- 55
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2010/02/06(土) 22:02:40.54 ID:K6n7isFS0
- epilogue
――大深度リニアの改札を抜けると、人の波が押し寄せてくる。
スーツ姿のビジネスマン、サイケデリックな格好をした若者達。
数日ぶりに戻ってきたVIPは、何時もと変わらない無関心さでオレ達を迎えた。
o川*゚ー゚)o「……」
スーツケースを引きずり、人混みの中を駅の出口まで三人、歩く。
ここに至るまで、誰一人として口を開くことは無かった。
('A`)「……さ、着いたぜ」
駅のロビーまで来て、オレは立ち止まる。
目の前には、ニューソク区へと続く自動ドア。
これを抜ければ、オレの仕事はそこまでだ。
護衛対象は健在。ハインの方の報酬とも合わせれば、ここ最近の平均収入を二桁も上回る程の儲けになるが、オレはそれに対して何ら感慨がわく事は無かった。
o川*゚ー゚)o「……」
隣に立つ依頼人も、オレと思うところは同じなのだろう。
無表情でスーツケースを握る彼女の心は、まだあの灼熱の太陽の下にあるに違いない。
- 56
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2010/02/06(土) 22:04:40.63 ID:K6n7isFS0
- o川*゚ー゚)o「ねえ、どっくん」
('A`)「ん?」
o川*゚ー゚)o「やっぱり、私、こんなのは間違ってると思う」
思いつめた表情で、彼女は力強く呟く。
o川*゚ー゚)o「一部の、力を持った人たちだけが得をするなんて、こんなの絶対に間違ってる」
「渡辺の遣り方」を初めて目にした事で、彼女の中の決意はより強く固まったのだろうか。
o川*゚ー゚)o「こんなの、絶対に許しちゃいけないんだよ」
甘い、と切って捨てるのは簡単だ。君一人でどうにか出来るものじゃない、と言い切るのは簡単だ。
('A`)「……そうか」
だが、キュートには、今のままのキュートで居て欲しいから。
オレは何も言わずに、その横顔を横目に見るだけに留めた。
- 57
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2010/02/06(土) 22:07:35.14 ID:K6n7isFS0
- 駅を出てすぐのロータリーでタクシーを拾うと、オレ達は向き合う。
o川*゚ー゚)o「…この数日間、本当にお疲れ様」
('A`)「ん、ああ」
気の利いた言葉もかけられず、オレはただ、途切れる事の無い人波のうねりの中で馬鹿みたいに立ち尽くしていた。
o川*゚ー゚)o「報酬は、今、口座の方に振り込んでおいたから」
('A`)「……ん」
o川*゚ー゚)o「……」
所詮、依頼人と何でも屋の関係。
タクシーの扉が閉まれば、オレ達は明日から別々の道を歩き始める。
どうしてだろう。それなのにオレは、何かを期待していて。
元から住む世界が違う筈の、彼女を前にして、オレは自分でもわからない「焦り」に戸惑っていた。
o川*゚ー゚)o「……それじゃ、お元気で」
('A`)「……ああ、そっちも」
名残惜しげにキュートがドアを閉める。
その寸前。
- 58
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2010/02/06(土) 22:09:26.76 ID:K6n7isFS0
- o川*゚ー゚)o「…また、会えるかな?」
本当に、彼女がそう言ったのかどうかはわからない。
('A`)「ああ、多分な」
だからオレも、不確かな答えを、去っていくタクシーに向かって返した。
从 ゚ー从「……」
相棒が、どこか嬉しそうな顔でオレを見つめている。
急に恥ずかしくなったオレは、スーツケースの取っ手を掴んで歩きだした。
从 ゚∀从「不思議なこともあるものだ」
('A`)「何が?」
从 ゚∀从「それともこれが、俗に言う“人生に三度あるモテ期”とやらだろうか」
('A`)「はぁ?」
从 ゚∀从「だとしたら、このチャンスを逃すなよ。貴様の低すぎるステータスを補う為に、三という回数は一度のモテ期を形成するのに全てつぎ込まれている可能性が高い。恐らく、次は無いだろう」
('A`)「どういう計算式だよそれ」
从 ゚∀从「貴様のステータスはマイナスだから、先ずはそれをゼロにまで持ってくるのに一つ。ゼロから世間一般標準まで持ってくるのに更に一つ。最後の一つの後押しで、やっとモテ期到来というわけだ」
- 59
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2010/02/06(土) 22:11:19.51 ID:K6n7isFS0
- 何を言い出すと思えば、このロボ娘は。
(*'A`)「……そういうんじゃねーよ」
从 ゚∀从「そうか?いや、そうだろうな。貴様が女性から好意を寄せられるには、モテ期が十回有っても足らんだろう」
(#'A`)「……」
相変わらずの毒舌に閉口しつつも、オレはふと、気になる事を思い出して相棒を振り返った。
('A`)「そう言えば、結局“ヴォルフの尻尾”って何だったんだよ?なんか一人で納得してたみたいだけど……」
从 ゚∀从「ん?ああ……そうだったな」
珍しく歯切れの悪い相棒に、オレは首を傾げる。
今となってはそれが何なのか知ったところでどうしようもないが、こういう反応をされるとどうしても聞きたくなってしまう。
('A`)「なぁ、何なんだ?」
从 ゚∀从「“高貴なる狼”を、ドイツ語で何というかわかるか?」
('A`)「分るわけないだろうが。底辺高卒なめんな」
- 60
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2010/02/06(土) 22:13:38.99 ID:K6n7isFS0
- 从 ゚∀从「……アドルフ。“高貴なる狼”をドイツ語に訳すと、そうなる」
('A`)「ふーん…それで……?」
从 ゚∀从「ここまで言って、貴様はまだわからんのか?ドイツでアドルフと聞いて、何も思いつかんのか?」
鋭い眼光に睨まれ、オレは慌てて頭の中の引き出しを引っかき回す。
('A`)「えーと、アドルフ、アドルフ……!?」
記憶の中を捜すまでも無い。
その名前は、世界中の誰もが知っている程の、有名人のそれだ。
从 ゚∀从「データベースによると、“ヴォルフ”とは、一時期彼が使っていた偽名だそうだ」
(;'A`)「じゃあ、あの小箱の中身は……」
从 ゚∀从「恐らくは、彼の遺伝子情報か何か、だろう」
世界を動かすだけの力、とジョルジュは言ったらしい。
“彼”の遺伝子情報などが残っているとして、それの使い道は限られている。
即ち、“カリスマの再臨”か、“カリスマの量産”か。
- 62
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2010/02/06(土) 22:15:58.40 ID:K6n7isFS0
- (;'A`)「…オレ達は、とんでもねえものを、とんでもねえ奴に渡しちまったんじゃないのか?」
从 ゚∀从「どう、だろうな」
渡辺が、何を企み“彼”の遺伝子情報を欲したのかは分からない。
オレに言えるのは、間違いなく碌な事じゃない、という憶測だけだ。
(#'A`)「くそったれ…こうなるって分ってれば……」
自分の迂闊さに、歯噛みする。
何時だってオレは、奴の掌の上で踊るだけの道化なのだ。
世界は何時もオレの知らない所で動いていて、歯車が噛みあう音を聞いた時には、何時も手遅れで。
無知で無力なオレは、握りしめた拳を、ただ、力無く下ろすことしか出来なくて。
从 ゚∀从「まぁ、私達には関係の無い事だ。今更どうにも出来る事など――」
今までのオレなら、そう言って項垂れていただろう。
( A )「……許せねぇ」
从 ゚∀从「…ドクオ?」
(#'A`)「こんなの、許していいわけねぇだろ!」
オレは、握りしめた拳を更に強く握った。
- 63
名前: ◆fkFC0hkKyQ
:2010/02/06(土) 22:18:27.76 ID:K6n7isFS0
- (#'A`)「これ以上、あの女狐の好き勝手にさせてたまるかよ!許せねぇ…絶対に、許しちゃいけねえ……」
非力なオレに、無知なオレに、何が出来ると言われても、この怒りは収まらない。
あのおめでたいくらいに甘ちゃんな女の影響だろうか。
気付けば、長年を連れ添った「諦め癖」は、どこかへとなりを潜めていて。
(#'A`)「……ぶん殴る。絶対に」
世界がどうなろうと、知った事ではない。
あくまでオレは、オレの怒りのままにあの女をぶん殴る。ただ、それだけだ。
('A`)「何時か…近いうちに、必ず、その面に一発かましてやる」
遠く、ラウンジの空に聳える渡辺のアーコロージーを睨み、歩きだす。
从 ゚∀从「ドクオ……」
相棒が、淋しげにオレの名を呼んだ事を、その時のオレは、知る由も無かった。
‐fin‐
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