◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 19:52:41.88 ID:jS7xQHRt0<> *( ‘ ‘)*みんなみんな、死んじゃえばいいんだ! <>从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです ◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 19:57:28.40 ID:jS7xQHRt0<> お、立った

↓初北産業↓
サイバーパンク
オムニバス
ノワール

まとめさん(ブーン芸VIPさん)
http://boonsoldier.web.fc2.com/maiden.htm

僕の思いよ、イタリアの良子に届け! <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 19:57:49.43 ID:3q05ZpmV0<> しえーん! <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 19:59:07.30 ID:jS7xQHRt0<> track-β



――樫材の床板に、私達の足音だけがギシギシと響く。
五十メートルはある廊下は、端から端まで埃に占拠されていた。

ノ从パ-゚ル「どこがいい?どこでも好きな部屋を使っていいわよ」

後ろを歩くシャキンを振り返る。

(;`・ω・´)「どこでもって…本当にどこでもいいんですか…?」

廊下の両脇にズラリと並んだドアを交互に見やりながら、彼は戸惑っていた。

ノ从パー゚ル「いいのよ。どうせどの部屋も今は使ってないんだから」

(;`・ω・´)「そうなんだ……」

シャキンは暫く呆けたように視線を右往左往させていたが、やがて目星をつけたのか奥に向かって歩き始めた。
150センチくらいだろうか。私よりも頭一つ分小柄な彼がスーツケースを引きずる姿は、やはり小動物のようだった。

(`・ω・´)「――じゃあ、ここにします」

<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 19:59:41.23 ID:4oyMs9wa0<> 支援以外に何ができようか
いや、無い <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:00:27.92 ID:jS7xQHRt0<> 廊下の一番端でシャキンは立ち止まる。
西の端に位置するそこは、昼間でも日当たりが少なくてじめじめしていた。

ノ从パ-゚ル「ここ…?もっといい部屋あるわよ?」

(`・ω・´)「いいんです。居候の分際で、そんな……」

ノ从パ-゚ル「だからどの部屋もどうせ使ってないんだから……」

言いかけて私は口を噤む。
日本人とは必要以上に気を使うものだというが、こういう事なのだろうか。

ノ从パ-゚ル「……えーと。こんなに端だと私達が呼びに来る時遠いでしょ?だから、もっと階段から近い所にしなさいな」

(;`・ω・´)「え?あ、はい、わかりました」

ぎこちなく頭を下げて駆け出す彼に、私は苦笑を浮かべながらその後を追う。

(;`・ω・´)「じゃ、じゃあ、ここで」

今度は廊下の中程で立ち止まった彼に、私は頷きを返した。

<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:00:48.77 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:02:04.53 ID:jS7xQHRt0<> (`・ω・´)「お邪魔しまーす……」

彼の後に続いて私も部屋に上がり込む。
黴と埃の臭いが充満した薄暗い部屋は、お化け屋敷一歩手前の惨状だった。

ノ从パ-゚ル「ごめんなさいね。どうしても掃除してる暇が無くて……」

(;`・ω・´)「いえいえ。…これだけ広いお屋敷だとお掃除も大変でしょうね」

ノ从パ-゚ル「そうなのよ。と言っても掃除するのはダイオードなんだけど」

(;`・ω・´)「え?ダイオードって、あの執事さん一人が掃除してるんですか?」

ノ从パ-゚ル「そうよ?」

(;`・ω・´)「他に家政婦さんとか……」

ノ从パ-゚ル「うちにそんな余裕ないわよ。というわけで、掃除開始!」

持ってきた箒を彼に手渡す。
複雑な顔をする彼の横をすり抜け、私ははたきで家具の埃達と死闘を始めた。

<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:02:46.56 ID:cOxqbndW0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:03:31.04 ID:QekzW0D50<> 支援支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:04:19.53 ID:jS7xQHRt0<> 何か腑に落ちない顔をしていたシャキンも直ぐに箒を動かし始めた。
手狭な部屋の中に、はたきの音と箒の音だけが響く。
暫くそうして掃除に集中していると、シャキンが顔を上げた。

(`・ω・´)「そう言えば、ずっと気になってたんですけど……」

ノ从パ-゚ル「なぁに?」

(`・ω・´)「カンテミール伯爵は、どちらにいらっしゃるんですか?僕が来る時も姿が見えなかったんですが……」

ノ从パ-゚ル「ああ、そのこと。パパは何時も軍のお仕事で忙しくて、ここにはたまにしか帰ってこないの」

(`・ω・´)「たまに、というと……?」

ノ从パ-゚ル「んー…お正月でしょ、クリスマスでしょ…あと、私の誕生日かな」

(`・ω・´)「それ以外は、執事さんと二人きりで…?」

ノ从パ-゚ル「んー、そうなるかしら。たまにパパのお友達が様子を見に来たりするけど、基本的にダイオードと私の二人きりよ」

(;`・ω・´)「……寂しくはないんですか?」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:05:53.95 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:06:47.67 ID:jS7xQHRt0<> ノ从パ-゚ル「どうして?」

(;`・ω・´)「え?いや、だって、こんな広いお屋敷に二人だけって……」

ノ从パ-゚ル「学校に行けば友達も居るし、別に寂しいと思った事は無いわよ?」

(;`・ω・´)「そう…ですか…変な事訊いて、すいませんでした…」

それきり彼は黙って掃除に没頭した。
広い屋敷に二人きり。誰もが私に初めに訊いてくる質問の常連だ。
が、結局、「私の母親」の事について彼は最後まで触れる事は無かった。

それが彼の気遣いだとわかって、私は少し腹が立った。
自分より年下の男の子に気を使われるのが、なんだか気に食わなかった。

ノ从パ-゚ル「お母さんは、私がちっちゃい頃に死んじゃった」

(;`・ω・´)「…え」

ノ从パ-゚ル「物心がつく前だったから、お母さんの顔も殆んど憶えてないんだけどね」

(;`・ω・´)「えと……」

予想通り、彼はどんな反応をしていいのか困惑している。
私としては何度も見てきた反応だった。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:08:01.58 ID:jS7xQHRt0<> ノ从パ-゚ル「そういう意味では、たまに寂しいな、って思う事も有るけど…まぁ、最初から居なかったようなものだし…特別に感じた事は無いかな」

(;`・ω・´)「…そう…ですか」

ノ从パ-゚ル「……それに」

(;`・ω・´)「それに……?」

ノ从パー゚ル「これからは、貴方も居るでしょう?」

(;`・ω・´)「ぼ、僕が……?」

ノ从パー゚ル「そうよ。ホストファミリーって言ったら立派な家族よ」

(;`・ω・´)「僕が……家族……」

ノ从パ-゚ル「だから、そんな堅苦しい言葉遣いは止めて欲しいの」

(;`・ω・´)「え?あ…と…」

ノ从パー゚ル「ね、シャキン?」

呆けたような顔をしていた彼は、そこでやっと得心のいったように頷くと。

(`・ω・´)「……うん」

満面の笑みを浮かべた。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:09:46.82 ID:jS7xQHRt0<> ノ从パー゚ル「さて、私の事は話したし、それじゃあ次はシャキンの事も聞かせて?」

(`・ω・´)「うん。…って言っても、僕の事なんか聞いても面白い事なんて無いと思うよ?」

相変わらず自信が無さそうにシャキンは首を振る。
どうやら、謙虚というよりも元来消極的な性格なだけのようだ。

ノ从パー゚ル「面白いかどうかは問題じゃないの。信頼関係を築く上で、お互いを知っておくことは重要でしょ?」

(`・ω・´)「……そうだね。えーと、何から話せば……」

ノ从パー゚ル「そうね…じゃあ、留学する事になった経緯を教えてくれる?」

(`・ω・´)「うん、いいよ。ええと、何処から話したらいいかな……」

再び難しい顔をして宙を仰ぐシャキン。
私の中のシャキンのプロフィールに、話し下手のオプションが追加された。

(`・ω・´)「えーと…えーと…僕は、中学校に通っていて、それで、先生が、留学してみるか?って聞いてきて、僕はそれにはいって言って……」

ノ从パ-゚ル「うん」

(`・ω・´)「それで、先生は何処に行きたいかって聞いてきて、何処でもいいですって言ったら…」

ノ从パ-゚ル「言ったら…?」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:10:27.52 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:11:20.55 ID:jS7xQHRt0<> (`・ω・´)「留学が決まってて、それで、えーと…飛行機に乗って、気付いたら、ロシアに居たんだ」

ノ从パ-゚ル「ちょっと待って」

(`・ω・´)「それで、えーと…えーと……え?」

ノ从ハ;゚-゚ル「貴方、自分がロシアに行くって知らないままここまで来たの?」

詰問するかのような私の問いに、彼はきょとんとした顔をしている。

(`・ω・´)「そうだけど…?」

しかも、あろうことか、頷いて見せた。

(`・ω・´)「もう少しで脳核理論の証明が上手くいきそうだったんだ。それで、他の事を考えてる暇が無くて……」

ノ从ハ;゚-゚ル「……」

驚いた、という表現では生ぬるい。
今まで何の違和感も無くシャキンと会話して来たが、どうやら彼は只者ではないようだ。

数時間前に初めて会った時から、随分と流暢にロシア語を話すなと思っていたが、それが全てアドリブだったとは。

てっきり、こちらに来る前にしこたま勉強してきたのかと思った。
それだって、ここまでネイティブのように会話するのは日本人にすれば難しい事の筈だ。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:12:48.56 ID:jS7xQHRt0<> ノ从ハ;゚-゚ル「それで、その、どこの中学校に通っているのかしら?」

(`・ω・´)「んー、日本の中学校の名前を言ってもわかるかなぁ…ツクバ学園の中等部っていうんだけど…」

ノ从ハ;゚-゚ル「ツク…バ……」

海外情勢にそこまで詳しくない私にも、ツクバの名前ぐらい分る。
ツクバと言えば、日本の明日を担う科学者や技術者を多く輩出している、一流の学術研究都市ではないか。

これはとんだ天才の卵を迎えてしまったのではないか?

(`・ω・´)「それで、えーと、どこまで話したっけ?」

ノ从ハ;゚ー゚ル「も、もう留学についてはいいわ。ありがとう。大体、わかったから」

私とて、十分名門と言える学校に通っているつもりだった。
しかし、シャキンのそれとはレベルが違いすぎる。
話しにならない。

まだ14、5歳だろうに、きっと私よりも頭がいいのだろう。
世の中、何かが狂ってると思う。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:13:21.23 ID:9KgzFQEH0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:14:40.44 ID:cOxqbndW0<> 支援! <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:14:51.75 ID:jS7xQHRt0<> ノ从ハ;゚ー゚ル「ご家族は?ご家族の事を教えてくれる?」

(`・ω・´)「えーと、父さんは渡辺グループの外交部に勤めてて、母さんは小学校の先生をしてるんだ」

家族構成は、父親の肩書を別にすればいたって平凡で、そこに私は少し安堵した。

(`・ω・´)「あ、あとマックスを忘れてた」

ノ从パ-゚ル「マックス?」

(`・ω・´)「うん。僕が飼ってる犬の名前なんだけどね…こいつがすっごく可愛いんだ」

嬉しそうにそう言うと、彼は胸元から銀のロケットを取り出して見せた。
中には、大柄なシベリアンハスキーに抱きついた小さなシャキンらしき少年が写った写真が入っている。
無邪気に笑うシャキンとは対称的に、シベリアンハスキーは明後日の方角を見ていた。

ノ从パー゚ル「犬か。羨ましいな。私も昔、猫を飼っていた事があるんだけど……」

(`・ω・´)「けど?」

ノ从パ-゚ル「車に轢かれて、死んでしまったわ」

シャム猫の白い尻尾が、走馬灯のように脳裏をよぎる。
うだるような熱気に包まれたあの夏の日。
先日から姿の見えなかった“彼女”が、何時もの通学路で冷たくなっているのを見つけたあの瞬間は、今でも鮮明に思い出せる。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:15:59.23 ID:9KgzFQEH0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:16:07.56 ID:jS7xQHRt0<> (`・ω・´)「それは……悲しいね……」

本当に悲しそうな顔をして俯くシャキン。
それが今にも泣き出しそうな表情だったから、話しているこっちが申し訳なくなってきた。

ノ从パー゚ル「そうだ、向うの学校の事について教えてくれる?日本ってどんな所なのか気になるわ」

我ながら強引なハンドリングだと思ったが、ここで妙な空気になるのも嫌だった。

(`・ω・´)「え?えーと、そうだねぇ…何が聞きたい?」

幸いシャキンも私の意を察してくれたのか、直ぐに表情を改めて質問を返してきた。

ノ从パ-゚ル「うーん……」

「お嬢様、シャキン様、夕食の準備が整いましたよー」

階下から聞こえてくるダイオードの声に、私達は顔を見合わせる。

ノ从パー゚ル「続きは、夕食をとりながらにしましょうか」

(`・ω・´)「そうだね」

頷くと同時、お互いの腹がぐぅと鳴いた。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:17:54.18 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:18:44.69 ID:jS7xQHRt0<>  ※ ※ ※ ※

――欠伸を噛み殺しながら目を擦る。
樫材の扉を目の前にして思うのは、「どうして私が」、という我ながら子供っぽい不満だった。

/ ゚、。 /『やはりここは、歳の近いお嬢様がシャキン様の面倒を見て差し上げるのが一番でしょう』

確かにその理屈は通っているし、私としても弟が出来たみたいでやぶさかではない。

しかし。しかし、だ。

ノ从ハうД`ル「ふぁ〜……」

朝が壊滅的に苦手な私が、何故彼を起こさなければいけないというのか。
適材適所という言葉の通り、ここは私ではなくダイオードが変わるべきではないのだろうか。
明日にでも、これは抗議を入れねばなるまいて。

ノ从ハう_-ル「シャキンー、入りますわよぉ」

返事も聞かずにドアを開ける。
案の定、薄暗い部屋の中ではシャキンが安らかな寝息を立てていた。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:19:50.69 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:20:00.07 ID:jS7xQHRt0<> ノ从ハ´-`ル「はーい朝ですよぉー。学校に行く時間ですよー」

おぼつかない足取りで部屋の中に踏み込む。
壁掛け時計の針が指し示す時刻は朝の五時半。
本来なら私は、自分のベッドで幸せな夢の中に居る時間だ。

シャキンが“こっち”で通うPAH(ロシア科学アカデミー)はモスクワの中心にある。
モスクワの郊外に位置するこの屋敷からは、リニアで通う事になるのだが、駅まで出るのにここから自転車で大体一時間はかかる。

自家用車が有るには有るが、我が家の教育方針でダイオードが朝夕の送迎をすることは無い。

つまり、彼は今ここで起きなければ、確実に遅刻する事になるのだが。

ノ从ハう-`ル「ほらー、早く起きなさいなー。でないと……」

(`-ω-´)「うーん…たこやき…」

これは、ちょっとやそっとでは起きそうにない。

それに。それにだ。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:20:31.10 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:21:31.70 ID:jS7xQHRt0<> ノ从ハ´-`ル「んむぅ……」

私もこの眠気に抗うことが出来るか、激しく不安だ。
気を抜いたら、次の瞬間には意識を持って行かれかねない。

ノ从ハ´-`ル「ほらー。いい子だから早く起きて頂戴なー」

(`-ω-´)「んー…もうちょっとぉ……」

ノ从ハ´-`ル「そんなこと言ってないでー。おねが…ふぁ……」

――嗚呼、もう限界。

私は、この甘美な麻薬のような睡魔には抗えない……。

/ ゚、。 /『宜しいですかお嬢様。シャキン様は日本では、それはそれは将来を有望視されている期待の星なのです』

/ ゚、。 /『そんな明日の日本を背負うホープが、留学先で初日から遅刻なんかしてみなさい』

/ ゚、。 /『シャキン様本人だけでなく、ホストファミリーである我々の品位まで疑われてしまうというものです』

――そうよ。そうだわ。これは彼だけの問題じゃないのよ。ここで眠ってなるものですか。
感謝するわダイオード。貴方のお陰で、私は自分の役目を忘れずに済みそうだわ。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:22:04.01 ID:cOxqbndW0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:22:42.65 ID:QekzW0D50<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:22:54.53 ID:jS7xQHRt0<> 从パ-゚ル「シャキン!起きなさいな!早くしないと遅刻しちゃいますよ!」

(`-ω-´)「ん〜……」
   _,
ノ从パ-゚ル「むぅ…早く起きないとぉ〜……」

(`-ω-´)「んん〜…あと五分……」

ノ从パ-゚ル「……」

(`-ω-´)「むにゃ…むにゃ…」

ノ从パ-゚ル「……」

……まぁ、五分だけならいっか。

ノ从ハ´-`ル「というわけで、おやすみなさーい……」

私は、シャキンのベッドに潜りこんだ。

五分だけ。

そう、自分に固く言い聞かせて。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:23:11.28 ID:cOxqbndW0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:23:19.73 ID:n6jqiQkI0<> しえん <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:24:45.22 ID:jS7xQHRt0<>  ※ ※ ※ ※

――体罰は決して正しい教育の形では無い。それが私の持論だ。

ノ从ハ;゚-゚ル「訴えてやるわ…絶対、こんなのが許されていいわけがないのよ」

/ ゚、。 /「言い訳一回につきコップ一杯追加です」

冷徹な言葉と共に、私が右手に握ったバケツにコップから水を継ぎ足される。
何時も柔らかい笑みを絶やした事の無いダイオードの顔には、絶対零度の静かな怒りが浮かんでいた。

ノ从ハ;゚-゚ル「り、理不尽よ…こんなの、理にかなってないわ」

/ ゚、。 /「問答無用」

左手のバケツに一杯追加。

食堂の片隅に立たされた私の傍に、自分だけ椅子を引いて座ったダイオード。
彼の傍らのサイドテーブルの上には、水がなみなみと入ったコップがずらりと並んでいる。

/ ゚、。 /「あと二時間、みっちり反省して下さい」

なんとも古典的な公開処刑だった。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:25:36.48 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:26:12.39 ID:jS7xQHRt0<> 理由は言うまでも無い。

シャキンを起こすどころか一緒のベッドで眠っていた私は、お約束のように寝過した。

お弁当を作っていたダイオードが気付いて起こしに来るまで、私達は仲良く身を寄せながらいびきをかいていたらしい。

ダイオードの一喝で目を覚ました私達は、空襲警報の中で逃げ惑う人々のようにして身支度を整えると、それぞれの学び舎に向かって慌ただしく向かった……というのが、今朝の顛末である。

無論、その後の私達がどうなったのかは語るまでも無い。
夕食の席で「遺憾の意」を表したダイオードに反省を促され、今こうして仲良くバケツを持っている、ということだけ、知っていればいい。

(;`・ω・´)「ぅうう……」

隣に並んで立つシャキンは、一時間前から半べそだ。

とても肉体派に見えない彼に、この罰はキツイだろうに、泣き言一つ言わずに堪えているのは矢張り自分のした事を本気で反省しているからだろう。

根っから真面目な少年だ。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:27:07.42 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:27:29.46 ID:jS7xQHRt0<> ノ从パ-゚ル「大丈夫……?」

(;`・ω・´)「うん…なんとか……」

ノ从パ-゚ル「私のせいでこんな事になって…本当に、ごめんなさいね……」

(;`・ω・´)「ううん…本当なら僕が自分で起きなきゃいけなかったんだよ…巻き込んじゃって、ごめんね」

なんと殊勝な子なのだろうか。
この年代の男の子と言えば、もっと反抗的なものだろう。
私のクラスの男子ですら、未だに教師に意味もなく反抗する者が居ると言うのに。
こういう素直な子は、今の時代、大切にしなければならない。

ノ从パ-゚ル「……辛くなってきたら言うのよ?」

(`・ω・´)「…ありがとう、でも大丈夫」

満面の笑顔で頷くシャキンに、私も思わず頬が緩んだ。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:28:27.71 ID:jS7xQHRt0<> ノ从パー゚ル「無理しちゃだめよ?一つくらいなら私が持ってあげるから」

/ ゚、。 /「ほう。そうですか」

ノ从パー゚ル「え?」

楽しそうな笑みを浮かべて新しいバケツを持ってくるダイオード。

/ ゚、。 /「頑張ってください、“お姉様”」

満面の笑顔でそれを差し出す彼は、憎たらしいほど楽しそうだった。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:29:37.48 ID:jS7xQHRt0<> ※ ※ ※ ※

――よれよれのコートの裾を翻して、僕達は昼下がりのニーソク区を歩く。
本革のハンチング帽のつばの下から覗くVIPの街は、心なしか色褪せて見えた。

lw´- _-ノv「…おう、ブン太。あれはどうした?」

春先だと言うのにトレンチコートの襟を立てたシュール先輩が、振り返らずに呟く。

( ^ω^)「あれってなんですかお?」

何も考えずに聞き返す僕の顔面に、裏拳が飛んできた。

( ;ω(※)「なん…で……」

lw´#- _-ノv「馬鹿野郎!この格好で“あれっ”て言ったらアンパンと牛乳だろうがじょうこう!」

涙目で抗議する僕。
拳を振り上げて力説するシュール先輩。

“この格好”と言う彼女は、色褪せた茶色のトレンチコートにつばひろ帽を被ってパイプをくわえている。

( ^ω^)「えーと……」

lw´#- _-ノv「まだわからんか腑抜けが!」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:29:42.18 ID:cOxqbndW0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:30:10.38 ID:FaazX9ps0<> シャキン可愛いな支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:30:54.40 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:31:44.95 ID:jS7xQHRt0<> ( ^ω^)「ハードボイルド…探偵……?」

lw´#- _-ノv「ばっかもーん!これのどこをどう見たら探偵になるんだ!」

( ;^ω^)「え…パイプとか……」

lw´#- _-ノv「これだから素人は……」

怒りから一転、シュール先輩はやれやれと肩を竦めると、火をつけていないパイプを一口吸って言った。

lw´゚ _゚ノvy―┛「どこからどう見てもデカだろうが!現場たたき上げの敏腕デカだろうが!“所轄のシュ―さん”だろうがぁ!」

( ^ω^)「あ、はぁ。…でも、アンパンと牛乳って言ったら張り込みじゃないですかお?」

lw´゚ _゚ノvy―┛「細けえこたあいいんだよ!」

肩を怒らせて彼女は歩き出す。
何時もながら理不尽な人だなと思いながらも、僕もその後をとぼとぼと追いかける。

快晴に賑わう表参道を、人の波をかき分けて進む。
角を幾つか曲がって、駅裏まで来ると人の密度が更に増した。

「はいはーい!さがって下さーい!こちらは只今通行止めでーす!」

交通誘導員の疲れきった声に、目的地が近い事を自覚する。
もう一つ角を曲がると、予想通り黒山の人だかりが出来ていた。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:32:20.17 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:32:28.78 ID:jS7xQHRt0<> ちょっと飯行ってきますNE! <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:34:28.61 ID:cOxqbndW0<> 乙です <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:37:17.72 ID:TE303Q9Y0<> ほ <> ◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:39:08.63 ID:jS7xQHRt0<> 飯から帰還

ボンカレー美味しかったです^^ <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:39:18.04 ID:cOxqbndW0<> ほ <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:40:13.96 ID:FaazX9ps0<> はえええ!
そして支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:40:31.78 ID:jS7xQHRt0<> ( ^ω^)「……ここみたいですおね」

lw´- _-ノv「うむ」

猥雑な駅裏の一角、「ほろ酔い通り」と書かれたアーチが掛った小路。

野次馬達の群れに占拠されたその入り口は、上から下まで青い遮幕で寸分なく覆われている。

押し合いへしあいしてその遮幕の向うを見ようとする野次馬達を、制服に身を包んだ政府警察の警官達が何とか抑えつけていた。

僕達は互いに顔を見合わせると、その人混みの中に飛び込んで行った。

( ^ω^)「はーい、ちょっと通して下さいおー!」

lw´- _-ノv「おらあ!お上のお通りだ!道を開けな愚民共!」

「お、おいなんだよ!」

「痛っ!おすんじゃねーよ!たわけ!」

数々の罵声と視線を背に浴びながら、僕達は遮幕の前まで辿りつく。
警棒を構えて野次馬を牽制していた警官の一人が、そんな僕達に目ざとく気付いて駆け寄ってきた。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:40:56.27 ID:cOxqbndW0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:41:10.55 ID:TE303Q9Y0<> しえんた <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:41:45.40 ID:9KgzFQEH0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:43:06.87 ID:jS7xQHRt0<> (-@∀@)「ほらほら、君達もさがって。ここは日本警察が一時的に閉鎖しているんだ。一般人もマスコミも通行禁止だよ」

今の時代では滅多に見る事の無い「ビン底眼鏡」を掛けた警官は、額の汗をぬぐいながら辟易とした顔をする。
きっと、朝からずっとこの調子だったのだろう。公務員と言うのも、楽では無さそうだ。

( ^ω^)「おっおっ。お勤め御苦労さまだお。悪いけど、ちょっと通らしてもらうお」

そんな彼の肩にぽんと手を置き、僕とシュール先輩は懐から警察手帳を取り出して中を見せる。

(-@∀@)「内藤警部補に砂尾警部…ですか…?」

僕達の手帳を交互に眺めると彼は顔を上げる。その目には僕らに対する明らかな「疑い」の光が宿っていた。

(-@∀@)「本部からは何も聞いていないのですが……」

( ^ω^)「おっ、おっ。代理だお、代理。なんならID照会してくれてもかまわんお」

(-@∀@)「はぁ、それでは失礼して……」

警官は警棒をベルト差すと、肩ポケットの携帯端末(ハンディターミナル)を取り出して、僕の警察手帳についたスキャンコードを読み込む。
小さな電子音がして、彼の端末に僕の登録情報が表示された。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:43:43.09 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:44:35.78 ID:jS7xQHRt0<> (-@∀@)「……」

暫く端末と睨めっこしていた警官は、突然目を見開いて顔を上げると、慌てて居住まいを正す。

(;-@∀@)ゞ「ほ、本部長直々の出向命令でしたか!そうとは知らず、失礼しました!」

( ^ω^)「おっおっ、気にすること無いお。じゃ、引き続き野次馬の相手を頼むお」

(;-@∀@)ゞ「はっ!」

lw´^ _^ノv「出世しろよ!」

(;-@∀@)ゞ「はっ?」

憐みを誘う程に緊張しきった警官を残して、僕達は遮幕の向うに足を踏み入れる。
自分でも、ここまで上手くいくとは思わなかった。
政府警察のセキュリティも、大したことは無いようだ。

( ^ω^)「偽造IDも安くなる筈だお」

lw´- _-ノv「まさか、“電子の王”ともあろう天才ハッカーがそんなケチな商売に手を出していたなんて……お姉ちゃんは悲しいよ!」

( ^ω^)「まさか。そんなのは僕の美学に反しますお」

lw´- _-ノv「美学(笑)とか言っちゃう男の人って……」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:45:23.50 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:46:19.07 ID:jS7xQHRt0<> 二人きりになった途端、順調に暴走し始めるシュール先輩を無視して、僕は小路の奥へと目を向ける。

薄汚れたネオン看板が軒を連ねる「ほろ酔い通り」は、昼間だというのに薄暗い。
現場封鎖ということで、ここの店の店員達は自宅へと退避させられたのだろう。
真昼の喧騒の中にあって、ここだけが無音の中に沈んでいるような錯覚を覚えた。

( ^ω^)σ「あの、暗がりですかお」

小路の突き当りの壁を指差す僕に、シュール先輩は無言で頷く。
日の光から一番遠い其処は、薄闇に包まれていてここからではよく見えない。

( ;^ω^)「……」

唾を飲み込むと、アンモニアと下水の混合した鼻をつく臭いに顔を顰めながら進む。
一歩進むごとに、錆のような臭いが濃くなっていく。

一度目にしているのだから大丈夫だ、と自分に言い聞かせるが、出来るならあのような光景は二度と目にしたくは無い。
牛歩戦術でなんとか結果を先送りにしようと目論むも、先送りは先送りでしかない。

結局、最後は先送りにしたツケを払わなければいけない。

夏休み終了間際に片付いていない宿題と同じだ。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:47:12.15 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:47:26.78 ID:jS7xQHRt0<> ( ; ω )「――ッゥオ…ォオオップ……」

やはり、何度見ても慣れない。
最も、このような光景に慣れてしまうのもどうかと思うが。

( ; ω )「ハァ――ハァ――」

蹲って息を荒げる僕の背中に、柔らかい感触がそっと触れる。

lw´- _-ノv「……」

息も絶え絶えに振り返ると、シュール先輩が無言で背中を摩ってくれていた。

( ;^ω^)「もうし…わけないですお……」

何とか一人で立ち上がり親指を立ててみせる。
僕の強がりに、シュール先輩はやっと苦笑した。

( ^ω^)「さて、現場検証を始めましょうか」

lw´^ _^ノvb「頼むぜ、相棒」

彼女のつまらないジョークに僕も苦笑で答えると、改めて現場を見渡す。
事件発覚からもう大分経つというのに、現場はあの画像と寸分たがわぬままだった。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:48:31.70 ID:jS7xQHRt0<> ( ^ω^)「まだ、“本職”さん達も現場検証が済んでいないんですかおね?」

刑事ドラマでよく見るあの白い人型の線も無ければ、壁に背を預けた遺体もそのままだ。

lw´- _-ノv「人手不足なのだろう」

( ^ω^)「ねーよ」

lw´- _-ノv「おい、警部に向かってなんて口のきき方だ。貴様、後で始末書を書かせるぞ」

すっかり警察ごっこにはまってしまったシュール先輩の意見は別として、これは少しおかしいのではないだろうか。

普通、現場検証にどれだけの時間がかかるのかは知らない。

だが、流石に早朝に発見された遺体が今の時間まで残っているというのは、素人目にも異常な気がする。

( ^ω^)「うーん……」

思わず考え込んでしまいそうになるが、踏みとどまる。
考えるのは家に帰ってからでも出来る。
偽造IDで下っ端の警官は騙せたとはいえ、僕達の事が何時バレるともわからない。
今は、現場に残った手掛かりを探すのが先だ。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:48:37.55 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:50:21.21 ID:jS7xQHRt0<> ( ;^ω^)「……」

視界の隅に映る赤黒い肉の塊。
もう一度、あの光景と相対しなければならないのかと思うと気が滅入るが、背に腹は代えられない。
ジョーカーの情報を掴む為だと割り切って、僕は吐き気を堪えながら遺体に向き直った。

( ;^ω^)「やっぱ…きついお……」

全身に打ち付けられた釘と、丸く切り開かれた頭頂部。
荒い呼吸をなんとか押さえつけ、努めて冷静にその全身を観察する。

( ;^ω^)「……」

遺体の全身に虫ピンのように突き刺さっている釘に、指を這わす。
目を瞑ると息を殺して、それを思いきって抜いた。

( ;-ω^)「これは……?」

恐る恐る目を開け、つまんだ釘を眺める。
皮下脂肪の黄色と血液の赤に染まったそれは、釘と言うには少し大きすぎるような気がした。

( ^ω^)「釘…なのかお?」

長さにして、大体二十センチ。
太さは男性の小指ほど。
ホームセンターで目にするようなありふれた釘とは違った規格のようだ。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:50:29.99 ID:TE303Q9Y0<> しえすた <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:51:23.78 ID:jS7xQHRt0<> ( ^ω^)「おっと、分析はまた後で…っと…」

コートのポケットにそれを落とすと再び遺体と向き合う。

( ;^ω^)「今度は、こっちかお……」

ぱっくりと開いた頭頂部から覗く、赤茶色のカレールー
「虚無の晩讃」の由来でもある、悪趣味なカレー鍋の中身は既に冷めてしまっていた。

( ;^ω^)「う…げっ……」

口と鼻を覆い、“鍋”の中身を覗きこむ。
血が混ざって赤みを帯びたルーは、やはりカレーなのだろう。
ジャガイモやニンジン、豚肉の切り身も入っている事が、偏執的な犯人の一面を強調しているように思えた。

( ;^ω^)「これは、何で切ったんだお…?」

真円に近い切り口を視線でなぞる。
骨と皮膚が綺麗な断層となっていることから、よほど鋭利な刃物によって切断されたものと思われる。

……いや待て。それもそうだが、この切り口はあまりにも綺麗だ。
これは恐らくだが刃物の切れ味だけでは無い。
犯人は、外科知識について造詣が有るに違いない。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:52:29.46 ID:jS7xQHRt0<> ( ^ω^)「犯人は、医者かお……?」

かの有名なロンドンの切り裂き魔も、同じ推測が立てられていた。
人体の仕組みを熟知した彼らは、人を治すプロであると同時に殺す事に対してもプロである、と言う事か。

( ^ω^)「……いやいや、まだ結論を出すのは早いお」

判断材料が少ない現状で素人の僕が安易に推理しても、それはきっと的外れなものになるに違いない。
ここは、もう少し冷静に――。

lw´- _-ノv「これは一体……」

右脇から聞こえてきたシュール先輩の声に振り返る。
ポリバケツやごみ袋が捨て置かれた壁の前に立ち尽くすシュール先輩。
彼女の視線は、目の前のコンクリ壁に注がれていた。

( ^ω^)「何かあったんですかお…?」

lw´- _-ノvσ「いや、これ……」

彼女が指差す先には、湿ったコンクリ壁に書かれた赤い文字の一文。

( ^ω^)「これは…?」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:53:21.16 ID:cOxqbndW0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<>sage<>2010/03/27(土) 20:53:25.27 ID:74bw6Cvr0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:54:01.77 ID:jS7xQHRt0<> “tanasinn”

英単語だろうか。
脳内英和辞典を探してみるも、こんな単語は存在しない。
アルファベットの連なりは、何を意味するのか分らない。

( ^ω^)「シュール先輩、これが何か知ってますかお?」

lw´- _-ノv「マジレスすると私も初見だ。こんな単語は私の知る限りのどの国の言葉にも存在しない筈だ」

珍しく真剣な顔で言う彼女に、僕も首を捻る。
先輩がどれだけ外国語について明るいのかは知らないが、その言葉には不思議な説得力があった。

( ^ω^)「うーん……」

もう一度、壁に書かれたその一文を見やる。
赤黒い文字は被害者の血液で描かれたのだろう。
滴るように垂れた血文字は、薄闇の中で不気味に黒光りしていた。

リリの画像を見た時はこの文字の存在に気付かなかった。
遺体を正面にして撮った写真では、遺体に向かって右側の壁に書かれたこの一文が写らなかったのだ。

盛り上がった血文字の表面に触れると分るが、どうも何か化学薬品を使って意図的に凝固させられているようだ。
指で強く擦っただけでは簡単には剥がれないようになっている。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:55:26.04 ID:cOxqbndW0<> tanasin... <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:56:03.35 ID:jS7xQHRt0<> ( ^ω^)「tanasinn……かお」

壁の前で腕を組んで呟いた、その瞬間だった。

( ;^ω^)「おっ……」

甲高い耳鳴りが僕の耳朶を襲った。
モスキート音のような耳鳴りは次第にその音程と音量を増していく。
それは直ぐにも耐えがたいまでのヘルツになり。

( ;゚ω゚)「おおおっ……」

脳髄の奥から聞こえてくるような不快な音に、僕は耐えきれず膝をついた。

lw´;- _-ノv「どうした!?」

珍しく慌てたシュール先輩の声が遠い。
鳴りやまない音は三半規管を犯す。
先までモスキート音と形容していたその音は変調し、今ではサイレンのようなけたたましい騒音に変わっていた。

( ;゚ω゚)「ぐっ――ぉぉおお……!」

口の中に酸っぱい味が広がる。
喉元まで込み上げてきた胃液を辛うじて飲み込む。
頭を抱えて蹲って、その音が去るのを必死で待つ。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:56:59.52 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:57:30.64 ID:jS7xQHRt0<> lw´;- _-ノv「ブーン!大丈夫か!?何があった!?」

必死な顔で僕の顔を覗きこんでくる先輩に何か言おうとするけれども、喉は何も紡げない。

lw´;- _-ノv「ブーン!おいブーン!返事をしろ!どこか痛いのか!?おい!」

悲痛な声で呼びかけてくる先輩に、「大丈夫」の一言が紡げない。

lw´;- _-ノv「救急車呼ぶか?なぁ、返事をしてくれよ!頼むから!」

先輩が、僕の肩を揺する。
僕は、その顔を仰ぎ見る。

( ゚ω゚)「あっ…あっ……」

lw´;- _-ノv「どうした!?痛いのか?なぁ?」

――“音”は、唐突に止んだ。

( ;^ω^)「あっ……」

虚ろな沈黙が頭の中に広がる。
吐き気も、まるで何事も無かったように収まっていた。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 20:58:02.17 ID:cOxqbndW0<> 支援
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:58:32.02 ID:jS7xQHRt0<> lw´;- _-ノv「だ、大丈夫か?」

心配そうに顔を覗きこんでくるシュール先輩に、僕は無言で頷く。

lw´;- _-ノv「そ、そうか……」

溜息一つ、胸を撫で下ろすシュール先輩。

lw´- _-ノv「全く…急に産気づいたのかと思って、お父さん心配しちゃったじゃないか」

何時もの下らない冗談を呟く先輩の目の端には、うっすらと涙の跡が滲んでいた。

( ^ω^)「心配掛けてすいませんでしたお」

lw´- _-ノv「ホントだよ。まだ生まれてくる子の名前も決めてないってのに……」

あくまで冗談で通そうとするシュール先輩はもう何時ものシュール先輩で。

lw´- _-ノv「……今日は、もう戻るか」

( ^ω^)「……そう、ですおね」

それでも少し、優しかった。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 20:59:37.70 ID:jS7xQHRt0<> ※ ※ ※ ※

――三度目のノックにも、樫材の扉は反応を返すことは無かった。

ノ从パ-゚ル「……」

四度目のノックをしようと手を上げて、私は思いとどまる。
中で何が行われているのかが気になったのだ。

ノ从パ-゚ル「少し、はしたないかしら…」

レディとしては褒められた行為ではないが、同じ家族なのだ。
今更遠慮することなど無い、と決めつけて扉に耳を押しあてた。

ノ从ハ-_-ル「……」

右耳に意識を集中すると、微かに物音が聞こえてくる。

機械をいじっているような、かちゃかちゃといった音。

何か、工作でもしているのだろうか。

残念ながら、音だけではよくわからない。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:00:47.99 ID:cOxqbndW0<> シュー可愛いな・・・
支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:05:37.31 ID:jS7xQHRt0<> ノ从パ-゚ル「失礼しまーす」

勢い良くドアを開け放つ。

(;`・ω・´)「うわわわ!」

机に向かっていたシャキンが、慌てて振り返った。

(;`・ω・´)「は、入る時はノックぐらいしてよ!」

ノ从パ-゚ル「あら、ノックなら何度もしたわよ。気付かない貴方が悪いんじゃない」

抗議の声をあしらって彼の部屋に上がり込む。
シャキンの肩がびくりと震えた。

ノ从パ-゚ル「ん…?」

よく見ると、彼は背後の机を自分の体を使って覆い隠しているようだ。

ノ从パー゚ル「なぁに?お姉さんに内緒でえっちな本でも見てたの?」

(;`・ω・´)「ち、違うよ!」
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:06:37.97 ID:jS7xQHRt0<> 覗きこもうとする私の視線を遮る様に、シャキンは体を動かす。

ノ从パー゚ル「ねえ、シャキンちゃん、お姉さんにも見せて欲しいな〜?」

(;`・ω・´)「そ、それは……」

困った顔で目を逸らすシャキン。
その様子が可愛くて、私は彼をついついいじめたくなってしまう。

ノ从パー゚ル「それとも、私にも言えない秘密なのかしら?」

(;`・ω・´)「うぅ……」

ノ从ハ^ー^ル「ねっ?お姉ちゃん誰にも言わないから……」

(;`・ω・´)「ううぅ……」

本格的に困り果てた顔になってきた。
これ以上イジメルと泣き出してしまうかもしれない。
自分でも傍若無人な性格は自覚しているが、流石にもうここいらでやめておこう。

ノ从パー゚ル「…っま。いいわ。誰にでも、秘密の一つや二つ有るのが当たり前だものね」

意地悪な笑みを消して、私は肩を竦める。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:07:38.98 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:07:41.08 ID:jS7xQHRt0<> (;`-ω-´)「……ほっ」

胸を撫で下ろして安堵を顔に浮かべるシャキンは、やはり可愛かった。

(`・ω・´)「それで、どうしたの?何か用?」

ノ从パー゚ル「あら、用が無いと入っちゃいけなかった?」

(;`・ω・´)「いや、そういうわけじゃないけど……」

また困ったような顔をする彼に私は笑みを漏らす。

ノ从ハ^ー^ル「ふふ、冗談よ、冗談。これから暇?」

(`・ω・´)「これから?」

ベッドの上の壁掛け時計をシャキンは見上げる。
時刻は、昼の二時を少し回った辺りだった。

ノ从パー゚ル「そっ、これから。折角の休日なのに部屋の中に閉じこもっているのもあれじゃない?」

(`・ω・´)「――と言うと?」

首を傾げて聞き返してくるシャキンに。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:09:13.82 ID:jS7xQHRt0<>


ノ从パー゚ル「これからデートしない?」

私は薄く笑った。


<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:09:37.37 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:12:47.15 ID:jS7xQHRt0<>  ※ ※ ※ ※

――水色のワンピースのフリルを翻して私は振り返る。

ノ从パー゚ル「ねぇー!早く来ないとおいて行っちゃうわよー!」

坂道の遥か下で膝に手を着き立ち止っていたシャキンが、苦しそうな表情で顔を上げた。

(;`・ω・´)「ちょ、ちょっと待って…い、今行くから……」

半ズボンに無地のTシャツを着た彼は、なんとも情けない声を上げると、のろのろと歩き始める。

天は二物を与えず。

弱冠15歳でPAH(ロシア科学アカデミー)に留学するほどの頭脳の持ち主は、運動面はからっきしのようだった。

(;`・ω・´)「はぁ…はぁ…もう少し…ゆっくり歩いてくれると…助かるん…だけど……」

ほうほうの体で私の隣に並んだ彼は、息も切れ切れに懇願する。

ノ从パー゚ル「日ごろから運動を怠っているからこうなるのよ。この機会に鍛えなさいな」

彼の保護者として、私は愛の鞭を振りかざした。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:14:20.43 ID:jS7xQHRt0<> (;`・ω・´)「で、でも、物事には順番っていうのがあって……」

ノ从パー゚ル「さ、休んでる暇は無いわよ!逞しい男になるためにぃ…ふぁいとぉっ!」

天才モヤシの手を掴むと私は坂道を歩きだす。

私達の両脇に広がるのは、鬱蒼とした白樺の林。
時折吹く風が、夏の日差しに汗ばんだ肌を心地よく撫でて行く。
小鳥と木の葉が囀る以外に物音は無い。
久しぶりにきたカンテミール家の裏山は、何時もと変わらず落ち着いた静けさを忘れないでいた。

(`・ω・´)「蝉の声が聞こえないね」

やっと息の整ったシャキンが、不思議そうに辺りを見渡す。

ノ从パ-゚ル「蝉って、あの蝉?どうしてその名前がここで出てくるの?」

(`・ω・´)「いや、夏の林と言ったら蝉だと思うけど……」

ノ从パ-゚ル「ふぅーん。日本の夏はそうなんだ」

少なくとも、私は生まれてこのかた蝉の鳴き声とやらを聞いたことは無い。
元々虫の少ない気候なのだというが、夏はいっちょ前に暑いのだから勘弁してほしい。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:15:48.53 ID:jS7xQHRt0<> (`・ω・´)「それで、デートって言ったけど……」

ノ从パー゚ル「言ったわねぇ」

にやける私とは対照的に、シャキンは目だけで“その方向”を見ると、声を顰める。

(;`・ω・´)「どうして、ダイオードさんが付いてきてるの?」

彼の視線の先で、暑苦しい黒の燕尾服の背中が大きく伸びをした。

/ ゚、。 /「いやぁ、しかし今日はいい天気ですね。こういう日はやはり森林浴に限ります」

白樺の林へと目を向けて、カンテミール家唯一の執事はストレッチをしている。

/ ゚、。 /「んんー!偉大かな!大自然!」

この三人の中で現状を一番楽しんでいるのは、彼に間違い無かった。

(;`・ω・´)「僕、デートって言うからてっきり……」

ノ从パー゚ル「あら、私と二人っきりになりたかった?だったらダイオードに……」

(;`・ω・´)「いやいや!そういう意味じゃなくて!」
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:17:08.87 ID:jS7xQHRt0<> / ゚、。 /「お嬢様―!シャキン様―!ちょっと来てみてくださーい!中々面白いものが見れますよ―!」

子供のようにはしゃぐダイオードは、とても23歳には見えない。
下手をしたら、現役学生の私達よりもバイタリティがあるのではないだろうか。

ノ从パ-゚ル「……」

(;`・ω・´)「……」

私達は顔を見合わせると、互いに苦笑を浮かべて歩き出した。

ノ从パー゚ル「…それで、アカデミーの方はもう慣れた?」

(`・ω・´)「うん、まぁぼちぼち」

シャキンが着てから今日で大体一カ月程になる。

最初はロシアと日本の生活習慣のギャップに戸惑っていた彼も、ここ最近になってロシアでの暮らしが板についてきたように思う。

それでも彼はまだ15歳。私も人の事を言えないが、まだ幼さの抜けない子供だ。

加えて同じ年の子供に比べて余計に幼い所があるとくれば、私も心配せずにはいられない。


<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:18:16.31 ID:jS7xQHRt0<> そろそろ反抗期が来てもおかしくない年頃なのに、そんな素振りも見せないのも心配の種だ。

もしかしたら無理をしているのではないかと、どうしても考えてしまう。

ノ从パ-゚ル「周りの人、みんな大人なんでしょう?」

(`・ω・´)「うん。一番若くても二十代だしね」

ノ从パ-゚ル「やっぱり、同年代の子と一緒が良かったとか思わない?」

(`・ω・´)「うーん…たまに、そうは思うけど…でも」

ノ从パ-゚ル「……でも?」

(`・ω・´)「アカデミーの人たちはみんな優しいし、何も嫌な事は無いよ」

ノ从パ-゚ル「……そう」

(`・ω・´)「この前もね、アナ主任と一緒にお弁当を食べたんだけどね……」

楽しそうにアカデミーの話を始めるシャキン。
その様子からは、私が心配するような事など微塵も感じられない。
矢張り、私は少々過保護なのだろうか。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:19:02.30 ID:lvw79Omf0<> しえんえ <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:19:25.64 ID:cOxqbndW0<> 支援  <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:19:36.21 ID:jS7xQHRt0<> ノ从パ-゚ル「…ん?」

ちょっと待て。
過保護だなんて、まるで私がシャキンの保護者みたいじゃないか。

ノ从パ-゚ル「……いや、まぁ、別にその事には何も不満は無いんだけれども……」

まるでそれじゃ、私が彼の母親代わりみたいじゃないか。
いやいや待て待て。私はまだそんな歳じゃない。どっちかというと……。

ノ从パ-゚ル「そう、お姉さんよ」

うむ。これならば問題無い。むしろその肩書こそ私に相応しいと言えよう。

(`・ω・´)「それでね、それでね、技術部のウラジミールさんがね……」

ノ从パー゚ル「そう、それは良かったわね」

無邪気に語るシャキンの横顔を眺めながら、私は胸のうちで一人決意する。

これからは、彼の姉として、この子を守っていこうと。
<>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:20:52.39 ID:jS7xQHRt0<> / ゚、。 /「お嬢様―!シャキン様―!早くおいでになって下さーい!素晴らしい眺めですよー!」

知らぬ間に坂の頂上まで登っていたダイオードが、声を張り上げる。
お喋りに夢中になっていて完全に彼の存在を忘れていた。

ノ从パー゚ル「さあ、もう少しよ。頑張りましょう」

(`・ω・´)「うん!」

二人、ラストスパートをかけて坂を一気に駆け上がる。
ダイオードの所まで登った所で両脇の白樺林が開け、私達の視界に広大な緑のパノラマが広がった。

/ ゚、。 /「どうです?素晴らしいでしょう?」

全力疾走後の荒い息もそのままに、私達はその圧倒的な木々の海に見入る。
遥か彼方、山の稜線まで続く緑の大海原は、夏の空気の中でゆったりとさざめいていた。

/ ゚、。 /「時代の変遷に伴い、御頭首様も様々な土地を手放してきましたが、この森だけは今でも、隅から隅までカンテミール家の所有地なのです」

/ ゚、。 /「この森は、先祖代々受け継いできた土地であり、私の一族であるアバカロフ家は元々、この森の管理をするために当時の御頭首様に雇われたのです」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:20:58.45 ID:lvw79Omf0<> しえんえ <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:21:50.30 ID:jS7xQHRt0<> / ゚、。 /「以来、この百余年、四代に渡ってカンテミール家に仕え続ける間に仕事の形は変わって参りましたが、この森の管理だけは我々アバカロフ家の者だけに任された重要な仕事なのです」

誇らしげに語るダイオード。
残念ながら、私達の耳にその長いうんちくはまともにはいってはこなかった。

ノ从ハ*゚口゚ル「……」

(*`・ω・´)「うわぁ……」

圧倒的な大自然の優美さに、私達は言葉を失っていた。
崖から見下ろす広大な樹海は、一体どれだけの年月の間ここで息づいてきたのだろう。
17年間この土地で暮らしていながら、こんな所があったのを知らなかった自分が悔しい。

(*`・ω・´)「凄いや……現代にも、まだこんな森があったなんて……」

感極まったのか、肩を震わせながらシャキンが呟く。

(*`・ω・´)「日本には、もうこんな所、残って無いんだろうな……」

次いで吐き出された言葉は、どこか愁いを帯びていた。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:22:02.69 ID:lvw79Omf0<> しえんえ <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:23:39.76 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:23:44.25 ID:jS7xQHRt0<> / ゚、。 /「はは!日本だなんて!こんなに美しい森など、世界中を探してもここぐらいしかありませんよ!」

私達の反応に調子に乗ったダイオードが嘯く。
流石にそれは言い過ぎとしても、矢張りこんな光景は中々お目に書かれるものではないだろう。

(*`・ω・´)「本当に凄いや…凄い…凄いけど……」

感動に身を震わせていたシャキンの声のトーンが急に下がる。

(`・ω・´)「こういう光景を見ちゃうと、自分がしてる事が、間違ってるんじゃないかって…思っちゃうな……」

どうして彼がこんなに悲しそうな顔をするのか。
少し考えて、彼がアカデミーで研究しているものが「電子工学」だという事を思い出した。

別に彼の研究内容が直接自然破壊を助長させているわけではないだろうか、矢張り研究者の卵として思う所があるのだろう。

つくづく、早熟な少年だ。

ノ从パ-゚ル「別に、貴方が悩む必要なんてないじゃない」

(`・ω・´)「でも……」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:24:25.05 ID:cOxqbndW0<> 支援 <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:24:56.99 ID:jS7xQHRt0<> 私の言葉にも彼の憂い顔は晴れない。
こういう時はどういう言葉をかければいいのか。
何か上手い言葉を探して私が悩んでいると、大きな手がシャキンの肩に置かれた。

/ ゚、。 /「気休めを言うつもりは有りませんが」

いつの間にかシャキンの傍らまで歩み寄ったダイオードは、その長身を屈めてシャキンに語りかける。

/ ゚、。 /「もし、この森の美しさを本当に守りたいと仰っていただけるのでしたら、貴方は既にこの森を十分に守っていますよ」

(`・ω・´)「え?」

/ ゚、。 /「科学の進歩は決して止められません。それ自体は何も悪くありませんし、その過程で自然が犠牲になるのは対価交換なのかもしれません」

(;`・ω・´)「でも、探せば自然と科学が共存できる可能性だって……」

/ ゚、。 /「そうですね…もしかしたら、その可能性もあるかもしれません」

(;`・ω・´)「そうだよ!だから……」

/ ゚、。 /「だから、それをシャキン様がお探しになると、そう言う事ですか?」

(;`・ω・´)「え…と……」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:25:26.66 ID:lvw79Omf0<> しえんえ <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:26:46.54 ID:jS7xQHRt0<> 私の言葉にも彼の憂い顔は晴れない。
こういう時はどういう言葉をかければいいのか。
何か上手い言葉を探して私が悩んでいると、大きな手がシャキンの肩に置かれた。

/ ゚、。 /「気休めを言うつもりは有りませんが」

いつの間にかシャキンの傍らまで歩み寄ったダイオードは、その長身を屈めてシャキンに語りかける。

/ ゚、。 /「もし、この森の美しさを本当に守りたいと仰っていただけるのでしたら、貴方は既にこの森を十分に守っていますよ」

(`・ω・´)「え?」

/ ゚、。 /「科学の進歩は決して止められません。それ自体は何も悪くありませんし、その過程で自然が犠牲になるのは対価交換なのかもしれません」

(;`・ω・´)「でも、探せば自然と科学が共存できる可能性だって……」

/ ゚、。 /「そうですね…もしかしたら、その可能性もあるかもしれません」

(;`・ω・´)「そうだよ!だから……」

/ ゚、。 /「だから、それをシャキン様がお探しになると、そう言う事ですか?」

(;`・ω・´)「え…と……」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:27:00.79 ID:lvw79Omf0<> しえんえ <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:28:15.39 ID:cOxqbndW0<> 支援 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:28:34.82 ID:lvw79Omf0<> しえんえ <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:33:35.45 ID:cOxqbndW0<> しえ <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:35:54.44 ID:cOxqbndW0<> しえ <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:37:28.38 ID:lvw79Omf0<> しえんえ <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:39:04.25 ID:jS7xQHRt0<> / ゚、。 /「ははは、すいません。何もシャキン様を困らせるつもりはありませんよ。元より、人一人に何とか出来る問題じゃないのですから」

(;`・ω・´)「……」

/ ゚、。 /「ですがね、一人一人の人間が、少しでも“自然を大切にしよう”と思ってくれるだけで、事態は少しずつまともな方向に回っていくのです」

/ ゚、。 /「それが、世界というものです」

(`・ω・´)「一人一人が……」

/ ゚、。 /「ええ。ですから、シャキン様は自分の出来る事をもう十分に果たしているのです」

(`・ω・´)「そう…なのかな…?」

/ ゚、。 /「そうですとも。それに――」

そこでダイオードはにっこりとほほ笑むと。

/ ゚、。 /「アバカロフ家は今まで百年に渡ってこの森を守り続けてきたのです。私が居る限り、この森は誰にも破壊させませんよ」

誇らしげに、胸を反らした。
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:39:26.73 ID:cOxqbndW0<> しえ <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:41:00.39 ID:cOxqbndW0<> しえ <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:41:46.65 ID:jS7xQHRt0<> (`・ω・´)「そう、だね」

その様子にシャキンはやっと笑顔を取り戻すと、優しげな眼差しを目の前の樹海に向けた。

ノ从パー゚ル「そうですとも。ダイオードが居る限り、この森に心配はいらないわ」

それが嬉しくて、私もその笑顔の後ろ尻に乗って伸びをする。

/ ゚、。 /「お任せ下さいませ。このダイオード、命に変えてもこの森を守り抜く所存です」

ノ从パー゚ル「問題は、ダイオードが居なくなってからね。貴方、子供どころか結婚もしてないでしょう?」

/;゚、。 /「そ、それは…ですね……」

ノ从パー゚ル「と言うわけで、この森の為にも早くいい人を見つけなさいな。これは命令ですからね」

/;゚、。 /「そ、そう言われましても、こればかりは私にも……」

(`・ω・´)「ははは」
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:42:09.57 ID:cOxqbndW0<> しえ <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:42:57.07 ID:jS7xQHRt0<>


夏の済んだ空気の中に、私達の笑い声が遠く木霊する。

新しい家族を加えてから初めての夏は、何時もより、少しだけ暑く感じた。



next track coming soon....
<> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 21:44:02.54 ID:cOxqbndW0<> 乙でした! <>
◆fkFC0hkKyQ <><>2010/03/27(土) 21:45:13.50 ID:jS7xQHRt0<> 以上で本日の投下はおしまいです

お付き合いいただいた皆様、有難うございました

次回投下は一週間後位を目処にしたいと思います

何か質問などあれば、わくわくサンディ読みながらお答えします <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 22:05:12.86 ID:lvw79Omf0<> 乙 <> 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします<><>2010/03/27(土) 22:12:20.46 ID:PeIFOlEH0<> おつー <>