11 : ◆fkFC0hkKyQ :2009/12/11(金) 22:58:19.40 ID:ZnWWnohkO
disc 10. ヴォルフの尻尾



“Sadistic,surgeon of demise

 Sadist of the noblest blood

 Destroying,without mercy”



……Angel of Deth/SLAYER
16 : ◆fkFC0hkKyQ :2009/12/11(金) 23:02:12.31 ID:ZnWWnohkO
prologue

──頭上に輝く灼熱の太陽。一羽の荒鷲がその下を、輪を描きながら飛んでいく。

あれは果たして野生のものであろうか。野生の荒鷲など、いったいどれほど残っているのだろうか。

そう考えると気が遠くなってきたので、私は目下の問題を見据えるべく首を戻した。

暗い穴蔵。そこから望む、炎天下の荒野。砂と、岩と、時折転がる根無し草。
見渡す限り荒涼とした景色が広がる中では、生命の息吹など感じられぬが、ここにはまだ確かに生きるものが存在するのだ。

ムバラク砂漠。

迫撃砲の轟音が大気を震わせ、戦士たちの怒号が熱砂に消えていく。それが私の故郷だ。
18 : ◆fkFC0hkKyQ :2009/12/11(金) 23:04:19.65 ID:ZnWWnohkO
「“紅の砂蜥蜴”から通信!メインモニターに繋ぎます!」

伝令兵の声が、狭い穴蔵の中に響く。
横たわる傷病兵達をまたぎ、低い天井から垂れ下がった義体パーツや重火器をくぐりながら、私は大ホールへと進んだ。

『──の──地を発──りっ!繰り返──』

液晶ディスプレイに映し出された不鮮明なヴィジョンにノイズが走る。
今までだましだまし使ってきたが、そろそろこいつも限界かと思うと溜め息が漏れそうだ。

|::━◎┥『漏レル…ワケガナイカ…』

( ※∨゚)「シャー・アーラ。どうかされましたか?」

私の独り言を聞いていたのか。
知らぬ間に、同士の一人が脇に寄り添うように立っていた。
20 : ◆fkFC0hkKyQ :2009/12/11(金) 23:06:18.96 ID:ZnWWnohkO
|::━◎┥『イイヤ……』

側頭部のアイカメラから送られてくる、同士の映像。
顔面の半分を屑鉄のそれに置換した彼は、先日の遭遇戦で右腕を失ったと聞く。
義体パーツの在庫が無いと言う衛星兵に対して、彼は「シャーと同じでいい」とのたまったそうだ。

周りの同士達を改めて見回す。
決起当時は全員が“生身(ウェット)”だった筈の彼等も、今では一昔前の映画(ホロ)に出てくる機械化師団(マシントルーパー)の様相を呈していた。

( ※∨゚)「……神よ」

旧時代のディスプレイを前に、彼は目を閉じる。
周りの同士達が同じ様に祈りを捧げる中、ノイズがかった音声通信が明瞭さを取り戻した。
22 : ◆fkFC0hkKyQ :2009/12/11(金) 23:08:12.69 ID:ZnWWnohkO
『こちら“紅の砂蜥蜴”!繰り返す!我、大敵の前哨基地を発見せり!我、大敵の前哨基地を発見せり!』

私の周音マイクがいかれていたわけでは無い。
聞き取りづらいながらも、その声は確かにそう言っていた。

( ※∨゚)「シャー……!」

|::━◎┥『……』

同士の差し出したインカムを受け取り、発声機関に近付ける。

|::━◎┥『司令部より、“紅の砂蜥蜴”へ。本隊到着まで、貴隊は現状を維持せよ』

同士達が私の言葉に唾を飲む音を周音マイクが拾った。回線の向こうで息を呑む音がした。

23 : ◆fkFC0hkKyQ :2009/12/11(金) 23:10:12.44 ID:ZnWWnohkO
今では嗅ぐことも叶わない熱砂の匂いに思いを馳せながら、私は“開くことのない口を開き”言った。

|::━◎┥『──コード306に従い、“砂嵐を待て”』

十数年ぶりに聞く歓声が、塹壕内をどよもした。

戻る

inserted by FC2 system