(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです
- 1 名前: ◆wPvTfIHSQ6:2018/08/23(木) 01:38:11 ID:qgB33Ij20
-
▼シリーズ過去作
(´・ω・`)は偽りの香りを見抜くようです+α
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwari.htm
(´・ω・`)は偽りの根城を突き止めるようです+α
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariII.htm
(´・ω・`)は偽りの絆をつなぐようです
http://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIII.htm
逃亡しないことを祈ってる
あと作中に過去作に登場した人物の名前が出たりしますけど
特に描写がなければまったくの別人物だと思ってください(スターシステム)
シリーズに複数回登場したAAがかぶることはないです
- 2 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:41:05 ID:qgB33Ij20
-
┏━─
四月二十五日 午前〇時三分 市営地下鉄
─━┛
( 、 'トソン 「……」
生まれて初めて、飲みというものを経験した。
お酒を飲んだことはおろか、アルコール検査すらしたことがない。
もとより男子と話すことはあまりなかった人生、
多少浮かれていたのは認めるが、やはり自分には似合わないと痛感した。
・
(゚、゚'トソン ’
地下鉄が揺れるたびに、吐き気がこみあげてくる。
執拗にキュウケイ、キュウケイとつぶやいてくる男子は、
腹の底からの憎悪を吐しゃ物と一緒にぶちまけることで撒くことができた。
(゚、゚'トソン 「……」
大学って、怖いところだ。
入学して一ヶ月、私は闇を見た。
.
- 3 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:41:34 ID:qgB33Ij20
-
地下鉄、それも終電だ。
ひとがいなければソファーに座りたい、などと思っていたのが、
なんと街の地下は日をまたいでも人でいっぱいのようである。
派手な見てくれの人も多い。
きっと、夜の街を楽しんだ帰りなのだろう。
目を逸らすなトソン、自分も同類なんだ。
(゚、゚'トソン 「…」
スマホをいじれば、多少は吐き気が収まる。
明日は一限からだ。
トソン、人生初のサボタージュを実行に移そうと思う。
(゚、゚'トソン 「…」
服に煙草の臭いが染みついている。
待て、そういえばおかしい。
私は、度重なる浪人時代を経て成人しているものの。
飲みにきた男子は皆、十八のはずだ。
もう忘れよう。
次の駅で、見慣れた景色が目に飛び込んでくるのである。
.
- 4 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:42:37 ID:qgB33Ij20
-
いや、まだ引っ越して一ヶ月だった。
男子はおろか、友人すら呼んだことがないアパート。
日頃は張り切って自炊をしているはずなのに、
今日の日に限って私は、料理を作り置きしていない。
明日朝起きたら、なるったけ健康にいいブレイクファーストを作るのだ。
そうしたら、ああ、昨日は疲れた。
しばらく酒は見たくもない。
そういえば、一緒に授業を受けている友人一向にサボリを告げなければ。
こんなにも疲れているというのに、続々と明日の予定が浮かんでくる。
(゚、 'トソン 「…」
かくん、かくんと首が座らない。
視界の端では、つり革を握っていた乗客がひとり、膝からくずおれた。
少しノイズが聞こえると、女性の、文字にならない悲鳴が響き渡った。
(゚、 'トソン 「…」
車両の、先頭のほうだ。
人ごみに溢れているため、詳細には見えない。
ただ、ある点を中心に不自然な空間がつくられていっているのはわかった。
人が、倒れたようだ。
.
- 5 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:43:03 ID:qgB33Ij20
-
私もつられて、倒れそうになった。
腹の底にたまった憎悪を吐しゃ物と一緒にぶちまけたいのだ。
しかし、どうにも事情が違った。
酔っているはずの私の脳が、少しずつ冴えわたっていくのがわかる。
冴えわたっているのではない。
血の気が引いていっているのだ。
そのくずおれた乗客を中心に、赤い円が広がっていくのだ。
(゚、 'トソン
(゚、゚'トソン
吐しゃ物から逃れるかのように、
周囲の人はその円から逃れようとする。
ほどなくして、私の近くにいた泥酔していない乗客たちも皆、視線をそちらに向けた。
立ち上がったり、スマホを構えたり、周囲の初対面の人と話したりしている。
(゚、゚'トソン
(゚、゚トソン
香りは、しない。
ただ、見覚えのある色合いはしていた。
あれは血だ。
.
- 6 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:43:33 ID:qgB33Ij20
-
(゚、゚トソン
事件だ。
そう思った直後に、扉は開かれた。
私の目的地に着いた。
しかし、当分帰れそうにはなかった。
冴えわたった脳裏を、ちらり。
懐かしい面影が、顔を出した。
.
- 7 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:43:55 ID:qgB33Ij20
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- 8 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:44:15 ID:qgB33Ij20
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- 9 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:44:37 ID:qgB33Ij20
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イツワリ警部の事件簿
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- 10 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:44:59 ID:qgB33Ij20
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イツワリ警部の事件簿 File.4
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- 11 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:45:20 ID:qgB33Ij20
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イツワリ警部の事件簿 File.4
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- 12 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:45:41 ID:qgB33Ij20
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イツワリ警部の事件簿 File.4
(´・ω・`)は偽りの香りを
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- 13 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:46:16 ID:qgB33Ij20
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イツワリ警部の事件簿 File.4
(´・ω・`)は偽りの
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- 14 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:46:37 ID:qgB33Ij20
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イツワリ警部の事件簿 File.4
(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです
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- 15 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:47:33 ID:qgB33Ij20
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→ttps://www.youtube.com/watch?v=nz6TD2i-9ko
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- 16 名前:>>15訂正:2018/08/23(木) 01:48:52 ID:qgB33Ij20
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- 17 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:49:19 ID:qgB33Ij20
-
◆
かつての喧騒はどこへやら、
旧都ヴィップは郊外同然の田舎模様へと姿を変えた。
データで見ても明らかなように、
ヴィップからソーサク、やがてファイナルへと人は栄華を求め居住地を移していった。
.
- 18 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:49:39 ID:qgB33Ij20
-
(´・ω・`) 「殺人?」
女将 「××駅でよ」
(´・ω・`) 「やーーめてくれよ」
(´・ω・`) 「最近、やっと休み取れてきたのに」
当然、人が多いところには犯罪も集まる。
連日、痴漢や強盗、殺人が巻き起こる。
女将 「なんでい」
女将 「ボンちゃん、聞いてないのかい」
相対的に、田舎と化したヴィップの犯罪件数は減少の一途を辿っていった。
しかし、人のいるところに犯罪は起こる。
いくら罰則を強めても、やる者はやるのが世の常だった。
.
- 19 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:50:21 ID:qgB33Ij20
-
(´・ω・`) 「ボンちゃん聞いてなーい!」
女将 「なんでい、ヴィップでコロシよ?」
(´・ω・`) 「だいたいのヤマは、所轄がすべて済ましちまうんだよ」
(´・ω・`) 「最近の僕らの仕事はね、情報提供くらいだね」
ただ、僕は正義を目指して刑事になったのではない。
まして、仕事が大好きなタチでもなかった。
女将 「あたしも、いい情報やろうか。 いま三十で、ホテル勤めなんさけどさ」
( ;´・ω・) 「いーから!」
女将 「サトミちゃんとはうまく行ったの?」
(´・ω・`) 「はん!」
酒と煙草、それと軽口をぶつける相手。
僕の大切なものベストスリーに、仕事が付け入る隙はない。
.
- 20 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:50:49 ID:qgB33Ij20
-
(´・ω・`) 「仕事より酒を優先する僕だけどね」
(´・ω・`) 「女よりは仕事をとるのさ」
女将 「でも、次の子はいいよ」
女将 「マ、三十まで独身なんだから言うまでもないんだけど、この子も仕事がダイジで…」
( ;´・ω・) 「あい、勘定!」
殺人があった。
オフにそんな話を聞かされて、僕が興味を持つわけがない。
更なる話を聞かまいと財布を出すと、女将が止めた。
もっとも、事件の話を掘り下げるわけではないようだが、
なんにせよ、あまり聞きたくない話には違いない。
女将 「待ちな、財布しまいなよ。 堅物な人がタイプっていうからさ、」
女将 「ほら、ボンちゃんのこと警部ッたら、ちょっと揺らいだみたいで、」
(´・ω・`) 「堅物? 僕が?」
(´;ω;`) 「ぶひゃひゃ! そいつァ面白い!」
.
- 21 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:51:26 ID:qgB33Ij20
-
(´・ω・`) 「勘定!」
女将 「写真だけ! 写真だけ見てごらんって!」
なんにせよ、なんにせよ。
僕の長財布と女将のフォトブックを閉じて、僕は店の戸を閉めた。
出た瞬間に、忘れかけていた冷たい風に頬を撫でられた。
高ぶっていた酔いが、一瞬で醒める。
(´・ω・`) 「僕を何歳だと思ってんだ…」
胸元に手を伸ばす。
夜風には煙草が相場なのだが、あいにく煙草は切らしたばかり。
代わりのキャンディーを口に放り、トレンチに手を突っ込んで帰路につく。
ここ数日の、僕のライフスタイルだった。
胸元には煙草、右ポケットには煙草代わりのキャンディー。
携帯するのは、ジッポと警察手帳。
まだ忙しかった数年前と比べて、いやに堕落した毎日を送っているなと自分を毒づく日々。
これでもまだ、僕は刑事を続けていた。
.
- 22 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:52:43 ID:qgB33Ij20
-
酔いを噛みしめ、帰ってからテレビをつけるまでがライフスタイル。
ただ今日に限り、それは怠った。
ひょっとすると、さっき女将が言っていた殺人とやらが報道されている可能性がある。
報道されるということは、それなりに大きな事件だ。
となると、僕の耳にまで情報が飛んでくる。
現時点で何もない以上、まだ大丈夫な事件だとは思うのだが。
それでも、僕はあまり、事件に首を突っ込みたくないのだ。
(´・ω・`) 「はあ」
おじさんになって独身。
仕事もそこそこの地位についている。
狭いが贅沢なマイホーム、広めに作らせたベランダに出て就寝前の一杯を楽しむ。
これでいい。
もとより、正義感が強いから刑事になったのではない。
気が付けば刑事になって、気が付けば警部になっていた。
ただそれだけなのだ。
帰り際に口に含んだキャンディーを、噛み砕く。
禁煙用に買い始めたのだが、意外とチェーンスモークのお供として優秀だった。
塩見製菓から取り寄せている、花の香りに拘った飴だ。
(´-ω-`)
っ’・
( ´・ω・)y-~~
.
- 23 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 01:54:00 ID:qgB33Ij20
-
田舎ヴィップの夜空は、しかし星がうかがえない。
しかし、静かだ。
こんな夜空のもと、今日もどこかで事件は起こっているのか。
( ´・ω・)y-~~
明日も出勤だ。
早々、ヤマを持ち込まれないことだけを祈る。
( ´・ω・)y-~~
いい風だ。
今日は深い眠りにつけそうだ。
.
- 24 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:00:17 ID:qgB33Ij20
-
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- 25 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:00:37 ID:qgB33Ij20
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?逢 !
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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
序幕 「 予告 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
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- 26 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:01:40 ID:qgB33Ij20
-
┏━─
五月二日 午前九時四二分 捜査一課
─━┛
( <●><●>) 「捜査一課」
電話が鳴った瞬間に、ワカッテマスが応じた。
雑務を片手に、淡々と相槌を入れていく。
( <●><●>) 「…いや、扱ってはいないですね」
( <●><●>) 「…それは、いつ?」
(´・ω・`) 「なァー」
(´・ω・`) 「それ先週の案件だよな?」
('、`*川 「わかってますゥー」
ヴィップに籍を持つ容疑者の情報提供。
目下三ヶ月の事件との照合。
警視庁から寄せられる数々の要求は、
事件が少ないはずの捜査一課を翻弄するのに十分すぎる量だった。
.
- 27 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:02:01 ID:qgB33Ij20
-
( ゚д゚) 「…」
(´・ω・`) 「先輩を見習えよ」
('、`*川 「だったらパソコンの使い方教えてくださいよ」
('、`*川 「先輩でしょ」
(´・ω・`) 「こッ…僕は上司だぞ…!」
ちょうど雑務を終えて、ふとテレビに目をやったぎょろ目は、
そのままニュースが淡々と報じる内容に釘づけになっていた。
('、`*川 「だいたい、こういうのは下っ端の仕事じゃない?」
('、`*川 「あいつにさせりゃあいいじゃない。 ワカは何やってんのよ」
(´・ω・`) 「本来あんたがするはずだった仕事の三つ目」
('、`*川 「…」
(´・ω・`) 「と、電話対応」
('、`*川 「…」
.
- 28 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:02:25 ID:qgB33Ij20
-
,_
('へ`*川 「やりゃーーいいんでしょ!ハイ!」
( ゚д゚) 「ちょっといいですか」
(´・ω・`) 「ん。 なに。 パソコンはだめだぞ」
( ゚д゚) 「見てください」
(´・ω・`) 「ん?」
ペニーの相手は面倒だ。
捜査一課には、機械に強いのがワカッテマスと壁しかいない。
ただでさえ人手が足りないショボーン班、壁は絶賛有給中だ。
( ゚д゚) 「ご存じですか」
( ゚д゚) 「地下鉄の、アレ」
(´・ω・`) 「…?」
ニュースの映像には、やれ予告だの、やれ連続だの、
といったよくわからない文字が躍っていた。
しかしそのどちらにも、続けて殺人、と出ている。
.
- 29 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:02:57 ID:qgB33Ij20
-
( ゚д゚) 「続いてるんですよ」
(´・ω・`) 「何が」
( ゚д゚) 「同一犯による、コロシですよ」
(´・ω・`) 「…」
( <●><●>) 「警部」
(´・ω・`) 「なんだ」
( <●><●>) 「ご存じですか」
( <●><●>) 「先週あった、地下鉄の、アレ」
(´・ω・`) 「なんだよ!」
( ゚д゚) 「車両内で…ッてやつか?」
( <●><●>) 「ええ。 …ちょうど、報道もされていますね」
- 30 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:03:33 ID:qgB33Ij20
-
手際よく資料を手に取って、僕とぎょろ目の間に割って入った。
なんだよ。 やめてくれよ。
嫌な予感しかしない。
( ゚д゚) 「予告殺人…だな?」
( <●><●>) 「いま、所轄からその件で」
(´・ω・`) 「…」
改めてニュースに目をやる。
ヴィップの某所で、続けて同一犯による殺人予告が寄せられてきたらしい。
一件目は、市営地下鉄。
二件目は、どうやら駅前のビジネスホテル。
( <●><●>) 「明日、十九時から開演するあるライブで」
( <●><●>) 「観客のうち一名を、殺すとの予告が会場に届いたようです」
(´・ω・`) 「なに?」
.
- 31 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:04:20 ID:qgB33Ij20
-
('、`*川 「なになに」
('、`*川 「ヤマ?コロシ?」
機械作業を投げたペニーまで首を突っ込んできた。
嫌な予感しかしない。
というか、もう的中しているようだ。
( ゚д゚) 「詳しく聞かせろ」
( <●><●>) 「とりあえず、こちらを」
ワカッテマスは、裏紙に走らせた直筆のそれを見せた。
日時、場所、概要などが、几帳面な字で書かれている。
( ゚д゚) 「…」
(´・ω・`) 「出動申請は」
( <●><●>) 「現在状況確認中とのことで」
(´・ω・`) 「手短に、簡潔に教えろ」
( <●><●>) 「はい」
.
- 32 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:04:52 ID:qgB33Ij20
-
嫌な予感、嫌な予感、と言っていられる余裕は、なくなった。
どうやら、もう僕たちはひとつの事件に巻き込まれているようだった。
( <●><●>) 「明日、五月三日」
( <●><●>) 「ヴィップスタジアムで、あるアーティストのライブが開催されます」
( <●><●>) 「十九時開演、そしてライブ中に観客を殺す、と」
( ゚д゚) 「会場宛てに」
( <●><●>) 「ええ」
赤ペンで、ワカッテマスが線や丸を書き足していく。
( <●><●>) 「媒体ははがき」
( <●><●>) 「消印から出所は特定していますが、その他は調査中」
( <●><●>) 「ここまでは、殺人予告の案件です」
.
- 33 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:05:48 ID:qgB33Ij20
-
( ゚д゚) 「肉筆か?」
( <●><●>) 「はい」
( <●><●>) 「そこで、この…」
ワカッテマスが、一瞬視線をニュースに向ける。
先週起こった地下鉄殺人事件、続けて起こったビジネスホテル殺人事件。
これらはどちらも、同一犯による殺人予告が届いていた。
筆跡を照合したところ、同一人物によるものであることが認められている。
( <●><●>) 「一連の事件が噛んできます」
(´・ω・`) 「…」
( <●><●>) 「照合中でこそありますが、」
( <●><●>) 「肉眼でもわかるほどには筆跡が酷似しているため、」
( <●><●>) 「同一犯のものと見て間違いはないかと」
(´・ω・`) 「続けろ」
.
- 34 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:06:43 ID:qgB33Ij20
-
( <●><●>) 「一件目は、陽動と思いつつも所轄が対応」
( <●><●>) 「しかし、駅や時刻まで明示されてなかったためか、防げず」
( <●><●>) 「二件目も、所轄やホテルの制止を振り切った害者が宿泊したのですが、」
( <●><●>) 「常備薬に細工が施されていたようで、即死」
赤ペンによるバツ印が増えていく。
( <●><●>) 「本件、これを受けたヴィップスタジアムは所轄まで通報」
( <●><●>) 「現在、ライブ中止などをアーティスト側に要請しているようです」
( ゚д゚) 「で、今回のはがきが?」
( <●><●>) 「PDFで送られています」
二枚目の紙を指さす。
多少癖のある字体で、殺人予告が書かれている。
「五月三日、十九時より開演される渋沢栄吉のライブ中に、観客一名を殺す」
しかし、何という名前の人物を殺すか。
何分頃に、どうやって殺すか。
そういった具体的なところは伏せられていた。
.
- 35 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:07:06 ID:qgB33Ij20
-
(´・ω・`) 「対応は」
( <●><●>) 「まず、ライブ中止要請」
( <●><●>) 「捜査本部も本日正午に立てられます」
( <●><●>) 「報道規制も一応要請はしていますが、こちらは望み薄」
正午。
あと二時間もない。
('、`*川 「正午ね。 オッケー」
というと、ペニーは席を立った。
もう何も言うまい。 勝手にコーヒーを淹れだすのだ。
(´・ω・`) 「午後の檀家まわりは中止だ。 まわしとけ」
( <●><●>) 「もう回してます」
(´・ω・`) 「そ、そう…ありがとよ」
('ワ`*川 「え、檀家まわり中止? やった!」
.
- 36 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:07:41 ID:qgB33Ij20
-
ペニーが、二つ、三つとコーヒーを淹れていく。
見かねたのか、ぎょろ目はポケットに手を突っ込みながら席を立った。
煙草の合図だ。
( ゚д゚) 「失礼」
(´・ω・`) 「僕もいく」
('、`*川 「え、ちょ、ちょっと」
('Д`*川 「警部のぶんも淹れて……ちょーーい!」
( <●><●>) 「地下鉄、ビジホの資料、刷っといてくれ」
,_
('へ`*川 「あんたの仕事じゃないの!?」
( <●><●>) 「私は一課長と話が」
,_
('、`*川 「……わかったよ!」
ペニーが、壁にかけてあった白衣を乱雑にとる。
彼女がスイッチを入れる時、いつも着るコートだ。
.
- 37 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:08:11 ID:qgB33Ij20
-
┏━─
午前十時二七分 喫煙室
─━┛
( -д-)y-~~
( ´・ω・) 「ずいぶんとノッてないじゃないの」
っ‘・
( ´-ω-)y-~~
( ゚д゚) 「…嫌な予感がね、してたんですよ」
(´・ω・`) 「なんのさ」
会議前にこいつと煙草を吸うのは、もう何年前からだろう。
ショボーン班で、唯一僕より年上。
白髪も、ここ数年でかなり増えている。
警部という肩書がなくても、別に敬語を使おうなんて思わないけど。
風格から、実績から、人柄から、一番頼りになるオトコには違いなかった。
千里眼を持つと言われる男、東風ミルナとは、もう長い付き合いなのだ。
.
- 38 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:09:12 ID:qgB33Ij20
-
( ゚д゚) 「ホテル殺人です」
( ゚д゚) 「所轄も、さっさとこっちに振ればよかったのに」
( ゚д゚) 「調査不十分とか言って、投げてこなかった」
(´・ω・`) 「ビジホのって、林ちゃんの管轄でしょ」
(´・ω・`) 「アイツ、僕のこと嫌いだから。 それじゃない?」
( ゚д゚) 「何をおっしゃいますか」
苦い笑いを浮かべる。
備え付けの自販機を眺めながら。
( ゚д゚) 「…何か、思うところはないんですか」
( ゚д゚) 「イツワリさん」
(´・ω・`) 「データが足りない」
(´・ω・`) 「所轄に、丸投げしてたし」
.
- 39 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:09:56 ID:qgB33Ij20
-
イツワリさんなんて呼ばれたの、久しぶりかもしれない。
ここ最近、班で大きな事件に臨むことがなかったからだろう。
警察きってのスーパールーキー、若手ワカッテマスが入ってから、
あまり 「イツワリさん」 っぽいことをしてきた記憶がない。
しかしそれでも、思い出すことは多少ある。
地下鉄、と聞いて思い出すのは、オオカミ鉄道の爆破予告。
あれも思えば、同一犯による連続犯行だったと言える。
ただ、一般の命が奪われることは、なかった。
( ゚д゚) 「そうだ」
( ゚д゚) 「鈴木にも出てきてもらいますか」
(´・ω・`) 「いいよ。 どうせ家でゲームしてんだ」
先見の明に長けた、鈴木ダイオードもあの事件を共にした。
壁、と言いすぎて一課長からセクハラを警告されたのも懐かしい。
.
- 40 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:10:39 ID:qgB33Ij20
-
(´・ω・`) 「最近、あいつずっとサボってるからな」
(´・ω・`) 「あいつに、無理にでも働かせよう」
( ゚д゚) 「ペニーは…」
苦笑を浮かべる。
いわゆる、刑事っぽいこと、とやらがしたくてこの職に就いたそうだが、
蓋を開ければ、九割の雑務と、一割の本命。
週に一回は退職したいと言いたくなるのも無理はないかもしれない。
ヴィップがまだ荒れていた頃は、白衣の女刑事としてちょっとは名を馳せたものだった。
おじさん二人に若い女二人、頭脳派刑事がひとり。
あまり格闘に向いていない僕の班で、ペニサス伊藤だけが腕に自信を持っていた。
( ゚д゚) 「これ以上、始末書、書かせたかないでしょ」
(´・ω・`) 「僕はどォーでもいいけど?」
( ゚д゚) 「…」
格闘もだいじだ、と思い、いろいろなことを教えた。
手錠をメリケンサックよろしく拳にあてがう方法も教えたりはしたが、
ペニーにとっては逆効果だったようで、おととし辺りからだろうか、
「刑事」 による過剰な応戦が、上層部の機嫌を損ねる事態に進展した。
.
- 41 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:11:09 ID:qgB33Ij20
-
もっとも、いる若手の三人目、ワカッテマスも格闘は垢抜けたセンスを持っている。
ドラマのような、過剰で派手で大げさな格闘は不要だ、という気持ちもわかる。
'_
(´・ω・`) 、
(´・ω・`) 「もしもし」
( ゚д゚)y-~~
「そろそろ戻られますか」
ワカッテマスからの、味気ない一言だった。
絵に描いたような天才。
歳不相応に沈着で、頭が切れる。
拳銃の精度も、格闘の心得も持ち、ジョーク以外のセンスは持ち合わせている。
奴から電話がかかってくる時は、得てしてよろしくないことが待ち構えているのだ。
(´・ω・`) 「もーちょいで戻るよ」
煙草を吸いながら、答える。
ワカッテマスは露骨に嫌そうな溜息をこぼした。
(´・ω・`) 「…」
.
- 42 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:11:32 ID:qgB33Ij20
-
もう少し、軽口のひとつ叩ければ人生は楽しくなるのに。
煙草を灰皿にこすり付けて、僕は立ち上がった。
(´・ω・`) 「気が変わったから、いま戻るよ」
'_
( ゚д゚) 、
( ゚д゚)φ
ぎょろ目も立ち上がる。
スーツに付着した灰を、しわの増えた手で払いながら。
(´・ω・`) 「おしるこ」
( ゚д゚) 「え?」
(´・ω・`) 「差し入れ、なに買ってやろうかな、って」
( ゚д゚) 「…」
( ゚д゚) 「イツワリさんらしいっすね」
.
- 43 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:11:55 ID:qgB33Ij20
-
┏━─
午前十時四〇分 第四会議室
─━┛
(´・ω・`) 「ほれ」
( <●><●>) 「…?」
部屋に入ると、ワカッテマスが十枚ほどある資料に目を通していた。
扉の雑に開かれた音を聞いて奴は振り返ったわけだが、
そこにすかさずおしるこ缶を投げつけた。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) ・,
(´・ω・`) 「こッ…こいつ…」
無言で、それも一口で飲み干されたが。
軽口を挟む間もなく、ワカッテマスが目配せした。
( <●><●>) 「連続予告殺人事件捜査本部」
.
- 44 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:12:16 ID:qgB33Ij20
-
( ゚д゚) 「?」
( <●><●>) 「捜査本部の名前…だそうですけど」
(´・ω・`) 「このしょーーもねえネーミングは一課長だ絶対」
( ゚д゚) 「最近一課長、筆がマイブームだそうで」
(´・ω・`) 「くッだらねえ」
ワカッテマスの向かいまで歩いて、資料を一部、拾う。
まだ更新が追い付いていないのか、こちらにはそのナマエはなかった。
しかし、僕の名前は、あった。
( <●><●>) 「なりゆきで、ショボーン班が担当することになったそうです」
(´・ω・`) 「ぶっ」
責任者のところに。
.
- 45 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:12:41 ID:qgB33Ij20
-
( <●><●>) 「とりあえず、復習も兼ねて」
( <●><●>) 「まだ確固たる証拠こそないんですが、便宜上」
( <●><●>) 「地下鉄殺人事件、ビジネスホテル殺人事件につながった連続殺人と見なしています」
( ゚д゚) 「どうせ会議中にでも一報あがるだろう」
( <●><●>) 「マスコミでも、ニューストピックの常連ですね」
( <●><●>) 「警部の思っている以上に、重大な事件です」
(´・ω・`) 「…」
マスコミや上層部とは、ちょっとした因縁がある。
そのせいか、話題性のある、
というかいわゆる貧乏くじは、だいたい僕が引くことになっていた。
.
- 46 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:13:13 ID:qgB33Ij20
-
( <●><●>) 「地下鉄殺人事件」
( <●><●>) 「四月二十五日〇時頃、ヴィップの市営地下鉄○○-××駅間」
( <●><●>) 「フッサール擬古という男が、何者かによって刺殺されました」
( <●><●>) 「死因は失血死、犯人は目下捜索中」
( ゚д゚) 「…」
うなずきながら、ぎょろ目も資料に目を通す。
ここまでは、確かニュースでも報道されていたはずだ。
たとえ見たくないニュースも、捜査一課では常に垂れ流されている。
昨日の朝、コーヒーを飲んでいる時にふと目に入ってしまったのを覚えている。
(´・ω・`) 「走行中、だったな?」
( <●><●>) 「ええ」
( <●><●>) 「ただ、厳密には××駅到着寸前です」
( ゚д゚) 「どう足掻いても、地下鉄だ」
( ゚д゚) 「カメラの目を盗むことはできねえんじゃないのか」
.
- 47 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:14:20 ID:qgB33Ij20
-
ニュースでは、犯人は現場から逃走、としか報じていない。
詳しくは知らないけど、現にこうして 「連続」 殺人と捉えられている以上、
いまもどこかで息を潜めていることがうかがえる。
( <●><●>) 「犯行は、駅に着く直前でした」
( <●><●>) 「駅員が構える前に扉は開かれ、」
( <●><●>) 「カメラが不審な影を捕えることなく、事件は現在まで引き延ばされています」
(´・ω・`) 「マ、乗客に紛れて一緒に出たんだろうな」
( ゚д゚) 「一応、取り調べには引っかかっている、と」
「いえ」
ワカッテマスが、嫌な声で言った。
( <●><●>) 「仕方のないこととはいえ、全体の三割ほどは取り逃がしています」
( <●><●>) 「というのも、現場は終電、翌日も平日です」
( <●><●>) 「駅員の制止むなしく…といった現状ですね」
(´・ω・`) 「だァと思ったよ」
( ゚д゚) 「まあ、最悪カメラには映っているんだな」
( <●><●>) 「最悪、ですが」
.
- 48 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:14:42 ID:qgB33Ij20
-
( <●><●>) 「所轄の報告ですが、」
( <●><●>) 「害者は刺されるような恨みを買う男ではなかったそうです」
( <●><●>) 「金品等はもちろんですが一切盗まれておらず、」
( <●><●>) 「行きずりの犯行とも思えない、といったところ」
(´・ω・`) 「人脈を洗うのは所轄に任せよう」
( ゚д゚) 「この時点で、まあまあ面倒な事件だったわけだ」
話していると、捜査本部の扉が開かれた。
ふと時計を見たが、まだ会議より一時間早い。
('、`*川 「うぃーっす」
(´・ω・`) 「ウッス」
( <●><●>) 「…」
白衣をまとったペニーが、遅ればせながらやってきた。
少し語調を強めつつ、ワカッテマスは続ける。
.
- 49 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:17:55 ID:qgB33Ij20
-
( <●><●>) 「凶器ですが、一般的なペティナイフ」
( <●><●>) 「指紋など有効な手がかりはありません」
( <●><●>) 「出所も、一応調査してはいますが、望み薄ですね」
(´・ω・`) 「凶器で洗い出せる事件なら、所轄がとっくに解決してらあ」
ペニーが、話に加わろうと必死に資料を読み進める。
ナイフの話題が出た辺りで、ああ、と言って得意げな顔をした。
( <●><●>) 「まあ、共有は概要だけでいいでしょう」
( <●><●>) 「続けて、ビジネスホテル殺人事件」
( <●><●>) 「こちらも同じく、ヴィップの事件ですね」
(´・ω・`) 「知ってるよ。 僕も泊まったことあるもん」
( ゚д゚) 「初耳ですな」
(´・ω・`) 「どーーっかで見た名前だな、って思ったんだ」
.
- 50 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:21:09 ID:qgB33Ij20
-
( <●><●>) 「四月三十日、ヴィップの××ホテル」
( <●><●>) 「被害者は、ヒッキー小森という男」
( <●><●>) 「地下鉄同様、ホテル殺人にも予告は出されました」
( <●><●>) 「地下鉄の場合、初、それも公共の場に向けた予告だったので」
( <●><●>) 「対応は難しかったものの、次はホテル宛てです」
( ゚д゚) 「当然、ホテルとしては対応をしたわけだ」
殺人予告の厳しいところは、陽動か否かが掴めないところだ。
だいたいの予告は、犯人を未然に特定して逮捕し、
これ見よがしに報道することで見せしめとするものだが。
ごくまれに、特定されないよう予告を出し、
多少は強化されているはずの警備の網をくぐって本当に殺す人がいる。
続発する殺人予告の一つひとつをクソまじめに対応する警察だが、
ごくまれにあるこういった犯行を許してしまうことで、
国家叩きに飢えているマスコミを活性化させることとなる。
日頃から莫大な費用が、殺人予告に突っ込まれているんだけど。
( <●><●>) 「まず、ホテル側は別のホテルを押さえました」
( <●><●>) 「ホテルが実費負担する、と言ったそうですが、害者はこれを拒否」
( ゚д゚) 「なんだっけ。 確か、予告を鼻で笑ったそうじゃねえか」
.
- 51 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:21:44 ID:qgB33Ij20
-
('、`*川 「でも確かに、鼻で笑いたくなりますよ」
('、`*川 「フツー、ガキの悪戯って思いますって。 このご時世」
インターネットが流行ったことで、未成年の早すぎる社会進出が問題となっている。
殺人予告が横行する背景には、もちろんインターネットの普及は避けて通れない。
(´・ω・`) 「ということは、当然ホテルの害者も、特段殺される理由がなかったわけだ」
( <●><●>) 「現時点では。 そうですね」
( ゚д゚) 「少しでも、殺される心当たりがあるなら、」
( ゚д゚) 「結構素直にケーサツの声を聞くもんだしな」
('、`*川 「でも、犯人は逃げてンでしょ」
('、`*川 「地下鉄と違って、現場はホテル」
('、`*川 「いっっくらでも取り押さえようはあるんじゃないの?」
.
- 52 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:22:20 ID:qgB33Ij20
-
( <●><●>) 「…そうですね」
( <●><●>) 「殺害、という言い方は語弊があります」
( ゚д゚) 「ん?」
ワカッテマスは、資料を直視した。
、 、 、、、、 、 、 、、、、
( <●><●>) 「正確に言えば、害者の死因は、アナフィラキシーショック」
(´・ω・`) 「…!」
( <●><●>) 「害者は喘息を患っていました」
( <●><●>) 「咳止めを飲む習慣があったのですが、これにアレルゲン…」
( <●><●>) 「ピーナッツ、ですね。 この成分が盛られていたようです」
資料に自分で赤マルをつけながら言った。
.
- 53 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:22:55 ID:qgB33Ij20
-
(´・ω・`) 「アレルギー…?」
(´・ω・`) 「臭うな」
('、`*川 「そうですよ」
('、`*川 「ピーナッツの匂いとかでわかりそうじゃない?」
(´・ω・`) 「ちげえよバーカ」
('、`*川 「…ッ」
ペニーが、ぎょろっと僕を睨む。
ぎょろ目、ワカッテマスは、意にも介さない。
(´・ω・`) 「つまり、あれだ」
(´・ω・`) 「犯人は、害者のアレルギーを把握してたんだろ?」
(´・ω・`) 「この時点で、いろいろ話は変わってくる」
( ゚д゚) 「他人のアレルギーなんて、そうそう把握できるもんじゃないからな」
( ゚д゚) 「この、小森といったか、害者と浅くはない関係にあった人物が犯人なのは間違いない」
.
- 54 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:23:24 ID:qgB33Ij20
-
('ε`*川 「知ってますゥー」
('ー`*川 「てか、そンくらい、テレビでもしょっちゅうやってますよ」
(´・ω・`) 「むしろ気になるのは、どうアレルゲンを盛ったか、だ」
( <●><●>) 「そちらについては、もう結果が出ています」
ホテル殺人のそれに添付されていた資料を表にする。
咳止めの写真と一緒に、鑑定結果が載せられている。
( <●><●>) 「ピーナッツオイル、はご存じですか」
('、`*川 「知ってる。 美容にいいんだよ」
( ゚д゚) 「知ってます?」
(´・ω・`) 「知らない…」
.
- 55 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:24:03 ID:qgB33Ij20
-
( <●><●>) 「こいつが瓶内にかけられていたようですね」
( <●><●>) 「害者の担当医曰く、こんなものを経口接種するのはとんでもない、と」
( ゚д゚) 「犯人は、どうにかして害者のクスリに干渉したわけだな」
(´・ω・`) 「…」
殺人予告、ビジネスホテル、アレルギー、常備薬、瓶。
パズルのピースが、次々と形を成していく。
ひとつ目の地下鉄殺人と違い、明確なピースが多数ある。
まして、どれも重要なピースばかりだ。
次から次へと、ピースが成す全体像の候補が浮かび上がってくる。
( <●><●>) 「ホテル、並びに所轄の過失は、」
( <●><●>) 「一件目が刺殺だっただけに、人影ばかりを警戒してしまったことです」
( ゚д゚) 「かといって、未然に防げる案件だったとも思えんな」
( <●><●>) 「まあ、だからマスコミはあまりそこには触れてないんですよね」
.
- 56 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:24:28 ID:qgB33Ij20
-
(´・ω・`) 「解くとしたら、そこからだな」
( ゚д゚) 「何かお気づきで」
(´・ω・`) 「いや…ヒントが多すぎるからな。 かえって難しい」
(´・ω・`) 「たぶん、三日もあれば、それなりな答えは出せると思うんだけど…」
もとの、事件の資料に戻す。
ここまでわかりやすいヒントがいくつもあるのに、
依然犯人が捕まっていないのは気がかりだ。
( <●><●>) 「でしたら、こちらの共有もこれくらいでいいでしょう」
( <●><●>) 「そして、三件目です」
( ゚д゚) 「ライブ宛ての殺人予告、だったな」
( ゚д゚) 「規模は、どれくらいなんだ?」
( <●><●>) 「右肩八ページを」
( ゚д゚) 「ん…」
.
- 57 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:25:18 ID:qgB33Ij20
-
開くと、ライブ主催のアーティストと思しき男の写真がまず目に入った。
どこかで見た記憶のある風貌だ。
( <●><●>) 「渋沢永吉、ご存じかと」
(´・ω・`) 「うっわ世代だ」
('、`*川 「抱かれてバラッド…の人でしたっけ」
(´・ω・`) 「うっわーー…まじか」
ハードボイルドな風体に、ハスキーボイス。
僕が二十代の頃に成り上がった歌手だ。
( ゚д゚) 「結構、どころじゃない規模じゃないか」
(´・ω・`) 「え、次のターゲット、つまり同世代??」
( <●><●>) 「地下鉄、ならびにホテルは三十少しと世代も共通していたのですが」
( <●><●>) 「こうなると、いよいよ面倒な気がしてなりません」
.
- 58 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:26:22 ID:qgB33Ij20
-
数万人規模の、全国ツアー。
いくら厳重な警備を敷こうが、限界がある。
現に、地下鉄からの脱出を許した相手だ。
さすがに、ライブも中止になるはずだ。
( <●><●>) 「しかし、相手が悪かった」
( <●><●>) 「これをマスコミが嗅ぎ付けないわけがありません」
(´・ω・`) 「今はまだ報道されていないけど……」
('、`*川 「マ、帰る頃にはトピックスが増えてるでしょ」
( ゚д゚) 「初回の地下鉄やアレルギー殺人が防げなかったのはともかく」
( ゚д゚) 「ライブ側がこれに応じないわけがない」
(´・ω・`) 「そして、過去二回の過失が浮き彫りになる、と」
.
- 59 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:26:52 ID:qgB33Ij20
-
( <●><●>) 「気になるのは、ホテル殺人」
( <●><●>) 「この時だけ、明確にだれだれを殺す、と名指しだったんですよ」
( ゚д゚) 「計算の上じゃないのか?」
( <●><●>) 「一笑に付すのが目に見えていた、と」
( ゚д゚) 「現に、それで殺されてるからな」
('、`*川 「警部的にはどーなんですか」
(´・ω・`) 「データが足りないな」
(´・ω・`) 「計算の上かもしれないし、あるいは犯行の特異性を裏手に取ったのかもしれない」
( <●><●>) 「出入り口を押さえ、カメラに目を見張ればいい……と思わせて、ですか」
まだ、捜査はまったくしていない。
断言できないいくつもの可能性が顔を出す。
(´・ω・`) 「あるいは、三度目の正直がある」
(´・ω・`) 「三度目こそが、狂言ッてね」
.
- 60 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:27:20 ID:qgB33Ij20
-
( ゚д゚) 「あーー」
ぎょろ目が大きな声でうなずいた。
( ゚д゚) 「ここで話題性を高めて、と」
(´・ω・`) 「わかんないけどね」
( ゚д゚) 「しかし、あり得る」
( ゚д゚) 「犯人と害者たちを結ぶコミュニティがあって」
( ゚д゚) 「そのなかの、渋沢ファンである特定個人に向けたアナウンスとも取れます」
(´・ω・`) 「次はお前を殺すぞ、と」
我ながら、すごく嫌味ったらしい笑顔ができた。
わからないことが多くて、少し嫌な気分になったのだ。
(´・ω・`) 「ニュースはもちろん報道するし、今やSNSでもこの手のニュースは流れる」
('、`*川 「ほぼほぼ、宣戦布告ですよね」
.
- 61 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:27:58 ID:qgB33Ij20
-
( <●><●>) 「さて、その肝心のコミュニティですが」
( ゚д゚) 「害者ふたりの共通点は、まだ?」
( <●><●>) 「一切ないそうです。 もっとも、所轄調べですが」
所轄と県警、互いの持つネットワークの差は雲泥に及ぶ。
手数から、規模から何まで、所轄は最低限のチカラしか持っていない。
所轄が対応しきれない事件に出くわした時、
僕たち県警、それも捜査一課の出動が余儀なくされるわけだ。
もっとも、地下鉄殺人の時点で要請しておけ、という話だけど。
ふと、腕時計を見た。
まだ会議まで時間はあるが、それ以上に解散が気になったのだ。
(´・ω・`) 「…」
('、`*川 「あと一時間ですね」
(´・ω・`) 「なあ、ワカッテマス」
(´・ω・`) 「会議って、結構伸びそう?」
.
- 62 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:28:24 ID:qgB33Ij20
-
( <●><●>) 「過去二回の事件、今回の予告」
( <●><●>) 「そのすべての詳細な共有が挟まれますからね」
ワカッテマスも腕時計を見る。
若いくせに渋いブランドの時計だ。
( <●><●>) 「何時間かかるか怪しいところです」
(´・ω・`) 「ちっ…」
( <●><●>) 「先に一課長に言って、警部は絶対参加を約束しています」
(´・ω・`) 「ちっ…」
先月、仮病を装って勝手に捜査に出たことがあった。
捜査が好き、というよりは、会議が大嫌いなこと、
なにより、蟠りを残したまま数時間拘束されるのがいやだから、なんだけど。
そのせいで、一課長の目が最近厳しい。
あとワカッテマスの目も厳しさを増している。
('、`*川 「あなた、ホントに警部ですか」
( ゚д゚) 「始末書のペニー、悪徳警部のイツワリさん…」
(´・ω・`) 「待て。 悪徳警部ッつったの誰だ」
.
- 63 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:29:26 ID:qgB33Ij20
-
┏━─
五月三日 午前七時十八分 捜査一課
─━┛
/ ゚、。 / 「連続殺人? あの?」
(´・ω・`) 「昨日付で僕らが担当することになった」
(´・ω・`) 「メールを送らなかったのはあくまで単なる嫌がらせであることを理解してほしい」
/ ゚、。 / 「…」
/#゚、。 / 「誰が理解できますか!」
.
- 64 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:29:52 ID:qgB33Ij20
-
昨日は結局、情報共有やら整理、
残っていた雑務を先に片付けるだけで終わってしまった。
ショボーン班は現場主義の熱血漢が多いせいで、
突如として捜査がはじまる時、一課長の命令で後始末が優先されるのだ。
しかし、いい歳しても平たい乳をしている
この鈴木だけは、デスクワークがメインの刑事だった。
(´・ω・`) 「そう怒るなよ」
(´^ω^`) 「あんたの雑務は、ぜんぶペニーにさせたんだぜ?」
/#゚、。 / 「…」
/ ゚、。 / 「それはありがとう」
('、`*川 「え、あ…ウン…」
.
- 65 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:30:13 ID:qgB33Ij20
-
壁には捜査一課に残ってもらいたい気持ちもあるが、
僕の経験で言えば、いまは間違いなく手数がいるステップだ。
壁だろうがまな板だろうが、まずは害者洗いに付きあわせる。
ショボーン班は、メンドウな仕事は、とにかく部下にも付きあわせるスタンスなのだ。
/ ゚、。 / 「えっと、ワカッテマスは?」
('、`*川 「その、予告の出されたヴィップスタジアム」
/ ゚、。 / 「テレビであったあれだ」
懸念された、マスコミによる大々的な報道だが、ものの見事に的中した。
帰る頃にはすっかり今週のトレンドになっていたのだ。
連続する予告殺人、それも今度は人気ミュージシャンのライブ会場。
話題性、という意味ではこの上ないトピックと言えるものだ。
.
- 66 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:30:54 ID:qgB33Ij20
-
(´・ω・`) 「ぎょろ目と一緒に、向こうサンと話し合いッてとこ」
(´・ω・`) 「で、そのまま予告殺人にも対応してもらう」
五月三日。
もし、三件目の今回が狂言でないのなら、犯人は動くはずだ。
まだ、連続予告殺人を相手取っている実感はない。
事件の舞台背景を頭に叩き込んでおかないと、いまいち乗り気になれない。
/ ゚、。 / 「最強タッグじゃないですか」
('、`*川 「そ。 ウチらはあまりものー…」
(´・ω・`) 「おい!ここにあのイツワリ刑事がいるぞ!」
/ `、、 /
(´・ω・`) 「相手は上司だ!そのシツレイな目はやめろ!」
('、`*川 「しっかし、珍しいメンツですね」
/ ゚、。 / 「警部だって、普段ワカかミルさんと一緒じゃん」
('、`*川 「私たちが頼りにされたこと、ある?」
/ `、、 / 「ないねー…」
(´・ω・`) 「ち…違うって…仲良くしようよ…」
.
- 67 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:31:18 ID:qgB33Ij20
-
捜査一課でも、異彩を放つ班であることは自覚している。
なかでも異色なのは、ヒラの、警部に対する扱いだ。
普段から罵倒しまくっていたらそうなるか、といった程度であって
特段気にしているわけでもない。
ワカッテマスにも、面と向かってプライベートでは一緒にいたくない、と言われたこともある。
(´・ω・`) 「あ…あ!」
(´^ω^`) 「キャンディー、なめる?」
('、`*川 「気ィつけな、ピーナッツオイルが塗ってある」
/ ゚、。 / 「ピーナッツオイル?」
(´・ω・`) 「ぶっは」
軽口を叩きあいながら、僕は、薄茶色のトレンチコートとハンチング。
ペニーは白衣、壁はストールを手に取る。
仕事に対する勝負着、とでも言うのか、お馴染みの恰好となった。
ペニーが白衣を着だしたのは数年前で、
この時は一課長からさすがに咎められたりもしたが、今はもはや無法地帯となっている。
壁のこれも、去年あたりに勝手に壁が巻いてきたシロモノだ。
.
- 68 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:31:43 ID:qgB33Ij20
-
変わってきたものだ。
捜査一課の扉を抜ける時、ふと思った。
捜査一課のなかでも、ひときわ異動の多い僕の班だけど、
今のこの五人体制は、結構長いこと続いている。
人を馬鹿にしたような若い男がいた。
野心に溢れる頭の悪そうな男がいた。
その昔、キャリア組の女もいた。
その更に昔、ずうたいだけがでかい男もいた。
/ ゚、。 / 「とりあえず、私はどこで何をすれば」
(´・ω・`) 「事件の概要知らんだろうから、最初は僕とペアだ」
(´・ω・`) 「一切共有してないのは僕の嫌がらせであることを理解してほしい」
('、`*川 「じゃあ私は」
/#゚、。 / 「流さないでよ! …流さないでよ!」
.
- 69 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:32:13 ID:qgB33Ij20
-
(´・ω・`) 「僕は、現状キーとなるホテル殺人のほうを見たい」
('、`*川 「じゃあ、ナントカ擬古さんのほう洗っときますね」
(´・ω・`) 「所轄には連絡をつけてある」
千里眼を持つぎょろ目、東風ミルナ。
白衣をまとった女刑事、ペニサス伊藤。
先見の明に長けた壁、鈴木ダイオード。
警察きっての天才、ワカッテマス。
皆が、戦闘モードだ。
あとは、僕がしっかりしていればいい。
.
- 70 名前:>>25訂正:2018/08/23(木) 02:33:27 ID:qgB33Ij20
-
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
序幕 「 予告 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
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,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
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- 71 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:35:19 ID:qgB33Ij20
- 5年ぶりだけどよろしくお願いします
書きためはだいぶあるからたぶん完走できる
- 72 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 02:36:25 ID:iUJqyFhA0
- おいおい、お前も復活かよ!
どうした急にブーン系!最高かよ!!
- 73 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 03:30:45 ID:vRMtKdqI0
- うひわよえああああああああ!!!
今年は祭りだあ!
- 74 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 06:32:42 ID:7GuFEcv20
- 示し合わせてるのかと思うほどの再臨率
とりあえずやったぜ!続きも楽しみにしてる!
- 75 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 08:27:01 ID:lN9dQ5F20
- かたじけねェ…!かたじけねェ…!
- 76 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 11:57:05 ID:zQk18TMU0
- 丁度過去作見終わったとこに復活しなさった!!!
楽しみ!!!
- 77 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 12:58:40 ID:k3TmNRAU0
- 最近徹夜で過去作読んだばっかりだったからこれすげえ嬉しい!
頑張って下さい乙!
- 78 名前:名無しさん:2018/08/23(木) 19:17:18 ID:JJgEgTR20
- とりあえず偽り1作目の読んできた
懐かしいなぁ
- 79 名前:名無しさん:2018/08/25(土) 09:17:18 ID:tH/ZGqgg0
- うおおおおおおお
おかえりいいいい!!!!
- 80 名前:名無しさん:2018/08/25(土) 10:17:46 ID:fnutvgU20
- 偽り全部読み直してきたわ
俺の睡眠時間を返せ!
- 81 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 02:40:38 ID:N3IKxT8s0
- 久々じゃないの
全裸で待つにはちょうどいい季節
- 82 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:00:48 ID:OAVw79X60
-
┏━─
五月三日 午前八時五一分 ヴィップ大学
─━┛
(゚、゚トソン 「…」
先に触れておくと、私は人付き合いが苦手だ。
多くの友人を持つ器用さなんて持ち合わせていない。
だから、たとえばあの授業はこうだ、とか。
試験にはどんな問題が出てくる、とか。
そんな情報を得る手段に乏しい。
(゚、゚トソン 「…」
しかし、それが教室内でまことしやかに囁かれていることなら。
こんな私でも、トレンドを掴むことはできるというものだ。
なんでも、今日。
渋沢栄吉のライブがヴィップスタジアムで開催されるのだが、
そこにきた観客に殺人予告が寄せられた、というのだ。
渋沢向けのものではない。
あくまで、一般人に向けた殺人予告が送り付けられた、という話らしい。
.
- 83 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:01:47 ID:OAVw79X60
-
連続予告殺人、とは聞き覚えがある。
ニュースサイトを見てみると、すぐに事態が呑み込めた。
あの、先週ほど、地下鉄で起こった事件。
乗客が刃物で殺された事件から、連続しているというのだ。
同一犯が、同じ筆跡で、まったくつながりのない人々を殺す。
まるで、警察に挑戦状を叩きつけるかのごとく。
(゚、゚トソン 「…!」
一限目が始まる、数分前。
見慣れないニュース記事をスクロールしていくと、
下の方に、かつて見慣れた文字列を見つけてしまった。
それまでの、二件。
私が、頭痛と吐き気のするなか取り調べに応じた、地下鉄殺人。
続いて、ヴィップのあるビジネスホテルで起こった殺人事件。
これらは地元の警察署が対応していたらしいが、
本件より、県警を交えた本格的な捜査がはじまるという。
殺人事件が起こって、犯人は逃亡しているというのに、今更本格か。
なんて毒づく間もなかった。
(゚、゚トソン 「…」
(゚、゚トソン 「しょぼーん…?」
.
- 84 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:02:24 ID:OAVw79X60
-
教授 「おはようございます」
(゚、゚トソン 「…」
慌ててスマホをしまう。
今、確かに。
懐かしい名前を、見た気がする。
ヴィップで起こっている事件だ。
県警が応対するのは自然の道理だろう。
捜査一課が請け負うのも、その通りだ。
ヴィップ県警の、捜査一課。
となれば、なるほど確かに、辻褄は合う。
ショボーン警部。
飄々とした態度と、そこからはうかがえない底知れぬ推理力。
事件にひそむ偽りを、華麗に見抜く敏腕。
感傷に耽る間もなく、本日一発目の授業がはじまった。
しかし私は、どうしてもそれをきちんと受けていられるだけの平常心を保てないでいた。
.
- 85 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:03:31 ID:OAVw79X60
-
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
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r---ゝ !
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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第一幕 「 三度目の狂言 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
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- 86 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:04:13 ID:OAVw79X60
-
┏━─
五月三日 午前九時一六分 駅
─━┛
改札を出ればすぐ目の前に、××ホテルの看板が見える。
特に話すこともないような、ごく一般的なホテル。
しかし今日、改札を抜けたその先には、
幾人かの人たちが、スマホを構えてそのホテルを撮っていた。
連続予告殺人事件は、いまや直近のトピックスのなかで一番のトレンドを誇っていた。
そんなもの誇るな、とテレビ局にクレームを言いたくなる。
/ ゚、。 / 「あれ、で間違いないんですよね」
(´・ω・`) 「そうだね。 いやあ懐かしい」
事件が発生して、一週間も経っていない。
さすがにパトカーはもう停まっていないが、
トレンドが去るには短すぎる日時しか過ぎていないというのだから驚きだ。
壁は、行きしなに買ったサンドイッチを口に含みながらうなずく。
若い女性の、スーツ姿にストールを巻いた姿は、どこか異様だ。
良くも悪くも、刑事らしさを失わせている。
.
- 87 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:04:35 ID:OAVw79X60
-
壁はイマドキの女性よろしく、クチが小さい。
コンビニのサンドイッチを食べるのだって十分はかかるだろう。
僕も、景気づけの一本を吸う。
今日は全国的に湿度が低い、煙草を燃やす火の勢いが強かった。
/ ゚、。 / 「所轄は?」
(´・ω・`) 「なかにいるはず」
(´・ω・`) 「ア、林ちゃんッていう、結構古い知り合いのデカだからね」
/ ゚、。 / 「ふーん…」
( ´・ω・)y-~~
まず、ロケーションチェック。
地取りはもう所轄が済ませているはずだ。
ぎょろ目やワカッテマスは地取りも難なくこなすが、
僕やペニーは短気なほうで、聞き込みなんてしているとじんましんが出る。
.
- 88 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:05:36 ID:OAVw79X60
-
交通量はそこそこといったところで、
田舎といえど旧都、信号を守らないと向こう側に渡れない程度には栄えている。
近くにはコンビニやガソリンスタンドが多く見受けられる。
道路を歩くだけでも、どこかしらの監視カメラには引っかかりそうなものだ。
所轄の地取りでは、想定される逃走ルートにかかる映像しかチェックしないことが多いが、
昨日の夜に、周囲百メートルほどの店に、
捜査一課宛てで映像ファイルを送るよう協力を申請している。
それがいつ届くかは彼らの良心次第、といったところだ。
僕だってはなから期待はしていない。
どこかに不審な映像があれば、既に所轄が掬い上げているだろう。
/ ゚、。 / 「泊まったことあるんですか?」
(´・ω・`) 「あるよ。 結構昔に、一度だけ」
/ ゚、。 / 「ビジホって、どんな感じなんですか?」
壁が雑談を振ってきた、かと思えば。
そっちかい。
.
- 89 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:06:31 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「ラブホの質を極限まで落とした感じ」
/ ゚、。 / 「…」
/#゚、。 / 「セクハラ!」
ペニーも壁も、独身だ。
もっとも、事件が起これば休みなんてなくなるのだ、
候補がいたとして、満足に遊べないから気持ちもわかるが。
僕だって独身だい。
(´・ω・`) 「食ったか?」
/#゚、。 / 「いま食べてますー」
林ちゃんは、時間にうるさい、古風な刑事だ。
時間にルーズで有名な僕は、彼と根本的に相性が悪い。
昔は、一応まじめに時間を守っていたけど、
警部という地位に立てて以来、あまり時間を意識したことはない。
今頃、ワカッテマスと同じような面持ちで
事件の資料を見ながら、貧乏ゆすりでもしているに違いないだろう。
.
- 90 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:07:02 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「はよ食え」
(´・ω・`) 「あのな、クチがちっさいと、いろいろ不便だぞー?」
/ ゚、。 / 「…」
/ ゚、。 / 「あの、それってセクハラですか?」
(´・ω・`) 「オッいまのが理解できるのか。 えらいえらい」
/#゚、。 / 「セクハラァ!」
(´;ω;`) 「ぶひゃひゃひゃ!」
/ ゚、。 / 「はい。 食べましたよ」
(´・ω・`) 「遅えな。 行くぞ」
(´;ω;`) 「ぶひゃ…ぶひゃひゃ!」
/#゚、。 / 「…」
.
- 91 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:07:26 ID:OAVw79X60
-
┏━─
午前九時三一分 ××ホテル
─━┛
事件が起きたとはいえ、ホテルは平常通り営業している。
客入りはどっと減っているだろう、
と思いきや、野次馬根性のある人たちが、
「どうせ泊まるならあそこにしよう」 などと思って宿泊してくれるらしい。
正面玄関から入る。
ロビーには社員がひとりいるだけだったが、
警察手帳を見せると、示し合わせたかのように裏に入っていった。
/ ゚、。 / 「…」
/ ゚、。 / 「外装のわりに、結構こぎれいですね」
(´・ω・`) 「ビジホってのはそんなもんだ」
ほどなくして、林ちゃんとホテルのマネージャーらしき人物が顔を出した。
林ちゃんが、僕の顔を見て、わざとらしい笑みと会釈をする。
.
- 92 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:08:26 ID:OAVw79X60
-
林ちゃん 「おはようございます」
(´・ω・`) 「ウッス」
林ちゃん 「お久しぶりですね」
ぺこぺこする彼を見て、僕が何者かを察したマネージャーも寄ってくる。
警察手帳をしまって、差し出された名刺を受け取った。
マネージャー 「はじめまして、ここのマネージャーです」
(´・ω・`) 「ン…はじめまして。 捜査一課のショボーンです」
/ ゚、。 / 「捜査一課の鈴木です」
マネージャー 「とりあえず、こちらへ」
ロビーから入って、裏に進む。
事務所はなかなか整頓されていて、あまり窮屈さは感じない。
テレビも備え付けられているが、電源が落とされていた。
自分たちのホテルが映されるのが嫌なのだろう。
.
- 93 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:08:52 ID:OAVw79X60
-
駅前に店を建てる時、死活問題となるのがスペースの活用だ。
応接室なんてピンポイントなものは用意されていないのだろう、
事務所の奥の方に、ついたてとガラステーブルがある。
灰皿がないのが非常に残念だが、一応はこちらが応接スペースのようだ。
うながされるがまま奥の席に座る。
マネージャー 「本日はお忙しいなか、ありがとうございます」
(´・ω・`) 「いえいえ。 災難があったようで…」
クソみてえな社交辞令もほどほどに、
僕が壁に目配せすると、壁はバッグから資料を取り出した。
ホテル殺人事件の資料だ。
四月三十日、宿泊予定だったヒッキー小森に殺人予告が叩きつけられた。
しかし、これを笑った害者はホテルの移転を拒否。
監視カメラ、ならびに出入口を厳重に張っていたホテルだが、
害者は常備薬を飲んだところ、ここにピーナッツオイルが塗りこまれており、即死。
二十二時頃、様子をうかがいに行ったマネージャーが遺体を発見。
内線に応じないため、不審に思ったらしい。
.
- 94 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:09:13 ID:OAVw79X60
-
林ちゃん 「事件直後の現場写真が、見たままの光景となりますね」
(´・ω・`) 「何も動かしたりはしていないんですよね?」
マネージャー 「はい。 そちらの方からも言われておりましたので…」
どうして、刑事である林ちゃんではなくマネージャーが現場に行ったのか。
どやしてやろうとも思ったが、ホテル側の事情も察せたため、言及は抑えた。
警察としては、殺人予告なんてあった場合、
即座にターゲットの入場拒否をさせる必要があるのだが、
曰く、街中をうろつかせたりするほうが危険だ、と言われたらしい。
林ちゃんの入れ知恵だろう。
今更、非難する気もない。
僕は、あらためて現場写真と当時の害者の動向を目で追う。
今回の会議資料を作成した人は優秀だったようで、
だいたいのことは、昨日の捜査会議で耳にしたことそのままだった。
(´・ω・`) 「おおむね、把握しました」
(´・ω・`) 「いま、現場は」
.
- 95 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:09:59 ID:OAVw79X60
-
マネージャー 「使用不可にしております」
マネージャー 「こちらは、一切手を触れていませんね」
林ちゃん 「我々が捜査した跡が残っているくらいかと」
(´・ω・`) 「そう」
ショボーン班では、現場捜査といえばぎょろ目の出番だった。
現場百篇を体言する男で、絶対的な信頼が寄せられている。
ただ、今回は僕と壁でもう一度、捜査する。
ぎょろ目の血を引くとも言われる先見の明を、伸ばしたい気持ちもあった。
(´・ω・`) 「いま、上がらせていただいても構いませんか」
マネージャー 「構いませんが、チェックアウトのお客さんがいらっしゃいますので」
マネージャー 「非常階段で六階までお願いします」
(´・ω・`) 「ご同行していただいても?」
問うと、マネージャーは苦い顔をした。
あくまで仕事がある、と言いたいのだろう。
顔色を察した林ちゃんが、代わりにうなずいた。
こいつ、捜査ではあまり頼りにならないけど、ガイド役にはいいかもしれない。
.
- 96 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:10:34 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「非常階段?」
/ ゚、。 / 「そんなもの、表からは見えませんでしたけど」
マネージャー 「裏のビルとの間、狭いところにね」
マネージャー 「非常階段がございますので。 鍵は刑事さんが」
(´・ω・`) 「わかりました。 では一旦、失礼します」
話がわかるマネージャーでよかった。
人によっては、警察のメス入れを嫌がられることもある。
察するに、さっさと事件を解決して、
今まで通りの営業に戻りたい、とでも思っているのだろう。
こちらとしては、そっちのほうが好都合だ。
林ちゃん 「案内します」
(´・ω・`) 「頼むよー」
林ちゃん 「…」
露骨に嫌そうな顔をされた。
どうして僕はこんなにも嫌われているのだろう。
気分がいい。
.
- 97 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:11:27 ID:OAVw79X60
-
┏━─
午前十時一三分 ヴィップスタジアム
─━┛
ヴィップに住まない人でも、ヴィップスタジアムの名を知っていることは珍しくなかった。
往年の名球団、ヴィッパーズの本拠地として、
野球好きはもちろん、興味がない人でも名前くらいは知っているものだ。
芝生に立ち入らせてもらえたが、
入口から見通すスタジアムの光景は、圧巻の一言だ。
野球以外でも、さまざまな使われ方がしている。
近年の球界が抱える、若者の野球離れにあわせるように
たとえば著名人の交流イベントやテレビ企画の場所として提供されていると聞く。
( <●><●>) 「…」
( ゚д゚) 「こんないい場所のライブが中止、か」
( ゚д゚) 「今回の犯人も、ひどいことをしてくれたもんだ」
本日行われるはずだったように、
音楽のライブ場所として使われることも多くなったらしい。
渋沢栄吉と言えば、若者である自分でも知っているほど、
数十年前の音楽業界を牽引してきた大御所ミュージシャンのひとりだ。
.
- 98 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:11:48 ID:OAVw79X60
-
関係者 「ほんとうですよ」
力なく笑ったのは、ライブ側の関係者だった。
周囲は既に、厳重な警備が敷かれている。
いまスタジアム内にいるのは、ライブ側とスタジアム側の関係者諸兄、
加え自分と東風さんだけだ。
関係者 「警部さんも、けっこう世代じゃないんですか」
( ゚д゚) 「ヤ、自分は警部じゃないですね」
( ゚д゚) 「警部補、といったところです」
東風さんが白髪を掻きながら言う。
警部を超えるキャリアを持ちながら、警部補の立場に甘んじる人だった。
関係者 「失礼。 警部補さんも世代でしょ?」
( ゚д゚) 「自分が三十手前か、そこいらですね」
( ゚д゚) 「でも、当時見てたドラマじゃ、しょっちゅう渋沢ソングが流れてたもんですよ」
.
- 99 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:12:13 ID:OAVw79X60
-
まだ邦楽ロックというものが浸透していなかった当時、
マイクスタンドを振り回しながら放たれるシャウトは、多くの若者を魅了した。
かと思えば、時たま穏やかなバラードソングを奏でるのだから、隙がない。
関係者 「そちらの刑事さんは、知ってます? 渋沢時代」
( <●><●>) 「邦楽はあまり、聴かないので」
( ゚д゚) 「すごかったぞ。 当時はCDが百万枚も売れた時代だったんだ」
動画サイトの普及や、CDレンタルが当たり前となった昨今、
日本の音楽は十万枚売れたら御の字と言われるほどに衰退した。
親の影響で、レコードで流す洋楽ばかりを聴いてきた自分としては、
邦楽の隆盛、というのはあまり実感がわかない話だった。
( <●><●>) 「しかし、今回の騒動を見ていると、なんとなく、わかります」
( ゚д゚) 「警備員、もっと発注してもよかったレベルだな」
スタジアム周囲は、多くのマスコミと野次馬、
そしてファンの多くが押し寄せていた。
それは、芝生を踏んでいる我々のところにまでガヤが聞こえてくるほどだ。
.
- 100 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:12:55 ID:OAVw79X60
-
関係者 「もはや、返金どうこうの話じゃないんですよ」
大御所アーティストのライブ中止、
やはり大手が手掛けるだけあって返金や謝罪などはスムーズに行き渡ったが、
何より、せっかくのライブが中止になったことそのものが多くの人々を落胆させた。
( ゚д゚) 「ライブは、CDやラジオじゃ味わえない興奮が楽しめんだ」
( ゚д゚) 「おれも、昔嫁とライブにいったが、なかなかよかったぞ」
( <●><●>) 「ウン万人、という人々からその楽しみを奪ったわけだ」
関係者 「いやはや、ひどい犯人だ、ホント」
芝生を踏みしめながら、ぐるりと歩く。
空気が違う。
澄み渡っているのに、どこか重い空気だ。
センター方面を見やると、やり場をなくした機材のもろもろが立ちすくんでいる。
東風さんは、真正面にあるロープで区切られた空間を指さす。
( ゚д゚) 「本来、観客はここに収まる予定だったんですか?」
.
- 101 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:14:18 ID:OAVw79X60
-
関係者 「いや、スタンドにも収容される予定でした」
( ゚д゚) 「入場はどのように行われるので?」
何気ない雑談から、さりげなく本題に入る。
東風さんは、メモを取る仕草は見せないし、
なんなら明後日の方を見やりながら、雑に聞いた。
関係者 「まず、ライブチケットにブロックが振り分けられています」
関係者 「アリーナなら、AからFですね」
関係者 「ブロック順にアナウンスし、先頭から順に入場してもらう手筈でした」
ロープをつなぐ支柱のそれぞれに、大きな看板が取り付けられている。
この位置からでも見えるような大きさで、AからFと印字されていた。
( ゚д゚) 「いざ開演したら、じゃまな看板ですな」
関係者 「ア、もちろん、撤去しますよ」
年寄りの世間話とでも言うのか、
ふたりとも軽く笑いながら続ける。
.
- 102 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:15:15 ID:OAVw79X60
-
関係者 「Fまで済んだら、そのままスタンドにも収容されます」
関係者 「バックネット、ライトスタンド、レフトスタンドの三か所で、同時進行です」
( <●><●>) 「スタンドというのは、ほんとうにすべての席を指すのですか」
関係者 「すごいでしょ。 ほぼ満員ですよ、満員」
( <●><●>) 「…」
言われて、芝生を取り囲むスタンドを目で追った。
ところどころ、一般客が立ち入れない空間こそあるが、
この席すべてを埋め尽くすほどの魅力が、今回のライブにはあったわけだ。
( ゚д゚) 「ライブが開演して、スタジアム内にいることができる人は、たとえば」
関係者 「んー、まずライブスタッフは全員ですね」
関係者 「観客ももちろん該当します」
( ゚д゚) 「たとえば、こう、屋内に売店とかあるでしょう」
( ゚д゚) 「そういったところの人員は?」
.
- 103 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:15:40 ID:OAVw79X60
-
関係者 「なかの、焼きそば屋とかですか?」
( ゚д゚) 「そうそう」
( ゚д゚) 「もとは野球の球場なんだ、たくさんあると思いますが」
自分は野球観戦をしたことがないためピンとこなかったが、
東風さんは野球が好きな人で、この歳になってもたまに行くと聞く。
関係者は 「ああ」 と言って、考えるそぶりも見せずに返す。
関係者 「ライブ関連の売店は、すべて屋外、」
関係者 「というかスタジアム外にしかありません」
関係者 「スタジアム屋内の店はすべて閉まっています」
( ゚д゚) 「スタジアム外、というと、入る時もいろいろ見えたあれらで?」
スタジアムの周囲にも、たくさんの売店が見受けられた。
渋沢の歴代CDはもちろん、タオルからTシャツといったグッズもあった。
しかし、あったのは看板やテーブルほどで、
肝心の商品や売り子はどこにも見られなかった。
.
- 104 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:17:32 ID:OAVw79X60
-
関係者 「食事のたぐいも、用意されていませんね」
関係者 「ファンならわかりますが、ライブ中に抜け出して買い食い、なんて普通しませんし」
( ゚д゚) 「なるほど…」
関係者 「屋内を歩くのは、警備員とスタッフくらいです」
関係者 「トイレの案内だったりも、彼らが請け負います」
( ゚д゚) 「つまり、ライブ関係者と観客以外は誰もいない、と」
すると、関係者はかぶりを振った。
関係者 「もちろん、スタジアム関係者もいます」
関係者 「といっても、詰所や裏手にしかいませんが」
( ゚д゚) 「ライブ関係者も含め、非正規雇用は何割くらいですか?」
関係者 「九割は派遣ですね」
( <●><●>) 「九割、ですか」
.
- 105 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:18:02 ID:OAVw79X60
-
結構大きな数字が出され、思わず反応した。
関係者 「渋沢ほどの大御所となると、」
関係者 「一度ライブするだけで、とんでもない人手がいります」
関係者 「たった数日ライブするためだけに、それだけの社員を動員したりしませんよ」
半ば笑いながら、関係者は得意げに言った。
確かに、それなら単日でアルバイトでも雇うほうが合理的だ。
関係者 「スタッフは、お金を貰ってライブを聴けますからね」
関係者 「いくら重労働でも、募集はゼッタイ必要数揃うもんですよ」
( ゚д゚) 「そりゃあな」
( ゚д゚) 「となると、ホシを洗うのは大変だな…」
( <●><●>) 「この時点で、候補が数万人もいますからね」
.
- 106 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:19:25 ID:OAVw79X60
-
関係者 「ホシ、というと」
( ゚д゚) 「失敬、ハンニンです」
今回の殺人予告では、誰を、どこで、いつ殺すかが、明記されていなかった。
そのため、来場する観客はもちろん、
ステージに立つサポートバンドから音響スタッフ、
案内係からダフ屋に至るまで、そのすべてが、犯人及び被害者となりうる。
関係者 「ひょっとして、ワタシも入っていますか?」
( ゚д゚) 「そりゃあもう!」
関係者が噴き出す。
東風さんの嫌味で元気な即答に、自分も思わず顔を歪めた。
関係者 「警部補さんには敵いませんよ、ホント」
( ゚д゚) 「一件目、二件目と比較して、決定的に違う点があるんですよ、今回」
関係者 「というと」
( ゚д゚) 「その、規模です」
.
- 107 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:19:51 ID:OAVw79X60
-
関係者 「一回目は地下鉄で、二回目がホテルでしたっけ」
( ゚д゚) 「どちらも、今回の規模と比べたら、現場は矮小です」
( ゚д゚) 「地下鉄はともかく、ホテルなんかピンポイントだ」
関係者 「確かに」
( ゚д゚) 「だからこそ、今回は狂言の可能性も考えられるのです」
狂言。
一度目、二度目は本当に殺人が決行された。
だからこその、三回目。
予告を出すだけ出して、暗に牽制をする。
フッサール擬古、ヒッキー小森を知る人物がいたとして、
当然、連続殺人の件は、ニュースなどですぐに知るだろう、
そのうえで犯人から渋沢ライブを舞台にしたことを人づてに聞く。
すると、たとえ予告が狂言だったとしても、
予告に心当たりがあるかもしれないその人物のもとへは
この上なく強いメッセージとして届くのだ。
.
- 108 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:21:03 ID:OAVw79X60
-
関係者 「もしこれが狂言だったら、」
関係者 「ヤ、狂言じゃなくてもですが…とにかく、最低な犯人だ」
( ゚д゚) 「人を二人も殺して、今度は社会を掻き乱す」
( ゚д゚) 「多くの、ほんとうに多くの無実な市民を落胆させた…」
( ゚д゚) 「近年稀にみる極悪犯、といったところですな」
関係者 「まったくだ」
示し合わせたかのように、東風さんと関係者が踵を返した。
そのまま、通路に入って、次なる場所へと向かう。
関係者 「ちょっと話し込んでしまいましたね」
関係者 「とにかく、施設を案内しましょう」
( ゚д゚) 「非常口なども一つひとつ、お願いします」
関係者 「関係者しか入れない場所も込みで?」
( ゚д゚) 「もちろん」
.
- 109 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:21:23 ID:OAVw79X60
-
スケジュールとしては、ここから一時間ほどかけて、施設内を把握する。
そこからどこか場所を借りて、東風さんと自分で会議。
犯人は、何を考えて予告を叩きつけたか、
あるいは、本来どのようにして観客を殺すつもりだったのか。
そういった、あらゆるイフを、時間の許す限り検討する。
関係者 「結構長くなりますし、水でも」
( ゚д゚) 「ありがたく」
筆跡も、本件が過去二回と同一の人物によるものだと証明した。
その過去二回で予告を成立させている以上、
「どう考えてもライブは中止されるだろう」 という考えを捨てなければならない。
万が一、あり得ない話ではあるが、ライブが決行された場合。
犯人はどうやって、この人混みから特定個人を殺すつもりだったのか。
その逆、ライブが中止された場合。
犯人は殺害を先延ばしするのか、それでも本当に殺すのか。
殺すなら、どうやって。
そもそも、何を考えて。
.
- 110 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:22:03 ID:OAVw79X60
-
検討することがあまりにも多すぎる。
本来なら収集した情報をもとに検討する案件、
しかし時間がないのも事実だ。
こういった検討は、警部がもっとも得意とするところだ。
今頃、鈴木と一緒にホテル殺人を検討しているだろうが、
どうして自分と東風さんをこちらに回したのか。
そこが、少々引っかかったところではある。
関係者 「刑事さんも」
( <●><●>) 「ン……ありがとうございます。」
本部が設置され、ショボーン班が動き出して、まだ一日と経っていない。
そんななか、ライブ前日に殺人予告が出されては、
警察も世間も、混乱を極めるばかりだ。
自分の直観でいえば、九割がた、狂言だ。
現にこうして、皆が混乱に陥っている。
犯人はこれを見据えたうえで、予告を出したと思われるところではあるが。
それにしたって、情報が少ない。
携帯のバッテリーが十分であることを確認して、自分も水を口にした。
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- 111 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:22:40 ID:OAVw79X60
-
┏━─
午前十一時〇四分 びっぷ整骨院
─━┛
おばちゃん 「予定?」
('、`*川 「そうー」
('、`*川 「なんかこう、いついつに旅行にいく!」
('、`*川 「とかー。 言ってなかった?」
地下鉄殺人の被害者、フッサール擬古は整体師だった。
いわゆる町の整体師で、訪れるのは地元の三十代からご老人。
比べればまだ若い害者は、可愛げのある男として親しまれていたらしい。
おばちゃん 「旅行はなかったかなー」
('、`*川 「ヤ、旅行じゃなくてもいいの」
('、`*川 「次の休みはこれをする、とか…ない?」
私はあまりカンドリは得意じゃないけど、
相手が話してて楽しい人ならこの限りにあらず。
びっぷ整骨院の院長センセーは、私のお母さんほどの年齢だった。
開始五分で、このような砕けた話し合いとなっていた。
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- 112 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:23:16 ID:OAVw79X60
-
おばちゃん 「エ、あったとして、それがどうしたの?」
('、`*川 「そーゆーところから捜査のとっかかりができたりするのー」
おばちゃん 「うーん…そうねえ」
本件が地下鉄殺人で完結していたなら、話は別だけど。
ホテル殺人もやってのけた上に、次はライブで殺人予告を果たした。
どう考えても、害者は犯人との間に何かしらの因縁があったはずなのだ。
逆に言えば、犯人は複数の人を相手に、殺害を実行させるほどの因縁を持っていた。
地元で愛される整体師をしていただけじゃあ、
こんな連続殺人の、それも一人目に選ばれたりはしない。
とするとその因縁はなにか、という話だ。
フッサール擬古、続くヒッキー小森が、
実は同じ日に同じ場所へ旅行する予定があった場合、
そういったところから害者のつながりというものが見えてくる。
害者のつながりは、すなわち犯人とのつながり。
普通に経歴だけを調べてつながりが浮かばないなら、こういったところから見つけるのが鉄則。
東風さんから教わった、カンドリの手筋である。
にしても、どうして聞き込みのことをカンドリなんて言うんだろう。
.
- 113 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:24:02 ID:OAVw79X60
-
おばちゃん 「予定、は特に聞いてないよ」
おばちゃん 「でも、そういや釣りが趣味だったよ、カレ」
('、`*川 「釣り…」
出てきたワードは、逃さずメモに残す。
それが勘違いでもいい、なにかキッカケになりうるなら。
おばちゃん 「あと先月、シベリアのほうに旅行に行ってたよ」
('、`*川 「シベリアの、どこらへん?」
おばちゃん 「ごめんなさいねえ」
シベリア、と書き残す。
先月、旅行か。
('、`*川 「具体的に何日、とかは?」
おばちゃん 「えっと…」
.
- 114 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:24:50 ID:OAVw79X60
-
おばちゃん 「そうだ、シフト見たらわかるわ」
おばちゃん 「確か、三連休があった時だから…」
言いながら、院長は席を立った。
近くの事務机を漁って、先月のシフト表をとってきた。
事務机には、キーホルダーや小物が置かれている。
見たことのある造形から、どこで売っているかわからないものまで。
スタッフの皆のおみやげでも飾っているのだろう。
おばちゃん 「そうだそうだ、十八日から二十日!」
('、`*川 「十八日から、二十日……」
('、`*川 「二泊三日ってことね?」
おばちゃん 「ヤ、それはわかんないケド…」
おばちゃん 「とにかく、この日ね。 覚えてるわ」
('、`*川 「オッケー、ありがとう!」
.
- 115 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:25:35 ID:OAVw79X60
-
結構、重要そうな情報が出てきた。
この調子で、このおばちゃんからできる限りキーワードを引き出したい。
('、`*川 「釣りが趣味で、先月シベリアにも旅行に行った…」
('、`*川 「その時、誰か友人と行く、とか言ってた?」
おばちゃん 「誰って?」
('、`*川 「たとえば、彼女とか」
おばちゃん 「あの子に彼女なんていたっけかなあ…」
('、`*川 「独身だったの?」
おばちゃん 「独身には違いないわ」
('、`*川 「へー…」
何気ない世間話をするかのような口ぶりで、
こっそりとメモを書き進める。
釣り、シベリア、続いて独身。
結構興味深い情報こそ出てきつつはあるが、
これはカンドリを進める上ではあまりにも少なすぎる量だ。
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- 116 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:26:05 ID:OAVw79X60
-
('、`*川 「仕事っぷりはどんな感じだった?」
おばちゃん 「仕事?」
自分で用意したアツい茶をすする。
答えがすぐに出てこなさそうな様子だ。
おばちゃん 「仕事…」
おばちゃん 「別にダメなとこはないわ」
おばちゃん 「口下手なとこが、可愛がられたものよ」
おばちゃん 「特に、じいちゃん連中に気に入られたりしてね」
視線を宙に泳がせ、以前のことを振り返るかのように言った。
院長がこの調子だから失念していたが、
そうだ、いま話しているのは、院長の仲間だった人のことだ。
病死でも、退職でもない。
何者かによってその命を絶たれた男の、仲間だったのだ。
気まずさを感じて、私は露骨に、咳払いをした。
ハッとした院長は、私に茶を勧めてきた。
出されるだけ出されて、私は一口も飲んでいない。
ばつが悪そうな顔をして、一口だけ、茶をすする。
結構熱い。 冬に飲みたくなる味だ。
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- 117 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:26:41 ID:OAVw79X60
-
('、`*川 「…」
おばちゃん 「…」
ほっと一息ついていると、
それまでの陽気な雰囲気は消え、
院長は少々シリアスな面持ちを構えてきた。
おばちゃん 「姉ちゃんね」
('、`*川 「ん?」
おばちゃん 「事件の捜査…どうなってる?」
('、`*川 「見ての通り、はじめたばかりだよ」
虚を突かれたような心地になって、茶を一口。
少し火傷して麻痺した舌は、その一口をあっさり受け入れた。
おばちゃん 「ちがくて」
おばちゃん 「シブちゃんのほう」
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- 118 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:27:10 ID:OAVw79X60
-
('、`*川 「シブちゃん」
渋沢栄吉、全国ツアーに殺人予告。
今朝、テレビのどのチャンネルを回しても報道されていたビッグニュースだ。
まして、院長は世代でないとはいえ、渋沢時代を知るであろう市民。
半ば険しい顔をして、続ける。
おばちゃん 「誰が殺されるか、とか」
('、`*川 「…」
おばちゃん 「何も、わかってないの?」
少し、胸がチクリとした。
別に院長は、私を、警察を責めているわけではない。
ただ焦燥に駆られた言い回しをしているだけだ。
しかしそれでも、痛いところを突かれた心地がする。
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- 119 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:27:56 ID:OAVw79X60
-
('、`*川 「インチョーさん」
('、`*川 「まじめな話をするとね、捜査機密ってものがあるの」
おばちゃん 「なんだっていいわ」
おばちゃん 「次の人は…殺されないんだよね?」
院長は、ライブより、そのターゲットとなる人を捉えて言った。
ライブ中止を、あるいはまだ犯人が捕まっていないことを
非難されるかと思っていただけに、私は呆気ない顔をした。
('、`*川 「殺させない」
スパッと、言い放つ。
('、`*川 「今も、県警で頼りになる連中が担当してるわ」
おばちゃん 「最近の犯罪者って、なにするかわかんないでしょ」
おばちゃん 「頼むから、これ以上被害者、出さないでおくれよ」
おばちゃん 「その殺される一人ッたって、家族や仲間がいるんだから」
.
- 120 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:28:51 ID:OAVw79X60
-
院長が私を注視する。
たるんでいた目じりが、引き締められている。
('、`*川 「なんとかする」
('ー`*川 「こー見えて、私も刑事なんだから!」
おばちゃん 「ほんと、手帳だけはなくすんじゃないよ」
('、`*川 「それどーゆー意味?」
胸をボン、と叩くと、院長が皮肉そうに言った。
さっきまでのシリアスは瞬時に消え、院長は背もたれに体重をかけた。
おばちゃん 「で?」
おばちゃん 「あとは、どんなことを話せばいい?」
('、`*川 「ちょっと、刑事だからね? 捜査一課のォ」
気が抜けた。
気持ちぬるくなった茶をすすって、私も脚を組んだ。
あと、聞くことか。
知りたいことは山ほどあるけど、院長から聞き出すべきこと。
.
- 121 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:29:30 ID:OAVw79X60
-
就職時期をはじめ、ここ数日の動き、
交友関係から趣味などといった話まで、すべて済ませてある。
('、`*川 「…」
('、`*川 「インチョーさんの連絡先」
おばちゃん 「え?」
ポン、と手を叩いて言う。
私は、不器用だ
こういった聞き込みでは、毎度なにかを聞き忘れる。
そのたびに、タクシーを拾ったり、連絡先を探すだけで時間を取られる。
去年仕事用に契約したガラケーには、
ここ一年間私が関わった事件の関係者の連絡先が、ずらりと載っている。
そのなかから折り返し連絡をすることは一割にも満たないけど、院長も追加しなければ。
おばちゃん 「悪用しないよね?」
('、`*川 「しないよ」
('、`*川 「てか、事件が終わったら、私もマッサージしてもらいたいし」
おばちゃん 「じゃあ、店の番号でいい?」
('、`*川 「い、いいけどさ」
結構、疑われているらしい。
マスコミの警察叩きは苛烈になっているからなあ。
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- 122 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:29:59 ID:OAVw79X60
-
('、`*川 「ふう…」
店を出て、一度深呼吸した。
一件は聞き込みを済ませたが、ここからたくさん当たるべき場所はある。
各学校の担任だったり、スマホから割り出した友人全員、
自宅の近隣住民に加え、過去の職場もろもろ。
頭が痛くなる。
というのも、所轄が軽く当たったところで、
フッサール擬古とヒッキー小森のつながりは今のところ何もないのだ。
無差別殺人にしては、手がかかりすぎている。
警察への挑戦状の可能性も捨て切れはしないが、
それだったら予告は、警察に直接送りつけるほうが自然だ。
現に、過去二回の事件は所轄が穏便に済ませようとしていた。
結果、マスコミの干渉も最小限にとどめられている。
愉快犯にせよなんにせよ、多大な労力に見合っているとは思えない。
今朝の時点で、警部の見解ではその線は見限られていた。
東風さんも同意見だったようだし、そこを疑うつもりはないけど。
.
- 123 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:30:38 ID:OAVw79X60
-
時間を確認して、ふと空を見上げた。
空はまだ、五月病を患っていないらしい。
ほぼ晴天といえる、晴れやかな気候だ。
この間も、警部たちはホテル殺人を追っている。
仕事用のガラケーで、ひとまずの情報をメールする。
一刻も早くとっかかりを見つけなければ、
このカンドリはいつまでも続くはめになってしまうのだ。
('、`*川 「…」
('、`*川 「よし」
私は、いてもたってもいられなくなり、
タクシーが通りかかったのが見えた瞬間、すぐそれに乗り込んだ。
せっかく、旅行に行ったという情報を日付と一緒に入手したのだ。
次は、その旅行を当たり、誰かと一緒だったのか、といったところを調べよう。
調べるとしたら、まずは自宅から。
先に自宅を調べなかったのは、単純にこちらのほうが近かっただけだ。
行きがけの駄賃を握りしめ、運ちゃんに住所を告げる。
結構気さくな中年で、乗っている間、結構雑談を交わしてくれた。
しかし、その話題が軒並み連続予告殺人ともなれば、心労は溜まる一方だ。
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- 124 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:31:09 ID:OAVw79X60
-
┏━─
午前十一時二三分 ××ホテル
─━┛
(´・ω・`) 「これは、ベッドメイクすらされてないんだね?」
林ちゃん 「ええ」
まだ、現場は保存されている。
真っ先に気になったのはその点だった。
ベッドが、一切乱されていないのだ。
もちろん、内装はよくあるビジネスホテル。
床の半分以上をベッドが占め、隙間を縫うようにデスクが置かれている。
/ ゚、。 / 「…結構、狭いですよね」
/ ゚、。 / 「私だったら、ふつうにベッドに座りそうですが」
(´・ω・`) 「そーそー。 よく気づいたね」
/ ゚、。 / 「え?」
.
- 125 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:31:30 ID:OAVw79X60
-
壁はなにか気づいたようだったが、
しかしそれは単なる偶然だったようだ。
ぎょろ目だったらまず真っ先に調べるものがある。
この状況なら、デスクまわりだ。
他に調べるものがないと言われたらその通りではあるのだけど。
(´・ω・`) 「ビジホに限った話じゃないけど、」
(´・ω・`) 「ホテルの魅力は、初見のベッドだ」
と言って、ぴっちり張られた布団に軽く手を乗せた。
二流ビジネスホテルのわりに、結構上質そうな生地をしている。
(´・ω・`) 「まず、ジャケットを脱ぐなり鞄を置くなりしてから、」
(´・ω・`) 「ひとまずは疲労をベッドにぶつけるものなんだけどね」
/ ゚、。 / 「まあ、……確かに」
.
- 126 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:31:57 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「この時点で、少なくとも当時の害者の状況をひとつ、推測できる」
/ ゚、。 / 「……」
/ ゚、。 / 「そもそも部屋に入ってなかった?」
思わず顔を歪めて噴き出してしまった。
想像以上に、壁は推理力には欠けるようだ。
論理の伴わない直観力には長けているのだけど。
(´・ω・`) 「あのさー」
(´・ω・`) 「害者は、どこに倒れていた?」
(´・ω・`) 「ッつーか、このロープは何のカタチしてる?」
/ ゚、。 / 「…」
露骨に嫌そうな顔をされた。
/ ゚、。 / 「だ…だって」
/ ゚、。 / 「警部が、ベッドがきれいって言うから…」
.
- 127 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:32:40 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「そうですよ、殺害されたのち、部屋まで運ばれたり…」
/ ゚、。 / 「そうだ、窓を見ましょう。 外から他の部屋に移れるかも…」
(´・ω・`) 「…」
壁の、怒り混じりの怒涛の推理に、腕組みをする。
そんな、推理小説みたいなトリックが浮かぶのか。
(´・ω・`) 「オーケー、推理の手筋を教えよう」
/ ゚、。 / 「はい?」
(´・ω・`) 「まず、大前提を押さえる」
(´・ω・`) 「今回の場合の大前提、それは」
指折りしながら、教えてやる。
ひとつ、害者の死因は、アナフィラキシーショック。
ふたつ、遺体は部屋の中で横たわっていた。
みっつ、ホテルには防犯カメラというものが備わっている。
.
- 128 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:33:10 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「林さん、室内にもカメラはあるのですか?」
林ちゃん 「いや、フツーは、ないかと…」
聞いた壁は、フン、と大きな鼻息を鳴らした。
(´・ω・`) 「まあ、聞け」
(´・ω・`) 「大前提を設定したら、次はゴールを定める」
/ ゚、。 / 「ゴール?」
(´・ω・`) 「そもそも、どうやって害者が殺されたか?」
/ ゚、。 / 「そりゃあ、薬にアレルゲンが盛られて…」
(´・ω・`) 「だから、どうやって?」
/ ゚、。 / 「…」
.
- 129 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:33:41 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「瓶は、常に害者が持ち歩いている」
(´・ω・`) 「ホテルの、通路…には、当然カメラが備わっている」
(´・ω・`) 「なにより、瓶は、いわく常備薬……」
、 、 、 、 、、 、
(´・ω・`) 「毎日飲んでいるものなんだ」
/ ゚、。 / 「あっ…」
(´・ω・`) 「三十日に亡くなったわけだけど、」
(´・ω・`) 「逆に言えば、二十九日までは、生きていた」
(´・ω・`) 「つまり、二十九日の服用から三十日の服用までの、一日足らず」
(´・ω・`) 「その間で、犯人は、この瓶に干渉してるんだ」
(´・ω・`) 「それを、僕たちは追うわけ」
/ ゚、。 / 「…」
熱心に、メモを取る。
しかし、困ったものだ。
確かに、ワカッテマス以外の教育は疎かにしている部分もあるが、
捜査一課に配属される以上、最低限の推理力は備わっていてほしいものだ。
.
- 130 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:34:27 ID:OAVw79X60
-
大前提を押さえたうえで、ゴールを用意する。
そして、ゴールがゴール足りうる理由を羅列する。
今回なら、先ほど僕が列挙したいくつかだ。
この、みっつのフィルターを張れば、現場を見た時の第一印象は、がらっと変わる。
不審な点がうかがえた時、フィルターを通すことで、謎と結びつけることが可能となる。
(´・ω・`) 「で、ベッドがきれいなのが気になった」
(´・ω・`) 「疑ってかかると、こうなる」
(´・ω・`) 「害者は、入室した時点で既に用事があった」
(´・ω・`) 「たとえば、誰かと電話…あるいは、外出…」
/ ゚、。 / 「あ!」
(´・ω・`) 「そこで、犯人と接触していたとしたら?」
(´・ω・`) 「何かしらの手段で、瓶に干渉されていたら?」
.
- 131 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:35:04 ID:OAVw79X60
-
壁が、感嘆の声をあげる。
一息ついて、林ちゃんに目配せする。
察した林ちゃんが、ひとりだけいる鑑識に声をかける。
鑑識 「はい」
林ちゃん 「害者の痕跡は」
あらかじめそう言われることがわかっていたかのように、
鑑識は即座に資料を林ちゃんに手渡した。
林ちゃん 「警部」
(´・ω・`) 「どれどれ」
狭い室内を歩き回った痕跡、
デスクに腰かけた痕跡が認められているらしい。
汗の跡や指紋などが、各箇所から検出されていた。
(´・ω・`) 「…」
/ ゚、。 / 「指紋はともかく、歩き回った、というのが気になりますね」
(´・ω・`) 「ああ」
.
- 132 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:35:36 ID:OAVw79X60
-
ひとまず、害者は手放しでホテルに宿泊したわけではなさそうだった。
要件はどうであれ、害者には何かしなければならないことがあったに違いない。
室内を歩き回った、というのは、大方電話でもかけていたのだろう。
林ちゃん 「害者の通話記録は」
鑑識 「こちらに」
(´・ω・`) 「気が利くねェ」
返事もせず、林ちゃんは別の資料を僕に手渡した。
日時が、西暦から秒に至るまで克明に記録されている。
最近の電話は優秀だ。
/ ゚、。 / 「どれどれ」
(´・ω・`) 「これは、後で検討することにしよう」
(´・ω・`) 「情報量が多すぎるからね」
/ ゚、。 / 「わかりました」
.
- 133 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:36:32 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「さて…」
推理の手筋をレクチャーしたところで、あらためて現場を見返す。
狭い室内だ、しかしベッドには触れてもいない。
どこかに電話をかけるにしても、ベッドに飛び込みそうなものだ。
次は、害者が外出したかどうか、が気になってくる。
ベッドに目をくれることもなく、荷物だけ置いて出て行ったのかもしれない。
(´・ω・`) 「林ちゃん」
林ちゃん 「なんでしょう」
(´・ω・`) 「害者って、チェックインした後は、部屋にこもりきりだったのかい?」
林ちゃん 「そうですね」
(´・ω・`) 「ん…」
面白くない答えが即座に返ってきて、少しつまらなく思った。
つまり、この時点で、アレルゲンは盛られていたのか。
.
- 134 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:37:02 ID:OAVw79X60
-
林ちゃん 「二十時十三分」
林ちゃん 「その頃にチェックインして、死体発見時刻が二十二時〇八分」
/ ゚、。 / 「二時間も、何か作業をしていたのですかね」
(´・ω・`) 「違うね」
壁が少ししゅんとした。
まだ若いんだから、多少推理を外しても、胸を張らないと胸を。
いやそもそも張る胸がなかったか。
(´・ω・`) 「くっ」
/ ゚、。 / 「?」
笑いそうになったのを、堪える。
笑う時間があれば、少しでも情報をまとめたいのだ。
.
- 135 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:37:37 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「…そう」
(´・ω・`) 「あくまで、発見が二十二時過ぎだっただけだ」
(´・ω・`) 「場合によっては、インから一時間もせずに死んだかもしれない」
/ ゚、。 / 「ああ…まあ…」
死亡推定時刻は、チェックインや発見と噛み合ってこそいるが、曖昧だ。
逆にそれらが時間を割り出しているため、むしろ死亡推定時刻は不要ですらある。
(´・ω・`) 「ちょっと、さっきの貸して」
/ ゚、。 / 「電話ですか」
(´・ω・`) 「そうそう」
言われて、きょとんとしながら壁は紙を取り出す。
あとで検討する、といってすぐに使うものだから混乱したのかもしれない。
.
- 136 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:39:31 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「…」
リストの、一番上。
最後の通話履歴をチェックする。
/ ゚、。 / 「どうですか?」
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「あ」
そうだ。
せっかくだし、推理力をチェックしてやろう。
(´・ω・`) 「結論から言うと、害者はこの部屋に入ってから」
(´・ω・`) 「予想通り、何者かと電話をしていた」
/ ゚、。 / 「はい」
(´^ω^`) 「んだけど!」
/;゚、。 / 「…」
.
- 137 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:39:56 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「これは、着信だった? 発信だった?」
/;゚、。 / 「…」
/ ゚、。 / 「は?」
第一声がそれか。
あまり期待しても仕方なさそうだ。
(´・ω・`) 「遅い。 答えは発信だ」
/ ゚、。 / 「は、え?」
まとめると、害者はチェックインして、
ベッドに飛び込むことなく、室内をうろちょろしている。
察するに、電話などをしていたことがうかがえるが、
前提として、着信がくることを予測はできない。
害者は、入室して荷物を置き、能動的に電話をかけたことがうかがえる。
そもそも、害者は何か用事があった、という推理を展開させていたのだ。
.
- 138 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:40:33 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「通話時間は、十分ほどか」
/ ゚、。 / 「長いような、短いような」
(´・ω・`) 「ふつうだったら、これだけで通話代四百円だな」
/ ゚、。 / 「たっか…」
どうやら、最近の若者はあまり通話料金を意識していないらしい。
僕やぎょろ目の時代は、結構過敏になっていたものだけど。
(´・ω・`) 「業務連絡にしては長く、世間話にしては短い」
(´・ω・`) 「で、この番号はもう洗ってあるんだよね?」
林ちゃん 「はい。 仕事相手、ですね」
(´・ω・`) 「そういや、害者の仕事って?」
林ちゃん 「建設業です」
.
- 139 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:41:13 ID:CZ4aqXp.0
- 支援
- 140 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:41:33 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「建設、ですか」
(´・ω・`) 「…害者の自宅は?」
林ちゃん 「アルプスですね」
結構遠いな。
県警からでも、車で数時間といったところだ。
(´・ω・`) 「土壌でも調べにきたのかな」
林ちゃん 「そうですね」
林ちゃん 「害者の仕事はいわばロケハンで、」
林ちゃん 「いい土地を探したり、依頼にある建物が建てられるかを検討していたようです」
林ちゃん 「鹿島建設という会社で、これもアルプスの企業です」
そこで、ヴィップか。
アルプスも、自然に恵まれた土地に違いないが。
しかし、職先と電話していたのか。
あるいは犯人とでも話してはいないか、と期待したものの。
.
- 141 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:42:14 ID:OAVw79X60
-
壁は生真面目に、捜査記録を残している。
しかし勤め先は、おそらくハズレだろう。
土地調査という名目も、ハリボテではない。
フッサール擬古は、ヴィップの整体師だ。
それがアルプスの建設会社と関係を持つとは考えにくい。
まあ、断言こそできないから、壁に嫌味は言わないことにしておく。
(´・ω・`) 「オッケー。 ありがとう」
/ ゚、。 / 「カシマ建設……」
/ ゚、。 / 「本当に、出張の件で来たのでしょうか?」
捜査がはじまったばかりで、しかし時間は足りていない。
こういう局面では、細そうな線はひとまず候補から除外していくのだ。
(´・ω・`) 「現状では、その線は薄いと思うよ」
林ちゃん 「そうですね」
林ちゃん 「初動捜査で、裏もとってあります」
.
- 142 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:42:46 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「では、いつどこでアレルゲンが」
(´・ω・`) 「そうだねえ」
悩むふりをする。
しかし考えるまでもなく、チェックインより以前であることは明白だった。
林ちゃん 「言うまでもありませんが、ホテルスタッフが干渉したタイミングはありません」
林ちゃん 「あちこちに防犯カメラもありますし、」
林ちゃん 「入室するまでの害者の動きは全部カメラが捉えています」
/ ゚、。 / 「となると…」
壁が、僕の持っている通話履歴の紙を覗き見る。
ふむ、考えていることはあながち的外れでないようだ。
(´・ω・`) 「ひとつ古いものは、このホテル宛てだね」
(´・ω・`) 「特に不審な点はないとして…」
.
- 143 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:43:07 ID:OAVw79X60
-
更に視線をひとつ、滑らせる。
壁もその行を注視している。
(´・ω・`) 「四月三十日、十三時……」
/ ゚、。 / 「着信で、結構長いこと通話していますね」
(´・ω・`) 「林ちゃん、コレ…」
林ちゃんの顔をうかがうと、少しばつの悪そうな顔をした。
おや。
林ちゃん 「その番号ですが…」
林ちゃん 「現在、確認中です」
(´・ω・`) 「確認中?」
予想外の返答に、少し声を曇らせた。
林ちゃんも、荒く剃られた顎ひげを撫でる。
.
- 144 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:45:00 ID:OAVw79X60
-
林ちゃん 「外国人名義の、いわゆる格安スマホです」
(´・ω・`) 「確かに、少なくともメガキャリアの番号じゃないね」
/ ゚、。 / 「メガキャリア?」
番号が050で始まっている。
これは、ざっくり言えば信頼されていない番号だ。
(´・ω・`) 「いわゆる三大キャリア」
(´・ω・`) 「それらは、090やら080やらではじまっているでしょ?」
/ ゚、。 / 「そうですね」
(´・ω・`) 「ただ、電話線を使用しない、」
(´・ω・`) 「たとえば、アプリなんかを利用する場合、この番号があてがわれるんだ」
/ ゚、。 / 「そうなんですか……」
/ ゚、。 / 「しかし、外国人名義?」
.
- 145 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:45:23 ID:OAVw79X60
-
林ちゃん 「目下うちで調べさせてこそいますが、」
林ちゃん 「芳しい結果は期待できないかと」
(´・ω・`) 「……なるほど」
露骨に怪しい情報が飛び出してきやがった。
苦い顔を浮かべてしまう。
最近、050番号は少しずつ使用されているらしいが、
ニュースや話を聞く限り、どうにも快い使われ方がされているわけではないそうだ。
(´・ω・`) 「そういう情報は、すぐにこっちまで上げてほしい」
林ちゃん 「こんな急に本部が設置されるとも思っていなかったので、失礼」
ちゃっかり、嫌味を言ってくるなあ。
別に、捜査一課と所轄の刑事課が険悪というわけではない。
これは単なる僕個人への嫌がらせみたいなものだろう。
.
- 146 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:45:56 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「じゃあ、この番号は保留で」
続けてもう一行下の番号を追う。
しかし、日付は二十八日を記していた。
/ ゚、。 / 「…」
/ ゚、。 / 「めぼしい情報は、現状その050番号くらいですか」
(´・ω・`) 「え、なんで?」
/ ゚、。 / 「えっ…」
壁がもう一度リストを見る。
/ ゚、。 / 「重要なのは、二十九日から三十日なのでは?」
/ ゚、。 / 「それ以前を調べても、仕方ないかと」
(´・ω・`) 「いや」
、 、 、 、
(´・ω・`) 「この番号は、二十四日から遡るべきだ」
もっとも、いま検討すべきか、となると別の話だが。
.
- 147 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:46:58 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「一週間分も?」
(´・ω・`) 「二十四日……ピンとこない?」
/ ゚、。 / 「と言われましても」
(´・ω・`) 「捜査手帳を見直すんだ」
/ ゚、。 / 「……」
腑に落ちない顔をしている。
ほんとうにわかっていないのか、あるいは情報がまとまっていないのか、
「二十四」 だからピンとこないのか。
(´・ω・`) 「そうだな」
(´・ω・`) 「二十四、それは地下鉄殺人が起こった日だ」
/ ゚、。 / 「あ…」
紙を繰る手が止まった。
.
- 148 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:47:53 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「え、でも」
/ ゚、。 / 「事件は二十五日じゃ……あ!」
(´・ω・`) 「の、深夜〇時、舞台は地下鉄」
(´・ω・`) 「履歴を手繰るなら、前日、地下鉄に乗る前だ」
改めて履歴を見直す。
三つ、四つほど行が伸びていた。
/ ゚、。 / 「しかし、これらの番号はいったい?」
(´・ω・`) 「さあ。 検討しないとわからない」
/ ゚、。 / 「じゃあ」
「でも」 。
話がこじれる前に、壁を制する。
(´・ω・`) 「推理の手引き、その一」
(´・ω・`) 「この事件の、大前提だ」
.
- 149 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:48:21 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「…?」
(´・ω・`) 「本件は、行きずりでも愉快犯でも、警察への挑戦状でもない」
(´・ω・`) 「犯人がその生涯で恨みを抱いてきた相手たちか、」
(´・ω・`) 「あるコミュニティ内で…起こっているものなの、か」
/ ゚、。 / 「コミュニティ…」
こちらは、まだ半々ではあるが。
(´・ω・`) 「つまり、害者たちは、つながっている」
(´・ω・`) 「少なくとも、犯人とは、ね」
/ ゚、。 / 「それが、何か」
(´・ω・`) 「その場合……」
(´・ω・`) 「つまり、フッサール擬古とヒッキー小森がつながっていた場合」
(´・ω・`) 「コミュニティ内で電話のやり取りがあっても、おかしくないんだ」
.
- 150 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:48:56 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「あ!」
/ ゚、。 /
/ ゚、。 / 「………」
/ ゚、。 / 「?」
だめだ、わかっていない。
嫌がらせなんてしないで、ちゃんと共有しておけばよかった。
(´・ω・`) 「たとえば、そうだな」
(´・ω・`) 「…」
(;´・ω・`) 「もしもし、おい、小森!」
(;´・ω・`) 「久しぶりだな……聞いたか、擬古の件」
(;´・ω・`) 「これって、もしかして……」
.
- 151 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:49:31 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「ああ!」
/ ゚、。 / 「…」
(;´・ω・`) 「もしかして、あの時の……」
/ ゚、。 / 「とてもよくわかったので、演技はもういいです」
咳払いをする。
とにかく、そういったケースで電話がかけられてきている可能性も、ある。
犯人と被害者をつなぐ形状が、輪でなくひげ根である可能性もあるのだが。
(´・ω・`) 「てなわけで、ひと段落したら、このリストを洗うぞ」
/ ゚、。 / 「それは、ハイ。 勿論」
(´・ω・`) 「それで…」
今は、検討をしにきたのではない。
現場を把握し、細かい情報を整理するのだ。
.
- 152 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:50:01 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「まず、害者は二十時十三分にチェックイン」
(´・ω・`) 「入室し、すぐに職場に十分ほど電話をかける」
(´・ω・`) 「仕事の話をしていたとみるのが妥当だろう」
(´・ω・`) 「電話を切った害者は、思い出したかのように薬を飲む」
/ ゚、。 / 「咳止め、でしたっけ」
(´・ω・`) 「そうなんだけど、林ちゃん」
(´・ω・`) 「念のため確認だけど、その薬って、市販のものだよね?」
林ちゃん 「そうですね」
医者に処方されるなら、瓶ではない。
飲みやすいように、自分で勝手に瓶に詰めているのかもしれないけど。
林ちゃん 「担当医曰く、小森は根に持つタイプだったようです」
林ちゃん 「以前、処方された薬にアレルギーがあったようで、」
林ちゃん 「以来、害者は担当医の忠告も聞かず、市販の薬を飲むことにしました」
.
- 153 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:50:32 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「アレルギー…?」
/ ゚、。 / 「ピーナッツ以外に、ですか」
それも気になったが、そもそも、薬にもアレルギーはあるのか。
長く刑事を勤め、検視することもあるが、未だに医学には疎い。
林ちゃん 「フラベリック錠、という薬です」
林ちゃん 「なんでも、服用した患者の音感を狂わせる副作用があるそうで」
(´・ω・`) 「ピーナッツとは関係ないんだね?」
林ちゃん 「ええ」
隣で壁がメモを取る。
部下がいると、こういった場面で便利だ。
林ちゃん 「結構、有名な話だそうですよ」
林ちゃん 「いわゆる絶対音感持ちの人がこれを服用すると、半狂乱にまで至るそうです」
(´・ω・`) 「絶対音感か」
.
- 154 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:50:52 ID:OAVw79X60
-
あいにく音感とは縁遠い。
ただ、一部の人から忌み嫌われる薬であることはわかった。
/ ゚、。 / 「害者は、絶対音感の持ち主だったのですか?」
林ちゃん 「担当医は言ってませんでしたが、」
林ちゃん 「小森は音楽の趣味があったようです」
(´・ω・`) 「音楽…?」
少し目を細める。
はじめての情報だ。
/ ゚、。 / 「音楽、というとバンドですか?」
林ちゃん 「なのですか、ね」
林ちゃん 「害者宅をうかがうと、アコースティックギターがありました」
ギターか。
.
- 155 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:51:22 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「僕は聞いてないぞ」
林ちゃん 「申し訳ありません」
とってつけたような謝罪だ。
目が一切変わっていない。
/ ゚、。 / 「ギターですか」
/ ゚、。 / 「しかし、この音感の件、なにか事件と関係あるんですかね」
メモを懐にしまって、壁が聞いた。
関係ある、と断言はできないが、無関係だと断言するわけにはいかなかった。
(´・ω・`) 「音感はさておいて」
(´・ω・`) 「害者は、ギターが好きだったそうじゃないか」
/ ゚、。 / 「たまたま預かっていただけ、とかじゃなく?」
(´・ω・`) 「その可能性もあるから断言はしないけどさ」
(´・ω・`) 「……なあ、今日付けで殺人が予告されている場所はどこだ?」
.
- 156 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:52:15 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「…!」
林ちゃん 「渋沢栄吉…ですか」
林ちゃんも気づいたようだ。
昨日、予告の情報が回った時点で、誰かにこの可能性に気づいてもらいたかったものだ。
(´・ω・`) 「害者が渋沢のファンだったかまではわからないけど、」
(´・ω・`) 「ここに、ギターと渋沢、という取っ掛かりができるわけだ」
(´・ω・`) 「害者のコミュニティというものがあったとして、」
(´・ω・`) 「音楽関連のそれだったとしたら…?」
/ ゚、。 / 「あり得ますね…」
しまったばかりの手帳を慌てて取り出す。
常備薬、の話からここまで推測を展開させてしまったが、
あながち悪くない着眼点だとは思う。
害者は、ナントカ錠の副作用で音感を狂わされたことを忌み嫌った。
それも、担当医の言葉を振り切って市販の薬を服用しだすほどには。
.
- 157 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:52:36 ID:OAVw79X60
-
それだけ音に対しての拘りは強かった人なのかもしれない。
音を拘る人が、自宅にギターを持っていた。
となると、自宅にあったギターは、ただの預かりものではなく、
趣味のひとつとして所有していたことがうかがえる。
二件目の被害者は音楽趣味を持っていて、
三件目、ただいま予告されている殺人の舞台は、ライブ会場だ。
まだ、ただの偶然とも言い切れる範疇にあるが、あり得なくはない。
ペニー、ワカッテマスにメールを送る。
ヒッキー小森はある程度以上の音感を持つ男で、
ギター趣味があった可能性が認められた。
ライブ殺人予告となんらかの関係があるかもしれない。
林ちゃん 「…」
(´・ω・`) 「マ、いいでしょ」
(´・ω・`) 「なんにせよ、薬を飲んだわけだ」
/ ゚、。 / 「警部の推理では、電話を切ってすぐに薬を飲んだわけですね?」
.
- 158 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:53:37 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「すぐ、かはわからない」
(´・ω・`) 「電話後、軽くスマホをいじった、そのラグタイムは発生したかもしれないけど」
(´・ω・`) 「まあ、ベッドに横になろうという気が起こる前に飲んだのは違いないね」
/ ゚、。 / 「…」
(´・ω・`) 「そして、アレルゲンの盛られた薬を飲んで、死亡」
(´・ω・`) 「二十二時〇八分に、ホテルのマネージャーが様子をうかがいに来て、」
(´・ω・`) 「あらためて事件発覚、といった具合だ」
/ ゚、。 / 「アレルゲンの媒体はオイルだったようですが、」
/ ゚、。 / 「実際、オイルなんて塗られていたら、飲む前にわかりません?」
(´・ω・`) 「多少は乾いていただろうけど、そこも気になる点だ」
.
- 159 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:53:58 ID:OAVw79X60
-
林ちゃん 「申し訳ありませんが、薬はいま手元にありません」
(´・ω・`) 「さすがに押収してるか」
林ちゃん 「ただ、そこまで油分は感じられませんでした」
(´・ω・`) 「ピーナッツの香りは?」
(´・ω・`) 「致死量なら、そこそこはすると思うんだけど」
林ちゃん 「慎重に嗅ぐと気づける程度ではあるのですが、」
林ちゃん 「常備薬に知らぬ間に盛られたそれに、そんな注意を払うとも思えません」
(´・ω・`) 「それもそうだけど」
そう言われては、反証のしようがない。
手触りや匂いが多少不自然になろうが、
日常的に服用しているそれを疑うか、と言われると、難しいところではある。
ただ、それには条件がある。
害者が、薬に一切の疑念を抱かなかったという前提だ。
.
- 160 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:55:18 ID:OAVw79X60
-
たとえば、誰かが瓶のなかに何かを入れていたところを見た場合、
どう考えても、害者は瓶の中身を多少は気遣うもの。
それすらなく、無意識に薬を飲んでいるならば、
前提として、犯人は一切気づかれることなく瓶に干渉した、ということになる。
果たして、そんなことは可能なのだろうか。
犯人が害者と同席し、トイレなどで席を立った時くらいだ。
(´・ω・`) 「…」
しかし、もしそうなら、既に情報が上がっていそうなもの。
服用していたものと同じ薬を購入し、すり替えたとして、
犯人はどこで害者と同じ薬を知ったのか、などといった疑問が浮かぶ。
推理の手引き、か。
まず前提は、犯人は一切気づかれることなく瓶に干渉した。
瓶は害者の鞄のなかにあった。
それは、常備薬だった。
ゴールは、どうやってアレルゲンを盛ったか。
(´・ω・`) 「害者の、当日の行動は?」
林ちゃん 「目下捜査中」
林ちゃん 「ICカードの履歴から、十七時三九分にすぐそこの駅に降りたことはわかっています」
.
- 161 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:56:12 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「十七時?」
七時、の間違いじゃなくて、か。
また面倒な情報が出てきやがった。
/ ゚、。 / 「チェックインまでに、ざっと二時間は空いていますね」
(´・ω・`) 「ああ、空いているのはいいんだ」
(´・ω・`) 「ただ、駅はすぐそこだぜ?」
(´・ω・`) 「二時間も、何をしてたッていうんだ」
誰かと合流し、軽く食事でもとっていたのか。
いや、食事の場でアレルゲンは盛りづらい。
結果として害者はチェックイン後にそれを飲んだわけだが、
薬とは得てして、食後に飲むものだ、その場で死亡してしまうリスクが高すぎる。
林ちゃん 「近隣の飲食店はチェックしましたが、」
林ちゃん 「いずれも害者は利用していないようです」
(´・ω・`) 「妙だな」
.
- 162 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:56:37 ID:OAVw79X60
-
次々と情報が出てくる。
害者が音楽好きで、三人目のターゲットとのつながりが窺えたこと。
害者はチェックインする二時間前から最寄駅で下車していたこと。
そこからの行動はまだ洗えていないこと。
これは地取りに時間を取られそうだ。
逆に、チェックインからの行動はそこまで多くない。
ホテル内を調べることで得られる情報は、あまりないかもしれない。
/ ゚、。 / 「その、二時間の間にアレルゲンを盛られた可能性が?」
(´・ω・`) 「…」
現状、僕もそう思う。
ただ、断言できないのも事実だ。
(´・ω・`) 「害者は、どこから乗車していた?」
林ちゃん 「鹿島建設の最寄駅ですね」
林ちゃん 「害者は当日、一度出社してから乗車したようです」
林ちゃん 「会社にも裏をとりましたので間違いはないかと」
.
- 163 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:57:28 ID:OAVw79X60
-
寄り道はほぼしなかったわけだ。
車両内でアレルゲンを盛られた可能性もあるが、
飲食店などと違い、電車は一度乗るとめったに席を外さない。
/ ゚、。 / 「だったら、こちらに来てから犯人と接触したと見て…」
(´・ω・`) 「いや…わからない」
/ ゚、。 / 「え?」
待てよ。
アルプスからきたとなると、それは在来線か否か。
(´・ω・`) 「害者って、新幹線できたの?」
林ちゃん 「いや、アルプスからの在来線です」
林ちゃん 「オオカミ鉄道を利用していたようです」
オオカミ鉄道は、多くの新幹線鉄道を擁する。
もとは在来線が強かった鉄道会社だが、近年、新幹線に力を入れつつある。
しかし、オオカミ鉄道か。
最近、在来線の車両に防犯カメラを設置する動きが見えているが、
落ち目のオオカミ鉄道は、当然そんな施策、しているわけがない。
.
- 164 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:57:57 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「新幹線かどうか、なんて関係あるんですか?」
(´・ω・`) 「こんなストーリーが浮かんだんだ」
腕を組んで、首を傾ける。
(´・ω・`) 「犯人が、害者がヴィップに行くことを知る」
(´・ω・`) 「自分もヴィップに行く、と言って同行する」
(´・ω・`) 「アルプスからの長距離乗車なんだ、クロスシートに一緒に座れるだろう」
壁が、クロスシートと言った辺りではてなを浮かべた。
ローカル線に見られる、横長のシートがロングシート。
快速や特急で見られる二人座席が、クロスシートだ。
電話の件といい、最近の若い子はあまりそういった知識に富んでいないらしい。
逆に、僕みたいなおじさんはメカに疎いため、似たようなものなのかもしれないが。
(´・ω・`) 「で、クロスシートに座る以上、眠りについてもおかしくないわけだ」
(´・ω・`) 「なにも、旅行でヴィップにいくわけじゃないからな」
.
- 165 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:59:02 ID:OAVw79X60
-
加え、アルプスは山に囲まれている。
どこに行くにしても、多くのトンネルを抜ける必要がある。
僕だったら、まあ乗車してすぐに目を瞑るだろう。
(´・ω・`) 「話を戻そう」
(´・ω・`) 「クロスシートに相席した犯人は、」
(´・ω・`) 「寝ている害者のバッグを漁り、瓶にアレルゲンを盛る」
/ ゚、。 / 「!」
(´・ω・`) 「知らない人と相席しているわけじゃないんだ、」
(´・ω・`) 「多少物音がしても、害者はさして気にもしないだろう」
/ ゚、。 / 「害者が寝なかったらどうしてたんですか?」
(´・ω・`) 「そうなっても、下車したあと、メシなり何なりでどこか店に行くなりできる」
(´・ω・`) 「……なんて可能性も、否定はできない」
.
- 166 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 16:59:59 ID:OAVw79X60
-
現状はね、と付け加える。
もちろん、ヴィップで待っていた犯人と合流して、店に向かった可能性も高い。
こちらは、下車後二時間ほど空白があったというデータもある。
林ちゃん 「…」
(´・ω・`) 「害者が乗車した駅の、監視カメラとかは見た?」
林ちゃん 「まだですね」
まあ、期待はしていなかったさ。
僕だってたった今思いついた推理だし。
まして、乗車中に犯行があったとしても、
カメラに一緒に映った可能性は高くはない、むしろ低いだろう。
ただ、万が一映っていたら、これほど簡単な話はなかった。
(´・ω・`) 「そうだなあ…」
/ ゚、。 / 「アルプスですよね。 県警に申請したほうがいいですか?」
(´・ω・`) 「や、いいよ。 オオカミでしょ?」
/ ゚、。 / 「?」
.
- 167 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:00:41 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「オオカミの総裁とは浅くない付き合いでね」
(´・ω・`) 「僕から言っておくよ、三十分もあったらすぐにデータくれると思う」
/ ゚、。 / 「…」
壁が、少し視線を輝かせた。
いまのセリフ、ちょっとかっこよかったのかもしれない。
確かに、一鉄道会社の、それも総裁と知り合いというのはステータスが高いのだろうか。
/ ゚、。 / 「やっぱり、警部ともなると、コネとか、その…」
/ ゚、。 / 「いろいろデキるんですね!」
(´・ω・`) 「待て」
(´・ω・`) 「別に黒い関係でもねえよ」
僕は刑事を続けて、いやに関係の深まった三人がいる。
うち一人はマスコミだから、そこまでおかしくもないが、
うち一人が、そのオオカミ鉄道の総裁、ましてもう一人はただの女子高生だ。
後者ふたりは、勝手に僕たちの事件に巻き込まれてくるだけである。
今回こそは穏便に事を運びたいところだが、嫌な予感しかしない。
.
- 168 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:01:16 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「とにかく…」
悪い予感を振り払うように、さっさと携帯を開いた。
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「ア、お久しぶりです、県警のショボーンですゥ」
着信元を見ていなかったのか、
僕の声と名前を聞いて、一気に声色を和らげた。
オオカミ鉄道総裁、大神フォックスという男は、権力やら何やらに非常に弱い。
僕もそのうちの一人なのだろう、急に物腰が柔らかくなった。
(´・ω・`) 「ああ、いえいえ……その節はほんとうに……」
(´・ω・`) 「ヤ、いま、ちょっと事件を追ってるわけなんですけど、」
(´・ω・`) 「あれです、テレビでもやってるでしょ、連続予告殺じ……」
(´・ω・`) 「え、なに、忙しい?」
(´・ω・`) 「待ってください、」
(´・ω・`) 「…」
.
- 169 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:01:44 ID:OAVw79X60
-
連続予告殺人、と言った瞬間に電話を切られた。
すかさずリダイヤルした。
隣で、壁が怪訝そうな顔を浮かべている。
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「もしもし、違いますって」
(´・ω・`) 「安心してください、違いますから」
(´・ω・`) 「わかった、予告がきたら真っ先に教える!」
/ ゚、。 / 「…」
少しして、要件を手短に伝える。
三十分以内にデータをよこさないと、と軽く脅しを入れると一発だった。
(´・ω・`) 「はあ…」
/ ゚、。 / 「…」
/ ゚、。 / 「だ、大丈夫でした?」
(´・ω・`) 「なんとか…」
.
- 170 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:02:19 ID:OAVw79X60
-
(´・ω・`) 「うぉっほん!」
もとより、望みの薄い賭けだ。
どうしてその程度のためだけに、心労を蓄えないといけないのだろう。
(´・ω・`) 「カメラのデータと、アルプスの駅員の証言もまとめることを約束してくれたよ」
林ちゃん 「ありがとうございます」
/ ゚、。 / 「アルプスのほうは、どう調査しましょうか」
(´・ω・`) 「ヤ、どうせこれ以上の調べようはないんだ、」
(´・ω・`) 「害者を洗うほうを優先させよう」
所轄が、カンタンな地取りは済ませてくれている。
先に害者の動向を押さえ、怪しいところから探っていきたい。
すると、懐にしまった携帯が鳴った。
メールだ。
ペニーからだった。
一件目の害者は釣りが趣味だったこと、先日シベリアに旅行に行っていたこと。
フッサール擬古についての情報が、軽くではあるがまとめられていた。
.
- 171 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:02:59 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「もう先方から?」
(´・ω・`) 「ペニーだ」
(´・ω・`) 「向こうの害者は、釣りが趣味だったらしい」
/ ゚、。 / 「向こう?」
/ ゚、。 / 「ああ、地下鉄殺人」
(´・ω・`) 「釣りか…」
ここで趣味が音楽だったら、どれほど楽だったか。
メールによると、これから害者宅を捜査するとあった。
早く進展が欲しい、とはやる気持ちを抑え、ペニーにもヒッキー小森の情報を共有する。
三件目、ライブ殺人予告の段階で犯人が捕まってくれたら何より早いのだが。
まだ予告の時間まで長い。
/ ゚、。 / 「警部」
少し思慮に入り、三人が棒立ちになったのを見て、壁が切り出した。
.
- 172 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:04:16 ID:OAVw79X60
-
/ ゚、。 / 「ここでの捜査は、どうしましょう」
(´・ω・`) 「ん」
/ ゚、。 / 「他に、何を調べれば」
他、か。
現場は荒らされておらず、捜査できるほど証拠がないことが捜査でわかった。
(´・ω・`) 「ここらは、ひとまずはいいだろう」
(´・ω・`) 「それよりも、いっそう害者を洗う必要が出てきた」
/ ゚、。 / 「当日の動向、ですね」
(´・ω・`) 「加え、音楽趣味とやらだ」
(´・ω・`) 「ひょっとすると、三人目とのつながりが出てくるかもしれない」
林ちゃん 「所轄ではどうしましょうか」
(´・ω・`) 「まず、わかっていることを本部まで送ってくれ」
(´・ω・`) 「どんな細かいことでも、残らずすべてだ」
林ちゃん 「わかりました」
(´・ω・`) 「で、下には地取りを続けさせろ」
.
- 173 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:05:05 ID:OAVw79X60
-
林ちゃん 「はい」
僕が歩き出したのを見て、二人もついてきた。
ホテルでは、ハウスキープに多くの人員が割かれている。
なるべく邪魔にならないように、ひっそりと現場を後にした。
オオカミ鉄道からの、カメラの映像。
ペニーからの、フッサール擬古の情報。
ワカッテマスからの、ライブ殺人予告の進展。
害者の携帯に残された、発信者不明の番号。
まだまだ知りたいことは多いが、共有を待つばかりでは面白くない。
外堀は他の人員が埋めてくれるだろう、
一刻も早く、ホテル殺人の中核を明かしてやりたい。
(´・ω・`) 「…」
/ ゚、。 / 「…」
そのためには、アレルゲンをどこで盛ったかをはっきりさせたい。
電車で盛った可能性がある、
下車後に盛った可能性もある。
.
- 174 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:05:43 ID:OAVw79X60
-
帰ることを伝えようと事務所に寄ったが、マネージャーはいなかった。
林ちゃんがもう少し残るというため、そちらは奴に任せることにした。
外に出ると、日差しがいささか強くなっていることに気づいた。
さっさと駅に向かおうとする壁を制する。
/ ゚、。 / 「?」
/ ゚、。 / 「害者宅にいくのでは?」
(*´・ω・) 「ちょっと、ウンコ…」
/ ゚、。 /
(*´・ω・)y 「あと、これ…」
/ ゚、。 /
/ ゚、。 / 「…」
.
- 175 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:06:38 ID:OAVw79X60
-
┏━─
午後十七時五四分 ヴィップスタジアム
─━┛
業務用出入口近辺に、野次馬の姿は見られなかった。
もとより、最寄駅と正反対に位置する出入口で、警備員も過剰な数がいる。
塀の横から顔を出して、向こう側のほうを見る。
どうやら、ファンやマスコミなどは、正面玄関のほうに集まっているようだった。
警備員が、危険だからと彼らを制するものの、
彼らはふてくされたような顔をして、キッと警備員を睨み返すばかりだ。
少し遅めの昼食をとった後、東風さんは外の様子をしばらく見ていた。
( <●><●>) 「気づかれないものなんですね」
( ゚д)y-~~
( <●><●>) 「もう、あと一時間で予告の時間を迎えるわけですが」
( ゚д) 「……」
.
- 176 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:07:35 ID:OAVw79X60
-
意識しているわけではないのだろうが、
覗き方が完全に張り込みの時のそれだった。
張り込み時のクセなのか、煙草の吸殻を足元に捨てている。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「失礼。 何をうかがっているのでしょうか」
( ゚д) 「…」
踏まれた後の吸殻を拾い、近くの灰皿に捨てた。
東風さんはこんな調子で三分ほど向こうのほうを観察し、
一瞬肩の力が抜けたかと思うと、あらためて煙草を取り出しくわえた。
( ゚д゚) 「えっと、どうした」
( <●><●>) 「こちらのセリフです」
( <●><●>) 「何をうかがっていたのですか?」
( ゚д゚) 「なにって、いろいろだよ」
.
- 177 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:08:28 ID:OAVw79X60
-
ふう、と紫煙を空に吹き上げた。
夕陽がさんさんと差し込むなか、スタジアムの高いところまで煙は伸びていった。
いま我々がいるのが、西日に直面する場所なこともあり、
どうにもスーツの上にコートを羽織っていると、汗が止まらなくなる。
昼前に頂戴した水は、ここにきて飲み干すことになった。
( ゚д゚) 「年齢層から、何人ほどのグループでいるのか」
( ゚д゚) 「男女比もそうだ、何をしているかも気になる」
( ゚д゚) 「電話していたり、写真を撮っていたり、抗議…?の看板を掲げたり」
( <●><●>) 「…」
言われて、自分も一瞬だけ、ちらりと見やる。
とてもライブ会場前とは思えない不穏な空気が立ち込めている。
( ゚д゚)y-~~
( ゚д゚) 「…あれから、一度も犯人から連絡はきていないんだな」
( <●><●>) 「はい」
.
- 178 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:09:55 ID:OAVw79X60
-
渋沢のライブが中止になったことは、既に全国に広まっている。
連続予告殺人の存在と一緒に。
開場されなくなったのを見て、予告を撤回するか、
あるいは新たな予告を打ち出すか、といったある種の期待もしている。
もし、電話やメールなどが届いた場合、
すぐさまこちらまで回すよう伝えてはいるが、現状その一報はまだ来ない。
( <●><●>) 「やはり、狂言だとは思うのですが」
( ゚д゚) 「俺が気になるのは、群衆だ」
( <●><●>) 「と言いますと」
( ゚д゚) 「見ろ」
( ゚д゚) 「殺人予告が出ているというのに、呑気に集まる群衆を」
( <●><●>) 「…」
.
- 179 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:11:01 ID:OAVw79X60
-
( ゚д゚) 「ホテル殺人の件で、わかったことがある」
( <●><●>) 「なんでしょう」
( ゚д゚) 「人は、想像以上に、自分が殺される理由というものに疎い」
ヒッキー小森は、あらかじめ名指しで殺されることを知らされていた。
にも関わらず、心当たりのない彼は、まんまと殺されてしまう運びとなった。
( <●><●>) 「そりゃあ、大多数の人間はそうでしょう」
( <●><●>) 「著名人ならともかく、相手は今のところ、一般人ばかりだ」
( ゚д゚) 「だが、小森は殺された」
( <●><●>) 「しかし、今回は名指しではありません」
( <●><●>) 「多少人に恨みを買う程度では、誰も自分を疑ったりしないでしょう」
そこが、ホテル殺人との決定的な違いだった。
ホテル殺人は、ビジネスホテルという非常に閉鎖的な場所を舞台に、
ヒッキー小森というたった一人をピンポイントで殺害したというのに。
今回は、ライブ会場という非常に開放的な舞台で、
そのなかの誰かを、どこかしらのタイミングで殺害する、としか知らされていないのだ。
.
- 180 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:11:24 ID:OAVw79X60
-
( ゚д゚) 「だからこそ、俺は群衆が気になる」
( ゚д゚) 「いくら警備員が多いからといって、連中が気を張るのは、会場前だけだ」
( <●><●>) 「ターゲットの帰宅際が狙われる可能性……でしたか」
会場内を調べた後、
昼食をとりながら一時間ほど、東風さんと事件を検討した。
まず浮かんだのは、その可能性だった。
ライブ会場、との予告はあったものの、肝心の会場には大多数の人間が入れない。
だからこそ、会場で、というのはフェイクで、
事件を聞きつけそこに集まった群衆からターゲットを見つけ出して、
ライブ会場から離れたところで殺す、といった可能性だ。
( ゚д゚) 「犯人が必ずしも一人とは限らないんだ」
その可能性も、中頃に出てきた。
根拠は、法則性がないからだ。
地下鉄、ライブのような不特定多数から殺害に及ぶかと思いきや、
ホテルのような、ピンポイントな殺人をやってのけている。
.
- 181 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:12:13 ID:OAVw79X60
-
つまり、犯人は複数人のグループから構成されていて、
その構成員のうち、各々が恨みを抱く人間を殺していく、という集団の犯行。
警部は、個人が複数人に殺意を向けた可能性、というものを懸念していたが、
東風さんは、複数人がそれぞれに殺意を向けた可能性、というものを恐れていた。
もしそうなってくると、被害者それぞれを洗っても、
犯人グループの全貌を明らかにするのは途端に難しくなる。
それぞれの殺害の犯人を特定し、彼らのコミュニティすら突き止めなければいけないのだ。
( <●><●>) 「しかし」
( <●><●>) 「まだ、という言い方は不適切ですが、三回目」
( <●><●>) 「ライブが舞台なことも含め、やはり狂言の線は絶対に捨てられません」
( <●><●>) 「狂言、といいますか、フェイク」
( <●><●>) 「予告を聞いて害者に何かしら行動を起こさせ、そこを狙うことも」
( ゚д゚) 「もちろん、否定はしないがな」
( ゚д゚) 「…イツワリさんからの連絡は、まだか」
( <●><●>) 「…」
.
- 182 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:12:51 ID:OAVw79X60
-
検討をはじめ、現在に至るまで、
我々はずっと、警部からの情報共有を待っていた。
やはり、何を検討するにしても、キーとなるのがホテル殺人だ。
警部自身が、ホテル殺人が鍵となる、と言っていただけあり、
こちらから生まれた情報が、そのままライブ殺人予告に活かせるはずなのだ。
( ゚д゚) 「…」
( <●><●>) 「かけてみましょう」
残り、一時間弱。
予告に拘る犯人の心理を考えれば、いま殺害に及ぶとは考えにくい。
もちろん、それこそがフェイク、と疑うこともできるが、
そうなってくるといよいよ、人手が足りなくなる。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「私です」
( <●><●>) 「いま、よろしいですか」
( <●><●>) 「こちらは、スタジアムの裏口付近にいます」
.
- 183 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:13:20 ID:OAVw79X60
-
警部の口ぶりは、平生となんら変わっていなかった。
歳に似合わず感情的な人で、進展がうかがえたりした場合、
その声や鼻息を聞くだけで、察しがつくものだ。
警部はヒッキー小森を鈴木と洗っているところだった。
いまは害者宅にいるようで、害者は音楽趣味こそ持つが、
このたびの渋沢とは、なんら関係がないことなどがわかったそうだ。
また、ペニーの捜査で、地下鉄殺人のフッサール擬古が
先月にシベリアまで旅行に行ったこともわかっているが、
そちらのつながりも、現時点では確認されていないらしい。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「やはり、害者間のコミュニティは存在しない、」
( <●><●>) 「犯人がその半生で抱いてきた殺意を晴らす犯行では」
言うと、警部は 「その可能性が高くなってきた」 と言った。
捜査するうえで厄介なのは、情報があまりにも出てこない場合、
更に深いところまで疑ってかかるべきか、あるいはもとより関連性などないのか、
その判断が、非常に難しくなるところだ。
警部もまいっていたようで、
電話の向こうから、ジッポの金属音が聞こえてきた。
.
- 184 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:14:22 ID:OAVw79X60
-
警部は一転、ライブ殺人予告に言及してきた。
現状、まだ動きがないこと、
群衆が想像以上に集まっていること、
そして東風さんとの検討の結果を手短に報告した。
ライブ会場にターゲットを引き寄せて、離れたところで殺害。
犯人が複数いる可能性。
狂言の線、あるいはターゲットを呼び出す疑似餌。
また、自分と東風さんの間で、
「四度目」 の予告があるかないかの意見が分かれたことも伝えた。
それまでと今回とで変わった点のひとつに、
連続予告殺人の知名度が挙げられる。
四度目、五度目、と続けるには、あまりにもリスクが高すぎる。
まだ続けるつもりだったならば、もうしばらくは人目に晒されづらい犯行を望むはずだ。
だからこそ自分は、予告は今回で最終、
そしてその最後の犯行ではじめて、狂言をはかった、そう睨んでいる。
.
- 185 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:15:22 ID:OAVw79X60
-
対する東風さんは、まだ続く可能性を捨てきれないでいた。
長年の勘、というものではない。
それまでは、犯人の予告通りに、なんなら美しいまでに殺害を成功させている。
だというのに、三度目にして、ライブ中に、という条件を無視して、
反則的な手口で犯行に及ぶだろうか、そんな心理的なわだかまりを懸念していた。
( <●><●>) 「ペニーのほうは、どうなんですか」
( <●><●>) 「現状、擬古も小森も、三十少しの男だ、」
( <●><●>) 「学校やら以前の職場におけるつながり、というものがあってもおかしくはない」
つながりがないように見える現状、
かろうじて繋がっている糸があるとすれば、そこだった。
しかし、警部は低い声で言った。
「その可能性が高いと思っていたけど、つまんねーことに小中高大いずれも違う」
「小森はずっとアルプスの育ちで、擬古はずっとヴィップの育ちだ」
( <●><●>) 「…」
ホテル殺人の被害者は、ヴィップとつながりがなかった。
既知のようで、初耳の情報だった。
.
- 186 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:16:25 ID:OAVw79X60
-
( <●><●>) 「だったら、偶然ヴィップに訪れたところを殺されたわけで」
「そこが、ひっかかるところだ」
「犯人からすれば、ヴィップに固執する理由はないからな」
「だからこそ、僕はまだ、犯人と害者のコミュニティがあった線が捨てきれない」
( <●><●>) 「…」
腑に落ちる根拠ではあった。
もし本当に小森がヴィップと関係ない人間だったのであれば、
小森は後回しにして、先にヴィップにいるターゲットたちを殺害していけばいいのだ。
職場の鹿島建設に問い合わせたところ、
今回のヴィップ出張に、作為性はないとのことだったらしい。
そして、そんな作為性のなかったヴィップ出張を犯人は知り得て、
そのまま犯行にまでこぎつけられた、という。
偶然にしては、出来すぎな犯行だ。
( <●><●>) 「出張が決まったのは……ああ、結構前ですね」
作為性こそないが、計画自体は数か月前から決まっていたらしい。
となると、犯人が計画のうちに小森を組み込むのは、できなくはなかったのか。
「だから、少なくとも犯人は、ヴィップの人間だ」
.
- 187 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:17:19 ID:OAVw79X60
-
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「まあ、間違いはないでしょう」
( <●><●>) 「一件目が、ヴィップの人間で」
( <●><●>) 「ヴィップ出張が決まっていた人間が、二件目に殺され」
( <●><●>) 「三件目は、全国ツアーが決まっている渋沢栄吉のライブが舞台だ」
そうだ。
三件目、ライブ殺人予告に関しても言える。
あくまで、全国ツアーなのだ。
犯人がヴィップと関係のない人間だったり、コミュニティがヴィップに存在しない場合、
わざわざ、ヴィップにきたタイミングをはかって殺害に及ぶ必要性は、皆無。
「そこで思ったんだけど、シブちゃんて、ヴィップの前後はどこが舞台なんだ?」
( <●><●>) 「それは…」
( <●><●>) 「少しお待ちください」
.
- 188 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:17:44 ID:OAVw79X60
-
電話を切らないよう注意しながら、インターネットに接続する。
その程度の情報なら、関係者に聞くまでもなく、ホームページを見ればいい。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「先週、二十七日にはラウンジ」
( <●><●>) 「来週、十日にはアルプス」
( <●><●>) 「それぞれ、単日でライブが設定されています」
「来週、アルプスだったのか」
警部、自分ともに、少し声が抑え気味になった。
ここにきて、意外なところから情報があがってきたな、と思った。
直接的な共通点、とは言えないが、
先日殺害されたヒッキー小森の地元、アルプスでの公演が来週に控えていた。
警部が、少し唸り声をあげる。
「ヴィップに固執しないなら、小森を殺すのは来週でもよかったんだ」
「むしろ、そっちのほうが下手なリスクも背負わなくていい」
( <●><●>) 「…」
.
- 189 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:19:15 ID:OAVw79X60
-
( ゚д゚) 「…どうした?」
( <●><●>) 「あ、いえ…」
と言って、スマホの画面を見せる。
東風さんは 「ほう」 と唸っただけだったので、
ホテル殺人の被害者がアルプスの人間であることを伝えた。
( ゚д゚) 「…」
( <●><●>) 「失礼」
( <●><●>) 「ともあれ、ヴィップに固執していたのは疑ってよさそうですね」
「検討するには、時間が足りない」
「ひとまずは、ライブ殺人だけを考えて動いてくれ」
( <●><●>) 「…わかりました」
言うと、警部のほうから電話を切ってきた。
東風さんは、吸いかけだった煙草を灰皿に押し付けている。
.
- 190 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:20:04 ID:OAVw79X60
-
( ゚д゚) 「ヴィップに固執…か」
検討している最中にも、そのことは言及された。
ただ、検討できるだけの材料が足りていなかった。
しかし、今わかったことによると、来週、渋沢はアルプスでも公演する。
となると、ホテルで殺人などというリスクを冒す必要はあったのだろうか。
( ゚д゚) 「犯人は、ヴィップの人間か、あるいは」
( ゚д゚) 「…」
( <●><●>) 「とにかく、警部が検討してくださるそうです」
( <●><●>) 「こちらは、先に現場を優先させてくれ、とのこと」
( ゚д゚) 「ごもっともだ」
東風さんが時計を見た。
十分ほど経過している。
まだ十分か、あるいはもう十分か。
犯行予告は、少なくとも十九時以降ということになっている。
.
- 191 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:20:24 ID:CZ4aqXp.0
- この二人は壁より安定してて見てて安心するな
支援
- 192 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:20:35 ID:OAVw79X60
-
しかし、それはあくまで、犯行の話である。
犯人が何時頃から現場に潜むか、はまた別だ。
わかっているからこそ、警備員が昼前から張っている。
もちろん、現場だけではない。
只今、ヴィップ県警のサイバー犯罪対策課も動いている。
渋沢栄吉、ならびにヴィップスタジアムの公式ホームページは、
常時彼らが目を光らせていると聞く。
もちろん、IPアドレスもすべて記録されている。
そこから犯人を捜し出すことは不可能だが、
別の場面でIPアドレスを取得した時、照合すればそれもまた情報となるらしい。
あまりあちらの仕事内容は詳しくないが、とにかく一課長の意向だった。
ホテル殺人で、人影ばかりを気にしてしまった反省を生かそうとしている。
( <●><●>) 「…」
筆跡はもちろん、使用した筆記具の鑑定、
はがきの出所、消印から割り出した近辺の捜査、
挙げればきりがないほどに、ヴィップ県警は総力を挙げてこのたびの捜査に乗り出している。
.
- 193 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:21:06 ID:OAVw79X60
-
しかし、それはあくまで、犯行の話である。
犯人が何時頃から現場に潜むか、はまた別だ。
わかっているからこそ、警備員が昼前から張っている。
もちろん、現場だけではない。
只今、ヴィップ県警のサイバー犯罪対策課も動いている。
渋沢栄吉、ならびにヴィップスタジアムの公式ホームページは、
常時彼らが目を光らせていると聞く。
もちろん、IPアドレスもすべて記録されている。
そこから犯人を捜し出すことは不可能だが、
別の場面でIPアドレスを取得した時、照合すればそれもまた情報となるらしい。
あまりあちらの仕事内容は詳しくないが、とにかく一課長の意向だった。
ホテル殺人で、人影ばかりを気にしてしまった反省を生かそうとしている。
( <●><●>) 「…」
筆跡はもちろん、使用した筆記具の鑑定、
はがきの出所、消印から割り出した近辺の捜査、
挙げればきりがないほどに、ヴィップ県警は総力を挙げてこのたびの捜査に乗り出している。
.
- 194 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:21:28 ID:OAVw79X60
-
( ゚д゚) 「…いやに静かだな」
( <●><●>) 「失礼。 群衆が、でしょうか」
( ゚д゚) 「いや、連中はいっそやかましいくらいだ」
言われて、東風さんが自分を指して言ったことを察した。
目の前のことを優先しろ、と言われた矢先で、違うことを考えてしまっていたようだ。
( <●><●>) 「久々に…」
( <●><●>) 「そして、想像以上に大きな事件なんだな、と思いまして」
( ゚д゚) 「国内で見ても、これほど大規模な事件はなかった」
( ゚д゚) 「一課長も、イツワリさんも、かなり神経を削っていると思うぞ」
( <●><●>) 「警部はわかりませんが、まあ…」
.
- 195 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:21:52 ID:OAVw79X60
-
何年ほどか前の、誘拐事件を思い出した。
警部の知り合いの孫が、誘拐された事件だ。
数億に及ぶ身代金を要求され、全国を巻き込む事件に発展した。
苦い思い出がある。
若さゆえの過ちがあった。
( <●><●>) 「私も、いよいよ胃が痛くなってきましたね」
( ゚д゚) 「俺もだよ」
猛毒が使われ、爆弾が使われ、次々と人が死んで。
このたびの連続予告殺人とも、通ずるものが感じられた。
( <●><●>) 「移動しましょうか」
( ゚д゚) 「インカムだけは忘れるな」
( <●><●>) 「はい」
いたたまれなくなり、予定より数段早いが所定の位置につくことにした。
会場からは、イベントで用いられる高性能なインカムを拝借している。
リアルタイムでの応答が求められる現在、数秒の遅れが命取りとなる。
警備員も会場から拝借したインカムをつけている。
しかし、自分と東風さんだけ、彼らとは違うチャンネルを使うことにした。
.
- 196 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:22:48 ID:OAVw79X60
-
( <●><●>) 「…」
私は、出入口に張った。
一番人が集まっている。
扉の内側に身を隠し、可能な範囲で群衆をうかがう。
自分と東風さんの共通の見解として、
なんにせよ一番人が集まるところで犯行が行われる可能性が高い。
根拠があるとすれば、人が一番多いことに尽きる。
それだけ、犯人が紛れ込んでいる確率は単純に高いのだから。
東風さんは、事務所についている。
スタッフ側をうかがうわけだ。
自分も昼ごろにうかがったが、スタジアムの各所に設置された監視カメラが
分割されたモニターすべてにリアルタイムで映されている。
一目見た瞬間、東風さんは 「俺はここで張る」 と言った。
( <●><●>) 「はい」
インカムが届いた。
東風さんも、事務所に着いたようだ。
.
- 197 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:23:37 ID:OAVw79X60
-
カメラの監視網は、それほど完全ではなかった。
一施設としては十分なのだが、死角は探してみればわりとあった。
しかし、それをうかがい知れるのは、スタジアムの内情に精通している者に限られる。
内情を知りうるスタッフの情報は、すべて控えてある。
仮に犯人がスタッフ側にいた場合、東風さんは三分で身柄を拘束する、と豪語していた。
合理的に、犯罪心理を考えてみた場合、やはりスタッフが犯人とすると、予告実行は考えづらい。
その点も含めて、どうにも狂言だと思ってしまうのだが。
( <●><●>) 「…」
汗が頬骨に溜まった辺りで、たまらず時計を見た。
五十二分だった。
少しどきりとした。
( <●><●>) 「…」
もうそんな時間なのか。
群衆をうかがっていたつもりが、やはり本件を検討してしまっていた。
狂言なのか、作戦のうえなのか。
フェイクなのか、全てを読んだうえなのか。
犯人の心理が、いまいち読み解けない。
.
- 198 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:24:24 ID:OAVw79X60
-
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「状況」
「異常なし」
東風さんの、短い言葉が返ってきた。
時刻は、十九時を示していた。
ここからが、長い戦いとなる。
公演自体は、二時間が予定されていた。
アンコールだの、入退場に費やされる時間などは考慮していない。
ただ、ライブが中止された今、もし犯人が几帳面にも計画を優先させようとした場合、
十九時から二十一時までの二時間が勝負だろう、という見解が一致している。
( <●><●>) 「…」
近くには、警備員が五人。
自動ドアの向こうには、まず両脇に二人ずつ、
そこから会場を囲うように大勢の警備員が張っている。
果たして、犯人はどう動くのか。
そもそも、舞台はどこにしようとしているのか。
会場内での殺害は不可能に近いぞ。
.
- 199 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:24:47 ID:OAVw79X60
-
( <●><●>) 「…」
会場内か。
犯人が、今回起こした声明はどうだったか。
十九時よりはじまる渋沢栄吉のライブにて、
観客一名を殺す、といった内容だった。
犯人がどこに属する人間なのかはさておいて
ターゲットは、観客一名、ということだった。
( <●><●>) 「…」
観客、ということで、チケット会社にも協力を要請している。
通販や予約などで、身元が特定できる媒体に限り、
チケットを購入したすべての情報をまとめてもらっている。
これまた、IPアドレスの記録と同様、どうしようもなく膨大な情報量となるが
これからの捜査、検討にて、逐一照合していく予定だ。
もっとも、役に立たないだろうという懸念は、既に東風さんと共有している。
.
- 200 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:25:14 ID:OAVw79X60
-
犯人が、そんな几帳面にチケットを取るとは思えないのだ。
である以上、疑わしくなるのは、派遣スタッフ。
もっというと、当日限りのスタッフだ。
しかしこちらも、既に派遣会社や警備会社に片っ端から協力を要請している。
すべての情報をまとめ、捜査本部まで送ってもらっている。
こちらも、あまり考えにくい話ではある。
犯人は、身元が特定されることを嫌うはずなのだ。
東風さんも昼前に訪ねていたが、当日ライブ会場に足を踏み入れるということは、
すなわちどこかしらに足跡を残してしまうことに繋がる。
観客にせよ、ライブスタッフにせよ、警備員にせよ。
( <●><●>) 「…」
他に、会場に入りうる人物は、いないという結論に至った。
どこかに抜け穴がある、と思いはするが、
そこまで検討するには時間があまりにもなさすぎた。
渋沢ほどのスターともなれば、不法に会場内に侵入する輩も出てくるかもしれない。
しかしそれは、前もって予測することは難しかった。
なにより、ライブは中止されているのだ。
.
- 201 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:26:06 ID:OAVw79X60
-
( <●><●>) 「…」
群衆は、依然スマホをいじるか、周囲の人と話している。
呑気なことに、警備員や自分たちのような刑事がいるのにも関わらず
ダフ屋、いわゆるチケットの売買を目的とした中年も姿を見せている。
( <●><●>) 「…」
ダフ屋。
会場内に入るわけではないが、ライブ的な話をすれば抜け穴に該当する人種だ。
関係者に聞くと、やはりスターのライブともなれば、彼らのような人は必ず現れるらしい。
チケットを押さえられなかった人たちが、割高のそれを購入したり。
あらかじめ大量に押さえたチケットを、そういった人たちに売りさばいたり。
( <●><●>) 「…」
自分は、ライブというものに疎い。
今回こそライブは中止となったが、
もしライブが決行されていた場合、彼らのような、
チケットが得られなかった人たちは、どうしていただろうか。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「…東風さん」
.
- 202 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:27:11 ID:OAVw79X60
-
ふと気になったことがあり、インカムを飛ばす。
( <●><●>) 「確認ですが、」
( <●><●>) 「犯人の声明によると、殺すのは観客一名」
「ああ」
落ち着いた声だ。
( <●><●>) 「時刻は、ライブの開演から終演まで、二時間」
東風さんは黙っている。
( <●><●>) 「ふと思ったのですが」
( <●><●>) 「この観客、というのは、必ずしも会場内に入る必要があるのでしょうか」
「どういうことだ」
多少先を急くような声が返ってきた。
.
- 203 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:27:44 ID:OAVw79X60
-
( <●><●>) 「いえ、私はライブには詳しくないのですが」
( <●><●>) 「確か、いわゆるチケット難民や、ダフ屋がいるじゃないですか」
「ああ」
先ほどより、少し力が感じられる。
( <●><●>) 「チケットがなくても、あくまで立ち見……」
( <●><●>) 「そういった形でライブに参加することは、可能なのでしょうか」
「できる会場もあるかもしれないが、ここは完全にチケットが必要だ」
確か、関係者もそのようなことを言っていた気がする。
( <●><●>) 「でしたら、会場の外から……は?」
東風さんは、黙る。
息を殺しているようだ。
.
- 204 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:28:17 ID:OAVw79X60
-
( <●><●>) 「あくまで、ここは、スタジアム」
( <●><●>) 「轟音を鳴らそうものなら、それは会場内だけでなくとも、」
といったところで、大きな音が聞こえた。
椅子が倒れたような音だった。
東風さんの荒い息遣いがする。
( <●><●>) 「…なにか」
「ワカッテマス」
「犯人からの殺人予告、一字一句読み返してくれ」
( <●><●>) 「…」
急に、明らかに声色が変わった。
犯人の声明、か。
( <●><●>) 「五月三日、」
( <●><●>) 「十九時より開演される渋沢栄吉のライブ中に、」
( <●><●>) 「観客一名を殺す」
.
- 205 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:28:37 ID:OAVw79X60
-
、 、 、 、 、
「会場外でも、ライブを聴いていれば、観客だよな?」
( <●><●>) 「ッ」
東風さんの息遣いが変わった。
断続的に反響する足音が聞こえる。
走り出したようだ。
( <●><●>) 「どちらへ」
「裏口から右手に周回する」
「お前も今すぐ、正面ゲートから出て右に走れ」
言われ、警備員に目礼して自分も走り出した。
警備員は特段、気にしたようすではなかった。
ゲートを飛び出すと、群衆の視線が突き刺さる。
しかし、アクションを起こそうとする人はいない。
( <●><●>) 「どういうことですかッ」
「いいか」
「可能性があるとすれば、人目につかない、しゃがみこめそうな場所だ」
.
- 206 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:29:17 ID:OAVw79X60
-
( <●><●>) 「そうじゃありませんッ」
言われるがまま、時計回りでスタジアムの外周を走る。
( <●><●>) 「どうしたのですかッ急に」
「自分で言ったことを思い出せ」
「観客を殺す以上、犯人は絶対、なにかしら足跡を残さなければならねえ」
「観客、スタッフ、警備員、どの場合でも」
( <●><●>) 「それが、」
「ただッ」
「一切足跡を残さずに殺せる観客が若干名いるってことだ!」
、 、 、 、、 、 、 、 、
( <●><●>) 「それが場外からの立ち聞き ってことですか!」
.
- 207 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:30:22 ID:OAVw79X60
-
返事はない。
( <●><●>) 「で、可能なのですかッ」
( <●><●>) 「ライブを、勝手に場外から立ち聞きすることは!」
「可能もなにも」
「昔から、その手の観客は一定数いた!」
「そしてそいつらは、チケットの購入履歴に名を残すこ」
( <●><●>) 「 ッ」
東風さんからのインカムが途絶えた。
目前、正面ゲートから時計回りで走っていると、その先にはレフトゲートが見えてくる。
こちらも、一定数群衆はいた。
しかし、何事もない。
ただ、好奇心に駆られ、一瞥を与えたり、歩み寄ってくる人はいた。
.
- 208 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:31:00 ID:OAVw79X60
-
一切構っている暇はない。
というより、人が集っているところで殺しが行われるわけがない。
どうしましたか!
一刻も早く東風さんにインカムを飛ばしたいが、
入れ違いで向こうからインカムが入ることを考えると、どうにももどかしかった。
後ろから、マスコミと思しき若い女が駆け寄ってくる。
だが、あいにく、そんな輩に追いつかれる程度の脚は持っていない。
どうしましたか!
たびたび、インカムを飛ばしたくなる衝動に駆られる。
数年前の、誘拐事件を思い出した。
自分の、何気ない言動がきっかけで、騒動になったり進展を見せるなどした。
なにか、悪いことになっていないか、そんな不安で胸がいっぱいになる。
( <●><●>) 「ッ」
息がはずむ。
全力で走っているためか、もうレフトゲートを通り過ぎた。
もう少し走れば、東風さんが出てきたであろう裏口が見えてくるが、
「 られたッ!」
.
- 209 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:31:29 ID:OAVw79X60
-
( <●><●>) 「!」
インカムから、怒号が飛んできた。
頭の部分は聞こえなかった。
( <●><●>) 「どうしましたか!」
「やられた! 警備員だ!」
( <●><●>) 「場所ッ!」
「ライトゲート少し先ッ!」
やられた。
警備員だ。
殺された?
警備員が?
殺した?
警備員が?
.
- 210 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:32:16 ID:OAVw79X60
-
( <●><●>) 「 ッ 」
「警備員がやられた!」
「走ってるやつがいたら片っ端から捕らえろ!」
「こちら、ライトゲートやや南ッ!」
(;<●><●>) 「らッ… 」
ちょうど、反対側だ。
いま、自分はレフトゲートを通過した当たりだ。
犯人が、すぐそこにいる?
走っている?
「絶対に逃すな!」
「周囲の警備員も動かせ!」
(;<●><●>) 「!」
.
- 211 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:32:50 ID:OAVw79X60
-
はッとして、前後を見た。
警備員は、まだ連絡が行き渡っていないのか、ただ立っているだけだ。
前方、近くにいた警備員に肉薄した。
警備員 「…?」
( <●><●>) 「いッ」
( <●><●>) 「今すぐ、警備員全員で周囲を捜索しろ!」
警備員 「なッ 」
( <●><●>) 「ライトゲート付近で、警備員が殺された!」
( <●><●>) 「犯人はまだ、この近辺にいる!」
三度目の予告は、どうやら遂行されたようだった。
.
- 212 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:36:12 ID:OAVw79X60
- 序幕 >>2-69
第一幕 >>82-211
- 213 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 17:42:37 ID:CZ4aqXp.0
- いいところで……
乙!!
- 214 名前:名無しさん:2018/08/27(月) 19:12:25 ID:04C1g/ns0
- 乙
予告殺人といえばABC殺人事件だけど
- 215 名前:名無しさん:2018/08/28(火) 03:23:35 ID:Blvne0Sg0
- 乙
ドキドキするな
- 216 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 08:24:37 ID:iG753x8o0
- vip総合でかいたイツワリさん
https://i.imgur.com/7xkO63j.png
- 217 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:39:56 ID:XxFQ.4eo0
- >>216
ありがとう なに、お礼に続き投下しろだと 卑怯なやつめ わかったよ
- 218 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:40:48 ID:XxFQ.4eo0
-
┏━─
五月四日 午前六時一三分 牛丼屋
─━┛
昨晩、恐れていたニュースが報道された。
五月三日付、十九時過ぎ、ヴィップスタジアム場外にて警備員が殺害された。
( ´・ω・)
っ= ’
喉元を一突き、即死だったそうだ。
被害者は、クックル三階堂。
当時、現場のヴィップスタジアムには、ある殺人予告が届けられていた。
「五月三日、十九時より開演される渋沢栄吉のライブ中に、観客一名を殺す」
渋沢栄吉といえば、一時代を築いたトップスターだ。
当然ライブは中止され、厳重な警備体制が敷かれた。
殺されたクックル三階堂も、派遣されたうちの一人だった。
.
- 219 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:41:33 ID:XxFQ.4eo0
-
( ´・ω・)
っ=,・
現場は、警備員や所轄の刑事、
そして県警からふたりの刑事が出動していた。
警部補、東風ミルナと天才、ワカッテマス。
ヴィップ県警が誇る優秀なふたりだ。
その二人が迅速に対応し、事件の発覚後即座に検問が敷かれた。
待機していた警官の多くが対応し、ヴィップスタジアム近辺を捜索した。
ただし捜査の甲斐なく、犯人には逃走を許す運びとなった。
( ´・ω・) ,
っ= ・
( ´・ω・) 「ゲーフ…」
っ=
話の根本、殺人予告についてだが、
これはいわゆる連続予告殺人と呼ばれるもので、
ライブ殺人は三件目に実行されたものだ。
僕は二件目、ビジネスホテルのヒッキー小森殺人事件を追っていた。
事件が発生した時、害者宅を捜索していた。
.
- 220 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:43:11 ID:XxFQ.4eo0
-
突如、ぎょろ目の野郎から電話がかかってきた。
いやな予感がしたんだ。
電話越しに、焦燥がうかがえた。
警備員がやられた、としきりに連呼していた。
この男にしては珍しく、感情的になっていた。
捜査は同行していた壁にまかせて、
現場に急行せざるを得なかった。
そこから、夜通し現場の捜査、状況の把握、現場の指揮。
ひと段落ついて、ようやくメシにありつくことができた。
スタジアム近くというだけあり、飲食店には困らなかった。
'_
( ´・ω・)y- 、
( ´・ω・) 「はい、ショボーンです」
しかし、食事中も、食後の一服も。
立て続けに電話が鳴るのだから、たまったもんじゃない。
.
- 221 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:43:42 ID:XxFQ.4eo0
-
矢継ぎ早に飛んでくる、情報情報また情報。
重要そうなもの以外は、聞き流していく。
夕食を抜き、夜通し起きていた中年が、
細かな情報を逐一覚えていられるはずもなかろう。
ほどなくして、現場に戻った。
鑑識があちらこちらに立っており、マスコミや野次馬はまだ数が減っていない。
朝の日課だろう、ランニングや犬の散歩をしていた老人たちも集まっている。
群衆をかき分け、黄色いテープをくぐった。
途中で何度かマスコミがマイクを向けてきたが、すべて無視した。
(´・ω・`) 「戻ったぞ」
( ゚д゚) 「はい」
初動捜査は、ぎょろ目が先導していた。
遺体は既に運ばれているが、まだ現場には生々しい事件の跡が残っている。
.
- 222 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:44:28 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「メシはいいのか」
( ゚д゚) 「大丈夫ですね」
(´・ω・`) 「いいから、ほれ」
戻ってくる時にコンビニで買った、豆乳とあんぱんを押し付けた。
ぎょろ目は見た目通り、古風な刑事だ、捜査中の食事にはあんぱんを好む。
ただ、近頃は健康に気遣って、豆乳も併せて飲んでいるらしいけど。
( ゚д゚) 「どうも」
(´・ω・`) 「無理はするなよ。 じいちゃん言われても仕方ねえ歳だ」
( ゚д゚) 「やっぱり歳ですかね、朝日が厳しい」
(´・ω・`) 「弱音吐かないでくれ。 あんたが頼りだ」
ぎょろ目は袋を握って、スタジアムに向かった。
僕もついていく。
.
- 223 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:44:57 ID:XxFQ.4eo0
-
害者は、スタジアム外壁から数メートル、植え込みのなかで殺された。
道路は十メートルほど向こうにあり、あまり人目につかなさそうな位置取りである。
ぎょろ目は、ライトゲートをくぐった。
眠そうな顔をしている警官が、ぎょろ目を見て初々しい敬礼をした。
気だるげに 「ウッス」 と返すだけである。
( ゚д゚) 「ふう…」
(´・ω・`) 「僕だけ先に食ってすまんよ」
ぎょろ目は 「構いませんよ」 と言った。
僕は、現場近くで立ちながら食うメシが嫌いだった。
今更、あらためて言う必要もない、ぎょろ目はわかってくれている。
豆乳を一口で飲み干し、パックを握りつぶす。
よっぽど疲労がたまっていたと見受けられる。
(´・ω・`) 「ヤニ、足りてるか?」
( ゚д゚) 「足りてる、わけがないですね」
あんぱんを三口ほどで胃に押し込んで、笑った。
だろうと思ったよ。
.
- 224 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:45:32 ID:XxFQ.4eo0
-
近頃、マスコミや市民の目は厳しい。
ライトゲート外にも喫煙所はあるが、僕たちは中ほどにある喫煙所に向かった。
( -д)y-~~
一口目で、一センチが一気に燃え尽きた。
かなり深い吸い込みだ。
(´・ω・`) 「ひとまず、わかったことから整理していこうか」
(´・ω・`) 「…の前に、ワカッテマスは?」
( ゚д゚) 「取り調べですね」
(´・ω・`) 「あいつにも、なんかメシ食わせとけ」
いまどきの若者にしては珍しく、ワカッテマスは限界以上に働きたがる。
好奇心に駆られやすい性格とでも言えば聞こえはいいのだろうが、
夜通し、食事もなしに捜査に明け暮れるのはただのオーバーワークだ。
( ゚д゚) 「必要に応じて、勝手に食うと思いますよ」
(´・ω・`) 「そこまで面倒は見てられんがなあ」
(´・ω・`) 「まあ、後で呼び出しておこう」
.
- 225 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:46:13 ID:XxFQ.4eo0
-
( ゚д゚) 「とにかく、事件について」
( ゚д゚) 「繰り返すことが多くなりますが、確認も兼ねて」
(´・ω・`) 「頼むよ」
ぎょろ目は、ようやく落ち着いてきたようだ。
さっそく一本目を吸いきって、ゆっくり二本目に手を伸ばす。
( ゚д゚) 「まず、害者はクックル三階堂」
( ゚д゚) 「ケイビー警備会社に勤めていたアルバイターです」
ケイビー警備会社は、ヴィップ県警近くに本社を構える、大きな企業だ。
何度か上層部と顔を合わせたこともある。
( ゚д゚) 「ヴィップ在住で、三十二歳の既婚者、子はなし」
( ゚д゚) 「免許証も照合しましたが、虚偽ではありませんね」
(´・ω・`) 「…」
.
- 226 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:46:52 ID:XxFQ.4eo0
-
( ゚д゚) 「現場は、ライトゲートをやや南に向かった植え込み」
( ゚д゚) 「目下聞き込み中ですが、とりあえず目撃者はゼロ」
( ゚д゚) 「人が見ていないのをいいことに、犯行に及んだものと見られます」
(´・ω・`) 「ふむ…」
( ゚д゚) 「十九時十分頃、でしょうか」
( ゚д゚) 「犯人と害者は植え込みに移動後、」
( ゚д゚) 「喉元をナイフで突かれ即死しました」
(´・ω・`) 「ナイフの鑑定結果は」
現場には、即座に鑑識が駆けつけた。
遺留品、といってもナイフしかなかったが、検査結果は既に出ている。
( ゚д゚) 「指紋は確認されませんでした」
( ゚д゚) 「比較的新しいもののようで、出所はこれから洗います」
( ゚д゚) 「ただ、ありふれたものなので、こちらも大した手がかりにはならないかと」
.
- 227 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:47:18 ID:XxFQ.4eo0
-
( ゚д゚) 「以上までで、なにか」
(´・ω・`) 「彼の配属状況とかは」
(´・ω・`) 「どういった経緯で、ここに配属されたか、とか」
( ゚д゚) 「問い合わせ中です」
(´・ω・`) 「オーケー」
(´・ω・`) 「……年齢が三十二、というのは間違いないんだね」
( ゚д゚) 「こちらに嘘はなかったです」
(´・ω・`) 「ペニーや壁には回したか?」
( ゚д゚) 「ワカッテマスが回していましたね」
、 、 、 、、 、 、
( ゚д゚) 「……三件すべて、三十代少しの男が殺されている」
( ゚д゚) 「ここまでくれば、偶然ではないでしょう」
、 、 、
(´・ω・`) 「浮かんできたな、共通点」
.
- 228 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:47:47 ID:XxFQ.4eo0
-
皮肉でこそあるが、ここにきて、漠然と被害者三人に共通点が見えてきた。
フッサール擬古は三十二歳、ヒッキー小森は三十四歳。
続けて殺されたクックル三階堂は、三十二。
もはや偶然ではない。
年齢が近しいことがひとつ、この事件のキーとなるのは間違いない。
( ゚д゚) 「害者の経歴はまだ詳細にはわかっていません」
(´・ω・`) 「履歴書はまだ照合してないんだ?」
( ゚д゚) 「アルバイトの履歴書なんて、いくらでも偽装ができますからね」
( ゚д゚) 「こちらは所轄に任せています」
ひとまずわかったのは、年齢と住所。
免許証に記載されてあることは真実と断定済みだった。
(´・ω・`) 「そこまではオッケーだ」
( ゚д゚) 「初動捜査で、ひとまず浮かんだ疑問点ですが、」
(´・ω・`) 「あれから何か出た?」
.
- 229 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:48:30 ID:XxFQ.4eo0
-
事件を聞きつけ、なるべく現場に急行したものの、
まだ、ぎょろ目から詳細な情報共有は済ませていない。
( ゚д゚) 「現状、一番不審な点は、インカムですね」
(´・ω・`) 「インカム?」
( ゚д゚) 「当時、警備員は全員、インカムをつけていました」
( ゚д゚) 「ヴィップスタジアムで、イベントに使用されていたものですね」
(´・ω・`) 「ほう」
インカムの情報は、聞いていなかったな。
( ゚д゚) 「で、インカムって、チャンネルを合わせて音声を共有するのですが、」
( ゚д゚) 「当時、警備員は一番に合わせていました」
(´・ω・`) 「うん」
( ゚д゚) 「一方、自分とワカッテマスも、同じ型番のインカムを使用していました」
.
- 230 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:49:03 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「うん…?」
( ゚д゚) 「ただ、チャンネルは五番で合わせていました」
(´・ω・`) 「警備員とは、共有していなかったと」
( ゚д゚) 「問題はそこですね」
(´・ω・`) 「そこ?」
( ゚д゚) 「害者のインカムも、五番に合わされていたんですよ」
(´・ω・`) 「なに…?」
(´・ω・`) 「その、五番が警察用ッてのは、周知だったか?」
( ゚д゚) 「まさか」
( ゚д゚) 「聞いたところ、我々も同じインカムを使うことすら知らされていなかったようです」
(´・ω・`) 「……」
.
- 231 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:49:38 ID:XxFQ.4eo0
-
腹の底のほうで、異物感を覚えた。
ぎょろ目は続ける。
(´・ω・`) 「他の警備員は、どうだった」
( ゚д゚) 「皆、一番で合わせていました」
(´・ω・`) 「その、インカムの仕様がよくわからないんだけど、」
( ゚д゚) 「ごく普通のものですね」
( ゚д゚) 「電波だけは高性能、といった程度」
( ゚д゚) 「違うチャンネルでやり取りがあっても、一切気づけません」
(´・ω・`) 「……ふーん」
懐から、最後の一本取り出した。
空き箱を捨てて、ふた箱目を懐に忍ばせておく。
.
- 232 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:50:10 ID:XxFQ.4eo0
-
( ゚д゚) 「こちらは、また戻り次第、検討しましょう」
( ゚д゚) 「イツワリさんは、何か気づいたことは」
(´・ω・`) 「…」
いま、言うべきか。
ひと段落したとは言え、まだ初動捜査の段階だ。
いたずらに余計なことを言いたくないとは思う。
ただ、どうしてもひとつ、確認しておきたいことがあった。
(´・ω・`) 「あるッちゃ、ある」
( ゚д゚) 「はい」
(´・ω・`) 「ライブ殺人の、予告状……」
(´・ω・`) 「一字一句、違わず確認させてくれ」
( ゚д゚) 「一字一句、ですか」
.
- 233 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:50:42 ID:XxFQ.4eo0
-
言われて、ぎょろ目は手帳を取り出した。
最後のページに挟んであった資料を広げる。
五月三日、十九時より開演される
渋沢栄吉のライブ中に、観客一名を殺す。
勘違いであってほしい、とは思ったが、いよいよ疑問が明らかになった。
ぎょろ目やワカッテマスが気づいているかはわからないけど。
(´・ω・`) 「…」
( ゚д゚) 「なにか」
(´・ω・`) 「いや…何か、じゃないよ」
ぎょろ目とワカッテマスは、ずっと現場にいた。
僕のような、客観的でいられる第三者のほうが気づけるのかもしれない。
、 、
(´・ω・`) 「予告は、観客に向けられてたんだろ?」
(´・ω・`) 「害者は、観客じゃねえぞ」
、 、 、
(´・ω・`) 「警備員だ」
.
- 234 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:51:17 ID:XxFQ.4eo0
-
( ゚д゚) 「…」
( ゚д゚) 「……な…」
言われて、ぎょろ目は再び資料に視線を落とした。
渋沢栄吉のライブ中に 「観客」 一名を殺す。
(;゚д゚) 「…」
ぎょろ目は、口をぽかんと開けた。
眉間にしわが寄っていく。
すると、乱雑に携帯を取り出し、耳元に当てた。
大方、ワカッテマスにも共有するのだろう。
ワンコールほどで繋がったようで、ぎょろ目はすぐに、そのことを告げた。
何度か応答を繰り返し、切る。
(;゚д゚) 「…」
(;゚д゚) 「まーーた…面倒なところに気が付きましたね」
.
- 235 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:51:59 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「いや、フッツーに気づけるよ」
(´・ω・`) 「あんたらが、気張りすぎなんだ」
( ゚д゚) 「…でしょうな」
ペニーでも、壁でも気づけそうなもんだ。
僕も、連絡がきた瞬間に、引っかかるものはあった。
観客が、殺されるんじゃあなかったのか。
どうして、警備員が殺されたんだ。
( ゚д゚) 「……」
( ゚д゚) 「そうか、観客…」
(´・ω・`) 「殺されたのが、一般人ならまだわかった」
(´・ω・`) 「ただ、殺されたのが警備員となると…」
( ゚д゚) 「…」
( ゚д゚) 「あの予告は、観客に注意を寄せて、こっそり警備員を殺すための罠だった」
.
- 236 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:52:26 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「断言はできないけど……まあ、そう捉えたくなるね」
( ゚д゚) 「ここにきて、狂言が挟まれたわけですな」
(´・ω・`) 「イマドキの殺人予告って、結構律儀なやつが多いんだよ」
(´・ω・`) 「それだけに、こんな小手先をしてくるとわかると……面倒だ」
殺人予告を出す犯人の特徴は、決まって自信家ばかりである点が挙げられる。
予告を出す以上、相手にも最大限の準備をさせてしまう。
それを潜り抜けられるだけの自信がなければ、
たとえ嘘を交え虚を衝く作戦を練ろうが、予告などしないだろう。
虚を衝いて予告を成功させられるなら、それこそ最初から予告する必要性もない。
( ゚д゚) 「…」
( ゚д゚) 「ひとまず、目先の現場を優先させましょう」
( ゚д゚) 「ここは自分が担当しますが……イツワリさんはどうします?」
(´・ω・`) 「ん……そうだなあ」
.
- 237 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:52:49 ID:XxFQ.4eo0
-
やるべきことは山ほどあるが、取っ掛かりというものが少ないのが現状だ。
まだ、具体的な犯人像が一切浮かんできていない。
(´・ω・`) 「害者にはヨメさんがいるんだな?」
( ゚д゚) 「ええ。 まだ事件のことは知らないはずですね」
(´・ω・`) 「別居もしてないんだよね」
( ゚д゚) 「の、はず」
腕時計を、チラッと見る。
まだ七時にはなっていないが、車を飛ばしている間に
七時のニュース番組が始まることだろう。
害者のデータを控えた。
(´・ω・`) 「だったら、僕がじきじきにヨメさんとこに行こう」
( ゚д゚) 「わかりました」
(´・ω・`) 「…もう起きてるかなあ?」
「さあ」 と言って笑った。
僕とぎょろ目は、歳のせいもあってか早起きに抵抗がなくなっているが、
七時といえば、若者からすれば十分な早朝だ。
起きてくれていると助かるのだけど。
.
- 238 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:53:48 ID:XxFQ.4eo0
-
┏━─
午前七時一六分 アパート
─━┛
車を走らせて二十分ほど、見えてきたのは質素なアパートだった。
僕が二十代頃に住んでいたワンルームのそれに似ている。
このご時世に、洗濯機が廊下に野ざらしになっているアパートはいっそ珍しい。
( ´-ω-)y-~~
車の中で、一本を十分ほどかけてじっくり味わった。
朝早いから、というのもあるが、事件を聞きつけてから、
ほとんど心を休ませる暇がなかった。
( ´・ω・)y-~~
伸びてきた顎ひげをさすりながら、アパートを眺めた。
三十過ぎの夫婦が住むには、いささか可哀想な外装だ。
しかし、こんな古びたアパートは、なかなかどうして住みたくなる衝動にも駆られる。
近頃の格安賃貸は、月五万ほど払えば、きれいな内装に家具家電が完備されているものだ。
となると、このアパートは月いくらほどなんだろうか。
.
- 239 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:54:11 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「…さて」
事件が発生したばかりで、犯人はもちろん、
害者の容態や現場状況がまったく掴めてていない場合、
親族への連絡が遅れてしまうことがある。
何もわかっていないのに、それこそ犯人も捕まっていないのに
いきなり連絡だけ入れても、いたずらに悲しませるだけだ。
実のところ、ただ人手が足りていないだけなのだろうけど。
軋む階段を上って二階、三つ目の扉に向かう。
インターホンは備わっているようで、二度鳴らすと、なかから足音が聞こえた。
ミセ*゚-゚)リ 「…はーい?」
寝起きなのが見てとれる、小柄な女性が顔を出した。
むろん、化粧も髪のセットもしていないため、三十代にしてはくたびれた容貌に見える。
ためらう必要はなかった。
僕はさっと、構えていた警察手帳を見せた。
ミセ;゚-゚)リ 「…ッ」
.
- 240 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:54:33 ID:XxFQ.4eo0
-
女性は、それを見た瞬間眠気が払われたようだった。
目がくわっと開く。
化粧したら美人なのだろう、大きな目をしていた。
(´・ω・`) 「ヴィップ県警の者です」
ミセ;゚-゚)リ 「…………ハイ」
急に声がちぢこまった。
警戒されているのか、ドアのチェーンは外してもらえていない。
さっさと、本題を切り出したほうがいいだろう。
夫が、殺されましたッてな。
(´・ω・`) 「クックル三階堂さんは、おたくの旦那さんですか?」
ミセ;゚-゚)リ 「そう……ですが」
ミセ;゚-゚)リ 「主人が、なにか、しましたか?」
(´・ω・`) 「何者かによって、殺されました」
ミセ;゚-゚)リ
.
- 241 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:54:56 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセ;゚-゚)リ
こわばった顔が、引きつった。
引きつったというより、固まったといったほうがいいだろう。
彼女は、息を深く吸い込んでいる。
目はぱちくりと開いたままだ。
そりゃあそうだ。
朝早くに刑事がきたと思えば、旦那が殺されたと告げられたのだ。
ミセ;゚-゚)リ
ミセ;゚-゚)リ 「は?」
(´・ω・`) 「旦那さんは先日、ヴィップスタジアムの警備に行ってい」
ミセ;゚-゚)リ 「あの」
(´・ω・`) 「はい」
ミセ;゚-゚)リ 「手帳」
ミセ;゚-゚)リ 「それ、ホンモノですか?」
.
- 242 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:55:39 ID:XxFQ.4eo0
-
いっそう、警戒を強めさせてしまったようだ。
あまりにも信じられなさすぎて、新手の勧誘か詐欺か、を疑われたのだろう。
(´・ω・`) 「ホンモノですよ」
(´・ω・`) 「といっても、ニセモノだとしても、見分けつかないかもですが…」
ミセ;゚-゚)リ 「…」
確かに、と言いたげな顔をしつつも、手帳をじっと見つめる。
ヴィップ県警捜査一課、警部、ショボーン、僕の顔写真。
警察手帳は説得力があるように思われるが、
次々となりすましの詐欺が横行している昨今、
手帳なんて見慣れない一般人からすれば、それに一切の説得力はない。
そういう時は、拳銃だ。
(´・ω・`) 「こっちのほうが、信用、されますかね」
ミセ;゚-゚)リ 「ッ」
.
- 243 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:56:16 ID:XxFQ.4eo0
-
腰のホルダーから、拳銃を抜いた。
スミス&ウェッソン製の、五連リボルバー。
弾がフルに装填された弾倉まで見せると、女性は小刻みにうなずいた。
ミセ;゚-゚)リ 「………」
(´・ω・`) 「いま……お時間、だいじょうぶですか?」
ミセ;゚-゚)リ 「え」
ミセ;゚-゚)リ 「主人が、殺されたんですか?」
ミセ;゚-゚)リ 「主人が?」
(´・ω・`) 「現場写真を見せられなくはないのですが、」
ミセ;゚-゚)リ 「見せて」
(´・ω・`) 「…」
絞殺などではない、刺殺だ。
それも、大量出血を伴っている。
決して、家族、それも女性に見せるべきシロモノではないのだが、
世の遺族は、それでも被害者の最後の姿を見たがるものだ。
わからなくは、ないけど。 僕なら見たくない。
.
- 244 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:56:56 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセ*゚-゚)リ 「 ……ッ」
(´・ω・`) 「ご主人で、間違いありませんね?」
ミセ*゚-゚)リ
::ミセ*゚-゚)リ:: 「……」
女性は、ようやく事の重大さを理解したのだろう。
全身の力が抜けたようで、小刻みに震えながら、少しずつ、くずおれていった。
そのまま、ドアを押さえる力すらなくなり、
チェーンのかけられたままだったドアは、力なく閉じられた。
女性はドアにもたれかかったようで、扉越しでも嗚咽を漏らすのが聞こえてきた。
(´・ω・`) 「…」
(´-ω-`)
っ ‘・
いつになっても、慣れないものだ。
僕は廊下の柵に上体を預け、煙草に火をつけた。
こうなると、少なくとも五分、十分は、遺族のかたは動けない。
.
- 245 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:57:43 ID:XxFQ.4eo0
-
( ´・ω・)y-~~
'_
( ´・ω・) 、
紫煙を遊ばせていると、物音がした。
チェーンが外される音だ。
続けて、扉がゆっくり開かれた。
ミセ*゚-゚)リ
目が赤くなっている。
ずいぶんと擦ったようだ、荒れていると言ってもいい。
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセ*゚-゚)リ 「汚いとこですけど…あがっていただけませんか」
(´・ω・`) 「わかりました」
煙草を携帯灰皿に押し込んで、おじゃますることにした。
若い二人暮らし、ということで、室内に余計なものはなかった。
.
- 246 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:58:25 ID:XxFQ.4eo0
-
促されるがまま、客用であろう座布団に腰を下ろす。
女性はマグカップに、たくさんの氷と麦茶を注いでくれた。
ミセ*゚-゚)リ 「どうぞ」
(´・ω・`) 「ありがとうございます」
ミセ*゚-゚)リ 「で……」
ミセ*゚-゚)リ 「その」
女性が言いよどんだ。
落ち着いたとはいえ、あまりにも急すぎる話に、まだ混乱しているのだろう。
室内を、失礼にならない程度に見渡す。
いつかは、ここも捜査しなければいけないのだ。
少年誌や生活雑誌などが、ちらかっている。
まだ中身が残っているポテトチップスや、チューハイの空き缶もだ。
.
- 247 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 18:58:51 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「では、あらためて……捜査一課の、ショボーンです」
ミセ*゚-゚)リ 「芹澤ミセリ……と言います」
(´・ω・`) 「…?」
おや、と思った。
セリサワ? どこからその名前が?
(´・ω・`) 「あの、失礼ですが」
(´・ω・`) 「クックル三階堂さんとは、籍を入れては…?」
ミセ*゚-゚)リ 「ああ」
ミセ*゚-゚)リ 「入籍は、しています」
ミセ*゚-゚)リ 「ただ、苗字はそのままにしてます」
ミセ*゚-゚)リ 「最近、そういう家庭も少なくないみたいですよ」
(´・ω・`) 「なるほど……いや失礼」
.
- 248 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:01:00 ID:XxFQ.4eo0
-
自分も、結婚していた時の頃を思い出す。
ミセリ、クックルの年代を考えると、およそ十年は違うわけだ。
すっかり、時代というものは変わっているらしい。
ミセ*゚-゚)リ 「別にいいですケド…」
(´・ω・`) 「挙式しない夫婦も、年々増えているそうですしね」
ミセ*゚-゚)リ 「そう、ですね…」
ミセ*゚-゚)リ 「お金が、かかりますから」
結婚式を挙げない夫婦も、確実に増えている。
不景気はもちろん、若者の意識に変化が現れているらしく、
一日限りのセレモニーにウン百万と払うのに、抵抗があるそうだ。
僕も、挙式はしていない。
もっとも、当時からすれば珍しいほうだったのかもしれないが。
もし再婚する機会があったら、式くらいは挙げようか。
(´・ω・`) 「ご主人は、ケイビー警備会社にお勤めで?」
ミセ*゚-゚)リ 「ケイビー…だか知らないですが、そうですね」
.
- 249 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:03:11 ID:XxFQ.4eo0
-
あまり亭主の職業に興味を抱いていないようだった。
ということは、少なくとも職場結婚ではないだろう。
(´・ω・`) 「社員としてではなく、あくまで非正規雇用、で」
ミセ*゚-゚)リ 「そうですね」
ミセ*゚-゚)リ 「とりあえず生活するために……ということです」
(´・ω・`) 「以前、お仕事はなにを?」
ミセ*゚-゚)リ 「いや…いろいろですよ」
結構デリカシーのないことを聞いているつもりなのだけど、
ミセリは存外ふつうのことのように答えてくれた。
ミセ*゚-゚)リ 「配送業だの、土木だの…」
ミセ*゚-゚)リ 「大学を出てとび職に就いてたんですが、一年で辞めてましたね」
(´・ω・`) 「いやあ…男らしい仕事ばかりで」
ミセ*゚-゚)リ 「ガクがないですよ。 主人は」
.
- 250 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:03:32 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「しかし、大学は出ていたのでしょ?」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ」
話を察するに、大学で知り合った夫婦のようだ。
でなければ、大学を出てとび職に就いていた、といった言い方はしない。
ミセ*゚-゚)リ 「でも、遊んでばかりでしたので」
ミセ*゚-゚)リ 「その………そうですね」
(´・ω・`) 「…?」
ミセリは一呼吸置くように、麦茶を飲んだ。
僕もあわせて一緒に飲んだ。
結構しぶみが出ている。 昨日作ったものではなさそうだ。
ミセ*゚-゚)リ 「で、最近、警備員になる、って言って」
(´・ω・`) 「はやく定職に就いて! とかはなかったんですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「別に……最低限、生活さえできれば、いいので」
(´・ω・`) 「ふむ…」
.
- 251 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:03:53 ID:XxFQ.4eo0
-
雑談も、この程度でいいだろう。
警備員、というワードが出たのだから、ここから本題に入ろう。
(´・ω・`) 「マ。 その警備員ですが…」
(´・ω・`) 「昨夜、ご主人はヴィップスタジアムにお勤めなさっていました」
(´・ω・`) 「ヴィップスタジアムは、ご存じですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ…」
ミセ*゚-゚)リ 「○○市ですよね」
(´・ω・`) 「そうですそうです」
ミセリもヴィップの人間のようで、
軽く近辺の話などをして探りを入れると、そのどれもに食いついてきた。
同じヴィップの人間として、親近感がわく。
(´・ω・`) 「ヴィップスタジアムなんですが、」
(´・ω・`) 「どうして警備員が発注されたか、ご存じですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ……主人が言っていたので」
.
- 252 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:04:16 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「そうですね」
ミセ*゚-゚)リ 「渋沢が、ライブするんでしたよね」
(´・ω・`) 「ええ……、え?」
ミセ*゚-゚)リ 「え?」
間違っては、いないが。
もしかして、連続予告殺人を知らないのだろうか。
ミセ*゚-゚)リ 「渋沢……じゃなかった?」
ミセ*゚-゚)リ 「なんにせよ、誰かのライブがあるから、って聞いてましたが」
(´・ω・`) 「ま、間違っちゃあいませんが」
ミセ*゚-゚)リ 「なんですか」
ああ、煙草が吸いたい。
害者も愛煙家だったようで、ローテーブルに透明の灰皿がある。
しれっと吸っても、怒られないかな。
(´・ω・`) 「ヴィップスタジアムといえば、あれですよ」
(´・ω・`) 「話題の、予告殺人……ご存じじゃ、ないので?」
.
- 253 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:04:46 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセ*゚-゚)リ 「連続…?」
ああ、だめだ。
しれっと吸っちゃえ。
(´・ω・`) 「失礼」
っ ”
ミセ*゚-゚)リ 「ン……どうぞ」
( ´-ω-)y-~~
どういうことだ。
害者は、奥さんに連続予告殺人のことを言っていなかったのか。
それとも、そもそも詳しいことまで話す関係じゃなかったのか。
確かに、奥さんの口ぶりから察するに、
そこまで害者の仕事に関しては、興味を抱いていなさそうだが。
(´・ω・`) 「最近、ニュースで話題になってませんかね」
(´・ω・`) 「ここ数週間で、立て続けに、同一犯による殺人予告が送られ…」
(´・ω・`) 「次々と、人が、殺されている」
.
- 254 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:05:26 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセ*゚-゚)リ 「えっと、全国で…?」
(´・ω・`) 「ヴィップで。 です」
ミセ*゚-゚)リ 「…!」
知らなかった、と小声でつぶやいた。
あまり、ニュースなど見ないのかもしれない。
若者のニュース離れはよく聞いているが、
ニュースを見るまでもなく、SNSなんかでも情報は得られるとも聞く。
なにかあったのか、単なる偶然か。
(´・ω・`) 「初回が、地下鉄の、××駅」
ミセ*゚-゚)リ 「!」
ミセリが、リアクションを見せた。
ここからはそう近くないローカル線の駅だが、知っていたか。
生まれも育ちもヴィップなのだろう。
.
- 255 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:05:51 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「ああ、知っていましたか」
ミセ*゚-゚)リ 「…そうですね」
ミセ*゚-゚)リ 「昔、大学に通ってる時に…ハイ」
(´・ω・`) 「あの辺の大学、というと、ヴィップ大学ですな?」
ミセ*゚-゚)リ 「はい。 刑事さんも、卒業生ですか?」
(´・ω・`) 「ヤ、自分は大学には…」
僕は、高卒でそのまま警察学校の門をくぐった。
大学全入時代は、それこそ僕が三十前後から言われている言葉だ。
しかし、ヴィップ大学は、その名の通りヴィップに根差す大学で、
もともとローカル大学だったのが、今ではかなり大きく成長している。
(´・ω・`) 「で、二件目が、ビジネスホテル宛てに出された殺人予告」
ともすれば、と思い、駅名や場所を言ったが、こちらはピンとこなかったようだ。
確かに、あちらは意味もなく訪れるような場所ではない。
.
- 256 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:06:08 ID:iG753x8o0
- 支援
- 257 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:06:38 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「そちらでも犯人は、逃亡を果たした」
(´・ω・`) 「あらためて捜査本部が設置され、ワレワレ県警の捜査一課が担当したわけです」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
(´・ω・`) 「三つ目の予告は、ヴィップスタジアムが舞台でした」
(´・ω・`) 「渋沢栄吉のライブに合わせたものです」
ミセ*゚-゚)リ 「渋沢…ハイ。」
合点がいったようで、ミセリはうなずいた。
そして、そこに主人が配備されていた、というわけなのだ。
(´・ω・`) 「連日、報道されておりますが」
(´・ω・`) 「ミセリさんは、知りませんでした?」
ミセ*゚-゚)リ 「……まあ」
ミセ*゚-゚)リ 「恥ずかしながら」
.
- 258 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:06:59 ID:XxFQ.4eo0
-
肩をすぼめるようにして言った。
この様子だと、別段ごまかしているわけでもなさそうだ。
ミセ*゚-゚)リ 「私は、全然テレビとか見なくって」
(´・ω・`) 「ご主人も?」
ミセ*゚-゚)リ 「主人は、よく見ていましたね」
ミセ*゚-゚)リ 「朝早く出勤する時は、勝手に見てた……はず」
(´・ω・`) 「でも、知らなかった……と」
ミセ*゚-゚)リ 「私は、朝に弱いので…」
言われて、時計を見た。
まだ八時にはなっていない。
(´・ω・`) 「朝早くに、すみませんね」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ、目は覚めたので…ハイ」
.
- 259 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:07:35 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「ミセリさんは、お仕事は」
ミセ*゚-゚)リ 「近所のスーパーで、パート、してます」
ミセ*゚-゚)リ 「といっても、昼すぎからのシフトですので」
(´・ω・`) 「今日も」
ミセ*゚-゚)リ 「そうですが……」
さすがに、旦那が殺されて、のうのうと出勤するわけにもいかないだろう。
断るつもりだ、というのが雰囲気から推しはかれた。
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセ*゚-゚)リ 「主人が殺されたのは……どこまでわかってるんですか?」
(´・ω・`) 「どこ…というと、捜査状況ですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「そうですね」
.
- 260 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:08:31 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「まず、犯人は目下捜索中」
(´・ω・`) 「現場にいた人全員に、取り調べ中です」
(´・ω・`) 「また、事件発生直後から周囲に検問を敷き、片っ端から捜査してます」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
(´・ω・`) 「かなり、強固な捜査網を張っています」
(´・ω・`) 「犯人が捕まるのは、時間の問題でしょう」
取り逃してごめんなさい、とは言わなかった。
そんなことを言うと、それに便乗して感情的になられてしまうことがある。
ただ、ミセリはそこまで感情的にはならなかった。
家族が殺されると、この上なく感情的になるか、この上なく生気が抜けるかに分かれる。
ミセリは、後者のパターンだったようだ。
(´・ω・`) 「そこでお伺いしたいのですが」
(´・ω・`) 「お時間、だいじょうぶでしょうか。 なんなら、先に朝食くらい、待ちますが」
ミセ*゚-゚)リ 「ん…」
.
- 261 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:08:54 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセリも、ベッドに置いてあるデジタルの置時計に目をやった。
そうですね、と詰まりながら言った。
ミセ*゚-゚)リ 「そっちのほうが」
(´・ω・`) 「わかりました。 だいたい、何時ごろに、」
ミセ*゚-゚)リ 「別にいいですよ。 横にでもなってて」
(´・ω・`) 「へ」
最初警戒していたのはなんだったのか、
想像以上に、ラフな性格なんだな、と思った。
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセリはそうとだけ言って、冷蔵庫から牛乳を取り出した。
グラノラを盛って、牛乳を多めに注いでいる。
旦那が殺されたわりに、落ち着いているなと思った。
落ち着いている、というよりは、まだ実感が湧いていないともとれる。
.
- 262 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:09:15 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「…」
ミセ*゚-゚)リ ・‘
もう、僕は眼中にないようだ。
ぽけーっとしている。
我、ここに在らずといった印象だ。
(´・ω・`) 「…」
( ´・ω・)y-~~
最初は、ぽりぽり、ぽりぽりとテンポよく食べていたが、
五分もすれば、すっかりスピードは遅くなり、
木製のスプーンを置いて、口を押さえて俯いた。
( ´・ω・)y-~~
( ´・ω・)y-~~
いたたまれなくなり、僕はベランダに出た。
ベランダ、といっても、でっぱりがあるだけだ。
そこから身を乗り出し、紫煙を浮かべた。
.
- 263 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:10:01 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセリが、声にならない泣き声を上げる。
この上なく気まずかったが、いま彼女を一人にするのはまずい気がした。
あまり、クックルとミセリが仲良かった印象は感じられない。
しかしそれでも、毎日を一緒に過ごしてきた家族というのは、かけがえのないものだ。
ミセ :::::)リ 「 ――――‐ッ ――‐ッ」
誰かがいることの、安心感。
ベッドの上で寝返りを打つだけで、布ずれの音が聞こえる。
缶ビールを飲むだけで、喉を鳴らす音や、缶を置く音が聞こえる。
そんな、ノイズとも変わらない生活音が聞こえるかどうかだけで、
暮らしというものは驚くほど変わるものだ。
夫婦生活、独身生活を往復した僕は、よくわかる。
僕も、昔は、嫁がいた。
黒髪と澄んだ小顔がきれいな美人だった。
母のいいところだけを受け継いだ娘にも恵まれた。
( ´・ω・)y-~~
二十代の頃だ。
犯人の恫喝に怯み、人間の亡骸に怯え、上司の叱責に泣く男だった。
.
- 264 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:10:23 ID:XxFQ.4eo0
-
そんななか、のちに嫁となる美人と出会った。
僕は、垂れた眉毛からうかがえるほどの情けない男だったが、
刑事であることだけを武器に、懸命に恰好をつけて、結婚まで漕ぎ着けた。
弱虫なところは、どうやら付き合って一週間で看破されたようだが、
それでも嫁は僕を愛してくれたものだった。
死んだけど。
( ´-ω-)y-~~
放火だった。
当時、三十手前だ。
まだ警部補にすらなっていない、ヒラの刑事だった。
考えてみれば、ミセリと、面白いくらいに境遇が似ていた。
僕の家族が引き裂かれた事件も、連続で発生していたものだった。
数年前の誘拐事件といい、僕はつくづく、連続殺人というものと縁がある。
違うのは、僕はその日を、その事件を境に、大きく豹変したということだ。
当時の警部、のちに一課長となる上司からは、あの頃から急にふてぶてしくなった、と言っている。
( ´・ω・)y-~~
結構な執念だったなァ、と自分で思う。
時間こそかかったが、ようやく自分も、警部という地位まで上り詰めた。
.
- 265 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:11:00 ID:XxFQ.4eo0
-
娘は、事件をきっかけに、頼りになる知り合いに預けた。
まだ話すことすらままならない歳だったのだ、
常に家を空けてしまう職業柄、僕が男手ひとつで育てるわけにはいかなかった。
知り合いも快諾してくれたようで、そのまま父親代わりで育ててもらった。
場所も、ヴィップでも辺境にある田舎で、あそこは空気がいい。
僕がリッパになった頃にはもう一度娘と、なんて思っていたが、
結局、いまのいままで、一緒に暮らす日が訪れることはなかった。
ミセ*::-::)リ
ミセリは、吹っ切れたのか、突然グラノラをかきこみだした。
牛乳を一気に飲み干し、そのままテーブルの上に突っ伏す。
上に立っていた空き缶が、次々床に転がり落ちていった。
( ´・ω・)y-~~
ミセ*::-::)リ
'_
( ´・ω・) 、
.
- 266 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:12:12 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセリは突っ伏したまま、周囲を探り出した。
クックルが吸っていたであろう煙草を手に取り、そのまま放り投げる。
中身は空だったようだ。
ミセ*::-::)リ
( ´・ω・) 「…」
懐から、煙草の箱を取り出してミセリにパスした。
ミセリは少しして、僕の煙草に触れ、顔をあげる。
目で、吸え、と促すと、ミセリは戸惑いがちにうなずいて、一本を取り出した。
その時のミセリの目は、赤く腫れ上がっていた。
これは、長丁場になりそうだ。
.
- 267 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:12:36 ID:XxFQ.4eo0
-
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
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l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第二幕 「 未亡人 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;:::::::::::::::// l:::::::l
.
- 268 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:13:23 ID:XxFQ.4eo0
-
┏━─
午前十一時三九分 アパート
─━┛
( ´・ω・)y-~~
ミセ*゚-゚)リ
ミセリは再び、落ち着きを取り戻していた。
ただ、話を聞けるほどの雰囲気でもなかった。
少しすると、ミセリはちいさな音楽プレイヤーを操作した。
世代相応の、メジャーな邦楽が雑な音質で流れている。
ああ、昔流行ったなァ、と思わせられるナンバーだった。
軽快なラブソングが、儚げなギターソロでフェードアウトした。
ミセリは様々な音楽を聴いていたようで、
次々と流れるナンバーは、当時流行っていた以外の共通点がなかった。
次は、かなり静かなギターのアルペジオが流れてきた。
これも、どこかで聴いたことのあるナンバーだ。
しかし、古めかしいサウンドだ。
.
- 269 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:14:09 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「なんでしたっけ。 この歌」
ミセ*゚-゚)リ 「えっと…」
ミセ*゚-゚)リ 「ああ。 渋沢ですね」
(´・ω・`) 「渋沢……あァ」
思い出した。
抱かれてバラッド、というヒットナンバーだ。
確か、ペニーも知っている、と言っていたな。
奇しくも、ペニーも三十手前の、若い刑事だ。
いまどきの三十代は、渋沢などあまり知らないだろうが、
それでもこの歌は知られているほどの、若者ウケする名曲と言える。
逆に、おじさんには馴染みの薄い若者向けの歌、とも捉えられる。
ミセ*゚-゚)リ 「この、イントロがいいんですよね」
(´・ω・`) 「だよね」
.
- 270 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:14:36 ID:XxFQ.4eo0
-
静かなアルペジオが、そのままメロディアスな旋律につながる。
指弾きのはずなのに、多くの音が次々と鳴らされる。
テレビで彼の演奏を見たことがあるが、確かに彼ひとりが、一本のギターで鳴らしていたサウンドだった。
恋人同士と抱き合って、その時に頭のなかで流れたメロディ、
そういったものがコンセプトとなった、歌だ。
とてもおじさんが歌っているとは思えない、キャッチ―な旋律が印象的だ。
ミセ*゚-゚)リ 「…」
(´・ω・`) 「…」
テレビは流さず、音楽をかける。
窓の向こうを走る電車の音が、聞こえる。
ゴミ収集車の音や、静かに走り抜けるバイクの音も重なる。
どこか感傷的な、のどかなコーラスだった。
ミセ*゚-゚)リ 「即死だったんですよね」
(´・ω・`) 「ああ」
煙草に火をつけ、僕は言った。
ミセリが入れてくれた、無糖の安いアイスコーヒーを飲む。
.
- 271 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:15:03 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「ご主人は、知っていたと思うんですよ」
(´・ω・`) 「配備先が、殺人予告の叩きつけられたとこなんだ、って」
ミセ*゚-゚)リ 「でも、主人はそんなこと、一言も」
ケイビー警備会社のほうで、箝口令が敷かれていたのかもしれない。
箝口令、というほどでもないだろうが、とにかく安易に口外するな、程度にはあったと思う。
デリケートな問題なのだから、スタッフに何か過ちを犯させるわけにはいかなかったのだ。
ただ、それでもミセリは、渋沢がライブをするヴィップスタジアム、ということは知っていた。
そのことは話したのだろうか。
(´・ω・`) 「でも、渋沢がライブする、ってのは知ってたんですよね」
(´・ω・`) 「それは、ご主人から?」
ミセ*゚-゚)リ 「そうですね」
(´・ω・`) 「いつ頃?」
ミセ*゚-゚)リ 「先月か……それくらいだったと思います」
.
- 272 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:15:31 ID:XxFQ.4eo0
-
殺人予告にあわせて、会社は多くの警備員を手配しただろう。
しかし、少なくとも害者は、最初から現場に配備されていたらしい。
殺人予告はつい最近されたのだが、ライブ自体はずいぶんと前から決まっていたのだ。
となると、やはりデリケートなことは言わないようにしていたのだろうか。
それとも、そもそもミセリが害者の仕事に興味を示さなかっただけか。
(´・ω・`) 「最近のご主人に、なにか変わったことは?」
ミセ*゚-゚)リ 「特になかったですよ」
(´・ω・`) 「ふむ」
ミセ*゚-゚)リ 「少なくとも、殺人予告なんてされていたようには」
(´・ω・`) 「…」
厳密に言えば、まだクックルという男に予告がされたとは決まっていない。
予告で言われていたのは、あくまで 「観客」 なのだ。
そして、先月ほどから配属が決まっていたということは、 「観客」 にはなりえない。
逆に言えば、先月ほどから、害者が現場にくるということはわかっていた。
犯人は、惑わせるために 「観客」 と言ったのだろうか。
.
- 273 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:15:54 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「ご主人は、誰かに恨まれるようなことは」
ミセ*゚-゚)リ 「さあ」
ミセ*゚-゚)リ 「仕事関連でなにかあったんなら、私は、知らないですけど」
警備会社は、なにかとデリケートな問題に付き合わされる。
機密情報を取り扱うわけだし、金庫などがすぐ隣にあることもある。
そういったつながりで、害者がなにか見てはいけないものを見てしまったり、
何かしらの怨恨を買ってしまった可能性は否定できない。
ただ、それが連続殺人となると、あまり考えられないことでもある。
(´・ω・`) 「最近の、ご主人の動向を教えてください」
ミセ*゚-゚)リ 「昨日は、朝早くからスタジアムにいってましたね」
ミセ*゚-゚)リ 「時間とかは見てないケド……だいぶ、早かった」
(´・ω・`) 「おとといは?」
ミセ*゚-゚)リ 「昨日が特別だっただけで、最近は、美術館に常勤してましたよ」
.
- 274 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:16:18 ID:XxFQ.4eo0
-
美術館で、何かあったのだろうか。
(´・ω・`) 「美術館というと、ヴィップ環境美術館ですかな?」
ミセ*゚-゚)リ 「いや、アスキーミュージアムですね」
(´・ω・`) 「アスキー?」
思わず首をかしげた。
ヴィップの警備会社なのに、わざわざ首都のほうまで出動していたのか。
国内でも随一の美術館で、確かにあそこは常に警備員不足が叫ばれている。
ミセ*゚-゚)リ 「系列の会社が、応援を頼んでたみたいですよ」
(´・ω・`) 「それは、いつ頃から」
ミセ*゚-゚)リ 「ここ二、三ヶ月は、ずっと」
ミセ*゚-゚)リ 「遠いからいやだ、なんて話をしてましたけど」
(´・ω・`) 「そうですよね。 なんでわざわざ」
ミセ*゚-゚)リ 「たまたまじゃないんですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「ただ、交通費と別に、手当てが支給されるから」
ミセ*゚-゚)リ 「主人は、それ目当てで、まじめに勤めてましたね」
.
- 275 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:16:47 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセリの経済事情は、家のようすを見ていればおおむね伝わってくる。
裕福でないのは間違いないし、なんなら貧困層寄りと言えるだろう。
(´・ω・`) 「ご主人は、休みの日は?」
ミセ*゚-゚)リ 「私と休みが一緒だったら、買い物とか行ってましたけど」
ミセ*゚-゚)リ 「基本的に、常に出払ってましたね」
ミセ*゚-゚)リ 「飲みなのか、仕事関連なのかは知らないけど」
(´・ω・`) 「ふむ…」
一緒に買い物を行くほどの仲だったようだ。
旦那に対して無関心だなとは思うが、気にするほどではない。
(´・ω・`) 「事件前日……おとといの晩ですね」
(´・ω・`) 「ご主人は、どんな感じでした?」
.
- 276 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:17:09 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセ*゚-゚)リ 「どうも何も…」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
と言いかけたところで、言いよどんだ。
(´・ω・`) 「ん」
ミセ*゚-゚)リ 「…あー」
ミセリは、煙草に火をつけた。
ミセ*゚-゚)リ 「…あんまり、人に言いたいことじゃ、ないんだけど」
(´・ω・`) 「いいですよ」
ミセ*゚-゚)リ 「最近、その…………レスだったんですケド」
ミセ*゚-゚)リ 「そういえば、急に誘われたりは、しましたね」
確かに、あまり人に言いたいことではないな。
本人が気にしないようなら、別にいいけど。
(´・ω・`) 「…ふむ」
ミセ*゚-゚)リ 「それくらいしか、変わったことは」
.
- 277 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:17:10 ID:xmdEPXKA0
- しえん
- 278 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:18:00 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「つまり、ここ最近のご主人は、結構冷たい感じだったので?」
ミセ*゚-゚)リ 「冷たい、ッてか、元からあんなンですよ」
ミセ*゚-゚)リ 「無口なんです」
(´・ω・`) 「仲が悪くなった、とかではなくて」
ミセ*゚-゚)リ 「いや……そういうのじゃ、ないですね」
ミセ*゚-゚)リ 「感情の起伏がない、っていうか」
(´・ω・`) 「なるほど」
旦那に対して無関心な彼女を見ていると、だいたい想像がついた。
あまり燃えない関係でこそあったが、根っこに愛がないわけでもない。
年頃の、気難しい関係だったのだと言えるだろう。
ミセ*゚-゚)リ 「それなのに、おとといだけは」
ミセ*゚-゚)リ 「言われてみれば、ちょっとだけ感情の起伏はあったなァ…って」
.
- 279 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:18:46 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセリの考えすぎか、必然だったのかはわからない。
ただ、なんにせよ、殺される前夜、害者は少しだけ感傷的だった。
捉えようによっては、それまで首都アスキーのほうまで出向いていたのが、
地元ヴィップの、それも華のあるスタジアムの配備に
なったから、気分をよくしただけなのかもしれない。
(´・ω・`) 「別に、どちらかの誕生日が近い、とか」
(´・ω・`) 「記念日が迫っているとか、でもないんですよね」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ…違いますね」
(´・ω・`) 「…」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセ*゚-゚)リ 「殺されるのが、わかっていたから……とかじゃあ、」
不安げに、ミセリが聞いてきた。
.
- 280 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:19:21 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「考えにくいですね」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
しかし、即座に否定すると、ミセリは少し安堵の色を見せた。
(´・ω・`) 「そもそも、犯人の予告によると」
(´・ω・`) 「当夜のターゲットは、観客、なのです」
(´・ω・`) 「もし犯人がご主人を狙っていたとすると、おかしくなる」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
それだけなら、ぎょろ目同様、ただのひっかけだ、と思われるだろう。
ただ、それだけではない。
(´・ω・`) 「まして、ターゲットが自分だ、と知りようがない」
(´・ω・`) 「二件目の殺人は、名指しの犯行だったのですが、」
(´・ω・`) 「その時のターゲットは、心当たりがなく、笑って無視したんですよ」
- 281 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:19:48 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「おそらく、今回の予告殺人は、」
(´・ω・`) 「少なくとも……現時点では、ターゲットに自覚がないのです」
ミセ*゚-゚)リ 「自覚?」
(´・ω・`) 「殺される、自覚です」
ミセ*゚-゚)リ 「…ッ」
(´・ω・`) 「もっとも、ご主人は自分がターゲットだと知っていた線もある」
(´・ω・`) 「ただ、それなら尚のこと、どうして自ら殺されにいったのか」
(´・ω・`) 「裏付けが必要となることが、多くなる」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
どこか、腑に落ちないと言いたげな顔をしている。
曖昧な部分が多いからだろう。
.
- 282 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:20:13 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「安心してください」
(´・ω・`) 「ご主人が、今生の別れを意識していたとは思えません」
ミセ*゚-゚)リ 「……、…」
ミセリは、頷きこそしなかったが、
煙を肺いっぱいに入れたのち、俯きながら吐き出した。
行き場をなくした紫煙が、あちらこちらに霧散する。
(´・ω・`) 「…」
気が付けば、渋沢の歌は終わっていた。
これまた、当時世間を賑わせた人気アイドルグループの歌が流れている。
残念、この歌は僕は全然知らなかった。
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセ*゚-゚)リ 「ん」
.
- 283 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:20:39 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「どうぞ」
無機質な着信音が鳴った。
ミセリ宛ての電話だった。
ミセ*゚-゚)リ 「…?」
ミセ*゚-゚)リ 「もしもし」
(´・ω・`) 「…」
職場からの電話だろうか。
ミセリは、しばらくは休みを取るつもりだと聞く。
旦那が殺されたのだ、気持ちを整理する時間はたっぷりといる。
この様子だと、貯金や生命保険なんてないだろうが、
それでも、金銭的に厳しくなることがわかっていても、休暇は取らなければいけない。
ミセ*゚-゚)リ 「えっ…」
(´・ω・`) 「?」
.
- 284 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:21:03 ID:XxFQ.4eo0
-
しかし、様子が変だった。
まず、着信がきた時点で、きょとんとしていたのだ。
少しためらいながら電話に出ては、
声を聞き、言葉を発し、更に戸惑ったような顔色を見せる。
すると、ミセリは口を噤んで、硬直してしまった。
一分ほど黙って見ていたが、ミセリは視線ひとつ動かそうとしなかった。
(´・ω・`) 「み、ミセリさん?」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
(´・ω・`) 「警察からですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
近寄って、肩を揺すった。
また、彼女の心を抉る連絡かなにかが来たのかもしれない。
彼女はスマホを落としたが、その画面は既に暗くなっていた。
数分前の時点で、既に電話は切られていたのだろう。
.
- 285 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:21:29 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセ*゚-゚)リ 「け」
ミセ*゚-゚)リ 「刑事さん」
(´・ω・`) 「な、なんだい?」
ミセリの顔を、間近で見た。
やはり、小顔のわりに目が大きく、美人の片鱗が窺える。
しかし、その顔は、どこか怯えていた。
僕は、嫌な予感がした。
ミセ*゚-゚)リ 「いま、あの、」
ミセ*゚-゚)リ 「主人を殺したッていう人から、」
(´・ω・`) 「は?」
ミセ*゚-゚)リ 「なんか、」
.
- 286 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:21:55 ID:XxFQ.4eo0
-
目が泳いでいる。
僕は彼女の両肩を握って、落ち着かせる。
それでも、彼女は明らかにおかしくなっていた。
あからさまな爆弾発言すら飛んできている。
ミセ*゚-゚)リ 「自首しようと思う、その前に話をしよう、って」
(;´・ω・`) 「は、犯人から?」
(;´・ω・`) 「電話の相手は、犯人を、名乗っていたのか!?」
思わず、恫喝に近い声を出してしまう。
握っている肩が、かなりちいさく感じられる。
肩越しに、全身の震えが伝わってきた。
ミセ*゚-゚)リ 「よ、よくわからない…」
(;´・ω・`) 「ちょっと、失礼…」
ミセリは、混乱している。
僕は了承を得る前に、彼女のスマホを借りた。
.
- 287 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:22:40 ID:XxFQ.4eo0
-
(;´・ω・`) 「……」
(;´・ω・`) 「ミセリさん、その番号を見せてください」
ミセ*゚-゚)リ 「へ、えっ、」
(;´・ω・`) 「ご主人を殺した犯人を、逮捕するためだ!」
ミセ*;-゚)リ 「あ、うん…」
ミセリに手渡すと、彼女は覚束ない手つきでパスコードを入力した。
0216と打つところが見えてしまった。 誕生日だろうか。
ロックが解けたのを見て、慌ててスマホを借りる。
着信履歴を追うのだ。
(´・ω・`) 「……」
(´・ω・`) 「………」
(´・ω・`) 「この番号から……かかってきたんですね?」
ミセ*;-゚)リ 「え…はい。 そうですね」
(´・ω・`) 「…ッ!」
.
- 288 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:23:28 ID:XxFQ.4eo0
-
見て、僕は背筋が凍る心地がした。
見覚えのある電話番号だったのだ。
見覚えがある、といっても、僕の知り合いの番号ではない。
というより、僕が記憶している十一ケタでもない。
ただ、
、、、、、
(;´・ω・`) 「この050番号……間違いないですね!?」
050番号。
通称IP電話。
十一ケタすべてに見覚えはなかったが、
この、頭の三ケタだけには、確かに覚えがあった。
(;´・ω・`) 「もしもし。 僕だ」
(;´・ω・`) 「おい、いま電話、大丈夫か」
すぐさま、自分の携帯を取り出し、電話する。
相手は鈴木ダイオード。
ホテル殺人、ヒッキー小森を洗っている最中だろう。
.
- 289 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:23:59 ID:XxFQ.4eo0
-
(;´・ω・`) 「至急確認したいことがある」
(;´・ω・`) 「小森の電話にかかってきてた、050番号!」
(;´・ω・`) 「その十一ケタを、いま、口頭でいいから教えろ!」
手汗が滲んできた。
あまりに突然すぎる進展に、脳がパニックを起こしていた。
犯人を名乗る人物から電話。
ミセリに会いたがっている。
その番号は050。
一方、第二の事件、ホテル殺人の被害者、
ヒッキー小森の携帯には、身元不明の050番号からの着信があった。
このご時世、050番号は普及していない。
まして、たった今、ミセリは犯人を名乗る人物から電話を受けている。
偶然のはずがなかった。
(;´・ω・`) 「…!」
050番号は、十一ケタすべてが、合致していた。
.
- 290 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:24:27 ID:XxFQ.4eo0
-
どうしたのですか、と呑気な様子で壁が聞いてくる。
共有は後回しだ、僕は急務に追われている。
(;´・ω・`) 「まだ、身元は割ってないんだな?」
(;´・ω・`) 「最優先で、この番号を突き止めろ!」
(;´・ω・`) 「まさしく犯人なんだよ、この番号が!」
ミセ*゚-゚)リ 「…!」
(;´・ω・`) 「事情は後でまわす!」
(;´・ω・`) 「とにかく、犯人を名乗る人物が、この番号から電話してきた!」
(;´・ω・`) 「以上!切るぞ!」
.
- 291 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:25:02 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセ*゚-゚)リ 「ど、どういうこ」
(´・ω・`) 「ミセリさん、落ち着いて話してください」
ミセ*゚-゚)リ 「え、……は、ハイ」
(´・ω・`) 「いったい、どんな話をしたんですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「え…?」
(´・ω・`) 「確か、犯人が、自首したいけど、その前にアナタに会いたい…」
ミセ*゚-゚)リ 「そうです…ね」
ミセ*゚-゚)リ 「その人は、主人を殺した、と最初に言ってきました」
(´・ω・`) 「男か、女か」
ミセ*゚-゚)リ 「それが……わからないです」
ミセ*゚-゚)リ 「知らない声……ッていうか、変な声……」
ミセ*゚-゚)リ 「機械音…?」
(´・ω・`) 「……ボイスチェンジャーか」
.
- 292 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:25:30 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセ*゚-゚)リ 「その人は、言いました」
ミセ*゚-゚)リ 「自首…しようと思うんだけど」
ミセ*゚-゚)リ 「その前に…ミセリに、会いたい」
ミセ*゚-゚)リ 「会って、話がしたい…」
(´・ω・`) 「…!」
ミセ*゚-゚)リ 「明後日……滝公園で会おうッて」
(´・ω・`) 「明後日、五月六日か」
(´・ω・`) 「滝公園というと、あの?」
ヴィップの滝公園、と言えば地元の人には知られる名所だった。
もともとダムが建設される予定だったものの、
地元住民の反対が苛烈化し、開発中止となった。
中途半端に工事が進んだため、
最終的にそこは人工的な滝が出来上がった。
.
- 293 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:25:55 ID:XxFQ.4eo0
-
地元民の結束で、悪徳なダム建設を防いだ。
それが彼らの間では武勇伝じみた伝説となり、市の協力のもと、公園がつくられた。
今となっては、ダム周囲には木々や蔦が生い茂ることでその石壁を隠し、
遠くから見れば、自然的な滝に見えるほどになった。
撤退時に回収されなかった機材などは、見せしめに、とそのままにされている。
二度の開発を経て、ちょっとした出店や噴水なんかが設けられるほどの規模となっている。
ミセ*゚-゚)リ 「…」
(´・ω・`) 「具体的な時刻、要求などは」
ミセ*゚-゚)リ 「夕方の四時くらいに…って」
(´・ω・`) 「ひとりで来い、とかは?」
ミセ*゚-゚)リ 「ひとりで…とは言ってなかったけど、」
ミセ*゚-゚)リ 「ふたりきりで、大切な話をしたい…って」
.
- 294 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:26:15 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「………」
どういうことだ。
これは、犯人からの挑戦状か?
あるいは、これが、次の殺人予告か?
と思ったところで、僕はその考えを振り切った。
いま、僕がここにいるのは偶然であって、
犯人は、ミセリ個人に、電話をかけている。
犯人は、まさかすぐ隣に警察がいるとは思っていないだろう。
となると、殺人予告、にしてはいささかおかしい。
(;´・ω・`) 「んん…?」
今までの殺人予告は、必ず、ターゲットがいる場所、そのオーナー側に告げられた。
フッサール擬古なら地下鉄。
ヒッキー小森ならビジネスホテル。
クックル三階堂ならスタジアム。
そして、少なくとも小森の件を察するに、
ターゲットに、直接殺すと言っている様子はない。
小森は、生前、犯人と思しき050番号の主と電話しているが、
もしその時に殺害予告をされれば、ホテルに泊まる時、
素直に別のホテルに移動するなりするだろう。
.
- 295 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:26:49 ID:XxFQ.4eo0
-
ミセ*゚-゚)リ 「他は、特に…」
(;´・ω・`) 「…」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
(´・ω・`) 「ミセリさん」
ミセ*゚-゚)リ 「はい」
(´・ω・`) 「もし、ミセリさんが大丈夫なら…」
(´・ω・`) 「警察では、あなたを保護したいと思いますが」
ミセ*゚-゚)リ 「…え?」
ミセリは、ぽかんとした。
事の重大さを、まだ理解していないというのか。
あるいは、パニックの連続で、思考回路が停止しているのか。
.
- 296 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:27:28 ID:XxFQ.4eo0
-
(´・ω・`) 「電話の主は、十中八九、連続殺人の、」
(´・ω・`) 「あなたのご主人を殺した、張本人です」
ミセ;゚-゚)リ 「…」
(´・ω・`) 「そして、そんな犯人が、」
(´・ω・`) 「自分が殺した男の奥さんと、二人きりで話したい、と言う」
ミセ;゚-゚)リ 「…」
(´・ω・`) 「……はっきり言いましょう」
(´・ω・`) 「言われるがままに二人きりで会えば、あなたは、殺されます」
.
- 297 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:27:50 ID:XxFQ.4eo0
- 序幕 >>2-69
第一幕 >>82-211
第二幕 >>218-296
- 298 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 19:28:31 ID:iG753x8o0
- 乙
次の殺人はあるのだろうか
- 299 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 20:24:08 ID:Uzw.bCLw0
- 乙
これは続きが気になる!
- 300 名前:名無しさん:2018/08/30(木) 21:49:07 ID:RJtDM6PE0
- 乙! 続きが待ち遠しい
そしてじっくり読み返す時間が欲しい
- 301 名前:名無しさん:2018/08/31(金) 05:47:25 ID:4cXItsaE0
- 乙
みせり死なないで…
- 302 名前:名無しさん:2018/08/31(金) 17:23:47 ID:fKNR.g1M0
- 偽りシリーズ、続きキタワァ*:.。..。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:* ミ ☆
まさか来るとは…。一体全体どうしたってんだ!めちゃくちゃうれしいぞ♪
- 303 名前:名無しさん:2018/09/02(日) 20:20:06 ID:oPBVYApU0
- はよ
はよ!!!!
- 304 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:31:59 ID:vj1roGtw0
-
┏━─
五月四日 午後十四時三九分 捜査本部
─━┛
ミセリにそう告げると、彼女は存外素直に、同行してくれた。
いまは、事務を担当する同年代の女性を同伴させている。
近くの喫茶店で、軽く探りを入れてもらいながら、雑談しているだろう。
まずは緊張状態なのをほぐさせないといけない。
それも、無機質な部屋に収めるより、華やかな喫茶店で寛がせるのがいい。
( <●><●>) 「いま、他のふたりは」
(´・ω・`) 「ひとまず、引き続き害者まわりを洗ってもらってるよ」
ライブ殺人を捜査していたふたりは、捜査本部に呼び寄せた。
先に到着したのはぎょろ目だった。
というのも、夜通し捜査していたのだ、
時刻で考えれば、二十時間ほど経過している。
だいたいの情報は、あらかた洗い出せているだろう。
.
- 305 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:32:21 ID:vj1roGtw0
-
近況の共有も兼ねて、僕は数時間、捜査本部でデータをまとめた。
ホワイトボードには、関係者の相関図を展開させている。
他の害者がスカスカなのに対して、ミセリとクックルの周囲だけ、文字が多い。
これから、このホワイトボードに、次々と情報が付け足されていくことだろう。
そして先ほど、ワカッテマスが帰還した。
( <●><●>) 「なるほど」
(´・ω・`) 「さて、あんたにも共有しよう」
(´・ω・`) 「四人目の殺人予告が、数時間前に届いた」
ぎょろ目は、パイプ椅子を並べ、仰向けに寝ている。
売店で買ったであろう新聞を顔に載せている。
その一面でも、やはり連続殺人事件がありありと報道されていた。
ワカッテマスは、まだ寝なくてもいいらしい。
というより、本部に戻る際、巡査にハンドルを任せ、数十分ほど仮眠をとったんだとか。
(´・ω・`) 「四人目の、ターゲット」
(´・ω・`) 「それは、三人目の被害者、クックル三階堂の配偶者」
(´・ω・`) 「芹澤ミセリ、すぐそこの喫茶店に控えさせている」
.
- 306 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:32:43 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「芹澤…ですか」
(´・ω・`) 「籍を入れる時、苗字は変えなかったらしい」
( <●><●>) 「なるほど」
(´・ω・`) 「さて、媒体だが、今回は電話だった」
( <●><●>) 「はがきではないんですね」
(´・ω・`) 「ン…そうだ」
言われてみれば、それまでの予告は、すべてはがきで届いていた。
しかし、考えると、そもそも今回はフォーマルな予告ではなかった。
、 、 、
(´・ω・`) 「注意してもらいたいのは、これは実質的な予告だ、ということだ」
(´・ω・`) 「十二時前、だったかな」
(´・ω・`) 「嫁さんに、一本の電話が入った」
.
- 307 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:33:06 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「その相手は、自らをクックル殺しの犯人と名乗り、」
(´・ω・`) 「明後日五月六日、ヴィップの滝公園に十六時頃、ふたりで会いたいと言った」
( <●><●>) 「ほう」
ワカッテマスは、ホワイトボードやセミナーの上に並べられた資料、
そのすべてを適宜見やりながら応じる。
(´・ω・`) 「ポイントは、みっつ」
指折りしながら教える。
(´・ω・`) 「ひとつ、相手はボイスチェンジャーを使っていた」
(´・ω・`) 「男か女か、そもそも誰なのか、なんてのはわからない」
( <●><●>) 「古典的ですね」
(´・ω・`) 「ふたつ、相手は嫁さんの番号を知っていた」
(´・ω・`) 「ここから、クックルの殺害が行きずりでないことは確定だ」
.
- 308 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:34:33 ID:vj1roGtw0
-
、 、 、 、 、
ライブ殺人は、観客が予告されていたにも関わらず、警備員のクックル三階堂が殺された。
この点から、ぎょろ目と少し話した通り、幾分かの疑念を残していた。
それがまだ晴れてはいないが、何にせよ、犯人視点で言えば
確固たる計画性、殺意のもと、クックルを殺したと言える。
でなければ、ミセリにあのような電話をするはずがない。
(´・ω・`) 「みっつ、ッてかここが肝心だ」
(´・ω・`) 「その電話は、050番号でかけられたわけだがね」
(´・ω・`) 「身元が特定できない、いわゆる名義貸しの端末からかけられたんだ」
( <●><●>) 「ほう…」
(´・ω・`) 「更に、その番号は、」
ホワイトボード、ヒッキー小森の項目から線を伸ばしている。
050番号から謎の電話、と書き足している。
その隣に、十一ケタも追記しておいた。
(´・ω・`) 「この、ホテル殺人で登場した謎の番号と合致している」
( <●><●>) 「!」
.
- 309 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:34:56 ID:vj1roGtw0
-
ワカッテマスが、嫌な顔をした。
この事件の片鱗が、あからさまに顔を出してきたからだ。
それにより事件が解決の方向に向かうならともかく、
いっそう謎が深まるとなれば、話は別だ。
(´・ω・`) 「さて、殺人予告とは言ったが、」
(´・ω・`) 「正確には違う」
( <●><●>) 「犯人、と思しき人物が、芹澤ミセリに個人的に会いたい、と言った」
( <●><●>) 「……確かに、殺人のサの字もありませんね」
だが、ワカッテマスはそこを突っ込んだりはしなかった。
突っ込むだけ、野暮なのだ。
(´・ω・`) 「どう考えても、次の標的は嫁さん、となった」
(´・ω・`) 「前もって言っておきたいのは、動機が定かでないことだ」
.
- 310 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:35:18 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「その嫁が、クックル三階堂から何か聞いてはいけないことを聞いた、とか」
( <●><●>) 「そういった、口封じ狙いではなさそうですが」
(´・ω・`) 「いや、わからねえぞ」
(´・ω・`) 「そこも含めて、動機が不明、というのが難しい」
口封じかもしれないし、
最初からクックルの次はミセリを殺すつもりだったかもしれない。
もとより、どうしてフッサール擬古、ヒッキー小森を殺してきたかがわかっていない。
今、ようやく繋がり、というものが見えてきたところなのだ。
ここからが忙しいぞ。
( <●><●>) 「先に伺いますが」
( <●><●>) 「当日、嫁には、どうさせるおつもりで」
(´・ω・`) 「…」
.
- 311 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:35:49 ID:vj1roGtw0
-
先に伺うなよ。
僕だって、考えているところなんだ。
(´・ω・`) 「幸い、すぐに警察に知られたッてのは、向こうはわかっちゃいない」
(´・ω・`) 「だが、だからこそ、警備させるか、行かせないかが、悩ましい」
( <●><●>) 「これから次第、というところですか」
( <●><●>) 「猶予が限られている分、難しいですよ」
(´・ω・`) 「わかっている」
(´・ω・`) 「とにかく、ライブ殺人、続いてのミセリの一件を踏まえて」
(´・ω・`) 「共通点が浮き彫りになってきたから、そこを押さえるぞ」
ホワイトボードを睨みつけた。
ここにきてようやく、捜査に光が見えてきたのだ。
、 、
(´・ω・`) 「まず年齢だ」
( <●><●>) 「擬古が三十二、小森が三十四、クックルが三十二歳」
(´・ω・`) 「クックルの嫁さんは、三十二歳。 同い年だ」
.
- 312 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:38:55 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「小森は三十四歳だが、なんにせよ他はほぼ同じ」
( <●><●>) 「二歳差というのも、同年代の範疇です」
(´・ω・`) 「さて、僕は二つのパターンを想定していた」
(´・ω・`) 「まず、犯人と被害者一同は同一のグループにあって、」
(´・ω・`) 「誰かが、そのメンバーを次々殺していく構図」
(´・ω・`) 「もう一つは、被害者たちの間に関わりがないパターン」
(´・ω・`) 「殺意が芽生えた奴らを、片っ端から殺していく構図だな」
犯人と被害者をつなぐ形状が、輪かひげ根か。
しかし、いまとなっては考えるまでもなかった。
( <●><●>) 「前者でしょう」
( <●><●>) 「芹澤ミセリへの電話が、いい証拠です」
(´・ω・`) 「同年代で、更にクックルとミセリの関係も知っている……確定だ」
.
- 313 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:40:56 ID:vj1roGtw0
-
パイプ椅子が軋む音がした。
ぎょろ目が、器用に寝返りを打ったのだ。
その音を聞いて、僕も近くにあったパイプ椅子に座った。
ワカッテマスは生真面目だ、セミナーから離れようとしない。
(´・ω・`) 「さて、ワカッテマス」
、 、 、 、、、 、 、、
(´・ω・`) 「同年代と聞いて浮かぶコミュニティを、挙げてってくれ」
そうですね、と顎に手を当てた。
何も、正解があるクイズではない。
( <●><●>) 「やはり、真っ先に浮かぶのは、学友」
( <●><●>) 「小中高大、そのどこのグループかは、わかりません」
(´・ω・`) 「擬古と小森は、そこに書いてある通り」
(´・ω・`) 「接点はないが…」
( <●><●>) 「クックル、並びにミセリの学歴は?」
(´・ω・`) 「事態が急だったもんで、まだ洗ってはいない」
(´・ω・`) 「……そうだ、忘れてた」
.
- 314 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:41:21 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「?」
座ったばかりの椅子から立ち上がって、ホワイトボートに歩み寄った。
水性マーカーを握って、ミセリの隣に書き足す。
( <●><●>) 「ヴィップ大学…?」
(´・ω・`) 「確か、彼女はヴィップ大学の出だと言ってたよ」
言われて、ワカッテマスはホワイトボードを舐めるように見た。
( <●><●>) 「………擬古と、一致しますね」
(´・ω・`) 「そうだな」
擬古はヴィップ大学、小森はアルプス学院大学。
合致していないが、そこにミセリを加えると、おぼろげではあるが共通点が浮かんでくる。
( <●><●>) 「擬古と一緒の大学なのは、なにかあるのでしょうか」
(´・ω・`) 「小森が外れているのが、いささか気にかかる」
(´・ω・`) 「マイナーな大学ならともかく、ヴィップは今や大手だ、偶然かもしれない」
.
- 315 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:42:05 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「ただ……」
続けて、ミセリの隣、クックルにも情報を書き加えた。
(´・ω・`) 「嫁さんの言葉を察するに、旦那も、同じ大学の出なんだ」
( <●><●>) 「…!」
クックル、ヴィップ大学?
あえてハテナを付けているのは、確定ではないからだ。
ただ、僕のなかでは、十中八九ヴィップ大学出身だと睨んでいる。
( <●><●>) 「……ヴィップ大学という、共通点」
(´・ω・`) 「その場合、気になるのはヒッキー小森」
(´・ω・`) 「一応、壁には伝えてある。 情報が出てこればいいんだけど…」
( <●><●>) 「十年ほど前の話になりますからね」
( <●><●>) 「しかし、小森を除外すると、他三人は、同い年でヴィップ大学」
( <●><●>) 「加え、小森に限り予告が少々特殊だった」
( <●><●>) 「………ふむ」
.
- 316 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:42:26 ID:vj1roGtw0
-
ワカッテマスが、独自に推理を展開している。
しかし、ひとつ忘れてはならないことがある。
(´・ω・`) 「予告が特殊なのは、ミセリも同様だ」
( <●><●>) 「ン…ああ」
(´・ω・`) 「そもそも、明確な殺害予告ではなかったからな」
( <●><●>) 「どこか、噛み合うようで噛み合わないですね…」
(´・ω・`) 「つまり、僕らはまだノイズに惑わされてるんだ」
まだ、核心という核心には歩み寄れていない。
もどかしいこと、この上ない。
(´・ω・`) 「大学、という共通点はわかった」
(´・ω・`) 「他には?」
( <●><●>) 「現状、思い当たりませんね」
( <●><●>) 「クックルは警備員だった、ミセリはスーパーのパート」
( <●><●>) 「旧職が繋がっていたわけでもない」
.
- 317 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:44:42 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「となると、やっぱり…」
(´・ω・`) 「ホテル殺人が、キーになりそうだな」
( <●><●>) 「大学が接点だったのかどうかだけでも、はっきりさせたい」
(´・ω・`) 「じゃあ、これは壁の働きに期待するとして」
(´・ω・`) 「ライブ殺人の捜査は任せてたけど、どうだった?」
( <●><●>) 「事件自体は、比較的シンプルです」
(´・ω・`) 「というと?」
長くなりそうだったから、僕はパイプ椅子に腰を下ろした。
促しても、ワカッテマスは座ろうとしない。
( <●><●>) 「犯人は、害者を例の植え込みに呼び出した」
( <●><●>) 「雑談でも持ちかけたのか、あるいは後ろ暗いことがあったのか」
(´・ω・`) 「マ、単なるサボリとも見れるしね」
.
- 318 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:45:16 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「そこで、隙を突いて刺殺」
( <●><●>) 「ただ、それだけなのです」
(´・ω・`) 「犯人特定が難しいだけで、動き自体に妙なとこはなかったんだ」
そうなのですよ、とワカッテマスは言った。
もし、本当にそれだけの事件なら、まだマシだったんだ。
( <●><●>) 「さて、ここからおかしい点を列挙します」
(´・ω・`) 「列挙……か」
嫌な言い方をするなァ。
実にいい性格をしている。
( <●><●>) 「まず…お伺いされているかと思いますが」
( <●><●>) 「害者のインカムが、操作されていた」
(´・ω・`) 「こいつが言ってたね」
(´・ω・`) 「え、なに、あんたらのやり取りが盗聴されてたって?」
.
- 319 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:46:08 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「迂闊だったのはもう認めています。 さて…」
(´・ω・`) 「しれっと過失を流すなよ」
( <●><●>) 「まず、一点目」
( <●><●>) 「私と東風さんがインカムを付けていたことは、知らされていない」
( <●><●>) 「二点目、警備員とは違うチャンネルに合わせていた」
(´・ω・`) 「警備員が一番で、あんたらが五番だっけ?」
( <●><●>) 「わかりようがないはずなんですよ、本来」
(´・ω・`) 「本来は…な」
( <●><●>) 「三点目」
( <●><●>) 「まあ、百歩譲って盗聴していたのはいいでしょう」
( <●><●>) 「犯人が、インカムを借りて我々の動向を探っていたかもしれない」
.
- 320 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:49:15 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「だとしても、どうして逃げる前に、一番に戻さなかったのか」
(´・ω・`) 「急ぐ事態だったにしても、チャンネルくらい、一瞬で戻せるんだろ?」
( <●><●>) 「はい。 ボタンを数回、押すだけです」
というと、セミナーの上にあったインカムを持ち上げた。
そんなものがあったのか、と思い、前かがみになった。
( <●><●>) 「ヴィップスタジアムから、サンプルをお借りしております」
(´・ω・`) 「貸してみろ」
( <●><●>) 「はい」
もとよりインカムというものに疎い僕だが、
なるほど確かに、チャンネルを合わせること自体は一瞬で可能だ。
(´・ω・`) 「…」
( <●><●>) 「警部は、どう見られますか」
(´・ω・`) 「忘れていた、それどころじゃなかった……ッて可能性は否めない」
(´・ω・`) 「あくまで、人を殺した直後なんだからね」
.
- 321 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:51:16 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「それを言うと、身も蓋もないのですが……まあ」
(´・ω・`) 「インカムはわかった。 続けて」
( <●><●>) 「まあ、いいですが」
( <●><●>) 「次に、犯人ですが、内部の人間の可能性があります」
(´・ω・`) 「内部……というと、なんの?」
( <●><●>) 「ライブ側、警備側、そのどちらかです」
(´・ω・`) 「というと」
( <●><●>) 「監視カメラの死角を、把握していたからです」
(´・ω・`) 「…!」
.
- 322 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:52:08 ID:vj1roGtw0
-
ワカッテマスは、A3の大判カラーを取り出した。
現場近辺の、監視カメラの捕捉範囲が描かれている。
そして、バツ印の付けられている付近、
すなわち現場の部分が、見事に捕捉エリアから外れている。
(´・ω・`) 「でも、害者の持ち場はカメラのエリア内だ」
(´・ω・`) 「なにか、そこにヒントはなかったのか?」
( <●><●>) 「十九時〇八分に、エリア外に向かって歩き出すのが確認されました」
( <●><●>) 「これが、その時の写真です」
(´・ω・`) 「んー…」
大柄の男が、確かにカメラの外に向かおうとしている。
しかし、面白そうな情報は得られない。
(´・ω・`) 「これだけじゃあ、弱いな」
( <●><●>) 「十九時頃には、犯人はもう現場にいたんです」
( <●><●>) 「害者は、携帯などを使った様子が見られなかった」
( <●><●>) 「ぎりぎり見えるところから呼び出したか、最初から示し合わせていたか」
.
- 323 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:52:40 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「その点は、どうとでも説明がつく」
(´・ω・`) 「問題は、やっぱり犯人がエリアを把握していたッてことだ」
( <●><●>) 「現状、それらしき解答は見当たりません」
(´・ω・`) 「オーケー、次」
ワカッテマスは、持っていた資料をセミナーの上に戻した。
( <●><●>) 「仮に以上全てのおかしい点を無視したとして」
( <●><●>) 「結論、害者は、犯人の呼び出しに応じているのです」
( <●><●>) 「あるコミュニティの、うち二人が殺されている」
( <●><●>) 「そのうえで、自分が出動するヴィップスタジアムで予告が届いた」
( <●><●>) 「……ふつう、多少は警戒するでしょう」
(´・ω・`) 「そこも、気になる点だ」
.
- 324 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:53:09 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「害者は、自分が狙われているという実感がなかったんでしょうか?」
(´・ω・`) 「いや、あったんじゃないかな、と思ってる」
( <●><●>) 「というと」
(´・ω・`) 「嫁さんに話を聞いてたんだがね、」
(´・ω・`) 「事件前夜、ふだん無口で感情を出さない害者が、」
(´・ω・`) 「その時に限って、少しだけ、感傷的だったそうなんだ」
( <●><●>) 「……ふむ」
(´・ω・`) 「根拠として弱いッちゃ、弱い」
(´・ω・`) 「ただ、害者は多少はニュースを見る性格だったと聞く」
(´・ω・`) 「知っていてもおかしくないし、勘付いてもいいもんだ」
( <●><●>) 「とすると、この時の害者の心理が問われます」
.
- 325 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:53:39 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「ヒッキー小森と一緒だ」
(´・ω・`) 「事件前に、犯人からの、」
(´・ω・`) 「050番号の着信があったなら、説明はついたんだけど」
( <●><●>) 「どうだったんですか?」
(´・ω・`) 「少なくとも、害者のスマホにはなかった」
( <●><●>) 「………ふむ」
( <●><●>) 「とにかく、不審な点が多すぎる」
傍らに置いていた、ペットボトルの緑茶に手を伸ばした。
喉を鳴らして、うまそうに飲みやがる。
( <●><●>) 「どうして、犯人は死角を把握していた?」
( <●><●>) 「どうして、害者は我々の無線を盗聴していた?」
( <●><●>) 「どうして、害者は犯人の呼び出しに無警戒に応じた?」
.
- 326 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:53:48 ID:2bIoUUME0
- 支援
- 327 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:54:09 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「何か、根底が狂ってるんだ」
(´・ω・`) 「どこかに、偽りが眠っている」
( <●><●>) 「東風さんが捜査して、これなんだ」
( <●><●>) 「現場以外のどこかに、キーが落ちているはず」
(´・ω・`) 「どこかに、ねえ」
ぎょろ目はさっきから、豪快ないびきをあげて眠っている。
眠いなら、寝ておけばいい。
必要になったら、パイプ椅子を蹴ってでも起こしてやる。
(´・ω・`) 「たとえば、協力者が、いた」
(´・ω・`) 「あんたらにインカムを渡した人ってどいつだ?」
( <●><●>) 「警備チームのチーフリーダーですね」
( <●><●>) 「当日、複数の警備チームが配置されていたのですが、」
( <●><●>) 「言うなれば、彼らの頭です」
.
- 328 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:54:44 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「害者、事件との関連性は」
( <●><●>) 「私が取り調べ致しましたが、一切の関連性が嗅ぎ取れませんでした」
(´・ω・`) 「まあ、そうよなあ…」
まだ、犯人がカメラの死角を把握していたのはともかく、
警察がインカムを使用していたなんて、そうそう気づけまい。
警備側の人間に内通者がいれば簡単な話だったのだけど。
こいつが対応して手がかりなし、となればその線はない。
( <●><●>) 「各警備チームのリーダーも、全員私が出ました」
( <●><●>) 「結果は同様です」
(´・ω・`) 「…ふむ」
( <●><●>) 「そもそも、内通者がいたところで、」
( <●><●>) 「害者がインカムを盗聴していた直接的な理由にはなりません」
(´・ω・`) 「まあ、そうなんだがよ」
.
- 329 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:55:09 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「殺害後、害者のインカムを奪って盗聴したとして」
( <●><●>) 「当時の犯人が知りたがる情報とすれば、我々の動きです」
( <●><●>) 「どこにいる、いつ動き出す、といった具合に」
( <●><●>) 「しかし、それらは犯人が盗聴しなければならない情報ではありません」
(´・ω・`) 「ンなもん、協力者がいたらそいつから聞けばいいだけなんだ」
(´・ω・`) 「見張らせてよ」
( <●><●>) 「この点から、内通者の線は私は切っています」
(´・ω・`) 「…」
着実な歩みこそ進められているが、
根本的なところが霞がかったままだ。
仮定を立てるのは容易いが、そこから何も見出せないようでは、ただの寄り道だ。
いま求められているのは、万歩計のカウントを溜めることではない。
歩みそのものは少なくてもいい、とにかくゴールに近づくことだ。
.
- 330 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:58:39 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「いま判明していることだけでは、これ以上の推理はできかねます」
( <●><●>) 「第四、ヴィップの滝がキーになると睨んでいますが」
(´・ω・`) 「そりゃあそうだ」
(´・ω・`) 「しかも今回は、犯人にとっては急所を晒すことになり得る」
(´・ω・`) 「予告を第三者に告げたんじゃ、ない」
(´・ω・`) 「個人的な連絡が、隣にいた警察に聞かれちまってンだ」
( <●><●>) 「ちなみに、他言無用の脅しは」
(´・ω・`) 「なかったみたいだけど……どのみち、密告は想定されてないだろうね」
( <●><●>) 「根拠は」
(´・ω・`) 「奥さんのキャラ、態度もあるけど…」
(´・ω・`) 「なにより因縁だ」
( <●><●>) 「因縁…」
.
- 331 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:59:04 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「大学、というコミュニティが正しいかはさて置いて」
(´・ω・`) 「とにかく、何かしらのコミュニティ内で、この事件は続いてる」
(´・ω・`) 「その内部の人間……犯人が、」
(´・ω・`) 「クックルを殺したうえで嫁との密談を望んでいる」
(´・ω・`) 「それも確か、犯人は自首するつもりで、その前に話したい……とか。」
( <●><●>) 「自首、ですか。 まあ、期待しないほうがいいでしょう」
(´・ω・`) 「なんにせよ」
(´・ω・`) 「犯人と彼女の間にも、何かしらのつながりがある筈なんだ」
( <●><●>) 「なにより、関係や電話番号を知っていたわけですからね」
( <●><●>) 「害者のスマホをチェックして、わざわざ電話をかけたとは思えない」
どんな因縁があったかは、わからない。
愛憎劇かもしれないし、違うところに要点があったかもしれない。
考えにくいが、クックルを殺したのはただのきっかけ作りで、
本命は芹澤ミセリだった、というケースも捨てるわけにはいかない。
.
- 332 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 21:59:40 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「彼女にも、口外しないだけで、心当たりはあるのかもしれない」
(´・ω・`) 「つまり、犯人にとって、今回の会合に第三者の横やりは想定されていないんだ」
( <●><●>) 「しかし、それだけだと弱い」
( <●><●>) 「計画的な犯行を臨む以上、警察の介入というリスクは捨てきれません」
それもそうなんだけど。
嫌味なやつだ。
(´・ω・`) 「もし、介入前提なら、公園の管理人にでも予告するだろう」
(´・ω・`) 「そうせず、ターゲット個人にだけ予告している以上、」
(´・ω・`) 「少なくとも介入される前提の犯行は、計画されていない」
(´・ω・`) 「介入前提の犯行が計画されてない、ッつーのがポイントなんだよ」
(´・ω・`) 「まだ、付け入る隙が残されてる」
( <●><●>) 「…」
.
- 333 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:01:36 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「一緒に、考えてくれ」
( <●><●>) 「何を」
(´・ω・`) 「前提は、みっつ」
(´・ω・`) 「犯人は、ミセリを殺す」
(´・ω・`) 「犯行に警察という前提は想定されていない」
(´・ω・`) 「ただし、警察に張られても、出し抜ける」
(´・ω・`) 「以上の三点から導き出せる犯人の思惑だ」
( <●><●>) 「……」
.
- 334 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:02:00 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「そもそも、警察の対応もふたつに分かれるんだ」
(´・ω・`) 「殺されるリスクを消すために、ミセリを現場に行かせない」
(´・ω・`) 「密談を知らないフリをして、急戦に出る」
将棋のように、いくつもの手が考えられる。
犯人は未来人でも超能力者でもない、
警察の進める手を読み切って、見事に思惑通りの犯行をこなせるわけがない。
( <●><●>) 「むろん、警察としては、」
( <●><●>) 「犯人がいるとわかっている現場に、」
( <●><●>) 「関係者を出向かせるわけにはいきませんがね」
(´・ω・`) 「……僕は、違うけどね」
( <●><●>) 「…は?」
.
- 335 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:02:53 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「僕としては、彼女に当日、約束通り」
(´・ω・`) 「公園に行ってもらっても構わないところなんだけど」
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「頭おかしいんですか」
ワカッテマスの冷たい視線が、針のように僕を突き刺す。
捜査一課警部、事件担当者として、確かにあり得ない考えではある。
( <●><●>) 「一警察が、市民を人命の危機に晒すおつもりですか」
(´・ω・`) 「…」
( <●><●>) 「確かに、進展があれば、捜査もより進むでしょう」
.
- 336 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:03:21 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「ですがね」
( <●><●>) 「マスコミはもとより、上層部、国民が許しませんよ」
ぴりぴりしているのか、疲れが取れていないのかはわからないけど、
ワカッテマスは、平生よりはやや語調を強めて、まくし立ててきた。
( <●><●>) 「我々は、推理パズルをしてるんじゃありません」
( <●><●>) 「長期戦になろうが、我々はミセリを保護し、」
( <●><●>) 「別の方法で、犯人にアプローチするしかありません」
(´・ω・`) 「言うようになったな、ワカッテマス」
( <●><●>) 「トチ狂ったことを言い出すからですよ」
.
- 337 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:04:26 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「犯人は一言も、殺す、なんて言ってないんだぜ」
(´・ω・`) 「じゃあ、僕らにできることは、無い」
( <●><●>) 「それは……、……」
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「いやいやいやいや」
ワカッテマスが、嘲るような顔で大げさに仰け反った。
この男にしては珍しく、感情的な仕草だ。
( <●><●>) 「どう考えても、殺害意図が含まれている」
( <●><●>) 「第一、殺すだろうというのは警部が言い出したことですよ」
(´・ω・`) 「そりゃあ、殺すつもりだろうね」
( <●><●>) 「何が言いたいんですか」
.
- 338 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:04:57 ID:vj1roGtw0
-
、 、 、、 、 、 、 、 、 、、
(´・ω・`) 「警察は現状、彼女を止める権限がないんだ」
( <●><●>) 「…!」
(´・ω・`) 「え、なに」
(´・ω・`) 「ミセリ視点で言えば、こうだ」
(´・ω・`) 「知らない050番号から、電話がきた」
(´・ω・`) 「相手は名乗らないし、声も変えている」
(´・ω・`) 「明後日、滝公園で会って、話がしたい」
(´・ω・`) 「……彼女自身は何もしていないんだ」
(´・ω・`) 「そんな彼女が、滝公園に行く、なんて言い出したら、」
(´・ω・`) 「それを制止する権利は、法的には、ない」
( <●><●>) 「………どういうことですか」
.
- 339 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:06:26 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「警察視点で言えば、だぜ?」
(´・ω・`) 「その050番号は犯人のものだし、」
(´・ω・`) 「その犯人がクックルを殺したことを認めてやがる」
(´・ω・`) 「どォーー考えたって、こいつァ殺人予告だ、行かせるわけにはいかなくなる」
(´・ω・`) 「むろん、保護に応じることは簡単だよ」
(´・ω・`) 「でも、彼女がそれを拒むようだったら、」
(´・ω・`) 「それは止められないよね、ッて話」
( <●><●>) 「まさか、警部」
、 、、 、 、 、 、 、 、、
( <●><●>) 「あなた、ミセリの意思に委ねるおつもりですか」
.
- 340 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:08:18 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「だって、仕方ないじゃん」
(´・ω・`) 「無理やり止めたら、それは軟禁だぜ」
(;<●><●>) 「…!」
疲労が積もった身体に堪えたのだろう、
ワカッテマスは少し前屈して、セミナーに手をかけた。
そろそろ、上官命令で休ませないといけないな。
寝かせようにも寝ないだろうし、煙草くらい覚えさせてみようか。
(;<●><●>) 「………」
(;<●><●>) 「私は、反対ですよ」
(;<●><●>) 「私のほうから、公園に出向かないよう、説得しますから」
(´・ω・`) 「まあ、それは自由だよ」
.
- 341 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:09:15 ID:vj1roGtw0
-
煙草、煙草か。
ちょっと疲れたし、僕も一服したくなってきた。
(´・ω・`) 「あんたは、これから何をする?」
(;<●><●>) 「…」
( <●><●>) 「そうですね。 ちょっと、情報を整理したい」
ちょうどいいや。
ミセリは、まだ喫茶店にいるだろう。
(´・ω・`) 「ちょっくらブレイクタイムとしゃれ込もうぜ」
( <●><●>) 「お言葉はありがたいですが」
( <●><●>) 「少しでも事件に触れていないと、落ち着けないので」
(´・ω・`) 「いいとこ知ってンだ」
( <●><●>) 「申し訳ありませんが、事件を片付けてから、で」
.
- 342 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:10:44 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「奥さんは、まだ近くの喫茶店にいるはずだし」
( <●><●>) 「…!」
(´・ω・`) 「一服がてら、彼女に話でも聞いてみるかい?」
(´・ω・`) 「ほら。 公園に行かせないよう説得するんだろ?」
ワカッテマスが、少し目を開かせた。
疲れが取れたかのように、姿勢を戻した。
( <●><●>) 「………」
( <●><●>) 「人にサボらせるの、だんだんお上手になっていますね」
(´・ω・`) 「当ッたり前じゃん」
(´・ω・`) 「僕があんたくらいの頃、どうサボるかを研究したもんだぜ」
( <●><●>) 「だから警部止まりなんでしょうね」
(;´・ω・`) 「なッ! ……どういう意味だ!」
.
- 343 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:11:27 ID:vj1roGtw0
-
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第三幕 「 霞 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
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¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
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.
- 344 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:11:56 ID:vj1roGtw0
-
┏━─
午後十五時二四分 喫茶店
─━┛
ミセ*゚-゚)リ 「…!」
(´・ω・`) 「やあ」
(´・ω・`) 「向かい、失礼するよ」
ミセ*゚-゚)リ 「……どうぞ」
警察の近く、ということもあって、
警察の関係者やビジネスマンが多い。
事務員を付き添いに出していたはずだけど、
僕が来る少し前に、所用で戻ったみたいだった。
.
- 345 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:12:21 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「捜査一課のワカッテマス」
( <●><●>) 「よろしくお願いします」
ミセ*゚-゚)リ 「こ、こちらこそ…」
ワカッテマスは好青年でこそあるが、
無表情にひび割れた眉間、堅物なオーラが多くの女性を敬遠させる。
プライベートではそうでもないらしいけど、
奴とは仕事でしか関わりがないから、全然信じられないところではある。
歳も近いだろうミセリだが、ワカッテマスの着席にあわせて少し畏縮した。
その隣に、僕がだらけた姿勢で煙草をくわえだすものだから、
この上ないぎこちなさに、もやもやするのも仕方ない。
( <●><●>) 「少し、お話よろしいでしょうか」
( ´・ω・) 「ラテとブレンド、あとフレンチトーストォー」
( <●><●>) 「…失礼」
.
- 346 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:12:52 ID:vj1roGtw0
-
県警から近いだけあって、この店ができた頃から、僕はよく通っていた。
自宅と県警の間に、僕のなじみの店が結構あるけど、
この喫茶店は、そのうちのひとつだ。
(´・ω・`) 「奥さんは、もう一杯、いかが?」
ミセ*゚-゚)リ 「へッ…」
ミセ*゚-゚)リ 「……じゃあ、抹茶ラテ」
( ´・ω・) 「あと抹茶ラテェー」
主人が会釈で快諾した。
常連の僕には、直接オーダーを取りにこないのが気楽でいい。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「ちなみに、トーストは?」
(´・ω・`) 「食え」
( <●><●>) 「お気持ちだけ頂戴します」
(´・ω・`) 「上官命令だ」
.
- 347 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:14:15 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「………わかりました」
( <●><●>) 「さて、本題、よろしいでしょうか」
(´・ω・`) 「ひとクチくらい飲んでからにしろよ」
(´・ω・`) 「あんた、声、結構掠れてるぞ」
( <●><●>) 「………」
( ´・ω・)
っ “
ミセ*゚-゚)リ 「…」
主人が飲み物を運んでくるまでの間、三人に会話はなかった。
ミセリはスマホをいじり、ワカッテマスはただ景色を眺める。
ミセリにも一本やろうか悩んだが、特に求められなければ、いいだろう。
女性は、人前で煙草を吸うのを遠慮するものなのだ。
.
- 348 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:14:44 ID:vj1roGtw0
-
'_
( ´・ω・)y- 、
( <●><●>) 「結構、遅かったですね」
( ´・ω・)y- 「こういうもんだよ」
ミセリと僕がひとクチ飲んだのを見たところで、
ワカッテマスもゆっくり、ブラックのそれに口を付けた。
呆れたような顔をしながらも、
ようやく、と言わんばかりに本題を切り出した。
( <●><●>) 「確認ですが」
( <●><●>) 「犯人を名乗る人物から電話がきたのは、間違いないですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「そうですね」
( <●><●>) 「具体的に、どんな内容でしたか」
.
- 349 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:15:18 ID:vj1roGtw0
-
ミセ*゚-゚)リ 「…えっと」
ミセ*゚-゚)リ 「自首しようと思う」
ミセ*゚-゚)リ 「明後日、ヴィップの滝公園に来てほしい」
ミセ*゚-゚)リ 「ふたりで、話がしたい…ッて」
( <●><●>) 「旦那を殺害した……犯人から」
ミセ*゚-゚)リ 「そうです、ね」
( <●><●>) 「犯人の、声や特徴は」
ミセ*゚-゚)リ 「機械みたいな声だったので、わかんないですね」
ミセ*゚-゚)リ 「特に訛りはなかったです」
( <●><●>) 「番号履歴が残っていたら、見せてください」
ミセ*゚-゚)リ 「ちょっと待って…」
.
- 350 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:15:50 ID:2bIoUUME0
- ワカ、言うようになったな
- 351 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:16:18 ID:vj1roGtw0
-
( ´・ω・)y-~~
番号、か。
そういえば、184の非通知設定にはしなかったのだろうか。
あまり知られていない仕様なんだ、
犯人が知らなかっただけという説ももちろん考えられるけど。
三件を出し抜く犯人であることを考えると、少し引っかかるところではある。
( <●><●>) 「……確かに」
( <●><●>) 「例の050番号と合致するようですね」
( ´・ω・)y- 「ンだね」
( <●><●>) 「この番号に、見覚えは」
ミセ*゚-゚)リ 「ないですね」
( <●><●>) 「ふむ。 相手に、心当たりは」
ミセ*゚-゚)リ 「……特に」
( <●><●>) 「そうですか」
.
- 352 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:16:44 ID:vj1roGtw0
-
これは、ワカッテマスの話術だった。
何度も話されたような、わかりきっている内容も、
確認だ、と言って話させるところから始まる。
相手は、答えなれたそれらを饒舌に繰り返す。
ある程度温めてから、本題にしれっと入るのだ。
そうすれば、聞かれている側に負担をかけることなく、
あわよくば、それまで思い出せなかったことを思い出させられることがある。
ミセ*゚-゚)リ 「ただ、」
( <●><●>) 「はい」
ミセ*゚-゚)リ 「私と、話しなれてる感じはした」
ミセ*゚-゚)リ 「あんまり、話してて、違和感とかぎこちなさが、なかったから」
( <●><●>) 「なるほど」
加えてもう一点、
相手が核心を突くことをポロッと言っても、動じない。
ですよね、といった具合で相槌を打つ。
もっとも、予想外すぎることを聞かされると、
キャラに見合わないオーバーリアクションを取るのだけども。
.
- 353 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:17:10 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「ふたりで話したい、と言ってきたわけですが」
( <●><●>) 「芹澤さんとしては、どんな話をされるか予測つきますか?」
ミセ*゚-゚)リ 「………さあ」
心当たりは、なくは、ない。
ただ確信に至る材料が少ないから、言いあぐねている。
そんな口ぶりだ。
( <●><●>) 「既に、旦那が奴の手によって殺されています」
( <●><●>) 「その妻と密談がしたい、なんて申し出……」
ミセ*゚-゚)リ 「会ってみれば、わかるかもしれませんが」
( <●><●>) 「…!」
'_
( ´・ω・)y- 、
.
- 354 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:17:30 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「つかぬ事をお聞きしますが」
( <●><●>) 「明後日……犯人の要求通り、公園に行くつもりですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「………」
ミセリの不意を突いた一言に、多少ワカッテマスが焦った様子を見せた。
その証拠に、コーヒーを飲んで一呼吸置いている。
ミセ*゚-゚)リ 「実感は、ありませんが」
ミセ*゚-゚)リ 「主人を殺した相手が、会いたがってるんですよね」
( <●><●>) 「おそらくは」
ミセ*゚-゚)リ 「……」
( <●><●>) 「ただ、呼び出すだけ呼び出して、」
( <●><●>) 「話す前にあなたを襲う可能性も、高い」
.
- 355 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:18:59 ID:vj1roGtw0
-
自然な会話の流れを潰さないように、しかし説得を試みている。
ただ、ミセリの目はどこか虚ろで、ワカッテマスに焦点を合わせていなさそうに見える。
ミセ*゚-゚)リ 「……」
( <●><●>) 「既に、相手は三人も殺してるんです」
ミセ*゚-゚)リ 「でも、自首しようと思ってる、って」
( <●><●>) 「自首する、と言って本当に自首する犯人は、滅多にいません」
ミセ*゚-゚)リ 「……まあ。」
その空虚な瞳に気づいたのか、
ワカッテマスは、もう一度コーヒーを飲んで、前傾姿勢になった。
( <●><●>) 「………そういえば」
( <●><●>) 「本件は、連続殺人です」
( <●><●>) 「ご主人のクックル三階堂は、三人目なのですが…」
.
- 356 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:19:28 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「フッサール擬古、ならびにヒッキー小森」
( <●><●>) 「彼らの名前に、心当たりは?」
ミセ*゚-゚)リ 「…!」
( <●><●>) 「!」
( ´・ω・)y- 「!」
ワカッテマスが、目を見開いた。
僕も、ついラテを飲んでお茶を濁した。
感情的になっていたミセリを前に、そのことはまだ、聞かないでいた。
( <●><●>) 「……ご存じ、ですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「……」
( <●><●>) 「ご存じ、ですか?」
.
- 357 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:20:10 ID:vj1roGtw0
-
ミセ*゚-゚)リ 「え、あっ」
ワカッテマスが、語調を強めて再三尋ねる。
少し放心状態だったようで、ミセリはぽかんとしていた。
ミセ*゚-゚)リ 「………え、その。」
ミセ*゚-゚)リ 「連続殺人……殺されたのッて……」
( <●><●>) 「フッサール擬古」
( <●><●>) 「ヒッキー小森」
( <●><●>) 「そして……あなたの、ご主人です」
ミセ;゚-゚)リ 「…………えっ?」
.
- 358 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:20:33 ID:vj1roGtw0
-
ミセ;゚-゚)リ 「ちょ……まじで言ってンの?」
( <●><●>) 「逆に、散々ニュースで報じられていますが…」
ミセ;゚-゚)リ 「ごめん、全然、ニュース見てなくって…」
( <●><●>) 「と、いうと…」
(´・ω・`) 「ミセリさん」
ミセ;゚-゚)リ 「!」
(´・ω・`) 「これは、重要なことです」
(´・ω・`) 「フッサール擬古と、ヒッキー小森」
(´・ω・`) 「いったい、誰なんですか?」
.
- 359 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:21:08 ID:vj1roGtw0
-
ミセ;゚-゚)リ 「誰、って……」
ミセ;゚-゚)リ 「……」
ミセ;゚-゚)リ 「大学時代の……」
( <●><●>) 「!」
ミセ;゚-゚)リ 「サークルの……友だち……だけど」
(´・ω・`) 「……そうか」
ヴィップ大学、という読みは、的中していた。
しかし、ヒッキー小森だけ違うところがネックでこそあったが。
( <●><●>) 「しかし、ヒッキー小森はヴィップ大学ではないと聞きますが」
ミセ;゚-゚)リ 「そう、ですけど」
.
- 360 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:21:30 ID:vj1roGtw0
-
ミセ;゚-゚)リ 「部長の、知り合いで」
( <●><●>) 「部長…」
ミセ;゚-゚)リ 「流石、って人…ご存じですか?」
( <●><●>) 「サスガ、ですか」
ワカッテマスが眉間にヒビを刻み、捜査手帳を開く。
僕の記憶が正しければ、そんな名前の人間は、本件には関わっていない。
ただ、重要な手がかりとなり得るのは明白だった。
ワカッテマスは、記憶をあてにせず、過去のデータと参照した。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「いえ。 警察は、把握していませんね」
ミセ;゚-゚)リ 「そう…ですか」
.
- 361 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:22:07 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「僕、大学は出てないから」
(´・ω・`) 「その、サークルっていうのが、よくわかんないんですけど」
(´・ω・`) 「クラブ活動、みたいなもの?」
( <●><●>) 「要は、同じ趣味趣向を持つ人たちが、」
( <●><●>) 「プライベートの時間を共にする集まりですね」
(´・ω・`) 「クラブ活動、みたいなものか」
ミセ*゚-゚)リ 「私たちは…」
ミセ*゚-゚)リ 「いわゆる、アウトドアサークル、ですね」
ミセ*゚-゚)リ 「バーベキューとか、スキーとかを、楽しんでました」
( <●><●>) 「アウトドア、ということは、釣りなども?」
ミセ*゚-゚)リ 「そうです、ね」
ミセ*゚-゚)リ 「みんな好きだったワケじゃないけど、何人かは」
( <●><●>) 「…」
(´・ω・`) 「釣り、か…」
.
- 362 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:22:36 ID:vj1roGtw0
-
ペニーが見つけてきてくれた。
一件目、地下鉄殺人のフッサール擬古は、釣りが好きだった。
釣りも、むろんアウトドアの範疇にある趣味だ。
バーベキューの傍らで楽しんだりすることもある。
アウトドアサークル、となると、合点がいく情報だった。
足音がしたので振り返ると、後ろから主人がフレンチトーストを持ってきてくれた。
僕とミセリはそれに気が付いたが、ワカッテマスだけ、険しい顔をしていた。
( <●><●>) 「その、アウトドアサークルについて」
( <●><●>) 「少し、詳しく教えていただけないでしょうか」
ミセ*゚-゚)リ 「ア……はい。」
(´・ω・`) 「そう慌てなさんな」
( <●><●>) 「なんですか、これ」
(´・ω・`) 「食え」
( <●><●>) 「……」
.
- 363 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:23:05 ID:vj1roGtw0
-
ワカッテマスは、出来立てのそれを訝しげな顔で見つめた。
少し、呆気にとられたような顔をしている。
(´・ω・`) 「僕から、聞きましょう」
(´・ω・`) 「そうだなァ……」
煙草に手をやる。
緊張がほぐれてきたのか、逆に緊張が押し迫ってきたのか、
ミセリがそれを物欲しそうな目で見つめてきた。
なるほど、甘え上手な女性らしい。
ミセ*゚-゚)リ 「ども…」
(´・ω・`) 「昔話をするには、酒と煙草、ッて相場がキマっている」
( <●><●>) 「…いただきます」
(´・ω・`) 「まだ食ってなかったのかよ、さっさと食え」
( <●><●>) 「…」
.
- 364 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:23:31 ID:vj1roGtw0
-
少し躊躇うワカッテマスを見て、
そういえば奴がパンの類を一切食さない男であることを思い出した。
時間に余裕がない時の食事は、決まってエネルギーを補給するタイプのゼリーだ。
(´・ω・`) 「さて」
(´・ω・`) 「えっと、ヴィップ大学の人らで組まれたサークルだった?」
ミセ*゚-゚)リ 「そうですね」
ミセ*゚-゚)リ 「小森さん以外…は」
(´・ω・`) 「で、その小森サンは、部長の知り合いだった」
ミセ*゚-゚)リ 「うん」
(´・ω・`) 「サスガ、さんだっけ」
(´・ω・`) 「どんな人なんですか?」
互いに煙草を持つと、心なしか、距離が縮まる心地がする。
ミセリも、少し砕けつつあった。
.
- 365 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:23:52 ID:vj1roGtw0
-
ミセ*゚-゚)リ 「変…な人ですね」
(´・ω・`) 「変」
第一の印象がそれか。
ミセ*゚-゚)リ 「なんか変なんだけど……憎めない人」
ミセ*゚-゚)リ 「みんなより二歳上だったけど、そんな感じはしなかった」
(´・ω・`) 「みんな……フッサール擬古もだったか」
ミセ*゚-゚)リ 「部長と小森さん以外、みんな同い年なんです」
(´・ω・`) 「…ふむ」
これは、帰ってからホワイトボードに書く内容が一気に増えるぞ。
人物の相関図は、ワカッテマスに書かせることにしよう。
.
- 366 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:24:14 ID:vj1roGtw0
-
ミセ*゚-゚)リ 「背が高くて、細くて、でも声は太くて…」
ミセ*゚-゚)リ 「いじられ役を買って出る、まとめ役…って感じで」
ミセ*゚-゚)リ 「基本的に、あの人がいないと、サークルは回らなかったですね」
(´・ω・`) 「なるほど」
(´・ω・`) 「まとめると、イイ人、だったんだ」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ…そうなりますね」
いるよな、そういう人。
言いながらワカッテマスのほうを見ると、奴はもうフレンチトーストを平らげていた。
ハムスターのように膨らんだ頬を見るに、一気に食べようとして失敗したらしい。
写真だけ撮っておいた。
ワカッテマスが露骨に嫌そうな顔をしたが、これは面白いものが手に入ったぞ。
.
- 367 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:24:46 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「続けて」
ミセ*゚-゚)リ 「ア…はい」
ミセ*゚-゚)リ 「部長でしょ、小森さんでしょ、ギコくんでしょ…」
ミセ*゚-゚)リ 「旦那に、私に……あと、盛岡さん」
(´・ω・`) 「盛岡さんも、同い年で」
ミセ*゚-゚)リ 「はい」
(´・ω・`) 「どんな人だったの?」
ミセ*゚-゚)リ 「……オタク?」
(´・ω・`) 「オタク」
もっとマシな第一印象はないのか。
.
- 368 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:25:11 ID:vj1roGtw0
-
ミセ*゚-゚)リ 「その……なんていうか」
ミセ*゚-゚)リ 「サークル自体が、インドアなみんなでアウトドアしようぜ…」
ミセ*゚-゚)リ 「そんなコンセプトのサークルだった…んで」
(´・ω・`) 「インドア、っていうと、読書とか」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ、そうですね」
隣で、せき込む音が聞こえた。
ワカッテマスがぎょろッと目を開いて、コーヒーを流し込んでいる。
実に愉快だ。
次は、ベーカリーのバイキングにでも連れていってやろう。
ミセ*゚-゚)リ 「アニメキャラがどう、とか」
ミセ*゚-゚)リ 「そんな話を、部長や小森さんと盛り上がってました」
(´・ω・`) 「そ、そうなの」
.
- 369 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:25:33 ID:vj1roGtw0
-
確かに、インドアが集うアウトドアサークル、というのはありそうだ。
ただ、偏見かもしれないけど、ミセリがそのインドアに属する人間とは思えなかった。
休日には、友人とのランチを楽しみそうな、
比較的活発な趣味を持つイメージを持たせられる。
(´・ω・`) 「奥さんも、そういったものが好きで?」
ミセ*゚-゚)リ 「いや、全ッ然」
(´・ω・`) 「そ、そうなんですか」
ミセ*゚-゚)リ 「しょーじき、無理でした」
(´・ω・`) 「え、じゃあなんでサークルにいたの?」
( <●><●>) 「…」
ワカッテマスが、ハンカチで涙を拭く。
想像以上に咽たらしい。
.
- 370 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:25:53 ID:vj1roGtw0
-
ミセ*゚-゚)リ 「部長に勧誘されて」
(´・ω・`) 「知り合いだったの?」
ミセ*゚-゚)リ 「いや…」
ミセ*゚-゚)リ 「……そういえば、どうしてだろう」
(´・ω・`) 「思い出すのは、ゆっくりでいいよ」
そうすれば、煙草も自然に吸える。
思えば最近、喫茶店で羽を伸ばすことも少なかった。
サボリと言えば聞こえは悪いが、深刻な事件の傍らで寛ぐのも、大切なのだ。
( <●><●>) 「…サークル、ですか」
(´・ω・`) 「何か、閃いた?」
( <●><●>) 「いや」
( <●><●>) 「自分には縁がなかったな、と思い」
.
- 371 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:26:17 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「まあ、あんたがサークルってのも、想像できんわ」
(´・ω・`) 「ちなみに、大学でサークルに入るのって、普通なの?」
( <●><●>) 「大学にもよりますが、全然珍しくはないです」
ミセ*゚-゚)リ 「あ、そうだ」
ミセ*゚-゚)リ 「ビラ撒きで何回か会って、」
ミセ*゚-゚)リ 「顔を覚えられたのか、あの時の人かい? って声かけられて」
(´・ω・`) 「サスガ、さんが」
ミセ*゚-゚)リ 「で、少し話して、」
ミセ*゚-゚)リ 「気がついたら加入させられてた…ッて感じです」
(´・ω・`) 「結構なヤリ手だね。 クチがうまかったんだ」
ミセ*゚-゚)リ 「実際、あの人、かなり話がうまいですから」
.
- 372 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:26:40 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「インドアが集まる、とかは知らなかったんだ」
ミセ*゚-゚)リ 「いや、予想はできましたね」
ミセ*゚-゚)リ 「ただ、無理に酒を飲まされるとか、メンドウなことはないから楽だよ、って」
(´・ω・`) 「無理に?」
( <●><●>) 「サークルのなかには、無理やり酒を飲ませたりするところもあります」
( <●><●>) 「浮かれた大学生のノリ、というのですかね」
ミセ*゚-゚)リ 「そうそう」
ミセ*゚-゚)リ 「確かに、アウトドアには興味あったけど、」
ミセ*゚-゚)リ 「どこも、面倒臭そうな感じだったから…」
(´・ω・`) 「奥さんは、それがイヤだったんだ」
ミセ*゚-゚)リ 「ナンパされたり、ホテル誘われたりが、本当に、だるかった」
.
- 373 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:27:04 ID:vj1roGtw0
-
大学生、話には聞くけど、想像以上に浮かれているらしい。
僕のなかの、博士号をとる場所というイメージからは随分離れていた。
ミセ*゚-゚)リ 「で、部長は、クチが達者だから」
ミセ*゚-゚)リ 「私としても、気楽に遊べるならいいかな、ッて乗せられて」
(´・ω・`) 「でも、すぐ抜けなかったんだ?」
ミセ*゚-゚)リ 「まあ…」
というと、少しミセリは口ごもった。
ミセ*゚-゚)リ 「なんだかんだ言って、居心地は、よかったので」
ミセ*゚-゚)リ 「旦那とも、そこで出会って」
(´・ω・`) 「そうだ、旦那さん」
(´・ω・`) 「旦那さんは、どんな人だった?」
.
- 374 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:27:33 ID:vj1roGtw0
-
ミセ*゚-゚)リ 「当時はお調子者、でしたね」
ミセ*゚-゚)リ 「部長と一緒にイジられる感じ」
クックルは、免許証の写真で見た感じ、好青年そうだった。
インドアのイメージがつかない、整った顔立ちだったと記憶している。
(´・ω・`) 「旦那さんも、アニメとか好きだったの?」
ミセ*゚-゚)リ 「いやあ…サッパリでしたね」
(´・ω・`) 「ほう」
ミセ*゚-゚)リ 「旦那も、部長に乗せられて入ってきたクチです」
ミセ*゚-゚)リ 「ただ、ノリがいい人だから。」
ミセ*゚-゚)リ 「趣味は合わなくても、溶け込んでましたよ」
.
- 375 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:27:56 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「趣味は合わなくても、ですか」
( <●><●>) 「アウトドアの趣味はなかったのですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「お祭りごとは好き、ッて感じでしたね」
ミセ*゚-゚)リ 「バーベキューとか、スポーツはどれも好きだし」
ミセ*゚-゚)リ 「野外ライブとかも、彼が率先して人を集めてました」
(´・ω・`) 「野外ライブ?」
ミセ*゚-゚)リ 「アウトドアサークル、なんて言ってるけど」
ミセ*゚-゚)リ 「要は、部屋に引きこもってないで、遊ぼうぜ、ってトコなので」
ミセ*゚-゚)リ 「場所が野外なら、なんでもありでしたよ」
(´・ω・`) 「へえ…」
.
- 376 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:28:22 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「じゃあ、小森の」
( <●><●>) 「ギター趣味というのも、そこから?」
ミセ*゚-゚)リ 「ギター?」
( <●><●>) 「どうやらギター趣味があったようですが
ミセ*゚-゚)リ 「ふうん……そうだったんだ」
(´・ω・`) 「家でしか弾いてなかったのかな」
(´・ω・`) 「キャンプなんかの傍らで弾いてても、おかしくないものの」
ミセ*゚-゚)リ 「あいつ、名前のとおり、引きこもりだから」
ミセ*゚-゚)リ 「で…どこまで言ったっけ」
( <●><●>) 「メンバーについてですが、」
( <●><●>) 「あなた、擬古、小森、三階堂、、流石、盛岡」
( <●><●>) 「以上の六人、だったのですか?」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
.
- 377 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:28:51 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「サークル、となると」
( <●><●>) 「OBだったり、新入生だったりが考えられますが」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセリは、煙草を根本まで吸いきった。
ミセ*゚-゚)リ 「六人だけ、ですよ」
ミセ*゚-゚)リ 「部長が創ったサークルで、」
ミセ*゚-゚)リ 「その六人の代で、終わったので」
( <●><●>) 「終わったのは、部長が卒業して、」
( <●><●>) 「取りまとめ役がいなくなったから、でしょうか」
ミセ*゚-゚)リ 「そんなとこです」
.
- 378 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:29:15 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「わかりました」
( <●><●>) 「メンバーについて、もっと詳しく聞きたいのですが…」
ミセ*゚-゚)リ 「後日じゃあ、ダメでしょうか」
( <●><●>) 「どうしてでしょう」
(´・ω・`) 「…?」
ここにきて、ミセリの態度が変わったな、と思った。
いや、表情は変わっていない。
声色というか、声に含まれる感情が、険しいものになった。
もとより、そのアウトドアサークルというコミュニティで、
このたびの連続予告殺人が起こっている。
何もない、はずはないのだ。
逆に捉えると、ここで言い渋るのは、確実に何か裏があった、ということ。
.
- 379 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:29:47 ID:vj1roGtw0
-
ミセ*゚-゚)リ 「思い出したくないこと、思い出しちゃって」
( <●><●>) 「思い出したくないこと、とは」
ミセ*゚-゚)リ 「旦那殺されたんですよ、私。」
( <●><●>) 「……失礼」
食い気味だったワカッテマスが引いた。
しくじったか、と言わんばかりに、コーヒーカップを手に取る。
( <●><●>) 「連絡先が残っていたら、教えていただきたいのですが」
ミセ*゚-゚)リ 「何もないですよ」
( <●><●>) 「……はい?」
ミセ*゚-゚)リ 「卒業して、連絡とらなく、なって」
ミセ*゚-゚)リ 「いま、どこで何してるかも、知らないんですよ」
.
- 380 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:30:11 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「そう、ですか」
(´・ω・`) 「マ、そんなもんよなァ」
(´・ω・`) 「僕だって、高校時代の友だちと、一切連絡ないもん」
( <●><●>) 「…まあ」
腑に落ちないのは、わかる。
だが、今は突っ張る場面じゃないぞ、と目配せした。
ワカッテマスも汲み取ってくれたようで、これ以上食い下がりはしなかった。
ミセ*゚-゚)リ 「…あの」
ミセ*゚-゚)リ 「話は、終わりでしょうか」
( <●><●>) 「今日のところは、とりあえず」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
.
- 381 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:30:40 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「ただ」
( <●><●>) 「本件の、犯人」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
( <●><●>) 「間違いなく、そのサークルの誰かだとは思うのですが」
( <●><●>) 「心当たりは、ありますか」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセリの言葉を信じるなら、残るは、盛岡と流石の二人だけだ。
ただ、言い渋っているのを察するに、まだいる可能性も高い。
ミセ*゚-゚)リ 「あったら、とっくに言ってます」
( <●><●>) 「では、不明、と」
わざとらしく、手帳に書き込む仕草を見せる。
ワカッテマスの、何か心理的な作戦だろう。
.
- 382 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:31:20 ID:vj1roGtw0
-
( <●><●>) 「本件は、当該サークル内の犯行だと思われますが」
( <●><●>) 「動機になり得る何かに、心当たりは」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセ*゚-゚)リ 「ありません」
( <●><●>) 「ふむ…不明、と」
ワカッテマスをよく知る僕から見れば、不自然な演技だ。
ただ、初対面のミセリには気づかれないか。
少し緊張しているのか、
これ以上追究しない、という姿勢を見せているつもりか。
( <●><●>) 「最後」
( <●><●>) 「犯人の呼び出しに、応じるつもりは」
.
- 383 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:31:40 ID:vj1roGtw0
-
ミセ*゚-゚)リ 「 …。」
( <●><●>) 「………、」
さて、どう出るか。
ワカッテマスとしては、首を横に振ってもらいたいところだろう。
ただ、僕の経験と勘で言えば。
ミセリは、縦にも横にも、振らない。
ミセ*゚-゚)リ 「わかりません」
( <●><●>) 「ッ」
ミセ*゚-゚)リ 「そもそも、今回の電話すら、信じられないので。 私。」
(´・ω・`) 「イタズラなのかどうか、ッてこと?」
ミセ*゚-゚)リ 「犯人なのか、自首するのか、話したいだけなのか」
ミセ*゚-゚)リ 「なにもわからない」
.
- 384 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:32:07 ID:vj1roGtw0
-
ミセ*゚-゚)リ 「だから、また折り返し、電話しようと思います」
( <●><●>) 「…!」
そう来たか。
確かに、ミセリの視点からすれば、そう動くのが自然になるか。
( <●><●>) 「犯人が、素直に電話に応じるかわかりません」
( <●><●>) 「むしろ、折り返し電話こそが狙いの可能性もある」
ミセ*゚-゚)リ 「そもそも、本当に犯人なのか、が怪しいんですよ」
( <●><●>) 「それは、そうですが 」
ミセ*゚-゚)リ 「……詳しいことは」
ミセ*゚-゚)リ 「それから、また、警察に相談しようかと」
(´・ω・`) 「そだね。 じゃあ、コレ」
ミセ*゚-゚)リ 「…?」
僕は、そっと名刺とキャンディーを渡した。
.
- 385 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:32:29 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「110に電話するのって、実は結構メンドウなんだ」
(´・ω・`) 「僕に直接かける方が、信用もできるでしょ?」
ミセ*゚-゚)リ 「それはいいんですが、コッチ…」
紫色の包みを指さした。
(´・ω・`) 「僕、キャンディーが好きでね」
ミセ*゚-゚)リ 「あ…飴?」
(´・ω・`) 「これは、アネモネって花の味がするんだ」
(´・ω・`) 「……アネモネ、食ったことねーけど」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセリは少し、難しい顔をしたが、
少しすると顔を歪めて、噴き出して笑った。
.
- 386 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:32:52 ID:vj1roGtw0
-
ミセ*゚-゚)リ 「アネモネ、ですか」
(´・ω・`) 「僕も、妻を、事件で亡くしたんだ」
( <●><●>) 「…!」
ミセ*゚-゚)リ 「え…」
(´・ω・`) 「その妻は、花が、好きだった」
(´・ω・`) 「いろんな花を知っていて、いろんな花言葉を知っていて」
( <●><●>) 「……警部」
部下の前でしたい話ではなかったな。
だけど、ミセリには、先に言っておきたかった。
(´・ω・`) 「塩見製菓ッて知ってる?」
ミセ*゚-゚)リ 「大福とか売ってるとこですよね」
.
- 387 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:33:22 ID:vj1roGtw0
-
(´・ω・`) 「これ、あそこの花飴ってやつなんだ」
(´・ω・`) 「お徳用のが、通販でしか売られてないんだけど」
(´・ω・`) 「いろんな花の味があるから、オススメしとくよ」
ミセ*゚-゚)リ 「…」
ミセリは、顔を俯けた。
ミセ* ー)リ 「……いい花言葉のがあったら、旦那の墓に備えとく」
(´・ω・`) 「マ、そこまで美味しくないけどね」
ミセ* ー)リ 「お、美味しくないんですか、コレ…!」
(´;ω;`) 「ぶひゃ、ひゃひゃ!」
.
- 388 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:33:45 ID:vj1roGtw0
-
そして、ミセリとはそこで別れた。
明言はされてないけど、おそらく彼女は、犯人に会うだろう。
すぐに、対策を進めておかないといけない。
暮れに、みんなを招集した。
眠気がすっかり取れたぎょろ目、
進展を前に俄然やる気になっているペニー、
冷静に大局をうかがっている壁、と。
それぞれが持ち寄った情報や推理で会議は長引いたが、
唯一、ワカッテマスだけは、口数が少なかった。
.
- 389 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:34:10 ID:vj1roGtw0
- 序幕 >>2-69
第一幕 >>82-211
第二幕 >>218-296
第三幕 >>304-388
- 390 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 22:55:38 ID:2bIoUUME0
- 乙
情報が集まってきたな
- 391 名前:名無しさん:2018/09/04(火) 23:01:22 ID:D2EwEJdw0
- 一気に進んできた
- 392 名前:名無しさん:2018/09/05(水) 00:05:03 ID:Pp0uLn8c0
- 乙です
- 393 名前:名無しさん:2018/09/05(水) 19:49:09 ID:dvb8WGGA0
- 乙
進んできたな
- 394 名前:名無しさん:2018/09/09(日) 23:51:16 ID:0jcXCX0o0
- 乙
- 395 名前:名無しさん:2018/09/13(木) 04:15:56 ID:32UxlRa20
- デミタス生きてたのか
- 396 名前:名無しさん:2018/09/15(土) 05:28:43 ID:FkYkPNxg0
- ひさびさに覗いたらイツワリ来てた…!
超乙!
一気に読み返してたら朝になっちまったよ
今後も期待してるぜ!
- 397 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:01:47 ID:T8wS26JU0
-
┏━─
五月六日 午後十二時三七分 ファミレス
─━┛
十年ほど前に、ヴィップ大学に存在したサークル。
インドア趣味を持つ内向的な人達で、アウトドアを楽しむために結成された。
芹澤ミセリに情報を聞き、翌日より詳細な捜査がはじまった。
もとよりペニーと壁は、各被害者の情報を集めるために奔走していた。
それらと並行してサークルに探りを入れることになるため、
時間と手数が要求される局面だったと言える。
犯人がミセリに要求した日時は、五月六日、十六時、ヴィップの滝公園。
会議の結果、現場に警備は配置しないことにした。
代わりに、私服に扮した警官を多数、呼び寄せることとなった。
これはぎょろ目の発案だった。
ワカッテマスは、人命がかかっているから強硬手段を取ろうと最後まで否定していた。
ペニーは逆に、数を集めた時のデメリットを嫌い、犯人とのタイマンを望んでいた。
.
- 398 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:02:21 ID:T8wS26JU0
-
争点となったのは、犯人の殺意の有無だ。
現状、全員が全員、あると睨んでいた。
しかし、あるにしては疑問点が浮かんだのも事実だった。
ずばり、予告ではない点にあった。
また、人目のつく公園が舞台、という点も怪しかった。
それまでの犯行手口と、まるで違うこと。
予告しないのであれば、ひっそりと殺せばいいだけのこと。
ワカッテマスはこれに、公園から人目のつかない場所、
それこそミセリ宅に上がりこむなどを懸念事項として挙げた。
抗ったのは、ぎょろ目だった。
そこまで人命を警戒するなら、そもそも接触を許すべきではない。
犯人を刺激せず、監視の目を行き渡らせるには、
警官に私服を着せ、一般市民に見せるのが一番効率的だ。
ワカッテマスもその点は認めていた、というのが最終的な決め手だった。
.
- 399 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:02:55 ID:T8wS26JU0
-
会議がひとまずの結論を導き出し、
明くる日より求められたのが、サークル人員の徹底的な洗い上げ。
流石、盛岡、というふたりの人物を調べなければならない。
場合によっては、片方が犯人、片方が次なる被害者、となり得る。
事態は急を要したが、盛岡という人物についてはすぐさまアプローチを仕掛けることが叶った。
(;´・_ゝ・`) 「……まさか」
(;´・_ゝ・`) 「こんな形で、再会することになるなんて」
(;´・ω・`) 「まったくだ…」
かつて、オオカミ鉄道がリリースした特急列車にて事件が起こった。
そこは特殊な密室となっていて、偶然、僕も乗り合わせていた。
盛岡、と名前を聞いた時は、まだピンと来ていなかった。
別段珍しくない名前だったためだ。
.
- 400 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:04:09 ID:T8wS26JU0
-
(;´・_ゝ・`) 「さ、最近……どうですか!」
(;´・ω・`) 「ぼちぼちだね……ウン、そうそう……」
あの時の密室にも。
盛岡という名前を持つ男が、乗り合わせていた。
盛岡。 オタク。
デミタスという名前を聞いた時、もしや、とは思ったのだ。
ヴィップ大学、在籍年代、名前。
個人を特定するには十分すぎるほどのデータが、あった。
そのため、当時の 「盛岡」 という人物を割り出すまでは容易かったのだが、
そのデータを警察で照会した時、想定外すぎるハプニングが起こった。
ヒットしたのだ。
この男は、過去に事件に関わったことが、あった。
ひょっとすると、そこから事件解決の糸口が。
と思ったところで、担当の事務員が、目を丸くして言ったのだ。
「イツワリさんが……扱った事件ですね……」
.
- 401 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:05:02 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「…」
(´・_ゝ・`) 「…」
不思議な心地に見舞われた。
このたびの、連続する事件。
かつて担当した、誘拐事件を彷彿とさせる。
続けて、かつて担当した、密室鉄道の関係者が現れた。
他方、本件の関係者であるミセリが、自分と似たような境遇にあるのだ。
デミタスに捜査協力を頼むと、快諾してくれた。
彼が連続予告殺人を知っていたのももちろんだが、
何より、彼が僕、ショボーンのことを知っていたのが大きかった。
(´・_ゝ・`) 「いまでも、たまに思い出すんですよ」
(´・ω・`) 「あの時の?」
(´・_ゝ・`) 「そそ」
(´・_ゝ・`) 「刑事さんは、そうでもないんですか」
(´・ω・`) 「……どうだろうね」
.
- 402 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:05:27 ID:T8wS26JU0
-
最初、デミタスは警戒していた。
犯人が、警察を装っておびき寄せようとしているかもしれない、と。
事件を知り、デミタスは、田舎に逃げていた。
ヴィップにいると殺されかねない、と思ったらしい。
しかし、話していると、互いに妙な違和感に包まれた。
デミタスが、もう一度お名前、よろしいですかと聞いたところで発覚したわけだ。
(´^_ゝ^`) 「ふーん……そんなもん、なんですかね」
(´・ω・`) 「妙に落ち着いてますね」
(´・_ゝ・`) 「そりゃあ」
デミタスの希望で、人の少ない落ち着ける場所で会うことになった。
結果が、ファミレスだった。
確かに、落ち着ける場所でこそあるが。
喫煙ルームの、一番端のテーブルである。
周りをついたてや壁が囲っている、個室のような印象のテーブルだった。
.
- 403 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:05:57 ID:T8wS26JU0
-
(´・_ゝ・`) 「目の前に、いますから」
(´^_ゝ^`) 「あの事件を、鮮やかに解決した…あの刑事さんが」
(;´・ω・`) 「そりゃあどうも」
すんなり話が聞けそうなのはありがたいことだが、
妙にくすぐったくて、嫌だ。
(´・ω・`) 「そうだな…」
(´・ω・`) 「最近、お仕事などは何を?」
(´^_ゝ^`) 「しがないフリーターですよ。 トホホ…」
(´・ω・`) 「というと」
(´・_ゝ・`) 「普段はコンビニで……たまに、日雇いで」
.
- 404 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:06:20 ID:T8wS26JU0
-
話しているうちに、当時の景色が脳裏をかすめていく。
確か、当時もこの男は、フリーターだった。
(´・ω・`) 「結構、厳しそうですね」
(´・_ゝ・`) 「まあ、将来なんてありませんが…」
(´^_ゝ^`) 「でも、自由に生きてる感じがして、楽しいですよ」
盛岡も、ミセリの話にあった通り、三十二だ。
独身で、定職にも就いていない。
しかし、とてもそうは思わせない楽観的な姿勢が窺える。
(´・ω・`) 「大学時代、例のサークルに参加してたんだって?」
(´・_ゝ・`) 「ですね。 ハイ。」
(´・_ゝ・`) 「ギコも、クックルも、セリっちも、ヒッキー氏も」
(´・_ゝ・`) 「全員、知ってますよ」
.
- 405 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:06:40 ID:T8wS26JU0
-
デミタスがサークルの一員であることは、疑う余地もなさそうだ。
実に流暢で、砕けた様子で話している。
(´・ω・`) 「確か、アウトドアサークル、だっけ」
、 、、 、、 、、
(´^_ゝ^`) 「リア充しようぜ!」
(´・_ゝ・`) 「が、合言葉のサークルですね」
(´・ω・`) 「リアジュウ?」
(´・_ゝ・`) 「リアル……現実を、充実させようッてこと」
(´・ω・`) 「なるほど」
インドアによるアウトドアサークル。
なるほど確かに、この男が言うと説得力がある。
(´・ω・`) 「じゃあ、あんたの趣味も、釣りとか旅行とか?」
(´^_ゝ^`) 「みんなでワイワイするのは、好きですよ」
(´・_ゝ・`) 「そこに、インかアウトかは関係ないです」
.
- 406 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:07:03 ID:T8wS26JU0
-
趣味、趣味か。
おぼろげだった記憶が、蘇ってくる。
盛岡デミタス、この男は確か、特殊な趣味をしていた。
なるべく触れたくはないが、事件のためだ。
(´・ω・`) 「確か、漫画…とか好きじゃなかったっけ?」
(´・_ゝ・`) 「そりゃあもう!」
(´・_ゝ・`) 「あの時も、刑事さんに見られたっけ」
(;´・ω・`) 「僕みたいな中年には、理解しかね……エット。」
(´^_ゝ^`) 「いいですよ、いいですよ」
(´^_ゝ^`) 「他人に理解されないッてのは、昔ッから、わかってます」
(´・_ゝ・`) 「だからこそ、わかる人らで、アウトドアしてたんですよ」
(´・ω・`) 「ほう」
.
- 407 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:07:44 ID:T8wS26JU0
-
内容がどんなものであれ。
趣味が合う人同士のアウトドアは、さぞかし楽しいことだろう。
そう考えると、インだろうがアウトだろうが、というのは説得力がある話だ。
(´・ω・`) 「となると、フッサール擬古やヒッキー小森も」
(´・ω・`) 「その……まあ、そんな趣味が共通していたんだね」
(´・_ゝ・`) 「ううん……ギコは違うかなァ」
(´・ω・`) 「あら」
デミタスは少し、言葉を濁した。
ギコは、か。
(´^_ゝ^`) 「ヒッキー氏、兄者氏とは盛り上がりましたよ」
(´・_ゝ・`) 「ただ、クックルとかギコは、そうでもなかった」
(´・ω・`) 「ギコって、どんな人だったの?」
.
- 408 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:08:28 ID:T8wS26JU0
-
(´・_ゝ・`) 「どんな……か。」
名は体を表す、とでも言うのだろうか。
デミタスは、コーヒーを好んで飲んでいた。
それも、これで三杯目、すべてブラックである。
平日の昼間に、若くはない男ふたりがコーヒーを飲んでいるんだ。
はたから見ても、別段違和感はないだろう。
マスコミの視線などは、一切なかった。
(´・_ゝ・`) 「クックルもだけど、兄者氏が誘った人だよ」
(´・_ゝ・`) 「学生ホールで、ひとりで本読んでたところに声をかけたらしい」
(´・ω・`) 「本、か」
(´^_ゝ^`) 「あ。 いかがわしい本じゃないよ」
(;´・ω・`) 「なんでもいいよ!」
.
- 409 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:08:54 ID:T8wS26JU0
-
(´・_ゝ・`) 「兄者氏はなァ」
(´・_ゝ・`) 「むちゃくちゃ、むちゃくちゃコミュ力高いんですよ」
(´・ω・`) 「コミュ力はわかるぞ。 コミュニケーション能力だ」
(´・_ゝ・`) 「はあ」
(´・_ゝ・`) 「セリっちとは、もう会ったんですか?」
(´・ω・`) 「むしろ、彼女からあんたのことを聞いたよ」
(´・_ゝ・`) 「え!なんて言ってましたか?」
(´・ω・`) 「や、名前しか聞いてないね…」
(´・_ゝ・`) 「そっか…」
デミタスも、部員とは仲良くしていたのだろう。
懐かしそうに、寂しそうに目を細めた。
.
- 410 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:09:25 ID:T8wS26JU0
-
(´・_ゝ・`) 「マ、いいや」
(´・_ゝ・`) 「あの子、パッと見、ばりばりなパリピ、陽キャじゃん」
(´・ω・`) ???
(´・_ゝ・`) 「オタクの集まりに、全然似つかわしくない」
(´・_ゝ・`) 「でも、兄者氏の勧誘で、入った」
(´・ω・`) 「その話は、聞いたな」
(´・ω・`) 「なんだかんだ、楽しかった、ッて」
(´^_ゝ^`) 「なんだかんだ……か」
(´・_ゝ・`) 「マ、それだけ、一緒にいて楽しい人なんだ」
オタク、というものに対しての嫌悪感は、強かった。
しかし察するに、彼女もデミタス同様馴染んでいたのだろう。
そして、それは部長の功績でもある。
.
- 411 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:09:58 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「当時の彼女は、どんな人だったんだい?」
(´・_ゝ・`) 「女王様、だね」
(´・ω・`) 「はァ?」
(´・_ゝ・`) 「最初は、むっちゃ距離置かれてたけど」
(´・_ゝ・`) 「気がついたら、野郎どもの背中を踏んで、ケラケラ笑ってたかな」
(;´・ω・`) 「それはそれは……」
(*´・_ゝ・`) 「あの子、すんごいドエスなの!」
(;´・ω・`) 「わかった、それはいいよ」
(;´^_ゝ^`) 「おっと……今の話は、ナイショでお願いしますね」
(´・ω・`) 「ハハハ」
誰がするか、こんな話。
.
- 412 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:10:49 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「で、同じサークルだったクックルと結婚したんだよね」
(´・_ゝ・`) 「それ、実は知らなかったんだよね」
(´・ω・`) 「え、まじ?」
(´・_ゝ・`) 「エット………」
(´^_ゝ^`) 「ああ、確かに付き合ってはいたな」
(´・ω・`) 「ゴールイン自体は、知らされてなかったんだ」
(´・_ゝ・`) 「マ、サークル終わってからは連絡もなかったしね」
(´・ω・`) 「うん……、……」
サークルが、終わってからか。
部長の卒業で自然消滅したのか、はたまた、違う理由か。
.
- 413 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:11:14 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「まあ、それはいいや」
(´・ω・`) 「サークルそのもの……について、聞かせてほしい」
(´・_ゝ・`) 「いいですよ。 どこから?」
どこから、か。
この調子だと、隠し事なしで教えてくれるだろうか。
ミセリは、どこか何かを言いあぐねている様子だった。
デミタスに、それはあるのだろうか。
(´・ω・`) 「そうだな」
(´・ω・`) 「まず、部員だ」
(´・ω・`) 「フッサール擬古、ヒッキー小森、クックル三階堂、芹澤ミセリ」
(´・ω・`) 「あんたと、部長の流石兄者……で全員なんだね?」
(´・_ゝ・`) 「…」
.
- 414 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:11:55 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「…?」
即答、しないのか。
ちょっと、嫌な予感がした。
(´・_ゝ・`) 「……」
(´・_ゝ・`) 「そうだ、ね。 ウン」
(´・_ゝ・`) 「その六人しかいないよ」
(´・ω・`) 「…」
何か、隠しているのか。
それとも、幽霊部員やすぐに辞めた人をカウントするか悩んだのか。
(´・ω・`) 「幽霊部員とかも、勘定してほしい」
(´・_ゝ・`) 「ヤ、そんなのはいなかったよ」
(´・ω・`) 「じゃあ、六人でウソじゃないんだな?」
(´^_ゝ^`) 「……………ウソじゃ、ないな」
.
- 415 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:12:42 ID:T8wS26JU0
-
嘘じゃない。
妙に引っかかる言い回しだ。
(´・ω・`) 「解散前に辞めた人とかは?」
(´・_ゝ・`) 「いや、それもないよ」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏がほんとうにコミュ強でね」
(´・_ゝ・`) 「在籍した人はみんな、楽しそうに活動に参加してたよ」
(´^_ゝ^`) 「なんだかんだ、ね」
(´・ω・`) 「……そう、か」
嘘を吐いている様子は、ない。
兄者がクチ達者だ、という話は何度も聞いた。
なんだかんだ、という言い回しも、ミセリを脳裏に浮かべての発言だろう。
だったら、今のわだかまりはなんだ。
幽霊部員も、辞めた人もいない。
ほんとうに六人なのか、語られざる七人目がいるのか。
.
- 416 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:13:24 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「……」
煙草をクチに加えた。
部長はどうやら愛煙家だったようで、
デミタスの前でもよく吸っていたらしい。
煙草に気遣わなくていいのは、ありがたい事だ。
(´・ω・`) 「何も、隠してはいないな?」
(´・_ゝ・`) 「どうしたんですか。 何か、あったの?」
(´‐ω‐`) 「ヤ……思いすぎだったらいいんだけどね」
っ “
( ´・ω・)y- 「ミセリもあんたも、何か含みのある言い方をするんだ」
(´・_ゝ・`) 「…」
( ´・ω・)y- 「人数……そう。」
( ´・ω・)y- 「人数だ」
( ´・ω・)y- 「その話をする時だけ、あんたらは、言葉を濁す」
.
- 417 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:14:06 ID:T8wS26JU0
-
(´・_ゝ・`) 「…」
(´・_ゝ・`) 「あんたら…セリっちも、だね」
( ´・ω・)y- 「忘れちゃダメだぜ、デミタスくん」
一発、オドシ、入れるか。
( ´・ω・)y- 「現状、容疑者は、部長かあんただ」
それは、オーバーに効いた。
デミタスは、飲んでいたコーヒーを、漫画みたいにぶちまけた。
( ;´゚_ゝ゚) ,;・’:
( ´・ω・)y-
(´・ω・`)y-
.
- 418 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:15:57 ID:T8wS26JU0
-
(;´・_ゝ・`) 「お、驚かさないでよ!」
(´・ω・`) 「こ、コーヒーを飲みながら聞くほうが悪い」
おしぼりで、テーブルを拭く。
スーツにまでかからなかったのは、せめてもの救いだ。
(´・_ゝ・`) 「そうか、容疑者、か」
(´・_ゝ・`) 「僕、こう見えて、アリバイはばっちりだと思うよ」
(´・ω・`) 「………ああ、そういえば」
事件を聞きつけて、田舎に逃げたんだっけか。
聞きつけて、なんだから、地下鉄殺人やホテル殺人ができたとしても、
デミタスが犯人なら、今日のミセリとの密会がネックとなる。
デミタスがヴィップに戻ってきたのは、
他でもない僕が呼び寄せたからだ。
.
- 419 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:16:50 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「となると、部長が?」
聞くと、デミタスは長考した。
引っかかったのは、もし何か隠し事をしているなら、
ここでその深層心理が現れるというのに、
(;´・_ゝ・`) 「あの人が……?」
(;´・_ゝ・`) 「………いや、でも……」
この長考に、含みはなさそうだったのだ。
もちろん、隠し事も込みで、僕の推量でしかないのだけど。
(´・ω・`) 「でも、消去法だと、部長になるぞ」
(´・ω・`) 「三人は既に殺されて、嫁にもアリバイはある」
(;´・_ゝ・`) 「です、よね…」
(;´・_ゝ・`) 「え、兄者氏が…?」
消去法、という言葉にも引っかからない。
もし七人目を隠しているなら、そこでまたリアクションがあるはずなのに。
.
- 420 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:18:03 ID:T8wS26JU0
-
(;´・_ゝ・`) 「いや、考えられない」
デミタスは、断言した。
(;´・_ゝ・`) 「え、でも、だったら誰が…?」
(´・ω・`) 「他に、候補、心当たりはいないの?」
(;´・_ゝ・`) 「いませんよ。 他に誰もいないんだから」
(´・ω・`) 「な……」
隠された七人目というのは、いなかったのか?
デミタスに、嘘を吐いている様子は一切見受けられない。
また、サークル外の犯行、というわけでもなさそうだ。
もとよりコミュニティ内の犯行だし、
当事者のデミタスも、まるで思いつかないでいる。
.
- 421 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:19:20 ID:T8wS26JU0
-
(;´・_ゝ・`) 「待って……怖くなってきた……」
(´・ω・`) 「落ち着いてほしい」
図太いように見えるデミタスが、動揺している。
知り合い、というのもあって油断していたが、奴も当事者の一人で、
それはすなわち、ターゲット候補の一人でもあるのだ。
(´・ω・`) 「あんたが求めるなら、警察はあんたを保護するし」
(´・ω・`) 「何より僕は、あの密室鉄道を、解決した男だぜ」
(´・_ゝ・`) 「…!」
.
- 422 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:19:41 ID:T8wS26JU0
-
自分で言っててなかなかに歯がゆかったが、デミタスには効いたようだ。
現場を共にしたんだ、説得力は折り紙つきだろう。
(´・_ゝ・`) 「……そうですね」
(´^_ゝ^`) 「それに、まだ、僕んとこには、予告とか来てないし」
(´・ω・`) 「万が一来たとしても、ゼッタイに、殺させない」
(´・_ゝ・`) 「ありがとう。 信じられるよ」
(´・ω・`) 「………」
確信した。
デミタスは、嘘は吐いていない。
この一連の流れで、犯人になり得る七人目を隠し通せているはずがない。
デミタスはどちらかと言えば不器用な男だ。
まして僕は、人がなにか偽ろうとするのを見抜くのが、得意だ。
その僕が確信するんだ、七人目はいないのだろう。
しかし、だとすると、犯人は部長、流石兄者となる。
.
- 423 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:20:58 ID:T8wS26JU0
-
いやに引っかかるのが、デミタスの反応だ。
部長の犯行は考えられない、と断言している。
ミセリの話と重ねてみても、なかなか人望のあった男だと聞く。
部長が犯人だったとして、どうして十年後になって犯行に及んだのかが説明つかない。
(´・_ゝ・`) 「……で」
(´・_ゝ・`) 「何を話せば、いいんでしたっけ」
(´・ω・`) 「ん。 そうだな…」
.
- 424 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:22:24 ID:T8wS26JU0
-
'_
(´・ω・`) 、
聞きたい話は、山ほどある。
デミタスは貴重な、まだ犯人が接触していない関係者だ。
先回りできているのは、大きなアドバンテージとなる。
加え、知り合いということもあり、
初対面だと話してもらえなさそなことも、聞き出せる。
(´・ω・`) 「失礼」
(´・_ゝ・`) 「どうぞ」
時間も限られている局面だ、
手短に、簡潔に、重要そうなことだけを聞かなければならない。
というのに、着信音が横やりを入れてきた。
誰だ、と思うと、少し嫌な予感がした。
ワカッテマスからかかってきたのだ。
.
- 425 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:23:45 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「僕だ」
ヤマを追っている時のワカッテマスからの着信は、
得てして不吉の前兆となっている。
その嫌な予感は、的中しそうだ。
ワカッテマスは少し、声が弾んでいた。
「芹澤ミセリの動向について、なにか聞かされていますか」
(´・ω・`) 「…どうした?」
(´・ω・`) 「僕は、なにも聞いてないけど」
「いま、彼女のアパートにいるのですが」
「インターホンの呼びかけに、一切応答しません」
(´・ω・`) 「………」
(´・ω・`) 「電話にも、か」
「それが…」
「コールすら、かかりません」
.
- 426 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:25:23 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「コールすら?」
「電波の届かないところにいるか、電源が切られているか…」
「とにかく、一切つながらないのです」
(´・ω・`) 「なに?」
'_
(´・_ゝ・`) 、
思わず、眉がつりあがった。
事前に、ミセリには電源は切らないよう忠告してある。
ミセリは、いつ、なんどき襲われるかわからない身だ。
そのため、電源が切れていたら緊急事態と判断する、と伝えた。
それは無論犯人の知らないやり取りである。
最近のスマホは、GPS機能で簡単に居場所を割り出せる。
近年の殺人犯は、それを警戒してスマホを破壊することが多いのだ。
.
- 427 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:26:53 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「大家に一報入れて、無理にでも部屋に入れ」
(´・ω・`) 「ぎょろ目には、僕から連絡入れておく」
「わかりました」
深刻な声色を最後に、電話は切られた。
不吉だ。
事前に約束してあるんだ、ミセリが電源を切るとは考えにくい。
もうひとつ不吉だったのは、
いま、現場にはぎょろ目しか控えていない。
ペニーと壁はいまは情報収集に回しているし、私服警官もまだ到着していないのだ。
(´・ω・`) 「もしもし、僕だ」
(´・ω・`) 「いま、公園か?」
ぎょろ目は、ワンコールで応答した。
事件中の奴は、電話にはワンコールで出るよう徹底している。
もし応じなかった場合は、なにかがあった、ということだ。
.
- 428 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:27:50 ID:T8wS26JU0
-
ぎょろ目は、散歩するふりをして、現場の地理を把握しているところだった。
不吉なものはまだ感じ取っていないのだろう、いつも通りの声だ。
(´・ω・`) 「ワカッテマスから、共有だ」
(´・ω・`) 「ミセリが、こちらの呼びかけに応答しない」
僕がワカッテマスから聞いた時と同様に、
奴も嫌なものを感じ取ったのか、一瞬声を詰まらせた。
(´・ω・`) 「インターホンには対応せず、電話もつながらない」
(´・ω・`) 「いま、ワカッテマスに部屋に乗り込むよう言ってある」
「つながらない、というのは、コールが続くということですか」
(´・ω・`) 「いや、コールすら鳴らない」
(´・ω・`) 「電源が切れただけか……破壊されたか。」
.
- 429 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:28:48 ID:T8wS26JU0
-
ぎょろ目が押し黙る。
さまざまなケースが考えられるのだ。
あれから犯人が、公園とは別の時間と場所を指定して、
ミセリが警察に共有せずに応じたケース。
あるいは、もう既に、殺されてしまったという可能性もある。
考えたくはないが。
(´・ω・`) 「そっちは、どうだ」
(´・ω・`) 「何か、変わった出来事は」
「現状、騒ぎなどは、特に」
と言いながら、断続的に息の弾む音が聞こえた。
公園内を、走って巡回しだしたのだろう。
(´・ω・`) 「なにかあったら、すぐ連絡しろ」
(´・ω・`) 「ワカッテマスからの連絡も、すぐに回す」
.
- 430 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:30:12 ID:T8wS26JU0
-
「わかりました」 とだけ残して、電話は切れた。
時刻は、まだ十三時だ。
アクションを起こすには、いささか早い気もする局面。
アパートには、ワカッテマスが。
公園には、ぎょろ目が先回りしたはずだったが。
既に、犯人に先手を打たれたのか?
しかし、犯人からのアクションがあったとして、
ミセリから連絡が入っていないのが妙だ。
連絡する間もなく、なにか事態に発展したのか。
だとすると、犯人はアパートに向かった可能性もある。
この上なく不吉で、不愉快だ。
(´・ω・`) 「……」
(´・_ゝ・`) 「何か、あったんですか」
(´・ω・`) 「ん。 ああ…」
.
- 431 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:31:29 ID:T8wS26JU0
-
ここは、公園からもアパートからも、やや離れた位置にある。
急行したところで、数十分のラグが発生する。
すぐに向かうべき、なのだろうか。
しかし、公園で何かあったとは考えにくいところでもある。
(´・_ゝ・`) 「セリっちが……いないんですか?」
(´・ω・`) 「うん」
(´・ω・`) 「電話も、つながらないらしい」
と言いながら、僕も電話をかける。
しかし、ワカッテマスの言っていたように、コールすらかからない。
急行準備だ。
コーヒーを飲み干して、目下優先すべきことを考える。
(;´・_ゝ・`) 「……まさか、もう…?」
(´・ω・`) 「ん」
(;´・_ゝ・`) 「殺され……たんですか?」
(´・ω・`) 「それは、わからない」
.
- 432 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:32:01 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「わからないけど…」
(´・ω・`) 「ひとまず、僕は戻ろうかと思う」
(;´・_ゝ・`) 「…」
さて。
悩むのは、デミタスをどうするか、だ。
デミタスを同行させるのは、容易い。
デミタスがそれを拒んでも、警察のほうで保護させればいいだけだ。
問題は、現場まで同行させるか、どうか。
デメリットは、言うまでもなく、犯人の目に晒すことになる点。
しかし裏を返せば、犯人もデミタスにその姿を晒すことになる、とも取れる。
サークルの内外問わず、当時の関係者がそこにいれば、
デミタスは、すぐに見つけることができるだろう。
この諸刃の剣は、警察側の数少ない武器だ。
取り扱いを誤れば、最悪の展開すら考えられる。
.
- 433 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:33:19 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「そこで、だ」
(´・ω・`) 「あんたも、連れていこうかと思う」
(;´・_ゝ・`) 「!」
(;´・_ゝ・`) 「………。」
押し黙るのは、自分も殺され得るから、に他ならない。
しかしすぐに拒まないのを見るに、奴もわかっているのだろう。
自分なら、犯人を見つけ出すことができる、と。
そうでなくても、デミタスを、近くに置いておきたいという気持ちが強い。
いつでも自ら保護に回れるし、
話をするのにこの近辺にいられちゃあ不都合だ。
(;´・_ゝ・`) 「………。」
(´・ω・`) 「拒むなら、強制はできないけどね」
.
- 434 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:34:27 ID:T8wS26JU0
-
(;´・_ゝ・`) 「………。」
(;´・_ゝ・`) 「……拒み……は、しないよ」
(´・ω・`) 「!」
違うのか。
来るかどうか、を悩んでいたのではないのか。
だとしたら、この沈黙はなんだ。
保護されるか、現場まで来るかを考えているのか、あるいは。
(;´・_ゝ・`)
(;´・_ゝ・`) 「……」
(´・ω・`) 「時間がもったいない、行くぞ」
(;´・_ゝ・`) 「……」
デミタスは、ちいさく頷いた。
.
- 435 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:35:13 ID:T8wS26JU0
-
覆面パトカーに乗り込んで、すぐに着信はきた。
ワカッテマスからだ。
ミセリの部屋に押し掛けたはいいが、
案の定、とでも言うべきなのか。
無人だったらしい。
また、部屋の様子からして、連れ去られたなどといったことでもないそうだ。
洗濯機がまわっていたり、照明がつきっぱなしでも、なく。
ミセリの意思で外出したであろうことは明白だった、と。
立会人の大家は、彼女がいつ頃出掛けたのか、はわからないらしい。
もとより、大家は彼女を監視していたわけでもない。
仕方ないこととはいえ、その情報がわかるだけでも助かったのだが。
アパートはワカッテマスに任せて、僕は公園に向かうことにした。
奴も、すぐに公園に向かうべきか聞いてきたが、
僕の指示で、先に軽く室内を漁らせることにした。
しかし、時間もない。
ワカッテマスの捜査能力は、高いとはいえ。
空回りする時間が惜しいのは言うまでもない。
奴が、どこを漁るべきか、指示を仰いでくる。
調べるべき、ものか。
.
- 436 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:35:42 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「書置きの類は、ないんだね?」
「真っ先に確認しました」
(´・ω・`) 「そうか……だったら。」
(´・ω・`) 「家から紛失している、」
(´・ω・`) 「凶器になり得る、なにか」
ワカッテマスが息を呑むのが窺えた。
「凶器になり得る…?」
(´・ω・`) 「考えても見ろ」
(´・ω・`) 「犯人に会いにいくッつーのは、つまり」
(´・ω・`) 「自分の夫を殺した野郎に会いにいく…ッてことだぞ」
.
- 437 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:36:55 ID:T8wS26JU0
-
ワカッテマスは黙った。
早足で室内を歩く音が聞こえる。
凶器になり得るもの。
若い女性なのだから、スタンガンの類を買っていてもおかしくない。
近頃では、一般向けの警棒もさまざまなものがあると聞く。
しかし、僕もワカッテマスも、真っ先に浮かんだものは違った。
一般人が、殺意を抱くときに携えるもの。
「ありました」
「いや なかった、と言えばいいのか……とにかく。」
(´・ω・`) 「……ひょっとして」
「包丁が、ひとつもありません」
.
- 438 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:38:07 ID:T8wS26JU0
-
(;´・ω・`) 「………」
確定した。
ミセリは、犯人に、会いに行った。
ここで、何も情報が上がらなければ、
買い物にでも行った矢先、うっかり充電が切れたか、落としたか、があり得た。
ただ、包丁のない家庭というのは、あり得ない。
包丁を持って出かけることも、あり得ない。
一般人が 「凶器」 と考えて、真っ先に思い浮かぶもの。
間違いなく、包丁だ。
(;´・ω・`) 「……部屋の捜査は、所轄に任せろ」
(;´・ω・`) 「令状はいらん、大家に立ち会わせておけ」
「なら、私は」
(;´・ω・`) 「公園だ」
(;´・ω・`) 「ヴィップの滝公園」
(;´・ω・`) 「応援要請は僕がしておく」
.
- 439 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:39:06 ID:T8wS26JU0
-
自然と、アクセルを踏む力も強くなる。
ハンドルを握る手に、汗が滲んできた。
彼女が、いつ、部屋を出たのかがわかれば。
それも、つい少し前、というのであれば、まだ事態を防ぐことはできる。
この上なく嫌な予感がしやがるのは、
電話がつながらない、ということだ。
犯人と会って、電話がつながらない事態に発展した。
その時点で、半分望み薄ではあった。
あり得るとするならば、
電話をかけようとして犯人に叩き落され、電話だけが壊れたケース。
あるいは、滝壺にでも水没したのか。
そのどちらも、状況を考えれば十分に考えられることだ。
そして、それを考えるのではなく、祈らなければならない。
.
- 440 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:39:26 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「…僕だ」
「はい」
すぐに、ぎょろ目にも共有だ。
僕の声色を察して、奴も声のトーンをひどく落とした。
(´・ω・`) 「要点は、ふたつ」
(´・ω・`) 「まず、ミセリは自宅にはいなかった」
(´・ω・`) 「もう一つ」
(´・ω・`) 「彼女は、包丁を持って出掛けている」
ぎょろ目は、何か言いかけたのを堪えて、舌打ちだけした。
おそらく、眉間にシワを寄せているだろう。
考えたくない事態が、発生したからだ。
警察への相談なしに、彼女は独断で、犯人と会いにいった。
しかし、だったらどうして、何時間も早い今に。
あるいは、もっと早くに。
.
- 441 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:40:30 ID:T8wS26JU0
-
考えるまでもなかった。
あれから、犯人との更なるやり取りがあったのだ。
それも、指定していた十六時よりも、早くの合流。
早くする理由は、警察を撒く以外に考えづらい。
しかしそれは、ミセリが提案したことかもしれない。
警察の介入なく、真剣な話をしたく思ったかもしれないのだ。
(´・ω・`) 「所轄もすぐさま配置させる」
当初、警官を配置するのは控えておくつもりだった。
ただ、事態が事態だ。
リスクなど考えていられる余裕はない。
ここまできたら、ぎょろ目もワカッテマスも、反対しようとしなかった。
むしろ、一刻も早く、一人でも多くの応援を求める。
(´・ω・`) 「あんたは、とにかく写真を持って聞き込みに回れ」
(´・ω・`) 「身分も明かして構わん」
.
- 442 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:40:56 ID:T8wS26JU0
-
こうなると、兎にも角にも時間が惜しい。
言うだけ言って電話を切り、僕もパトランプを装着した。
サイレンを鳴らしながら、無線機を握る。
(´・ω・`) 「こちら、捜査一課ショボーン」
(´・ω・`) 「至急、ヴィップの滝公園に応援を要請する」
頬を、汗が伝う。
思わず、僕まで眉をしかめてしまう。
これでも、捜査一課の警部だ。
ヴィップの警官にはだいたい名が知られている。
そんな僕が、急遽応援を要請するのだ、
公園に近い署から順に、現場に到着するだろう。
懸念事項があるとすれば、ヴィップの滝公園が現場である可能性だ。
最初の指示は、滝公園だった。
しかし、後日再度やり取りがあった時に、指定場所が変わっているかもしれない。
.
- 443 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:42:05 ID:T8wS26JU0
-
となると、いよいよ犯人に出し抜かれることになる。
重要なのは、そもそもどうして、犯人はヴィップの滝公園に呼び出したのか。
犯人が言っていたことは、要は以下の二点。
自首しようと思う。
その前に、ふたりで話がしたい。
殺すつもりであることも、公園側への殺人予告もない。
犯人の意図が、ここにきて汲み取れなくなっている。
再三話し合ったが、やはりミセリを殺すつもりだろうという見解は変わらない。
ここで、犯人が隠し持つ殺意と、ミセリへの電話内容が食い違う。
この食い違いも加味するとなると、
犯人は、その殺意が気づかれないようにミセリを殺す必要があるわけだ。
そして、その要素が滝公園に
含まれている点から先回りして、推理を進めなければならない。
.
- 444 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:43:09 ID:T8wS26JU0
-
滝公園は、地元民には知られている名所であり
一ヴィップ民である僕も、当然よく知っている。
しかし、あそこに、その要素はあるのか。
滝公園にあるものは、広場、自然、出店、そして滝。
滝がある以上、滝壺はあり、そこから園内を巡る川もある。
真っ先に思い浮かぶのは、溺死だが。
溺死か。
溺死の線は、薄くはない。
場所を滝公園に指定した時点で犯人側に殺意があった場合、
犯人側は、どうにかして足のつかないような殺人方法を用意する。
その点、溺死は、指紋を残さず、凶器も必要としない点で優秀だ。
逆に、即死という概念がない以上、時間と手間がかかる。
ミセリは細腕の女性だ、難しくはなかろうが、抵抗が懸念される。
その過程で水を浴びてしまうと、そこから足がつく可能性もある。
.
- 445 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:44:21 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「…」
(;´・ω・`) 「クソッ!」
考えが、いまいちまとまらない。
犯人は目の前まで迫っているのに、未だに、霞がかっている。
近年、時代の流れか、覆面パトカーも全車禁煙にすべきだ、と言われている。
だが、この際そんなものはどうでもいい。
煙草のフィルターを噛み、乱暴に火をつけた。
思いっきり吸い込む。
一気に一センチほど燃焼した。
(;´・ω・`) 「考えろ…」
(;´・ω・`) 「考えろ…」
現時点での武器は、ずばりぎょろ目が現場に既にいる、ということ。
奴を使えば、あるいは犯人を確保できるかもしれないし、
そもそも殺人そのものを未然に防げるかもしれない。
.
- 446 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:44:58 ID:T8wS26JU0
-
東風ミルナという刑事の容姿が、脳裏に浮かぶ。
白髪が目立ってきた、渋い古風な刑事だ。
僕以上のキャリアを持ち、あらゆる能力はワカッテマスに負けるとも劣らない。
老いてもなお頭は冴えているし、現場から証拠を取りこぼすことはないのだ。
ただひとつ弱点が、鋭い推理力が備わっていない。
僕が、奴を差し置いて警部に成り上がっているのも、
僕自身の功績以外に、奴自身が上に立つのを嫌った背景がある。
捜査スキルが高い。
上に立ち、下を巧みに操る技術にも長けている。
情報を一から七、八にするのは得手だし、
七、八ある情報から事件を解決するのも得手だ。
ただ、一しかない情報、
あるいはまったくのゼロから、ロジックを構築できない。
そして現況、情報は一、二程度しかない。
ミセリが共有してくれた、犯人とのやり取り。
加え、犯人の思惑の矛盾と現場状況の照らし合わせくらいか。
だとすると。 、 、
聞き込みと並行して奴に見てもらうべきものは?
.
- 447 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:45:20 ID:T8wS26JU0
-
、
(;´・ω・`) 「 水かッ! 」
すぐさま電話を手に取る。
既に、答えは出していた。
犯人は、水を利用した犯行を企んでいた可能性が否定できない。
それが溺死なのか、あるいは滝の上からの転落死か。
どちらにせよ、関わってくるのは水である。
滝の上か、その先の滝壺か、滝壺から続く川か。
ぎょろ目は走りながら電話にすぐさま応じた。
(;´・ω・`) 「現況ッ」
「今のところヒットなしッ」
(;´・ω・`) 「オーケー」
(;´・ω・`) 「聞き込みは、滝から末端の川までを沿うようにしてくれ!」
.
- 448 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:45:46 ID:T8wS26JU0
-
ぎょろ目は、意図を汲み取り損ねたのか、一瞬黙った。
だが、すぐさま頷いて電話を切った。
滝公園の、園内を渡る川は、一本だけだ。
幅数メートルある大きなもので、丁寧な装飾が施されている。
川近辺に人は集まりやすい。
文明の発展においても、観光名所においてもだ。
(;´・ω・`) 「間に合ってくれよ……」
万が一を考え、覆面パトカーで来ていてよかった。
パトカーなら、多少は法定速度を無視しても咎められない。
もっとも、法を破るものを追うのに法に縛られるのは本末転倒と思わなくもないが。
アクセルを深く踏んで、信号も無視して、とにかく前へ。
あと十分ほどで、公園が見えてくる。
.
- 449 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:46:10 ID:T8wS26JU0
-
(;´・ω・`) 「!」
こちらからかけてばかりだった電話が、震えた。
ワカッテマスではない。
ぎょろ目からだ。
(;´・ω・`) 「僕だ」
「目撃証言ッ」
(´・ω・`) 「ッ!」
「少し前に、滝壺になにか大きなものが落ちた音がしたッ」
「鯉が跳ねたにしては大袈裟すぎたと、市民が証言ッ」
(;´・ω・`)
全身に、悪寒が走った。
滝壺に、大きなものが落ちた音がした。
鯉が跳ねた程度ではない音。
.
- 450 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:46:39 ID:T8wS26JU0
-
(;´・ω・`) 「 いつ頃だッ!」
「五分か、十分か前、とのこと」
(;´・ω・`) 「沈んだのか? 流されたのか?」
「これより検証、しばらく応答できませんッ」
(;´・ω・`) 「…!」
これより検証?
何を言っている?
(;´・ω・`) 「わかった、川下のほうに向かっていけ!」
(;´・ω・`) 「僕もすぐにそっちに着く!」
がちゃがちゃ、と何かを外すような音が聞こえてきた。
茂みにいるであろう音も併せて聞こえてくる。
検証、か。
鉄砲などを外して茂みに隠し、滝壺に潜るつもりか。
.
- 451 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:47:10 ID:T8wS26JU0
-
(;´・ω・`) 「 ………。」
これが、ぎょろ目の強さだった。
夏に向かっているとはいえ、まだ暑くはない気候。
歳も増すばかりで、冷水に飛び込むのは危険も伴う。
それでも、躊躇などなしに、その程度のことをやってのける男なのだ。
(;´・ω・`) 「………」
(;´‐ω‐`) 「……」
拳を、強く握りしめた。
僕のまわりには、優秀な刑事が集まっている。
日頃は、どこか気の抜けた連中ばかりだが
それが今この瞬間、この上なく心強く思えた。
(´・ω・`) 「飛ばすぞ」
(;´・_ゝ・`) 「…え?」
(´・ω・`) 「ケーサツには、黙っててくれよ」
.
- 452 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:48:02 ID:T8wS26JU0
-
┏━─
午後十三時二二分 ヴィップの滝公園
─━┛
現場には既に、第一群が到着していた。
ここから一番近い所轄だ。
とても、まだ事件が発覚したとは思えない情景だった。
連続予告殺人を扱うこの僕が、要請をかけたんだ。
これで僕の推理が外れていた場合、始末書程度では済まないだろう。
だが、ある種の確信はあった。
死亡したかどうかは、定かではない。
しかし、確実に、既にここでミセリは犯人と接触している。
ミセリは、滝壺に突き落とされたのだ。
それが五分、十分程度だったなら、存命の確率はまだ十分にある。
ぎょろ目が、すぐさまミセリを救い出せるかどうか、が鍵だ。
.
- 453 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:48:43 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「半分は滝の上、半分は川沿いを南に」
(´・ω・`) 「聞き込み、調査に分かれて迅速にかかれ」
所轄の陣頭指揮を執る。
サイレンの音を聞きつけたのだろう、パトカーを降りた瞬間所轄に出迎えられた。
僕の指示に一切疑問を持つことなく、言われるがまま警官たちは分かれた。
(´・ω・`) 「そこのキミ」
警官 「はッ はい!」
'_
(;´・_ゝ・`) 、
(´・ω・`) 「彼は、重要参考人だ」
(´・ω・`) 「一緒にパトカーに乗って、保護しておけ」
警官 「わかりました!」
(;´・_ゝ・`) 「…刑事さん」
.
- 454 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:49:26 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「さて…」
僕はすぐに、滝壺に向かう。
周囲を見渡すと、ぎょろ目が置いていったのであろう拳銃などが茂みに隠されてあった。
となると、ここから池に飛び込んでいる。
少し、滝壺の様子を見る。
しかし、ここに潜っている気配はない。
川下に向かって、警官に遅れる形で走り出す。
滝壺に潜っていない、ということは、ミセリは沈まず、流されている、ということ。
そこまで人は多くないが、
それでも公園に訪れていた人たちの好奇の視線が突き刺さる。
聞き込み担当の警官が、そんな彼らに声をかけていく。
目立っているのは、かえって好都合だろう。
既にミセリは犯人から離れている。
今更我々の存在が犯人に知られようが、関係ない。
騒ぎを聞きつけた野次馬たちが、少しずつ顔を出す。
彼らを逃さず、所轄が捕まえていく。
近隣の所轄に片っ端から応援をかけたのは正解だったようで、
捜査の取りこぼしの心配はなさそうだった。
.
- 455 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:49:50 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「!」
'_
(;゚д゚) 、
(´・ω・`) 「おいッ!」
ある程度走っていると、川べりにぎょろ目が上がっていた。
全身ずぶ濡れで、僕の声に応じて奴も振り返った。
(;゚д゚) 「イツワリさん!」
(´・ω・`) 「ミセリは!」
(;゚д゚) 「それが……妙なのです」
(´・ω・`) 「妙…?」
少しずつ溜まりつつある不吉な予感が、形を成していくのがわかる。
ぎょろ目は、からだを拭おうともせず、続けた。
(;゚д゚) 「滝壺から、ここまで泳いで見渡してきましたが」
(;゚д゚) 「ミセリは、どこにも見受けられません」
.
- 456 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:50:41 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「……ッ」
(;゚д゚) 「ひょっとして、滝壺の音、というのは勘違いでは……」
(´・ω・`) 「いや、そんなはずは……」
犯人の思惑と、現場の状況。
照らし合わせる限り、溺死、転落死が濃厚だ。
そして、鯉が跳ねたとは思えないような、音。
音、しか証言されていないのがポイントなのだ。
つまり、証人はそのシーンを 「見て」 はいない。
現場を見ていない証人が、思わず証言するような音。
それだけ大きな音を鳴らすものなど、
現状、ミセリが突き落とされた以外には考えづらい。
(;゚д゚) 「しかし」
(;゚д゚) 「自然に流されているならば、既に追いついています」
(´・ω・`) 「どこかに引っかかった、とかは…」
(;゚д゚) 「そんなもの、見落としません」
.
- 457 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:51:21 ID:T8wS26JU0
-
見落とさない。
ぎょろ目が言うと、信じるしかない言葉だった。
となると、どういうことだ。
その時の音、はなんだったのか。
(;゚д゚) 「むろん、滝壺には粗大ゴミの類もありませんでした」
(;゚д゚) 「と、言うより……」
、 、、 、 、、、 、 、 、 、 、 、、 、 、
(;゚д゚) 「なにも落とされた形跡がありません」
(;´・ω・`) 「なんだって…?」
刑事に驚き、ただ鯉が跳ねただけの音を、過剰に勘違いしてしまったのか。
大きなものが落ちた時の音と鯉が跳ねる音は、比較にならないぞ。
人間は、そんなに大きな勘違いをしかねないとでも言うのか。
滝公園の水は、底のほうは泥でよどんでいるものの、
上の方は澄んでいる、奴が見落としたりする要素はない。
(;゚д゚) 「……あった、とすれば」
(;>д゚) 「 え、ぶえっくしょん!」
.
- 458 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:52:02 ID:T8wS26JU0
-
ぎょろ目は、盛大なくしゃみをした。
思わずシャツを脱ぎ、はたいて水を切りだす。
(´・ω・`) 「……風邪は、引くなよ」
(´・ω・`) 「今はあんたが頼りだ」
(;゚д゚) 「失礼」
(´・ω・`) 「で」
(´・ω・`) 「あったとすれば?」
(;゚д゚) 「ゴミ……が浮かんでいた、程度」
(´・ω・`) 「ゴミ? ゴミくらい普通に……」
(´・ω・`) 「……いや。 確かに、妙だな」
(;゚д゚) 「はい」
(;゚д゚) 「この公園は、ゴミのポイ捨てにはやたら厳しいです」
.
- 459 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:52:27 ID:T8wS26JU0
-
ヴィップの名所ともされている、ヴィップの滝公園。
環境美化にとことん拘っている公園で、
川にペットボトルなどが浮かんでいることは、ほぼない。
市民も、この公園には誇りを持っているのだ。
ゴミを捨てようと考える人も、少ない。
(´・ω・`) 「なにがあったの?」
(;゚д゚) 「何かの包み……でしょうか?」
(;゚д゚) 「一応、拾っておいた程度ですが……」
ぎょろ目は、ポケットからそれを取り出した。
紫色の包みで、花がプリントされている。
(´・ω・`) 「…………アネモネ」
.
- 460 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:53:37 ID:T8wS26JU0
-
(;゚д゚) 「?」
(;゚д゚) 「アネモネ……って、この花、ですか?」
(;´・ω・`) 「おい!」
(;´・ω・`) 「これ……どこにあった!」
思わず、声を張ってしまう。
ぎょろ目はキョトンとしたまま、落ち着いて答えた。
(;゚д゚) 「滝壺の、ど真ん中にあったんです」
(;゚д゚) 「ただのポイ捨てにしては、いささか不自然な……」
.
- 461 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:54:19 ID:T8wS26JU0
-
(;´・ω・`) 「滝壺に戻るぞ!!」
(;´・ω・`) 「それはミセリの遺留品だ!!」
(;゚д゚) 「な……」
言い放って、一直線で駆け出す。
ぎょろ目も、シャツを羽織りながらついてくる。
(;゚д゚) 「何を根拠に!」
(;゚д゚) 「ミセリ宅に、似たようなものが?」
、 、 、 、 、、 、 、 、、 、
(;´・ω・`) 「それは僕があげたものだ!」
と言いながら、僕もポケットに忍ばせていたキャンディーをひとつ取り出す。
花がプリントされた、シンプルな包装。
間違いなく、僕が喫茶店で彼女に渡した、アネモネの飴だ。
.
- 462 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:55:39 ID:T8wS26JU0
-
(;゚д゚) 「 本当ですか!?」
(;゚д゚) 「たまたま同じもの、では…」
(;´・ω・`) 「それは、通販でしか売られてないキャンディーなんだ!」
(;´・ω・`) 「そこらにありふれてる物じゃない!」
塩見製菓にて、お徳用のみが、通販限定で売られている 「花飴」 。
この期に及んで、偶然捨てられていた、などあり得ない。
(;´・ω・`) 「ミセリは、確かに!」
(;´・ω・`) 「滝壺に、落とされたんだ!」
.
- 463 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:56:01 ID:T8wS26JU0
-
(;゚д゚) 「じゃあ、ミセリはどこに!」
(;´・ω・`) 「犯人が掬い上げたわけはない!」
(;´・ω・`) 「沈んでも、流されてもないなら、滝の下だ!」
(;゚д゚) 「 なッ …。」
物理学には、疎い。
しかし、消去法で考えるなら、可能性があるのは、ひとつ。
滝の下だ。
滝が作り出す水流が渦を巻いて、
落とされたミセリを、その水流が落水地点まで運んだなら。
落水地点なら、ぎょろ目の眼をもってしてもミセリを見つけ出すのは難しい。
だからといって近くまで泳いで確認することもできない。
考えられない話ではあるが、滝の下以外にミセリが姿を消す場所など、ないのだ。
.
- 464 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:56:43 ID:T8wS26JU0
-
滝壺まで戻る。
滝の下など、どう潜ればいいのだ。
(;´・ω・`) 「さて、」
( ゚д゚) 「は?」
とにかく、潜るしかない。
そう思ったが、その前に。
(´・ω・`) 「どうした?」
( ゚д゚) 「…」
(;゚д゚) 「………え? え?」
(´・ω・`) 「おい! どうしたんだ!」
ぎょろ目が、明らかに異変を見せた。
滝壺、ではない、上の方を見て、目を何度も擦っていた。
.
- 465 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:57:03 ID:T8wS26JU0
-
(;´・ω・`) 「滝…?」
(;゚д゚)
(;゚д゚) 「………い、イツワリさん」
(;゚д゚) 「上のほう」
(;゚д゚) 「なんか、いませんか?」
(´・ω・`) 「う…上?」
僕が目をやったよりも、もっと上。
ぎょろ目は、滝口のほうを指さした。
(;゚д゚) 「なんか、何か、が…」
(;゚д゚) 「上へ、上へ…」
(;゚д゚) 「滝を、登って、いるような…」
.
- 466 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:58:00 ID:T8wS26JU0
-
(´・ω・`) 「え」
水飛沫で、よく見えない。
しかし、確かに、なんか、何かが。
上へ、上へ、滝を登っているようなものは見える。
なるほど確かに、これは目を擦る。
目を細めて、その何かを、見る。
(´・ω・`)
(´・ω・`) 「……あ」
見えた。
服装は違うし、髪形も崩れてはいるが。
ミセ:::-:)リ
.
- 467 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:58:47 ID:T8wS26JU0
-
( ;´゚ω゚) 「 なああああああアアアアアアアアアアアッッ!?!?」
芹澤ミセリが、こちらを見ながら。
まるで、昇天するように、滝を、登っていた。
.
- 468 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:59:19 ID:T8wS26JU0
-
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第四幕 「 滝登り 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;:::::::::::::::// l:::::::l
.
- 469 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 03:59:45 ID:T8wS26JU0
- 序幕 >>2-69
第一幕 >>82-211
第二幕 >>218-296
第三幕 >>304-388
第四幕 >>398-468
- 470 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 06:58:10 ID:yBpu.qtE0
- ミセリは鯉か?
人数とか諸々気になるな……乙
- 471 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 08:41:49 ID:1p5ES8NU0
- 一向に解決に向かわないこの状況…支援!
- 472 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 10:42:23 ID:wLEeQYaw0
- どういうことぜよ…
- 473 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 15:47:22 ID:ZR.gt21w0
- 乙
なんかすげえことになってんぜ、続き期待してます
- 474 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 16:25:01 ID:bEAFNA7g0
- 首でも釣られているんかね
- 475 名前:名無しさん:2018/09/20(木) 18:59:37 ID:eCv6Pbms0
- どういうこった…
乙
- 476 名前:名無しさん:2018/09/21(金) 01:18:12 ID:UVCLjSoo0
- よーっやく読み返し終えて追いついたぜ乙
にしても全く解決の糸口が見えてこないな・・・どうなるんだ・・・
- 477 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:36:11 ID:BblhGUlY0
-
┏━─
五月六日 午後十三時五二分 ヴィップの滝公園
─━┛
(;´・ω・`) 「こちらショボーン!」
(;´・ω・`) 「女がひとり、滝を登っている!」
( ;´゚ω゚) 「 ジョークじゃねえんだ!!すぐ保護しろ!!」
(;゚д゚) 「言っても無駄だ!はやく向かいましょう!」
言って、ぎょろ目は走り出した。
滝の上は、多少の石畳こそあるものの、
一般人の立ち入りが想定されたものではない。
公園の管理団体が、暫定で取り付けたものなのだ。
入り組んだ茂みを抜け、その石畳を駆け上っていく。
滝の上へと続く道、いわゆる 「裏」 に市民は、誰一人としていない。
警官が捜査している程度である。
.
- 478 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:36:31 ID:BblhGUlY0
-
いちいち連中に説明するのも、手間がかかる。
警戒を強化しろ、とだけ伝え、僕とぎょろ目は、上へ、上へと進む。
滝口、つまりはダムの頂点だ。
出来損ないのダムは、明らかに整備がされていなかった。
警官が数人、捜査している。
連中には、まだ詳細なことを伝えていない。
とにかく、めぼしいものはかき集めろ、と言ってある。
それがゴミであっても、足跡でも、なんでも。
ひょんなものが、決定的な証拠になることも、多々ある。
(;´・ω・`) 「……」
ぎょろ目が、たまたま見つけた、不自然な包装。
これこそまさに、ひょんな、決定的な証拠だった。
(;´・ω・`) 「……」
アネモネ。
紫のそれは、あなたを信じて待つ、という花言葉がある。
.
- 479 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:37:05 ID:BblhGUlY0
-
ほんとうは、ミセリを信じて待つ、というつもりで渡したものだった。
皮肉にも、ミセリが僕を信じて待つ、という意味になるとは思いもしなかった。
(;゚д゚) 「イツワリさん!」
(´・ω・`) 「どうした!」
ぎょろ目は、滝上の茂みのほうにいた。
大急ぎで手をこまねいている。
(;゚д゚) 「これ………見てください」
(´・ω・`) 「なんだ…コレ」
ぎょろ目は、何やら大きい機械を指さして言った。
漁獲船にありそうな、網を引くローラーだ。
それが、カリカリと音を立てて稼働している。
(´・ω・`) 「……」
(;´・ω・`) 「ッ! そういうことか!」
.
- 480 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:37:34 ID:BblhGUlY0
-
互いに合点がいったようで、無言で示し合わせて、
そのローラーが巻いているロープを引く。
ロープは滝口、その下まで伸びている。
となれば、簡単な話だった。
ミセリは、これに縛られて、滝を逆流しているのだ。
(;´・ω・`) 「クソッ!!」
かなりの重量がある。
ミセリやロープ自体は、重くないだろう。
ただ、ミセリは、滝をまともに受けているのだ。
その分の重量が、ロープに重く圧し掛かっている。
男ふたりで引いても、まるで手ごたえがなく感じられる。
(;゚д゚) 「おい! お前らも来い!」
.
- 481 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:37:57 ID:BblhGUlY0
-
ぎょろ目が、大声で周囲の警官を呼び寄せる。
もとより厳つい刑事だ、恫喝されて半ば怯えながら駆けつけてきた。
全員で力をあわせて、ロープを引っ張る。
少しすると、まるで大物でも釣り上げたかのように、ロープが緩んだ。
全員が反動で後ろに倒れる。
滝口から、ミセリがこちらに向かって飛び込んできた。
(;゚д゚) 「おい!!意識はあるか!!」
すぐに対応したのは、ぎょろ目だった。
ミセリをすぐに抱きかかえて、首にかかっていたロープを外す。
奴は間髪入れず、全身を揺らしながら、大きな声をかけた。
時折、呼吸や心拍音を確認する。
しかし、一向にぎょろ目の顔色は変わらない。
むしろ、悪くなっていく一方だ。
(´・ω・`) 「代われ」
.
- 482 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:38:18 ID:BblhGUlY0
-
ぎょろ目が、困ったような顔を浮かべながら、僕に場所を譲る。
その場にしゃがみ込み、検視に入った。
検視、といっても器具などは一切持ち合わせていない。
ただ、どう死亡したかは、判断できる。
(´・ω・`) 「…」
体温は、恐ろしく低い。
水に浸かり、滝に打たれたためだろう。
脈、心拍音、呼吸、そのすべてがない。
死後硬直は見られない。
あらかじめ殺し、滝壺に落としたわけではなさそうだ。
また、水をほとんど飲みこんでいない。
溺死でも、ない。
もしや、と思い眼をうかがうと、溢血点が確認された。
首元にも索条痕が残っている以上、絞殺が疑わしい。
滝を登った時にできたものの可能性もあるため、断言はできないものの。
とにかく、芹澤ミセリは、殺害された。
疑いようのない事実だった。
.
- 483 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:38:40 ID:BblhGUlY0
-
(´・ω・`) 「……五月六日、十四時十二分」
(´・ω・`) 「芹澤ミセリの死亡を確認」
(;゚д゚) 「ッ!」
がばッとぎょろ目が屈み込んだ。
僕が眼を見たのと同様に、ぎょろ目もそれを確認した。
(;゚д゚) 「…」
(;゚д゚) 「これ、は…」
(´・ω・`) 「溢血点。 おそらく、絞殺だ」
ぎょろ目は、僕ほど検視の知識はない。
溢血点は、絞殺された時に、眼球に現れるちいさな点だ。
この時点で、首を絞められ殺されたのは明らかとなる。
駆け寄った警官が、なりふり構わず写真を撮ったり、現場状況を確認し始めた。
手際がいいのはよろしいことだが、今はそっとしておいてほしい気もした。
(´・ω・`) 「ただ、殺されてまだ浅いぞ」
(´・ω・`) 「近辺に犯人がいる可能性は、高い」
.
- 484 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:40:51 ID:BblhGUlY0
-
(#゚д゚) 「まだ来てない所轄も呼べ!」
(#゚д゚) 「周囲を、徹底的に囲うんだ!」
ぎょろ目の恫喝に、警官たちが畏縮する。
全身が濡れたままの老体とは思えない、怒声だった。
(´・ω・`) 「…」
ミセ:::-::)リ
(´・ω・`) 「…」
その間、僕はそっと、ミセリの顔を見つめた。
死んだとは思えない、静かな寝顔だ。
花飴の包装を、見る。
あなたを信じて待つ。
もう少し早く、この包装の存在を知れたら、あるいは生還させられたのだろうか。
(´・ω・`) 「…」
(´・ω・`) 「くそ」
.
- 485 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:41:26 ID:BblhGUlY0
-
地面を、強く殴る。
防ぐことは、できなかったのだろうか。
ワカッテマスの言う通り、無理にでも保護すればよかったのだろうか。
人命を軽んじたつもりは、ない。
ないが、今回は、自分の判断ミスが生んだ結果にしか思えなかった。
( ゚д゚) 「……イツワリさん」
ミセリの顔にハンカチを載せて、言った。
感情的になりそうな自分を、なだめるような声だった。
( ゚д゚) 「陣頭指揮は、自分に任せてください」
( ゚д゚) 「まだ、事件は終わってないんです」
(´・ω・`) 「…」
奴ほど、捜査を任せて安心できる男はいない。
短くない警部人生で、幾度となく痛感させられてきたことだ。
.
- 486 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:42:03 ID:BblhGUlY0
-
( ゚д゚) 「盛岡デミタス、流石兄者」
( ゚д゚) 「残るは、ふたり」
( ゚д゚) 「つまり、少なくともあと一度、事件が起こる可能性が、あるんです」
僕に、はやく次のステップに進め、と言っているのだろう。
ただ、ひとつ、いやに引っかかることがあった。
(´・ω・`) 「……流石兄者」
( ゚д゚) 「?」
(´・ω・`) 「至急、奴にコンタクトを取る必要がある」
(´・ω・`) 「まだ、ペニー達は洗い出せてないのか?」
( ゚д゚) 「自分は、聞いてないですが」
.
- 487 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:42:29 ID:BblhGUlY0
-
( ゚д゚) 「盛岡のほうは、どうだったんです」
( ゚д゚) 「確か、先ほどまで、警部が対応していましたよね」
(´・ω・`) 「ああ」
(´・ω・`) 「パトカーで保護させてるよ」
( ゚д゚) 「…パトカー」
(;゚д゚) 「パトカー!? そこのですか!?」
急な出来事だったので、デミタスをここまで連れてくる運びとなった。
危険だから、と警官をひとり、配置させている。
それも、僕が適当な奴を捕まえて指示したことだ。
(´・ω・`) 「この瞬間、盛岡デミタスには、完全なアリバイができた」
(´・ω・`) 「警察が、じきじきに奴のアリバイを立証している」
.
- 488 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:42:49 ID:BblhGUlY0
-
(;゚д゚) 「と、なると…」
(´・ω・`) 「流石兄者だ」
(´・ω・`) 「現状、犯人たりうるのは、奴しかいない」
流石兄者。
現在、三十四歳だろうか。
ヴィップ大学在籍時の情報は得られたが、
盛岡デミタスと違い、未だに奴は捕捉できていない。
立ち上がって、ミセリに合掌一礼。
呆然とするぎょろ目の背中に、一発平手を叩き込む。
(´・ω・`) 「頼んだぜ、先輩」
(´・ω・`) 「こっちは、任せろ」
(;゚д゚) 「……」
.
- 489 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:43:19 ID:BblhGUlY0
-
(;>д゚) 「 ぶえッくし!」
(´・ω・`) 「ぶっ」
強く背中を叩いたからか、えらく情けないくしゃみをした。
先ほどまでの沈着な態度はどこに行ったのか、気まずそうに鼻をすする。
(´・ω・`) 「なりふり構わず泳ぐからだ」
( ゚д゚) 「……歳は、いやですね」
(´・ω・`) 「まったくだ」
( ゚д゚) 「……すみません、鼻かみ、ありますか」
(´・ω・`) 「鼻かみ?」
( ゚д゚) 「ポケットに入れっぱなしで、濡れてしまって……」
(´;ω;`) 「……ぶひゃ、ひゃひゃ!」
ポケットから、鼻かみと一緒にキャンディーも取り出す。
ごつごつした手のひらに、叩きつけた。
.
- 490 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:45:22 ID:BblhGUlY0
-
( ゚д゚) 「ン……これは」
(´・ω・`) 「鼻は大切にしろよ。 じゃあな」
( ゚д゚) 「どう、も。」
( ゚д) ・’
っ
.
- 491 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:48:49 ID:BblhGUlY0
-
|`ヽ /|
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| ヽ / ノ
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| .、
l !
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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第五幕 「 アネモネ 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
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¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
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- 492 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:49:44 ID:BblhGUlY0
-
┏━─
午後十四時五七分 捜査本部
─━┛
(;´・_ゝ・`)
( <●><●>) 「アリバイは、確かのようですね」
覆面パトカーで、一度捜査本部まで戻ってきた。
いま一度、核心に迫る必要があった。
車に乗せたままだったデミタスに、ミセリが殺された旨を告げた。
デミタスは顔を真っ青にして、言葉を失っていた。
捜査本部までの同行を伺うと、ふたつ返事で快諾してくれた。
すぐそこで、連続殺人の続きが起こってしまったのだ、当然だろう。
また、消去法でいけば、犯人は流石兄者で、
次、つまり最後のターゲットは、自分ということになる。
デミタスが拒む理由は、どこにもなかった。
(;´・_ゝ・`)
(;´・_ゝ・`) 「……じゃあ、やっぱり」
.
- 493 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:50:11 ID:BblhGUlY0
-
壁とペニーには、ひと段落つき次第、捜査本部に戻るよう指示した。
できる限り早急な帰還が望まれたが、幸い、ふたりとも長引きはしなさそうだった。
戻る際、ワカッテマスにも連絡を入れた。
公園手前まで迫っていたようで、捜査本部に戻ったのは同刻だった。
デミタスと出会った事件、密室鉄道にはワカッテマスもいた。
もっとも、雑談などしていられる空気ではなかったが。
(´・ω・`) 「害者宅は、どうだった」
( <●><●>) 「鑑識を手配しています」
( <●><●>) 「情報は逐一私に送るよう言ってありますので」
(´・ω・`) 「……なにか、上がりそうか?」
( <●><●>) 「直観で言えば、望み薄かと」
ミセリは、犯人と会うつもりで家を出た。
それも、包丁と、決死の覚悟で。
そんな女性が、部屋にあからさまな痕跡を残すとは思えなかった。
書置きの類があったなら、ワカッテマスが押し掛けた時点で押収している。
.
- 494 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:52:22 ID:BblhGUlY0
-
(´・ω・`) 「となると、だ」
びっしり書き込まれたホワイトボードを、目で辿る。
貼ってあった写真の類は、スペースを広げるためにひっぺがした。
そんななか、一番情報が少ないのは、右端、流石兄者の項目。
(´・ω・`) 「流石兄者、サークル部長」
(´・ω・`) 「奴こそが、事件の鍵となる」
( <●><●>) 「そして、現状容疑者筆頭、と」
(;´・_ゝ・`) 「…」
現在わかっている情報は、少なかった。
ヴィップ大学文学部。
家族構成は両親と弟のみ。
留年することもなく四年で卒業し、就職先は不明。
大学では、就職についてアンケートをとっているようだが、
回答に強制力はなく、流石兄者も回答を控えていた学生のひとりだった。
警察のデータバンクに照会しても、ヒットしなかった。
デミタスが異例だっただけで、だいたいの人間はヒットすることがない。
.
- 495 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:54:09 ID:BblhGUlY0
-
ペニーが、実家にアプローチしている手筈だが、
家族も、いま兄者がどこに住んでいるかはわからないらしい。
隠そうとしているわけではなく、ただ単に話す機会がなかっただけとのこと。
電話番号は把握しており、それは既に僕のもとまで上がってきている。
取り込み中なのか、電話は今のところ、繋がっていない。
(´・ω・`) 「是が非でも、奴は確保する」
(´・ω・`) 「犯人ならもとより、犯人でなかったとしても、だ」
( <●><●>) 「保護を拒否した場合は」
(´・ω・`) 「サークルメンバーのうち、四人が殺されてるんだ」
(´・ω・`) 「拒むッてことは、もう確実に犯人だ」
(´・ω・`) 「その場で、犯行を立証してやるだけさ」
.
- 496 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:54:39 ID:BblhGUlY0
-
(;´・_ゝ・`) 「でも、あの人が犯人なら、どうして……」
(´・ω・`) 「そこを検討したくて、あんたをここまで呼んだ」
(´・ω・`) 「あのな、一般人は入れない場所なんだぜ、ここ」
(;´・_ゝ・`) 「……ども。」
犯行を立証するにあたって、どうしてもネックとなるのが、動機だった。
どうして、十年経った今になっての犯行なのか。
そこを立証できなければ、逮捕は不可能だ。
現状、犯人をぴたりと立証する決定的な証拠がない。
状況証拠すべてが兄者を指し示したところで、焼け石に水なのだ。
( <●><●>) 「心当たりは、ないのでしょうか」
(;´・_ゝ・`) 「……心当たり、ッて」
( <●><●>) 「たとえば、そうですね……」
.
- 497 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:55:00 ID:BblhGUlY0
-
具体例を示そうとしたところで、ワカッテマスが口ごもった。
十年前に所属していたサークルでの、連続殺人。
動機がまるで予想できないことに、ワカッテマスは気づかされた。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「警部は、どうお考えですか」
(´・ω・`) 「僕に振るなよ」
(´・_ゝ・`) 「少なくとも、僕は同窓会とか聞いてないよ」
'_
(´・ω・`) 、
同窓会、か。
興味深い着眼点だ。
(´・_ゝ・`) 「ッてより、十年前から、連絡なんてなかったんだ」
(´・_ゝ・`) 「当時はスマホもなかったしね。 連絡手段は、メールか電話だよ」
(´・_ゝ・`) 「どっちも、変わったり忘れたりするもんさ」
.
- 498 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:55:32 ID:BblhGUlY0
-
近年は、スマホアプリの進化で、手軽に連絡が取れるようになっている。
それも、通信費以外料金がかからないシステムで、だ。
アプリの利点は、携帯会社を変えても残るところだ。
メールアドレスは会社を変えるとドメインが変わるし、
電話番号も、手軽とはいえ手続きを踏まなければならない。
電話番号のない格安スマホやSIMの普及で、
電話番号そのものを手放すユーザーも少なくはない。
となるといよいよ、連絡が取りづらい点がキーとなる。
(´・ω・`) 「でも、犯人は、把握していた」
( <●><●>) 「ヒッキー小森、ならびに芹澤ミセリへの電話がいい例です」
(´・_ゝ・`) 「え…?」
デミタスがきょとんとする。
まだ奴は知らない情報なのだ。
情報の整理がてら、デミタスにも教えることにする。
電話番号から発信着信の関係に至るまで、
すべて、ホワイトボードに書かせておいた。
.
- 499 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:55:58 ID:BblhGUlY0
-
(´・ω・`) 「あんたは、050番号ッて知ってるかい?」
(´・_ゝ・`) 「ああ。 IP電話ですね」
(´・ω・`) 「知ってるのか」
(´^_ゝ^`) 「まあ……使ったことはないですが」
焦点となるのは、050の、身元不明の番号だ。
サービス提供会社、ならびに端末の会社に問い合わせたが、
やはり名義貸しが噛んでいたらしく、特定は不可能らしい。
名義主は多額の借金を持っていて、名義を売ったとのこと。
売り先から暴こうかと思ったが、暴力団が関わってくるらしく、
捜査四課にも協力を要請しているが、ガサ入れの取っ掛かりが掴めないようだ。
( <●><●>) 「四月三十日、この番号をヒッキー小森が受けています」
( <●><●>) 「また一昨日、五月四日、同じ番号を芹澤ミセリが応対」
(´・ω・`) 「僕も隣にいたね」
.
- 500 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:56:25 ID:BblhGUlY0
-
(´・_ゝ・`) 「その電話で、殺人予告を…?」
(´・ω・`) 「ああ、そうさ」
自首しようと思う、その前に話をしたい。
犯人の要求は、この一点だ。
実際に自首するつもりで、なにか大切な話をしたかったのだろうか。
その過程で、事態が急変して殺さざるを得なくなったのだろうか。
最初から殺人を計画していたものを睨んでいるものの、
ミセリが包丁を持っていってしまったのが面倒だった。
そこから、正当防衛という名の反撃材料を与えてしまうことになる。
(´・_ゝ・`) 「だったら、声でわかるはず、ですよ」
(´・_ゝ・`) 「いくら十年経ったとはいえ、同じサークルの人なんだから」
( <●><●>) 「そこなんですよ」
(´・_ゝ・`) 「はい?」
.
- 501 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:56:45 ID:BblhGUlY0
-
ワカッテマスが、デミタスにもわかりやすく教えるように、ホワイトボードを指さす。
奴は我々が持つ最後の武器だ、ありったけの情報は共有しておきたい。
( <●><●>) 「ボイスチェンジャー、とでも言いましょうか」
( <●><●>) 「犯人は、機械で、声を変えていたんです」
(´・_ゝ・`) 「声を…?」
( <●><●>) 「なので、男か女か、すらわからないと」
(´・_ゝ・`) 「え?」
( <●><●>) 「何か」
(;´・_ゝ・`) 「えっと……ちょっと、整理していいですか」
( <●><●>) 「はい、ゆっくりと」
デミタスは、ホワイトボードの人物名を舐めるように見渡す。
殺された順に、擬古、小森、三階堂、芹澤。
残るは、盛岡、流石。
(;´・_ゝ・`) 「……ごまかすまでもなく、男しかいないよね」
(;´・_ゝ・`) 「なんで、男女をごまかすような声が?」
.
- 502 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:57:09 ID:BblhGUlY0
-
( <●><●>) 「……ム」
(´・ω・`) 「男女がわからない、ッてのはあくまで表現だ」
(´・ω・`) 「ポイントは、声の主がわからない、ッてところでね」
(;´・_ゝ・`) 「でも、兄者氏の話し方、すごいわかりやすいよ」
(;´・_ゝ・`) 「残ってるのも、僕と兄者だけ……なんだろう?」
( <●><●>) 「……」
言われてみると、確かに気になるところではあった。
このご時世、わざわざ変声機を使う必要があったのだろうか。
隣に僕がいたなんてことは、犯人は知りようがない。
自首する、話がしたい、という言い分を信じるなら、
ミセリには声がばれても不利益は被らないはずである。
(;´・_ゝ・`) 「声をごまかしたところで、兄者氏かどうかはわかるし」
(;´・_ゝ・`) 「自首する、とか言ってる人が声を変えたりするかなあ?」
.
- 503 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:57:35 ID:BblhGUlY0
-
(´・ω・`) 「……」
急所を突く指摘だとは、思わなかった。
ただ、デミタスだからこその気づきであるには違いない。
どうして、声を変えたのか。
考えられるとするなら、兄者が口調を変えて、
デミタスと兄者の区別がつかないようにした、などだろうか。
(;´・_ゝ・`) 「しかも、これから会おうとしてるんだよ?」
(;´・_ゝ・`) 「なのに、名乗らない、声もわからない、ッてのは」
( <●><●>) 「外部犯の可能性、というものを示すことができます」
(´・_ゝ・`) 「外部犯?」
ワカッテマスが、横やりを入れる。
なるほど、情報を検討するのにデミタスを呼んだのは正解だったようだ。
.
- 504 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:58:41 ID:BblhGUlY0
-
( <●><●>) 「現状では、サークル内部の犯行である線が濃厚ですが」
( <●><●>) 「外部犯の介入の可能性が認められた時、」
( <●><●>) 「はじめて変声機の存在に意味が出てきます」
(´・_ゝ・`) 「外部犯の可能性って?」
(´・ω・`) 「それも検討したいから、あんたを招いたんだ」
(´・_ゝ・`) 「検討……たとえば?」
(´・ω・`) 「サークル外の誰かに恨みを買ったりさ」
(´・_ゝ・`) 「恨み……さすがに、ないかなァ」
ただの、アウトドアサークルだ。
そう簡単に、十年の歳月を経て蘇る怨恨などあるとは思えない。
しかし、凶悪犯罪者の動機は、
得てして被害者側にはその罪意識がないものだったりする。
人は、思わぬところで恨みを買うものなのだ。
.
- 505 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:59:13 ID:BblhGUlY0
-
(´・ω・`) 「それも、併せて検討したい」
(´・ω・`) 「まず、成り立ちから聞かせてもらおうかな」
(´・_ゝ・`) 「成り立ち、か」
デミタスとの話は、中途半端にしかできていなかった。
今、犯人はアクションを起こしていない。
落ち着いて話を聞ける、最後のチャンスかもしれない。
(´・_ゝ・`) 「まあ……」
(´・_ゝ・`) 「発端は、兄者氏だ」
( <●><●>) 「それは、何年生の時で」
(´・_ゝ・`) 「僕らが入学する前くらいだね」
( <●><●>) 「となると、部長が三年になるくらいのタイミングか」
ワカッテマスが、ホワイトボードに書き加えていく。
.
- 506 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:59:37 ID:BblhGUlY0
-
( <●><●>) 「キッカケは、聞いていますか?」
(´・_ゝ・`) 「ほら、三年にもなったら、暇になるからね」
(´^_ゝ^`) 「暇つぶしが欲しい、どうせなら青春がしたい…ッて」
(´・_ゝ・`) 「それで、ヒッキー氏も誘ってサークルを創ったんだ」
( <●><●>) 「ヒッキー小森……アルプス学院大学」
( <●><●>) 「どうして、よその大学の人を誘ったんでしょうか」
(´・_ゝ・`) 「さあ?」
(´・_ゝ・`) 「ただ、兄者氏とは昔からの仲らしくてね」
(´・ω・`) 「距離的には、まあまあ離れてるぜ」
(´・ω・`) 「ヒッキーは、そんなに活動には参加しなかったの?」
(´・_ゝ・`) 「まさか。 むしろ皆勤賞だよ」
.
- 507 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 12:59:58 ID:BblhGUlY0
-
少々、疑問の余地はある。
しかし、だからどうした、といった疑問でもある。
(´・_ゝ・`) 「あくまで、活動内容はアウトドアだ」
(´・_ゝ・`) 「アルプスとかシベリアにも行ったし」
(´・_ゝ・`) 「距離は大した問題じゃなかったんだと思うよ」
( <●><●>) 「そう言われては、そうですが…」
(´・_ゝ・`) 「逆に、アウトドアじゃなかったら、ヒッキー氏も参加してなかったと思う」
(´・ω・`) 「なるほどね」
(´・ω・`) 「そのふたりが中心となって、結成されたワケだ」
まず、サークルのキッカケは、兄者とヒッキー。
兄者が三年になるにあたって、暇つぶしにサークルを創設する。
どうせなら、ということで青春を楽しむためにアウトドアを考案。
アウトドアのため、唯一離れた位置に住まうヒッキーもこれを承諾。
.
- 508 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:01:40 ID:BblhGUlY0
-
(´・ω・`) 「メンバーは、どんな感じで集まったんだい?」
(´・_ゝ・`) 「勧誘、だね。 順番までは知らないけど」
(´・_ゝ・`) 「セリっちも、クックルも、ギコも言った通り」
(´・ω・`) 「口達者な兄者に惹かれたンだね」
( <●><●>) 「あなたは?」
(´・_ゝ・`) 「僕かい?」
(´^_ゝ^`) 「……その、いろいろ共通の趣味があって、盛り上がって……」
( <●><●>) 「そうでしたね。 シツレイしました」
デミタスの趣味、ということで、ワカッテマスも合点がいった。
思い出したくないことを思い出した、といった具合だった。
.
- 509 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:02:03 ID:BblhGUlY0
-
(´・ω・`) 「それ以上メンバーが増えることはなかったの?」
(´・_ゝ・`) 「次の年は、ビラ撒きとかしなかったね」
(´・ω・`) 「どうして?」
(´・_ゝ・`) 「居心地が、よくなったんだ」
(´・_ゝ・`) 「どうせ、兄者氏の思い付きでできた、ちいさなサークルだ」
(´^_ゝ^`) 「現時点で十分楽しいし、別にいっか、ッて」
( <●><●>) 「勧誘は、初年度のみ、と」
( <●><●>) 「みんなは、仲良かったので?」
(´・_ゝ・`) 「勿論」
.
- 510 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:02:29 ID:BblhGUlY0
-
( <●><●>) 「なにか、個人間の諍いは」
(´・_ゝ・`) 「………」
( <●><●>) 「ありますか?」
デミタスは、即答しない。
諍いは事件解決の糸口となり得る可能性がある。
なるたけ、慎重に伺いたいところだ。
(´・_ゝ・`) 「………」
(´^_ゝ^`) 「細かないざこざは、そりゃあ、しょっちゅうだよ」
( <●><●>) 「たとえば」
(´・_ゝ・`) 「うちのサークルさ、オタクとそうでない人が分かれてたんだ」
( <●><●>) 「芹澤ミセリなんかがそうですね」
.
- 511 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:03:01 ID:BblhGUlY0
-
(´・_ゝ・`) 「ギコ、クックルもオタク趣味はなかった」
(´・_ゝ・`) 「で、僕やヒッキー氏、兄者氏とは、文化が違うんだ」
文化ときたか。
(´・_ゝ・`) 「酒にしてもそう、バーベキューにしても、そう」
(´・_ゝ・`) 「細かいところで噛み合わないことは、多かった」
( <●><●>) 「殺意に繋がるほどの大きな怨恨は?」
(´・_ゝ・`) 「……ないと思うよ?」
'_
(´・ω・`) 、
( <●><●>) 「なにも、殺意に繋がる必要はない」
( <●><●>) 「男女のもつれ、借金、就職絡み」
( <●><●>) 「そういったところで残った種が、花開いた可能性もあります」
.
- 512 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:04:16 ID:BblhGUlY0
-
(´・_ゝ・`) 「少なくとも、就職はないな」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏が、就職に無頓着だったんだ」
(´・_ゝ・`) 「だいたい、僕らが就活する前にサークルは終わったんだ」
( <●><●>) 「終わった、ですか」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏が卒業したから、だよ」
詮索されたくないのか、デミタスが先手を取った。
( <●><●>) 「卒業するのは、兄者とヒッキーだけ」
( <●><●>) 「他の四人で集まって遊んだりしなかったので?」
(´・_ゝ・`) 「なかったと思うよ」
( <●><●>) 「それはどうして?」
(´^_ゝ^`) 「………僕が、誘われてないからね」
( <●><●>) 「それは……失礼」
(´・ω・`) 「………。」
.
- 513 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:04:40 ID:BblhGUlY0
-
やはり、おかしい。
デミタスは、何かを偽っている。
すごくわかりやすい態度だ。
しかし、わかりやすいだけに、妙だ。
昼頃の会話でも、奴は犯人の心当たりに関して、一切偽りは見せなかった。
先ほどからも、節々で妙な態度を見せている。
何かを隠しているのは、疑いようがない。
ない、が。
隠すとしたら、なんだ。
自分も容疑者になり得る局面で、
わざわざ犯人の心当たりをごまかしたりしないだろう。
デミタスほどの小心者なら、尚更だ。
自分が疑われてでも隠し通したいものでは、ない。
ロジックを整理すると、こうなる。
「隠し通したいことではあるが、それは犯人候補とは関わらない」 。
.
- 514 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:06:17 ID:BblhGUlY0
-
( <●><●>) 「なら、男女のもつれは」
( <●><●>) 「男性ばかりのサークルに、女性がひとり」
( <●><●>) 「三角関係など、考えられないことではありません」
(´・_ゝ・`) 「あー、オタサーの姫だしね」
( <●><●>) 「姫、ですか」
(´^_ゝ^`) 「どちらかと言えば、女王かな?」
( <●><●>) 「はあ」
ワカッテマスが呆れ返っている。
奴は、まだデミタスの偽りに気づいていないのだろうか。
(´・_ゝ・`) 「……マ。」
(´・_ゝ・`) 「じつは、僕はそこまで詳しくないんだ」
.
- 515 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:06:37 ID:BblhGUlY0
-
( <●><●>) 「詳しくない、ですか」
(´^_ゝ^`) 「クックルとセリっちの結婚も、知らなかったし」
(´・_ゝ・`) 「ただ、泥沼はあったかもしれないね」
( <●><●>) 「クックル、ミセリに加わる、三角関係ということで」
(´・_ゝ・`) 「……あったかも、だ」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏は、たぶんなんでも知ってると思うけど」
( <●><●>) 「……なるほど」
なんでも知っている。
裏を返せば、我々の知らない動機を持っている可能性もある。
いよいよ、兄者を確保する必要が生まれてきた。
目下ペニーが兄者の後ろを追いかけているところだ。
執念はショボーン班でも随一だ、必死に食らいついているとは思う。
.
- 516 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:06:58 ID:BblhGUlY0
-
( <●><●>) 「ずばり、犯人に心当たりは」
(´・_ゝ・`) 「ないよ」
既に、僕もかけた質問。
デミタスは、迷いなく即答した。
( <●><●>) 「警察では、流石兄者の犯行だと睨んでいますが」
(´・_ゝ・`) 「僕も、ずっと、考えてたんだ」
(´・_ゝ・`) 「何か、あの人に僕らを皆殺しにする動機があったか、ッて」
( <●><●>) 「…結果は」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏では、ないと思う」
( <●><●>) 「根拠は」
(´・_ゝ・`) 「人望、人柄、なにより今更になって僕らを殺そうとする理由がないこと」
( <●><●>) 「かつては、あったのですか?」
(´・_ゝ・`) 「元々なかったんだ、十年経った今殺す理由なんてましてない」
.
- 517 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:08:12 ID:BblhGUlY0
-
ワカッテマスが押し黙った。
デミタスの眼は、嘘を吐いているように見えない。
現状わかっていることで消去法的に犯人を割り出すと、必然的に兄者となる。
しかし、それがあまりにも不自然だ、と当事者が証言する。
やはり、どこかに偽りが眠っている。
'_
(´・ω・`) 、
(´・ω・`) 「僕だ」
待ち望んでいた着信が、ついに来た。
ペニサス伊藤から。
一瞬、心臓がドクンと跳ねた。
「やりましたよ」
(´・ω・`) 「!」
思わず顔がほころぶ。
ペニーの声には、明らかに闘志が宿っていた。
.
- 518 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:09:45 ID:BblhGUlY0
-
「流石兄者」
「ただいま、一緒に捜査本部まで向かってます」
(´・ω・`) 「よくやった」
(´・ω・`) 「いまは……パトカーかい?」
「一緒にいますよ」
「任意同行です」
(´・ω・`) 「よし」
(´・ω・`) 「どこにいたんだ」
「病院ですね」
「アルプス神経病院です」
(´・ω・`) 「病院?」
.
- 519 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:10:22 ID:BblhGUlY0
-
思わぬ施設が告げられた。
兄者は、別に医療関係の人間ではないはずだ。
見舞いにでも行っていたのだろうか。
それにしても、ヴィップではなくアルプス、それも神経病院か。
「その点に関しては、聞き出せなかったですね」
「プライベートだから、と」
(´・ω・`) 「まあ、吐かせるのは後でいい」
(´・ω・`) 「どれくらいかかりそうだい?」
「一時間は見積もっていただきたいですね」
(´・ω・`) 「……一時間か」
時計を見やる。
十五時二二分。
アルプスからだと、車でもそれくらいはかかるか。
短いようで、長い時間だ。
.
- 520 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:11:58 ID:BblhGUlY0
-
(´・ω・`) 「奴の様子は」
「複雑そうな面持ちではありましたが……」
「別段、反抗には出ていません」
(´・ω・`) 「なんて言って同行を求めた?」
「連続予告殺人の重要参考人、と言えば、しぶしぶ」
「いまは、窓の外を眺めて、ぼーっとしてます」
(´・ω・`) 「ふむ…」
「今、そちらには誰が?」
(´・ω・`) 「僕とワカッテマスに、盛岡デミタスだ」
(´・ω・`) 「ぎょろ目は、公園殺人の初動捜査を担当している」
「初動捜査に進展は」
(´・ω・`) 「ないね、今ンところは」
.
- 521 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:14:31 ID:BblhGUlY0
-
奴が指揮を執って現状進展なし。
言い換えれば、めぼしい証拠がない、ということで、
それはすなわち、ミセリが持参した包丁も見つかっていない、ということだ。
犯人が、持ち去ったのだろうか。
あるいは、滝壺の底に沈み、泥に隠れたかもしれない。
包丁の出所から、新しい情報が生まれるかもしれないが。
少なくとも、犯行現場である滝口でミセリが落としたわけではなさそうだ。
(´・ω・`) 「詳しいことは、あんたが戻ってからにするよ」
「頭が痛くなるくらいの冷たいコーヒー、お願いします」
(;´・ω・`) 「買ってこい!以上!」
ペニーは、けらけら笑っているだろう。
ショボーン班のなかでも、ひときわ感情に左右されやすい刑事だ。
犯人を確保したり、容疑者を吐かせた時は、上機嫌に高笑いする。
それが、心強くもあった。
.
- 522 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:15:29 ID:BblhGUlY0
-
( <●><●>) 「確保、ですか」
(´・_ゝ・`) 「!」
(´・ω・`) 「任意同行だ」
( <●><●>) 「応じたんですね」
(´・ω・`) 「……そこが、ちょっと引っかかった」
任意同行は、文字通り任意だ。
仮に兄者が犯人だとして、こちらに証拠が一切ない以上、
兄者には同行を拒否することができる。
証拠がないことは伝えてないだろうが、
それでも、兄者は、応じた。
犯人では、ないのだろうか。
(´・_ゝ・`) 「……」
( <●><●>) 「だいたい、到着はいつ頃に」
.
- 523 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:16:05 ID:BblhGUlY0
-
(´・ω・`) 「一時間前後、かなァ」
( <●><●>) 「まあまあですね」
(´・ω・`) 「アルプスの病院にいたところを、捕まえたみたいだ」
病院?
ワカッテマスも食いついた。
(´・ω・`) 「別に、彼がかかっていたワケじゃない」
(´・ω・`) 「見舞いか、はたまた仕事関連か」
( <●><●>) 「……ふム。」
兄者と病院を繋げるファクターは、見つかっていない。
もっとも、それもまとめてペニーに聞けばいい話だ。
兄者から、あるいはペニーから。
どんな証言が飛び出すかわからない以上、
現時点での検討に、あまり意味はないような気がしてきた。
.
- 524 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:17:05 ID:BblhGUlY0
-
(´・ω・`) 「……そうだな」
(´・ω・`) 「メシ、食うか」
( <●><●>) 「メシ、ですか」
'_
(´・_ゝ・`) 、
(´・ω・`) 「そういや食ってなくてね」
(´・ω・`) 「あんたは?」
( <●><●>) 「いえ」
高い身長に見合った肉体のワカッテマスだが、
捜査中は滅多なことでは食事を取ろうとしない。
時間を見つけて食うのもスキルのひとつだ、と説いたことはあるけど、
若いうちは多少無茶をしてでもその他のスキルを磨きます、と返された。
食事に限らず、あらゆる指摘が、若さを盾に反論されるのが常だ。
.
- 525 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:19:36 ID:BblhGUlY0
-
(´・_ゝ・`) 「あれですか、カツ丼ですか」
(´・ω・`) 「バカ言え、そんな胃がもたれるモン食えるか」
( <●><●>) 「今日はなにがご所望ですか」
(´・ω・`) 「適当にうどんとおにぎり買ってきてくれ」
(´・_ゝ・`) 「え、うどん?」
(´・ω・`) 「表出てすぐにコンビニあったろ」
(;´・_ゝ・`) 「………ああ。」
長財布から、札をワカッテマスに握らせる。
生意気で、僕に反抗することも多い部下だけど、
こと使いッ走りに関してはすんなりと応じてくれる男だった。
(´・ω・`)y 「あとコイツも」
( <●><●>) 「わかりました」
煙草を吸う仕草を見せながら言った。
ワカッテマスは煙草を吸わない。
銘柄について詳しくはないと思うものの、僕のそれについては把握していた。
.
- 526 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:23:07 ID:BblhGUlY0
-
( <●><●>) 「せっかくなので、あなたの分も」
(´・_ゝ・`) 「いや、いいですよ。 一緒に行きます」
( <●><●>) 「わかりました」
デミタスも、ワカッテマスと一緒に部屋を出ていった。
足音も聞こえなくなると、いよいよ空調以外なにも聞こえてこなくなった。
(´・ω・`) 「……」
となるといよいよクチが寂しくなってくる。
のっそりと、通い慣れた喫煙室に向かう。
おそらく、野菜の多いうどんと、おかか握り辺りを買ってくるだろう。
僕の愛飲する甘い缶コーヒーと、奴のことだから新聞も買ってくる。
報道というものは、半日経つだけで内容がガラリと変わる。
いま、世間が連続予告殺人というものをどう取り扱っているのかが気がかりだ。
.
- 527 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:24:53 ID:BblhGUlY0
-
このたびの芹澤ミセリ殺人事件に関してもそうだ。
もとより公に予告された殺人ではない。
更に言えば、ミセリが連続予告殺人とリンクしていることも公表していない。
ショボーン班に詳しい記者なんかが担当してしまえば、
ぎょろ目が陣頭指揮を執っているのを見て、憶測を広げるかもしれないけど。
たとえば、そう、朝曰新聞のあの男だ。
ここ数年関係はないが、なるたけ関わりを持ちたくない男だ。
( ´・ω・)y-~~ 「……」
紫煙を浮かべながら、不思議なものだと思った。
既に忘れてしまっていたはずの事件の関係者と、
まったく別の事件で出会うことになってしまった。
盛岡デミタスがその最たる例だし、
捜査協力ということで、既にオオカミ鉄道の総裁とも協力体制にある。
燻ぶっている火種を見つめ、そういやあの男も愛煙家だったなァ、と思い起こされた。
全国を揺るがす大きな事件だ。
朝曰新聞社のエース、メガネのあの男も把握はしているだろう。
なんだったら、我こそが、と名乗りを上げ担当になっているかもしれない。
.
- 528 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:25:16 ID:BblhGUlY0
-
オオカミ鉄道総裁とくだんのエース記者、
そして僕は数年前に、極寒の地キタコレでプライベートを共にした過去がある。
思えば、クックルの勤務地のひとつ、アスキーミュージアム。
あの美術館の館長とも、面識があった。
職柄、顔が広くなるのはおかしくないことだけど、
時たま、因縁というものを痛感する出来事があるのも事実だった。
( ´・ω・)y-~~
( ´‐ω‐)y-~~
機会があれば、酒でもひっかけに誘おうか。
凶悪な事件に呑まれている時ほど、人のぬくもりに触れたく思う時はない。
.
- 529 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 13:26:15 ID:BblhGUlY0
- 序幕 >>2-69
第一幕 >>82-211
第二幕 >>218-296
第三幕 >>304-388
第四幕 >>398-468
第五幕 >>477-528
- 530 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 14:05:24 ID:AWmaVxJk0
- ミセリ、だめだったか…乙
- 531 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 14:20:11 ID:nOfcqH0Q0
- 乙
外部犯となってくるともう風呂敷畳めそうに無いんですが…
- 532 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 14:53:44 ID:ZDF1.ONg0
- ( <_ )……
- 533 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 14:54:51 ID:KC0i1iMg0
- >>532
だよなぁ
- 534 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 15:21:04 ID:.viglT.g0
- まてまて予想はあかん
- 535 名前:名無しさん:2018/09/24(月) 16:08:59 ID:xS5Lkceg0
- 乙、ほんと乙
- 536 名前:名無しさん:2018/09/25(火) 03:24:27 ID:/hTg0xqI0
- 流石兄弟が犯人だとは思えんぞ
謎の呪いの力によるオカルトパワーで被害者は勝手に死んだんじゃないか?
- 537 名前:名無しさん:2018/09/25(火) 08:43:56 ID:YAxBONrg0
- パンドラの箱からインチキ叔父さん登場
- 538 名前:名無しさん:2018/09/25(火) 12:39:23 ID:HwZFKvo.0
- フォックスは偉い人
そんなの常識
- 539 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 16:53:58 ID:RuNqH/eU0
-
┏━─
五月六日 午後十六時二三分 捜査本部
─━┛
'_
(´・ω・`) 、
('、`*川 「警部!」
じきに着く、という連絡をもらって、十分後。
白衣をなびかせながら、颯爽とペニーが部屋に入ってきた。
('ー`*川 「キンッキンのコーヒー、ありますか?」
(´・ω・`) 「ワカッテマスが買っといてくれてるぞ」
('、`*川 「おおッやるう!」
(´・_ゝ・`) 「…!」
( ;´_ゝ`) 「…!」
.
- 540 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 16:55:11 ID:RuNqH/eU0
-
参考人を放置し、いの一番にコーヒーに飛びついた。
喉がからからだったのだろう、喉を鳴らして飲み干すが、
空き缶を机のうえに叩きつけてから大声で 「ぬるい!」 と叫んだ。
(´・ω・`) 「一時間前は冷たかったんだがなァ」
('、`#川 「一時間前ェ!?」
(´・ω・`) 「それはそうと……」
( ;´_ゝ`)
(´・ω・`) 「彼が、その?」
落ち着きがない長身の男に歩みかけて、言った。
ペニーは、言葉を詰まらせながら頷いた。
('、`*川 「流石兄者」
('、`*川 「くだんのアウトドアサークルの創設者にしてリーダー」
('、`*川 「アルプス神経病院に来館していたところ、任意同行に応じてもらいました」
.
- 541 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 16:55:51 ID:RuNqH/eU0
-
そうか。
短く言って、咳払いをする。
彼は、重要な参考人なのだ。
(´・ω・`) 「はじめまして。 捜査一課のショボーンです」
( ;´_ゝ`) 「……流石兄者です」
(´・ω・`) 「そうカタくなさらんでも」
(´・ω・`) 「別に、逮捕でも取り調べでもないんだから」
( ´_ゝ`) 「………まあ。」
せわしなく、視線をデミタスに向ける。
およそ十年ぶりの再会なのだ、気になるのも仕方ないだろう。
デミタスも、様子を伺ったのち、歩み寄ってきた。
(´・_ゝ・`) 「……久しぶりです」
( ´_ゝ`) 「マジでな」
.
- 542 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 16:56:22 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「まあまあ」
(´・ω・`) 「立ち話もなんだし、適当なとこに座って」
言うと、しぶしぶ二人は腰を下ろした。
舞台が県警でなければ、
二人は当時の仲を想起させるようなやり取りを見せていたのだろうか。
デミタスは既にこの空気に慣れているけど、
連れてこられたばかりの兄者はまだそわそわしていた。
適当な部屋を押さえたりしてもよかったのだけど、
一番情報が集約されているのが捜査本部だ。
動くのが億劫で、時間が惜しまれる局面、わがままは言わせない。
(´・ω・`) 「エット」
(´・ω・`) 「確認だけど、十年前のアウトドアサークル……」
(´・ω・`) 「そのふたり、で間違いないんだよね」
.
- 543 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 16:56:50 ID:RuNqH/eU0
-
(´・_ゝ・`) 「そうですね」
(´・_ゝ・`) 「この人は、間違いなく、流石兄者です」
( ´_ゝ`) 「別に言わんでも。 身分証明くらいできるわ」
(´・_ゝ・`) 「あ。 やっと免許取ったんですか!?」
( ´_ゝ`) 「バカにしやがって」
( ´_ゝ`) 「マイナンバーよ」
(;´・_ゝ・`) 「取ってねえのかよ!」
( ´_ゝ`) 「ガッハッハッハッハッ!」
(´・_ゝ・`) 「何わろとんねん」
(´・ω・`) 「……」
( <●><●>) 「どうやら、仲が良かったのは違いないみたいですね」
('、`*川 「疲れたし、ちょっと休憩いただきまーす」
('、`*川 「今日は豚骨の気分だな」
( <●><●>) 「きみの分の弁当も買ってるぞ」
('、`*川 「なッ……くそッ……」
.
- 544 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 16:57:19 ID:RuNqH/eU0
-
放っておくと、デミタスと兄者は延々と雑談のひとつ始めるだろう。
それはそれで悪いわけではないが、事が事だ。
これは常に手綱を握っておかないと、メンドウなことになりかねない。
(´・ω・`) 「兄者さん」
(´・ω・`) 「今回、どうしてここに呼ばれたか、ご存じ……ですよね」
( ´_ゝ`) 「ッ……」
笑っていたのも束の間、
一言そうかけるだけで、兄者は真剣な面持ちになった。
(´・ω・`) 「ただ、どこまで事を把握できているか、わからない」
(´・ω・`) 「おさらいも兼ねて、いま警察がわかっていることを共有します」
(´・ω・`) 「かいつまんで、だけどね」
( ´_ゝ`) 「……どうぞ」
.
- 545 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 16:59:45 ID:RuNqH/eU0
-
レーザーも、指示棒もいらない。
視線をホワイトボードにやれば、二人は勝手に目で追ってくれるだろう。
(´・ω・`) 「すべての発端は、四月二十五日の深夜」
(´・ω・`) 「地下鉄にて、ひとりの男が刺殺された」
(´・ω・`) 「フッサール擬古」
(´・ω・`) 「心当たりは?」
言うと、兄者もデミタスも、頷いた。
( ´_ゝ`) 「大学時代のサークルの、一員でした」
( ´_ゝ`) 「言って、大学以来しゃべることはなかったけど」
(´・_ゝ・`) 「同じく」
(´・ω・`) 「この件に関して、犯人は未だ逃亡中」
(´・ω・`) 「目下捜査中、といったところだ」
.
- 546 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:00:51 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「続けて、二件目」
(´・ω・`) 「四月三十日、あるビジホでひとりの男が殺された」
(´・ω・`) 「毒殺……に近しい形でね」
(´・ω・`) 「ヒッキー小森。 心当たりは」
( ´_ゝ`) 「あるに決まっている」
兄者は迷いなく答えた。
二人でサークルを立ち上げた、という話は嘘じゃないと見ていいだろう。
( ´_ゝ`) 「俺の、昔からのダチだ」
(´・ω・`) 「ちなみに、直近の交流は?」
( ´_ゝ`) 「ええと………」
'_
(´・ω・`) 、
.
- 547 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:01:40 ID:RuNqH/eU0
-
ずっと交流があった、とでも言うかと思ったが。
想像に反して、兄者は思考に耽りながら、ぽつぽつ、と言葉を紡いだ。
( ´_ゝ`) 「……そうだな」
( ´_ゝ`) 「少なくともここ数年は話してなかったけど……」
( ´_ゝ`) 「………ああ。 七年くらい前かな」
七年くらい前か。
大学を出た後も、別に絶縁したわけではない。
しかし、疎遠には違いなかった、といったところ。
(´・_ゝ・`) 「なんで七年前?」
( ´_ゝ`) 「コミケがあったんよ」
( ´_ゝ`) 「ほんとグーゼン再会してさ。 ほら、中の人事件の年の」
( ´_ゝ`) 「ピンクレンジャーのやつ」
(´・_ゝ・`) 「あれかwwwwあれかwwww」
( ´_ゝ`) 「紅一点ならぬウン紅一点wwww脱糞事件www」
(´・_ゝ・`) 「くさそう(確信)」
.
- 548 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:02:16 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「七年前。 それはわかった」
(´・ω・`) 「つまり、ここ最近はさっぱりだった、と」
( ´_ゝ`) 「そ、そうですね」
(;´・_ゝ・`) 「失礼」
ここはお前らのだべる場所じゃねえぞ。
ポケットに手を突っ込み、ぎろりと睨むと我に返った。
これは手間がかかりそうだ。
(´・ω・`) 「次。 これは有名だね」
(´・ω・`) 「ライブ殺人事件。 被害者は、三階堂クックルだ」
( ´_ゝ`) 「それで、俺も事件を知った」
( ´_ゝ`) 「……身震いしたね。 正直」
(´・ω・`) 「ちなみに、その頃あんたはどこで何を?」
.
- 549 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:02:36 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「どうもしませんよ」
( ´_ゝ`) 「ネットライターしてんだけど、ツイッター見ながら仕事してただけさ」
(´・_ゝ・`) 「え、ライターしてんの?」
( ´_ゝ`) 「そうそう。 どこかは言わないけど、普通にでかい攻略サイトのね」
兄者の職業に関しては、そこまで問題はないだろう。
ミセリの一件で、本件が大学サークルのこじれであることはわかっている。
それ以上に、ツイッターという点に引っかかった。
三十代と言えど最近の若者、トレンドはニュースじゃなくSNSで収集しているらしい。
(´・ω・`) 「なるほどね」
(´・ω・`) 「……で、今日」
(´・ω・`) 「クックルの嫁の芹澤ミセリが、殺された」
( ´_ゝ`) 「え」
.
- 550 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:03:04 ID:RuNqH/eU0
-
兄者が、とたん無表情になった。
刹那、全身をさぶイボが走ったようで、肩を一瞬震わせた。
(´・ω・`) 「知らなかった、ッてことでいいかい?」
( ;´_ゝ`) 「………マジ、で」
(´・_ゝ・`) 「間違いないッスよ」
(´・_ゝ・`) 「………滝公園、あるじゃん。 あそこだよ」
( ;´_ゝ`) 「え、マジ…?」
殺されてまだ日が経っていないということもあるだろうが、
何にせよ、まだ大々的には報じられていない、ということだろう。
それ以上に、ペニーはそのことを伏せて連れてきてくれたのか。
有難い話だ。
.
- 551 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:04:13 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「まず、クックルとミセリが籍を入れていた、ということ」
(´・ω・`) 「ご存じで?」
( ´_ゝ`) 「……そっか」
( ´_ゝ`) 「ケッコン、してたんだなァ……そっか……」
反応を見るに、予感こそあったものの、
入籍そのものは知らなかった、といったところか。
籍を入れた、としか言っていないのに、
短絡的に結婚と考えているのを見れば明らかだ。
(´・ω・`) 「事件は、起こったばかりだ」
(´・ω・`) 「目下捜査中だけど……同一犯の可能性は、非常に高い」
( ´_ゝ`) 「……連続殺人、ッてこと、ですよね」
(´・ω・`) 「ああ」
.
- 552 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:04:47 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「細かい情報はさて置くとして」
(´・ω・`) 「聞きたいことはたくさんある、今日お時間は大丈夫ですか」
( ´_ゝ`) 「入稿は済んでるし、大丈夫ですよ」
言質は取った。
デミタスと兄者、この二人は、事件解決まで僕の監視下に置く。
容疑者でもあり、次の被害者候補でもある。
どんな理由だろうと、もう二度と、ミセリのような犠牲を出すわけにはいかないのだ。
(´・ω・`) 「オッケー」
(´・ω・`) 「僕、堅苦しいのは嫌いだし、なんかつまみながらしゃべろうぜ」
( ´_ゝ`) 「はい……え、え?」
(´・ω・`) 「おい、なんかあったッけ」
.
- 553 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:05:10 ID:RuNqH/eU0
-
ワカッテマスに聞くと、首を傾げながら、コンビニ袋を漁った。
奴も僕の性格はよく理解している、
どうせこうなるだろうと予測がついていたようで、ある程度の菓子類も買ってくれていた。
(´・ω・`) 「なんか食おうぜ。 何から食う?」
( ´_ゝ`) 「は?」
(´・_ゝ・`) 「あーー、のり塩がいいです」
(´・ω・`) 「本当はビールが飲みたいけど、コーラでいいや」
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「は??」
.
- 554 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:05:57 ID:RuNqH/eU0
-
ぐびぐびと喉を鳴らして、兄者はウーロン茶を飲んだ。
緊張のためか、よほど喉が渇いていたようだ。
半ばヤケクソのようにも窺える。
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「で、何から話せばいいッスか」
(´・ω・`) 「事件で、いま一番気がかりな点がある」
( ´_ゝ`) 「ほう」
(´・ω・`) 「ずばり、ヒッキー小森の案件だ」
( ´_ゝ`) 「…!」
ワカッテマスは、少し離れた位置から
僕らの様子を窺ってくれている。
情報の共有と併せて、僕が気づけなかった何かに気づいてもらいたいところだ。
.
- 555 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:06:39 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「ヒッキーは、毒殺に近しい形で殺された、と言った」
(´・ω・`) 「でも、厳密に言えば、アレルギーを利用したトリックなんだ」
( ´_ゝ`) 「アレルギー?」
ピーナッツオイルが致死量盛られていた、常備薬。
どのタイミングで盛ったかは、まだ見当がついていない。
あれから、近辺の店や駅のカメラのデータを確認させたが、
特段めぼしい情報は見つかっていなかった。
(´・ω・`) 「本件を内部犯の仕業と考えたのは、」
(´・ω・`) 「担当医や一部の人しか知り得ない情報で犯行に及ばれたからだ」
(´・ω・`) 「……ヒッキーのアレルギー。 知ってる?」
.
- 556 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:07:01 ID:RuNqH/eU0
-
アウトドア、ということは、当然バーベキューなんかも嗜む。
バーベキューに限った話ではない。
花見、月見、ビアガーデン、挙げればきりがないだろう。
となると、どこかしらでその情報を知り得る可能性がある。
ピーナッツ、というピンポイントなアレルギーだから知らない可能性もあり得るが。
少なくとも、酒の味を知ったばかりの学生なら、
肴にナッツ類を用意するのは至って自然で、そこから判明することもある。
( ´_ゝ`) 「……アレルギー?」
( ´_ゝ`) 「そんなの、あったっけ?」
(´・_ゝ・`) 「いや?」
(´・ω・`) 「食物アレルギーなんだ、」
(´・ω・`) 「ヒッキーが露骨に避けてた食べ物とか……思い出せない?」
十年ほど昔の話だ。
当時の光景を思い出すだけで結構な労力だろう。
急かして吐かせるつもりなど、毛頭なかった。
.
- 557 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:08:09 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「……」
(´・_ゝ・`) 「あーー。 トマト、無理でしたよね、あの人」
( ´_ゝ`) 「そういや」
( ´_ゝ`) 「イヤ。 でも、アレルギーじゃねえぞ」
( ´_ゝ`) 「ゴロッとした固形がだめで、パスタとか普通に食ってたし」
(´・_ゝ・`) 「ああ、アレルギー……だった」
(´・ω・`) 「アレルギー、となると、基本はエキスもだめだからね」
例外もあるが、話す必要はない。
要は、彼ら、内部の人間がアレルギーを知り得たかどうか、がキーなのだ。
( ´_ゝ`) 「好き嫌い……の話、じゃないんスよね?」
(´・ω・`) 「もちろん」
(´・ω・`) 「好き嫌いなら、過剰摂取して死ぬことはない」
.
- 558 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:08:39 ID:RuNqH/eU0
-
(´・_ゝ・`) 「あれですよ、甲殻類」
(´・_ゝ・`) 「ほら昔、サビキで釣る時、オキアミ無理とか言ってた」
( ´_ゝ`) 「いやあれは、単純に臭いがキライってだけだったろ」
(´・_ゝ・`) 「でも、甲殻類食ってるとこ、見たことあります?」
( ´_ゝ`) 「潮干狩りの時、アホほどアサリ食ってたぞ」
(´・ω・`) 「……」
しっかし、よく出るよく出る。
釣り、サビキ、潮干狩り。
動機やメンバーはどうであれ、なるほど確かに、アウトドアを満喫していたようだ。
( ´_ゝ`) 「てか」
( ´_ゝ`) 「そーゆーのッて、司法解剖…?」
( ´_ゝ`) 「とかで、特定できるもんじゃないんスか?」
.
- 559 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:09:26 ID:RuNqH/eU0
-
チッ。
ここでピーナッツの話が出てきたらよかったのだけど。
これはいよいよ、面倒なネックになりそうだ。
(´・ω・`) 「あれ」
(´・ω・`) 「ああ、ごめんごめん、言ってなかったっけ」
(´・ω・`) 「ピーナッツだ」
(´・ω・`) 「彼は、重度のピーナッツアレルギーだったらしい」
知らないのか、あるいは、とぼけているのか。
どちらにせよ、ホテル殺人を解き明かすうえで、ひとつの障壁となる。
サークルとホテル殺人を結ぶのに、この穴は埋めなければならないのだ。
でなければ、犯人がどうやってヒッキーを殺したのか、が争点となってしまう。
( ´_ゝ`) 「ピーナッツ?」
(´・_ゝ・`) 「知ってました?」
( ´_ゝ`) 「いや?」
.
- 560 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:09:53 ID:RuNqH/eU0
-
アレルギー、というものは、特に話題がなければ自ら話すことはない。
たとえば、ワカッテマスは軽度のそばアレルギーだ。
花粉症などと違い、食物アレルギーというのはそこまで知られるものではない。
(´・ω・`) 「え、なに」
(´・ω・`) 「あんたら、酒飲む時、ミックスナッツとかつままなかった?」
( ´_ゝ`) 「いやあ……どうだっけ」
(´・_ゝ・`) 「そんな、オッサンじゃないし」
こ、こいつ。
( ´_ゝ`) 「ツマミとなりゃあ、焼き鳥とか卵焼きだったし」
( ´_ゝ`) 「自分らで飲む時も、するめとかポテチだったなァ」
(´・ω・`) 「それは、ヒッキーが選んで?」
( ´_ゝ`) 「いや?」
( ´_ゝ`) 「その時買う人が、適当に買ってたもんですよ」
(´・ω・`) 「……ム。」
.
- 561 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:10:15 ID:RuNqH/eU0
-
(´・_ゝ・`) 「セリっちは、よくチョコ買ってたけど」
( ´_ゝ`) 「あーー。 クックルはチキン食わなかったな」
(´・_ゝ・`) 「思い出した! キタコレ行った時も、あいつだけニゲット食わなかった!」
( ´_ゝ`) 「あれだ、お前、するめだけ食わなかっただろ」
(´・_ゝ・`) 「するめが好きな野郎とは相容れない」
こ、こいつ。
(´・ω・`) 「なるほど、わかった」
(´・ω・`) 「あんたらは、ヒッキーのアレルギーについては知らなかった、と」
( ´_ゝ`) 「ピーナッツ……ピーナッツ、か……」
( ´_ゝ`) 「食ってた、と言われたらそんな気もするし……」
これ以上詮索すると、勘違いが起こり得る。
早いうちに切り上げることにしよう。
.
- 562 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:11:03 ID:RuNqH/eU0
-
仮に、ここでピーナッツを食べていた、と言われても、
アレルギーというのは、ある日を境に突然発症することもある。
先天的なアレルギーばかりが話にあがるが、後天的なものも十分あり得る話なのだ。
それよりも問題は、ここで周知の事実だった、という情報が得られなかったことだ。
逆に、ここで知らない、と言っておけば容疑の目から逃れかねない。
もっとも、デミタスも知っていればその回避も防ぐことができたのだけど。
(´・ω・`) 「次」
(´・ω・`) 「この番号、見たことある?」
(´・ω・`) 「こう、着信がきたり、さ」
視線を遣って、例の050番号を見せる。
この番号が犯人だ、ということは書いていない。
犯人の番号だ、と明示しないのも、ちょっとした話術だ。
( ´_ゝ`) 「…?」
( ´_ゝ`) 「いや、ないね」
.
- 563 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:11:32 ID:RuNqH/eU0
-
一瞬、ピンときた。
取っ掛かり、と言えるほどでもないが、突起はあった。
(´・ω・`) 「ん? 確認しなくていいの? 履歴」
(´・ω・`) 「番号なんて、いちいち記憶してられないっしょ」
( ´_ゝ`) 「いや……これ、IP電話でしょ」
( ´_ゝ`) 「俺、IP電話はチャッキョしてるから」
チッ。
いまいち空回りで、思わず舌打ちが出る。
デミタスもだが、さすがに機械に強そうな若者なだけあって、
050という並びを見ただけで、即座にIP電話とつなげることができている。
(´・ω・`) 「詳しいね」
( ´_ゝ`) 「前に、格安スマホの営業に引っかかってさ」
( ´_ゝ`) 「電話線じゃなくて、050番号にすれば月千円もかかりませんよ!とか聞いて」
(´・_ゝ・`) 「あーーあるある」
.
- 564 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:12:17 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「軽く調べたら、実は結構アブナい番号らしいじゃん」
( ´_ゝ`) 「もし、どこかで見てたとしても、覚えてないね」
ポイントは、兄者も050番号には通じている、という点だ。
裏を返せば、その特性を利用して犯行に利用することもできた、ということ。
兄者が犯人と決まってこそいないが、
こういったところからでも、疑うべきかどうか、ということが掴める。
( ´_ゝ`) 「その番号が、どうかしたんスか」
(´・ω・`) 「ああ。 犯人の番号なんだ」
( ;´_ゝ`) 「なッ……」
一瞬、兄者がよろめく。
意図を隠して番号を見せたため、犯人のものだ、と予測つかなかったのか。
あるいは、ただの演技、偽りか。
.
- 565 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:12:45 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「そっか、珍しい番号だから見覚えあるかな、ッて思ったんだけど」
( ´_ゝ`) 「いや……すんません」
(´・ω・`) 「いいよ、もう特定はしてるからね」
( ´_ゝ`) 「え?」
今のも、話術のひとつ。
かけた本人が誰か、なんてのは当然、わかってない。
ただ、名義を貸した人と、それで商売していた暴力団については特定している。
嘘はついていないぜ。
(´・ω・`) 「どしたの?」
( ´_ゝ`) 「いや……え、だったら犯人わかってるんじゃあ……」
クソ。
引っかからないか。
.
- 566 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:14:06 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「まあまあ。 そこらは捜査機密ッてやつさ」
(´・ω・`) 「そうだなあ。 次」
謎、という謎は多岐にわたる。
特に、触れてないところで言えば、ライブ殺人。
クックルを呼び出した方法や、カメラの死角を知っていたこと。
しかし、それらでうまく鎌をかける方法が思いつかない。
(´・ω・`) 「……そうだな」
(´・ω・`) 「根本的なところだ」
(´・ω・`) 「兄者さん」
( ´_ゝ`) 「はい」
.
- 567 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:15:19 ID:uwtrYaCY0
- 支援支援
- 568 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:30:43 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「知っての通り、本件は、」
(´・ω・`) 「十年前、ヴィップ大学にあったアウトドアサークルの面々が織り成す事件だ」
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「当時揉める、ならともかく」
(´・ω・`) 「十年経った今になって、大々的な連続殺人が起こっている」
、 、
(´・ω・`) 「その、動機……心当たりはありますか?」
核心だ。
兄者が犯人かどうかなんかより、重要。
というより、消去法以外、彼を指し示す根拠が一切ない。
犯人だったら、その時に追い詰めれば、いい。
目下優先して得るべき情報は、動機、因縁、過去の話だ。
.
- 569 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:31:09 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「………」
( ´_ゝ`) 「………」
(´・ω・`) 「……」
(´・_ゝ・`) 「……」
兄者が、黙る。
静かになり、デミタスも、菓子をつまむ手を、一旦止めた。
考え込んでいるのかもしれないが、
その割には、その仕草を見せようとしていない。
( ´_ゝ`) 「………」
(´・ω・`) 「……肯定も否定もない、ッてことは」
(´・ω・`) 「あるんですね?」
.
- 570 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:32:09 ID:RuNqH/eU0
-
「いや」 。
兄者は、その言葉にはすぐに反応を示した。
( ´_ゝ`) 「そりゃあ、いろんな揉め事は、ありましたよ」
( ´_ゝ`) 「でも……それと、十年後ッてのが、いまいちリンクしない」
(´・ω・`) 「まあ、それは」
それは、僕も気になっていた点だ。
十年、とは言うが、厳密には十年きっかりではない。
過去の清算、と言ってきっかり十年後に起こった犯行ではない。
犯人が、形に拘っているわけでないというのはわかっていることだ。
となると必要なのが、どうして今、
十年 「ほど」 昔の関係を、清算する必要があったのか。
その理由づけ、裏づけ、動機づけ。
.
- 571 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:42:14 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「この際、どうして今になって、ッてのは置いとこう」
(´・ω・`) 「サークルであった、でかい事件……何がある?」
( ´_ゝ`) 「……」
またも、沈黙。
含みがあるのかどうかが掴めないのが、もどかしいところだった。
( ´_ゝ`) 「……いや」
( ´_ゝ`) 「あんまし、人に言いたいことじゃ、ないんだけど……」
脅すか。
(´・ω・`) 「はい問題!」
( ´_ゝ`) 「は?」
(´・ω・`) 「ここ、どーこだ!」
( ´_ゝ`) 「え、どこッて…」
.
- 572 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:43:49 ID:RuNqH/eU0
-
無機質な捜査一課分室。
白い壁の一面、ホワイトボードには、事件の概要が書いてあって、
その手前、セミナーには、生々しい証拠物件の多数が並んでいる。
ふと窓の外を見やれば、パトカーが多く停まっている。
警官服姿の人も多数いるし、なんなら、目の前にはスーツを着込んだ刑事がいる。
( ´_ゝ`) 「………警察」
( ´_ゝ`) 「警察、ですね」
(´・ω・`) 「厳密に言えば、警察本部」
(´・ω・`) 「ポリがうじゃうじゃいる、本丸ど真ん中」
( ´_ゝ`) 「……あのーー」
( ´_ゝ`) 「どんなくッだらねえ話でも、しゃべらないと逮捕されるんです?」
察したか。
しかし、肝が据わっているように見える。
(´・ω・`) 「いや、しないよ?」
.
- 573 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:45:16 ID:RuNqH/eU0
-
嘘は吐けないんだ。
近年、警察による強引な取り調べが問題になっている。
自白の強要、証言のねつ造、と。
さすがに、そんな悪行に走るつもりはないけど。
何かを察して、あるいは何かに怯えて、
隠し事をしよう、という気さえなくしてくれれば、僕はそれでいいんだ。
( ´_ゝ`) 「まあ、別にいいですけどね?」
(´・ω・`) 「オッいいね~~!」
( ´_ゝ`) 「ただ、まァーーじで、くッだらねえもんスよ」
(´・ω・`) 「ほうほう、たとえば」
.
- 574 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:47:06 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「一番ヤバかったの、なんだろう?」
(´・_ゝ・`) 「………あーー」
(´・_ゝ・`) 「あれだ、オナラ事件」
( ´_ゝ`) 「あーーー確かに」
(´・ω・`)
これは本当に、くッだらねえ話しか出てこない可能性もあるな。
もしかすると、本当に、彼らは何も知らないのだろうか。
まさか、現職刑事、それも警部が目の前にいる状況で、
オナラ、え、いまオナラとか言ったか。
そんな品のない話をするつもりというのか。
あるいは、そんなレベルの話しかない、というのか。
勘弁してくれ。
.
- 575 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:47:47 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「………概要だけ、言ってくれ」
(´・_ゝ・`) 「あれですよ」
(´・_ゝ・`) 「キャンプしてた時、みんなコテージで寝たんだけどね」
(´・_ゝ・`) 「この人が屁ェ扱いて……」
( ´_ゝ`) 「うんうん」
うんうんじゃねえ。
( ´_ゝ`) 「ちょっとしたオチャメ心で、俺じゃない、ッて言ったんだ」
( ´_ゝ`) 「でも場所が悪かった。 近くにはセリっ……芹澤さんしかいなくて」
(´・_ゝ・`) 「で、その時セリっちは、おなか壊してたもんで」
タイミングが悪すぎる。
( ´_ゝ`) 「ンもうあの子、バチギレよ」
( ´_ゝ`) 「でも、俺も言ったからには後に引けなくて……つい……」
いや引けよ。
.
- 576 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:48:31 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「臭いの実況とかしてたら、あの子、半分泣きながら暴れて……」
(´・_ゝ・`) 「あの時、まじであの子、泥酔だったからなァ……」
なんてことをしてくれるんだ、こいつら。
僕だっていやだぞ、そんなの。
( ´_ゝ`) 「ほら、見てよ、これ」
( ´_ゝ`) 「あの子に突き飛ばされて、ベッドの角に脛ぶつけたんだけど」
( ´_ゝ`) 「まあ、凹んじゃってね。 痕がまだ残ってる」
確かに一大事すぎるが。
もしそれが原因で連続予告殺人になったとしたら、犯人はあんただぞ。
(´・_ゝ・`) 「あれよ、あの子、言ったら姫だったわけじゃん」
(´・_ゝ・`) 「みんな、あの子の家に謝りにいったりしてさァ」
小学生かよ。
.
- 577 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:49:29 ID:RuNqH/eU0
-
(;´・ω・`) 「……わかった、わかった」
(´・ω・`) 「で、紅一点の彼女にサークルを抜けられたら困る、と」
( ´_ゝ`) 「え、紅一点?」
(´・ω・`) 「ん?」
( ´_ゝ`) 「……いや、なんでもない」
( ´_ゝ`) 「そう。 姫だからね。 オタサーの姫さ」
( ´_ゝ`) 「それもオタクっ娘じゃなくて、マジな陽キャ美人だからね」
(´・_ゝ・`) 「セリっち、まじで可愛かったよね」
( ´_ゝ`) 「そうそう、今だから言うけど、最初女王に目覚めた時、実は勃ってたよ俺」
(´・_ゝ・`) 「ちょwwwww不謹慎だけどwwwwおいwwww」
( ´_ゝ`) 「だってwwwwww」
(´・_ゝ・`) 「自分は毎回勃ってた」
( ´_ゝ`) 「おwwwwまwwwwえwwwwwコラwwwww」
( ´_ゝ`) 「俺もだよ言わせんな恥ずかしい」
(´・_ゝ・`) 「wwwwwwwwwwwwww」
.
- 578 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:50:39 ID:RuNqH/eU0
-
二人が談笑に入った隙に、思わずワカッテマスに一瞥を与える。
同感だったようで、ワカッテマスもすぐ、隣まで寄ってきた。
( <●><●>) 「……いまのは、間違いないですね」
(´・ω・`) 「ああ。」
ついに見つけた、取っ掛かり。
現代の船から、過去の記憶をサルベージするための、きっかけ。
、 、、 、 、、 、 、
(´・ω・`) 「いたんだ。 もう一人。」
( <●><●>) 「それも……察するに、女性」
今までの、デミタス、ならびにミセリとの会話が、フラッシュバックする。
僕が常々引っかかっていた、
しかし取っ掛かりが見つけられないでいた、ひとつのテーマ。
、 、
人数だ。
.
- 579 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:51:09 ID:RuNqH/eU0
-
>
>( <●><●>) 「擬古、小森、三階堂、奥さん、流石、盛岡」
>
>( <●><●>) 「以上の六人、だったのですか?」
>
>ミセ*゚-゚)リ 「…」
>
>
>( <●><●>) 「サークル、となると」
>
>( <●><●>) 「OBだったり、新入生だったりが考えられますが」
>
>ミセ*゚-゚)リ 「…」
>
>ミセリは、煙草を根本まで吸いきった。
>
>ミセ*゚-゚)リ 「六人だけ、ですよ」
>
.
- 580 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:51:56 ID:RuNqH/eU0
-
>
>(´・ω・`) 「フッサール擬古、ヒッキー小森、クックル三階堂、芹澤ミセリ」
>
>(´・ω・`) 「あんたと、部長の流石兄者……で全員なんだね?」
>
>(´・_ゝ・`) 「…」
>
>
>(´・ω・`) 「…?」
>
>即答、しないのか。
>ちょっと、嫌な予感がした。
>
>
>(´・_ゝ・`) 「……」
>
>(´・_ゝ・`) 「そうだ、ね。 ウン」
>
>(´・_ゝ・`) 「その六人しかいないよ」
>
.
- 581 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:52:23 ID:RuNqH/eU0
-
( <●><●>) 「ミセリが人数に言及する時、わずかに、沈黙を見せた」
(´・ω・`) 「デミタスもだ」
(´・ω・`) 「どこか腑に落ちないような、遠回しな言い方だったね」
歯車のひとつが、噛み合いはじめる。
ギシギシと、醜い音を立てて、過去と現代が繋がろうとしている。
しかし、それだけでは、その歯車が成す全体像が窺えない。
ここからは、更に慎重に言葉を選ばなければならない。
(´・ω・`) 「そして、兄者も、それを隠そうとしてるんだ」
今の、紅一点、に対するレスポンス。
明らかに、否定の色を見せていた。
ここまで来ると、ミセリが、デミタスが、といった次元ではない。
サークルの関係者全員が、隠そうとしている事実がある、ということだ。
.
- 582 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:52:44 ID:RuNqH/eU0
-
それは、言葉を間違えて、閉口させてしまえば、聞き出すチャンスを失うことになる。
現状兄者に法的な容疑がかかっていない以上、
そして容疑があろうが黙秘権は行使できる以上、
至って自然な、しかし強引な形で、情報を引き出す必要があった。
咳払いすると、ワカッテマスは元いた位置に戻った。
下手に刑事が二人並んでいると、いらぬプレッシャーを与えてしまう。
(´・ω・`) 「兄者さん」
( ´_ゝ`) 「ハイなんでしょう、兄者です」
これが、素なのだろう。
飄々とした、掴みどころのない様子を見せた。
(´・ω・`) 「ここでクーイズ!」
( ´_ゝ`) 「いえーい!」
( ´_ゝ`) 「ッてなんですかいったい」
少し笑いながら、返す。
さっきとは全然違うリアクションだ。
.
- 583 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:53:08 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「ここ、どーこだ!」
( ´_ゝ`) 「Police Office」
(´・_ゝ・`) 「いい発音だ…」
(´・ω・`) 「じゃあ、次!」
(´・ω・`) 「僕、だーれだ!」
( ´_ゝ`) 「えっと……」
( ´_ゝ`) 「……ケイージ!」
(´・_ゝ・`) 「だめな発音だ…」
教えてやるよ。
正解はショボーン、またの名をイツワリ警部だ。
(´・ω・`) 「あんた、嘘を吐いてるな?」
.
- 584 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:53:58 ID:RuNqH/eU0
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|`ヽ /|
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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第六幕 「 七人目 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
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- 585 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:54:19 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「嘘って?」
緊張は払拭できたのだろう。
そして、僕の声色を受けて、これがまじめな話であることも察しただろう。
しかし、怯みはしない。
やはり、相当肝っ玉のある男に違いない。
(´・ω・`) 「おさらいも兼ねて、聞こう」
(´・ω・`) 「くだんの、サークル……」
、、 、、 、 、、
(´・ω・`) 「在籍したことのある人は、」
(´・ω・`) 「あんた二人、フッサール擬古、ヒッキー小森、クックル三階堂、芹澤ミセリ」
(´・ω・`) 「以上、六人で、間違いないね?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
捕まえたぞ。
.
- 586 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:54:45 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「そっちの彼は、知ってるだろうけど」
(´・ω・`) 「僕、これでも、関係者にはちょっとしたことで知られてるんだ」
( ´_ゝ`) 「なんの話?」
(´・ω・`) 「偽りを見抜くプロ……ッてことを、さ」
(´・_ゝ・`) 「…!」
デミタスが、はッとする。
この男は、かつての密室鉄道で、その姿を見ている。
(´・ω・`) 「これまでの話と照らし合わせると、ひとつ」
(´・ω・`) 「不思議な点がある」
( ´_ゝ`) 「不思議って?」
(´・ω・`) 「どうして、きみは紅一点という言葉に引っかかった?」
.
- 587 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:55:30 ID:RuNqH/eU0
-
兄者に限らず、事件にかかわる人間は、
何かを隠したり、偽ったりすることがある。
そしてそれらは得てして、事件を解く鍵となり得る。
重要なことほど、関係者諸兄にも深く根ざすファクターだからだ。
それを聞きだすのに、刑事によって、やり方はあるだろう。
巧みな話術で、鎌をかける。
あるいは泣き落とし、同情を誘って、吐かせる。
ペニーのように、相手を圧倒して吐かせる刑事もいる。
ワカッテマスのように、賢いやり口でポロッと言わせる刑事もいる。
だが、僕のやり方は、違う。
ロジックの綱渡り、正面切っての真っ向勝負だ。
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「この六人なら、百人中百人が、紅一点と認識する」
(´・ω・`) 「でも、たった一人だけ」
(´・ω・`) 「紅一点じゃない、と認識してしまった人がいるんだ」
.
- 588 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:55:53 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「話が、見えませんが」
(´・ω・`) 「あんただよ、流石兄者」
( ´_ゝ`) 「…、」
少しばつの悪そうな顔をする。
なかなか精神的にタフそうな男だ。
( ´_ゝ`) 「聞きなれない言葉だったんですよ」
( ´_ゝ`) 「コウイッテン……コウイッテン……」
( ´_ゝ`) 「ああ、そゆことね、ッて思って」
言うなれば、詰将棋。
コマの進め方を間違えなければ、最終的に相手は白状せざるを得なくなるのだ。
.
- 589 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:56:16 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「日常的に使わない言葉だったとしても、ねぇ」
(´・ω・`) 「数分前……僕は既に、コウイッテンという言葉を聞いたんだ」
( ´_ゝ`) 「え? セリっちの話?」
(´・ω・`) 「違うよ」
>
>( ´_ゝ`) 「コミケがあったんよ」
>
>( ´_ゝ`) 「ほんとグーゼン再会してさ。 ほら、中の人事件の年の」
>
>( ´_ゝ`) 「ピンクレンジャーのやつ」
>
>(´・_ゝ・`) 「あれかwwwwあれかwwww」
>
>( ´_ゝ`) 「紅一点ならぬウン紅一点wwww脱糞事件www」
>
(´・ω・`) 「ピンクレンジャー云々の時さ」
(´・ω・`) 「あんたは、自分のクチで、紅一点、と言ってんのさ」
.
- 590 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:57:22 ID:RuNqH/eU0
-
( ;´_ゝ`) 「!」
(´・ω・`) 「だというのに、一瞬認識に詰まった?」
(´・ω・`) 「それは、言葉が認識できなかったんじゃなくて、」
(´・ω・`) 「サークル六人の状況と合致していなかっ」
( ´_ゝ`) 「一瞬、聞き取れなかった」
( ´_ゝ`) 「それだけですよ」
当然、そう来るだろう。
王手をかけられた相手玉、前に進めば桂馬が噛んでいる。
囲いの裏を、縫うように逃げるしかない。
しかし、わかっているなら続けて王手を。
王手は追う手、壁に習った言葉だ。
( ´_ゝ`) 「だいたい、六人じゃなかったなんて話、あったんですか?」
(´・ω・`) 「それが、あったんだよ」
( ´_ゝ`) 「…ッ!」
.
- 591 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 17:58:55 ID:RuNqH/eU0
-
>
>(´・_ゝ・`) 「そうだ、ね。 ウン」
>
>(´・_ゝ・`) 「その六人しかいないよ」
>
>(´・ω・`) 「…」
>
>何か、隠しているのか。
>それとも、幽霊部員やすぐに辞めた人をカウントするか悩んだのか。
>
>
>(´・ω・`) 「幽霊部員とかも、勘定してほしい」
>
>(´・_ゝ・`) 「ヤ、そんなのはいなかったよ」
>
>(´・ω・`) 「じゃあ、六人でウソじゃないんだな?」
>
>(´^_ゝ^`) 「……………ウソじゃ、ないな」
>
.
- 592 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:01:49 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「彼が、既に証言してくれている」
、 、、、 、 、
(´・ω・`) 「六人で、ウソじゃない」
( ´_ゝ`) 「言ってるじゃないスか」
( ´_ゝ`) 「しっかり、六人だ…ッて」
(´・ω・`) 「六人でウソじゃない、ッて言い方はだね」
(´・ω・`) 「ある捉えようによっては、六人である」
、 、 、 、 、、
(´・ω・`) 「しかし、正確に言えば六人ではない」
(´・ω・`) 「つまり、いたんだよ」
(´・ω・`) 「七人目が、さ」
.
- 593 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:03:50 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「これでも、一応サークルですよ」
( ´_ゝ`) 「入ろうとした人、入ったもののすぐ抜けた人…」
( ´_ゝ`) 「そーゆー人は、確かにいましたよ」
無論、そう逃げる。
しかしそれに対する解答も、既に用意してくれていた。
幽霊部員やその類は、いないのだ。
(´・ω・`) 「違うね」
、 、、、 、、
(´・ω・`) 「そのウソじゃない部分に、非正規部員は勘定されてないんだ」
(;´・_ゝ・`) 「…」
( ´_ゝ`) 「…」
.
- 594 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:04:17 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「盛岡デミタスと、芹澤ミセリが証言した内容は、こうだ」
(´・ω・`) 「サークルの正規部員は、確かに六人だ」
(´・ω・`) 「しかし、正規の範疇に入らない、七人目は、いた」
、 、 、 、 、 、 、 、 、、 、 、
(´・ω・`) 「そしてそこに、非正規部員は勘定されない」
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
(´・ω・`) 「…?」
( ´_ゝ`) 「ッ」
静かな部屋に、ワカッテマスの声が響いた。
思わぬ方角からの横やりに、僕はもちろん、ふたりも反応を見せた。
僕の隣に寄り、鋭い視線を僕に向ける。
.
- 595 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:05:59 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「…なんだ?」
( <●><●>) 「矛盾していませんか」
(´・ω・`) 「何がだ」
( <●><●>) 「六人でウソじゃない、とは確かに証言されましたが」
( <●><●>) 「その言葉の意味するところは、非正規部員の存在」
( <●><●>) 「ただし一方で、非正規部員は勘定されてない」
( <●><●>) 「求められる七人目とは、正式に加入し、活動を共にした第三者です」
( <●><●>) 「そんな人物がいたら、最初から七人目として、カウントされています」
( <●><●>) 「しかし、デミタスもミセリも、六人のみを挙げている」
( <●><●>) 「無論、口裏合わせの線はありません」
(´・_ゝ・`) 「……ああ」
.
- 596 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:06:32 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「しかし、ふたりが」
(´・ω・`) 「そして部長サマまで隠そうとしているのも、立証できている」
(´・ω・`) 「それも、口裏合わせなしで、違う形で、だ」
六人でウソじゃない。
それはつまり、七人目のメンバーがいた可能性。
幽霊部員や退部の類ではない。
それはつまり、彼ら六人と行動を共にしてきたということ。
紅一点に示す態度。
それはつまり、芹澤ミセリ以外に女性メンバーがいた。
そして提示されている六人の既存メンバーに、
芹澤ミセリ以外の女性メンバーは認められていない。
(´・ω・`) 「当事者である部員たちが、言外で認めてるんだ」
(´・ω・`) 「七人目、それも、女性!」
.
- 597 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:07:15 ID:RuNqH/eU0
-
( <●><●>) 「だったら、それを隠す根拠がいる」
( <●><●>) 「デミタス、ミセリ、そして兄者の全員が、」
( <●><●>) 「口を揃えて隠す根拠です」
( ´_ゝ`) 「…」
(´・ω・`) 「ひとつ、面白い屋根を一枚、追加しよう」
( <●><●>) 「屋根…?」
(´・ω・`) 「本件において、外すに外せない、大きな謎がある」
( <●><●>) 「たくさんありますが」
(´・ω・`) 「根底は、動機だ」
( <●><●>) 「…」
.
- 598 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:08:43 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「ただの大学サークルに眠っている、十年越しの殺意」
(´・ω・`) 「それは、彼ら三人皆一様に、予想できないでいる」
(´・ω・`) 「……一方で、サークルには、七人目の女性がいた」
(´・ω・`) 「口裏合わせなしで、隠されてるんだ」
(´・ω・`) 「サークル全体で、ある種の箝口令というものが、あったんだろう」
(´・ω・`) 「それも、十年前に」
(;´・_ゝ・`) 「……兄者氏」
( ´_ゝ`) 「……」
(;´・_ゝ・`) 「……」
少しずつ見えてきた、迷宮に差し掛かる一筋の光。
希望の現れか、青天の霹靂か。
.
- 599 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:09:30 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「言っとくがな」
(´・ω・`) 「なんだい?」
( ´_ゝ`) 「俺らは、嘘なんてついていない」
( ´_ゝ`) 「その七人目とやらは、本当はいた?」
( ´_ゝ`) 「いたら、開口一番に言ってやるよ」
( ´_ゝ`) 「じゃねーと、俺が疑われちまうんだ」
(´・ω・`) 「…」
(;´・ω・`) 「…ッ!」
もう一つあった。
根底に眠る 「謎」 。
.
- 600 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:11:08 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「確かに、正確に六人だったのか、と問われると」
( ´_ゝ`) 「本当は、違うんだ」
( <●><●>) 「…! なら、」
( ´_ゝ`) 「言いたくないんだ」
( <●><●>) 「しかし!」
( ´_ゝ`) 「言いたくないし、なんなら、これだけは断言できる」
( ´_ゝ`) 「そいつは、この事件とは、一切、関係がない」
( ´_ゝ`) 「絶対に、関係はないんだ」
( <●><●>) 「それは我々が判断することです」
( ´_ゝ`) 「あり得ねえよ」
( ´_ゝ`) 「物理的に、関係することができない」
( <●><●>) 「それって…」
.
- 601 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:12:23 ID:RuNqH/eU0
-
七人目は確かにいて、部員は皆、彼女を隠していた。
たった今、兄者も、認めた。
しかし、解せない謎がまだ、あったではないか。
デミタスも、兄者も。
自分が疑われかねない状況下に置かれてもなお、
真犯人の存在を、推測できないでいる。
彼女がどんな人物であっても、
殺人という事件を前に、隠し通す、あるいは守り抜くなんてことが、できるのか。
( ´_ゝ`) 「おたくらが七人目とやらを見つけ出したとして、だ」
( ´_ゝ`) 「完ッ全に、空回りだぜ」
意図して、七人目をかばっているのではない。
ほんとうに、その七人目は、この事件に関わることができないんだ。
.
- 602 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:13:34 ID:RuNqH/eU0
-
たとえば、海外在住なんてどうだろうか。
物理的に、距離的に、という視点。
しかしそんなもの、無断で帰国して、殺害することができる。
たとえば、懲役十年以上の大罪を犯し、投獄中の線。
脱獄の話なんて僕は聞いてない以上、アリバイは成立するかもしれない。
しかし、刑期は縮まることもあるし、それらを彼らが知る由もない。
兄者の言葉を言い換えれば、七人目は完全なアリバイに守られていて。
更に、サークルが一丸となって避けたがる禁忌でもある。
となると、この線から辿ればいい。
刑事だから断言できる。
完全なアリバイなどというものは、滅多に存在しない。
しかし、それでもごく稀にあり得る、完全なアリバイ、となると。
(´・ω・`) 「ッ!」
.
- 603 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:14:23 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「…」
(´・_ゝ・`) 「…」
閃きかけた時。
けたたましい着信音が、室内に鳴り響いた。
(´・ω・`) 「……誰だ、こんな時に!」
半ば乱暴に、応答する。
大した情報があがってきたわけでないのなら、僕は即座に切る。
(´・ω・`) 「もしもし、ショボーンだ」
『はじめまして、ショボーン警部』
(´・ω・`) 「いま忙しいから、手短に言え」
誰だ。
そういえば番号は見ていなかったが。
.
- 604 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:15:12 ID:RuNqH/eU0
-
『捜査は順調ですか?』
苛立っている時に、神経を逆撫でしてくるような言葉づかい。
といったところで、僕はいよいよ、違和感に苛まれた。
この声は、なんだ?
(´・ω・`) 「…ッ」
待て。
こいつは、誰だ。
壁でもぎょろ目でも、所轄の誰かでもない。
そもそも、はじめまして、とか言ったか。
はじめましてだと。 誰だ。
『失礼しました』
『名刺を失敬しましたので、つい』
名刺だと。
僕の名刺は滅多なことでは出していないぞ。
.
- 605 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:15:59 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「待て」
(´・ω・`) 「あんたは、誰なんだ」
(´・ω・`) 「どうして僕の名刺を持っている」
すると、声の主は、くすくす笑った。
『持っていたのですよ』
『芹澤ミセリさんが』
(´・ω・`) 「 ッ! 」
(;´・ω・`) 「 な… 」
(;´・ω・`) 「おいッ!どういうことだ!」
(;´・ω・`) 「彼女のことを……何か知っているのか!」
.
- 606 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:16:29 ID:RuNqH/eU0
-
手に汗が滲んできた。
ここまで来たら、答えはひとつしかない。
しかし、それはここまでの積み重ねすべてをぶっ潰す答えとなる。
兄者、デミタスは、きょとんとした面持ちで僕を見つめている。
当然、電話なんてかけていない。
一言も言葉を発していない。
『当然ですよ』
『同じサークルのよしみですから』
大きく喉を詰まらせた。
考えに整理がつかず、混乱してしまっている。
(;´・ω・`) 「………」
(;´・ω・`) 「ひとつ、疑問なんだが」
『なんですか』
ちぎれそうな、細い声だ。
機械で声を変えているのはわかるが、女性的な言葉づかいだ。
.
- 607 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:18:25 ID:RuNqH/eU0
-
(;´・ω・`) 「僕は、確かに彼女に、名刺を渡した」
(;´・ω・`) 「でも、それは……一昨日の話」
(;´・ω・`) 「そして彼女は、今日、殺されたんだ」
『はい』
確定した。
ここに、いま、事件の犯人がいる。
(;´・ω・`) 「………そうか、わかった」
『それが、どうかしましたか』
(;´・ω・`) 「ひとつ、聞きたいことがある」
『なんですか』
(;´・ω・`) 「きみはいったい、誰だ?」
(;´・ω・`) 「そして、僕に電話をかけた理由は、なんだ?」
.
- 608 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:19:50 ID:RuNqH/eU0
-
『予告です』
(;´・ω・`) 「予告だと?」
ふざけているのか?
(;´・ω・`) 「僕は、警部だぞ?」
(;´・ω・`) 「傍受される可能性があるんだ、それをどうして、わざわざ…」
『大丈夫ですよ』
一切、動じない。
傍受や逆探知といったリスクは、捜査技術に疎くてもなんとなくで察せるはずだ。
しかし、一切の動揺が感じられない。
特定される、なにかしらの情報が抜かれるリスクを考慮していない。
(;´・ω・`) 「大丈夫? なにがだ?」
『誰にも、私を捕まえることは、できませんから』
(;´・ω・`) 「………なに?」
(;´・ω・`) 「どういうことだ」
.
- 609 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:21:01 ID:RuNqH/eU0
-
『どんな刑事でも、捕まえられない罪人』
『いると、思いますか?』
(;´・ω・`) 「………何の話だ」
『物のたとえですよ』
どんな刑事でも、捕まえられない罪人。
このなぞなぞの意味するところが、わからない。
(;´・ω・`) 「……いない、とは、言いきれない」
『へえ、たとえば』
考えを、整理しなければいけない。
そのためにも、話を長引かせる必要がある。
ワカッテマスは知らずのうちに僕の隣に待機し、
通話口から聞こえてくる微かな機械音に耳を澄ませている。
(;´・ω・`) 「たとえば、治外法権」
(;´・ω・`) 「罪人を罪人足らしめるのは、法だ」
(;´・ω・`) 「その法を潜り抜けられてしまえば、逮捕はできない」
.
- 610 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:21:23 ID:RuNqH/eU0
-
すると、女は笑った。
アハハ、と力ない笑い声だ。
『誰も、逮捕なんて言ってませんよ』
(;´・ω・`) 「なに?」
『捕まえられない、罪人です』
『物理的に、捕まえられない罪人、なんです』
(;´・ω・`) 「………そんな罪人が、いるのか?」
『そうですね……』
『……安心しました』
(;´・ω・`) 「何がだ?」
『すぐにわかるようなら、あるいは、と思いましたが』
『その様子なら、私を捕まえることは、できそうにないので』
(;´・ω・`) 「言いたいことは、はっきり、言ってくれ」
『簡単ですよ』
.
- 611 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:22:16 ID:RuNqH/eU0
-
『亡霊』
(;´・ω・`) 「!」
亡霊。
亡霊だと。
『亡霊を捕まえることは、できません』
『おわかりいただけましたか?』
(;´・ω・`) 「……亡霊」
(;´・ω・`) 「きみが、その、亡霊と言うのかい?」
『ええ』
切り裂きジャックだ。
.
- 612 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:23:05 ID:RuNqH/eU0
-
この僕に、堂々と宣戦布告を下す。
犯行を認め、更なる犯行を予告するときた。
切り裂きジャックだ。
亡霊と聞いて、真っ先に浮かんだのがそれだった。
百年以上も昔の、御伽噺だ。
某所で立て続けに猟奇的な殺人事件が発生した。
犯人は声明を送り、更に自らをジャックザリッパーと名乗った。
そして未だに、その連続殺人事件の犯人は、明らかになっていない。
地下鉄殺人、ホテル殺人、ライブ殺人、滝殺人を経て。
自らを亡霊と名乗る、本件の真犯人。
まさしく、切り裂きジャックが先駆けとなった劇場型殺人の、お手本とすら言える。
この上ない、屈辱だ。
(;´・ω・`) 「そうだな。 合点がいったよ」
(;´・ω・`) 「確かに、罪人が既に死んでいたら、捕まえることはできない」
『あなたがどんなに頑張っても、私を捕まえることは、できません』
.
- 613 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:23:26 ID:RuNqH/eU0
-
(;´・ω・`) 「だったら、犯行手口なんか聞いても、答えられるわけだ」
(;´・ω・`) 「捕まるわけがないから、ッてね」
『……まあ、そうですね』
(;´・ω・`) 「……フッサール擬古は、地下鉄で殺されたんだ」
(;´・ω・`) 「どうやって、殺した、というんだい?」
『どうやって、も何も』
『後ろから刺しただけですよ』
(;´・ω・`) 「乗客に見つからないように?」
『だから亡霊なんですよ』
『私は、見つかりませんからね』
(;´・ω・`) 「なッ………!」
.
- 614 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:23:48 ID:RuNqH/eU0
-
『いいでしょう。 全部白状しますよ』
『続いてのヒッキー小森は、ピーナッツオイルを使いました』
(;´・ω・`) 「どうして、そんな遠回りを?」
(;´・ω・`) 「素直に、刺し殺せばいいだけじゃないか」
『場所がホテルでしたからね』
『密室が成立してしまうと、後々めんどうになる』
(;´・ω・`) 「だったら、どうしてホテルで殺す必要がある?」
(;´・ω・`) 「そんなもの、自宅にいる時に…」
『私は、あくまでヴィップに移ろう亡霊』
『ヴィップにやってくるその時でなければ、殺せなかったの』
地縛霊、とでも名乗るつもりだろうか。
単なる設定としか思えないが、そもそもの根本が 「亡霊」 だ。
そこを突っ込もうとすら思えない。
.
- 615 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:24:23 ID:RuNqH/eU0
-
(;´・ω・`) 「……さしずめ、地縛霊だな」
『似たようなものかもしれませんね』
亡霊も、そこまで言及はしなかった。
(;´・ω・`) 「でも、ホテルに入る前に薬を飲まれたら…」
『ホテルに入ってから、薬を飲むのを待ったのですよ』
『幸い、部屋に入ってすぐに飲んだので、待つ手間が省けましたが』
(;´・ω・`) 「なんだと?」
(;´・ω・`) 「ホテルのカメラに、待ち伏せるような人なんて…」
『知っている?』
『亡霊は、人の眼にうつらないのよ』
.
- 616 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:24:53 ID:RuNqH/eU0
-
(;´・ω・`) 「 」
(;´・ω・`) 「なら……筆跡だ!」
(;´・ω・`) 「事件は、はがきで予告が出されていた」
(;´・ω・`) 「それも、肉筆で……」
言いかけたところで、亡霊が笑った。
『無駄ですよ』
(;´・ω・`) 「なんだと!?」
『一致する筆跡は、ありません』
『だからこそ、わざわざ肉筆で予告したのですよ』
(;´・ω・`) 「そんなバカな…」
『ほんとうなのだから、仕方ありません』
『私は、亡霊ですから』
『亡霊は、たとえ筆跡からだろうが、捕まえることはできません』
.
- 617 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:25:15 ID:RuNqH/eU0
-
亡霊。
亡霊だと。
既に死んでいるとでも言うのか。
バカバカしい。
ただの比喩だろう。
しかし、比喩となると、なんの比喩なのか。
絶対に捕まらないという自信からそう言っているのか。
バカバカしい。
もとはただの一アウトドアサークルだ。
一般人が為せる行動ではない。
(;´・ω・`)
(;´・ω・`) 「……なら、名前は」
『私のですか?』
.
- 618 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:25:55 ID:RuNqH/eU0
-
(;´・ω・`) 「亡霊と言えど、名前は永久につきまとう」
(;´・ω・`) 「きみの名前は、なんなんだい?」
『聞いて、どうするんですか?』
(;´・ω・`) 「ただの興味……」
(;´・ω・`) 「………なんて嘘は、いいや」
『?』
ちいさく、咳払いをする。
(´・ω・`) 「きみを、捕まえるためさ」
.
- 619 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:26:33 ID:RuNqH/eU0
-
すると亡霊は、今までで一番大きく笑った。
それでも、大声というほどでは、ない。
アハハハ、アハハハと、繰り返し笑う。
『私を、ですか?』
『先ほども言いましたが、絶対に、捕まえられませんよ』
(´・ω・`) 「事件が終わるまで、わからないさ」
『そうですか』
『いいでしょう』
(´・ω・`) 「…!」
『はじめまして、ショボーン警部』
『山村貞子と申します』
.
- 620 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:26:54 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「山村…」
( ´_ゝ`) 「!」
(;´・_ゝ・`) 「!」
(´・ω・`) 「それが、きみの名前なんだね?」
(´・ω・`) 「……あれ?」
電子音がするな、と思いよく見ると、電話は既に切られていた。
番号を確認すると、例の050番号だった。
間違いない。
殺されたミセリが持っていた名刺。
僕に対する挑戦状。
そしてその電話番号。
間違いない。
彼女が、犯人だ。
.
- 621 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:28:37 ID:RuNqH/eU0
-
( ;´_ゝ`) 「……切れた?」
(´・ω・`) 「ん。 ……おっと、失礼」
( ;´_ゝ`) 「なあ、ひとつ、聞きたいことがあるんだが……」
(´・ω・`) 「その前に……僕からも、聞きたいことがある」
( ;´_ゝ`) 「………なんだ?」
(´・ω・`) 「山村貞子」
(´・ω・`) 「……あんたら、知ってる?」
聞くと、兄者とデミタスは、目を見開いて、
この上ないオーバーなリアクションを取った。
兄者は大きく仰け反り、苦痛をかみ殺したような顔をしている。
デミタスは胸辺りを両手で強く握っている。
.
- 622 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:29:23 ID:RuNqH/eU0
-
(´・ω・`) 「……知ってる、よな?」
(´・ω・`) 「誰なんだ?」
( ;´_ゝ) 「………」
(´・ω・`) 「……付け加えると」
(´・ω・`) 「七人目の女、というのは、山村貞子か?」
( ;´_ゝ) 「………」
(;´・_ゝ・`) 「………」
.
- 623 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:30:00 ID:RuNqH/eU0
-
( ;´_ゝ`) 「……そうだ」
( ;´_ゝ`) 「当てられたのなら、仕方ない」
( ;´_ゝ`) 「山村貞子……」
( ;´_ゝ`) 「確かに、うちのサークルの、一員だった」
(´・ω・`) 「ほう」
、 、 、
(´・ω・`) 「………だった?」
兄者が、大きく息を吸い込んだ。
何度も繰り返し、深呼吸した。
.
- 624 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:30:26 ID:RuNqH/eU0
-
( ´_ゝ`) 「山村貞子はな」
( ´_ゝ`) 「十年前に、死んでいるんだ」
.
- 625 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:30:59 ID:RuNqH/eU0
- 序幕 >>2-69
第一幕 >>82-211
第二幕 >>218-296
第三幕 >>304-388
第四幕 >>398-468
第五幕 >>477-528
第六幕 >>539-624
- 626 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:31:38 ID:uwtrYaCY0
- 乙
- 627 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 18:38:21 ID:X58KtxAk0
- 乙乙
面白くなってきた
- 628 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 19:47:06 ID:l6XkF/VE0
- どうなるんだこれ…
乙
- 629 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 20:20:30 ID:KUChG51c0
- 回ごとに風呂敷が広がってる…
- 630 名前:名無しさん:2018/10/03(水) 22:07:53 ID:..E4uZS.0
- おつ
謎大杉ぃ!わからんことだらけで次の投下楽しみ過ぎる
- 631 名前:名無しさん:2018/10/04(木) 00:47:48 ID:N/ioqlqE0
- おつー
- 632 名前:名無しさん:2018/10/05(金) 10:43:19 ID:gejPRl9w0
- おつ
兄者が思ってたより相当おとぼけな感じで好き
- 633 名前:名無しさん:2018/10/06(土) 10:36:59 ID:AUEkhNwA0
- 乙
これどう畳むんだ
これからの展開にwktkしかない
- 634 名前:名無しさん:2018/10/07(日) 17:13:35 ID:y5fTg7fo0
- 謎が解けたわ
被害者は全員タイムマシンで10年前に戻ってその時に殺されたんだよ
10年前なら山村貞子もまだ生きてる
そして貞子がタイムマシンで現代に被害者を現代に送り直せばトリック成立だ
- 635 名前:名無しさん:2018/10/07(日) 17:29:00 ID:bBs6M1WM0
- ネタバレするな
- 636 名前:名無しさん:2018/10/07(日) 18:54:16 ID:Y2eieB020
- な、な、なんだってー!
- 637 名前:名無しさん:2018/10/07(日) 19:02:12 ID:OHTcBT5w0
- でも作者前科があるからな
最終的な犯人は推理しようがない人物って
- 638 名前:名無しさん:2018/10/07(日) 22:17:36 ID:zzseH6ec0
- 今回トソンがあんまり絡んでないからな
そろそろなんかありそう
- 639 名前:名無しさん:2018/10/08(月) 14:19:45 ID:kKEjFb/I0
- 偽りの雰囲気大好きだあ
- 640 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:31:23 ID:l91x2tpA0
-
|`ヽ /|
|. \ /. i
| ヽ / ノ
! `ー‐- '、
| .、
l !
r---ゝ !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
l :::::::::::::::゙ 、 _| n
イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第七幕 「 亡霊 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
| l ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
l ,,;:::::::::l / :::::::::'、:;:;、;;|
/ ,,;;:::::::::::::::// l:::::::l
.
- 641 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:31:51 ID:l91x2tpA0
-
┏━─
五月六日 午後十八時五一分 捜査本部
─━┛
(;´・ω・`) 「 ッ 」
(;´・ω・`) 「……んだと?」
( <●><●>) 「ここまで来て、ごまかしは許せない」
( <●><●>) 「もう一度聞きますが、山村貞子という女性、は……」
(;´・_ゝ・`) 「……言うのか?」
( ´_ゝ`) 「バレちゃあ、仕方ない」
( ´_ゝ`) 「どうせ、調べられたら、すぐわかるんだ」
.
- 642 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:32:54 ID:l91x2tpA0
-
亡霊とは、何かの比喩だと思った。
思った、というより、あり得ないからだ。
ほんとうに死んだ人間が、罪を犯す、など。
言うまでもない。
ナイフを使うのも、オイルを使うのも、
名刺を奪うのも、電話を使うのも。
その全て、絶命した人間ができる行為ではない。
(´・ω・`) 「死んだ、というのは、比喩じゃない」
(´・ω・`) 「文字通り、生命として、死んだ、ということか?」
( ´_ゝ`) 「……ちょっと、違うんだな」
(´・ω・`) 「何?」
.
- 643 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:33:35 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「いや、どうなんだろ」
( ´_ゝ`) 「死ぬ、という定義の……怪しいところにあることは、間違いない」
(´・ω・`) 「どういうことだ」
( ´_ゝ`) 「植物状態なんだよ」
(´・ω・`) 「ッ」
( ´_ゝ`) 「厳密に死んだ、かどうかは、俺にはわからん。 医者じゃねえからな」
( ´_ゝ`) 「ただ……なんにせよ、死んだ、と言われても間違いではない」
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
( <●><●>) 「……そういえばあなた」
( ´_ゝ`) 「自分、ですか」
( <●><●>) 「ここに来る前、あなたは……」
.
- 644 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:34:26 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「!」
( ´_ゝ`) 「アルプス神経病院にいたよ」
(;´・ω・`) 「それって……」
( ´_ゝ`) 「貞子がな」
( ´_ゝ`) 「眠っていた場所なんだ」
兄者が、ヴィップからわざわざアルプスに出向いていた理由。
アルプス神経病院に訪れていた理由。
部員が六人でウソじゃない理由。
犯人候補にはならないが、七人目には違いなかった理由。
ミセリが、デミタスが、兄者が隠したがっていた理由。
絶対に本件と関係がないと言いきれた理由。
その七人目が、死んでいるからだ。
.
- 645 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:34:59 ID:l91x2tpA0
-
( <●><●>) 「至急、その病院に手配を 」
( ´_ゝ`) 「無駄だよ」
( <●><●>) 「なッ」
兄者が力なく制した。
( ´_ゝ`) 「貞子は、そこには、いなかったんだ」
(´・_ゝ・`) 「えっ…?」
めくるめく急展開。
いよいよ頭が回らなくなってきた。
ああ、煙草が吸いたい。
だが、こんな話、喫煙室や喫茶店なんかではしたくない。
.
- 646 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:35:44 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「……順を追って、話してくれ」
(´・ω・`) 「まず、彼女が、実質的に死んだ……キッカケだ」
( ´_ゝ`) 「そこを話すと、また時間がかかる」
チッ。
わかっては、いた。
、
兄者はじめ、ミセリもデミタスも意図して隠してきた、貞子の死。
もし、何も後ろめたいことがなければ、
言いづらいことではあるにしろ、話すことは難しくなかろう。
それを、口裏合わせなしに全員が隠してきたとなると、
彼女の死には、したがってサークル活動が関わってくるに違いなかった。
全員、特に兄者が、意地でも話そうとしなかった理由。
サークル全体で、後ろめたいことがあったからだ。
間違いなく事件の鍵にこそなりうるが、如何せん、先に聞くべき話ではない。
.
- 647 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:36:28 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「わかった」
(´・ω・`) 「何かしらあって、貞子は、植物状態になった」
(´・ω・`) 「それは、いつのことだ?」
もはや、兄者に隠すつもりはないのだろう。
先ほどまでの姿勢とは一転、逡巡せず言葉を紡いでくれている。
( ´_ゝ`) 「十年ほど前」
( ´_ゝ`) 「もっというと、俺が四年の時の……九月だな」
( ´_ゝ`) 「紅葉が見ごろな、季節だった」
(´・ω・`) 「紅葉、か」
兄者が、感傷的になっている。
言葉はどれも優しく、やわらかだった。
(´・ω・`) 「それは、事件……だったんだな?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
.
- 648 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:36:58 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「警察は、どう処理したんだ」
デミタス、兄者を探る過程で、彼らの情報はデータバンクに照会している。
しかし、そのような事件は、ヒットしなかった。
秘密裏に処理された事件ではないはずなのだ。
( ´_ゝ`) 「言い方が悪かったな」
( ´_ゝ`) 「事件……じゃない。 事故だ」
( ´_ゝ`) 「犯人がいる、とか。 そんな話じゃ、ない」
(´・ω・`) 「サークル活動中に、ッてことだよな?」
( ´_ゝ`) 「ああ。 紅葉を見に行っていたんだ」
紅葉、か。
いやにセンチメンタルなワードチョイスだな、と思ったが
当時の事故が原因で、紅葉には強い思い入れが残ってしまっていたようだ。
.
- 649 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:38:09 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「植物状態になって、どうしたんだ」
(´・ω・`) 「安楽死、か?」
( ´_ゝ`) 「いやいや」
( ´_ゝ`) 「神経病院のくだりを思い出してくれよ」
(´・ω・`) 「ん」
すまん。
一言ちいさく、謝った。
亡霊、亡霊と話していたため、
てっきり貞子は、完全に死亡していたものだと勘違いしていた。
( ´_ゝ`) 「貞子はそのまま、病院に搬送された」
( ´_ゝ`) 「病院。 アルプス神経病院だ」
.
- 650 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:39:19 ID:l91x2tpA0
-
そこで、リンクしてくる。
アルプスといえば、のどかな風土と広がる自然が特長だ。
精神病を患った人なんかは、もっぱら療養にアルプスに向かう、ともされている。
山が多く、その傾斜には多くの心の病院が点在している。
それこそ、紅葉なんかをはじめ、この国の美しい四季の移り変わりが心を癒やすそうだ。
(´・ω・`) 「しかし、様態は」
( ´_ゝ`) 「戻らなかった」
(´・ω・`) 「……ん?」
過去形、なのか。
( <●><●>) 「途中で果てたか、安楽死の運びとなったか」
( ´_ゝ`) 「それが、わからねえんだ」
(´・ω・`) 「わからない?」
.
- 651 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:39:47 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「どうやら、あっちの業界じゃよくあることらしいがな」
( ´_ゝ`) 「植物人間ッつーのは、如何せん、たらい回しにされやすいらしい」
(´・ω・`) 「そういうことか」
( ´_ゝ`) 「確かに、最初はアルプスに搬送された」
( ´_ゝ`) 「だが、俺らは、頻繁に見舞いにくるようなことはしなかった」
( ´_ゝ`) 「……俺だって、あの時以来、はじめて病院に行ったくらいだからな」
( <●><●>) 「知らぬ間に、移転されていた、と」
(´・ω・`) 「でもそんなもの、照会すれば特定は簡単だろ」
( ´_ゝ`) 「ただの一般人が、そんなこと」
(´・ω・`) 「ワカッテマス」
( <●><●>) 「はい」
.
- 652 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:40:23 ID:l91x2tpA0
-
示し合わせたかのように、ワカッテマスは即座に携帯を取り出した。
確かに、病院によっては、その手の照会を拒否することもあるかもしれない。
しかし、相手が警察となれば、話は別だ。
とことん追究し、いまの貞子がどうなっているか、を知る必要がある。
もし果ててしまっていたならば、簡単なことだ。
亡霊を名乗っていた彼女は、騙り。
医学的に死亡が認められているかどうかを、まず探る必要がある。
しかし。
そうでない場合、面倒なことになるぞ。
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「調べて、くれるのかい?」
(´・ω・`) 「当たり前だ」
(´・ω・`) 「いま電話してたのが、山村貞子その人で…」
(´・ω・`) 「このたびの連続予告殺人の犯人を名乗り」
(´・ω・`) 「あんたら二人を、殺す」
(´・ω・`) 「そう断言してきやがったんだ」
.
- 653 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:41:10 ID:l91x2tpA0
-
(;´・_ゝ・`) 「なッ…!」
( <●><●>) 「…」
(;´・_ゝ・`) 「 ………マジで言ってんすか?」
さすがに驚きは大きかろう。
しかしそれ以上に、だからこそ予想できたとも言える。
デミタスは一瞬硬直したものの、すぐに正気に戻った。
声色がどこか震えているようにうかがえる。
(´・ω・`) 「彼女は、自らを亡霊と呼んだ」
(´・ω・`) 「亡霊は、ミセリを殺害し、」
(´・ω・`) 「僕が彼女に渡していた名刺を頼りに、電話してきたんだ」
( <●><●>) 「…!」
.
- 654 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:41:43 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「相手が、自分の事件を担当してる警部だとわかっての、電話」
(´・ω・`) 「それも、自供し、更なる殺人予告だ」
ふつふつと怒りが込み上がってくる。
まだ冷静でいられるのは、目の前にターゲットがいるから、だろう。
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「いやに落ち着いてるな」
( ´_ゝ`) 「……そう見えるなら、構わないさ」
( ´_ゝ`) 「それより」
( ´_ゝ`) 「具体的な時間なんかは?」
(´・ω・`) 「ないな」
(´・ω・`) 「彼女なりの、亡霊なりの名刺交換だったんだろう」
(´・ω・`) 「宣戦布告ッてやつだ」
.
- 655 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:43:01 ID:l91x2tpA0
-
(;´・_ゝ・`) 「………」
( <●><●>) 「亡霊、ですか」
(´・ω・`) 「だが、生きているのは間違いないと見ていいだろう」
(´・ω・`) 「ほんとうに死んで亡霊になって……なんて、認められない」
( <●><●>) 「当然です」
被害者側の人間は、心霊的なものを信じる傾向にある。
災いや呪いが恐れられた事件なんて、いくつも担当してきた。
非科学的だ、と一蹴するのではない。
単純に、心霊的なものの犯行など、万が一にもあり得ない。
ただそれだけだ。
(;´・_ゝ・`) 「ほ……ほんとうに、亡霊なんじゃあ……」
(;´・_ゝ・`) 「それで、逆恨みとか、して……」
面倒だから、落ち着け、なんて言わない。
隣に座っている兄者は、すっかり落ち着いている。
デミタスひとりに構っていられる猶予は、ないのだ。
.
- 656 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:43:55 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「あのな」
(´・ω・`) 「亡霊があり得るとしたら、電話とかできないぞ」
(;´゚_ゝ゚`) 「誰かに憑依したりさあ!」
(´・ω・`) 「だったら今頃、真っ先に僕に憑依してるぜ」
(´・ω・`) 「目の前に、ターゲットがふたり、無防備に座ってンだ」
(;´゚_ゝ゚`) 「……!」
(;´・_ゝ・`) 「 ………、……確かに。」
どうして、あり得ないことを証明するためにロジックを練らなくちゃだめなんだ。
亡霊は、生きている。
そして、生身の人間が相手である以上、いくらでも対策の施しようはある。
.
- 657 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:44:46 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「さて」
(´・ω・`) 「亡霊がミセリを殺したのは、間違いない」
(´・ω・`) 「僕の名刺を持ってたんだ」
( <●><●>) 「加え、例のIP電話を使用している」
( <●><●>) 「連鎖的に、ヒッキー小森やクックル三階堂を殺害したのもリンクします」
(´・ω・`) 「そこら辺から、筆跡のつながりでフッサール擬古殺害も確定する」
亡霊には協力者がいて、なんて可能性はこの際捨てる。
筆跡がリンクしない、クックルからミセリの途中で犯人が入れ替わっている可能性もないだろう。
となると、最初の三人を殺害したのは、ミセリとなるのだ。
論理的に考えても、クックル殺害は亡霊の仕業。
最初から、亡霊がサークル抹殺を目論んでいたことが証明された。
( ´_ゝ`) 「………亡霊、か」
(´・ω・`) 「亡霊の親御さんにも、警察が出向く」
(´・ω・`) 「として、だ」
.
- 658 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:46:05 ID:l91x2tpA0
-
一気にするべきことが増えた。
アルプス神経病院に搬送されてからの、貞子の動向、経過。
また、彼女に関する情報も、実家を中心に軒並み洗い出す。
亡霊が犯人だったことは、わかった。
その視点をもって改めて、一連の事件を洗いなおす必要がある。
(´・ω・`) 「ここで重要となってくるものがある」
(´・ω・`) 「動機だ」
(;´・_ゝ・`) 「ど、動機だなんて…」
(;´・_ゝ・`) 「そんなもの、逆恨み、というか、なんていうか…」
(´・ω・`) 「ねーよ」
(´・ω・`) 「事故、だったんだろ?」
(´・ω・`) 「だったら、無事生還できたことをむしろ喜ぶはずだ」
、 、
( <●><●>) 「もし、それがほんとうに事故だったら……ですが」
.
- 659 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:46:43 ID:l91x2tpA0
-
(;´・_ゝ・`) 「!」
デミタスも、顔色を変えた。
わかったようだ。
(;´・_ゝ・`) 「……」
(;´・_ゝ・`) 「誰かに殺された……!?」
( <●><●>) 「事実がどうであれ、どこかでそう思っていたなら?」
(´・ω・`) 「目が覚めたら、十年近く経過している」
(´・ω・`) 「しかし、逆に言えば、当時のことは覚えている」
(´・ω・`) 「サークルの誰かのせいで、自分は……」
(´・ω・`) 「そう考えれば、わざわざ多くの徒労を費やしてでも、」
(´・ω・`) 「大袈裟な、大胆な手口で次々部員を殺すのに説明はつく」
.
- 660 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:47:10 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「もっとも、憶測でしかないけどね」
( <●><●>) 「検討するためにも、当時の、その、事故」
( <●><●>) 「わかる範囲で構いませんので、詳細に、話してください」
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「といっても、ほんとうに事故としか……」
(´・ω・`) 「まず、原因はなんなんだ?」
( ´_ゝ`) 「原因?」
過去のデータを漁ればわかることだが、面倒だ。
まして、大した情報も書かれてないだろう。
当事者から聞くのが、一番だ。
(´・ω・`) 「植物状態になっちまった、原因よ」
( ´_ゝ`) 「……」
、 、
( ´_ゝ`) 「転落だ」
.
- 661 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:48:45 ID:l91x2tpA0
-
( <●><●>) 「転落……」
( ´_ゝ`) 「俺らはな、アルプスに紅葉を見に行ってたんだ」
(´・ω・`) 「紅葉か」
( ´_ゝ`) 「といっても、旅館に泊まったり、ではない」
( ´_ゝ`) 「山奥のコテージを借りててよ」
( <●><●>) 「具体的な場所は」
( ´_ゝ`) 「ちょっと待ってくれ」
と言って、兄者はスマホをいじりだした。
その場所を、インターネットで探し始める。
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「ん」
( ´_ゝ`) 「あん時のサイト、ないな」
.
- 662 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:49:34 ID:l91x2tpA0
-
(´・_ゝ・`) 「……そういえば」
(´・_ゝ・`) 「いつかはわからないけど、閉鎖しちゃったよ、あそこ」
( ´_ゝ`) 「へえ」
(´・_ゝ・`) 「昔、気になって調べたことがあるんだ」
( ´_ゝ`) 「どこだったっけ」
つられて、デミタスもスマホを取り出す。
記憶を頼りに、インターネットの海を泳ぎながら、話す。
(´・ω・`) 「まあ、探しながらでいいよ」
(´・ω・`) 「で、山奥、コテージまではわかった」
( ´_ゝ`) 「そもそも、そこを選んだ理由だがな」
( ´_ゝ`) 「俺らは、ちょっと変わったアウトドアを楽しんでた」
( <●><●>) 「変わった?」
.
- 663 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:49:57 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「あまり、注目されてないところで遊ぶんだよ」
( ´_ゝ`) 「たとえば、渓流釣りにしても、ほとんど人の手が入ってないとこに行ったり」
( ´_ゝ`) 「メジャーなところは、ほとんど行かなかったな」
( <●><●>) 「ほう」
どうせ遊ぶなら、あまり人が選ばないようなところで、ということか。
わからなくはない気持ちだった。
( ´_ゝ`) 「ほとんど利用客がいないような、山奥だ」
( ´_ゝ`) 「そりゃあ料金も格安でよ」
( ´_ゝ`) 「ゴエモン風呂とぼっとんの、いま思えばすげえとこだったわ」
(´・ω・`) 「でも、そういうとこが好きだったんだ」
( ´_ゝ`) 「ああ」
( ´_ゝ`) 「人が経験しなさそうな経験がしたかったからな」
.
- 664 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:50:19 ID:l91x2tpA0
-
( <●><●>) 「そこを選んだのは」
( ´_ゝ`) 「俺だよ」
( ´_ゝ`) 「理由も、いま話した感じだ」
( ´_ゝ`) 「……と。 あったぞ」
(´・_ゝ・`) 「ん……ああ、それそれ」
(´・_ゝ・`) 「懐かしいな」
(´・ω・`) 「どれ」
その、コテージ貸出のサイトではなかった。
当時の写真なんかでもない。
ブログ記事だった。
(´・_ゝ・`) 「え、これ昔のブログだよね」
(´・_ゝ・`) 「よく残してたな」
.
- 665 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:52:17 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「サークルの活動日誌、みたいなもんだ」
( ´_ゝ`) 「一日目が終わる頃に、一旦下書きしておいたもんだ」
( <●><●>) 「アルプスの……」
紹介こそされていないが、特段目につく固有名詞はない。
それもそうで、アルプスの山はほとんどが私有地だ。
コテージ主のそれだろう、サイトのリンクが張られている。
( ´_ゝ`) 「もっとも」
( ´_ゝ`) 「続きは帰ってから書こう、と思ってた矢先、事故が起こった」
( ´_ゝ`) 「当然、書く気にはなれんかったし、なんならあの日でサークルは終わった」
(´・ω・`) 「なるほどね」
記事には、下書きというだけあって写真はない。
ただ、値段のわりに絶景だ、とか。
疲れて不便なことを除けば穴場だ、とか。
著者である兄者の感想が、旅情小説のように描かれている。
.
- 666 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:53:24 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「なんにせよ、そんな場所だ」
( ´_ゝ`) 「ほぼ利用客がいないッつーだけあって、」
( ´_ゝ`) 「整備とかが全然されてないわけでな」
( <●><●>) 「……」
、 、
( <●><●>) 「そうか。 転落か」
勘付いたようで、ワカッテマスは言った。
山奥、整備されていない、紅葉、とまでくれば、だいたいは察しがついた。
( ´_ゝ`) 「一面紅葉の絶景が、高所から拝める山だった」
( ´_ゝ`) 「………崖に柵なんか、なくてよ」
(´・ω・`) 「貞子は、紅葉を見に行って、足を踏み外したわけだ」
( ´_ゝ`) 「概要は、そうなる」
.
- 667 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:53:51 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「標高が高いだけあってな、風も強かった」
( ´_ゝ`) 「まして、落ちたのは、夜」
( ´_ゝ`) 「むろん街灯なんてない。 完全な真っ暗だ」
( <●><●>) 「何も見えないのに、紅葉を見に行ったのですか」
( ´_ゝ`) 「いや……紅葉目当てじゃないだろうな」
( ´_ゝ`) 「単なる散歩のつもりだったかもしれん」
( <●><●>) 「まあ、そうですよね」
柵のない崖。
完全に真っ暗。
踏み外す。
少しずつ、ピースが浮かび上がってくる。
これらのどこか、あるいはピースが成す全体図に、
亡霊が抱く怨念というものが描かれているはずだ。
.
- 668 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:54:31 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「どんな崖だった?」
( ´_ゝ`) 「山奥なだけあって、コテージ周辺はもちろん、道も木に囲まれてる」
( ´_ゝ`) 「でも、その崖だけ、ひらけててな」
木々が生い茂る山奥、ひらけた崖。
アウトドアとなれば、おあつらえ向きなシチュエーションだろう。
(´・ω・`) 「コテージも、その辺で?」
( ´_ゝ`) 「まあ、そうだな」
( ´_ゝ`) 「ただ、コテージからはその崖は見えない」
( ´_ゝ`) 「昼間は、その近くで野外炊飯してたぜ」
(´・ω・`) 「危なくない程度に近寄ってはいた、と」
.
- 669 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:55:57 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「なんにしても、その崖は怖かったな」
( ´_ゝ`) 「来てすぐに、危ねえな、ッて話題で盛り上がってたぞ」
(´・ω・`) 「崖下の様子は?」
( ´_ゝ`) 「落ちたら、地上までまっさかさま」
( ´_ゝ`) 「もっとも、木とか結構生えてたけどな」
( ´_ゝ`) 「……ふつうに落ちたら、間違いなく即死だわ、アレは」
( <●><●>) 「でも、貞子は、生きていた」
( ´_ゝ`) 「崖を転がるように落ちてッたらしい」
( ´_ゝ`) 「担当した警官曰く、不幸中の幸いだとな」
植物状態になって、どこに幸いを見出せたのだろうか。
死なないだけまだマシ、とでも言うのだろうか。
冗談じゃない。
.
- 670 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:56:17 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「全身が凄まじい打撲で、骨も折れていた」
( ´_ゝ`) 「ただ、言い換えれば、転落の衝撃が随所で分散されてな」
( <●><●>) 「結果として、即死には至らなかった、と」
( ´_ゝ`) 「あれは、気候も味方してくれたらしい」
( ´_ゝ`) 「大量出血してて、これがもし冬なら、疑いようなく死んでたそうだ」
季節は秋。
それもアルプスとなれば、心地よい暖かさに包まれている。
刺殺にしても、実際のところ死因はショック死か大量出血のどちらかによるものだ。
というより、流血沙汰になった時、それが交通事故だろうが転落だろうが、
血を確保できているかどうか、で生存率は大きく異なってくる。
そういった意味において、貞子はある種の幸運が積み重なっていたのかもしれない。
頭さえ打っていなければ、それは幸運たりえたのだろう。
打っていたのだから、結局不運には違いなかった。
.
- 671 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:58:03 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「結果、事故として処理された、ッてことは」
(´・ω・`) 「あくまで、事件性はなかったんだ」
( <●><●>) 「…背中に押された跡、とか」
( ´_ゝ`) 「…ああ」
あるいは、冬だったら。
革製の上着でも羽織っていれば、
背中に指紋が残っていてもおかしくはなかった。
しかし、他のアプローチが残されているかもしれない。
当時の貞子の持ち物や、現場状況など。
(´・ω・`) 「ちょっと、その事件のファイルを用意させとくか」
( <●><●>) 「管轄はアルプスの……」
( <●><●>) 「この場合、どこの署になるんですかね」
(´・ω・`) 「県警に要請を出すよ」
(´・ω・`) 「あっちには心強い先輩がいるからね」
黒い、ボロ衣のようなコートを羽織っている男の顔を思い出す。
オオカミ鉄道への要請も含め、どうも人脈というものに助けられている実感がした。
.
- 672 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:58:55 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「先に、当時の警察の対応を聞かせてくれ」
( ´_ゝ`) 「ん……どう言えば?」
( <●><●>) 「規模にもよりますが、現場検証や取り調べが行われたはずです」
言うと、兄者は少し黙った。
さすがに、そんなところまで詳細に覚えてはいないのだろう。
第一、それどころではなかったはずだ。
(´・_ゝ・`) 「……あれですね」
(´・_ゝ・`) 「警察署に呼ばれて、個別に話を聞かれましたよ」
( <●><●>) 「具体的には?」
(´・_ゝ・`) 「具体的に……ッていうか」
(´・_ゝ・`) 「むっちゃくちゃ細かく、最初から最後まで……ぜんぶ。」
.
- 673 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 22:59:17 ID:l91x2tpA0
-
となると、一応警察は、きちんとした対応に出たと見ていいのか。
ファイルを見ないとわからないものの。
おそらく、それまでの部員と貞子の関係や貞子のポジションからはじまり、
どうしてアルプスに行こうと思ったのか、日取りが決まったのはいつか、
くだんのコテージを選んだ理由は、などといったところまで調べられているはずだ。
そしてポイントとなるのは、それらを経たうえで
本件が 「事故」 として処理されている点にある。
(´・ω・`) 「…そうか」
もし、証言が食い違ったりした場合、事件の可能性も考慮されるはずなのだ。
それが事件として登録されていない以上、証言に整合性は、あった。
全員で何かを隠そうとした場合、想像以上にあっさり看破されてしまうものなのだから。
(´・ω・`) 「……とりあえず、向こうには連絡しといた」
( <●><●>) 「もうですか」
(´・ω・`) 「堅苦しい協力要請なんて、してらんねーしな」
(´・ω・`) 「こういう時に、人脈がヒカるんだよ」
.
- 674 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:00:24 ID:l91x2tpA0
-
雑なメールを、送っておいた。
相手は六十過ぎの、それも機械に非常に弱い爺さんだ。
仕事中だろうというのもあわせ、返信はまあ期待できないだろう。
(´・ω・`) 「十年前の事件、だ」
(´・ω・`) 「僕らがじきじきに現場検証できないのが、痛いところだな」
( <●><●>) 「担当した人に聞いたところで、望み薄ですしね」
(´・ω・`) 「となると焦点になるのは、現場状況じゃない」
(´・ω・`) 「当時の、きみたちの動きだ」
( ´_ゝ`) 「……」
兄者が構える。
ここまできたからには、もう隠すわけにはいかないぞ。
関係者のうち、話が聞けるのは、もうふたりだけ。
望みがあったミセリも、昨日まで生きていたミセリもいなくなってしまったのだ。
.
- 675 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:00:47 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「当時と、いろいろ状況は変わっている」
(´・ω・`) 「まず、十年前だ、という点」
(´・ω・`) 「次に、当時の関係がきっかけで、連続殺人が起こっている点」
(´・ω・`) 「そして……」
、 、
(´・ω・`) 「僕たちは今、当時の事故を怪訝に思っている点、だ」
( ´_ゝ`) 「…ッ」
連続殺人の中心にいる犯人は、亡霊だ。
亡霊が亡霊たりうる理由は、十年前の事故に遭ったからだ。
事故から連続殺人につなげた理由は、それが事故ではなかったから。
何者かによる殺人事件だったから。
単純な推理にして、当然の論理。
この期に及んで、ほんとうに事故だった、は通用しない。
事実として、既に四人も殺されてしまっている。
なんなら、事件、まではいかないにしても。
怨恨を遺させてしまった何かは、必ずあったはずなのだ。
.
- 676 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:01:31 ID:l91x2tpA0
-
( <●><●>) 「脅すつもりではありませんが」
( <●><●>) 「確か亡霊は、明確にあなた方ふたりを、殺すと言っている」
ワカッテマスが険しい顔をする。
眉間に刻み込まれたヒビが、迫力を増している。
( <●><●>) 「法的な強制力こそありませんが」
( <●><●>) 「半ば強制的に、話させるつもりですので」
( ´_ゝ`) 「………」
( ´_ゝ`) 「わかっているよ」
(´・ω・`) 「……」
法的な強制力こそない、か。
僕も、そう強気に出られていたならば、あるいは。
.
- 677 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:02:18 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「そうだな」
( ´_ゝ`) 「まず、紅葉を見に行ったこと、あのコテージを選んだ理由とかは」
( ´_ゝ`) 「まじで、一切の事件性がない」
( ´_ゝ`) 「単なる俺の気分で、なんだったら俺以外反対だったからな」
( <●><●>) 「…ム」
ワカッテマスが、少し反応を見せる。
おそらくは、今の言葉から兄者をほんの少しだけ怪訝に思ったのだろう。
あまりにも突飛すぎる。
ワカッテマスはワカッテマスで、神経質になっている。
( ´_ゝ`) 「俺としては、だな」
( ´_ゝ`) 「アクションのない、ただ観賞するだけの良さッてのもあると思ったんだ」
(´・_ゝ・`) 「なんだかんだ言って、紅葉見たらみんな絶賛だったしね」
.
- 678 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:05:02 ID:l91x2tpA0
-
( <●><●>) 「ちなみに、具体的な反対意見としては」
( ´_ゝ`) 「ただ見るだけやん、と」
( <●><●>) 「……なるほど」
ワカッテマスが続きを促した。
そこまで掘り下げられる情報もないだろう、と判断したようだ。
( ´_ゝ`) 「コテージを選んだ理由も、さっき話した通り」
( ´_ゝ`) 「人気じゃない、安い、辺鄙な場所にあるとこなら、どこでもよかった」
( <●><●>) 「高いところにした理由は」
( ´_ゝ`) 「そりゃあ、高いほうが景色はいいだろう、ッてな」
( <●><●>) 「……ふむ」
別段おかしい点はない。
ここに作為性がないとすると、あくまで動機は突発的なものだったことになる。
.
- 679 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:07:22 ID:l91x2tpA0
-
( <●><●>) 「皆さんの持ち物は」
( ´_ゝ`) 「まあ、食材とか、焚火セットとか」
( ´_ゝ`) 「ただ、山登りがメインじゃなかったし、そもそも車だったし」
( ´_ゝ`) 「みんな軽装で、そこら辺の用意はなかったよ」
(´・_ゝ・`) 「セリっちなんか、露出多すぎて、騒いでたよね」
(´・_ゝ・`) 「虫が気色悪い、って」
( <●><●>) 「……ふむ」
メインは、あくまで紅葉狩りだった。
その点も疑いはない。
若者、それもインドアの彼らがわざわざ山を登りたがるとも思えない。
( ´_ゝ`) 「イベントとかも用意してない」
( ´_ゝ`) 「ただ、紅葉を見ながら、メシ食って」
( ´_ゝ`) 「あとは全部自由時間だ。 コテージでゲームしたりもしたぜ」
.
- 680 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:08:50 ID:l91x2tpA0
-
( <●><●>) 「その食事が、先ほど言っていた…」
( ´_ゝ`) 「崖の、手前」
( ´_ゝ`) 「ッつっても、結構離れてたけどな」
( <●><●>) 「……」
( ´_ゝ`) 「そうだな……時系列で言うと、だ」
( ´_ゝ`) 「到着したのが、だいたい昼すぎ」
( ´_ゝ`) 「朝早くに出発して、やっと着いたッて感じで」
(´・ω・`) 「あくまで、一泊の予定だったんだね?」
( ´_ゝ`) 「もちろん。 あそこに二日三日泊まるのはムリすわ」
事件は突発的なもので、その機会は一度しかなかった。
これは、思っているよりも重要な観点になるな。
.
- 681 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:10:05 ID:VC6hiN3M0
- しえ
全く先が読めんわくわく
- 682 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:16:34 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「そのまま、野外炊飯」
( ´_ゝ`) 「ぶーたれてたセリっちも、チューハイ飲みながら騒いでたな」
( <●><●>) 「チューハイですか」
酒に、思わず反応する。
事件だろうが事故だろうが、酒はキーとなる。
( ´_ゝ`) 「先に言っておくぜ。 誰もほとんど酔ってない」
( ´_ゝ`) 「貞子に至っては、そもそもが一切飲めない子なんだ」
( <●><●>) 「ふむ」
やはり、当時の取り調べでも話されていたか。
貞子の飲酒にしても、調べれば一発でわかる。
酒から掘り下げるのは、まあ不可能か。
( ´_ゝ`) 「だいたい……何時だっけ」
( ´_ゝ`) 「すまん、正確な時間は見てねえわ」
( <●><●>) 「お構いなく」
.
- 683 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:18:18 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「メシ食って、あとは自由行動」
( ´_ゝ`) 「全員が一緒に動いてたわけじゃないから、ここからは俺視点の話になる」
( <●><●>) 「どうぞ」
( ´_ゝ`) 「俺は、写真が好きでな」
( ´_ゝ`) 「それも、ケータイのんじゃない。 一眼レフだ」
(´・ω・`) 「…!」
( ´_ゝ`) 「おっと。 これも先に言っておくぜ」
( ´_ゝ`) 「貞子の件とは関係ないんだが、一眼レフは谷底に落としちまったよ」
( <●><●>) 「というと」
( ´_ゝ`) 「その……なんだ」
(´・_ゝ・`) 「兄者氏はお調子者でね」
(´・_ゝ・`) 「少しでもいい写真を撮るんだ、とか言って」
(´・_ゝ・`) 「崖から身を乗り出してたら、バランス崩して、カメラは真っ逆さまさ」
( <●><●>) 「……」
.
- 684 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:19:18 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「その谷底ッてのは……例の?」
( ´_ゝ`) 「いや、多少位置はずれる」
( ´_ゝ`) 「鳶……なのかな? 野鳥がすんげえ近くまできてよ」
( ´_ゝ`) 「びっくりして、体勢崩した瞬間、ついスルリ……と」
情景は、確かにイメージできる。
危険を冒して写真を撮っていたのも、単なる彼のキャラによるものだ。
( <●><●>) 「……」
( ´_ゝ`) 「もちろん粉々だし、データは残ってないし、なんなら重要なものは撮ってない」
( ´_ゝ`) 「つっても、景色しか撮ってなかったがな」
( <●><●>) 「皆さんで集合写真、とか」
( ´_ゝ`) 「ガラじゃないんだ、俺ら」
( <●><●>) 「そうですか」
.
- 685 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:35:48 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「だったら、ブログに載ってた写真は」
(´・_ゝ・`) 「あれはガラケーのですね」
(´・_ゝ・`) 「画質見たら、一発でわかりますよ」
ここにも、特段事件性はない、と。
たとえば、全員の服装や持込品を見れば、何かわかったかもしれないものの。
( ´_ゝ`) 「まあいい。 話を戻そう」
( ´_ゝ`) 「その……相棒を落として、すげえ落ち込んでよ」
(´・_ゝ・`) 「セリっちも、酔った勢いで、すごい慰め方してたよね」
( ´_ゝ`) 「そうそう。 猫みたいにじゃれてきて」
( <●><●>) 「……酔ってたんですか?」
( ´_ゝ`) 「ああ、すまん。 言葉のあやだ」
( ´_ゝ`) 「あの子、酔うのに三段階あってさ」
( ´_ゝ`) 「ただ、俗にいう酔っ払い、とかではない」
( <●><●>) 「まあ、いいですが」
.
- 686 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:37:13 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「カメラを落として、みんなに絶対崖には近寄るな、ッて言って回ったね」
( ´_ゝ`) 「メシが終わって少ししたくらいだったか」
( <●><●>) 「その時点での、皆さんの配置は」
( ´_ゝ`) 「そうだな」
( ´_ゝ`) 「貞子とヒッキーが、先にコテージに戻ってた」
( ´_ゝ`) 「残り四人は、結構長いこと外にいたぜ」
( <●><●>) 「……」
( ´_ゝ`) 「ヒッキーは、もともと紅葉狩りに反対でな」
( ´_ゝ`) 「コテージのベッドに寝っ転がって、ゲームしてたわ」
(´・ω・`) 「貞子は?」
( ´_ゝ`) 「あの子も、そこまで観賞ッてもんに興味がなかったらしい」
.
- 687 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:38:13 ID:l91x2tpA0
-
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
ワカッテマスがついに動きを見せた。
まあ、僕も引っかかりはしたが。
( <●><●>) 「確か彼女が転落した原因は、」
( <●><●>) 「夜の、散歩だったのでは」
( ´_ゝ`) 「聞かれたがな、」
そうなるだろう。
既に十年前の担当が確認しているはずだ。
( ´_ゝ`) 「詳しくは知らないさ。 本人次第なんだから」
( ´_ゝ`) 「ただ、体調が悪かったり、メシ食って眠くなっただけかもしれない」
( ´_ゝ`) 「ほら、朝早かったもんでよ。 外で寝るにはさすがに危ねえし」
.
- 688 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:39:45 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「その時のふたりは、どんな感じだったんだい?」
( ´_ゝ`) 「どんな、も何も」
( ´_ゝ`) 「ヒッキーはぴこぴこして、貞子も寝転びながら本を読んでて」
( ´_ゝ`) 「俺はカメラ落としたことよりも空しくなったぜ」
(´・ω・`) 「それは……まあ……」
観賞にきたのに、コテージに籠られてはそうなるだろう。
( ´_ゝ`) 「で、俺は一旦外に戻って」
( <●><●>) 「その時は、あなた方二人と、クックルと、ギコと、ミセリ」
( ´_ゝ`) 「そうだな」
( <●><●>) 「彼らはどんな様子だったのですか?」
.
- 689 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:40:14 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「セリっちが、一生うざ絡みしてて」
(´・_ゝ・`) 「あの子ね。 僕みたいなウブで純真な男をいじるのが好きなんだよ」
( ´_ゝ`) 「童貞と言え童貞と」
(´・_ゝ・`) 「ハン!」
だいたいの情景は、浮かぶ。
ほろ酔いのミセリと、彼女に付き合わされる野郎諸君。
( ´_ゝ`) 「……うーん」
( ´_ゝ`) 「そうだな。 クックルが率先して、後片付けをしてたな」
( ´_ゝ`) 「ぶつくさ言いながら、セリっちの投げる空き缶も回収してたわ」
(´・ω・`) 「そこなんだけどさ」
( ´_ゝ`) 「うん?」
.
- 690 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:45:43 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「ミセリから聞いたら、クックル、無口らしいじゃん」
(´・ω・`) 「当時は、そうでもなかったんだ?」
( ´_ゝ`) 「普段は無口よ」
( ´_ゝ`) 「ただ、感情を前に出したがらない、ッつーのか」
( ´_ゝ`) 「楽しくなったり、気が置けない連中と一緒にいたら、饒舌になるんだ」
(´・_ゝ・`) 「見た目あんなンだったのに、可愛い奴だったよね」
(´・ω・`) 「ほーん」
聞けば聞くほど、七人の仲の良さが伝わってくる。
集まりに抵抗を示していたミセリも、普段無口だったクックルも。
なるほど確かに、なんだかんだ楽しくアウトドアしていたのだろう。
時系列を聞く前に、人物像から固めていったほうがいいのか。
いや、時系列を追うだけでも、ある程度は人がわかるか。
.
- 691 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:47:07 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「ギコは?」
( ´_ゝ`) 「あいつな。 いろんなものを見てたぜ」
( ´_ゝ`) 「紅葉狩りッつーか、観賞か」
( ´_ゝ`) 「無縁な人生を送ってたみたいでよ、新鮮な目で、楽しんでた」
(´・ω・`) 「というと」
( ´_ゝ`) 「野鳥を眺めたり、名前も知らない花を見つめたり」
( ´_ゝ`) 「俺もカメラはじめようかな、とか言ってたな」
畢竟、自然を楽しんでいたわけか。
野鳥にしても、山奥を飛ぶそれらは確かに新鮮なものだろう。
猛禽類は、近くで見るとなかなか感慨深くなるものだ。
(´・_ゝ・`) 「カメラ落とした兄者氏見て、撤回してたけどね」
( ´_ゝ`) 「うるせえよバカヤロウ」
.
- 692 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:48:57 ID:l91x2tpA0
-
(´・ω・`) 「きみは?」
(´・_ゝ・`) 「僕かい?」
(´・_ゝ・`) 「そんなみんながごちゃごちゃしてるのが、楽しかったですよ」
(´^_ゝ^`) 「みんなと一緒に、普段見ない景色を眺めるのは……もっと楽しかった」
(´・ω・`) 「いいねえ」
ひとりで見るのと、みんなで見るのとでは、全然違うものだ。
観賞の良さを知っていた兄者、
大勢の楽しさを知っていたデミタスは、一歩大人びていたと言えるだろう。
(´・_ゝ・`) 「少しごちゃごちゃしてから、クックルが先にコテージに戻ったね」
(´・_ゝ・`) 「といっても、片付けがてら、コテージと往復してたんだけど」
(´・ω・`) 「じゃあ、その時のコテージは、貞子とヒッキー、」
(´・ω・`) 「ンでたまにクックル……か」
( ´_ゝ`) 「つっても一時間もしてないけどな」
.
- 693 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:49:27 ID:l91x2tpA0
-
( <●><●>) 「クックルに、変わった様子は」
( ´_ゝ`) 「特にーーなかったな。 うん」
( ´_ゝ`) 「で、クックルが戻って……だ」
( ´_ゝ`) 「まあ、みんなぼちぼち戻るかッてなって」
( ´_ゝ`) 「特に予定もないんだ」
( ´_ゝ`) 「トランプとか麻雀あったし、それらで遊ぶもよし」
( ´_ゝ`) 「ちょっと山を探検するもよし、だった」
トランプはともかく、麻雀はなかなか渋いな。
と言うと、最近の大学生はだいたい麻雀が好きだ、と言われた。
(´・ω・`) 「完全に、予定とかは一切なかった、と」
( ´_ゝ`) 「一応、ギコは予定、考えてたみたいだけど」
(´・ω・`) 「予定?」
( ´_ゝ`) 「ああ……釣り具持ってきてたんだ、アイツ」
( ´_ゝ`) 「渓流釣りとかできたらいいな、ッて」
.
- 694 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:57:40 ID:l91x2tpA0
-
( ´_ゝ`) 「ただ、めぼしい川はなかったし」
( ´_ゝ`) 「そもそも、迷うのが怖くて、結局行かなかったらしいけど」
( <●><●>) 「ちなみに、釣り具は」
( ´_ゝ`) 「ずっと車のトランクで留守番さ」
(´・ω・`) 「他に、留守番してたのはなんかある?」
( ´_ゝ`) 「ん? そうだなあ……」
(´・_ゝ・`) 「誰か知らんが虫取り網とか持ってきてたよな。 百均の」
( ´_ゝ`) 「ああ、あれ俺だわ」
(´・_ゝ・`) 「え?まじ?」
( ´_ゝ`) 「その……ちょっとウケ狙って……」
(´・_ゝ・`) 「あのクソほど邪魔だった文字通りのお荷物が??」
( ´_ゝ`) 「その……うん、十年前だから時効だ」
(´・_ゝ・`) 「反省して」
.
- 695 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:58:04 ID:l91x2tpA0
-
持込品にも、めぼしいものはないか。
もとが突発的な企画だ、殺害を計画して何かを持ってきた線は薄そうだ。
あるいは、自然なものを利用して犯行に転じた可能性もある。
しかし、当人らの記憶や先入観が邪魔して、手がかりとして得られないかもしれない。
(´・ω・`) 「ごはん終わって、一旦みんなコテージに戻ったんだね?」
( ´_ゝ`) 「んー……まあ、そうだな」
(´・ω・`) 「ん?」
( ´_ゝ`) 「別に、集団行動とかしてたワケじゃなかったもんで」
( ´_ゝ`) 「ギコは結構常に外にいたし」
( ´_ゝ`) 「逆にヒッキーはほとんど外に出てなかった」
(´・_ゝ・`) 「一回か二回くらい、紅葉見に行った程度だったよね」
(´・_ゝ・`) 「セリっちがけしかけたからだけど」
.
- 696 名前:名無しさん:2018/10/12(金) 23:59:05 ID:l91x2tpA0
-
( <●><●>) 「けしかけた?」
(´・_ゝ・`) 「そうだなあ……」
(´・_ゝ・`) 「ウォッホン!」
(#´・_ゝ・`) 「そんなンだから童貞なんだよテメーはよォ!」
(#´・_ゝ・`) 「ほらせーの!リアジューしようぜ!リアジューしようぜ!ハイッ!」
(´^_ゝ^`) 「……的な?」
今の唐突な茶番はなんだ。
まさかミセリの真似とでも言うのか。
( <●><●>) 「…」
( <●><●>) 「ミセリは、当時は結構やんちゃだったので?」
( ´_ゝ`) 「やんちゃ……なのかなァ」
( ´_ゝ`) 「まあ、テンション次第で暴走するフシはあったよ」
.
- 697 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:07:37 ID:V8JiJ4eE0
-
(´・ω・`) 「じゃあ、旦那さんは?」
( ´_ゝ`) 「ああ、それ」
( ´_ゝ`) 「暴走したセリっちは、クックルしか止められなかったもんでよ」
( ´_ゝ`) 「思えばあの子、最初のほうからクックルが結構お気に入りだったみたいだし」
(´・_ゝ・`) 「あれさ、明らかセリっちから告白したよね」
ん。
そういえば、ミセリとクックルの関係は、あまり知られてなかったな。
(´・ω・`) 「二人が付き合ってたのは、みんな知ってたの?」
( ´_ゝ`) 「まあ、知ってたッつーか…」
( ´_ゝ`) 「なんとなく察しがつくじゃん、そういうの」
.
- 698 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:10:44 ID:V8JiJ4eE0
-
(´・ω・`) 「証言によると、だ」
(´・ω・`) 「そんな人間関係の話……きみはだいたい知ってるッて聞いたけど」
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「当人らから話はされなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「あーー」
( ´_ゝ`) 「ごめん。 知ってたわ、俺」
( ´_ゝ`) 「クックルから、普通に聞いてたよ」
(´・ω・`) 「ん」
(´・_ゝ・`) 「え。 そうなんだ」
( ´_ゝ`) 「ただ、あんまし言及したら、サークルにいいことないだろ」
( ´_ゝ`) 「他人の恋路は邪魔しちゃいけないもんだ」
.
- 699 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:13:34 ID:V8JiJ4eE0
-
当時からの、あまり触れようとしない性格が残っていたのか。
無意識のうちに、二人の関係を知らない芝居を打っていた。
これは少し、面倒だなと思った。
兄者は、他意なく重要な情報を隠してしまうかもしれない、ということ。
また、兄者は、隠し事が非常にうまい、ということ。
貞子の件は、最初から見当がついていたからいい。
まだ僕らが一切知らないでいる情報を得るのは、やや骨が折れそうだ。
( ´_ゝ`) 「クックル、根が真面目だからさ」
( ´_ゝ`) 「俺に、相談してきたんだ。 サークル内で付き合っていいのか」
(´・_ゝ・`) 「なんて返したの?」
( ´_ゝ`) 「そりゃあおめ、悪いことはない」
( ´_ゝ`) 「うまくやれよ、とだけ言ったさ」
.
- 700 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:15:29 ID:V8JiJ4eE0
-
(´・ω・`) 「ドロドロになるッてのは、警戒しなかったんだ?」
( ´_ゝ`) 「いやーー、そりゃあするよ」
( ´_ゝ`) 「根暗なサークルの、恋愛沙汰だぜ。 最悪、崩壊するかもしれん」
ただ。
兄者は続けた。
( ´_ゝ`) 「クックルは、波風を立てるようなキャラじゃないし」
( ´_ゝ`) 「セリっちも、性格を考えたら、人前でそんな露骨にはイチャつかんだろ」
( ´_ゝ`) 「だったら、こっちからは余計なことは言わんでいい」
( ´_ゝ`) 「実際、多少察されるにせよ、問題なく付き合ってたしな」
( <●><●>) 「念のためですが、」
( <●><●>) 「クックル以外に、ミセリのことを好いていた人はいないのですか?」
.
- 701 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:16:47 ID:V8JiJ4eE0
-
それは、僕も気になる点だ。
サークル内恋愛となると、そういったところからいざこざが発生し、
その延長で亡霊の怨恨に繋がってしまったということもある。
( ´_ゝ`) 「いやあ、どうだろうね」
( ´_ゝ`) 「そりゃ見た目は可愛いし、体形もいいんだ、華はあったね」
( ´_ゝ`) 「ただ、それとこれとは違う。 わかるだろう」
目の保養、というのか。
アイドルを応援するファンに近い感じかもしれない。
よく思う気持ちは、なにも恋愛感情にしか結びつかないわけではない。
多少下心があっても、恋愛感情なしで当人を気に入るのは自然な話だ。
それこそ、兄者が言う華、のような感情だろう。
(´・ω・`) 「もう一人の、女性」
(´・ω・`) 「貞子は、どんな感じだったんだい?」
.
- 702 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:17:10 ID:V8JiJ4eE0
-
( ´_ゝ`) 「もともと、うちはインドアなサークルだ」
( ´_ゝ`) 「セリっちが例外すぎるだけで、貞子はイメージそのままだぜ」
( ´_ゝ`) 「おとなしいインドア女子よ」
( <●><●>) 「ちなみに、彼女の写真などは」
( ´_ゝ`) 「ううん……ないかなァ」
( ´_ゝ`) 「さっきも言ったけど、部員の写真は撮らないからブログには残ってないし」
さすがに、十年前だと考えると、
ケータイにも残っていることはないだろう。
ただ、だいたいのイメージはついた。
( ´_ゝ`) 「典型的なインドア派で、散髪すら億劫に思う始末だね」
( ´_ゝ`) 「おっと。 なにも悪口じゃないぜ」
( ´_ゝ`) 「俺もこいつも、ヒッキーもそんな感じなんだ。 むしろ同志と言えよう」
(´・ω・`) 「ほほん」
.
- 703 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:17:40 ID:V8JiJ4eE0
-
(´・_ゝ・`) 「刑事さんはわかりづらいかな」
(´・_ゝ・`) 「髪を切るその数千円で、好きなものが買える」
(´^_ゝ^`) 「……ッてな具合でね。 まあ、そんなもんなんだよ」
(´・ω・`) 「まあ、理解はできる」
朝食をとる時間があったら少しでも寝ていたい、というような心地だろう。
僕に当てはめれば、お見合いをするくらいなら酒を呷りたくなるようなものだ。
( ´_ゝ`) 「俗にいう、ボーイズラブとかが好き……えっと。」
( ´_ゝ`) 「なんにせよ、化粧を意識したり、ファッションに拘るような性格ではなかった」
、、 、 、
( ´_ゝ`) 「……ま、典型的な、こっち側の人間なワケですよ」
(´・_ゝ・`) 「でも、ふつうにスタイルよかったし、顔立ちも整ってたのになァ」
( ´_ゝ`) 「俺、しょっちゅう言ってたじゃん。 もったいないッて」
.
- 704 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:19:42 ID:V8JiJ4eE0
-
よく聞く話ではあった。
容姿、素材はいいのに、自分に自信を持てず、
そういった自分磨きに意欲を持てないタイプの女性だ。
女性の美しさは、化粧の巧さだ。
揶揄でもなんでもなく、化粧が巧い女性は、
すなわち自分を魅せるのが巧い女性である。
そしてそれは、自分の持つ美しさを引き立てることに長けているわけだ。
自身の美しさを知らなければそれはできないし、
自身ですら知らない美しさを、他人が知れるはずもない話でしかない。
(´・ω・`) 「性格は、どんな感じだった?」
( ´_ゝ`) 「まあ、おとなしくはある」
( ´_ゝ`) 「ただ、毛色は違うにせよ、クックルと一緒よ」
(´・ω・`) 「ほう」
( ´_ゝ`) 「普段は無口だけど、スイッチが入ると暴走するタイプね」
(´・ω・`) 「……それは、むしろミセリじゃあ?」
( ´_ゝ`) 「それはそれ、これはこれ」
.
- 705 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:20:24 ID:V8JiJ4eE0
-
( ´_ゝ`) 「自分の好きな話になると、途端に饒舌になるんだ」
( ´_ゝ`) 「まあ、それはこっち側の人間共通だがな」
( ´_ゝ`) 「あの子の場合、人と話すのに慣れてないもんで」
ぎょろ目の話を思い出した。
昔はよく息子の話を聞かされたものだが、
息子は引っ込み思案なくせに、電車の話となると食事も忘れ夢中になるらしい。
咀嚼していた米粒なんかを飛ばしながら、語ったそうだ。
( ´_ゝ`) 「ほら。」
( ´_ゝ`) 「人って、話し方で、ああ、慣れてるな慣れてないな、ッてわかるじゃん」
(´・ω・`) 「そうだね」
(´・ω・`) 「僕も、おたくが話し慣れてることはすぐにわかった」
(´・ω・`) 「すごく落ち着いた、でも抑揚の利いた巧い話し方だ」
( ´_ゝ`) 「そいつはありがとうございます」
.
- 706 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:20:59 ID:V8JiJ4eE0
-
( ´_ゝ`) 「早口だったり、会話が成り立ってなかったり」
( ´_ゝ`) 「ま、俗にいうコミュ障、ってのかい」
兄者の巧いところは、ワンクッション置くときの言い回しだったりもそうだ。
相槌を入れたり、質問を挟んでも、流れを崩さず話し続けていられるところにある。
そしてそれは、それだけ精神体がしっかりしている、ということ。
なるほど確かに、信頼に足る人物だろう。
ミセリたちが彼に惹かれて入部したというのも、わかる話だ。
( ´_ゝ`) 「あの子の場合、昔から人付き合いが浅かったそうで」
( ´_ゝ`) 「人と接する青春を、趣味に費やしてきたんだ、」
( ´_ゝ`) 「会話にせよ仕草にせよ、マ、そんな感じの女の子よ」
( ´_ゝ`) 「ただ、万が一にも悪いやつではなかった」
.
- 707 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:21:27 ID:V8JiJ4eE0
-
(´・ω・`) 「ほう」
( ´_ゝ`) 「自分に自信がない分、随分と繊細でよ」
( ´_ゝ`) 「ほら……あれ。」
( ´_ゝ`) 「自分が傷つくようなことは、他人にするな、ッてあれ」
( ´_ゝ`) 「あれを素でゆく人物さ。 むしろ、かなり心配性だったとも言えるね」
だいたいの人物像は掴めた。
引っ込み思案、おとなしい、繊細。
付け加えるならば、きっとかなりメンタルが弱かった女性だろう。
その実根性があったかもしれないが、この際どちらでもいい。
大まかの人がわかっただけで十分だ。
( <●><●>) 「貞子は、ミセリのような色恋沙汰はなかったので?」
( ´_ゝ`) 「好きですねえ、刑事さんも」
訂正しよう。
兄者は確かにクチが巧いが、喧嘩を売る相手を見極める能力はない。
こいつは上司のいじりにすら舌打ちを欠かさない、クソ真面目の野郎なんだぞ。
.
- 708 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:22:30 ID:V8JiJ4eE0
-
( ´_ゝ`) 「なんてのはいいとして」
( ´_ゝ`) 「まあ……なかったと思うよ」
(´・ω・`) 「思う、ッてのは」
さっきの今だ。
ミセリとクックルの件よろしく、自然に隠されてはならない。
( ´_ゝ`) 「ヒッキーと、繋がりはあったんじゃないかな、とは」
( ´_ゝ`) 「思ってたよ」
(´・_ゝ・`) 「え。 まじ?」
( ´_ゝ`) 「いやあ……怪しいんだけどさ」
( <●><●>) 「何か、根拠が?」
( ´_ゝ`) 「根拠がないから、怪しい……ッて感じですね」
.
- 709 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:26:14 ID:V8JiJ4eE0
-
( ´_ゝ`) 「ヒッキーと貞子、って見ると、確かにお似合いだな、とは思うんだ」
( ´_ゝ`) 「どっちも、太陽の下よりは、木陰で生きてきた二人だ」
( <●><●>) 「ヒッキーは、どんな人だったのでしょうか」
( ´_ゝ`) 「文字通り、こっち側、ッてね」
( ´_ゝ`) 「中学の頃、いじめが原因で不登校になったそうで」
( ´_ゝ`) 「その頃にネット始めて、いろいろ変わったみたいだ」
(´・ω・`) 「ん?」
ちょっと引っかかるな。
(´・ω・`) 「確か、おたくとヒッキーって、昔からの仲だよね」
、 、、
(´・ω・`) 「不登校になった……そうで、ッてのは?」
.
- 710 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:42:55 ID:V8JiJ4eE0
-
( ´_ゝ`) 「あれ。 言ってなかったか」
( ´_ゝ`) 「俺とやつは、ネットで知り合ったんだ」
(´・_ゝ・`) 「え、そうなの!」
( ´_ゝ`) 「あれ? もしや誰も知らんかった?」
(´・_ゝ・`) 「てっきり、腐れ縁とかそんなもんかと」
同い年で昔からの知り合い、というだけで勘違いしていた。
まあ、彼らのコミュニティを考えれば、納得はできる話だ。
( ´_ゝ`) 「まあいいや」
( ´_ゝ`) 「ネットで知り合って、意気投合してな」
( ´_ゝ`) 「ちょいちょい実際に会ったりもしたぜ」
(´・_ゝ・`) 「って、じゃあヒッキーって半値だったの?」
( ´_ゝ`) 「いや?」
.
- 711 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:43:16 ID:V8JiJ4eE0
-
(´・ω・`) 「ハンネ、ってのは?」
( ´_ゝ`) 「ああ。 ネットで使う名前、だよ」
( ´_ゝ`) 「ラジオネームみたいなもん」
おじさんにも伝わりやすい、実にわかりやすい例えだ。
インターネットでは本名は晒さないものだ、と聞いていたが、そういうことか。
(´・_ゝ・`) 「あの人本名勢だったん?w」
( ´_ゝ`) 「いやいや、さすがに」
( ´_ゝ`) 「スカイプでやり取りしてる時にな、聞いたんだよ」
(´・_ゝ・`) 「出会い厨かよ~」
( ´_ゝ`) 「ちがくて」
( ´_ゝ`) 「むっちゃ長い厨二ネームで、略しようもなかったんよ」
(´・_ゝ・`) 「ちなみに、なんて名前?」
( ´_ゝ`) 「退き際知らぬ若人よ汝は誰ぞ愛すか」
(´・_ゝ・`) 「文章wwwwwまさかの文章wwwwwwww」
.
- 712 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:43:55 ID:V8JiJ4eE0
-
( ´_ゝ`) 「そらで言えた自分につい笑ってしまうわ」
(´・_ゝ・`) 「まあまあ、若気の至りすな(笑)」
( ´_ゝ`) 「で、名前聞いたら、ヒッキーって聞いて」
(´・_ゝ・`) 「ああ、それで退き際云々……」
(´・_ゝ・`) 「だめだくそ笑うwwww」
( ´_ゝ`) 「wwwww」
( ´_ゝ`) 「……ま、そんな感じで」
( ´_ゝ`) 「大学もアルプスのとこに行ったらしいけど、」
( ´_ゝ`) 「サークル作るぞッて言ったら来てくれたわ」
(´・ω・`) 「まあまあめんどくさそうなのにね」
( ´_ゝ`) 「むしろ、俺ら以外に友だちもいなかったらしいし」
( ´_ゝ`) 「授業とかあろうが、全力で無視してくれてたわ」
.
- 713 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:46:49 ID:V8JiJ4eE0
-
(´・ω・`) 「でも、紅葉狩りには乗り気じゃなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「見るだけやん、ッてうるさかったよ」
( ´_ゝ`) 「あいつ、見た目のわりに体を動かすのが好きだったんだ」
見た目のわりにか。
なかなかしっかりとした体幹の男だった印象だが。
建設業に勤める過程で、体つきが変わったのか。
と思ったが、男は二十八を超えれば体型はすっかり変わるものだ。
兄者も、骨格からして昔は痩身だったとうかがえるが、腹が出ている。
( <●><●>) 「しかし、そんな小森ですが」
( <●><●>) 「クックルとミセリのような関係ではなかった、と」
( ´_ゝ`) 「まあ……あいつはニヒルなとこがあるからな」
( ´_ゝ`) 「もしそうだったとしても、表に出すようなことはなかったわ」
.
- 714 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:47:13 ID:V8JiJ4eE0
-
(´・_ゝ・`) 「でも、それが何か関係あるのですか?」
( <●><●>) 「事件のキッカケの多くは、愛憎劇かカネが多いですから」
(´・_ゝ・`) 「そもそも、事件じゃなかったんだけど……」
( <●><●>) 「もしそれが本当に事件だったら、亡霊は成仏していますが」
( ´_ゝ`) 「………成仏、ねえ」
兄者がつまらさなそうな声を出した。
登場人物の相関図と位置関係は把握できた。
そろそろ、その 「事故」 の背景を洗う必要がある。
(´・ω・`) 「まあ、日中の行動はわかった」
、 、
(´・ω・`) 「事故が起こったのは、あくまで深夜だったんだね?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
(´・ω・`) 「それは、みんなが寝た後、かい?」
.
- 715 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:47:53 ID:V8JiJ4eE0
-
( ´_ゝ`) 「断言こそできねえが、少なくともだいたいは寝てたと思うぜ」
( ´_ゝ`) 「俺が寝たのは日付が変わった後だから、それ以降だ」
(´・ω・`) 「変わる前くらい……二十三時頃からのみんなの動向は?」
( ´_ゝ`) 「コテージでみんな適当にだべってたな」
(´・ω・`) 「みんな、というと、誰も外には出ていなかった?」
( ´_ゝ`) 「まあ」
特に証言できるようなことはない、ということか。
夜も更けている、全員がコテージにいたのはあまり疑う余地もない。
( ´_ゝ`) 「俺とセリっち、クックル、デミやんは騒いでよ」
( ´_ゝ`) 「貞子、ギコ、ヒッキーは軽く雑談しながら、のんべんだらり」
( ´_ゝ`) 「……そうだな。 騒いでた組が、先に寝たぜ」
.
- 716 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:48:21 ID:V8JiJ4eE0
-
( <●><●>) 「具体的には、どう騒いでいたのでしょうか」
( ´_ゝ`) 「ん……どう、ッて言われてもな」
(´・_ゝ・`) 「大したことでもないよ」
(´・_ゝ・`) 「死生観と下ネタと将来が飛び交う、大学生らしい感じ」
( <●><●>) 「なにか、気になった点、変わった点は」
(´・_ゝ・`) 「さすがにない、ですね」
(´・_ゝ・`) 「……あー」
(´・_ゝ・`) 「強いて言えば、ヒッキー氏がたまにキレてたな」
(´・ω・`) 「キレてた?」
(´・_ゝ・`) 「あの人は、寛いでる隣で騒がれるのが嫌いなんすよ」
.
- 717 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:52:40 ID:V8JiJ4eE0
-
( <●><●>) 「コテージ、と言ってますが」
( <●><●>) 「大部屋に人数分の寝床があった、ということでよろしいですか?」
( ´_ゝ`) 「ああ。 つっても寝床で寝たやつは少ないけど」
(´・ω・`) 「こう……上面図的なものがあれば、嬉しいんだけど」
( ´_ゝ`) 「さすがに無いな」
( <●><●>) 「では、覚えている限りで証言してください」
と、ワカッテマスがペンを立てながら言った。
ここらの準備は早い。
兄者は一瞬言葉を詰まらせつつも、応じた。
( ´_ゝ`) 「ええと……寝床だけでいいのかい?」
( <●><●>) 「現状は。 室内での事故でもありませんし」
( ´_ゝ`) 「そうだな。 まず、でっかい長方形を描いてくれ」
.
- 718 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:53:18 ID:V8JiJ4eE0
-
言われるがまま、ワカッテマスは図を作成していった。
寝床、とは言ったが、要はリビングだったらしい。
横長の長方形のうち、左半分がバルコニーで、テレビが北西に位置する。
テレビの右隣に暖炉、手前に広いローテーブルが。
ローテーブルとは言うが、要はコタツだ。
そのコタツを覆うようにロングソファーがある。
長方形右半分は、キッチンダイニングだった。
彼らは、夕食は野外ではなく、このキッチンを利用して済ませたらしい。
描き終えて、ワカッテマスは首を傾げた。
( <●><●>) 「……ベッドの類はなかったのですか?」
( ´_ゝ`) 「ここは一階でよ、個室は二階だ」
( ´_ゝ`) 「それぞれに二段ベッドがあって、本当はそこで寝るはずだったんだ」
(´・ω・`) 「察するに、リビングで全員寝たんだ?」
( <●><●>) 「それはどうして、ですか」
.
- 719 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:54:39 ID:V8JiJ4eE0
-
( ´_ゝ`) 「……いやあ」
(´・_ゝ・`) 「大丈夫さ。 刑事さん、くだらない話の耐性はできてるから」
( ´_ゝ`) 「だったらいいんだけどさ」
勘弁してくれ。
密室鉄道でもそうだったが、こいつの言う 「くだらない」 は本当にくだらない。
( ´_ゝ`) 「ほら。 下ネタ混じりで騒いでたッつったじゃん」
( ´_ゝ`) 「で、二階の個室は、全部ふたり用でさ」
(´・_ゝ・`) 「クックルとセリっちの仲はおわかりですよね?」
(´・ω・`) 「んーー……」
だいたいの察しは、ついた。
ミセリとクックルの関係は、暗黙の了解だった。
そして、兄者を筆頭に、ミセリは茶化し茶化されのポジションだったと聞く。
( ´_ゝ`) 「わたくしが、深夜テンションでふたりを茶化してたんですよ」
( ´_ゝ`) 「そしたら、デミやんも巻き込んで、壮大な大乱闘……」
死生観、将来の話はなんだったんだ。
.
- 720 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:55:21 ID:V8JiJ4eE0
-
(´・_ゝ・`) 「セリっちが、兄者氏と対峙しながらクックルに寄るんだよ」
(´・_ゝ・`) 「個室じゃなくてもいいよねー、とか言い出してさ」
(´・ω・`) 「ほっとけばいいものを……」
( ´_ゝ`) 「面白いはすべてに優先する。 ……座右の銘さ」
何もかっこよくはない。
ただ、情景は容易に想像ついた。
(´^_ゝ^`) 「で、その流れもあって、僕ら四人はくたばるように雑魚寝だよ」
(´・_ゝ・`) 「四人がそこで横たわるもんだから、残りも一階で、と」
( ´_ゝ`) 「俺の知る限り、みんなソファーやら絨毯、コタツで寝たね」
( ´_ゝ`) 「貸切コテージなだけあって、リビングもすげえ広いから」
(´・ω・`) 「暖炉もあるくらいだしね」
( <●><●>) 「……暖炉、ですか」
.
- 721 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:56:03 ID:V8JiJ4eE0
-
ワカッテマスが、意味深に呟く。
( <●><●>) 「時期は秋ですが」
( <●><●>) 「夜は寒かったのでしょうか」
( ´_ゝ`) 「あんたらの想像する以上に、寒かった」
( ´_ゝ`) 「なにぶん、山奥、それもかなり標高の高いところだ」
アルプスは、温暖な気候で知られている。
しかし、夏も去った季節の山奥ともなれば、話は別だ。
( ´_ゝ`) 「最初、暖炉やコタツを見て笑ってたんだがな」
( ´_ゝ`) 「結果的に、夜は使ってたぜ、コタツ」
(´・ω・`) 「暖炉は使わなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「まあ、オプションだったし」
.
- 722 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:57:10 ID:V8JiJ4eE0
-
( ´_ゝ`) 「まず、セリっちが、クックルに寄り掛かるようにしてそのまま寝た」
( ´_ゝ`) 「クックルもそのまま横たわって」
(´・_ゝ・`) 「僕と兄者氏も、一気に疲れて、絨毯の上に倒れたね」
( ´_ゝ`) 「ああ……思えば、ふたりで一緒の毛布をかぶったな」
(´^_ゝ^`) 「うふふ……」
( ´_ゝ`) 「よせやい」
(´・ω・`) 「あんたらが寝たッてことは、」
(´・ω・`) 「残りの三人がその後どうしたか、まではわからないか」
(´・_ゝ・`) 「ア、目は瞑ったけど、そんなすぐには寝なかったよ」
まあ、言われたらそうか。
(´・_ゝ・`) 「僕らは絨毯だし、セリっちやクックルはソファーにもたれかかってた」
(´・_ゝ・`) 「えっと……残りも、ソファーやらコタツに寝たはず」
.
- 723 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 00:59:41 ID:V8JiJ4eE0
-
(´・ω・`) 「みんなが、一緒の空間で寝た。 それはわかった」
(´・ω・`) 「……重要なのは、ここからだ」
時系列や状況を整理していたワカッテマスも、ここで一旦線を引いた。
「事故」 はあくまで深夜、それも貞子が散歩に出かけたところから始まる。
( ´_ゝ`) 「……」
( ´_ゝ`) 「先に言っておくが、厳密な時間はわからねえ」
(´・ω・`) 「もっともだ」
(´・ω・`) 「わかってる、覚えてる範囲でいい」
(´・ω・`) 「……次にみんなに動きがあったのは、」
(´・ω・`) 「貞子がひとりで散歩に行ったところから、なんだね?」
.
- 724 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:00:28 ID:V8JiJ4eE0
-
兄者もデミタスも、即答はしなかった。
無理もない。
当時は寝ていた上に、それは十年も前の話だ。
少しすると兄者が話の口を切った。
( ´_ゝ`) 「……物音はした」
( ´_ゝ`) 「ほら、わかるだろうが、不慣れな場所で寝る時って、眠り、浅いだろ」
( <●><●>) 「まあ」
( ´_ゝ`) 「ただ、気には留めなかった」
( ´_ゝ`) 「まさか、それがそのまま事故に繋がるなんて思うまい」
( ´_ゝ`) 「単にトイレに行った程度にしか思わんだろ」
特に気にはしなかった。
そしてそれはつまり、前兆のようなものもなかった、ということだ。
事故は、本当に突発的なものだったのだろうか。
.
- 725 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:01:06 ID:V8JiJ4eE0
-
(´・ω・`) 「いいか」
(´・ω・`) 「ここは、重要なところだ」
(´・ω・`) 「その、物音……布ずれの音?」
(´・ω・`) 「それ以外に、変わったことはあったか?」
そんなものがあったら、それは既に十年前に言われているかもしれない。
しかし、当時と明確に違う点がある。
当時は、あくまで事故として捜査され、処理された。
それを十年越しに、事件の可能性があったとして見ている。
十年前の初動捜査や取調では、必要以上の追究などなかっただろう。
事件性が認められなかったため、最低限の状況を聞き出した程度に違いない。
'_
(´・ω・`) 、
.
- 726 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:01:33 ID:V8JiJ4eE0
-
すると、着信音が鳴った。
僕だ。
先ほど、アルプス県警の知り合いに雑なメールを送っておいた。
個人的な繋がりの強い警部だ。
今となっては、正式な警部でこそないらしいけど。
名前は三月ウサギという。
本名なのかは定かでない。
(´・ω・`) 「はい、ショボーン」
懐かしい声が聞こえてくる。
定年を超えてなお、刑事の道を選んだ生粋の刑事だ。
県警同士のやり取りともなると、面倒な手順を踏まされる。
こういう時、個人的な繋がりというものは非常に便利だ。
わざわざ刑事部長を通して協力を要請するのは、かなりの労力を要する。
連続予告殺人事件は、国中に知られる大事件だ。
当然アルプス県警にも広まっていたようで、手短に要件を伝えてくれた。
.
- 727 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:02:18 ID:V8JiJ4eE0
-
まず、データがこちら側に送られてきた。
加え、現場となるコテージ、崖の位置情報。
現場までの案内役も、必要ならば用意してくれるらしい。
ただ、担当した捜査官は既に退職しているそうだ。
僕としては、そちらからの情報も期待したのだが、仕方ない。
(´・ω・`) 「ちなみに、調べようと思えば現場は調べられますか?」
コネというコネは利用してやる。
オオカミ鉄道も然り。
現場へのアプローチは、アルプス県警に任せることにした。
地主を特定し、ガサ入れの取っ掛かりまで作ってくれればそれでいい。
言うと物臭そうに溜息を吐かれたが、協力を約束してくれた。
(´・ω・`) 「頼みますよ、三月殿」
『……ああ』
.
- 728 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:02:38 ID:V8JiJ4eE0
-
┏━─
午後二〇時一六分 アルプス県警
─━┛
受話器を置いて、大きく伸びをした。
久々に新鮮な気持ちになった。
伸びをした衝動で、デスクの上のファイルスタンドが床に落ちた。
部屋に誰もいない時、つい足をデスクにかけてしまう。
これが一番楽な姿勢なのだ。
(メ._⊿,) 「……」
拾うのも億劫だ。
ただぼんやり眺めていると、誰かが音を聞きつけたのか、部屋に入ってきた。
イ(゚、ナリ从 「……?」
イ(゚、ナリ从 「…!」
.
- 729 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:03:25 ID:V8JiJ4eE0
-
会議に出ていたはずのイナリが、扉口から俺を睨む。
一番見つかりたくない奴に見つかってしまった。
イナリはそのまま、つかつかと音を立てて、俺の隣に立った。
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
腕を組んで、俺を見下ろす。
気まずくなり、俺から先に話の口を切った。
(メ._⊿,) 「……ちょうどよかった」
(メ._⊿,) 「……それ……戻してく」
言葉を遮るように咳払いをされた。
まったく許してくれそうにない。
.
- 730 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:07:38 ID:V8JiJ4eE0
-
重い体を起こして、しぶしぶファイルをデスクに戻した。
腰が鈍い音を立てる。
(メ._⊿,) 「……随分と早かったじゃねえか」
(メ._⊿,) 「会議は……終わったのか……?」
イ(゚、ナリ从 「無事に」
ご立派なことに、イナリは警部になって以来、休みがない。
日々会議に駆り立てられるばかりだ。
優秀な人材に悩まされる警察において、
頭脳明晰なキャリア組というものはそれだけ価値があるものなのだろう。
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「?」
ふう、と胸に溜まっていた憤りの溜息を吐くと、
見慣れない水色のファイルを見て首を傾げた。
.
- 731 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:11:40 ID:V8JiJ4eE0
-
黙って手に取り、ぺらぺらとページを繰る。
ついさっき、ヴィップ県警に送った事故案件のデータファイルだ。
文面を軽く目で追って、不思議そうな顔をした。
鉄仮面と揶揄される彼女は、俺の前では多少感情の紐を緩める。
イ(゚、ナリ从 「なんですか、これ」
(メ._⊿,) 「さあ……な」
イ(゚、ナリ从 「……」
ふーん、と鼻を鳴らす。
まったく腑に落ちていない様子だ。
イ(゚、ナリ从 「まあ、いいです」
イ(゚、ナリ从 「それより、手伝ってほしい案件があるのですが」
(メ._⊿,) 「惜しいな……」
(メ._⊿,) 「一時間前に言っていたなら……手を貸してやったが……」
.
- 732 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:12:05 ID:V8JiJ4eE0
-
イ(゚、ナリ从 「何か担当、ありましたっけ」
(メ._⊿,) 「たった今……できた……」
イ(゚、ナリ从 「ふーん」
もはや、俺の言葉に耳を傾けない。
身を乗り出して、勝手に俺の旧式のパソコンを触りだした。
ヴィップ県警にデータを送り、そのままにしていた。
しまった。
イ(゚、ナリ从 「……?」
イ(゚、ナリ从 「 えっ……?」
宛先は、ヴィップ県警。
ではない。
あくまで、個人に送った、個人的なメールだ。
その宛先と文面を見て、イナリは素っ頓狂な声を挙げた。
.
- 733 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:12:43 ID:V8JiJ4eE0
-
刑事部長には黙っていてもらいたかったのだが。
見られてしまったなら仕方がない。
(メ._⊿,) 「ちっくら……面倒事を請け負っちまった」
(メ._⊿,) 「何……兎の恩返しッてやつだ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イナリも、懐かしい名前を見たのだ、感傷的になるだろう。
俺にしても、イナリにしても、ある種の因縁を持つ男なのだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「合同捜査、ではないので?」
少し気を遣わせてしまったようだ。
柄にもなく、優しい声になっている。
.
- 734 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:15:43 ID:V8JiJ4eE0
-
(メ._⊿,) 「合同捜査なら……お上サマが勝手に決めるもんだ……」
(メ._⊿,) 「……こいつァ個人的なやつよ」
(メ._⊿,) 「さしずめ……兎の恩がえ」
イ(゚、ナリ从 「だったらちょうどいいですね」
(メ._⊿,) 「……」
イナリが、ふふんと鼻を鳴らす。
何歳になっても可愛いものだ。
イ(゚、ナリ从 「くだんの連続予告殺人ですが」
イ(゚、ナリ从 「ご存じの通り、私も一枚、噛まされることになりまして」
(メ._⊿,) 「……?」
イ(゚、ナリ从 「……?」
.
- 735 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:19:13 ID:V8JiJ4eE0
-
イ(゚、ナリ从 「あの……昼渡した、会議資料は……」
(メ._⊿,) 「朝……?」
今日は、十三時頃にデスクについた。
そういえばその時、イナリに出会いがしらになにか渡された。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「……ああ、あの鼻かみ……」
,_
イ(゚、ナリ从 「鼻ッ ………」
イナリが眉間にひびを刻み込む。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「………ごめん……」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
.
- 736 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:24:46 ID:V8JiJ4eE0
-
概要は、こうだ。
国民の信頼、安心が問われる局面に、警察組織は悩まされているらしい。
テレビでは報道されていなかったが、くだんの犯人は四人目を始末したそうだ。
その顛末に、ついに管轄外の県警も動きを見せた。
アルプスにまで、ヴィップの大事件の余波が飛んできたということだ。
イナリが頭となり、適宜応援を遣わせたりすることが決まった。
イ(゚、ナリ从 「もっとも、大々的なことはできないのですが」
イ(゚、ナリ从 「とにかく人手が問われる局面、というわけです」
(メ._⊿,) 「……」
天井を仰いだ。
一度、大きく深呼吸する。
(メ._⊿,) 「だったら……精々頑張ってくれ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イ(゚、ナリ从 「は?」
.
- 737 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:25:46 ID:V8JiJ4eE0
-
ゆっくり、デスクから、イナリから離れ、廊下に向かう。
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
トコトコ、と音を立てて俺の後ろについてくる。
(メ._⊿,) 「どうせ……俺ァはぐれ刑事よ」
イ(゚、ナリ从 「……また拗ねた」
拗ねてなんかいねえ。
ちいさく言ったが、イナリには聞こえなかったようだ。
(メ._⊿,) 「俺は……兎の恩返しに忙しい」
(メ._⊿,) 「こっちはこっちで……やるべきことをやるだけ……」
イ(゚、ナリ从 「私にも、共有を」
(メ._⊿,) 「……」
肩を掴まれる。
情けないことに、スタイルのいいイナリのほうが俺より背が高い。
子に背を抜かれるというのは、なかなかどうして複雑な心境になるものだ。
.
- 738 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:26:55 ID:eKkjmBvA0
- 支援
今から読む
- 739 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:27:35 ID:V8JiJ4eE0
-
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「なあ、イナリ……」
イ(゚、ナリ从 「はい」
(メ._⊿,) 「登山……好きか?」
.
- 740 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:33:31 ID:V8JiJ4eE0
- 序幕 >>2-69
第一幕 >>82-211
第二幕 >>218-296
第三幕 >>304-388
第四幕 >>398-468
第五幕 >>477-528
第六幕 >>539-624
第七幕 >>640-739
- 741 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:36:55 ID:/tcg0WQ.0
- 乙!三日月きたな!!
- 742 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:44:02 ID:SVfpo2GY0
- 乙!!
- 743 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 01:56:44 ID:eKkjmBvA0
- 読み終わった
少しずつ解決の糸口がこれから見えてくるのだろうか
乙
- 744 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 12:41:32 ID:VNarJfqM0
- 乙
- 745 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 13:30:36 ID:nhipiLd60
- 年寄りの登山か乙
- 746 名前:名無しさん:2018/10/13(土) 20:22:06 ID:UDm/n8nY0
- 乙
- 747 名前:名無しさん:2018/10/15(月) 00:59:24 ID:lXcORFmQ0
- ttp://boonsoldier.web.fc2.com/ituwariIV.htm
イケメンのブーン芸神が再臨なさった 皆崇めろ
7年越しのおつきあい本当に本当にありがとうございます、、、
- 748 名前:名無しさん:2018/10/15(月) 01:58:06 ID:BuY.j94Y0
- orz
- 749 名前:名無しさん:2018/10/15(月) 05:20:40 ID:SpZbt18g0
- ありがたや…ありがたや…
- 750 名前:名無しさん:2018/10/15(月) 15:16:38 ID:yo3KqSdU0
- 10年前のことよく覚えてんな
俺なんて今日の朝飯なに食ったかすら忘れちゃうのに
- 751 名前:名無しさん:2018/10/15(月) 15:18:56 ID:BuY.j94Y0
- よしこさんや、飯はまだかい?
- 752 名前:名無しさん:2018/10/15(月) 17:52:16 ID:/ElhCeLk0
- 偽り最高愛してる
続きが楽しみ
- 753 名前:名無しさん:2018/10/16(火) 00:40:29 ID:kWcmSbYs0
- お爺さんや、ご飯は三日前食べたでしょう
- 754 名前:名無しさん:2018/10/16(火) 00:59:45 ID:giOua07M0
- 毎日食わせてやれよ…
- 755 名前:名無しさん:2018/10/16(火) 07:39:39 ID:DI18ffgQ0
- 乙ー
- 756 名前:名無しさん:2018/10/23(火) 07:22:17 ID:ZMU2VkO20
- はぐれ刑事純情派!!!
- 757 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:11:52 ID:9y4TR9Iw0
-
┏━─
五月七日 午前七時三七分 アルプス警察署
─━┛
因縁だ。
貧乏くじを引かされたと思えば、立て続けに懐かしい顔ぶれと会わされる。
オオカミ鉄道は僕からコンタクトを取ったからいい。
昔の密室鉄道と対面した。
アスキーミュージアムとの繋がりがあった。
今度は、アルプスだ。
アルプスといえば、その序列体系に若干の歪みが生じている。
アルプス県警捜査一課、三月の名を持つ親子警部と言えば有名な話であった。
(´^ω^`) 「久しぶりだね!イナリちゃん!」
イ(゚、ナリ从 「去年会議で会ったばかりですが」
(;´・ω・`) 「一年も空いてたら久しぶりじゃん!」
.
- 758 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:12:36 ID:9y4TR9Iw0
-
昨日の晩、刑事部長に内密に呼び出された。
最初、個人的にアルプス県警を利用しようとしていたのがばれ、
それを咎められるのかと思っていたのだけど。
実際は真逆で、秘密裏にアルプス県警との協力が結ばれていたようだ。
別に敵対しているわけではないが、大々的に動けばマスコミの餌食となる。
パパラッチに嗅ぎつかれないよう、うまく協力してくれ、と言われた。
個人的にこっそり協力してもらおうと思っていたのは、とんだ心労だった。
(メ._⊿,) 「……部下はどうした」
(´・ω・`) 「走らせてますね」
久しぶりに会ったのだけど、三月殿の風貌は一切変わっていなかった。
人間、六十を超えると、容姿は大して変化しないらしい。
逆に、若いイナリちゃんはまた美人になっていた。
(メ._⊿,) 「若手のやつもか……?」
(´・ω・`) 「同じ場所に、そう何人もエースは要りませんよ」
.
- 759 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:13:21 ID:9y4TR9Iw0
-
三月殿は、ワカッテマスやぎょろ目のような突出した能力はない。
ただ、あるとすれば、その圧倒的な経験だ。
現役刑事で見れば、警察で一番キャリアを積んでいる男である。
エースというのは、イナリちゃんのことだ。
ワカッテマスに比肩する、あるいは頭脳面のみで見れば凌駕している、エース。
昔、研修の一環で、僕の部下としてヴィップ県警に配属されていた。
その時は、若い女のキャリア組ということで気まずそうにしていたが、
今では一警部として顔を利かせているらしい。
その証拠に、口数も多くなっていた。
イ(゚、ナリ从 「でしたら、警部も要らなかったのでは」
(;´・ω・`) 「だったら誰が現場を見るんだい!」
(メ._⊿,) 「で……」
( ;´_ゝ`)
(;´・_ゝ・`)
(メ._⊿,) 「代わりが……この二人かい……」
.
- 760 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:13:45 ID:9y4TR9Iw0
-
三月殿の威圧感、イナリちゃんの冷たいオーラに、
兄者もデミタスもすっかり気圧されていた。
(´・ω・`) 「まあまあ、話は走らせながら」
アルプス県警から、所轄署の刑事をふたり、鑑識をひとり借りた。
一人は僕と三月殿、イナリちゃんを。
一人は兄者とデミタス、鑑識をパトカーに乗せた。
先に兄者とデミタスを乗せたパトカーを走らせた。
その後ろを僕たち警部組が追う。
やはり、親子警部に僕が同席していたら、運転手は気苦労が絶えないだろう。
見るからに、完全に気配を消し、運転手としての役割を果たすのに勤めていた。
助手席にイナリちゃんが、僕と三月殿が後ろに座っている。
単におじさんの隣に座りたくなかったのか、上下関係を意識してくれたのか。
(´・ω・`) 「とりあえず、捜査の一部始終から伝えます」
.
- 761 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:14:38 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「結構です」
(´・ω・`) 「え、え?」
イ(゚、ナリ从 「必要なことは会議ですべて共有されています」
(メ._⊿,) 「……」
(´・ω・`) 「そ、そうなんです?」
おかしい。
僕はまだ情報をまとめたりしていないし、
部下のみんなも、上層部や他の部署には頼りたがらない気質なのに。
イ(゚、ナリ从 「そちらの刑事部長を招いての、会議です」
イ(゚、ナリ从 「別に今更、共有など」
(´・ω・`) 「そ、そう?」
言いあぐねていると、三月殿がちいさく俯いた。
.
- 762 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:15:13 ID:9y4TR9Iw0
-
(メ._⊿,) 「……久々にショボに会ったんだ……」
(メ._⊿,) 「虚勢張って……アピールしてえだけさ……」
イ(゚、ナリ从 「……」
イナリちゃんは、小さく 「ふん」 と鼻を鳴らした。
それに、三月殿の性格を考えると、大してこちらの情報など調べていない。
これだから困るんだ。
親子警部は、かなり我が強いというか、色が濃いというか。
初っ端からペースが崩されてしまう。
(;´・ω・`) 「……」
(´・ω・`) 「うぉっほん!」
(´・ω・`) 「だったら、大まかな時系列は、いいでしょう」
(´・ω・`) 「どうして、アルプスと共同戦線が組まれることになったか」
(´・ω・`) 「そこから話しますね」
.
- 763 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:16:16 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・ω・`) 「ヴィップで起こってる、連続予告殺人ですが」
(´・ω・`) 「捜査の結果、大きく、三点」
(´・ω・`) 「アルプスが噛んでいることがわかりました」
(メ._⊿,) 「三点……?」
全員が、ヴィップで殺されている。
地下鉄もホテルもライブも滝公園も、ヴィップだ。
全土を揺るがす大事件ではあるが、見た目はヴィップで完結しているのだ。
(´・ω・`) 「まず、二件目の被害者、ヒッキー小森」
(´・ω・`) 「この連続予告殺人は、ヴィップ大学に昔あった、」
(´・ω・`) 「某サークル内で、うちうちに起こっているものです」
三月殿が興味深そうな顔で頷く。
まるで知らなかったと言わんばかりに。
.
- 764 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:16:59 ID:9y4TR9Iw0
-
、 、
(´・ω・`) 「そのサークルの構成員は、六人」
(´・ω・`) 「うち一名、ヒッキー小森以外の全員がヴィップの人で」
(´・ω・`) 「ヒッキー小森のみが、アルプス出身アルプス育ちです」
(メ._⊿,) 「……?」
(´・ω・`) 「ポイントは、殺される日もアルプスにいたことです」
(´・ω・`) 「オオカミ鉄道の在来線で、ヴィップ、現場のホテルに到着」
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「こちらでも伺っております」
イナリちゃんが、前を向いたまま言った。
バッグから資料を取り出して、目を落としている。
イ(゚、ナリ从 「害者は監視カメラに捉えられていましたが、」
イ(゚、ナリ从 「アルプス時点では、付き添いの類はいなかったようで」
(´・ω・`) 「……え?」
.
- 765 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:17:21 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「えっ」
こちらを振り返る。
(´・ω・`) 「……それ、どこの情報?」
(´・ω・`) 「僕、知らないんだけど」
イ(゚、ナリ从 「どこ……ッて」
イ(゚、ナリ从 「オオカミ鉄道に問い合わせました」
そんな情報がでたなら、総裁はすぐに僕に回すはずだけど。
結構重要なところだ。
僕は一旦話を中断し、総裁に個人的に電話をかけた。
( ´・ω・) 「もしもし、県警のショボーンですゥ」
総裁は、別段焦っている様子ではなかった。
しかし、一発 「すぐに情報は回してもらわないと」 と入れると、態度が一変した。
掘り下げていくと、結論、総裁は知らなかったようだ。
部下が調査し、害者を見つけ出したまではいいが、総裁には回さなかった。
至急ご自身で確認していただき、県警までデータを送るよう頼んだ。
電話を切る頃、総裁は焦っていた。
.
- 766 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:17:50 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・ω・`) 「……」
むすッとしていると、イナリが申し訳なさそうに少し頭を下げた。
林ちゃんもそうだが、情報はすぐにこちらまで回してもらいたいものだ。
(´・ω・`) 「失礼……ええと、イナリちゃん」
イ(゚、ナリ从 「はい」
貸してくれ、と手を伸ばすと、A4を二枚くれた。
ヒッキー小森がアルプスで乗車時点、同行者はいなかった。
服装や持ち物に変化はない。
その時の車両はロングシート、ボックスシートしか備わっていないものだ。
誰かが落ち合って、害者の目を盗みオイルを盛ることは容易かったかもしれない。
ただ、案の定車両内に監視カメラはなかったようで、
乗車時に同行者がいなかったことを考えると、そちらの線は薄いだろう。
.
- 767 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:18:13 ID:9y4TR9Iw0
-
となると、ヴィップに到着後認められた、空白の時間。
犯人はそこで害者と合流し、オイルを盛った可能性が高い。
如何せんそちらは、大した情報が上がっていない。
店に入った可能性は低いため、公園か路地か、どこかでたむろしていたのか。
(´・ω・`) 「ありがとう」
イ(゚、ナリ从 「何か」
(´・ω・`) 「いや、なんでもないよ」
(´・ω・`) 「とにかく」
(´・ω・`) 「二点目」
(´・ω・`) 「三月殿、アルプス神経病院はご存じですか」
(メ._⊿,) 「神経……病院……」
言われて少し、三月殿は押し黙った。
.
- 768 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:18:37 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「はい」
(メ._⊿,) 「……え」
イ(゚、ナリ从 「ふたりともよく存じています」
(メ._⊿,) 「……え」
ペニー曰く、普通に大きな病院らしい。
ヴィップ県警よりも大きい建物だったそうだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
イ(゚、ナリ从 「私も、掛かっていましたから」
(メ._⊿,) 「……あ」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
(´・ω・`) 「!」
.
- 769 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:19:07 ID:9y4TR9Iw0
-
イナリちゃんが、露骨にふてくされる。
三月殿が、しゅんと肩を落とした。
三月イナリ。
三月ウサギの娘と知られる彼女だが、過去に凶悪な事件に巻き込まれている。
彼女はそこで、記憶をなくしている。
,_
イ(゚、ナリ从 「………最ッ低」
(メ._⊿,) 「ち……違う……これはその……」
かなり威圧的に、ぼそっと放たれた一言に、三月殿は恐縮した。
また 「親子警部」 のペースに持っていかれる。
(´・ω・`) 「イナリちゃん、許したげてよ」
(´・ω・`) 「その人、もう六十超えた、じいちゃんだぜ?」
,_
イ(゚、ナリ从 「……」
若くして記憶をなくしたイナリちゃんと、
歳を取りすぎて物忘れが激しい三月殿。
なんとも皮肉な話だ。
誰にだって、忘れたい記憶は、あるのさ。
.
- 770 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:19:27 ID:9y4TR9Iw0
-
,_
イ(゚、ナリ从 「続けてください」
(メ._⊿,) 「その病院が……どうした……」
(´・ω・`) 「さて、どこから話そうか」
結構ややこしい話になる。
この話には、くだんの 「亡霊」 が一枚噛んでくるのだ。
(´・ω・`) 「イナリちゃん」
(´・ω・`) 「亡霊……ッて、わかるかい?」
イ(゚、ナリ从 「亡霊」
きょとんとした。
記憶になかったようで、バッグを太ももの上に置き、
それを下敷きに資料をずらっと広げだした。
(´・ω・`) 「いや、いい」
イ(゚、ナリ从 「え」
.
- 771 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:19:48 ID:9y4TR9Iw0
-
もし亡霊を知っているなら、絶対に、忘れるなんてことはない。
この事件の犯人で、アウトドアサークルの隠された七人目なのだ。
(´・ω・`) 「さて、ヴィップ大学の某サークル、と言いましたが」
、 、
(´・ω・`) 「最初の捜査では、構成員は六人と認識していました」
(´・ω・`) 「フッサール擬古からはじまった四人の被害者」
( ´・ω・) 「残り二人が……」
前を走るパトカーを指さす。
兄者とデミタスを加え、六人だ。
(メ._⊿,) 「……」
(メ._⊿,) 「……六人?」
(´・ω・`) 「しかし、正確には違った」
(´・ω・`) 「七人目が、いたのです」
.
- 772 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:20:26 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「……」
知らなかった、と言わんばかりに資料にメモを書き足していく。
思った通りだ。
僕の知らないところで勝手に組まれた共同戦線だが、
どうせ刑事部長や一課長が勝手に決めたことだ。
昨晩判明した新事実など、大して共有できていないだろう。
(´・ω・`) 「どうして、初動捜査で七人目が割れなかったか、ですが」
(´・ω・`) 「生存していた構成員が、みんなして隠していたのです」
(メ._⊿,) 「……」
一応ヴィップ大学にも問い合わせたが、
非公認サークルの名簿なんて、一切管理していないらしかった。
そのため、構成員が口を揃えれば、内部事情は隠ぺいできるのだ。
(´・ω・`) 「それはなぜか」
、 、 、、 、
(´・ω・`) 「その七人目は、実質的に死んでいたからです」
.
- 773 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:20:53 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「!」
(メ._⊿,) 「……そういうことか」
三月殿には、昨日、メールや口頭でさわりだけ伝えている。
対するイナリちゃんは、目を少し見開いていた。
昨日の時点では、まだ一課長に進捗は共有していない。
イナリちゃんですら知らなかった以上、世間的にはまだ知られていない情報と言える。
知り得るのは、ショボーン班と兄者、デミタス、そして亡霊だけだ。
(´・ω・`) 「昨日三月殿にお願いした、十年前の事故」
(´・ω・`) 「それで、七人目は植物状態に陥った」
(´・ω・`) 「マ、昨日三月殿にお話しした通りですな」
イ(゚、ナリ从 「…。」
,_
イ(゚、ナリ从 「………共有して、ッて、言ったじゃない……」
(メ._⊿,) 「……」
三月殿がイナリちゃんに弱いのは、彼を知る人は皆知っていることである。
表情では平生を保とうと努めているが、額に脂汗がびっしょり浮かび上がっている。
.
- 774 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:21:17 ID:9y4TR9Iw0
-
,_
イ(゚、ナリ从 「その七人目が、アルプス神経病院に掛かっていた、と」
じろりと三月殿を睨みつける。
蛇に睨まれた蛙ならぬ、狐に睨まれた兎だ。
三月殿はだらだらと汗を垂らしながら、硬直している。
(´・ω・`) 「ああ」
(´・ω・`) 「その名は、山村貞子」
(´・ω・`) 「またの名を、亡霊」
イ(゚、ナリ从 「…!」
高級そうな万年筆を、次々滑らせる。
イナリちゃんからすれば、どれも垂涎の的だろう。
(´・ω・`) 「となると、こんな話も知らないだろう」
(´・ω・`) 「昨日の夜のことだ」
(´・ω・`) 「これは、僕に個人的にかけられた電話なんだけどね」
.
- 775 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:22:13 ID:9y4TR9Iw0
-
昨日の、亡霊との通話内容は、録音してある。
口頭で説明するのも面倒だ、黙ってその音声を再生した。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
自らを亡霊と称し、それまでの連続殺人、四件を自供。
加え、残り二人も殺害する旨を告げる。
イ(゚、ナリ从 「………!」
(メ._⊿,) 「亡霊……か……」
(´・ω・`) 「その亡霊だけど」
、 、
(´・ω・`) 「十年前の事故でね、その病院に送られた」
(´・ω・`) 「ハズ、なんだ」
.
- 776 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:22:42 ID:9y4TR9Iw0
-
(メ._⊿,) 「向こうさんに……手は回っているのか……?」
(´・ω・`) 「それが、対応が面倒なのか、面白い情報はくれなかった」
イ(゚、ナリ从 「わかりました」
イ(゚、ナリ从 「アルプスのほうからも、アプローチしてみましょう」
さすがイナリちゃん、
話の裏を汲み取って、すぐにノートパソコンを開いた。
アルプス県警から正式に干渉してくれるのだろう。
ワカッテマスとイナリちゃんは、共通点が多い。
歳も近く、非常に頭が切れる。
仕事の速さ、無駄口の少なさ、冗談の通じなさ。
そして何より、期間は違えど僕が面倒を見てきたふたりだ。
ふたりがヴィップ県警で共存した期間は短いが、
その時は、間違いなく全土で見てもトップクラスの実力を誇っていた。
ヴィップ県警黄金期、というものだ。
.
- 777 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:23:06 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・ω・`) 「わかっていることをお伝えすると」
(´・ω・`) 「少なくとも、今は在籍していないこと」
(´・ω・`) 「それも、おそらくは移転……たらい回しにされたのだろう、ということ」
イ(゚、ナリ从 「……」
自身も掛かっていたイナリちゃんだ、思い当たる節があるのだろう。
言うと、イナリちゃんは少し、深めの息を吐いた。
(´・ω・`) 「さて、三点目ですが」
(´・ω・`) 「これも昨日、お伝えした通り」
(´・ω・`) 「十年前の事故は……アルプスで起こったんだ」
.
- 778 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:23:30 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「把握しております」
イ(゚、ナリ从 「アルプス山脈、有無山の某所」
(´・ω・`) 「そうそう」
アルプスは、その名を持つ大きな山脈が連なっている。
そのうちのひとつ、アルム山で事故は起こった。
昨日、三月殿に調べてくれ、と頼んだ案件だ。
イナリちゃんにも、その情報は回っているようだ。
ちょっと安心した。
(メ._⊿,) 「……」
昨日の今日で、場所を特定し、干渉まで漕ぎ着けられている。
三月殿個人に任せていた場合、あと一日はかかっただろうか。
と考えると、イナリちゃん含むアルプス県警の力を借りられたのは大きいぞ。
パトカーはいま、真っ直ぐ現場に向かって山道を走っている。
確かに辺境と呼べる場所だったようで、一番近い署からでも一時間はかかるらしい。
.
- 779 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:25:16 ID:9y4TR9Iw0
-
警部三人に、当事者二人。
万が一に備えた警官二人と、念のために鑑識。
八人を乗せて、パトカーは十年前に向かって走っている。
(´・ω・`) 「以上が、アルプス県警と協力することになった主な理由ですね」
イ(゚、ナリ从 「警部」
(´・ω・`) 「ん」
四人いるパトカーの、うち三人が警部なんだ。
唐突に警部なんて言われたら、ちょっと混乱するな。
イ(゚、ナリ从 「しかし、事故は事故」
イ(゚、ナリ从 「察するに、その事故に事件性がなかったか、を検証したいのでしょうが」
イ(゚、ナリ从 「果たして、可能なのでしょうか」
(´・ω・`) 「わからない」
イ(゚、ナリ从 「……」
.
- 780 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:25:46 ID:9y4TR9Iw0
-
当然、事故のあと、コテージは掃除されるだろう。
仮に十年前の指紋が検出できたとして、残っているものはなかろう。
加え、いまはコテージの貸出も終了している。
現場となる崖は、いわば自然そのままだ。
十年前と様相を変えていないほうがおかしい話である。
ここで何かが掴めるかは、はっきり言って博打ですらあった。
(´・ω・`) 「わからない、けど」
(´・ω・`) 「前に乗せた二人」
(´・ω・`) 「彼らに現場をもっかい見せて、そのうえで検討したいんだ」
人間の記憶というものは面白いもので、
何かキッカケさえあれば、芋づる式に記憶が蘇ることがある。
それも、藁を掴むような話ではない。
じゅうぶん起こり得る、期待の持てる確率で、だ。
イ(゚、ナリ从 「まあ、わかりました」
イ(゚、ナリ从 「ところで」
(´・ω・`) 「はいよ」
.
- 781 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:26:13 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「現場……山奥ですが、」
イ(゚、ナリ从 「ネットの電波は、届くのですか?」
(´・ω・`) 「……」
三月殿を見やる。
(メ._⊿,) 「……」
まったくわからない、といった顔をされた。
水を打ったようになった。
イ(゚、ナリ从 「…。」
(´・ω・`) 「………」
(´^ω^`) 「ま、まあ……届くんじゃない?」
イ(゚、ナリ从 「…。」
科学の進歩は素晴らしいものだ。
昔の携帯電話には、アンテナがついていて、
それを伸ばさないと電話なんてできなかったものだ。
.
- 782 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:26:39 ID:9y4TR9Iw0
-
イナリちゃんが訝しげな顔をするなか、
五月のアルプスは、随所で葉桜が山々を彩っていた。
三月殿とともに臨んだ事件を思い出す。
因縁だ。
密室鉄道だったり、イナリちゃんだったり、連続殺人だったり。
今度は葉桜という因縁が僕の前に現れた。
どうする。
嫌な予感を信じるならば、次にはいよいよ、あの女の子が出てくるぞ。
イ(゚、ナリ从 「……警部は、葉桜はお好きで?」
(´・ω・`) 「ん。 え。」
イ(゚、ナリ从 「ずっと、葉桜を見ていたので」
おや、と思った。
以前のイナリちゃんなら、そんな雑談、決して交わそうとしなかった。
精神的に大人になって、心の余裕ができたのか。
あるいは、単なる気まぐれだろうか。
.
- 783 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:27:15 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・ω・`) 「いやあ」
(´・ω・`) 「三月殿との思い出を、ちょっと」
(メ._⊿,) 「……ふん」
何年前だろうか。
少なくとも、三月殿がまだ六十の山を登りきる前だった。
イ(゚、ナリ从 「……」
( ´・ω・) 「確か、こんな季節でしたよね」
(メ._⊿,) 「……忘れたな」
腕を組んで、適当にあしらわれる。
三月という男は、なかなか人が掴めない。
はたから見れば、黒いボロ衣を着た無口な隻眼の爺さんなのだが、
そのわりに背が低かったり、目がくりっと大きかったりと、可愛らしい一面もある。
.
- 784 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:27:43 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「そうですよね、忘れますものね」
(メ._⊿,) 「いや……忘れては……」
隻眼といえば、イナリちゃんもだ。
別に、単なる偶然には違いない。
イナリちゃんは、記憶を失った事件で。
三月殿は、それとはまったく別の、大昔の事件で、目に傷を負っている。
もっとも、犯人の凶刃による傷、という点では共通するが。
(´・ω・`) 「どうしたんだい、イナリちゃん」
(´・ω・`) 「結構ノリ気じゃない」
イ(゚、ナリ从 「……」
(´^ω^`) 「久々の現場に、胸が躍るッてやつかな?」
イ(゚、ナリ从 「……」
.
- 785 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:28:13 ID:9y4TR9Iw0
-
なかなか可哀想な女の子だとも思った。
キャリア組は、結構まわりから妬まれたりするのだ。
現場一辺倒のぎょろ目なんかとは、特に相容れない部分があるだろう。
しかし一方で、警察でも随一の美貌を持っている。
詳しい話は知らないが、少なくとも僕の下にいた頃は、
キャリア組の女であることを面白く思わない層と、
その美貌を、眼福と言わんばかりに支持する層とで分かれていたものだ。
イ(゚、ナリ从 「いろいろと、新鮮ですから」
(´・ω・`) 「新鮮」
イナリちゃんが好んで着ているのかはわからないけど、
体のラインがよく表れる、異常に細いスーツを着込んでいる。
男性の支持層を勝ち得たともいえる線の細さは、未だ健在であった。
イ(゚、ナリ从 「私が現場に出るのも、そう」
イ(゚、ナリ从 「おふたりが一緒にいるのもそうですし」
(´^ω^`) 「あ。 僕に会えたのがそもそも新鮮? 嬉しい?」
.
- 786 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:28:34 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「………まあ」
(´・ω・`) 「うへっ」
ちょっとドキッとした。
なるほど確かに、以前より遥かに心の余裕を持っているようだ。
からかってやろうと思ったのが、カウンターされてしまった。
(´・ω・`) 「えっと、ああ」
(´^ω^`) 「キャンディー、なめる?」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
(´・ω・`) 「……」
ポケットからふたつ、キャンディーを取り出した。
ミセリにもあげた花飴は、しかし受け取ってもらえなかった。
.
- 787 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:28:57 ID:9y4TR9Iw0
-
┏━─
午前九時二九分 アルプス山脈 有無山
─━┛
パトカーはやがて、十年前の現場に到着した。
兄者が言っていたように、確かに辺境で、
しかし雄大に広がるアルプス山脈の景色は、見事であった。
ただ、季節は五月。
紅葉は当然だがうかがえないし、
それ以上に、想像を超える寒さに見舞われた。
イ(゚、ナリ从 「……」
パトカーを降りて、イナリちゃんは思わず体をさすった。
僕は、トレンチコートを着込んでいるから大丈夫だけど。
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「……」
三月殿も肌寒さを感じたようだ。
そんな、穴だらけのボロ衣なんか着ているからだ。
.
- 788 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:29:17 ID:9y4TR9Iw0
-
( ´_ゝ`) 「あーー」
(´・_ゝ・`) 「……間違いないね」
'_
(´・ω・`) 、
一方の兄者、デミタスは肌寒さなど感じなかったようだ。
一足先に着いて、周囲を見て回っていたらしい。
歩み寄ると、ふたりが振り返った。
( ´_ゝ`) 「ここですよ、ここ」
(´・ω・`) 「この、崖」
( ´_ゝ`) 「間違えるわけがありません」
( ´_ゝ`) 「貞子は……この崖から、落ちました」
.
- 789 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:29:59 ID:9y4TR9Iw0
-
崖は、確かに切り立った、危険なものだった。
柵など当然なく、雨が降ってしまえば思わず滑り落ちてしまいそうだ。
なにより、風が強い。
体幹がしっかりしていなければそれだけでバランスを崩しかねない。
絶壁から、随所で突出した岩や木が窺える。
当時がどうだったかはわからないが、貞子は確かに、半ば転がり落ちていったのだろう。
(´・ω・`) 「………ふむ」
(´・_ゝ・`) 「僕らがごはん食べてたのは、あっちらへん」
(´・ω・`) 「どれ」
デミタスが指を差したのは、崖際から十メートルほど向こうの開けた場所だった。
草が生えておらず、平坦な岩肌が露出している。
もう少し向こうにいくと、深緑のトンネルとなる。
危険なわけではなく、太陽光を浴びながら景色を一望できるため、
食事をするとなれば適した場所であることには違いなかった。
.
- 790 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:30:25 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・ω・`) 「当時も、こんな感じだったのかな」
( ´_ゝ`) 「だな」
( ´_ゝ`) 「変わってなくて、ちいと驚いちまった程だ」
自然からすれば、十年ぽっちという時間では大した変化ができないのか。
ふたりが迷いなく当時の証言をする辺り、自然の規模の規格外さに驚かされる。
(´・ω・`) 「で、コテージが……」
( ´_ゝ`) 「さっきの道を、左に道なりに進めばあったさ」
( ´_ゝ`) 「今あるかはわからんがね」
分岐点はあったが、そこに看板などは見当たらなかった。
朽ちて自然になくなったのか、コテージを貸さなくなったため処分したのか。
道にしたって、車が通る程度の幅はあったが、
整備などはもちろんされておらず、スリップしてしまえばそのまま即死すらあり得る。
証言でたびたび挙がった 「辺境」 には違いない場所だった。
.
- 791 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:30:53 ID:9y4TR9Iw0
-
(メ._⊿,) 「……ここか」
(´・ω・`) 「いやあ」
(´・ω・`) 「さすがアルプス、恵まれた大自然の地」
若干の皮肉も添えて言うと、三月殿は目を細めた。
視線の先には、十年前兄者たちが見ていたのであろう山脈があった。
どうやら僕の言葉は感傷を前に打ち消されたのだろう。
風にマントを揺らしながら、じっくりと景色を見やる。
アルプスの人間からすれば、この景色は特別な美しさが感じられるのだろうか。
(メ._⊿,) 「……」
当時と違うと思われるのは、濃霧だ。
かなり標高が高く、山の頂のほうには濃霧がかかっているのが肉眼でもわかる。
(´・ω・`) 「結構、濃いですな」
(メ._⊿,) 「……こんなもんじゃねえよ」
.
- 792 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:35:32 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・ω・`) 「というと」
(メ._⊿,) 「有無山だろう……」
(メ._⊿,) 「……もう一ヶ月早ければ……車すら出せなかっただろうよ」
(´・ω・`) 「そんなにですか」
自然が豊か、ということはつまり水が豊かであることに繋がる。
山を登る時も、滝や川が随所で見受けられた。
気候には詳しくないが、条件さえ合えば霧自体は頻繁に発生するのだろう。
(´・ω・`) 「十年前って、霧、出てた?」
(´・_ゝ・`) 「霧……ですか」
(´・_ゝ・`) 「あったような、なかったような」
( ´_ゝ`) 「いや、特に」
( ´_ゝ`) 「むしろ、あの時はカラッカラに晴れてたぜ」
.
- 793 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:36:04 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・ω・`) 「当時は……紅葉シーズンか」
(´・ω・`) 「三月殿」
ヴィップに住んでいると、霧などほとんどお目に掛かれない。
霧は重要な情報だ、ある程度概要は押さえておきたい。
(´・ω・`) 「霧って、出やすい季節とか、あるんです?」
(メ._⊿,) 「……季節……か」
(メ._⊿,) 「……秋なら……それもここらなら……」
(メ._⊿,) 「最悪……向こう五メートルが見えなくなるかもしれねえな……」
(;´・ω・`) 「本当に言ってますか?」
(メ._⊿,) 「言ってしまえば……雲の中だ……」
.
- 794 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:36:30 ID:9y4TR9Iw0
-
地上にいる限り、そのようなことはないらしい。
しかし、舞台が特殊だ。
山、それも高いところにいるため、文字通り雲に呑まれるようになるのか。
イ(゚、ナリ从 「厳密に言えば、雲と霧に分類上の違いはありません」
唖然としていると、後ろからイナリちゃんが言った。
イ(゚、ナリ从 「霧って要は、雲と同じく、飽和した水分が空気中を漂っている現象です」
(´・ω・`) 「そうなの?」
イ(゚、ナリ从 「ただ、言葉として、雲は空を浮いているものです」
イ(゚、ナリ从 「同じ現象が目の前で働いたからといって、」
イ(゚、ナリ从 「雲と言いづらいのは、まあわかる話ですね」
アルプスの人間からすれば常識なのか、
イナリちゃんが単に博識なだけなのか。
.
- 795 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:36:53 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「今朝、事故当時の気象データを洗いましたが」
イ(゚、ナリ从 「実際に、朝方は強い霧が発生していたようですから」
( ´_ゝ`) 「なんだって?」
兄者が間髪入れずに割り込んできた。
( ´_ゝ`) 「俺は確かに見たぜ」
( ´_ゝ`) 「………この下に落ちてた貞子を、ハッキリと」
( ´_ゝ`) 「いまでも、脳に焼き付いてやがる」
イ(゚、ナリ从 「……ふむ」
(´・ω・`) 「どうなの、イナリちゃん」
当事者が言うと、説得力がある。
崖下は、ウン十メートルもの高低差がある。
平生でもはっきり見えるか怪しいくらいの距離だ、
霧なんてかかっていれば 「見る」 ことはできないだろう。
.
- 796 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:37:15 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「見たのは、何時ごろですか」
( ´_ゝ`) 「……すまねえ、詳しくは覚えてないけどよ」
( ´_ゝ`) 「少なくとも霧はなかった。 これは確かだ」
イ(゚、ナリ从 「と、なると……」
空を仰いで、イナリちゃんが顎に手を当てる。
イナリちゃんは、データを重視する子だ。
データと証言、現場状況に食い違いがあった場合、
そこから推理を出発させて真実を追究するスタンスを取っている。
(メ._⊿,) 「イナリ……そいつァどこのデータだ」
イ(゚、ナリ从 「どこ、というと」
(メ._⊿,) 「有無山全域……か」
イ(゚、ナリ从 「はい」
.
- 797 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:37:56 ID:9y4TR9Iw0
-
三月殿が首の関節を鳴らす。
日頃の、イナリちゃんに頭が上がらない彼じゃない。
本腰が入っている、シリアスな警部だった。
(メ._⊿,) 「山は……ご機嫌だ……」
(メ._⊿,) 「あまりデータを過信すると……痛い目を見るぞ」
イ(゚、ナリ从 「……」
(メ._⊿,) 「曖昧なんだよ……山の機嫌ッてのは……」
イ(゚、ナリ从 「……」
,_
イ(゚、ナリ从 「結論を、スパッと言って」
(メ._⊿,) 「その時は霧が薄かった……なかったッてだけだろうよ……」
視線をイナリちゃんから遠ざけるように動かした。
シリアスだろうがなんだろうが、イナリちゃんには敵わないのか。
.
- 798 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:39:14 ID:9y4TR9Iw0
-
むろん、兄者の思い込みもあり得る。
転落した貞子、というのは彼からすれば強烈なインパクトがある。
そのインパクトが、視野や記憶を侵食した可能性は高い。
しかし、何にせよ目視できた以上、
僕らが言うような濃霧、はなかったことが断言できる。
イ(゚、ナリ从 「まあ、いいですが」
イ(゚、ナリ从 「ここらは、起伏が激しいですよね」
(´・ω・`) 「うん。 車からも、確認できた」
イ(゚、ナリ从 「その、谷底」
イ(゚、ナリ从 「冷たい空気が昇ってくることで、疑似的な雲が出現するのです」
イ(゚、ナリ从 「上昇霧……と、専門的には言うみたいです」
.
- 799 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:39:43 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・ω・`) 「それが、事件当時にはあった、と」
イ(゚、ナリ从 「まあ、上昇霧に限った話ではないですが」
イ(゚、ナリ从 「少なくともアルプス山脈北部、ここらでは霧が発生していました」
僕がぎょろ目の捜査を信じているように、
イナリちゃんのデータやそれに基づく推理は、基本的に信じている。
しかし、当の兄者が否定している以上、特に関係はないのだろうか。
霧、となると、それは転落の原因にもつながる。
(´・ω・`) 「じゃあ、霧も抑えたうえで時系列を確認したいけど」
( ´_ゝ`) 「あの、コテージじゃだめですかね」
(´・ω・`) 「へ」
( ´_ゝ`) 「その……なんと言いますやら」
兄者が、眉をひそめて、ゆっくり話す。
その声には、多少の怯えが感じ取られた。
.
- 800 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:40:45 ID:9y4TR9Iw0
-
( ´_ゝ`) 「怖い……んスよ。」
( ´_ゝ`) 「トラウマ、というか、なんつーか」
( ´_ゝ`) 「とにかく、せめて車にでも戻って、それで話がしたい」
(´・ω・`) 「これは失礼」
と言って、イナリちゃんに目配せすると、頷いてくれた。
当事者の心境的にも、単純な安全で言っても、ここは不適切だ。
車に戻る時、三月殿は相も変わらず
ポケットに手を突っ込んだまま、向こうの方の山を見つめていた。
(´・ω・`) 「三月殿」
(メ._⊿,) 「…………ん。」
(´・ω・`) 「一旦、車のほうに戻りましょう」
.
- 801 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:41:22 ID:9y4TR9Iw0
-
(メ._⊿,) 「……ああ。 すぐ戻る」
(´・ω・`) 「なにか?」
いや。
ちいさく呟いた。
(メ._⊿,) 「久々の……登山だ」
(メ._⊿,) 「少し……きれいな空気を……味わっておきたい」
(´・ω・`) 「わかりました」
イナリちゃん、兄者、デミタスを連れて戻ってきた。
深緑のトンネルの、少し先。
パトカーを二台停めてある。
イナリちゃんが運転席につく。
エンジンをかけたかと思うと、すぐさま暖房を入れた。
顔色は変わっていないが、やはり寒さが堪えたのだろう。
.
- 802 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:43:20 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「……」
助手席には、僕が座った。
さて、出発するか、ここで検討をはじめるか。
( ´_ゝ`) 「刑事さん」
イ(゚、ナリ从 「はい」
( ´_ゝ`) 「例の、コテージって」
( ´_ゝ`) 「いま入れたり、するんです?」
イ(゚、ナリ从 「入ろうと思えば」
'_
(´・ω・`) 、
聞いてないな。
イナリちゃんの顔を見やると、イナリちゃんが僕にも視線をくれた。
イ(゚、ナリ从 「なんでも、貸主は相当なご高齢で」
イ(゚、ナリ从 「当初同伴してもらうつもりでしたが、厳しそうでした」
イ(゚、ナリ从 「なので、鍵だけ預かっています」
.
- 803 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:44:07 ID:9y4TR9Iw0
-
いつの間に。
聞くと、イナリちゃんは顔を澄ますだけ澄まして、返事は控えられた。
(´・_ゝ・`) 「でも……なんか嫌だな」
( ´_ゝ`) 「思い出すからか?」
(´・_ゝ・`) 「その、虫とか多そう」
( ´_ゝ`) 「どうでもいいわw」
手入れされたのは、何年前だろうか。
かびの臭いや、蜘蛛の巣が目立つには違いない。
こんな山奥、大自然の空き家だ、動物や昆虫の棲家になるのもおかしくないだろう。
(´・ω・`) 「コテージか……」
(´・ω・`) 「どうする、イナリちゃん」
聞くと、答えが用意されていたかのようにすぐ拒否された。
女の子だろうと、イナリちゃんとて立派な警部だ、
いまの虫の話を聞いて、ではないことを切に願うところである。
.
- 804 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:46:41 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「事故現場はあくまで先ほどの崖」
イ(゚、ナリ从 「コテージは拠点に過ぎず、当時の物証も一切ないでしょう」
イ(゚、ナリ从 「だったら、検討を進めるのが時間効率的にもベターかと」
うわあ、すっごいいじりたい。
でも一般人の前でいじるのは少し可哀想だ。
何より言っていることそのものは的を射ている、いいだろう。
この場にぎょろ目がいなかったのが彼女にとっての救いだ。
(´・ω・`) 「鑑識連れてきたんだけど……どうしよう?」
イ(゚、ナリ从 「でしたら、警部にご同行願います」
イ(゚、ナリ从 「昨日今日駆り出された私が行っても、仕方ありません」
言っていることは、確かに的を射ている。
射ているが、何年経ってもイナリちゃんはイナリちゃんだった。
.
- 805 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:47:07 ID:9y4TR9Iw0
-
( ´_ゝ`) 「だったら俺も連れてってくれ」
(´・ω・`) 「ん」
( ´_ゝ`) 「俺がいた方が適任。 そうだろう?」
(´・ω・`) 「ああ、そうだね」
イ(゚、ナリ从 「……」
鑑識、僕、兄者。
あと警官ふたりも付きあわせよう。
証拠は、イナリちゃんの言う通り何も残ってないと思う。
ただ、検討をより掘り進めるには都合がいい。
イ(゚、ナリ从 「それはそうと」
イ(゚、ナリ从 「あなたには、いくつかお伺いしたいことが」
( ´_ゝ`) 「なんでもござれ」
.
- 806 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:48:14 ID:9y4TR9Iw0
-
兄者は先ほどから一転、冷静を保っていた。
車に戻ることで、落ち着きを取り戻したのだろう。
イ(゚、ナリ从 「事件発覚は、いつですか?」
イ(゚、ナリ从 「また、その、第一発見者」
( ´_ゝ`) 「朝方……としか言えないな」
( ´_ゝ`) 「具体的に何時か、はわからないですね」
イ(゚、ナリ从 「では、発見者は」
( ´_ゝ`) 「わたしです」
イ(゚、ナリ从 「……ふむ」
ファイルデータと照会しながら、頷く。
ここらは、十年前既に調べられたところだろう。
間違いがないか、新事実がないかを随時、チェックしている。
.
- 807 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:49:33 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・ω・`) 「崖の下、だったんだよね」
(´・ω・`) 「きみは、どうして見つけられたの?」
( ´_ゝ`) 「ああ……」
( ´_ゝ`) 「俺は、早起きしたんだ」
( ´_ゝ`) 「朝一の紅葉が見たくて、な」
きっかけも、ただの偶然。
僕は彼のクチから、どこかに事件性を見出さなければならない。
「亡霊」 という存在が、不幸中の幸いだった。
奴がいることで、彼の話を、最初から疑ってかかることができるのだ。
( ´_ゝ`) 「で、つい癖で、写真を撮ろうと思った」
( ´_ゝ`) 「ただ、相棒の一眼レフを落とした話はしたよな」
(´・ω・`) 「してたね」
.
- 808 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:49:57 ID:9y4TR9Iw0
-
( ´_ゝ`) 「で、ふと崖の下を見たんだよ」
( ´_ゝ`) 「……それがキッカケさ」
(´・ω・`) 「……」
事件性は、ない。
カメラを落としたことを思い出して、崖下を見る。
至って自然な道理、道筋だ。
(´・ω・`) 「その、カメラって」
(´・ω・`) 「警察も調べてるのかな」
イ(゚、ナリ从 「一応、一文だけ、ちょこっと」
イ(゚、ナリ从 「ただ場所は多少ずれるみたいですが」
( ´_ゝ`) 「まあ、崖下を見たキッカケなだけよ」
( ´_ゝ`) 「ここにカメラを落としたんだよなァ、とか思って見たわけじゃない」
( ´_ゝ`) 「そういや、カメラ、崖の下に落としたなァ……程度の、軽いノリさ」
.
- 809 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:52:07 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・ω・`) 「……」
ロジックは、いっそ付け入る隙がないほどに、自然。
ただ、自然すぎるからこそ、多少の猜疑心も芽生える。
「実は事故ではなく事件だった」 という前提があるから、
とはわかっているものの、つい眉がピクリと動いてしまう。
イ(゚、ナリ从 「見てからの、あなたの行動、心境は」
( ´_ゝ`) 「心境……ッたって……」
( ´_ゝ`) 「………なんだろう。 言葉にできねえな」
( ´_ゝ`) 「言葉にできないからこそ、トラウマになったんだ」
過去に何度か、トラウマ関連の事件を扱ったことがある。
その時に調べたが、トラウマという症状は、
言語化できないほどの強烈な印象が原因でなる、という。
たとえばイナリちゃんだが、以前の記憶をなくしていなければ、
当時の事件が原因で、刃物や何かしらにトラウマを持っていてもおかしくない。
思えば、その時に初めて、僕はトラウマという症状を調べた記憶がある。
彼女の事件を担当したのは、僕なのだ。
.
- 810 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:52:35 ID:9y4TR9Iw0
-
( ´_ゝ`) 「とにかく、訳が分からなくて硬直した」
( ´_ゝ`) 「どんくらい固まってたかなんて、いま振り返ってもわからねえ」
( ´_ゝ`) 「五分かもしれないし、五秒かもしれないし、五時間かもしれない」
( ´_ゝ`) 「生きてきて、あんなに時間ッつーもんが感じられなかったのは、なかったぜ」
一般市民の大多数は、身内の悲惨な事故現場を見ることがない。
どの家庭にも必ず訪れる、大往生による訃報ですら、
彼らは言葉にできない恐怖、寂寥感を覚えるのだ。
まして想定外の事故、事件、死亡など、想像すらできないほどの感情に支配される。
その点、兄者の言い分はやはり、正確だ。
平生では決して陥るはずのない感覚を、しっかりと理解している。
貞子の悲惨な姿を見たのは、間違いないのだ。
イ(゚、ナリ从 「それは、一目見て、すぐ被害者だ、とわかったのですか?」
( ´_ゝ`) 「わかったね」
( ´_ゝ`) 「……と言いたいけど、なんなんだろうな」
イ(゚、ナリ从 「?」
.
- 811 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:53:54 ID:9y4TR9Iw0
-
兄者が、一瞬言葉を詰まらせる。
( ´_ゝ`) 「いま思うと……こう、理屈とかじゃねえんスよ」
( ´_ゝ`) 「実際には、はっきりと貞子と見えたワケじゃなかったかもしれない」
( ´_ゝ`) 「でも、見た時、目を疑って、すぐ貞子と、頭が感じた」
( ´_ゝ`) 「服装がそれっぽいからとか、髪が、とかあるかもしれないけど」
( ´_ゝ`) 「こう……理屈じゃなく、貞子が死んでいた、ッて感じたんだ」
( ´_ゝ`) 「血だまりとかもなかったし、なおのこと……理屈じゃなかったと思う」
イ(゚、ナリ从 「……」
口達者の兄者が、当時の心境を説明しあぐねている。
それは、記憶が薄れている、といったものではない。
心境をずばり言い当てる言葉が、存在しないのだ。
本人が、なんとか言葉にしようとしている通りである。
服装、髪、体型、あらゆる要素が自然のうちに脳内で貞子と結びつけただけなのだろう。
しかし一方で、そんな非現実的な、という心理も、無意識のうちに働くはずでもある。
だから、理屈ではない。
なぜかはわからないが、崖下で倒れている何かを、貞子と感じた。
兄者の脳は、論理的にそれを説明できないでいた。
.
- 812 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:54:20 ID:9y4TR9Iw0
-
イ(゚、ナリ从 「そうですか」
イナリちゃんは、データ重視の刑事だ。
人間の持つ感情は、もろく曖昧なものだと考えている節がある。
いまの兄者の説明を、どう受け取ったのだろう。
イ(゚、ナリ从 「では、その後の行動は」
( ´_ゝ`) 「なんか、こう、なんなんだろうな」
( ´_ゝ`) 「とにかく、ヒッキーを呼んだ」
イ(゚、ナリ从 「ヒッキー……ヒッキー小森ですね」
人物ファイルを繰りながら、頷く。
兄者の古い友人で、連続予告殺人第二の被害者。
( ´_ゝ`) 「で、見せた」
イ(゚、ナリ从 「見せた」
.
- 813 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:56:46 ID:9y4TR9Iw0
-
( ´_ゝ`) 「何が起こったかが、よくわかってなかったんだ」
( ´_ゝ`) 「なんかよくわからなかったから、とりあえず見せればいい」
( ´_ゝ`) 「そう思った」
イ(゚、ナリ从 「崖まで連れてきて、崖下を覗かせたんですね?」
( ´_ゝ`) 「ああ」
イ(゚、ナリ从 「彼は、どんな様子でしたか」
( ´_ゝ`) 「なんかよくわからん、ッて感じだったな」
( ´_ゝ`) 「ただ、少しして、は? ッて言ってたわ」
ヒッキー小森も、直接話したことはないが、
まあ彼も兄者よろしく、身内の事故死など経験したことがないだろう。
当時の彼の心境は、ある程度察することはできる。
.
- 814 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:57:06 ID:9y4TR9Iw0
-
( ´_ゝ`) 「でもアイツ、俺の雰囲気から、何かは察してたんだろうな」
イ(゚、ナリ从 「山村貞子が転落していた、ということを?」
( ´_ゝ`) 「いや。 ンな具体的なことじゃなくて」
( ´_ゝ`) 「ただならぬ……トンでもないことがあったんだな、とか」
旧友だからこそ感じ取れるものは、確かにある。
兄者に呼び出され、連れられている時、よからぬものを察したのだろう。
( ´_ゝ`) 「混乱してた俺なんかより、よっぽど冷静だった」
( ´_ゝ`) 「とにかく、警察を呼ぼう、と」
イ(゚、ナリ从 「冷静ですね」
( ´_ゝ`) 「でも、それに助けられた」
( ´_ゝ`) 「そうか、とにかく人を呼べばいいのか」
( ´_ゝ`) 「俺は、ハッと気づかされたわけよ」
.
- 815 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:59:23 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・ω・`) 「単なる疑問なんだけど、当時電波は通じたのかい?」
( ´_ゝ`) 「ん」
イナリちゃんが当初懸念していた、電波状況。
少なくとも今は、インターネットも電話もつながるが、十年前はどうか。
( ´_ゝ`) 「会社次第ッて感じだ」
( ´_ゝ`) 「ほら、山に強い、海に強い、都市に強い、とか」
メガキャリアの特徴だ。
どうしてそうなっているかはわからないし、今となってはそれほど違いはないらしいが、
当時は確かに、携帯会社によって電波の届く場所、届かない場所というのがあった。
船乗りなんかは、A社の電話を。
登山家なんかは、D社の電話を。
そんな棲み分けは、確かにあったものだ。
( ´_ゝ`) 「残った六人のうち、一人だけちゃんと電波が通ってるやつがいてな」
( ´_ゝ`) 「ええと……誰だったか」
.
- 816 名前:名無しさん:2018/10/27(土) 23:59:56 ID:9y4TR9Iw0
-
(´・_ゝ・`) 「僕だよ、僕」
(´・_ゝ・`) 「僕だけバリサンだったから、僕の電話貸したんだ」
バリサン、か。
懐かしい響きだが、当時確かにそんなやり取りはあったのだろう。
すぐに、通報は、されたのだ。
イ(゚、ナリ从 「……」
( ´_ゝ`) 「で……人が来るまで、貞子のことは、言わなかった」
(´・_ゝ・`) 「知らなかったんだよ、僕たち」
( ´_ゝ`) 「悪いとは思った」
( ´_ゝ`) 「でも、場所が悪かった」
冷静な判断だ、と思った。
集団でパニックになってしまうのは、この場合もっとも最悪な展開なのだ。
誰かが、わけもわからず助けようと、自らも飛び降りてしまうかもしれない。
どんな人間も、理性を失うと、何をしでかすかが本当にわからないものなのだ。
.
- 817 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:02:08 ID:CWcmTz4o0
-
( ´_ゝ`) 「完全に町から切り離された、山奥」
( ´_ゝ`) 「自分たち以外、誰も助けてくれる人がいない」
( ´_ゝ`) 「貞子を残して帰るわけにもいかない」
( ´_ゝ`) 「まして霧が濃かった、車を出して遭難なんてしてられんしな」
(´・ω・`) 「……ん?」
いま、妙なことを言ったな。
そう思ったのと同時に、イナリちゃんが既に口を切っていた。
イ(゚、ナリ从 「霧は、出ていたのですね?」
( ´_ゝ`) 「え?」
イ(゚、ナリ从 「山村貞子を見た時、あなたは霧がなかったと言った」
イ(゚、ナリ从 「でも、通報した後、霧が濃かったとおっしゃる」
.
- 818 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:02:41 ID:CWcmTz4o0
-
( ´_ゝ`) 「あれ?」
(´・ω・`) 「……」
これは、どう見るべきか。
ただの言葉のあやか。
記憶が混同しているのか。
それとも、貞子を目撃した時既に霧があったのか。
霧で見えづらいなか、先ほど自分で言っていた 「感覚」 が働いたのか。
そんな第六感、物理的にあり得ない。
と思いたくはなるが、不思議なことに、
人間は、科学に囚われないスピリチュアルな感覚が働く時が本当にあるのだ。
もっとも、当時ほんとうにそうだったかまでは保証できないけど。
( ´_ゝ`) 「……どうだったっけ」
(´・_ゝ・`) 「霧……どうだろう」
(´・_ゝ・`) 「あったと言えばあったし、なかったと言えばなかった」
イ(゚、ナリ从 「……そうですか」
.
- 819 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:05:03 ID:CWcmTz4o0
-
(´・ω・`) 「霧のデータって、事故ファイルにあったのかい?」
イ(゚、ナリ从 「いえ」
イ(゚、ナリ从 「事故当時の日時、場所を気象データに照会したものです」
(´・ω・`) 「……ふむ」
イ(゚、ナリ从 「少なくとも、事故ファイルに、気象の記述はありませんでした」
なんとも言えないところだった。
デミタスも曖昧にしか思い出せないのを見る辺り、
当時はそれどころじゃない空気が漂っていたのだろうと察しはつく。
やはり、当時のその事故を担当した警官にアプローチすべきだろうか。
しかしそれをイナリちゃんに問うと、少し声のトーンを落とした。
イ(゚、ナリ从 「既に、確認はしております」
(´・ω・`) 「おっ」
イ(゚、ナリ从 「覚えてない、とのことでした」
イ(゚、ナリ从 「霧のことじゃありません。 事故のことを、です」
.
- 820 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:08:09 ID:CWcmTz4o0
-
チッ。
まあ、当人のことを考えると、仕方がないか。
今の僕らは、当時の事故を疑ってかかっている。
しかし、当時の彼にとっては、それは事故として終わったものなのだ。
何かしらの悪意渦巻く事件ならともかく、偶発的な事故はそう記憶に留まらない。
霧、か。
イ(゚、ナリ从 「平行線ですか」
(´・ω・`) 「そう簡単に糸口なんて見つからないよ」
(´・ω・`) 「ッてことだし、一旦僕らはコテージまで行きたいところなんだけど」
イ(゚、ナリ从 「……」
十年も前の、それも現場ですらないコテージに証拠などあるわけがない、
時間の無駄で非効率的だからやめておけ、と思っているのか。
虫がいやなのか。
.
- 821 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:08:35 ID:CWcmTz4o0
-
( ´_ゝ`) 「……」
(´・ω・`) 「あんたはどうするよ」
(´・_ゝ・`) 「へ」
僕と兄者、一応の鑑識も連れていく。
当事者が多ければこちらとしては検討は進めやすいところだ。
イ(゚、ナリ从 「差し支えなければ、こちらでお話を引き続きお伺いしたいのですが」
(´・_ゝ・`) 「え、え。」
(´・ω・`) 「ん」
同時進行で事故を掘り下げ、落ちるはずの捜査効率を高めたいのか、
ひとりが嫌なのか。
(´・_ゝ・`) 「……」
(´^_ゝ^`) 「どうしたらいいですかね……」
.
- 822 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:11:45 ID:CWcmTz4o0
-
(´・ω・`) 「そうだね」
(´・ω・`) 「こっちはこっちで、検討を進めておくし」
(´^ω^`) 「そっちの警部さんにも、いろいろ当時のこと、話してあげて」
(´・_ゝ・`) 「は、はい」
.
- 823 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:12:34 ID:CWcmTz4o0
-
|`ヽ /|
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| ヽ / ノ
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| .、
l !
r---ゝ !
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イツワリ警部の事件簿 File.4 `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
く l lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
第八幕 「 アルプス山脈にて 」 ' '、-_l ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
` ..‐,,..、 丶、 冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
,' /´ ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
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¦ ! ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
Y ;:::::::::│ / `――\/::::|
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- 824 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:13:58 ID:CWcmTz4o0
-
┏━─
午前十時一六分 捜査本部
─━┛
鈴木ももう戻るという一報を聞き、念のためにコーヒーを余分に淹れておいた。
ペニー、鈴木、東風さんに自分と、警部以外の全員が揃うことになる。
イレギュラーな会議になるが、事情を聞けば警部が抜けてよかったと思えた。
( ゚д゚) 「アルプスも動いたか」
( <●><●>) 「しかも、親子警部が、ですよ」
( ゚д゚) 「勘弁してくれ」
.
- 825 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:14:27 ID:CWcmTz4o0
-
東風さんは軽く笑って、淹れたての熱いそれを口に含んだ。
彼に限らず、アルプスの三月親子を敬遠する者は多い。
片や警察で一番長い現役経験を重ねる三月ウサギ。
片や幹部候補筆頭のキャリア組である三月イナリ。
まして、ふたりが並ぶと、周囲にいる人間のペースを著しく乱す。
東風さんにとって、三月ウサギは目の上のたんこぶだ。
現場一辺倒としてヴィップでは名を馳せる身分にいるが、
その自分の更に上をいく男が三月ウサギというのだから。
また、相対的に現場を重視しない三月イナリにも、苦手意識を持っている。
考えが合わない部分が多く、しかし相手は若い女性の、しかも上司だ。
その二人が揃っているのだから、居づらくなるのは言うまでもないことだ。
('、`*川 「イナリさんって、まだ警部なんだっけ」
( <●><●>) 「一応は」
('、`*川 「あの人、女としてはカッコイイんだけどさ」
('、`*川 「頭カタいよね」
.
- 826 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:14:53 ID:CWcmTz4o0
-
イナリは一時期、短い期間ではあるがヴィップ県警にも配属されていた。
私とペニーは、当時のイナリとの面識がある。
いま、遅れて本部に戻ってくる鈴木だけが直接的な面識はない。
有名人には違いないので、むろん知らないわけではないそうだが。
('、`*川 「モデルとか似合うと思うんだけどな」
( <●><●>) 「……」
ヴィップ県警にいた頃の彼女を、思い出す。
彼女は、ずば抜けて頭がいい。
しかし、周囲の人間はそうでもないのだ。
冷静に考えてみれば正しい方針、意見を彼女が言ったところで、
他の人間はそれを理解できないのだから、そこで溝が生じることが多々あった。
( ゚д゚) 「いま、いくつだったっけ」
( <●><●>) 「私の二個下なので、今年で二十八ですね」
( ゚д゚) 「かーー。 時間が経つのは早いもんだ」
.
- 827 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:15:22 ID:CWcmTz4o0
-
('、`*川 「まだ独身なの?」
( <●><●>) 「そこまでは知らん」
( ゚д゚) 「結婚……してられる暇がないだろうなァ」
('、`*川 「絶対オンナとしての生き方間違えてるわ」
( ゚д゚) 「お前が言うな、お前が」
そんな三月親子をいなせる希少な人間のひとりが、警部だった。
三月ウサギとは古くからの師弟関係、のようなもので。
ヴィップ在籍時の三月イナリを指導したのも、警部だ。
話に聞くに、じゅうぶん強い個性を放っている警部が霞んで見えるらしい。
しかし、まあ。
うまく立ち回ってくれるだろう。
( ゚д゚) 「で……なんだっけか」
('、`*川 「亡霊、ですよ」
('、`*川 「亡霊」
.
- 828 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:15:43 ID:CWcmTz4o0
-
亡霊。
昨夜、突如判明した 「亡霊」 の存在。
それに付随し浮上した、本件のほんとうの側面。
十年前に、サークル内で発生した事故。
それは実は作為のもと成り立った事件で、
被害者となった山村貞子による復讐劇が連続予告殺人ではないのか、という説。
これには、複数のネックが存在する。
一番は、山村貞子という女が、生存しているのかどうか。
また、十年前の一件は、警察では事故として処理されている。
ここに事件性が見出されないようであれば、動機は非常に薄くなる。
以上、大きな二点をクリアしてもなお、不審な点は募る。
連続殺人のひとつひとつが、依然不鮮明なままなのだ。
/ `、、;/ 「お待たせしましたーー!」
('、`*川 「オッ!」
.
- 829 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:16:09 ID:CWcmTz4o0
-
ペニーが、自分のコーヒーにおかわりを淹れている時だった。
思いのほか早く、鈴木が帰還した。
心なしかくたびれて見えるスーツを着て、
違和感しかないストールをなびかせていた。
( ゚д゚) 「走るな、走るな」
/ `、、 / 「疲れたんですよ……もう……」
('、`*川 「ほい」
/ ゚、。 / 「ん」
鞄をデスクに置きながら、渡されたコーヒーを受け取った。
疲れたのは本当のようで、髪が多少乱れていた。
/ ゚、。 / 「……」
/ `、、 / 「カフェインが五臓六腑に染み渡るーー」
('、`*川 「ねーー」
.
- 830 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:16:37 ID:CWcmTz4o0
-
/ ゚、。 / 「で、えっと」
/ ゚、。 / 「話、どこまで進んでますか」
( ゚д゚) 「いや。 これから先にしとこうか悩んでたところだ」
('、`*川 「亡霊の話をチョロっとしただけよ」
/ ゚、。 / 「あーー亡霊」
全員が、ホワイトボード前のデスクに集まる。
東風さんとペニーが椅子に座っている。
/ ゚、。 / 「警部がいないのって、珍しいよね」
('、`*川 「普段メンドーなのに、いざという時いないと心許ないよね」
( ゚д゚) 「上司ッてのはそんなもんだ」
警部は、十年前の現場となったアルプス山脈に出向いている。
向こうで得られる情報なんてあるのだろうか。
当時の証拠など、一切がなくなっているに違いないのに。
.
- 831 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:17:08 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「とりあえず、始めるぞ」
東風さんが自分に視線を遣る。
( <●><●>) 「そうですね」
( <●><●>) 「亡霊、とかいうのが昨夜、警部に宣戦布告をしてきました」
亡霊の存在、亡霊の予告。
「亡霊」 と十年前の事故の被害者が、山村貞子という名前を通じて繋がった。
犯人は、彼女と断定して差し支えはないだろう。
十年前のそれが本当は事件だったのか、に関しても、警部とアルプス県警が洗っている。
我々が進めるべき検討は、亡霊にはない。
亡霊に関する情報が少なすぎるし、洗える部分がほとんど残っていない。
それ以上に、それまでの四件の事件を追究しなければならなかった。
( <●><●>) 「たとえ犯人が亡霊だったとして」
( <●><●>) 「畢竟、いままでの四件は、未だ手口が不明なのです」
.
- 832 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:17:45 ID:CWcmTz4o0
-
横長のホワイトボードには、文字がびっしりと詰められていた。
現場写真やサークル構成員の顔写真ですら、すべてがひっぺがされている。
最初の、スカスカだった頃と比べると、雲泥の差だ。
いま、捜査は佳境に入っている。
( <●><●>) 「一件目、地下鉄事件」
( <●><●>) 「概要は今更いいとして、だ」
ヴィップの地下鉄で起こった事件。
走行中の車両内で、フッサール擬古が、後ろから刺殺された。
乗客は多く、亡霊はそのなかに紛れてさり気なく殺し、そのまま脱走に成功した。
( <●><●>) 「監視カメラのデータが、ここにあります」
( ゚д゚) 「洗ったのか」
( <●><●>) 「はい」
( <●><●>) 「しかし、三点問題がありました」
.
- 833 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:18:05 ID:CWcmTz4o0
-
一点目。
大勢が逃げるように、改札、出口へと押し寄せたのだ。
ただでさえ顔まで鮮明に描写されない映像だ、
ましてそのなかから個人を特定するのは、厳しいと言わざるを得ない。
二点目。
それでも、多くの人員を割いて、一人ひとりの乗客をチェックした。
サークル構成員の顔写真はあるのだ。
それらをもってチェックしたが、しかし擬古以外の誰一人として、その地下鉄には乗車していなかった。
三点目。
亡霊、とは言うが、山村貞子という女性なのは特定している。
容姿の証言は聞いて、モンタージュまで作らせてはいるものの、
女性で、しかも大事故を経ている、こちらはあてにならないだろう。
そのため、ざっくり 「女性」 に焦点を絞って、映像を洗いなおした。
当時の駅員の証言も含めて、取調ができていない女性全員も大まかな特定に成功している。
( ゚д゚) 「女性……か」
('、`*川 「そもそも、女性が少ないですネ」
( ゚д゚) 「真夜中の電車ともなりゃあ、な」
.
- 834 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:18:35 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「容姿はあてにしない、としても」
( <●><●>) 「三十二歳、職業、など、最低限ホシか否かを見分けることはできます」
( ゚д゚) 「まあ、ばあちゃんや学生は該当しねえからな」
( <●><●>) 「で、洗った結果ですが」
、 、、、、 、 、 、 、、 、 、 、 、 、 、、 、 、 、 、 、 、、 、、 、
( <●><●>) 「少なくとも、山村貞子と条件が合致する女性は存在しなかった」
_,
( ゚д゚) 「……はあ?」
その報告を受け、私も徹夜で一緒にダブルチェックしたのだ。
信じたくはないが、確かに断言できることではあった。
、 、、 、 、、 、 、
( <●><●>) 「乗っていなかったのですよ」
( <●><●>) 「山村貞子になり得る女性は……誰一人」
.
- 835 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:18:59 ID:CWcmTz4o0
-
('、`*川 「待って、待って」
('、`*川 「それって、アレでしょ」
('、`*川 「取調から逃げた人だけ……の話でしょ?」
( <●><●>) 「取調を受けた乗客のデータなど、全部洗った」
膨大な量だった。
もはや捜査員が信じられなくなったので、私も一緒に洗った。
途方もない作業だったものの、さほど苦は感じられなかった。
真相に近づけている気がしたからだ。
しかし、作業が終わった瞬間、この上ない徒労を感じたものだ。
( ゚д゚) 「いなかったのか?」
( <●><●>) 「いえ。 年齢や職業から、可能性のある人は、数人」
( <●><●>) 「しかし、全員がアリバイ持ちです」
.
- 836 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:19:27 ID:CWcmTz4o0
-
,_
('、`*川 「アリバイ?」
/ ゚、。 / 「逆に怪しいね」
( <●><●>) 「アリバイ、というのは、だ」
( <●><●>) 「山村貞子にはなり得ないアリバイ、という意味だ」
('、`*川 「………ああ、そゆこと」
家族がいたり、過去に大きな事故がなかったり。
少なくとも、データをアルプス神経病院に照会すれば、一発なのだ。
今朝がたになって、先方は協力的にこちらの捜査に応じてくれた。
多くの捜査員と一緒に私も担当したが、結果はゼロだった。
/ ゚、。 / 「なんか、こう、戸籍だったり来歴をごまかしたりは?」
( <●><●>) 「すべて洗ってある。 シロだ」
公的な書類だったり、年齢などの個人情報は、
たとえ詐称されていたとして、警察の手に掛かれば特定そのものはすぐにできる。
何から何に、どうやって変えたか、までは骨が折れるものの、
少なくとも詐称しているかどうか、に関しての捜査は一時間も費やさなかった。
.
- 837 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:20:02 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「……まとめると、だ」
( ゚д゚) 「あの日、あの車両に、亡霊はいなかった」
( <●><●>) 「車両から逃げ出した人、取調を受けた人」
( <●><●>) 「そのどちらにも、亡霊たりうる人物はいなかったのです」
膨大な徒労を思い出し、頭が痛くなった。
こんな時、警部や東風さんが煙草を吸っているのを真似てみたくなりはする。
( ゚д゚) 「それ以外は、洗ったのか?」
( <●><●>) 「と言うと」
( ゚д゚) 「実は、本件は二人がかりだった」
( ゚д゚) 「亡霊の真相を知るサークル構成員のうち、誰かが手を貸したんだ」
.
- 838 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:20:24 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「想定は、正直なところ、していませんでした」
( ゚д゚) 「なら」
( <●><●>) 「しかし、構成員に関しては、とっくに完了しています」
( <●><●>) 「誰一人、映像にも取調にも引っかかっていません」
もとより、構成員がわかった時点でその調査は済ませてあるのだ。
しかし、となるとわかる答えが、異常に重く圧し掛かる。
( ゚д゚) 「ッてなると」
( ゚д゚) 「……亡霊は、外部犯と強力した可能性が濃厚になるぞ」
それが、何よりも厄介だった。
この期に及んで、サークル外に仲間がいたとなると、収拾がつかない。
.
- 839 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:21:07 ID:CWcmTz4o0
-
亡霊本人は、こう言った。
亡霊に、実体はない。
人から見られることなく、普通に刺して、そのまま逃げた、と。
心霊的なものを信じるわけではないが、
この時に限り、ぜひともそうあってほしい、と思えてならなかった。
('、`*川 「だったら、男」
('、`*川 「カメラの映像って、女しか見てないんでしょ」
( <●><●>) 「言うがな、なんのデータもなしにそのチェックはできない」
ただでさえ、取調から逃げた乗客の大多数が男性だ。
それも、スーツを着た人が多かった。
やましいことがあったから、ではない。
面倒事に巻き込まれて、明日の出勤に支障をきたしたくなかった、といった具合だろう。
その人間的な心情を責めることは、私にはできなかった。
( <●><●>) 「何か、データがあれば」
( <●><●>) 「事件関係者になり得る、男の……」
.
- 840 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:21:33 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「害者まわりはどうだったんだ」
( ゚д゚) 「ペニー、地下鉄担当はペニーだろ」
('、`*川 「少なくとも、そんな都合のいい男、のデータはなかったですよ」
一件目にして、もはや最大の障壁と言っていいだろう。
ここを解かないことには、これから始まる連続殺人鉄道の切符が買えないのだ。
('、`*川 「でも、ですね」
('、`*川 「ちょっとこれを見てください」
( ゚д゚) 「ん」
ペニーが意味深に、一枚の紙を取り出した。
声色からして、ジョークではない。
手がかりだ。
('、`*川 「これは、初動捜査でわかっていたことだったんですが」
('、`*川 「今の今まで、事件性がないと思われていたデータです」
.
- 841 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:22:05 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「……」
( <●><●>) 「!」
( <●><●>) 「アルプス神経病院……!」
思わず声がこぼれた。
書類には、彼の電話に登録されていたカレンダーが載っていた。
そのなかに、赤ペンで丸を付けられている日付があった。
五月四日、日曜日。
アルプス神経病院、とだけ書かれてある。
('、`*川 「アルプス神経病院」
('、`*川 「当然ではありますが、これは擬古が殺されるより、前」
('、`*川 「四月二十五日……より以前に書かれた予定です」
流石兄者が任意同行前に訪れていた場所であり、
山村貞子が十年前に搬送された場所である。
本事件のキーの、ひとつだ。
.
- 842 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:22:26 ID:CWcmTz4o0
-
('、`*川 「フッサール擬古は、流石兄者よりも先に」
('、`*川 「……ッていうと、伝わんないか」
、 、 、 、 、 、 、、 、、 、 、
('、`*川 「連続殺人が起こるより前に」
('、`*川 「山村貞子との接触を試みようとしていたのが、わかります」
( ゚д゚) 「でかしたぞ!」
東風さんが、腹の底にたまっていた声を出した。
しかし、これだけではデータとしては、弱い。
( <●><●>) 「それはいいとして、だ」
- 843 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:22:54 ID:CWcmTz4o0
-
兄者は、事件を通して裏に貞子の存在を懸念したから、
アルプス神経病院に出向いていたわけだが。
それはあくまで、連続殺人が巻き起こっているからこそ成し得た行動だ。
フッサール擬古はその事件が起こるより前に、既にアプローチをとっていた。
( <●><●>) 「裏では、事件よりも前に貞子との接触が計画されていた」
( <●><●>) 「いったい、その目的はなんだったんだ?」
('、`*川 「わかることがふたつ、あるわ」
ペニーにしては論理的な展開だった。
しっかり裏までとっているらしかった。
('、`*川 「まず、どうしてこの日付か、ということ」
( ゚д゚) 「気になるのはやっぱり……」
東風さんにつられて、皆がホワイトボードを見る。
五月四日といえば、芹澤ミセリに殺害予告が届いた日だ。
.
- 844 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:23:44 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「しかし、ミセリと病院はリンクしませんし」
( <●><●>) 「ミセリの殺害も、単にクックルを殺した続き、と見るべきです」
('、`*川 「ううん、そっちじゃないの」
('、`*川 「ポイントは、休日だった、というところ」
続けてペニーが小ぶりの紙を出す。
自前のメモのようで、日付と思しき数字が羅列されている。
('、`*川 「これは、害者が勤めていた整骨院から聞いたわ」
('、`*川 「三日、続けて四日が休日だったの」
( ゚д゚) 「休日……」
、、 、 、、 、、 、、、 、
('、`*川 「害者にとってはひとつのイベントとして、組み込まれていたわけです」
('、`*川 「で、こっちも重要だわ」
('、`*川 「ようやく、データが上がってきたんだ」
次はちゃんとしたA4の紙だ。
エクセルで作られたもののようで、細かい字がリスト上にびっしりと並んでいる。
.
- 845 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:24:04 ID:CWcmTz4o0
-
('、`*川 「サイバー犯罪対策課が、やってくれた」
('、`*川 「フッサール擬古が、渋沢栄吉のサイトにアクセスしてた痕跡が割り出されたわ」
( ゚д゚) 「!」
('、`*川 「といっても、ほんとうについさっき、だけどね」
こんなにも大量の、有益な情報の数々。
平生のペニーならば、判明した時点で嬉々として話しそうなものだ。
呑気にコーヒーを飲んでいた時とは比べられないほど、ペニーの眼は据わっていた。
('、`*川 「チケットや予約データからは、割り出せなかった」
('、`*川 「害者は別に、ライブを聴きたかったわけじゃなかったみたいでね」
リストには、多くのIPアドレスが記載されている。
害者のPCから、彼の生前にアクセスがあったことが証明された。
.
- 846 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:24:37 ID:CWcmTz4o0
-
('、`*川 「むしろ、逆」
('、`*川 「害者は、ライブよりも目当てがあったと見るべきさ」
( ゚д゚) 「クックルに会うつもりだった、と」
( <●><●>) 「しかし、ふたりの間にそんなやり取りがあったなんて」
('、`*川 「あのさ、さっきわかったばっかなんだぜ」
('、`*川 「そこら辺の裏取りは、これから進めるんだい」
( <●><●>) 「……」
('、`*川 「ただ、その線は濃いね」
( ゚д゚) 「いまいち、解せないな」
フッサール擬古は生前、山村貞子に接触しようとしていたのがわかった。
また、渋沢栄吉のサイトを閲覧していた痕跡が認められた。
ライブがあった五月三日、ならびに翌日の四日は休日で、
その四日に、アルプス神経病院に行く旨が予定されていた。
.
- 847 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:25:02 ID:CWcmTz4o0
-
畢竟、それらは何を紡ぎだすというのか。
問う前に、ペニーは続けた。
('、`*川 「重要なのが、神経病院に何の用だったか、よ」
('、`*川 「あのね、貞子が病院に送られたの、十年前なんでしょ?」
( <●><●>) 「ああ」
('、`*川 「仮に貞子に用があったとして、だ」
('、`*川 「さすがに、事前に電話で確認くらい、とるでしょ」
('、`*川 「先週先月の話じゃないんだし」
( <●><●>) 「むろん」
( <●><●>) 「……待て」
( <●><●>) 「害者から病院への電話は」
('、`*川 「なかったわ」
.
- 848 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:25:28 ID:CWcmTz4o0
-
兄者たちの証言によると、サークルの構成員は、この十年間。
例外はあるにせよ、ほぼ疎遠な関係だった。
擬古も例に漏れないならば、擬古は四日の日、
およそ十年ぶりに貞子に会いにいくことになる。
それも、それはあくまで、貞子が一切目覚めず、
また一切転院などしなかった場合の話だ。
兄者の言にもあったが、植物状態の患者というのはよく転院するそうだ。
その風習を知らなかったにしても、
まだ貞子がそこに眠っているかの確認は、しなければおかしい。
( ゚д゚) 「完全に、か」
('、`*川 「少なくとも、害者の端末や、職場の固定電話からは」
('、`*川 「これって言い換えたら、こうなるのよ」
、 、 、
('、`*川 「擬古は、貞子のその後を知っていた」
.
- 849 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:25:56 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「貞子が転院していたことを、か」
( ゚д゚) 「ただの惰性か無知で、いきなり見舞いに行こうとした線は」
('、`*川 「ないですね」
('、`*川 「突発的ならともかく、一週間以上先に、」
('、`*川 「それもわざわざカレンダーに打ち込んでた程には、計画性があったんです」
('、`*川 「害者にとってこの見舞いは、軽くはない計画だった」
しかし、だとするとわからないことが出てくる。
目下アルプス県警が当たっているだろうが、
何にせよ、貞子のその後は、現状わかっていないのだ。
/ ゚、。 / 「いま、貞子はどこにいるの」
('、`*川 「それも、これから暇な奴らかき集めて当たるわ」
.
- 850 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:26:19 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「どう当たるつもりなんだ」
('、`*川 「それですけどね、いやあ、いいアテがあるんですよ」
( ゚д゚) 「アテ」
('、`*川 「整骨院の院長さんに、さっき電話したんだ」
、 、 、 、 、
('、`*川 「害者の担当、について」
( ゚д゚) 「担当?」
('、`*川 「害者は、その若さやキャラが買われてた」
('、`*川 「ジジババに結構な人気があったみたいで、そっちに人脈が広かった」
('、`*川 「……孤児院とか、お寺とか」
('、`*川 「そっち方面に、顔が広かったッて証言がとれたんよ」
.
- 851 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:26:52 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「!」
なるほど、悪くない着眼点だと思った。
前提として、擬古もサークル構成員のひとりで、
ということはつまり、ミセリやデミタス同様に、貞子という禁忌を背負っていた。
また、植物人間の療養と言われて、孤児院なんかが浮かぶのもおかしくはない。
病院に預けたままというのは、コスト面で非常に負担が大きい。
/ ゚、。 / 「それなら、私からも一点」
/ ゚、。 / 「さっきまで、山村貞子の家族構成について洗ってたんですがね」
仕事が速いな。
いや、だからこそ合流が遅れた、とも捉えられるが。
/ ゚、。 / 「貞子は現在、天涯孤独です」
( ゚д゚) 「なッ…」
/ ゚、。 / 「もとより、シングルマザーの手で育てられた貞子」
/ ゚、。 / 「彼女が眠って三年ほどで、母は心的疲労で死去しています」
.
- 852 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:27:30 ID:CWcmTz4o0
-
考えてみるまでもない話だった。
人間にとって、植物状態というのは死亡以上に重い、
考えられる限り最悪な様態と言えるだろう。
シングルマザーと聞いて合点がいった。
一般家庭においても負担が大きいのに、
まして経済的に苦しい片親の家庭となると、病院には長居できまい。
('、`*川 「それを聞いてさ」
('、`*川 「ビンゴだ、ッて思ったの」
( ゚д゚) 「確かに、金銭が負担されない植物人間なんて、」
( ゚д゚) 「どんな良心的な病院でも担当できねえもんだ」
('、`*川 「ただ、例外がある」
('、`*川 「それこそ、孤児院的なところや、宗教施設です」
.
- 853 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:28:15 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「いま、アルプスが総力で行方を追っているらしいが」
('、`*川 「逆、なんだよ」
('、`*川 「正式な手続きが踏まれた転院なら、すぐに特定できるわ」
( ゚д゚) 「……あくまで個人的な引取り、だったわけだ」
('、`*川 「こっからは単なる推測ですがネ」
ペニーがワンテンポ置いて、話し出した。
('、`*川 「擬古は、当時もう整体師」
、、、
('、`*川 「まして、二十半ばの若さ、既にファンはついてたと見ていい」
('、`*川 「寺とかそっち方面のお客さんと仲良くなっていた、として」
('、`*川 「貞子が病院にいられなくなったことを知って、」
('、`*川 「ダメ元で、事情をお客さんに言う」
('、`*川 「当時、母ちゃんが合意したのか、もう亡くなってたかはわからないけど」
.
- 854 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:29:04 ID:CWcmTz4o0
-
('、`*川 「擬古が、貞子を守るために、あくまで個人的に」
('、`*川 「親権者でもないのに、貞子をその施設に連れて行った」
( <●><●>) 「病院が回答に躊躇っている理由も、つまり」
('、`*川 「回答するとグレー、あるいはブラックが露呈するから……だったら?」
考えられない話では、なかった。
植物人間を預かる病院の本音を考えてみればいい。
患者の様態維持に、多大なコストがかかる。
まして、非常にデリケートな問題で、病院としても非常に頭を抱える案件だろう。
それを、法が守っていない範囲であろうが、引き取ると申し出てくれる人がいたら。
その人が、宗教関係者で、慈悲のためともあらば、病院側はどう思うだろうか。
たとえ正式な手続きを踏んでいなかったとしても、だ。
('、`*川 「……マ。 あくまで仮説だけどね」
('、`*川 「ただ、望みは十分にある」
.
- 855 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:29:55 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「擬古が、貞子を救い得る手段を持っていた可能性」
( ゚д゚) 「それはわかった」
東風さんが、最初の紙を表に出した。
五月四日、アルプス神経病院と書かれた紙だ。
( ゚д゚) 「じゃあ、これはなんなんだ?」
( ゚д゚) 「仮説が正しいとすると、今更病院になにがある」
('、`*川 「それなんだけどね、こう考えたら辻褄があうんですヨ」
('、`*川 「貞子が、目覚めた」
( ゚д゚) 「!」
('、`*川 「それを報告しようと思ったか、あるいは別件か」
('、`*川 「とにかく、擬古は貞子の目覚めを誰よりも早く知ることができた」
.
- 856 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:30:17 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「裏こそ取れてないものの」
( <●><●>) 「それは、私も賛成できるな」
/ ゚、。 / 「え、根拠は」
( <●><●>) 「考えてもみろ」
( <●><●>) 「今までの四人を殺してきたのは、誰だ」
/ ゚、。 / 「それは……」
/ ゚、。 / 「!」
( ゚д゚) 「そうか!」
( ゚д゚) 「そもそも貞子が目覚めたのが全ての発端じゃねえか!」
.
- 857 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:30:42 ID:CWcmTz4o0
-
もし、貞子が目覚めていなかったとするなら、
いったい、今までの四人を殺したのは。
警部に宣戦布告を突き付けてきた亡霊は、いったい誰だったというのか。
貞子の目覚めをなしに、今回の連続予告殺人はなかったのだ。
貞子が目覚めたから、事件が起こった。
それを前提に考えると、確かに筋が通った仮設と言える。
('、`*川 「順序は、こう」
('、`*川 「擬古は、なにかしらのコネで貞子を引き取った」
('、`*川 「そして最近になって、貞子が目覚めた」
('、`*川 「それがキッカケで、アルプス病院に行く予定も組んだ」
('、`*川 「一方で、貞子は目覚めたことで亡霊となった」
('、`*川 「全員を殺してやるッて怨念が、まず真っ先に、」
('、`*川 「一番近くにいた擬古を殺した」
('、`*川 「……どう?」
.
- 858 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:31:34 ID:CWcmTz4o0
-
何もなかったところから、うまく組み立てられたストーリーだとは言えるだろう。
しかし空しいが、それで解決できるほど簡単な事件ではない。
穴が、それも無視できない欠陥が多かった。
( <●><●>) 「すまんが、それだけじゃあ弱い」
( <●><●>) 「各事件のトリックはさて置いて、だ」
('、`*川 「うっわヤな言い方……」
軽く咳払いする。
申し訳ないとは思っているのだ、これでも。
( <●><●>) 「目覚めたばかりの貞子に、」
( <●><●>) 「十年前の面々に会う手段は残されていない」
( <●><●>) 「擬古とミセリはいいとして、ヒッキー、クックルとどうつながったんだ」
('、`*川 「……」
.
- 859 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:31:57 ID:CWcmTz4o0
-
/ ゚、。 / 「ミセリも?」
( <●><●>) 「ミセリは、旦那のクックルから容易に辿ることができる」
( <●><●>) 「しかし、ヒッキーとそのクックルへ、どうコンタクトを取るか、だな」
( ゚д゚) 「……そうだな」
東風さんも、渋い声を出した。
( ゚д゚) 「なんでも、部長の流石兄者ですら、連絡手段はほとんどなかった」
( <●><●>) 「十年前に自然消滅したサークルですから」
( <●><●>) 「それに人間、十年も経てば環境はがらりと変わる」
( <●><●>) 「当時の連絡先が十年後も通じているなど、まず考えられない」
('、`*川 「擬古がヒッキー、クックルと繋がってなかったのは、認めるさ」
('、`*川 「こないだまで、ずっとこの私が追ってたんだから」
.
- 860 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:32:20 ID:CWcmTz4o0
-
('、`*川 「だから、こっちも博打だけどね」
('、`*川 「あくまで、擬古はローカルな整骨院に勤めてただろ?」
( <●><●>) 「……!」
まさか、そんな偶然があるのか。
いや、考えられない話ではない、のか。
('、`*川 「ヒッキーを除いて全員が、ヴィップの人間でよ」
('、`*川 「地元には顔が広い整骨院さ」
('、`*川 「なにも、ここ最近じゃなくッたっていい」
('、`*川 「十年も勤めてたら、一度くらい来院してたッて……」
( <●><●>) 「……まさに博打、だな」
('、`*川 「こっちは期待してないさ」
.
- 861 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:32:51 ID:CWcmTz4o0
-
スマホに連絡先が載っていなかろうが、
実際に会って話すことはもちろん可能だ。
店に訪れると、旧知の友人がいた。
当然、昔話のひとつ、するだろう。
そういったところでコンタクトを握っていたなら、あるいは、があり得るか。
当然、非常に望みの薄い話ではある。
('、`*川 「……以上が、このペニー様の結果よ」
('、`*川 「ひとつ、擬古は貞子と接触していた可能性があった」
('、`*川 「ひとつ、貞子は擬古のツテに引き取られた可能性があった」
('、`*川 「……質問は」
( <●><●>) 「ちょっと待ってくれ」
('、`*川 「ゲッ」
勝ち誇っているところに横やり、本当に申し訳ないとは思う。
しかし、気になるところは徹底的に潰していかなければ不安が残る。
.
- 862 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:33:13 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「五月四日、の件はいい」
( <●><●>) 「渋沢栄吉のサイトに残っていたIPは、なんだったんだ」
('、`*川 「ああ、それ」
('、`*川 「一応の裏づけ、保険よ」
( <●><●>) 「保険?」
('、`*川 「そうね……たぶんクックルだわ」
('、`*川 「クックルと擬古は生前コンタクトを取っていて、」
('、`*川 「渋沢のライブの警備をする、なんて話を聞いたとしたら?」
( ゚д゚) 「……そうか。 そうだな」
( ゚д゚) 「ライブそのものに興味はなくとも、確かにサイトにアクセスくらいはしてもいい」
('、`*川 「そゆこと」
.
- 863 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:33:35 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「……」
一気にわかった情報が多く、処理が追いつかない。
擬古は、クックルがライブ会場に行くことを知っていた。
それが意味するところの真実は、なんだというのか。
/ ゚、。 / 「……職場って、ご高齢が多いんでしょ?」
/ ゚、。 / 「職場の雑談の流れで、なんとなく見ただけだったら?」
('、`*川 「そっちの線はないわ。 院長さんに裏、取ってあるもの」
('、`*川 「擬古に、渋沢に向ける興味はなかった、ッてね」
/ ゚、。 / 「そっか」
絶対にないとは言えないが、
クックルと接触し、ライブのことを聞かされない限りは、
当該サイトにIPアドレスが残ることはまあないだろう。
というより、薄そうな線を切っていかなければ、
無限に伸びる樹形図を、限られた時間内で当たっていくことはできなくなる。
.
- 864 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:33:57 ID:CWcmTz4o0
-
/ ゚、。 / 「じゃあ、次」
/ ゚、。 / 「ヒッキー小森が殺害された、ビジホ殺人ね」
警部が、本件のキーだと言っていた事件だ。
もとより謎が多く、ここも解かなければならない、ひとつの山場。
/ ゚、。 / 「まず、それまでにわかっていた謎から……おさらい」
/ ゚、。 / 「……」
( <●><●>) 「……」
どうして皆、おさらいや概要説明に私を使うのか。
法廷で冒頭弁論に使われるような気分だ。
( <●><●>) 「まあ、いい」
( <●><●>) 「一番はなんといっても、どこでアレルゲンを盛ったか、だ」
.
- 865 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:35:39 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「亡霊は二件目で、ビジホの個室内で害者を殺害した」
( <●><●>) 「遠隔殺人に用いられたのは、ピーナッツオイル」
( <●><●>) 「つまりこの時点で、いつ盛ったのか、いつ知ったのか、が謎となる」
いつ盛ったのか、はデータさえあれば証明はできるが、
奇妙なのは、サークル構成員の誰もがアレルギーを知らなかった可能性がある点だ。
一番付き合いの長い兄者でさえ、ピーナッツの件は知らなかった。
警部がかまをかけた上での証言なのだから、信憑性は高い。
むろん、我々の知らないところで知られていた可能性はある。
構成員が、貞子含む七人いたうち、話が聞けたのは半数にも至らないのだから。
( <●><●>) 「まして、害者はアルプスの人間」
( <●><●>) 「亡霊がヴィップに固執していた理由はさて置いて、」
( <●><●>) 「害者が現場に赴いたのは、単なる偶然だ。 作為はなかった」
.
- 866 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:36:19 ID:CWcmTz4o0
-
鹿島建設、と言ったか。
所轄署を使って調べさせたが、やはりこちらに作為は認められなかった。
あらかじめ決まっていた案件とはいえ、
それを社外の人間が知るのはいささか不自然といえる。
亡霊が害者のスケジュール帳なんかを覗いた可能性も考えにくい。
となると、害者が亡霊に、雑談がてらヴィップに行くことを話した以外ないだろう。
なら、それはいつ、話したのか。
また、害者は害者で、構成員との繋がりはなかったのではないか。
あったとするならそれは兄者だが、兄者が最後に話したのは少なくとも去年今年ではない。
犯行タイミング、ピーナッツアレルギー、ヴィップへの出張。
大きく分けただけでも、難解な謎が三つもある。
/ ゚、。 / 「ヒッキー小森は、両親と弟の四人家族」
/ ゚、。 / 「住まいは当時も今もアルプス」
/ ゚、。 / 「サークルに勧誘されたのは、旧知の兄者に呼ばれたから、だけど」
/ ゚、。 / 「やっぱり、アルプスとヴィップの繋がりが薄いのが、ひとつの謎だね」
.
- 867 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:36:54 ID:CWcmTz4o0
-
/ ゚、。 / 「とりあえず、アレルギーの謎を解かないと前には進めないんだけどね」
/ ゚、。 / 「アレルギーを知り得たのは家族くらいで、」
/ ゚、。 / 「職場の人間ですら、アレルギーのことは知らなかったみたい」
/ ゚、。 / 「ご実家に話を伺いにいったものの、」
/ ゚、。 / 「害者が過去にアレルギーでやらかしたこともなかったみたいで」
/ ゚、。 / 「アレルギーに過敏になりはするものの、別にぺらぺら喋ることでもなかったッて」
( ゚д゚) 「主治医の線はどうだ」
( ゚д゚) 「確か、ナントカって薬にもアレルギーがあったみたいじゃねえか」
/ ゚、。 / 「そっちもですね」
/ ゚、。 / 「……ッてより、親御さんにも変な顔をされたんだけど」
/ ゚、。 / 「やっぱり、アレルギーなんて、そう簡単に知れるものじゃないですよ」
.
- 868 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:38:02 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「……」
それはごもっともだ。
知っていてもおかしくはない。
しかし、知っていないのはもっとおかしくない。
家族と主治医だけが、知っている。
職場の人間も、サークル構成員も、知らない。
当たり前すぎて、かえって掴みどころがない。
重要なのは、アレルギーという手段を使った必然性である。
亡霊は、アナフィラキシーショックに拘っていた裏などない。
考えられるのは、亡霊は何かしらで害者のアレルギーを知っていた。
厳重に管理されている毒物なんかを用いるよりは、
市販で手に入るピーナッツオイルを用いるほうがよっぽど楽だ。
したがって亡霊は、楽だからそちらを使おう、と考えるべきなのだ。
/ ゚、。 / 「害者は一人暮らしでした」
/ ゚、。 / 「したがって彼の食生活を知り得たわけでもないし、」
/ ゚、。 / 「何かをよく食べる、ならともかく、何かを拒んでいる、なんて」
/ ゚、。 / 「到底知り得ようがないですよ、亡霊からしちゃ」
.
- 869 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:38:24 ID:CWcmTz4o0
-
('、`*川 「やっぱり、掛かりつけの病院から情報を盗んだくらいかね」
/ ゚、。 / 「でも、だいぶ薄い、細い、考えにくい線だよ」
/ ゚、。 / 「そもそも、目覚めて間もない亡霊が、そんな用意周到に動くかしら」
( <●><●>) 「じゃあ……」
( <●><●>) 「亡霊は十年前の時点で、既に害者のアレルギーを知っていたわけだ」
となると考えられる可能性。
貞子はヒッキー小森と友人以上の関係があった。
それこそ、兄者が言っていたように、恋人だった可能性もある。
他人よりも深い関係だったならば、アレルギーを例外的に知っていてもいい。
しかし、亡霊が犯人というのは既にわかっていて、
亡霊が貞子というのも既にわかっているのだ。
/ ゚、。 / 「まあ、そこはいいじゃない」
/ ゚、。 / 「……いつオイルが盛られたか」
/ ゚、。 / 「どーーやってもね、調べがつかないんだ」
.
- 870 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:38:53 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「確か、害者は」
( <●><●>) 「オオカミ鉄道の在来線に乗って、十八時前に到着」
( <●><●>) 「チェックインまでに、二時間ほど空白の時間があったはずだ」
/ ゚、。 / 「それだけどね」
/ ゚、。 / 「何をしてたかわかったよ」
( <●><●>) 「!」
二時間の空白は、この上なく重要なキーだ。
しかし、鈴木はどうしてこんなに浮かない顔をしている。
もっとペニーのように嬉々たる笑顔をしてもらいたい。
この上なく空しい予感がするのだ。
/ ゚、。 / 「銭湯に行ってたんだ、害者」
( ゚д゚) 「銭湯?」
.
- 871 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:39:21 ID:CWcmTz4o0
-
嫌な予感は、さっそく的中した。
というより、顔色を窺った時点で、的中はしていたと言っていい。
/ ゚、。 / 「何十人も人員突っ込んで、聞き込みに走って」
/ ゚、。 / 「結果、連絡がきたよ」
/ ゚、。 / 「駅からちょっと歩いた、昔ながらな銭湯で目撃証言が出た……ッて」
( ゚д゚) 「ちなみに、どこだ」
/ ゚、。 / 「べっぷの湯ッてとこです」
/ ゚、。 / 「むっちゃ普通の銭湯で、監視カメラとかもない」
資料すら出さない。
語るに及ばないとでもいうのか。
/ ゚、。 / 「番台に聞いたけど、害者は十八時過ぎに、ひとりで入浴」
/ ゚、。 / 「フルーツ牛乳を相棒に、マッサージチェアで極楽気分だったとさ」
ちゃんちゃん、と〆て、口を紡ぐ。
となると、空白の二時間に、亡霊の干渉はなかったのか。
.
- 872 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:41:38 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「なら、着信履歴は」
( ゚д゚) 「時間はあったんだ、一週間分くらいのデータは出てるだろう」
/ ゚、。 / 「聞きます?」
成果なんてなかったような顔をしている。
嫌な予感がしている、というより、もう的中した。
/ ゚、。 / 「職場が九割以上、残りが家族」
/ ゚、。 / 「050番号だけが手がかり……といったところですね」
( ゚д゚) 「……むう」
警部がキーと言っただけあり、地下鉄殺人以上に謎が深い。
しかし、ポイントさえ解明できれば単純な部分もあるとは思うのだ。
( <●><●>) 「オイルがいつ盛られたか、については」
/ ゚、。 / 「瓶に本人以外の指紋はなかったよ」
/ ゚、。 / 「ただ、ハンカチを使った跡はあった」
.
- 873 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:42:07 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「…!」
刑事に従事してわかったことは、指紋という情報は想像以上に強いことだ。
布や手袋を用いて指紋を残さない手法は昔から多く存在するが、
指紋のかすれ具合や繊維の付着などで、
指紋以外の情報をも得られることは、あまり知られていない。
わかったのは、確かに亡霊は、害者に接触していたこと。
そしてそれは、空白の二時間以外で行われたこと。
/ ゚、。 / 「害者宅にも、第三者が訪れた形跡はなかった」
/ ゚、。 / 「となると、オオカミ鉄道だ」
/ ゚、。 / 「当時、害者が乗っていたと思われる車両を、まるごと押さえてるよ」
鈴木にしては、ずいぶんと大規模な介入だ。
と思ったが、そうか、相手はオオカミ鉄道か。
('、`*川 「結果は、まだ上がってないんだ」
/ `、、 / 「さすがに、難しいかな……」
.
- 874 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:43:00 ID:CWcmTz4o0
-
/ ゚、。 / 「でも、警部が話を回してくれたみたいだよ」
( ゚д゚) 「あの総裁なら、それくらいのことはしてくれるだろう」
('、`*川 「列車をまるごと、ですか」
( ゚д゚) 「警部のコネ、だな」
オオカミ鉄道の総裁が権力に弱いのは有名な話だ。
そんななか、彼は幾度となく警部と面識をもっている。
警部の本音はともかく、総裁からすれば、
警察というあらゆる権力に対抗しうるコネを持っていることになる。
あの警部まで敵に回すとろくなことがないだろう、
先方にしても今回の事件解決は心から応援してくれているに違いない。
( ゚д゚) 「しかし、車両の捜査、か」
( ゚д゚) 「俺も出向いてみてえな」
/ ゚、。 / 「だめですー」
.
- 875 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:43:42 ID:CWcmTz4o0
-
/ ゚、。 / 「一応、当時害者が座っていた席は特定できた」
( ゚д゚) 「ん。 できていたのか」
/ ゚、。 / 「優先座席……ボックスシートですね」
/ ゚、。 / 「で、そのシートに限定して、参考の指紋も用意されてるけど」
( <●><●>) 「……照合できる指紋がないわけか」
当たり前の話ではあった。
公共機関の、それも座席の指紋ともなればデータは膨大になる。
/ ゚、。 / 「少なくとも、事件関係者と合致するのはなかった」
/ ゚、。 / 「でも、全部リスト化したから、いざとなったら武器にはなるよ」
('、`*川 「でも亡霊って、一応はハンカチ、使ってたんでしょ」
('、`*川 「足を残したりするかなあ」
.
- 876 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:44:05 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「いや、むしろ残しているに違いない」
( ゚д゚) 「瓶に残っていたのが手袋だったら、まだわからねえがな」
( ゚д゚) 「ハンカチってことは、オイルを盛る時だけ、指紋を警戒したんだ」
('、`*川 「……ああ!」
( ゚д゚) 「普通に座る分には、素手のままだ」
( ゚д゚) 「まして、別に寒いわけでもないのに、繊維の手袋をはめるのも不自然極まりない」
( ゚д゚) 「……亡霊の正体を割って、指紋をとった時が楽しみだな」
/ ゚、。 / 「じゃあ、とりあえず、はいどうぞ」
( ゚д゚) 「ん? ああ」
東風さんが、リストを受け取る。
イツワリさんが持っているほうがいいんだがな、と小さく呟いて。
.
- 877 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:44:31 ID:CWcmTz4o0
-
/ ゚、。 / 「わかることは、正直言って少ない」
/ ゚、。 / 「監視カメラもない、空白の二時間はなかった」
/ ゚、。 / 「電話も、050番号以外の手がかりは今のところなし」
/ ゚、。 / 「ヴィップ出張は偶然で、それが知られたきっかけも不明」
/ ゚、。 / 「アレルギーに関しても同様」
/ ゚、。 / 「……唯一の武器は、ボックスシートに残った指紋のリストです」
/ ゚、。 / 「大切に持っててねー」
( ゚д゚) 「まあ、イツワリさんにも送っておくさ」
東風さんは、鈴木を娘か、姪っ子のように可愛がる節がある。
空いた時間なんかには、よく将棋を指しているシーンも見受けられる。
ショボーン班の新参と古参だ、思い入れも弱くはないのだろう。
.
- 878 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:44:54 ID:CWcmTz4o0
-
リストの写真を撮って、おそらく警部だ、
警部宛てにメールを送信している。
リストは後程渡すとして、こんな武器があった旨を伝えているのだろう。
今回の検討内容は、細かい情報も漏らさずデータ化し、
警部に最終的な共有として回すつもりだ。
存外、無視できないデータが多く発掘されている。
私が見たところ、まだピンとくるものはないが、
警部が見たなら、果たしてどうなるだろうか。
( ゚д゚) 「で、だ」
( ゚д゚) 「三件目、ライブ殺人だな」
ライブ殺人にも、解せない謎が多い。
東風さんも、あご髭をさすりながら、渋い顔をしている。
.
- 879 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:45:28 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「解決できていないことは、多く存在します」
( <●><●>) 「根本的に、どこで害者の出動を知れたのか」
( <●><●>) 「嫁のミセリは知り得ましたが、犯人ではあり得ない」
根本的にどこで知れたのか。
それは全ての事件に共通することだ。
もっと、本質に近い部分から解決していきたい気持ちが強い。
ボード前のセミナーに、書類や証拠物件は置いてある。
以前警部に説明してから、未だ解決できていないブツの数々だ。
( <●><●>) 「害者は、持ち場から亡霊に呼ばれて、現場に向かっている」
( <●><●>) 「口裏を合わせていた可能性が高かったのは言うまでもないでしょう」
おそらく、亡霊が事前に害者の出動を知り得た際、
そのまま彼に接触して、事件当日になにか約束を取り付けたのだろう。
しかしそれにしても、問題があった。
.
- 880 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:45:52 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「ただ、亡霊の050番号ですが」
( <●><●>) 「ヒッキー、ミセリにはあったのに、クックルにはなかった」
( ゚д゚) 「そこが一番解せねえところだ」
( ゚д゚) 「つまり、亡霊は害者に電話以外の方法でコンタクトを取ったわけだが」
( <●><●>) 「考えにくい話ではありますね」
兄者の証言を思い出す。
クックルに関しても、謎はほんとうに多い。
( <●><●>) 「クックルとミセリが籍を入れたのは、サークルの消滅後」
( <●><●>) 「まして、部長も断定的には知らなかったんです」
( <●><●>) 「それを、どうして十年間眠っていた貞子が知り得るのか」
( ゚д゚) 「だからこその謎には違いない」
/ ゚、。 / 「………予告」
.
- 881 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:46:14 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「…ん」
鈴木が、ぼそっと呟いた。
予告。 本件の、最初のキーワードだ。
/ ゚、。 / 「確か、ライブの観客を殺す、だったよね」
( <●><●>) 「ああ」
私と東風さんは、それに惑わされたわけだ。
観客、という文言から、スタジアムに足を踏み入れる者に焦点を絞った。
しかし厳密にはスタジアム外の立ち聞き、
もっと言うと警備員に向けられたものだったことが後にわかった。
思えば、この観客、警備員の食い違いも謎のひとつに加わる。
/ ゚、。 / 「さっきのペニーの話聞いてて思ったんだけどさ」
/ ゚、。 / 「擬古は、ライブのこと、知ってたんだよね」
( <●><●>) 「そうだな」
( <●><●>) 「……!」
.
- 882 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:46:45 ID:CWcmTz4o0
-
ぴんときた。
今になってわかった事実。
フッサール擬古は、渋沢栄吉のウェブページにアクセスしている。
それはつまり、クックルのことを知っていたのではないのか。
( <●><●>) 「擬古以外にも、ライブのことを知り得た人物がいて……」
、 、 、 、 、 、 、 、、 、 、 、 、、、 、
( <●><●>) 「本当は、その人物を殺すつもりだった?」
となると、予告状の文言に 「観客」 とあった理由にも説明がつく。
しかし、その場合誰を殺すつもりだったのか。
そもそも擬古が知り得た理由も定かにはなっていない。
/ ゚、。 / 「何一つ、確証はないけど……」
/ ゚、。 / 「観客ッて書かれてたのも、名指しじゃなかったのも、」
/ ゚、。 / 「擬古がサイトにアクセスしてたのも、一応一貫はするよ」
( <●><●>) 「……ふむ」
.
- 883 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:47:16 ID:CWcmTz4o0
-
検討するには情報が少なすぎるが、
実はクックルを殺害するつもりでなかった、というのは面白い仮説だ。
( <●><●>) 「では、そのような何かしらがあったとして」
( <●><●>) 「更に複数、疑問は残る」
( <●><●>) 「まず、亡霊はどうして監視カメラの死角を知り得たのか」
( ゚д゚) 「これに関してはひとつ、わかったことがあった」
( <●><●>) 「なんでしょう」
( ゚д゚) 「気張りすぎてて当時は気づけなかったんだがな」
( ゚д゚) 「単純な話だ、あの茂みしか、なかったんだ」
( <●><●>) 「何が」
( ゚д゚) 「単純に、人目につかない場所が、だよ」
.
- 884 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:49:46 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「……」
( ゚д゚) 「あの現場を、死角、と捉えるからわからなくなる」
( ゚д゚) 「人目につかない場所、と捉えると、謎は謎じゃなくなるんだ」
( <●><●>) 「……」
現場の位置関係を思い出す。
警備員の配置からしても、確かにクックルを呼び出すにはちょうどいい茂みだ。
亡霊が死角を知り得た理由、ではなく。
亡霊が人目を避けていた理由、ならば。
最初から害者を殺すつもりだったから、あの茂みを選んだだけ。
確かに、納得できないわけではなくなる。
しかしどうしても、引っかかってしまう。
裏を返せば、亡霊は死角など恐れずに茂みを選んだことになるのだ。
もしそこがカメラの有効範囲内だったら、どうするつもりだったのだろうか。
監視カメラというのは、一般人からは見つかりづらい場所に設置されるものなのだ。
( ゚д゚) 「それに」
( ゚д゚) 「害者が亡霊に、ここは死角だ、と言った可能性もある」
.
- 885 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:50:06 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「害者が」
( ゚д゚) 「そもそも、害者は亡霊の呼び出しに応じている」
( ゚д゚) 「つまり、害者側も、ある種協力的だったと言えるんだ」
('、`*川 「予告されてるッてのに?」
、 、
( ゚д゚) 「予告されてたのは、観客だ」
('、`*川 「…!」
/ ゚、。 / 「考えられなくは、ないですね」
/ ゚、。 / 「第一、害者からしたら、相手は十年前に死んだ友だちなんですよ」
('、`*川 「あ!」
( <●><●>) 「……」
捜査する側に立ってしまうからこそ陥る、錯覚。
犯人は亡霊だった、という方程式を代入すると、
確かに事件の見方が、がらりと変わるではないか。
.
- 886 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:50:37 ID:CWcmTz4o0
-
地下鉄殺人は、後ろから、だからいいとしよう。
ホテル殺人も、眠ったところをひっそり狙った可能性もある。
しかし、ライブ殺人だけ異なる点があった。
害者が自ら、亡霊に出向いているのだ。
亡霊、とは言うが、十年前の事故で眠っていた、山村貞子。
クックル三階堂にとっても、この上なく強い意味を持つ女だ。
また、後ろめたさもある。
十年前の事故が事件だったかはさて置いて、
なんにせよクックル側にも、負い目に近い感情はあったはずだ。
貞子側も、十年前に死んでいた身分だ。
目立たないところで話したくなる気持ちも考えられる。
たとえ、自分に向けられた殺意に気づいていたとしても。
( ゚д゚) 「ストーリーとしてはこうだ」
( ゚д゚) 「何かしらがあって、亡霊は現場まで来た」
( ゚д゚) 「害者を見つけ茂みから合図を出し、呼び出す」
.
- 887 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:53:23 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「それに害者は応じる」
( <●><●>) 「なぜなら、十年前に眠ったはずの貞子が、立っていたから」
( ゚д゚) 「そもそも見た目は違っていた可能性もあるがな」
( ゚д゚) 「まあ、それで害者は、ある種の予感も押し殺しつつ、茂みに向かう」
( ゚д゚) 「人目につかない、カメラにも映らない場所なんだ」
( ゚д゚) 「仕事の、同僚の目を盗んで密談できるから、好都合だったんだろう」
( <●><●>) 「……」
( ゚д゚) 「……」
( ゚д゚) 「そうか!」
( <●><●>) 「何か」
おぼろげ、とは思いつつも、仮説を語った東風さんは突如叫んだ。
.
- 888 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:53:44 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「思い出せ、ワカッテマス」
( ゚д゚) 「インカムだ」
( <●><●>) 「…!」
なぜか操作されていたインカム。
当時は、殺害後に犯人が盗聴していた可能性を考えた。
しかし、クックルにも後ろめたい気持ちがあったなら。
クックルが自ら、状況を把握するために動向を探った可能性もある。
となると、次はクックルが我々のチャンネルをどう知ったか。
我々が同じ型番のインカムを使うことは、知らされていなかった。
しかし、警察も現場にいたことは知っていたではないか。
無論知らされているだろうし、
そうでなくとも、警察がいることは想像に難くない。
( ゚д゚) 「わかったぞ」
( ゚д゚) 「害者は、俺らがインカムを付けている可能性を探ったんだ」
( <●><●>) 「……」
.
- 889 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:55:09 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「俺らの耳を見られたか、単なる用心かはわからない」
( ゚д゚) 「ただ、絶対に不可能じゃあなかった」
( ゚д゚) 「インカムを操作したのが持ち主だったなら、あり得たんだ」
( <●><●>) 「そうか」
少しずつ鮮明になってきた。
クックルは亡霊と話をしたかった。
その仮説を前提にしていいならば、濃厚な線だった。
むろん、その裏に殺意があったことは察していたかもしれない。
また、それが全国を揺るがす大事件だったことを知っていてもだ。
しかし。
それらを踏みにじってでも、彼には亡霊と話したい動機があった。
十年前の事件、あるいは事故によって喪った友人が相手なんだ、
動機としては十分すぎるくらいだろう。
.
- 890 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:55:35 ID:CWcmTz4o0
-
その亡霊は、警察が目を光らせている相手だ。
クックルとしては、何としても、
せめて亡霊と話している間は、警察には見つかりたくなかった。
だから、警察の動向が知れるなら、知っておきたかった。
そこで目をつけたのがインカムで、それがビンゴだった、ということになる。
普通の犯人ならば、無根拠にインカムを睨むのは考えにくいが、
今回の背景を踏まえると、あり得ないとは言い切れない話である。
( <●><●>) 「ここまでうまく辻褄が合ってしまうとなるならば」
( <●><●>) 「多少は信じてもいいでしょうね」
どうして、犯人は死角を把握していた?
犯人が把握していたのは、死角ではなく人目のつかない場所だった。
あるいは、犯人が自ら死角を伝えた可能性もある。
どうして、害者は我々の無線を盗聴していた?
ずばり、犯人と話したかったから。
それも、その動機は非常に強い。
どうして、害者は犯人の呼び出しに無警戒に応じた?
同上で、むしろ呼び出しに応じたかったわけだ。
一気に複数の謎が、解けてしまうことになる。
.
- 891 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:56:12 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「しかし」
( <●><●>) 「それにしたって、謎が残らないわけでは、ない」
( <●><●>) 「ここまで来ると、クックル側も亡霊のことを知っていたんだ」
( ゚д゚) 「当時と容姿が一緒なわけはねえからな」
( ゚д゚) 「いよいよ、二人はどうやってコンタクトを取ったか、が問題となる」
( <●><●>) 「そこが明かせないと、いま言った仮説は水泡ですから」
ここに、予告の対象は誰だったのか、といった問題が加わる。
二重に、三重に霞がかっているようで、気分がよくない。
( ゚д゚) 「そして、亡霊はクックルを殺害し、続けて嫁を狙いに定めた」
( <●><●>) 「ここに疑念はないですね」
( <●><●>) 「会話の流れから、あるいは害者のスマホから」
( <●><●>) 「連絡先にせよ、ふたりの繋がりにせよ、知り得る」
.
- 892 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:56:38 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「……確か、東風さんがずっと陣頭指揮を執ったみたいですが」
( ゚д゚) 「わかったことは、亡霊はクックルで味を占めたことだ」
( <●><●>) 「ほう」
( ゚д゚) 「害者は、イツワリさんにしっかり、釘を刺されていたそうじゃねえか」
( ゚д゚) 「警察への連絡だったり、エトセトラ」
( <●><●>) 「そうですね」
( ゚д゚) 「約束の時間より早くに、害者を呼び出した」
( ゚д゚) 「その時、害者は無断で、単身で呼び出しに応じた」
( ゚д゚) 「そこには、クックルの時と同じ心理が働いたわけだ」
( <●><●>) 「……」
クックルの心理に、ひとつプラスされる。
ミセリからすれば、亡霊はすなわち、旦那を殺した犯人だ。
亡霊に向ける思いは、クックルのそれより数段強いものとなるだろう。
.
- 893 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:57:00 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「亡霊は、害者を滝の上に呼び出した」
( ゚д゚) 「そこには、今は使われてない工具の数々があってだな」
( ゚д゚) 「亡霊はうちひとつ、ローラーに目をつけた」
( <●><●>) 「確認しました」
( <●><●>) 「……ミセリが、滝を登るようにして首を吊られた、と」
警部と東風さんは、実際に見たそうだ。
滝壺から川の末端に至るまで、どこにもミセリはいなかった。
ふと滝口を見ると、そこをミセリが登っていた、と聞く。
( ゚д゚) 「古びたローラーだが、きちんと機能したみたいだな」
('、`*川 「あの、それ、ずっと思ってたんですけど」
('、`*川 「錆びてたりそもそも動力源が動いてなかったら、」
('、`*川 「亡霊はどうしたつもりだったんでしょう」
.
- 894 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:57:29 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「俺も最初は思ったがな、そいつァ錯覚だ」
('、`*川 「錯覚?」
( ゚д゚) 「ロープでの絞殺に、動力は必要ない」
('、`*川 「…!」
ミセリが滝を登るシーンを見てしまうと、
そのシーンが強烈に印象に残ってしまい、
当時の状況を、絞殺ではなく、滝登りのトリックと捉えてしまう。
しかし、滝を登ろうが登らなかろうが、首を絞められたミセリは、絶命する。
そこにかつてのダム建設の設備は、関係なかった。
/ ゚、。 / 「逆に、どうして亡霊は、滝登りを演出したんですか」
( ゚д゚) 「ん」
/ ゚、。 / 「そんな目立つことしたら、かえって不利になってしまいますが」
.
- 895 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:57:50 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「……」
( ゚д゚) 「ひとつ」
( ゚д゚) 「遺体を川に流さないで済むなら、流さないに越したことはなかった」
( ゚д゚) 「現に、俺やイツワリさん、応援部隊が一斉に川を捜し出したんだ」
( ゚д゚) 「むろん警察がいなかったとしても、同様」
/ ゚、。 / 「……」
( <●><●>) 「あるいは」
( ゚д゚) 「?」
ふと、思ったことがあった。
事件解決に関与するアイディアではないが。
( <●><●>) 「亡霊、もとい貞子は十年前、崖下に落とされた」
( <●><●>) 「ミセリも言うなれば、崖下に落とされたわけじゃないですか」
.
- 896 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:58:10 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「…」
( ゚д゚) 「!」
( <●><●>) 「比喩的でこそありますが」
( <●><●>) 「亡霊はいわば、十年越しにその崖を登ってきた存在」
( <●><●>) 「……続けて警部に宣戦布告したことも考えると、」
( <●><●>) 「滝登りは、亡霊の表現だったとも思えます」
/ ゚、。 / 「…」
('、`*川 「…」
( <●><●>) 「だからなんだ、という話でこそありますが…」
( ゚д゚) 「……なるほど、なァ」
.
- 897 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:58:55 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「それより」
柄でもないことを言うと、少しこそばゆい。
閑話休題だ。
気になる点があるのだ。
( <●><●>) 「確か害者は、現場に自前の包丁を持参していた」
( <●><●>) 「現場に、包丁はあったのですか?」
( ゚д゚) 「包丁……包丁か」
( ゚д゚) 「現場や近辺からは、見つかっていない」
( <●><●>) 「……そうですか」
考えられることは、ふたつ。
ひとつは、足を残したくなかったから秘密裏に処分した。
そしてもうひとつが、残酷で、考えたくはないことだった。
( ゚д゚) 「……次のコロシで、使うかもな」
( <●><●>) 「……」
.
- 898 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:59:15 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「犯人からすれば、足のつかない凶器だ」
( ゚д゚) 「どこぞから買う、拾う、盗む、だと、どうしても最低限の足はつく」
( ゚д゚) 「でも、それが害者が持ってきたものだったら、話は別なんだ」
( <●><●>) 「それが、一番厄介ですね」
もとより、凶器から亡霊を捕まえられるとは思っていないが。
それ以上に、ミセリの持ち込んだ凶器で五人目、を出すのが、
気持ち的にも、決して許してはならない事態であると言える。
( ゚д゚) 「滝殺人に関しては、追究の余地が少ない」
( ゚д゚) 「監視カメラとかはねえし、なにより出し抜かれた事件だったんだ」
( <●><●>) 「気になるのは亡霊の逃走経路ですが」
( <●><●>) 「足跡は、洗えなかったのですか?」
.
- 899 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 00:59:41 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「そこなんだがな」
( ゚д゚) 「亡霊は相当用心だ。 土を歩いていない」
( <●><●>) 「……」
思わずため息が出る。
自分は亡霊である、という演出を強調したいのか。
( ゚д゚) 「草木を器用に歩いて、滝の上で待っていたんだ」
( ゚д゚) 「一応ルートは特定できたが、指紋も足跡も、検出できていない」
('、`*川 「足跡、と呼べない程度の跡はあったんですね」
( ゚д゚) 「もちろんだ」
( ゚д゚) 「足のない人間が人を殺せる世界じゃねえ」
.
- 900 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 01:00:09 ID:CWcmTz4o0
-
亡霊。
心霊的な意味で言えば、現世に留まっている、死んだ人間の魂。
しかし、本件における亡霊は確かに生きている。
足ももちろんある。
何より、ホテル殺人においてハンカチを使用している時点で、
犯人は指紋から特定されるのを恐れた証明になるのだ。
自らを亡霊と名乗って我々を陽動したのはいいが、
所詮は亡霊に成り切っているだけの、情けない、哀れな死にぞこないに違いない。
( <●><●>) 「方針は、決まりましたね」
( ゚д゚) 「よっつの殺人の種明かしは、後でいい」
( ゚д゚) 「早急に、フッサール擬古と亡霊をつないだ宗教関係者を追うんだ」
('、`*川 「オッ」
.
- 901 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 01:00:57 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「とっかかりは、どこまで掴めているんだ」
('、`*川 「みんなも手伝ってくれるんだね?」
( <●><●>) 「亡霊の実態さえ捕まえれば、後ろの事件も芋づる式に解決するんだ」
( <●><●>) 「貞子は、いつ目覚めたのか」
( <●><●>) 「目覚めた後の動向は」
( <●><●>) 「……五人目が殺される前に、特定するぞ」
('、`*川 「オッケ!」
('ヮ`*川 「結構望みのある線だからねーー、時間はかかんないと思うよ!」
( ゚д゚) 「空いてる人員を、片っ端から導入しよう」
/ ゚、。 / 「だったら、オオカミに割いてる人員全員、まわせます」
( ゚д゚) 「滝殺人の連中も回せるな」
('、`*川 「ちょ、さすがにそんなにいらない…」
.
- 902 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 01:01:17 ID:CWcmTz4o0
-
( <●><●>) 「…」
謎は確かに多いが、望みは見えてきた。
きっかけは、向こうの自惚れだ。
自らを亡霊と称し、十年前と連続予告殺人を自ら結びつけてしまった。
その犯人の過失を、徹底的に突くだけだ。
( ゚д゚) 「ワカッテマスは、どうするんだ」
( <●><●>) 「とりあえず、警部に共有を」
( <●><●>) 「ここ三人は、第三者の特定ですか」
( ゚д゚) 「そうなるな」
('、`*川 「私が整骨院に行くよ」
('、`*川 「向こうでリアタイでお客さんら見ながら、顧客データ流す」
( ゚д゚) 「ん……電送してくれるのか」
('、`*川 「向こうさん、むっちゃいい人だから」
.
- 903 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 01:01:52 ID:CWcmTz4o0
-
( ゚д゚) 「じゃあ、俺と鈴木はここに残るか」
( ゚д゚) 「腹、減ったろ。 待ってる間、食おう」
/ ゚、。 / 「え! いいんですか!」
( ゚д゚) 「ワカッテマスはどうする」
( <●><●>) 「ちょっと、胃に残るものは」
東風さんがメシ、と言うと、馴染みのラーメンの出前だ。
自分は、極力任務中は胃を空っぽにして、カフェインの効きをよくしておきたいのだ。
( ゚д゚) 「相変わらずだな」
/ `、、*/ 「なんにしよっかなー。 チャーハンセットかなー。」
('、`*川 「気が変わったわ。 私も食べてから行く」
( ゚д゚) 「善は急げ。 違うか?」
('д`*川 「ケチ!」
.
- 904 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 01:02:48 ID:CWcmTz4o0
- 序幕 >>2-69
第一幕 >>82-211
第二幕 >>218-296
第三幕 >>304-388
第四幕 >>398-468
第五幕 >>477-528
第六幕 >>539-624
第七幕 >>640-739
第八幕 >>757-903
- 905 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 01:07:17 ID:CWcmTz4o0
- 残りは9話、10話、エピローグだけです つって合計300レス以上あるけど、、、
エピローグもほぼ書き終わってるから逃亡しません
次回「偽りを捕まえろ」は一週間以内には投下したい、、、
- 906 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 02:34:25 ID:PPraLVOA0
- 乙、今回も最高におもしろかった
おぼろげだった亡霊の輪郭が徐々に見えてきてわくわくする
次も楽しみにしてるよ
- 907 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 05:23:40 ID:WsjMEpJo0
- 乙おつ
じわじわと見えて来たなあ
こういうパートが何気に一番好きだったり
- 908 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 06:43:01 ID:hzOQ4eXE0
- 乙 偽りシリーズ再開に喜んでる
この真相がどんどん明らかになっていく感覚がたまらない
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2544.jpg
- 909 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 07:16:22 ID:kzzEzlVo0
- >>890
あるいは、犯人が自ら死角を伝えた可能性もある。
これ、害者が、のミスか?
あと二人が殺されないよう祈ってる
次も楽しみだ、乙
- 910 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 08:27:39 ID:zVLEiN3.0
- 一週間以内だなんて楽しみが増えたよ
- 911 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 09:55:58 ID:BlHgxsXE0
- >>908
これすげえ 上のもやもやから手が伸びてて亡霊を表現してんだな
ごちそうさまです
>>909
おめでとうございます
うわあついに校正漏れが、、、
>イケメンのブーン芸神さん
>>890の「あるいは、犯人が自ら死角を伝えた可能性もある。」の
「犯人」を「害者」に直してほしいです、、、
- 912 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 16:58:07 ID:Hc2/CzHk0
- 乙
- 913 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 17:25:57 ID:8qzshEEc0
- >>777
(´・ω・`) 「それも、おそらくは移転……たらい回しにされたのだろう、ということ」
転院?
>>838
( ゚д゚) 「……亡霊は、外部犯と強力した可能性が濃厚になるぞ」
協力?
- 914 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 17:43:56 ID:VK9h.Ttg0
- 乙乙
続き楽しみに待ってます
- 915 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 23:33:12 ID:5qnQt3Yc0
- 10年以上の植物状態から目が覚めたばかりの人間は長期のリハビリなしに足は動かせないし、ましてや警察の捜査をかわすために器用に土を歩かなかっただなんてことがあるんですかね…
- 916 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 23:39:45 ID:Mp51cSjM0
- そもそも10年前に050のIP電話とか一般的に知られてたっけ?
起きてすぐ情報集めたにしては手際が良過ぎるんだよなぁ
- 917 名前:名無しさん:2018/10/28(日) 23:42:41 ID:keVAWD8Y0
- 所詮素人の書いた小説モドキの粗を探して楽しいか?
- 918 名前:名無しさん:2018/10/29(月) 00:13:54 ID:LmvIvk9g0
- お前ら素直に良く読んでると言いなさい
- 919 名前:名無しさん:2018/10/29(月) 02:52:12 ID:1oLduGEY0
- 話は最後まで分からんぞ
- 920 名前:名無しさん:2018/10/29(月) 03:33:44 ID:G4uzlJYM0
- 10年前だったら050出始め話題になってきた頃じゃない?
家電を050に変えたのそれくらいだったきがする
- 921 名前:名無しさん:2018/10/29(月) 07:01:30 ID:ER30sgP20
- (;'A`)「更新速すぎ&多すぎっ。更に1週間以内にまた更新とか…。そんなの読める訳ないだろ、常識的に考えて・・・」
(´・ω・`)「できらぁ!」
- 922 名前:名無しさん:2018/10/29(月) 11:09:25 ID:1xsL5uFI0
- いつ目覚めたかは書いてないよな
目覚めてからしばらくたっててその間にリハビリやら知識を学んだとか
そうなると共犯者いそうだけど
- 923 名前:名無しさん:2018/10/29(月) 11:36:06 ID:r2AUxV/I0
- そもそも現在が何年かって正確に語られてないだろ
- 924 名前:名無しさん:2018/10/29(月) 19:52:56 ID:3M5Xx98I0
- >>913
おめでとうございます
全然校正できてなくて申し訳ない
芸さんすみませんがこちらもお願いします、、、
- 925 名前:名無しさん:2018/10/30(火) 21:16:32 ID:upCfCZ8Y0
- (´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです <解決編>
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1540901686/-50
投下中にスレ埋めちゃったら
後から開いた人にネタバレパンチぶち込みそうだったから先に分離
埋めネタとかは特にない
というか埋めネタなんて文化あったな どこに行ったんだ埋めネタ文化
全部
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