以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:01:54.54 ID:Eyn62d7v0<>  
 男はその朝、警察による護送用車両の後部座席にいた。


| ^o^ | (糞……)


 滑稽な表情とは対称的に、
 彼は数日前に恐喝・暴行未遂の容疑で現行犯逮捕された犯罪者だった。
 先月、とある場所で起こった強盗事件についても関与の疑いがあり、
 余罪を追求されている身分である。


「おい、あまり体を動かすな」


 両脇を囲む警察官が顔を顰める。
 男は180センチを超える大柄な体格であり、
 ワゴンタイプの狭い車両は、彼自身も窮屈だと感じていた。


| ^o^ | (ふざけんじゃねえ。 絶対だ。 絶対に脱走してやる)


 とある高速道路上り線。
 護送車の内部はピリピリした空気に包まれていた。
 男の素行は宜しいとは言い難く、脇の二人も緊張感をもって職務にあたっていた。
<>(*゚∀゚) Channelers のようです 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:04:17.32 ID:Eyn62d7v0<>  
『 そうですね 』

| ^o^ | (……あん?)


 丁度トンネルを抜けたあたりだった。
 仏頂面で貧乏揺すりを続ける男の脳内に、
 聞いたことのない調子の “ 声 ” が響いてきたのは。


『 じっとする つまらないです 』

| ^o^ | (……なんだ?)

『 ころころ おもしろいです 』


 それは、どうにも間の抜けた感じの、甲高い裏声のような声色だった。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:06:31.13 ID:Eyn62d7v0<>  
| ^o^ | 「……おい、何か言ったか?」

「口を開くな。 大人しくしていろ」

| ^o^ | (ちっ……)


 男は眉間に皺を寄せ、訝しげな表情の警官を睨み返す。
 だが、声はそこで途切れることなく、より明瞭に彼の脳へ届いてくる。


『 おでかけ おでかけ らんらんらん 』

|; ^o^ | (……くそっ。 なんなんだこれ。 幻聴?)

| ^o^ | (手錠さえなけりゃ、こいつらを引き倒して問い詰めてやるのに)


 声は次第に耳を覆いたくなるほどの大きさとなって、幾重にも脳内で残響する。
 男は舌打ちとともに頭を振った。


『 つるつる たのしいです 』

Σ| ^o^ | (──!?)
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:09:06.76 ID:Eyn62d7v0<>  
 その瞬間だった。
 車体が左方向に大きく傾き、体重をかけられた警官が「ぐえ」と小さな呻きを発したのは。

 運転席の警官が異常を察知したときには、
 既に、小手先のハンドル操作ではどうすることもできない状態へ陥っていた。
 車両は暫くスピンした後、道路脇のフェンスへ接触し、芝生の上で横転した。


|  o  | 「うがあぁっ!?」


 当然、男の体も横倒しになり、リアシートからドアへと叩きつけられる。

 不幸中の幸いというべきか──護送車そのものは転倒のみの状態で済んでいた。
 だが、後続の車両は派手なブレーキ音とクラッシュ音を轟かせながら、
 次々と玉突きの惨禍に巻き込まれてゆき──。


 数分後、辺りは地獄絵図と化していた。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:12:39.11 ID:Eyn62d7v0<>  
 「大丈夫ですか!返事をしてください!」
 「は、早く救急車を」
 「痛い、痛い」
 「助けて、誰か……」


 クラクションに重なる悲鳴、そこかしこから漏れ出す苦痛の唸り声。
 ガソリンと煙の臭いが辺りを包む中、駆け寄る者達と、
 各車両から次々に這い出てくる血まみれの怪我人たち。


 「大変です! ──くんが──息を──」
 「いやあああ……」
 「──! 助け──お願いです──!」
 「お母さん! ねえ、お母さん!……」


 被害へ巻き込まれた中に大型車両は含まれていなかったが、
 うち数台の車に対し、走行中 『 原因不明のスリップ 』 が生じたことにより、
 事故は決して小規模なものに留まらなかった。

 玉突きの前部にいた救急車両に到っては、
 後続車の追突の勢いによって、中央分離帯へ乗り上げるような形で横転していた。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 22:13:12.88 ID:eUlD1fYh0<> きたああ!支援! <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:16:02.92 ID:Eyn62d7v0<>  
 横倒しになった護送車内。
 もうもうと立ち込める煙に、男は咳き込みながら上体を起こす。


|  o  | (う、くそ、一体何が……)


 これまた奇跡的にも、男は大事故と呼んで差し支えない周囲の惨状に際し、
 数箇所のかすり傷を負っただけだった。

 犯罪常習者の本能ともいうべきか、
 遠くからのサイレンを耳にした瞬間、男は完全に正気を取り戻し、
 置かれた状況を把握する。

 座席と男の体に挟まれ、警官の一人は苦痛に顔を歪ませていた。
 彼の体を探り、手錠と腰縄をはずした男は、
 破損した後部ドアを押し広げ、惨状の中を駆け出して行ったのだった──。

 
===
==

<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:17:11.60 ID:Eyn62d7v0<>  



                                   前々
        http://boonstyle.web.fc2.com/chane/chane.html




 纏
   http://kurukurucool.blog85.fc2.com/blog-entry-497.html

               http://boonfestival.web.fc2.com/channelers/list.html


<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:19:58.76 ID:Eyn62d7v0<>  

==
===


Σ(i||゚A゚) 「うわぁぁあぁああっ!?」


 勢いを上げて迫り来るガラスケースを前に、俺は顔を覆った。
 ──間に合わない。
 激突を覚悟し、固く両目を瞑る。


( A i||i) 「───!」

(;'Aノ)ノ 「……あれ?」


 ……だがその直後、想定していたような衝撃を俺が感じることはなかった。
 た、助かった……のか?
 腕を下ろし、恐る恐る前方へと目を向ける。


Σ(;'A`) 「あっ」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:21:48.49 ID:Eyn62d7v0<>  
 腰がひけ、ぺたりと尻餅をついた俺の前で、
 前方に向かっていっぱいに両腕を伸ばしている小さな後姿。
 白いカーディガンの裾が、ふわりと靡いた。


(  *゚)つ| 「……」


 そう。
 しぃちゃんが、ショーケースの両端を正面から受け止めていたのだった。
 少なく見積もっても二、三十キロはありそうなそれを、
 彼女はそのまま抱え上げ、ひょいと脇にどける。


(*゚ー゚) 「大丈夫でしたか?」

(;'A`) 「あ、ああ、ありがとう」


 彼女はそう言ってぽんぽんと手のひらをはたいた。
 正午の出来事と似たようなやり取りだったが、あの時と今では決定的な相違点がある。
 平和な路上とは異なり、現在のこの場所は修羅場以外の何物でもない。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 22:21:56.88 ID:eUlD1fYh0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:24:04.95 ID:Eyn62d7v0<>  
(;'A`) 「これ……これは……」


 そう、フロアは依然騒乱の最中にあった。

 呆気に取られる俺の前方、休憩スペースから滑走してきたジュースの自動販売機が、
 壁にぶつかって凄まじい音をたてた。

 ──超能力。 ようやくその言葉が頭を過ぎる。
 間違いない。
 あの大男、ただの万引き犯じゃあない。 チャネラーだ。


(;'A`) 「は、早く、逃げ──」


 起き上がった俺は、すぐさましぃちゃんの手を引き駆け出そうとしたが、


(*゚−゚) 「ドクオさん、怪我人を宜しくお願いします」

(;'A`) 「ああ……へ?」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:26:12.02 ID:Eyn62d7v0<>  
 対する彼女はぐい、と力をこめ、拒絶の意志を示した。
 そしてそのまま俺の手を払うと、


Σ(;゚A゚) 「ちょっ」


 瞬く間に、男のほうへと向かっていったのだ。

 駆け回る大男の手によって、今もなおレジカウンターや陳列台がそこら中で吹き飛ばされている。
 だが、もはやそれらは壁に到達することなく、轟音とともに横倒しになるばかりだった。
 床は破損した各種設備、服飾商品、照明器具などで滅茶苦茶な有様となっており、
 滑走するだけのスペースに乏しくなっていたからだ。

 そんな中、走り寄るしぃちゃんの目の前で、アクセサリー用の陳列ショーケースが弾けた。


(;*>−<)⊂ヽ 「!!」


 派手な音響とともにテナントの壁がひしゃげ、飛散するガラス片に顔を覆う。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:28:30.42 ID:Eyn62d7v0<>  
 しかし彼女はすかさず、割れ落ちたケースのアルミフレームを抱えると、


(*゚−゚) 「──やぁっ!」


 男のほう目掛け、横薙ぎに振るい、投擲した。


|  ^o^ |  つるつる ころころ

|  ^o^ |  ころ こ・・・


| ^o^ | 「!!」

Σ|; ^o^ | 「うおおおお!?」


 すんでのところで、男はそれをかわす。
 フレームだけのショーケースは後方へ向かい、やはり凄まじい音をたてて壁に衝突した。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 22:28:56.80 ID:/lZ77RfU0<> きてたあああああああああ支援! <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:30:07.12 ID:Eyn62d7v0<>  
|; ^o^ | 「ぐっ……?」

(;゚A゚) 「!」


 男が何事かと振り返った。
 だがそのときには、しぃちゃんは既にその懐へ飛び込んでいた。


(*゚ー゚) 「──っ!」


 彼女の両手がしなやかに伸び、大男の左腕をつらまえる。
 そのまま、男の腕を抱きすくめるようにしながら、瞬時に腰を反転させた。

 ──ぶん投げる。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 22:31:34.44 ID:eUlD1fYh0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:32:06.11 ID:Eyn62d7v0<>  
|; ^o^ | 「こ、このガキっ……」


 しかし。
 以前のように、暴漢を力任せに放り飛ばすイメージが俺の頭に浮かんだ瞬間、
 その予想は悪いほうに裏切られた。


(;*゚−゚) 「!!」


 つるり。


(*゚□゚) 「えっ……」


 しぃちゃんの手から大男の腕がすっぽ抜け、


(;'A`) 「!!」

(*>−<) 「きゃあ!」


 勢いのまま、彼女は前のめりに倒れこんだのだった。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 22:32:23.81 ID:Ht3satAO0<>  
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:34:07.68 ID:Eyn62d7v0<>  
 体の前面をしたたかに打ちつけたらしく、しぃちゃんは表情を歪ませ、苦痛に喘いでいる。
 そんな彼女の後ろにゆらり現れ、睥睨する巨大な影──。


Σ(;'A`) 「あっ……」

|#^o^ | 「オマエが……投げた、のか?」


 大男は壁に突き刺さったショーケース、それから目の前のしぃちゃんを交互に見ると、


|#^o^ | 「あぶねぇぇぇええだろぉぉぉおがああっ!!」

Σ(;* □ ) 「かはッ……!?」


 激昂し、その小柄な体を力任せに蹴飛ばした。


(;*>□゚) 「いつ……ぐ、な」

(;*゚ο゚) 「ええ? やっ……」


 彼女は蹴られた脇腹を抱え込むように身を縮める。
 丸めたその姿勢のまま、つつーっ……と。

 ──猛スピードで、床を滑走しながら。 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 22:37:21.08 ID:eUlD1fYh0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:38:33.42 ID:Eyn62d7v0<>  
(i||i゚A゚) 「し、しぃちゃ……!」

(;*゚□゚) 「やぁぁあああ──!!」


 驚く暇もなく、しぃちゃんの体はテナントの一つへ飛び込み、
 靴の陳列してある壁面収納へ、足先から一直線に突っ込んでいった。
 激突音のあと、台の上部からブーツが、隣のチェストからは鞄が……次々に彼女へ降り注ぐ。

 最後の締めとばかり、コートの並んでいたハンガーラックががしゃんと倒れ、
 しぃちゃんはそれらの下敷きとなってしまった。


(i||i゚A゚) 「うわあああ!!!」


 マズい、しぃちゃん、悲鳴、生き埋め!
 焦燥感から、まとまりのない単語ばかりが脳内を飛び交う。
 俺は無我夢中でそちらへ駆け寄った。

 正直なところ、しぃちゃんが大男の腕を捉えた瞬間、終わった、と思った。
 おそらく俺は、無意識のうちにその力を過信していた。
 違ったんだ。  彼女は人並み外れた腕力を有しているが、怪力無双の女傑なんかじゃない。
 オムライスを幸せそうに頬張り、ぬいぐるみに心ときめかす、ただの女の子に過ぎないのに。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:40:53.01 ID:Eyn62d7v0<>  
 当然ながら、彼女の耐久性は人並みのはずだ。
 大男に蹴り飛ばされた瞬間の苦悶の表情が脳裏にチラつく。
 続けざまの激突、商品の崩落に際し、ダメージは必然。  
 

(i||i'A`) 「くそっ……!」


 何もできなかった情けなさ、もどかしさに苛まれつつ、テナントの入り口へ手をかける。

 が、店内へ駆け込むまでもなく。


三(#*゚∀゚) 「あっっっひゃぁぁあ───!!」

Σ(;゚A゚) 「うわっ!?」


 散乱した商品の山から、しぃちゃん──。
 いや、おそらくは “ つー ” が、身を低くして飛び出してきた。


三(#*゚∀゚) 「らぁぁらぁらぁあ───!!!」


 物品と機材で滅茶苦茶のフロアを、つーは器用に飛び跳ねながら、直線軌道で疾駆する。
 ──ああ、前言撤回。 やっぱりただの女の子じゃなかった。
 振り返りざまその姿を目にした俺は、彼女が無事であったことにほんの少し安堵する。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:43:06.12 ID:Eyn62d7v0<>  
Σ(*゚∀゚) 「……!!」


 が、それも束の間の出来事に過ぎなかった。
 つーはそのうち足を揃え、漫画のようにかかとを磨りながらブレーキを試みた。
 しかしそれだけでは勢いを殺しきれず、前方へ体をつんのめらせてようやく停止する。


(;'A`) 「!」

(;*゚∀゚) 「くっ……!」


 当然のことながら、それは事件が無事に片付いたための行動ではない。
 事態はどんどん悪い方向へ傾きつつあった。


*( ;;)* 「うぐっ、うっ、うわぁぁぁ〜〜〜〜〜ん」

| ^o^ | 「いいか! そのまま動くんじゃねぇぇぞッ!!」


 睨めつけ、歯軋りするつーの正面で。
 大男が、一人の女の子を抱え上げ、その首元に刃の先端を向けていたからだ。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 22:44:30.79 ID:h27U07PQ0<> しえんです <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:45:26.35 ID:Eyn62d7v0<>  
●第一七話 『 デパート ・ ジャック ── V.S ブームB 』


 あまりの目まぐるしい展開に、俺は呆然と立ちすくむばかりだった。


(;゚A゚) 「……」


 つーはもどかしそうに足を鳴らし、その場で小さく舌打ちした。
 とかく臨戦態勢を保ったまま男と対峙している。
 隙有らば飛び掛らんとする猫のように。


*( ;;)* 「わぁぁぁ〜〜、びゃあーーー!」


 男の腕の中、捕まった幼女は大きな泣き声をあげている。
 その斜め後方に、幼女の母親と思しき女性が一人、青ざめた表情で震えていた。

 エレベータの脇の通路はトイレへ繋がっている。
 恐らくはそちらから出て来たところだったのだろう。
 緊急を告げる館内放送は聞こえたはずだし、慌てて逃げようとしていたのかも知れないが、
 親子にとって不運だったのは、大男のいた場所が丁度そのエレベータ付近であったことだ。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:46:46.68 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:47:41.90 ID:Eyn62d7v0<>  
| ^o^ | 「一歩でも動いてみろや? こいつの命が惜しくなかったらな」

「お、おねがいです、娘を……!」

|; ^o^ | 「じゃかァしェ!! だァーっとけボゲェッ!!」

「ひっ……」


 非常に危険な状態だった。
 何より、こいつの言うことは冗談でも軽口でもない。
 女の子を躊躇なく蹴りつけ、キレると人を刺す。 その凶暴性は既に我々も熟知している。

 誰も動けなかった。
 残された者たちは皆、固唾を飲んで成り行きを見守っていた。
 俺自身、バクバク鳴る心臓を押さえつけながら、周囲へ目を配ることが精一杯だった。


(;'A`) (くそ、どうしたら……)


 もはや、フロアに無事だと言える者は殆ど残されていなかった。
 壁に囲まれたテナントの奥で震える店員や、
 頭から血を流し、息も絶え絶えに雑貨の山から這い出てくる警備制服の男など……。

 客や店員もそうだが、特に警備員たちについては、
 その殆どが設備の追突によって負傷し、呻きをあげて床でのた打っていた。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:48:48.67 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:50:09.08 ID:Eyn62d7v0<>  
「あ、あいつ……」

(;'A`) 「……!?」

「逃げ出したっ……ていう、凶悪犯だ……。 ニュースで見た……!」


 声の聞こえたほうに目を向ける。
 俺がいるテナントの入り口付近に、一人の若い男がいた。
 倒壊した壁と棚に脚を挟まれ、腿を押さえながら苦しそうに呻いている。


(;'A`) 「だ、大丈夫ですか……?」

「うぐ……ああ、挟まれてるだけ……だ。
 たぶん大丈……夫」

(;'A`) 「す、すぐに助けま」

| ^o^ | 「そこ! 動くんじゃねーぞッ!」

Σ(;'A`) 「……ッ!」


 負傷した若者のほうに近づこうとした俺だったが、
 大男がこちらを見て声を荒げたため、静止を余儀なくされる。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:50:54.77 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:52:16.19 ID:Eyn62d7v0<>  
 若者は脚を挟まれているだけで、今のところは無事だという。
 しかし、もし男がふたたび店舗設備を吹き飛ばそうものなら、動けない彼はひとたまりもないだろう。
 無論、それはフロアにいる負傷者たちに共通して言えることでもあった。


|  ^o^ | やれやれ のどがかわきました


 そうしているうち、大男は余裕を取り戻したのかなんなのか、
 調子の外れた声でそう言い、幼女の持つペットボトルを引ったくった。

 先ほどから気づいていたことだが、
 大男はたびたびこうやって、奇妙な棒読み口調の裏声を発することがある。
 やはり変質者の類には違いないだろう。


Σ*( ;;)* 「あああーーー!」


 泣き叫ぶ幼女を片腕で締め上げると、
 男はもう片方の手で器用に蓋を開け、ペットボトルに口をつけた。
 つーが小さく反応したが、血染めのナイフは依然幼女のほうを向いており、
 隙を突いての急襲には至らなかった。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:53:09.72 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:54:48.07 ID:Eyn62d7v0<>  
|  ^o^ | < こーら おいしいです
.\_[]⊂/) ゴクゴク


|  ^o^ | < おいし・・・
.\_[]⊂/)


 そうして黒いボトルの中身を呷る大男だったが、やがてその動きがぴたりと止まり、 


|  o  | :;*.':; ブバッ


 ……吐き出した。


|#^o^ | 「げほ、ぶほっ……な、なンだこれはァッ!?」


 渋い顔で液体を吐き散らす大男の問いに、母親と思われる女性がこわごわ口を開く。


「それは……醤油です……」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:57:56.39 ID:h27U07PQ0<>

   / ̄\
  |  ^o^ | < コーラ おいしいです
   \_[]⊂/)
   _| |/ |
  |    / 
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 22:58:08.60 ID:Eyn62d7v0<>  
|#^o^ | 「なンで醤油がペットボトルに入ってンだ!!」

「……お、お買い物の時は、いつもマイ醤油を持ち歩いてるんです」

|#^o^ | 「!?」

「この子……無類の試食コーナー好きなんです……」


 男は再び興奮し、訳のわからない事を喚きながらペットボトルを放り捨てた。
 ボトルを投げつけられた女性が小さく悲鳴を上げる。
 その様子を見て、幼女はさらに激しく暴れ出した。


(*゚∀゚) (チャンス……?)


 様子を窺っていたつーが、ぐっと腰を落とす瞬間が見えた。
 飛びかかる……か?


「おい! もうやめろ! 女の子を解放するんだ!」

三(;*゚∀゚))) ピクッ


 しかし、今にもつーが走り出そうとしたその瞬間。
 フロアの反対方向から響いた大声に、彼女は機先を制される形になった。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:00:23.92 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:00:45.98 ID:Eyn62d7v0<>  
| ^o^ | 「ああ〜!? 誰だ!? なんつったァ!?」

「む、無意味なことはよせ。 じきに警察が……」

|; ^o^ | 「黙れっつってンのが! ッかんねェーのか!?」


 声の主は一人の警備員だった。
 見たところ、怪我をしている様子はない。 他とは違って無傷で済んだ者らしい。
 大男は眉間に皺を寄せ、幼女の首元にナイフを構えなおす。


*( ;;)* 「あああー! びゃあ〜〜〜! ぎゃああ〜〜!!」

|#^o^ | 「くそっ、うるせェぞガキっ! 大人しくしろっ!!」


 彼は次第に、暴れる幼女を持て余しつつあった。
 こめかみに青筋を浮かべ、ドスの利いた声で恫喝する。
 ただの威圧ではなく、実際にいきり立っている様子がありありとわかる。

 今の状態で、これ以上男を刺激するのは得策ではない。
 当の警備員もそう感じたのか、二の句を継げず、後は事態を見守るばかりだった。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:03:08.16 ID:Eyn62d7v0<>  
|; ^o^ | 「……くそっ」

| ^o^ | 「おい、裏口はどこだ!! さっさと案内しろッ!」


 とはいえ、彼の言う通り、そろそろ警察が到着してもおかしくない頃合ではある。
 大男もようやくそれに気づいたのか、警備員にナイフを向けながらそう指示した。


「裏口……じゅ、従業員用の連絡通路なら」

|; ^o^ | 「うるせェ!! どうでもいいから早くしろ!!」

「あ、あれ……」


 警備員が指差す方向へ、その場にいる者の視線が一斉に注がれた。
 大男が設備をあらかた吹き飛ばしたお陰で、
 若干見通しのよくなった、フロアの逆サイド……。

 階段通路へ繋がる鉄製の開き戸付近は、
 飛ばされた棚や機材などによって滅茶苦茶な有様だった。
 器物自体が扉を塞いでいることもそうだが、
 その周囲にも大小さまざまな物が散乱し、まさしく足の踏み場もなくなっている。


Σ|; ^o^ | 「なっ……」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 23:03:35.15 ID:0iAGtp6H0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:05:23.98 ID:Eyn62d7v0<>  
 男は仰天し、エレベータの方向へと振り返る。
 その瞬間、タイミングよく……いや、最悪というべきか。
 停止音とともに、エレベータのドアが左右に開いた。


|; ^o^ | 「うっ、うぬわあぁぁああ!!」


 動転していたのだろう、男は傍らに設置してあった、スピード写真のボックスを蹴り付けた。
 まさか、と思ったのも一瞬。
 巨大な自動証明写真機は、やはり蹴られた勢いのまま、
 スピンしながら一直線に、エレベータのほうへ吹き飛んでいったのである。


「ぐぁ……」
「ぎゃぁああああ!!」


 撮影機が激突音とともにエレベータのドアを塞ぐ。
 ドアの内側から、そしてこちらのフロアからも悲鳴があがった。


|; ^o^ | 「うらあああ!! しね!! 死ねぇええええっ!!」


 間髪いれず、男は脇にあった煙草の自動販売機を蹴り付ける。
 さらに、近くで横倒しになっていたレジカウンターも、支えの台ごとそちらに向かって吹き飛ばす。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 23:06:14.32 ID:0iAGtp6H0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:08:01.82 ID:Eyn62d7v0<>  
 ドアはすぐに閉まり、エレベータ上部のランプが、下階へ移動したことを点滅によって示した。
 ほんの数秒の出来事によって、4Fフロアのエレベータは完全に封鎖されてしまっていた。
 隙間から一瞬見えた制服が、警察のものなのか、
 警備会社のものなのかは、俺には判別できなかった。

 傍にいた幼女の母親は腰を抜かした様子で、間もなく彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。
 男は幼女を抱えたまま、すぐさま残された脱出経路へと走り出した。


| ^o^ | 「!!」


 横倒しの陳列棚やケース、あちこち散乱する商品に行く手を阻まれつつも、
 大男はエスカレーターまでたどり着いた。
 だが。


|; ^o^ | 「くっ……そがァッ!」


 男がそれを駆け下りることはなかった。

 側にあったスタンド看板を階下に向かって投げつけると、
 続けざま、傍らのウォーターサーバーを、
 設置してある台ごと “ 滑らせて ” 移動し……、躊躇無く蹴り落としたのだ。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 23:10:02.33 ID:0iAGtp6H0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:10:18.26 ID:Eyn62d7v0<>  
 悪夢は続く。
 エスカレーターの下から幾つもの悲鳴が轟いた。
 男が何を見てそうしたのかはわからないが、恐らくはエレベータの時と同じく、警察の姿なのだろう。

 大男は振り返り、近くまで迫っていた警備員とつーを、荒い息のまま睨みつけた。
 その腕の中、幼女は相変わらず真っ赤な顔で足をばたつかせている。
 このような状況下にあっても、なお、男が隙を見せることはない。

 ちょうどそこで遅まきの非常ベルが鳴り出したこともあり、
 大男の焦りとテンションは頂点へ達した。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 23:12:17.21 ID:0iAGtp6H0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:12:38.57 ID:Eyn62d7v0<>  
|#^o^ | 「コラ、てめェら!!」


 けたたましい連続音の中、
 退路を断たれた──もとい、自ら逃げ道を封鎖し、
 かつ逃げ遅れてしまった凶悪犯の取るべき選択は、


|#^o^ | 「エスカレーターのシャッターを閉めろ!
       てめえだよ、てめ……お前もだよ!!」

「ひっ……!」

|#^o^ | 「ボサッとしてんじゃねえ! らぁ! ッろすぞ!!」

|#^o^ | 「ガキぃ殺されたくなかったら、早くしろっつってんだ!
       聞ィーてんのかオラぁあ!!!」


 篭城の他、なかった。


〜 〜 〜
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:13:17.75 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 23:13:48.64 ID:0iAGtp6H0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:15:07.62 ID:Eyn62d7v0<>  
 数分後。
 事態は予測できない方向へ転がっていた。

 当館のエスカレーター部分は、シャッターによって閉鎖されるようになっている。
 上のほうのフロアにある飲食店街 ・ ゲームセンターと、
 下のフロアで営業時間が違うことがその理由だろう。

 兎にも角にも、エスカレーター付近はライトグレーのそれで全面覆われる事態となり、
 従業員用連絡通路は、図らずも、階段ともども凶悪犯の能力によって封鎖されていた。

 男はその後、エレベーターを押し潰すかの如き勢いで、
 フロアに残っていた機材・設備の殆どをそちらへ移動させた。
 エレベーターホールは土砂災害でも起こったかのように物が積み重なり、
 ドアはもはや完全に埋もれてしまっていた。


(;'A`) 「……」


 エスカレーター方向、シャッターの奥に大勢の人の気配がする。
 警察は既に到着している様子だった。
 既に特殊捜査班なども待機しているのかも知れない。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:16:09.95 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:17:25.71 ID:Eyn62d7v0<>  
 見る限り、フロアに残った人員で五体満足なのは、
 幼女とそれを抱える大男、膝をついて震える幼女の母親、つー、俺、一人の警備員だけ。
 加えて、周りには数名の怪我人が点々と……といった按配だ。

 負傷者だけでも外に、という、我々の願いは聞き入れられなかった。
 最初に刺された万引きGメン(たぶん)の男性については、
 止血の応急処置は施したものの、いぜん意識が混濁している様子だ。
 先ほどまで発していた苦しそうな声も、いつの間にやら止まっている。
 事態は一刻を争うと言える。


 大男は警備員の無線を通じ、
 『 多数の人質 』 、『 拳銃の所持 』 の二点を強調して外に伝えさせた。
 後者は特に、簡単に突入を許さないための、抑止力のつもりなのだろう。
 
 いくら人質がいるとはいえ、ショッピングセンター(的、デパート)のワンフロアを乗っ取り、
 破壊の限りを尽くした挙句、出入り口を封鎖するに至った凶悪犯が、
 『 たった一人 』 それも 『 凶器がナイフ一本 』 であるなどとは、普通は想像だにできない。
 
 彼が、拳銃に代わる恐ろしい凶器、『 超能力 』 を有していることの脅威は、
 この場にいる者しか知ることのできない情報だ。
 監視カメラの映像を除いて、外の者がフロア内を目視できない以上、
 大男は力を誇示するため、『 銃器 』 という虚勢を張らざるを得なかったのだ。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:17:38.56 ID:0iAGtp6H0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:18:10.41 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 23:19:36.21 ID:SqyJOWePO<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:21:11.10 ID:Eyn62d7v0<>  
|#^o^ | 「あああ……クソッ!! ッそがッ!」


 シャッターを閉める際、どさくさに紛れて客と店員が二人ほど逃げ出したこともあり、
 男は未だ怒り心頭、一触即発の状態だった。
 泣き疲れたのだろう、幼女はもはや抵抗する力もなく、男の腕の中でべそをかいている。


「大和田、お前はもう完全に包囲されている。 これ以上──」

|#^o^ | 「黙れコラァあっ!!  人質一人ずつ殺っぞ!?  あァ!?」


 拡声器による警察と凶悪犯との問答。
 当然ながら、それを実際に目にするのも、耳にするのも初めての経験だった。
 事件は現場で起こっている──笑えない冗談だ。


(;'A`)


 事件。  そう、そうだ。
 ──今更ながら、目の前で起こっているこれは大事件なんだ。
 ちょっと買い物に来ただけなのに、とんでもない事態に巻き込まれてしまった。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:22:55.78 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:23:28.03 ID:Eyn62d7v0<>  
 立てこもり事件としては前代未聞と言えるだろう。
 何故ならここはビルの一室などではなく、
 出入り口の無数に存在する、ショッピングセンターのワンフロアなのだ。


(;'A`) (大勢の実行部隊によるテロなら兎も角、
     単独犯が物理的に出入り口全てを塞ぐような事態なんて……)


 通常なら有り得ないこと。
 だが、その “ 有り得ないこと ” こそが、いま目の前に展開している現実の全てだ。

 立てこもりに関連する事件の殆どは、警察隊の突入によって幕切れを迎える、そんなイメージがある。
 この事態を恐ろしく感じる反面、突入に至るのは時間の問題だという気持ちもあった。
 何故ならば、相手は本当に銃を所持しているわけではないのだから。

 希望的観測に過ぎないのかも知れない。
 だが実際に、自分を含めた周りの者数名は、先ほどに比べ落ち着きを取り戻している様子だった。

 あとは、人質への危害を最小限に留めること。
 そのことだけが、残された我々における当面の課題だと、強く感じる。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:24:19.13 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:26:02.54 ID:0iAGtp6H0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:26:11.76 ID:Eyn62d7v0<>  
「──その要求は呑めない。 が、お前のできる限り──」

|#^o^ | 「ああ!? 信用なッかそんな事ァ!」


 確かに大男の超能力は驚異的ではある。
 だが、あの能力と高々ナイフ一本が、
 我々を全滅させるに至る極悪な武装かというと、答えは 『 NO 』 だ。

 警備員たちを薙ぎ倒した時とはフロアの状況が違っていることがその理由だ。
 床には滅茶苦茶に物が散乱しているため、もはや機材が滑走するスペースはほぼ無しに等しい。
 第一、吹き飛ばすことの可能な大型設備の大半は、
 破壊されたか、エレベーターホールを塞ぐために使われており、そう残されているものではない。


(#*゚∀゚) 「……」


 つーの戦闘能力が発揮できれば、大男ともそれなりに渡り合えるのでは、なんて思う。
 残された警備員もガタイはいい方だし、何より、外には警官が多数待機している筈。
 ええと、あとはまあ一応、俺も戦力に……なるのだかどうか。

 ともかく。
 人質さえなければ、凶悪犯の鎮圧はきっと時間の問題なんだ。

 ──そう、人質さえなければ……。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:28:57.00 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:29:16.44 ID:Eyn62d7v0<>  
|#^o^ | 「……ああ?  なンだこれ、生ぬる……」


 場に緊迫感が漂う中、当の大男がふとそう言い、眉間に深い皺を寄せた。


*( ;;)* 「ひぐっ。 ううう……」

|#^o^ | 「……!?」 

|; ^o^ | 「くせっ! このガキ……漏らしやがっ、くせっ!」


 見れば、大男の着ている灰トレーナーの腹部に丸い染みが出来ている。


|#^o^ | 「ガキがッ! くせーんだよ!!」

(*゚∀゚) 「!!」


 対処などできよう筈もない。 それほどに、あっという間の出来事だった。
 男が叫びながら幼女を降ろしたかと思うと、その背中を強く蹴り飛ばしたのだ。


Σ*( ;;)* 「あがッ……!」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:29:40.24 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:32:18.99 ID:Eyn62d7v0<>  
 全員が息を飲んだ。
 そしてやはりというか、女の子の小さな身体に対し、今までと同じ現象が湧き起こった。

 幼女は蹴られた勢いのまま、床にびたんと叩きつけられた。
 さらに、倒れた姿勢のまま滑走し──、


*( ;;)* 「あああ〜〜〜!!」

(;゚A゚) 「!!」


 滑りゆく先には、背の低い陳列ショーケースと、
 その前面から割れ落ちたガラス片が、床へ無数に散乱していた。


「あ、あぶない!」


 前方にいた警備員が慌ててその体をキャッチするも、
 勢い余ってショーケースに背中から激突する。

 事なきを得た幼女は警備員の胸で大泣きし、
 苦しそうに体を起こす彼らのもとへ、幼女の母親がすぐさま駆け寄った。
 ──ほ、本当に危なかった。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:32:45.84 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:32:58.95 ID:0iAGtp6H0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:34:42.67 ID:Eyn62d7v0<>  
|#^o^ | 「チッ……あークソ。 なんか着替えは……」


 舌打ちしながら、周りのテナント(の残骸)を眺め回す大男。
 違う。 こいつはホンモノの大馬鹿野郎だ。
 待ち望んでいたその瞬間を見逃すほど、目の前の少女は甘くはないぜ。


(#*゚∀゚) 「っっるせねェ!!」


 男の放埒な振る舞いに、つーがとうとうブチ切れた。
 彼女の反射神経は常人のそれを超えていた。
 手元の人質を離し、こちらから目を切った迂闊な凶悪犯のもとへ、すかさず踊りかかる。


三(#*゚∀゚) 「ンのやろォォォあああ!!」


 ワンピースの裾を捲り上げながら、地面を這うような姿勢で疾走する。
 床に散らばる物体を器用に避けつつ、彼女はすぐさま男の眼前へと迫った。


Σ| ^o^ | 「!」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:36:32.94 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:37:06.27 ID:Eyn62d7v0<>  
|; ^o^ | 「なっ……!?」


 男がようやく、自らのもとへ疾駆する影の存在に気づく。
 だがもう遅い。
 つーは瞬間的に腰を落とし、今まさにそちらへ飛びかかろうとする寸前だった。


(*゚∀゚) 「──!」

|  ^o^ | あらあら まあまあ


 絶叫の代わりに、甲高い裏声が小さく響いたその時。


Σ(;*゚∀゚) 「!?」


 ずるり。


( ゚A゚) (──えっ)
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:37:36.18 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:38:04.43 ID:0iAGtp6H0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:39:13.34 ID:Eyn62d7v0<>  
 瞬く間の出来事だった。

 跳躍すべく、地面を力強く踏みしめた、つーの蹴り足が。
 そのままの勢いで、後方へ向かって思い切りよく打ち出されたのだ。

 それはつまるところ……。


(;*゚∀゚) 「なっ」


 彼女の足が、“ 滑って ” 、


Σ(;*゚∀゚) 「あっ……」


 中空での一回転を経たのち、


 (;*゚∀゚) 「ひゃ……」


 背中から落下し、
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:40:21.42 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:40:30.06 ID:0iAGtp6H0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:41:18.80 ID:Eyn62d7v0<>  
Σ(;* □ ) 「がっ!?」


 ──転倒。


(;*゚∀゚) 「うぐ……いでで……」


 つーは背中をさすりながら起き上がる。
 目をぱちくりさせ、何が起きたかわからないといった表情だった。
 が、華麗な宙返りと同時に、戦況そのものも逆転していたことに彼女は気づかない。


(;゚A゚) 「つー、後ろっ……!」

|#^o^ | 「ガキがぁぁあ──!!」

Σ(;* Д ) 「かはッ!?」


 無防備な彼女の背へ、凶悪犯の右足が叩き込まれた。

 つーの小柄な体躯は派手に吹っ飛び、もはやお約束ともいうべき床面の滑走を経て、
 服飾店のレジカウンターへ飛び込んでいった。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:42:25.95 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:44:18.00 ID:Eyn62d7v0<>  
(i||i゚A゚) 「つー!?」

|  ^o^ | やれやれ また だきつかれるところでした

|  ^o^ | もてるおとこはつらいですね

(;゚A゚) 「つー、大丈夫か!? つー!」


 俺は即座にテナントへ向かって駆け出した。
 ……くそっ、なんなんだ。
 これじゃまさに、しぃちゃんが吹き飛ばされた時の繰り返しじゃないか。


三(;゚A゚) (──な、なんで、なんでなんだ!?)


 彼女のもとへ駆け寄りながら、俺は今目にした現象について思考をめぐらせた。
 だが、考えれば考えるほどに、疑問符が頭の中をいっぱいに塗りつぶす。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:45:12.57 ID:0iAGtp6H0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:45:16.34 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/27(火) 23:45:56.07 ID:SqyJOWePO<> しえーん <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:46:45.04 ID:Eyn62d7v0<>  
 男が物体を “ 滑らせて ” いたのは、これまでは例外なく、
 『 手で触れる 』 『 足で蹴る 』 という風に、『 接触の 』 結果によるものだった。
 しぃちゃんが背負い投げをしくじった時も、男とはその腕同士が触れ合っていたはず。

 対して、今つーの体が滑ったのは、大男に飛び掛かる寸前だ。
 つまり、彼女の体は間違いなく、男に “ 触れていなかった ” 。
 なのに……どうして?

 大男は、相手に触らなくても、見るだけで “ 滑らせる ” ことが可能なのか?


三(;*゚∀゚) 「んなろぁあ──!!」

Σ(;'A`) 「うわっ!?」


 だが、テナントに飛び込んだ俺がカウンターへ向かおうとした矢先、
 つーが弾丸さながらそこから飛び出してきた。

 ……なんというデジャヴ。
 何故だか瞬間的に悪寒が走る。
 この行動に至るまで、まるで先ほどの……しぃちゃんが飛ばされた時の再現そのもの。

 とすると、ひょっとして。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:48:00.05 ID:h27U07PQ0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:49:17.23 ID:Eyn62d7v0<>  
三(*゚∀゚) 「!」

Σ(;゚A゚) 「う……」

(;*゚∀゚) 「──チィィッ!」


 大男の元へ驀進していたつーが、つんのめるようにしてブレーキをかける。
 その時俺は、嫌な予感に限って当たるものだな、とひしひし感じた。


「痛……やめ、いやあ……!」

| ^o^ | 「よーしよし。 ぜっっっ!……たいに動くんじゃねーぞ」


 振り返った先。
 凶悪犯は新たなる人質を抱え、その首筋にナイフの先端を押し当てていた。



 (続く)


  <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:50:12.17 ID:Eyn62d7v0<>  

    NEXT : 2010/05/01 (Sat.) 22:00

    Thank you for support..

<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:50:52.67 ID:h27U07PQ0<> 乙です! <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/27(火) 23:51:14.66 ID:0iAGtp6H0<> 乙!次も待ってる <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/28(水) 00:05:50.06 ID:q2yQ9WoT0<> いた!!と思ったら終わってた・・・
最近投下中に見れない作品多いな・・・


ひとまずは乙 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/28(水) 00:19:42.26 ID:R2HxqXuX0<> 乙 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/04/28(水) 00:55:11.27 ID:LcUErEbL0<> 乙 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/28(水) 01:06:11.07 ID:KNkbMpat0<> 乙!今から読む! <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/04/28(水) 01:58:25.32 ID:XAcguBpkO<> よむほ <>