体を短く横に横断した後、車道へと滑り落ちていく。
ジェット・パックのジェット噴射が尾を引く。
燃え盛るエメラルドの炎が、燃料タンクに引火する。
トソンのボディが車道に叩きつけられる。
同時、黒と橙の塊が膨張するようにして、環状ハイウェイに爆発の華が咲いた。

('、;*川「そんなあああ!?」

303 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:22:02 ID:DGEbOzk.0
車上の戦いの一部始終を眺めていたペニサスが、堪え切れずにクリスタル製のロ―テーブルを叩いた。
卓上ホログラフの中では、爆発に背を向けたまま、酷薄な笑みを浮かべるノインの堂々たる立ち姿が映っている。
もしも、幻想小説に謳われる「竜」なるものが実在したとして、今ノインが浮かべている表情は、
まさに「人間など、取るに足らない矮小な羽虫に過ぎない」と考える超越的な竜のような笑みだ。
人は、ここまで残酷な表情が出来るのかと思うと、ペニサスは自分が今いるここが何なのか、分らなくなりそうだった。

('、;*川「やだ…もう、嫌だ…嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ……」

当然のように銃弾が飛び交い、まるで賑やかしか何かのようにして無関係な人々が巻き込まれて死んでいく。
現実は何処だ。こんなもの、自分が知っている現実では無い。
どうして自分がこんな目に合わなければいけないのだ。一体自分が何をしたというのだ。

確かに自分はあまり利口な方では無い。むしろ愚鈍な方だ。
だからと言って、たったそれだけの理由でこんな目に合わなければいけないなんて、理不尽にも度が過ぎる。

もう嫌だ。
誰か助けて。私をここから救い出して。誰か。誰か。誰か――。

304 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:22:55 ID:DGEbOzk.0
その時だ。ペニサスの肩を、隣から強く、優しく抱きこむ腕があった。

('、;*川「――へ?」

从'ー'从「大丈夫。もう、大丈夫だから――」

ワタナベであった。
相次ぐ乱暴な走行により、ペニサスの心同様、滅茶苦茶になった車内の中で、ワタナベはそれでも決して柔和な笑みを崩すことなく、ペニサスの顔を覗きこんでいた。

从'ー'从「大丈夫。もう、大丈夫」

優しく、慈しみ深く、繰り返し、「大丈夫」という言葉を口にするワタナベ。
一体どうして、この人はこんなに泰然としていられるのだろう。
この人もまた、私が知らない異世界の住人なのだろうか。

从'ー'从「……大丈夫、もう、大丈夫だから」

何度も、何度も、辛抱強く、ワタナベは繰り返す。
悲痛な形に歪んだペニサスの口が、一瞬震えた後、ワタナベの後を追うように音を発した。

('、`*;川「大丈夫…もう、大丈夫……」

从'ー'从「大丈夫…もう、大丈夫」

言っているうちに、心臓の動悸が収まってくる。
一寸前まで滝のように流れていた涙も、直ぐに止まった。
大丈夫、大丈夫。
口にしながら、ペニサスは卓上ホログラフの方へと視線を映す。
そこには、異形と化した右腕から、無色透明の血をだらだらと流す、ノインの姿があった。

305 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:23:43 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ;゚听)ン「な、なんですの、これは――」

ざっくりと切り裂かれ、骨まで達した傷口を凝視するノイン。
まさか、先の手刀の攻撃が利いていたというのだろうか。
そんな筈は無い。あの時受けた手刀は、このような大きな傷を作れる程の重さを持っていなかった。

∫ノイ;゚听)ン「じゃあ、なんでわたくしが血を流すなどと――」

言いかけてはっとすると、ノインは竜の本能で振り返る。

(゚、メトソン「僭越ながら私見を挟ませていただければ、先に手の内を明かした方から負ける。――恐縮ですが」

宙を駆け、真っ直ぐにノインへと突進してくるトソンの、焼け焦げ皮下装甲の露出した顔が、そこにあった。

从'ー'从「大丈夫…大丈夫……」

∫ノイ;゚听)ン「なっ――!?」

(゚、メトソン「貴方のバイオ技術を基点とした戦術からは実に有益なデータが採取できました。
      きっと、今後の渡辺グループの発展に大いに役立ってくれることでしょう」

('、`*川「大丈夫…大丈夫…!」

306 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:24:52 ID:DGEbOzk.0
一体、どのような手段でトソンは復帰を果たしたのか。

結論から言えば、それは鋼鉄の処女の驚異的なまでの状況判断能力と耐久性の賜物であった。

急降下突撃を受け流され、ハイウェイに激突する寸前、トソンは火達磨になりながらも、
背負っていたジェット・パックを即座に脱ぐと、それを足場として蹴った。

ここで、既にトソンの身体から燃え移った炎が燃料タンクに引火し爆発。
常人やそこらの義体程度では、この爆発で粉々の肉片になっていただろうが、アイアンメイデンの特殊カーボネイド装甲は伊達では無い。

多大なダメージを被りつつも、足の裏に爆発の衝撃を受け、それをそのまま推進力としたトソンは見事車上に復帰。
今まさに、ノインへ目掛けて宙空から再び手刀で薙ぎ払いに掛る。

(゚、メトソン「我が社としては、もう少々戦いを引き延ばし、今後の為により多岐に渡った戦闘データを採取したい所ですが、中々そうも言っておられません」

では、ノインの右腕を切り裂いた攻撃の正体は何なのか。
それもまた、この瞬間にも明らかになろうとしている。

(゚、メトソン「私の稼働限界も近いですし…何より、これ以上私の部下を泣かせるわけにもいきませんから」

両腕を交差させ、腰だめに構えるトソン。
視覚野の隅では、未だに脳核通信がワタナベと繋がっている事を示す通話マーク。

('、`*川「大丈夫!大丈夫!大丈夫!」

ホログラフを前に、祈る様に繰り返すペニサス。

307 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:25:53 ID:DGEbOzk.0
(゚、メトソン「ここで――決着です」

∫ノイ#゚听)ン「――!」

既にひしゃげかけた両腕を、まるで居合のようにして振り抜くトソン。
真正面からそこに右腕を叩きこむノイン。
手刀と拳がぶつかる。ぶつかる……否、ぶつからない。

∫ノイ;゚听)ン「そんなっ――!?」

下から掬いあげるように、エックスの字を描くトソンの手刀。
その指先が一瞬まばゆく光り、光子の刃を刹那の間だけ形成する。
両手十指の先に仕込まれた光学剣による、それはまさに二刀居合であった。
瞬間的に伸びたリーチにより、ノインの右腕はトソンの両腕とぶつかる前に、光子の刃によって両断、透明な血飛沫と共に宙を舞う。

(゚、メトソン「もう一度繰り返させてもらえれば、決闘では先に手の内を明かした方から負ける。――恐縮ですが」

異形の腕を切り払いながら、トソンはがら空きになったノインの胴を蹴って突進の勢いを殺すとルーフに着地。
爆発の衝撃の何分の一かを受けたノインの上半身が傾ぎ、バランスを失った彼女はそのまま車道へ向けて背中から落ちていく。

∫ノイ )ン「――先に手の内を明かした方から負ける。ええ、まったくもってその通りだとわたくしも思いますわ」

――かに思われた。

∫ノイ )ン「まったくもって、その通り過ぎて、わたくし、本当に可笑しくて可笑しくてしょうがないんですの」

しかし、そうはならなかった。

308 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:27:36 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚听)ン「劣等種風情が私を前に勝ち誇るなど!言語!道断!」

傾いだノインの後ろ腰から、突如として鱗に覆われた爬虫類の尾が生え出し、
着地から立ち上がろうとするトソンの胴に両腕をも縛る形で巻きつく。
あまりにも咄嗟の事に対処が遅れたトソンは、自らも道連れにされまいとその場で踏ん張るしかない。
狙い通り、車道への落下を免れたノインは、トソンの首を絞める力をいっそう強めながら、宙を舞っていた自身の右腕をキャッチした。

∫ノイ#゚听)ン「わたくしの名前はノイン!
      ブラウナウバイオニクスが誇る研究機関“アーネンエルベ”が最高傑作にして、チルドレン・プロジェクトの完成形!
      シスターズ最強の、竜の名を頂きし優良種!愚劣なる劣等種の上に立つべき、真の支配者である!」

叫び、ノインは切り落とされた右の手の爪を、身動きの取れないトソンの顔面に突き刺す。
先にこの腕が切り飛ばされた時、トソンの身体はそこから飛び散った透明な血飛沫を浴びていた。
竜の右腕がトソンの顔面に突き刺さった瞬間、その透明な血液が、僅かな摩擦熱で鱗から生じた火花により引火、爆発的に燃え上がった。

∫ノイ#゚听)ン「燃えろ!燃えろ!燃え尽きろ!愚劣なる劣等種が!これが竜の炎だ!これが、支配者の力だ!」

( 、 トソン「グガ――ギッ――」

両目に竜の爪を突き立てられ、頭から緑色の毒々しい炎を上げるトソン。
アイカメラを砕かれた彼女のHUD(ヘッドアップディスプレイ)は既にブラックアウトしており、
彼女の電脳核が見せる、システムエラーの緑文字の羅列が、真っ暗な視界を引っ切り無しに下から上へと流れ過ぎて行く。
幸か不幸か、竜の爪は彼女の電脳核にまで達していなかったが、ナパーム炸薬が如き超高熱に苛まれては、
AIそのものが先にダウンしかねない。

竜の尾の拘束を解こうにも、その膂力はまるで50トン級の工業万力のそれであり、
鋼鉄の処女の人工筋肉とパワーステアリングをもってしても、びくともしない。

状況は、絵に描いた様な絶望だった。
309 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:29:18 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ#゚ー゚)ン「ふふっ…ふふふっ……このまま貴方が動かなくなるのにどれくらい掛るかしら。
        どの道長くないでしょうね。そしたら、この下の女王気取りの勘違い劣等種を排除して、いよいよ総統閣下を御保護出来る……。
        そう、私の手で、お父様に千年王国への切符を渡す事が出来る……」

燃え盛るトソンの顔面から、自身の右腕を引き抜くと、ノインは自身の肩口の切断面にそれをあてがう。
筋繊維と白骨を晒すその表面が、一瞬燃え上がった後、彼女の右腕はまるで溶接のようにして再び繋がった。

∫ノイ#゚ー゚)ン「お父様はお喜びになりますわ…きっと…ええ、わたくしこそがお父様の娘に相応しいと……きっと認めて下さる。
        そうしたらもう、誰にもわたくしをノインなどとは呼ばせない……。
        わたくしがツンよ…わたくしこそが、唯一のツンデリア・オンデンブルグになるのよ……」

尾の締めつける力はそのままに、恍惚とした表情で呟くノインのそれは、最早うわ言めいてすら聞こえる。
虚空を見つめるコバルトブルーの瞳と、引きつり痙攣した様な笑みを浮かべる口元は、一種の病的なものを孕んでいた。

∫ノイ#゚ー゚)ン「ふふ…うふふ…わたくしは違う…アインやツヴァイのような失敗作とは違う……。
        わたくしは完成系。完璧。完全。至高。唯一無二。わたくしこそが、オリジナル」

滔々とした口調で、陶酔したように呟き続けるノインは、だからこそ気付く事が出来なかった。

310 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:30:06 ID:DGEbOzk.0
('、;*川「大丈夫…大丈夫…大丈夫……」

ホログラフを前に、零れ落ちそうになる涙を必死でこらえながら、無心に祈り続けるペニサス。

从'ー'从「大丈夫…大丈夫…大丈夫…」

その隣で、声を合わせて呟くワタナベも、今ではペニサスの声を追いかけるようにしてその言葉を口に出している。

故に、その事実に気付けたのは、運転席でハンドルを握る、老齢のワタナベ専属ドライバーだけであった。
有線直結でリムジンと一体になっていた老熟ドライバーのニューロンは、前方にそれを見つけた瞬間、全力でブレーキを踏みこんだ。

∫ノイ゚听)ン「えっ――」

時速180キロをとうに過ぎ去っていた車体が、タイヤの上げる断末魔の中で半ばつんのめるようにして急停車する。
アスファルトを摩擦熱で焦がす程の慣性に、ルーフの上の二者が宙へと放り投げられる。

カタパルト射出のようにして弧を描いた二者は、アスファルトに滑走するように衝突。
衝撃によってノインの拘束が解け、満身創痍のトソンが壊れたマリオネットのように車道に転がった。

311 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:31:42 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「つう――……!?」

リムジンの後部座席。ワタナベと共にソファから投げ出されたペニサスが、額を摩りながら起き上る。
一体どうして急停止など?
脳みそを撹拌されたかのような感覚のままに、ロ―テーブルの上のホログラフを目にしたペニサスは、
そこに映し出された映像に目を見開いた。

「ハロハロロ〜ン♪おっひさしぶりね〜シャッチョさーん!元気してたぁ〜ん?」

急停止したリムジンの前方、100メートル。
煙を上げる乗用車やバイク、小型トレーラーを幾つも積み重ねて作った車両のバリケードの前。
場違いな口調でだみ声を上げるその人物は、控えめに言っても「異形」であった。

【+  】ゞ゚)「あー、でも、あれかしらあん。もしかして、アタシの顔見るのは今日が初めてかしらん?だったらアレよね、改めましてのご挨拶よねえ?」

ボア付きの長いレザーコートを羽織った佇まいは長身痩躯。例えるならば、枯れた柳。
濡れ羽色の長髪は、頭皮にべったりと張り付くオールバックにされ、毛先は縮れている。
起伏の少ないのっぺりとした顔は白塗りに、目元は黒いチークで隈取りのようなアイシャドウが塗られていた。
レザーコートの胸元は肌蹴られ、そこから覗く病的な白さの胸板には、
十字架をグロテスクなまでに戯画化したようなタトゥーが刻まれている。
はなにつくような戯画的な口調と身ぶり手ぶりで言葉を紡ぐその人物は、一見した所ではその性別は判然としない。
しかし、そのような病的な見た目より、なお一層この人物の異常性を引き立てるのは、
その背後にそそり立つように置かれた、2メーター弱はあろうかという黒塗りの棺桶の存在だった。

312 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:32:37 ID:DGEbOzk.0
∫ノイ;゚听)ン「なん――ですの――?」

('、`*;川「一体、この人は……」

从'ー'从「……」

黄昏が近づき始めたVIPの空のその真下。
環状ハイウェイの道路を完全封鎖して佇むその異形の人物に、その場の全員が言葉を失う中。
爪先の跳ねあがったブーツの踵を鳴らして、件の人物は一歩前に進み出ると。

【+  】ゞ゚)「はじめましての子は初めまして。そうじゃない子も初めまして。アタシ、オサム。――こう見えても、CIAやってンのヨ♪」

冗談めかした仕草で、頭を下げた。

('、`*;川「シーアイエー?今、あの人、シーアイエーって――」

縋る様にして、ペニサスは隣のワタナベを仰ぐ。

从;'ー'从「遂に、本命のご登場ってわけ……」

ここに至るまで、決して余裕を崩す事の無かったCEOの額には、うっすらと汗が滲んでいた。

【+  】ゞ゚)「――ってヤーダー!アタシッたらコレ言っちゃいけないコトじゃなーいのよーう!ンモー!やんなっちゃうワッ!」

蜘蛛のそれめいて細長い指先を鉤の形に曲げて、自分の額を小突くオサム。
冗談めかしてウィンクの形を作るその目は、黄色く濁り、瞳孔が縦に裂けていた。

313 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:33:29 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「え?え?シーアイエーって、アレですよね、アメリカの特殊部隊の――」

そのCIAがどうしてここに?
ペニサスの言葉は当たらずとも遠からずで正確性を欠いていたが、彼女がCIAを正しく認識していたとしても、
その胸に浮かべた疑問が変わる事は無かっただろう。

('、`*;川「え?なんで?え?社長――」

从'ー'从「逃げて」

足元のアタッシュケースを掴み、ワタナベがドアを蹴り開ける。

('、`*;川「え?え?でも特殊部隊なら私達をたすけ――」

从#'ー'从「良いから逃げて!」

叫ぶと同時、ペニサスの首根っこを掴んで、ワタナベはリムジンから飛び出す。
もんどりうってアスファルトの上に二人が転がり出した一拍後、主不在のリムジンが金切声をあげて急発進した。

「――散らば、諸共」

その日、ワタナベ専属の寡黙な老熟ドライバーは、初めて言葉を口にした。

【+  】ゞ゚)「あらん?あららん?何?何?スタントショー?アッハ!オンモシロソー!」

有線結線により、リムジンと一体化した翁の皺のよった口元は、血が出る程にきつく轢き結ばれている。
幼少期よりワタナベに仕える事二十と九年。
現CEOの、揺り籠から会長就任までを運転席から見守ってきた老人は、この日、この瞬間、遂にその死に場所を見つけた。

314 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:34:27 ID:DGEbOzk.0
アクセルを踏み込む。ただ、その一点に全ニューロンを集中させた翁の脳裏に、走馬灯は流れない。
ただ、一点へと目掛けて車を走らせる。
未だ社会を知らぬ生意気な若造だったころ、初めてマシンと一つになった瞬間の感触が、蘇ってくる。
一点だ。
マシンを転がすのは、その先へ向かう為だ。他の事は、何も考えない。
ただ、ただ、そこを目指して駆け抜けるだけだ。

「――南無三!」

【+  】ゞ゚)「アアアンビリイバボオオオオ!?」

轟音。
白塗りのボンネットがひしゃげる。
塗料が剥げて、火花と共に宙を舞う。
運転席が潰れる。潰れる車体に巻き込まれ、足が折れる。
駆動制御CPUが砕け、そのフィードバッグが翁のニューロンを滅茶苦茶にかき回す。
苦鳴を噛み殺して、翁はハンドルを握る両の手に満身の力を込める。
運転席が縦に裂ける。
ガラスが砕け散り、数本のニューロジャックが千切れてスパークする。
エンジンに引火する。翁は白目を剥く。既にその意識は無い。
爆炎。壮絶な翁の表情を、黒い炎が包み込む。爆発。
ドアが、ボンネットが、マフラーが、ハンドルが、或いは後部座席の酒瓶が、
ソファーが、吹き飛ばされ、熱波に煽られ、ハイウェイの上空に舞う。
翁の遺体もまた、リムジン同様にバラバラになって、黒煙の中に飲み込まれた。

315 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:35:33 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「あ…あ…あぁ……」

路上にへたり込んだまま、ペニサスはその壮絶な爆発を呆けたように見つめていた。

从'ー'从「……」

舞いあがる黒煙と黒炎を見上げるワタナベの表情は、揺らがなかった。
その双眸だけが、真っ直ぐに、燃え盛る炎の中を見つめ続けていた。
彼女は、五秒間、微動だにしなかった。アタッシュケースを握る指先だけが、人知れず、小刻みに震えていた。

「ンンンンンナメイズィィィングッ!ヒッジョーにアメイジィングッ!」

朦々と逆巻く黒煙の向うから、巻き舌の喧しい声が響いてきた時、だからワタナベは、
一瞬、ホンの一瞬、この世の全てに絶望したかのような表情を浮かべた。

「クレイズィィィィイ!イッジョーなまでにクレイズィィィイイ!バンザイ=チャージ!?カミカゼ=アタック!?
 これだからジャポネって怖いワァン!キンタマひゅんってなっちゃうじゃなあい!」

爆発の中心。
黒煙を上げるリムジンの残骸の中央に、直立不動で立っているのは、あの黒塗りの棺桶だ。

【+  】ゞ゚)「アラヤダ!アタシったら!そう言えばキンタマ無かったんだっけ!」

その棺桶の蓋が鈍い音と共に開く。
中から姿を現したオサムには、かすり傷一つ付いてなかった。

316 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:36:21 ID:DGEbOzk.0
('、`*;川「そん…な……」

わなわなと震えながら、オサムを見つめるペニサス。

【+  】ゞ゚)「ンン?……――アッ!そうそうコレよ!コレ!ンモー、スッゴいでしょう!?個人用核シェルターってヤツ!?
        スッゴく堅いの。ホント。これならアタシはアイアンメイデンいらないわあ。ホント、ホント」

ペニサスの視線に気づいて、自らが出てきた棺桶をノックして見せるオサム。

【+  】ゞ゚)「でもコレ、スッゴク重たいの。アタシか弱いから、一人じゃ持てなくてね〜。
        今日もここまで来るのに同僚の子に運んできてもらったんだけどね〜」

まるで世間話でもするかのように、おどけた調子で言って見せると、オサムは背後に積まれた車両のバリケードを振り返る。

【+  】ゞ゚)「そうそう!コレ見て!コレ!コレもその子がやってくれたのヨ〜!ホンッとあたしってか弱いじゃなあい?荒事向きじゃないのよネェ…だから助かるって言うかぁ――」

そこでオサムは首だけで振り返ると、蛇のようにぬらりとした視線をワタナベ達に向け、

【+  】ゞ゚)「――だから、シャッチョさんも、“ソレ”、穏便に渡してくれると助かるカナ〜って思ってるんだけどぉ〜どうかしらァ?」

直後、今まで事態を見守るだけで手出しが出来なかった三十四式オルカが、思い出したようにミニガンをアイドリングさせる。
ワタナベと敵対対称の距離が十分に離れたと踏んで、攻撃を再開しようと言うのか。
――否、その束ねられた八つの砲身は、ワタナベとペニサスの二人をポイントしていた。

317 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:37:21 ID:DGEbOzk.0
【+  】ゞ゚)「さもなくば蜂の巣になって貰いまっすん〜♪ってアラ!これってひょっとして、デ・ジャ・ブ?」

ふざけた調子でオサムが言うのと、ミニガンが火を吹くのは同時だった。

【+  】ゞ゚)「まったくオタクのネットセキュリティってテンでザルだわあん!
        運転中までハッキングされてりゃザマアねえ――ってアラヤダ!これまたデ・ジャ・ブ♪」

从;'ー'从「「――!?」」('、`*;川

オレンジ色の火線。
二人が気付いたのは、二発目の弾丸が放たれた時。
かわせない。ペニサスは目を閉じる。ワタナベは目を見開く。
炎が揺らぐ。空気が千切れる。
二人の身体を、横殴りの衝撃が吹き飛ばした。

('、`*;川「あっ――!」

錐揉みしながら宙を舞うその瞬間、ペニサスは見た。
その場の誰よりも早く、三十四式オルカがハッキングされた事に気付き、咄嗟にスプリントを切ったその影を。
自分達を突き飛ばし、今しも鉛玉の集中豪雨の洗礼を浴びる、その影を。

318 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/26(日) 23:38:20 ID:DGEbOzk.0
从#;Д'从「トソォォォオン!」

ワタナベが叫んだ。か細い喉を引き裂かんばかり、声の限りに。
猛り狂うミニガンの掃射音の中で、その顔は戦火に呑まれる我が子を前にした母の様であった。

(#、メトソン「メ――ギッ――」

嬲る、嬲る、嬲る。
銃弾が、鋼鉄の処女のボディを、トソンの身体を、その下半身を、叩く、叩く、叩く。
宙を低く飛んだトソンは、顔面から着地。
衝撃で頭を斜め後ろに折らせながらも、そのまま前転。
よろめきつつも低い姿勢で立ち上がり、自らが突き飛ばした二人の下へと疾駆する。
追随するように、その足元を弾丸の集中豪雨が、抉る、抉る、抉る。
トソンの左足首が、掠った銃弾により千切れ飛んだ。
俄かにバランスを崩したトソン。
左足首が路面につく前に、右脚だけで前方に跳躍。
アスファルトの上を這うようにして逃げていたワタナベとペニサスの後ろ襟をそれぞれ掴む。

(#、メトソン「逃走経路、確保。ゴ安心ヲ。オ二人の安全ハ、ワタシガ保障しマす」

('、`*;川「へ?え?何を――」

戸惑うペニサス。それに、特殊カーボネイドが露出した顔面を、笑みの形に引き攣らせるトソン。

(#ーメトソン「――大丈夫、モウ大丈夫」

直後、限界まで稼働率を引き上げたトソンの人工筋肉により、ワタナベの握るアタッシュケースが明後日の方向へと蹴り飛ばされた。
326 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:42:58 ID:legAO0qM0
【+  】ゞ゚)「――オヤ、マア」

放物線を描いて宙を舞うアタッシュケースの銀色。
くるくると回転するその四角が、放物線の頂点に達した時。

「AAAARAHHAAAA!」

黄金と赤銀の混じり合った影が、放物線と垂直に交差するようにして飛びあがり、それを両腕で抱え込むようにして捕まえた。

∫ノイ#゚听)ン「渡さない!誰にも渡さない!御父様の娘はわたくしだけ!ツンデリア・オンデンブルグになるのはわたくしだけなんだからああああ!」

アタッシュケースをかき抱くようにして叫ぶその影はノイン。
血走った瞳。ちりちりと煙を上げる頬の鱗。
宙を舞うその背中に、三十四式オルカの砲身が向けられた。

∫ノイ#゚听)ン「邪魔だッ!邪魔だッ!邪魔だッ!邪魔だッ!邪魔だアアアア!」

猛り狂う赤き竜の如く吠えると、ノインは左腕を肩越しに空のシャチへ向けて、液体弾を速射する。
仄白い血のカッターが、アイドリング中のミニガンを斜めに切り落とし、シャチの胴部にも食らいつく。
ミニガンの暴発により、可燃性の体液に引火。激しい緑の炎に包まれた三十四式オルカは爆発炎上。
その残骸は、遥か500メートル下で、日常を謳歌するニューソク区民の頭上に降り注いだ。

327 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:44:00 ID:legAO0qM0
【+  】ゞ゚)「アラ。アララ。アラアラマアマア、アラマアマア」

一部始終を、直立する棺桶の上に腰を下ろして眺めていたオサムが、呆けたように目を丸くする。
一瞬後、彼は棺桶の上に立ちあがると、その節くれだった両手でぱんぱんと乾いた拍手を送った。

【+  】ゞ゚)「ファァンタスティィイイック。スンゴイじゃなァいアータ。
        まァるでうちの子みたいな芸当しちゃうのネン。スタンディング・オベーションよ、コレ。イヤ、マジでぇ」

∫ノイ#゚听)ン「フゥー…フゥー…フゥー…――」

着地したノインが、息を荒げながらもその枯柳のようなシルエットを睨みつける。
一瞬前まで血走っていたその瞳は、幾らかの理性を取り戻しているようだった。

【+  】ゞ゚)「もしかしてアレ?アータもウェイク・アップ・ザ・デッド、やった口?違う?」

∫ノイ#゚听)ン「――忌まわしい劣等種に、語る口などもちませんわ」

【+  】ゞ゚)「ア、違ったァー?それじゃアレ?遺伝子工学ってヤツ?ブラウナウ・バイオニクスってんだから、やっぱバイオテックッ!なわけ?」

∫ノイ#゚听)ン「シャッ――!」

答える代わりに、ノインは液体弾を放つ。
僅かに首を傾げたオサムの頬から、黄緑色の血が滲んだ。

328 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:47:46 ID:legAO0qM0
【+  】ゞ゚)「ンマッ、何だって良いワんッ。アタシが言いたいのは、その鱗、とってもチャーミングって事ヨ」

不意に、オサムの周囲の空間が歪む。

【+  】ゞ゚)「食ぁべちゃいたいくらいにっ――ねぇ!」

突如、緑色の閃光が、何も無い空間から放たれた。
ノインは咄嗟にアスファルトを転がる。
その後ろを追いかけるように、立て続けに五本の光条が貫いた。

∫ノイ#゚听)ン「ふんっ!貴方の攻撃の正体は分っていてよ!
       あの失敗作も、たまには良い仕事をしますわね!」

前転の勢いで立ち上がったノインが、懐から手榴弾のようなものを取り出し、オサムへ向かって投げつける。
卵型のそれが空中で縦に開き、リンゴの芯のような機構が露出、チェレンコフ光めいた青白い燐光を瞬間的に放つ。
直後、先までに何も無かった空間に、光学迷彩をジャミングによって剥がされた、緑の光線の正体が現れた。

それは、宙を舞う、無数の髑髏だ。
ガンメタルカラーにいびつに輝く鋼の髑髏は、小型反重力装置でも搭載しているのか、封鎖されたハイウェイの上空に、まるで鬼火のようにしてゆらゆらと漂っている。
半開きになったそれら髑髏の口からは、マイクロ・レーザーの照射機構が覗いており、
どうやら主であるオサムと無線ネットワーク制御で繋がっているようだ。

小型反重力装置と光学迷彩を同時に搭載する資金力もさることながら、恐るべきはこの無数の髑髏を無線ネットワーク制御だけで、
個別に操作するオサムの技術である。
全部で三十個は下らないであろう、この髑髏を制御しつつ、彼は三十四式オルカへのハッキングまでやってのけたのだ。

並みのハッカーが真似をしようとしても、こうはいかない。
並列処理の情報負荷に耐えかね、殆んどの者はニューロンが千切れるか、
良くても精神を病み、ジャックアウト後もその後遺症に苛まれることだろう。

329 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:48:44 ID:legAO0qM0
【+  】ゞ゚)「アラ、ばれちゃってるのォ〜?ンモー!しょーがないわねぇん。種が割れちゃったら手品師の面目丸潰れじゃなぁい!商売あがったりよ!」

軽口を叩きながら、棺桶の上で身を捩る姿からは到底想像も付きにくい事だが、
このオサムという人物も、投薬強化や遺伝子調整などの人体改造を受けている事だろう。
脳髄をかき回し、冒涜的な梃入れをしない限り、とてもでは無いが、このオービットの群れは、人間が単独で制御出来るような代物ではない。

ハイウェイの上でにらみ合う二人は、否、二匹は、既に人間という枠組みから大きく逸脱した、化け物だった。

【+  】ゞ゚)「マッ、でもバレた所でやる事と言ったら変わらないんだけどォ〜」

すとん、とオサムが棺桶の上から飛び降りる。
周囲の髑髏型オービットが、ランダムな軌道でその周囲を飛びまわる。

∫ノイ゚听)ン「そうですわね。わたくしも、貴方が何をしようと、やる事は変わりませんわ」

リムジンの灰を擦りながら、ノインが両足を大きく開く。

(#、メトソン「ギ…グギ…ガ……」

('、`*;川「ダメです!今立ち上がっちゃ――」

化け物達の遥か後方では、半壊したボディを軋ませ立ち上がろうとするトソンに、ペニサスがしがみつく。

330 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:49:38 ID:legAO0qM0
∫ノイ#゚听)ン「シッ――!」

短く息を吐きだすと同時、ノインが姿勢を低くして走り出した。
アタッシュケースを抱き抱えたまま、彼女が目指す先は、環状ハイウェイの左、落下防止のコンクリート壁。
その向うには、ニューソクの街並みを遥か眼下に見下ろす、高空が広がるばかりだ。

【+  】ゞ゚)「ちょっとぉ、つれないじゃなぁい。もうちょっとアタシと遊びましょうよぉ」

宙を舞う髑髏達の口から、エメラルドグリーンの光線が吐き出される。
縦、横、斜め。360度、ありとあらゆる確度からノインへ降り注ぐ緑光。
足元を抉り、アスファルトの破砕片を巻き上げるこれを、ノインは身を捩り、時に跳び、紙一重でかわす、かわす、かわす。

∫ノイ#゚听)ン「アアアアアア!」

それでもオサムの攻撃は熾烈だ。
一つのレーザーをかわせば、その先にもう一本のレーザーが。
それをかわすべくして跳躍すれば、着地点へ更に倍のレーザーが突き刺さる。
先に、自らがトソンへと放った液体弾の弾幕を優に凌駕する、怒涛のレーザー弾幕を、彼女が全てかわし切る事は出来ない。

∫ノイ;゚听)ン「グッ――!」

肩口を、二の腕を、脇腹を、太ももを、緑光が掠る度、肌を焼く痛みに姿勢がぶれる。
セントラル・バンクの大金庫に設置される、侵入者撃退用のレーザートラップめいて、高密度な光の格子は、態勢を崩したノインを容赦なく攻め立てる。
ハイウェイの壁まで残り四メートル。後は一息に跳躍するだけという所で、遂にノインの両足を緑の光子が貫いた。

331 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:50:32 ID:legAO0qM0
∫ノイ;゚听)ン「クアッ――!?」

もんどりうって、前のめりに転がるノイン。
その腕から、アタッシュケースが転がり落ちる。
瞬間、彼女の周囲を衛星めいて張り付き光線を浴びせていた髑髏の一つが、ふわりと飛び込み、アタッシュケースの取っ手をその顎で咥えた。

【+  】ゞ゚)「ゲッチュー!ミーチュー!ナイストゥーミーチュー!」

20メートル程離れた位置で、棺桶にもたれかかったオサムの下へと、アタッシュケースを咥えた髑髏が即座に舞い戻る。
枯れ枝のような指を伸ばしてアタッシュケースを受け取ったオサムは、強化ポリカーボンの表面を愛おしげに撫でると、ノインに向かって片目を閉じて見せた。

【+  】ゞ゚)「惜しかったわぁん。ホント、惜しかったワヨ、アナタ。でもま、決着は決着ってことで。恨みっこなーしよ?」

∫ノイ#゚听)ン「こ…のっ――!」

倒れた姿勢のままで振り返り、ノインが左腕を上げる。
緑光が閃き、その左腕が千切れ飛んだ。

【+  】ゞ゚)「アナタみたいな子、アタシすっごく好みヨ。好みだから、ホントはこんな事するのイヤなんだけど……」

アヒルのように唇を尖らせるオサム。
直後、髑髏の群れが一斉に緑光を吐きだし、ノインの胴体を無数の光子の矢が貫いた。

332 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:51:37 ID:legAO0qM0
∫ノイ;゚听)ン「カッ――ハッ――!?」

目を見開くノイン。
その口から、無色透明に近い、白濁した血液がごぼりと溢れる。

【+  】ゞ゚)「オヤスミ、ロリータ。せめて、違う形で逢いたかったワ……」

両膝を着き、前のめりにアスファルトへと倒れ込むノイン。
レースのハンカチを噛んで芝居めかした仕草でそれを見やると、オサムは背後の棺桶の蓋に手をかけた。

【+  】ゞ゚)「サテ、頂くものも頂いたし、アタシはこれでオサラバさせて貰うわン。
        “悲シイ別レ”を経験して、オサムは精神的に強くなるのでした――なんつってん♪」

(#、メトソン「――ッ」

まるでそれに待ったをかけるように、今まで片膝立ちの姿勢で事態を静観していたトソンが立ち上がった。

('、`*;川「だ、だから今立ったらダメで――」

トソンの下半身に縋りつくペニサス。
振り返らず、トソンはそれを振り払って言った。

333 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:52:47 ID:legAO0qM0
(#、メトソン「ココで彼を逃すワけニは行キませン。コレは我が社ノ――ひいてはニホンの運命ヲ決すル一大事ナノでス」

濁り、歪んだ電子音声で、呻くようにトソンは言う。
人工表皮の殆んどが剥げ、露出した特殊カーボネイドにもまた穴が空き、内骨格と人工筋肉がはみ出したその姿は、既に半壊の域に達している。
左足首がもげ、首の関節は最早人工筋肉の束だけで繋がっている状態だが、それでも尚彼女は立ちあがり、オサムの方へとその千切れ断面を晒す足を踏み出す。

(#、メトソン「既に救援ハ呼んデあリマす。後ノコトハ私に任せ、お二人ハお逃ゲ下サ――」

その前に、立ち塞がる影があった。

从'ー'从「……」

(#、メトソン「アヤカ様……?」

燃え盛るリムジンの骸を背に、両腕を広げ、唇をきつく轢き結んで立ちはだかる自らの主を、半壊したカメラアイで、トソンは不思議そうに見つめる。

(#、メトソン「申シ訳ありまセンが、そコを退イテ頂けマスカ。
     情けナイこトに、ジャイロが損傷しテいるヨウデ、歩行スルダケデも……」

从'ー'从「――もういい」

(#、メトソン「……ハイ?」

334 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:53:47 ID:legAO0qM0
从'ー'从「もう、良いから。ヴォルフの尻尾は、もういいから」

(#、メトソン「シカシ――」

尚も抗弁しようとするトソン。
その配線が飛び出した顔を真っ直ぐに睨みつけ、ワタナベが言った。

从'ー'从「これは命令よ、トソン。“ヴォルフの尻尾”奪還は一時保留。今は、私達二人の護衛を最優先しなさい」

(#、メトソン「でスかラ、既ニ救援の方はお呼ビ――」

从 ー 从「――トソン!」

その時ワタナベが発した声は、普段の彼女からは予想もつかないような、張り裂けそうな程に震えた大声だった。

从 ー 从「貴方は、何?」

(#、メトソン「……私は――」

从 ー 从「貴方は、アイアンメイデン。特A級護衛専任ガイノイド。そして、私専属の秘書。ならば、貴方が最優先しなければいけないのは、何?」

(#、メトソン「……」

335 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:55:24 ID:legAO0qM0
肯定の意を、沈黙で返すトソン。
その横を通り過ぎるワタナベ。

从 ー 从「それで良いの。今は、それで……」

('、`*;川「……」

自分の方へ向かって歩いてくるワタナベの瞳に、涙の粒が溜まっているのを、
遠くで響くヘリのローター音を聴きながら、ペニサスは確かに見てとった。

【+  】ゞ゚)「おうっとう。こうしちゃいられないわネン。さっさとずらからないとっ♪」

先ほどのトソンの言葉通り、光化学スモッグを切り裂いて遠空から近づいてくる、三十四式オルカの三個編隊。
オサムは髑髏型オービットを自分の頭上に、円形に集めると、足元のアスファルト目掛け、時計回りに緑光を吐かせる。
レーザー光線が穿った孔と孔が罅で繋がり、一つの巨大な円を形成。

【+  】ゞ゚)「それじゃ、オタッシャデー!」

直後、ぼこりという鈍い音と共に、オサムの足元が崩れ、棺桶ごと彼の身体は落下していった。

∫ノイ# )ン「グ…ガッ――逃が――すかッ――!」

最早虫の息かに見えたノインが突如として立ちあがり、後を追うべくして駆けだす。
白濁した血に塗れた彼女の上半身から炎が立ち上り、その背中からずるりという音と共に、赤銀色の竜の翼が飛び出した。

336 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:56:53 ID:legAO0qM0
∫ノイ#゚听)ン「AAAAARRRAAHHAAAAATH!」

自らの身を緑色の炎で包んだノインは、オサムが空けた穴へ向かって飛びこむ。
その様子を遠目に見つめながら、ペニサスは呆けたようにその場にへたりこんでいた。

('、`*川「……」

遠耳に聞こえる、サイレン、ヘリのローター音、人々の叫び声。
傍らに立ち尽くすワタナベの、険しい表情。
ボロボロになりながら、それでもワタナベの傍らに寄り添って立つトソン。

今日は、あまりにも多くの事が起こり過ぎた。ペニサスは、ぼんやりと考える。
昨日まで、何も知らない市居の新社会人でしかなかった自分には想像がつかない様な、あまりにも多くの事が起こった。
どうして自分達は襲われたのか。ワタナベとは。ヴォルフの尻尾とは。ブラウナウバイオニクス。竜のようなバイオテクノロジーの怪物。そして、最後のあの蛇のような男。

恐らくは、自分みたいな愚鈍な女が考えた所で、どうしようもない事なのだろう。
今はただ、少なくとも今日はもう銃声を聞かなくて良い事だけが救いだ。

(#、メトソン「――到着、シマシタネ」

首関節を軋ませながら、トソンが上空でホバリングする三十四式オルカを見上げる。
ヘリのシートに座ったら、死んだように眠ろう。
ハイウェイの上に降りてこようとするヘリのタラップが開くのを観ながら、ペニサスはそう思った。

337 名前:執筆チーム ◆fkFC0hkKyQ:2012/08/27(月) 14:58:37 ID:legAO0qM0

 

 

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