ζ(゚ー゚*ζ あな素晴らしや、生きた本 のようです
- 1 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:47:06 ID:mPl6OvfgO
- のーんびり投下
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:48:46 ID:mPl6OvfgO
街の外れ、とある林。
その中を進んでいくと、開けた場所に出る。
そこに、二階建ての館があった。
入口に掲げられている看板には館の名前が見られる。
「VIP図書館」――
.
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:49:34 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚ー゚*ζ あな素晴らしや、生きた本 のようです
.
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:51:03 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ
くらくらする頭を押さえながら、少女――長岡デレは町の中を駆けていた。
時折すれ違う人とぶつかっては、適当に謝り、また走り出す。
――早く逃げなくては――
ちらりと後ろを見れば、「それ」は先程よりも若干近付いていた。
ζ(゚、゚;ζ「……っ」
走る、走る、走る。
家に着けば勝ち。
そうすれば逃げ切れる。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:52:25 ID:mPl6OvfgO
――道に、人気が無くなった。
17時。この時間帯、ここら一帯は滅多に人が通らなくなる。
おかげで、今ここに居るのはデレと、
「それ」だけだ。
ζ(゚、゚;ζ
怖い。心細くてたまらない。
だが、あと少しで家に着く。
愛しの我が家が視界に入った。
あと10歩ほど行けば、終わる。
デレは、もう一度、足を止めないまま振り返った。
数メートルは離れている。大丈夫。これならば追いつかれない。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:53:54 ID:mPl6OvfgO
ドアの前に立ち鍵を開ける。
そして、すぐに家の中に入った。
ドアが閉まりきる寸前、門の前にじっと立つ「それ」が、一瞬だけ見えた。
鍵を閉め、チェーンをかける。
休む暇もなく家中を走り、窓の施錠を確認した。
最後に2階の自室へ。
窓に鍵がかかっているのを確かめ、そのままデレはガラス越しに玄関を見下ろした。
心臓がどくどくとうるさい。
門の前には女。
入ってくるな、入ってくるなとデレは心中で呟く。
女はしばらくそこに留まっていたが、不意に溶けるように消えていった。
ζ(-、-;ζ「……はあぁぁ……」
深い深い溜め息。
ようやく安心したデレは、その場にずるずると座り込んだ。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:57:09 ID:mPl6OvfgO
ここ最近、毎日こうだ。
学校から帰宅する際に、わけの分からぬものに追いかけられる。
白い服を着た、痩せこけた女。
輪郭はあまりはっきりせず、ぼやぼやとした煙のような印象を受ける。
あれは人間ではない。デレ以外の者には見えないのだ。
幽霊か何かだろうと、彼女は推測している。
こうして家の中にさえ逃げ込めば、向こうもそれ以上近付いてこない。
あれの正体は分からないが、
「原因」らしきものは、大体理解していた。
ζ(-、-;ζ「参ったね、どーも」
デレは机の上にあるものを見て、こめかみを押さえた。
一冊の本。
これを持ち帰った日から、あの異様な女はデレを追いかけ始めたのだ。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:57:54 ID:mPl6OvfgO
第一話 あな恐ろしや、ホラー小説
.
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 03:59:36 ID:mPl6OvfgO
長岡デレは高校1年生である。
入学してから半年になるその学校の中でも、彼女は図書室を非常に気に入っていた。
本が好きだというわけではない。
人が少なく、静かな場所。
そういった空間が好きなだけ。
昼休みや放課後に図書室へ行き、勉強、読書、あるいは考え事をする。
それが日課。
友人と遊ぶより、1人で居るのが楽なのだ。
さて、そんな彼女、つい先日――1週間前であったか――、
図書室の奥の本棚から、とある本を見つけ出した。
本というか何というか、「分厚いノート」と呼んだ方が正しいかもしれない。
ハードカバーの、少し高級そうな真っ黒い外装。
表紙と背表紙にはラベルが貼られていた。
表紙に貼られたラベルは2つ。
上部のラベルにはタイトルらしきもの、下部のラベルには著者らしき名前。
背表紙のラベルには縦に並んだタイトルと著者名。
それぞれ、手書きで記されている。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:01:41 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ(変なの……)
市販の本とは全く違う。
著者名も聞いたことがなかった。
表紙をめくってみると、中身も手書きであった。
だが、なかなか綺麗な字で、読みやすい。
出だしを見るにどうやらホラー小説らしい。
興味が沸いてきたので、デレは司書のいるカウンターへ本を持って行った。
少々不安だったが、平常通りの手続きで借りることが出来た。
――その日の帰宅中。
ふと振り返ったデレは、白い何かが徐々に近付いてくるのを見た。
距離が縮まり、それが女であると理解する。
「自分を追っている」。
「捕まってはいけない」。
何故だか、そんな考えが頭に浮かんだ。
妙な確信を伴って。
デレは走った。
走って、家に逃げ込み、鍵をかける。
自室の窓から玄関を見ると、白い女は門の前に佇んでいた。
しばらく揺らめいた後、それは消えた。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:02:34 ID:mPl6OvfgO
緊張感が失せる。
逃げ切れたのだと安堵する。
それも、やはり、どういうわけか確信出来た。
翌日。
登校してきたデレは、鞄の奥から例の本を発見する。
借りたのをすっかり忘れていた。
授業が始まるまでの時間潰しにと本を読み始める。
ある程度進んだところで、デレは既視感に襲われた。
学校帰りの主人公を追いかける不気味な女。
主人公が家に入れば、それ以上は近付いてこない――
ζ(゚、゚;ζ『これって』
昨日のデレとまるで同じだ。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:06:18 ID:mPl6OvfgO
授業が始まってからも、デレは本を手放せなかった。
だが、思いの外、すぐに読み終わることが出来た。
本――ノート――は分厚いのだが、その物語自体はひどく短く、
僅か十数ページほどの掌編だったのである。
あとは真っ白なページが延々続くだけだった。
話は、家に乗り込んできた女に主人公が殺されたところで終わっていた。
「家にさえ逃げられれば怖くない」と油断しきった主人公が
うっかり部屋の窓の鍵を閉め忘れていた、というオチ。
ζ(゚、゚;ζ『……』
自分も、こうなるのではないか。
足元からじんわりと体が冷え、心臓が凍りついていきそうな心持ちだった。
*****
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:08:53 ID:mPl6OvfgO
それからというもの、毎日デレは追いかけられている。
誰かに相談しようにも、こんな話を真面目に聞いてくれる者など周りにいない。
本が原因なのだろうから、本を返そうと思っても――
ζ(゚、゚;ζ「なーんで返ってきちゃうのかな」
どうしてか、気付くと手元に戻ってきているのだ。
つい先日、返却した日の帰りも女に追いかけられたし、
帰宅してみれば机の上に堂々と本が存在していた。
今日だってこっそり図書室の棚に入れてきた筈なのに。
こうして、デレの自室、机の上にある。
はてさて、どうしたものか。
命に関わるかもしれない問題だというのに、
デレは呑気に「困ったなあ」なんて呟いた。
*****
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:10:04 ID:mPl6OvfgO
次の日のことだ。
昼休み。
昼食を食べ終えたデレは、いつも通りに図書室へやって来た。
念のため、例の本が収まっていた棚を覗きに行くが、
やはりそこには、ぽっかりと本一冊分の空間があいているだけだ。
ζ(゚、゚*ζ「うーん……いっそ、燃やしちゃおうかな、あれ……」
「――そんなん困りますお!」
ζ(゚、゚;ζ「ひぃっ! ごめんなさいっ!?」
唐突に後ろから響いた怒鳴り声。
驚きのあまり肩を跳ねさせながら、デレは振り返った。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:11:46 ID:mPl6OvfgO
(-@∀@)「そうは言われましても……こちらだって、どうにも――」
(;^ω^)「しっかり管理しねえからこうなるんだお! これだから野郎は!!」
(#-@∀@)「……あなたの態度、協力する気を無くさせますね」
(#^ω^)「あ? 人のモン勝手に紛失させといて、よく言うお」
どうやら、デレへ怒鳴ったというわけではなさそうだ。
眼鏡をかけた細身の男と、スーツ姿の男が言い合いながらデレの方に近付いてくる。
そして、眼鏡の男がデレの前で立ち止まった。
(-@∀@)「あれ、長岡さん。来てたの」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、こんにちは。どうかされました?」
(-@∀@)「ん。ああ、いやね、こちらの方が探し物があるってんで、ここに来たんだ」
彼は、この図書室の管理をしている司書教諭、アサピー。
まだ若い上、野暮ったい見た目をしているために
生徒達からは対等に(あるいは下に)見られ、「アサピー」と呼び捨てにされている。
彼のことを「先生」と呼び、敬語で話すのは、デレを含めた一部の者だけだ。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:13:29 ID:mPl6OvfgO
デレの問いに答えながら、アサピーは斜め後ろに立つ男を手で示した。
( ^ω^)
アサピーより幾分か年上――30歳になるかならないか――に見える。
中肉中背。スーツを着ているため、どこか堅い印象を受けた。
甘い匂いがする。多分、香水の。
その男は細い目でじろじろとデレを不躾に眺め回し――
(*^ω^)「……かっわいいお」
ζ(゚ー゚;ζ「え」
――まるで漫画のように、鼻の下を伸ばした。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:15:16 ID:mPl6OvfgO
(*^ω^)「はじめましてお嬢さん、僕は内藤ホライゾンといいますお。
あ、これどうぞ」
ζ(゚ー゚;ζ「は、はあ」
内藤ホライゾン、と名乗った男は、いそいそと名刺を手渡してきた。
受け取る際、デレの手と内藤の手が一瞬だけ触れ合う。
直後、にやにや、笑みを深くさせながら内藤は触れ合った指先を見つめ始めた。
ζ(゚ー゚;ζ(何、この人)
(*^ω^)「お嬢さんのお名前は?」
ζ(゚ー゚;ζ「……長岡デレと申します」
(*^ω^)「長岡さん。デレさん。デレちゃん。デレちゃんね。
何か困ったことあったら、この名刺に書いてある番号に電話くれお。
困ったことがなくても電話くれお」
今まさに内藤に困っているのだが。
とも言えず、デレは曖昧に頷く。
(*^ω^)「あー、かっわい。たっまんねえお。女子高生可愛い」
(;-@∀@)「ないとーさーん?」
( ^ω^)「やめて喋らないで耳腐る。僕は今この子の言葉しか受け付けないお」
ζ(゚ー゚;ζ(誰か助けてー)
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:16:59 ID:mPl6OvfgO
(*^ω^)「見れば見るほど可愛いお。デレちゃん、授業は何時に終わるんだお?
もし良かったら放課後に僕とデート――」
ξ゚听)ξ「ナンパしに来たんじゃないでしょ」
(;^ω゚)「あっ、いったい!!」
ζ(゚、゚;ζ「きゃっ!?」
そのとき、内藤の後ろから現れた少女が、彼の頭を本棚に叩きつけた。
デレは、まだ人がいたことに驚き、
内藤の頭から物凄く痛そうな音が響いたことに驚き、
最後に、その少女の美しさに驚いた。
ξ゚听)ξ
くるりと巻かれた金髪は天井の照明を反射し、きらきらと輝く。
吊り目がちの大きな瞳やら真っ白な肌やら小さな顔やら、
「西洋人形のような」と例えるのが相応しい。
綺麗で、可愛らしい少女だ。
デレと同い年くらいに見えるのだが、何というか、
「格」が違うとデレは思った。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:18:57 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ(……きれー……)
(;^ω^)「いったたた……痛いおツン」
ξ゚听)ξ「本来の目的を忘れないでくれる?」
( ^ω^)「あ、嫉妬かな? 大丈夫大丈夫、僕は君を一番愛しているお」
ξ゚听)ξ「三十路のくせに節操ないのね」
(;^ω゚)「ツンちゃん僕まだ29歳なんだけどなあ!?」
ζ(゚、゚*ζ(かわいいこ……)
ξ゚听)ξ「ごめんなさいね」
ζ(゚、゚*ζ「え?」
ξ゚听)ξ「このおじさん、女の子好きなの」
(;^ω^)「おじさんじゃないからね! まだお兄さんの範囲だからね!」
ζ(゚、゚;ζ「はあ……あ、それじゃあ私、これで……」
そそくさとその場を離れ、デレは図書室を出た。
本のことは、すっかり忘れていた。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:20:50 ID:mPl6OvfgO
昼休みも終わり、午後の授業中。
デレは内藤からもらった名刺を眺めていた。
――VIP図書館 館長 内藤ホライゾン――
名刺には、そう書かれている。
ζ(゚、゚*ζ(図書館……)
図書館の人間が、何故学校の図書室なんかに来たのだろうか。
たしかアサピーは「探し物」と言っていた。
ζ(゚、゚*ζ(本、かな。……探し物)
あのとき、アサピーと内藤はデレのもとにやって来た。
用があったのは、デレではなく――
恐らく、あの棚。
あそこにあるべきものを探しに来ていた?
しかしそれが無いから困っていた?
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:22:59 ID:mPl6OvfgO
ある筈なのに無いもの。
ζ(゚、゚*ζ
ある筈なのに無い、本。
ζ(゚、゚;ζ「――先生!」
手を挙げる。
逡巡し、デレは口を開いた。
ζ(゚、゚;ζ「……死ぬほどお腹が痛いので、早退します」
.
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:24:41 ID:mPl6OvfgO
図書室に行くが、内藤は既にいなくなっていた。
アサピーが本棚の整理をしている。
(-@∀@)「おや? 今、授業の時間でしょ? 帰るの?」
ζ(゚、゚;ζ「ちょっと、急用が出来て。……あっ、あの、内藤さんは!?」
(-@∀@)「内藤さんならもう帰ったけど」
ζ(゚、゚;ζ「じゃあ……えっと、あの人、何を探しに来てたんですか?」
(-@∀@)「本だよ。『手書きの本はないか』って訊かれた。
そんなの一冊しかないからね、すぐにぴんときた」
――やっぱり、と、デレは口の中で呟いた。
確認のため本のタイトルを問えば、返ってきた答えは案の定。
デレを悩ませている、例の本であった。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:26:30 ID:mPl6OvfgO
図書室の奥に行き、デレは電話をかけた。
名刺に書かれた番号へ。
ぷるるる、と数回のコール。
音が途切れる。
『――はい、VIP図書館』
男の声だ。内藤とは違う、気がする。
ζ(゚、゚;ζ「あの、あの、すみません、館長さんは、内藤さんは……」
『は? 死ね』
ぷつん。
ζ(゚、゚*ζ
つー、つー。
無機質な音がただただ鳴り続ける。
――電話を、切られた。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:27:14 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ
しかも「死ね」という捨て台詞付きで。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:28:41 ID:mPl6OvfgO
もう一度かけてみる。
きっと番号を間違えたのだ、と自分に言い聞かせながら。
……相手はしっかり「VIP図書館」と名乗っていたのだが。
ぷるるる。ぷるるる。
『しつけえ死ね』
ぷつん。つー。つー。
ζ(゚、゚*ζ
ぷるるる。
『だからしつk』
ζ(゚、゚*ζ「お前が死ね」
ぷつん。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「はっ!!」
いや、こんなことをやっている場合ではない。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:30:33 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ(どうしよう……)
まだ内藤が帰っていないのだろうか。
名刺を見つめる。
肩書、名前、電話番号。
住所。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「先生!」
(-@∀@)「ん?」
ζ(゚、゚*ζ「この図書館って、どの辺にあるんですか?」
アサピーに名刺を見せる。
彼は顎に手をやり、ふむ、と唸った。
(-@∀@)「実は僕、VIP図書館というところに行ったことがないんだ。
というより存在自体知らなかった。今日、彼らが来たことで知ったのさ。
……だから詳しくは分からないんだよ。ただ、」
言いながら、後ろの棚から薄い冊子を取り出す。
この県内の地図帳だ。
あるページを開き、アサピーは机の上に冊子を置いた。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:32:56 ID:mPl6OvfgO
(-@∀@)「彼らが言うには、この辺り……らしいんだけど」
ζ(゚、゚*ζ
デレは眉根を寄せた。
アサピーが指差したのは――
ζ(゚、゚*ζ「ここに図書館なんてあるんですか?」
(-@∀@)「本人が言うんだから、あるんじゃないかな」
街の外れの、林。
図書館どころか、建物が存在しているかすら怪しいような場所だ。
(-@∀@)「正直半信半疑だけどね」
ζ(゚、゚*ζ「……内藤さんは、本を取り戻しに来たんですか?」
(-@∀@)「そういうことらしい。
……でも、変なんだよ。君があれを返してくれた後、
僕はちゃんと本棚にしまった筈なのに。
影も形も見当たらない」
本が勝手にデレの家に戻ってきた、と説明したところで、
アサピーは信じてくれないだろう。
そうなんですか。不思議ですね。
デレは、それしか言えなかった。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:34:36 ID:mPl6OvfgO
(-@∀@)「どこに行ったんだろうね」
ζ(゚ー゚;ζ「さあ……」
そのとき、チャイムが鳴った。
現在14時半。5時間目の授業が終わった合図だ。
ζ(゚、゚*ζ
考える。
林まで走って向かったとして、何時に辿り着くか。
幸い、この学校からそう遠くない場所である。
あまり時間はかからない筈だ。
だが、今デレが校舎から外に出れば、
ほぼ間違いなく、あの不気味な女が現れる。
果たしてVIP図書館に着くまで、追いつかれずに済むだろうか?
ζ(゚、゚*ζ「……それじゃあ、先生、さようなら」
(-@∀@)「ああ、また明日」
一か八かの賭けにも似ていたが、
ここ数日悩まされ続けた件の、解決の糸口が見えたのだ。
一刻も早く、VIP図書館へ行きたかった。
*****
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:36:49 ID:mPl6OvfgO
校門を抜ける。
いつもとは逆の方向へ駆け出しながら、デレは振り返った。
――やはり、来た。
女が不可思議な動きで揺れながらこちらへ向かってくるのが、遠くに見える。
ζ(゚、゚;ζ(追いつかないでね、追いつかないでよ!)
――少し走ると、林の前に出た。
高いフェンスが林と道路を区切っている。
フェンスに沿いながら進めば、やがて、
入口――フェンスが開閉可能になっている箇所に差し掛かった。
デレはほっと息をついた、が。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:40:00 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「鍵ぃいいいいいい!?」
手前に引けば、フェンスは開くのだろう。
この、がっちりと閉ざされた南京錠さえ無ければ。
ζ(゚、゚;ζ「嘘、嘘、嘘っ!!」
がちゃがちゃ揺らすも、それで開く筈がない。
錠の前であたふたしている内に、女は距離を詰めてくる。
壊す? 無理。
よじ登る? フェンスはとても高いし、上の方には有刺鉄線が巻きつけられている。
ζ(゚、゚;ζ「――うううっ!!」
何にせよ、このままここで考え込むのはよろしくない。
そう判断し、デレは泣く泣く、再び走り出した。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:41:46 ID:mPl6OvfgO
一旦林を離れ、街の中へ戻る。
携帯電話を取り出し、発信履歴の一番上にある番号を選んだ。
ぷるるる。
もう出てくれないかもしれない。
ぷるるる。
ああ、足が、体が、疲れてきた。
ぷるるる。
これで誰も出てくれなかったら、もう、デレは諦めてしまうだろう。
ぷるるる。
諦めて、足を止めて、あの女に捕まって、きっと死ぬ――
ぷるるる。
ぷ。
『……貴様……』
ζ(;、;*ζ「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!!
すみませんでした! 申し訳ありませんでした!!」
『あ?』
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:43:11 ID:mPl6OvfgO
ζ(;、;*ζ「だ、だか、うえっ、だか、らっ!!
フェンス! フェンス……っ! わああああん!」
『……何お前泣いてんの』
ζ(;、;*ζ「林の入口! フェンス! 鍵!
――開けて下さいぃいいいい!!」
死んじゃう、死んじゃう、死ぬ。
そんなことを叫んでいる内に、
いつの間にやら電話は切れていた。
伝わっただろうか。
冷静に考えてみると、イタズラ電話にしか聞こえなかったのではないかとも思える。
これが多分最後のチャンス。
涙を拭い、デレは止まろうとする足を叱咤しながら走った。
角を曲がる。
ここをしばらく行けば、再び林の前を通ることになる。
そのときに、あの電話の相手が鍵を開けてくれていなければ。
もう、おしまい。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:44:56 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ
足を動かし続け。
林の前。
フェンスに沿って進む。
――開け放たれた入口が、見えた。
ζ(゚、゚;ζ「あ」
そこに、誰かが凭れかかっている。
ζ(゚、゚;ζ「あ」
あ。あ、あ。
ζ(゚д゚;ζ「ぁああああありがとうございますぅうううううああああああ!!!!!」
絶叫。
中に転がり込む。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:46:43 ID:mPl6OvfgO
「あれは? あれも入れんの?」
地面に突っ伏して、ぜえぜえと呼吸するのに必死になっているデレへ、
フェンスに凭れていた男が問いかけた。
「あれ」は、例の女を指しているのだろう。
デレ以外にあの女を視覚で捉えられた人間は、デレの知る限り、彼が初めてである。
ζ( 、 ;ζ「ひめ、ひ、し、閉めて、あれは、入れちゃ、だだ、ら、らめ、駄目」
かしゃん、フェンスが音を立てた。
それから、がちゃん。硬い金属音。
深呼吸。
デレは身を起こし、顔を上げた。
同時に、フェンスに鍵をかけた男がデレを見下ろす。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:48:32 ID:mPl6OvfgO
( ^ν^)
若い男だ。
上唇が下唇を僅かに覆っているのが特徴的な顔。
何だか見覚えがあるとデレは考え、その既視感の理由に思い当たる。
内藤が鼻の下を伸ばしたときの顔に似ているのだ。
ただ、この男の方が若いし、服装がだらしない上――
見下ろすというより「見下す」と言った方が相応しいような、
冷め切った目が、内藤とまるで違っていた。
鼻の下を伸ばした、と表現したものの、そこに嫌らしさなどは見えない。
感情が見えない。
内藤の朗らかさが、彼には全く無い。
ζ(゚、゚;ζ「……」
何を考えているのか分からない、そういった恐怖を抱かせる男であった。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:51:17 ID:mPl6OvfgO
( ^ν^)
ζ(゚、゚;ζ
見つめ合う。
――不意に、がしゃり、大きな音が鳴った。
その音の原因はすぐに発見出来た。
ひっ、とデレが小さな悲鳴をあげる。
あの女が、フェンスにしがみついていた。
女は濁った目でデレを睨みつけたまま、腕をひたすらに動かし始める。
がしゃん、がしゃん。
がしゃがしゃ。
がしゃがしゃ、がしゃがしゃ。
フェンスを壊さんと、めちゃくちゃに揺らす。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:53:31 ID:mPl6OvfgO
10秒ほど経った頃。
( ^ν^)「うるせえ死ね」
デレは腰を抜かして動けなかったのだが、
男は臆することもなく暴言を吐き、フェンス越しに女を蹴った。
一際大きな音を立ててフェンスが揺れる。
そして、女は消えた。
ζ(゚д゚;ζ
( ^ν^)
ζ(゚д゚;ζ「えええええええええええええ!!?」
まさかの物理攻撃に驚愕しきっているデレの隣に移動し、
男は「立てば」と言い捨てた。
ζ(゚、゚;ζ「あ、は、はい」
デレが手を伸ばす。
――てっきり、男が助けてくれると思ったのだが。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:54:38 ID:mPl6OvfgO
( ^ν^)
ζ(゚、゚;ζ
( ^ν^)
ζ(゚、゚;ζ
男は、ポケットに手を突っ込んだまま動かない。
ああ。立たせてくれるわけではないんだ。
期待した自分を嘲りながら、デレは1人で立ち上がった。
制服についた土を払い落とす。
ζ(゚、゚;ζ「あ、ありがとうございました……」
男は何も言わない。
ζ(゚、゚*ζ「えっと、私、内藤さんに話があって」
( ^ν^)「出掛けてる」
ζ(゚、゚*ζ「いつ帰ってきます?」
( ^ν^)「知らね」
ζ(゚、゚*ζ「……この奥に、VIP図書館ありますよね?」
( ^ν^)「ん」
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:56:58 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ「お邪魔してもいいですか? 内藤さんを待ちたくて」
図書館、と言っても、公共の施設なわけでもなさそうだ。
一般人が自由に利用してもいいのなら、こうして入口に鍵をかけるのは妙である。
( ^"ν^)
ζ(゚、゚;ζ「……そんな露骨に顔を顰めないで下さい」
男は踵を返して、奥へと進み始めた。
歩行用なのか、雑草も生えていない一本道がある。
幅もそれなり。目を凝らすと、タイヤの跡らしき線条が視認出来た。
誰かしら車で行き来しているようだ。
デレは男の後を追う。
ζ(゚、゚*ζ「あの、VIP図書館の職員の方なんですか?」
無言。
男は黙々と歩いている。
――この男とは絶対に仲良く出来ない。
いや、仲良くしたくない。仲良くしない。
デレは苛々しながら決意した。
.
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 04:58:50 ID:mPl6OvfgO
図書館に到着するのに、あまり時間はかからなかった。
入口から存外近い。
現れた建物は、図書館というか、金持ちの別荘のように思えた。
外壁に汚れは見当たらない。
一本道は真っ直ぐ図書館まで伸び、館の前で二手に分かれている。
片方は館の扉へ、もう片方は館の隣へ伸びていた。
普段は、そこに車を停めているのだろう。
ζ(゚、゚*ζ「VIP図書館……」
立て札に書かれた文字を読む。
たしかにここがVIP図書館で合っているらしい。
男は扉を開き、さっさと中に入っていった。
ばたん。扉が閉じる。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「お、お邪魔しまーす!! お邪魔しますよー!?」
せめて客が入るまで開いておけという文句を胸にしまい、デレは扉を引いた。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:00:57 ID:mPl6OvfgO
――中は、図書館然とした造りになっていた。
だだっ広いホール。ずらりと並んだ本棚。
テーブルと椅子のセットがいくつか、
入口付近には貸出や返却のためのカウンターがある。
だが。
ζ(゚、゚*ζ(……寂しいところ)
がらがら。デレが抱いた感想はそれだ。
電気は消えていて、全体的に薄暗く、利用者もいない。
そして――何より妙なのが。
見た限り、どの本棚も空っぽなこと。
一つの棚に2、3冊の本がぽつんと置かれているため、完全に空というわけではないが、
それでもこれは異様だ。図書館としてあるべき姿をしていない。
しんと静まり返った館内。
寂しい。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「……あれ?」
そういえば、男がいないではないか。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:01:51 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ「すみませーん」
大声で呼びかけるが、ホールに響き渡るだけに終わった。
どこに行ったのだろう。
ζ(゚、゚;ζ「むむ……」
まあ、元よりあの男には用も無い。
内藤に会えればいいのだ。
ζ(゚、゚*ζ「……失礼しますねー」
念のため断って、デレは扉に一番近い椅子に腰掛けた。
*****
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:02:46 ID:hsWjrqog0
- おもしろい
支援
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:02:57 ID:mPl6OvfgO
ζ(-、-*ζ
暗闇にあった意識が浮上した。
頬の辺りに、誰かの吐息が当たっている。気がする。
甘い匂い。
覚えがある。
昼間に嗅いだ、そう、内藤の――
ζ(゚、゚*ζ
(*^ω^)
ζ(゚д゚;ζ「――わあああああああああっ!?」
目を開くと、視界一杯ににやけ面が広がっていた。
のけ反る。
足元が浮いた。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:05:57 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ「あっ」
背中が引っ張られるような感覚。
咄嗟にスカートを両手で押さえたのは乙女の本能だったのだろうか。
――デレは、椅子ごと後ろに倒れた。
ζ(+、+;ζ「いっ、たたた……」
(;^ω^)「おっとと、大丈夫かお?」
内藤が差し延べた手を掴み、立ち上がる。
倒れた椅子を置き直してもう一度腰を下ろした。
ありがとうございます、と内藤に礼を言う。
ζ(゚、゚*ζ「……ん?」
(*^ω^)「お?」
ζ(゚、゚*ζ「あれ、いつの間に――」
そこでデレは、待ちくたびれたために眠ってしまっていたことに気付いた。
腕時計を見ると、もう19時。
付近の蛍光灯のみが点灯し、煌々と光を注いでいる。
内藤達は一体いつ帰ってきたのやら。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:07:57 ID:mPl6OvfgO
ξ゚听)ξ「起きた?」
ζ(゚、゚;ζ「あっ、お、おはようございます!」
どこから来たのか、例の美少女が盆を持って現れた。
テーブルに盆を置く。
その上には、3人分のティーカップと、クッキーが盛られた皿。
ξ゚听)ξ「どうぞ。召し上がれ」
ζ(゚ー゚*ζ「わ、ありがとうございます」
ξ゚听)ξ「敬語いらないわよ。同じくらいでしょ。歳」
ζ(゚ー゚*ζ「ん……分かった」
ξ゚听)ξ「私、ツンっていうの」
ζ(゚ー゚*ζ「ツンちゃん。私はデレ。よろしくね」
ツンと名乗った美少女は、一切表情を変えない。
まるで、本当の人形のようだ。
デレの向かいに内藤、その隣にツンが座る。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:10:20 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「君がここにいるのを見たときは驚いたお」
ζ(゚、゚*ζ「あ……寝てしまって、すみません」
(*^ω^)「それはまったく構わないお。寝顔も堪能したし――」
ξ゚听)ξ≡⊃))^ω゚)「アガサッ!!」
ζ(゚ー゚;ζ
(;^ω^)「やだもうツンちゃん乱暴……そこも可愛いけど」
殴られた頬を擦りながら、内藤はティーカップを持ち上げた。
ふわり、紅茶のいい匂いが漂う。
それに刺激されて、デレも紅茶を一口含んだ。
ふ、と鼻から息を漏らすと、紅茶の風味が抜けていった。
舌は肥えていないし茶葉に詳しくもないが、
それでも上等な葉が使われていることぐらいは分かる。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:11:54 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚ー゚*ζ「美味しい……」
( ^ω^)「それは良かった。
さて、僕にお話があるんだって? ニュッ君から聞いたお」
ζ(゚、゚*ζ「ニュッ君?」
( ^ω^)「……あいつ、客を放置するどころか自己紹介すらしなかったのかお」
聞き慣れぬ名前にデレが首を傾げると、内藤は深い溜め息をついた。
腰を上げ、カウンターへ入っていく。
カウンターの向こう側、奥の壁に内藤が触れると、そこが開いた。
いや、壁が開いたのではなく、
元々ドアが取り付けられていたのにデレが気付かなかっただけだ。
ドアの先には階段があった。
階上に向かって内藤が叫ぶ。
( ^ω^)「ニュッくーん! 下りてきなさい!」
何だか、父親が子供を呼ぶのに似ていた。
しばしの間をあけてから、とんとん、階段を下りる足音が聞こえた。
( ^ν^)
顔を出したのは、デレをここまで案内した男。
無言かつ無表情のまま男は内藤を睨む。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:15:33 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「挨拶ぐらいちゃんとしなさいっていつも言ってるお?」
( ^ν^)「うっぜ」
( ^ω^)「 あ い さ つ 」
( ^ν^)「……」
頭を掻きながら、男はテーブルまで足を運んだ。
デレは慌てて立ち上がる。
ζ(゚、゚*ζ「……どうも」
( ^ν^)「うぃ」
ζ(゚、゚;ζ
それだけ言って帰ろうとした男の肩を内藤が掴む。
内藤はすっかり呆れ顔だ。
(;^ω^)「お前は本当に……。
……座れお。僕に話があるってことは、ニュッ君もいた方がいいかもしれんお」
( ^"ν^)
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:17:49 ID:mPl6OvfgO
デレの隣の椅子に、男はどっかりと座り込んだ。
乱暴な手つきでクッキーを掴み取り、ぼりぼり噛み砕いていく。
唖然とするデレの手元からティーカップを奪うと、それを一気に飲み干した。
ζ(゚д゚;ζ「あー!!」
( ^ν^)「うっせ」
ζ(゚、゚#ζ「なっ、何てことすんのよおっ!」
ξ゚听)ξ「……新しいカップに入れ直すわ」
( ^ν^)「俺にも」
紅茶を入れ直すと言うツンにティーカップを渡して、
男は椅子の背もたれにぐったり寄り掛かった。
あまりにも悪すぎる態度に、デレの怒りが爆発する。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:18:49 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚д゚#ζ「あなたみたいに最低な人、初めて!」
( ^ν^)「ふーん」
ζ(゚д゚#ζ「電話じゃ話も聞かずに『死ね』なんて言うし!」
(;^ω^)「ちょっ、ニュッ君またそんなこと……」
( ^ν^)「お前も俺に死ねっつったろ」
ζ(゚д゚#ζ「だって! だって!」
(;^ω^)「……ま、まあまあ、落ち着いて」
どうどう、と内藤がデレを宥める。
無理矢理口を噤んだが、それでもデレは男を睨み続けた。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:20:25 ID:mPl6OvfgO
(;^ω^)「ええとね、デレちゃん、こいつは内藤ニュッというんだお」
ζ(゚、゚#ζ「ニュッ……」
( ^ω^)「そのままだと言いづらいから、
やっくんみたいな感じで『ニュッ君』と呼ぶも良し、
ぐっさんみたいな感じで『ニュッさん』と呼ぶも良し、
なっちゃんみたいな感じで『ニュッちゃん』と呼ぶも良し」
ζ(゚、゚#ζ「出来れば名前呼びたくないです」
( ^ν^)「死ね」
( ^ω^)「ニュッ君、こちらの可愛らしいお嬢さんは長岡デレちゃん。
今日訪問した高校の生徒さんだお」
( ^ν^)「心底どうでもいい」
ζ(゚皿゚#ζ ギリギリ
(;^ω^)「……デレちゃーん、乙女にあるまじき顔しないでくれおー……」
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:21:27 ID:mPl6OvfgO
しばらくすると、ツンが2つのティーカップを運んできてくれた。
紅茶を飲み、デレは心を落ち着かせるよう努める。
さて、と内藤が場を仕切り直した。
( ^ω^)「デレちゃん。君は、何か本に関する話をしに来たんじゃないかお?」
ζ(゚、゚*ζ「――はい」
( ^ω^)「その本を手にしてから、デレちゃんの周りで妙なことが起き始めた、とか」
ζ(゚、゚;ζ「……! そう、そうです!」
(*^ω^)「やっぱりかお!」
ずばり言い当てた内藤は、嬉しそうに顔を輝かせた。
やっと見付かった、と呟く。
( ^ω^)「その本の題名はもしかして――」
内藤が口にしたタイトルはまさしくあの本のもの。
デレは、うんうんと頷いた。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:23:52 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「ええと……あれの作者は誰だったかお」
( ^ν^)「貞子」
( ^ω^)「ああ貞子……じゃあホラーかお」
ξ゚听)ξ「どんな話?」
( ^ν^)「女に追いかけられる話」
ニュッの答えに、またもデレは頷いた。
内藤が、ツンを見ながら「呼んできてくれお」とカウンターの方を顎でしゃくる。
ツンはドアを開け、階段を上っていった。
( ^ω^)「――2階には、僕らの部屋があるんだお」
ζ(゚、゚*ζ「部屋……住んでるんですか?」
( ^ω^)「だお。僕とニュッ君とツンと……他にも、何人か」
ζ(゚、゚*ζ「家族?」
( ^ω^)「いや、血が繋がってるのは僕とニュッ君だけだお。
それも、従兄弟ってだけで」
身寄りのない者を住まわせているのだそうだ。
ツンもその1人だとか。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:25:42 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「んで……彼らには、家賃代わりに、ちょっとした労働をしてもらってるんだお」
ζ(゚、゚*ζ「労働って?」
( ^ω^)「――小説を書くこと」
きい。ドアが開く。
ξ゚听)ξ「はい、こっち来て」
川д川「……なあに? せっかく気持ち良く寝てたのに……」
ツンが連れてきたのは、1人の女性。
だらり、長い髪を垂らしている。
( ^ω^)「おっおっ。来たかお。
デレちゃん、紹介するお。彼女は……」
( ^ω^)「山村貞子。君を困らせているホラー小説の作者だお」
*****
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:26:56 ID:mPl6OvfgO
川д川「ああ……書いた書いた。……いつだったかしら……」
( ^ν^)「10年前の夏」
川д川「それぐらいね……」
デレが話の概要を話すと、たしかに心当たりがあると貞子は答えた。
懐かしい、なんて言って笑う。
作者が判明したものの、デレにはまだ訊きたいことがある。
何故本の内容が現実になっているのか、だ。
ζ(゚、゚*ζ「……ホラーだから……本に幽霊が取り憑いちゃった、みたいなことですか?」
川д川「んー……呪われた本、みたいなこと言いたいの……?
……そういや、そんな話も書いたことあったわね……」
( ^ν^)「『血の香る本』」
川д川「そうそう……さすがニュッ君……」
ζ(゚、゚;ζ「……」
(;^ω^)「あー。僕が説明するお」
ローペースな話し方に加え、話題が飛ぶ。
このまま貞子に話をさせても進まないと察したか、内藤が口を開いた。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:27:51 ID:mPl6OvfgO
――だが、それは、デレには到底信じられぬような内容であった。
( ^ω^)「どうしてか、ここで書かれる物語には……いや、本には命が宿るんだお」
.
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:27:53 ID:Vp4rbGtA0
- 寝る
興味深いから続きは後で読む
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:28:57 ID:mPl6OvfgO
意味が分からず、デレは訝しげに眉を顰めた。
何かの比喩かとも思ったが、答えは出ない。
ζ(゚、゚*ζ「……命ですか?」
( ^ω^)「命。あるいは意思。『本』が欲求を覚える」
欲求。
まさか食欲や性欲などではあるまい。
( ^ω^)「そうだおね……デレちゃん、君が本だとしよう。
どんなことを望む?」
ζ(゚、゚*ζ「望むって……」
本が「してほしい」ことといえば。
ζ(゚、゚*ζ「たくさん読んでほしい、とか?」
( ^ω^)「うん、そんな風にささやかで控えめな本もいるだろうお。
ただし、欲ってのはどんどん大きくなるもんだお。
その大きくなった欲こそが――」
( ^ω^)「――『自分を、表現してほしい』」
.
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:30:19 ID:mPl6OvfgO
デレが言葉の意味を図りかねているのに気付き、内藤は人差し指を立てた。
たとえば、と、前置き。
( ^ω^)「有名な作品は、映画になったり、演劇になったり、アニメになったりするおね」
ζ(゚、゚*ζ「はい」
( ^ω^)「そんな風に、『自分』を人間に演じてもらう――
擬似的とはいえ、文字の世界を飛び出して現実に表現してもらうことは、
本にとって最上の喜びなんだお」
ξ゚听)ξ「実際に本から聞いたわけじゃないけれど、
そんなところだろうっていう推測ね。一応」
ζ(゚、゚*ζ「……」
ζ(゚、゚;ζ「……え……それじゃあ、つまり――」
まさか。
あの本は、デレに「表現させている」?
.
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:31:44 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「ま、そういうことだお」
ξ゚听)ξ「普段は、私達が定期的に演じることで、その欲求を抑えてあげていたのだけれど」
( ^ω^)「数年前にちょっとしたことがあって、
色々な本が僕達の手元を離れてしまったから……」
「ちょっとしたこと」によりVIP図書館から学校の図書室に引っ越した本は、
数年間、誰にも表現されることがなかった。
表現されたい欲求は溜まりに溜まっていき――
ζ(゚、゚;ζ「……たまたま手に取った私に、無理矢理表現させた」
川д川「そゆことぉ……」
デレは今、あの本の主人公を演じさせられているのだ。
ならば、それじゃあ。
ζ(゚、゚;ζ「どうやったら、私は解放されるんですか?」
( ^ω^)「そりゃ、結末を迎えれば本も満足するお」
ζ(゚、゚;ζ「……け、結末……」
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:33:07 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「ぱぱっと手早く終わらせちゃえばいいんだお。
というわけで、デレちゃん。面倒だろうけど、最後まで演じてくれお。
そうしない限り、本は諦めてくれないお。
逆に言えば、終わらせてしまえばすんなり解決――」
事もなげに内藤は言い放つ。
だが――とんでもない。
ζ(゚д゚;ζ「なっ……」
結末。
結末なんて。
( ^ω^)「そういや、あれはどんなオチなんだお?」
( ^ν^)「主人公が殺される」川д川
( ^ω^)
( ^ν^)川д川
( ^ω^)「ん?」
( ^ν^)「主人公が殺される」川д川
( ^ω^)
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:34:18 ID:mPl6OvfgO
(;^ω^)「……えっと……」
ζ(゚、゚;ζ「あの、すみません」
(;^ω^)「なんだお」
ζ(゚、゚;ζ「え、『演じる』だけなら……殺されたふりで済みます、よね?」
ξ゚听)ξ「普通はね」
ζ(゚、゚;ζ「普通?」
ξ--)ξ「……でも、あなたの話を聞く限り……今回は、そうもいかないみたいだわ」
「本」と「現実」が混ざってしまっているから。
ツンがそう言って、ティーカップを口元で傾けた。
混ざっている。とは、どういうことか。
デレだけが、その言葉を理解出来ないでいる。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:36:35 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ「……どういう」
ξ゚听)ξ「つまり」
かちゃん。ソーサーとカップが、小さく鳴った。
ξ゚听)ξ「あなたが殺されないと終わらないってこと」
ζ(゚、゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「い」
ζ(゚д゚;ζ「嫌! 嫌です! 私死にたくないです!」
(;^ω^)「僕だって君みたいに可愛い美少女が死ぬのは嫌だお!
……まあ、とにかく現物を見てみなきゃ始まらんおね」
内藤がデレに手を差し出した。
その手と内藤の顔を交互に見遣り、デレは首を傾げる。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:38:11 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「ん」
ζ(゚、゚*ζ「?」
(*^ω^)「わあ小首傾げる仕草超可愛い。
……じゃなくて、ほら。出してくれお」
ζ(゚、゚*ζ「何を?」
( ^ω^)「……本」
ζ(゚、゚*ζ「私の家にあります」
( ^ω^)
ζ(゚、゚*ζ「?」
(*^ω^)「わあ超可愛くて怒るに怒れない」
( ^ν^)「殺人級の馬鹿だな」
ζ(゚、゚#ζ「なっ、何よ!」
ξ゚听)ξ「本の相談だから、てっきりその本を持ってきているものだと思ったわ」
ζ(゚、゚;ζ「……うぐっ」
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:40:02 ID:mPl6OvfgO
( ^ω^)「……デレちゃん。君を追いかける女は、君が逃げ切れたら消えるんだおね?」
ζ(゚、゚;ζ「はい」
( ^ω^)「たとえばその直後に君が家を出たとする。
そういった場合も、やっぱり女は現れるのかお?」
ζ(゚、゚*ζ「いえ。一度、家に入って逃げ切った後、
どうしても買い物に行かなきゃいけなくなったので
びくびくしながら外出したことがありますけど……」
ξ゚听)ξ「女は出なかったのね?」
ζ(゚、゚*ζ「まったく。
なんかね、学校帰りに限り現れるみたい。
本の中でも、主人公が学校から帰るときにだけ追われてたし……」
(;^ω^)「……なら……。
君が家に帰って本を持ち出し、
それからゆっくりここに来れば良かったんじゃないかお」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「それは。ほら。私も。ね。必死だったので。ね」
――デレは、あまり頭がよろしくない。
この瞬間、全員がそれを悟った。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:41:08 ID:mPl6OvfgO
*****
ξ゚听)ξ「4人も急にお邪魔して平気なの?」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫。今は、この家、私しか住んでないもの」
時刻は21時。
場所は長岡家。
――直接本を取りに行った方が早いだろうと、
内藤の車に乗せられてここまで来たのだ。
デレの両親は2人共遠方で暮らしている。
故にこの一軒家はデレ1人のものであり、気を遣う相手もいない。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:42:57 ID:mPl6OvfgO
(*^ω^)「失礼しますおー。……女の子のいい匂いがするお」
川д川「お邪魔します……」
( ^ν^)「腹へった。飯」
ζ(゚、゚#ζ「……内藤さん、どうしてこの人も来たの?」
この人、とデレがニュッを指差した。
当のニュッは家主よりも先に家に上がり込み、廊下を早足で進んでいく。
ζ(゚、゚#ζ「あっ、ちょっ、勝手に歩くなー!」
(;^ω^)「……一応、ニュッ君の本だし、あの子も連れてきた方がいいかと思ったんだけど。
やめときゃ良かったおね……」
ζ(゚、゚#ζ「? あの人のって……。書いたのは貞子さんでしょう?」
( ^ω^)「ああ、いや、作者はたしかに貞子だけど、
所有者はニュッ君なんだお」
川д川「私はニュッ君のために書いただけー……」
ζ(゚、゚#ζ「はあ……」
いつか殴ろうと胸に誓いながら、デレはニュッの背中を睨む。
ばたん、と大きな音を立ててドアを閉めることで、せめてもの怒りのアピールとした。
.
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:43:44 ID:mPl6OvfgO
リビングに内藤達4人を案内し、デレは一先ず遅めの夕食を用意した。
皆、すっかり食事のタイミングを逃していたため、空腹だった。
ζ(゚ー゚*ζ「どうぞ」
川д川「冷凍食品……まあ、グラタンをチョイスしたセンスは認めてあげる……」
ζ(゚、゚*ζ「ごめんなさい、本当は一から作りたかったけど、時間かかっちゃうから」
(*^ω^)「冷凍食品でも美少女が温めたってだけで高級フルコース並の価値がつくお」
( ^ν^)「どうせこいつの手作りに比べりゃ、冷食の方が数段も美味いんだ」
ζ(゚ー゚#ζ「おいグラタン返せ」
ξ゚听)ξ「……それにしても、よくもまあ。グラタンが5人分もあったものね」
ζ(゚ー゚*ζ「美味しいものをたくさん買い置きすると幸せな気分になれるでしょ?」
ξ゚听)ξ(だからってグラタン5つ常備はおかしい……とは、言わない方がいいのかしら)
.
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:45:34 ID:mPl6OvfgO
――食事を終えて。
茶を入れた後、デレは自室から本を持ってきた。
寛いでいる貞子にその本を渡す。
川д川「あー……これ……。……うん、私の……」
ページをぱらぱらめくり、久しぶり、と囁く。
内藤が横から覗き込んで、結末に目を通した。
(;^ω^)「……死んでるお」
川д川「ね、死んでるでしょう……」
(;^ω^)「どうするお? 最悪の場合、燃やしてしまうしか――」
川д゚川「ふざけんな」
(;^ω^)「デスヨネ」
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:47:17 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ「じゃあ私に死ねと申すか」
ξ゚听)ξ「高校を卒業するまでの2年半、我慢して逃げ続ければ?」
ζ(゚、゚;ζ「絶対いつか捕まる! 殺される!」
( ^ω^)「学校帰りというシチュエーションを避けるために、学校を辞めるとか」
ζ(゚、゚;ζ「それも嫌です!」
川д川「ていうか……『本』が許さないわよ……。
……卒業出来ないよう留年させるとか……退学届書かせないようにするとか……。
そういう妨害ぐらいすると思うけど……」
ζ(゚、゚;ζ「そ、そんなことも出来るの!? 本が!?」
(;^ω^)「自分を表現させるために、現実を多少捩じ曲げるぐらいは、まあ……。
とても我が儘な本なら、出来ないこともないお」
ζ(゚、゚;ζ「チート……」
がくり、うなだれる。
どうしろというのだ。
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:50:05 ID:mPl6OvfgO
ξ゚听)ξ「まあ、とにかく。考える時間はまだまだあるわ。
少なくとも明日の夕方、放課後までは、デレに命の危機が訪れることは――」
( ^ν^)「どうだろな」
ξ゚听)ξ「……なあに?」
( ^ν^)「まず前提として、この本は、多少の差異は問題にしていない」
( ^ω^)「何で分かるんだお?」
( ^ν^)「物語通りに進ませたいなら、今日、あの女が現れる筈がなかった」
主人公が学校から家に帰るときに女はやって来る。
しかしデレは今日、学校から図書館へ向かった。
本来なら、そのときに女が現れるのはおかしいのだ。
( ^ν^)「多分、本は、
『主人公が学校を出てからどこかに入るまでを学校帰りと見なす』
っつー最低限の条件を決めていた。
だから今日も女はデレを追いかけた。
学校から林に入るまで。それも学校帰りというシチュエーションに含まれたんだ」
ζ(゚、゚#ζ「馴れ馴れしく呼び捨てに……」
(;^ω^)「そこは今は見逃すお」
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:52:54 ID:mPl6OvfgO
( ^ν^)「本には、それぞれにそれぞれの性格がある。
この本みたいにある程度の違いは無視する奴もいれば、
一から十まで台本通りじゃないと許せない奴もいる」
ぺらぺらと話す姿が、少し意外だとデレは思った。
内藤がニュッも連れてきた理由が分かった気がする。
きっと――ニュッは、誰よりも本のことを理解しているのだ。
( ^ν^)「さらに言えば、貞子の書く本達には、とある傾向が見られる」
ξ゚听)ξ「どんな?」
( ^ν^)「貞子は掌編を好む。それに似たんじゃねえかな」
( ^ν^)「さっさと終わらせたがるせっかちな野郎が多いんだ」
――かん。
どこからか、小さな音がした。
.
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:55:05 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ「?」
かん、かん。
こつこつ。
川д川「何の音……」
ξ゚听)ξ「窓」
ツンの言葉に、皆がリビングの窓を見た。
庭に通じる大きな窓。
今はカーテンに隠されている。
( ^ω^)「猫か鳥でもいるのかお?」
内藤が立ち上がった。
――デレと貞子とニュッの3人には、この状況に覚えがあった。
デレの顔が、さっと青くなる。
物語の中。主人公が殺される日。
その日だけは、例の女がいつもと違う行動に出ていたのだ。
.
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 05:59:10 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ「内藤さん、駄目――」
*****
『 コツンと居間の窓が鳴りました。
はて、近所の子供が石でも投げたのかしらと彼女は首を捻りつつ
音の正体を見てやるためにカーテンを引きました。 』
*****
デレの制止も間に合わず、内藤はカーテンを開けた。
開けてしまった。
*****
『 すると窓には、 』
*****
窓には。
へばりつく女が。
(;゚ω゚)「……おおおおおっ!?」
ζ(゚д゚;ζ「いやあああ!」
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:00:57 ID:mPl6OvfgO
女は窓を殴り始めた。
どんどん。がんがん。
それでも駄目だと分かるや、拳から頭突きへ方法を変える。
がつん。がつん。
ごつん。ごつん。
血が流れた。
構わず頭突きを続ける。
打ちつける度、ガラスに赤が飛び散った。
窓は壊れない。
ようやく諦めたか、女は窓を離れると、どこかへふらふら歩いていった。
(;゚ω゚)「い、今の、は」
川д川「わあ、すごーい……私がイメージしてた女の姿とぴったりー……」
ζ(゚д゚;ζ「あ、あ……ひ……」
かつん。
今度は、リビングの後ろ――キッチンから音がした。
.
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:02:27 ID:mPl6OvfgO
*****
『 女は家中の窓を叩いて回りました。 』
*****
次に、またどこかの窓が叩かれる。
かつん、かつん、こつん、こつん。
( ^ν^)「今日中に終わらせるつもりらしいな」
ξ゚听)ξ「迷惑ね」
――そのとき、辺りが真っ暗になった。
電気や、デジタル時計など、明かりになるものが完全に沈黙する。
(;^ω^)「うわっ……て、停電? ひええ、愛しのツンたんの美顔が見えないお!」
ξ゚听)ξ「そういう問題かしら」
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:06:13 ID:mPl6OvfgO
全ての明かりが消え失せた直後。
女は、主人公の部屋の窓に鍵がかかっていないのを発見し、
そこから家の中へと侵入するのだ。
自室へ逃げ込んでいた主人公は女と遭遇し――
殺される。
川д川「……窓の鍵は……?」
ζ(゚、゚;ζ「し、閉まってます、さっき、本を持ってくるときに確認したし、」
(;^ω^)「勝手に鍵開けんじゃねーかお、話を進めるために」
ξ゚听)ξ「うん、有り得る」
きい。
何かが開く音。
ぱたん。
何かが閉じる音。
.
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:07:34 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚;ζ
ζ(゚、゚;ζ「あ……」
ぶわり、デレの頭の中で先程の記憶が一気に巡った。
この家に帰ってきて、内藤達を上げて、ニュッの無礼さに怒って、デレは、
玄関のドアの鍵を、閉め忘れた。
ばたばた――玄関から、激しい足音が近付いてきた。
それはまず階段を駆け上がっていった。
階上から、走り回る音と色々な部屋のドアを開け放っていく音が聞こえる。
物語では主人公は2階の部屋にいた。そのせいだろう。
――女は主人公を探している。
――女はデレを探している。
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:09:34 ID:mPl6OvfgO
デレが、恐慌状態へ陥った。
ζ(;、;*ζ「ひ、や、どうし、どうしたら、あ、ああ、」
真っ暗ではあるが、住み慣れた家だ。
手探りしながらリビングからキッチンへ逃げる。
キッチンの奥で丸まって、ひたすらに震えるしか出来なかった。
「――方法が無いわけでもない」
ぶっきらぼうな言葉が飛んできた。
ニュッの声。リビングから聞こえる。
ζ(;、;*ζ「へ……」
「結末を書き換えることは不可能だが、書き加えることは可能だ」
ζ(;、;*ζ「書き、加える?」
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:11:21 ID:mPl6OvfgO
「いやいやニュッ君、それはたしかにそうだけど、主人公は死んでんだお!」
「蘇生オチにすれば?」
「うわっツンったら頭良い。ちゅーしてあげるお。
って暗くてどこにいるか分かんねえ!」
「館長……うるさい……ていうか暗くて何も書けないんだけど……」
ζ(;、;*ζ「テ、テーブルの下、隅っこに、箱があります……そこに、懐中電灯……」
「ん……あった、あった……。館長、ペン貸して……。
……んんー……? ……なあに? ニュッ君……」
かちりと懐中電灯のスイッチが入る音。
少しの間をあけて、ペンが紙を撫でる音が耳に入った。
ζ(;、;*ζ「……?」
ふと気付く。
あれだけ騒がしかった足音が無くなっている。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:12:20 ID:mPl6OvfgO
ζ(;、;*ζ「……」
どうしたのだろう。
まさか帰ったわけもあるまい。
恐る恐る、デレは顔を上げる。
ぎょろぎょろとした、濁った瞳が、目と鼻の先に見えた。
.
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:14:08 ID:mPl6OvfgO
――デレは、一瞬、世界が真っ白になったように感じた。
それが死んだ人間の視界なのだろうとさえ思った。
しかし、すぐに世界は色を取り戻す。
見慣れたキッチン。
どうやら、急に電気がついたために目が眩んだだけらしかった。
ζ(;、;*ζ「あれ……?」
( ^ν^)「泣いてんじゃねえよ」
ζ(;、;*ζ「うわ」
ニュッがリビングから、ひょいと顔だけを覗かせた。
続いて内藤がキッチンに飛び込み、デレに駆け寄る。
(;^ω^)「あわわ、よしよし、僕のハンカチを使うお」
グシグシ
(;^ω^)つ□、;*ζ「う、うう」
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:16:37 ID:mPl6OvfgO
内藤に涙を拭われ、ついでに頭を撫でられた。
ようやく落ち着いてきたデレは、深呼吸をして、
気になって仕方のないことを訊ねる。
ζ(゚、゚*ζ「……どうなったんですか?」
女はどこに行ったのか。
貞子は何を書いたのか。
自分は知らない、と内藤が答えるので、
デレはリビングへ移動した。
川д川
貞子は苛ついているようだった。
左手で頬杖をつき、右手に持ったペンでテーブルを叩いている。
ξ゚听)ξ「納得いってないのね」
川д川「時間がなかったとはいえ……こんなオチ、認めたくないもの……。
私がプロで、これを堂々と世に出したら……すぐさまファンが消え去るわ……」
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:17:54 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚、゚*ζ「……あのう……」
ξ゚听)ξ「あ、大丈夫だった?」
ζ(゚、゚*ζ「うん。……貞子さん、どんなことを書いたんですか?」
川д川「……」
ζ(゚、゚;ζ「わっ」
無言で、貞子はデレに本を放り投げた。
受け取ったそれを開き、結末を見る。
ζ(゚、゚*ζ
『 以上は全て女の妄想であり、主人公は現実では殺されてなんかいませんでした。 』
走り書きの一文は、あんまりにもあんまりな内容だった。
デレが思わず吹き出す。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:19:02 ID:K59Hr1z20
- シエンヤー
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:19:13 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚ー゚;ζ「……これは……」
川#д川「笑わないでよ……。……これなら蘇生オチの方が良かったわ……。
それでも最悪な出来だろうけど、これよりはマシよ……」
ζ(゚ー゚*ζ「だったら、そうすれば良かったのに」
川д川「私もそうしたかったわ……でもニュッ君が……」
ζ(゚、゚*ζ「あいつが?」
川д川「生き返るとしても、結局一度は死ぬってことだろ、それじゃあ気の毒だ
……って……小声で言うんだもの……」
ζ(゚、゚*ζ
( ^ν^)「しね」
川д川「あ……いたい……」
ぱこん。
ニュッが貞子の頭を叩く。
ついでに、照れ隠しだと笑う内藤も殴られた。
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:20:41 ID:mPl6OvfgO
ξ゚听)ξ「ま、何にせよ一件落着ね。これは回収させてもらうわ」
ツンがデレから本を取り上げる。
帰ろう、と内藤へ声をかけた。
( ^ω^)「うん、帰るかお。
――デレちゃん、お邪魔しましたお。……色々、ごめんお」
ζ(゚、゚*ζ「あ、いえ、ありがとうございました」
川д川「このことは他言無用ね……」
( ^ν^)「ねみー」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさん」
( ^"ν^)
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:21:05 ID:mPl6OvfgO
ζ(゚ー゚*ζ「……ありがとう」
( ^"ν^)
( ^ν^)
( ^ν^)「ふん」
*****
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:22:10 ID:mPl6OvfgO
翌朝。
目を覚ましたデレは、昨日のことは夢だったのではないか、なんて疑った。
それほど、現実感の薄い出来事だった。
ζ(゚、゚*ζ「……うん。ない、ね」
机の上へ視線を向ける。
いつもはそこにある黒い本が、無くなっていた。
.
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:23:32 ID:mPl6OvfgO
――昼休み。
昼食をとったデレは、図書室へ足を運んだ。
ζ(゚、゚*ζ「?」
入るなり、隣の司書室が騒がしいのに気付く。
「――、……っ、――!」
どことなく聞き覚えがあるような。
いけないとは思いつつ、司書室に繋がるドアに耳をくっつけた。
「――ですから! あなたは『手書きの本』と言ったじゃないですか!
あれは手書きじゃなかったから、関係ないと思いますよ、普通!」
「あれでも手書きなんだお! ぱっと見は活字のようだけれど……
よく見りゃ分かるっつの!!」
ζ(゚、゚;ζ
言い争う2人の男。
片方はアサピーの声。
もう片方は。
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:26:00 ID:mPl6OvfgO
「……ああ! もう、勝手に探させてもらうお!
ツン、おいで!」
――あの男だとデレが確信した瞬間。
急に支えが無くなり、デレは体勢を崩してしまった。
ドアが向こう側から引かれたのだ。
ζ(+、+;ζ「ぎゃうっ!!」
「おおおっ!?」
あわや転ぶかと思われたが、何かにぶつかり、それは阻止された。
甘い香水の匂い。
黒いスーツ。
ζ(゚ー゚;ζ「……こんにちは、内藤さん」
(*^ω^)「……こんにちはだお、デレちゃん」
やはりと言うか、またかと言うか、内藤。
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:28:38 ID:mPl6OvfgO
図らずも寄り掛かる形になっていることに気付いたデレは、内藤から離れようとした。
が。
(*´ω`)「聞いてくれおデレちゃん」
ζ(゚、゚;ζ「わぶっ」
そのまま、ぎゅうと内藤に抱きしめられた。
(*´ω`)「あのガリガリ眼鏡ったら酷いんだお。
我がVIP図書館の本がもう一冊あったのに隠してたんだお」
(#-@∀@)「だから隠してたわけじゃないって言ってるでしょう!」
(*´ω`)「しかもそれを紛失したっつーんだお。……ああ柔らかい。いい匂い」
ξ゚听)ξ≡⊃)))^ω゚)「クリスティ!!!!!」
ξ゚听)ξ「変態」
:(;∩ω゚):「ツ、ツンたん、いつもより力入ってないかお……」
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:29:45 ID:mPl6OvfgO
ξ゚听)ξ「ごめんなさいね、デレ。
このセクハラ親父にはなるべく近付かない方がいいわよ」
ζ(゚、゚;ζ「そうだね」
(;^ω^)「軽くショック! ……そうだ、デレちゃん」
ζ(゚、゚*ζ「はい?」
(;^ω^)「……手伝ってくれないかお? 本を探すの」
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「……は?」
.
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:31:07 ID:mPl6OvfgO
VIP図書館。
そこで書かれた、様々な本。
自我を得て、欲を覚えて。
そうして「彼ら」が引き起こす事件は、現実世界で新たな物語を綴る――
第一話 終わり
.
- 96 名前: ◆c9sFVHJv2E:2011/03/06(日) 06:33:29 ID:mPl6OvfgO
今回の投下終わりです
支援ありがとうございました!
一応、予告スレで投下したのと同一人物だよということで酉をば
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 06:37:09 ID:hsWjrqog0
- 乙
クソ面白かった
次も期待
- 98 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 07:26:57 ID:K59Hr1z20
- この( ^ν^)、嫌いになれない……!
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 09:28:26 ID:cavSVBlgO
- やべぇ面白い
乙乙
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 10:10:53 ID:B/z629nQO
- 短編かと思いきや違うのか、おもしろい
乙
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 12:23:38 ID:IMU23ugAO
- 乙
おもしれえな
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/06(日) 19:38:52 ID:BdA0eTuE0
- やはり( ^ν^)はうぜぇ……
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:24:07 ID:PP.E5E3sO
- のーんびり第二話投下しまっす
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:26:06 ID:PP.E5E3sO
o川*゚ー゚)o「……すみませーん……」
『アサピー先生、絵下手だなあ』
『黙らっしゃい。それなら、君達が描いてよ。
ていうか君達の仕事でしょ、読書促進ポスター』
『ほらペン貸して。こう描いた方がいいって』
o川*゚ー゚)o「……」
o川*゚ー゚)o「……ま、後でいっか。盗むわけじゃないし――」
.
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:26:34 ID:PP.E5E3sO
第二話 あな美しや、恋愛小説・前編
.
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:27:51 ID:PP.E5E3sO
ζ(゚、゚*ζ「ふむふむ、ツンちゃんが16歳で……」
ζ(゚、゚;ζ「……ニュッさんって21歳なんですか!?」
( ^ω^)「だお」
ζ(゚、゚;ζ「歳、もっと近いと思ってました……」
( ^ω^)「……おとなげないおね、あの子……」
街の外れ、林の中。
そこに建つVIP図書館。
――「本探しを手伝ってほしい」。
内藤の頼みに頷いたデレは、放課後になるや否やここへ連れてこられた。
頷いた、と言っても、進んで手伝いたいと思ったわけではない。
VIP図書館、本、内藤達。
彼らに純粋な好奇心を抱いたから。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:29:05 ID:PP.E5E3sO
図書館に着くなり、昨日のように、テーブルの上へ紅茶とクッキーが出された。
内藤よりも先にデレが口を開く。
図書館のことについて教えてほしい、と。
少し考えて――内藤は、まず、自分とニュッ、ツンのことを話した。
それへのデレのリアクションは先述の通り。
( ^ω^)「で、次は図書館の話」
ζ(゚、゚*ζ「はい」
( ^ω^)「……ここは元々、僕とニュッ君の祖父が住む屋敷だったお」
.
- 108 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:30:25 ID:PP.E5E3sO
――内藤とニュッは、昔、それぞれの両親を同時に亡くした。
彼らの父同士は兄弟であり、とても仲が良く、
それに伴って家族ぐるみの交流も多々あった。
皆で小旅行をしたことだって一度や二度ではない。
ある日、いつものように彼らはワゴン車でドライブをしていた。
16年前――内藤が13歳、ニュッが5歳のときのことである。
運転手を務めた内藤の父には何も問題無かった。
唯一悪かったとすれば、それは運だ。
対向車線から外れた居眠り運転のトラック。
今にして思えばドラマにありがちな展開だと、内藤は吐き捨てるように言う。
そうして、不慮の事故で彼らの両親は死んでしまった。
母に庇われた内藤とニュッだけが、生き残った。
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:30:39 ID:rjgpi1M6O
- 支援
- 110 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:31:09 ID:PP.E5E3sO
( ^ω^)「僕らは祖父の家……ここに引き取られたお」
内藤らの父の父。
祖父は、大層な資産家であった。
ろくに会ったこともない年寄りといきなり暮らすことになり、
内藤もニュッも初めは寂しさやら何やらで毎日泣いていた。
そんな孫に、祖父は、彼なりの歩み寄り方をする。
( ^ω^)「祖父は本が好きな人だったお。
世界各国、様々な本を集めるのを趣味としていた。
それに加えて――彼自身、物語を綴るのを好んでいたお」
お気に入りの本、あるいは自分が書いた小説。
それらを内藤に与え、ニュッには直接読み聞かせた。
目の肥えた祖父が選んだだけあって、
どの本も内藤達を満足させるに充分な面白さを持ち合わせている。
2人は、読書に夢中になった。
( ^ω^)「……とは言っても、僕は当時、既に中学生でね。
すぐに他の趣味を見付けて色々なことに手を出していたものだから、
一般的な本好きの域に留まっていたお」
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:32:18 ID:PP.E5E3sO
( ^ω^)「ただ、ニュッ君は違ったお。元々ませたところがあった上、
小学生にもならない内から本漬けの生活を送ったおかげで、
異常な本好きになってしまったお。
漢字なんかもすぐに覚えて、祖父が読み聞かせなくても
大体を自分で理解出来るようにさえなった」
そのせいで、ひねた性格になってしまったけれど、と小声で付け足す。
それはデレにもよく分かった。
( ^ω^)「ニュッ君は、時間を見付けては祖父のコレクションを次々に読破していったお。
2年か3年が経つ頃には、殆ど読み終えたほどに」
祖父は、ニュッのため、どんどんコレクションを増やしていった。
それでもニュッは卑しささえ感じる読書欲でもって、
全てを読み切っては祖父に次を要求する。
そんな生活を送り続けていたある日。
小学4年生になったニュッは、ふと、こう言った。
「自分のためだけに書かれた話が読みたい」、と。
本に執着しすぎた少年は、ついに、本に対して独占欲にも似た思いを抱くようになったのだ。
その他大勢が読むために書かれた本ではなく、
自分だけに捧げられた本を欲した。
初めは祖父や内藤が、ニュッのために物語を書いていた。
しかし2人だけでは、とてもじゃないがニュッの要望に追いつかない。
- 112 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:33:38 ID:PP.E5E3sO
( ^ω^)「だから――、……」
不意に口を閉じ、内藤は目を伏せて、自分の唇を指先で何度か叩いた。
話すか話すまいか迷うような仕草に見える。
しばしの沈黙を経て、内藤は再び口を開いた。
( ^ω^)「だから、祖父は『作家』を連れてくることにしたんだお」
ζ(゚、゚*ζ「作家……貞子さんみたいな」
( ^ω^)「だお。身寄りの無い子供や、住む場所の無い大人を、ここへ誘ったお」
彼らは屋敷に住まわせてもらえる「条件」も快く承諾した。
与えられたノートに小説を書く。それだけ。
ζ(゚、゚*ζ「ツンちゃんも?」
ξ゚听)ξ「ん? ……ええ」
――こうして奇妙な共同生活が始まってから、数年。
内藤が22歳、ニュッが14歳のとき――7年前。
祖父のコレクションの数は膨大なものになっていた。
それを見て、内藤は、あることを思いつく。
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:35:50 ID:PP.E5E3sO
( ^ω^)「こんなに本があるんだから、ここの1階を図書館にしてしまえばどうか、と」
ニュッは基本的に「作家」達の書く作品以外には執着しない。
内藤は一度読んだ本は読み返さない。
祖父も余程気に入ったものでない限り放置しっぱなし。
数々の本が埃を被っていく様は、何だか物悲しかった。
こんな林の中だから滅多に人は来ないだろうが、
世の中、物好きとやらはなかなか多い。
決して無駄にはならない筈だと、内藤は図書館開設を祖父に説いた。
存外あっさりと祖父は賛同する。
すぐに、彼らは1階の改装を試みた。
いくつかの部屋があったが、それらの壁やドアは撤去。
床を真っさらにし、リノリウムを敷いた。
専用の本棚やカウンター、机などを設置し、形だけは整った。
……という段階に来たところで。
祖父が、急死してしまう。
.
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:37:51 ID:PP.E5E3sO
葬式は慌ただしく行われた。
殆どを親戚達がやってくれたので、内藤とニュッは座っているだけのようなもの。
全てを他人に任せていた。
――それが間違いであった。
無理にでも関わるべきだったのだ。
内藤達は、一度図書館から離れた。
祖父の娘――内藤らの伯母――や親類が、
祖父の遺品を整理したいからと言って追い出したのである。
ショックにより茫然自失状態にも近かった内藤達は、素直に従ってしまう。
何よりも、とある理由により、彼らは図書館に居たくなかった。
知人の家に押しかけて2、3泊し、数日後の夜に帰宅して。
がらんどうになった図書館を見ても、すぐには何があったのか分からなかった。
先に我に返ったのはニュッ。
「あいつら本を処分しやがった」。
彼の言葉に、内藤はようやく事態を把握した。
- 115 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:37:53 ID:FYn3laSIO
- 期待してる支援
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:39:29 ID:PP.E5E3sO
――祖父は昔の本ほど初版を好んだため、コレクションは大体が初版のもの。
それだけで価値が上がる本はいくつもあった。
さらに中には、あまり出回っていない本や絶版になったものもちらほら。
全て売り払えば、相当な金になる。
伯母達はそれを狙ったのだろう。
間が抜けた話、内藤達は「本に手を出すな」と言い忘れていたのである。
( ^ω^)「まあ……正直、あの本達にはこれといって未練が無かったお。
図書館開けなくなったなー、ぐらいの悔しさは多少あったけど、
それもそこまで思い入れがあったわけじゃないし」
( ^ω^)「……ただ……」
――屋敷ごと分捕られなかっただけマシだ、と楽観していた内藤だったが、
祖父の部屋に入った瞬間、にやけ顔は引き攣った。
そこに保管していた筈の「作家」達の書いた本が、
綺麗さっぱり消え去っていたのだ。
まさか、手書きの、たかがノートすら標的になるとは。
.
- 117 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:40:12 ID:4negFb.IO
- 寝る前支援
- 118 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:40:36 ID:PP.E5E3sO
これに怒るはニュッである。
普段の彼からは想像もつかぬ積極さで伯母のもとに殴り込んだ。
伯母は悪びれることなく答える。
1階にあった本は殆どが売れた。
合計額もそれなり。
分け前なら、多少は内藤達にやらないこともない、と。
だが、ニュッが訊きたいのはそこではない。
売り上げなんざ好きにすればいい、だが祖父の部屋にあった本はどうした、
あれだけは返してもらう――ほぼ、叫ぶような怒鳴り声であった。
それへの答え。
「親戚達で手分けして本を処分したものだから、
それぞれがどうなったかは担当した者に訊かねば分からない」。
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:41:18 ID:PP.E5E3sO
( ^ω^)「出版物も手書きの本も、かなりの量だったお。
だから処分を手伝った人間の数も凄まじかった」
全員に本の行方を訊ね終えるのには、何日もかかった。
「作家」の本は一つも金になるものがなかったため、
ある者は捨て、ある者は燃やし、ある者は寄贈したという。
燃やしてしまったものは諦めるしかなかったが、そのかわり、
捨てられたもの、寄贈したものは何としても見付け出そうと内藤は思い立つ。
( ^ω^)「ニュッ君は怒りすぎたあまり無気力になっていたお。
――でも、僕は、本を放置するのが恐ろしかったお」
ζ(゚、゚*ζ「……欲求」
( ^ω^)「そう。表現されたがっている本達が、いつか我慢出来なくなって――
デレちゃん。君のような目に遭う人が出てしまうだろう、と」
寄贈先は聞き出せるだけ聞き出せた。
だが、どうしても――
どこに寄贈したのか思い出せない、なんてものもあった。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:42:29 ID:PP.E5E3sO
( ^ω^)「無責任な奴らだお。……だから、虱潰しに探すしかなかったんだお」
たとえば別の図書館。
たとえば孤児院。
たとえば病院。
祖父が死んでからの7年間、内藤はあちこちを駆けずり回った。
厄介なのは、他県在住の親戚。
彼らは金にならなかった本を持ち帰ったばかりでなく、
興味をそそられぬと分かるや知人に渡したり施設に送り付けたりと、
多くの本を全国にばらけさせたのだ。
( ^ω^)「面倒臭いおねー……」
ξ゚听)ξ「面倒臭いわ」
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:43:20 ID:PP.E5E3sO
ζ(゚、゚*ζ「……じゃあ、私が読んだ本も、内藤さんの親戚が?」
( ^ω^)「あれもねえ……。伯母によれば初めは隣町の図書館に寄贈して、
図書館が近所の学校に寄贈して、
その学校が廃校になって図書館も潰れて……。
で、君の学校に流れてったらしいんだお」
ζ(゚、゚;ζ「めんどくさいですねえ」
( ^ω^)「他のもこんな感じで散り散りになったから、
なかなか見付けるのに苦労するお」
これで、大体のところは分かった。
内藤達がここで暮らしている理由、ここが図書館である理由、本を探している理由。
残る疑問は一つ。
ζ(゚、゚*ζ「あと、気になるのは……」
( ^ω^)「本、のこと」
ζ(゚、゚*ζ「はい」
- 122 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:44:04 ID:PP.E5E3sO
一番の謎だ。
何故、本に命が宿るのか。本が不思議な力を持つのか――
( ^ω^)「ふうむ……」
また、口元を叩く。
眉根を寄せ、目を閉じ、小さく溜め息。
( ^ω^)「……その辺については、またいつか」
ζ(゚、゚*ζ「えー」
( ^ω^)「僕は充分話したお。次は君が僕に協力してくれる番」
冷めた紅茶を一気に飲み干し、内藤は席を立った。
テーブルの周りをぐるりと歩き、ううん、と呻く。
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:45:13 ID:3vjWC/Lc0
- 待ってた支援
- 124 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:45:18 ID:PP.E5E3sO
( ^ω^)「話している内に帰ってくるかと思ったけど……遅いお、ニュッ君」
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさん?」
( ^ω^)「彼が帰ってこないことには、どうにも事が進まんお。
もうバイトは終わってるだろうからそろそろ帰ってくる筈……」
ζ(゚、゚*ζ「バイトしてるんですか。
……内藤さんは何のお仕事をされてるんです?」
( ^ω^)「館長。ただし仮の」
ζ(゚、゚*ζ「収入あるんですか?」
( ^ω^)「祖父ちゃんの遺産がね、凄いの。ほんと。
遺言状あって良かったわー。あれ無かったら僕達のたれ死んでたね」
ζ(゚、゚;ζ
要するに、肩書だけはある無職だ。
( ^ω^)「ぶっちゃけニュッ君が働かなくても余裕で生活出来るんだけど、
何かやってないと、一日中本読んでるからね。あの子」
ξ゚听)ξ「無理矢理にでも本離れする時間を作らせた方がいいかと思ったの」
ζ(゚、゚;ζ「へえ……」
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:46:44 ID:PP.E5E3sO
――ぎい、と扉が鳴った。
3人が一斉に玄関へ目を向ける。
入ってきたのは、案の定、話題になっていた男。
( ^ν^)
ニュッは、デレを見付けると、かくりと首を傾げた。
彼女がここに居るのが予想外だったのだろう。
ζ(゚、゚*ζ(……ほっそいなあ……)
対するデレは、どうでもいいようなことを考えていた。
首やら腕やら、ニュッは全体的に細い。
内藤の話を聞いた後だと、なるほどたしかにインドアな読書家らしく見える。
肌も青白い。
まあ、言ってしまえば末成りである。
( ^ν^)
末成り、もといニュッはようやく動き出した。
ぷいとそっぽを向き、カウンターへ向かう。
- 126 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:47:43 ID:PP.E5E3sO
( ^ω^)「ニュッくーん、『ただいま』はー?」
( ^ν^)
(;^ω^)「こらこら無視しない。
……おかえりお、ちょっとお話があるから、こっちに座ってくれるかお」
( ^"ν^)
あからさまに顔を顰めながらも、ニュッはおとなしくデレの隣に座った。
嫌々、渋々といった感じで。
( ^ν^)「何」
( ^ω^)「とある本の手掛かりを得られたんだお。
タイトルと作者は分かってる。……ストーリーをニュッ君に教えてほしいお」
ζ(゚、゚*ζ「? 作者も分かってるなら、本人に訊けばいいんじゃないですか?」
ξ゚听)ξ「その作者が問題なの。
……作品を書いている間は基本的に部屋から出てこないし、
何より、邪魔されることを嫌うから。
あいつが自ら部屋を出るまでは、なるべく声をかけないようにしてるわ。
怒られたら恐いし」
- 127 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:48:48 ID:PP.E5E3sO
( ^ω^)「というわけだお。お願いだお、ニュッ君」
( ^ν^)「じゃあ作者はあいつか。ってことはジャンルもほぼ決まってんじゃねえか」
( ^ω^)「だお。作者は……」
内藤が、著者名とタイトルを告げる。
一拍置いて、ニュッは簡単なあらすじを語り始めた。
( ^ν^)「主人公は――」
*****
- 128 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:51:24 ID:PP.E5E3sO
「可愛い女の子」には気品がなくてはならない。
活発でありながら、どこかにしおらしさを覗かせる。
それが大事だ。
皆の前ではにこにこと笑って元気に振る舞うが、
1人のときには静かに読書なんぞを嗜む。
何と可憐なことか。
o川*゚ー゚)o
素直キュートは、自身のそんな信条のもと、今も本を開いていた。
時は夕方。駅前の喫茶店、テラス席。
制服姿の彼女は、背筋を伸ばし、良い姿勢で座っている。
テーブルの上には本。完璧。
ちらり、店のガラスを横目で見た。
くりくりとした丸く大きな自分の瞳と目が合う。
そのまま、ガラスに写る己の姿を眺める。
――よし、今日も可愛い。
知らず、唇が笑みの形に変わった。
やはり笑顔も可愛いなと思いながら、何とは無しに顔を上げた。
店の前を通り掛かる男達の多くが、自分に視線を向けているのに気付く。
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:52:51 ID:PP.E5E3sO
o川*゚ー゚)o(もっと見とれてくれていいよ)
ミルクティーを一口。
ふう、と小さく息をつく。
濡れた唇が、一層可愛さを引き立てたことだろう――
素直キュート。
高校1年生。
彼女は自分の美貌に絶対の自信を持つナルシストである。
決して思い上がりではないのが余計に厄介なことこの上ない。
さらに、人前では常に可愛さを磨くための計算を行っている。
たとえ一生に一度しか会わぬような通りすがりが相手でも、
その者に「可愛い」と思われねば気が済まぬ。
こうして喫茶店で読書をしているのも、可憐さをアピールしたいが故。
別に本が好きなわけではない。
体のいいアイテム、程度の認識だ。
- 130 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:54:14 ID:PP.E5E3sO
しかし。
学校の図書室から適当に選んだこの本、案外キュートの趣味に合う。
内容はお決まりな展開の恋愛小説なのだが、
何故だか妙に引き込まれて仕方がない。
気を抜くと、つい猫背になって読み耽ってしまいそうになる。
それでは格好がつかないからと何とか耐えているが。
o川*゚ー゚)o(……どう、どう……さん? 後で調べてみよう)
おかげで作者自身への興味が沸いた。
花柄の表紙に記されているのは、見馴れぬ名前。
「堂々クックル」。
性別どころか顔も年齢も分からぬが、
きっと優雅な人なのだろうとキュートは想像する。
それほど、物語は繊細で、美しかった。
*****
- 131 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:55:58 ID:PP.E5E3sO
ζ(゚、゚*ζ「うーん……」
翌日。放課後。1年A組の教室。
帰宅の準備もしないで席に座っているデレは、
小さなメモ用紙を見ながら、紙パックに入った牛乳を啜った。
メモには、件の本のタイトルと著者名、特徴が書かれている。
表紙は花柄、タイトルなどの文字は紺色。らしい。
今日一日、休み時間を利用して色々な教室や生徒を見て回ったのだが、
それらしき本を持った者はいなかった。
おかげで昼飯も食べられなかったので、朝に買っていたパンと牛乳を
今になってようやく消費しているところだ。
「――えー、私はあんまりそういうのはタイプじゃないなあ」
ふと、前方からよく通る声が聞こえてきた。
放課後ではあるものの、いくつかのグループは未だ教室に残っている。
その声もそんな中の一つから飛んできたものだった。
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:58:06 ID:PP.E5E3sO
廊下側の一番後ろに居るデレに対し、彼女達は窓際の一番前の席に集まっていた。
中心にいる、先程の声の主は――
o川*゚ー゚)o
素直キュート。
学年、ひょっとしたら校内で1、2を争うかもしれない美少女だ。
持ち前の人懐こさも手伝ってか、彼女が学内で1人になったところを見た覚えがない。
人気者になるべくしてなった、と言っても過言ではないだろう。
ζ(゚、゚*ζ(今日も可愛いなあ)
デレは、キュートへ羨望の眼差しを向けた。
頭の先から爪先まで全てが綺麗に整っているし、
明朗な性格故に友達も多い。
羨ましいったらない。
はっきり言って友達が少ないデレ。
それで不便なこともないが、キュートを見ていると、あまりにも楽しそうで。
ζ(゚、゚*ζ(いいなー)
- 133 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 22:58:46 ID:PP.E5E3sO
o川*゚ー゚)o「ごつごつした人は好きじゃないかな。ワイルド系もあんまり……」
どうやら、キュート達は好みの異性について語っているようだった。
そういえば意外にも、キュートに恋人がいるとかいう話を全く聞かないな、と
デレは僅かに興味を示す。
離れた席で、教師から出された数学の課題を解いていた筋肉質な男子生徒が
がくりと肩を落とした。
o川*゚ー゚)o「ん? んー……そうだなあ。
細身で、華奢な感じでね、真っ白な肌してて、
物静かで、読書や映画観賞とかが趣味で……」
つらつらと挙げられていく条件。
それを聞いている内、デレの脳裏にある男が過ぎる。
( ^ν^)
ζ(゚、゚*ζ(細いし肌白いし静かで読書好き……)
o川*゚ー゚)o「で、とっても優しくて美形なの!」
ζ(゚、゚*ζ(はい消えたー)
残念ながらあれは優しくもないし美形でもない。
- 134 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:00:21 ID:PP.E5E3sO
ずず、と下品な音と共に牛乳を飲み干す。
パンの袋と紙パックを折り畳み、近くにあったごみ箱へ投げ入れた。
(*^ω^)「デーレちゃん」
――と、同時に、内藤が教室の後ろ側の入口からひょこりと現れた。
物凄く自然に現れた。
当然のように現れた。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「……何で!?」
(*^ω^)「ここの図書室の司書さんにもう一度話を聞いてみようかなと」
ξ゚听)ξ「ついでに校内を見学したかったんですって。
そしたらデレを見付けたの」
ζ(゚、゚;ζ「どうせ女の子目当てでしょ……」
(*^ω^)「いやいや僕は純粋な好奇心でもって」
ξ゚听)ξ「……デレも一緒に行く? 図書室」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、うん。行く行く」
内藤の右頬のみが赤い。多分女子生徒をナンパしてツンに殴られた跡だ。
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:01:14 ID:PP.E5E3sO
鞄を持ってデレは腰を上げる。
一度教室に振り向き、びくりと身を竦ませた。
――クラスメート達の目が、こちらに向いている。
正確に言えば、
ξ゚听)ξ
ツンに釘づけになっている。
ξ゚听)ξ「デレ、行くわよ」
ζ(゚ー゚;ζ「あ、う、うん」
(#゚ω゚)「おいオスのクソガキ共、僕のツンをじろじろ見んじゃねえ!!」
ζ(-、-;ζ「……内藤さん、さっさと出て下さい」
(#゚ω゚)「ツンたんが汚れるだろうが!! あと女の子は僕を見……て……?」
ぎゃあぎゃあ喚く内藤を押し出そうとする――が、
突然内藤が静かになった。
何事かと彼の顔を見上げてみれば、視線が一点に固定されたまま、
ぽかんと口を開けた間抜けな表情へ変わっている。
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:02:10 ID:PP.E5E3sO
( ^ω^)「……おい……」
ζ(゚、゚;ζ「内藤さん?」
( ^ω^)「おい。おいおいおいおいおい……」
( ^ω^)「何だあれ。うーわ。うーわ。かっわいい。天使か」
ζ(゚、゚;ζ(……ああ、なるほど)
視線を追わずとも、何を見ているか分かった。
キュートだ。
o川;゚ー゚)o「?」
( ^ω^)「本とかどうでもよくなってきたわ。ちゅーしたい」
ζ(゚ー゚#ζ「内、藤、さんっ!」
(;^ω^)「おわっ」
内、で肩を押し、
藤、で腹を押し、
さん、で顔面を押した。
バランスを崩した内藤の襟元をツンが引っ張り、教室の外に放り出す。
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:03:15 ID:PP.E5E3sO
ξ゚听)ξ「お騒がせしました」
ツンが頭を下げると、クラスメート達は、全員こくこくと頷いた。
本当にお騒がせしたな、とか、別に気にしてないよ、とか、
君に見とれすぎて言葉の内容を理解出来ないけどとりあえず頷いておくよ、とか
様々な意味が込められた頷きだった。
*****
- 138 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:07:09 ID:PP.E5E3sO
(;^ω^)「はあ? 今何つった」
(-@∀@)「一度も貸し出された記録が無い、と言いましたよ」
図書室。
まずは誰が本を借りたのか確かめようとアサピーのもとを訪れたのだが、
答えは「分からない」。それだけ。
(-@∀@)「寄贈されたのが2年前。それから今日まで――誰1人、借りていません」
(;^ω^)「……」
内藤が目元を手で覆った。
その後ろで、デレがツンに耳打ちする。
ζ(゚、゚*ζ「私のときみたいに、本が勝手に移動したとか……」
ξ゚听)ξ「かもね。でも、本が移動するのは、『主人公』に選ばれた人のもとだけよ。
選ばれるには、本を手に取らなければならない」
しばらく内藤とアサピーは言い合っていたが、
やがて、これ以上の進展は望めないと見たか、内藤の溜め息により打ち切られた。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:07:45 ID:PP.E5E3sO
(;^ω^)「……持ち主の手掛かり0、ときたかお」
ζ(゚、゚;ζ「でも、あの本を触ったことがある人を当たれば……」
ξ゚听)ξ「どれだけの人間が触れたと思う?
とんでもない数になるわよ」
(;-@∀@)「……何の話?」
*****
- 140 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:10:22 ID:PP.E5E3sO
夜。
とあるマンションの一室。
自室のベッドに転がりながら、キュートは本を読んでいた。
o川*゚ー゚)o「美容のためにも早く寝なきゃ……」
そうは思いつつ、手が、目が、止まらない。
――主人公は、能力にしても容貌にしても不器量な少女。
年頃は17歳。高校生。
家でも学校でも、皆から笑われ馬鹿にされている。
この時点でキュートには共感出来ないのだが、細かく描写される主人公の心情を読み込む内、
彼女を自分の友のように感じ、応援し始めていた。
キュートが惹かれたのはそれだけではない。
主人公に手を差し延べ、優しく接してくれる少年が、キュートの心を奪った。
色白、華奢、物静かで、常に穏やかな笑みを浮かべている。
そして何より眉目秀麗。
キュートにとって、理想の男性像そのもの。
o川*゚ー゚)o「はあ……私も、こんな人と恋したいなー。……っとと」
いい加減に寝なければ。
本を閉じ、キュートは電気を消して毛布を引っ被った。
*****
- 141 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:12:39 ID:I/wIu5EwO
- 来てた! 今から追っかける支援
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:13:25 ID:PP.E5E3sO
ζ(゚、゚;ζ「ぐむむむ……」
――あれから本は一向に見付からないまま、1週間ほどが過ぎた。
学校関係者は、誰も持っていないのではないか。
校内で探すだけ無駄ではないか。
そんな考えも浮かんでくる。
ζ(゚、゚;ζ「どうしたもんかなあ」
お手上げだと、デレは机に伏せた。
ちらと窓際前列の席を見る。
――デレには1人、疑っている者がいた。
ここ数日、空席になっている机がある。
ζ(゚、゚*ζ(……キュートちゃん)
クラスの、いや学年の人気者、
素直キュートの席。
- 143 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:15:03 ID:PP.E5E3sO
最近、彼女の顔を見ていない。
風邪で休んでいるということだが、それにしては長引いている。
二学期中間試験が近付いている時期だ。クラスメートも皆心配していた。
仲の良い友人達が見舞いにも行ったらしい。
しかし、顔を見せず、ドア越しの会話だけで終わってしまったのだとか。
ζ(゚、゚*ζ「……まさか、ねえ」
*****
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:17:05 ID:PP.E5E3sO
かしゃん。南京錠が外れた。
フェンスを引き、中に入る。
かしゃん。南京錠をかける。
ζ(゚、゚*ζ「よしっ」
しっかり鍵がかかったかを確認してから、デレは図書館へ向かう道を進んでいった。
――もしものためにと、内藤が、
フェンスを閉ざす南京錠の合鍵をデレに貸してくれたのだ。
限られた者しか入れない場所を自由に行き来する。
それが、何だか楽しい。
特別な存在になれたようで。
- 145 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:19:41 ID:PP.E5E3sO
ζ(゚、゚*ζ「失礼しまーす」
図書館の扉を開ける。
正直、何か用があるわけでもない。ここはデレにとって居心地が良い。
いつものテーブルで内藤達を待つつもりで、デレはそちらを見た。
――予想外の光景に、口がぽかんと開け放たれる。
( ゚∋゚)
大男が、テーブルに頬杖をついて本を読んでいたのだ。
本当に大きい。
立ち上がったら2メートル近くはあるのではなかろうか。
おまけに筋骨隆々。
首も腕も足も太い。
少しでも身じろぎすれば、腰掛けている椅子が壊れてしまうのではないかとさえ思える。
頬を支える右手や、本のページをめくる左手も
ごつごつとしていて、それだけで凶悪だ。
ζ(゚、゚;ζ「……」
このような人間を、デレはテレビなどでしか見たことがない。
圧倒される存在感。何故だか、拍手したくなった。
- 146 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:20:52 ID:PP.E5E3sO
( ^ν^)「アホ面」
さらには、大男の向かいに末成りが居るものだから
対比により末成りがますます弱々しく見える。
こいつ指先でつついたら折れるんじゃね? デレが半ば本気でそう思うほどに。
ζ(゚、゚#ζ「って誰がアホじゃーい!!」
( ^ν^)「お前しかいないだろ」
ζ(゚、゚#ζ「むぎー!!」
( ゚∋゚)「む? 客か?」
デレが怒鳴り、ニュッがうざったそうに顔を歪める。
そこでようやく、大男はデレに気付いた。
ずしりと響く低い声。
カツアゲでもされようものなら一旦家に帰って全財産引き渡してしまいそうだ。
というより、もしや、「そういう」現場なのではないか?
そうだ。きっとそうだ。
大男は、どこからどう見ても喧嘩なんか出来そうにないニュッを狙ったに違いない。
- 147 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:21:58 ID:PP.E5E3sO
街中でわざとニュッにぶつかり、肩が折れただの何だのと絡み、
おう兄ちゃん慰謝料寄越せやとか言って
ニュッがすいません家にならお金ありますんでとか答えて、
ζ(゚、゚;ζ「……そして大男さんをここに連れてきて、
お金を管理してる内藤さんが帰ってくるのを待っているところ……」
( ^ν^)「馬鹿すぎるから死ね」
( ゚∋゚)「……俺はそんなに第一印象悪いか?」
ぶつぶつと思考をだだ漏れにしているデレに、大男はほんのりショックを受けていた。
呟くと同時に読んでいた本を閉じ、立ち上がる。
ζ(゚、゚;ζ「ぎゃわっ、ご、ごめんなさい! 殺さないで!」
(;゚∋゚)「殺すか。
――もしや、あんた、最近館長が話してる……ええと、
長岡デレか?」
ζ(゚、゚;ζ「は、はい、そうです、ごめんなさい、生きててすみません」
(;゚∋゚)「……危害を加える気はない。
俺は堂々クックル。この図書館に住んでる『作家』だ」
ζ(゚、゚;ζ「へ……」
- 148 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:22:53 ID:PP.E5E3sO
( ゚∋゚)「ほら、チェックは終わったぞ。読め、ニュッ君」
大男はニュッへ本を渡した。
ハードカバー。花柄の表紙。
――堂々クックルという名には覚えがある。
現在、デレが捜索を手伝わされている恋愛小説の作者だ。
本を読み始めたニュッの隣にデレが座る。
テーブルの上に、クックルが運んできた盆が置かれた。
盆に乗っているのは3人分のティーカップと、きらきらと輝く丸型の缶。
ティーカップには湯気を立てるミルクティー、
缶には個別に包装されたチョコレートが入っている。
- 149 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:23:52 ID:PP.E5E3sO
( ゚∋゚)「俺の好みで勝手にミルクティーとチョコにしてしまったが、良かったか」
ζ(゚、゚*ζ「あ、いえ、好きです。ミルクティーもチョコも」
宝石みたいに綺麗な缶に夢中になっていたデレは、
クックルの問いで我に返り、慌てて首を振った。
いただきます、と呟き、チョコレートを一つ手に取る。
薄青色の包装フィルムを剥ぐと、ころり、一口大の真四角なチョコレートが現れた。
ζ(゚ー゚*ζ「ん。美味しい」
すっと溶ける舌触りに、思わず笑顔になる。
ミルクティーを口に含むと、甘みを抑えたそれとチョコレートが混ざり、
何とも言えぬ上品な風味が生まれた。
へにゃりと笑うデレの様子に、それは良かったとクックルが頷く。
しかし、飲食しているのはクックルとデレだけで、
ニュッは本のみに意識を向けていた。
そんなに面白いのかとデレは横から本を覗き込む。
- 150 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:24:35 ID:PP.E5E3sO
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ζ(゚ー゚*ζ「これって印刷?」
( ゚∋゚)「手書きだが」
ζ(゚、゚;ζ「うっそ! 凄い! 綺麗! 印刷されたみtあべしっ!!」
耳元で騒がれるとさすがに欝陶しいのか、ニュッがデレの顔を押しやった。
鼻をもろに圧迫される痛みに、デレの目に涙が滲む。
ζ(>、゚;ζ「いたい」
( ^ν^)「うるさい」
ζ(゚、゚;ζ「……だってー」
――クックルの書く字は、活字と見紛うほどに整然としていた。
表紙も、市販のものと大差ない。
たとえば、貞子の本はタイトルなどが書かれたラベルを貼り付けただけだったが、
クックルの本の表紙には直接タイトルと著者名が彫られている。
これも、クックルが自分でやったのだそうだ。
浅く彫り込んだ文字に濃紺のインクを垂らし、それらしくしたと。
- 151 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:25:44 ID:PP.E5E3sO
ζ(゚ー゚;ζ「わーお……」
見掛けに反し、随分と器用なことだ。
なるほど、こんなに細かい作業をするのなら、執筆に邪魔が入るのをさぞ嫌うだろう。
( ゚∋゚)「ところで」
ζ(゚ー゚*ζ「はい?」
( ゚∋゚)「館長とツンから聞いたが、俺の本を探してるらしいな」
ζ(゚、゚*ζ「そうなんですよ。どこ行っちゃったのやら……」
( ゚∋゚)「……あの話は、少々厄介だ」
ζ(゚、゚*ζ「ん?」
( ゚∋゚)「あんたも知ってると思うが、俺達の本の一部は、表現されたいという欲求を持つ。
普段は暇が出来たときに俺達が演じてやることで抑えているが」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、それ、不思議ですよね――」
- 152 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:26:58 ID:PP.E5E3sO
ふと。
違和感。
ζ(゚、゚*ζ「……一部……?」
( ゚∋゚)「ん?」
ζ(゚、゚*ζ「一部、だけなんですか? 表現されたがる子って」
( ゚∋゚)「そうだが。全部が全部それじゃあ、需要に供給が追いつかない」
ζ(゚、゚*ζ「そうか。そうですよね」
欲求を持つ本は一部だけ。
内藤はそれを言わなかった。あるいは言い忘れた。
それとも、意図的に隠した?
何故だろう。
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:28:18 ID:PP.E5E3sO
ζ(゚、゚*ζ「……」
( ゚∋゚)「……おい?」
ζ(゚、゚*ζ「あ、すみません。どうぞ続きを」
( ゚∋゚)「ああ。そんで――あれの主人公は、……まあはっきり言っちまうと不細工だ」
ζ(゚、゚*ζ「ええ、ニュッさんも言ってました」
( ゚∋゚)「だから、もしかしたら……主人公役に選ばれた女がいたら。
なおかつ、その女が美人だったら」
( ゚∋゚)「そいつは、本に無理矢理顔を変えられちまう恐れがある」
ζ(゚、゚;ζ「……え……」
*****
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:31:01 ID:PP.E5E3sO
さて、次の日。
1年A組に、いつもの賑やかさが戻っていた。
o川*゚□゚)o「いやー、久しぶり! みんな!」
キュートがようやく登校してきたのである。
一応完治はしたらしいのだが、
用心のためか、マスクで鼻から下を覆っていた。
o川*゚□゚)o「なかなかしつこい風邪だったよー」
心なしか声も少し掠れているが、やはり彼女は美しい。
少なくとも、マスクに隠れていない、見える範囲は。
ζ(゚、゚*ζ「……」
デレの脳裏に過ぎるは、昨日のクックルの言葉。
――顔を変えられる。
ζ(-、-;ζ(……まさか。私の考えすぎ……だと思いたい)
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:32:02 ID:PP.E5E3sO
だが。
デレの中で、その疑いは強くなっていく。
数日後のこと。
未だマスクを外さぬキュートが、友人達と話していたときだ。
o川*゚□゚)o「でさー……」
从 ゚∀从「……!」
o川;゚□゚)o「きゃあっ!」
キュートの手が友人の1人の腕に触れた瞬間、
その友人が、キュートを突き飛ばした。
- 156 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:33:26 ID:PP.E5E3sO
がたん、とキュートが机にぶつかる激しい音。
クラス中が静まり返る。
o川;゚□゚)o「いったあ……な、何するの、急に!」
从 ゚∀从「……触んな。気持ち悪い」
o川;゚□゚)o「はあ!?」
周りの友人らが、くすくすと笑い出した。
そして。
从 ゚∀从「うざいんだよ、ブス」
キュートを突き飛ばした友人がそう言い捨てたのを合図に、
彼女達は教室を出ていった。
o川;゚□゚)o「……」
呆然と座り込むキュートに、デレが駆け寄る。
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん、大丈夫?」
o川;゚□゚)o「あ……ありがとう、デレちゃん……」
キュートが立ち上がったことをきっかけに、凍りついていたクラスメート達が動き始めた。
怪我は無いか、平気か、と口々に問いかける。
- 157 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:35:09 ID:PP.E5E3sO
ζ(゚、゚;ζ「……」
思い出す、ニュッから聞いた物語のあらすじ。
その序盤。
主人公はクラスメートからいじめを受けていた――
第二話 続く
- 158 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:38:27 ID:PP.E5E3sO
- 今回の投下終わりです
支援ありがとうございました!
次は土日辺りに投下する予定ですが、
たった今手違いで後編の前半を削除してしまったのでもっと遅くなるかもしれませんファック
- 159 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:40:08 ID:AsIT7X7AO
- 乙
やっぱ面白いわ
- 160 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:48:13 ID:3vjWC/Lc0
- 乙乙
所々でぞくりとする感じが好きだ
- 161 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:49:18 ID:FYn3laSIO
- 乙
次も期待してる
- 162 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:52:20 ID:rjgpi1M6O
- これは面白い
乙
- 163 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/09(水) 23:57:09 ID:I/wIu5EwO
- 好きだ、乙
- 164 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/10(木) 13:01:17 ID:RGxD0Q6I0
- 久方ぶりにいいブーン系に会った
後編も楽しみ
- 165 名前: ◆c9sFVHJv2E:2011/03/12(土) 18:47:07 ID:7YhElytkO
- 一応報告
土日に投下すると宣言してましたが、
地震の影響により停電中&部屋散乱&携帯電話のバッテリーやら何やらも限界っぽいので
今日は無理そうです。ごめんなさい
色々と復旧し落ち着き次第投下させていただきます
皆様の無事をお祈りしています
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/13(日) 05:12:56 ID:rkwvZN6k0
- 落ち着いてからゆっくり投下してくれ
無理するなよ
- 167 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/13(日) 18:21:50 ID:M48noiUw0
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- 168 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/13(日) 18:22:01 ID:M48noiUw0
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- 169 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/13(日) 18:22:12 ID:M48noiUw0
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- 170 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/13(日) 18:22:42 ID:M48noiUw0
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- 172 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 20:57:43 ID:lW506GTg0
- まだかな
- 173 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/17(木) 22:41:48 ID:tLRLzZ8A0
- 期待
- 174 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:24:26 ID:yruERiJ6O
- 第二話後編投下しまっする
- 175 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:25:25 ID:yruERiJ6O
『――あの超絶美少女が主人公に?』
ζ(゚、゚;ζ「多分、ですよ。多分」
家へ帰る道すがら、デレは先日教わった内藤の携帯電話の番号へかけ、
キュートが本に「演じさせられている」恐れがあると伝えた。
本当は放課後にキュートと話したかったのだが、
デレが声をかけようとするより早く、彼女が教室から逃げてしまったために
それは叶わなかった。
内藤は悩ましげな声で、ううんと唸る。
『それは確かめなきゃいけないお。
デレちゃん、僕が明日学校に行くから、君は――ん? 何だおツン……え?』
ζ(゚、゚*ζ「内藤さん?」
『……あー、デレちゃん』
ζ(゚、゚*ζ「はい」
『僕、学校に入れないらしいお』
ζ(゚、゚;ζ「え? どうしてですか?」
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:26:05 ID:yruERiJ6O
『あの、ほら。この間、僕、君の学校に行ったお?』
ζ(゚、゚;ζ「ええ」
『そのときに、僕、ほら、あー、あれ。うん』
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「女の子ナンパしまくったから出入り禁止喰らったんですね」
『ぎくうっ!』
ζ(゚、゚*ζ「ぎく、って自ら声に出しますか、普通」
『……だーから、ね、えっと、デレちゃん……』
ζ(゚、゚*ζ「……大体予想つきました。
私が直接キュートちゃんに確認して、
ビンゴだったらVIP図書館に連れていく。で、いいですね」
『オッケーオッケー、後でご褒美のハグをしてあげるお』
ζ(-、-*ζ「結構でーす」
通話を切る。
はて、どうやってキュートに本のことを訊ねようか。
- 177 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:27:08 ID:yruERiJ6O
第二話 あな美しや、恋愛小説・後編
.
- 178 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:28:07 ID:yruERiJ6O
翌朝。
登校したデレは、教室に入るなり唖然とした。
从 ゚∀从「なーんで学校来るかなー。目障りなんだけどなー」
*(‘‘)*「泣いてるwwwwきもいwwwww」
o川*;□;)o「や、やめて、やめてってばあ!!」
キュートが、友人達――もはや「元」友人達であろう――から、
一方的な暴力を受けているのだ。
クラスメートは皆見向きもしないで、我関せずを貫いている。
傍観者ですらない。
昨日は、突き飛ばされたキュートに大丈夫かと声をかけていたのに。
- 179 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:29:33 ID:yruERiJ6O
ζ(゚、゚;ζ(こんな、急に……)
――唯一デレだけがこの状況に疑問を感じているのは、
「本」の存在を知っていたからだろうか。
何も知らずにいれば、デレも、無関心になっていたかもしれなかった。
ζ(゚、゚;ζ「ちょっと!」
ともかく彼女達を止めようとデレが口を開く。
しかし、デレの声は、同時に鳴った始業のチャイムに掻き消された。
幸い、それが制止の役目を果たしてくれたようで、
キュートから「元」友人達が離れていく。
当のキュートは髪型を整えながら席に着いた。
ぐすりと鼻を啜る音が、辛うじてデレの耳に届いた。
――休み時間になる度、キュートは教室を飛び出した。
また暴力を振るわれるのが嫌だったのだろう。
デレが追いかけるが、向こうも足が速い。
すぐに見失ってしまう。
- 180 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:30:50 ID:yruERiJ6O
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん!」
o川;゚□゚)o「……!」
ようやくキュートを捕まえられたのは、放課後、下駄箱の前だった。
*****
o川*゚□゚)o「――本……?」
並んで歩きながら、デレはキュートに本のことを訊ねた。
びくびくと怯えているキュートの姿を見ていると、気の毒で仕方がなくなってくる。
敵意は無いのだと信じてほしくて、デレは笑みを浮かべた。
ζ(゚ー゚*ζ「うん。花柄の本。作者さんが、クックルさんっていってね……」
o川*゚□゚)o
デレを見つめて、ぱちぱち、瞬き。
それから、「知ってるよ」とキュートが答える。
- 181 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:32:29 ID:yruERiJ6O
o川*゚□゚)o「丁度、読んでるところ」
ζ(゚ー゚*ζ「ほんと?」
o川*゚□゚)o「うん。図書室で借りたもん」
ζ(゚ー゚*ζ「図書室……?」
o川*゚□゚)o「正確には、借りたっていうか……。
借りようと思ったとき、司書さんも図書委員も揃って司書室で仕事してたの。
わざわざ呼ぶのも面倒だったから、こっそり借りてこっそり返そうかと」
ζ(゚ー゚;ζ「ああ……なるほど」
それで貸出記録に何も書かれていなかったわけだ。
「内緒にしてね」とキュートが言うので、デレは苦笑して頷いた。
ζ(゚ー゚*ζ「その本、ちょっと見てみたいな」
o川*゚□゚)o「あー……ごめんね、家に置いてきちゃった」
ζ(゚、゚*ζ「ありゃ。そっか」
o川*゚□゚)o「……」
o川*゚□゚)o「うち、寄ってく?」
*****
- 182 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:35:09 ID:yruERiJ6O
とあるマンションの3階、一室。
素直宅。
o川*゚□゚)o「ただいまー」
ζ(゚ー゚*ζ「お邪魔しまーす」
川 ゚ -゚)「……ん、いらっしゃい。キュートの友達か? 初めて見る顔だ」
ζ(゚ー゚*ζ「はい! 長岡と申します」
川 ゚ -゚)「長岡さん。狭いところだがゆっくりしていってくれ。
今ジュースを持っていこう」
一番奥、キュートの部屋へ行く。
全体的にピンク色。可愛らしい内装、小物。
こてこてな女の子らしい室内に若干の感動を覚えながら、デレは腰を下ろした。
ζ(゚ー゚*ζ「さっきの人、キュートちゃんのお姉さん?
すごく綺麗だった」
o川*゚□゚)o「うん。美人でしょー。とっても優しいの。
……最近、何だか苛々してるみたいだけど……。……あ、これこれ」
キュートがベッドの上から一冊の本を拾い上げた。
どうぞ、とデレに渡す。
- 183 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:36:56 ID:yruERiJ6O
ζ(゚ー゚*ζ(堂々クックル……やっぱり……)
花柄のハードカバー。
紺色のタイトルに、著者、堂々クックル。
やっと見付けた。
o川*゚□゚)o「この本、どうかしたの?」
ζ(゚ー゚*ζ「んー、ちょっとね。
なかなか手に入らない本だからさ、生で触ってみたくて」
ありがとうと言ってキュートに本を返す。
回収したところで、本はまたここへ戻ってきてしまうのだから意味が無い。
ζ(゚ー゚*ζ「……ねえ、キュートちゃん、明日の放課後って暇?」
o川*゚□゚)o「明日? えーと……今のところ予定は入ってないかな」
ζ(゚ー゚*ζ「そっか。じゃあさ、明日、私と一緒に行ってほしいところがあるんだけど――」
図書館に行く約束を取り付ける。
それから2、3時間ほど雑談をして、デレはマンションを後にした。
*****
- 184 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:38:39 ID:0B2iLRGM0
- キテター!
- 185 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:38:40 ID:yruERiJ6O
いつもより早い時間に登校したデレは、席に着いて、内藤と連絡をとった。
キュートが本を持っていたことを話す。
『そうかお、本があったのかお』
ζ(゚、゚*ζ「今日の放課後、図書館に行きますね」
『よろしくおー。さっさと何とかしないと、キュートちゃんとやらが可哀相だおね。
いじめられてしまっているわけだし』
ζ(゚、゚*ζ「そうなんですよね……」
『休み時間とかにはデレちゃんが傍にいてあげたらどうかお』
ζ(゚ー゚*ζ「勿論そのつもりです」
教室に人が増えてきた。
携帯電話を閉じて、ポケットに突っ込む。
キュートが来たら挨拶をしようと思っていたのだが、
結局、彼女が登校したのは遅刻ぎりぎりの時間だった。
*****
- 186 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:39:57 ID:yruERiJ6O
授業もそっちのけで、デレはこれからの予定を立てた。
まず放課後になったらキュートと共にVIP図書館へ行く。
それからのことは……まあ、内藤に任せよう。
ζ(-、-*ζ(うん、そんな感じで)
――予定と言うにはあまりにも大雑把だが、とりあえず満足したらしく
デレは目を閉じ、船を漕ぎ始めた。
いつの間にか休み時間になっていた。
授業の途中から寝続けていたデレは、ある人物の大声で目を覚ます。
「――もうやだあっ!!」
ζ(-、゚;ζ「むおっ!?」
o川*;□;)o
顔を上げると、髪をぐしゃぐしゃにしたキュートが泣きながら教室を出ていくのが見えた。
反射的に窓際前方を注視する。
- 187 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:41:52 ID:yruERiJ6O
从 ゚∀从「あーあ」
キュートの「元」友人達が、にやにや笑っていた。
推測する。多分、デレが寝ている間にいじめが起きた。
そしてキュートが我慢出来なくなって、逃げ出した。
ζ(゚、゚;ζ
席を立つ。
キュートに何か――声を、かけてあげなければ。
キュートを探して校内を走り回る内に、チャイムが鳴った。
もう、彼女は教室に戻っているかもしれない。
だが。
ζ(゚、゚;ζ(まさか……)
嫌な予感がして、デレは昇降口に向かった。
1年A組の下駄箱の前に立つ。
- 188 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:44:28 ID:yruERiJ6O
キュートの出席番号が書かれた場所。
そこにあるのは。
ζ(゚、゚;ζ「……キュートちゃん……!」
上履きのみ。
デレは靴を履き替え、外に駆け出した。
授業をサボることになるだとか、荷物を教室に置きっぱなしだとか、
そんなこと、どうでもいい。
キュートは外に行ってしまった筈。
果たしてどこへ向かったのか。
ζ(゚、゚;ζ(やっぱ家かな!)
マンションを目指しながら携帯電話を取り出す。
発信履歴から内藤の番号へ。
ζ(゚、゚;ζ「……」
――しかし、呼び出し音さえも鳴ることはなかった。
流れてくるのは、現在電波の届かないところに、なんて声。
念のためもう一度かけたが、結果は同じ。
ζ(゚、゚;ζ「何でこんなときにっ!!」
今度はVIP図書館の番号に発信した。
ツンが出てくれるかもしれない。
- 189 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:45:21 ID:yruERiJ6O
二度、三度、コール。
『――はい』
不機嫌そうな声。
ニュッだ。
ζ(゚、゚;ζ「……何だ、ニュッさんか……」
『ざけんな死ね』
ζ(゚、゚;ζ「ああ、待った! 切らないで!
内藤さんかツンちゃんいませんか!?」
『兄ちゃんとツンなら本の手掛かりが見付かったからってどっか行った』
ζ(゚、゚;ζ「本? クックルさんの?」
『それとは別。夕方には帰ってくるっつってたが』
ζ(゚、゚;ζ「夕方……ううーっ、もう、こうなったらニュッさんでいいや!」
『何だその言い草死ね』
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:46:59 ID:yruERiJ6O
ζ(゚、゚;ζ「クックルさんの本を持ってる子がいたんです! 私のクラスメート!
その子、可愛くて人気者だったんですけど、
急にマスクで顔隠したりいじめられるようになったりしてっ」
『主人公にさせられたか』
ζ(゚、゚;ζ「そうみたいです!
……んで、今さっき、その子が泣きながら学校を出ていきまして!」
『……』
不意に、沈黙。
数秒置いて、ニュッの舌打ちが聞こえた。
『家に帰った筈だ』
ζ(゚、゚;ζ「そういう展開になってるんですか?」
『いじめに耐え兼ねて逃亡、帰宅。
それから主人公は――』
ζ(゚、゚;ζ「主人公は!」
『自殺。未遂。
瀕死の重体になって病院へ行き、そこで出会った少年に恋をする』
ζ(゚、゚;ζ「じっ……」
- 191 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:48:39 ID:yruERiJ6O
『ちょっと訊くが、いじめっ子は元から現実にいた奴か?』
ζ(゚、゚;ζ「……質問の意味を測りかねます」
『……お前の事件で言うところの、
「追いかけてくる女」みたいな奴はいないかって訊いてんだ』
ζ(゚、゚;ζ「……」
『切るぞ』
ζ(゚、゚;ζ「だってだって、分かりませんって!」
『……いじめっ子役は、クラスメートが主人公にさせられるより前から
現実に存在してた人間か?
それとも、あの幽霊女みたいにいきなり現れたのか?』
ζ(゚、゚;ζ「……そういうことなら……、いじめっ子もクラスメートの人達でした!
半年間同じ教室で一緒に授業受けてきたクラスメートです!」
- 192 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:49:40 ID:yruERiJ6O
『そうか。じゃあまだ「役者」が間に合ってんだな。
何とかするなら今の内か』
ζ(゚、゚;ζ「話が見えません!」
『説明めんどくせえ』
ζ(゚、゚;ζ「ここまで来て!?」
『本に無理矢理表現させられる場合。
・基本的には現実世界に存在する人間や生き物を「役者」とし、演じさせている。
・だが、たまに、それだけじゃ間に合わなくなるときがある。
・そんなとき、本は自ら物語の中から登場人物を現実に送り出す』
ζ(゚、゚;ζ「め、面倒だからって3行でまとめてきやがった!
しかもやっぱりよく分かんない!」
『役者が揃ってるときはまだ「演劇」の範囲内でいられるが、
前回のように登場人物が現実にやって来てしまった場合、
本の世界と現実がごっちゃになっちまう』
ζ(゚、゚;ζ
『……少しは自分で考えろ』
ζ(゚、゚;ζ「ご無体な」
- 193 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:51:00 ID:yruERiJ6O
――デレのときのように、とニュッは言う。
あの不気味な女は、物語の中から出てきた存在だった。らしい。
きっと、現実で演じられる者がいなかったのだ。
(たしかに考えてみれば、他人からは不可視、
かつ仕事を終えたら消滅出来る人間なんて存在しない)
そして、それにより本の世界と現実が混ざってしまったそうだ。
……そもそも混ざるとはどういう意味なのか。
混ざる。
以前、ツンも言っていた。
ζ(゚、゚;ζ「……本の中の展開が、現実でもその通りに行われなければならなくなる……?」
『そう』
あのとき。
貞子が結末を書き加えなかったら――デレは、展開通り、殺されていた。
ζ(゚、゚;ζ「じゃあ、私の、あれって……現実に女役をやれる人がいたなら」
『役者がいたら、あくまで「演劇」の域を出なかったからな。
殺される演技をするだけで済んでたんだ』
- 194 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:53:26 ID:yruERiJ6O
ζ(゚、゚;ζ「でも役者がいなかった。だから本から女が出てきた。
……本と現実が混ざったから、私は本当に殺されそうになった……?」
『理解が遅い死ね』
ζ(゚、゚;ζ「すいませんね頭悪くて。
でもニュッさんの説明も分かりづらいですからね?」
現在、キュートの周りに架空の存在は現れていない、筈。
まだ「演劇」の範疇。
だが、今にでも本の中から登場人物がやって来たら、
演劇は現実の出来事へと変わってしまう。
『あの話、途中、いじめっ子が事故に遭うシーンがあるんだ』
ζ(゚、゚;ζ「マジか」
『現実と混ざる前に、演劇としてさっさと終わらせた方がいい』
ζ(゚、゚;ζ「わ、分かりました!」
『……えー、っと。……とりあえず俺とクックルも行く。
俺らで演じて終わらせる』
ζ(゚、゚;ζ「是非ともそうしましょう」
- 195 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:54:26 ID:yruERiJ6O
『その主人公の家はどこだ』
ζ(゚、゚;ζ「はい! えっと、」
デレの足が。
止まる。
ζ(゚、゚;ζ
『おい』
ζ(゚、゚;ζ「すみません」
『あ?』
ζ(゚、゚;ζ「迷いました」
『死ね』
*****
- 196 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:56:20 ID:yruERiJ6O
o川*;□;)o
自室の真ん中に座り込んで、キュートはひたすら泣いていた。
どうして自分がこんな目に遭っているのか。
どうしていじめられなくてはいけないのか。
ああ。
いっそ死んでしまいたい。
キュートはマスクを外し、鏡を見た。
はっと息を飲み、顔を両手で覆う。
o川* )o「……酷くなってる……」
絶望。焦燥。
ふと机に目を向ける。
きらり、明かりを反射したもの――カッターナイフを手に取り、
キュートはじっと固まった。
- 197 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/18(金) 23:59:44 ID:yruERiJ6O
o川* )o
死んでしまいたい――
*****
ニュッの話を理解するのに必死で、すっかり迷ってしまった。
見覚えのない建物が並んでいる。
ζ(゚ー゚;ζ「え、えへっ☆ デレちゃん失敗☆」
『何も誤魔化せてねえよ阿呆』
ζ(゚、゚;ζ「ごめんなさい……ええと、あの子、マンションに住んでました。
あれ、あの、んっと、見た目茶色くて……」
『ヴィプマンション』
ζ(゚、゚;ζ「そうそうそれそれ! そこの302号室!」
- 198 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:01:28 ID:ZKOT5IPkO
『今、お前の近くに何がある』
ζ(゚、゚;ζ「し……シベリア書店? 小さいお店。
本屋さんでしょうか。でしょうね。向かって右側に」
『ああ……そう。じゃあ真っ直ぐ行って、突き当たりを左。そっから――』
ニュッの言う道順を頭に叩き込み、デレは再び足を動かした。
先日の事件のおかげで、多少足腰も鍛えられている。
少し行くと、見慣れた道に出た。
ζ(゚ー゚;ζ「ここからなら分かります!」
『んじゃあ俺らもそっち行く』
ぷつん。通話が切れる。
そういえば、こんなに長くニュッと会話したのは初めてだ。
ζ(゚、゚*ζ
意識した途端、さっきまでニュッの声が注ぎ込まれ続けていた左耳が、
何だか無性に気になり出す。
不可解な熱を持ち始めた耳を、ぐいと力を込めて押さえた。
*****
- 199 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:02:36 ID:ZKOT5IPkO
茶色い建物。
ヴィプマンション。
デレはマンションに入ると、右奥の階段を駆け登った。
エレベーターを待つのも惜しい。
キュートが住んでいるのは302号室。
3階に到着する。
足が縺れそうになったが、気合いで踏み込み、何とか体勢を直した。
ラストスパートだ。
302号室の前まで走り、伸ばした手がインターホンに触れ――
川 ゚ -゚)「よいしょ」
ζ(+д+;ζ「あんぎゃあ!!」
――る寸前。
開いたドアに、顔面を強かに打ちつけた。
- 200 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:03:49 ID:ZKOT5IPkO
川;゚ -゚)「うわ、何だ何だ?」
ζ(;、;*ζ
川 ゚ -゚)「おっと、君はたしか……長岡さんだっけか。すまない」
ζ(ぅ、;*ζ「ひゃい……」
川 ゚ -゚)「キュートに用か? 上がっていくかい」
ζ(゚、゚;ζ「! じゃあ、キュートちゃんいるんですね!」
川 ゚ -゚)「ああ。今日は、もう学校が終わったんだろう?
羨ましいな、私は今から大学だ」
ζ(゚、゚;ζ「え……っと、はい、まあそういうことです」
川 ゚ -゚)「本当は今日は午後からだけどな。
あいつが帰ってきてしまったから、もう出ることにしたよ」
ζ(゚、゚;ζ「――はい?」
川 ゚ -゚)「一緒にいたくないんだ、あいつと」
ζ(゚、゚;ζ「……お姉さん……?」
- 201 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:06:16 ID:ZKOT5IPkO
川 ゚ -゚)「あれと仲良くするなんて、君も物好きだな。気持ち悪くならないのか?」
ζ(゚、゚;ζ「なっ、何言って……!」
はたと思い当たって、デレは自分の口を手で塞いだ。
たしか、主人公は家族からも馬鹿にされている。
これは本の仕業だ。
川 ゚ -゚)「それじゃあ行ってくる」
ζ(゚、゚;ζ「は、はい……行ってらっしゃいませ」
キュートの姉がエレベーターへ歩いていく。
その背中を見送った後、デレはすぐに室内に飛び込んだ。
お邪魔します、と大声で言って、靴を放るように脱ぎ捨てる。
誰の返事も無い。どうやら今はキュートしかいないようだ。
両親が共働きなのか、あるいは姉と2人暮らしなのか。
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん!」
キュートの部屋がある奥へと進む。
かたん、物音。
ζ(゚、゚;ζ「いるんでしょ、キュートちゃん!」
- 202 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:07:53 ID:ZKOT5IPkO
「……デレちゃん……?」
ζ(゚、゚;ζ(良かった、無事っぽい)
「キュート」と書かれた可愛らしい札が下がったドア。
ノブを引いてみたが、びくりともしない。
こんこんと、軽くノックをする。
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃん、開けて」
「……やだ……」
ζ(゚、゚;ζ「どうして?」
「……帰って」
ζ(゚、゚;ζ「ねえ――」
「帰って!!」
ζ(゚、゚;ζ「!」
向こう側から、重たいものがドアにぶつかる音と衝撃が響いた。
何かを投げつけたのだろう。
- 203 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:08:36 ID:ZKOT5IPkO
「帰ってってばあ!!」
震える声。泣いている?
ζ(゚、゚;ζ「……」
ζ(゚、゚;ζ「私が、帰ったら」
ζ(゚、゚;ζ「……何をするつもり?」
キュートが黙り込む。
ぞくり、デレの背筋に冷たいものが走った。
離れては駄目だ。
デレがここから去ったら、きっとキュートは――
ζ(゚、゚;ζ「――キュートちゃんったら。出てきて。ドア開けてよ」
「絶対開けない……」
ζ(゚、゚;ζ「……」
「……」
ζ(゚、゚;ζ「開けて……大丈夫、何も恐いことないから」
- 204 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:10:24 ID:ZKOT5IPkO
「――顔……」
ζ(゚、゚;ζ「顔?」
「顔が、ひどい、の」
「最近はマスクで隠してたけど……わ、私の顔……な、何か、変なの……」
「急におかしくなったの。何で? ちょっと夜更かししただけなのに。
何で、こんな……!」
ζ(゚、゚;ζ「それは……」
「何でこうなっちゃったの!?
私の顔! あんなに可愛かった顔!!」
ζ(゚、゚;ζ
「綺麗で、肌もすべすべしてたのに! とってもとっても可愛かったのに!
一番、……誰よりも可愛かったのに!
こんなに変わっちゃったら、私、私……やだ、嫌ぁっ!!」
ζ(゚、゚;ζ(本性出とるでえ……)
「……だ、だから、みんな、私をいじめるんだ……。
デレちゃんだってそうなんでしょ!?」
ζ(゚、゚;ζ「え?」
- 205 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:12:33 ID:ZKOT5IPkO
「私が、ぶ……ぶ、ブスになったから、馬鹿にしてるんでしょ!?
私を笑いに来たんだ! 帰れ! 帰れえっ!!」
ζ(゚、゚;ζ「ち、違……っ」
「ああ、やだあ、やだ、やだ、もうやだ……」
数秒の静寂。
そして、
キュートの呟きが、零れた。
「……死にたい……」
ζ(゚、゚;ζ「――!」
絞り出すような声だった。
デレの胸が、鋭い何かで突き刺されたような痛みを訴える。
キュートの言葉が。声が。
あまりに悲痛で。
- 206 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:13:55 ID:ZKOT5IPkO
死なせてやった方がいいかもしれないなと、デレは目を伏せた。
そうだ、帰ろう。
自分には何も出来ない。
全てキュートの好きにさせてやろう。
きっとそれが、一番いい。
ζ( 、 *ζ
「なら死ね」
――声が、デレの耳に捩込まれた。
ζ(゚、゚;ζ「ふえっ!?」
( ^ν^)「……と、……言いたい、ところだが……」
( ゚∋゚)「それは、今は洒落にならないな」
- 207 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:16:31 ID:ZKOT5IPkO
気付かぬ内に、ニュッとクックルがデレの後ろに立っていた。
平常通りのクックルに対し、ニュッは肩で息をしている。
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん、クックルさん……随分と、お速い到着で」
( ^ν^)「……タクシー、使った……」
( ゚∋゚)「こいつ階段上っただけで疲れてるんだ」
ζ(゚、゚;ζ(貧弱ー)
ζ(゚、゚;ζ「……って何で部屋まで分かったんですか?」
( ^ν^)「てめえが電話で302号室っつったんだろボケカス」
( ゚∋゚)「鍵が開いてたから勝手に上がったぞ。
……それで、主人公は、この部屋の中か」
とん。
クックルの大きな手が、ドアを叩く。
「……誰……?」
キュートの声は怯えきっていた。
全く知らぬ男の声が2人分も聞こえれば恐がりもしよう。
- 208 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:19:00 ID:ZKOT5IPkO
デレはキュートに話しかけるつもりで口を開いた。
だが、結局言葉は紡がれずに終わる。
ζ(゚、゚;ζ(……私、さっき……)
考えるのは、つい先程の自分の思考。
何故キュートを死なせてやろうなどと思ったのだ。
そんなこと、あってはならないのに。
ζ(゚、゚;ζ
ぞっとする。
恐らく、あれも本がやったこと。
デレがいては、キュートの自殺――未遂――が止められるかもしれない。
それを防ぐため、デレを帰らせようとした。
ニュッ達が来なければ、今頃デレは部屋を離れていて、キュートは。
- 209 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:19:47 ID:ZKOT5IPkO
( ゚∋゚)「おーい、開けてくれ」
「で、デレちゃん、誰なの? 誰が来たの!?」
ζ(゚、゚;ζ「えっ、あ、いや、私の知り合い」
「……私を、いじめに来たの?」
ζ(゚、゚;ζ「! そ、そんなことない!」
( ゚∋゚)「寧ろ助けに来たんだが」
「嘘つき……」
( ^ν^)「……状況は」
ζ(゚、゚;ζ「えっと……顔が変わっちゃったって、閉じこもってて……死にたいとか何とか」
( ゚∋゚)「……死ぬとかは一旦置いといて、ちょっと俺らを部屋に入れてくれないか」
「やだ……」
( ゚∋゚)「やだじゃない」
「やだってばあ! ……こんな顔、人に見せらんない……」
- 210 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:21:42 ID:ZKOT5IPkO
( ゚∋゚)「それをどうにかしてやるから――」
「どうにかって何!? あんた、外科医か何かなわけ!?
整形でもしてくれるつもりなの!?」
( ゚∋゚)「そうじゃないが、治すことは出来る」
「……あははっ、馬鹿じゃないの。意味分かんない。からかいに来たの?」
( ゚∋゚)「……開けろ」
「やだって言ってるでしょ!!」
(#゚∋゚)「開けろって言ってるだろう!!」
怒鳴り声。
とんでもない迫力だ。
思わず、デレはニュッに縋りつく。
「っ……」
(#゚∋゚)「詳しくは説明出来ないが、俺達なら治せるんだ!
……信じるにしろ信じないにしろ、ここを開けなきゃ始まらないだろうが!」
- 211 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:23:11 ID:ZKOT5IPkO
「そうやって開けさせて、私を見たら笑うんだ!!」
(#゚∋゚)「笑うものか!」
「笑うに決まってる!!」
(#゚∋゚)「――っ、いいか、聞け!」
ζ(゚、゚;ζ(恐い恐い恐い)
( ^ν^)(帰って本読みてえ)
(#゚∋゚)「お前がそうなってる原因は、俺だ!!」
「……は……?」
(#゚∋゚)「だから俺は対処法を知ってる! 少し時間がありゃ、すぐ治るんだよ!!」
「……分かんない、……分かんない!」
ちきちき。甲高い音。
まるで、カッターの刃を出すような。
ζ(゚、゚;ζ「……!」
(#゚∋゚)「分からなくていい、俺に任せろ」
「治らなかったらどうするって言うのよ!
私、あんたなんか信用しないからね! 絶対――」
- 212 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:25:05 ID:ZKOT5IPkO
(#゚∋゚)「ああ、万が一治らなかったら!!」
クックルが、一歩引いた。
――それからの一瞬が、デレにはスローモーションに見えた。
クックルが左足で踏み締める。
右足を曲げ、持ち上げて。
僅かに上体を後ろに反らせ。
(#゚∋゚)「俺が責任とってやらぁああああああああああ!!」
ドアを、蹴破った。
ζ(゚、゚;ζ「人様の家ぇええええええ!!」
( ^ν^)「修理代は兄ちゃんが出すだろ」
- 213 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:28:09 ID:ZKOT5IPkO
本来の居場所から強引に弾き出されたドアは、
勢いをそのままに、室内に倒れ込んだ。
それを踏み越えてクックルが部屋へ入る。
よく見ると土足だ。
何からつっこめばいいのやら。デレは考えるのをやめた。
( ゚∋゚)「おい」
o川 )o
キュートは、部屋の隅で丸まっていた。
傍らにカッターと鏡が落ちていたが、血などは付いていない。
( ゚∋゚)「こっち向け」
デレ達には背を向けているため、キュートの顔が見えないでいる。
クックルの声に、キュートは首を緩く振った。
- 214 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:29:06 ID:ZKOT5IPkO
o川 )o「……やだ……」
( ゚∋゚)「向かい合って、ちゃんと演じないと終わらせられないんだ」
o川 )o「演じるって何……」
( ゚∋゚)「……まあそれはともかく。
なあ、絶対に笑わないから、顔を見せてくれ」
o川 )o「……」
( ゚∋゚)「おーい」
o川 )o「こんなの、見せらんない……」
( ゚∋゚)「大丈夫だ」
o川 )o「大丈夫じゃないもん」
( ゚∋゚)「……」
深い溜め息をついて、クックルはキュートの肩に手を置いた。
無理矢理振り向かせるためではなく、宥めるために。
- 215 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:30:55 ID:ZKOT5IPkO
( ゚∋゚)「一時の恥だ。……そもそも俺はお前の元の顔を知らない。
比較も出来ない」
o川 )o
( ゚∋゚)「な」
ぽん、と、肩に乗せたのとは逆の手でキュートの頭を軽く叩いた。
彼の手なら、キュートの小さな頭ぐらい簡単に掴んで持ち上げられそうだ。
o川 )o
ふるり。キュートの肩が震える。
ぐすり。鼻を啜る。
ζ(゚、゚;ζ
こんなに嫌がるとは、どれだけ顔が変わってしまっているのだろう。
見るのが恐い。
だが、デレは目を離せなかった。
そして――キュートが、ゆっくりと振り返る。
- 216 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:32:42 ID:ZKOT5IPkO
o川*;−;)o「ひーん……」
あらわになったキュートの顔。
真っ白ですべすべだった頬に、そばかすが出来ていた。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「え、それだけ?」
それだけである。
- 217 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:34:45 ID:ZKOT5IPkO
o川*;−;)o「『それだけ』? 『それだけ』って何さ!」
ζ(゚、゚;ζ「いやー、だって……あんなに頑なだったから、
もっと、こう、酷いもんだと」
o川*;−;)o「酷いじゃない! あんなに真っ白だったのに!!
それにほら、ここにはニキビまで!
あああ! 肌も触ればがさがさするし!」
ζ(゚、゚;ζ「言われないと気付かないレベルだけど」
o川*;−;)o「私の顔には可愛い眉と可愛い目と可愛い鼻と可愛い口が付いてればいいの!
肌荒れや吹き出物やそばかすなんていらないのおおお!!」
突っ伏して、おいおいと号泣する。
こんなときに何と言えば正解なのか、デレにはさっぱりだ。
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん何か言ってあげて」
( ^ν^)「うんこしてえ」
o川*;−;)o「部屋出て左側がトイレじゃボケェエエエ!!」
こいつ頭おかしいんじゃねえのかとデレは本気で思った。今更である。
ニュッはおとなしくトイレに向かった。
本当にうんこがしたかったのか、慰めるのが面倒だったのかは定かでない。
高確率で後者だろうが。
- 218 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:36:21 ID:ZKOT5IPkO
部屋に残ったのは、依然として泣きじゃくるキュート、おろおろするデレ、
無言でキュートを見下ろすクックルの3人。
不意に、クックルが動いた。
( ゚∋゚)「おい」
o川*;−;)o「……何……」
( ゚∋゚)「本を出せ。今からお前の顔を元に戻してやる」
o川*;−;)o「本?」
( ゚∋゚)「俺の――堂々クックルの本だよ」
o川*;−;)o
o川*;−;)o「え」
キュートはぐしぐしと目元を擦り、涙を拭い取った。
クリアになった視界でクックルを見る。
顔、体、顔、体、と交互に眺めて。
がくり、顎が下がった。
o川;゚д゚)o「ええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
( ^ν^)「うるせえ」
ζ(゚、゚;ζ「あ、ニュッさん。早いですね。快便でしたか」
- 219 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:38:05 ID:ZKOT5IPkO
丁度戻ってきたニュッが、文句を言いながらデレの傍に寄る。
そして、
( ^ν^) ゴシゴシ
ζ(゚、゚*ζ
洗いたての濡れた手を、デレのスカートで拭った。
ζ(゚д゚;ζ「ぎゃああああああああ何してんだお前!!」
o川;゚д゚)o「えええええええええええあんたが堂々クックル!?
あの小説の!? 恋愛小説の!?」
( ^ν^)「喉渇いた何か飲みてえ」
o川;゚д゚)o「部屋出て真っすぐ行って右側がリビングじゃあああ!
冷蔵庫に入ってるジュース勝手に飲めボケェエエエエエエ!!」
ζ(゚д゚;ζ「私のスカートで手を拭くな! あと空気読め! 遠慮しろ!!」
ニュッが振り返り、リビングへ歩いていく。
1人でうろちょろさせるのもどうかと思い、デレは彼の後を追った。
- 220 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:38:59 ID:ZKOT5IPkO
リビングに入る。
ニュッは部屋の中央にあったソファに腰掛けると、ぐったり、背もたれに寄りかかった。
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん?」
飲み物はいらないのかとデレが訊ねるが、返答無し。
もはや無視されるのも慣れてきた。
失礼しますと呟き、デレはニュッの隣に腰を下ろした。
ζ(゚、゚;ζ「どうしたんですか、さっきから。何かそわそわして」
(^ν^ )「……」ハァ
ζ(゚、゚#ζ
顔を背け、露骨に溜め息。
殴ってやろうかとデレは拳を固めたが、さすがにそれは駄目だ。
ぺちん。拳をニュッの頬に軽く当てるだけに留めた。
ニュッがデレを睨みつける。
――そっと、デレの手にニュッが掌を重ねた。
デレの心臓が、どくんと跳ねる。
- 221 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:40:46 ID:ZKOT5IPkO
( ^ν^)
ζ(゚、゚*ζ
( ^ν^) グリン
ζ(゚д゚;ζ「あっ痛い痛い痛い痛い痛い痛いごめんなさい!!」
思いっきり捻り上げられた。
解放された手首を擦りながら、デレは狭いソファの上、
目一杯ニュッと距離をとる。
ζ(゚、゚;ζ「いったー……」
( ^ν^)「……帰りてえ」
ζ(゚、゚;ζ「……駄目ですよ。今から『演じる』んでしょう?」
( ^ν^)「だから帰りたい」
ζ(゚、゚;ζ「面倒なんですか? もう……」
――いや、それが嫌だったなら、そもそもここまで来ない。
デレは首を傾げた。
トイレに行きたいだの喉が渇いただの帰りたいだの、
思えば急に落ち着きがなくなったものだ。
ζ(゚、゚;ζ(この人は本当に分かんない……)
- 222 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:42:07 ID:ZKOT5IPkO
同時刻。キュートの部屋。
キュートはクックルを指差したまま、ぱくぱくと口を開閉した。
( ゚∋゚)「それはどういったリアクションだ」
o川;゚д゚)o「く、クックル……? あんな繊細なお話を書いたのが、あんたなの……?」
( ゚∋゚)「そうだが」
o川;゚д゚)o「あんな綺麗な話を! ゴリマッチョなあんたが!?」
( ゚∋゚)「ゴリマッチョがロマンチストで何が悪い」
o川;゚−゚)o「悪い! ああ、崩れる、私の中の優雅なクックル先生像が崩れてく……」
( ゚∋゚)「……ともかく、だ。本を貸してくれ」
o川;゚−゚)o「うう……ごついよー、大きいよー」
本棚から花柄の本を引っ張り出しながらぼやくキュートを尻目に、
クックルは物語の内容を反芻した。
登場人物を数え、指を折る。
たった4人で演じるとなると、1人何役とやらなければならないが
まあ何とかなるだろう。
- 223 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:44:39 ID:ZKOT5IPkO
o川;゚−゚)o「はい」
( ゚∋゚)「ああ」
本が手渡される。
これと私の顔に何の関係があるの、と問うキュートに、
分からなくていい、とクックルは投げやりに答えた。
キュートが頬を膨らませる。
o川#゚−゚)o「さっきから、さっぱり分かんない」
( ゚∋゚)「日常ってのは、知らないことが多いほど平和なもんさ」
ニュッとデレを呼びに行くため立ち上がったクックルは、
ドア――があった場所――の前で足を止めた。
後ろ、キュートに振り向く。
( ゚∋゚)「そういや」
o川#゚−゚)o「何よ?」
- 224 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:46:36 ID:ZKOT5IPkO
( ゚∋゚)「お前、その顔でも充分可愛いぞ」
o川*゚−゚)o
o川*゚−゚)o「ば」
( ゚∋゚)「ん?」
o川*゚−゚)o「……馬鹿じゃないの」
ブスだと友人達にいじめられた。
クラスメート達にひそひそと陰口を叩かれた。
気持ちが悪い、家にいられると不愉快だと姉に罵られた。
o川*゚−;)o
o川*;−;)o
久しぶりに。
可愛いと、赤の他人に言ってもらえた。
*****
- 225 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:47:36 ID:ZKOT5IPkO
早口かつ棒読みの台詞が飛び交う、だいぶ雑な「演劇」が終了すると、
キュートの顔はたちまち元通りとなった。
直後、キュートの携帯電話にメールや電話が届く。
姉や友人達からのもので、内容は謝罪ばかり。
誰もが、「何故か苛々していた」と言っていた。
気味悪がることもなく、魔法なのかと目を輝かせたキュートに一応の口止めをして
デレ達は素直家を後にした。
ぶち壊したドアの修理代に関しては、ここに請求しろと内藤の番号を教えておいて。
日が暮れかけている。
気温は少しばかり低い。
3人は、マンションの前でタクシーを待っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「良かったですね、無事に本を回収出来て。
……こう言っては何ですが、
あんな低クオリティな劇で、よく本が満足しましたね」
( ゚∋゚)「いつもこんな感じだ。表現さえしてもらえればそれでいいんだろうさ。
……ああ、後で館長に怒られるだろうな、ドアのこと」
- 226 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:48:21 ID:ZKOT5IPkO
片手に持った本を見下ろし、クックルが溜め息をつく。
だが、あのとき彼がドアを壊さなければ、
キュートはいずれカッターで手首を切りつけていた。
ああするしかなかったのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「クックルさんは人助けをしたんだし、ポジティブに考えましょうよ」
ζ(゚ー゚*ζ「……ところで」
( ^ν^)「……」
クックルの隣。怠そうにしゃがみ込んでいるニュッに視線を送り、
デレは首を傾げた。
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさんどうしたんです」
先程から、ニュッの様子がおかしい。
いつもおかしいと言えばおかしいのだが、今日は特に変だ。
「演劇」を終えた際も、いの一番に小走りでキュートの部屋を出ていたし。
まるで逃げるように。
( ゚∋゚)「ああ、それな。それもいつも通りだ」
ζ(゚、゚*ζ「ですか?」
- 227 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:49:47 ID:ZKOT5IPkO
( ゚∋゚)「女が苦手なんだよ。特に美人さんが。
あの……キュートっつったか。かなり可愛かったろ」
デレが、きょとんとする。
クックルとニュッ、マンションを順に見渡し――
ζ(゚ー゚*ζ「ぶふっ」
吹き出した。
( ^ν^)「2人共死ね」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、そういう……だからトイレとかリビングとかに逃げたんですね」
「演劇」で、ニュッは美少年役を任された。
一体どんな心境で臨んでいたのかと考えると、おかしくてたまらなくなってくる。
何より、弱点らしきものを見付けられたのが嬉しい。
ζ(゚ー゚*ζ「……w」
ζ(゚ー゚*ζ「wwwww」
ζ(;ー;*ζ「www内藤さんはwwwwwwww女の子好きなのにwwwww
ニュッさんwwwwwwwwwwニュッwwwwさんwwwwwwwwwww」
(;゚∋゚)(笑いすぎだろ)
- 228 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:53:19 ID:ZKOT5IPkO
ζ(;ー;*ζ「wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
ζ(゚、゚*ζ「おいちょっと待て」
(;゚∋゚)「うわびっくりした」
ζ(゚、゚*ζ「私と初対面のときなんか最初はたしかに避けられましたけどね?
ほんの数時間後にはこんな調子でしたよ?
口つけた紅茶飲まれもしましたよ?」
( ゚∋゚)「へえ、珍しいな」
ζ(゚、゚*ζ「これってどういう意味ですか」
( ^ν^)「可愛くねえってことだよ言わせんな愚かしい」
ζ(゚、゚#ζ「な、内藤さんいわく私美少女ですしおすし」
( ^ν^)「兄ちゃんは大体誰にでもそう言うんだよバーカ」
ζ(゚皿゚#ζ「むがー!!」
デレがニュッに掴みかかる。
ぎゃあぎゃあと取っ組み合いの喧嘩を始めた2人を眺めながら、
クックルは呆れたように笑った。
( ゚∋゚)「仲良いな」
( ^ν^)「どこが」ζ(゚皿゚#ζ
- 229 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:55:14 ID:ZKOT5IPkO
*****
次の日、夕方。
o川*゚−゚)o「ん」
( ゚∋゚)「……何だ、これ?」
ζ(゚ー゚*ζ「チョコレートですよ」
キュートを引き連れて、デレはVIP図書館を訪れた。
事前にデレが図書館に電話をかけ、クックルに用事がある旨を伝えていたのだが、
クックルはてっきりデレから自分に話があるのだと思い込んでいた。
しかし出迎えてみれば、本当に用があったのはキュート。
何でも、昨日のことについて礼がしたかったのだという。
o川*゚−゚)o「……デレちゃんから、あなた、チョコが好きだって聞いたから。
さっき、駅前のお菓子屋さんで買ってきたの」
ζ(゚ー゚*ζ「美味しいって評判のやつですって」
( ゚∋゚)「そうか。ありがとうな」
- 230 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:56:19 ID:ZKOT5IPkO
上がっていけとクックルが招く。
キュートは少し躊躇っていたが、デレが意気揚々とクックルについていくので
恐々、足を踏み入れた。
(*^ω^)
にこにこ笑いながら、内藤は向かいに座るキュートを眺め回した。
何度も可愛い可愛いと呟いては、隣のツンに殴られている。
テーブルを囲むのは、デレ、キュート、内藤、ツン、クックルの5人。
クックルが入れたミルクティーと、キュートの持参したチョコレートが今日のお供だ。
ξ゚听)ξ「いじめの方は、どうなったの?」
o川*゚ー゚)o「何か、みんなに土下座されました。
本当に反省してるみたいだったし、許しましたよ」
- 231 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:57:42 ID:ZKOT5IPkO
ξ゚听)ξ「そう。良かったわね。部屋のドアは?」
o川*゚ー゚)o「今日のお昼に直しに来てもらうことになってたから……もう直ってるかな」
(*^ω^)「こんな子の部屋のドアなら、いくらでも修理費用出してあげるおー」
o川*゚ー゚)o「ありがとうございますっ!」
(*∩ω∩)「あっ可愛い! 可愛すぎて目が! あまりの可愛さに目が潰れちゃう!」
ξ゚听)ξ「潰れちゃえばいいのに」
(*^ω^)「んっふふ、勿論一番可愛いのはツンたんだお。
だからヤキモチなんか妬かないで」
ξ゚听)ξ「気持ち悪い」
( ^ω^)「シンプルな罵倒はなかなか心にくる」
- 232 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 00:59:14 ID:ZKOT5IPkO
ζ(゚、゚*ζ「……クックルさん、ニュッさんは?」
( ゚∋゚)「こいつ見た瞬間に2階に逃げた」
o川#゚д゚)o「『こいつ』呼ばわりするな!」
( ゚∋゚)「じゃあキュート」
o川#゚д゚)o「キュッ……」
o川*゚−゚)o
o川;*゚−゚)o
頬を真っ赤にし、唇を噛み締めて、キュートはそっぽを向いた。
口の中で「馴れ馴れしい」と呟いたが、クックルには到底聞こえぬ小ささ。
呼ぶのをやめろとは言わない。
その様子に、もしや、とデレは乙女の勘を発揮する。
というか乙女でなくとも誰でも分かる。
- 233 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 01:01:02 ID:ZKOT5IPkO
( ;ω;)「……うわああああっ!
ちっくしょおおお、昨日出掛けてなければ、
僕とキュートちゃんにフラグが立ってたかもしれないのにぃいいいいっ!!」
o川;*゚−゚)o「ふ、フラグなんか、そもそも立たないしっ! 立ってないし!!」
ξ゚听)ξ「立ってるように見えるけれど」
o川;*゚д゚)o「な、なな、なに、誰がこんなむさ苦しいマッチョ野郎に!!
私の好みはこいつとは真逆だしね! 細くて格好よくて――」
ξ゚听)ξ「私は別にクックルのことだとは言ってないわよ」
o川;*゚д゚)o「わああああああああああああああ!!」
ζ(゚ー゚;ζ「キュートちゃん、落ち着いて落ち着いて……」
- 234 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 01:01:46 ID:ZKOT5IPkO
――分かっていないのは、
( ゚∋゚)「?」
恋愛小説を好むくせに鈍いことこの上ない、クックルだけである。
第二話 終わり
- 235 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 01:02:55 ID:MRqIlDbU0
- おつ
- 236 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 01:03:03 ID:VlUe/HtcO
- 乙!!相変わらず面白いぜ!!
- 237 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 01:04:03 ID:T3XM2ReAO
- 乙
今回もよかった
- 238 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 01:04:31 ID:ZKOT5IPkO
- 今回の投下終わりです
次回投下は、多分次の土日辺り。もう少し早いかもしれないし、遅いかもしれない
読んで下さり、ありがとうございました
- 239 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 02:16:59 ID:M4R5AI6oO
- 乙!
ニヤニヤさせやがる
- 240 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 06:21:17 ID:HfF8EIYUO
- 乙
キャラが立ってていいなぁ
- 241 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 07:50:49 ID:LFmkeszYO
- 乙
キューちゃん可愛いよキューちゃん
- 242 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 08:22:37 ID:yXiDpmww0
- 今回も面白かった
- 243 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 15:25:42 ID:jwrfAHxQ0
- 乙です。
いいなあ。ニュッほんといいなあ。
- 244 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/19(土) 15:36:50 ID:ISDg62720
- これ大好き
- 245 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/20(日) 14:29:58 ID:Z9QojegIO
- これの略称は穴本で良いよな
なんか卑猥だけど良いよな
- 246 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/20(日) 17:09:26 ID:gOam0MhEO
- >>245
穴生き
…卑猥だな
- 247 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/20(日) 20:22:18 ID:8RX9lYF20
- 穴素晴に一票
- 248 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/20(日) 20:39:48 ID:vWVYKGy60
- 以下、濃厚な
- 249 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:53:03 ID:bWCcjkbkO
「デレちゃん、『穴イキ』って言ってごらん? 大丈夫何も恐くないから。ほら、ん?」
(((*^ω^) ,,,ζ(゚ー゚;ζ
ξ゚听)ξ≡⊃))^ω゚)「モルグガイッ!!」
予定より早いですが、第三話前編投下しまうま
- 250 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:54:04 ID:bWCcjkbkO
ある一室、ベッドの上。
横たわった男が呻いている。
苦しそうに、辛そうに、喉の奥から低い声を絞り出す。
眉間には皺が寄り、目は強く閉じられ、口元だけは緩んで。
男が呻いている。
不意に、部屋のドアが叩かれた。
こんこん。ノック。
こんこん。とんとん。
男は起きない。
ゆっくりとドアノブが回される。
かちゃん、ドアが開くと、ノブが一瞬止まった。
開いたことに少し驚いたようだった。
躊躇いがちにドアが開ききり、少女が部屋に足を踏み入れる。
彼女は静かにベッドに近付くと、男の肩に触れた。
「……起きて」
まだ、男は起きない。
「大丈夫? ねえ、起きて」
「起きて――ブーン」
- 251 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:54:59 ID:bWCcjkbkO
男の目が開く。
自分に触れている少女が視界に入ると、男はびくりと体を跳ねさせ、手を伸ばした。
どさり。
突き飛ばされた少女が尻餅をつく音が響く。
ξ )ξ
(;゚ω゚)「……あ……」
身を起こし、男――内藤ホライゾンは、己の両手を見た。
衝撃の名残が掌を覆う。
慌ててベッドを下り、少女、ツンの前にしゃがみ込んだ。
(;゚ω゚)「ご、ごめんお、僕、あ、ね、寝起きだから……寝ぼけ、て……」
ξ 听)ξ「寝ぼけて……本音が出たの?」
(;゚ω゚)「違うお、……ツン、ごめんお、ごめん、ツン」
ξ゚听)ξ「……」
ごめんなさい、ごめんなさい。
謝りながら、内藤はツンを抱きしめる。
ツンの右手が、そっと内藤の頭を撫でた。
- 252 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:55:38 ID:bWCcjkbkO
第三話 あな危なっかしや、サスペンス小説・前編
.
- 253 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:56:18 ID:bWCcjkbkO
ζ(゚、゚;ζ「ぐむむむむ……」
VIP図書館。
テーブルの上に教科書やノート、プリントを散乱させて、長岡デレは頭を抱えていた。
現在、二学期の中間試験真っ只中。
ご存知の通りあまり頭がよろしくないデレにとって、地獄と同じこと。
あと2日でそれも終わるが、その2日が問題だ。
数学、物理、英語。デレが特に苦手とする3教科が待っている。
せめて赤点だけは逃れたい。合格点にすら達しなければ、更なる地獄の始まりだ。
- 254 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:56:57 ID:bWCcjkbkO
ζ(゚、゚#ζ「むあー! もうやだ! むあーむあー!」
ξ゚听)ξ「ピングー」
ζ(゚、゚#ζ「ムァーwwwww」
( ^ν^)「現実逃避やめろ」
ζ(゚、゚#ζ「じゃあニュッさん教えてよ!」
( ^ν^)「めんどい」
ζ(゚、゚#ζ「ツンちゃん!」
ξ゚听)ξ「私は高校行ってないもの」
ζ(゚、゚#ζ「内藤さん!」
( ^ω^)「10年以上も前に習ったもんなんか覚えてないお」
ζ(゚、゚#ζ「むあー!!」
隣のテーブルからデレを眺めている内藤ニュッ、ツン、内藤ホライゾン。
手助けする気は皆無らしい。
ペンを放り投げ、デレは突っ伏した。
- 255 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:57:52 ID:bWCcjkbkO
ζ(-、-;ζ「鬼ぃ……人非人……」
(;^ω^)「どんだけ切羽詰まってんだお。
大丈夫、余程のことがない限り赤点なんて滅多に……」
ζ(-、-;ζ「一学期の期末では……英語が……」
(;^ω^)「……ごめん」
ζ(゚ー゚;ζ「いいんです、私が頭悪いのがいけないんです、えへへ……」
ζ(゚ー゚;ζ
ζ(;ー;*ζ
(;^ω^)「誰かー! デレちゃんに美味しいものあげてー!!」
ξ゚听)ξ「甘いもの食べて、頭すっきりさせましょうね」
ζ(;、;*ζ「うう、ツンちゃーん」
紅茶とクッキーでも、とツンが立ち上がる。
すると、受付カウンターの奥、階段に続くドアの向こうから
元気のいい女性の声が飛んできた。
- 256 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:58:43 ID:bWCcjkbkO
「かーんちょー!!」
( ^ω^)「おー?」
「ホットケーキ食べていいデスカー!?」
( ^ω^)「いいけど、僕らの分も頼むお! 4人分!」
「……よっ……まあ、いいですケド」
( ^ω^)「飲み物もー」
「人使いの荒い……」
ζ(;、;*ζ「……どなたですか?」
( ^ω^)「作家だお。今、彼女が来たときに紹介してあげるお」
――待つこと数十分。
とんとん、階段を下りる音がした。
開けてください、と「作家」が言う。
ツンがドアを開けてやると、2つの盆を持った女性がそこに居た。
- 257 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 21:59:24 ID:bWCcjkbkO
ハハ ロ -ロ)ハ「毎度お馴染みハロちゃん出前サービスデース」
ξ゚听)ξ「お疲れ様。ありがとう」
片方の盆には、山盛りのホットケーキと一つのポット、蜂蜜やら何やら。
もう片方の盆には積み重なった皿やマグカップなどの食器が乗っている。
女性はデレを見て、小首を傾げた。
ハハ ロ -ロ)ハ「アラ、ドチラ様?」
片言の口調で問いかけながら、盆をツンに預けて
空いた手で眼鏡の位置を調節する。
ζ(゚ー゚*ζ「長岡デレです」
ハハ ロ -ロ)ハ「ナガオカ……あー、館長が話してた子。
はじめまして、ワタシはハローと申しマス。ハロー・サン」
ζ(゚ー゚*ζ「ハローサン……ハローさんですね。よろしくお願いします」
ハハ ロ -ロ)ハ「ヨロシクー。……あ、館長! メープルシロップ切れてましたヨ!
仕方ないから今日は蜂蜜にしましたケド」
( ^ω^)「僕は蜂蜜の方が好きだお?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシはメープルシロップ派デス」
- 258 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:00:26 ID:bWCcjkbkO
内藤達のテーブルに両方の盆が置かれる。
ハローは空いている皿にホットケーキを2枚ずつ移していくと、
その上にバターを乗せ、蜂蜜をかけた。
ホットケーキの熱で溶けるバターと、琥珀色の蜂蜜が混ざり合う。
甘ったるい香りが辺りを漂った。
ハローが満足そうに頷く。
ハハ ロ -ロ)ハ「飲み物はコチラ」
ポットの中身がマグカップに注がれた。
真っ白なそれから湯気が立ち上る。
ホットミルクだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「お砂糖入れマス? 蜂蜜がいいデスカ? それともこのママ?」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、蜂蜜で」
ハハ ロ -ロ)ハ「オーケー」
蜂蜜をティースプーンで掬い、マグカップの中へ。
ぐるりと掻き混ぜる。
そうして、ホットケーキとホットミルクが一組、デレのテーブルにやって来た。
- 259 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:01:26 ID:bWCcjkbkO
ハハ ロ -ロ)ハ「館長は角砂糖、ツンは蜂蜜、ニュッ君はこのままデスネ」
手早く全員分用意し終えると、ハローはニュッの隣に腰を下ろした。
召し上がれ、というハローの言葉を合図に、皆がフォークとナイフに手を伸ばす。
ζ(゚ー゚*ζ「いただきます! ハローさん、ありがとうございます」
ハハ ロ -ロ)ハ「イエイエ」
デレはハローに礼を言いながら、ホットケーキを小さく切り分けて口に運んだ。
バターの風味とほのかな塩気、蜂蜜の甘みにふわふわなホットケーキ。
幸せだとデレは胸中で呟く。
ハハ ロ -ロ)ハ「……そういえば、何故、彼女ダケ1人で座っているノ?」
( ^ω^)「お勉強中なんだお」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハハア、ナルホド」
ζ(゚ー゚;ζ「……今は、そのことは忘れさせて下さい」
幸せ気分が吹き飛んだ。
がくりと肩を落とし、デレは教科書を見下ろす。
一番の敵。英語。
長ったらしい単語や連語、文法に発音、読み取り、聞き取り。
どうにも苦手である。
- 260 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:02:24 ID:bWCcjkbkO
マグカップを口元で傾け――はっとして、デレはハローに顔を向けた。
ζ(゚ー゚*ζ「ハローさん!」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハイ?」
ζ(゚ー゚*ζ「英語喋れます!?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシ、エーゴは苦手デス。どうかしまシタ?」
ζ(゚ー゚*ζ「……片言だから、外国の人なのかなって」
ハハ ロ -ロ)ハ「この国生まれ、この国育ちデスガ」
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ「何故片言」
ハハ ロ -ロ)ハ「日本語は話すヨリ書く方が得意デス。アト、何か、こう、キャラ作り的な?」
ζ(;、;*ζ「むあーむあーむあー」
( ^ν^)「自力で何とかしろ」
ζ(;、;*ζ「自力で限界感じたから他力に縋るんでしょうがあー」
もう自棄だと言わんばかりに、デレはホットケーキを豪快に食べ始めた。
ナイフは放置。フォークで持ち上げ、直接噛りつく。
- 261 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:03:09 ID:bWCcjkbkO
それを楽しそうに眺めていたハローは、何気なくニュッに振り返り、
ふと彼の顔を注視した。
ハハ ロ -ロ)ハ「デレ、喉に詰まらせてしまいマスヨ。……あ、ニュッ君」
( ^ν^)「んあ」
ハハ ロ -ロ)ハ「蜂蜜が頬っぺたに」
ニュッの頬に付いた蜂蜜。
ハローはニュッに顔を近付け、
ハハ ロ -ロ)ハ ベロリ
蜂蜜を舐め取った。
.
- 262 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:03:57 ID:bWCcjkbkO
( ^ν^)
ζ(゚、゚*ζ
( ^ν^) ガッターン
ζ(゚、゚;ζ「ハハハハハハハハローさーん!!?」
ニュッは無表情のままに椅子ごと倒れ、
デレは叫びながら立ち上がる。
ハローは呆れた顔でニュッを見下ろしていた。
ハハ ロ -ロ)ハ「アリャ、ニュッ君、マダ慣れてくれまセンカ」
ζ(゚、゚;ζ「『まだ』!? 既に何度か似たようなことをしていらっしゃる!?」
( ^ω^)+「わあ大変だ、ハロー、僕の顔にも蜂蜜が」
ξ゚听)ξ「今自分で塗ったでしょ」
( ^ν^)
ζ(゚、゚;ζ「ぴくりとも動かないよニュッさーん!!」
- 263 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:05:28 ID:bWCcjkbkO
ハハ ロ -ロ)ハ「ニュッ君、そんなんじゃイツマデ経ってもカノジョ出来ませんヨ」
( ^ω^)「僕はもう諦めてるけどね、ニュッ君が恋するとか」
ξ゚听)ξ「ニュッ君の恋人は本よね」
ハハ ロ -ロ)ハ「たしかに。
……マア、どうにもならなくなったトキにはワタシがいマスヨ、ニュッ君」
ζ(゚、゚;ζ「ハローさん、もっと考えましょう? わざわざ破滅の道を選ばなくても……」
( ^ν^)「死ね」
忠告するデレの声は本気だった。
ようやく復活したニュッが元の位置に座り直す。
ハローはにっこり笑って、ニュッの腕にしがみついた。
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシの全てはニュッ君のタメにありますカラ」
( ^ν^)「……」
慣れたのか諦めたのか、ニュッは無視を決め込んだらしい。
ハローをそのままに、ずるずると音を立ててホットミルクを飲み干した。
- 264 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:06:32 ID:bWCcjkbkO
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ モシャモシャ
何だか知らないが、少し腹が立つ。
理解出来ぬ怒りを持て余したデレは、ホットケーキにのみ意識を向けることにした。
*****
そして十数分後。
ζ(´、`*ζ スピスピ
(;^ω^)(寝た――――――――!!)
寝た。
ホットケーキで満腹になり、ホットミルクで芯から暖まったデレは、
自然の摂理に従って寝た。
- 265 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:07:13 ID:bWCcjkbkO
(;^ω^)「あーあーあー、ノートに涎が……」
ξ゚听)ξ「……起こすべきかしら」
( ^ν^)「放っとけ」
ハハ ロ -ロ)ハ「毛布持ってきまショウカ」
ξ゚听)ξ「私が取ってくるわ」
ついでに片付けようと空の食器を盆に重ねて、ツンが持ち上げる。
彼女が2階に向かうと、残された3人はデレに視線を送った。
ほんのしばし沈黙。
それから口を開いたのはハローだった。
ハハ ロ -ロ)ハ「このコ、どこまで知ってるんデス?」
( ^ω^)「ほとんど何も知らないに近いお」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ドウシテ、ここに来させるんデスカ」
( ^ω^)「彼女が勝手に来てるんだお」
ハハ ロ -ロ)ハ「それはそれで、館長が仕向けたんデショ。フェンスの合鍵渡したそうデスネ。
何故そんなコトを」
( ^ω^)「……べっつにぃ? 本当に、深い意味なんかないお」
- 266 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:08:56 ID:bWCcjkbkO
デレの寝顔を見つめ、可愛い、と内藤が呟く。
あまり感情の篭っていない瞳。
( ^ω^)「ここを気に入ってくれたみたいだし、見ていて面白い子だから
遊びに来たいのなら歓迎しようかなと。……」
頬を掻き、内藤は苦笑した。
「それと」と、言葉を繋ぐ。
( ^ω^)「……それと、あわよくば本探しを手伝ってもらいたいなって。
好奇心が強くて、無償で手伝ってくれる人材なんて、そうそういないおね。
――あまり頭も良くないし。口外もしない。多分。
こーんなに都合のいい子なんて、なかなか、ねえ?」
ハハ ロ -ロ)ハ「アア、ソウ。そういうコト」
( ^ω^)「人手は多い方がいいお」
そこで話を打ち切り、内藤は息をついた。
ハローは納得した様子で頷いている。
- 267 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:10:17 ID:bWCcjkbkO
( ^ν^)「……」
ζ(´、`*ζ スピャー
( ^ν^)(阿呆面)
( ^ω^)「……そうそう、あとニュッ君がデレちゃん気に入ってるっぽいし」
( ^ν^)「全力で死ね」
*****
翌日。
デレの顔は死相と化していた。
ζ( 、 ζ
o川*゚ー゚)o「はー、今日も恙無く終了っと! あ、デレちゃん」
o川;゚ー゚)o「どうだっ……」
帰宅の準備を終えた素直キュートはデレに声をかけようとしたのだが、
デレの表情の酷さに、思わず挙げた手を下ろした。
- 268 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:11:18 ID:bWCcjkbkO
o川;゚ー゚)o「だ、大丈夫……?」
ζ( ー ζ「お前さん……これが大丈夫に見えるかえ……」
o川;゚ー゚)o「キャラ変わるぐらいやばいのは理解した」
あの事件以来、デレとキュートは仲良くなった。
キュートの本性――ナルシストっぷり――をデレに晒してしまったためか、
互いに遠慮というものがなくなったらしい。
ζ( ー ζ「現国……数学……物理……ふへ、へへへ」
o川;゚ー゚)o「……駄目だったの?」
ζ( ー ζ「現国は……そこそこいけたかな……」
o川;゚ー゚)o「数学と物理は?」
ζ( ー ζ
o川;゚ー゚)o「あちゃあ……勉強ちゃんとした?」
ζ( ー ζ「……し、の……」
o川;゚ー゚)o「え?」
- 269 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:12:55 ID:bWCcjkbkO
ζ( ー ζ「明日の……英語ばっかり気にかかって……英語の勉強しか……」
o川;゚ー゚)o「何してんのさデレちゃん」
ζ(;、;*ζ「違うの! 違うの! 図書館で英語の勉強して、
家に帰ってから数学と物理の勉強するつもりだったの!
でも! でも!」
ζ(;、;*ζ「……お腹いっぱいになって、昼寝しちゃったから……」
何のことやらキュートにはさっぱり分からないが、
とりあえずデレがやらかしたのは把握した。
ぽんぽんとデレの肩を叩く。
o川;゚ー゚)o「あー、で、今日の予定は?」
ζ(;、;*ζ「真っ直ぐ帰って勉強する……」
図書館に行っては、またお茶とお菓子を出されるだろう。
デレは誘惑に負けてそれを腹に収め――
きっと昨日と同じ結末を迎える。
おとなしく家に帰った方が身のためだ。
- 270 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:13:45 ID:bWCcjkbkO
o川*゚ー゚)o「じゃあさ、じゃあさ」
ζ(;、;*ζ「?」
o川*゚ー゚)o「デレちゃんが良ければ、だけど、私の家で勉強しない?」
ζ(;、;*ζ「……いいの?」
o川*゚ー゚)o「分かんないとこあったら、教えてあげるよ」
ζ(;、;*ζ「でも、キュートちゃんは――」
大丈夫なの、と訊きかけて思い出す。
キュートときたら、
o川*゚ー゚)o「ふっふっふ。『可愛い女の子』はね、見た目が可愛いだけじゃ駄目なんだよ」
成績優秀なのである。
*****
- 271 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:14:33 ID:bWCcjkbkO
o川*゚ー゚)o「ま、先に腹ごしらえだよねー」
学校を出た2人は、キュートの家ではなく、先に駅前へ向かった。
テスト期間故、解放されるのは午前中。
現在、正午を回ったところ。
腹が減っては戦は出来ぬ。キュートは駅前で昼食をとろうと提案した。
o川*゚ー゚)o「お姉ちゃんもお母さんも寝坊しちゃってさー、
今日は、お昼どころか朝ご飯も作ってもらえなかったの。
……あ、勿論私だって料理ぐらい出来るよ? でもテストで疲れてるしね、ほら」
ζ(゚ー゚*ζ「私もテスト期間中は料理したくならないよ。分かる分かる」
――駅前に来ると、昼飯時ということもあってか多くの人で賑わっていた。
サラリーマンにOL、主婦や学生らしき若者などがあちこちを歩いている。
デレ達同様テスト期間中なのか、他校の制服を着た者も多い。
さてどの店に入ろうかときょろきょろしながら歩いていると――
ζ(+、+;ζ「ひゃぶっ!!」
o川;゚ー゚)o「あ」
反対方向からやって来た男に、デレが衝突した。
- 272 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:15:32 ID:bWCcjkbkO
ばしゃん、と、嫌な音。
直後、からから、アルミ缶がジュースを撒き散らしながら地面に落ちた。
ζ(゚、゚;ζ「ごっ! ごめんなさい!!」
<_フ#゚ー゚)フ「……てめえ」
見れば、相手はデレと同年代らしかった。
着崩した学ラン。他校の男子生徒。
その制服に、ジュースが滴っている。
デレとぶつかったのが原因であることは一目瞭然であった。
<_フ#゚д゚)フ「弁償しろオラァ!!」
ζ(゚、゚;ζ「くっ、クリーニング代は出します! 出しますから!」
<_フ#゚д゚)フ「クリーニング代だけで済ましますってか?
違うだろ、弁償だよ、べ・ん・しょ・う!」
典型的な不良ぶりに一種の感動を覚えながら、デレはぺこぺこ頭を下げる。
こういった人種とは関わったことがないデレにとって、全くもって未知の恐怖だ。
- 273 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:16:36 ID:bWCcjkbkO
o川*゚ー゚)o「あ、あのう」
<_フ#゚д゚)フ「あ!?」
o川*>ー゚)o「私の可愛さに免じてここはひとつ――」
<_フ#゚ー゚)フ「お前馬鹿じゃねえの」
o川*>ー゚)o
o川*゚ー゚)o「ごめんねデレちゃん、私の手には負えないわ」
ζ(゚、゚;ζ「えええええええっ」
<_フ#゚ー゚)フ「……ん」
ふと、不良少年はデレとキュートの顔を見て、怒りの表情を緩めた。
じろじろ、無遠慮に視線をぶつける。
それから、ぽつりと呟いた。
<_プー゚)フ「……お前らなかなか可愛いな」
ζ(゚、゚;ζ「へ……」
o川*゚−゚)o「『なかなか』? は? 『かなり』だろ、私に関しては」
- 274 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:17:11 ID:bWCcjkbkO
<_プー゚)フ「俺と遊んでくれたら許してやるよ。
ああ待て、俺の友達も呼ぶから――」
ζ(゚、゚;ζ「ちょっ、……あ、あの、そういうの、こ、困ります」
o川*゚−゚)o「私、あんたみたいな頭軽ッそうな男は好きじゃないんだけど」
<_フ#゚ー゚)フ「お前らに拒否権なんざねえええええんだよぉお!!」
o川#゚д゚)o「あるわぁああああああああああ!! 選ぶ権利もあるわぁあああああああ!!」
ζ(゚、゚;ζ「きゅ、キュートちゃん……っ」
このままでは逃げるのも難しくなる。
誰か助けてくれないかと辺りを見回したが、皆、白々しく目を逸らして離れていく。
一体どうしろというのだ。
絶望したデレは――少し離れたところにいる男に光を見た。
怠そうに歩く男。あれは。
ζ(゚、゚;ζ「……ニュッさん!」
( ^ν^)
ニュッだ。
- 275 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:17:55 ID:bWCcjkbkO
リュックサックを右肩に引っ掛け、ぼうっと前方のみを眺めている。
デレが大声で呼ぶと、ニュッは顔だけをそちらに向けた。
(^ν^ )
( ^ν^)
向けただけだった。
すぐに先程のように歩き出す。
ζ(゚、゚#ζ「待たんかいこらあ!!」
(^ν"^ )
ζ(゚、゚#ζ「状況分かりません!? か弱い女の子が野蛮な男に絡まれてるんですよ!
助けますよね普通!!」
(^ν"^ )「めんどい」
ζ(゚皿゚#ζ「むがー!!」
<_フ;゚ー゚)フ)))
o川;゚ー゚)o「デレちゃん良いよ、こいつ引いてるよ! 効いてる効いてる!」
- 276 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:18:46 ID:bWCcjkbkO
鬼の形相。今のデレの顔を表現するなら、まさにそれ。
後ずさった不良少年は我に返り、キュートの腕を掴んだ。
o川;゚−゚)o「きゃっ!?」
<_フ;゚ー゚)フ「もうお前だけでいい、来いや!」
o川;゚д゚)o「やあだっ、やめてえ! 放せ馬鹿ー!」
<_フ;゚ー゚)フ「……頼むよ! 来てくれないと――」
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃ……」
ζ(゚、゚;ζ「……ん……」
<_フ;゚ー゚)フ
<_フ;゚ー゚)フ「ん?」
- 277 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:19:16 ID:bWCcjkbkO
ぽん、と。
不良少年の肩に置かれた手。
ごつごつした、大きな。
( ゚∋゚)「見苦しいな」
<_フ ー )フ ゚ ゚
ζ(゚、゚;ζ「……く、くっ、くくっ……」
o川;*゚д゚)o
ζ(゚、゚;ζ「クックルさん!」
――堂々クックル。VIP図書館の作家の1人。
2メートル近くもある巨体、逞しい筋肉。
そんな大男にぎろりと至近距離で睨まれたものだから、
不良少年の全身から力が抜けてしまった。
要するに、びびった。
- 278 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:20:01 ID:bWCcjkbkO
<_フ;゚ー゚)フ「あ、あはー……んじゃ、俺はこれでー……」
( ゚∋゚)「待て」
<_フ;゚ー゚)フ「ひいっ!」
( ゚∋゚)「クリーニング代だったか弁償だったか――いくら必要なんだ? え?
俺が払ってやるよ」
<_フ;゚ー゚)フ「いやあっ、そんな! 結構です結構です、
こんなんちょっと水でぴゃーっとやりゃあ綺麗になりますんで!!」
ははは、と引き攣った笑いを残し、不良少年は逃げていった。
その背中が見えなくなった頃、ようやくクックルはデレ達へ「大丈夫か」と声をかけた。
デレは頷き、キュートは顔を真っ赤にさせる。
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます、クックルさん!」
( ゚∋゚)「無事なら良かった。――何だ、顔赤いぞ」
o川;*゚−゚)o「びっびびびびっくりしただけだし!
あんたみたいなのがいきなり現れたら恐怖で心臓止まるっつーの!!
ていうか、な、何でこんなところにいんの!!」
- 279 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:20:53 ID:bWCcjkbkO
( ゚∋゚)「ニュッ君を迎えに来たら、お前らが絡まれてるのを見付けたんだよ。
――おおい、ニュッ君!」
クックルが呼ぶと、ニュッはおとなしく近寄ってきた。
クックルの「バイトお疲れさん」という言葉に、
ニュッは、小さく頭を揺らし――多分、頷い――た。
ζ(゚、゚*ζ「迎え?」
( ゚∋゚)「ニュッ君、チンピラに絡まれやすいんだ」
ζ(゚、゚*ζ「……ああ……」
何となく分かる。
ニュッの、あからさまに弱そうな痩せ細った体格に、デレは納得した。
そういった方々からすれば、いいカモだろう。
( ゚∋゚)「二度三度、ぼろぼろで帰ってきたこともあるしな。
俺は執筆作業も休み中だし、散歩がてらニュッ君を迎えに来ることにしてるのさ」
つまりボディーガードのようなもの。
つい先日小説を書き上げたばかりで暇を持て余しているクックルには丁度いい。
ζ(゚、゚*ζ「貧弱ー」
( ^ν^)「うるせえ」
- 280 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:22:19 ID:bWCcjkbkO
( ゚∋゚)「さ、帰るぞニュッ君」
踵を返す。
あれ、と、クックルが不思議そうな表情で振り向いた。
( ゚∋゚)「そういえば学校はどうした」
ζ(゚ー゚*ζ「テスト中だから、早く終わったんです」
( ゚∋゚)「昼飯は?」
ζ(゚ー゚*ζ「今、キュートちゃんと一緒にどこかで食べようかなって」
( ゚∋゚)「ああ、それなら、図書館に来るか?
今日は館長や作家達が何人か外出してて、少し物寂しい」
ζ(゚、゚;ζ「え……」
図書館には行かないと決めたばかりだ。
だから断ろうかと思ったのだが。
o川*゚−゚)o「別に、私はどうでもいいけど?
ただ(チラッ)デレちゃんが(チラッ)どーかなーって(チラッチラッ)」
ζ(゚、゚;ζ(すごく……行きたそうです……)
*****
- 281 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:22:58 ID:bWCcjkbkO
川д川「あらあ……なあに、デレちゃんも連れてきたの……」
ζ(゚ー゚*ζ「貞子さん! お久しぶりです」
図書館に着くと、作家の1人、山村貞子が出迎えた。
幽霊然とした見た目の貞子に、キュートが肩を跳ねさせる。
o川;゚ー゚)o「わっ」
川д川「……だあれ……?」
ζ(゚ー゚*ζ「素直キュートちゃん。私の友達です」
川д川「ああ、キュート……館長やクックルから聞いてるわ……。
話通り……いえ話以上の美少女ね……」
貞子の青白くか細い指が、キュートの頬を撫でる。
にたり、一瞬だけ、貞子は笑った。
川д川「こんな子を主人公にしたい……顔面ずたぼろになって絶望する話が書きたい……。
……ああ、いいわね、次はそんな話にしましょう……」
o川;゚ー゚)o
( ゚∋゚)「怯えてるぞ」
川д川「……ごめんなさあい……」
- 282 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:23:34 ID:bWCcjkbkO
( ^ν^)「腹減った」
川д川「了解……」
( ゚∋゚)「デレ達の分も頼む」
川д川「はあい……、……2階に上げるの……?」
( ゚∋゚)「まあ、食堂ぐらいならいいんじゃないか」
来い、と言って、クックルはカウンターの奥、階段を隠すドアを開けた。
デレは首を傾げる。
ζ(゚、゚*ζ「……いいんですか?」
2階はニュッ達の住まい。
プライベートな空間だ。
こんなにあっさりと上げられるとは思わなかった。
( ゚∋゚)「客を入れて何が悪い。――まあ、あんまりうろちょろされても困るが」
o川*゚−゚)o「そんなことしませんよーだ」
べえ、と舌を出し、キュートは小走りでクックルの後に続いた。
デレは、不安そうにニュッを見る。
( ^ν^)「行けば」
ζ(゚、゚*ζ「……じゃあ、お邪魔します」
- 283 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:25:24 ID:bWCcjkbkO
――階段の最上段は踏み込みになっていた。
靴を脱ぎ、出されたスリッパに足を通す。
2階の廊下は、階段から見てT字を逆にした形で伸びている。
長い廊下、ずらりと並ぶドア。
クックル達は、深緑色の絨毯が敷かれた廊下の右側に進んだ。
右の廊下の中間辺りで立ち止まり、左の壁のドアを開く。
( ゚∋゚)「ここが食堂だ。あっちが厨房」
ζ(゚、゚*ζ「おお……」
なかなか広い。
奥行きが深く、向こう側には厨房に続く扉。
壁の上部に取り付けられた細めの窓から日光が差し込み、
そこに木葉の影が落とされ、ゆらゆらと揺れている。
緑の多い時期に来たなら、影ももっと増えるだろう。
横長のテーブル、いくつかの椅子。
厨房に一番近い席に座り込む女性。
ハハ ロ -ロ)ハ「……ン?」
ζ(゚ー゚*ζ「あっ、ハローさん!」
ハローだ。
ハードカバーのノートに何か書き込んでいる。
- 284 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:27:38 ID:bWCcjkbkO
ハハ ロ -ロ)ハ「デレ、いらっしゃい」
ζ(゚ー゚*ζ「どうも。何されてるんです?」
ハハ ロ -ロ)ハ「小説書いてるんデス。ワタシのオハコ、サスペンス小説」
顔の横に本を掲げる。薄い黄色の表紙。
綺麗な色ですね、とデレが言うと、ハローはにっこり笑った。
それから、ハローの視線がキュートに移動する。
ハハ ロ -ロ)ハ「ソチラは?」
( ゚∋゚)「素直キュートだ」
ハハ ロ -ロ)ハ「キュート。クックルの本に巻き込まれたコですネ。カワイイ。
ワタシはハローです、ヨロシク!」
o川*゚ー゚)o「よろしく……」
早口で挨拶するハローにお辞儀したキュートは、
顔を上げると、貞子とハロー、そしてクックルを見渡した。
o川*゚ー゚)o「……本当に、色んな人が住んでるんだ」
何人かが出掛けているとのことなので、もっと多い筈。
キュートは、この場にはいないが、いつぞやに見たツンを思い出す。
悔しいが、キュートでも敵わないほど綺麗な少女だった。
- 285 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:28:34 ID:bWCcjkbkO
ツンも含め、数人の女性と共に暮らしているのか。
……クックルは。
o川*゚ -゚)o
ζ(゚、゚;ζ(あれ、何か拗ねてる)
川д川「適当に座ってて……ご飯作ってくる……」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、お手伝いしましょうか」
川д川「ただの焼きそばだから手伝わなくていいわ……お客さんは座ってて……」
デレを制止し、貞子はすたすたと厨房に入っていった。
ハローの向かいにクックル、その隣にニュッが座る。
キュートはハローの隣、ニュッの向かい。
デレはキュートの隣に腰を下ろした。
( ^ν^)
ζ(゚、゚*ζ
すると――突然、軽く首を斜めに曲げて、ニュッはデレに視線を固定した。
ばっちり目が合う。デレが肩を竦めた。
- 286 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:29:36 ID:bWCcjkbkO
( ^ν^)
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「な、何ですか」
無言。
何故だか顔が熱くなってきて、デレは俯いた。
ζ(゚、゚*;ζ「……ニュッさん、ちょ、ちょっと照れるんですが……どうしました……?」
頬に手を添え、おずおずと訊ねる。
だが、答えたのはニュッではなくクックルだった。
( ゚∋゚)「キュートが向かいにいるから正面見れないだけだ」
ζ(゚、゚*ζ「あ? ざけんな」
ときめきを返せ。
先程までのしおらしさはどこへやら、ぎん、と眼光鋭くニュッを睨みつける。
ニュッは顔を顰め、逆方向、ハローへ視点を移した。
いくらでも見て下さい、と言うハローの声が聞こえる。
むかむかしてきて、デレは口をへの字に曲げ、鞄から教科書を取り出した。
- 287 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:30:59 ID:bWCcjkbkO
ζ(゚ぺ#ζ「ニュッさんのばーか!!」
( ^ν^)「は?」
o川;゚ー゚)o「どうしたのデレちゃん。よしよし」
ζ(゚、゚#ζ「いいもん。
どうせ私はキュートちゃんみたいに可愛い女の子じゃないもん」
クックルいわく、異性に慣れていないニュッは見目麗しい女性が苦手なのだそうだ。
故にキュートを直視出来ない、らしい。
キュートは無理でもデレやハローなら見れる。
ハローは長年一緒にいる同居人だからまだしも、
デレなんかには知り合って一日も経たない内から平常通りに振る舞っていた。
物凄く癪に障る。
- 288 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:31:54 ID:bWCcjkbkO
ζ(゚、゚#ζ「ニュッさんなんか一生恋人も奥さんも出来ません!」
ハハ ロ -ロ)ハ「デスカラ、イザとなったらワタシが」
( ^ν^)「……」
( ゚∋゚)「あー、うん、俺は、まあ何とかなると思うぞ、ニュッ君」
o川*゚ -゚)o「他人事? あんたはアテでもあるの? ゴリマッチョのくせに!」
(;゚∋゚)「何でそうなる」
――騒がしくなる食堂を背に、
川д川「若いわあ……女子高生……羨ましいわね……」
1人寂しく野菜を刻みながら、貞子はそんなことを呟いた。
*****
- 289 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:32:57 ID:bWCcjkbkO
焼きそばと卵スープを平らげると、食後のティータイムに突入した。
とはいえ、ティータイム、などと優雅な響きはあまり似合わない組み合わせだ。
熱い焙じ茶に煎餅、おかき。
貞子の好みで決めたとか。
ハハ ロ -ロ)ハ「ホットケーキと牛乳がイイー、サーダーコー」
川д川「自分でやれば……ああ……やっぱりおかきは黒豆入りよね……」
しゃくしゃくと小気味のいい音をたてながら、貞子がおかきを咀嚼する。
ハローは少しふて腐れながらも、湯飲みに入った焙じ茶を啜った。
デレも煎餅を一口かじり、焙じ茶で流し込む。
ζ(゚、゚*ζ「うー」
熱が喉を通り、香ばしい風味が鼻を抜ける。
ほっと息をつくと、ささやかな幸福が腹の中からじんわり広がった。
- 290 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:34:01 ID:bWCcjkbkO
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚;ζ「危険!!」
o川;゚ー゚)o「うわっ何。さっきから急に叫ぶねデレちゃん」
ζ(゚、゚;ζ「これが敵なの! 今日こそ寝ないからね! いっぱい勉強してやる!!
ってわけでキュートちゃん教えて!」
( ^ν^)「何秒もつか見物だな」
ζ(゚、゚;ζ「びょ、秒!? せめて分にして下さいよ!」
ハハ ロ -ロ)ハ「分も相当なもんデスヨ」
意気込むデレの気迫に釣られ、キュートも「頑張ろう!」と返す。
教科書と問題集を開き、力強くペンを握った。
- 291 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:35:29 ID:bWCcjkbkO
( ゚∋゚)「――んで」
川д川「……こうなっちゃってるけど……」
o川*´ー`)o スヤスヤ ζ(´、`*ζ
30分も経過した頃、そこには呑気に眠りこける2人の姿があった。
その後、目を覚ましたデレが悲鳴をあげたのは言うまでもない。
*****
- 292 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:36:17 ID:bWCcjkbkO
少々、時間を戻そう。
デレ達がVIP図書館に行ったのとほぼ同時刻。
あるアパートの一室。
爪'ー`)y‐「はあ? 失敗した?」
3人の男達がたむろしている部屋の中、
ベッドに寝そべっている男が眉間に皺を寄せた。
くわえていた煙草を枕元の缶に捩込み、起き上がる。
睨まれた相手は、冷や汗を流しながらゆっくりと首肯した。
――駅前でデレ達に絡んだ不良少年だ。
<_フ;゚ー゚)フ「フォックス……だ、だって、急に馬鹿でけえ男が来てさ……。
す、すげえ筋肉だったし、逆らったら殺されそうで、」
爪'ー`)「うるせえよ」
<_フ;゚−゚)フ「っ!」
缶が投げつけられる。
煙草の灰で汚れたジュースが缶の口から飛び出して、不良少年の顔と服を汚した。
不快な匂いがまとわりつき、彼は顔を歪める。
- 293 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:37:50 ID:bWCcjkbkO
爪'ー`)「ほんっと役に立たねえ糞だな、お前」
<_フ; − )フ「……」
爪'ー`)「あーつまんねえ。どうすっかなー退屈だなー誰でもいいからぼこりたいなー」
箱から新たな煙草を抜き取りながら、「フォックス」と呼ばれた男は呟いた。
聞こえてきた言葉に不良少年は怯えた表情を見せる。
その反応に嫌らしい笑みを浮かべて、フォックスが再び口を開いた。
爪'ー`)y‐「どうしたエクスト。自分が殴られるかもしれないから恐くなった?」
周りの男達が低く笑った。
大丈夫だよお、とわざと明るい声で、フォックスは言い放つ。
爪'ー`)y‐「こういうときに打ってつけの奴がいるじゃん。
ヒッキー呼ぼう、ヒッキー。ねっ」
<_フ;゚−゚)フ「……ヒッキー……」
爪'ー`)y‐「ん? 嫌? それならやっぱりお前で憂さ晴らしするけど」
<_フ;゚−゚)フ「――……べ、つに、ヒッキーなんかがどうなろうと」
爪'ー`)y‐「じゃあ呼べよ。呼べ呼べ」
- 294 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:40:34 ID:bWCcjkbkO
<_フ;゚−゚)フ「……」
震えそうになる手で携帯電話を取り出しながら、
不良少年は、ある1人のクラスメートの番号を探した。
――不良少年の名前は、エクストという。
インターネット上では「底辺」と呼ばれているような男子高校に通う、2年生だ。
生徒の半分近くが不良、学級崩壊なんか当たり前。
教師にもまともな者なんかいやしない。
エクストは元々不良などではなかった。
ただ受験が面倒で仕方なかっただけの、普通の少年であった。
どうせ噂じゃ酷くても、実際は大したことなどない。
目立ちさえしなければ平気――なんて、呑気に楽観していたのが間違い。
楽して入った高校は、それに見合った狂いっぷりだった。
さらに追い打ちをかけるように、エクストと同じクラスには
中学時代から有名だった不良、フォックスがいた。
終わったと、入学式の日にエクストは絶望する。
だが。
エクストは、幸い平穏に暮らしていけそうな環境を得ることが出来た。
エクストだけでなく、他のクラスメートも同様。
- 295 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:41:55 ID:bWCcjkbkO
何のことはない。
「生け贄」がいただけだ。
(;-_-)「……」
爪'ー`)y‐「お、いらっしゃいヒッキーくーん。
おいでおいで」
エクストがアパートに呼んだのは、クラスメート、ヒッキー。
普段から青白い顔を一層青くさせ、小さく震えている。
部屋に足を踏み入れたヒッキーが、ちらりとエクストを見た。
エクストは目を逸らし、ヒッキーと入れ代わるように部屋を出る。
爪'ー`)y‐「んー、エクスト混ざんないの?」
<_フ; − )フ「……体調、悪い。から、今日は帰る」
爪'ー`)y‐「そ」
エクストの言い訳を、フォックスは欠片も信じていないだろう。
気を付けてねえ。
不愉快な猫撫で声に応えず、エクストはドアを閉め、アパートを出た。
- 296 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:44:20 ID:bWCcjkbkO
――ヒッキー。
貧相な体つき、陰気な顔つき。
性格も暗い。
入学早々、ヒッキーはフォックスに目をつけられる。
フォックスは既に仲良くなっていた仲間と共に、ヒッキーを虐め始めた。
ヒッキーが標的になっていれば、他の者は手を出されない。
皆、見て見ぬふりに徹した。一番可愛いのは自分なのだ。
エクストも基本的にはそうしていたのだが、
時折、廊下や教室などでヒッキーと2人になる機会があると、
彼に声をかけたり飲み物を奢ってあげたりして励ましていた。
<_プ−゚)フ『……俺、弱いし……びびりだから、
……フォックスを止めるとか、出来ないと思う。
こうやって、たまに話すしか――』
ある日、エクストが申し訳なく思っている気持ちをそのまま吐露したことがある。
ヒッキーはぎこちなく微笑んで、
(-_-)『エクスト君は、それでいいよ』
そう返した。
- 297 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:46:15 ID:bWCcjkbkO
<_プ−゚)フ『……良くないだろ』
(-_-)『いいよ。馬鹿正直なんだね、エクスト君』
下手に関わってエクストまでもが巻き込まれるのは申し訳ないと、
だからたまに話しかけてくれるだけで充分嬉しいと、ヒッキーは言った。
その、すぐ翌日。
エクストはフォックスに呼び出される。
爪'ー`)y‐『ヒッキーの「仲間」か、俺らの「仲間」か、どっちがいい?』
ヒッキーの仲間。フォックスの仲間。
つまり――フォックス達に虐められるか、ヒッキーを虐めるか。
どちらかを選べ、と。
エクストがヒッキーと話しているところを見られたのだろう。
体中が冷え渡る。
ヒッキーを裏切りたくない。でも、フォックスは恐い。
エクストは。
自分の安全を選んだ。
- 298 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:50:16 ID:bWCcjkbkO
そうして現在までの1年と数ヶ月、エクストはフォックス達と行動を共にしてきた。
不良らしい振る舞いはそれなりに出来るようになったが、
元来の臆病な性分はどうしようもない。
今だって――
フォックス達に暴力を振るわれるヒッキーを見るのが恐くて、逃げてきてしまった。
彼らはエクストのそんな性格を理解している。
それ故、グループの中でもエクストは馬鹿にされることが多い。
今日は、フォックスに「金か女を持ってこい」と命令された。
だから駅前で見かけたデレ達を狙い、わざとぶつかりに行ったのだが、見事に失敗した。
フォックスに許してはもらえたが、次も失敗したら、そのときはどうなるか。
想像するだに恐ろしい。
さらに、エクストの通う高校は、3年間クラス替えが無い。
これからの1年と数ヶ月間も、この日常が続く。
恐怖にエクストの身が竦んだ。
足元がふらつき、転びそうになる。
咄嗟に手を伸ばし、傍にあったものに掴まった。
コンクリートのざらりとした感触。掌の皮膚が僅かに裂ける。
慌てて体勢を立て直して、手を離した。
- 299 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:51:25 ID:bWCcjkbkO
<_フ;゚−゚)フ「……」
ごみ捨て場。
元々はフォックスの住むアパートの住人が利用していたらしいのだが、
最近、別の場所に金網でしっかり閉じられるごみ捨て場が設置されたので
そちらばかりが使われるようになったそうだ。
こちらの、コンクリートで両脇に低い壁を作っただけのオープンな作りは
カラスや犬猫に荒らされやすいためか、あまり好かれていない。
ふと、雑然と詰まれた本が目に入った。
ぼろぼろの雑誌や文庫本。
その一番上に、これまたぼろぼろなハードカバーの本がある。
<_プ−゚)フ「……何だこりゃ」
妙に気になって、エクストは本を拾い上げた。
- 300 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:52:57 ID:bWCcjkbkO
淡黄色の外装。
表紙の左下、背表紙の下部に銀色の、猫を象ったシルエットのマーク。
タイトルや著者名は見られない。
というより、それらしきものが書かれていた跡はあるのだが、
雨か何かのせいで読み取れなくなってしまっている。
黒いインクが滲んでいるのみだ。
表紙を開いてみる。
中身は外側よりいくらかマシだったものの、やはり滲んで見づらい箇所が多い。
手書きの小説であろうことは分かったが、とても読めたものではない。
興味を無くしたエクストは、本を元の位置に放り投げた。
*****
- 301 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:55:39 ID:bWCcjkbkO
ζ("、" ζ
o川;゚ー゚)o
o川;゚ー゚)o「大丈夫……?」
ζ("、" ζ「ひゃい」
翌朝。中間試験最終日。
登校してきたデレを見て、キュートは悟った。
「あ、これは駄目だな」と。
o川;゚ー゚)o「ご、ごめんね……昨日、私が寝ちゃったから……」
ζ("ー" ζ「いいよ……徹夜で勉強したし……」
o川;゚ー゚)o「それでそんなに隈が……」
ζ("ー" ζ「うひひひひ」
o川;゚ー゚)o(無理だ。無理だね)
結果は、推して知るべし。
*****
- 302 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:57:16 ID:bWCcjkbkO
ζ(゚ー゚*ζ
o川*゚ー゚)o「あれま、デレちゃんすっきりした顔だね」
放課後。
いつも通りのデレに、キュートはほっと息をついた。
デレは満面の笑みで応える。
ζ(^ー^*ζ「テスト中、ぐっすり眠ったからね!」
o川;゚ー゚)o
ζ(^ー^*ζ
o川;゚ー゚)o
ζ(;ー^*ζ
o川;゚ー゚)o「また訊くけど……だ、大丈夫……?」
ζ(;ー;*ζ「んなわけないじゃないすかーwww」
- 303 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:58:43 ID:bWCcjkbkO
本当に、そんなわけがなかった。
次の週。
ある者は涙し、ある者は高笑いをする、そう、テスト返却地獄。
全ての答案用紙を手にしたデレの顔色は、最悪だった。
目も死んでいた。
ζ(゚ー゚ ζ
英語の答案用紙には「放課後に職員室へ」という付箋。
名前欄の横に記された数字は見えなかった。
正確に言えば認識するのを脳が拒否した。
廊下に張り出された成績上位者一覧には目もくれない。
デレの名前がある筈がないのだから。
ちなみにキュートは3位だったそうだ。
*****
- 304 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 22:59:37 ID:DKAnmLaYO
- きてるううううう
- 305 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:00:24 ID:bWCcjkbkO
ζ(゚ー゚;ζ「……補習ですか」
( ∵)「補習ですねえ」
放課後、職員室。
名簿をペン先で叩きながら、英語教師はデレに補習を言い渡した。
( ∵)「一学期末でも赤点だったでしょう」
ζ(゚ー゚;ζ「はい……」
( ∵)「それでいながら今回、点数下がってるんですよ」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
( ∵)「このまま二学期末まで赤点だった日にはね……」
ζ(゚ー゚;ζ「ぐぬぬ」
( ∵)「……まあそんなわけでね、一応、補習やった方がいいと思うんですよ先生は」
ζ(゚ー゚;ζ「うう……」
( ∵)
( ∵)「あなたが嫌ならやりませんよ? 先生だって忙しいしね」
ζ(゚ー゚;ζ「や、やります、補習したいです」
- 306 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:04:59 ID:bWCcjkbkO
( ∵)「言い方ってありますよね」
ζ(゚ー゚;ζ「え……」
( ∵)「『この低能めにどうか補習を受けさせて下さいビコーズ先生』……みたいな」
ζ(゚ー゚;ζ
英語教師、ビコーズ。
生徒に容赦ないことで有名な30代独身男性である。
その性質もあって、授業にしろ試験にしろ難題を出すのを好む。
ただでさえ英語が苦手なデレにとって、彼の作るテスト問題など嫌がらせでしかない。
( ∵)「ん?」
ζ(゚ー゚;ζ「こ、この……低能めに……ど、どうか……どうか、……」
( ∵)「補習を」
ζ(゚ー゚;ζ「補習を……」
( ∵)「受けさせて下さい?」
ζ(゚ー゚;ζ「受けさせて下さい……ビコーズ先生……」
- 307 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:06:27 ID:bWCcjkbkO
( ∵)「先生の手本がなきゃお願いの一つも出来ませんか?
英語どころか日本語で文章考えるのすら苦手ですか? 自主性皆無ですか?」
ζ(゚ー゚;ζ(鬼畜……!)
( ∵)「先に日本語から教えなきゃいけないなら先生だって匙投げますよ」
ζ(゚ー゚;ζ「ぐっ……」
( ∵)「あーあ、補習受けたら少しだけ評点水増ししてあげるのになあ。
評点上げれば期末酷くてもぎりきり何とかなると思うのになあ」
ζ(゚ー゚;ζ「……ビコーズ、先生……っ」
( ∵)「評点低くてさらに赤点なんかとった日にゃ……はい?」
ζ(゚ー゚;ζ「この、愚かな、無知無能に……
先生の貴重な貴重なお時間を割いていただくのは、大変心苦しいのですが」
( ∵)「ええ、そうですね」
ζ(゚ー゚;ζ「どうか、その寛大な御心でもって、私めに補習を、……して下さい……」
( ∵)「可哀相にね、頭が良ければこんなことにはなりませんでしたのにね。
こんなに可哀相な長岡さんのために、先生頑張ってあげましょう」
- 308 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:08:16 ID:bWCcjkbkO
ζ(゚ー゚;ζ「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」
( ∵)「うん。本当はもっといじめたいけれど、
あと5人、5人もですよ、あなたのお仲間がいるのでね。
彼らにも同じようにお願いしてもらわないといけません。
時間が勿体ないので、長岡さんに関しては、これくらいで勘弁してあげます」
ビコーズが職員室の入口に振り返る。
そこで待機していた、恐らくデレの「お仲間」であろう生徒達が
びくりと体を跳ねさせた。
ζ(゚ー゚;ζ「ありがとうございます」
( ∵)「補習の時間などは後日お知らせしますね」
( ∵)「はーい次、オワタ君こっち来なさい」
\(;^o^)/「……オワタ」
*****
- 309 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:09:35 ID:bWCcjkbkO
というわけで翌週、月曜日から早速補習が始まった。
放課後にみっちり教科書と問題集の復習、
それからビコーズお手製のプリントや小テストを解かされ。
ようやく帰宅を許されたのは、外がすっかり暗くなった頃だった。
ζ( ー ;ζ「これがあと2週間続くのか……」
精神的にぼろぼろである。
家に帰ってから、ビコーズに渡された予習と復習のプリントもやらねばならない。
逃げたい。とても逃げたい。
しかし逃げたらビコーズに言葉で殺されそうだ。
ζ(-、-;ζ「くっそう……――う」
街灯の明かりに目が眩む。
思わず目を閉じた瞬間。
ζ(+、+;ζ「ぶにゃっ!?」
向かいから駆けてきた人間とぶつかった。
転んだデレに、慌てた様子の相手が「悪い」と声をかける。
手が伸ばされた。
それに掴まって立ち上がったデレに、相手は眉根を寄せる。
- 310 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:10:11 ID:bWCcjkbkO
<_プー゚)フ「あ?」
ζ(゚、゚;ζ「……ん?」
街灯に照らされた顔。
どことなく、見覚えがある。
思考すること3秒。
デレの頭に、先々週の記憶が蘇った。
ζ(゚、゚;ζ「――駅前の!」
<_フ;゚ー゚)フ「あっ、てめえ駅前の!」
ζ(゚、゚;ζ「テンプレ不良!」
<_フ;゚ー゚)フ「鬼!」
ζ(゚、゚;ζ
<_フ;゚ー゚)フ
沈黙。
互いに良いイメージがない――どころか、互いに「恐い」という印象しかない。
場を緊張が包んだ。
- 311 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:12:29 ID:bWCcjkbkO
ζ(゚、゚;ζ
<_フ;゚ー゚)フ
包んだが、どちらからもアクションはなし。
張り詰めた空気が段々緩んできた。
熟考したデレが出した結論は、
ζ(゚、゚;ζ「……こんばんは……」
<_フ;゚ー゚)フ「あ、こんばんは……」
とりあえず挨拶。
このとき、緊張感なるものはどこか遠くへ飛んでいった。
ζ(゚、゚*ζ「じゃあ私、これで……」
<_プー゚)フ「おう。悪いな、ぶつかって。ちょっと急いでたんだ」
ζ(゚、゚*ζ「いえいえ、私だって、この間ぶつかっちゃったし……」
寧ろ和やかな雰囲気が流れ始めている。
デレの中から、「恐い不良」という認識が抜け落ちた。
- 312 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:13:10 ID:bWCcjkbkO
<_プー゚)フ「んじゃ、気を付けろよ」
ζ(゚、゚*ζ「はい、そちらも」
<_プー゚)フ「……あ、そうだ」
ζ(゚、゚*ζ「?」
<_プー゚)フ「――この間の、あれ。ごめんな」
ぽかんとするデレに背を向け、彼は去っていった。
デレはぼんやり思う。
以前より、ずっと優しい声をしていたな、と。
*****
- 313 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:14:15 ID:bWCcjkbkO
<_フ;゚ー゚)フ「……フォックス」
息を切らしながら、エクストはフォックスの部屋に飛び込んだ。
きつい煙草の臭いに一瞬顔を歪める。
爪'ー`)y‐「おう」
部屋の明かりは机の上の電気スタンドだけ。
椅子に腰掛けて煙草を吸うフォックスの顔が、光に浮かんでいる。
フォックスは暗いのを好むのだと、エクストはつい最近知った。
珍しく、彼は1人だった。
思い返せば、エクストがここに来ると、いつもフォックスの仲間がいた。
今は誰もいない。2人きり。
慣れぬ状況に、エクストは怯んだ。
<_フ;゚ー゚)フ「何だ? 急に呼び出して――」
爪'ー`)y‐「お前よ、これ持っていってくんねえ?」
暗がりの中、フォックスが腕を振る。
エクストの胸元に衝撃。反射的に手で押さえると、硬い感触に触れた。
- 314 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:15:25 ID:bWCcjkbkO
手で形を確かめる。どうやら本らしい。
<_プー゚)フ「これ、何だ?」
爪'ー`)y‐「本。気味悪いんだよな」
フォックスが煙を吐き出す。
憎々しそうな声だ。
爪'ー`)y‐「先月、道端に落ちてるのを見かけたときにちょっと開いてみたんだがよ、
きったねえ本で、ろくに読めなかった。
だからそのまま放り投げて帰ったんだ」
なのに、と言葉を繋ぐ。
爪'ー`)y‐「なのに、何でか俺の部屋にあった。
いたずらかとも思ったけどな、誰かが部屋に入ったような跡もない」
<_プー゚)フ「変な話だな」
爪'ー`)y‐「だろ。俺もさ、そのときはさっさと捨てたんだ」
- 315 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:18:49 ID:bWCcjkbkO
しかし、それでも再び本はフォックスの部屋に戻ってきた。
何度捨てようと、その都度帰ってくる本。
いっそ燃やそうかとも考えたが。
爪'ー`)y‐「祟りとかあったら嫌じゃん? 馬鹿らしいけど」
<_プー゚)フ「……ああ」
爪'ー`)y‐「だからさ、エクスト持ち帰ってよ。んで、燃やしといて」
<_フ;゚ー゚)フ「俺が?」
爪'ー`)y‐「……やだ?」
<_フ;゚ー゚)フ「……別に、構わないけど」
爪'ー`)y‐「うん、ありがとありがと。持つべきものは友だね、……っと」
――突き刺さるような音が鳴り響いた。
エクストは驚きの声をあげそうになったが、何とか堪える。
新たな明かりが生まれた。
フォックスの携帯電話の液晶だ。
電話、と呟き、フォックスが通話ボタンを押す。
- 316 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:21:40 ID:bWCcjkbkO
爪'ー`)y‐「はあい? 何?」
へらへら笑っていたフォックスだったが、次第に顔が曇っていった。
眉間に皺が寄り、煙草が灰皿に押し付けられる。
爪'−`)「は? ――それでどうなったんだよ。……ああ、……。……そうか」
些か乱暴に携帯電話を閉じ、フォックスは机に目を落とした。
しんと静まり返る室内。
沈黙に耐え切れずにエクストが口を開きかけた、が、
言葉はフォックスによって引っ込まされた。
爪'−`)「参ったな」
<_プー゚)フ「……どうしたんだ?」
爪'−`)「死んだんだってさ」
<_プ−゚)フ「――誰が?」
爪'−`)「死んだっつーか……」
――仲間の1人が殺された、と。
フォックスは囁くように言った。
*****
- 317 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:23:11 ID:bWCcjkbkO
放課後。
楽しい楽しい補習の時間。
( ∵)「長岡さん」
ζ(゚、゚;ζ「……はい」
( ∵)「予習プリントと同じとこ間違ってますよ。何のための予習ですか。ねえ」
ζ(゚、゚;ζ「ご、ごめんなさい……」
( ∵)「馬鹿ですか? お馬鹿ちゃんですか? 頭からっぽですか? 夢詰め込めるんですか?」
ζ(;、;*ζ「ごめんなさい、馬鹿です、馬鹿だから今ここにいるんです」
( ∵)「それもそうですね。ああ泣きなさんな泣きなさんな。
今からもっと悲しい思いをしますからね、こんなことで泣いてちゃいけませんよ」
パイプ椅子に腰を下ろし、ビコーズが腕を組む。
「もっと悲しい思い」。この現状より酷い話があるというのか。
皆、息を詰めてビコーズの発言を待った。
- 318 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:27:12 ID:bWCcjkbkO
( ∵)「皆さん。シベリア高の生徒が亡くなったの、ご存知ですか?」
シベリア男子高校。
偏差値の低さと治安の悪さで名高い学校だ。
昨夜、その高校の生徒が1人、亡くなった。
デレも今朝ニュースで聞いたので知っている。
この学校でも生徒の話題はそのことで持ち切りだった。
それというのも、皆、死因に関心が引かれたからだ。
シベリア高校の生徒が命を落とした原因は事故や自殺などではない。
( ∵)「殺されたんですってね。刃物で一突き……でしたっけ。恐い恐い」
人の手によって殺された、らしい。
犯人は捕まっておらず、依然捜査中。
( ∵)「被害者の子、不良だったとか。
私怨の可能性もあるそうじゃないですか。悪いことはするもんじゃないですね。
先生のように心優しい天使には関係ない話ですが」
( ∵)「――それで、本題です」
ζ(゚、゚;ζ ゴクリ
- 319 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:28:46 ID:bWCcjkbkO
顎に手をやり、ビコーズは俯いた。
ああ、なんてわざとらしく嘆いてみせる。
( ∵)「現場はここからじゃかなり離れた場所なんですが、犯人が捕まってませんからね。
まあ用心するに越したことはないってんで」
( ∵)「生徒を夜まで学校に残しちゃいけませんという話になりましてね、ええ」
デレは横目で窓を見た。
日が暮れようとし、空が赤みを帯び始めている。
( ∵)「補習の時間も短縮。今日はこれで解散です」
――全員、口元が吊り上がりそうになるのを何とか押さえ込んだ。
机の下でガッツポーズをし、胸の内で歓声をあげる。
( ∵)「悲劇ですね」
ζ(゚、゚*ζ「ですねー」
( ∵)「長岡さん棒読みですが大丈夫ですか? ショックのあまり感情が消えましたか」
泣き叫んでもいいんですよとビコーズが言うので、丁重にお断りしておいた。
- 320 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:31:47 ID:bWCcjkbkO
( ∵)「……まあ、そんなわけで、皆さん気を付けてお帰りになって下さい。
寄り道はしない、可能なら複数人で行動しなさいね。
自転車は安全運転。何かあったら全力で逃げましょう。いいですか」
未だかつてないほど元気な返事をし、生徒達は立ち上がった。
ビコーズも溜め息をつきながら腰を上げる。
意気揚々と帰宅の準備をする生徒、
どさりという重たい音と共に教壇の上に大量のプリントを乗せるビコーズ――
デレ達の動きが、止まった。
( ∵)「でも安心して下さい。代わりにたっぷり課題は出しますから」
鬼畜のすることなんて、こんなものである。
*****
- 321 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:34:46 ID:bWCcjkbkO
(-_-)
(-_-)「次は、あいつ」
住宅街を歩きながら、ヒッキーは呟いた。
ポケットに入れてある折り畳みナイフ。
布越しに触れ、思い巡らせる。
(-_-)「昨日は楽だったなあ」
蘇る昨夜の記憶。
誰もいない夜道、油断しきっていた「敵」。
あんなに簡単に殺せるものだとは。
(-_-)「今日も上手くいくといいけど。
……いや、上手くいかないと困るって。うん」
――やられる前に、やらなきゃ。
ヒッキーはポケットに手を突っ込み、ナイフの柄を撫でた。
第三話 続く
- 322 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:37:53 ID:SWHe38g60
- 乙乙
今回も面白かっキュートかわいいよぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお
- 323 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:38:51 ID:DKAnmLaYO
- 乙ダヨー
- 324 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:40:33 ID:bWCcjkbkO
- 今回の投下終わりです
読んでいただき、ありがとうございました!
んで、ちょっとリアルの事情により2週間ぐらい投下出来なくなるかもしれません
っつっても不確定なので、その可能性がある、程度のことです
- 325 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:43:52 ID:CFO7yAHY0
- おっつっっっっッ!
- 326 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/23(水) 23:46:29 ID:bWCcjkbkO
- 念のため、しおり的な
第二話前 >>104-
第二話後 >>175-
第三話前 >>250-
ではでは
- 327 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/24(木) 00:05:28 ID:vTT0WhzIO
- 待ってたぞ
出てくるキャラが魅力的すぎる、ビコとかもうwww
待ってるぞ
- 328 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/24(木) 00:34:01 ID:Ugka96yI0
- 設定がしっかりしてる小説ってのはやっぱり読んでて楽しいね
- 329 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/24(木) 09:25:24 ID:4p47gDRk0
- 乙
射精した
- 330 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/25(金) 09:10:00 ID:u1Dn5aH20
- ビコーズ素晴らしいwww
- 331 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/25(金) 15:03:39 ID:QN0gIVa20
- 乙
ツンとブーンの関係が気になる
っていうかニュッがモテすぎじゃねえかちくしょー
- 332 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/03/26(土) 13:01:43 ID:dp85voRsO
- デレかわいい
- 333 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 21:57:32 ID:oZsWrUTsO
(;゚∋゚)「……ちょっと待て、何をしている」
o川* ー )o「服脱いでるんだよ。見て分からない?」
(;゚∋゚)「ばっ……や、やめろ!」
o川* ー )o「本気では止めないんだね。ほらほら、触ってみて」
(;゚∋゚)「――……っ!」
o川*^ー^)o「ふふっ、……柔らかいでしょ」
番外編 あないやらしや、官能小説
* うそです +
∧_∧ _∧
+ ζ *゚ー゚)^ν^)
n/ \n \n
(((ヨ ) ノ\E) ノ\E)))
(_⌒ヽ ⌒ヽ
ヽ ヘ } ヘ }
ε≡Ξ ノノ `Jノ `J
第三話後編投下しマウス
- 334 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 21:59:09 ID:oZsWrUTsO
<_プー゚)フ『……おう』
(-_-)『……』
ヒッキーが虐められ始めてから、1ヶ月が経った頃だった。
放課後、教室に忘れ物を取りに行ったエクストは、1人きりで佇むヒッキーに遭遇した。
軽く手を挙げて声をかけたが、ヒッキーは頭を小さく揺らしただけだった。
気まずい。
とっとと帰ろうと、エクストは自分の机から目的の忘れ物を取り出して鞄に突っ込んだ。
<_プー゚)フ『……』
<_プー゚)フ『なあ、ヒッキー』
(-_-)『……何……』
<_プー゚)フ『やっぱ、辛い……よな』
(-_-)『……』
ヒッキーが首を傾げる。
(-_-)『……そりゃあ、辛いさ』
<_プー゚)フ『……うん、だよな、ごめん』
(-_-)『殺してやりたくなるよ。あいつら』
- 335 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:00:06 ID:oZsWrUTsO
予想外に過激な言葉。
エクストは、こんなことも言うのかと絶句する一方で、
それはそうだろうなと納得もしていた。
ヒッキーはぶつぶつと呟き始める。独り言にも近い。
(-_-)『そんな度胸なんかないけど……でも、勇気が出たら殺してやるんだ……』
<_フ;゚ー゚)フ『……あー』
聞いていて気持ちのいいものではない。
だが、自分から話を振った手前、無視するのもどうか。
返事のしようもなくて鞄の中を掻き回していたエクストの指に、小さな箱が当たった。
引っ張り出した、それ。
エクストはヒッキーの隣に移動した。
(-_-)『ナイフで刺したら殺せるかな――』
<_プー゚)フ『ヒッキー』
(-_-)『――ん?』
<_プー゚)フ『やる』
差し出した箱。
今朝コンビニで買ったものの、結局手をつけずにいたチョコレート菓子。
- 336 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:00:31 ID:oZsWrUTsO
(-_-)『……何で』
<_プー゚)フ『鞄に入ってたから』
(-_-)『……』
(-_-)『ありがとう……』
最初にヒッキーと会話を交わしたのが、このとき。
それから度々エクストはヒッキーに声をかけるようになった。
――フォックスに脅されるまでの、たった2ヶ月間だったけれど。
- 337 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:01:19 ID:oZsWrUTsO
第三話 あな危なっかしや、サスペンス小説・後編
.
- 338 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:02:17 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ
自室の床に寝転がりながら、エクストは天井をじっと見つめていた。
電気が眩しい。
――昨夜に殺された生徒。フォックスの仲間の1人。
その事件のおかげで、今日は授業もなく、生徒の殆どは朝礼を終えてすぐに帰された。
だが、フォックスとその仲間、エクストの3人だけは学校に残された。
よく行動を共にしていたのだから、何か知っているだろう。
教師と警察の人間にそう問われたが、誰ひとり、答えられる者はいなかった。
心当たりなど皆無だ。
あっても、言えやしない。
<_フ;゚−゚)フ(……ヒッキー……)
もし、可能性として提示された「私怨」が本当に犯行の理由だったのなら。
真っ先に思い至る犯人は、ヒッキー。
あいつにそんな度胸はないと帰宅する際にフォックスは呟いていたが、
エクストは、それに頷けなかった。
- 339 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:03:10 ID:oZsWrUTsO
去年、エクストは聞いてしまっている。
ヒッキーの、フォックス達へ向ける殺意の言葉を。
――勇気が出たら殺してやるんだ――
勇気。ヒッキーが何かをきっかけに後押しされたのならば。
<_フ;゚−゚)フ
首を振り、エクストは起き上がった。
床に手をつくと、かつり、指先から音がした。
<_フ;゚−゚)フ「あ……」
本。フォックスから渡されたもの。
淡黄色のハードカバー、滲んだインク、猫のシルエット。
以前、ごみ捨て場で見たのと同じ。
今のところ、フォックスのもとに勝手に戻ってはいないようだ。
フォックスの下らない冗談だったのでは、とエクストは疑っている。
彼は、時折無意味にしか思えぬような悪戯をする。
<_プ−゚)フ「……まあ、いいか」
無意味なら無意味で、それはいい。
一応言われた通りにはしておこう。
- 340 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:04:05 ID:oZsWrUTsO
本を持ち上げ、エクストは台所へ向かった。
あまりヒッキーや事件のことを考えたくない。
気を紛らわせるために、何かをしていたい。
ガスコンロの火をつけ、そこに本を翳した。
――それから数分後。
本の残骸を三角コーナーに投げ入れ、コンロに散った灰を拭き取り、
エクストは息をついた。
この1年半も、こんな簡単に消せたらいいのに。
燃やして、灰になって、なかったことに出来たら。
<_フ;゚−゚)フ「……うおっ」
不意に、ポケットから甲高いメロディが流れた。
着信音。
- 341 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:04:49 ID:oZsWrUTsO
携帯電話を取り出し、発信者名を見る。
どくりと、心臓が跳ねた。
フォックス。
<_フ;゚−゚)フ「もしもし」
『――エクスト』
聞こえてきた声に、いつもの軽々しさはない。
違和感がエクストを襲う。
<_プ−゚)フ「どうした?」
『ニュース見た? やっべえかもしんないねー……』
<_プ−゚)フ「……何が――」
『また1人刺されちゃいました、とさ』
*****
- 342 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:05:59 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚*ζ「ええ、もう、やんなっちゃいますよ……」
『まあまあ、いいじゃないかお。僕が高校生のときの英語の先生なんて、
赤点とった生徒なんか人間扱いしなかったし、補習みたいな温情は与えなかったおー』
同時刻、長岡家。
リビングでプリントに向かい合いながら、デレは内藤と携帯電話で話していた。
テストの結果はどうだったのかと内藤が電話をかけてきたのだ。
改めてプリントを見ると気が滅入ってきて、デレはテレビをつけた。
ローカルニュースが流れている。
表示されるテロップを、ぼんやり目で追った。
『それじゃあ、そろそろ切るお。勉強の邪魔してごめんお』
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、いえ、気にかけていただいて嬉しいです」
『おっおっお。――ん、……あ、はいはい。デレちゃんデレちゃん』
ζ(゚ー゚*ζ「はい?」
『ニュッ君が言いたいことあるって。今、代わるお』
ζ(゚、゚*ζ「にゅ、ニュッさんですか?」
- 343 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:07:26 ID:oZsWrUTsO
思わず姿勢を正すデレ。
電話の向こうで、かたん、物音がした。
『ばーか』
ζ(゚、゚*ζ
ぷつん。
通話が切られた。
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚皿゚#ζ「ぐあー!!」
叫び、デレはペンを握りしめた。
プリントにニュッの似顔絵を描き、周りに「ばか」「おに」と書き散らす。
ζ(゚、゚#ζ「何なの、もう! 酷い!」
わざわざ電話を代わってまで馬鹿にするか、普通。
果たしてニュッは自分のことをどう思っているのだろうかと、不安に襲われた。
もしかして嫌われている?
- 344 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:07:56 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚*ζ「……」
手が止まる。
嫌っている人間をいちいちからかうなんて、普通はしないだろうが――
正直、ニュッは普通ではないし。
本当に嫌われているなら、それは寂しい。
ζ(゚、゚*ζ「……ん」
考え込んでいたデレは、テレビから聞こえてきた声に顔を上げた。
「シベリア男子高校」。例の事件の続報かと思ったが、違った。
新たな事件。
ζ(゚、゚;ζ「あれま……」
シベリア高校の生徒がまた1人、刺し殺されたらしい。
*****
- 345 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:08:57 ID:oZsWrUTsO
翌日の水曜日、シベリア高校は学校閉鎖を言い渡した。
外出を控えるように、との連絡が各生徒に回る。
ヒッキーを虐めていたフォックスの仲間は、エクストを除いて2人。
殺されたのはどちらもその2人だった。
自室に閉じこもりながら、エクストはいつ警察から自分に声がかかるか怯えていた。
まさか無関係だとは思われないだろう。
――そして木曜日の夕方。
エクストの家に、教師と刑事がやって来た。
両親は外出している。
親が居合わせなくて良かったと、エクストは安堵した。
<_プ−゚)フ「……どうぞ」
リビングに教師と刑事を案内する。
茶でも入れようとしたが、結構だと制止された。
早速だけど、とエクストの向かいに腰掛けた刑事が口を開く。
- 346 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:09:56 ID:oZsWrUTsO
/ ゚、。 /「ちょっと一連の事件について話をしに来たよ。
ちなみに、君に容疑がかけられてるわけじゃないから安心して」
<_プ−゚)フ「はあ」
/ ゚、。 /「それで、まず一つ訊きたいんだ。君のお友達……被害者2人が、
とあるクラスメートに度々暴力を振るっていたってのは本当かな。
色んな生徒が言っていたけど」
<_フ;゚−゚)フ「……え、っと」
/ ゚、。 /「あ、君は見てるだけだったっけ? エクスト君」
答えられないでいるエクスト。
刑事は、意外そうな顔でエクストを見た。
君はあまり悪い子じゃないのかな、と囁く。
/ ゚、。 /「ともかく……事実かどうかだけ、教えてくれる?」
<_プ−゚)フ「……」
膝の上で、エクストは拳を握り閉めた。
エクストの態度で、刑事はある程度の察しがついたらしい。
ほんの少し、刑事の目が哀れみに似た色を纏った。
- 347 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:10:46 ID:oZsWrUTsO
/ ゚、。 /「そう。分かった。事実だね。それで、その生徒……ヒッキー君?
ヒッキー君にも話を聞こうと思ってるんだけど」
<_フ;゚−゚)フ「……ヒッキーが疑われてるんですか」
/ `、、 /「疑う……うん、実はね、
ヒッキー君が、つい最近ナイフを購入していたんだよ」
<_プ−゚)フ「――ナイフ」
/ ゚、。 /「被害者はどちらも刃物で殺された。
……事件直前にナイフを買ったヒッキー君。どう思う?」
<_フ;゚−゚)フ「た、たまたま、……偶然……」
/ ゚、。 /「それからね」
刑事が身を乗り出す。
エクストは思わず口を閉じた。
/ ゚、。 /「ヒッキー君は、一昨日から姿を消している」
- 348 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:12:22 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「……は……?」
/ ゚、。 /「彼のお母さんが言うには、一昨日の午前中、学校から帰ってきたかと思うと
すぐに着替えて家を出ていったらしい。
そのときの彼の言葉だ。『行ってきます、ごめんなさい』。
……ごめんなさいって、どういうことだろうね?」
<_フ;゚−゚)フ「嘘だ」
/ ゚、。 /「嘘じゃないよ」
<_フ;゚−゚)フ「ヒッキーがそんなこと、……だってあいつ、気が弱くて――」
/ ゚、。 /「……勿論確定したわけじゃない。
けれど、全く怪しくないこともない。
失踪している以上、それ相応の理由がある」
<_フ; − )フ「……っ」
頭を抱えるエクストの背を教師が軽く叩いたが、
これは、そんなもので宥められるほどの動揺ではない。
フォックス達にろくに抵抗出来ないほど薄弱なヒッキー。
フォックス達を殺してやりたいと言っていたヒッキー。
ナイフを買って、家を出て。――何をした。
- 349 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:14:24 ID:oZsWrUTsO
/ ゚、。 /「もしも、これは『もしも』の話だけど。
もしもヒッキー君が犯人だったなら……君も、危ないかもしれないよ」
自分も危ない。
その意味を、ぼんやり、エクストは考える。
危ない。
そうか。そうだ。
ヒッキーを裏切った。フォックスの仲間になった。きっと恨まれている。
/ ゚、。 /「だからね、用心しておくように。
外出はなるべく控えて。学校も少し休んだ方がいいと思う。
勿論ここ一帯の巡回は強化するよ」
巡回強化。結局その程度だ。
ただの一般人であるエクストに警護などつくわけもない。
/ ゚、。 /「分かった?」
声での返事が出来ない。
喉が詰まったような感覚。苦しい。
がくがく首を振って、頷いた。
- 350 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:18:06 ID:oZsWrUTsO
/ ゚、。 /「何かあったら、すぐに警察に電話してね」
隣で、親御さんの方には学校から伝えておく、と教師が言った。
親に説明したところで、心配なんかされるだろうか。
エクストがフォックスとつるむようになって――不良ぶるようになって――から、
両親はエクストに嫌悪の感情しか向けなくなったように思う。
/ ゚、。 /「それで、もし良かったらさ。
君やお友達が、ヒッキー君にどんなことをしていたか具体的に――」
刑事の言葉は着信音に阻まれた。
君の? と問う刑事に、エクストはまた頷いた。
ポケットから携帯電話を取り出す。
/ ゚、。 /「……誰から?」
<_フ;゚−゚)フ「フォックス」
液晶に流れる名前を読み上げると、刑事は僅かに瞳を鋭くした。
/ ゚、。 /「フォックス……って、君のお友達の1人だね。電話かな? 出ていいよ。
ただし周りにも聞こえるようにね」
言われた通りにして、エクストは電話に出る。
全員、息を殺して耳に神経を集中させた。
- 351 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:19:49 ID:oZsWrUTsO
<_プ−゚)フ「……もしもし……?」
『エク、』
震えたフォックスの声。「エクスト」と名前を呼ぼうとしたのであろうそれは、
すぐに途切れた。
何かが崩れるような音、フォックスのささやかな悲鳴、足音、
携帯電話が硬いものにぶつかる音――
通話が切れたことを示す、電子音。
<_フ;゚−゚)フ「……は……?」
/ ゚、。 /「かけ直して」
<_フ;゚−゚)フ「は、はい」
着信履歴からかけ直す。
だが、虚しくコールが響くだけでフォックスは出てこない。
/ ゚、。 /「……フォックス君の家にも、先生と警察が行ってる筈なんだけどな」
独り言を漏らしながら、刑事は自分の携帯電話を開いた。
ボタンを押し、耳に当てる。
- 352 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:20:53 ID:oZsWrUTsO
/ ゚、。 /「――もしもし、鈴木だけど。
例の生徒さんの家には……うん?」
先程から無表情だった刑事の顔が、歪んだ。
空気が冷たさを孕む。
エクストの頭は、今、まともに働いてはいない。
/ ゚、。;/「まだ着いてない? ……急げ! 早く!!」
怒鳴り、携帯電話を畳む。
刑事はエクストに、もう一度フォックスに電話をかけろと告げた。
/ ゚、。;/「どう?」
<_フ;゚−゚)フ「……出ません」
/ ゚、。;/「くそっ……何で出ない!」
先程聞こえた、電話の向こうの音声。
あれは――とてもじゃないが、穏やかな雰囲気ではなかった。
フォックスに何があった?
まさか、まさか。
- 353 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:21:49 ID:oZsWrUTsO
数分後、刑事の携帯電話が鳴った。
/ ゚、。;/「……着いたか?」
沈黙。
それから、「後は任せた」と呟き、刑事は通話を切った。
<_フ;゚−゚)フ「フォックスは?」
/ `、、;/「……」
/ ゚、。;/「フォックス君が、自宅で……血まみれで倒れていたそうだ」
*****
- 354 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:24:03 ID:oZsWrUTsO
『――お前、こんなことして、ただで済むと……!』
『思ってないよ。既に2人やっちゃったし。
当然、警察からは逃げられないだろうね。
僕の両親も人殺しの親ってことになる。どんな目で見られるかな。申し訳ないや』
『……うあ、あああっ、い、っつ――』
『でも、まあ、そんなことどうでもいい』
『本当、どうでもよくなったんだ』
(-_-)『ばいばい、フォックス』
*****
- 355 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:26:43 ID:oZsWrUTsO
金曜日、放課後。職員室。
( ∵)「火曜日に渡した課題で気になってたんですが、何です。これ」
ζ(゚、゚;ζ「……ちょっと、色々ありまして」
気まずそうな表情のデレに、ビコーズは、ある1枚のプリントをひらひら翳した。
――隅に落書き。ニュッの似顔絵、罵倒の言葉。
先日、怒りをプリントにぶちまけたとき、うっかりボールペンを使ってしまった。
消しゴムでは消せない。修正テープを使ったところでビコーズの追及は免れないだろう。
そう判断し、デレは潔くそのまま提出したのであった。
( ∵)「彼氏と喧嘩でもしました? 別にそんなのは好きにすればいいと思いますが、
先生が丹精込めて作ったプリントに当たるのやめて下さいね。
あまりにもショックすぎて、先生思わずコピーして注釈つけてばらまいちゃいそうです」
ζ(゚、゚;ζ「彼氏じゃないです! コピーもやめて下さい!!」
( ∵)「長岡さんは面白いので先生大好きですよ。――はい、これ、今日と土日の分」
ζ(゚、゚;ζ「うう……また多い……」
- 356 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:28:42 ID:oZsWrUTsO
クリップでまとめられたプリントの束が手渡される。
新たな課題だ。
( ∵)「頑張って下さい、応援してます」
ζ(-、-;ζ「はい……」
( ∵)「じゃあ、早くお帰りください。人通りの多い道を歩きなさいよ」
ζ(゚、゚;ζ「さようならー」
「男子高校生連続殺人事件」。
シベリア高校の生徒が3人も殺された事件は、そう名付けられた。そのままだ。
いよいよもって近隣住民や他校生にも警戒を促されるようになり、
部活や居残りは全面禁止となった。
勿論補習もだ。
かといって、こうもたんまり課題が出されては嬉しくも何ともない。
ζ(-、-;ζ「はあ……」
憂鬱だ。
学校を出て、デレは溜め息をついた。
- 357 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:29:58 ID:oZsWrUTsO
ビコーズに言われた通り、人気の多い道を行く。
まさか自分が襲われるとは思っていないが、用心するに越したことはない。
遠回りになるのが少々不服だが。
住宅街に差し掛かった。
小学生が複数人、教師だろうか、大人に引率されて下校している。
血生臭い事件など気にもせず、賑やかにふざけ合いながら歩く少年達を見ている内、
デレの顔に笑みが浮かんできた。
「――エクスト君、何か変わったこととかあった?」
ζ(゚、゚*ζ「?」
ある家の前を通った瞬間、声が聞こえた。
ちらりと横目で声の主に視線を送る。
デレの足が、止まった。
玄関先で会話している2人の男。
1人はデレに背を向けているが、もう片方、相対している男の顔は確認出来た。
<_フ;゚−゚)フ
「不良少年」だ。
虚脱しきった表情で、ぼそぼそ呟いている。
- 358 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:32:33 ID:oZsWrUTsO
いくらか話すと、背を向けていた男が踵を返した。
服装から察するに警官。
門の前に立ち尽くすデレを見て男は一瞬訝しげな目をしたが、
軽く会釈し、その場を後にした。
デレは、男から「不良少年」へ視線を移す。
<_プ−゚)フ「あ」
ζ(゚、゚*ζ「……どうも」
エクスト、と呼ばれていた。
彼の名前だろうとデレは推測する。
エクストは小声で「おう」と言って、家の中に引っ込んだ。
ζ(゚、゚*ζ(ここに住んでるんだ)
意外と近所なんだなと、ぼんやり思う。
そういえば、以前、ここを出る辺りの道で会ったんだった。
だから何だというわけでもないが――
ζ(゚、゚*ζ「ん?」
(-_-)
ふと前方に向き直ると、同年代くらいの少年と目が合った。
黒いパーカー、紺色のジーンズ。
ジーンズの裾に、小さな染みがある。
- 359 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:33:27 ID:oZsWrUTsO
少年はしばらくデレを眺めた後、目を逸らして歩き出した。
ζ(゚、゚*ζ「……」
何故だか無性に気になったが、わざわざ声をかけるつもりにはならない。
首を傾げ、デレも足を動かした。
*****
- 360 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:34:15 ID:lLcAKqpIO
- きてたー!
- 361 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:34:44 ID:oZsWrUTsO
巡回のついでに訪ねてきた警察官の言うことには。
昨日――フォックスが殺される直前、
彼の住むアパートを訪ねる少年を見た者がいたらしい。
その目撃者が語る特徴は、ヒッキーに酷似していた。
疑いはどんどん強まっていく。
エクストの不安も。
<_フ;゚−゚)フ「……」
――本当にヒッキーがやった?
フォックス達をヒッキーが殺した?
どうして。
虐められたからだ。
辛かったから、苦しかったから、フォックス達が憎かった。
自分は?
エクストは直接手を出すことはしなかった。
だが、積極的に止めようともしなかった。
なるべく見ないように、聞かないように、逃げていた。
それはヒッキーの目にどう映るか。
- 362 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:36:02 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「わ、」
着信音。
音量は最小に設定していたが、妙にやかましく感じられた。
発信者、「公衆電話」。
誰だろう。
<_プ−゚)フ「……もしもし」
『あ、エクスト君』
――ヒッキーにエクストはどう見えただろう。
<_フ;゚−゚)フ「……は……え、え……?」
『エクスト君の家の近くにさ、公衆電話あるでしょ』
<_フ;゚−゚)フ「お前……え……」
『ちょっと、窓からでいいからさ、電話ボックス見てみてよ』
窓に駆け寄る。
ガラス越しに、斜め前、曲がり角に設置されている電話ボックスを凝視した。
- 363 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:37:31 ID:oZsWrUTsO
――気遣うように話しかけておきながら、ヒッキーを裏切ったエクスト。
<_フ;゚−゚)フ
(-_-)
(-_-)『……エクスト君、何て顔してるのさ』
――ヒッキーが、憎く思わない筈がない。
<_フ;゚−゚)フ「ヒッ、キ……な、何で、何でここに!」
(-_-)『「何で」? 分からないの? エクスト君が僕にしてきたこと思い出してよ。
それでも分からない?』
電話ボックスの中から、一軒家の2階にいるエクストを見上げるヒッキー。
唇の両端を吊り上げる。
- 364 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:38:18 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「……フォックス達をやったのって」
(-_-)『あ、それ僕。
今度はさ、エクスト君に用があって』
用。
復讐?
(-_-)『……とりあえずエクスト君の家も確認出来たし、今日はこの辺で。
案外警察に見付からないもんだね。じゃあ、またね』
ヒッキーが受話器をフックに引っ掛け、電話ボックスを出る。
遠ざかる背中をじっと見つめていたエクストは
ヒッキーが角を曲がるや否や、へたり込んだ。
足が震える。
体が冷える。
家を確認出来たと言った。
エクストの居場所を知られた。
- 365 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:40:43 ID:oZsWrUTsO
<_フ; − )フ
<_フ; − )フ「警察」
そうだ。
警察に連絡、を。
<_フ; − )フ「……」
――指が動かない。
ヒッキーは捕まるべきなのだろうか。
悪いのはフォックス達とエクストだ。ヒッキーは被害者。
相手を殺そうと考えるほど、ヒッキーは追い詰められていた。
エクストの現状は自業自得。
だけど。
エクストだって、死ぬのは嫌だ。
手から携帯電話が滑り落ちる。
どうしたらいい。
呵責と恐怖がぐるぐる回る。
<_フ; − )フ「あ、う……う……」
目眩がする。
気持ちが悪い。
- 366 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:43:31 ID:oZsWrUTsO
数分が過ぎた頃、玄関のチャイムが鳴った。
階下で母がドアを開ける音。
しばし話し込んでいたかと思うと、母がエクストを呼びつけた。
ふらふらしながら部屋を出たエクストは、ゆっくり階段を下りていった。
( ^ω^)「どうも、こんにちは」
ξ゚听)ξ「エクストさんですね」
ハハ ロ -ロ)ハ「急にゴメンナサイ」
<_フ;゚−゚)フ「はあ……」
――訪問者は、男女の3人組だった。
にこにこ笑うスーツ姿の男に、はっとするほど美しい少女、眼鏡をかけた高身長の女。
男は名刺を差し出す。名刺に書かれた名前、内藤ホライゾン。
少女はツン、眼鏡の女はハローと名乗った。
<_フ;゚−゚)フ「……上がっていきます?」
( ^ω^)「あ、いやいや、結構。お気遣いなく。すぐ済む話なんで、このまま玄関で」
気遣いなどではなく、今のエクストには立ったまま話すのが辛いから提案したのだが。
こうもあっさり答えられれば、そうですかと引き下がるしかない。
- 367 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:45:15 ID:oZsWrUTsO
( ^ω^)「僕は名刺の通り、図書館の館長やってるんだお。
それで、ちょっとね、ある本を探してるんだけど」
<_プ−゚)フ「本?」
( ^ω^)「……君さ、シベリア高のあの事件――被害者、ええと、フォックス君だっけ?
あの子の友達だおね?」
<_フ;゚−゚)フ「何で知って……」
( ^ω^)「知り合いに調べてもらったお。
――んで、フォックス君について訊きたいんだけど、
本のこととか何か言ってなかったかお?」
<_プ−゚)フ「本」
( ^ω^)「本。変な本」
変な本。
フォックスがエクストに託した黄色い本。
<_プ−゚)フ「……捨てても、勝手に戻ってくる不気味な本?」
内藤の笑みが深くなる。
ビンゴ、と囁いた。
- 368 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:48:47 ID:oZsWrUTsO
( ^ω^)「それそれ。本のタイトルや見た目とか分かるかお?」
<_プ−゚)フ「タイトルは消えてたから分からないけど……。
薄い黄色で、……猫? のマークがついてた」
ハハ ロ -ロ)ハ「オオ、間違いなくワタシのデス」
( ^ω^)「上々だお。エクスト君、その本、預かってないかお?
警察に頼んでフォックス君の部屋を探してもらったんだけど、
本が見付からなかったんだお」
<_プ−゚)フ「……預かった、けど」
ハハ ロ -ロ)ハ「ケド?」
<_プ−゚)フ「フォックスに頼まれて――燃やした」
( ^ω^)
( ^ω^)「あらまあ」
額を片手で叩き、内藤は深く溜め息をついた。
マジか、あーあ、などとぶつぶつ呟いている。
<_フ;゚−゚)フ「な、何? 何だよ?」
ξ゚听)ξ「……気にしないで。燃やしてしまったなら、もういいの」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシとしては腹立ちますケド」
- 369 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:51:07 ID:oZsWrUTsO
( ^ω^)「あー、分かったお。ありがとう。じゃあ、僕らはこれで」
<_フ;゚−゚)フ「……あの、俺、悪いこと……」
( ^ω^)「いや、大丈夫。……まあ、あの本に関しては、下手に出回るより
燃えて無くなってしまった方が良かったのかもしれないし。
それじゃ、さようなら。いきなりすまなかったお」
<_プ−゚)フ「はあ……」
内藤達は、ドアを開け――振り返った。
( ^ω^)「一つ、いいかお」
<_プ−゚)フ「はい?」
( ^ω^)「本を燃やしたのは、フォックス君が刺された後かお? それとも……」
<_プ−゚)フ「……前。フォックスが刺されたのが昨日で……燃やしたのは、3日前」
内藤は、細い目を僅かに見開いた。
そうかお、と返事。
( ^ω^)「……もう、終わってたのかお」
*****
- 370 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:52:31 ID:oZsWrUTsO
――既視感。
今朝、ニュースを見ていたニュッとハローが覚えたのは、それ。
ハハ ロ -ロ)ハ『男子校、3人の生徒、刺殺……』
( ^ν^)『……』
ハハ ロ -ロ)ハ『館長ー』
( ^ω^)『何だお?』
ハハ ロ -ロ)ハ『タダの偶然ならいいんですケド。
この事件、昔ワタシが書いたおハナシと似てマス』
( ^ω^)『……本当に?』
ハハ ロ -ロ)ハ『エエ――』
内藤は「知人」に連絡をとった。
事件の概要、未だ公表されていない容疑者についての情報を求める。
しばし待てと知人が言い、一旦電話を切った。
- 371 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:56:13 ID:oZsWrUTsO
――1時間後、知人からメールが届く。
被害者は3人共素行が悪かった。
3人目、フォックスという生徒はリーダーのような存在。
彼らはクラスメートの1人を虐めていた。
そのクラスメート、ヒッキーが現在行方不明だという。
( ^ω^)『……どう?』
ハハ ロ -ロ)ハ『イッショ。まったくイッショ』
( ^ν^)『「主人公」は、このフォックスって奴だった筈だ。
いじめられっ子に次々と仲間を殺されて追い込まれていく役』
ハハ ロ -ロ)ハ『殺されてしまったカラ、もう終わってマスね、キット』
( ^ω^)『……』
内藤はハローを見る。
何か言いたげに口を開け、――すぐに閉じた。
ハローが小首を傾げる。
ハハ ロ -ロ)ハ『……「お前があんな話を書かなければ」?』
( ^ω^)『……そんなこと、思ってないお』
ハハ ロ -ロ)ハ『どうダカ』
*****
- 372 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 22:58:42 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚*ζ「本が燃えるとどうなるんですか?」
( ^ω^)「デレちゃんは火をつけられて燃え尽きても、生きていられるかお」
ζ(゚、゚;ζ「無理です」
( ^ω^)「本も一緒。死んじゃうお」
翌日。土曜日。
学校も休みということで、デレは久しぶりにVIP図書館を訪れた。
デレに内藤、ツン、ニュッとハローも加わり、
ツンが入れた紅茶とクッキーを飲み食いしながら雑談している。
話題は、自然と今回の事件へ流れていった。
ξ゚听)ξ「だから、強制的に演じさせられたときの対処としては、
本を燃やすのが一番手っ取り早いんだけれど……」
ハハ ロ -ロ)ハ「自分が一生懸命書いた本を燃やされるのって、トッテモ悲しいデスヨ。
何ヨリ『殺す』のと同じダシ」
淡黄色のノートにペンを走らせながら、ハローは言う。
デレの事件の際、燃やすという内藤の発言に貞子は本気で怒っていた。
きっと、そういうものなのだろう。
- 373 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:00:50 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚*ζ「……でも、燃やしちゃったってことは、
この事件、これで終わりなんですよね」
ξ゚听)ξ「『本』によって引き起こされたのなら、ね。
まあ、フォックスって人が本を持ってたらしいし、確定でしょうけど」
紅茶を一口。
デレは犯人のことを考え、少し、胸が痛んだ。
ζ(゚、゚*ζ「だったら」
( ^ω^)「ん?」
ζ(゚、゚*ζ「もっと早く燃やしてれば……
彼らを殺すことも、殺されることもなかったんですよね」
命を落としたフォックス達も、
命を奪った――かもしれない――ヒッキーという少年も、
全員被害者にしか思えない。
そう漏らしたデレの耳を、横から伸びた手が引っ張った。
- 374 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:02:06 ID:oZsWrUTsO
ζ(+、゚;ζ「ひゃひっ、痛っ、いたた、ニュッさん、いたいっ」
( ^ν^)「黙ってろ」
ζ(+、゚;ζ「へ……」
視界にハローが入った。
ペンを持つ手が止まっている。
ζ(゚、゚;ζ(――あ)
そこで、デレはひどい自己嫌悪に陥った。
後悔ばかりが沸き上がる。
本のせい。
それが正しいなら、その本を書いたハローはどんなに心苦しいか。
ζ(゚、゚;ζ「は、ハローさん、違うんです、私、あの、別に」
ハハ ロ -ロ)ハ「いいデスヨ」
ハローがノートを閉じた。
口元だけが、緩やかに笑っている。
- 375 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:05:04 ID:oZsWrUTsO
ハハ ロ -ロ)ハ「前も……ワタシの本のせいで亡くなった方がいまシタ。その前ニモ。何度モ」
ζ(゚、゚;ζ「……」
( ^ν^)「少なくとも」
自責の念を滲ませるハローの言葉を、ニュッが遮った。
それから、溜め息。
( ^ν^)「主人公……フォックス? っつったっけか。
あれは本とは無関係だ」
ζ(゚、゚;ζ「え? でも主人公――」
( ^ν^)「兄ちゃんが言うには、フォックスが殺される前に本は燃やされていた」
( ^ω^)「だお。その時点で彼らは解放されてたんだお。
にも関わらず、犯人役はフォックス君を殺しに行った。
解放されても、犯人から殺意は離れなかったんだお」
( ^ν^)「犯人役にされた奴は、よっぽどいじめっ子を恨んでたんだろう」
ζ(゚、゚;ζ「……最後は、100パーセント犯人の意思による犯行だったんですね」
( ^ν^)「ああ」
- 376 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:08:02 ID:oZsWrUTsO
――ニュッは、今回の3つの殺人事件において
「本」に大した非はないのでは、と考えている。
内藤の知人からの情報によれば、虐められていた少年は
去年から既に被害を受けていた。
たとえばキュートのように、本に巻き込まれてから虐められ始めたわけではない。
偶然だ。
全ては偶然。
本を手にしたフォックスは、「偶然」、男子校に通っていて。
「偶然」、不良で。
「偶然」、クラスメートを虐めていて。
「偶然」、いじめっ子グループのリーダーだった。
当然フォックスはヒッキーから恨まれていただろう。
本は、間接的にヒッキーの背中を押しただけ。
必要な条件や設定は最初から揃っていた。
だから――何もかも本のせい、とは、思えないのだ。
もっと言ってしまえば、本がなくても、いずれ同じことが起きていた恐れもあった。
- 377 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:10:33 ID:oZsWrUTsO
( ^ν^)「とにかく、これから犯人がどうなるかは、そいつ次第だ。
やけになって無差別に人を傷付けるか、自首するか、
逃げるか、自殺するか――何にせよ、もう俺らには関係ない」
言外に、ハローには責任などないのだといった意味を匂わせている。
それに気付いたハローは嬉しそうにニュッに抱き着き、突き飛ばされた。
( ^ω^)「ん、まあー、無関係だおね。エクスト君が狙われようと」
ξ゚听)ξ「ハローの書いた本には、エクスト君に該当する登場人物はいないんですっけ」
ハハ ロ -ロ)ハ「イタタ、ニュッ君たら照れ屋サン……ン?
ああ、ハイ、本では不良グループは3人ダケでしたカラ」
ζ(゚、゚*ζ(――エクストさん……)
エクスト。
内藤達が本の所在を訊ねたという相手。
デレが下校中に見かけた「不良少年」もエクストと呼ばれていた。
ζ(゚、゚*ζ「……」
多分内藤の言うエクストとデレが見たエクストは同一人物。
デレは目を伏せる。
エクストもヒッキーを虐めていたのだろうか。
そういった陰湿さは、彼からは感じられなかったが。
- 378 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:12:14 ID:oZsWrUTsO
ξ゚听)ξ「……そうだ、ハロー、ホットケーキ食べる?」
ハハ ロ -ロ)ハ「イイノ?」
ξ゚听)ξ「いいわよ。ああ、メープルシロップは買い忘れたけど……。デレは?」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、いただきます」
( ^ω^)「僕はクッキーだけでいい……あ、手伝うおー」
( ^ν^)「俺もいらない」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ホットケーキーホットケーキー」
ハローは子供のようにはしゃぎ、ホットケーキを心待ちにしている。
待っててね、とツンが腰を上げた。
手伝いを申し出た内藤も席を立ち、2人は2階に向かう。
それから間もなく、今度はニュッが立ち上がった。
ζ(゚、゚*ζ「どうしました?」
( ^ν^)「便所」
ハハ ロ -ロ)ハ「イッテラッシャーイ」
ニュッは2階へ上っていった。
この図書館の奥にもトイレはあるのだが、殆ど利用されていないらしい。
そもそも図書館への来客自体が皆無に等しいのだから当たり前か。
- 379 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:14:15 ID:oZsWrUTsO
デレとハローの2人きり。
黙々と小説を書いているハローに、デレは恐る恐る声をかけた。
ζ(゚、゚*ζ「ハローさん」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハイ?」
ζ(゚、゚*ζ「前から気になってたんですが……ハローさんって、
ニュッさんのこと、えー……す、好きなんですか?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ン? ニュッ君? 大好きデスヨ」
ζ(゚、゚*ζ「恋愛的な……あの、そういった、あれですか」
ハハ ロ -ロ)ハ「イイエ。館長やツン、みんなに向ける愛情と同じデスガ」
ζ(゚、゚*ζ「だって、ハローさん、ニュッさんと……け、結婚、しても構わないんでしょう?」
ハハ ロ -ロ)ハ「エエ。ワタシの全てはニュッ君のタメ――」
ζ(゚、゚;ζ「それ! それです。『全て』なんて言っちゃうぐらい好きなら、」
ハハ ロ -ロ)ハ「……コレは、好きダカラ全て捧げてもイイ、という意味ではありまセンヨ?」
ζ(゚、゚;ζ「……はい?」
- 380 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:16:07 ID:oZsWrUTsO
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシの『全て』はニュッ君のタメにあるからデス。
クックルも、貞子も、デレがマダ会っていない他の作家達モ。
みんなみーんな、ニュッ君タダ1人のタメの存在ナノ」
ハハ ロ -ロ)ハ「ダカラ、ニュッ君がワタシと付き合いたいトカ結婚したいッテ言うナラ、
ソレに従いマスヨ」
引っ掛かる。
本だけではなく、作家自身さえニュッのもの――所有物であるような、そんな言い方。
家族という和やかな繋がりよりも、寧ろ主従にも似た、何か。
ζ(゚、゚;ζ「……ニュッさんのお祖父ちゃんが、ニュッさんのために連れてきたから?
だから、そんなに……」
眼鏡の奥、ハローの目が細められた。
数秒間見つめ合う。
デレが視線を逸らしたのとハローが口を開いたのは同時。
ハハ ロ -ロ)ハ「コレ以上は、ナイショ」
話を変えましょう、と言って、ハローは再び本を閉じた。
- 381 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:17:35 ID:oZsWrUTsO
ハハ ロ -ロ)ハ「デレ、課題出されたんデスッテ?」
ζ(゚、゚*ζ「……はい。今も一応持ってきてます」
鞄から英語の課題を出すと、ハローが「ワオ」と大袈裟な反応をした。
興味深そうにプリントを見つめる。
ハハ ロ -ロ)ハ「スゴイ量」
ζ(゚、゚*ζ「……『土日を挟むから3日分です』って……」
ハハ ロ -ロ)ハ「夏休みトカに出されるのヨリ多いんじゃないデスカ、コレ」
ζ(-、-;ζ「夏休みは夏休みで、もっと酷かったです。英語は」
ハハ ロ -ロ)ハ「ウワア……今の内に少しデモやっといた方がいいんじゃアリマセン……?」
ζ(;、;*ζ「ええ、やりますとも」
ハハ ロ -ロ)ハ「何秒で寝るかタイム計ってあげまショウ」
ζ(;ー;*ζ「お優しい言葉ありがとうございます畜生」
*****
- 382 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:19:48 ID:oZsWrUTsO
それからそれから。
ξ゚听)ξ「――デレ、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」
ζ("ー"*ζ「え? まだ夕方になったばっかだよー」
ξ゚听)ξ「『もう』夕方。あの犯人も捕まってないんだし、暗くなったら危ないわよ」
ζ("ー"*ζ「だいじょ、大丈夫、ぶひぃ」
( ^ν^)「どう見ても限界だろ」
ハハ ロ -ロ)ハ「睡魔と拮抗状態にありマスネ」
今回のデレは無事、寝ずに済んだ。
だいぶぎりぎりだが。
頭がかっくんかっくん揺れている。
呆れ顔で、ツンはデレの肩を叩いた。
- 383 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:21:28 ID:oZsWrUTsO
ξ゚听)ξ「歩いてれば目も覚めるでしょ」
ζ("ー"*ζ「うひひー。あーるーこー。あーるーこー」
(;^ω^)「……車で送るお?」
ζ("ー"*ζ「平気でござる。平気でござる」
テーブルに散乱している課題を雑に鞄へ放り込み、デレは帰宅することにした。
心配する内藤達に手を振って図書館を出る。
――林の中を歩いている内、ツンの言う通り目が冴えてきた。
帰ってからも課題をやらなければならない。
面倒だ。
*****
- 384 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:22:23 ID:oZsWrUTsO
日が暮れ始めた頃。
携帯電話が鳴った。
<_プ−゚)フ
発信者、「公衆電話」。
エクストの手が震える。
<_プ−゚)フ「……もしもし……」
窓から通りを見下ろす。
道は無人。電話ボックスには――いた。
(-_-)『やあ』
<_フ;゚−゚)フ「ヒッキー……」
- 385 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:23:45 ID:oZsWrUTsO
(-_-)『もうちょっとじわじわいきたかったけど……。
ゆっくりやりすぎて、目的達成しないまま捕まるのも嫌だしね。
今日で決着つけよう』
<_フ;゚−゚)フ「決着?」
(-_-)『うん――あ、人来た』
不意に、電話ボックスの脇を少女が通った。
ヒッキーへの恐怖で痺れたエクストの頭。
最近あいつをよく見るな、なんて、どうでもいいことを考える。
ζ(゚、゚*ζ
携帯電話で何か話している。
とぼとぼ、ゆっくり歩く足取り。
突然、石に躓いたのか、エクストの家の真ん前で勢いよく転んだ。
ヒッキーの笑う声がする。
(-_-)『はは……転んでら。
……早くどこか行ってくんないかな、邪魔だな……』
起き上がったものの、足が痛むらしくなかなか立とうとしない。
段々、ヒッキーから苛々した気配がし始めた。
- 386 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:25:08 ID:oZsWrUTsO
(-_-)『こっちはゆっくりしてらんないんだけどなあ。
……いいや、やっちゃおうか?』
<_フ;゚−゚)フ「は?」
電話が切れる。
ヒッキーは、ボックスを出た。
<_フ;゚−゚)フ「……!」
携帯電話を放り投げ、エクストは部屋を飛び出した。
階段を一段飛ばしで下り、玄関で靴を突っかける。
<_フ;゚−゚)フ「おい!」
ζ(゚、゚;ζ「へっ?」
ドアを開けて、叫んだ。
少女の数メートル後ろにひらひら右手を振るヒッキーがいる。
エクストは少女に駆け寄り、手を引き立ち上がらせた。
- 387 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:26:23 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚;ζ「な、何――」
<_フ;゚−゚)フ「ヒッキー、こいつは関係ねえだろ!」
ζ(゚、゚;ζ「ひっき……?」
(-_-)「昨日も見たけど、知り合いっぽいよね。無関係でもないでしょ」
<_フ;゚−゚)フ「――!」
ヒッキーの左手。
折り畳み式のナイフが開かれる。
ζ(゚、゚;ζ「ナイフ? え? え?」
エクストは、
<_フ;゚−゚)フ「走れ!」
掴んだままの手を引っ張り、駆け出した。
*****
- 388 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:28:09 ID:oZsWrUTsO
わけが分からないまま走らされ、デレは困惑しきっていた。
怪我をした両足が痛む。
ζ(゚、゚;ζ(この人、エクストさん……で、あの人が)
振り返る。
黒いパーカー、紺色のジーンズ。昨日見かけた少年だ。
ζ(゚、゚;ζ(ヒッキー、さん)
聞き覚えがある。
たしか――内藤が知人に調べさせたという情報にあった、虐められていた少年の名前。
容疑者の、名前。
ヒッキーはナイフを畳んだり開いたりしながらデレ達を追いかけている。
追いかけると言っても、走るデレとエクストに対し、ヒッキーは悠然と歩いているだけ。
どんどん遠ざかっているのだが――
ζ(゚、゚;ζ「ま、待って、エクストさん、待って」
<_フ;゚−゚)フ「あ? 何で俺の名前……」
何故自分の名前を知っているんだと問おうとしたエクストは、
デレの辛そうな顔を見て口を噤んだ。
- 389 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:31:37 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚;ζ「い、痛いです、足……」
<_フ;゚−゚)フ「うわ」
スカートから伸びる両足。その膝から臑にかけて、
だらだらと凄まじい量の血が溢れている。
先程転んだ際、結構派手にやってしまったらしい。
デレが足を動かす度、膝から下に刺すような痛みが広がる。
あまり長く走ってもいられない。
おぶってやろうかとエクストは考えたが、人1人背負って走れるほど筋力があるかと問われれば
首を横に振って答える程度には非力だ。
選択肢はいくらでもある。
エクストが囮になってデレを逃がす。
デレの手を放し、置いていく。
近所の家に逃げ込む。
ヒッキーに立ち向かう。
どこかに隠れ、やり過ごす。
- 390 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:32:57 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「……もうちょっとだけ頑張れ!」
ζ(゚、゚;ζ「はいっ」
エクストは、5つ目を選んだ。
デレを見捨てたり、ヒッキーを説得したりなんて出来はしない。
エクストが囮になっても、この怪我では、デレが1人で走って逃げられるかどうか。
かといって、どこかに逃げて――通報されるのも、嫌だ。
非常に馬鹿らしい話だが、エクストは、ヒッキーに捕まってほしくなどなかった。
虐められて、殺すほど人を憎む羽目になって、逮捕されて。
それでは哀れだと、エクストは本気で思っている。
<_フ;゚−゚)フ(……くっそ)
――自分で何がしたいか分からない。
こうして逃げているのは、殺されたくないから。
だが、胸に潜む罪悪感は「自分も罰を受けるべきだ」と唱える。
逃げたい。逃げる自分が許せない。
分からない。
- 391 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:34:54 ID:oZsWrUTsO
ヒッキーとだいぶ距離があいた。
角を曲がり、公園に入る。
ζ(゚、゚;ζ「公園?」
<_フ;゚−゚)フ「走れないなら、隠れるしかねえだろ!」
誰もいない。
元々利用者が減っていたのに加えて、今回の連続殺人事件の影響で
夕方以降の外出を禁止された子供が多いからだろう。
公衆トイレに飛び込む。
ζ(゚、゚;ζ「だっ、男子トイレですかっ!?」
<_フ;゚−゚)フ「今はそんなこと気にしてる場合か!?」
言い合いながら一番奥の個室に入り、鍵を閉めた。
2人同時に溜め息をつく。
ζ(゚、゚;ζ「……見付かりませんかね……」
<_フ;゚−゚)フ「分かんねえ」
ζ(゚、゚;ζ「あっ、い、今の内に警察――」
両手をわきわきと動かしたデレは、ぽかんと口を開けて固まった後
「あ」と声を漏らした。
- 392 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:38:18 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚;ζ「……さっきの」
――携帯電話で話している最中に転んだ。
鞄も携帯電話も、そのときに落としてしまった。
ζ(゚、゚;ζ「……あの、携帯、持ってません?」
<_フ;゚−゚)フ「ねえよ」
ζ(゚、゚;ζ「うう……」
<_フ;゚−゚)フ「……とりあえず、静かにしてろ」
黙り込む。
デレは、膝の痛みや、エクストのことや、先の電話の内容をぼうっと鈍る頭で考えた。
一方のエクストは耳を澄まし、ずっと頭の中を占めているものを掘り下げていく。
自分は恨まれて当然のことをした。
こうして隠れるより、今すぐヒッキーの前に現れて、おとなしく刺された方が
ヒッキーと自分の胸をすっきりさせられるのではないか。
けれども、やはり恐い。
臆病なエクストには、自ら痛い思いをしに行く勇気などない。
それが腹立たしい。
自分はこんなにもうじうじした人間だっただろうか。
- 393 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:40:14 ID:oZsWrUTsO
死んでしまえと思う。
死にたくないとも思う。
<_フ;゚−゚)フ「……」
自分では何も出来ない。
だから、今――ヒッキーに見付かったら、抵抗は絶対にしないことにしよう。
見付からなかったら。
見付からなかったら、どうする?
またヒッキーが追いかけてきてくれるのを待つ?
<_フ; − )フ(……なっさけねえ……)
――数分。
実際に流れた時間はそれぐらい。
しかし、デレとエクストには何十分にも感じられた。
ふと視線を下げたエクストは、ぎょっとした。
汚れた床に、血らしきものが少量散っている。
その原因にはすぐに思い当たった。
- 394 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:41:32 ID:oZsWrUTsO
ζ(゚、゚;ζ
<_フ;゚−゚)フ「……おい」
ζ(゚、゚;ζ「はい……?」
<_フ;゚−゚)フ「これ、お前のか」
デレの膝。
そこから流れている血が、動いたときに飛び散ったのだろう。
ζ(゚、゚;ζ「……!」
しばらく床を眺めていたデレは、突如、目を見開いてエクストを見た。
泣きそうな顔だ。
<_フ;゚−゚)フ「……多分」
デレの言いたいことはエクストにも分かった。
こくり、頷く。
――走っている間に、地面にも付着したかもしれない。
もしヒッキーがそれに気付けば、確実に血痕を辿る。
目を凝らさねば分からぬ程度のものではあろうが、だからといって安心は出来ない。
- 395 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:43:19 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「……」
エクストは、慎重に鍵を開けた。
血がどれほど散っているのか確かめたい。
きい、とドアが小さく鳴いた。
瞬間。
<_フ;゚−゚)フ「!!」
ドアが向こう側から押された。
エクストは咄嗟に奥に下がり、デレを背に隠す。
開け放たれたそこに。
(-_-)「やあ」
ヒッキーが立っていた。
- 396 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:46:12 ID:oZsWrUTsO
かちり。
ナイフが開かれる。
<_フ;゚−゚)フ「ヒッキー」
(-_-)「うん。ヒッキーだよ」
<_フ;゚−゚)フ「……こいつは、逃がしてやってくんねえかな……」
こいつ、と、エクストは後ろにいるデレを指差した。
ヒッキーは首を傾げる。
(-_-)「普通、口止めってするもんじゃない?」
ζ(゚、゚;ζ「ひっ……」
<_フ;゚−゚)フ「たまたま居合わせただけだ」
(-_-)「たまたま居合わせたからでしょ」
器用にも左手の指先でナイフを回し、
右手をパーカーのポケットに突っ込んでいるヒッキーからは余裕しか感じられない。
以前のヒッキーと、雰囲気が違う。
(-_-)「もう3人やっちゃったしさ、今更躊躇なんかしないよ。
1人増えようが2人増えようが……」
- 397 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:48:15 ID:oZsWrUTsO
<_フ;゚−゚)フ「こいつは、お前に何もしてない」
回転していたナイフが、止まった。
しっかりと柄を握り直す。
(-_-)「その子『は』、ね。うん。……エクスト君は僕に何をしたの?」
<_フ;゚−゚)フ「っ……」
<_フ; − )フ「――裏切った」
(-_-)「裏切り。そうだね。ショックだった。悲しかった」
<_フ; − )フ「俺が、一番酷いことした」
(-_-)「……一番?」
<_フ; − )フ「ヒッキーの味方でいようと思ってたんだ。
……友達になろうって思ってたんだ」
- 398 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:50:26 ID:oZsWrUTsO
<_フ; − )フ「ヒッキーにも味方はいるって分かってほしかった」
ヒッキーには、白々しく見えるだろうか。
みっともない命乞いだと思われただろうか。
それでもエクストの本心だ。
信じてもらえなくてもいい。
ただ、知ってほしかった。
<_フ; − )フ「だけど、俺、フォックスの方についた。
ヒッキーの敵になった……」
(-_-)「……」
<_フ; − )フ「俺、」
(-_-)「もういいよ」
もう喋らなくていい。
そう言って、ヒッキーは個室に足を踏み入れた。
- 399 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:51:50 ID:oZsWrUTsO
エクストとデレは、これ以上後ろに下がれない。
エクストが小声でデレに告げた。
<_フ;゚−゚)フ「……俺が刺されたら、すぐ逃げろ」
ζ(゚、゚;ζ「だ、駄目です、そんなの――」
(-_-)「無駄なこと言ってるね」
手を伸ばせば触れる距離。
ヒッキーは無表情のままエクストと対峙する。
(-_-)「これでおしまい」
左手、ナイフを振りかぶる。
<_フ; − )フ「……っ」
エクストは防御もせず、目を閉じ、衝撃を待った。
- 400 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:53:19 ID:oZsWrUTsO
(-_-)「じゃあね」
.
- 401 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:53:58 ID:oZsWrUTsO
からん、と。
金属音が、足元で響いた。
<_フ; − )フ
<_フ;゚−゚)フ「……?」
恐々、エクストが目を開く。
――眼前に突き出されたそれが何なのか、すぐには理解出来なかった。
- 402 名前:以下、名無しにかわりましてフーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:55:34 ID:oZsWrUTsO
(-_-)「はい」
<_フ;゚−゚)フ「……何だよ……これ……」
(-_-)「お菓子」
突き出されているのは、さっきまでポケットに入っていたヒッキーの右手。
差し出されているのは、チョコレート菓子の箱。
――去年。
彼らが初めて会話を交わした日。
エクストがヒッキーにあげたものと、同じ。
- 403 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:57:40 ID:oZsWrUTsO
(-_-)「いつも僕がもらう側だったし、お返ししなきゃなって。
……でもエクスト君に何あげれば喜んでくれるか分かんなかったから、
とりあえずこれにしといた。結構高いんだね」
<_フ;゚−゚)フ「……俺のこと、殺すんじゃ」
(-_-)「殺すわけないじゃん」
<_フ;゚−゚)フ「だって……だって、さっき」
(-_-)「うん。まあ、誤解するように……っていうか、
わざと恐がらせるようにはしたかな。ごめんね」
- 404 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:58:43 ID:oZsWrUTsO
でもさ、と。
ぎこちなく。
ヒッキーは、微笑んだ。
(-_-)「あれぐらいの仕返しはしてもいいでしょ」
胸元に箱を押しつけられる。
震える手で、受け取った。
(-_-)「じゃあね。ばいばい」
ヒッキーは踵を返し、去っていく。
エクストは黙りこくっていたが、箱を見下ろすや否やヒッキーの後を追った。
<_フ;゚−゚)フ「ヒッキー!」
公衆トイレを出た辺りでヒッキーが振り返る。
その前に立ち、エクストは口をぱくぱく動かした。
- 405 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/01(金) 23:59:55 ID:oZsWrUTsO
(-_-)「ん?」
<_フ;゚−゚)フ「あ……う」
ヒッキーの顔。手元の菓子。
交互に見遣り――
<_フ; − )フ「……ご、めん」
エクストは、くずおれた。
地面に両手を突いて項垂れる。
目から落ちた涙が、土に染みを作った。
<_フ;−;)フ「俺……こ、恐かった、フォックスが――標的になるのが……恐くて、
ヒッキーより、自分を選んだ……ヒッキーが傷付くの分かってたのに……」
結局、エクストは逃げ続けただけだった。
フォックス達に狙われないために仲間になって、
ヒッキーが殴られるときにはその場から離れて。
何もせず、ひたすら逃げ回っただけの臆病者。
我ながら、ほとほと愛想が尽きた。
- 406 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:01:24 ID:yFJMBw.EO
<_フ;−;)フ「……ごめん……ひ、ヒッキー、……ごめんなさい、俺、俺のこと殴ってくれよ、
殴って、蹴ってくれよ……、ヒッキーがやられた分、俺に――」
(-_-)「しないよ」
<_フ;−;)フ「フォックス達にしたみたいに、な、ナイフで、刺して、……頼むから……」
(-_-)「しないってば」
<_フ;−;)フ「何で! 何で俺だけ……、……ヒッキー、人、殺したんだぞ。
お、お前、人生とか、将来とか、俺が壊したみたいなもんで、」
(-_-)「どうしてそうなるかな……。あいつら殺そうと思ったのも実行したのも僕だよ」
<_フ;−;)フ「そこまで追い詰めたのは俺だ!」
(-_-)「いやいや。踏ん切りがついた直接の理由はフォックスだからね。
『こいつ殺しても誰も困らないからいいだろ』って言ったんだよ、あいつ。
本気かどうかは知らないけど、やりかねないじゃん。フォックスなら」
だからやられる前にやろうと思っただけだよ。
事もなげに言い放つヒッキー。
エクストは呆気にとられ、ヒッキーを見上げた。
(-_-)「……死にたくないもん。僕だって」
<_フ;−;)フ「……」
- 407 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:02:26 ID:yFJMBw.EO
(-_-)「そういうわけだからさ、エクスト君は難しいこと考えなくていいんだよ」
<_フ;−;)フ「良くない……」
(-_-)「いいよ。今も、これだけで充分。
……フォックス達なんか謝りすらしなかった。
ああ1人は謝ったよ。ただの建前だったけど。君とは全然違う」
<_フ;−;)フ「い、今謝ったって、……だって遅いだろ!?
これまで俺は何もしなかった! フォックス達と変わんないだろ!!」
(-_-)「……エクスト君しっつこいなあ。気付いてなかったんだ。
僕、今までもずーっとエクスト君に救われてたんだけど」
<_フ;−;)フ「救われる筈ない! 俺は……」
(-_-)「だってエクスト君さ」
(-_-)「僕がフォックスに絡まれてるとき、自分のことみたいに辛そうな顔してたよ」
- 408 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:05:11 ID:yFJMBw.EO
<_フ;−;)フ「……――」
(-_-)「何か理由があってフォックスの仲間になってるだけなのかなって、
……僕の辛さを分かってくれてるんだなって、嬉しかったよ」
(-_-)「あと、顔まで馬鹿正直なんだなーと思うとちょっとおかしかった」
<_フ;−;)フ「……うるせえ……」
(-_-)「はは。――じゃあね」
<_フ;−;)フ「どこ、行くんだよ」
(-_-)「警察。僕がやりましたーって」
すっきりしたような声で、ばいばい、とヒッキーは言う。
<_フ;−;)フ「……また、な」
(-_-)「……うん。ありがとう、エクスト君」
そのとき。
ヒッキーの後ろから、足音が聞こえてきた。
*****
- 409 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:06:51 ID:yFJMBw.EO
エクストがトイレを離れた後。
呆然としたまま、デレは、個室から出た。
エクストを追おうとしたが、個室の前で座り込んでしまう。
汚いとは思うものの足に力が入らない。
痛みと恐怖がデレの下半身を支配する。
ζ(゚、゚;ζ
ちらり、出たばかりの個室を横目で見た。
転がるナイフ。
結局エクストもデレも傷付けないまま床に落ちたそれは、
照明の光をぎらぎらと凶悪に反射させている。
深呼吸。
吸って、吐いて。吸って、吐いて。
何度目かに息を吐き出したと同時、
涙が零れた。
ζ(;、;*ζ「……うー」
何故泣いているのか、自分でも分からない。
恐かったし、足はひどく痛むし、ほっとしたし。
多分、全てがぐちゃぐちゃになって、上へ上へと押し出され、
涙になって溢れたに違いない。
- 410 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:08:16 ID:yFJMBw.EO
ζ(;、;*ζ「うー、うう、うー……」
――長いこと泣いていた。
不思議と止まる気配がない。
誰か止めてくれとデレが願った、瞬間。
ばたばた、足音が迫ってきた。
エクストが戻ってきたのだろうか――
( ^ν^)「……おい」
ζ(;、;*ζ「あれ……?」
予想に反し、現れたのは思いもよらぬ人物だった。
息を弾ませながらずかずかと近付いてくるニュッ。
デレの前にしゃがみ込み、ニュッはデレ――の膝――に目をやって、固まった。
緊張した面持ちは、一気に呆れたものに変わる。
( ^ν^)「……それかよ」
と、ニュッは溜め息混じりに呟いた。
- 411 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:09:19 ID:yFJMBw.EO
ζ(;、;*ζ「はひ?」
( ^ν^)「お前の、携帯、と、鞄が落ちてた場所から、
……血痕が続いてたから――刺されでも、したかと」
息遣いを整えながら、切れ切れに言葉を紡ぐ。
要するに、デレが大怪我したのではないか、心配になったらしい。
――何故ニュッがここにいるのか、少し時間を戻して説明しよう。
デレがエクストの家の近くを通ったとき、彼女の携帯電話が着信を知らせた。
内藤からだ。
ζ(゚、゚*ζ『はい』
『もしもし、デレちゃん。ハローの本、間違って持って行ってないかお?』
そう言われて鞄を探ってみると、たしかに入っていた。
課題を詰め込む際、まとめてハローの本も手にしてしまったようだ。
- 412 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:10:40 ID:yFJMBw.EO
ζ(゚、゚*ζ『ああ、ありました。ごめんなさい……』
『ハローが早く続き書きたいらしいから、今から取りに行ってもいいかお』
ζ(゚、゚*ζ『はい、構いません』
『今どこだお? 車で向かうお』
ζ(゚、゚*ζ『今……あの、エクストさんの家の辺りです。
もう少し行ったら帰れますし、来るなら直接私の家に――きゃあっ!!』
ここでデレは石に躓き、転んだ。
携帯電話は吹っ飛び、地面の上を跳ねる。
ζ(゚、゚;ζ『うう……っ、痛っ!』
慌てて立ち上がろうとしたが、膝に激痛が走り、動けなくなったデレ。
そこへエクストがやって来て、叫ぶ。
<_フ;゚−゚)フ『ヒッキー、こいつは関係ねえだろ!』
その間も電話は繋がっている。
呼びかけても答えないデレ、「ヒッキー」と叫ぶエクストの声。
最悪な光景が内藤の脳裏を駆け巡る。
- 413 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:12:32 ID:yFJMBw.EO
内藤はすぐさまニュッ達に事情を告げ、車に飛び乗った。
ニュッとツン、ハローも乗り込み、デレの言う「エクストの家の前」へ向かう。
――辿り着いたそこにあったのは、デレの携帯電話と鞄。
微量の血痕。
真っ先に動いたのはニュッだった。
目を凝らして血を探し、公園に走る。
ヒッキーとエクストを見付けたニュッは、
彼らには構わず、道標となった血の示す先、トイレへ入った。
そうして今に至る。
( ^ν^)「……」
ζ(;、;*ζ「……いらない心配かけてすみません……ご、ごめんなさい、……」
( ^ν^)「怪我は」
ζ(;、;*ζ「膝以外、ないです……ひぐ、ううー……」
( ^ν^)「何で泣いてんだよ」
ζ(;、;*ζ「わ、わか、分かんない、です」
- 414 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:14:04 ID:yFJMBw.EO
拭っても拭っても、次々涙が零れていく。
恥ずかしくなってきて、デレは俯いてしまった。
トイレの外で、ハローがエクスト達に話しかける声がする。
( ^ν^)「……」
ζ(;、;*ζ
しゃくり上げて泣き続けるデレの頭に、突然何かが触れた。
驚いたデレが、びくりと顔を上げる。
( ^ν^)
ζ(;、;*ζ「……あ」
目が合う。ニュッが、右手を下ろした。
――頭を撫でようとしたのかもしれない。
- 415 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:14:52 ID:yFJMBw.EO
ζ(;、;*ζ
デレは、ニュッの右腕の袖を掴んだ。
持ち上げて、自分の頭に乗せる。
ζ(;、;*ζ「……撫でて……」
ぽつり。
小声で訴えると、ニュッは浅く頷き、頭を撫で始めた。
少々乱暴な手つきに髪が乱れていく。
たどたどしい動きだったが、どうしてか、デレの涙は途切れていった。
*****
- 416 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:16:00 ID:yFJMBw.EO
(; ω )「はっ、……は、あっ、ぐ、っ……」
ξ゚听)ξ「ブーン。大丈夫?」
(; ω )「……は……」
――デレの荷物が散らばっている道。
車の前で、内藤は蹲っていた。
ツンが内藤の背中を撫でる。
喉が引き攣る。
気を抜けば、嘔吐してしまいそうだ。
家屋から出てきた住人が「どうした」と問いかけてくる。
何でもないと答えようとした内藤の視界に、デレの鞄が入り込んだ。
クリーム色の鞄に広がっている、赤黒い汚れ。
この鞄がなければ、コンクリートにも点々と描かれている染みの正体は
分からなかっただろう。
- 417 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:16:47 ID:yFJMBw.EO
だが、鞄のおかげで分かってしまった。気付いてしまった。
血。
血の跡。
(; ω )「――う、えっ……」
ξ゚听)ξ「……車に戻りましょう。ブーン。
デレのことはニュッ君とハローに任せて」
(; ω )「お……」
ふらつきながら何とか立ち上がった内藤が、車に寄り掛かる。
彼を見つめるツンの瞳は、彼女にしては珍しく不安に揺れていた。
*****
- 418 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:18:16 ID:yFJMBw.EO
月曜日。放課後。
職員室の前。
デレは、携帯電話でハローと話していた。
発信者の番号はVIP図書館のもので、ツンかニュッ辺りだと思っていたため
ハローの声がしたときは少し驚いてしまった。
『ワタシのせいで、結局デレも巻き込まれるカタチになって……ゴメンナサイ』
ζ(゚ー゚*ζ「ハローさんのせいじゃありませんってば。
この間、ニュッさんも言ってましたよね」
――連続殺人事件は、ヒッキーが自首する形で幕を閉じた。
ニュース番組やワイドショーでは、いじめ問題がどうのこうのと頻りに騒がれている。
『エエ、……でも、ニュッ君は優しいカラ。
ワタシもソレに甘えてしまいますケド、やっぱり何と言われヨウト悪いのはワタシで……』
ζ(゚、゚*ζ「……ハローさん、意外と思い詰めるタイプなんですね」
『意外って何デスカ、もう』
- 419 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:19:48 ID:yFJMBw.EO
ζ(゚、゚*ζ「――今更書いたことを悔やんでも仕方ないじゃないですか」
『それもそうデスガ……』
ζ(゚、゚*ζ「第一、ハローさんは人を傷付けるために書いたんじゃなくて、
ニュッさんを喜ばせるために書いたんでしょう?
それはすごくいいことですよ」
ζ(゚ー゚*ζ「だから、ね。後悔しないで。
犠牲者が増える前に、散らばってる本、早く全部集めましょう。
私も手伝いますから」
『……』
ζ(゚ー゚*ζ「ね?」
『デレの、言う通りデス』
ζ(^ー^*ζ「うん。そう思ってくれるなら嬉しいです」
『アリガトウね、デレ』
そのとき、職員室から生徒が出てきた。
ビコーズに課題を提出しに行っていた、補習仲間だ。
- 420 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:21:50 ID:yFJMBw.EO
ζ(゚ー゚*ζ「いえ――あ、ちょっと用があるので、切ります。
今、用事済ませたら図書館に遊びに行きますね」
携帯電話を畳む。
鞄から課題の束を引っ張り出したデレは、職員室の中、ビコーズの机に向かった。
すれ違いざま、補習仲間が絶望したような表情になっていたのが気にかかる。
ζ(゚ー゚*ζ「どうも、ビコーズ先生」
( ∵)「はい、いらっしゃい。……どうしました、膝。包帯なんか巻いて」
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと転んじゃって……皮膚どころか肉まで切れちゃってたんですよ。
お医者様が言うには細かい石がめり込んで引き裂いたって。こう、ぎゃりっと。
道理で血がいっぱい出たもんだと」
( ∵)「先生そういう痛い話駄目なのでやめて下さい。
課題は?」
ζ(゚ー゚*ζ「課題、ちゃんとやりましたよ! 今回は落書きもしてません!」
( ∵)「当たり前のことなのに誇らしげですねー。
あ、これ、前回提出していただいた課題です」
ζ(゚ー゚*ζ「はい」
- 421 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:23:22 ID:yFJMBw.EO
( ∵)「物凄い誤答率。長岡さんに限った話ではありませんが。
やっぱり先生が直接教えないと、みんな理解出来ないみたいですね。
ほんっと可愛いなお前ら」
ζ(゚ー゚;ζ「……え」
( ∵)「可愛すぎるので、お望み通り直接教え込んであげましょう。
あの事件も犯人自首して解決したらしいですし、もう居残り解禁です。
あとは分かりますね?」
ζ(゚ー゚;ζ「まさか……」
( ∵)「――今日から早速、補習再開です」
ζ(゚ー゚;ζ
( ∵)「先生はちょっと準備してから行きますので、先にいつもの教室に入っといて下さい」
ζ(゚ー゚;ζ
( ∵)「お返事は」
ζ(゚ー゚;ζ「……はい……」
- 422 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:23:54 ID:yFJMBw.EO
――か細い声で答えたデレは、先程の補習仲間と同じ顔をしていたとか、何とか。
第三話 終わり
- 423 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:25:12 ID:foHg5NkcO
- 乙ァ!!
面白かったぜ
- 424 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:27:02 ID:1FkqcOPo0
- 乙
やだ…ニュッくんかっこいい…
早く番外編を投下する作業を始めるんだ
- 425 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:28:00 ID:yFJMBw.EO
- 今回の投下終わりでっす
次回投下はいつになるか分かりませぬ。来週中に来れたらいいな
あと、>>374から>>379の間に、ハローが執筆再開してる描写入れ忘れてた
脳内補完よろしくお願いします
- 426 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:31:04 ID:waVaCeocO
- おつー
- 427 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/02(土) 00:37:34 ID:yFJMBw.EO
- >>424
o川;*゚ー゚)o「わ、私は結婚相手に初めてをあげることにしてるからね!」
o川;////)o「いや、まあ、ほら、せ、責任とってくれるなら別に構わなゴニョゴニョ」
( ゚∋゚)「あ、館長、新作の構想が練れたから新しいノートくれ」
o川#゚д゚)o「うおおおおおおい! おい! 無視か! 全面的に無視かこの野郎!!」
一応、しおり? 目次? 的な
第二話前 >>104
第二話後 >>175
第三話前 >>250
第三話後 >>333
ではでは
- 428 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/03(日) 05:52:08 ID:BGu/r6Ts0
- そんな…パンツまで脱がせといてひどいよ…
- 429 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/08(金) 22:59:04 ID:A5eS2b1k0
- マダー?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
- 430 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 22:50:39 ID:D9WHLNZMO
- 木曜にまた大きな地震がありましたが皆様ご無事でしょうか
第四話前編投下しマングース
- 431 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 22:52:05 ID:D9WHLNZMO
_
( ゚∀゚)「面白いですか?」
( ゚д゚ )「……――はい?」
新幹線。
河内ミルナは、その言葉が自分に向けられたのだとはすぐに気付けなかった。
顔を上げると、通路を挟んだ隣の席に腰掛けている男と目が合った。
濃い眉毛が特徴的な男。
目元に皺が見られる。40代――前半、ほどか。
_
( ゚∀゚)「すみません、邪魔しちゃって。
――それ、面白いですか?」
( ゚д゚ )「それ?」
_
( ゚∀゚)「その本。熱心に読んでたものだから」
( ゚д゚ )「……ああ、はい、なかなか面白いですよ」
頷き、ミルナは先程まで読み耽っていた本を顔の前まで持ち上げた。
落ち着いた、薄い黄緑、柳色のハードカバー。
( ゚д゚ )「古本屋の店主から譲ってもらったんですが……これがまた奇妙な本で」
_
( ゚∀゚)「奇妙?」
( ゚д゚ )「手書きなんですよ」
- 432 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 22:53:41 ID:D9WHLNZMO
通路に手を伸ばし、本を開いてみせる。
男は興味深そうに「ほう」と頷いた。
_
( ゚∀゚)「素人の本なのかな?」
( ゚д゚ )「かもしれません。作者も聞いたことがない名前だし」
_
( ゚∀゚)「ふむふむ」
「……んん……」
不意に男の向こう側から声がした。
見れば、妻らしき女性が目元を擦っている。
('、`*川「ジョルジュさん、どうかしたの……?」
_
( ゚∀゚)「ちょっとお隣と話を」
('、`*川「また……。ごめんなさいね、うちの人が何か邪魔しませんでした?」
( ゚д゚ )「あ、いえ、別に……」
_
( ゚∀゚)「ペニサスさんが寝てしまうと、どうにも退屈で」
- 433 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 22:54:21 ID:D9WHLNZMO
('、`*川「いい年して忙しない人ですねえ。ゆっくり景色でも眺めてればいいのに」
_
( ゚∀゚)「景色よりもペニサスさんの寝顔に目を奪われるね」
('、`*川「あらやだ、恥ずかしい人」
_
(;゚∀゚)「なっ……は、恥ずかしいかな……」
('、`*川「ええ」
くすり、女性が笑った。
歳は男と近そうだが、その割に綺麗な人だとミルナは思った。
派手な美人だというわけではない。
「奥ゆかしい」。そう表現するのが、一番それらしい。
( ゚д゚ )「ご夫婦で旅行ですか?」
_
( ゚∀゚)「いや、家に帰るところです。
今は仕事で遠くに住んでるんだけど、数日ほど休暇をとれたので。
久しぶりに、家に1人でいる娘に会おうかと」
( ゚д゚ )「娘さんが1人で」
_
( ゚∀゚)「まだ高校生なんですよ。転勤先に一緒に引っ越そうと提案したんですが、
学校のこともあるから残りたいと言って聞かなくて」
- 434 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 22:55:18 ID:D9WHLNZMO
( ゚д゚ )「奥様は旦那さんについていかれたんですね」
('、`*川「この人を1人で生活させるのが、あまりにも恐ろしかったから」
_
( ゚∀゚)「浮気なんかしないってば」
('、`*川「浮気なんかよりも、まともに家事出来ないのが心配なんですよ」
_
(;゚∀゚)「む……」
仲の良さそうな夫婦だ。
ミルナの口元が緩む。
('、`*川「あなたは? お仕事でしょうか」
( ゚д゚ )「ああ、はい。4日ほど出張で」
('、`*川「大変ですねえ……どちらへ?」
ミルナが出張先を告げると、女性が「あら」と呟いた。
彼らの目的地は、同じ町だったのである。
- 435 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 22:55:54 ID:D9WHLNZMO
第四話 あな可笑しや、時代小説・前編
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- 436 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 22:56:47 ID:D9WHLNZMO
季節は冬へ近付いていく。
最近、めっきり冷え込んできた。
寒さには強いと自負していた長岡デレも、すっかりコートを着込んでいる。
ζ(゚、゚*ζ「うー、さぶ、さぶ」
日曜日。午後。
林の中、VIP図書館に続く道を歩く。
くしゃり。足元で、枯れ葉が微かに鳴いた。
ζ(゚、゚*ζ「あ」
ふと顔を上げると、枝に止まっている小鳥が数羽、目に入った。
冬に備えてもこもこになっている姿が可愛らしい。デレは思わず微笑む。
ζ(゚ー゚*ζ「ふふ……――」
ぽとん。ぽとん。
何かが、デレの頭と首元に落ちた。
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ「?」
- 437 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 22:58:19 ID:D9WHLNZMO
雨は降っていない。
デレは右手を首に伸ばした。
指先に、ねちょりとした感触。
恐る恐る、指を見る。
水気を含んだ、白い「何か」。黒い小さな「何か」も混じっている。
嫌な予感を覚えつつ臭いを嗅いだ。
ζ(゚ー゚;ζ
あまり強くはないが、くさい。
ああ、やっぱりこれは。
糞だ。
- 438 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:00:01 ID:D9WHLNZMO
ζ(;、;*ζ「お、お風呂貸してくだしゃひぃ……」
(;*^ω^)「えっ……な、何、今日のデレちゃん積極的」
「どういう思考回路なの」ξ゚听)ξ≡⊃))ω゚)「エドガワッ!!」
図書館に着くなり、デレは出迎えてくれた館長、内藤ホライゾンにそう訴えた。
何故かときめいている内藤の顔面をツンが殴る。
ξ゚听)ξ「どうしたの?」
ζ(;、;*ζ「鳥の糞が……糞が頭と首に……」
ξ゚听)ξ「……あらまあ」
おいで、とツンがデレの手を引き、階段へ向かった。
殴られた鼻を押さえつつ内藤もついてくる。
- 439 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:01:13 ID:D9WHLNZMO
階段を上りながら、ツンはデレに振り返った。
ξ゚听)ξ「着替えとかどうしましょう……私ので大丈夫かしら?」
ζ(゚、゚*ζ「……う、うん、多分」
背丈は同じくらいだが、腰回り等は多分ツンの方が細い。
服が入らなかったらどうしよう、とデレは本気で悩んだ。
ξ゚听)ξ「あ、さすがに下着までは貸せないけれど」
( ^ω^)「おっおっお、ツンのブラジャーはデレちゃんには小さすぎるお」
ツンの拳を、内藤はすれすれで躱した。
落ちたらどうする、と喚く内藤にツンは冷ややかな視線を送る。
ζ(゚、゚*ζ(……うん、胸は勝った。胸だけは)
ξ゚听)ξ「……デレ、その目は何?」
ζ(゚ー゚;ζ「え? な、何でもないよ?」
- 440 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:02:10 ID:D9WHLNZMO
2階に到着した。
靴からスリッパに履き替える。
( ^ω^)「そういや、デレちゃんはこの前2階に来たんだっけ」
ζ(゚、゚*ζ「はい、お昼をご馳走に」
ξ゚听)ξ「あのときは留守にしててごめんなさいね。
――ああ、着替えやタオルはあなたが入ってる間に用意しておくわ」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、ありがとー」
(*^ω^)「なんなら、ふひひ、お背中お流しいたしますおー」
ξ゚听)ξ≡⊃)))ω゚)「ランポッ!!」
ξ゚听)ξ「デレ、こっち」
ζ(゚ー゚;ζ「はい……」
廊下を左に進む。
奥まで行くと、ツンは左の壁にあるドアを指差した。
- 441 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:03:15 ID:D9WHLNZMO
ξ゚听)ξ「こっちが脱衣所とお風呂。
シャンプーや石鹸は好きに使っていいから」
ξ゚听)ξ「……そういえば、足は大丈夫?」
ζ(゚ー゚*ζ「もうお風呂に入っても問題ないよ」
――前回の事件で、デレは両足を負傷した。
転んだだけの割に傷は深く、未だ包帯は取れないし、薬を飲まなければ痛みも覚える。
だが、当の本人はまったく気にしていない。
ξ゚听)ξ「それも気になったけど、そうじゃなくて。
ガーゼとか包帯とか、用意しなくていいの?」
ζ(゚、゚*ζ「あ、そっか。……あるなら、お願いしていい?」
ξ゚听)ξ「ええ、分かったわ。じゃあ、さっさと入っちゃって」
ζ(゚ー゚*ζ「はーい」
- 442 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:04:42 ID:D9WHLNZMO
そのとき。
ドアが開いた。
( ・∀・)「ふぃー、さっぱりしたー」
ζ(゚ー゚*ζ
( ・∀・)「ん?」
中から、首にタオルを引っ掛けた男が現れる。
全裸で。
ζ(゚ー゚;ζ
(;・∀・)
ζ(゚д゚;ζ
(; ∀ )
ζ( д ;ζ「――ぃいいやぁああああああああああああああああああ!!!!!」
(*;∀;)「きゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
デレと男の悲鳴が、屋敷中に轟いた。
- 443 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:06:17 ID:p.Gz/NyY0
- 頬を染めるなwww
- 444 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:06:38 ID:D9WHLNZMO
(;゚∋゚)「なっ、何だ!? どうした!」
慌てた様子で堂々クックルが駆けてくる。
顔を両手で覆うデレと全裸の男を見ると、大体状況を把握出来たようだった。
(;゚∋゚)「……だから風呂に入るときは着替えを持っていけと」
(;^ω^)「ツン、見ちゃ駄目だお! 汚れる!」
ξ゚听)ξ ジーッ
ζ(∩∩;ζ「きゃあああああ! きゃー! いやああああ!」
(*;∀;)「見ないで! 見ないでえええ!」
(;゚∋゚)「蹲ってないで早く部屋に戻れ馬鹿」
(*;∀;)「うわあああああん!!」
――クックルに引っ張られた男が泣きながら退散し、
ようやく騒ぎは治まった。
- 445 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:09:32 ID:D9WHLNZMO
(;^ω^)「大丈夫かお、デレちゃん」
ζ(>、<;ζ「ううう……」
ξ゚听)ξ「デレ、お風呂入ってきちゃいなさい」
ζ(>、<;ζ「はぐう……、行ってきます……」
逃げるようにデレが風呂場に入っていく。
ツンはタオルや着替えを取りに、自室へ向かった。
*****
- 446 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:10:33 ID:D9WHLNZMO
(;゚д゚ )「はあ?」
爪゚ー゚)「ですから、予約は入っていません」
(;゚д゚ )「予約しましたって!」
爪;゚ー゚)「あっ、あう……で、でもでも、本当に……」
(;゚д゚ )「……」
爪;゚ー゚)「……ひ、ひい……」
(;-д- )「――分かった。分かりました。……どうも失礼しました」
溜め息をつき、河内ミルナはホテルから出た。
部屋の予約を入れていた筈なのに、
それが取り消されていた――というよりなかったことにされていた――のだ。
その上、満室で別の部屋をとることすら出来なかった。
ホテルを間違ったというわけでもない。
だが、彼の性格上、向こうを責め立てる気にもならなかった。
- 447 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:11:39 ID:D9WHLNZMO
( ゚д゚ )「……はあ」
新たな宿を探しながら、ふとミルナは右側を見た。
雑貨屋の窓ガラス。そこに映った自分の顔――瞳。
鬱屈した気分が増す。
ミルナは、この目にコンプレックスを抱いていた。
彼は普通にしているつもりでいても、他人からは睨んでいるように見えるらしい。
ぎょろりとした感じの。
そのおかげで恐がられることはしばしば。
先程のホテルでも、フロント係の女性に怯えられた。
( ゚д゚ )(やだなあ、畜生……)
*****
- 448 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:12:53 ID:D9WHLNZMO
――頭と体を洗い、新たに包帯を巻き終えたデレは、ツンに食堂へ連れていかれた。
わざわざ1階へ下りるのも面倒だろう、ということで。
( ^ω^)「お、来た来た。さっぱりしたかお、デレちゃん?」
ζ(゚ー゚*ζ「はい!」
( ^ω^)「それはそれは。――適当に座ってくれお。
今クックルがお茶の準備をしてるお」
内藤の向かいにデレが座る。
ツンは内藤の隣に。
ξ゚听)ξ「服は洗濯してるからね」
ζ(゚ー゚*ζ「何から何までありがとう。うん、ほんと……」
無意識に胸を撫で、デレは口ごもる。
ツンの服が入るかという心配は杞憂に終わったが――
ζ(゚ー゚;ζ(ほんの少し胸がきついと言ったら、怒られるかな……)
ξ゚听)ξ「……どうかした?」
ζ(゚ー゚;ζ「あ、いえいえ、何にも」
ゆったりした服を好むデレと、ぴったりとフィットする服を好むツン。
そのたった一つの違いが、残酷な格差を浮き彫りにさせていた。
- 449 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:13:58 ID:D9WHLNZMO
( ゚∋゚)「お、上がったか」
厨房のドアが開く。
右手で盆を支え、左手にポットを提げたクックルが現れた。
クックルの好きなミルクティーとチョコレートが出されるのかと思っていたが、
それぞれの前に置かれたのは湯飲み茶碗と大福の乗った皿。
茶碗の中には煎茶が入っている。
デレ達4人分――いや、5人分だ。
( ゚∋゚)「多分モララーが来るだろうから煎茶にしたが、嫌だったら言ってくれ」
ζ(゚ー゚*ζ「こういうのも好きですけど――モララー、って?」
( ゚∋゚)「ああ、すまん。さっきの奴だ」
ζ(゚ー゚*ζ「さっき……」
さっきの奴、といえば。
ζ(゚ー゚;ζ(ぎゃあ)
数十分前の光景が脳裏を過ぎり、デレは頭を抱えた。
異性の裸など、まして全裸など、幼少時に父親と風呂に入ったときにしか見たことがない。
自分の裸を見られたわけでもないのに、やたら恥ずかしい。
- 450 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:16:11 ID:D9WHLNZMO
「――あのう、館長、いる?」
そこへ割り込んだ、心地良い声。
食堂のドアが開かれる音がする。
( ・∀・)「あ、いたいた」
声の主は「さっきの」男だった。
真っ先にデレの目に入ったのは、紺色の着物。
今時珍しい和装に、デレの興味が一気に沸き上がった。
視線を上げてようやく気付いたのだが、男は妙に整った顔立ちをしていた。
外に立っているだけで女が寄ってくるだろう。
( ・∀・)「ニュッ君どこか知らない?」
年齢は20代前半辺りであろうか。着物のせいか、きりりとした印象を受ける。
小脇に本を一冊抱えた男は、デレを見付けるや否や
頬を真っ赤に染めて、気まずそうに会釈した。
デレから目を逸らしながらそそくさとツンの隣に移動し、腰を下ろす。
クックルが男の前に煎茶と大福を置いた。
- 451 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:17:40 ID:D9WHLNZMO
( ^ω^)「ニュッ君ならハローと一緒に買い物行ってるお」
( ・∀・)「え……」
( ^ω^)「どうしたお、本を書き上げたのかお?」
ξ゚听)ξ「ああ、だからこんな時間にお風呂入ってたのね」
( ・∀・)
( ;∀;)ブワッ
ζ(゚ー゚;ζ「!?」
( ;∀;)「なあああんでええええ! 折角完成したのにいいいいいいい!!
すぐに読んでほしかったのにいいいいいいいい!!」
(;-∋-)「……」
溜め息をつき、クックルはデレの隣、ツンの向かいに腰掛けた。
急須を乗せた盆とポットをテーブルの隅に寄せる。
( ;∀;)「わああああああああああ!!」
突っ伏して号泣する男。
デレはクックルの腕を引っ張った。
- 452 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:19:03 ID:D9WHLNZMO
ζ(゚、゚;ζ「あ、あの、何かすごく泣いてますけど……」
(;-∋-)「放っとけ。こいつが泣く度にいちいち構ってたら身が持たないぞ」
( ;∀;)「俺に黙っていなくなるなんて酷いよおおおあああああああ!!」
(;^ω^)「何でお前にわざわざ断らなきゃいけないんだお……。
――あ、デレちゃん」
ζ(゚ー゚;ζ「は、はいっ」
( ^ω^)「こいつは茂等モララー。作家だお。
えー……見ての通り、すぐ泣く奴だから、気にしないで」
( う∀;)「う、うぐ、ひうっ……」
ζ(゚、゚;ζ「はあ……」
( ^ω^)「モララー、この子は……前に話したおね、デレちゃんだお」
( う∀;)「ああ、あの……よろし、ひぐう」
ζ(゚ー゚;ζ「よ、よろしくお願いします」
- 453 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:22:40 ID:D9WHLNZMO
1、2分もすると、茂等モララーの泣き声は収まった。
綺麗な顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
ζ(゚ー゚;ζ「どうぞ」
( ・∀・)「ありがとう……」
デレが鞄から取り出したポケットティッシュを渡す。
大人しく受け取って鼻をかむモララーの頭を、ツンが軽く撫でた。
( ゚ω゚)「あ? 泣くだけで女の子から優しくされるなんてイケメンは得ですなあ……?
ていうかお前今ツンたんに撫で、撫でら、な、おま、おい、おい」
(;゚∋゚)「落ち着け。……モララー、大福食え大福」
(*・∀・)「わーい」
モララーは大福に勢いよく噛みつき、幸せそうに笑った。
見た目は20代でも中身は小学生以下なのではないかと、デレは疑いの眼差しを向けた。
ζ(゚、゚;ζ(……)
( ゚∋゚)「面倒な奴だから関わりたくないなら無視しとけ。
ニュッ君なんて、ろくに会話しようとすらしないぞ」
ζ(゚、゚*ζ「あ、いえ……全然、平気です、はい」
- 454 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:25:34 ID:D9WHLNZMO
変人を相手にするのは、この図書館で慣れました――とは言えない。
曖昧に誤魔化し、デレは大福に手を伸ばした。
と、同時。
ハハ ロ -ロ)ハ「タッダーイマー!」
( ^ν^)「……」
食堂の扉を開け放ち、「作家」の1人、ハロー・サンが現れた。
彼女の後ろに内藤ニュッもいる。
ξ゚听)ξ「あら、おかえり」
ハハ ロ -ロ)ハ「おつかい完了デッス。――お、デレ! 見馴れない靴があるカト思えば!」
ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは、ハローさん、ニュッさん……はぷっ」
ハローはデレに駆け寄り、思いきり抱きしめた。にこにこ、何やら嬉しそうだ。
足の具合を問われたので、大したことはないと答えると、抱きしめる力が強くなった。
ハローの腕に引っ掛けられた買い物袋が、がさがさと音をたててやかましい。
- 455 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:26:44 ID:D9WHLNZMO
さて、一方のニュッはといえば、ツンの隣に座るモララーを見て固まっていた。
正確に言えば、近寄るのを躊躇っていた。
対するモララーは意気揚々と立ち上がる。
( ^"ν^)
( ・∀・)「ニュッ君おかえり!」
( ^"ν^)
( ・∀・)「探したよ! 待ってたよ! うん、本当に待っt……」
( ;∀;)ブワッ
ζ(゚ー゚;ζ(あ、また泣いた)
( ;∀;)「待ってたよおおおおおおおおお!
何で出掛けてるんだよおおおおおおお!!」
( ^"ν^)
- 456 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:27:33 ID:D9WHLNZMO
( ;∀;)「俺頑張ったよ!?
机とノートに一日何時間も向かい合って文字を書き続けたんだよ!?」
( ;∀;)「何回も行き詰まったし!
根本から話を練り直すのだっていっぱいあった!」
至近距離で対峙する。
モララーは、柳色の本をニュッの胸元に押しつけた。
( ;∀;)「着想からこれを書き上げるまでにかかった時間、実に4ヶ月!
俺にしちゃあ早い方だよね! 出来上がったときは泣いて喜んだよ!
やっとニュッ君に読ませてあげられるってね!」
( ^"ν^)
( ;∀;)「なのに何でいないんだよ馬鹿あああああああああああ!!
俺の心はずたぼろだよ! ……デレちゃんに裸見られるし……」
( ^ν^)
――唐突に、モララーはデレの名を出した。
崩れ落ち、ニュッの足元でおいおいと声をあげる。
- 457 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:29:29 ID:D9WHLNZMO
( ;∀;)「う、生まれたままの姿……初対面だったのに……いきなり……」
ζ(゚、゚;ζ「おいちょっと待て語弊があるマジで」
( ^ν^)「……随分と仲良くやってるみたいだな」
ζ(゚、゚;ζ「やっと喋ったと思ったらニュッさーん!!
たしかにモララーさんの裸は見ましたが事故っていうか何ていうか」
ハハ ロ -ロ)ハ「……デレ……」
ζ(゚、゚;ζ「ハローさんどうしたの目が冷たいよ!? 私は潔白ですからね!?」
ハハ ロ -ロ)ハ「シャンプーと石鹸の匂いがしマス。髪も少し濡れてマスネ」
- 458 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:30:25 ID:D9WHLNZMO
ζ(゚、゚;ζ「そっ……れは、ええと、シャワー浴びたからですけど、あの、別に」
( ^ν^)
ζ(゚、゚;ζ「いや! 何もいかがわしい理由じゃないですよ!?
ふ、糞を、糞を流すために――」
ハハ;ロ -ロ)ハ ≡≡≡
ζ(゚、゚;ζ「あっれえ!? ハローさんが凄い勢いで離れた!!
とてつもない誤解された予感!」
ハハ;ロ -ロ)ハ「サスガにそういうプレイはチョット」
ζ(゚、゚;ζ「ぎゃあああああああ!!!!!」
(;^ω^)「……この状況はどうしたもんかお」
ξ゚听)ξ「関わるだけ無駄」
(;-∋-)「……おい、お前ら一回黙って状況整理しろ」
*****
- 459 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:33:21 ID:D9WHLNZMO
ハハ ロ -ロ)ハ「――ナーンダ、ただの事故デスカ」
事情を把握したハローは、うんうんと頷きながらクックルの横に座った。
ニュッはモララーの隣。
ハハ ロ -ロ)ハ「てっきりデレが浮気したのカト」
ζ(゚ー゚;ζ「う、浮気!?」
ハハ ロ -ロ)ハ「だってホラ、デレに怪我をさせてしまいましたカラ、ワタシが責任とらなキャ」
ζ(゚ー゚;ζ「いやあ、女同士ですので。
……ていうか、だからハローさんのせいじゃないですって」
ハハ ロ -ロ)ハ「何デスカ、ノリの悪イ。
あ、クックルー、ワタシとニュッ君にもオ茶ー」
( ゚∋゚)「ああ」
- 460 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:35:14 ID:D9WHLNZMO
それからしばらく雑談などして、時間は過ぎ。
夕方。
そろそろ帰ろうとデレが言った。
ξ゚听)ξ「はい、デレの服。ちゃんと乾いてるから」
ζ(゚ー゚*ζ「ありがと! ツンちゃんの、洗って返すね」
デレの服が入った紙袋を受け取り、席を立つ。
ちらとニュッを見たが、モララーの本に夢中になっていた。
ζ(゚ー゚*ζ「さようなら」
( ゚∋゚)「ああ」
ハハ ロ -ロ)ハ「また来てネ!」
( ・∀・)「じゃあねー」
- 461 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:36:01 ID:D9WHLNZMO
( ^ν^)
ζ(゚、゚*ζ
ζ(゚、゚*ζ「ニュッさーん」
( ^ν^)
ζ(゚、゚;ζ「……くっそう、ちょっとぐらいこっち見ろよ……」
( ^ω^)「こういう子だから。――デレちゃん、車で送ってくお」
ζ(゚、゚*ζ「いえいえそんな」
( ^ω^)「暗くなってきたし、まだ足も治ってないし。ね?」
ζ(゚、゚*ζ「……じゃあ、お願いしていいですか?」
(*^ω^)「全然構わんおー。デレちゃんのためならえんやこら」
ξ゚听)ξ「私も行くわ」
(*^ω^)「おっお、両手に華だお」
- 462 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:37:46 ID:D9WHLNZMO
――図書館を出て、内藤の車に乗り込む。
運転席に内藤、助手席にツン、後部座席にデレ。
エンジンをかけながら、内藤が振り返った。
( ^ω^)「どっか寄りたいところはあるかお?」
ζ(゚ー゚*ζ「いえ、特に」
( ^ω^)「んじゃあ真っ直ぐデレちゃんの家に向かうってことで」
ξ゚听)ξ「安全運転でね」
( ^ω^)「はいはいおー」
そういえば、と、デレは内藤とツンを見つめた。
いつも2人は一緒にいる。
どちらか片方が何かしらの用事で場を離れるとき以外、
彼らが1人になっているところを見たことがない。
- 463 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:38:34 ID:D9WHLNZMO
普段の様子と内藤の性格から、彼の方がツンに引っ付いているのかとも思えるが――
ξ゚听)ξ「フェンス、私が開けてくるわ」
( ^ω^)「ん、頼んだお」
考えてみれば、ついさっき、ツンが自ら同行を頼んだのだった。
内藤が一方的に執着しているわけでもなさそうだ。
――フェンスの前で停車し、ツンが降りる。
彼女がフェンスの鍵と扉を開けたのを確認し、発進。
車が林から出たところでもう一度停まる。
フェンスに鍵をかけ、ツンが再び乗車した。
毎度毎度、行きと帰りに同じ手順を踏まなければならない。
防犯のためとはいえ、多少面倒臭いのは事実。
以前、もっと手軽に済む方法もあるのではとデレがつっこんだこともあるが、
長年これでやってきたから、といなされてしまった。
- 464 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:41:06 ID:D9WHLNZMO
(*^ω^)「おっおー、おんおんおーん」
ξ゚听)ξ「ブーン、音痴」
(;^ω^)「た、楽しけりゃいいんだお、歌は」
ξ゚听)ξ「聴かされるこっちの身にもなって」
(;^ω^)「ツンたん辛辣!」
「ブーン」。ツンは内藤をこう呼ぶ。多分あだ名だろう。
ニュッは「兄ちゃん」、作家達は「館長」。
彼をブーンと呼ぶのは、デレの知る限りツンだけだ。
ζ(゚、゚*ζ(本当に仲良いんだなあ)
いつからこういう仲になったのやら。
ツンはデレと同年代らしいから、内藤とは10歳以上も離れている。
ツンが何歳のときに図書館へ連れてこられたのかは分からないが、
昔からこんな感じだったのかもしれない。
とんでもない犯罪臭に鼻が曲がりそうである。というか今も下手すれば充分犯罪か。
- 465 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:42:40 ID:D9WHLNZMO
取り留めもないことを話しながら走ること十数分。
長岡家に到着した。
( ^ω^)「また今度ー」
ξ゚听)ξ「またね」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、ありがとうござ……」
門の前で降車したデレは、我が家を見て、「あれ?」と呟いた。
リビングの掃き出し窓から明かりが漏れているのだ。
ζ(゚、゚*ζ「電気……」
( ^ω^)「ん? デレちゃん一人暮らしじゃ……」
ξ゚听)ξ「電気の消し忘れじゃない?」
ζ(゚、゚;ζ「ううん、そんな筈――」
まさか。
不安に駆られたデレは玄関まで走り、ドアに手をかけた。
開かない。
- 466 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:44:14 ID:D9WHLNZMO
鍵を出すより先に、インターホンを力強く押した。
屋内から、ぴんぽおん、と間延びした音が聞こえる。
次いで、ぱたぱたという、スリッパがたてる小さな足音。
ζ(゚、゚;ζ
やっぱり。
デレが確信すると同時に、ドアが開かれた。
('、`*川「あらあら、おかえりなさい、デレさん」
ζ(゚、゚;ζ「――お母さん!!」
(;^ω^)「え?」
ξ゚听)ξ「お母さん?」
中から現れた女性は、デレの両頬を華奢な手で挟んだ。
久しぶり、と優しい声で言う。
- 467 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:45:32 ID:D9WHLNZMO
('ー`*川「うりうり」
ζ(゚、゚;ζ「うむむ……っぷあ! な、何で!?」
('、`*川「もしかしたら年末に帰ってこれないかもしれないからって、
ジョルジュさんがお休みとったんです。3日ぐらい泊まっていきますからねー」
ζ(゚、゚;ζ「急すぎ! いつ来たの!?」
('、`*川「お昼ちょっと過ぎくらいかしら……――あら?」
門の向こうに停まっている内藤の車に気付き、母、長岡ペニサスは首を傾げた。
('、`*川「あちらは?」
ζ(゚、゚;ζ「え……知り合いと、友達。送ってもらったの」
('、`*川「まあまあ」
デレの手を引いて、ペニサスが車に駆け寄る。
ツンが助手席の窓を開け、一礼した。
- 468 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:46:55 ID:D9WHLNZMO
('、`*川「どうも、デレさんの母です。娘がお世話になってます」
( ^ω^)「いやいや、こちらがお世話になってるといいますか……。
色々手伝ってもらって、助かってますお」
('、`*川「そうなんですか? ええと……」
( ^ω^)「内藤と申しますお」
('、`*川「内藤さんですね。そちらは?」
ξ゚听)ξ「ツンです」
('、`*川「ツンさん、デレさんと仲良くしてあげてくださいね。
この子、普段は家に1人でいるから、何かあったらよろしくお願いします。
頭あんまり良くないし――」
ζ(゚、゚;ζ「ちょっ、お母さん!」
( ^ω^)「その上、好奇心旺盛ですからお。
お母様が心配なさるのも無理はないかと」
('、`*川「でしょう? ふふふ」
( ^ω^)「おっおっお」
ζ(゚、゚;ζ(あれ、何だろうこの空気すごく和やかなのに恥ずかしいいたたまれない)
- 469 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:48:09 ID:D9WHLNZMO
( ^ω^)「では、僕達はそろそろ」
('、`*川「あ、はい、引き止めてしまってすみません。お気を付けて」
ξ゚听)ξ「ええ。さようなら」
――走り去る車の中。
内藤が真剣な表情で前方を見つめ、ハンドルを握っている。
やがて、重苦しい口を開いた。
( ^ω^)「ツン」
ξ゚听)ξ「なあに?」
- 470 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:49:52 ID:D9WHLNZMO
( ^ω^)「僕は基本的に熟女は守備範囲外だったのだけれど……。
デレちゃんのお母様。あれはなかなかどうして、たまらんお」
ξ゚听)ξ
( ^ω^)「すごく撫で撫でされたい。よしよしされたい。いい子いい子されたい。
――ああ、分かっているお、ツン。僕がこれからどうなるか。
きっと君は3秒後に僕を殴り抜くだろう。分かってる。
それでも僕は、この情熱を言葉にしておきたかった」
ξ゚听)ξ「他に言いたいことは?」
( ^ω^)「一番愛してるのはツンたんだお」
ツンの拳が目にも留まらぬ速さで動く。
内藤の側頭部と窓ガラスの間で、鈍い音が響いた。
*****
- 471 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:51:33 ID:D9WHLNZMO
('、`*川「……はああ……」
ζ(゚、゚*ζ「どうしたの?」
('、`*川「すっごく綺麗な子でしたね……内藤ツンさんっていうの? お人形さんみたい」
ζ(゚、゚*ζ「あ、いやいや、内藤さんとツンちゃんは一緒に暮らしてるけど他人だから、
苗字は……」
苗字は。
苗字は?
ζ(゚、゚*ζ「……」
今更ながら。
デレは、ツンの苗字を知らないことに気付いた。
内藤ホライゾン。内藤ニュッ。山村貞子。堂々クックル。ハロー・サン。茂等モララー。
これまで会ってきた図書館の人間の内、ツンだけ、フルネームでの紹介をされていない。
たまたま忘れていただけだろうか。
ζ(゚、゚*ζ「……」
('、`*川「デレさん、早く家に入りましょう。寒いですよ」
ζ(゚、゚*ζ「……はあい」
- 472 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:54:11 ID:D9WHLNZMO
リビングの椅子に、父、長岡ジョルジュが座っていた。
デレに手を振り、にっこり、笑みを浮かべる。
_
( ゚∀゚)「デレ! おかえり! ただいま!」
ζ(゚ー゚*ζ「はいはい、ただいまおかえり」
ジョルジュの振る舞いには、どこか子供っぽい節がある。
もう46歳になるのだが。
_
(*゚∀゚)「久しぶりだなあデレ。高い高いしてあげよう」
('、`*川「高校生相手にそれはないでしょ、もう」
くすくす笑うペニサスは48歳。姉さん女房というやつだ。
ジョルジュとは反対に物静かな女性である。
母性本能が刺激されたんですよねえ、と、
過去、デレにジョルジュとの馴れ初めを語ったときに言っていた。
それに対するジョルジュの反論。
俺はぽわぽわしているペニサスさんが放っておけなかったんだよ、とか何とか。
互いに互いが「この人には自分がいなければ」と思っているらしい。
- 473 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:55:56 ID:D9WHLNZMO
- _
(*゚∀゚)「夏ぶりだなあ。寂しかっただろ」
ζ(゚、゚*ζ「え、別に……」
_
(*゚∀゚)「まったまたあ、素直じゃないんだから」
ζ(゚、゚;ζ「照れ隠しとかじゃないからね。……ああもう、着替えてくる」
頭を撫でるジョルジュの手を逃れ、デレはリビングを出た。
階段を上る。踏み締める度、足が僅かに痛んだ。
両親には怪我の話をしていない。
心配はかけたくないし、黙っておこう。
自室に入り、鞄をベッドに放り投げる。
部屋着に着替えようと箪笥を開けた。
ζ(゚、゚*ζ(……そうだ、ツンちゃんの服、洗濯しなきゃ)
*****
- 474 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:57:07 ID:D9WHLNZMO
(;゚д- )「……っ」
――ミルナは、住宅街を歩いていた。
足付きがおかしい。よろよろ、のそのそ。
あれから色々な宿を回ったが、部屋は見付からなかった。
どこに行っても満室、満室。一室たりとも空きがない。
さすがに変だ。
しかも、腹が尋常じゃないレベルで減ってきた。
小一時間前から、ぎゅるるる、と音が鳴りっぱなし。
空腹というより、もはや飢餓。
喉も渇いた。
昼食は抜いてしまったが、だからといってこれほどまでになるのはおかしい。
(;-д- )「う、う……」
ぼんやりと思考が霞む。
薄暗い道。カレーや、焼き魚の匂いが漂ってくる。
どうして、こんなところを歩いているのだろう?
腹が減った。何か食べたい。何か飲みたい。
店はないか。コンビニでもいい。何か、何か。
- 475 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:57:41 ID:D9WHLNZMO
(; д )
腹が鳴る。振動が響く。きゅう、と痛む。
まるで絞られているみたいだ。
喉が渇く。唾液じゃ間に合わない。苦しい。息をしたくない。
トロリーバッグのキャスターが、がらがらと騒がしい。
腕が重い。指が攣る。
動きたくない。
これ以上動いた、ら。
(; д )「あ」
ある家の前で、ミルナは倒れた。
*****
- 476 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/09(土) 23:58:59 ID:D9WHLNZMO
('、`*川「お夕飯どうしましょう。外食にします?」
着替えたデレがリビングに行くと、ペニサスに、そう問われた。
もう夕飯時だ。
ζ(゚ー゚*ζ「久々にお母さんの料理食べたいな」
('、`*川「あら、そう? でも冷蔵庫は空っぽなんですよ」
ζ(゚ー゚;ζ「う」
('、`*川「冷凍庫は冷凍食品でいっぱいだったのだけどね?」
ζ(゚ー゚;ζ「……ごめんなさい」
('、`*川「ちゃんと栄養とってます?」
ζ(゚、゚;ζ「うう……最近、立ちっぱなしで長時間作業すると足が痛んで――」
('、`*川「え?」
ζ(゚ー゚;ζ「いや、何でもない、ごめんなさいちょっと面倒で、うん」
('、`*川「もう、だらけすぎないでくださいね」
ζ(゚ー゚;ζ「はい……」
- 477 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:00:12 ID:UwJRfMrAO
- _
( ゚∀゚)「ペニサスさん。何か中華食べたいな、中華」
('、`*川「中華? デレさんは?」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、私も……青椒肉絲食べたいかも」
_
(*゚∀゚)「いいねいいね、青椒肉絲」
('、`*川「お味噌汁は?」
ζ(゚ー゚*ζ「大根と油揚げ!」
('、`*川「分かりました。じゃあお買い物に行かなきゃね」
_
( ゚∀゚)「俺も行くよ」
車は両親が住んでいる向こうの住まいに置いたまま。
スーパーまで歩いて行かなければならない。
防寒着を羽織る彼らを見て、デレは申し訳なくなってしまった。
ζ(゚、゚*ζ「私が行くよ、買い置きしてなかった私が悪いし――」
('、`*川「いえいえ、久々にこっちのスーパーに行きたいし、大丈夫ですよ」
_
( ゚∀゚)「留守番よろしくなー」
ζ(゚、゚*ζ「……うん」
- 478 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:02:17 ID:UwJRfMrAO
- _
( ゚∀゚)「行ってきます!」
('、`*川「行ってきますね」
両親が、連れ添ってリビングを出ていく。
ぱたぱた廊下を歩く音、ばたんとドアが閉まる音。
それから――
ζ(゚、゚*ζ「?」
急に外から焦ったような話し声が聞こえた。
両親のもののようだ。
次いで、玄関のドアが開く音がした。
「デレさん!」
ζ(゚、゚*ζ「なーにー?」
「お水持ってきてください、お水!」
ζ(゚、゚;ζ「は、はい!」
ペニサスの慌てた声に急かされ、デレはキッチンに入った。
一番大きいグラスに水を注ぎ、玄関へ走る。
- 479 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:03:18 ID:UwJRfMrAO
水を受け取ったペニサスは、すぐに踵を返した。
デレもサンダルを履いて追いかける。
門の前で、ジョルジュが男を抱え起こしていた。
男の顔を上向かせて、ペニサスが男の口にグラスを傾ける。
_
( ゚∀゚)「ほら、水だ。飲めるか?」
( д )「あ……う……」
('、`;川「少しずついきますよ、苦しかったら言ってくださいね」
グラスの中身はゆっくりなくなっていく。
空になる頃には、男も回復したらしかった。
(;-д゚ )「あ、りがとう、ございます……」
_
( ゚∀゚)「……おや、君は」
(;゚д゚ )「あれ……新幹線、の」
- 480 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:03:53 ID:UwJRfMrAO
ζ(゚、゚;ζ「知り合い?」
('、`*川「ええ。……どうしてこんなところに倒れてらっしゃったの?」
(;゚д゚ )「……お腹が」
('、`*川「痛む?」
(;゚д゚ )「いや――」
ぐうう、と。
腹が、盛大な自己主張をした。
*****
- 481 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:04:57 ID:UwJRfMrAO
( ´ー`)「金欲しいなあ……」
( `ハ´)「お前は口開くとそればかりアルね」
( ´ー`)「だって欲しいもんヨ」
(*゚∀゚)「働け働け」
( ´ー`)「働いてるヨー」
(*゚∀゚)「コンビニのバイトだろうが」
( `ハ´)「バイトすらしてないお前には言われたくないアル」
――とあるアパートの駐車場。車の中。
2人の男と1人の女が、ぐだぐだと会話していた。
- 482 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:07:57 ID:UwJRfMrAO
( ´ー`)「はーあ……バイトの給料じゃ生活費でいっぱいいっぱいだヨ。
遊ぶ金が欲しい」
( `ハ´)「バイト増やすアル」
( ´ー`)「これ以上働きたくなーい」
運転席に座り、煙草を吸っている男、シラネーヨ。
助手席に座り、缶ジュースを飲んでいる男、シナー。
(*゚∀゚)「俺も金欲しいー」
( ´ー`)「バイトでもいいから働け」(`ハ´ )
後部座席に転がっている女、つー。
彼らは、3年前に大学のサークルで知り合った遊び仲間。
男勝りなところのあるつーは、女友達よりも、シラネーヨ達とつるむ方を好んだ。
暇なときには集まって馬鹿騒ぎをし、暇でなくとも講義をサボって馬鹿騒ぎをし。
言ってしまえば――落ちこぼれていく一方だった。
(*゚∀゚)「つーちゃん働いたら死ぬ」
( ´ー`)「じゃあ死ねヨ」
結局、夏頃に揃って中退し、ろくに就職活動もしないまま自堕落に過ごす日々。
シラネーヨとシナーはアルバイトで食い扶持を稼いでいるが、
つーは親の仕送りと、たまにシラネーヨ達から借りる金で何とか暮らしている。
- 483 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:09:22 ID:UwJRfMrAO
( ´ー`)「あーあ、こいつがいなきゃ、もうちょっと金に余裕が出来るのにヨ」
( `ハ´)「同感アル」
(*゚∀゚)「それは悪いと思ってるよ」
( ´ー`)「なら今まで貸した分、返せヨ」
(*゚∀゚)「無理!」
アパートにはシラネーヨの部屋がある。
それでもこうして車内でだらだらしているのは、
単に彼らがこのスペースを気に入っているからに外ならない。
狭苦しく薄暗い車内。
これといった娯楽もなく、することなんて、
雑談するか、ラジオを聴くか、携帯電話をいじるか。それぐらい。
だが、不思議と飽きないものだ。
3人だけが共有する空間。くだらない会話。
エンジンをかけ、ギアを入れてアクセルを踏めば、今すぐ遠くへ行ける。
不自由と自由の同居が心地良い。
- 484 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:11:23 ID:UwJRfMrAO
( ´ー`)「ああ、金金金」
( `ハ´)「金……」
(*゚∀゚)「お金ー」
( ´ー`)「……」
3人の在り方は、他人からは不快に思えるかもしれない。
しかし彼らが誰かに迷惑をかけたことはなかった。
ただただ、楽をしてきただけ。
なのだが。
( ´ー`)「……ちょっと行ったところにヨ」
( `ハ´)「ん?」
( ´ー`)「家があるんだ」
(*゚∀゚)「家なんてどこにでもあるだろ?」
( ´ー`)「そうじゃネーヨ。一軒家なんだけど、女の子が1人で住んでんだヨ」
( `ハ´)「一軒家に1人アルか。贅沢アルネ」
( ´ー`)「しかも話によれば女子高生。俺も一度見かけたが、普通な子だったヨ」
- 485 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:13:01 ID:UwJRfMrAO
(*゚∀゚)「んで? 何?」
( ´ー`)「あのヨ……」
この日、彼らは魔が差した。
( ´ー`)「――押し入ってさ、ちょっと脅したら……金、もらえるんじゃネーかな」
(*゚∀゚)「……はあああああ?」
( ´ー`)「いや、まず初めは普通に泥棒として入ってヨ、こそこそ金探して……
もし気付かれたら脅すって方向でヨ。相手女子高生1人だし」
( `ハ´)「お前、正気アルか」
( ´ー`)「勿論本当に傷付けようとかは思ってネーヨ?
ただ、金さえ……ほら、さあ。な?」
- 486 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:13:58 ID:UwJRfMrAO
(*゚∀゚)「……」
( `ハ´)「……」
( ´ー`)「……」
(*゚∀゚)「――ちょっと、だけ、な」
( ´ー`)「そう、ちょっとだけ。ちょっとだけだヨ」
( `ハ´)「……ふむ」
(*゚∀゚)「どうする? どうやる? もう行く?」
( ´ー`)「まあまあ、深夜まで待つヨ」
( `ハ´)「何が必要アルか」
( ´ー`)「落ち着け落ち着けー。まずはいざというときのための武器だな……」
*****
- 487 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:15:00 ID:UwJRfMrAO
(*゚д゚ )「――はあああ……」
('、`*川「満足しました?」
(*゚д゚ )「はい。ごちそうさまでした。ごめんなさい、二つも」
('、`*川「いいですよ、何故かいっぱいありましたもの」
ζ(゚、゚;ζ「むぐ」
長岡家。リビング。
二つ重なった容器を前に、ミルナは深々と頭を下げた。
空腹で死にそうだと言うミルナに、ペニサスは冷凍食品のグラタンを食べさせた。
まだ物足りなそうだったので、ドリアも。
流れで、結局デレ達も夕飯は冷凍食品で済ませてしまった。
- 488 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:17:30 ID:UwJRfMrAO
- _
( ゚∀゚)「いやあ、しかし我が家の前で行き倒れるなんて奇遇だな。
ねえ、……えーと、ミルナ、君?」
( ゚д゚ )「ええ、本当に。……驚かせてしまってすみません」
_
( ゚∀゚)「いいよいいよ。それにしても、泊まる場所が見付からないとは災難だったね」
( ゚д゚ )「はい……明日は朝早くから取引先に向かわないといけないのですが」
('、`*川「まあ、まあ。――それなら、ねえ?」
ζ(゚、゚*ζ「?」
('、`*川「うちに泊まっていかれたら?」
(;゚д゚ )「……は」
('、`*川「こうやって再会したのも何かの縁です。ミルナさんが嫌じゃないなら」
ζ(゚、゚;ζ(この人らは相も変わらず……)
知り合いとはいえ、新幹線で少し話しただけだ。
そんな相手に対して全く警戒心を抱いていないペニサスに、
デレは呆れたような視線を送った。
が、この家族、揃いも揃ってお人よしである。
ジョルジュもデレも、ペニサスの提案を拒む気はない。
- 489 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:19:17 ID:UwJRfMrAO
(;゚д゚ )「そ、そりゃあ、ありがたいですけど……いくら何でもご迷惑じゃ」
('、`*川「全然迷惑なんかじゃありませんよ」
_
( ゚∀゚)「そうそう」
(;゚д゚ )「折角の親子水入らずですし」
ζ(゚、゚*ζ「折角、って言っても……夏に一回会ってますから」
(;゚д゚ )「……」
('、`*川「ね?」
ペニサスが、ぽんとミルナの背を叩く。
ミルナは、しばし考え込み、
( ゚д゚ )「――お願い、しても……よろしいでしょうか」
と、再び頭を下げた。
- 490 名前:>>488 × この人ら →○ この人:2011/04/10(日) 00:21:45 ID:UwJRfMrAO
- _
( ゚∀゚)「よーし、オッケーオッケー。どこで寝かそうか」
('、`*川「後で予備のお布団出しましょう」
こんなに優しい人達がいたものか。
ミルナは感激し、瞳を潤ませた。
この目のせいで、人とコミュニケーションをとるのが昔から少し苦手だった。
上司からは生意気に思われるし、後輩や異性には恐がられる。
進んで誰かと係わり合いになるのを避けていた。
だから、ここまで親切にされたのは初めてに近かった。
( -д- )「……かたじけない」
('、`*川
_
( ゚∀゚)
ζ(゚、゚*ζ
- 491 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:23:50 ID:UwJRfMrAO
( -д- )
( -д゚ )
( ゚д゚ )「あれ?」
気付くと、ミルナは椅子の上で正座していた。
きっちり背を伸ばし、姿勢良く正座していた。
デレ達が唖然としている。
(;゚д゚ )「え? あれ?」
しかも、何だ、「かたじけない」とか言ってしまった気がする。
武士か。
(;゚д゚ )「あ、え、ちょ、今のは、あの」
('、`*川
('、`*川「ぷっ」
(;゚д゚ )「ぷ?」
- 492 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:24:33 ID:UwJRfMrAO
('ヮ`*川「あはは、面白い方ですねえ、ミルナさん」
_
(*゚∀゚)「『かたじけない』ってwwww侍かwwwwww」
ζ(゚、゚;ζ「お父さん笑いすぎ」
(;゚д゚ )「……は、ははは」
ペニサスとジョルジュがけらけら笑う。
どうやらギャグだと思われたらしい。
良かった。……良かった、のだろうか。
*****
- 493 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:27:13 ID:UwJRfMrAO
デジタル時計の表示が2時に変わった。
シラネーヨ達3人は手袋を嵌めて、車を降り、目当ての家へ向かった。
角を曲がり、数メートル歩いたところにある一軒家。
「長岡」という表札を確認する。
( ´ー`)「……明かりはネーヨ」
( `ハ´)「本当にやるアルか?」
(*゚∀゚)「今更訊くなよう……」
小声で言葉を交わし、まずはシラネーヨが鉄柵で出来た門を越えた。
門の鍵を開け、シナーとつーを入れる。
( ´ー`)「この窓でいいか」
ドアは無視して、左側、駐車スペース――車はないが――の前へ移動した。
掃き出し窓がある。
リビングの窓だろう、とシラネーヨが囁いた。
- 494 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:28:58 ID:UwJRfMrAO
(*゚∀゚)「出来る?」
( ´ー`)「一応調べた通りにやってみるけど、出来なかったら帰るヨ」
シナーがペンライトで窓を照らした。
鍵の位置を確かめる。
ポケットからマイナスドライバーを取り出したシラネーヨは、
その切っ先をガラスとゴムパッキンの間に差し込んだ。
鍵の少し上辺り。力を込めて捻ると、罅が入った。
ぱき、と音が鳴る。小さなものだったが、彼らにはひどく大きく聞こえた。
(;*゚∀゚)「だっ、大丈夫?」
(;`ハ´)「……大丈夫、そんなに大きくなかったアル」
(;´ー`)「お、おう」
今度は鍵の下。先に入れた罅に向かうように抉ると、再び音が鳴った。
罅と罅が繋がる。
三角形に割れたガラスを抜き取り、シラネーヨは鍵に手を伸ばした。
クレセントを引き上げ――解錠に成功する。
(;*゚∀゚)「すっげ……」
(;´ー`)「さっさと入るヨ」
- 495 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:30:41 ID:UwJRfMrAO
窓を開け、3人は室内に乗り込んだ。
どくどく、心臓が跳ね回る。
真っ暗な部屋の中で、シラネーヨとつーもペンライトのスイッチを入れた。
(;`ハ´)「……居間アルね」
(;´ー`)「適当に棚とか漁って、金とか……金になりそうなもん探せ。
10分経ったらずらかるヨ」
(;*゚∀゚)「おう……」
ふと、つーが照らした先。
小さな明かりの中。
( ゚д゚ )
男が、彼らを見ていた。
*****
- 496 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:32:34 ID:UwJRfMrAO
風呂から上がったミルナに、ペニサスは言った。
('、`*川『2階に、ちょっとした物置になっている部屋があるんですけれど、
少し掃除したら広めのスペースとれますから。
そこで眠っていただいてもいいですか?』
文句などある筈がない。
ミルナは頷こうとした、のだが。
( ゚д゚ )『……リビングで寝ても、よろしいでしょうか』
唐突に思い至って、彼はそう告げた。
('、`*川『あら。いいんですの?』
( ゚д゚ )『何だか、ここで寝ないといけない気がして』
('、`*川『ふふ、何ですの、それ。
私は構いませんよ。たしかに物置よりはそっちの方がいいですし。
じゃあ、お布団持ってきますね――』
そうして、リビングの奥に敷いた布団でミルナは眠ることにした。
デレ達も各自就寝し、長岡家は暗闇と静寂に包まれる。
- 497 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:36:03 ID:UwJRfMrAO
すっかり寝入っていたミルナは、物音で目を覚ました。
上体を起こし、息を潜めて様子を探る。
からから。窓が開く音。
闇に慣れた目は、カーテンが揺らぎ、一筋の光と複数の人影が入り込んでくるのを見た。
一つだった細い光が三つになる。
漁るだの金だのと不審な話し声。
その内に、ある光がミルナに向けられ――今に至る。
(;*゚∀゚)「え?」
(;´ー`)「なっ……!」
(;`ハ´)「……女子高生アルか?」
(;´ー`)「んなわけネーヨ、普通におっさんじゃネーか!」
急に、ミルナの目が収縮するような感覚に覆われた。
闇の中なのに、侵入者の姿が鮮明に見える。
男が2人、女が1人。
考えるより先、立ち上がったミルナはキッチンへ飛び込んだ。
並んでいる調理器具を適当に掴み、リビングに戻る。
- 498 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:38:16 ID:UwJRfMrAO
一方のシラネーヨ達は困惑しきっていた。
大人、それも男がいるなんて想定外だったのだから。
そうこうしている間に、男――ミルナが再び現れる。
(#゚д゚ )「この……曲者が!!」
(;´ー`)「くっそ、家間違ったか!?」
(;*゚∀゚)「ややっ、やべえよシラネーヨ!」
(;`ハ´)「あ、あいつ何持ってきたアルか!? まさか刃物――」
シナーがミルナの手元にライトを向ける。
彼がキッチンから持ち出したのは。
- 499 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:40:29 ID:UwJRfMrAO
(#゚д゚ )「成敗!!」
菜箸だった。
(;´ー`)(;`ハ´)(;*゚∀゚)「お箸だ――――――――――!!!!!」
(;´ー`)「箸じゃネーか! 長いけど箸じゃネーか! ビビって損した!!」
(;`ハ´)「どうするアル?」
(;*゚∀゚)「逃げるか!?」
(#゚д゚ )「逃がすか!」
ミルナがシラネーヨに向かって駆ける。
シラネーヨは一瞬思考し、
(#´ー`)「……んな箸で何するっつうんだヨ!!」
ポケットに忍ばせていた果物ナイフを取り出した。
- 500 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:43:56 ID:UwJRfMrAO
(;*゚∀゚)「や、やるんか! やっちまうんかシラネーヨ!!」
(#´ー`)「だってあいつ、この局面に箸持ってきてんだぞ!?
男がナメられたままでいられっかヨ!」
殺そうなどとは思っていない。
傷付けたいわけでもない。
ただ、ナイフを見て恐がってくれたら、それで良かった。
なのに。
(#゚д゚ )「そんな刀で俺をやれると思ったか!?」
怯む素振りを全く見せず、ミルナは近付いてくる。
シラネーヨは咄嗟にナイフを突き出した。
そのままでは間違いなくミルナの胸に刺さっていたであろうそれは、
かつ、と軽やかな音をたてて、動きを止められてしまった。
- 501 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:46:44 ID:UwJRfMrAO
(;´ー`)「……は!?」
( ゚д゚ )「遅い」
――菜箸に、掴まれたのだ。
挟み込まれたナイフは、シラネーヨが押しても引いても、びくともしない。
ミルナが菜箸を引っ張ると、つられてナイフがシラネーヨの手から抜けた。
ナイフを床に捨てる。これで、シラネーヨ達から武器はなくなった。
(;*゚∀゚)「あわわわわ」
(;`ハ´)「は、刃物が箸に負けたアルヨ……」
(;´ー`)「……」
( ゚д゚ )「さあ、盗っ人共」
( ゚д゚ )「貴様らまとめて、切り捨ててやる」
普段のシラネーヨならば、菜箸で切れるかよ、と冷静につっこんでいただろう。
しかし、今の彼にそんな余裕はなかった。
いるとは思わなかった存在。立ち向かってきたミルナ。木製の箸に負けたナイフ。
何より、睨みつけてくるミルナの目。
それら全てが、シラネーヨから判断力を奪った。
- 502 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:50:00 ID:UwJRfMrAO
(;´ー`)「あ、あ……」
本当に殺される。
シラネーヨの足から力が抜けかけた、瞬間。
「何してるんですか!?」
リビングに光が溢れ、少女の声が響いた。
( ゚д゚ )「おデレさん!」
ζ(゚ー゚;ζ「お、おデレさん!?」
声の正体はデレだった。
リビングの入口に、明かりのスイッチに手を伸ばした体勢で立ち尽くしている。
- 503 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:51:44 ID:UwJRfMrAO
ζ(゚、゚;ζ「トイレに起きてきたら何か騒がしくて……ど、どういう状況ですか?」
( ゚д゚ )「盗っ人だ」
ζ(゚、゚;ζ「ぬすっ……えっ、泥棒!?」
ミルナがデレに視線を向けて、出来た隙。
シラネーヨ達は、開けっ放しの窓へ走った。
(;´ー`)「逃げるヨ!!」
(;`ハ´)「把握アル!」
(;*゚∀゚)「おうよ!」
(#゚д゚ )「あっ、待ちやがれ!」
声では制止したものの、追いかけることはしなかった。
息をつき、近くにあった椅子に腰を下ろす――と、同時。
(;゚д゚ )「……あ、あれっ……?」
ミルナは、我に返った。
*****
- 504 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:54:55 ID:UwJRfMrAO
3人は車に飛び乗った。
震えそうになる手でエンジンをかけ、ギアを入れ、アクセルを思いきり踏んだ。
しばらく走り、シラネーヨのアパートも通りすぎた辺りで、ようやく彼らは落ち着いた。
(;´ー`)「……あの女の子だったヨ」
(;`ハ´)「何がアルか」
(;´ー`)「一人暮らしの子。んじゃあ、あの男、ありゃ誰だ……?
親にしちゃあ若い。兄貴にしちゃあ老けてる」
(;*゚∀゚)「歳の離れた兄貴なんて結構いるぞ」
(;´ー`)「そりゃあそうだけどヨ……」
(;*゚∀゚)「もしくは親戚とか恋人とか……ああ、もう、知るか」
- 505 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:55:44 ID:UwJRfMrAO
(;`ハ´)「……はあ。何にせよ失敗アル。私達どうなるアルかね」
(;*゚∀゚)「捕まっちゃうかなあ」
(;´ー`)「……」
とっくに閉まったスーパーの駐車場。
そこに車を停め、シラネーヨは溜め息をついた。
( ´ー`)「……どうせ捕まるならヨ」
(;*゚∀゚)「ん?」
( ´ー`)「――あの野郎に、仕返ししてやろうじゃネーか」
(;*゚∀゚)「……」
(;`ハ´)「……」
(;*゚∀゚)(;`ハ´)「出来んの?」
( ´ー`)「シラネーヨ」
*****
- 506 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:57:25 ID:UwJRfMrAO
ζ(゚、゚;ζ「う、うわわっ、窓に穴あいてる……ひいっ、何これナイフ!?」
(;-д- )「……」
慌てふためくデレ、頭を抱えているミルナ。
窓を閉め、床に転がるナイフを拾い上げたデレは、ミルナの隣の椅子に腰掛けた。
ζ(゚、゚;ζ「ミルナさん、何があったんです? ……あれ、こんなところに菜箸が」
(;-д゚ )「――奴らが侵入する音で、目が覚めたんだよ。
そしたら、……急に、戦おうって思って……」
ζ(゚、゚;ζ「急に」
(;-д゚ )「ああ、急に。それで、キッチンから取ってきた菜箸で――信じられないけど、
勝っちゃったよ。俺は別に喧嘩が強いわけでもないのに。
……何て言うかな、武士が乗り移ったみたいだ」
ζ(゚、゚;ζ「……」
菜箸に目を落としたデレは、はっとして椅子から立った。
ζ(゚、゚;ζ「とにかく、警察!」
(;゚д゚ )「あ……そ、そうだね」
ζ(゚、゚;ζ「お母さん達、起こしてきます」
(;゚д゚ )「俺も行くよ」
- 507 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 00:59:15 ID:UwJRfMrAO
2階に行き、両親がいる寝室のドアを強めにノックする。
5回目に叩いた頃、中から眠たげな声が返ってきた。
ドアが開く。
('、`*川「どうしました、デレさん……。あら、ミルナさんも」
_
( ゚∀-)「まだ夜中だぞ……」
デレが泥棒のことを説明すると、両親は顔を見合わせた。
視線だけで会話をしているのか、頷き合う。
そして。
('、`*川「……まあ、何も盗られてないなら……」
_
( ゚∀゚)「放っといてもいいんじゃないかなあ」
と、呑気に言い放った。
- 508 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 01:01:26 ID:UwJRfMrAO
(;゚д゚ )「いやいやいやいやいや」ζ(゚、゚;ζ
('、`*川「だってそうでしょう? きっと泥棒さん達も懲りましたよ」
_
( ゚∀゚)「被害がないのに警察の方達に迷惑かけるのも……」
(;゚д゚ )「ええええええええええ」
ζ(゚、゚;ζ「被害あったって! 窓に穴あけられたし!」
('、`*川「紙か何かで塞いどいてくださいね。朝になったら業者さん呼びます」
_
( ゚∀゚)「そうだ、ミルナ君お疲れ様。ありがとう」
('、`*川「ええ、家を守ってくれてありがとうございます!
でも無茶はしたら駄目ですよ」
(;゚д゚ )「はあ」
_
( ゚∀゚)「じゃあ、おやすみ」
('、`*川「おやすみなさい」
ドアが閉められる。
デレとミルナはしばらく呆然としていたが、やがて、ミルナの方が口を開いた。
- 509 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 01:04:09 ID:UwJRfMrAO
(;゚д゚ )「……君のご両親は、何か……凄いね、色々と」
ζ(-、-;ζ「昔からこうなんです。……そうだ、ミルナさん」
(;゚д゚ )「はい?」
ζ(゚、゚*ζ「あの、さっきの泥棒のことで、何か思い当たることありませんか?」
( ゚д゚ )「これまで?」
ζ(゚、゚*ζ「……最近読んだ本に、似たような展開がある、とか」
( ゚д゚ )「本」
数秒後、ミルナが手を打った。
あった。
似たような展開。
( ゚д゚ )「時代小説なんだけど。空腹の浪人が、ある家にお世話に――」
(;゚д゚ )「――……あ……?」
ぽかんと口を開けて固まったミルナ。
見る見る内に、顔が青ざめた。
- 510 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 01:06:26 ID:UwJRfMrAO
(;゚д゚ )「一緒。一緒だ。本当に。ほとんど一緒……」
ζ(゚、゚;ζ「その本持ってますか!?」
(;゚д゚ )「も、持ってる、鞄に入ってる!」
急いで階段を下り、ミルナが寝ていた布団に駆け寄る。
枕元に置いていた鞄を引っくり返し、中身をぶちまけた。
柳色の本。
それを持ち上げる。
(;゚д゚ )「これだ。この話……」
ζ(゚、゚;ζ「すみません、見せてください!」
手渡された本の表紙。
そこに、恐らく筆で書かれたのであろう文字。
タイトルと、著者――「茂等モララー」。
- 511 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 01:07:03 ID:UwJRfMrAO
ζ(゚、゚;ζ「……モララー、さん」
やはり。
ミルナは、「主人公」にさせられたのだ。
第四話 続く
- 512 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 01:10:13 ID:fTQvHFmsO
- 続きが気になる
支援
- 513 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 01:12:02 ID:UwJRfMrAO
- 今回の投下終わりです
次回投下は多分来週中。早ければ火曜とか水曜辺り、遅ければ金曜とか土曜辺り
読んでいただき、ありがとうございました!
しおり的な目次的な
第二話前 >>104
第二話後 >>175
第三話前 >>250
第三話後 >>333
第四話前 >>431
ではでは
- 514 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 01:13:31 ID:B3VgBXN20
- 乙カリー
- 515 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 01:15:16 ID:keDhKcNoO
- 乙うううううううん
- 516 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 01:43:02 ID:gFKcUQtI0
- 乙!
モララーのキャラいいなwwwwww
- 517 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 09:29:05 ID:UwJRfMrAO
- やだ、堂々としたミス発見
>>509の
( ゚д゚ )「これまで?」
を、
( ゚д゚ )「何かって?」
に脳内ですり替えといてください
相手の言葉ちゃんと聞けよなミルナったらもう
- 518 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 09:39:22 ID:j0dKSacw0
- 乙
安定感が素晴らしい
- 519 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 13:18:00 ID:Kxb.966Q0
- 乙デレさん!
- 520 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 17:09:47 ID:n9itNDp.0
- 乙
モララーがいい感じにキモい
- 521 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/10(日) 17:58:30 ID:Xp7ApHi60
- 来てたのか
- 522 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/11(月) 20:21:20 ID:JPqmUoqcO
- デレちゃんぺろぺろ
- 523 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/12(火) 04:12:52 ID:UIuZi9Tw0
- 僕もデレちゃんに裸見られたいでブヒィッ‼
- 524 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/14(木) 15:52:47 ID:31mhLhW20
- 続きが早く読みたすぎてうずうずする
- 525 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/15(金) 21:03:13 ID:fPlQRK3w0
- 今日か?明日か?
待ちきれん
- 526 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 21:58:42 ID:XaWEGaeMO
- 第四話後編投下しマティーニ
- 527 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 21:59:39 ID:XaWEGaeMO
夜が明けて。
('、`*川「あら……」
起床したペニサスは、リビングのテーブルにメモ用紙が置かれているのを見付けた。
『仕事に行ってきます。 河内』、とのこと。
('、`*川「もう行っちゃったの……朝ご飯、食べてませんよねえ」
ミルナの布団は丁寧に畳まれている。
残念ですね、と頬に手を添え、ペニサスは小首を傾げた。
溜め息。それから、窓の前に立った。
鍵に近い場所に、厚紙がガムテープで固定されている。
上部のガムテープを剥がして覗き込んでみると、たしかに穴があいていた。
('、`*川「凄いですねえ。……ガラス、強いやつに替えた方がいいかしら」
感心しつつも、これからのデレのことを考えると不安になる。
時間と金額はどれほどかかるのだろうか。
とにかく、昼頃に業者を呼ばなければ。
- 528 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:00:47 ID:XaWEGaeMO
と、そこへ、デレの声が飛んできた。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、お母さん、おはよう」
('、`*川「おはようございます」
制服姿で鞄を持ったデレ。
リビングには入らずに、ひらひらと手を振った。
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ行ってきます!」
('、`*川「もう? ご飯は食べませんか。ご飯って言っても冷凍食品ですけど」
ζ(゚ー゚*ζ「今日はいいや」
('、`*川「まあ……――お弁当はどうなさるの?」
ζ(゚ー゚*ζ「学校で買うよー」
じゃあね、とデレが玄関へ消えた。
ドアが開き、閉まる音。
ペニサスは唇を尖らせる。
('、`*川「もう……」
- 529 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:01:23 ID:XaWEGaeMO
ζ(゚、゚;ζ「……ふう」
外に出たデレは、ほっと息をついた。
包帯が見えないようニーソックスを穿いたおかげか、怪我がバレずに済んだ。
ζ(゚、゚;ζ(大体塞がったし、包帯やめよっかなあ……)
- 530 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:01:47 ID:XaWEGaeMO
第四話 あな可笑しや、時代小説・後編
.
- 531 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:02:43 ID:XaWEGaeMO
( ゚д゚ )(あれは何だったんだろう)
バス停に立ちながら、ミルナは夜のことを考えていた。
柳色の本に書かれた物語。まさか、あれが現実のものになるとは。
気味が悪い。
デレはどういうことか知っているようだった。
部屋に戻る際、「後で訊いておきます」と言っていたが、誰に何を訊くつもりなのだろう。
( ゚д゚ )(……あ、来た)
やって来たバスにミルナが乗り込む。
バスが走り出すと、角から現れた車が、その後を追い始めた。
(*゚∀゚)「普通のリーマンっぽいな」
( `ハ´)「出勤するところアルネ。――尾行なんて出来るアルか」
( ´ー`)「やってやんヨ。……今日は下調べだ」
- 532 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:03:02 ID:XaWEGaeMO
(*゚∀゚)「そういやお前らバイトは?」
( ´ー`)「休む」
( `ハ´)「どうせシラネーヨに付き合わされるから休むアル」
(*゚∀゚)「……後で怒られるんじゃない?」
( ´ー`)「多分な」
*****
- 533 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:03:06 ID:UxIZgPDk0
- sssssss支援っつぁい!!!
- 534 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:04:00 ID:XaWEGaeMO
いつも通りに授業が進み、放課後。
デレが帰宅の準備をしていると、友人、素直キュートが声をかけてきた。
o川*゚ー゚)o「やっほ、デレちゃん!」
ζ(゚ー゚*ζ「ん、キュートちゃん」
o川*゚ー゚)o「足の調子はどう?」
ζ(゚ー゚*ζ「ほとんど塞がったかな。まだちょっと痛みはあるけど」
o川*゚−゚)o「でも、跡とか残っちゃうんでしょ?」
ζ(゚ー゚*ζ「足だもん、大丈夫。あんまり目立たないよ」
o川*゚−゚)o「そうだけど……」
- 535 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:04:57 ID:XaWEGaeMO
ζ(゚ー゚*ζ「気にしてくれてありがとうね。――じゃあ、ばいばい」
o川*゚ー゚)o「真っ直ぐ帰るの?」
ζ(゚ー゚*ζ「ううん、図書館に寄ってくよ」
o川*゚ー゚)o
ζ(゚ー゚*ζ
o川*゚ー゚)o「(チラッ)(チラッ)」
ζ(゚、゚;ζ(うおお無言の圧力)
「行きたいってわけじゃないけど暇だから」と言い張るキュートを連れ、学校を出る。
校門の傍に車が停まっていた。
見覚えがある。
ζ(゚、゚*ζ「内藤さん?」
車に駆け寄ると助手席側の窓が開いた。
ツンと、その向こうに内藤。
- 536 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:06:23 ID:XaWEGaeMO
ξ゚听)ξ「こんにちは」
ζ(゚、゚*ζ「こんにちはー」
o川*゚ー゚)o「お久しぶりです!」
(*^ω^)「おおおっ、キュートちゃん!」
ζ(゚、゚*ζ「どうしてここに?」
(*^ω^)「迎えに来たんだおー」
昼頃、図書館へ行く旨を内藤にメールで伝えていた。
恐らくデレの足を気遣って来てくれたのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます」
(*^ω^)「いいお、いいお。キュートちゃんも来るかお?」
o川*゚ー゚)o「お邪魔じゃなければ――」
デレが後部座席のドアを引く。
そこでようやく、もう1人の存在に気付いた。
- 537 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:07:17 ID:XaWEGaeMO
( ・∀・)「やあ」
ζ(゚、゚*ζ「モララーさん!」
o川*゚ー゚)o「誰? わっ、着物だ」
ζ(゚、゚*ζ「図書館に住んでる作家さん。……お邪魔します」
運転席の後ろにモララー、助手席の後ろにキュート、
2人の間にデレ、という配置で乗り込む。
出発ー、と呑気な声で内藤が言って、車を発進させた。
( ・∀・)「久々に外に出たくて。……と言っても車中だけどさ」
o川;*゚ー゚)o「ま、眩しい……イケメンすぎて眩しい……」
(*・∀・)「えー、そんな……ぜ、全然格好よくないよ、普通だよ」
( ゚ω゚)「……てめえで普通だったら僕は何だ? 人間以下か?」
ξ゚听)ξ「見苦しい」
(;゚ω゚)「ど、どっちの意味!? 嫉妬が? 顔が!?」
- 538 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:08:44 ID:XaWEGaeMO
(*・∀・)「イケメンかあ、参ったな。えへへ」
照れたように頭を掻くモララーを眺めていたデレは、
そういえば、とキュートに向き直った。
ζ(゚ー゚*ζ「モララーさんって、キュートちゃんの好みのタイプそのまんまだよね」
o川*゚ー゚)o「え?」
ζ(゚ー゚*ζ「格好いいし、細身だし……」
ξ゚听)ξ「少なくともクックルよりは、あなたの好みに近いと思うけれど」
(*・∀・)(何でここでクックル?)
- 539 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:09:19 ID:XaWEGaeMO
o川*゚−゚)o
o川*゚−゚)o「いや。たしかに私、格好いい人が好きだけど。
たしかに、たしかにね、あの人と付き合うぐらいなら、
モララーさんを選ぶよ? うん。あの人ごついし。好きじゃないし」
o川*゚−゚)o「ああ、でも……でもさあ、ほら、何かさあ、
モララーさんは美形すぎる、かなあ? 逆に気が引けるっていうか。
あと何か、なよっとしてるし。ね?」
o川*゚−゚)o「それに比べてあの人はさ、男気? そういう格好よさはあるよね。
まあ、あるっていうか、それしかないっていうか。
中身はイケメンなんじゃないかな? だよね。そうだよ。別に好きじゃないけど」
ζ(゚、゚;ζ「ごめんなさい話振った私が悪かったです」
ξ゚听)ξ「意見がぐっちゃぐちゃね」
( ;∀;)
ζ(゚、゚;ζ「あれっモララーさんがさりげなく泣いてる!? 何がスイッチだったの!?」
( ^ω^)(『なよっとしてる』発言だろうなあ)
- 540 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:10:24 ID:XaWEGaeMO
デレが必死にモララーを励ましている内に、図書館に到着した。
入館するや否や、内藤は、カウンターの奥にあるドアを開けた。
( ^ω^)「クックルー! キュートちゃん来たから、相手してあげてくれおー!」
o川;*゚ー゚)o「!?」
階上からクックルの返事。
内藤が退き、キュートを手招きする。
(*^ω^)「行ってらっしゃいおー」
o川;*゚ー゚)o「……そ、そこまで言うなら行くしかないですね」
別に強制しているわけでもないのだが、
キュートはあくまで「仕方ない」というスタンスは崩さずに、2階へ上がっていった。
「本」の話をするには、キュートはいない方がいい。
彼女は本や図書館に関する詳しい事情を知らないから。
それに何より、キュートの目的はどうせクックルなのだ。
- 541 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:11:55 ID:XaWEGaeMO
( ^ω^)「――さてさて。本題だお」
内藤が振り返る。
デレ達もテーブルへと視線をやった。
( ν )
手前のテーブル。
本で顔を隠すニュッが、そこにいた。
ζ(゚、゚;ζ「……ニュッさん、なかなかキュートちゃんに慣れませんね」
ξ゚听)ξ「逃げ出さないだけマシになったと思うわよ」
*****
- 542 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:13:03 ID:XaWEGaeMO
( ぅ∀;)「お、俺の本が……とんだご迷惑を……」
デレがミルナと本のことを説明すると、モララーは泣きじゃくりながら土下座した。
額を床に押し付け、ごめんなさいごめんなさいと繰り返す。
ζ(゚、゚;ζ「こ、これといった被害もありませんし、モララーさんが悪いわけでも……」
( ;∀;)「おばっあびゅ、あばばばばばば」
( ^ν^)「うるせえ死ね」
( ;∀;)「わあああああああああん!!」
(;^ω^)「ニュッ君、人を踏んじゃいけません!」
( ;∀;)「ああああん、昔のニュッ君はいい子で可愛かったのにぃいいい!!
昔は、こ、こんな、小っちゃくて、そのくせ妙に辛辣で上から目線で……
あれ? 今と変わんない?」
ξ゚听)ξ「話が脱線してるわよ」
( ;∀;)「ぴぎい」
ξ゚听)ξ「お茶飲んで落ち着きなさい」
モララーは椅子に座り直し、テーブルの上、皿に盛られた大福をかじった。
甘みが口一杯に広がった頃合いに煎茶を飲む。
- 543 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:13:35 ID:669DfIxQ0
- キューさんいいね
- 544 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:14:25 ID:XaWEGaeMO
(*・∀・)「わーい、こしあんだー」
( ^ω^)「……とりあえずモララーは無視して話進めるお」
( ;∀;)
( ^ω^)「タイトルも判明しているわけだけど……ニュッ君、あれはどんな話だお?」
( ^ν^)「舞台は江戸時代で、主人公は……ええと、浪人。
空腹のあまり行き倒れたところを、呉服屋に拾われる。
人は死なない。ただし刀で斬り合うシーンはある」
ζ(゚、゚;ζ「刀……」
( ^ν^)「だが、デレの話通りなら『主人公』は刀の代わりに菜箸を使ったらしいから、
刃物とか危険な物さえ持たなきゃ怪我人は出ないだろ。
せいぜい打撲あたりじゃねえか」
( ^ω^)「刀の代用品なら、包丁を選びそうなもんだけど……。
何で菜箸だったんだお」
ξ゚听)ξ「モララーは不要な殺生や乱暴なことは好まないわ。
本もそれに似たのかしら」
( ^ν^)「あの本、そういや珍しくちゃんばらものだな。
こいつが書くのなんて、町人の呑気な生活ぶりだの何だの平和な話ばっかなのに」
( ・∀・)「だって、アクション要素入れた方がニュッ君楽しんでくれるかなって……」
- 545 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:15:16 ID:XaWEGaeMO
( ^ω^)「それは置いといて。ニュッ君、展開の詳細を」
( ^ν^)「ん。あれは、3つの事件があって――」
*****
( ゚∋゚)「この間、館長が美味いチョコレートを買ってきたんだ」
o川*゚ー゚)o「ふうん」
2階、食堂。
キュートの目の前、テーブルの上には、ミルクティーとチョコレートがあった。
向かいにはクックル。
和やかな雰囲気が流れている。
- 546 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:16:41 ID:XaWEGaeMO
キュートからすれば申し分ない状況――なんてこともなく。
ハハ ロ -ロ)ハ「アーモンドのヤツとって、アーモンド」
( ゚∋゚)「はいはい」
川д川「ホワイトチョコどれ……?」
( ゚∋゚)「水色の包み」
o川* ー )o(な・ん・で、この人達もいるのよぉおおお……!!)
どういうわけか、ハローと貞子も同席していた。
膝の上に乗せたキュートの拳が震える。
- 547 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:18:20 ID:XaWEGaeMO
川д川「……邪魔なら邪魔って言ってねえ……?」
ハハ ロ -ロ)ハ「ン? ワタシ達、いない方がイイ?」
o川;*゚ー゚)o「え!? べっ……つに、邪魔なんて思ってませんけど!!」
ハハ ロ -ロ)ハ「ゴメンナサイ、ワタシ、誰かの近くにいる方が執筆捗るノ」
ならクックル以外の人間を選べ――と、キュートは胸の内でこぼした。
決して声には出せない。
何故か横向きに座りながら隣のクックルに背を預けているハローに、
「その姿勢をとる必要はあるのか?」とも、問うことは出来ない。
ハハ ロ -ロ)ハ「クックルあったかーい」
o川* ー )o ギリッ…
川д川「……その可愛い唇噛み締めちゃ駄目よ……。
ハローは人懐っこい子だから勘弁してあげてね……」
両膝でノートを支えながらペンを走らせるハロー。
別に、キュートへ嫌がらせをしようなどとは思っていない。
- 548 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:19:27 ID:XaWEGaeMO
( ゚∋゚)「どうかしたのか?」
o川#゚д゚)o「うるさいボケェ! おかわり寄越せーい!!」
(;゚∋゚)「何なんだお前」
ミルクティーを一気飲みし、キュートがクックルにティーカップを突きつける。
クックルは首を傾げつつそれを受け取り、ハローを一旦どかせてから腰を上げた。
余談ではあるが、このときキュートは舌に軽い火傷を負った。
川д川「……不毛よねえ……」
o川*゚ー゚)o「はい?」
クックルが厨房に消えた直後、貞子が口を開いた。
ホワイトチョコレートの包みを開けながら、隣、キュートを見る。
- 549 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:20:56 ID:XaWEGaeMO
川д川「クックルなんか諦めた方がいいわよ……」
ハハ ロ -ロ)ハ「アラヤダ、そういうコト? ゴメンナサイ、べたべたシテ」
o川;*゚ー゚)o「ど、どうぞ遠慮なく! 存分にべたべたすればいいと思いますよ!!」
川д川「……万が一、あの鈍いクックルがあなたの気持ちを理解したとして……。
そしてさらに万が一、両想いだったとして……」
o川;*゚ー゚)o「いや、ですから――」
川д川「……あなたが泣くだけよ……?」
o川;゚ー゚)o「――……」
好きじゃない、と否定しようとしたキュートの言葉は、
ぞっとするほど冷たい貞子の声に引っ込まされた。
o川;゚ー゚)o「……ど、どういうことですか……?」
キュートの問いに、貞子は答えない。
川д川「詳しく説明する気はないけど……忠告だけは、しておいたわよ……」
*****
- 550 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:22:34 ID:XaWEGaeMO
_、_
( ,_ノ` )「それじゃあ、これからよろしく」
( ゚д゚ )「はい、よろしくお願いします」
取引相手――渋澤という名前の男――に見送られ、
ミルナはビルを出た。
外は薄暗い。
今日の仕事は、挨拶と打ち合わせ、それと簡単な話し合いのみだったため
早めの帰宅を許された。
明日からはもっと遅くなるだろう。
しかし、それにしても。
(;゚д゚ )(印象最悪ぅうううう!!)
早速やらかしてしまった。
まず第一に遅刻。
慣れない土地、加えて本来予定にはなかった長岡家からの出勤とはいえ、
デレ達に道順や行き方を教えてもらっていたのに。
遅れたのは10分程。どんな理由があるにせよ社会人として許されない過ちである。
挨拶のほとんどは謝罪に終始してしまった。
- 551 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:23:46 ID:XaWEGaeMO
(;゚д゚ )(おうち帰りたい。トイレに引きこもりたい)
第二に、やはりと言うか何と言うか、この目。
ミルナは本気で反省していたのだが、相手には、そうは見えなかったらしい。
睨みながら謝っているようなものだから、不貞腐れた風に映ったのかもしれない。
遅刻の件が許された後に各関係者へ挨拶に回った際も、
目つきの悪さで多少の不快感を与えてしまったようだ。
(;゚д゚ )(いっそ、このまま遠くへ行きたい。消え去りたい)
第三。元来の不器用さ、コミュニケーション力の低さによる失敗。
打ち合わせは、とてもスムーズとは言えない出来だった。
説明は下手だし気は回らない。向こうのフォローに頼りっぱなし。
最悪だ。
- 552 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:24:45 ID:XaWEGaeMO
( ゚д゚ )「……はあ」
――そもそも。
ミルナは初めから、こういったことには向いていない。
本人は元より、彼の上司や同僚、後輩までもが理解している。
理解しているからこその、今回の出張である。
( ゚д゚ )(こんなに嫌われてるなら、辞めた方がいいのかなあ)
言ってしまえば、上司の嫌がらせだ。
ミルナが自ら希望したかのように装って、取引に出向かせる。
そうしてミルナが失敗した暁には、その責任を全てミルナに被せるつもりなのだ。
直接言われてはいないが、そんなところだろうとの予測はつく。
可哀相に、と同僚達が小声で話しているのを聞いた。
行ってこい、とにやにや笑う上司の顔も見た。
何故、目つきが悪いだけでこんな思いをしなければいけないのか。
理不尽極まりない。
- 553 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:25:36 ID:XaWEGaeMO
「――ミルナ君」
( ゚д゚ )「え?」
_
( ゚∀゚)「ああ、やっぱり。ミルナ君だ」
('、`*川「お帰りですか?」
突然かけられた声に振り向くと、買い物袋を提げた長岡夫妻がいた。
_
( ゚∀゚)「まだ仕事はある?」
( ゚д゚ )「あ、いえ……今日はもう終わりです」
_
( ゚∀゚)「そうか、なら一緒に帰ろう。
夕飯の材料を買ってきたところだ」
('、`*川「折角だから、そこの大きなお店で買って来ちゃいました。
今日は青椒肉絲ですよ。あと、大根と油揚げのお味噌汁、
生野菜のサラダ、イカと里芋の煮物。……あ、嫌いなのあります?」
( ゚д゚ )「いえ。基本的に何でも食べます」
('ー`*川「そう? 良かった」
- 554 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:27:05 ID:XaWEGaeMO
- _
( ゚∀゚)「ペニサスさんのご飯は美味しいから、ミルナ君も楽しみにしておくといい」
('、`*川「やあだ、ジョルジュさんったら。
それでミルナさんのお口に合わなかったら恥ずかしいですよ」
_
( ゚∀゚)「大丈夫だって、本当に美味しいんだから」
('ー`*川「もう」
2人が、くすくす笑い合う。
それを眺めながら、ミルナは、この夫婦の仲の良さを羨ましく思った。
さあ帰ろう、とジョルジュが促し、歩き出す。
自然と、並んで歩く長岡夫妻の少し後ろをミルナが追う形になった。
_
( ゚∀゚)「ああ、バスに乗るけどいいか?」
( ゚д゚ )「はい」
_
( ゚∀゚)「すぐそこだ」
すぐそこ、というジョルジュの言葉通り、1分も経たぬ内にバス停に着いた。
学生やサラリーマンと共にバスを待つ。
- 555 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:30:04 ID:XaWEGaeMO
- _
( ゚∀゚)「ペニサスさん。荷物、俺が持つよ。重いだろ」
('、`*川「いいですよ、ジョルジュさんもう両手塞がってるじゃないですか」
_
( ゚∀゚)「平気平気、もう一つぐらい持てる」
( ゚д゚ )「――あ、あの」
_
( ゚∀゚)「うん?」
( ゚д゚ )「……俺が、ええと、持ちま、しょうか」
('、`*川「お客様にそんなこと……」
_
( ゚∀゚)「まあまあ、親切は素直に受け取ろう」
( ゚д゚ )「お世話になってますから、お礼……ってほどのことでもないですけど」
('、`*川「……んんー。じゃあ、ごめんなさい、お願いします」
ペニサスが申し訳なさそうに差し出した袋をミルナは受け取った。
その直後、バスがやって来る。
帰宅する者の多い時間帯だからてっきり混んでいるだろうと思ったが、
ミルナ達が座っても二つ三つ空席が見られる程度には空いていた。
長岡夫妻が2人掛けのシートに座り、その後ろにミルナが1人。
扉が閉まり、バスは緩やかに出発した。
- 556 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:32:15 ID:XaWEGaeMO
( ゚д゚ )「……」
ぼうっと窓の外を眺める。
見知らぬ町並みが過ぎ去っていく。
シートの匂い、時折がたりと揺れる車体、囁き合う乗客の声。
独特の空気に、ミルナの瞼が重くなる。
眠りはしない。目を閉じるだけ――
――小さな爆発に似た音。大勢の悲鳴。
ミルナは、はっとして顔を前方に向けた。
- 557 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:33:42 ID:XaWEGaeMO
(#=゚ω゚)ノ「動くんじゃねえょぅ!!」
(;゚д゚ )(……銃!?)
運転席の隣に、小柄な男が立っていた。
両手に拳銃を持ち、左手は運転手へ、右手は乗客に向けている。
硝煙の臭いが鼻をついた。
怪我人が出た様子はない。威嚇のために、床かどこかを撃ったのだろう。
あちこちで悲鳴が上がっていたが、男が「うるさい」と一喝すると、
水を打ったように静まり返った。
(#=゚ω゚)ノ「バスを停めるなょぅ。変な素振り見せたら撃つ」
男の脅しに、運転手は何度も頷いた。
それからしばし、車内は沈黙に包まれる。
- 558 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:35:33 ID:XaWEGaeMO
赤信号を幾度か越えて。
静寂を破ったのは、ミルナの目の前に座るペニサスだった。
('、`*川「……どうしたいんです?」
_
(;゚∀゚)「ペニサスさ……っ!」
(#=゚ω゚)ノ「ああ!?」
空気が張り詰める。
誰もが、信じられぬ思いでペニサスの方を見た。
('、`*川「お金が欲しいんですか? でしたら私のお財布をあげますから、
そんな危ないもの捨ててくださいな」
_
(;゚∀゚)「ペニサスさんってば! しいっ、しーっ! 静かに!」
('、`*川「だってジョルジュさん……」
(#=゚ω゚)ノ「金なんかいらねえょぅ!!」
_
(;゚∀゚)「!」
ペニサスへ銃口を向け、男が叫んだ。
ジョルジュがペニサスの頭を抱え込む。
- 559 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:37:33 ID:XaWEGaeMO
(#=゚ω゚)ノ「僕は、もう、どうしようもないんだょぅ! 逃げ続けるのが嫌になったんだょぅ!
だから死んでやる……お前ら道連れにして、死んでやるんだょぅ!!」
( д )「――」
ミルナの体が、急に軽くなった。
すう、と頭が冷え渡る。
右手が勝手に何かを掴んだ。
(#=゚ω゚)ノ「つっても弾は限りがあるからょぅ……誰を殺すかじっくり吟味――」
「呆れたわ、臆病者め」
(#=゚ω゚)ノ「……んだょぅ?」
- 560 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:39:05 ID:XaWEGaeMO
( ゚д゚ )「お主の勝手に、何故俺らが付き合わねばならぬ」
ゆらり、ミルナが立ち上がる。
睨みつける瞳に、男は怯んだ。
( ゚д゚ )「お主に何があったかは知らぬ、知る気もない。
だが、どんな事情であれ、見ず知らずの他人を巻き込む道理などなかろうよ」
銃が自分に向けられていることなど意にも介さず、
ミルナは正面から男へ歩み寄っていった。
まさか堂々と近付いてこられるとは思っていなかったのか、
男は狼狽えるばかりだ。
(;=゚ω゚)ノ「てめえ――と、止まれ!」
( ゚д゚ )「言われて素直に止まるとでも?」
(;=゚ω゚)ノ「撃つょぅ!!」
(#゚д゚ )「やるならやれ!!」
引き金にかかった男の指。
動く気配は、ない。
- 561 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:43:07 ID:XaWEGaeMO
(#゚д゚ )「……ああ、ああ、そうだろう、やれないだろう!
一人で冥土を渡る度胸もない奴が、人を簡単に殺せるとでも!?」
(#= ω )ノ「う、うう……、……うあああああああっ!!」
怒りと恐怖、全身に浸透する不安。
それらが、ようやく男の指に力を込めさせた。
だが――遅かった。
(#゚д゚ )「今更覚悟を決めたか、のろま!!」
ミルナは、
右手に握りしめた大根で、男を殴り抜いた。
.
- 562 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:44:36 ID:XaWEGaeMO
(;= ω゚)ノ「あぎっ――」
下顎に衝撃。
よろけた男の頭が、ステップ付近の手摺りにぶつかった。
鈍い音が響く。ぐるりと白目を剥いて、男は昏倒した。
( ゚д゚ )「ふん。阿呆が」
大根は真っ二つだ。
どれだけの勢いでぶん殴ったのやら。
数秒の間があく。
我に返った運転手がブレーキを踏み、数人の乗客が気絶した男を取り押さえた。
- 563 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:46:41 ID:XaWEGaeMO
( ゚д゚ )
(;゚д゚ )「!?」
ミルナは正気を取り戻す。
柳色の本。浪人の話。
思いを寄せた女と勝手に無理心中しようとした男を、浪人が止めるのだ。
多少の差異はあれ、ほとんど同じだ。
(;゚д゚ )「ま、また……まただ……」
ミルナは、左手で運転手の肩を掴んだ。
必死の形相に、運転手は「ひい」と小さな悲鳴を上げた。
(;゚д゚ )「開けろ! 降ろしてくれ!!」
運転手が顔を引き攣らせながら入口を開く。
大根を放り、ミルナは踵を返した。
('、`*川「ミルナさーん?」
_
(;゚∀゚)「ありゃ」
止めようとする乗客を振りほどき、バスを飛び降りる。
幸い、朝、バス停へ向かうときに通った道だ。
ミルナは歯を食いしばって、長岡家へと全力で走った。
- 564 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:48:39 ID:XaWEGaeMO
長岡家、玄関。
インターホンを連打する。
はい、と返事をし、デレがドアを開けてくれた。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、ミルナさん。おかえりなさ……」
(;゚д゚ )「デレちゃん!!」
ζ(゚ー゚;ζ「は、はいっ?」
(;゚д゚ )「訊いたのか!? あの本のこと! 誰にかは知らないけど訊いたのか!?」
ζ(゚、゚;ζ「はうっ」
デレの両腕を掴み、詰め寄った。
もう少し近付いたら頭がぶつかりそうだ。
(;゚д゚ )「またあの本と同じことが起きた!
これは一体何なんだ!?」
ζ(゚、゚;ζ「……ええっと、2つ目……無理心中の話でしたっけ?」
(;゚д゚ )「そうだよ、それだ! ……呪われでもしてるのか? 偶然なのか!?」
- 565 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:50:10 ID:XaWEGaeMO
ζ(゚、゚;ζ「だ、大丈夫です、残る話……事件は一つだけでしょう?」
(;゚д゚ )「……まだ全部読んでないから分からない」
ζ(゚、゚;ζ「一つだけなんです。多分、明日、起こると思います。
モララーさんの本は見所だけ手早く演じさせたがる傾向があるらしいので」
(;゚д゚ )「モララー? あれの作者?」
ζ(゚、゚;ζ「……あ、いえ、気にしないでください!
とにかく明日、演じ……ええと、本と同じことが起きたら、
それで終わりです。解放されますよ」
(;゚д゚ )「明日……、……絶対にやらなきゃ駄目なのか?」
ζ(゚、゚;ζ「やらなきゃ駄目っていうか、やらされるっていうか」
(;゚д゚ )「――俺が他人の目にどう映ると思う!?
いきなり口調がおかしくなって、菜箸や大根振り回すんだぞ!
もし、もしも取引先の前でそんなことになったらおしまいだ!!」
ζ(゚、゚;ζ「……一応、何とかする方法もあるにはあるんです、けど。
でも多分無理です」
(;゚д゚ )「やってみなきゃ分からないだろ?」
- 566 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:51:32 ID:XaWEGaeMO
ζ(-、-;ζ「ええと……じゃあ、本を出してください」
(;゚д゚ )「リビングのテーブルに上げてる」
ζ(゚、゚*ζ「私、ついさっき帰ってきたところですけど、リビングにはありませんでしたよ」
(;゚д゚ )「え?」
デレから手を離し、ミルナは慌てて家の中に入った。
お邪魔します、とおざなりに挨拶。
一目散にリビングへ飛び込んだ。
テーブル、椅子、棚、ミルナの布団、鞄。
至る所を調べたが、本は影も形もない。
(;゚д゚ )「何で!?」
ζ(-、-;ζ「……」
- 567 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:53:04 ID:XaWEGaeMO
――「キュートちゃんのときみたいに、ミルナさんと私で演じたら終わらせられますか」、と。
図書館でデレが訊ねた際、ニュッは首を横に振った。
( ^ν^)『モララーの本は、一度決めたキャスティングは変えたがらないんだ』
ζ(゚、゚*ζ『?』
( ^ν^)『お前は、「呉服屋の娘役」で固定された。
それ以外の役を演じようとしたって無理』
ζ(゚、゚;ζ『じゃ、じゃあ、ニュッさん達で……って、あ、そっか……』
( ^ν^)『多分、2つ目の事件はそろそろ起きるだろうから間に合わない。
3つ目の事件は、既出の盗っ人達が中心の話だから俺らの入る余地がない』
ξ゚听)ξ『念のため、帰ったら試してみなさい。
きっと、本はどこかに隠れて出てこなくなるだろうけれど』
ツンの言った通り、どうやら本は隠れてしまったらしい。
デレは、尚も本を探すミルナの手を引っ張った。
- 568 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:54:56 ID:XaWEGaeMO
ζ(゚、゚*ζ「……ミルナさん、明日だけ……頑張ってくれませんか」
(;゚д゚ )「……」
――ミルナには何も分からない。
デレは何か知っている。
なら、デレの言う通りにするしかないではないか。
(;-д- )「……分かった」
それに、人目のないところでひっそりと終わらせられる可能性だってある。
そうなることを期待しよう。
(;゚д゚ )(……だとしても死ぬほど恥ずかしいけど)
*****
- 569 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:56:24 ID:XaWEGaeMO
その頃。あるデパートの駐車場。
車の中で、シラネーヨ達がミルナへの仕返しについて話し合っている。
尾行はミルナが長岡夫妻と共にバスへ乗った辺りでやめた。
どうせ帰宅するだけだろう、と。
( ´ー`)「勤め先は分かったな」
( `ハ´)「で、どうするアル?」
( ´ー`)「明日、帰るところを襲撃するヨ。
出来れば、バスに乗る前にやった方がいいか」
( `ハ´)「人目につくアルヨ」
( ´ー`)「仕返しっつったって、数発殴れりゃいいんだヨ。
さっと殴って、さっと逃げる。上手くいきゃ警察のお世話にゃなんネーヨ」
- 570 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 22:59:12 ID:XaWEGaeMO
(*゚∀゚)「……シラネーヨってこんな野蛮だったっけ」ヒソヒソ
( `ハ´)「ここまでキレたところは見たことないけど、前々から怒ると恐かったアル」ヒソヒソ
(*゚∀゚)「それにしたってさあ……」ヒソヒソ
( ´ー`)「んだヨ?」
(*゚∀゚)「別に。……予定外なことが起きたらどうする?」
( ´ー`)「臨機応変で」
(*゚∀゚)「すっかすかな計画だな!」
( ´ー`)「……しっかし、あいつら通報しネーのかヨ? 警察とかが動いてる気配はネーが」
ラジオをかけ、ニュースが流れているチャンネルを探す。
シナーの肩に顎を乗せ、つーもラジオに耳を傾けた。
だが、彼らの犯行に関する情報は一つもない。
(*゚∀゚)「何も盗ってないからかね?」
( `ハ´)「通報されないに越したことはないアル」
( ´ー`)「ないアルってややこしいんだヨお前はいつもヨー」
『――バスの中で発砲――伊予ぃょぅ――強盗犯――余罪――』
(*゚∀゚)「んー? バスジャックだって」
- 571 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:00:55 ID:XaWEGaeMO
ふと、読み上げられたニュースにつーが興味を示した。
犯人にはかなりの余罪があるらしく、警察から逃げるのに疲れた彼は、
他人を道連れにして死ぬつもりだったそうだ。
(*゚∀゚)「……やっぱ警察から逃げるの、大変なんだなあ」
『男――サラリーマン――乗客によると、大根で犯人を――名乗らずに現場を離れ――』
(*゚∀゚)「……」
( ´ー`)「……」
( `ハ´)「バスに乗ってたサラリーマンが大根で犯人を殴った、アルか」
(*゚∀゚)「……バス……」
( ´ー`)「いやいやいや、まさか、んなわけネーヨ」
シラネーヨは否定したが――脳裏を過ぎったのは、たしかにミルナだった。
(*゚∀゚)「銃持った相手に……大根で……」
(;´ー`)「うるせえうるせえ」
(*゚∀゚)「マジであのおっさんだったら……勝ち目ないって、シラネーヨ」
(;´ー`)「あーあー聞こえなーい」
*****
- 572 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:02:12 ID:XaWEGaeMO
('、`*川「格好よかったんですよ。お説教して、大根でばちーんって」
_
( ゚∀゚)「『お主』とか言ってたな」
(;//д///)
ζ(゚ー゚;ζ「へ、へえ……」
夜。長岡家、リビング。
食事をしながら、ペニサスとジョルジュはミルナの勇姿をデレに語った。
ミルナは真っ赤になって俯き、ひたすら箸を動かしている。
('、`*川「でも、どうして逃げちゃったんです? お手柄だったのに」
_
( ゚∀゚)「まあ、名乗らない英雄ってのもオツなもんだ」
(;//д///)
ζ(゚ー゚;ζ「……ミルナさん、悪いことしたんじゃないんだから、堂々としていいんですよ」
('ー`*川「そうです、恥ずかしいことなんて何もありません」
_
( ゚∀゚)「優しくて強くて謙虚。いいね、ヒーローらしい!」
ちなみに、あの後何人もの乗客に踏まれた大根は粉々になってしまい、
味噌汁の具は油揚げとキャベツ――サラダ用に買ったもの――に変更された。
- 573 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:04:13 ID:XaWEGaeMO
(;゚д゚*)「も、もうやめてください、その話」
('ー`*川「どうして? 本当に格好よかったのに」
(;゚д゚*)「だっ……だから、そんな――」
顔を上げたミルナ。
恥ずかしさのあまり、目元に力が入ってしまった。
慌ててそっぽを向いたが、ペニサスはにこにこ笑っている。
(;゚д゚ )「すみません」
('ー`*川「え?」
(;゚д゚ )「に、睨んだわけじゃないんです、ちょっと力んで……」
('、`*川「?」
(;゚д゚ )「……今、恐い顔したでしょう、俺。いやいつも恐いって言われますけど、あの」
('、`*川「えっ、ミルナさんの顔、恐いですか?」
_
( ゚∀゚)「いいや。きりっとしてると思うけど」
(;゚д゚ )「――はあ?」
拍子抜けしたミルナが、ジョルジュとペニサスを見る。
嘘をつく様子もなく、2人は首を傾げていた。
- 574 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:05:43 ID:XaWEGaeMO
(;゚д゚ )「……よく、言われるんです。ぎょろぎょろして恐いって」
('、`*川「大きな目で羨ましいですけどねえ……私なんか、ほら、細目で。
起きてるのに、『寝てるの?』なんて言われちゃって、もう」
_
( ゚∀゚)「ペニサスさんはそこがいいんだ。
――ううん、ミルナ君は綺麗な目してると思うけど。
なあ、デレ」
ζ(゚ー゚;ζ「え!?」
ζ(゚ー゚;ζ「……う、うん、そうだね」
( ゚д゚ )「……恐いなら恐いって言っていいよ」
ζ(-、-;ζ「ごめんなさい、人生経験が浅いもので」
しかし、それにしてもこんなことを言われたのは何年ぶりだろう。
親や身内からは気遣われてきたが、
赤の他人、それも昨日知り合ったばかりの人間に顔を褒められたのは初めてだ。
その上、「羨ましい」などと。
- 575 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:06:24 ID:XaWEGaeMO
( ゚д゚ )「……」
何とまあ、そんな風に思ってくれる人もいたものだ。
少し、ほんの少しだけ。
コンプレックスが和らいだ、気がした。
('、`*川「ああ、窓、直してもらいましたからね」
ζ(゚ー゚*ζ「うん、見た見た」
_
( ゚∀゚)「窓といえばミルナ君、本当にありがとう。
やっぱり泥棒にも侍っぽい説教とかした?」
(;゚д゚*)「うぐおおお……!!」
*****
- 576 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:08:04 ID:XaWEGaeMO
翌朝。火曜日。
ミルナは、寝不足でぼうっとした頭のまま起き上がった。
布団を畳み、寝間着を脱ぐ。
スーツを着込んでネクタイを締めたとき、丁度デレがリビングにやって来た。
ζ(ぅ、-*ζ「おはようございます……」
( ゚д゚ )「おはよう。デレちゃんは休みだっけ」
ζ(-、゚*ζ「はい……」
世は祝日である。勤労感謝の日。
そんなのお構いなしに、今日もミルナは出勤しなければならない。
ζ(゚、゚*ζ「もう行くんですか?」
( ゚д゚ )「昨日遅刻しちゃったからね。早めに行こうかなと」
ζ(゚、゚*ζ「ありゃ……頑張ってくださいね」
( ゚д゚ )「どっちを?」
ζ(゚、゚*ζ「……お仕事も、『本』のことも」
- 577 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:08:58 ID:XaWEGaeMO
本は、結局見付からなかった。
「盗っ人」が仕返しに来るのはデレから教わったが、
どんなタイミングで、どこに現れるかは予測がつかない。
昨日のバスでの事件も、本に書かれた時間帯や状況は違っていたし。
ミルナが寝不足になった原因は、それら不安によるものである。
( ゚д゚ )「本当に、今日の内に終わるんだね?」
ζ(゚、゚*ζ「絶対とは言い切れませんが、可能性は高いです」
( ゚д゚ )「そう。――じゃあ、行ってきます」
ζ(゚、゚*ζ「行ってらっしゃい……あの、ミルナさん!」
( ゚д゚ )「ん?」
ζ(゚、゚*ζ「危ないもの、持ったら駄目ですよ。刃物とか……尖ったのとか」
( ゚д゚ )「ああ、善処するよ」
ひらひら手を振って、ミルナはコートと鞄を拾い上げた。
コートを羽織り、左手に鞄を提げる。
ぐう、と腹が小さく鳴った。
朝食をとる時間はない。
早足になりながら、長岡家を後にした。
- 578 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:10:58 ID:XaWEGaeMO
寝不足。空腹。本のことばかりが気になる。
そんな状態で満足に仕事をこなせるだろうか。
少なくとも、ミルナには難しかった。
_、_
( ,_ノ` )「――河内君」
( ゚д゚ )「……」
_、_
( ,_ノ` )「河内君」
(;゚д゚ )「えっ! あ、はい!」
_、_
( ,_ノ` )「……話聞いてたかい」
(;゚д゚ )「あっ、ええと、イベントの概要――」
_、_
( ,_ノ` )「それはもう済んだ」
(;゚д゚ )「はい! ですね! ……よ、予算のことでしたね」
_、_
( ,_ノ` )「ああ。……大丈夫か、君」
会議室に、何人かが溜め息をつく音が広がった。
書類をめくるミルナの手から、力が抜けそうになる。
謝りたいが、謝ったら、さらに空気が悪くなりそうな気がした。
*****
- 579 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:12:42 ID:XaWEGaeMO
夜。
(; д )(死のう)
ふらふら、会社を出ながらミルナは本気でそう思った。
自分がこんなに仕事の出来ない奴だったとは。
いっそ取引を辞退して、向こうの会社に戻って辞表でも出してしまおうか。
(; д )(これ以上『もう来なくていいよ』的な視線は浴びたくない……)
ミルナは眼力が異様に強い割に、メンタルが物凄く弱い。
そうして気後れする度、また失敗を重ねてしまう。
もう限界だ。
「――河内君」
(;゚д )「へあ?」
_、_
( ,_ノ` )「待った待った」
振り返ると、渋澤が片手を挙げながらビルを出てくるところだった。
ミルナの前で渋澤は立ち止まる。
- 580 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:14:02 ID:XaWEGaeMO
(;゚д゚ )「渋澤部長」
_、_
( ,_ノ` )「今から時間はあるかい」
( ゚д゚ )「今からですか?」
現在、午後7時半ほど。
これといった予定はないが、居候させてもらっている手前、
帰宅時間が遅くなりすぎるのはまずい。
( ゚д゚ )「あるにはありますが……どうしました? 会議で何か足りないことが――」
_、_
( ,_ノ` )「ああいやいや。仕事じゃないし、長いこと拘束するつもりもない。
何、ちょいと飯でも一緒にどうかと」
(;゚д゚ )「食事ですか」
_、_
( ,_ノ` )「つっても居酒屋なんだが。……嫌なら嫌で構わん」
(;゚д゚ )「いえ! 是非お願いします!」
_、_
( ,_ノ` )「うん、そうか。なら行こう。タクシーを呼んである」
- 581 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:15:25 ID:XaWEGaeMO
ミルナと渋澤から数メートル離れた場所に停まっている車が一台。
言わずもがな、盗っ人3人組。
(*゚∀゚)「あのおっちゃんは上司かな?」
( `ハ´)「多分そうアル」
( ´ー`)「とりあえず追うヨ」
(*゚∀゚)「あ、タクシー乗ったタクシー!」
(;´ー`)「んなっ……おいおい、頼むからそのまま帰んないでくれヨ!」
そろそろ。
結末を迎えようとしている。
*****
- 582 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:16:00 ID:XaWEGaeMO
('、`*川「明日の朝、新幹線で帰ります」
ζ(゚、゚*ζ「朝?」
('、`*川「時間としては10時くらい……デレさんが学校にいる頃ですね」
_
( ゚∀゚)「今回はあんまり一緒にいられなかったなあ」
長岡家。
長岡一家はリビングで夕食をとっていた。
ミルナからは先程、外食して帰るとの連絡があった。
ちなみに。
( ^ω^)「あ、お呼びいただいたら駅まで乗せていきますお?」
('、`*川「あらあらそんな、悪いです」
(*^ω^)「まったく! まあったく、悪くなんかありませんお!」
ξ゚听)ξ「ん。うどん美味しい」
(*・∀・)「具沢山なうどん久々に食べたなあ」
内藤、ツン、モララーも食卓を囲んでいる。
夕方頃、彼らは本の回収を目的に長岡家を訪れた。
ミルナが演じ終わるのを待つためだったのだが、
あれよあれよという間に夕食の御相伴にあずかることとなったのであった。
- 583 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:18:01 ID:XaWEGaeMO
('、`*川「お口に合いました? 麺を手打ちした甲斐がありましたわ」
( ^ω^)「結婚してください」
ξ゚听)ξ≡≡⊃)))ω゚)「ニンゲンイスッ!!」
(*・∀・)「わーい、ちくわの天ぷらが入ってる」
_
( ゚∀゚)「いやあ……しっかし格好いいねえ、モララー君。俳優さんみたいだ。
着物も似合ってるし」
(*・∀・)「いやいやそれほどでもないですお義父さん」
_
( ゚∀゚)
_
( ゚∀゚)「おとう……さん……?」
ζ(゚、゚;ζ「な、何か今ニュアンスが違……」
( ・∀・)「え? だってさ、婿入り前の体……それも一糸纏わぬ裸体を見られたからには
デレちゃんの婿になるしかないって貞子が」
_
( ゚∀゚)
('、`*川「あらあらまあまあ」
- 584 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:20:32 ID:XaWEGaeMO
( ^ω^)「それ貞子にからかわれただけだお」
(;・∀・)「えっ、そうなの? 俺は婿入りする気満々だったよ?」
ξ゚听)ξ「そもそもそんな理由で結婚するつもりだったの?」
(*・∀・)「別にデレちゃんなら悪くはないかなと思っている」
_
( ゚∀゚)
:ζ( 、 ;ζ:「……それ以上……それ以上喋るな……っ!!」
_
( ゚∀゚)「デレ……ちょっとお父さんとお話しようか……」
ζ(゚、゚;ζ「違うんですううううううううう!
鳥の糞がお風呂場で全裸ハプニングだったんですううううううう!!」
('、`*川「ごめんなさいデレさん、ちょっと何言ってるか分からないです」
ξ゚听)ξ「……デレとモララーが結婚なんて、ニュッ君が可哀相ね」
_
(#゚∀゚)「デレェエエエエエエ!!
父さん達が目を離した隙にどんな乱れた人間関係築いたんだお前ぇええええ!!」
ζ(゚、゚;ζ「ツ、ツンちゃん何なの!?
このタイミングにその発言は悪意しか感じられないよ!?
ツンちゃんが言うと真実味がありありなんだからその辺自覚してね!?」
*****
- 585 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:21:28 ID:XaWEGaeMO
歓楽街の一角。
ミルナは、居酒屋に連れてこられた。
店舗は大きく、店内は騒がしい。
騒がしいと言っても、奥の座敷へ案内されると、喧騒から少しだけ逃れられた。
ミルナと渋澤は、向かい合う形でテーブルを挟んだ。
胡座をかく渋澤に対し、ミルナは正座の体勢をとる。
_、_
( ,_ノ` )「そんな畏まらなくていいから。楽にしていいよ」
(;゚д゚ )「……は、はい」
_、_
( ,_ノ` )「ここはモツ鍋がオススメだ。下手に専門店で食うより安くて美味い」
それでいいかと渋澤が問うので、何度も首を縦に振った。
渋澤が店員を呼び付け、モツ鍋と、いくつかのツマミ、日本酒を注文する。
メニュー表に記された値段を見る限り、
どれも、その辺の居酒屋で提供されるよりよっぽど高い。
ミルナは恐縮しっぱなしである。
- 586 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:22:33 ID:XaWEGaeMO
少しして、注文通りの品が運ばれてきた。
くつくつと煮えるモツ鍋。
湯気と味噌の香りがミルナの食欲を刺激する。
徳利からぐい呑みに酒を注ぎ、まずは乾杯。
ぐい呑み同士が、こつんと音を立てた。
( ゚д゚ )「いただきます」
_、_
( ,_ノ` )「うん」
――鍋をつつきながら世間話などをして、時間は流れていった。
緊張やら何やらで、ミルナは満足に味わえなかったのだが。
- 587 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:23:29 ID:XaWEGaeMO
_、_
( ,_ノ` )「君と、話し合ってみろと」
( ゚д゚ )「え?」
_、_
( ,_ノ` )「みんなに言われたよ」
鍋や皿がほとんど空になった頃。
独り言のように呟き、渋澤は酒を口に含んだ。
ふ、と息をつく。
_、_
( ,_ノ` )「出だしから失敗続きだな、君は。2日目なのに評価は下がる一方だ」
(;゚д゚ )「う」
_、_
( ,_ノ` )「正直、何故河内君が今回の取引に名乗り出たのか分からん」
(;゚д゚ )「うう」
_、_
( ,_ノ` )「何を考えてるかさっぱりだ」
(;゚д゚ )「ううう」
_、_
( ,_ノ` )「……だから、理解を深めるために、一緒に酒を飲んでこいと言われた」
(;゚д゚ )「ううう、う?」
- 588 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:25:16 ID:XaWEGaeMO
- _、_
( ,_ノ` )「飯を食って、酒を飲んで、雑談して……
これから商談を進めるに相応しい人間か判断してほしい、と。
駄目そうなら別の人間を手配してもらうことになる」
(;゚д゚ )「……」
青ざめたミルナには目もくれず、渋澤は手元に視線を落としている。
表情からは、渋澤の考えることが見えてこない。
ミルナは無意味に箸を開閉し、かちかちと音をたてた。
――やっぱり、もうおしまいか。
いくら何でも早過ぎるなと、ミルナは、いっそ可笑しささえ感じた。
無能なんてこんなものだ。
向こうの上司が笑う姿が目に浮かぶ。
_、_
( ,_ノ` )「だが、実際こうしてみると、普通だな」
( ゚д゚ )「……普通?」
_、_
( ,_ノ` )「普通だ。リラックスしてるのか?」
( ゚д゚ )「物凄く緊張してます」
渋澤が吐息だけで笑ったのが聞こえた。
「そうか」、と笑い混じりの返事。
- 589 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:27:11 ID:XaWEGaeMO
- _、_
( ,_ノ` )「それぐらい、普段からはっきりしてくれるといいんだが」
はっきり出来たら苦労はしない。
口ごもるミルナに、渋澤は徳利を差し出した。
_、_
( ,_ノ` )「まあ飲め」
( ゚д゚ )「……ありがとうございます」
_、_
( ,_ノ` )「おう」
とくとく、小気味良い音がミルナの耳を擽った。
心は妙に落ち着いている。
役に立たないからと追い返されたら、同僚達からどんな目を向けられるか。
どんな言葉で上司に詰られるか。
それを考えてみても、恐怖や不安は沸かなかった。
ただ単に、諦めただけ。
_、_
( ,_ノ` )「美味いか?」
( -д- )「はい、とても」
*****
- 590 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:28:03 ID:XaWEGaeMO
会計を済ませ――渋澤が奢ってくれた――、居酒屋を出た。
酒のせいか体が温かい。
コートは羽織らず、適当に畳んで腕に引っ掛けた。
_、_
( ,_ノ` )「向こうでタクシーが待っている。行こう」
( ゚д゚ )「はい……」
渋澤の後を歩きながら、そろそろ帰ります、と携帯電話でデレにメールを送る。
送信を確認し、
( ゚д゚ )(ん?)
はて、どうしてデレのメールアドレスを知っていたのだったかと、
ミルナは首を傾げた。
( ゚д゚ )
(;゚д゚ )「あ」
アルコールで濁る頭に、「本」のことが蘇った。
そうだ、たしか、仕返しに来た盗っ人達を返り討ちにしたら、
すぐにデレへ知らせるようにと――
- 591 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:29:05 ID:XaWEGaeMO
「――ようやく出てきたか、おっさんヨォ!!」
後ろから聞こえた声。
ミルナは立ち止まり、片手で額を押さえた。
(;゚д- )「……」
振り返る。
(#´ー`)「ったく、散々待たせやがって……!」
( `ハ´)「すっかり体が冷えたアル」
(;*゚∀゚)「し、シラネーヨ、ここでやんの!?」
(#´ー`)「これ以上待てっかヨ!」
出た。
「盗っ人」、3人組だ。
- 592 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:31:15 ID:XaWEGaeMO
男2人、もといシラネーヨとシナーは鉄パイプを持って道の真ん中に立ち、
つーは路上に置かれたスナックの看板の陰でしゃがみ、顔だけを覗かせている。
_、_
( ,_ノ` )「知り合いか?」
(;゚д゚ )「ええと」
(;゚д゚ )「……知りません。帰りましょう」
(#´ー`)「シラネーとは言わせネーヨこの野郎!!」
何とか見て見ぬふりは出来ないものかと、ミルナは彼らに背を向けた。
しかし、残念ながらシカトが通用する相手ではない。
シラネーヨは怒鳴り、鉄パイプでアスファルトを叩いた。
耳障りな音が響く。
不穏な空気を察したか、いつの間にやら人々は少し離れたところで足を止め、
ミルナ達の様子を窺っていた。
喧嘩かと囁き合う声がする。
- 593 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:32:40 ID:XaWEGaeMO
(;゚д゚ )「……何なんだよ……」
(#´ー`)「ちょっとだけ殴らせろ」
(;゚д゚ )「鉄パイプを使うのは『ちょっとだけ』に含まれるのか!?」
( `ハ´)「素手じゃあ、まず勝てないアルし」
(*゚∀゚)「とにかくリーチがあった方がいいってシラネーヨが言ってた」
_、_
( ,_ノ` )「河内君、これはどういう状況だ?」
(;゚д゚ )「あー、えー、……何でしょう、逆恨み?
――ていうか、お前! 俺は別にお前達を傷付けたわけじゃないだろ!?
どうして仕返しなんか……」
(#´ー`)「こちとら、よく分かんねえけど腹立って仕方ネーんだヨォオオオ!!」
(;*゚∀゚)「お前もよく分かってなかったんだ!?」
(;゚д゚ )「うっわ!?」
痺れを切らしたシラネーヨが、鉄パイプを振りかぶってミルナに駆け寄った。
ミルナは咄嗟に屈み、振り下ろされた鉄パイプを避ける。
ぎりぎりだ。
勢いのまま、シラネーヨから距離をとるため地面を転がった。
ミルナのコートと鞄が宙を舞う。
- 594 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:33:27 ID:XaWEGaeMO
( `ハ´)「ストップ」
(;゚д゚ )「!」
だが、そこにシナーがいた。
しゃがみ込む姿勢で停止したミルナの顎を、鉄パイプの先で持ち上げる。
シナーを見上げながら、ミルナは焦燥に駆られた。
(;゚д゚ )(早く、早くしてくれ……!)
「浪人」に変わる気配がまったくない。
スイッチが入らない。
このままでいたら――どうなってしまうのだろう。
なす術もなく、おとなしく殴られるなんて嫌だ。
人前、まして渋澤の前であることなど関係ない。
早く変われ、早く、早く。
- 595 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:35:12 ID:XaWEGaeMO
(#´ー`)「おらっ!」
_、_
(;,_ノ` )「うおっ!?」
(;゚д゚ )「!」
シラネーヨが、渋澤の後ろから彼を捕まえるのが見えた。
左手で渋澤の首元を抱え込み、右手の鉄パイプで再びアスファルトを鳴らす。
(#´ー`)「ひ、人質とってやったヨ! あんたの上司だろ?
こいつまで殴られたくなかったら、抵抗すんじゃネーヨ!」
牽制しながら、シラネーヨは、自分自身の行動に怯えていた。
おかしなことをしている自覚はある。
泥棒に入った方が悪いのも、ミルナを怨む意味がないことも、理解はしている。
事が、無駄に大きくなっていることも。
なのに止まらない。怒りは膨れ続けていく。
こんな言い方は陳腐に過ぎるが、まるで見えない何かに操られているようだ。
- 596 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:36:39 ID:XaWEGaeMO
(;゚д゚ )「渋澤部長!」
( `ハ´)「……抵抗するなと言ったアル」
(;゚д゚ )「……!」
立ち上がろうとしたミルナの額を、鉄パイプで小突かれる。
ミルナは横目で野次馬へ視線を送った。
誰も、シラネーヨ達を止めたり警察を呼んだりする気はなさそうだ。
薄情者、とミルナは心中で吐き捨てる。
これも「本」の仕業だとは、彼が知る由もない。
- 597 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:38:13 ID:XaWEGaeMO
そのとき――ふと、ある物が目に入った。
瞬間。
( ゚д゚ )
( ゚д゚ )(あ)
「来た」。
焦りが急速に消えていく。
鉄パイプごとシナーを弾き、身を起こした。
(;`ハ´)「あわっ……!」
(;*゚∀゚)「シナー!」
- 598 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:40:08 ID:XaWEGaeMO
(;´ー`)「あっ、くそっ、話聞いてたか!?」
( ゚д゚ )「おい、そこのお前!!」
怒鳴るシラネーヨを無視し、ミルナは野次馬の先頭、
1人の男のもとへ駆けた。
(;=゚д゚)「ら、ラギッ!?」
( ゚д゚ )「それ貸せ!!」
(;=゚д゚)「ちょっ……な、何――」
男が持っていたものを奪い取る。
そして、鉄パイプを構え直したシナーへ、「それ」を向けた。
- 599 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:41:10 ID:XaWEGaeMO
(#゚д゚ )「――また会ったな盗っ人共!
そんなに斬られたいのか!?」
1メートルほどの持ち手、先端に横長のボード。
ボードには文字が記されている。
いわく、「美味、格安! 疲れた貴方の憩いの場・居酒屋びっぷ コチラ→」。
要するに。
(;´ー`)「……プ」
(;´ー`)(;`ハ´)(;*゚∀゚)「プラカードだ――――――――――!!」
客引き用のプラカードだった。
- 600 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:42:56 ID:XaWEGaeMO
- _、_
(;,_ノ` )「おい、河内君?」
( ゚д゚ )「其の方。巻き込ませてしまって面目ない」
_、_
(;,_ノ` )「は?」
( ゚д゚ )「今、助けよう」
言うが早いか、プラカードをシナーの首めがけて突き出した。
ボードが喉を圧迫し、シナーの息が一瞬詰まる。
(;`ハ´)「うぐ……!」
( ゚д゚ )「解せぬ」
よろりと一歩下がったシナーが体勢を整えるよりも先。
ミルナはさらに間を詰め、プラカードでシナーの脇腹を殴り抜く。
(;*゚∀゚)「わぎゃああ!」
つーが隠れていた看板へとシナーが吹っ飛ばされた。
凄まじい音がして、野次馬から悲鳴が漏れた。
- 601 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:44:24 ID:XaWEGaeMO
衝撃で倒れる看板、下敷きになるつー、すっかり気を失ったシナー。
(;*゚∀゚)「んあー! おーもーいー!」
(#)ハ )キュー
( ゚д゚ )「まことに解せぬ。これほど弱いのに、何故俺に向かってきたのやら」
呟き、プラカードを一振り。
刀に付いた血を払うのに似ていた。
ミルナは一拍おき、シラネーヨを睨みつける。
(;´ー`)「っ……」
怯みかけたシラネーヨは、それを誤魔化すようにミルナを睨み返した。
腕に力が篭る。渋澤が苦しげに眉を寄せた。
(#´ー`)「こいつは人質だって言ったヨな!? てめえがそう出るならこっちだって、」
( ゚д゚ )「……あまりにも情けない」
(#´ー`)「ああ!?」
( ゚д゚ )「復讐に来る勇気は認める。
しかし――それだけだ」
- 602 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:46:14 ID:XaWEGaeMO
(#゚д゚ )「……恥を知れ!!」
ぎり、と軋むほどプラカードを握るミルナの手。
震えているのは、恐怖からではなく、怒りからだ。
(#゚д゚ )「丸腰の無力な町人を巻き込むとは何事だ!?
悪人にも悪人なりの矜持があろう!
此度の襲撃、俺を狙ってのものの筈。なれば尚更他人への手出しは許されぬ!」
_、_
(;,_ノ` )(;´ー`)(町人……?)
(#゚д゚ )「分かったか、分かったのならその手を離せ!
切っ先の行方はどこだ? 俺だ! 俺に向けろ!
俺のみがお主の敵だ!」
場は静寂に包まれた。
野次馬達が、皆、ミルナの啖呵に聞き入っている。
酔っ払い同士の喧嘩、程度に思われていた騒ぎは、
今、立派な見世物に変わっていた。
- 603 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:49:34 ID:XaWEGaeMO
(#゚д゚ )「さあ、かかってこい!
俺は主人も持たぬ浪人だ、浪人だが武士だ!
武士にここまで言わせておいて、なお人質を放さぬほど腐ってはいるまいよ!!」
夜の闇。道を照らすネオン。
色とりどりの光が差す中に、ミルナの声だけが響いて、空気に溶けた。
光、人垣、店舗、倒れているシナー、その下から何とか這い出したつー。
視覚に押し入ってくる情報は嫌になるほど多い筈なのに。
シラネーヨには、ミルナ――敵以外の存在は、もう、見えなかった。
渋澤を突き飛ばす。
鉄パイプをしっかと握り、ミルナと対峙した。
( ゚д゚ )「それでいい」
( ´ー`)「……うるせーヨ」
- 604 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:51:16 ID:XaWEGaeMO
沈黙。
互いの動向を窺い、
( ゚д゚ )
( ´ー`)
先に踏み込んだのは、シラネーヨ。
(#´ー`)「うらあっ!!」
( ゚д゚ )「……無駄が多いな」
薙ぐように振られた鉄パイプを避け、ミルナは下がる。
すかさず前に出たシラネーヨが今度は上から振り下ろしてきたが、
その追撃もミルナは後退することで回避した。
振りが大きい分、シラネーヨに出来る隙も大きい。
(#゚д゚ )「ふっ!」
(;´ー )「ん、ぎっ……!」
そこへ、プラカードを叩き込んだ。
シラネーヨの腰に激痛が走る。
それもその筈、プラカードのボード部分がへし折れるほどの勢いで殴られたのだから。
プラカードは、ただの棒切れへと成り果てた。
- 605 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:55:33 ID:XaWEGaeMO
( ゚д゚ )「む。折れたか」
(#´ー`)「余裕綽々だなあ、おっさんヨォ!」
( ゚д゚ )「っ!」
シラネーヨが下から掬うように鉄パイプを振り上げる。
ぎりぎりで躱して直撃は免れたものの、顎を先端が掠った。
振り上げられた鉄パイプは、そのまま打ち下ろされる。
プラカードの持ち手とパイプがぶつかり合い、ごおん、と2本が悲鳴をあげた。
交差する互いの武器。
至近距離で睨み合う。
( ゚д゚ )「……ただ振っているだけではないか」
(#´ー`)「うるせえ、こんな喧嘩なんか初めてなんだヨ!!」
( ゚д゚ )「そうか」
ミルナは跳ねるように後退した。
シラネーヨが体勢を整えたのも、ミルナが構えたのも、
かかった時間は一秒程度だったのだが。
ほんの一瞬、差があった。
- 606 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:57:07 ID:XaWEGaeMO
(#゚д゚ )「ならば強くなって、出直してこい!!」
ミルナは、両手で握りしめた棒きれでシラネーヨの側頭部を殴りつける。
刀、というよりも、何だかバットを振るような動きだった。
(; ー )「――っ!!」
ぐわん、とシラネーヨの意識が揺れた。
鉄パイプが掌からこぼれ落ちる。
足――いや、体中から力が抜け、彼は地面に倒れ伏した。
( ゚д゚ )「峰打ちだ」
(; ー )「……それの……峰って……どこだヨ……」
突っ込みながら、シラネーヨは、
そういえば峰打ちの方が普通に斬るより酷い場合もあるんだよな、と
いつぞやテレビで得た情報を思い返して、やる瀬ない気分になっていた。
- 607 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/16(土) 23:58:51 ID:XaWEGaeMO
(;#)ハ´)「……む……」
(;*゚∀゚)「! しっ、シナー、起きたか!」
丁度そのとき、シナーが目を覚ました。
気付いたミルナが声をかける。
( ゚д゚ )「……おい」
(;*゚∀゚)「ひいっ! ご、ごめんなさい、もう何もしません! つーちゃん弱いです!」
( ゚д゚ )「こいつ連れてどっか行け。目障りで仕方ない」
こいつ、と指差されたのはシラネーヨ。
意識は辛うじてあるようだが、体は未だ動かせそうにない。
_、_
(;,_ノ` )「おい河内君、警察は……」
( ゚д゚ )「奉行所は好きになれん」
(;*゚∀゚)「は……?」
(;#)ハ´)「見逃してくれるってことネ」
- 608 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:01:48 ID:/SL0GQosO
ミルナの気が変わらぬ内にと、シナーはシラネーヨを抱え起こした。
肩を貸す形で立ち上がらせる。
(#)ハ´)「お前は阿呆アル」
(; ー )「うるせー」
(;*゚∀゚)「……」
シナーが歩き出すと、野次馬が道を開けた。
つーは一度ミルナに頭を下げ、慌てて2人を追った。
シラネーヨとシナーを支えてやる。
(*゚∀゚)「行くぞシナネーヨ!」
(; ー )「な、名前……混ぜんな……前向きだけど……」
(#)ハ´)「この状況だと洒落にならないアル」
3人組が去っていく。
彼らの背中が見えなくなると、ミルナは目を閉じた。
- 609 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:02:39 ID:/SL0GQosO
( -д- )
同時に、ぱちぱち、周りから拍手が起こり始めた。
最初は疎らだったそれは、次第に大きく、激しくなっていく。
一連のちゃんばらだとか、途中の説教だとか、敵へかけた情けだとか、
各々が感動したシーンはばらばらであったが――
ミルナへの称賛であることには、何ら変わりない。
( -д- )
(;゚д゚ )「……はっ!?」
それからミルナが我に返ったのは、
何故かあちこちから御捻りが投げ込まれ始めた頃であった。
*****
- 610 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:04:54 ID:/SL0GQosO
繁華街の入口近く。
停めていた車に3人は乗り込んだ。
シラネーヨを後部座席に寝かせ、シナーが運転席、つーが助手席に座る。
(#)ハ´)「鍵」
(;´ー`)「ほらヨ」
(*゚∀゚)「シラネーヨ大丈夫? 病院行く?」
(;´ー`)「もう体は動かせるけど、まあ一応。……転んだことにしとくか」
シナーが車を発進させると、車内は沈黙に包まれた。
5分ほど経っただろうか。口を開いたのは、つー。
(*゚∀゚)「……おっさんかっこよかったな!」
(#)ハ´)「私はほとんど寝てたアル」
(*゚∀゚)「スーツ翻して、あんな……鉄パイプより弱いようなプラカードで、こう!
刀みたいに振り回してさ!」
( ´ー`)「……そうさなあ」
(*゚∀゚)「すげえな……」
- 611 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:05:56 ID:/SL0GQosO
再び沈黙。
今度はシナーが静寂を破った。
(#)ハ´)「しかし結局、何一つ成功しなかったアルネ。泥棒も襲撃も」
( ´ー`)「まあ、成功しなくて良かったけどヨ。今にして思えば」
(*゚∀゚)「うん、たしかに」
( ´ー`)「……悪いな、俺の変な提案に巻き込んで。
ああ、くそ、何であんなことしようとしたんだろうなあ俺」
(#)ハ´)「いいアル。――止めずに乗っかった私もおかしかったアル」
(*゚∀゚)「……なあんか、今回、みんな変だったな。
へたれのシラネーヨが泥棒だの何だの言い出すし、
いつものシナーなら、あんなの全力で止める筈だったし」
( ´ー`)「へたれは余計だヨ」
- 612 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:07:35 ID:/SL0GQosO
沈黙。三度目。
病院が近付いてくる。
シラネーヨが、深呼吸を一つ。
( ´ー`)「……真面目に就活すっかあ」
(*゚∀゚)「おう?」
( ´ー`)「また変な気起こしたらたまんネーし。普通に働くヨ」
(#)ハ´)「私も、そうするアル」
(*゚∀゚)「おお!」
( ´ー`)「お前はどうすんだヨ」
問われ、つーは「うん」と声を零した。
助手席で膝を抱える。
(*゚∀゚)「何か。……なあんにもしてないんだよね。
今までもそうだし、今回だって、シラネーヨとシナーだけ頑張って、
俺は何もしなかったじゃん。そもそも頑張っちゃいけないことだったけど」
( ´ー`)「隠れてただけだったな」
- 613 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:09:08 ID:/SL0GQosO
(*゚∀゚)「だからさ、うん、頑張ってみる。そろそろ1人で生きてかなきゃ、
本気でお前らに愛想尽かされそうで恐いし」
(#)ハ´)「愛想なんてとっくに尽かしてるアル」
( ´ー`)「残機ゼロだヨ」
(*゚∀゚)「嘘つけー」
(*゚∀゚)「……中退だと、やっぱ就職難しいよなあ」
(#)ハ´)「多分ネ」
(*゚∀゚)「ま、やれるだけやるか!」
- 614 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:10:29 ID:/SL0GQosO
――3人のエンジンが、ようやくかかった。
ギアも入れて、後は、アクセルを踏み込むだけ。
(*゚∀゚)「あ! でもさ、俺の一番の夢は『お嫁さん』だから。
お前ら、先に収入が安定した方と結婚してやる! 寿退社やってみたい!」
( ´ー`)「やる気削ぐようなこと言うなヨ」
(#)ハ´)「馬鹿すぎる嫁はちょっと……」
(;*゚∀゚)「で、でも、料理得意だよ!?」
( ´ー`)「包丁捌きだけじゃネーかヨ」
*****
- 615 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:14:31 ID:/SL0GQosO
(;//д///)(あああああっ! 誰か俺を殺せぇえええええええ!!)
歓声の中、ミルナは頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
何十人もの目の前で「浪人」になるなんて思わなかった。
猛烈に恥ずかしい。穴があったら入りたい。そして二度と出たくない。
_、_
( ,_ノ` )「河内君」
(; д *)「私は河内ミルナではございません別の何かです私は河内ミルナではございません」
しかも渋澤にまで見られた。
いよいよもってミルナの人生の終末が近い。
往来で他人をぶん殴るような男と共に働きたい人間などいるわけがない。
自社に帰ったらきっと周りから凄まじい目を向けられるだろう。
下手をすればクビ。
というか、警察を呼ぶのは勘弁してやる的なことを言い放ったが、
この場合、盗っ人3人組よりミルナの方が罪が重いのではないか。
ミルナはほぼ無傷、あちらは2人負傷している。
- 616 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:17:10 ID:/SL0GQosO
(; д *)(いっそムショに、俺をムショに!!)
_、_
( ,_ノ` )
(; д *)
_、_
( ,_ノ` )「……く、」
(;゚д *)(く?)
_、_
(*,_ノ` )「くく……、――ははははは!」
(;゚д゚ )「!?」
突然、渋澤が笑い出した。
ミルナはぎょっとし、固まってしまう。
_、_
(*,_ノ` )「何だ、だいぶ酔っ払ってたみたいだな。あまり顔に出ないタイプか」
(;゚д゚ )「え」
_、_
(*,_ノ` )「変な酔い方するもんだ。……ふ、ははっ、思ったより面白い奴だな、君は。
俄然興味が沸いてきた」
(;゚д゚ )「わっ」
ミルナの右手を渋澤が両手で握り、ミルナを立たせた。
それを見て、野次馬からまたもや盛大な拍手が巻き起こる。
もはや何でもいいらしい。
- 617 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:18:41 ID:/SL0GQosO
- _、_
(*,_ノ` )「それに、俺は時代劇が好きなんだ。話が合いそうじゃないか」
(;゚д゚ )「えっ……と、いや、俺は時代劇好きとかじゃ」
_、_
(*,_ノ` )「何だ、そうなのか? まあ、あれだけやってたんだ、素質はある。
今度面白い時代劇を教えてあげよう。
そうそう、さっきは助かったよ。ありがとう」
(;゚д゚ )「は、はあ」
_、_
(*,_ノ` )「これからもよろしく頼むぞ。河内君」
――「これからも」。
ミルナは、ぽかんとした表情で渋澤を見た。
( ゚д゚ )「……え?」
_、_
( ,_ノ` )「ああ、だからといって仕事がまったく駄目だったら次こそアウトだぞ。
そうだな、ちょっと表情を柔らかくする練習からしてみよう。
君はいつも難しい顔してるから相手を恐がらせるんだ」
- 618 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:21:12 ID:/SL0GQosO
渋澤は手を離し、ミルナの背中を叩いた。
「な?」と、渋澤が笑みを深くする。
つられて、ミルナも、小さく笑った。
_、_
( ,_ノ` )「ああ。そう、それがいい。一気に人のよさそうな顔になった」
そういえば、最近他人の前で笑うことがあまりなかったな、と。
緩む頬を摩りながら、ミルナは思った。
*****
- 619 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:22:54 ID:/SL0GQosO
ζ(゚ー゚*ζ「おかえりなさい!」
午後10時過ぎ、ミルナはようやく帰宅した。
デレが出迎え、コートを受け取る。
( ゚д゚ )「ただいま……ああ、あの、ごめん。メールしそびれたんだけど、
終わったよ。あれ」
ζ(゚ー゚*ζ「終わりましたか! 丁度よかった、ミルナさんにお客様です」
( ゚д゚ )「客?」
リビングにミルナを連れていき、内藤達を紹介した。
ひとまず本題に入る前に、デレはジョルジュとペニサスをリビングから出す。
('、`*川「仲間外れですか?」
_
( ゚∀゚)「寂しいなあ」
ζ(゚、゚;ζ「ちょっと内緒の話だから……」
( ^ω^)「すみませんお、すぐ終わらせますから」
これで、リビングに残ったのは5人。
事態を説明するべく、内藤は口を開いた。
- 620 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:24:02 ID:/SL0GQosO
(;゚д゚ )「――本が、生きてるって……」
( ^ω^)「信じる信じないは自由ですお。
ただ、無闇矢鱈に口外はしないでいただきたいお」
(;゚д゚ )「……人に話したところで誰が信じるんです」
( ^ω^)「おっおっお。あなたみたいな人なら、そう言ってくれると思いましたお」
ミルナは、俄かには信じられないようだった。
あまりにも非現実的な話である、なかなか受け入れられなくても無理はないだろう。
( ^ω^)「というわけで、例の『本』は元々うちにあったもの。
よろしければ、返してもらえませんかお?」
(;゚д゚ )「それは勿論……って言っても行方不明なんですけど」
( ^ω^)「多分あなたの鞄にでも入ってるかと」
(;゚д゚ )「鞄?」
持ったままだった鞄を開き、ミルナは「うわ」と声を漏らした。
昨日はまったく見付からなかった柳色の本が、たしかに鞄の中に存在している。
ミルナは不気味に思いながらも本を内藤に手渡した。
- 621 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:25:21 ID:/SL0GQosO
(;゚д゚ )「おかしいな……」
ξ゚听)ξ「まあ、自分の『山場』は自分で見届けたいでしょうから」
(;゚д゚ )「……そういうもんなんですかね」
(*;∀;)「ああっ、おかえり!! 久しぶりだねえ!」
(;゚д゚ )(うわなにこの人きもちわるい)
ツンの言葉にミルナが僅かに抱いた恐怖は、
本に頬擦りしながら泣き始めたモララーの気持ち悪さによって掻き消えた。
( ^ω^)「よし、回収完了、と。――そうそう、ホテルの部屋が取れなかったんですおね。
今ならもう大丈夫だと思いますお」
(;゚д゚ )「え?」
( ^ω^)「たしかめてみるといいお」
- 622 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:26:00 ID:/SL0GQosO
促され、携帯電話でインターネットに繋ぐ。
駅前のホテルを調べてみると、
(;゚д゚ )「……空いてる……!」
果たして、空室はあった。それも何部屋も。
一昨日、満室だと言われたのが信じられないほどだ。
今の内に予約したら、とツンが言うので、ミルナは急いで予約を取り付ける。
それを満足そうに頷きながら眺め、内藤はツンとモララーに「帰るお」と告げた。
(;゚д゚ )「あ、さようなら」
( ^ω^)「どうもすみませんでしたおー」
(;゚д゚ )「いや、まあ、何か結果オーライって感じだったので」
ξ゚听)ξ「念押しするけど、このことは誰にも言わないように」
(;゚д゚ )「はい」
(*;∀;)「ああああ本当に久しぶり……今夜は本と一緒に寝よう」
(;゚д゚ )(きもちわるい)
- 623 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:27:35 ID:/SL0GQosO
――デレは、内藤達を玄関まで見送った。
おやすみなさいと挨拶して車へ向かおうとする3人に、デレは手を振って返した、が。
ふと思い立ち、内藤の腕を掴んだ。
( ^ω^)「お?」
ζ(゚、゚*ζ「あの、いっこ、いいですか?」
(*^ω^)「何だお? 別れのハグでも御所望かお」
ζ(゚、゚;ζ「そうではなくてですね」
ツンが白い目で内藤を見ている。
言葉だけでなく実際にデレを抱きしめでもしたら、多分、ツンの手は内藤を仕留めるだろう。
ζ(゚、゚*ζ「私、ツンちゃんの苗字知らないなあ、って……」
ξ゚听)ξ「苗字?」
ツンの視線が内藤からデレに移動した。
いつもの無表情。
ξ゚听)ξ
それから内藤と顔を見合わせ、小首を傾げた。
- 624 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:28:10 ID:/SL0GQosO
ξ゚听)ξ「……知らない」
ζ(゚、゚;ζ「へ?」
ξ゚听)ξ「知らないのよ、私の苗字」
ζ(゚、゚;ζ「知らないって……」
そんなことがあるのかと問おうとしたデレは、
内藤に頭を撫でられ、開きかけた口を閉じた。
( ^ω^)「……ツンは、みんなと違うんだお」
( ・∀・)「うん、そうだね」
ζ(゚、゚;ζ「違う?」
( ^ω^)「色々と。……デレちゃんが気にすることじゃないお」
ζ(-、-;ζ「う、うむむ」
ぐしゃぐしゃ、髪を掻き混ぜられる。
誤魔化されている気もしたが、何だかそれ以上踏み込んではいけないように思えた。
*****
- 625 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:30:04 ID:/SL0GQosO
( ゚д゚ )「お世話になりました」
('、`*川「いえいえ、こちらこそ」
翌朝。
4人揃っての朝食をとり終え、デレは学校へ、ミルナは会社へ行く時間となった。
ミルナは先にホテルへ荷物を預けに行くという。
_
( ゚∀゚)「俺達は先にこの町を出るけど、頑張ってな、ミルナ君」
('、`*川「また会えるといいですね」
( ゚д゚ )「ええ、本当に。
……ありがとうございました」
「ありがとう」には、様々な意味が込められていた。
住まわせてくれたことは勿論だが、何より――
彼を、受け入れてくれたことが嬉しかった。
恐くないと言ってもらえて、心から、嬉しかった。
- 626 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:32:56 ID:/SL0GQosO
( ゚д゚ )「デレちゃんもありがとう」
ζ(゚ー゚*ζ「私は何もしてませんよ」
( ゚д゚ )「そんなことないよ。……あの人達にも、お礼言わなきゃなあ」
全ては本が導いたのだ。
一番感謝すべきは、あの本かもしれない。
くすり、ミルナが笑う。
その笑顔が優しくて、デレは、ちょっとだけ驚いた。
*****
- 627 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:35:12 ID:/SL0GQosO
( ^ω^)「おっおおん、おっおー、おんおんおー」
赤信号。
ハンドルを指で叩いてリズムをとりながら、内藤は調子っ外れに歌う。
信号が赤から青に変わった。
歌を止め、車を発進させる。
('、`*川「すみません、送っていただいて」
_
( ゚∀゚)「ガソリン代と、いくらかお礼は払うよ」
( ^ω^)「いえいえー。やりたくてやってることですから」
後部座席には長岡夫妻。
現在、午前9時半。
内藤の車で彼らを駅まで送っているところだ。
- 628 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:36:17 ID:/SL0GQosO
助手席のツンが、溜め息。
ξ゚听)ξ「美人には尽くすタイプですから。この人」
('、`*川「まあ」
_
( ゚∀゚)「ペニサスさんはあげないぞ、内藤君」
( ^ω^)「そりゃあ残念」
赤信号。車を停める。
('、`*川「……それにしても、良かった。
デレさんが大人の方とお知り合いで」
( ^ω^)「お?」
('、`*川「あの子、友達多くなかったみたいだし……。
いざってときに頼りになる人がいるのか、不安だったんです」
( ^ω^)「おっお、任せてくださいお」
ξ゚听)ξ「車の送迎以外に役立ったことはあったかしら?」
(;^ω^)「うぐっ」
- 629 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:37:10 ID:/SL0GQosO
('、`*川「ふふ……。
どうか、デレさんのこと、よろしくお願いします」
('、`*川「何だかあの子ったら、足を怪我したみたいだったし」
_
( ゚∀゚)「――え? そうなのか?」
( ^ω^)「あれ、デレちゃん、足のこと言ってなかったんですかお?」
('、`*川「聞いてませんねえ」
_
( ゚∀゚)「……ああ、そういや、足を出してるとこ見てないな」
('、`*川「ちょっと歩き方も変でしたから。怪我したのかなあ、と」
内藤は、ここ数日のデレの姿を思い返してみたが、
歩き方に違和感などは見られなかった。
さすが母親、と言ったところか。
- 630 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:39:02 ID:/SL0GQosO
('、`*川「跡とか残るような傷ですか?」
( ^ω^)「……多分。目立つほどじゃないとは思いますが」
_
( ゚∀゚)「なん……だと……」
('、`*川「あら……お嫁にいけるかしら。
跡とは言っても足だし……でも……ううん……」
_
( ゚∀゚)「これはもう本格的にモララー君との結婚を視野に入れた方が……」
( ^ω^)「あれと結婚させたら絶対に後悔しますお」
ξ゚听)ξ「……まあ、あまり心配しなくても」
ツンは窓の外に目を向けた。
抑揚のない声で呟く。
ξ゚听)ξ「嫁の貰い手ぐらい、案外すぐ見付かりますよ」
*****
- 631 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:40:49 ID:/SL0GQosO
( ^ν^)「――っふぇぶしっ!」
( ;∀;)「わああああニュッ君がくしゃみしたぁあああああ! 風邪? 風邪!?」
川д川「あったかくしてね……ニュッ君は風邪が長引くんだから……」
ハハ ロ -ロ)ハ「誰かが噂してるのカモ」
( ゚∋゚)「ああ、かもな」
( ;∀;)「ニュッ君なんかの噂する人いるわけないじゃん! 風邪だよ!」
( ^ν^)「おい」
( ;∀;)「ニュッ君が寝込んだら誰が俺の本を読んでくれるのぉおおおお!!」
( ^ν^)(うるせえ……)
川д川(うるせえ……)
第四話 終わり
- 632 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:43:22 ID:G08S0m5g0
- 乙ゥゥウウウウウウウ!!!!!
今回も良かった!
キュートかわいすぎわろた
- 633 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:44:49 ID:/SL0GQosO
- 今回の投下終わりです
次回投下は、来週中に来れたらいいな
読んでいただきありがとうございました!
>>632
o川*゚ー゚)o「私が可愛い? 当たり前だろ」
しおり的な目次的な
第二話前 >>104
第二話後 >>175
第三話前 >>250
第三話後 >>333
第四話前 >>431
第四話後 >>527
ではでは
- 634 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 00:46:35 ID:tsvLHDkAO
- 乙っした!!
- 635 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 01:46:40 ID:uGe0IUCkO
- 乙!
泥棒3人組がいい味出しててワロタ
図書館住人たちの謎もますます気になるな
- 636 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 14:22:35 ID:T1jt9Sao0
- 乙
モララーは鬱展開嫌いなんだな
- 637 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/17(日) 18:24:07 ID:VFyYkgtMO
- 最初から一気読みしてきた
続きが待ち遠しい…!
モララーきもかわいいです
- 638 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/19(火) 12:26:28 ID:cdhZ93bw0
- 時代劇でコレなんだからSFとかファンタジーを演じることになったら大変だな
- 639 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/22(金) 01:34:56 ID:mjoYQBpw0
- 乙
凄く面白い、週末投下とのことなんで明日またくるぜー!
- 640 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/22(金) 09:37:52 ID:84TBd0igO
- 楽しみだ
- 641 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 07:57:26 ID:t1vY434Y0
- |ω・)チラッチラッ
- 642 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 16:34:08 ID:GwWh5fpI0
- o川*゚ー゚)o「(チラッ)(チラッ)」
- 643 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/24(日) 20:21:41 ID:zP8MzbAwO
- 壁|*・∀・)チラッ チラッ
- 644 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/25(月) 18:18:42 ID:FutCDHqc0
- 焦らしプレイなんてやだよぉ…/////
- 645 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/26(火) 16:35:12 ID:DQIjwoHEO
- 今一気に読んだ
主人公はツンなのかニュッ君なのか…あ、ふぐりはいいです
- 646 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/26(火) 20:48:48 ID:d7RlNfag0
- >>645
ツンじゃなくてデレじゃないかな……
- 647 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/27(水) 00:19:52 ID:CPcRy6C.0
- 俺の中ではキュートが主人公かな/////
- 648 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/28(木) 08:15:13 ID:CYTZkazY0
- 来てないか気になって毎日覗いてしまう
珍しく投下が空くな
忙しいんか
- 649 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:33:24 ID:SF4WZnJQO
- >>633を書き込んだ時点で、日付は11/04/17(日)に変わっていた
つまり「来週中」というのは11/04/24(日)から11/04/30(土)までの間のことであり、
遅れてすみませんでした
というわけで第五話投下しマーロー
前後編に分けずに一気に投下するんで、多分長い
- 650 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:34:53 ID:SF4WZnJQO
今日も疲れた。
早く家に帰ろう。
家に帰ったとて、休まるわけでもないけれど。
( "ゞ)
マンションの一室。
リビングに妻がいたので「ただいま」と告げたものの、
(゚、゚トソン
ああ、ほら、妻は何も返してくれない。
テレビの中で芸人が駆け回っている。
妻は冷めた目でそれを眺めている。
( "ゞ)
腹が減ったと伝えてみれば、棚にカップ麺があると言われた。
ここ一年、妻の手料理を食べていない気がする。
いや、数日前に卵焼きを作ってくれたのだったか。
カップ麺を胃の中に収め、風呂に向かう。
おざなりにシャワーを浴びて寝間着を纏い、ベッドの中で眠りに就いた。
*****
- 651 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:36:04 ID:SF4WZnJQO
(;´_ゝ`)「――!」
流石兄者は跳び起きた。
青色の毛布を見つめ、次いで両手を眼前に持ってくる。
その手で、顔を挟み込んだ。
(;´_ゝ`)「はああああ……」
長い長い溜め息。安堵と憂いが混じったものだった。
そこへドアが開く音と、双子の弟、流石弟者の声がした。
(´<_` )「おおい、兄者……ああ起きてたか」
( ´_ゝ`)「おお。おはよう弟者」
(´<_` )「朝飯出来てるぞ。早く下りてこないと母者がキレる」
(;´_ゝ`)「何、それはまずい」
(´<_` )「じゃあさっさとしろ。姉者も腹をすかしているから、
最悪の場合母者と姉者のコンビネーションを味わうことになるぞ」
(;´_ゝ`)「行く! 行きます!」
布団を跳ね退け、兄者はベッド――二段ベッドの下段――から降りた。
以前、大学生にもなって二段ベッドを使うのは嫌だと親に訴えたことがあるが、
黙殺されて終わった。今では兄者も弟者も諦めている。
- 652 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:36:47 ID:SF4WZnJQO
ふと、振り返った。
部屋の隅、ぎっしりと漫画や小説が詰まった本棚が目に入る。
(;´_ゝ`)「……」
兄者は最近、連日見る夢に悩まされていた。
夢の中で彼はサラリーマンになる。
仕事はそれなりに順調だが、疲れるばかりで満足感を抱くこともなく、
また、家庭の方に至ってはまったく上手くいっていない。
ろくな楽しみもない、くたびれた日々。
そんな夢を毎日見る。
目が覚める度、自分が「流石兄者」であるのを確認せずにはいられない。
(´<_` )「兄者ー」
(;´_ゝ`)「お、おう」
――それというのも、一冊の本を拾ってから始まったのだ。
- 653 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:37:12 ID:SF4WZnJQO
第五話 あな息苦しや、家族小説
.
- 654 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:38:42 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚ー゚*ζ(あれ?)
夕刻。
林へとやって来た長岡デレは、フェンスの入口の前で立ち尽くす男を見付けた。
黒いトレンチコートを纏い、右手に鞄を提げた男。
彼は左手に持った携帯電話を耳に当てていたが、やがて嘆息し、その手を下ろした。
ζ(゚ー゚*ζ「あのう」
(´・ω・`)「ん?」
声をかけると、振り返った男は少しの沈黙の後、体ごとデレに向き直った。
眉尻の下がった、気弱そうな顔をしている。
柔らかく微笑む口元から人のよさが窺えた。
30歳になるかならないか。
デレの目的地であるVIP図書館の館長、内藤ホライゾンと同じ年頃に見える。
- 655 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:39:28 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚ー゚*ζ「どうかしたんですか?」
(´・ω・`)「この先に、知人の家があるのですが……御覧の通りフェンスがあって入れません。
電話をかけても、留守らしくて出てくれないんです」
ζ(゚、゚*ζ「ありゃ、そうなんですか」
デレが図書館にお邪魔したいと内藤にメールを送ったとき、
今日は特に用事がないから大丈夫だと返事が来た筈だったが。
(´・ω・`)「出直せば済む話ですが、何分遠くから来たもので。
それに、急ぎの用ですし」
どうしましょう。男が呟く。
デレは、にこりと笑った。
ζ(゚ー゚*ζ「私、鍵持ってます。一緒に入りましょう」
(;´・ω・`)「ええっ。そんな……いいんですか?
というか、関係者の方だったんですか……」
ζ(゚ー゚*ζ「関係者というほどでもないですけどね。
さあさあ、遠慮せずに」
(´・ω・`)「……では、お言葉に甘えて」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、一名様ご案内ー」
- 656 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:40:26 ID:SF4WZnJQO
フェンスを抜けて一本道を進むと、すぐに図書館に着いた。
来訪する旨を伝えていたから、玄関の鍵は開いているだろう。
デレが扉に手をかけると、男が口を開いた。
(´・ω・`)「本当に助かりました。ありがとうございます、長岡さん」
ζ(゚ー゚*ζ「いえいえ」
扉を引き――デレは、首を傾げた。
はて、自分は彼に名前を教えただろうか、と。
しかし答えが出るより先に、さらに別の疑問が沸き上がった。
ζ(゚、゚*ζ「……内藤さん?」
(*^ω^)「おっおっ、いらっしゃいお、デレちゃん」
図書館の中、手前のテーブルセットに、内藤が座っていたのだ。
留守だったのではなかったか。
- 657 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:41:37 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚、゚*ζ「出掛けてるんじゃ……」
(´・ω・`)「やあ、ブーン!」
ζ(゚、゚;ζ「きゃっ!」
(;^ω^)「……げえっ!?」
瞬間。
問おうとするデレを押しのけ、男がつかつかと内藤に歩み寄った。
内藤は顔を強張らせて立ち上がる。
(;^ω^)「お、お前、何で――」
(´・ω・`)「親切な長岡さんのおかげさ」
( ^ν^)ξ゚听)ξ「……」
ζ(゚、゚;ζ「えっ、えっ、私、あの、しちゃいけないことしました……?」
内藤と同じテーブルにいた内藤ニュッ、ツンの2人がデレを見る。
彼らの顔は無表情だったが、どこか非難の色が感じられた。
男と内藤が対峙する。
(´・ω・`)「彼女がいなかったらどうなっていたのやら。
……携帯にかけても着信拒否、図書館の電話にかけても無視……」
- 658 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:42:57 ID:SF4WZnJQO
(´-ω-`)「やれやれ、君ってやつは本当に――」
男は一呼吸の間をあけて、鞄を椅子に放ると。
(#´゚ω゚`)「ナァアアアアアアメた真似してくれるよなカスがよぉおおおおおおお!!」
――キレた。
ζ(゚、゚;ζ「えええええええええええええええ!!?」
- 659 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:44:04 ID:SF4WZnJQO
(#´゚ω゚`)「詫びろ! 泣いて詫びろ! 土下座しろ!」
(#^ω^)「……ああああうるせええええええ!!」
それを合図として、同時に飛び掛かる。
男は内藤の胸倉を掴み上げ、内藤は男の耳を抓り上げ。
互いに頭突きを繰り返しながら、口汚く罵り合いを始めた。
(#´゚ω゚`)「俺を誰だと思ってんだ!? お前に俺様を無視する権利なんざねえんだよ!!」
(#゚ω゚)「クズのショボン君ですよねぇええ!? 無視して当然だろうが!
クソが! 心清らかなデレちゃん利用しやがってよお!!」
(#´゚ω゚`)「利用なんかしてませえーん。あの子が勝手に入れてくれたんですうー。
べろべろばあぁあああ!」
(#゚ω゚)「いいや、お前のことだから脅すか何かしたね! 絶対したね!
救いようのない悪人だな!!」
- 660 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:45:33 ID:SF4WZnJQO
(#´゚ω゚`)「あ? 言っちゃうよ? この間俺の秘蔵AV貸してあげたことを
ブーン君の大好きなツンちゃんに言っちゃうよ?」
(;゚ω゚)「言っちゃってる! 今まさに言っちゃってる!! やめて!!」
ξ゚听)ξ
(;゚ω゚)「やだ! 背中に何か圧力! 何か圧力来る! 後ろ見れない!!」
内藤を蹴飛ばし、男は舌打ちをしてテーブルに移動した。
ニュッの隣に腰を下ろす。
(´・ω・`)「ようニュッ君。相変わらず童貞?
そろそろハロー辺りに土下座してやらせてもらったら?」
( ^"ν^)
(´・ω・`)「それともデレちゃんがいい?」
( ^"ν^)「帰って死ね」
- 661 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:46:53 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「おやおや、酷い言い草だなあ……折角『本』の持ち主見付けてきてあげたのに」
ξ゚听)ξ「本?」
ツンは、男の言葉に反応を示した。
視線を内藤の背中から男へと移す。
(;^ω^)(視線だけで死ぬかと思った……)
(´・ω・`)「そう、本。
――いつまで突っ立ってんの、長岡デレさん。座ったら?」
ζ(゚、゚;ζ「ふあ」
すっかり固まっていたデレは、ようやく我に返った。
開けっ放しだった扉を閉めてからダッフルコートを脱ぎ、ショボンの横に座る。
テーブルの上には紅茶とクッキー。
ξ゚听)ξ「今、2人の分も入れるわ」
(;^ω^)「あ、ツンちゃん、あの、僕紅茶のおかわり欲しいなあ……」
ξ゚听)ξ
(;^ω^)「すみません自分でやります」
(´-ω-`)「やだやだ、情けない男」
- 662 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:48:45 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚、゚;ζ「……おふたりは、仲悪いんですか……?」
内藤と男を交互に見遣り、デレはおずおずと訊ねた。
先程の喧嘩からするに、友達同士だとは思えない。
もしかして招いてはいけなかったのだろうか。
デレの心配を他所に、2人は顔を見合わせ、首を横に振った。
(´・ω・`)「仲悪かったら16年も友達やってないよ」
ζ(゚、゚*ζ「16年?」
( ^ω^)「中学からの腐れ縁なんだお」
(´>ω・`)v「遮木ショボン、ぴちぴちの29歳! よろしくね」
ζ(゚、゚;ζ「しゃき、しょぼんさん……」
遮木ショボンと名乗った男は、自己紹介と共にウインクとVサインをしたが、
声にまったく感情が篭っていなかった。
テンションがよく分からない。
- 663 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:51:32 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「で、君は長岡デレさんだろ」
ζ(゚、゚;ζ「はっ、はい――って何で」
(´・ω・`)「ブーンから話は聞いてたんだ。よろしく」
ζ(゚、゚;ζ「あ、はあ、どうも」
ショボンが右手を差し出し、デレも右手で応えた。
握手。
ショボンの顔つきは相変わらず気弱そうに感じられるものだったが、
つい先程怒鳴り散らしていた、あちらの方が本性なのだろう。
(´・ω・`)「この子がいなかったら僕は今頃、寒空の下凍死してたね」
( ^ω^)「よく言うお、刺しても焼いても死ななそうな根性して」
(´・ω・`)「そもそもお前が電話に出ないからだっつうのに」
- 664 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:53:51 ID:SF4WZnJQO
ξ゚听)ξ「どうせ金の無心に来たんだろうから無視しろって、ブーンが」
(´・ω・`)「はああー? 友人に金たかるほど困ってないよ僕」
( ^ω^)「どの口が……。
第一金銭絡みじゃないにしても、お前が来ると疲れるんだお。
あ、駄目だ帰れ。何か腹立ってきた」
ζ(゚、゚;ζ「……やっぱり仲悪いんじゃ……」
ξ゚听)ξ「いえ。単に、この間喧嘩した――というより、
ブーンにとって納得出来ない取引をして揉めたばかりだからね。
気が立ってるだけよ」
(´・ω・`)「危うく、ブーンという大事なお得意様をなくすところだったね。
……はい、本と持ち主の情報」
そう言って、ショボンはコートのポケットに手を突っ込んだ。
中からくしゃくしゃのメモ用紙を数枚引っ張り出し、内藤に突きつける。
- 665 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:54:57 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚、゚*ζ「ショボンさんって、何をしてらっしゃるんですか?」
(´・ω・`)「探偵」
ζ(゚ー゚*ζ「探偵さんなんですか!」
( ^ν^)「殺人事件の推理するようなアレじゃないぞ」
ζ(゚、゚;ζ「わっ……分かりますよそれぐらい!」
ちょっとだけそっちだと思いましたけど、という本音は胸にしまい、
デレは、皺くちゃの紙に眉を顰める内藤を見た。
探偵だというショボン、お得意様のブーン、本の情報。
彼らの「取引」がどういったものなのか、デレにも読めてきた。
本を所持している人間をショボンが探して調べ上げ、
その情報を内藤に売りつける。そんなところか。
- 666 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:57:00 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚、゚*ζ(……ってことは)
ならば、以前、ハローの本が関わった事件の際。
ちらりと話に出た知人とやらは、ショボンのことだったらしい。
確認のために訊ねてみると、うん、と声を漏らし、ショボンが頷いた。
内藤の手に力が篭り、メモ用紙がぐしゃりと悲鳴をあげる。
(´・ω・`)「それなら僕だ。知り合いに警察関係の人がいてね、
ちょっと脅h……お願いして、教えてもらったんだよ」
ζ(゚、゚;ζ(『脅迫』って言いかけた今)
( ^ν^)「……その話やめろ」
ζ(゚、゚*ζ「え――」
(#^ω^)「ショボォオオオオオン!!!!!」
ζ(゚д゚;ζ「わきゃああああああ!?」
今度は内藤の方から怒声があがった。
メモをテーブルに叩きつけ、ショボンを睨みつける。
- 667 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:58:05 ID:SF4WZnJQO
(#^ω^)「1時間かからずに寄越してきた情報が30万円なんて
絶対おかしいと思ってたお!! そのこと問い詰めたら、
お前『想像を絶する苦労があったんだよ』とか言ったよな? なあ!」
(´・ω・`)「知り合いに電話をかけるという想像を絶する苦労がだね」
(#゚ω゚)「しかも電話ぁあああああ!? 超ぉおおお簡単なんですけどぉおおお!!」
ξ゚听)ξ「……納得出来なかった取引って、それのことなの」
( ^ν^)「折角収まりかけてたのに掘り返すんじゃねえよ」
ζ(゚、゚;ζ「ご、ごめんなさい……」
*****
- 668 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:59:09 ID:yYs5iR/U0
- わーい!!楽しみなのがきた!!支援だ!!!
- 669 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 22:59:41 ID:SF4WZnJQO
ツンとデレが内藤を宥めて、約10分後。
怒りながらも話を聞き終えた内藤は紅茶を一口含み、んむ、と唸った。
( ^ω^)「本を拾ってから、変な夢を見るようになった……かお」
――何でも、ショボンに不倫調査の依頼が舞い込んだのが事の始め。
依頼主の周辺に聞き込みをしている際、ある人物と話したのだという。
その人物は、ある本を道端で拾ってからというもの、
毎晩奇妙な夢を見るようになったそうだ。
まったく見知らぬ人間となり、一日を過ごす夢。
目を覚ませばいつも通りの自分で安心するのだが、
その夢の中の一日のせいで、起きてからしばらくは憂鬱でたまらなくなる。
(´・ω・`)「残念ながら作者の名前は覚えてなかったみたいだけど。
誰だっけか? 夢の中で演じさせたがる性格の本ばっかりなの」
( ^ν^)「……でぃ」
(´・ω・`)「ああ、それ」
ζ(゚、゚*ζ「でぃ?」
ξ゚听)ξ「椎出でぃ。――呼んでくるわ」
- 670 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:00:39 ID:/bYXXdQ6O
- 相変わらずおもしろい
支援!!
- 671 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:02:34 ID:SF4WZnJQO
ツンが2階にいる作家を呼びに行って、3分足らず。
下りてくる足音の後に、階段へ通じるドアが開かれた。
(*゚ー゚)「はあーい、ご用ですって?」
ξ゚听)ξ「抱き着かないで。欝陶しい」
連れてこられたのは、若い女性だった。
何故かツンを抱きしめている。
暖房が利いているとはいえ季節は冬。
にも関わらず、彼女は腕やら胸元やら足やら、やたら肌を露出させていた。
ζ(゚ー゚*ζ「彼女がでぃさんですか?」
( ^ω^)「いや、あれは――」
(*゚ー゚)「ややっ!?」
唐突に。
女性はデレを見て、素っ頓狂な声をあげた。
- 672 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:03:50 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「あや……やややっ!? 君は君はまさかまさか!?」
( ^ν^)「おい、至急ここから離れろ」
(´・ω・`)「まあまあ、スキンシップは大事だよニュッ君」
ζ(゚、゚;ζ「え? え?」
デレに真剣な表情で何か言うニュッ、にやにや笑うショボン。
わけが分からずにデレの視線がニュッと女性を行き来する内、
女性は小走りでデレに近寄ってきた。
(;^ω^)「あっ、こら、しぃ!」
(*゚ー゚)「君はデレちゃんとやらでは!?」
ζ(゚、゚;ζ「え、は、はい、そうで、」
- 673 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:05:56 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「おっぱいゲッツ!!」
デレの胸が。
思いっきり鷲掴みにされた。
ζ(゚、゚;ζ
(*゚ー゚)「うっひょおおおう! やっわらけえええええ!! もみもみ! もみもみ!」
ζ(゚д゚;ζ「ひぎぁああああああああああ!?」
(*゚ー゚)「直に舐めていい!?」
(;^ω^)「いいわけあるか、んなもん僕がやりたいわ!
……じゃなくて、やめなさい!」
内藤が女性を羽交い締めにする。
女性の手は、デレから離れても尚わきわきと動き続けた。
もげるかと思った胸を両手で押さえ、デレはニュッの後ろへ逃げる。
ζ(゚д゚;ζ「何ですか! 何なんですか!?」
( ^ν^)「だからここから離れろっつったろ……」
- 674 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:07:25 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「ナイスおっぱい……。貞子やハローのは揉み飽きてたとこだったのだよ……」
(´・ω・`)「どうだった?」
(*゚ー゚)「布を隔てていても損なわれない柔らかさ。張りもある。
力を込めると指が心地良く沈み込み、力を弱めれば指が優しく持ち上がり……。
服越しでも結構なサイズに見えるけど、脱いだらもっと凄いよ。ずっしりしたもん」
(*^ω^)「……ほうほう……」
ξ゚听)ξ「……ブーン」
(;^ω^)「はっ、いえっ、僕はこれっぽっちも興味など!」
(*゚ー゚)「形もいいね。生で見たい。ねえデレちゃん、ちょっと脱がない?」
ζ(;、;*ζ「セクハラ! ニュッさん助けて私セクハラされてる!!」
( ^ν^)「こいつの胸の感触だとか形だとか、耳障りでしかないから今すぐやめろ」
ζ(;、;*ζ「おおわあああああああ! 別方向から心抉られた! 複雑!」
(*゚ー゚)「元気な子だねー」
- 675 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:08:53 ID:SF4WZnJQO
ニュッが服の袖でデレの涙を雑に拭って、デレが泣き止んで。
落ち着いたデレは、ふと顔を上げ、「もう1人」を見付けた。
ζ(゚、゚*ζ「……あれ?」
(#゚;;-゚)
ツンの隣に立つ、これまた女性。
先程はセクハラ女(デレの脳内での呼称)の後ろに隠れていたせいで見えなかったようだ。
タートルネックにデニムといった服装で、
セクハラ女とは対称に、肌が見えるのは顔と指先ぐらいだ。
その顔には、いくつか小さな傷跡があった。
(*゚ー゚)「あっ、でぃちゃんに用でしたな。でぃちゃん、おいでおいで」
セクハラ女は、彼女を「でぃ」と呼んだ。
ならば何故この人まで来たのかと、デレは不審そうな目つきでセクハラ女を睨む。
- 676 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:10:15 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「おっと、自己紹介しなきゃね。
私は椎出しぃ。で、この人が、」
(#゚;;-゚)
(*゚ー゚)「椎出でぃ! 私の双子の姉だよ。
ぼけーっとした人だから、ちょくちょく転んだり物にぶつかったりしちゃうの。
顔の傷もそうやって出来たものなんで、気にしないであげてね」
椎出しぃの傍までやって来た椎出でぃは、小さく頭を揺らした。
しぃの腕を引く。
(*゚ー゚)「ふむ。『よろしく』だって、デレちゃん」
ζ(゚ー゚*ζ「ん……よ、よろしくお願いします。
ご存知のようですが、長岡デレといいます」
(*゚ー゚)「うんうん。よろしくよろしく。
でぃちゃんとっても恥ずかしがり屋さんで、人と話すの苦手だからね。
双子の妹たる私が皆様との橋渡しをいたしますですございます」
ζ(゚、゚*ζ(……なるほど、それでしぃさんも来たのか)
- 677 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:12:21 ID:SF4WZnJQO
( ^ω^)「ほい、デレちゃんと椎出姉妹、着席ー」
既に5人で囲んでいるテーブルに、彼女達が入り込むスペースはない。
仕方なく、2人は隣のテーブルに備えられた椅子に腰掛けた。
デレが椅子ごと後ずさる。
(*゚ー゚)「あ、避けた」
(;^ω^)「避けられて当たり前だお。
ごめんおデレちゃん、こいつ、男女構わずセクハラするような人間なんだお」
(´・ω・`)「僕もいきなり股ぐら揉みしだかれたときはぶち殺してやろうかと思ったね」
ζ(゚、゚;ζ「男女構わずですか……」
ξ゚听)ξ「ここの住人は全員、ほぼ毎日被害に遭ってるわ」
(*゚ー゚)「クックルの入浴シーンなんか何度覗いたか分からんね」
( ^ν^)「その度に怒られてんじゃねえか。いい加減懲りろ」
(*゚ー゚)「あの筋肉や尻は飽きん。ねっ、デレちゃん!」
ζ(゚、゚;ζ(ど、どう返事しろと……)
それは置いといて、と内藤が話をぶった切る。
しぃは話し足りなさそうだったが、ツンが咳ばらいをして場を仕切り直した。
- 678 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:13:25 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「んで、でぃちゃんの本が見付かったって?」
( ^ω^)「確定したわけではないけど、
夢の中で演じさせる本なんて、でぃが書いたものぐらいだお」
(*゚ー゚)「ですな。作者の控えめさに似たかね」
ζ(゚、゚*ζ「……夢でも、演じた内に入るんですか?」
( ^ω^)「なるんじゃないかお? 現に、でぃの本はそれで満足してるみたいだし」
ξ゚听)ξ「現実に表現してもらう、というのとは少し違ってくるけれど、
夢の中なら、姿かたち、舞台、季節、何もかも本の通りに出来るしね」
内藤は、ショボンから貰ったメモ用紙をでぃに手渡した。
ショボンが男から聞き出した、本の特徴やストーリーが書かれている。
でぃはメモに目を通すと、しぃの耳へ口を寄せた。
- 679 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:15:03 ID:SF4WZnJQO
(*゚ー゚)「ふむ。でぃちゃんの本で間違いないようだよ」
(#゚;;-゚)) コクン
ζ(゚、゚*ζ「……でぃさんは、どんな話を書くんですか?」
( ^ν^)「家族ものが多い」
(*゚ー゚)「その通りー。でぃちゃんはね、離婚間際の夫婦とか、家庭崩壊とか、
薄暗ぁあーい問題を抱えた家族の話を書くのが好きだね!
あとはたまにホラーやピカレスクを書くよ。ね」
(#゚;;-゚)) コクン
ζ(゚、゚;ζ(なんて重い……)
(*゚ー゚)「ちなみに私はSFとかサスペンスが好きかな。
ああ、官能小説もたまに……。ほんと、たまーに」
- 680 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:15:44 ID:SF4WZnJQO
ζ(゚、゚*;ζ「え……ニュッさん、か、官能小説、とかも読むんですか」
(*゚ー゚)「初めてニュッちゃんに官能小説を差し上げたのは、
彼が18歳の誕生日を迎えたときでございました」
ξ゚听)ξ「ああ、あの日」
(´・ω・`)「本を贈るだけじゃ飽きたらず、大声で朗読してやったんだって?」
( ^ω^)「ニュッ君の部屋からしぃの喘ぎ声が聞こえてきたときは
『ついにニュッ君が喰われた』と思ったお……」
(*゚ー゚)「途中で、真っ赤になったニュッちゃんに追い出されたけどね!」
ζ(゚、゚*ζ「……へえ、真っ赤に? ニュッさんが?」
(*゚ー゚)「ニュッちゃんだって赤くならあ。人間だもの」
( ^"ν^)
(*#゚;;-゚) ポッ
- 681 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:16:29 ID:SF4WZnJQO
( ^ω^)「はい閑話休題。
でぃ、この話は演じ終わるのに大体どれくらい時間がかかるんだお?」
(#゚;;-゚)ノシ
(*゚ー゚)「3ヶ月くらいだって」
( ^ω^)「3ヶ月……。結構長いおね。
何なら夢なんてまどろっこしいのは置いといて、
主人公に選ばれた人と僕らで演じて、さっさと終わらせちゃうかお」
(´・ω・`)「いいや、その心配には及ばない」
( ^ω^)「おん?」
- 682 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:17:02 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「僕がメモの男と会ったの、まさに3ヶ月前だから」
( ^ω^)
( ^ω^)「お前……お前さあ……何で3ヶ月間黙ってんの……」
(´・ω・`)「黙ってたんじゃなくて忘れてただけだ。
今朝、色々な資料の整理してたらそのメモが出てきてさ。
ああそういやこんな話があったなあ、って」
( ^ω^)「とっくに演じ終わってて、
本が新しい主人公見付けてたらどうしてくれんだおこの野郎」
(´-ω-`)「それもまた人生」
( ^ω^)「ポットのお湯ぶっかけてやろうか」
(´-ω・`)「あ、情報料ちょうだいね」
( ^ω^)「結局金取りに来たのかおカス」
- 683 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:18:13 ID:SF4WZnJQO
それから、物語の詳細をニュッとでぃに説明してもらい――
一段落ついた頃に時計を見たデレは、慌てて腰を上げた。
ζ(゚、゚*ζ「そろそろ帰らなきゃ」
( ^ω^)「おー、もうそんな時間かお。送ってくお」
ζ(゚ー゚*ζ「今日は途中で買い物していく予定なので、歩いて帰ります」
ξ゚听)ξ「別に、お店に寄るぐらいは構わないわ」
ζ(゚、゚*ζ「……んー……」
( ^ν^)「乗ってけよ」
(*゚ー゚)「そうだよ、1人で夜道を歩いて、暴漢に襲われでもしたらどうするの?
服を破かれ、体をまさぐられ……悔しいっでも感じちゃう!
そして暴漢の手はついに――」
(*#゚;;-゚) ドキドキ
ζ(゚、゚;ζ「や、やめろ!!」
- 684 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:19:30 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「ブーン、僕も乗せてってくれるよね?」
(;^ω^)「はあ? お前、車で来なかったのかお」
(´・ω・`)「ちょいと聞いてくれよ。ある良家の娘さんが婚約したんだけど、
そのお嬢様のご両親が、相手の素性を調べてほしいと僕に依頼してきたのさ。
いざ調べてみると、まあ出てくる出てくる不祥事前科」
(´・ω・`)「結果は当然婚約破棄。
で、何故か僕がそいつに逆恨みされて、車ぼっこぼこにされたんだよね。
そいつのことは正当防衛を装った上で仕返しして警察に突き出したけど」
(;^ω^)「……調査対象に逆恨みされたの、それで何回目だお」
(´・ω・`)「何回目だろうなあ。数え切れないわ」
と、いうことで。
運転席に内藤、助手席にツン、後部座席にデレとショボンが座り、
内藤の車は走り始めた。
- 685 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:21:16 ID:SF4WZnJQO
林を出て、まずはデレが行きたいというスーパーへ。
数分かかって到着したスーパー、その駐車場に車を停める。
一旦降りたデレは、運転席側の窓の前で、指を上下に振った。
内藤が窓を開ける。
ζ(゚ー゚*ζ「私があんまり遅かったら、先に帰ってくださっても構いませんからね」
( ^ω^)「いやいや、いくらでも待つからゆっくり買い物していいおー。
ああ、僕も一緒に行こうかお?」
(´・ω・`)「僕が彼女についていこう。荷物持ちぐらいならやるよ」
(;^ω^)「え?」
ξ゚听)ξ「あら珍しい」
後部座席のドアを開けたショボンに、内藤は、ぎょっとした様子で振り向いた。
信じられない、とでも言いたげな顔だ。
- 686 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:22:18 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「何その顔」
(;^ω^)「お前が……人に優しくするなんて……」
(´・ω・`)「失礼な奴だよ本当に」
少々乱暴にドアを閉める。
遠慮するデレに、ショボンは「いいから」と笑顔を返し、
さっさとスーパーへ歩いていった。
デレが慌てて追いかける。
2人が店内へ入るのを見届けた内藤は、窓を閉め、溜め息をついた。
(;^ω^)「何を考えてんだお、あいつ」
ξ゚听)ξ「ショボンも買いたいものがあったんじゃないかしら」
(;^ω^)「それだけならいいけど……」
内藤が言葉を切る。
何とは無しに横を見ると、ツンと目が合った。
暗がりに、店から漏れる明かりが差し込んでいる。
その光に照らされたツンの瞳と金髪が、きらきら輝いているように思えた。
- 687 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:23:25 ID:SF4WZnJQO
ξ゚听)ξ「……なあに? じっと見て」
( ^ω^)「ツンが見てるから」
ξ゚听)ξ「見てない」
ツンが顔を背ける。
綺麗だと内藤が呟くと、そっぽを向いたままツンが内藤を殴った。
いつもより力が入っていない。
(*^ω^)「ああんもう可愛いったらないお」
ξ゚听)ξ イラッ
ツンが拳を握り直しているのに気付き、内藤は慌てて視線を逸らした。
にやつく口元を左手で隠す。
沈黙。手持ち無沙汰。
ショボンから渡された例のメモ用紙をスーツのポケットから出した。
本や、本を拾った男に関する情報を流し読みしながら、
記されている名前を口にする。
( ^ω^)「……流石兄者さん、ねえ」
*****
- 688 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:25:09 ID:SF4WZnJQO
店の中には軽快な音楽が流れていた。
客や店員の声があちこちから聞こえる。
この明るさ――照明に限った話ではなく――が、デレは何だか好きだった。
(´・ω・`)「買うものは?」
ζ(゚ー゚*ζ「お魚とかお野菜とか、色々」
まずは野菜売場へ寄った。
人参とじゃがいもを手に取り、ショボンが持つ籠に入れる。
ζ(゚ー゚*ζ「ついてきてくれて、ありがとうございます」
次に鮮魚売場を目指しながらデレがそう言うと、
ショボンは一瞬の間をおいて、「親切心じゃないよ」と答えた。
(´・ω・`)「君と話したかっただけだ」
ζ(゚ー゚*ζ「? 何を?」
- 689 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:26:31 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「変な子だよなあ、と思って。気になってた」
ζ(゚、゚;ζ「へっ……へん?」
(´・ω・`)「僕が今まで見てきた人間の中でも、特に変だよ。君は」
あの連中と関わり始めてから自分はまともだと自負するようになったデレにとって、
ショボンの発言は大変ショッキングなものであった。
漫画なら彼女の後ろに「がーん」といった文字が浮かびでもするところだ。
ζ(゚、゚;ζ「そんな馬鹿な……!」
(´・ω・`)「本当だよ。いっそ薄気味悪いとすら感じるね」
ζ(;、゚*ζ「や、やめてください!
年頃の娘に向かって『薄気味悪い』はやめてください泣きますよ!」
(´・ω・`)「じゃあ、気持ち悪い」
ζ(;、;*ζ「それはそれで!」
(´・ω・`)「おい、公衆の面前で泣くんじゃないよ。僕が白い目で見られるだろ。
……何つうかなあ、君の考えてることが理解出来ないんだよ」
ζ(ぅ、;*ζ「じ、自分で言うのもアレですが、単純な人間ですよう……」
(´・ω・`)「そうかな? 君は、彼らを恐がらないじゃないか」
ζ(゚、∩*ζ「『彼ら』って――内藤さん達ですか?」
- 690 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:28:06 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「冷静に考えてみろよ。
林の中、人知れず暮らしてる他人の集まり。
命を宿し、自分の欲求のために人を巻き込む『本』」
(´・ω・`)「……普通、近寄りたくないだろう」
デレの足が止まった。
一歩先を行き、ショボンも立ち止まる。
(´・ω・`)「あいつらは、あの図書館は、一般人からすれば全てが異常なんだよ。
それを分かっていて尚も足しげく通う君が、僕には理解出来ない」
ζ(゚、゚*ζ「だって」
(´・ω・`)「だって?」
ζ(゚、゚*ζ「だって……皆さん、いい人ばっかりで……楽しい、から」
(´・ω・`)「そうだな、お人よしの山だ。
でも本は? あれと意思の疎通は図れないよね。
加えて、君は貞子の本のせいで死にかけただろ」
それとも、自分を命の危機に晒した本まで「いい人」だと言うつもり?
僅かな嫌味が込められた問いに、デレは首を横に振った。
いいとは思わないが、悪いとも思わない、と。
ショボンが眉間に皺を寄せる。
- 691 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:30:51 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「つい先日起きた、ハローの本に関する事件はどうだ?
3人が死んだ。1人が殺人犯になった。
計4人の人生がめちゃくちゃになったんだぞ。本のせいでね」
物騒な言葉に、すれ違った客がぎょっとして振り返った。
が、ショボンに睨みつけられ、そそくさと離れていく。
(´・ω・`)「……そうそう、君の足の傷も、元を正せば本のせい。
例の事件がなかったら、君はあの道を通らなかった。
あの道を通らなければ怪我することもなかった。違う?」
すっかり治っている――跡は残ったが――デレの足が、一瞬ひりついた。
実際に痛んだのか、記憶の中の痛みが蘇っただけなのかの判断は出来ない。
ζ(゚、゚;ζ「そこまで知ってるんですか」
(´・ω・`)「君の足云々はブーンから聞いただけだ。
で、ここまで聞いても、まだ本が恐くない?」
ζ(゚、゚*ζ「……」
答えあぐねるデレに、ショボンは溜め息をついた。
呆れ返りながら、新たに話を始める。
- 692 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:31:38 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「ブーンが本の回収を始めたばかりの頃なんだけど、
ハローの本に演じさせられて、殺人を犯してしまった少年がいた」
(´・ω・`)「少年が本の主人公にさせられていたことを知ったブーンは、そいつの家に行った。
本の回収と……その子の家族へ、謝罪するために」
同行したショボンが「本を取り戻すだけにしておけ」と忠告したにも関わらず、
内藤は少年の家族に全て説明し、頭を下げたという。
(´・ω・`)「あいつ馬鹿だよなあ。
主人公にさせられた本人ならまだ信じてくれたかもしれないけど、
何も知らない家族がそんなファンタジーな話を信じるわけないよね」
少年の家族からすれば、質の悪いイタズラにしか思えなかった。
突然やって来た男に本が生きているだの何だの説明されたところで、誰が信じよう。
腹を立てた父親に、内藤とショボンは追い出されてしまった。
- 693 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:32:34 ID:SF4WZnJQO
だが。
(´・ω・`)「けれど、1人、ブーンのことを信じてあげる人がいた。
少年の兄さ。彼はわざわざ僕らを追ってきて、言ったよ。
『弟が人を殺そうとする筈がない、本の仕業なら納得出来る』ってね」
ζ(゚、゚*ζ「……それで、どうなったんですか?」
(´・ω・`)「せめてもの詫びとしてお金を出そうとしたブーンを、彼は力一杯殴った」
(´-ω-`)「――『金なんかいらない。
そんなものを出すより、弟を救ってほしい。
人殺しになってしまった弟を救ってほしい』……」
「あんたらのせいで弟は」。
「小説なんて書かなければ」。
「絶対に許すもんか」――。
泣きながら殴り続ける彼に、内藤は、否定も抵抗も出来なかった。
ζ(゚、゚;ζ「なっ……そ、そんなこと内藤さんに言ったって……!」
(´・ω・`)「僕は当たり前の反応だと思ったよ。
本さえなければ、少年は事件を起こさず、平穏に暮らしていけた。
少年に殺された被害者もね」
- 694 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:38:38 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「……だっつうのに、君ときたら……。
何もかも受け入れて、まったく拒絶しない。
それどころか自分から首を突っ込んでくる始末」
ζ(゚、゚;ζ「ショボンさんだって、恐がらずに内藤さん達と関わってるじゃないですか」
(´・ω・`)「お金になるからね」
ζ(゚、゚;ζ(うわあ生々しい答えをあっさりと)
(´・ω・`)「――分かんないなあ、君は」
ζ(゚、゚;ζ「あうっ」
ぐしゃぐしゃ、頭を撫でられた。
存外優しい手つきで心地いい。
しばらくすると満足したのか、ショボンが改めて歩き出し、
デレも髪を手櫛で直しながら後に続いた。
- 695 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:40:13 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「魚だっけ」
ζ(゚、゚*ζ「……はい。あ、こっちです」
鮮魚売場。
魚を選ぶふりをして、デレは考え込む。
恐怖、は、まったく感じないわけでもない。
ただ、それを上回る何かがあるだけ。
「何か」の正体はすぐに判明する。
デレは、隣にいるショボンの顔を見上げた。
(´・ω・`)「うん?」
ζ(゚、゚*ζ「……好奇心とか、興味が、あって」
「何か」の正体なんて、そんなもの。
不可思議な現象や内藤達への興味。
恐怖に勝る好奇心。
前置きも説明もなしに、デレは答えのみを口にする。
それでもショボンはしっかりと理解したようだった。
- 696 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:42:12 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「ふうん、そう。好奇心。殺される猫タイプだね」
ζ(゚、゚;ζ「うっ……」
度が過ぎた好奇心は厄介でしかない。
興味の赴くままに出した手が、思いがけず深い事情に触れかける。
そうして、より一層興味が膨れ上がっていく。
たとえば、以前訊ねたツンの苗字のことだとか。
自分なんかが踏み込んでいい問題ではないと分かっていても、気になるものは気になる。
かといって、いざ真実を暴いてしまったら、
どこかに何かしらの不利益が生まれるかもしれない。
ζ(-、-;ζ(でも、好奇心抑えるのも難しい……)
――デレの葛藤が顔にも表れていたのだろうか。
ショボンは苦笑いしながら、言った。
(´・ω・`)「……知りたいものは、調べればいいよ」
ζ(゚、゚;ζ「えっ」
(´・ω・`)「あいつらのことだ、『知ろうとするな』『調べるな』とは言ってないんだろ。
実際、知られること自体には、さしたる抵抗感を持ってないみたいだし」
- 697 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:45:21 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「絶対に知られたくないなら、君に事実を匂わせるような発言をする筈がない。
そもそも本や作家のことを正直に話すわけがない。そうだろ?」
ζ(゚、゚;ζ「……でも……」
(´・ω・`)「知られても構わない、でも自ら積極的に話すつもりもない。
そういうスタンスなんだよ、あいつらは。
だから、知りたきゃ調べなさい。調べ方は自分で考えてね」
さらりと言い放ち、ショボンは魚へ目を落とした。
値段を指でなぞりながら、ああ、と呟く。
(´・ω・`)「ただし、全てを知っても――否定はするなよ」
ζ(゚、゚*ζ「……?」
- 698 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:48:20 ID:SF4WZnJQO
(´・ω・`)「拒絶はいい。けれど、彼らの生き方を否定するのだけは、僕が許さない」
ショボンがデレを見る。
彼の瞳に、デレは、言いようのない冷たさを感じた。
しかしそれも一瞬のこと。
ショボンは笑うように息を吐き出した。
(´・ω・`)「あと、誰彼構わず言い触らすのも駄目だ。
ブーンだって、本や図書館について説明する相手はちゃんと選んでるらしいから」
ζ(゚、゚*ζ「……私は選んでもらえたんですね」
(´・ω・`)「そうだね。馬鹿っぽくて何でも信じそうだったからじゃないかな」
ζ(゚、゚;ζ「そんな理由!?」
(´・ω・`)「信じそうにない人に説明したって意味ないでしょ。
ああ、事情を知った上で強請ってきそうな輩とかにも話さないようにしてたかな」
ζ(゚、゚;ζ「ゆすり……むむむ、そんな人もいるのか……」
(´・ω・`)(そんな輩の栄えある1人目が僕なわけだが)
- 699 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:52:54 ID:SF4WZnJQO
世の中には悪い人もいたもんだと心中で呟いたデレ。
はたと思い至り、口元を緩ませた。
(´・ω・`)「……何」
ζ(゚ー゚*ζ「ショボンさん、本当は内藤さん達が心配だったから
私にあんな話をしたんでしょう」
(´・ω・`)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫ですよ。私、内藤さん達に悪さなんかしませんし、
嫌いになんかなりませんからね」
(´-ω-`)「――言ってなさい」
ぷいとショボンが顔を逸らす。
どうやら図星だったらしい。
デレは、くすくす、声を抑えて笑った。
*****
- 700 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:55:01 ID:SF4WZnJQO
夜。流石家、リビング。
時計の針は9時半を示そうとしている。
l从-∀-ノ!リ人「ふわあ……」
(´<_` )「妹者、ソファじゃなくてちゃんと2階で寝ろよ」
l从-∀・ノ!リ人「はあい……おやすみなさいなのじゃー」
( ´_ゝ`)「おやすみー」
(´<_` )「おやすみ」
寛いでいる兄者と弟者に挨拶をして、
小学生の妹――流石妹者は寝室のある2階へ上がっていった。
妹者は両親と共に寝るのが常だ。
それから30分程が過ぎ、風呂から上がった姉がリビングに入ってきた。
シャンプーの香りが漂う。
姉、流石姉者は冷蔵庫から取り出した紙パックの牛乳に直接口をつけた。
- 701 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:55:34 ID:SF4WZnJQO
∬´_ゝ`)「あんたら、まだ起きてたの」
( ´_ゝ`)「まだ10時だぞ姉者。大学生が寝るには早い」
(´<_` )「俺はもう眠くなってきたんだが……」
(;´_ゝ`)「そう言わずに! 一緒に夜更かししようぜフッフゥー!!」
∬´_ゝ`)「無駄にテンション高いわねえ。あんたも眠いんでしょ」
(;´_ゝ`)「そそそそんなわけないだろう小学生じゃないんだから」
(´<_` )「嘘つくの下手すぎるぞ」
厳しい母親の躾により、流石家の子供達には
規則正しい生活習慣が染みついているのである。
いつもならば今は寝るための準備を始めている時間だ。
だが、寝たくない。
夢を見たくない。
(´<_` )「ああもう、俺は寝る」
(;´_ゝ`)「まあまあ待て待て。そうだゲームをしよう。夜更かしは楽しい――」
そのとき。
凄まじい殺気が、兄者の背中を這った。
- 702 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:56:06 ID:SF4WZnJQO
@@@
@#_、_@
( ノ`)「……夜更かし?」
(;´_ゝ`)「ぎゃぴぃいいいいい!!」
母親だ。
一介の主婦とは思えぬ、逞しい体躯を誇る流石母者。
ごきり、彼女の拳が鳴った。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「もうガキじゃないからね。何時に寝ようと構いやしないが……。
あんたは、夜更かしした分だけ寝坊するじゃないか」
(;´_ゝ`)「はい分かってますごめんなさい母者ごめんなさい」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「明日も大学があるだろ」
(;´_ゝ`)「あります1限目から講義入ってますごめんなさい」
- 703 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:56:50 ID:SF4WZnJQO
@@@
@#_、_@
( ノ`)
(;´_ゝ`)
@@@
@#_、_@
( ノ`)「――とっとと寝な」
(;´_ゝ`)「はい寝ます、すぐ寝ます!」
立ち上がる兄者。
弟者と姉者が、呆れたような顔を向けた。
∬´_ゝ`)「まったく。夢が恐いから寝たくないなんて、子供じゃないんだから」
(;´_ゝ`)「むぐ」
2人には、既に夢について話している。
あまり真剣に取り合ってはくれなかったが。
- 704 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:58:31 ID:SF4WZnJQO
@@@
@#_、_@
( ノ`)「夢?」
(´<_` )「毎日変な夢を見るんだと。自分じゃない人間になる夢。
別に化け物だとかが出るでもないのに怯えてるんだ」
(;´_ゝ`)「お前ら、他人事だから馬鹿に出来るんだ。
あんな暗い夢を毎日見るのは辛いぞ」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「ふうん」
馬鹿にされるかと思ったが、意外にも母者は心配してくれたらしかった。
兄者の頭を乱暴に撫でる。脳まで揺れるんじゃないかという勢いで。
- 705 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/29(金) 23:59:36 ID:SF4WZnJQO
(;´_ゝ`)「あぶあぶあばば、目眩すりゅっ!」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「睡眠で疲れるとは厄介だね」
∬´_ゝ`)「お酒飲んでから寝てみたら?」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「馬鹿、まだ未成年だよ」
(´<_` )「酒は来年までお預けだな」
兄者から手を離し、母者が踵を返す。
おやすみ、と告げて、リビングを出た。
∬´_ゝ`)「……今日だけは夜更かし見逃してくれるみたいね」
(´<_` )「どうする兄者、俺は寝るが」
( ´_ゝ`)「……ううむ」
- 706 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:00:00 ID:l4uuBHBIO
先程まで母者に撫でられていた頭に自分で触れる。
撫でられるなど何年ぶりだろう。
あの母者の手なら、悪夢ぐらい握り潰してくれそうだなと、兄者は笑った。
( ´_ゝ`)「そうだな、俺も寝るとする」
*****
- 707 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:01:23 ID:l4uuBHBIO
( "ゞ)
――関ヶ原デルタ。
兄者が夢の中でなりきる男の名前。
歳は31。サラリーマン。
あまり交流を好む方ではない。
会社に行き、ただひたすら仕事をこなして、業務が終われば家に帰り、寝る。
それだけの日常。
今日も上司に叱られた以外には、ろくに他人と会話も交わさずに一日を過ごした。
さて、家に帰らなければ。
( "ゞ)
電車に揺られる。
隣の酔っ払いから酒の臭いがした。
- 708 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:02:31 ID:l4uuBHBIO
(゚、゚#トソン
――帰宅すると、憤慨している妻に開口一番愚痴られた。
近所の主婦と喧嘩をしたとのことだった。
恋人だった頃は、物静かで、冷静な人だったのだが。
3年前に結婚してから、感情の起伏が激しくなった気がする。
昔は猫を被っていたのだろうか。
適当に宥めすかし、空腹を訴えてみた。
冷凍食品があるから温めろ、とぞんざいな返事。
デルタが抱いた不満を感じ取ったようで、
こっちだって疲れているのだと怒鳴られた。
言い返す勇気も気力もない。
曖昧に頷いて、デルタは冷蔵庫を開けた。
食事を済ませたら入浴。
寝間着を着て、ベッドに潜る。
いつ限界が来るのだろうと、ぼんやり思う。
妻との間に、愛情はとっくに消え失せている。
*****
- 709 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:04:19 ID:l4uuBHBIO
跳び起きた。
手を見て、頬に触れる。
ああ。良かった、自分は流石兄者だ。
(;´_ゝ`)「あー……」
またあの夢を見てしまった。
いい加減にしてほしい。
絞り出すような声で呻くと、頭上から、ぎしりとベッドが軋む音がした。
(´<_` )「ん、おはよう兄者」
(;´_ゝ`)「おはよう……」
二段ベッドの上段から弟者が下りてくる。
兄者の顔色が悪いのに気付き、弟者は眉根を寄せた。
(´<_` )「またか?」
(;´_ゝ`)「まただ……」
(´<_` )「ふむ。何が原因なんだろうな」
- 710 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:05:24 ID:l4uuBHBIO
顎に手をやり、弟者が「ううん」と唸る。
兄者には原因の見当がついている。
だが、正直に話すのは躊躇われた。
弟者も姉者も、非現実的な話を好まない。
本を拾ったせい、と言ったところで、鼻で笑われるのがオチだ。
適当に誤魔化すとする。
( ´_ゝ`)「原因が分かったら苦労はしないっつの」
(´<_` )「まあ、たしかにそうか」
弟者がカーテンを開く。
差し込む明るさに、兄者の胸が少し晴れた気がした。
- 711 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:06:15 ID:l4uuBHBIO
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ふうむ、夢かあ……」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「また見たのかい」
リビング。家族6人で食卓を囲む。
姉者が話題に出したのをきっかけに、結局、夢の内容は皆の知るところとなった。
焼き鮭をほぐしながら、父親である流石父者が問いかける。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「夢を見始めてからどれぐらい経つ?」
( ´_ゝ`)「3ヶ月くらいだと思うが」
l从・∀・ノ!リ人「3ヶ月間、毎日なのじゃ?」
( ´_ゝ`)「見始めた頃は特に意識してなかったから、あまりはっきりしないが……
多分毎日だな」
(´<_`;)「そんなに長かったのか? 聞いてないぞ」
∬´_ゝ`)「そりゃあ嫌にもなるわねえ」
- 712 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:07:31 ID:l4uuBHBIO
@@@
@#_、_@
( ノ`)「何かストレスが原因かね」
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者がストレスなんて感じる筈ないのじゃ」
(;´_ゝ`)「え? 妹者それどういう意味?」
(´<_` )「そのまんまの意味だろ」
∬´_ゝ`)「そういえば……夢の中じゃ、くたびれきったサラリーマンなんでしょ?
もしかして父者を毎日見てるせいじゃないかしら」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「ええっ!?」
(;´_ゝ`)「父親と長男の扱い悪いよこの家!!」
騒がしくなる食卓。笑いが起こる。
家族との触れ合いが兄者をほっとさせてくれた。
夢の中の食事は、あまりにも寂しかったから。
- 713 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:09:20 ID:l4uuBHBIO
( ´_ゝ`)「行ってきます」(´<_` )
@@@
@#_、_@
( ノ`)「はい、行ってらっしゃい」
登校のため、兄者と弟者は家を後にする。
並んでのんびり歩いていると、通りすがりのご近所さん達が声をかけてくれた。
その都度挨拶を返しながら大学へ向かう。
この、明るくて爽やかな時間が好きだ。
( ´_ゝ`)「寒いな、弟者」
(´<_` )「もう12月だしな」
関ヶ原デルタは重い足を機械的に動かして出勤する。
気になるものがあったら速度を緩めたり、
何の気無しに足を速めたりする兄者とは、まったく違う。
- 714 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:10:07 ID:l4uuBHBIO
( ´_ゝ`)(けど、俺も社会人になったら、あんな風に変わっちまうのかな)
――姉者は、夢の原因は父者ではないかと言った。
勿論冗談のつもりだっただろう。
だが、兄者は心の隅で納得していた。
自由や余裕のある、ゆったりした今を失うのは嫌だ。
それへの恐れが夢に現れていると思えば、いかにも「それっぽい」。
本など関係なかったのかもしれない。
考えている内に大学に着き、友人達と合流する。
あまり友人は多くないが、誰も彼も気のいい者ばかりだ。
くだらないふざけ合いが楽しい。
*****
- 715 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:11:48 ID:l4uuBHBIO
――退屈な講義をやり過ごし、昼食をとり、午後の講義も適当に流して。
夕方。
流石兄弟は大学を出て、暗くなった空を見上げた。
( ´_ゝ`)「冬ともなると、日が落ちるのが早いな」
(´<_` )「だなあ」
( ´_ゝ`)「……ううう、寒い。とっとと帰るぞ弟者」
早足になりながら、帰路につく。
大学と我が家はあまり遠くない。
――しばらく歩き、家の近く、ごみ捨て場の前に差し掛かったとき。
街灯に照らされたごみ捨て場を見た兄者は、足を止めた。
しゃがみ込み、そこに転がる目覚まし時計を拾い上げる。
またか、という顔をして、弟者が溜め息をついた。
- 716 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:12:37 ID:l4uuBHBIO
(*´_ゝ`)「おお……! 弟者、これまだ使えるぞ。動いてる動いてる」
(´<_` )「だからって拾うなよ。うちには充分な数の時計があるぞ」
(*´_ゝ`)「だが、こいつだってまだまだ働けるのに
こんなところで人生……時計生? を終えたくなかろうて」
(´<_` )「また無駄なもの拾って帰って、母者に怒られたいか?」
(;´_ゝ`)「あ、それは嫌です……」
(´<_` )「じゃあ時計置きなさい」
(;´_ゝ`)「はい……ああ勿体ない……」
兄者には、妙な癖があった。
道端に捨てられている――あるいは落ちている――物を拾う癖。
インクが残っているボールペンや壊れていない玩具などはともかく、
用途も使い方も不明なガラクタまで拾うものだから始末に負えない。
拾うだけ拾って、押し入れに放置された品々が大量にある。
- 717 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:15:00 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「ったく……」
(´<_` )「……。……ん、兄者」
( ´_ゝ`)「え、何? やっぱり拾っていい?」
(´<_` )「駄目だ。――オカルトじみた話で少々恥ずかしいんだが、聞いてくれ」
(;´_ゝ`)「やめろよ……暗いときに怖い話やめろよ……」
(´<_` )「例の夢を見始めた日の前後に、何か拾わなかったか?」
ぎくり。兄者の肩が小さく跳ねる。
弟者の言いたいことは、すぐに理解出来た。
何かいわくつきの物を拾ったのではないか、と。
( ´_ゝ`)「……本」
(´<_` )「本?」
( ´_ゝ`)「ある本を拾ったんだが……、その頃から、夢を見るようになった……筈」
(´<_` )「何と。もしかして原因はそれじゃないか?」
- 718 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:16:10 ID:l4uuBHBIO
拍子抜けした気分だ。
信じてもらえないだろうと黙っていたことを、弟者があっさり口にしたのだから。
(´<_` )「まあ、本が原因じゃない恐れもあるが……。
可能性があるなら、たしかめてみるのもいいだろう」
(*´_ゝ`)「ああ、たしかめよう!」
(´<_`;)「うおっ」
弟者の手を引き、兄者は走り出した。
すぐそこに見えていた我が家に飛び込み、階段を駆け上る。
廊下で妹者とすれ違った。
l从・∀・ノ!リ人「おかえりなさいなのじゃー」
(*´_ゝ`)「ただいま!」
(´<_`;)「お、おう、ただいま」
自室に入り、本棚の前にしゃがみ込む。
漫画に小説――何冊かは道端で拾ったもの――を、ひたすら引っ張り出した。
- 719 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:18:12 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「で、どれだ?」
(*´_ゝ`)
( ´_ゝ`)
すべての本を出し終えた兄者は、その手を止めた。
兄者の顔を弟者が覗き込む。
(´<_` )「兄者?」
( ´_ゝ`)「……どれが、いつ拾ったやつなのか区別がつかない……」
(´<_` )
( ´_ゝ`)「それどころか、拾った本と買った本の区別もつかん……」
(´<_` )「心の底からがっかりしたわ」
弟者の冷ややかな声は、案外心にきた。
- 720 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:23:27 ID:l4uuBHBIO
――全員が帰宅して、夕飯の時間を迎える。
今日はおでんだ。
分からないものは仕方がない、と、兄者は本に関して考えるのは諦めた。
皆に相談しても、物を拾う癖を叱られるだけだろうし。
何より、姉者の言う「父者原因説」が一番正解に近いのではないかと
先程、兄者と弟者の意見が一致した。
ともかく今は、目の前の鍋しか眼中にない。
(*´_ゝ`)「寒い日には温かい鍋だよな!」
l从・∀・*ノ!リ人「玉子食べたいのじゃ、玉子ー」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「はいはい、火傷するんじゃないよ」
(´<_`*)「あったまる……」
∬´_ゝ`)「昆布はこんなに黒々してるのに……」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「あ、頭見ながら言わないでよ!!」
- 721 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:25:30 ID:l4uuBHBIO
食事を済ませた後は、皆でテレビを観たり取り留めのない会話を交わして過ごした。
それから風呂に入り、歯を磨き、自室へ行き。
弟者と2人で明日の講義の確認をし終えると、
彼らは電気を消し、それぞれのベッドへと潜った。
(´<_` )「今日は普通の夢だといいな」
( ´_ゝ`)「だなあ。なるべく父者を視界に入れないようにしたし」
(´<_` )「その発言だけ聞くと父者可哀相で仕方ないな」
( ´_ゝ`)「んじゃ、おやすみ」
(´<_` )「ああ、おやすみ」
*****
- 722 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:26:10 ID:l4uuBHBIO
( "ゞ)
――何だ。また夢だ。
また、関ヶ原デルタだ。
出勤。
仕事。
残業。
帰宅。
食事。
入浴。
同じ。毎日毎日。同じ。
退屈、憂鬱、慢性化した絶望。
( "ゞ)
……早く寝てしまいたい。
*****
- 723 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:27:54 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「兄者」
( ∩_ゝ`)「うあ」
目を覚ます。右目に違和感。
――違和感の正体は、自分の右手だった。
何故だか目を覆っている。
指を動かすと、水に触れた。
水。涙。
袖で目元を擦り、身を起こす。
ベッドの脇で弟者が屈んでいた。
(´<_` )「うなされてたぞ」
( ´_ゝ`)「……」
手を見る。顔に触る。
流石兄者だ。だけれど。
「関ヶ原デルタ」の名残が、全身を包んでいる。
起床してから1分。未だ取り戻せない、自分。
焦燥と疑問が襲い来る。
- 724 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:28:53 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「兄者ー、寝ぼけてんのかー」
( ´_ゝ`)「弟者」
(´<_` )「何だ?」
( ´_ゝ`)「……俺、本当に流石兄者なのか?」
(´<_`;)「は?」
――あんな絶望感が、ただの夢?
あんな沈みゆく気持ちが、夢だというのか。
ひどくリアルな感覚なのだ。
どこかふわふわして、けれども体と頭はずしりと重い。
(;´_ゝ`)「違うのか? 兄者だよな? なあ!?」
弟者はぽかんとしていたが、問いかける兄者の声と表情があまりにも必死で。
言葉で返すより先に、頷いた。
- 725 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:30:37 ID:l4uuBHBIO
(;´_ゝ`)「……そうだよな……」
(´<_` )「あんたは、流石兄者だよ。
流石家の長男で、大学生で、俺の兄だ」
弟者の言葉を聞きながら、息を吐き出す。
胸中で渦巻いていた不安が、ゆっくりと抜けていった。
- 726 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:30:55 ID:l4uuBHBIO
l从・∀・ノ!リ人「行ってきまーす、なのじゃ!」
朝食を食べ終え、父者と姉者が出勤する。
続いてランドセルを背負った妹者が兄者達に手を振った。
兄者と弟者は、今日は午後からの講義しか入っていない。
( ´_ゝ`)「おう、行ってらっしゃい」
(´<_` )「行ってらっしゃい妹者」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「気を付けるんだよ」
l从・∀・ノ!リ人「はーい!」
*****
- 727 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:31:50 ID:l4uuBHBIO
――VIP図書館。
内藤は食堂で1人、腕を組んで俯いていた。
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「ブーン」
( ^ω^)「ああ、ツン」
そこへ、食堂の扉を開けてツンが現れた。
内藤を探していたのか、見付けた、と呟く。
ξ゚听)ξ「何か飲む?」
( ^ω^)「今は遠慮しとくお」
ξ゚听)ξ「そう。……何か考え事?」
( ^ω^)「明日、例の『主人公』のところに行こうかなと」
ξ゚听)ξ「でぃの本の」
( ^ω^)「だお。ただ、どうやって話しかけたもんかお……」
- 728 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:32:28 ID:l4uuBHBIO
ξ゚听)ξ「そもそも、その人の顔とか分かってるのかしら」
( ^ω^)「ああ、それはショボンが描いた似顔絵があったから平気」
ξ゚听)ξ「ショボンの。じゃあ大丈夫ね」
内藤がメモ用紙の一枚をツンに渡した。
写真のように――は言い過ぎとしても、
やたら写実的な似顔絵が用紙の中央に描かれている。
( ^ω^)「んんん。いきなり『変な夢見てませんか』と訊くのは駄目だおね。
怪しまれて逃げられるかも……」
ξ゚听)ξ「……」
ξ゚听)ξ「じゃあ、こんなのはどう?」
*****
- 729 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:33:46 ID:l4uuBHBIO
翌日。昼。高校の図書室。
デレは、弁当の包みを開いた。
ζ(゚ー゚*ζ「いただきまーす」
彼女の他には誰もいない。
司書のアサピーは、奥の司書室で仕事をしている。
まずは玉子焼きに狙いを定めた――と、同時。
o川*゚ー゚)o「ここにいた!」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、キュートちゃん」
素直キュートが、図書室の入口から飛び込んできた。
弁当箱とペットボトルを手にして、デレのもとに駆け寄る。
向かいに座っていいかと訊かれたので、頷いて返した。
- 730 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:36:06 ID:l4uuBHBIO
o川*゚ー゚)o「一緒に食べていい?」
ζ(゚ー゚*ζ「勿論」
わざわざ図書室に来てまでデレと昼食を共にするとは珍しい。
キュートなら一緒に過ごす友人がいくらでもいるだろうに。
いただきます、と呟くキュートを前に、デレは首を傾げた。
ζ(゚ー゚*ζ「どうかしたの?」
o川*゚ー゚)o「ん?」
ζ(゚ー゚*ζ「いや、何か私に話があるのかなって」
o川*゚ー゚)o「……」
フォークを持つキュートの手が、止まった。
- 731 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:36:45 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚ー゚*ζ「?」
o川*゚−゚)o「……ねえ」
ζ(゚ー゚*ζ「なあに?」
o川*゚−゚)o「あの……図書館にさ、住んでるんでしょ?
な、内藤さん……とか」
ζ(゚ー゚*ζ「うん」
o川*゚−゚)o「……あの人達って、何なの?」
ζ(゚、゚;ζ「何なの、と言われても……あまりにも漠然とされると、どうにも」
o川;゚−゚)o「あ、ええと、んっと……」
o川;゚−゚)o「な、何でもない……」
何でもないことはないだろう。
別の話題を探し始めたキュートに、今度はデレの方から訊ねてみた。
明朗なキュートがこんな風に口ごもる理由など、「あれ」ぐらいしか思いつかない。
- 732 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:38:02 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚、゚*ζ「クックルさんと何かあった?」
o川;*゚д゚)o「うえっ!?」
キュートのフォークが勢いよくトマトに突き刺さった。
貫通するほどの力だったようで、かつん、と音が鳴る。
o川;*゚ー゚)o「え? な、何? 何で? 何でそこでその人が出てくるわけ?
や、そりゃ……関係ないわけでもないけど……ないけど……」
o川;*゚ー゚)o「ないけども!
だからって私があの人のこと気にしてるみたいに思わないでよ!?」
ζ(゚、゚;ζ「キュートちゃんトマト! トマトグロい!!」
必死に言い訳しながら、照れ隠しなのか何なのか、
キュートは何度もフォークを上下に振った。
めった刺しにされたトマトはもはや原型を留めていない。地獄絵図だ。
- 733 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:39:48 ID:l4uuBHBIO
o川;*゚ー゚)o「ただ、た、たとえ両想いだとしても私が泣くだけだ、って
あの髪の長い……貞子さんだっけ、あの人が言うから、
どういう意味なのかなって……」
ζ(゚、゚;ζ「――え?」
o川;*゚ー゚)o「ていうか両想いとか! 何言ってんだろうね!
私がクックルさんを好きになる筈……な、ないしね……? 本当に……。
あの人だって私なんかに興味ないっぽいしさ……うん……」
ようやくキュートの手と口が止まる。
何故かキュートが涙目になっているのは無視しておくとして、
デレは弁当に視線を落とし、先程の発言を反芻した。
キュートとクックルが両想いだとしても、キュートが泣くだけ。
何故、泣く羽目になるのか。
- 734 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:40:55 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚、゚*ζ「……」
恋愛禁止だとは聞いていない。そんなものを設ける意味もない。
いや、もしかしたらデレには分からぬような理由があるのかもしれないが、
だとするならば事前に釘を刺されそうなものだ。
――考えるための材料が足りない。
今の段階でどれだけ思案しても、「これだ」という答えは出ないだろう。
調べなければ。
ショボンの言うように。
と、いっても。
ζ(゚、゚;ζ(……どうしたらいいんだろう)
根本的なところから解決しないことには始まらない。
デレは、深々と溜め息をついた。
*****
- 735 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:41:29 ID:LfJolKhA0
- 段々核心に近づいていく……!
- 736 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:42:31 ID:l4uuBHBIO
昼休みになった。
食堂に行こうかと思ったが、ここの食堂で出される料理はあまり美味くない。
駅前の定食屋に決めた。
雑踏の中を進む。
目的の店が見えてきた。
財布の確認をする――
「――流石兄者さん?」
呼び止める声が耳に入り、立ち止まった。
何だ。
所詮、夢は夢か。
こういうところで詰めが甘い。
- 737 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:43:39 ID:l4uuBHBIO
( "ゞ)「……はい?」
まったく、今は「関ヶ原デルタ」だというのに。
目の前に、スーツ姿の男と綺麗な少女がいた。
微かに、バニラに似た匂いがする。
スーツの男が満足そうな笑みを浮かべた。
( ^ω^)「ちょっとお話が」
*****
- 738 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:45:44 ID:l4uuBHBIO
――3ヶ月前。
調査対象の近所へと聞き込みに来たショボンは、
道を歩くサラリーマンらしき男に声をかけた。
平日の真昼である。
セールスか何かのために来たのかと思ったが、この辺りに住んでいるのだと言う。
体調が悪く、会社を早引けしたそうだ。
(´・ω・`)『はあ、それはそれは』
( "ゞ)『最近、寝ても疲れがとれなくて』
(´・ω・`)『あまり眠れない?』
( "ゞ)『いえ……毎日毎日、妙な夢を見るんです。
流石兄者、という人間になって、いたって普通の生活を送る夢なんですが』
- 739 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:46:50 ID:l4uuBHBIO
( "ゞ)『とても感覚がリアルで……しかも楽しい夢なもんですから、
目が覚める度、こっちの現実が嫌になって仕方ありません』
(´・ω・`)『さすがあにじゃ。ふむ。原因に心当たりは?』
( "ゞ)『……信じてもらえないと思います。あまりに馬鹿馬鹿しくて』
(´・ω・`)『信じますよ。友人のせいで、非現実的なことには慣れた身です』
サラリーマンは渋ったが、ショボンが「気になるんです」とせがむと、
恐々といった様子で話し始めた。
( "ゞ)『本を、拾ったんです。道端で。綺麗な表紙だったから気になって。
で、その本……手書きの小説だったんですが、主人公の名前が、その、』
(´・ω・`)『さすがあにじゃ?』
( "ゞ)『……はい。
しかも僕が見る夢の所々で、その本と同じ展開になるんです。
夢自体は明るいものですが、もう気味が悪くて悪くて……』
その上、本を捨てても、気が付けば手元に戻ってきているのだから堪らない。
日を追って、夢の感覚は現実に近付いてくる。
また、「流石兄者」の生活の方が充実しているためか、今の現実が希薄に思えてしまう。
いつか夢と現実が逆転するのではないかと不安だ、と。
そこまで語ったサラリーマンは、はっとして首を振った。
- 740 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:47:43 ID:l4uuBHBIO
(;"ゞ)『あ、あの、すみません、こんな話……。
誰も信じないだろうと、ずっと黙ってたものですから――』
(´・ω・`)『……その本について、詳しく教えてくれませんか?』
(;"ゞ)『え?』
(´・ω・`)『作者やタイトル、あらすじなんかも、よろしければ。
出来ればあなたの名前も』
(;"ゞ)『……どうして』
(´・ω・`)『――友人の、探し物に似ているんです』
*****
- 741 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:49:21 ID:l4uuBHBIO
関ヶ原デルタ――と、ショボン――以外に知る筈のない「流石兄者」の名前を出せば、
向こうも関心を持って話を聞いてくれるのではないか。
昨夜ツンが提案したのは、そんな方法だった。
その通りに声をかけてみると、作戦は見事成功を収める。
とりあえず名刺を渡して自己紹介をし、
近くにあったファミリーレストランで話をすることにした。
( ^ω^)「どうぞ、お好きなものを頼んでくださいお。
支払いはこちらで負担しますから」
( "ゞ)「……はあ」
デルタはカレーライスを注文した。
内藤はハンバーグ、ツンは海老ピラフ。
料理が運ばれてきてからしばらくは、本のことは話さず、
世間話などをして食事を進めた。
デルタの緊張や警戒を解くためである。
頃合いを見計らい、内藤はハンバーグを切りながら本題へと移った。
- 742 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:51:56 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「ええと、流石兄者さん、もとい関ヶ原デルタさん」
( "ゞ)「はい」
( ^ω^)「僕は名刺に書かれた通りの人間ですお」
( "ゞ)「館長さん、ね」
内藤とツンは、互いに目配せした。
「何故名前を知っているのか」「図書館の館長が何の用で来たのか」。
通常なら、こういった疑問をぶつけられて然るべきところだ。
しかしデルタからは、それが一向にない。
理由は大体想像がつく。
今まで出会ってきた、でぃの本に引っ掛かった「主人公」達に度々見られた反応。
――現実の方を、夢だと錯覚しているのだ。
長期間にわたって夢と現実を行き来する内、
古い記憶が混ざり合い、どちらが夢か、どちらが現実かの区別が曖昧になる。
そうして、いつの間にやら認識が逆転する。
故に、納得出来ないことや変なことが起きても「夢だから」で済ませてしまう。
今のデルタもきっとそうなのだろう。
あるいは単に、内藤達へ強い関心を抱いていないだけ。
出来れば後者なら面倒が少なくていいのだが。
- 743 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:53:37 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「率直に訊きますお。
――この世界は、現実ですかお? それとも夢?」
( "ゞ)「夢だろ」
即答。
厄介な方だった。ツンが溜め息をつく。
内藤は「あーあ」という顔をして、水を一口飲んだ。
もう一つ質問をしなければいけない。
とっくに解放されているのに未だ夢だと錯覚しているのか、まだ演じさせられているのか、
もしもそうならばあとどれくらいで終わるのか。
これらを判断するための質問。
( ^ω^)「じゃあ、関ヶ原さん……兄者さん」
( "ゞ)「ん」
( ^ω^)「『流石兄者のとき』に、おでんは食べましたかお?」
( "ゞ)「おでん?」
( ^ω^)「おでん」
( "ゞ)「食べたけど」
- 744 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:55:31 ID:l4uuBHBIO
ξ゚听)ξ「……いつ食べました?」
( "ゞ)「んー、昨日かな」
ξ゚听)ξ「『関ヶ原デルタ』で過ごした一日もカウントして」
( "ゞ)「へ?」
( ^ω^)「正確に知りたいので、夢と現実、それぞれを一日として数えてくださいお。
つまり昨日のあなたは流石兄者、
一昨日のあなたは関ヶ原デルタ……となるように」
( "ゞ)「面倒だな……じゃあ3日前ってことになるか」
( ^ω^)「ほう、3日前」
ならば、おでんを食べた夢は、一昨日の夜に見たわけだ。
でぃとニュッから聞いた物語の詳細を思い返し、内藤はガッツポーズをとった。
――何と運がいい。
- 745 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:55:38 ID:LfJolKhA0
- 成り切ってしまったんだな……
- 746 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:57:11 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「関ヶ原さん!」
(;"ゞ)「うわっ」
突然大声を出した内藤に、デルタは思わずのけ反った。
ツンは一瞬だけ眉を寄せ、内藤の足を軽く踏む。
( ^ω^)「今から僕が言うことを、『夢だから』って聞き流さないでくださいお。
信じる信じないは自由だけど、覚悟だけはしてほしいんですお」
(;"ゞ)「は、はあ……?」
物語は、おでんを食べた日から2日後を記して終わった。
――つまり今夜。
流石兄者の夢は、終わる。
*****
- 747 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 00:58:31 ID:l4uuBHBIO
そんな筈がない。
そんな筈がない。
嫌な――夢だ。
- 748 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:00:11 ID:l4uuBHBIO
(;"ゞ)「た、ただいま」
妻へ帰宅の挨拶をする。
(゚、゚トソン
彼女はテレビを眺めるばかり。
食欲が沸かない。
昼に食べたカレーライスが、そのまま残り続けているようにさえ思える。
体のあちこちが重い。
部屋から着替えとタオルを引っ張り出し、風呂場へ。
服を脱ぎ捨てて浴室に入る。
シャワーのコックを捻ると、高温のお湯が降り注いだ。
(;"ゞ)(……熱い)
体に当たった瞬間、ぴりりと痛みが走る。
痛い。熱い。
何て生々しい感覚。
(;"ゞ)「……っ」
- 749 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:01:31 ID:l4uuBHBIO
――関ヶ原さん。
――まず、一番大事なことから話しますお。
内藤の言葉。
昼から今に至るまで、ずっと脳内を駆け巡っている。
――流石兄者の世界は夢なんですお。こっちの世界こそが現実――
(;"ゞ)(……はは、何言ってんだか。これは夢だ。夢。夢)
頭を洗っても、体を洗っても、気が紛れない。
冴えきっていく思考。
気持ちが悪い。
風呂を出て、まともに体を拭かないまま服を着た。
リビングの妻に「おやすみ」と告げ、寝室へ駆け込む。
- 750 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:02:33 ID:l4uuBHBIO
(;"ゞ)(本……)
内藤は、本がどうのこうのと言っていた、ような。
寝室の奥、本棚の前にしゃがみ込み、何冊かの本を取り出した。
(;"ゞ)(本を拾ったのは流石兄者。関ヶ原デルタは物を拾う癖なんてない。
だから本なんてあるわけ――)
こつん。
ハードカバーに爪が当たる。
- 751 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:03:42 ID:l4uuBHBIO
(;"ゞ)
藤色の表紙。
小さな字で書かれたタイトル。
著者名、椎出でぃ。
震える指で、ページをめくる。
手書きの小説。
主人公の名前。
流石兄者。
(;"ゞ)「――夢だ!!」
叫び、本を壁に叩きつけた。
ベッドに潜る。
毛布を頭まで引っ被る。
本を拾ったのは流石兄者。
これは夢。
ここに本があるわけがない。
これは夢。
けれど、もしも内藤の言葉が真実なら?
- 752 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:04:07 ID:l4uuBHBIO
(;"ゞ)(『流石兄者』の方が、夢だったのなら……)
ああ。
体中が重い。
胸が潰れる。
息苦しい。
ぎゅっと瞼を閉じた。
布団の中、自分の呼吸の音だけが満ちていく。
*****
- 753 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:04:38 ID:mfVJdBW60
- これはキツい
- 754 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:05:19 ID:l4uuBHBIO
――明るい。
見馴れた木目。二段ベッド、下段の天井。
(;´_ゝ`)「……」
横たわったまま、顔に触れる。
流石兄者だ。
何だか無性に怠い。
頭がぼうっとする。
部屋のドアが開いた。
(´<_` )「兄者起きろー……って起きてたか」
(;´_ゝ`)「お、弟者」
(´<_` )「朝飯だぞ、早く来い」
弟者に引っ張られ、ベッドから転げ落ちた。
毛布がクッションになり痛みは感じなかったが、
どうしてか動く気になれなくて、身を起こすことが出来なかった。
- 755 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:09:38 ID:l4uuBHBIO
喉が痛む。
風邪?
(´<_` )「……兄者?」
(;´_ゝ`)「朝飯、いらないから……みんなで食べててくれ……」
弟者が訝しげな顔をする。
屈み込み、兄者の額に掌を当てた。
少し熱いな、と呟く。
(´<_` )「大丈夫か?」
(;´_ゝ`)「……多分、大丈夫……」
階下から2人を呼ぶ姉者の声が響いた。
逡巡する弟者に兄者が「早く行け」と手を振ると、
弟者は頷き、部屋を出ていった。
- 756 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:10:10 ID:l4uuBHBIO
ドアが閉まると同時に、兄者は四つん這いになって本棚まで移動した。
体は辛いが、たしかめずにはいられない。
手当たり次第に本を手に取り、凝視する。
(;´_ゝ`)「……ない……」
やはり、例の、藤色の本は見付からない。
(;´_ゝ`)「何でだよ……何でないんだよ!」
すべて確認してみたが、結局、あの本は出てこなかった。
頭を抱え、蹲る。
- 757 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:11:35 ID:l4uuBHBIO
3ヶ月前に本を拾った筈なのだ。
拾って、読んで、本棚にしまった。
読んだ。そう、読んだ。
じゃあ、中身はどうだった?
(; _ゝ )(……あらすじが、思い出せない……)
あらすじ。あらすじ。
――作者やタイトル、あらすじなんかも、よろしければ――
.
- 758 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:12:55 ID:l4uuBHBIO
(; _ゝ )
脳裏に過ぎった声。
ああ。3ヶ月前に会った男の声だ。
八の字眉の、人のよさそうな男。
家の近くで、たまたま会った。
平日の昼。
あのとき、体調が優れなくて、早退――
(; _ゝ )(あ)
――早退?
(;´_ゝ`)(あ、あ……)
兄者は早退なんてしていない。
そもそも、しようがない。
3ヶ月前。9月の頭。
まだ、大学は夏休みの最中だった。
- 759 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:13:53 ID:l4uuBHBIO
早退したのは関ヶ原デルタ。
八の字眉の男と話したのも関ヶ原デルタ。
話の内容は、ああ。
( "ゞ)『最近、寝ても疲れがとれなくて』
(´・ω・`)『あまり眠れない?』
( "ゞ)『いえ……』
毎日毎日、妙な夢を見るんです――
.
- 760 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:14:24 ID:l4uuBHBIO
(;´_ゝ`)「ここ、は……」
この世界は。
夢だ。
.
- 761 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:16:04 ID:l4uuBHBIO
――しばらく経って。
姉者と妹者が、玉子粥を持ってやって来た。
∬´_ゝ`)「具合悪いんですって? そんなとこ座ってないで、ベッドで寝なさいよ」
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者、おかゆ食べるのじゃー」
姉者は本棚の前で呆然としていた兄者を振り向かせ、毛布を被せた。
妹者と並んで座り、粥を差し出す。
( ´_ゝ`)「……」
手をつけない兄者に焦れたか、妹者はレンゲで粥を掬うと、兄者の口元へ運んだ。
l从・∀・ノ!リ人「はい!」
∬´_ゝ`)「妹者、冷まさなきゃ熱いわよ」
l从・∀・ノ!リ人「のじゃっ。ふー、ふー……おっきい兄者、あーん!」
( ´_ゝ`)「……あーん」
l从・∀・*ノ!リ人「美味しいのじゃ? 母者、急いで作ったのじゃ」
( ´_ゝ`)「うん。……美味いよ」
- 762 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:17:16 ID:l4uuBHBIO
玉子粥を最後に食べたのは、半年前に風邪を引いたときだった。
――半年前。
本を拾ったのは3ヶ月前。
なら、半年前に粥を食べた記憶は、用意された「設定」でしかないのだろう。
∬´_ゝ`)「……本当に元気ないわね」
l从・∀・ノ!リ人「おかゆ食べて、ゆっくり寝るといいのじゃー」
姉者が兄者の頭を撫で、妹者が粥を食べさせる。
粥を飲み込んだところでノックの音がした。
ドアは返事を待たずにゆっくりと開く。
不安そうな表情を浮かべた父者が目に入った。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「兄者、どう?」
l从・∀・ノ!リ人「おかゆは食べてるのじゃ!」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「そっか。辛かったら、早く病院で診てもらいなさい。
仕事行ってくるけど、何かあったら電話して」
∬´_ゝ`)「あら、私も行かなきゃ。兄者、無理したら駄目よ」
再び頭を撫でて、姉者は立ち上がった。
行ってきますという言葉を残し、退室する。
- 763 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:19:03 ID:l4uuBHBIO
兄者と妹者の2人きり。
妹者が粥を掬い、兄者が食べる。
それを何度か繰り返し、粥がすっかり無くなった辺りで、
今度は弟者が部屋に入ってきた。
(´<_` )「妹者ー」
l从・∀・ノ!リ人「何じゃ?」
(´<_` )「遅刻するぞ」
l从・∀・;ノ!リ人「ぬわっ、時間なのじゃ!
ちっちゃい兄者、後はよろしくなのじゃ」
空になった器を抱え、妹者は飛び出した。
かと思えば、ひょいと顔を覗かせる。
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者、早く良くなってほしいのじゃ」
( ´_ゝ`)「……うん。すぐ治るさ」
l从・∀・ノ!リ人「うむうむ。
では、行ってくるのじゃ!」
( ´_ゝ`)「行ってらっしゃい」
(´<_` )「気を付けろよー」
- 764 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:20:36 ID:l4uuBHBIO
ドアが閉まる。
弟者は、座り込んでいる兄者を睨み、左手でベッドを指差した。
「さっさと寝ろ」という意味だろう。
浅く頷き、兄者はベッドに横たわる。
( ´_ゝ`)「……弟者、大学は?」
(´<_` )「2限からだから、まだ時間はある」
( ´_ゝ`)「ああ、そうだったな……」
ベッドの隣で胡座をかいた弟者は、散乱する本の数々に顔を顰めた。
散らかすな、と小声で叱る。
( ´_ゝ`)「すまん」
(´<_` )「拾ったとかいう本でも探したか?」
( ´_ゝ`)「……元から、なかったんだけどな」
(´<_` )「?」
首を傾げる弟者に、気にするなと言い捨てる。
寝返りをうち、じっと壁を見つめた。
- 765 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:21:41 ID:l4uuBHBIO
すっかり取り戻した「本」に関する記憶。
物語は、風邪を引いた流石兄者が
家族の優しさや愛情に感謝したところで終わっていた。
最初から最後まで、明るくて暖かい、幸せな家族の話。
関ヶ原デルタは、それが羨ましかった。
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「兄者、病院行くか?」
( ´_ゝ`)「……行くほどじゃあない」
(´<_` )「んー……様子見て、きつくなるようなら病院だな」
( ´_ゝ`)「ああ」
- 766 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:23:11 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「そうそう、母者が心配してたぞ。多分、今来ると……」
とん、とん。
ノックの音と「入るよ」という声がして、ドアが開いた。
(´<_` )「ああ、来た来た」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「大丈夫かい、兄者。熱測りな」
( ´_ゝ`)「ん」
薬箱を持った母者が弟者の隣に座る。
手渡された体温計を脇に挟み、兄者は仰向けになった。
腹の上で両手を組む。
数分後、甲高く鳴り響く体温計を抜き取った。
37.3度。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「微熱だね」
(´<_` )「風邪か?」
多分風邪だ、と、母者は薬箱から風邪薬を取り出した。
そのとき、水を忘れていたことに気付く。
- 767 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:25:12 ID:l4uuBHBIO
@@@
@#_、_@
( ノ`)「水持ってくるよ。――弟者、その散らかってる本、片付けな」
(´<_`;)「俺が? やったのは兄者だぞ」
@@@
@#_、_@
( ノ`)
(´<_`;)「あ、ごめんなさいやります、はい……睨まないで……」
母者が階下のキッチンへ向かい、弟者が本の片付けを始めた。
本棚に漫画を押し込む弟者に、「悪い」と呟く。
兄者に背中を向けたまま、弟者は首を横に振った。
(´<_` )「後でアイス奢れよ」
( ´_ゝ`)「この寒いのにか」
(´<_` )「寒いからこそ美味いんじゃないか」
( ´_ゝ`)「……まあ同感だ」
弟者が、作者や出版社ごとに本を整頓している。
几帳面だなと、思わず微笑んだ。
- 768 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:25:28 ID:.5Qi.PKwO
- 切なすぎるんだが
- 769 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:26:40 ID:l4uuBHBIO
(´<_` )「……しっかし、まあ……本当に元気ないな兄者」
( ´_ゝ`)「姉者にも言われた」
(´<_` )「いつもなら、この流れになったら
どこそこのアイスが美味いだの何だのと騒ぎ出すだろう。
それが出来ないほど具合が悪いのか?」
( ´_ゝ`)「ああ……うん」
(´<_` )「辛いなら、ちゃんと言ってくれよ」
母者が階段を上がってくる足音が聞こえる。
枕元に置かれた風邪薬のパッケージを、何気なく持ち上げた。
- 770 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:27:37 ID:l4uuBHBIO
( ´_ゝ`)「辛くはないぞ」
ちくり、と。
鼻の奥が、目元が、痛んだ。
( ´_ゝ`)「幸せだ」
目尻からこめかみへ、雫が流れる。
関ヶ原デルタが体調を崩したとき、妻は何をしてくれたっけ。
体も心も苦しかった記憶しかない。
なのに今は。
体は苦しくても、心は満たされている。
どうしてこんなに幸せな世界が、夢なのだろう。
- 771 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:28:21 ID:l4uuBHBIO
――母者が持ってきてくれた水で薬を飲むと、急に眠気が襲ってきた。
抗う間もなく瞼を閉じる。
母者の冷たい手が額に当たる感触を最後に、兄者の意識は沈んでいった。
*****
- 772 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:29:06 ID:l4uuBHBIO
「――あなた。起きてください」
妻の声。
デルタは、目を開いた。
(゚、゚トソン「遅刻しますよ」
( "ゞ)「……あ……」
デルタが起きたのを確認すると、妻は立ち上がり、寝室のドアに手をかけた。
一度、後ろを向く。
(゚、゚トソン「玄関で待ってる方がいらっしゃいますから、早くお行きなさいね」
- 773 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:30:17 ID:l4uuBHBIO
顔を洗い、歯を磨く。
スーツに着替えたデルタが鞄を抱えて玄関へ行くと、
内藤とツンが立っていた。
( ^ω^)「おはようございますお」
ξ゚听)ξ「おはようございます。朝からごめんなさい」
(;"ゞ)「……何で、うちを知ってるんだ」
( ^ω^)「ちょっとばかし、知り合いに調べてもらったんですお。
――ところで少し伺いたいことがあるんですが、いいですかお?」
*****
- 774 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:31:20 ID:l4uuBHBIO
3人でマンションを出る。
入口の近くに車が停めてあった。
内藤が助手席のドアを開ける。
( ^ω^)「会社までお送りしますお。話は車内で」
今や、内藤を疑う気にはなれなかった。
促されるまま、警戒心も抱かず、おとなしく車に乗り込む。
後部座席に女性がいた。
紙パックに入ったココアを飲んでいる。
( ^ω^)「この人が椎出でぃ。あの本の作者ですお」
(#゚;;-゚)) ペコリ
会釈されたので同じように返しておいた。
彼女の隣にツン、運転席に内藤が腰を下ろす。
- 775 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:33:03 ID:l4uuBHBIO
エンジンをかける前に、内藤は藤色の本をでぃに手渡した。
(;"ゞ)「――いつの間に」
( ^ω^)「奥様に持ってきてもらったんですお」
車が動き出す。
程なくして、「風邪は引きましたかお」と内藤が訊ねた。
言葉は足りなかったが、デルタが質問の意味を理解するには充分だった。
彼が知りたいのは、夢の中で風邪を引いたかどうか。
――物語は終わったかどうか。
( "ゞ)「……引いた」
( ^ω^)「薬は?」
( "ゞ)「飲んだ。飲んで、寝た……」
( ^ω^)「で、さっき起きたと。じゃあ終わりましたおね」
- 776 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:34:34 ID:l4uuBHBIO
デルタが頷く。
内藤は、おや、と呟いた。
( ^ω^)「僕らの話、信じていただけたようで」
( "ゞ)「信じたくはなかったよ」
( ^ω^)「……その反応ですと、夢の方が良かったんですかお」
( "ゞ)「……こっちの世界は、嫌いだ」
物語は終わった。
本は今、椎出でぃの手にある。
きっと、デルタが流石兄者になることは二度とない。
( "ゞ)
絶望に身を委ねながら、ずっと、この現実で過ごしていかなければならないのだ。
- 777 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:35:36 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「まあまあ、そう言わず。
関ヶ原さんにはあんなに綺麗な奥様がいるじゃないですかお」
( "ゞ)「……」
( ^ω^)「作り物の家族より、本物の家族を大切にしてあげてくださいお」
本物?
あの、冷淡で、つまらない妻が?
嫌だ。
嫌だ嫌だ。
- 778 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:38:25 ID:l4uuBHBIO
( "ゞ)「……返してください」
( ^ω^)「お?」
( "ゞ)「本――返してください」
ξ゚听)ξ「そういうわけには、」
(#"ゞ)「返せ!!」
(;゚;;-゚)「!」
ツンが言い終えるより先にデルタは体ごと振り返り、でぃへ手を伸ばした。
驚いたでぃが、狭い車中で精一杯距離をとる。
彼女の足元に空の紙パックが落ちた。
デルタの腕を、ツンが両手で掴む。
ξ゚听)ξ「この本はあなたのものではありませんよ」
(;"ゞ)「俺の本だ!!」
(;゚;;-゚)「……」
(;"ゞ)「流石兄者なんだよ、俺は、だ、だって弟者が言った、俺は流石兄者だって――」
- 779 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:41:10 ID:l4uuBHBIO
ξ゚听)ξ「あなたは関ヶ原デルタでしょう?」
(;"ゞ)「違う、流石兄者、だから、……弟者や妹者達がいなきゃ……」
路肩に停車し、内藤は運転席を降りた。
助手席側へ回ってドアを開け、デルタを引きずり下ろす。
尻餅をつく形で倒れた彼は、痛みに顔を歪めた。
(;"ゞ)「っつ……!」
( ^ω^)「話は、もう終わりましたお」
(;"ゞ)「なあ、本、本、返してくれよ……!」
( ^ω^)「関ヶ原さん。どんなに辛くても、夢に縋らず、現実に生きてくださいお。
僕はその方が正しいと思うんですお」
(;"ゞ)「返せ! 俺の……俺の家族を返せよ!!」
もはや、諌める言葉は耳に入らなかった。
ただひたすらに返せ返せと喚き散らす。
通りすがる人々の目を気にしてなどいられない。
- 780 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:41:26 ID:.k.YOjfc0
- 嗚呼……
- 781 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:42:37 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「……さようなら、関ヶ原さん」
投げるようにデルタへ鞄を渡して、内藤は運転席に戻った。
すぐさま車が走り出す。
遠ざかる。
離れていく。
本が――流石家が。家族が。幸せが。
いなくなる。
(;"ゞ)「……返せよ……返して……」
車が見えなくなっても。
デルタは座り込んだまま、ぶつぶつと呟き続けていた。
*****
- 782 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:42:45 ID:8GIJaCw2O
- なにこれ辛い
- 783 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:43:57 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「――だいぶ依存してたみたいだお。あの人」
ξ゚听)ξ「でぃが書いたにしては、珍しく明るい話だったからね。
夢の中の方が幸せだったのかも」
( ^ω^)「やる瀬ないというか何というか……。……はい、ただいまっと」
図書館の前で車を停める。
ツンは、寝息を立てているでぃの肩を揺らした。
でぃときたら、車に乗れば必ずと言っていいほど居眠りしてしまうのだ。
ξ゚听)ξ「でぃ」
( ^ω^)「でぃー」
(#ぅ;;-゚)「……」
5、6回揺らしたところでようやく目を覚ます。
目元を擦り――でぃは、首を傾げて固まった。
たっぷり10秒後、ぱたぱた、辺りを手で叩き始める。
- 784 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:45:11 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「どうしたお?」
(#゚;;-゚)ノシ
ξ゚听)ξ「?」
ヾ(#゚;;-゚)ノシ
(;^ω^)「……しぃ連れてくるかお」
内藤は早々に諦めた。肩を竦め、図書館を見上げる。
ツンにもでぃの主張したいことは読み取れなかったのだが、
でぃを眺めている内、ある疑問が生まれた。
ξ゚听)ξ「でぃ、本は?」
(#゚;;-゚)σ
「それそれ」とでも言いたげに、でぃはツンを指差し頷いた。
ついでに先程の内藤を真似て、肩を竦めてみせる。
ξ゚听)ξ「……ないの?」
( ^ω^)「え?」
(#゚;;-゚)) コクン
- 785 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:45:49 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「ちょっと……ツン、でぃ、降りてくれお」
内藤がシートの下を覗き込んだり手を突っ込んだりしてみるも、
見付けられたのは、でぃが落とした紙パックだけ。
本は跡形もなく消えていた。
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「ない?」
( ^ω^)「……ないお」
*****
- 786 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:46:58 ID:.k.YOjfc0
- これは……
- 787 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:47:44 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚、゚*ζ「どういうことなんですか?」
( ^ω^)「勝手に移動したんだお、本が」
夕方。
内藤は、デレに事の顛末を説明していた。
デレと内藤、ツンに加え、しぃとでぃの椎出姉妹もテーブルを囲んでいる。
ニュッは1時間ほど前、アルバイトのために出掛けていった。
彼の不在を知った際にデレが残念そうにしていたが、
彼女自身はそれに気付いていただろうか。
微笑ましいと思う反面、内藤には焦れったくて堪らない。
ζ(゚、゚*ζ「まだ演じ終わってなかったんですかね?」
(*゚ー゚)「そりゃあないね! 主人公は薬飲んで寝たんでしょ?
ニュッちゃんとでぃちゃんが言ってた結末と一致してるもん」
ξ゚听)ξ「2人が話を覚え間違う筈もないしね」
(#゚;;-゚)) コクン
- 788 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:49:08 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚、゚*ζ「んー……? じゃあ、誰か、過去に本を触った人のところに行ったんでしょうか。
新しい主人公に演じてもらうために」
( ^ω^)「その可能性がないわけでもないけど……。演じてもらって満足した本は、
短くても1ヶ月程度はおとなしくしていてくれる筈なんだお」
内藤はマグカップを持ち上げた。
カップの中でココアが揺れる。
( ^ω^)「だから、多分――関ヶ原さんのところに戻ったんじゃないかお」
ζ(゚、゚*ζ「……もう、終わったんじゃ」
ξ゚听)ξ「終わったけれど、ね」
ツンが、皿に山盛りになっているマシュマロへ手を伸ばした。
苦味の強いココアと甘ったるいマシュマロ。
でぃの好物である。
- 789 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:50:20 ID:l4uuBHBIO
(#゚;;-゚)「……」
( ^ω^)「デレちゃん、あの本達は生きているんだお。最初に話したおね」
ζ(゚、゚*ζ「はい」
( ^ω^)「生きているから、欲求を覚える。
生きているから――」
内藤はカップを置いて、マシュマロを一つ手に取った。
しばらく、指先で感触を楽しむ。
( ^ω^)「――同情だってするし、誰かを愛することだって、あるんだお」
ζ(゚、゚*ζ「愛する……?」
( ^ω^)「余程現実が嫌だったのか、夢が幸せだったのか、あるいは両方か……
何にせよ、関ヶ原さんは本の世界を望んでいた」
( ^ω^)「あの本が関ヶ原さんに同情なり愛情なりを抱いていたのなら、
彼の望むままにしてやりたくなるのも、当然だと思うお」
(*゚ー゚)「似たようなのは何度かあったよね。クックルの恋愛小説とか特に」
(#゚;;-゚)) コクン
- 790 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:52:21 ID:l4uuBHBIO
ζ(゚、゚*ζ「じゃあ、関ヶ原さんは、また夢を見続けるようになる……のかな」
ξ゚听)ξ「ええ、恐らく。――また同じ3ヶ月間を繰り返させるのか、
彼のために新たな展開を作り続けるのかは、分からないけれど」
ζ(゚、゚*ζ「本の方から関ヶ原さんを見捨てない限り、終わらないんだ……」
(*゚ー゚)「だね。やれやれ。
果たして、その日は来るのかねえ」
しぃの言葉に、内藤は目を伏せた。
きっと、本はデルタの傍を離れないだろう。
( ^ω^)(……僕達のいる『家』に帰るよりも、
関ヶ原さんのもとにいる方を選んだぐらいだから)
あの本にとっての家族は、内藤やでぃではなく。
関ヶ原デルタなのだ。
.
- 791 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:54:15 ID:l4uuBHBIO
( ^ω^)「――ハッピーエンドって言えば、ハッピーエンドかもしれないおね」
マシュマロを口に放り、噛み潰す。
ココアの苦味に慣れた舌には、あまりにも甘すぎた。
第五話 終わり
- 792 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:55:47 ID:.k.YOjfc0
- 乙!!今日は非常に私好みの話でどっぷり浸かってしまった。
もう一度乙!!
- 793 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:56:25 ID:LfJolKhA0
- 乙かうぇtttt!!!!
- 794 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:57:44 ID:8GIJaCw2O
- 乙
普通の家庭の温もりすら無いビターな生活の中でそんな甘い夢を見せられたら
そりゃこうなるわな…
- 795 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:59:35 ID:l4uuBHBIO
- 今回の投下終わりです。長ぇ
読んでくださり、ありがとうございました!
次回投下がいつになるかは、ちょっと分からない
来週中は無理かも
しおり的な目次的な
第二話前 >>104
第二話後 >>175
第三話前 >>250
第三話後 >>333
第四話前 >>431
第四話後 >>527
第五話 >>650
ではでは
- 796 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 01:59:55 ID:DXQEKvEU0
- 乙!
- 797 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 02:25:23 ID:1hy7y19w0
- 長いな
こいつ狂ってやがるぜ…
- 798 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 12:29:26 ID:.9w1ZzugO
- 乙
- 799 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/04/30(土) 20:40:12 ID:qe79dzDwO
- やるせないな…乙乙
- 800 名前:さや:2011/05/05(木) 13:45:17 ID:o5cASHGI0
- 女だけど下ネタ好きです(笑)
↓良かったら仲良くしてやってください(*^-^*)
http://3ka.net/_aV
- 801 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/07(土) 04:57:40 ID:YqsjusjwO
- 埋もれてたんであg
続きお待ちしております
- 802 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/11(水) 03:08:11 ID:0IYvvfCkO
- 支援あげ
- 803 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/13(金) 19:34:44 ID:7Bk4Y0TA0
- これ本当に面白い、作者さん、続き待ってます。
- 804 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/13(金) 22:52:40 ID:PLAL0Y4IO
- コレって二十一グラムの作者さん?
- 805 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/13(金) 23:43:50 ID:yvxgUaRM0
- ニュッくんがいいキャラ過ぎ
現行の中で続きが今一番気になる
- 806 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 03:12:46 ID:9u/VlN0cO
- ≫804
他にもいっぱいあるけど
早く人間になりたいようです
http://boonsoldier.web.fc2.com/naritai.htm
を書いた人だったと思う
- 807 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 03:27:50 ID:IBaCyNPo0
- せいとかい
- 808 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 20:13:25 ID:UMwZU3hYO
- >>806
EEEEEEEEEEEEEEE
マジかw印象がだいぶ変わった気がするwww
でも面白い!
- 809 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 20:53:02 ID:kW9CiXpgO
- >>804
二十一グラムさんじゃないけど、あの人の作品は何度か読み返すほど好きです
>>806-807の通りでございますん
ブーン芸さんがまとめてくださったようです。ありがとうございます!
http://boonsoldier.web.fc2.com/ikitahon.htm
んでは第六話前編投下しマーブル
- 810 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 20:54:25 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「クリスマス?」
ミセ*゚ー゚)リ「ほら、4日後はクリスマスでしょ。ドクオ君に何あげるか、もう決めた?」
大学、学食。
缶コーヒーを飲みながら、素直クールは首を傾げた。
川 ゚ -゚)「そういや考えてなかったな」
ミセ;゚ー゚)リ「うわ酷い。……まさかデートの予定すら立ててないなんてこと、ないよね」
川 ゚ -゚)「クリスマスは家で過ごすつもりだが」
ミセ;゚ー゚)リ「……ドクオ君の?」
川 ゚ -゚)「いや私の。そもそも会う予定もないし」
ミセ;゚ー゚)リ「嘘だぁあああ!? イブは!?」
川 ゚ -゚)「イブも同じく」
ミセ;゚ー゚)リ「信じらんない! マジで!?
え、だって付き合ってから初めてのクリスマスでしょ!?
一番テンション上がるとこじゃん! お泊りとかするレベルじゃん!」
食事も忘れて怒鳴る友人、ミセリを睨み、クールは唇の前で人差し指を立てた。
ミセリが口を噤み、納得のいかぬ顔でサンドイッチの包みを開ける。
- 811 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 20:55:36 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「何か言いたそうだな」
ミセ*゚ー゚)リ「山ほど言ってやりたいっつの。……ていうかクリスマスに家にいて何するの?
妹さんだって彼氏と出掛けるんだろうし――」
川 ゚ -゚)「いや、あいつは恋人なんかいないぞ」
ミセ;゚ー゚)リ「嘘っ!? めちゃくちゃ可愛い子だったよね?
あんだけ可愛いなら、彼氏に立候補する人いっぱいいるでしょ?」
川 ゚ -゚)「ああ可愛い。出歩かせるのが心配になるぐらい可愛すぎる。
……可愛すぎるせいで警戒心が強いし、理想が高いんだ。
おかげで彼氏いない歴イコール年齢だぞ」
ミセ;゚ー゚)リ「彼氏いない歴云々はあんたもそうだったでしょ、夏まで……。
ていうか、うわあ。あの顔で男遊びしないとか勿体なさすぎ」
川 ゚ -゚)「今みたいに身持ち固い方がいいんだがなあ、姉としては」
言いながら、クールは妹の姿を思い浮かべた。
最近妹の挙動がおかしい。
ぼうっとしたり、ふとしたときに顔を赤くさせては恥ずかしそうに頭を掻きむしったり。
母親は、恋でもしたのだと笑っていたが、そうなのだろうか。
それが事実なら、何だか物悲しい。
妹離れが出来ていないのかもしれない。
- 812 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 20:56:50 ID:kW9CiXpgO
ミセ*゚ー゚)リ「まあ妹さんのことは置いといて。
あのさ、ドクオ君からクリスマスの話とか全然出なかったの?」
川 ゚ -゚)「まったく。私もドクオも、自分から誘うタイプじゃないからな」
ミセ*゚ー゚)リ「まさか今までデートとかしなかったわけじゃ」
川 ゚ -゚)「いや、それは何度かしてるぞ。
帰宅するときや散歩中にたまたま会ったら、流れで何となく……って感じで」
ミセ;゚ー゚)リ「おかしいって。絶対おかしいって。前提からして運任せって」
川 ゚ -゚)「話はメールや電話でしょっちゅうしてるから、
わざわざ約束してまで会って話すことやするようなこともないだろう」
ミセ;゚ー゚)リ「理由がなくても会いたくなったり話したくなったりするもんなの、普通は!
本当に付き合ってんの? 本当に好きなの!?」
川 ゚ -゚)「嫌いな人間と付き合う趣味はない」
ミセ;゚ー゚)リ「そりゃそうだろうけど……ああもう、ついていけない」
腕時計を見下ろしたミセリは、ん、と声を漏らし、サンドイッチに齧りついた。
粗方食べ終えたところで、クールを指差す。
- 813 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 20:57:18 ID:kW9CiXpgO
ミセ*゚ー゚)リ「明日から冬休みだし、ドクオ君といっぱい遊びなよ。恋人らしいことしなさい。
あんたは良くてもドクオ君が不安になるかもしれないんだから」
川 ゚ -゚)「……努力はする」
ミセ*゚ー゚)リ「頑張ってねー」
サンドイッチの最後の一欠片を口に押し込みながら、ミセリが立ち上がった。
そろそろ午後の講義が始まる時間だ。
クールは、今日は午前までで終わり。コーヒーを飲み干したら帰るとしよう。
去っていくミセリの背を見送り、溜め息をついた。
川 ゚ -゚)(デート、ねえ)
*****
- 814 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 20:58:23 ID:kW9CiXpgO
大学1年生である素直クールは、今年の夏、初めて恋人が出来た。
美人であるために言い寄ってくる男は多かったのだが、
どうにも恋愛というものが分からず断り続けていたクール。
そんな彼女が交際を受け入れた相手は、よりによって、
('A`)「あ、く、クーさん」
川 ゚ -゚)「やあ、ドクオ」
根暗でひょろひょろした――まあ、はっきり言ってしまうと、
思わず「どうしてこれを選んだの?」と問い掛けてしまいたくなるような男であった。
鬱田ドクオ。クールと同じ学部の同級生。
出身高校も一緒で、クラスメートになったことがある。
小柄で痩せっぽち、ほんの些細な差ではあるが、クールより背が低い。
- 815 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 20:59:08 ID:kW9CiXpgO
(*'A`)「クーさん、今帰るところ?」
川 ゚ -゚)「そうだ。君もか?」
(*'A`)「う、うん……途中まで、あの、」
川 ゚ -゚)「ああ、一緒に行こう」
告白してきたのはドクオの方。
講義を終えた後、「好きです」とだけ書かれたルーズリーフを渡された。
B5用紙の中央に、たった4文字。
整った綺麗な字だったが、少しだけ震えていたように思う。
真っ赤になっているドクオに、クールは小さく笑いかけ、頷いて返した。
夏休みに入る直前だった。
それから今に至るまでの約4ヶ月超、2人は
ミセリが呆れるのも当然というほど、清い交際を続けている。
恋人らしい振る舞いが分からないクール、奥手すぎるドクオ。
進展しようがない。
- 816 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:00:39 ID:kW9CiXpgO
(*'A`)「……」
川 ゚ -゚)「……」
(*'A`)「ねえ」
川 ゚ -゚)「なあ」
無言のまま歩いていた2人は、同時に声をあげた。
顔を見合わせる。
ドクオは――いつものことではあるが、今日は輪をかけて――真っ赤になっていた。
(;*'A`)「あ、な、何?」
川 ゚ -゚)「いや、君から話してくれ」
(;*'A`)「ん……あ……ええと」
川 ゚ -゚)「……」
立ち止まる。
もじもじするドクオを見つめながら、クールは「こいつたまに気持ち悪いな」と
だいぶ失礼なことを考えた。
- 817 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:04:02 ID:kW9CiXpgO
(;*'A`)「……こ、これ! 後で読んでください!!」
ついに意を決したか、ドクオは鞄から取り出した封筒をクールの手に握らせた。
くしゃり、封筒が僅かに潰れてしまう。
そしてクールが何か言いかける前に、彼は猛ダッシュで逃げていった。
川 ゚ -゚)「……回りくどい奴だなあ」
ドクオには、気恥ずかしいことなどを手紙にして伝える癖がある。
口にするのは無理。不慣れなメールでは上手く言葉に出来ない。
だから、手書きで記すしかないらしい。
以前ミセリに「面倒臭くない?」と言われたが、
クールは、ドクオの手紙がなかなか好きだった。
家に帰ってからじっくり読もう、と、クールは手紙を鞄にしまった。
川 ゚ -゚)「ん」
携帯電話が鳴り響く。
表示された発信者名は母。
川 ゚ -゚)「はい」
――何でも、単身赴任中の父が勤め先で怪我をしたらしい。
大したものではないが、心配だから様子を見に行きたいという。
- 818 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:05:22 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「行くのか? 今から?」
それから二、三言交わし、通話を切った。
父の怪我の度合いによっては、何泊かしてくるつもりだそうだ。
急な話ではあったが、今までにも似たようなことはあったし、
別に、これといって思うところもない。
妹と、どんな風に家事を分担しようか。クールは首を傾げた。
川 ゚ -゚)「……ん」
腹が鳴る。
昼飯は家で食べようと考えていたため、大学では缶コーヒーしか口にしていなかったのだ。
妹は友達数人とカラオケに行く予定だと言っていたし、
母も出掛けるとなると、帰宅しても自分で食事の準備をしなくてはならない。
川 ゚ -゚)(面倒だな。……どこかで食べていくか)
- 819 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:05:55 ID:kW9CiXpgO
第六話 あな優しや、SF小説・前編
.
- 820 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:07:03 ID:kW9CiXpgO
英語教師、奈良場ビコーズの朝は早い。
( ∵)
5時にセットした目覚まし時計が鳴る直前に起き上がり、目覚ましのスイッチを押す。
畳んだ布団を部屋の隅に寄せ、顔を洗いに洗面台へ。
朝食と歯磨きを終えた後は、ゆったり新聞を読みながら一日の計画を大雑把に立てる。
それも済ませると、着替えをし、身嗜みを整えた。
荷物の確認。
服の確認。ネクタイを締め直してコートを羽織る。
時間も確認。7時半。
( ∵)「……」
壁を殴りつける。
どん、と鈍い音が響いた。
彼の名誉のために言っておくと、これは八つ当たりなどではなく、
ちゃんとした意味を持った行動である。
靴を履き、外に出る。
施錠したところで、隣のドアが開いた。
从'ー'从「ふああ〜……おはようございますう」
中から現れたのは、薄着の女性――渡辺。
欠伸を零した彼女は、間延びした声で挨拶しながら、郵便受けから新聞を引き抜いた。
- 821 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:08:44 ID:kW9CiXpgO
( ∵)「おはようございます」
从'ー'从「今朝もありがとうございましたあ」
( ∵)「どうせ寝過ごしてるだろうと思いまして」
先程ビコーズが壁を殴ったのは、彼女を起こすためであった。
この年季の入ったアパートは壁が薄い。
軽く叩くだけで充分なのだが、嫌がらせの意味を込め、
あえて「殴る」方を選択している。
从'ー'从「正解、ついさっきまで寝てましたあ〜。
やだわあ、私の部屋、覗き見でもされてるのかしら〜」
( ∵)「誰が好き好んであなたなんかの部屋を覗きますか。
先生はそこまで悪趣味ではありません」
从'ー'从「むっつりっぽいもの〜」
( ∵)「失礼ですね。先生は純真無垢な天使ですよ」
- 822 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:10:27 ID:kW9CiXpgO
从'ー'从「その一人称何とかならなあい? 『先生は』『先生は』って……。
私はあなたの生徒じゃないの〜」
( ∵)「申し訳ありません、何だか学生を相手にしてる気分になるもので」
从'ー'从「あらあらうふふ、私が若いってこと〜?」
( ∵)「ガキっぽいと思いますよ、精神的に。
いやはや、一生懸命若作りしようとする30代ってのは大人げないったら」
从'ー'从「殺すぞ」
( ∵)「まあ年齢をネタにからかってもブーメランになるだけなんで黙ります。
とりあえず引っ込みなさいよ、30代が薄着で外に出るなんて無差別テロもいいとこです」
睨みつけてくる渡辺の横を通り過ぎ、ビコーズはアパートを出る。
一度振り返ると、渡辺が舌を出して、右手の親指を下に向けているのが見えた。
中指を立てて返し、駐車場に停めていた車に乗り込む。
( ∵)「……今日も頑張りますか」
ぽつりと呟き、学校に行くべく車を発進させた。
*****
- 823 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:11:28 ID:kW9CiXpgO
明日から高校は冬休みに入る。
今日は清掃と集会、ホームルームのみ。
予定通りに滞りなく進み、昼前には放課となった。
( ∵)(……お)
担当しているクラスでのホームルームを終えて。
廊下に出たビコーズは、とある生徒が歩いているのを見付けた。
心なしか足取りが軽そうだ。
気配を消して背後から近寄り、その生徒の両肩に手を置いて、耳元で囁いた。
( ∵)「なーがおーかさーん」
ζ(゚ー゚;ζ「ひゃあああああああ!?」
生徒、もとい長岡デレは絶叫して体を跳ねさせる。
必死に身をよじっていたが、ビコーズががっちり押さえ込んでいるために
逃げ出すことは叶わなかった。
そのままの体勢でビコーズは話を続ける。
- 824 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:12:36 ID:kW9CiXpgO
( ∵)「何です、おばけにでも会ったみたいに」
ζ(゚ー゚;ζ「びっ、びっ、ビコーズ、先生……」
( ∵)「ええ、みんな大好きビコーズ先生ですよ。ところでね、長岡さん」
ζ(゚ー゚;ζ「はい……」
( ∵)「期末も散々でしたねえ」
ζ(゚ー゚;ζ「で、でも!」
( ∵)「でも?」
ζ(゚ー゚;ζ「あ、ああ、あ、赤点ではなかったです……よね……」
( ∵)「そうですね、赤点ではありませんでした」
ζ(゚ー゚;ζ「でしょう!?」
( ∵)「あと2点低かったらアウトでしたけど」
ζ(゚ー゚;ζ「……」
英語が苦手な長岡デレ。
一学期末、二学期中間と赤点続きだった彼女は、
今回の期末試験も――前より点数は上がったといえど――悲惨な結果と相成った。
- 825 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:14:41 ID:kW9CiXpgO
( ∵)「おっと勘違いしないでください。難易度を下げてあげたのにあの点をとっただとか
○×問題20問を奇跡的に全て外しただとかいうことをつつこうってんじゃありません。
先生はね、あなたを心配してるんですよ」
ζ(゚ー゚;ζ「へ……」
( ∵)「進級したら当然授業の内容もレベルアップします。
英語に限りませんよ。あなたの苦手な数学や物理もです。
それらについていけなくなったら、今度こそあなたは」
留年するかもしれません。
殊更ゆっくり囁いてやると、デレは引き攣った悲鳴を漏らした。
廊下を歩く生徒達が、哀れみを含んだ目をデレに向けている。
( ∵)「あなたは基礎の時点でぐらついてるんです。
不安定なままにどんどん積み重なっていくから、ばったん、と倒れるわけで」
ζ(゚、゚;ζ「うっ」
( ∵)「今一度、基礎の基礎から学び直しませんか?
それさえ固められれば、いくら何でも赤点……ましてや留年するほどには至りません」
- 826 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:16:17 ID:kW9CiXpgO
ζ(゚、゚;ζ「……それって……」
( ∵)「ん?」
ζ(゚、゚;ζ「つまり、ほ……」
( ∵)「補習です」
デレが固まった。
ぽん、と背中を叩き、ビコーズはデレの前へ回る。
( ∵)「赤点獲得者と殊勝な希望者のために、明日から一週間、それと三が日後に一週間、
補習を行います。いかがです、長岡さん」
ζ(゚ー゚;ζ「えっと、あの、」
( ∵)
ζ(゚ー゚;ζ
( ∵)「いいんですよ、別に。遠慮しなくて。
先生の気遣いを踏みにじってくれて構いません。
今宵、先生が枕を涙で濡らすだけです。ええ」
ζ(゚ー゚;ζ「……受け、させてください……」
( ∵)「ははっ、嫌々って感じぷんぷんですね」
- 827 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:17:56 ID:kW9CiXpgO
( ∵)「あのね長岡さん。何も、先生はあなたに意地悪したいんじゃありません。
まったくしたくないって言ったら嘘になりますが」
( ∵)「――善意ですよ善意。あなたを救いたいんです。
先生は生徒達が大好きです。優等生も劣等生もみんな幸せになってほしい。
そんな慈愛に満ちた仏のような先生ですから、あなたを放っておけません」
ζ(゚、゚*ζ「……ビコーズ先生……」
( ∵)「分かっていただけました?」
ζ(゚ー゚*ζ「――はい……補習、是非受けさせてください」
( ∵)「あなたって本当に単じゅnげふんげふん。純粋な方ですね。
では明日の午前9時に、前回と同じ教室で」
はい、と返事するデレに手を振り、ビコーズは職員室を目指した。
決して嘘は言っていない。
ビコーズは生徒を分け隔てなく愛しているし、
可能な限り、彼らの前に立ちはだかる障害を乗り越えられるように
手助けをしてやりたいと考えている。
まあ、それはそれとして。
( ∵)「長岡さん反応がいいから面白いんですよね」
――という、個人的極まりない理由もある。
- 828 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:18:53 ID:kW9CiXpgO
鼻唄を歌いながら階段を下りようとしたビコーズは、
とある生徒が踊り場にいるのを見付けた。
デレとどっこいどっこいな成績の男子生徒だ。
彼も期末では赤点を逃れたが――補習を受けさせておいて、損はない。
一段飛ばしで駆け降り、ビコーズは彼の両肩を掴んだ。
( ∵)「おーわったっくん」
\(;^o^)/「ひいぃいいっ!?」
その後、ビコーズが職員室に辿り着くまでに、計4名の生徒が犠牲となったのであった。
*****
- 829 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:20:59 ID:kW9CiXpgO
昼を迎え、午後1時。職員室。
空腹を覚えたビコーズは、ノートパソコンを閉じて立ち上がった。
食べたいものを考えつつ、悠然と歩く。
( ∵)(ラーメンにでもしますかねえ)
学校を出て、車に乗り、馴染みのラーメン屋へ赴いた。
狭苦しい店内に入る。客は疎ら。
( ∵)「どうも」
(`・ω・´)「おう、何か久しぶりじゃねえか?」
( ∵)「今日は少し時間に余裕がありますので。
給料日ですし、外で食べてやろうかなと」
(`・ω・´)「いつも通り塩ラーメンで?」
( ∵)「お願いします」
- 830 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:22:03 ID:kW9CiXpgO
厳つい顔つきの店主に片手で挨拶し、ビコーズはカウンター席に着いた。
2人には親子ほどの年齢差があるが、それなりに仲は良い。
「人畜無害そうな見た目のくせに、腹は真っ黒なところが息子に似てる」。
以前、店主が言っていた。
彼の息子はラーメン屋を継ぐのを嫌い、家を出て探偵事務所なんぞを構えたらしい。
ビコーズには関係のない話だ。
( ∵)「おや」
川 ゚ -゚)「?」
カウンターの端で炒飯を食べている女性を見て、ビコーズは首を傾げた。
互いに会釈する。
( ∵)「この薄汚い店に不釣り合いな美女が」
(`・ω・´)「ざっけんな。どこが薄汚いって?」
( ∵)「失礼、汚い店でした」
(`・ω・´)「レベルアップしちゃったよ。
――結構ちょくちょく来てくれるんだぜ。ねえクーちゃん」
川 ゚ -゚)「はい。ここの炒飯が好きで」
- 831 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:24:16 ID:kW9CiXpgO
(*`・ω・´)「むふふはは。好きだってよー。照れちゃう照れちゃう」
( ∵)「あなたじゃなくて炒飯の話ですよ」
(`・ω・´)「けっ、うるせえ野郎だなあ……本でも読んで待ってろい」
言って、店主はビコーズの手元を顎でしゃくった。
見下ろしてみれば、そこには一冊の本。
( ∵)「何です。これ」
(`・ω・´)「おっととと、汚すなよ。後で人に渡すんだから」
( ∵)「なら、こんなとこに置いてちゃ駄目でしょう……。
……しい、で、しぃ? 知らない作家ですね」
桜色の表紙。ハードカバー。
めくって、ビコーズは「ん」と唸った。
( ∵)「手書きじゃないですか。……んん? 本というか、ノートか……」
(`・ω・´)「息子の友達がよ、集めてんだ。そういう本。
んで、さっき来た客がたまたま持ってたからよお。頼んで譲ってもらった」
( ∵)「マニアの間じゃ有名、ってやつですか? 所謂。
ていうか、いいから早くラーメンください」
(`・ω・´)「あーい」
- 832 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:25:18 ID:kW9CiXpgO
ふと視線を横にやる。
クーちゃん、とやらと目が合った。
( ∵)「……何か?」
川 ゚ -゚)「え。……いや、綺麗な色だなと。本」
( ∵)「ですね」
「クーちゃん」の方へ本を滑らせる。
すっかり食事の手を止めていた彼女は、それを受け取り、まじまじと表紙を眺めた。
ビコーズは、麺の湯切りをする店主へ声をかける。
( ∵)「本への興味に負けましたよ、炒飯」
(;`・ω・´)「いちいち報告すんな。嫌味な野郎だなあ、ほんと」
川;゚ -゚)「あ、ごめんなさい、どうしても気になって」
「クーちゃん」が慌てて本を置き、再び炒飯に取り掛かった。
だが、尚も本へちらちらと目を落としている。
- 833 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:26:47 ID:kW9CiXpgO
( ∵)「……だいぶ気に入ってるんじゃないですか」
(`・ω・´)「クーちゃんが欲しいならあげたいところだが……」
川;゚ -゚)「ああ、その、結構です。本当にただ気になるだけですから」
(`・ω・´)「そうかい? ――あいよ、塩ラーメン」
( ∵)「はい、いただきます」
ビコーズの前へ塩ラーメンが置かれる。
ほこほこと湯気を立てる丼に一礼し、割り箸を手にした。
この店の塩ラーメンが好きだ。
というより塩ラーメンしか食べられない。
醤油も味噌もとんこつも不味い代わりに塩だけ異常に美味しい、という不可思議な店である。
ビコーズが麺を啜り始めてから、数分後。
炒飯を食べ終えた「クーちゃん」は席を立ち、代金を置いて店を出ていった。
- 834 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:28:45 ID:kW9CiXpgO
(`・ω・´)「クーちゃん行っちゃった。俺を癒してくれる天使が……」
( ∵)「奥様にチクりましょうか」
(`・ω・´)「おうおうビコの旦那、チャーシューおまけしてやりましょう」
( ∵)「たかがチャーシュー1枚で口止めするおつもりで?」
(`・ω・´)「……2枚」
( ∵)「よろしい。
いい年して女の子にでれでれしなさんなよ」
(`・ω・´)「別に口説こうってんじゃないのに……」
しばらくして、スープを飲み干し、空になった丼を置く。
財布を出しながら、ビコーズは腰を上げた。
( ∵)「ごちそうさまでした。美味しかったです」
(`・ω・´)「そいつは何より。また来いよ」
( ∵)「気が向いたら」
- 835 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:30:54 ID:kW9CiXpgO
料金ぴったり支払い、店を出る。
引き戸が閉まるのを見届けた店主は、丼を下げ――
(`・ω・´)「……おう?」
ついでに本を片付けようとして、首を傾げた。
今さっきまでカウンターに置きっぱなしだった本が、消えていたのだ。
( ∵)
学校へ戻るために車を走らせる。
――ビコーズは気付かない。
後部座席で揺られる、桜色の本に。
*****
- 836 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:32:07 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「……?」
帰路についていたクールは、奇妙な感覚に顔を顰めた。
頭の中に靄が広がる。
しっかりとした思考が掴めない。
ほんの数秒前のことを思い出そうとしても、靄が邪魔をする。
瞼が重い。
立ち止まり、目を瞑る。
川 - -)
深呼吸。
一回、二回、三回。
脳裏を駆け巡る情景。
――構築されていく、記憶。
川 - -)
川 ゚ -゚)
ぱちり。瞼を上げる。
- 837 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:32:42 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「……ご、」
川 ゚ -゚)「しゅじん、さま」
*****
- 838 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:34:40 ID:kW9CiXpgO
(;^ω^)「あちゃあ……また補習かお。しかも冬休みに」
ζ(゚ー゚*ζ「でも先生は私のためを思って!」
( ^ν^)「お前それ多分騙されてんぞ」
ζ(゚、゚*ζ「え?」
VIP図書館。2階、食堂。
そこで、デレは昼食をとっていた。
内藤ホライゾンに内藤ニュッ、ツンといったいつもの面々に、
椎出でぃと椎出しぃの双子と茂等モララー、山村貞子が加わっている。
他の作家達は、外出していたり執筆のために部屋に篭っていたりと諸々の理由で
この場にはいない。
ζ(゚、゚*ζ「だ、騙されて……ますかね……」
ξ゚听)ξ「話を聞く限りでは。私達が実際にその先生見たわけじゃないから、
断定は出来ないけれど」
- 839 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:36:04 ID:kW9CiXpgO
川д川「意地悪な先生なんでしょお……。
……そういう人って、デレちゃんみたいな弄り甲斐のある子、好きそう……」
(*゚ー゚)「弄り甲斐! あるよねデレちゃんって!
おっぱいとかお尻とか足とか弄り倒したいもん!
なーんだ貞子も理解してきたねえ、セクハラ道を」
川д川「そういうことじゃないわあ……ちょっと寄らないで触らないで馬鹿変態」
(*゚ー゚)「貞子は腰がいいね腰が。すらっとして、きゅってして。ぺろぺろしたい」
川д川「あ、やだやだやだ……モララーにやってちょうだい……」
(;・∀・)「俺!?」
(*゚ー゚)「わざわざあっちまで行くの面倒ー」
川д川「じゃあでぃにしなさいよう……」
(;゚;;-゚) そ
(*゚ー゚)「でぃちゃんはもう飽きたもん」
(;゚;;-゚) そ 「!?」
- 840 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:36:37 ID:dPP1ZN/6O
- キテター
しえん
- 841 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:37:57 ID:kW9CiXpgO
奥から、デレ、貞子、しぃ、でぃが一列に座り、
反対側にツン、内藤、ニュッ、モララーと並んでいる。
各々の前にはチキンライスとコンソメスープ、ほうれん草のソテー。
デレのお手製だ。
ζ(゚、゚;ζ「だ、騙されたのかな……うわあ……私、うわあ、……うわあ……」
( ^ν^)「単純馬鹿はこれだから」
ζ(;、゚*ζ「うっ……」
(;^ω^)「あ、あー、あー。美味しい! 美味しいお!
デレちゃんが作ってくれたチキンライス美味しいおー!!」
ζ(ぅ、;*ζ「……本当ですか?」
(;^ω^)「程よい味付けで!」
ξ゚听)ξ「私も美味しいと思うわ」
ζ(ぅー;*ζ「よ、よか、良かったあ……」
いつも御馳走になっているからと、今日はデレが厨房を借りて食事を作った。
材料は行きがけにスーパーで買ったもの。
考えていたよりメンバーが少なかったため余ってしまったが、
それらは持ち帰って活用するとしよう。
- 842 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:39:21 ID:kW9CiXpgO
ζ(ぅー∩*ζ「お口に合ったなら何よりですう……」
川д川「このスープ好き……」
(*・∀・)「デレちゃん意外に料理上手なんだね!」
川д川「……『意外に』は余計だわ……」
(#゚;;-゚)b
(*゚ー゚)「でぃちゃんも『美味しい』って! でも私はデレちゃんを食べたいな!」
ζ(^ー^*ζ「えへへー。
しぃさんの言葉の後半は聞かなかったことにしますがありがとうございます!」
( ^ν^)「ほら、そういうとこが単純だっつうんだよ。
お世辞に決まってんだろ」
ζ(;ー;*ζ
(;^ω^)「ニュッくーん!! 君はどうして空気を読んだ上でぶち壊すの!?」
- 843 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:41:59 ID:kW9CiXpgO
ξ゚听)ξ「で、肝心のニュッ君の口には合ったの?」
ζ(゚ー゚;ζ「はっ! そうですよ! 前にニュッさん言いやがりましたよね、
私の手料理より冷凍食品の方が美味しいだろうって! ……どうですか?
実際食べてみて……あれ待ってツンちゃん『肝心の』ってどういう意味」
( ^ν^)「適当に炒めるだけだろこんなもん」
ζ(゚ー゚;ζ「て、適当じゃないもん……」
( ^ν^)「……」
ζ(゚ー゚;ζ ドキドキ
( ^ν^)「普通」
ζ(゚ー゚;ζ「り、リアクションとりづれえええ……!」
ごっそさん、と呟き、ニュッは席を立った。
空になった器をそのままに、食堂を出る。
( ^ω^)「ニュッくーん?」
( ^ν^)「部屋で本読む」
振り返らずにそう言って、扉を閉めた。
- 844 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:43:48 ID:kW9CiXpgO
水を一口飲んでデレは首を傾げる。
どこか寂しそうな表情で。
ζ(゚、゚*ζ「あんまり、ニュッさんの好みじゃなかったかな……」
( ^ω^)「……いやあ……」
デレの独り言に内藤が苦笑する。
彼の視線の先には、ニュッが使った食器。
( ^ω^)「ニュッ君が誰よりも先に食べ終わるなんて滅多にないし――」
(*゚ー゚)「こーんな、きれーいに完食するのも珍しいね!」
( ・∀・)「好きじゃないものは素直に残しちゃうんだよ、ニュッ君は」
(#゚;;-゚)) コクコク
ζ(゚、゚*ζ「?」
川д川「つーまーりー……」
ξ゚听)ξ「美味しかったんじゃないかしら。それも、すっごく」
ζ(゚、゚*ζ「すっごく……」
皆の言葉を反芻する。
見る見る内に、デレの顔が真っ赤に染まった。
- 845 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:45:30 ID:kW9CiXpgO
ζ(゚、゚*ζ「そ、そう、なのかな」
ξ゚听)ξ「多分」
ζ(//ー//*ζ「……そっか、あは……良かったあ……」
( ^ω^)「あー。あー。何かもう……ニュッ君ずるいわー」
(*゚ー゚)「ああ、なるほど……。さっさと既成事実作っちまえよお前ら。
いけるってニュッちゃん結構スケベだから」
(#゚;;-゚)( ・∀・)「?」ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ「いけるって何がですか?」
川д川「……何が恐ろしいって、これで無自覚なところよねえ……」
呆れ返る内藤としぃ。
貞子に至っては、呆れるのを通り越して諦念すら感じられた。
何故そのような反応を返されるのかが分からず、デレは疑問符を飛ばす。
- 846 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:47:19 ID:kW9CiXpgO
ニュッに引き続いて食事を終えた内藤はナプキンで口元を拭いながら
デレの方へ体を向けた。
( ^ω^)「ごちそうさま、美味しかったお。
ところでデレちゃん。クリスマスの予定は?」
ζ(゚、゚*ζ「クリスマスですか? ……補習が入る筈ですけど、
だとしても昼からは暇ですよ」
( ^ω^)「充分。――デートするおデート」
ζ(゚、゚;ζ「で、デート!?」
素っ頓狂な声をあげたデレ。
その向かいで、ツンがぴくりと肩を揺らした。
( ^ω^)「詳しい内容は後でメールするお。いいかお?」
にやにや、内藤が笑う。
何か良からぬことを企んでいるなと疑いつつも
初めて異性にデートを申し込まれたデレは、またも顔を赤らめ、頷いた。
- 847 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:49:04 ID:kW9CiXpgO
それから、こちらをじっと見つめるツンに気付く。
ζ(゚、゚;ζ「な、何? ツンちゃん」
ξ゚听)ξ「……え?」
ζ(゚、゚;ζ「こっち見てるから……」
ξ゚听)ξ「――そんなことないわよ」
( ^ω^)「ツンちゃん嫉妬しちゃった? しちゃった?」
ξ゚听)ξ「あらこんなところにフォークが」
(;^ω^)「すいませんごめんなさい武器は無しで武器は。……ちょっと耳貸すお、ツン」
ξ゚听)ξ「ん」
川д川「……デレちゃあん」
ζ(゚、゚*ζ「はい?」
内藤がツンに何事か耳打ちする。
と、同時に、貞子がデレに声をかけた。
- 848 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:51:05 ID:kW9CiXpgO
川д川「クリスマス、本当に予定ないの……?
館長なんか構ってあげなくていいのよお……」
ζ(゚ー゚*ζ「ありませんよ!」
(*゚ー゚)「うわあ元気いっぱい」
( ・∀・)「でも、ほら、友達と遊ぶとかさ」
ζ(゚ー゚*ζ「しませんよ! わざわざ外で遊ぶような仲の友達はいませんので。
あ、キュートちゃんとは最近たまに遊ぶようになりましたけど――」
( ;∀;)
ζ(゚ー゚;ζ「え!? 何で!? ど、同情されてますか私!」
(*゚ー゚)「私も何か泣きたくなったよ今。
いや、こっちも人のこと言えない方だけどさあ……」
(#。゚;;-゚) ホロリ
- 849 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:52:17 ID:kW9CiXpgO
内藤がツンから顔を離し、苦笑しながらデレ達の話に加わった。
ツンは小さく溜め息をついている。
( ^ω^)「前から思ってたけど、意外だおね。
デレちゃん人懐っこいし明るいから友達多そうなのに」
ζ(゚、゚*ζ「基本的に1人でいる方が気楽ですからねえ」
川д川「……じゃあどうして頻繁にここ来るの……?
館長とかしぃとかモララーとかモララーとかモララーとか、
やかましいのがいるのに……」
( ;∀;)
ζ(゚、゚*ζ「そりゃあ」
ζ(゚ー゚*ζ「皆さん、いい人ばかりだし楽しいし、大好きですから」
川д川
ζ(゚、゚*ζ「わぷ」
無言で、貞子がデレを抱きしめた。
デレはされるがままだ。
ぐりぐりと頬擦りされる。
- 850 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:53:01 ID:kW9CiXpgO
川д川「うちの子にしたい……」
(;^ω^)「あー! あー! ずっりー、僕もデレちゃん愛でたい!」
ξ゚听)ξ
(;^ω^)「……何でもないです……」
(*;∀;)「おあうあうあう」
(*゚ー゚)「さすがモララー、感涙する姿が欝陶しい!」
(*゚;;-゚)
川д川「もうニュッ君とでも結婚して、ここに住んでよ……」
ζ(゚ー゚;ζ「どうしてよりによってニュッさんと」
――そんなに喜ばれるようなことを言っただろうかと、デレは首を捻った。
抱き着いてくる貞子、泣きじゃくるモララー。
いくら何でも、この反応は少し大袈裟ではないか。
- 851 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:53:56 ID:kW9CiXpgO
ζ(゚、゚;ζ(……)
ふと。
貞子の言葉に、引っ掛かりを覚えた。
ニュッと結婚しろ、とか。勿論冗談だろうが。
しかし、デレの友人、素直キュートの話によれば――
『たとえ両想いだとしても私が泣くだけだ、って』
こんなことを言った。らしい。
ζ(゚、゚*ζ「……私が本当にニュッさんと結婚したら、貞子さん、お祝いしてくれます?」
川д川「……?」
小声で問いかける。
貞子は怪訝そうにしたが、
川д川「なあに、結婚したいの……? 祝福するわよ、当たり前でしょ……」
すぐに、そう返した。
- 852 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:57:09 ID:kW9CiXpgO
――何故だ。
クックルとキュートは駄目。ニュッとデレはいい。
この違いはどこにある。
しかし、直接訊ねたとして、正直に答えてくれるものなのか。
少なくとも、今ここで問うのは躊躇われる。
もやもやした気持ちのまま、デレは曖昧に微笑んだ。
ζ(゚ー゚*ζ「しませんよ。訊いてみただけです」
川д川「……そう……ざあんねん……」
ζ(゚、゚*ζ「……」
疑問は増える一方で、解決の糸口は見えなくて。
焦れったい。
――『不安定なままにどんどん積み重なっていくから、ばったん、と倒れるわけで』。
ビコーズの言葉が蘇る。
内藤達の環境は特殊が過ぎる。デリケートな問題が多分に含まれているだろう。
これから先、一つも分からぬ内に謎ばかりが重なり続けたら、
いつかどこかで何かが崩れそうな、そんな不安。
- 853 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:58:36 ID:kW9CiXpgO
知りたい。
知るためには自分で調べなければいけない。
だけど方法はまったく浮かばない。
無性に苛々する。
( ^ω^)「――さて。僕はちょっと出掛けてくるお」
内藤の声で、我に返った。
2人分の食器をモララーの方へ押しやり、「片付けといて」と告げる。
( ・∀・)「はいはーい。どこ行くの?」
( ^ω^)「さっき、『本』が見付かったって連絡があったから、回収に」
ξ゚听)ξ「私も行く」
飲みかけのスープを置いて立ち上がろうとするツンを、内藤は手で制止した。
ツンが、よく見なければ気付けない程度に眉を寄せる。
( ^ω^)「シャキンさんのところだから。もしもの場合を考えて、ツンはお留守番。
いらない混乱させるわけにもいかんしお」
ξ゚听)ξ「……そう」
ζ(゚、゚;ζ(そうこうしてる間に謎が増えよる……!)
シャキンって誰だ。もしもの場合って何だ。何故ツンによって混乱が引き起こされるのだ。
- 854 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 21:59:48 ID:kW9CiXpgO
――内藤が出ていくのを見送った後。
デレはツンに、これぐらいは答えてくれるであろうと質問を飛ばした。
ζ(゚、゚*ζ「あの……シャキンさん、って、誰?」
ξ゚听)ξ「遮木シャキン。ショボンのお父様」
ζ(゚、゚;ζ「ショボンさんの」
脳裏に過ぎる男、遮木ショボン。
以前、でぃの本にまつわる情報を持って来ていた探偵である。
あれからも何度か図書館で会ったが、毎度毎度自由すぎる振る舞いでもって
デレや内藤を翻弄しては高笑いと共に去っていく、言ってしまえば「変人」。
ζ(゚、゚*ζ(……)
ショボン。ショボン。
変人の名を心中で呟きながら、指先をこめかみに押し当てる。
あまり気は進まない、が。
そうした方が、いいかもしれない。
近い内に、ショボンのもとを訪ねよう。
*****
- 855 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:00:53 ID:kW9CiXpgO
ξ゚听)ξ「ねえ、デレ」
厨房。
ツンは人数分のグラスにりんごジュースを注ぎながら、
隣、冷蔵庫からゼリーを取り出すデレへ顔を向けた。
2人で食後のデザートを用意しているところだ。
ゼリーもデレの手作り。楽だからといった理由で作ったのだが、
偶然にもしぃの好物だったそうだ。
りんごジュースもまた、しぃの好きなもの。
果汁100パーセントでなければ認められないらしい。
ζ(゚ー゚*ζ「うん?」
ξ゚听)ξ「ニュッ君のこと好き?」
ζ(゚ー゚;ζ「はああっ!?」
あわや落とすかと思われたゼリーの容器は、ツンの手によって支えられた。
危ないわよ、と、デレの右手を器ごと握りしめる。
- 856 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:01:59 ID:kW9CiXpgO
ζ(゚ー゚;ζ「っ、す、好きって」
ξ゚听)ξ「……嫌い?」
ζ(゚ー゚;ζ「嫌いじゃないけど! ひ、人として、なら、好きだけど……」
ξ゚听)ξ「どこ?」
ζ(゚ー゚;ζ「え?」
ξ゚听)ξ「どこが好き?」
ζ(゚ー゚;ζ(ち、近、うわ、綺麗、わ、わ)
鼻と鼻がくっつきそうな距離にまで詰め寄られ、デレの心臓が飛び跳ねる。
逃げようにも右手が掴まれているし、すぐ後ろは冷蔵庫だ。脱出は不可能である。
吸い込まれそうな瞳、という言葉の意味を、身を以て実感した。
ζ(゚ー゚;ζ「……どこって、ぶっきらぼうだけど優しいとこ、とか?」
- 857 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:04:00 ID:kW9CiXpgO
ξ゚听)ξ「……ブーンは好き?」
ζ(゚ー゚;ζ「内藤さん? 内藤さんも、うん、好き……。
恋愛の『好き』じゃな、い、けど……――っ!」
息を呑む。
ほんの1秒間。
デレの手が、痛みを覚えるほど強い力で握られた。
ξ゚听)ξ「そう」
ζ(゚ー゚;ζ「……あの……」
ξ゚听)ξ「変なこと訊いてごめんなさい」
気にしないで、と囁き、ツンが離れる。
デレはほっと息をついた。
ζ(゚ー゚;ζ「どうしたの、急に」
ξ゚听)ξ「何でもないの。――これ、あっちに持って行ってくれる?」
グラスとゼリーを盆に乗せ、デレに手渡す。
あっち、と視線だけで食堂の方を示したツンに、こくこく頷いて返した。
デレが駆け足気味に厨房を出る。
1人残ったツンは、棚からスプーンを取り出し、じっと見下ろした。
*****
- 858 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:05:27 ID:kW9CiXpgO
川д川「……デレちゃん、色々気になってるみたいね……」
(*゚ー゚)「ん? ニュッちゃんのこととか?」
川д川「それもあるけど……」
ツンとデレが厨房にいる頃。
ぽつりと漏らした貞子の呟きに、しぃ達が食いついた。
彼らの中で、デレは随分と特別な存在になっている。
川д川「私達とか……本のこととか……」
(*゚ー゚)「……あー……。そりゃあ、ねえ。気になるっしょ。普通」
( ・∀・)「寧ろ、今までよく深入りしてこなかったなあと思ったよ、俺は」
(#゚;;-゚)) コクン
- 859 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:07:12 ID:kW9CiXpgO
川д川「2ヶ月……かしら。もう少ししたら3ヶ月ねえ……。
……デレちゃんが、ここに来るようになってから……」
( ・∀・)「こんなに長く付き合ってきたのって、ショボンを除けば
デレちゃんが初めてじゃない?」
(*゚ー゚)「デレちゃん……初めて……」
川д川「……すぐそっちの方向に持ってく……」
(*゚ー゚)「ごめんにゃさい。
うんうん、モララーの言う通り。
大抵の人は、気味悪がって離れてったからなあ。ねっ、でぃちゃん」
(#゚;;-゚)) コクコク
川д川「――考えれば考えるほど、いい子だわ……」
(*゚ー゚)「だねえ」
( ・∀・)「同感」
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚) クイクイ
(*゚ー゚)「ん? どした?」
- 860 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:07:54 ID:kW9CiXpgO
ヾ(#゚;;-゚)ノシ
(*゚ー゚)「……おうよ、私も思ってたとこだ」
( ・∀・)「何て?」
(*゚ー゚)「『いい子で、すごく好きだから――いざ事実を知られたときに
避けられちゃったらと思うと、悲しい』って」
川д川「……そこなのよねえ……」
( ・∀・)「だよなあ。いっそ隠し続ける?」
川д川「ずっと付き合っていったら、いずれバレるわよ……隠しようがないもの……」
( ・∀・)「んー……」
川д川「……私達が考えたって仕方ないわ……。
何にせよ、館長とデレちゃん本人の動向次第よね……」
そこへ、デレが厨房から現れた。
貞子が口を閉じる。
- 861 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:09:09 ID:kW9CiXpgO
ζ(゚ー゚*ζ「りんごジュースとゼリーですよー」
(*゚ー゚)「来た来た来た来た来たぁああああ!」
ζ(゚ー゚*ζ「ゼリーは、えっと、りんごとみかんと桃と、ぶどうがあります」
(*゚ー゚)「りっんっご! りっんっご!
うーっし、ゼリー堪能したら食後の運動するぞモララー!
今の内に全裸になっとけ!!」
(;・∀・)「やだよ! どんな運動する気だよ!!」
(*゚ー゚)「そりゃお前」
(;・∀・)「ひ、人差し指と中指の間に親指を……!?」
ζ(゚ー゚*ζ「何のサインですか? それ」
川д川「知らなくていいわあ……」
(*゚;;-゚) ポッ
*****
- 862 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:11:14 ID:kW9CiXpgO
(;^ω^)「……なくなっ、た?」
(`・ω・´)「有り得ないと思うんだけど、そうなんだよなあ」
とあるラーメン屋。
店主、遮木シャキン――遮木ショボンの父親――は、ううんと唸って首を捻った。
昼前にシャキンから「手書きの本を客から譲ってもらった」との報告を受けた内藤は、
本を受け取るために単身やって来たわけだ、が。
(`・ω・´)「カウンターにあった本がさあ、影も形も。綺麗さっぱり」
消えていたという。
シャキンは悪い人ではないが、非常に口が軽い。
故に、内藤も本の奇妙な習性については話していない。
何も知らぬシャキンには、本が勝手に消える道理など考えつきもしないだろう。
(`・ω・´)「あいや、他の客が勝手に持って行ったってことはないよ。
容疑者なら2人いるけど、手癖の悪い奴らじゃないし」
(;^ω^)「ええ、まあ、……本人にその意思がなくとも
持ち帰ってしまった可能性はありますが」
(`・ω・´)「?」
- 863 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:13:36 ID:kW9CiXpgO
シャキンの話によれば、客が本を譲ってくれたのは午前11時。
最後に本の姿を視認したのは午後1時過ぎ。
「主人公」候補は、前述の客か、あるいは何気なく本に触れた他の客か。
はたまた過去に本を所有したことのある人間か。
(;^ω^)「……ありがとうございましたお……」
(`・ω・´)「ありゃ、いいのかい」
(;^ω^)「はい……」
――今までにも、何度かあった。
ようやく本が見付かったと思えば、回収に行く間に消えている。
その度に感じる悔しさには、どうにも慣れそうにない。
念のため、本に触れた人間の名前と特徴をシャキンが覚えている限りで教えてもらい、
内藤は店を後にした。
*****
- 864 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:14:54 ID:kW9CiXpgO
夜。
アパートの駐車場に車を停め、ビコーズは運転席のドアを開けた。
ルームライトが点灯する。
そのまま、何か置き忘れはないか車内を確認し――
( ∵)「……あ?」
後部座席に、桜色の本を発見した。
手を伸ばす。
( ∵)「何でこんなところに……」
ラーメン屋で見たのと同じだ。
間違えて持ち帰ったとは考えられない。
薄気味悪く思いながら、ビコーズは腕時計に目を落とす。
午後9時。
今から店に出向くのは面倒臭い。
明日渡しに行くことにして、本と鞄を抱えながら車を降りた。
- 865 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:16:15 ID:kW9CiXpgO
1階、奥。
角部屋がビコーズの住まい。
玄関の鍵を開けようとして、違和感に顔を顰める。
( ∵)「……?」
鍵が。
開いている。
( ∵)
深呼吸。
朝、たしかに施錠した筈。
恋人などいないし、合鍵を持っているのは大家ぐらいだ。
- 866 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:17:02 ID:UyTBoJ4U0
- ピンク色ってのがまたなんとも
- 867 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:19:19 ID:kW9CiXpgO
間取りを思い浮かべる。
1K。一般的な部屋。
想像の中でドアを開ける。
台所。冷蔵庫と洗濯機。
左側の壁には浴室、トイレ、それぞれに通じるドア。
もし何者かが侵入して、かつ室内に居残っている場合。
浴室かトイレ、あるいは奥の部屋、押し入れ――侵入者が隠れられるのは、そんなところか。
とっくに逃げている可能性が高い、というか出来ればその方がいい。
危険な目には遭いたくない。
( ∵)(……空き巣でしょうか)
盗まれて困る代物なんて仕事関係のものだけだが、
ただの泥棒が狙うような品ではない。
ドアノブを捻り、一気に開く。
侵入者が武器を持って待機しているのを想定し、頭上に鞄、腹の前に本を構えた。
- 868 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:20:49 ID:kW9CiXpgO
( ∵)
( ∵)「……」
誰もいない。
体勢は維持して、ビコーズはわざとらしく音を立てながら室内に上がり、
電気をつけた。
浴室、バスタブの中、トイレ、と順々に覗き込む。
無人。
キッチンと奥の部屋を仕切るドアの前に立つ。
上部に取り付けられた磨りガラスの向こう側は、どんなに目を凝らしても見えやしない。
一拍置き、ドアを引いた。
- 869 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:21:31 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)
( ∵)
暗い部屋に、キッチンの明かりが差す。
その明かりの中で、美女が正座をしていた。
川 ゚ -゚)「おかえりなさいませ。御主人様」
( ∵)
( ∵)「誰ですか」
咄嗟の問い。
だが、彼女が誰であるかは、一目見て理解出来た。
昼にラーメン屋で会った「クーちゃん」だ。
それが判明しても、何故ここにいるのか、という点はまったく分からないが。
- 870 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:23:14 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「SO−C001です。まさかお忘れになってしまわれたわけではありませんよね」
( ∵)「……何ですかそれ、学籍番号ですか?」
川 ゚ -゚)「? 御主人様、どうされました。様子がおかしいような」
( ∵)「御主人様ってね、あな――」
ビコーズの言葉が最後まで紡がれるより早く。
――「クーちゃん」は、ビコーズを押し倒した。
鞄と本がキッチンの床を跳ねる。
彼女が頭と背中を支えてくれたおかげで、ビコーズ自体には大したダメージはなかった。
( ∵)「なっ……」
川 ゚ -゚)「どうなさったのです。もしや、本当に私のことが分からないのでしょうか?
何か……記憶障害の類でも起こされたのでは」
- 871 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:23:55 ID:kW9CiXpgO
吐息がぶつかり合うほどの距離。
支えられた頭を撫でられる。いや、撫でるというより、まさぐる、に近い。
川 ゚ -゚)「……傷などはございませんね」
( ∵)「……」
川 ゚ -゚)「『外』で、何かあったのですか」
( ∵)「は?」
川 ゚ -゚)「一時的に記憶をなくしてしまうほど――恐ろしい、ことが」
( ∵)「ええ、まあ、恐ろしいです」
今まさに、と嫌味をぶつけてやろうとしたビコーズの口は、
「クーちゃん」に抱きしめられたことで、硬直した。
川 ゚ -゚)「やはり……。
御主人様、だから1人で外出してはいけないと言ったではありませんか」
( ∵)(……すっげえ柔らかいんですが、意味が分からなすぎて素直に堪能出来ません)
- 872 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:27:11 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「安心してください。私は敵ではありません。
あなたに仕えるロボット……アンドロイド、SO−C001でございます」
( ∵)
( ∵)「……とんだ電波さんですね」
混乱していたビコーズの頭は、
突然飛び出した「ロボット」という単語で、一気に冷めた。
「クーちゃん」を押しやり、彼女の下から抜け出して胡座をかく。
対する「クーちゃん」は正座して、ビコーズを穴があくほど見つめた。
( ∵)「……ええーと……」
ラーメン屋で会話したのがいけなかった。
相手にした自分を、構ってくれる人間だと認識したのだろう。
きっとそのせいで、この電波女に目をつけられたのだ――と、ビコーズは解釈する。
- 873 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:28:59 ID:kW9CiXpgO
( ∵)「残念ですが、あなたの期待には応えられません。
先生、保育園に通ってた頃から女の子達のおままごとに混ざるの大嫌いでした。
どうかお引き取りください」
川 ゚ -゚)「ほいくえん、とは、大昔に存在した児童福祉施設のことでしょうか。
御主人様が幼少の頃には、とっくになくなっていた筈」
( ∵)「あー、しかも未来設定ですか。先生SFには興味ないんでますます専門外です」
川 ゚ -゚)「……もしかして、御主人様、過去の資料を探しに行かれたのですか?
そこで何者かに襲われたか、あるいはあまりにも衝撃的な事実を発見して……。
そのショックにより、手に入れた情報を自分の記憶だと錯覚してしまわれたのでは」
( ∵)「すごい。どんどん先生にわけの分からない設定が追加されていく」
これは話が通じないなとビコーズは立ち上がった。
「クーちゃん」も同様に。
( ∵)「……帰ってくれません?」
川 ゚ -゚)「帰る? 私の家はここです」
( ∵)「んなわけありますか。そもそも何で先生の家が分かったんです。
もしかして単なるキチガ、……変人じゃなくてストーカーさんだったりします?
だとしたら物好き極まりないですね」
- 874 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:31:01 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「御主人様、記憶が混濁して私に怯えるのは分かります。
ですが私はあなたの味方です。あなたに危害を加えるつもりはありません」
( ∵)「警察呼びますよ警察。そこ動かないでください」
川 ゚ -゚)「御主人様の命令とあらば」
( ∵)「……命令聞くっつうなら、帰ってくださいよ」
川 ゚ -゚)「ですから、帰るも何も私の家はここで」
( ∵)「ああ分かりました分かりました、じゃあ喋らないでください」
川 ゚ -゚)
( ∵)「そのままそのまま」
コートのポケットから携帯電話を取り出し、110番。
携帯電話を耳に宛てがう。
( ∵)
( ∵)「……あれ?」
しかし、応答はゼロ。
呼び出し音すら鳴りはしない。
- 875 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:33:31 ID:kW9CiXpgO
耳から離し、携帯電話を見下ろす。
画面が真っ暗なものへと変わっていた。
( ∵)「うわ」
電源を入れ直そうと試みるも失敗に終わる。
立ち尽くす「クーちゃん」の横を通り、部屋に駆け込んだ。
寒い。指が悴む。暖房もつけずに、彼女はどれだけの時間をここで過ごしたのだろう。
充電器と接続しても、携帯電話は沈黙している。
( ∵)「……こんなときに故障ですか」
それならと、本棚の上にある固定電話の受話器を手に取った。
110。
――応答なし。
舌打ちし、電話線を確認した。
ちゃんと繋がっている。
( ∵)「あー、何ですか、これ。何なんですか。警察呼んじゃ駄目ってことですか」
試しに他の番号へかけてみたが、結果は一緒だった。
苛つきながら、キッチンで立ちっぱなしの「クーちゃん」のもとへ行く。
- 876 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:35:31 ID:kW9CiXpgO
動くなという命令をしっかり守っているらしく、
ビコーズに背を向ける形で直立している。
( ∵)「あの」
川 ゚ -゚)
( ∵)
川 ゚ -゚)
( ∵)「喋っていいですよ」
川 ゚ -゚)「はい」
( ∵)「あのですね、あなたは神様に好かれてるか警察に嫌われてるかのどちらからしく、
残念なことに通報出来ません。
なので、是非とも自ら出ていってほしいのですが」
- 877 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:37:45 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「こんな状態の御主人様を放ってなどおけません」
( ∵)「先生としても、あなたみたいな危険な人を野放しにするのは恐ろしいですけどね」
川 ゚ -゚)「利害が一致しましたね。さあ御主人様、ご飯にいたしましょう」
( ∵)「いやおかしいおかしいおかしい。何でそうなりますか? 馬鹿ですか?」
川 ゚ -゚)「私は御主人様を1人にしたくない。御主人様は私を外に出したくない。
充分ではありませんか」
( ∵)「こっちの言い分を全部上書き保存してません? ねえ――」
川 ゚ -゚)「御主人様」
( ∵)「はい御主人様なんかじゃありませんが何ですか」
川 ゚ -゚)「動いてもよろしいでしょうか」
――さっきから、ビコーズの背にぞわぞわと悪寒が走り続けている。
話している間、彼女は身じろぎ一つしなかった。
まるで。
ロボットみたい、に。
- 878 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:38:53 ID:kW9CiXpgO
( ∵)「……どうぞ」
後退りながらそう返すと、「クーちゃん」は礼をして、流しへと歩き出した。
てっきりこちらへ向かってくるかと思っていたビコーズは肩透かしを喰らい、
次いで、己の間抜けさを悔いた。
川 ゚ -゚)
調理器具がしまわれている棚を開け――彼女は、包丁を取り出した。
これ見よがしに照明へ翳す。
( ∵)「は、……早まらないでくださいよ」
引き攣りそうな声で、ビコーズはお決まりな台詞を口にした。
さらに後退る。
足の裏に柔らかい感触。
見下ろすと、馴染みのない鞄とコートがあった。
川 ゚ -゚)「御主人様」
呼ばれ、はっとする。
「クーちゃん」は冷蔵庫を開け、中を覗き込んでいた。
- 879 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:40:26 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「ベーコンエッグなら、すぐに作れそうですが」
拍子抜け。
包丁は、ただ単に料理のために握っただけなのだろうか。
そういえば先程、ご飯にいたしましょうとか何とか。
( ∵)「本気でご飯にするつもりですか?」
川 ゚ -゚)「お腹すいていらっしゃるでしょう」
( ∵)「別に、」
「いらない」という言葉は飲み込んだ。
包丁を握ったまま見つめられれば、そりゃあ。
( ∵)「……」
川 ゚ -゚)「ベーコンエッグは夜より朝の方が似合う気もしますが、仕方ありません。
パンと米、どちらがいいですか」
( ∵)「パンは買い置きがありません。
というか未来の設定なのにご飯はベーコンエッグなんて、
中途半端っつうか庶民的っつうか」
川 ゚ -゚)「おや。お米はどこに?」
( ∵)「……戸棚にレンジで温めるご飯がありますよ」
川 ゚ -゚)「レンジ? ……ああ本当だ。御主人様ったら随分懐かしいものを。
どこかで拾ってきたんですか? ちゃんと使えますかね……」
- 880 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:42:10 ID:kW9CiXpgO
調理を始めた「クーちゃん」に注意を払いながら、
ビコーズは部屋の電気をつけてしゃがみ込んだ。
コートを脱ぎ捨てる。
ますます体が冷えたが、逃げるときを考えると身軽な方がいい。
見知らぬ鞄の中を探る。
ノート、ルーズリーフ、ファイル、教科書、ペンケース、電子辞書。
どうやら学生らしい。
どれも持ち主の名前は記されていない。
なくしたらどうするんでしょう、と頓珍漢なことを呟く。
財布があったので躊躇いなく開けた。
中に収まっていたカードを引っ張り出す。
( ∵)「……あった」
学生証だ。
大学生。1年。
――素直クール。
- 881 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:42:41 ID:zUZcA2Y.O
- 完全に役になりきってるな
ミルナのより遙かに強力な本なのかな
- 882 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:43:33 ID:kW9CiXpgO
( ∵)(素直クール。なるほど、それで『クーちゃん』)
( ∵)(……。……素直?)
素直。そう多い苗字ではない。
「クーちゃん」改めクールを横目で見る。
フライパンに卵を落としている彼女は、さっきからずっと表情を変えていない。
ビコーズは頭の中で、クールに微笑ませてみた。
あくまで想像でしかないが、明るい顔をさせてみれば、そこに浮かぶ面影。
――ビコーズの勤め先に通う1年生、素直キュート。
( ∵)「……ははあ。なるほど」
川 ゚ -゚)「何をなさっているのです」
唐突に顔を覗き込まれ、ぎょっとした。
いつの間に近付いていたのやら。
クールの手には、ベーコンエッグとキャベツの葉が乗った皿がある。
香ばしい。食欲が沸き上がる。
壁に立てかけていたテーブルをクールが片手で下ろし、その上に皿を置いた。
同時に、ちん、と電子レンジが声をあげる。
- 883 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:45:34 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「しっかり使えましたね」
キッチンへ引っ込んだクールは、パックの白米と箸を一膳、
それと醤油を持って戻ってきた。
すべてをテーブルの上に並べ、ビコーズの隣に座る。
川 ゚ -゚)「召し上がれ」
匂いと湯気がビコーズの口や腹を刺激するが、手をつけるのは堪え、
クールに向き直った。
( ∵)「素直クールさん」
川 ゚ -゚)
( ∵)「返事をしなさい。あなたの名前でしょう。素直クール」
川 ゚ -゚)「私の名前」
( ∵)「そうです」
川 ゚ -゚)「素直クール?」
( ∵)「……いつまでくっだらない芝居続ける気ですか。
あなた、素直キュートさんから先生のこと聞いたんでしょう。
姉妹で結託したんだか単独犯だかは知りませんが
妙ないたずら仕掛けてくれちゃって、まあ」
川 ゚ -゚)「素直クール……クール……」
( ∵)「……聞いてます?」
- 884 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:47:07 ID:kW9CiXpgO
俯き、何か呟き始めるクール。
説教してやろうといきり立っていたビコーズは、クールの様子に勢いを削がれた。
正気を確かめるためにクールの肩へ触れた――瞬間。
川 ゚ -゚)「御主人様」
( ∵)「は」
いやに熱っぽい目を向けてきたクールに、手を掴まれた。
川 ゚ -゚)「私は『素直クール』」
( ∵)「え、ええ。でしょうね」
川 ゚ -゚)「クール。……クール。クール」
( ∵)「……あのう」
川 ゚ -゚)「御主人様に名前を頂けて……私は、クールは、嬉しい」
( ∵)「ああ?」
- 885 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:48:23 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「ああ、これが『嬉しい』という感情なのですね。クールは今とても――嬉しい」
( ∵)「すいません何言ってんですかちょっと」
川 ゚ -゚)「クールを作った博士は言いました。『主人から名前を貰うということは
ただのロボットではなく、一個人と認めてもらうこと』。
召使ロボットとして、至上の喜びだと」
( ∵)「おーい」
川 ゚ -゚)「多くの召使ロボットは型番、あるいは『おい』『お前』などと呼ばれるそうです。
名前を……それも苗字まで頂けるなんて、クールは幸せ者でございます。
御主人様。嬉しい。愛しい」
( ∵)「……」
もはや、顔を直視するのも恐ろしかった。
こいつは――「本物」だ。
- 886 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:50:49 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「……御主人様?」
( ∵)「……付き合ってられません」
ビコーズが腰を上げる。
クールは、ビコーズの右足を掴んだ。
川 ゚ -゚)「どこに行かれるのです」
( ∵)「外です。電話は使えない。あなたは出ていかない。
なら、こちらが逃げるしかないでしょう」
川 ゚ -゚)「外……」
( ∵)「たしかに危害を加えられそうにはありませんが、だからこそ余計」
( ∵)「にっ!?」
天地が回った、ような錯覚。衝撃。鈍痛。
何が起きたか理解出来ずにいたビコーズの眼前に、クールの顔が現れる。
川 ゚ -゚)「駄目です。外になんか行ったら、また危険な目に遭われるかもしれません」
後頭部と背中、右足の付け根が痛い。
足を持ち上げて転ばされたのだと、ようやく気が付いた。
- 887 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:52:41 ID:kW9CiXpgO
( ∵)「ここにいるより、外の方が安全に思えますけど」
川 ゚ -゚)「ここが危ない、と?」
( ∵)「……今この状況がまさに。
それとも、あははうふふとじゃれているおつもりですか。これで」
川 ゚ -゚)「クールだって必死なのです。御主人様が心配で心配で……」
( ∵)「いい加減になさい」
川 ゚ -゚)「……」
( ∵)「……」
川 ゚ -゚)「どうしても外に出たいのですか」
( ∵)「ええ」
川 ゚ -゚)「そうですか――」
クールが退いたかに見えた、直後。
凄まじい力で体をひっくり返された。
俯せになり、両腕を背中に回される。
- 888 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:54:17 ID:kW9CiXpgO
(;∵)「ちょっ……、っ……!!」
相手は狂人だろうと、10代の女性である。加えて、見た限りでは細身。
いざとなれば簡単に振り切れると考えていた。
だが――これは本当に、女の力か?
腕を片手で押さえられているだけなのに、びくともしない。
加減なしに冗談抜きで抵抗しても、腕がぎしぎしと痛むだけ。
襟元からネクタイを抜き取られる。
細長い布が手首に絡む感触がした。
(;∵)「なっ、なっ、」
川 ゚ -゚)「どうか辛抱してくださいませ」
あっという間に縛られる。揺らす度に食い込むネクタイ。解ける気配はない。
次に、下腹部へクールの手が伸びた。
(;∵)「!?」
一体どんな魔法を使ったのかと問いたくなるほどの素早さでベルトを奪われる。
背中の上でクールが体の向きを変えた。
足を縛る気だ。
これ以上許してはならない。駄々をこねる子供のように足をばたつかせる。
- 889 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:56:21 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「あまり暴れられては、怪我をさせてしまいます」
(;∵)「うあっ!?」
またもや片手で両足を折り畳まれる。
そのまま押さえ込まれると、どんなに力を入れようと敵わなくなってしまった。
革のベルトが足首を締める。
ぎちぎちと隙間なく巻きつくベルトの硬さに、思わず呻いた。
息を荒げ、脱力するビコーズ。クールは涼しい顔で彼の背から下りた。
(;∵)「……クソアマ……」
川 ゚ -゚)「何とでも」
仰向けにされる。
睨みつけるビコーズに構わず、テーブルの上から箸を取った。
- 890 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:57:37 ID:kW9CiXpgO
川 ゚ -゚)「そう恨まないでください。
クールなりに、御主人様をお守りしているつもりでございます」
(;∵)「手足縛って、守るも何もないでしょう」
川 ゚ -゚)「守っているんです。
――御主人様、外には行かないでくださいませ。ずっとここにいてください。
何もかも、クールが満たしてさしあげますから」
箸でベーコンエッグを一口大に切る。
それを、ビコーズの口元へ運んだ。
川 ゚ -゚)「さあ、御主人様。……あーん」
(;∵)「……最っ悪です……」
- 891 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 22:58:12 ID:kW9CiXpgO
この日。
奈良場ビコーズは、素直クールに監禁された。
第六話 続く
- 892 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 23:01:32 ID:UyTBoJ4U0
- 確かに全然守ってねえな
- 893 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 23:01:59 ID:kW9CiXpgO
- 今回の投下終わりです
次回は来週中……だといいなあ
読んでくれた方、まとめてくださったブーン芸さん、ありがとうございました!
目次的なしおり的な
第二話前 >>104
第二話後 >>175
第三話前 >>250
第三話後 >>333
第四話前 >>431
第四話後 >>527
第五話 >>650
第六話前 >>810
ではでは
- 894 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 23:04:24 ID:UyTBoJ4U0
- 乙でした
「ならばなぜならば」なんだなビコーズの名前
くどい感じだ
- 895 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 23:05:00 ID:ag4IqrRQ0
- 乙した!
まさかビコーズがこんなふうになっちゃうなんてw
- 896 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 23:11:09 ID:oZMnSMH20
- 今追いついた
なにこれ面白い
- 897 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 23:11:17 ID:cQn/V7k2O
- 乙!
- 898 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/14(土) 23:57:47 ID:zUZcA2Y.O
- 乙乙
これは面白い騒動になりそうだ
続きが楽しみ
- 899 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/15(日) 01:08:26 ID:/IPuqtiw0
- デレとニュッくんいい感じだな爆発すればいいのに
乙だよ次も楽しみ
- 900 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/15(日) 02:41:23 ID:uJS6eZXI0
- 乙 ※擬人化注意
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1637593.jpg.html
- 901 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/15(日) 10:37:07 ID:XCrCAFn2O
- >>900
おおおおお! みんないるぅううう!!
ありがとうございます!
- 902 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/15(日) 15:44:44 ID:81bwd9M.O
- 乙
GW祭りに出したやつだけどニュッ君
http://imepic.jp/20110515/559820
- 903 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/15(日) 17:12:45 ID:FyUUgmiQ0
- 来てた来てた!読むぜ
- 904 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/15(日) 19:53:51 ID:XCrCAFn2O
- >>902
ニュッなのに可愛いwwww 何かこう、つっつきたい
ありがとうございます!
- 905 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 13:06:08 ID:z7sL4oDYO
- せいとかい以外の作品も教えてプリーズ
- 906 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 16:50:15 ID:KZEsJX/kO
- >>905
('A`)燃え尽きた後のようです
ξ*゚听)ξふたりはなかよし(^ω^*)のようです
(*'A`)ふたなりなかだし(゚- ゚*川のようです
川 ゚ -゚)日和のようです(乗っ取り)
( ^ω^)の川 ゚ -゚)ルなナイトのようです(乗っ取り)
( ^ω^)が拳の王となるようです(乗っ取り)
( ^^ω)クリスマスには間に合わなかったようです
( ∴)早く人間になりたいようです
('A`)ドクオには幼なじみがいるようです(乗っ取り)
( ^ω^)ドラゴンボールのようです
【+ 】ゞ゚)は異世界で出会ったようです
川д川おばけやしきのようです
(-_-)ストライクヒッキーズのようです
(・ ∀・) また明日、のようです
爪'ー`)y‐小泥棒のようです
( ФωФ)いつでも変われるようです
lw ´‐ _ ‐ノ v 六度目の大量絶滅のようです
( ^ω^)はボクサーのようです(乗っ取り)
- 907 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 16:51:21 ID:KZEsJX/kO
それと、音楽祭参加作品で
/ ,' 3 荒巻老人は80代にして妻以外の女性を愛したようです
('A`)おしりをかじらなければ虫になるようです
ξ゚听)ξ わるいひと! ζ(゚ー゚*ζ のようです(性的な意味で注意。大したもんじゃないけど)
こんな感じです。全部短編
- 908 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 17:20:20 ID:MVsTRiqE0
- けっこう投下してるんだな
もう即興スレ立てはやらないの?
- 909 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 17:42:29 ID:u2Pm.uNcO
- 実は俺、ふたなりだしまきも、ふたりでなかだしも楽しみにしてるんだ…
- 910 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 18:29:20 ID:O5pVNULMO
- いつ即興スレ立て頼まれてもいいようにタイトル考えたりしてるんだぜ
まぁ、今は穴本をめちゃくちゃ楽しませてもらってるからいいけど
- 911 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 20:53:24 ID:Zeht8NrQO
- まじかよ、好きなのばっかりじゃん…ハメられた…
小泥棒と荒巻老人は特に好き!
- 912 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 21:09:05 ID:4Lg7mP.U0
- 川 ゚ -゚)ルなナイトは俺が釣られたんだっけな……なつかしい
- 913 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 21:11:06 ID:zxX9bAMs0
- 全部現行で読んだけど読み直したくなったな...
前は花束がまとめてたけど他にまとめてるところあるっけ?
- 914 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 21:20:19 ID:4Lg7mP.U0
- >>913
ここに(一部だけど)まとめの場所がのっけてある
http://boonmatomato.wiki.fc2.com/wiki/%E2%97%86EpvQephXIa3b
- 915 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 21:59:13 ID:K.FhgQbcO
- ここでもまとめられてるよ
http://boon.choitoippuku.com/
- 916 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 22:05:55 ID:MVsTRiqE0
- >>915
初めて見たわそのサイト
すごいな
- 917 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 22:33:18 ID:zxX9bAMs0
- http://hookey.blog106.fc2.com/blog-entry-1249.html
かぎまとめさんにリンクあったああああ
ブーン系ってイイよね
- 918 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 22:36:55 ID:z7sL4oDYO
- 音楽祭以外は全部読んでたw
全部面白いって凄いな……
音楽祭のやつ読んできます。
ありがとう。
- 919 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/16(月) 23:26:19 ID:KZEsJX/kO
- >>908
いつか、またやりたいなーと思ってます
>>915
名前出したことある作品は全部まとめてある! すげえ!
今まで知りませんでした、いっぷくさんありがとうございます
- 920 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/17(火) 10:11:40 ID:ZobHEUfEO
- デレえろい
次いつ頃だろ
- 921 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/17(火) 18:52:45 ID:APkkiQMEO
- まとめからきますた
おもしろいすぎる
- 922 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/17(火) 20:37:53 ID:rsn94Gbs0
- まとめから()
- 923 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/20(金) 13:13:46 ID:FcGyqUJoO
- 音楽祭読んできた!
荒巻老人感動するねぇ。
こういうのすごく好き。
- 924 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/20(金) 15:40:03 ID:BKZB2tvgO
- あないやらしや官能小説はまだですか?
- 925 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/20(金) 19:01:58 ID:bZykd/Ss0
- >>924
今回のが似たようなもんなのではなかろうか
作者しぃだし
- 926 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/20(金) 20:05:24 ID:m94S/VHkO
- 拳の王の人だったんだ!
- 927 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/22(日) 00:11:34 ID:PDTUQGCwO
- 次の投下が待ち遠しすぎる…
- 928 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/22(日) 12:06:50 ID:VLJ8rT120
- おもしろい!
- 929 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 21:51:21 ID:ZkFfvWJMO
- 六話後編が思いのほか長くなり、未だ書き上がっておらず
さらに言うと、このスレの残りレス数に間に合わない長さになってました
というわけで、とりあえず番外編的なアレやソレやで埋めていきたいと思います
六話後編は書き上がったときに新しくスレを立てて投下することにします
ひとまず今回は短い番外編を二つほど投下しマッケローニ
- 930 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 21:52:20 ID:ZkFfvWJMO
(*・∀・)「それでねニュッ君、そこで主人公が女の子に櫛をあげてるでしょ?
ここ結構迷ったところでさあ、敢えて何もしない方がいいかなーとも
思ったんだけどね、やっぱり分かりやすいアイテムが必要かなって考え直したんだ」
( ^ν^)
(*・∀・)「それとそれと、こっちのペラペラ」
( ^ν^)
(*・∀・)「ペラペラペラペラ」
( ^ν^)
(*・∀・)「ペラペラペラペラペラペラ」
( ^ν^)
- 931 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 21:53:08 ID:ZkFfvWJMO
(*・∀・)「どう!? ニュッ君!」
( ^ν^)
(*・∀・)
( ^ν^)
( ・∀・)
( ^ν^)
( ;∀;)
(;^ω^)「ニュッ君、せめて一言だけでも反応してやって」
( ^ν^)「うざい」
( ;∀;)「ニュッ君の馬鹿ぁああああ!!」ダッ
*****
- 932 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 21:53:54 ID:ZkFfvWJMO
ハハ ロ -ロ)ハ「ニュッ君ー。新作読んでくれマシター?」
( ^ν^)「ん」
ハハ ロ -ロ)ハ「あのネ、あのネ、最後のトコ、結構悩んだノ。
主人公を生かすカ殺すカ、どうしようッテ。
ドッチにしても、それぞれ違う余韻が残るデショ?」
( ^ν^)「ああ、どっちでも悪くない終わり方だと思う」
ハハ ロ -ロ)ハ「デショ! だからネ、ぼかしてみたノ。ドッチにも取れるように。
どうデシタ? やっぱり、はっきり書いた方が良かったデスカ?」
( ^ν^)「あれでいいんじゃねえの。面白かった」
ハハ*ロ -ロ)ハ「面白カッタ? ヤッタ!」
( ・∀・)
( ・∀・)「ニュッ君、ハローのこと好きなのかなあ」
ξ゚听)ξ「ハローが特別なんじゃなくて、単にモララーがうざっtむぐっ」
(;^ω^)「ツンちゃんお口チャック!!」
番外編 あな欝陶しや、茂等モララー
- 933 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 21:54:54 ID:ZkFfvWJMO
( ・∀・)「……いや、大体予想ついてたよ」
( ・∀・)「ニュッ君に嫌われてるって」
( ^ω^)(嫌われてるというより、うざがられてるだけでは)
( ・∀・)「何か俺にだけ殊更冷たく振る舞うんだもん。
一週間ぶっ通しで口聞かなかったことすらあったもん。
口聞かなかったっていうかニュッ君が返事してくれなかったっていうか」
( ^ω^)「まあ、クックルだって執筆が仕上げの段階に入ったら
全然喋らなくなるし……」
( ;∀;)「クックルの場合はあいつが部屋から出てこなくなるからでしょ!
俺は自分からニュッ君に話しかけてんだよ!
話しかけてんのに何も答えてもらえないんだよ! 無視されるんだよ!!」
ξ゚听)ξ「どうしても気持ち悪さが滲み出るからじゃないかしら」
( ;∀;)「気持ち悪くないもん!!」
( ^ω^)(気持ち悪い……)
- 934 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 21:56:00 ID:ZkFfvWJMO
( ;∀;)「うっ、ううううう……」
( ^ω^)「泣くなお泣くなお。
ほら、たまたまニュッ君が本とかに集中しすぎてて、
モララーの声が聞こえなかったー、なんて感じかもしれんお」
( ;∀;)「……ニュッくーん!」
( ^ν^)
( ;∀;)「ニュッ君ってばー!」
( ^ν^)
ξ゚听)ξ「ニュッ君」
(^ν^ )「何だよ」
( ;∀;)「ほーら見ろ! ほーら見ろ!
うわあああああん、そんなに俺が嫌いなら出ていってやるよ畜生ー!!」
- 935 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 21:56:48 ID:ZkFfvWJMO
( ^ω)ξ ゚) ≡≡≡≡( ;∀;)ウワアアアン!!
ξ゚听)ξ「急に走り出したわ」
( ^ω^)「夕飯までには帰ってこいおー」
≡≡≡(;∀; )「かーえーりーまーせーんー! 家出だよ! 引き止めるなよ!?」
ξ゚听)ξ
( ^ω^)
( ^ν^)
≡≡≡≡≡( ;∀;)「本当に引き止めない! あああああああん!!」
*****
- 936 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 21:58:17 ID:ZkFfvWJMO
〜スーパー前〜
ζ(゚ー゚*ζ(特売日って素晴らしいね)
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ「女の子の人だかりが……うわあ、凄まじい黄色い声」
ζ(゚ー゚*ζ「……何だろう」
(*;∀;)「あっちょっやめて、くすぐったいです、くすぐった、いやん!
さ、撮影? 何の話? いや着物は普段着で……。
うわあああん、やわらかい! いい匂いがする! 頭がフットーしそうだよう!」
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ(見なかったことにしよう)
(*;∀;)「あっ、デレちゃん! 助けてぇええ!!」
ζ(゚ー゚;ζ「こっ……こっち来んな!!」
*****
- 937 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 21:59:10 ID:ZkFfvWJMO
ζ(゚ー゚;ζ「家出ですか」
( ;∀;)「だってニュッ君がニュッ君が」
ζ(゚ー゚;ζ「何歳児ですか……。はいティッシュ。鼻水出てますよ」
( ;∀;) チーン グシグシ
ζ(゚ー゚;ζ「涙も拭いて。……ああ、もう、動かないでくださいねー」
アリガトウ ( ;∀□⊂ζ(゚ー゚;ζ イエイエ
( ・∀・)+ キリッ
ζ(゚ー゚*ζ「よし、綺麗になりました。あのねモララーさん、
素直にニュッさんに『無視しないで』って言えばいいと思いますよ」
( ・∀・)「えー」
ζ(゚ー゚*ζ「では、さようなら」
- 938 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:00:07 ID:ZkFfvWJMO
ζ(゚ー゚*ζ ,,, (・∀・ )
ζ(゚ー゚*ζ ,,, (・∀・ ),,,
ζ*゚ー゚)ζ (・∀・ )
ζ(゚ー゚*ζ「何ですか?」
( ・∀・)「帰りたくないから、デレちゃんについていこうかなって」
ζ(゚ー゚;ζ「ついてこられても……。ショボンさんのところに行ってみたらどうです?」
( ・∀・)「やだよ……いじめられるもん……」
ζ(゚ー゚;ζ「おうち帰ればいいじゃないですか」
(・∀・ )「今日一日は帰らない。みんなで心配すりゃいいんだ。ふん」 ツーン
ζ(゚ー゚*ζ(……心配するのかなあ……)
- 939 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:01:13 ID:5SJRZMIcO
- タイトルひでえと思ったけど本気でうざいなwwww
- 940 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:01:35 ID:ZkFfvWJMO
〜その頃のVIP図書館〜
( ^ω^)「あ、このクッキー美味しいお」
ξ゚听)ξ「うん。あんまり甘くなくていいわね」
ハハ ロ -ロ)ハ「ニュッ君は食べナイノ?」
ξ゚听)ξ「本読むのに夢中だから」
ハハ ロ -ロ)ハ「美味しいデスヨ、アーン」
( ^ν^)「……」
ハハ ロ -ロ)ハ「アーン」
( ^ν^) サクサク
( ^ω^)「あっ急に僕の両手が使えなくなった!!
ツン! 僕にクッキーを食べさせてくれお! さあ!!」
ξ゚听)ξ「分かったわ、口開けて」
(;^ω^)「ツンさん、その鷲掴みにした大量のクッキーをどうするつもりであばばばば」
( ^ν^) モシャモシャ
( ^ν^)(……何か忘れてるような……)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
- 941 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:02:51 ID:ZkFfvWJMO
ζ(゚ー゚*ζ「で、私についてきてどうするつもりなんですか?」
( ・∀・)「あわよくば泊めてもらえないかなあって思ってる」
ζ(゚ー゚;ζ「泊めませんよ! 一人暮らしの家に殿方泊めるほど馬鹿じゃありません!」
(;・∀・)「えー! 俺の本に巻き込まれた主人公は泊めてたじゃん!」
ζ(゚ー゚;ζ「あのときはお父さんもお母さんもいたから……」
(;・∀・)「だってさ、だってさ、演じ終わった後にすぐホテル予約出来てたからともかく、
もしもあの人がずっとホテル見付けられなかったら、
結局翌日からはデレちゃんとあの人の2人きりになってたんじゃないの!?」
ζ(゚ー゚;ζ「そ、それはそうですけど……ミルナさんは真面目だし優しかったから、
別に危なくないかと……」
(;・∀・)「俺だって真面目だよ! 優しいよ! 何にもしないよ!」
ζ(゚ー゚;ζ「真面……目……?」
(;・∀・)「えっ嘘! 不真面目に見えるの!?」
ζ(゚ー゚;ζ「真面目というか……マトモには見えないような」
(;・∀・)「デレちゃんに言われたくない!」
ζ(゚ー゚;ζ「あー! 言いましたね! 絶対泊めません!!」
(;・∀・)「あっ違う違う、ごめんなさい!」
*****
- 942 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:04:35 ID:ZkFfvWJMO
〜長岡家〜
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ「結局連れてきてしまった」
(*;∀;)「ありがとう、デレちゃん優しい……」
ζ(゚ー゚*ζ「いや、だってまさか数メートル離れた瞬間にモララーさんが
見知らぬおば様に連れてかれそうになるとは思わないじゃないですか……」
〜〜数十分前〜〜
ζ;゚ー゚)ζ デレチャァアアン (;∀; )⊂(゜д゜@ アラヤダ アンタ カッコイイジャナイ
〜〜〜〜〜〜〜〜
( ;∀;)「だから1人で外出するとああなるんだってば……」
ζ(゚ー゚;ζ「ええー世の中のイケメンってみんなそうなんですか?
そんなに肉食系女子が猛威を振るってる時代なんですか?」
( ;∀;)「恐かった……凄い札束を懐に捩じ込まれかけた……」
ζ(゚ー゚;ζ「完全に買われる寸前でしたね……」
- 943 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:05:46 ID:ZkFfvWJMO
( ;∀;) エグッエグッ
ζ(゚ー゚;ζ(……1人にしたら攫われちゃいそうだなあ……)
*****
( ・∀・)「なんだかんだで一泊させてもらえることになったぞ!」
ζ(゚ー゚;ζ「今日だけですからね、今日だけ」
(*・∀・)「ありがとうデレちゃん!」
( ・∀・)「でもねデレちゃん、あんまり簡単に男を泊めちゃ駄目だよ。
今回は俺だったからいいものの」
ζ(゚ー゚;ζ「そんなん分かってますよ!
余裕出来た途端に説教始めやがって腹立つ!!」
*****
- 944 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:06:29 ID:ZkFfvWJMO
〜なんやかんやあって夜〜
(*-∀-) ウトウト
「――……ー……」
「……ラー……」
(*・∀-)「んー……」
(#^ω^)「モララー!」
(;・∀・)「うわあああああ!?」
(#^ω^)「お前はデレちゃんに迷惑かけよってからにもう!!」
(;・∀・)「館長!? な、何で!」
ζ(゚ー゚*ζ「私が呼びました」
(;・∀・)「裏切り者ー!」
- 945 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:07:36 ID:ZkFfvWJMO
ξ゚听)ξ「帰るわよ、モララー」
( ;∀;)「やだぁあああ! 俺まだニュッ君のこと許してないからね!」
(#^ω^)「ニュッ君も待ってるから早く帰るお!」
( ;∀;)「え……」
( ;∀;)「ニュッ君待ってんの? 俺を?」
ξ゚听)ξ「というかそこにいるけれど」
( ;∀)ξ゚听)ξσ (^ν^|壁
( ;∀;)「めっちゃ距離とられてんじゃん! やっぱ駄目だ!!」
壁|^ν^)
( ^ω^)「ほーらニュッ君ー?」
壁|^ν^)「……悪かった」
( ;∀;)
壁|^ν^)
( ;∀;)「ニュッ君が謝った……言わされてる感満々だったけど……」
- 946 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:08:32 ID:ZkFfvWJMO
( ^ω^)「ニュッ君はモララーを嫌ってるわけじゃないお。
ただ……何て言うか、うん」
ξ゚听)ξ「欝陶しい」
壁|^ν^)" コクリ
( ;∀;)「うっ、欝陶しい……!?」
ζ(゚ー゚*ζ(自覚皆無なんだ……)
( ^ω^)「モララーがべらべらぴいぴいうるさいからニュッ君が閉口するんだお」
( ^ω^)「まあニュッ君もニュッ君で露骨に無視するのは良くないけど」
壁|^ν^)「……」
( ^ω^)「だから、モララーはもうちょっと大人しく。
ニュッ君はもうちょっと……せめて普通に相槌ぐらい打つようにしなさいお」
ξ゚听)ξ「分かった?」
( ;∀;)「はあい……」
ξ゚听)ξ「ニュッ君」
壁|^ν^)「……おう」
- 947 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:09:37 ID:ZkFfvWJMO
( ^ω^)「うっし解決。ごめんおデレちゃん、うちの馬鹿が」
ζ(゚ー゚*ζ「いえいえ。仲直り出来たようで何よりです」
( ^ω^)「帰るおー。……ところでモララー、その格好何だお」
( う∀;)「デレちゃんのお父さんの服……パジャマ代わりにって」
( ^ν^)「丈足りてねえじゃねえか」
( ^ω^)「はいはいモデル体型ワロスワロス」
ξ゚听)ξ「洗って返すわね。そういえばモララーの着物は? 持って帰るわ」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、ここ」
ξ゚听)ξ「ん。じゃあ、おやすみなさい」
( ^ω^)「おやすみおー」
( ・∀・)「おやすみ……ありがとうデレちゃん」
ζ(゚ー゚*ζ「おやすみなさーい」
*****
- 948 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:10:11 ID:ZkFfvWJMO
( ^ω^)「ったく……デレちゃんが連絡くれなかったら、本気で一泊してたのかお」
( ・∀・)「ごめんなさい……」
ξ゚听)ξ「子供みたいなこと、しないでね」
( ・∀・)「はい……」
( ^ω^)「ニュッ君もしっかりモララーの相手してあげるんだおー」
( ^ν^)「んー」
( ・∀・)「……俺の話、ちゃんと聞いてくれる?」
( ^ν^)「それなりに」
(*・∀・)「おお……!」
(*・∀・)「『うざい』とか言わない!?」
( ^ν^)「控える」
(*・∀・)「おおおお……!」
- 949 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:11:44 ID:ZkFfvWJMO
(*・∀・)「そっか! やった! あのね、デレちゃんは俺の話無視しないの!
やっぱり返事してもらえるのって、すごくいいよね! キャッチボール!」
(*・∀・)「あ、デレちゃんといえばね、デレちゃんの家で過ごすの面白かったよ!
漫画読んだり学校での出来事聞いたり……。
デレちゃんの着替えに鉢合わせるっていうハプニングもあったけどさ」
(*・∀・)「お風呂も気持ち良かった! 他人のお風呂場って何か新鮮でいいね!
あとあと、デレちゃんの作ったご飯美味しかったなあ。親子丼。
ご飯の後はゲームとかトランプとかして遊んだよ!
もうね、2人して笑いまくったね」
(*・∀・)「すっごく楽しかった! デレちゃん大好き!!」
( ^ν^)
( ^ν^)「誰にも迷惑かからない場所で内臓ぶちまけて死ね」
( ;∀;)「館長何か悪化したんだけどぉおおおお!?」
( ^ω^)「いや今のは100パーセントお前が悪い」
番外編 終わり
- 950 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:13:43 ID:ZkFfvWJMO
- もう一個もっと短いやつ投下しマカロニ
- 951 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:16:58 ID:ZkFfvWJMO
(*゚ー゚)「ニュッちゃーん! ニュッちゃんはどこだー!!」
ヾ(#゚;;-゚)ノシ
(*゚ー゚)「見付かんねえ……。でぃちゃん、罠仕掛けよう罠!」
(#゚;;-゚)「?」
(*゚ー゚)「ここに、こう……私が自作したデレちゃんおっぱいマウスパッドを置いてだな、
これを拾ったら網が落ちてくる感じに……」
(#゚;;-゚) ホゥ…
( ゚∋゚)「廊下で何してんだお前ら」
(*゚ー゚)「あっクックル! 何、ちょいとニュッちゃんを捕らえる罠をだね……」
( ゚∋゚)「それに引っ掛かるのお前ぐらいしかいないぞ」
番外編 あな労しや、堂々クックル
- 952 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:18:26 ID:ZkFfvWJMO
(*゚ー゚)「何を仰る。私が実際に揉んだことによって得たデータを元に、
忠実に再現したデレちゃんおっぱいだよ? クックルだって欲しいでしょ?」
( ゚∋゚)「いや別に」
(*゚ー゚)「嘘だ! でぃちゃんは欲しいよね!?」
(#゚;;-゚) イラナイ
(*゚ー゚)「マジか」
( ゚∋゚)「お前、本気だったのか……」
(*゚ー゚)「本気だったわ……。
ねえねえ、ニュッちゃん見付からないんだけど知らない?」
( ゚∋゚)「バイト」
(*゚3゚)「えー。今日は休みじゃなかったのかよー」ブーブー
(#゚;;-゚) ブーブー
- 953 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:19:16 ID:ZkFfvWJMO
( ゚∋゚)「ニュッ君に何か用でもあるのか?」
(*゚ー゚)「新作出来たから読んでほしいなあと」
( ゚∋゚)「ああ、なるほど。そろそろバイト終わる時間だし、少し待ってろ」
(*゚ー゚)「眠いんだよ! 徹夜で仕上げたから眠いんだよ! 今から寝んだよ!」
( ゚∋゚)「……じゃあ、俺が渡しておこうか。ニュッ君迎えに行くし」
(*゚ー゚)「おお……任せていい?」
( ゚∋゚)「おう」
(*゚ー゚)「ありがとう! 読んでるときのニュッちゃんの様子をよぉおっく観察して、
後で詳細に教えてね!」
( ゚∋゚)「? ああ」
≡≡≡ヽ(*゚ー゚)ノ「ひゃっほう、寝るぞ!」
≡≡≡ヽ(#゚;;-゚)ノ
( ゚∋゚)(テンション高いな……)
*****
- 954 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:20:08 ID:ZkFfvWJMO
〜駅前〜
( ゚∋゚)(ちょっと早く来過ぎたか)
o川*゚ー゚)o「あ」
( ゚∋゚)「ん?」
o川*゚ー゚)o
( ゚∋゚)
o川;*゚ー゚)o
( ゚∋゚)「キュート」
o川;*゚д゚)o「くっ」
o川;*゚д゚)o「くく……くくく、くっくっく……っ」
(;゚∋゚)「悪役の笑い声みたいになってるぞ」
- 955 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:22:30 ID:ZkFfvWJMO
o川;*゚д゚)o「く、クックル……さん」
( ゚∋゚)「学校帰りか。どこ行くんだ?」
o川;*゚д゚)o「きき、喫茶店にでも寄ろうかと思ってただけですけど!
えっ何一緒に行きたいってそんな積極的な別に構わないけど」
( ゚∋゚)「いや一緒には行かないが。あんまり寄り道するなよ」
o川;*゚ー゚)o「あなたに言われる筋合いないし! 寄り道ぐらいで注意されたくないし!」
( ゚∋゚)「前にチンピラに絡まれてただろ。心配なんだよ」
o川;* д )o「ぐわあああああ! ばーか! ばーか!!」キュゥウウン!!
(;゚∋゚)(心配しただけなのに奇声と罵声を浴びせられた……)
o川;*゚ー゚)o「駄目だ……色々と不意打ちすぎて心臓がもたない……」ゼーハー
(;゚∋゚)「大丈夫かお前」
o川;*゚ー゚)o「大丈夫平気無事」ゼーハーゼーハー
(;゚∋゚)(何一つ当て嵌まってなさそうなんだが)
- 956 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:23:33 ID:ZkFfvWJMO
o川;*゚ー゚)o「……ん」
o川*゚ー゚)o「何、それ。綺麗な色……」
( ゚∋゚)「これか? 本だ」
o川*゚ー゚)o「それは分かる」
( ゚∋゚)(ああ、図書館に置いてくりゃ良かったな。
わざわざ持ってくる必要はなかったか……)
o川*゚ー゚)o「見ていい?」
( ゚∋゚)「おう」
o川*゚ー゚)o パラパラ
o川*゚ー゚)o パラ……
o川*゚ー゚)o
( ゚∋゚)(しぃが書いたやつだしな……SFかサスペンスか……)
o川*゚ー゚)o
o川;*゚ー゚)o
o川;//д//)o
- 957 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:25:53 ID:ZkFfvWJMO
( ゚∋゚)「キュート? 顔が赤――」
「へへへ変態ぃい!!」
o川;//д/)☆))゚∋゚) 「ちわわっ!!」
⊂彡 ドバチィイイイイイン
「真面目な人だと思ってたのにぃいいいい! わああああああん!!」 ピュー!! ≡≡≡o川*;д;)o
(#)゚∋゚) 電子辞書プレイって何だよ畜生ぉおお!! >
(#)゚∋゚)「……え?」
*****
- 958 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:27:17 ID:ZkFfvWJMO
(*´ー`)「うっふふう……ニュッちゃんの夜のお供になるかしらん……新作の官能小説……」zzz
(#゚;;-゚)
(#゚;;-゚)「電子辞書プレイはないわ」
番外編 終わり
- 959 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:32:07 ID:ZkFfvWJMO
- オチも意味も無い
こんな感じに、gdッgdな番外編でスレを埋めていこうと思ってます
>>929で書いた通り、六話後編は後で新しく立てたスレで投下するつもりです
ではでは今回は一先ずこの辺で
読んでくださりありがとうございます
- 960 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:36:05 ID:hETXbWLY0
- おもしれーなー
- 961 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:44:04 ID:5SJRZMIcO
- 乙ー
このクックルはもげなくていいや
- 962 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/24(火) 22:47:29 ID:OaOJCqRY0
- 乙
なんだかんだとブーンの言うことは聞くんだなニュッ君
- 963 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/25(水) 00:20:31 ID:7Hoafybs0
- ツン強めのツンデレなニュッ君にニヤニヤせざるをえない
- 964 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/25(水) 11:18:41 ID:6m0Gn8xQ0
- 番外編とか超うれしい
乙乙
- 965 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/26(木) 23:28:11 ID:CeTmm/NY0
- 実際デレちゃんおっぱいマウスパッドを渡されたらニュッくんはどんな反応するのか…
- 966 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/27(金) 20:11:06 ID:2/AZVnjU0
- あれ?イラストの集合絵のURL繋がらないんだけど
- 967 名前:名無し:2011/05/28(土) 01:56:11 ID:/N8q0i4gO
- ニュッ君可愛いよニュッ君
- 968 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/29(日) 17:18:59 ID:7l/bpQvQ0
- 面白かった!
続きが気になる
- 969 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/05/31(火) 18:31:01 ID:G8YEa3iQO
- 一気読み完了
みんなかわいいよかわいい
- 970 名前:ヌーん:2011/06/02(木) 23:40:56 ID:LC2szWgIO
- ニュッ君がかわいすぎる‥
- 971 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 11:44:01 ID:4Ek9c.ao0
- (卍)=3 (^ν^ )ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙
- 972 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:11:58 ID:gslfhTKcO
- >>965
⊂( ^"ν^) いらねえって言ってんだろ!!
/ ノ∪
し―-J |l| |
人ペシッ!!
__
\ \
 ̄ ̄
(;*゚ー゚)「丹精込めて作ったのに!!」
六話後編書き上がりました
後編だけで五話目以上の長さになってしまったので、急遽「中編」と「後編」に分けます
中編投下は今日の夜中か、明日の夜にでも
先にスレ埋め
番外編投下しマダム
- 973 名前:※少しだけ閲覧注意※:2011/06/04(土) 19:13:04 ID:gslfhTKcO
――長岡デレがVIP図書館と出会うより2ヶ月前。
夏のお話――
(´・ω・`)
ぱちん。
己が事務所のソファに寝そべっていた遮木ショボンは、腕に止まった蚊を掌で潰した。
ティッシュペーパーで死骸を掴み、ごみ箱に放り投げる。
と、同時に、事務所のドアが開いた。
見知った顔。ショボンは体を起こし、「いらっしゃい」と声をかけた。
ξ゚听)ξ「お邪魔します……あ、涼しい」
(;^ω^)「ショボン、助けてくれお……」
(´・ω・`)「100万」
(;^ω^)「相談する前から料金請求すんな! しかも何を想定してそんな高額を!?」
友人の内藤ホライゾンと、付き添いのツン。
ショボンの向かいのソファへ腰掛ける。
(´・ω・`)「君がわざわざ事務所にまで来て依頼するなんて珍しいからね。
で? どうせ本の話でしょ?」
ξ゚听)ξ「当たり」
(;^ω^)「……そう難しい話でもないんだお。ターゲットも確定してるし」
(´・ω・`)「じゃあ自分で行けよ」
(;^ω^)「行ったお。……行って失敗したからお前に頼みに来たんだお」
内藤に向けて怠そうな表情を浮かべてやると、内藤は両手を合わせ、頭を下げた。
ここまで下手に出るとは珍しい。何やら深刻な問題があるようだ。
- 974 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:13:35 ID:gslfhTKcO
(;^ω^)「頼むお! ニュッ君がもう怒り心頭で、早く何とかしないと……」
(´・ω・`)「何とかしないと?」
ξ゚听)ξ「そろそろモララーに八つ当たりし始めるわ。というか始めてるわ」
いいんじゃないの、別に。
冷めきった声で、ショボンは言い捨てた。
(;^ω^)「いや、それでモララーが逃げたらどうなると思うお!?
次は僕が八つ当たりの餌食になるに決まってるお!」
(´・ω・`)(ああ、モララーの心配じゃなくて自分の心配ね)
(;^ω^)「ニュッ君の機嫌があんなに悪くなったのは久々だお……。
いや普段から機嫌良さそうには見えないけど」
(´・ω・`)「いいからさっさと事の成り行き話せよ」
(;^ω^)「あ、そうだおね。――これを見てほしいお」
内藤がショボンに手渡したもの。
漫画。単行本。
おどろおどろしい表紙。
『恐怖のとき』、というタイトルらしい。
ξ゚听)ξ「オムニバス形式のホラー漫画なんですって」
(´・ω・`)「ふうん。作者は――指差プギャー。知らないな」
( ^ω^)「デビューは5年前。
これといったヒット作もなく、ぱっとしない漫画家だったらしいけど――」
ξ゚听)ξ「2年前に『恐怖のとき』を描き始めてから、人気が出てきたらしいの」
大体予想はついてきた。
本をぱらぱらめくりながら、話の続きを促す。
- 975 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:13:57 ID:gslfhTKcO
(´・ω・`)「それで?」
( ^ω^)「ニュッ君が、この漫画を本屋で立ち読みしたら……」
(´・ω・`)「――展開に見覚えがあった、と」
( ^ω^)「……だお」
番外編 あな悍ましや、ホラー漫画
新幹線。
ショボンは、隣に座る女性を横目で見た。
ブラウスから伸びる、細く青白い腕。
長い黒髪が、顔や首、背中を覆う。
まるで幽霊のような見た目をした女。山村貞子。
ショボンは視線を外し、昨日、内藤とツンから聞いた話を思い返した。
――いわく、『恐怖のとき』に掲載されている話は、全て貞子の作品そのまま。
違いがあるとすれば、登場人物の名前が少し変わっている程度。
(´・ω・`)『掌編が好きなんだっけ、貞子。なるほどね。それで漫画もオムニバス』
ξ゚听)ξ『オムニバスだけじゃなく、たまに特別編と称した長めの話もあるのだけれど』
( ^ω^)『それも貞子が書いた長編と展開が一致するんだお』
(´・ω・`)『ふむ。……なら、この指差君は貞子の本を何冊も持ってることになるね』
( ^ω^)『多分』
(´・ω・`)『それは分かったけど、どうしてニュッ君が怒るのさ』
- 976 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:14:21 ID:gslfhTKcO
( ^ω^)『何て言うか……「自分だけのため」に書かれた物語が、
第三者の手によって「大勢の人間のため」に、ばらまかれたわけだから』
ξ゚听)ξ『独占欲を踏みにじられたような。嫉妬――とはちょっと違うかしら』
(´・ω・`)『ああ。自分の彼女が、悪いお兄さんに攫われて風俗に売られる感じ?』
( ^ω^)『えぐい例え方すんなお。
……それで、この間、僕とツンが指差プギャーのところに行ったんだお』
「そんなの知らねえよ、妙な言い掛かりつけんじゃねえ」――
玄関先で、散々どやされたそうだ。
( ^ω^)『すごく恐かった……』
(´・ω・`)『やあだブーンちゃん情けない。
モララー……は泣いて帰ってくるから駄目か。クックルに任せれば?』
( ^ω^)『絶賛執筆中だお』
(´・ω・`)『あっそう。――はあ、面倒臭い……』
そうして現在、ショボンは他県に住む指差プギャーのもとへ向かっているわけだが。
川д川「……」
何故だか、貞子がお供を申し出たのである。
『恐怖のとき』を読み耽っている貞子に、ショボンは話しかけた。
(´・ω・`)「何で来たの」
川д川「……悪い……?」
(´・ω・`)「いや、悪くないけど」
- 977 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:14:40 ID:gslfhTKcO
川д川「……これ」
貞子が、漫画を閉じる。
嘆息。
川д川「ほぼ完璧なの……」
(´・ω・`)「展開とか台詞とか?」
川д川「……そうじゃなくて……。いや、それもそうなんだけど……。
間の取り方とか、アングルとか、表情とか、容姿とか……。
ほとんど、私のイメージと完璧に合ってるのよ……」
川д川「……何だか、描いた人に興味が出てきたの……」
(´・ω・`)「ふうん」
到着する。
貞子は鞄に漫画をしまうと、さっさと立ち上がった。
――新幹線から降りた2人は、メモに書いておいた指差プギャーの住所を確認した。
少し歩けば、すぐに辿り着く筈だ。
(´・ω・`)「暑いな。早く行こう」
川д川「ええ……」
ショボンの目の前を蚊が飛んだ。
振り払う。
首筋が、ちくちくと痛いような痒いような感覚に襲われた。
いつの間にか刺されていたようだ。舌打ちする。
(´・ω・`)「これだから夏は嫌なんだ」
*****
- 978 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:15:09 ID:gslfhTKcO
(#^Д^)「――だから! んなもん知らねえっつってんだろ!!」
マンション。ある一室の前。
指差プギャーは、自身の漫画をショボンに投げつけた。
(´・ω・`)「……ぶち殺すぞ……」
(#^Д^)「あ!?」
(´-ω-`)「……。ええと。こちらにいらっしゃる、山村貞子さんがですね。
あなたの描く物語に、大変見覚えがあると」
(#^Д^)「山村貞子なんて見たことも聞いたこともねえよ!!」
物凄くぶん殴りたい。
ショボンは眉間に寄る皺を指先で伸ばし、募る苛々を誤魔化した。
「知らない」。先程から、これの一点張りだ。
本当に知らないわけはない。
貞子を紹介した際、彼はあからさまに動揺した。
川д川「……私、怒ってるんじゃありません……。ただ、返してほしいだけで……」
(#^Д^)「何が目的なんだよ!? 大体なあ、証拠出してみろよ証拠!
あんたが山村貞子で、俺があんたの小説持ってるって証拠をよお!!」
川д川「……」
(#^Д^)「ったく、売れてくると頭おかしい奴が寄ってくるから嫌になるよなあ!」
(´・ω・`)(……強情な)
ショボンが口を開く。
しかし、彼が何かを言う前に、貞子の方が先に動いた。
川д川「……なら、帰ります……」
(´・ω・`)「は?」
- 979 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:15:33 ID:gslfhTKcO
驚くショボンを尻目に、鞄から本を取り出す。
ラベルが貼られた、黒いハードカバー。
彼女の本。
川д川「本、返してくれなかったこと……後悔しますからね……」
言って、本をプギャーに突きつけた。
プギャーは訝しげな顔をする。
( ^Д^)「……何だよ」
川д川「どうぞ、これも活用してください……」
呆気にとられる彼の手に本を握らせ、貞子は踵を返した。
プギャーへ会釈し、ショボンは貞子の後を追った。
(´・ω・`)「いいのか」
川д川「……あの本に、館長の名刺挟んどいたわあ……」
(´・ω・`)「それが?」
川д川「……明日、電話かかってくるでしょうね……」
くすくす。
それはそれは楽しそうに笑い、貞子は振り返った。
未だ立ち尽くしているプギャーに、言い捨てる。
川д川「夏は、虫、多いから……気を付けてくださいねえ……」
*****
- 980 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:16:27 ID:gslfhTKcO
――夜。
昼に訪ねてきた女、山村貞子を思い出して、プギャーは頭を掻きむしった。
( ^Д^)「……絶対に返すもんか……」
部屋の隅に詰まれた何冊もの黒い本を見下ろす。
数年前に知り合いから貰った本。プギャー好みのホラー小説。
初めは普通に読んで楽しんでいたのだ。
だが。
漫画家の血が騒いだ。
漫画にして表現してみたくなった。
勿論、発表する気はなかった。個人的な楽しみとして描いただけ。
鉛筆で手早く、雑に。けれど彼の趣味をふんだんに用いた手法で。
描いただけ。
ただ――編集担当が。
たまたま机に置いてあった、その落書きレベルの漫画を見て。
面白いから、原稿に描き直せと。
きっと売れるから、と。
( ^Д^)「……」
血迷ったのだ。
何を描いてもヒットしない。
果ては、描きたくないジャンルを無理矢理描かされ、それすら不発に終わる。
藁にも縋る思いだった。
「山村貞子」について、インターネットや図書館、書店で散々調べた。
彼女がまったく世間に知られていないのを確認する。
そして――『恐怖のとき』の連載が始まった。
( ^Д^)「……俺の、初めて成功した作品なんだ……返さねえぞ……」
本を撫で、プギャーはふらふらと洗面台へ向かった。
最悪な気分だ。
歯を磨いて、さっさと寝よう。
- 981 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:17:08 ID:gslfhTKcO
歯ブラシを口に突っ込み、雑に磨く。
不安が滲んだ。
山村貞子は存外あっさり帰っていったが、何を考えているのだろう?
( ^Д^)「……」
暴露されたら。
自分は――
( ^Д^)「……ん、え?」
不意に違和感。
喉から舌の付け根にかけて、ざわざわ、擽られるような。
ぶうん。ぶうん。
モーターに似た音が響く。
歯ブラシを引き抜き、プギャーは口を大きく開いた。
( ^Д^)
(;^Д^)「あ?」
靄が口から飛び出した、ように見えた。
靄。違う。
(;^Д^)「なっ、あ、は? あ、あが、」
大量の虫――蚊だ。
プギャーが腰を抜かす。
次から次へと、蚊の大群が喉の奥から流れ出る。
空気を吸えば、蚊が奥へと戻る。鼻で呼吸をすれば、口だけでなく鼻からも蚊が現れる。
喋るのも、息をするのもままならない。
舌や歯を動かせば、蚊が潰れ、嫌な感触と味が広がった。
- 982 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:17:37 ID:gslfhTKcO
わけが分からない。
辺りが黒くなっていく。顔や手に蚊がぶつかる。羽音がうるさい。
混乱の限りを尽くしたプギャーは、咄嗟に耳を塞いだ。
喧騒から逃れるためではない。妙な感覚があったからだ。
――柔らかいものに触れる。
指で摘み、恐る恐る、それを見た。
(;^Д^)「ひ」
白い。
蛆が。
知覚した途端、うじゃうじゃと、耳の穴から一斉に何かが這い出る感触がした。
*****
- 983 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:18:12 ID:gslfhTKcO
川д川「ニュッ君は怒ってたけどねえ……私は、ちょっと嬉しかったのよ……」
数日後。図書館。
段ボール箱で送られてきた本を手に取りながら、貞子は呟いた。
(´・ω・`)「嬉しい?」
川д川「私の本を、一番怖く、面白く見せる描き方で漫画にしてくれたんだもの……」
(´・ω・`)「ああ……何か言ってたね、そんなん」
川д川「残念だったわあ……。素直に認めてくれればおとなしく許してあげたのに……」
(´・ω・`)「何したのさ」
川д川「……漫画を見る限りじゃ、あの人のところにある私の本は
『生きてない』ものばかりだったわ……」
川д川「だから――『生きてる』本に、懲らしめてもらったの……」
ある一冊を引っ張り出すと、貞子はショボンの眼前に掲げた。
あの日、プギャーに渡したものだろう。
川д川「指差さんが悪い人だったら、思う存分彼を主人公にしてやってね……って、
事前に本には言っておいたわ……」
その作戦は、見事成功したらしい。
一体どんな話で懲らしめたのかは知らないが、何とまあ恐ろしいことだ。
貞子が笑う。
- 984 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:18:52 ID:gslfhTKcO
川д川「今は、ホラー小説が張り切る季節だしねえ……。……うふふう……」
(´・ω・`)「……これだから夏は」
ぱちん。
耳元で羽音を響かせた蚊を叩き、ショボンは溜め息をついた。
番外編 終わり
- 985 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:20:14 ID:gslfhTKcO
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシを、置いていくノ……?」
( ・∀・)「……ああ」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ドウシテ」
( ・∀・)「僕と君は結ばれてはいけなかったんだ」
ハハ ロ -ロ)ハ「ヒトリにしないで……」
( ・∀・)「1人じゃないだろう。お腹に赤ちゃんがいるじゃないか。
……それじゃあ――さよなら。君は君の愛する人と一緒になって」
ハハ ロ -ロ)ハ「待って! 待って……オネガイ……」
ハハ。ロ -ロ)ハ「……ワタシの愛する人ナンテ、アナタしかいないノニ……」
( -∀-)「……これで、良かったんだ。これで……」
ζ(;、;*ζ
ζ(;、;*ζ「こんなの……こんなのあんまりじゃないですか……!
何で2人は幸せになれないんですか、
ハローさんのお腹の赤ちゃんはどうするんですかぁあ……!!」
(;^ω^)「あのう、デレちゃん、演劇だから。素人の演劇だから。ね?」
番外編 あな騒がしや、VIP図書館
- 986 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:20:39 ID:gslfhTKcO
〜2時間前〜
ζ(゚、゚*ζ『……皆さんお揃いで。何してらっしゃるんですか? テーブル全部寄せて』
( ^ω^)『今から「演じる」んだお。そろそろ限界近そうな本が2冊ほどあるから』
ξ゚听)ξ『椎出姉妹の本が1冊ずつ。どちらも最後に演じたのは2年前ね』
ζ(゚、゚;ζ『2年も我慢してくれるもんなんですか』
( ^ω^)『しぃとでぃの言うことには、
これらの本が無性に演じてもらいたがってる「ような気がする」、らしいお』
ζ(゚、゚*ζ『へえー』
( ^ω^)『はい準備出来たおー! まずはでぃの本! 主演共さっさと来いお』
(*・∀・)ノシ『はーい! この一週間、頑張って台詞覚えたよ!』
ハハ ロ -ロ)ハ『デレ、見ててネ』
川д川『脇役待機しまあす……』
( ゚∋゚)『1人3役やらされるとは……』
( ^ω^)『そんじゃあ、スタート!』
ζ(゚ー゚*ζ『わー』パチパチ
〜〜〜〜〜〜
- 987 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:20:58 ID:gslfhTKcO
ζ(゚ー゚*ζ「結構しっかり演じるもんなんですね」
( ^ω^)「ああ、力の入れように関しては、みんなの気分だお。
お手軽に済ませたいときは、ぱぱっと台詞読み上げるだけで
終わらせる場合もあるし」
ζ(゚、゚*ζ「そういえばキュートちゃんの家で演じたときは
ほとんど台詞読むだけでした、たしかに。こう、みんなで一冊の本覗き込んで」
(*・∀・)「ああ疲れた! 誰か俺を褒めて!」
(*゚ー゚)「よし来いや。褒め倒してやる」
( ・∀・)「しぃは遠慮しとく」
ハハ ロ -ロ)ハ「デレ、どうデシター?」
ζ(゚ー゚*ζ「面白かったですよ」
ハハ*ロ -ロ)ハ「ワーイ」
(*゚;;-゚) パチパチ
( ^ω^)「次はしぃの本だけど……」
( ^"ν^)
( ゚∋゚)「主演ニュッ君だろ」
川д川「おいでニュッ君……」
( ^"ν^)
ξ゚听)ξ「……ニュッ君、舞台形式で演じるのは嫌みたいね」
ハハ ロ -ロ)ハ「イツモは何だかんだいってもチャントやってくれるノニ」
- 988 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:21:19 ID:gslfhTKcO
( ・∀・)「デレちゃんいるからじゃない? ニュッ君ったら恥ずかしがり屋なんだから」
( ^ν^) ☆));∀;)「理不尽!」
⊂彡
( ^ω^)「この調子ならどうせ台詞覚えようともしてないだろうし、
読み上げ形式に移行するかお」
( ゚∋゚)「舞台形式の方が楽だろうに」
ζ(゚、゚*ζ「台詞覚えなきゃいけない分、舞台のが大変じゃありませんか?」
川д川「台詞や展開を多少省けるし、台詞忘れてもノリとアドリブで何とかなるのよ……」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ、なるほど」
(*゚ー゚)つ□「ほい、本。せめて元気いっぱい朗読してね、ニュッちゃん」
ハイ (*゚ー゚)つ□⊂(^ν^ )
( ^ν^) パラパラ
( ^ν^)「『奥様のお子さん七五三ですってね。お祝いに、僕の股間の千歳飴を』」
≡≡≡( ^"ν^) ≡≡ヽ(*゚ー゚)ノ キャー
(*゚ー゚)「ちょっとした悪戯心じゃないっすか……」
( ^ν^)「死ね」
( ^ω^)「やあねえ、千歳飴ですって……」ヒソヒソ
川д川「細くて長い……」ヒソヒソ
( ^ν^)「みんな死ね」
- 989 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:21:49 ID:gslfhTKcO
(*゚ー゚)つ□「こっちが本物でげす」
( ^ω^)「ええと、主人公の台詞はニュッ君が読んで、ヒロインは……ツンだったおね」
ξ゚听)ξ「ええ」
( ^ω^)「台詞覚えてるかお?」
ξ゚听)ξ「舞台のつもりで覚えたから、省いてしまったところもあるわ」
( ^ω^)「じゃあニュッ君と一緒に本見るとして……。
脇役要員のクックルと貞子、しぃはどうだお?」
( ゚∋゚)「台詞のメモがある」
川д川「同じく。まあ要するにカンペねえ……」
(*゚ー゚)「自分の作品だから大体分かるわよん」
( ^ω^)「よし、んじゃあ始めてくれおー」
( ・∀・)「みんな頑張ってー」
ハハ ロ -ロ)ハ「読み上げ形式ダト、見てる方が退屈なんデスヨネー」
(#゚;;-゚) ネー
ζ(゚ー゚*ζ「動きがないですからね……ニュッさん物凄く棒読みだし」
( ^ω^)「おっおっお、棒読みに関してはツンも酷いもんだお。
まあ今回はロボット役だから、案外ぴったりかもしれんお」
ξ゚听)ξ「『ならば我々ロボットは』……」
ξ゚听)ξ「……ん、ニュッ君、少し読みづらいわ。ちょっとごめんなさい」
ミッチャクー
,,ξ゚听)ξ^ν^)
- 990 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:22:23 ID:gslfhTKcO
ξ゚听)ξ「ええ、と……『ならば我々ロボットは、人間への愛すら認められぬと』……」
ζ(゚、゚*ζ
( ^ω^)「おや、デレちゃん、もしや妬いていらっしゃる」
ζ(゚、゚;ζ「えっ!? いや、え!?」
( ^ω^)「おっおっお、隠さなくていいおー」
( ^ω^)「かくいう僕も、今すぐニュッ君と従兄弟の縁を切って奴の首絞めたいしね」
ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん逃げてぇええええ!!」
*****
川д川「館長からツンにストップかかりましたあ……」
ξ゚听)ξ「迷惑極まりないわ」
( ^ω^)「僕のツンたんと常時密着なんて、ニュッ君といえど許せんお」
(*゚3゚)「ツン抜けたら誰がヒロインやるんだよー」
ハハ ロ -ロ)ハ「ワタシはモウ疲れマシタ」
( ゚∋゚)「でぃ……は、喋らないしな」
(#゚;;-゚) ムリムリ
(;・∀・)「これはまさか……俺がヒロインに……!?」
( ^ω^)「ねーお。……いるじゃないかお、ここに。ねえデレちゃん」
ζ(゚ー゚;ζ「えっ」
- 991 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:22:43 ID:gslfhTKcO
( ^ω^)「さあさあさあ、ニュッ君の隣にどうぞ」
ζ(゚ー゚;ζ「えっ、えっ」
( ^ω^)「じゃあ、さっきよりちょっと前のところからスタート!」
ζ(゚ー゚;ζ(えー)
( ^ν^)「……」
( ^ω^)「ニュッ君始まってるおー」
( ^ν^)「……『俺は機械が嫌いだ』」
(*゚ー゚)「次デレちゃんの台詞ー」
ζ(゚ー゚;ζ「んっと、あれ? どこですか?」
ミッチャクー
( ^ν^ζ(゚ー゚;ζ,,,
ζ(゚ー゚;ζ「んー、んー……あ、ここか」
( ^ν^ζ(゚ー゚;ζ「わ……『私のことも』、えと、お、『お嫌いですか』……ですか!」
( ^ν^) ☆))ー゚;ζ「理不尽!」
⊂彡 (※力は入ってません)
( ^ν^)「邪魔」
ζ(;、;*ζ「つ、ツンちゃんは叩かなかったくせに!
顔ですか! 結局人間顔なんですか!!」
(;^ω^)「で、デレちゃんも充分可愛いお」
(;゚∋゚)(フォローするところはそこなのか)
- 992 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:23:12 ID:gslfhTKcO
( ・∀・)「女の子叩いちゃ駄目だよニュッ君」
( ^ν^) ☆));∀;)「だからってこっち来ないで!!」
⊂彡 (※全力です)
ξ゚听)ξ「仕方ないでしょニュッ君、本は一冊しかないんだから」
( ^ω^)「今からコピーするのも大変だしおー」
( ^ν^) チッ
ζ(゚、゚*ζ「……ニュッさんが嫌なら、やっぱり私やめますけど……」
ハハ ロ -ロ)ハ「アー。ニュッ君のセイでデレ傷付いたー」
(*゚ー゚)「いーけないんだいけないんだー」
(#゚;;-゚) ブー
( ^ν^)「……」
( ^ν^)「やるぞ早く」
ζ(゚ー゚*ζ「……はいっ!」
*****
- 993 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:24:05 ID:gslfhTKcO
〜大体1時間後〜
( -∀-) グーグー
ハハ ロ -ロ)ハ~゚ ファア…
(#゚;;-゚) ワクワク
ζ(゚ー゚*ζ「『それでは、私はここを出ます』――」
( ^ω^)「……よっし、一段落ついたおね。
一旦休憩するおー。モララーなんか完全に寝てるし」
(*゚ー゚)「人の書いた話を退屈だと言いたいんだな、そこの残念なイケメンは」
川д川「二枚目半とは、まさにモララーのためにあるような言葉よねえ……」
ξ゚听)ξ「紅茶持ってきたわ」
ζ(゚ー゚*ζ「やった! ありがとうございます、丁度喉渇いてたんです。
……あっ、ごめんなさいニュッさん、ずっとくっついてて」
( ^ν^)
ζ(゚ー゚*ζ「……ニュッさん?」
( ^ν^)
( ^ν^) バッターン
ζ(゚д゚;ζ「わあああニュッさん倒れたぁあああ!! あれ何か前にもこんなことが!?」
(;^ω^)「くそっ、休憩入れるの遅かったかお!!」
(*゚ー゚)「寧ろよく1時間持ったなと思うよ私は」
川д川「やっぱり女の子と密着1時間はニュッ君には無理ね……」
- 994 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:24:27 ID:gslfhTKcO
ニュッさーん! >
駄目デレちゃん! この上さらに顔近付けたら死んじゃう!! >
冷たいお水持ってキマース >
ニュッ君、俺と主人公替わるか? >
最初からそうすれば良かったんじゃないかしら >
林の中の、VIP図書館。
元々妙な住人が多くて賑やかだった洋館は、
ある客が訪ねてくるようになってからというもの、最近一層騒がしい。
騒がしくて――何とも、楽しげである。
番外編 終わり
- 995 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:26:12 ID:gslfhTKcO
――3人殺害――17歳――1年半に渡るいじめ――情状酌量――
<_プ−゚)フ
テレビ画面を見つめる。
事件そのものより、「犯人」が受けてきたいじめばかりが
クローズアップされているように思う。
キャスターが、「いじめていたグループ」と書かれたフリップを出した。
青い、人型のマグネットが4つ付けられている。
3つのマグネットが被害者という枠に移動させられた。
残った1つは、エクストだろう。
『この生徒は元々加害者の少年と親しく――』
キャスターはエクストのマグネットを指し、彼が殺されなかった理由を話し始めた。
ヒッキーとエクストの証言を軸にしてはいるが、キャスターの憶測も含まれたもの。
時折見当違いなことを言う。
けれど、真実を知る者などヒッキーとエクストぐらいしかいない。
無関係な人々は、各自で好き勝手に想像するより外ないのである。
未だ開けられぬチョコレート菓子の箱を見下ろして、エクストは目を伏せた。
番外編 あな危なっかしや、サスペンス小説 その後
- 996 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:26:37 ID:gslfhTKcO
<_プ−゚)フ
ひそひそ。こそこそ。
すれ違う生徒達が、エクストを見て何か話している。
あの事件に関することであろうと、考えずとも分かる。
生徒も教師も、エクストへの扱いが以前と変わった。
ある者は腫れ物に触るように。
ある者は汚いものを見るような。
孤立する。
独りきり。
ヒッキーは、これに加えてフォックス達からの暴力もあったのだ。
どんなに辛かったことだろう。
<_プ−゚)フ「……」
あてもなく廊下を歩く。
今は昼休み。
誰の目もないところで、時間を潰したい。
('(゚∀゚∩「エクスト君だよ!」
<_プ−゚)フ「あ」
突然声をかけられた。
クラスメートの、なおるよという少年。
最近やたらと彼に話し掛けられる。
('(゚∀゚∩「エクスト君、どこに行くんだよ?」
<_プ−゚)フ「別に、どこってわけじゃないけど」
- 997 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:26:56 ID:gslfhTKcO
('(゚∀゚∩「僕は今から自販機でジュースを買うんだよ! 一緒に行くよ!」
<_フ;゚−゚)フ「は? ちょ、」
腕を引っ張られる。
つんのめったエクストは、慌てて体勢を立て直した。
それにも構わずなおるよがどんどん歩いていくので、仕方なくついていく。
昇降口前の自動販売機に到着すると、なおるよは缶ジュースを2本購入した。
その内の1本をエクストに渡す。
<_フ;゚−゚)フ「?」
('(゚∀゚∩「あげるよ!」
<_フ;゚−゚)フ「……あ、ああ。サンキュ」
('(゚∀゚∩「いいよー」
ぱしん。なおるよがエクストの背中を叩いた。
('(゚∀゚∩「エクスト君、よくヒッキー君にジュースあげてたよ」
<_フ;゚−゚)フ「え」
見ていたのか。
驚くエクストに、なおるよが「何度か見たよ」と頷く。
('(゚∀゚∩「フォックスが恐くて、僕はヒッキー君に何もしなかったよ。
でもエクスト君はヒッキー君を励ましてあげてたんだよ。
……僕、自分が恥ずかしくなったよ」
- 998 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:27:49 ID:gslfhTKcO
('(゚∀゚∩「エクスト君。きっとヒッキー君は嬉しかったんだよ!」
<_プ−゚)フ
<_プ−゚)フ「……うん、分かってるよ」
プルタブを引くと、小気味よく弾けるような音がした。
缶の中身を口に含む。
美味しい。
以前、同じものをヒッキーに奢った気がする。
ヒッキーはありがとうと言って笑っていた。
あのとき、彼も、こんなに美味に感じたのだろうか。
('(゚∀゚∩「嬉しかったから、ヒッキー君はエクスト君に何もしなかったんだと思うよ!」
<_プー゚)フ「うん。……ありがとう」
何だか自分を見ているようで気恥ずかしくなり、エクストは顔を逸らした。
口元が緩む。
――家に帰ったら、菓子の箱を開けてみようと思った。
自分がヒッキーに与えた味が、知りたくなった。
番外編 終わり
- 999 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:32:05 ID:gslfhTKcO
- 投下終わりでっす
第六話中編は、今日の夜中か明日の夜に新しいスレを立ててから投下します
読んでくださった方、まとめてくれているブーン芸さん、いっぷくさん、ありがとうございました
ではでは
- 1000 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2011/06/04(土) 19:33:05 ID:gslfhTKcO
- 1レス余った
( ^ν^) ☆));∀;)
⊂彡
全部
最新50