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赤い雨、のようです

1 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:05:22.57 ID:fSa/jN+60
ジャンル:ジャパンダークサイドモダンホラー
CERO:D(16歳以上推奨)

まとめサイトさん

ブーン芸VIPさん
http://boonsoldier.web.fc2.com/akaiame.htm

オムライスさん
http://vipmain.sakura.ne.jp/698-top.html

ブーン文丸新聞さん
http://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/red_rain/red_rain.htm





2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:07:45.76 ID:odnzTDe00
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:09:42.36 ID:CxjYVh9OO
凄い昔に見た気がする
久しぶり?

4 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:11:28.78 ID:fSa/jN+60
【前日 若梨ビロード 22:18:09 猿傘地区 サワチカ屋敷】



――黴臭い空気が鼻と口から一緒に入ってきて、僕はたまらずその手を放した。
おっきなドアは、ぎい、という音と一緒に動き出して、ばたんっ、という音を立てて閉まった。

( ;><)「うぅ……」

竦んでしまいそうになる足を「奮い立たせて」リュックを下ろすと、中からライトを取り出す。
お父さんがキャンプ用に買った特別大きなライトのスイッチを入れると、意を決して屋敷の中を見回した。

玄関ホールというのだろうか。
僕の家の居間よりも広いこの部屋は、最後に人が入ってから今までに長い時間が過ぎた事を無言で示していた。
足元に敷かれた高そうな絨毯は、黴と埃で汚れて煤けた色合いをしている。
目の前の壁の下に置かれた振り子時計は、長い針と短い針が丁度十二を指したところで止まっている。
天井から下がったシャンデリアには、おっきな蜘蛛の巣がかかっている。
たまにテレビでやってる怖い映画に出てくる悪魔のお屋敷みたいだな、と思った。

( ;><)「お化けなんてないさ…お化けなんて嘘さ……」

小学校の誰かが言っていた。
サワチカ屋敷には「ぞんび」が居るのだと。
「ぞんび」は、お屋敷に入ってきた子供を見つけると、長い長い爪でその子を殺して天井に吊り下げるのだと。
そうして、「ぞんび」の大ボスにその子の死体を「ささげる」のだと。
大ボスの腹が空いていない時は、「ぞんび」がそのままその子の死体を食べてしまうのだと。
そう、噂しているのを何時だか耳にした。


5 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:14:13.41 ID:fSa/jN+60
僕はもう11歳だ。
頭では、そんな馬鹿な話なんて信じていない。
「ぞんび」なんてものは映画やゲームの中にしか居ない。
そんな話は、大人がサワチカ屋敷に僕達のような子供を近付けないようにする為についた嘘だってことぐらい知っている。
頭ではわかっている。分っているけど、やっぱり怖いものは怖い。

( ;><)「こわくない…こわくない…こわくなんか…ないんです……」

掌に「人」という字を三回書いて飲み込む。
僕の大好きな先生から教えてもらったおまじない。
緊張した時とか、怖くなったときとか、これをやると落ち着くのだ。

頬を一度叩くと、玄関ホールを見回す。
高そうな花瓶とか、埃を被った絵画とか、色々ある「ちょうどひん」。
リュックの中に詰めれそうな物は、ここには無かった。
入ってすぐに適当な物を取って、さっさと帰ろうと思っていたけれど、そうもいかないようだ。

( ;><)「ああうう……」

奥の、二つ並んだ扉を見やる。

右か、左か。

ゲームでは、こういう時、間違った方のドアを開けると「ぞんび」が出てきたりして、ゲームオーバーになる。
勿論、「げんじつ」にそんなこと起こるわけない。
湿った唇を舌で濡らすと、僕はゆっくりと指を上げた。


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:15:28.08 ID:odnzTDe00
支援

7 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:17:04.16 ID:fSa/jN+60
( ><)「ど、ち、ら、に、し、ま、し、よ、う、か、な……」

( ><)「の、ず、へ、ら、さ、ま、の、い、う、と、お、り!」

右、左、右、左、右、左……右。
止まった指の先、闇の中に浮かぶ木の扉をじっと見つめる。
腐りかけたそのノブに、恐る恐る手をかける。

大丈夫だろうか。

「そんび」は出てこないだろうか。

いやいや、だから「ぞんび」が出てくるのはゲームの中だけ――。

――みしり。

( ;><)「ひゃっ――!」

僕の悲鳴が、玄関ホールに木霊する。
短い「えこー」が間延びして、すぐに静かになる。
物音は、しない。人の気配も、しない。

( ;><)「誰か…居るんですか……?」

返事は、しない。
たっぷり一分、その場に固まっていただろうか。
先の物音が古い屋敷特有の「やなり」だと「けつろん」付けて、僕は大きく息をついた。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:17:21.72 ID:tmz9qOzf0
おお、きてたのかー

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:18:04.40 ID:PXTGNvk6O
支援しよう

10 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:19:21.39 ID:fSa/jN+60
( ;><)「は…はは…まったく、“ひとさわがせ”なんです……」

何でもない、と笑おうとしたけれど、喉から出てきたのは乾いた笑い声「もどき」だった。

やっぱり帰ろうかな。

一瞬、そんな事を考えたけれど、すぐに思いなおす。
ここで帰ったら、僕は大好きな人から嫌われてしまう。
たった一人の大切な人なんだ。あの人にだけは、絶対に嫌われたくなかった。

( #><)「ビロードォ…ふぁいとぉっ!」

空元気を振り絞って大声を出すと、その勢いでノブを捻る。
鈍い音と共に木のドアが開き、更に濃くなった黴の臭いが顔面を直撃した。

数秒、待ってみる。

「そんび」は出てこない。

深く息を吸い込むと、ライトの明かりをドアのむこうに向ける。
薄暗い部屋の中はとても広くて、明りが奥まで届かない。
小学校の体育館の半分くらいはあるのではないだろうか。
手前に並んだ長いテーブルの端を見て、ここは食堂なんじゃないかと思った。


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:21:18.33 ID:K22RtbzRO
待ってた支援

12 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:22:19.68 ID:fSa/jN+60
そっと足を踏み出し、中に入る。
幾つも並んだ長テーブルの上には、幾つものお皿や「しょくだい」が行儀よく並んでいる。
怖い話でよく聞く、「まるで、今さっきまでそこで食事をしていたような」状態だな、と思った。

ここからお皿を一枚持って行けば、あいつらは許してくれるだろうか。
いや、どうせ「隣町で買ってきたんだろ」と突っぱねられるだけな気がする。

「しょくだい」ではどうだろうか。
考えるまでもない。ナイロンのリュックに先の尖った「しょくだい」を入れたら、底が破けてしまう。

何か。何か、「サワチカ屋敷に入ったという“しょうこ”」になるものは、他にないだろうか。

( ;><)「うーん……」

ライトを右に左に振り、食堂の中を見回す。
困り果てた僕の目にとまったのは、壁に掛った大きな絵画だった。

( ><)「これ……」

真っ赤な絵だった。
沢山の、腕の長い人たちが、空に向かって手を伸ばしている。
空には、おっきな渦巻きがぐるぐるととぐろを巻いている。
空も、地面も、人も、全部が真っ赤に染まっていた。

赤い絵の具をチューブから全部ひねり出しても、この絵を描くのに足りるのかな、と思う。
なんとなく、気味の悪い絵だな、と思う。
今にも、動きだしそうな絵だな、と思う。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:23:29.51 ID:odnzTDe00
支援

14 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:24:29.50 ID:fSa/jN+60
( ;><)「そんなわけ…ないんです」

自分で言って怖くなる。
馬鹿らしい。そんな事があってたまるか。

( ;><)「お化けなんてなーいさ!」

怖じ気づきそうになる自分を誤魔化す為に、絵画の下の壁を蹴る。

ガタッ、という音がして絵画が壁からずれた。

( ;><)「へ、へへん。怖くなんか、ないんです……」

誰かに、今のを見られてたらどうしよう。
無人の筈の屋敷内。何をそんな事を心配する必要があるのか。

( ;><)「……」

それでも、何か、粘つくような視線を首筋に感じて、僕はそそくさと食堂を後にした。


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:24:42.83 ID:K22RtbzRO
一番期待してます支援

16 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:26:21.17 ID:fSa/jN+60



【アーカイブに「埜頭経羅絵巻 巻ノ伍 江殿出立ノ事」が追加されました】





17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:27:26.40 ID:xowTLr5EO
興奮がおさえきれない
支援

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:28:19.36 ID:ryPJI2WWO
支援

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:28:25.11 ID:odnzTDe00
アーカイブktkr

20 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:28:37.34 ID:fSa/jN+60
【第1日目 内藤ホライズン 01:14:23 国道398号線 荒郷橋周辺】



――酔っ払いの歩き方に、それはとても似ている。

( ;^ω^)「あ……の……」

手を前に突き出して歩く様は、ホラーゲームに出てくる「ゾンビ」にもよく似ている。

( ;^ω^)「だい…じょ……」

口に出しかけた言葉が、途中で途切れる。
果たして、「これ」に対して僕は言葉を掛けていいのか、戸惑った。

爪先から頭のてっぺんまで赤く染まった体。それはいい。
赤い雨が降り注ぐ中だ。僕だって、同じように血染めのような格好に違いない。

ふらふらとした足取り。それもいい。
重傷人なら、何もおかしい事は無い。

「あ…ぁお…えっ…けっ……」

重要なのは、「それ」の本来目が有る場所に、ぽっかりと黒い穴が空いているという事実だ。


21 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:30:13.89 ID:fSa/jN+60
「あ…あ…あ…」

「それ」は、虚ろな声で唸りながら、ふらふらと近づいてくる。
「それ」の足が地面を踏む度に、腐った肉が潰れたような湿った音がする。

「あぁ…こん…ばんわ……」

途切れ途切れの声を漏らしながら、「それ」がこちらに手を伸ばす。
赤く染まった腕は、異様に長い。
肌の表面は、ゴムのようにぶよぶよしていて、粘液のようなものが、その上を糸を引きながら流れていた。

( ;^ω^)「あ…あぁ…」

「割烹着姿の中年女性」の恰好をした「なにか」。
目の前まで迫るそいつに、僕の足は竦む。

ξ;゚听)ξ「逃げて!」

少女の声に我に帰る。
目の前の「それ」は、今にも僕に掴みかかろうと腕を伸ばしていた。

「あだ…あだ…あああああ」

( ;゚ω゚)「うわあああああああ」

身を反転させると、弾かれたように走り出す。
怖い。その時、初めて僕は恐怖を感じた。


22 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:32:25.48 ID:fSa/jN+60
ξ;゚听)ξ「こっち!早く!」

暗闇の向うから、少女の声が聞こえる。
遠のいていく彼女の足音を、必死になって追いかけた。

( ;゚ω゚)「うああ!ああ!ああ!」

後ろから、泥を跳ね上げる音が間隔をおいて聞こえてくる。
よたよたと追いかけてくる「あれ」の姿を想像して、足の回転が一段と速くなった。

「おおお…ああああ……」

捕まったら殺される。
理性では無く、本能がそう叫んでいた。

ξ;゚听)ξ「早く!早く!」

前方の闇の中を行く、赤いワンピースの後ろ姿。
足を踏ん張り、その隣になんとか並ぶ。
慣れない運動に、僕の息はもう上がりかけていた。

橋を越えて、剥き出しの地面を蹴って、闇の中を何処までも走る。
背後の足音は、まだ消えない。

一体どこまで走ればいい。
口にしようとしたところで、隣の少女が急に立ち止った。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:33:13.20 ID:odnzTDe00
支援

24 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:34:22.90 ID:fSa/jN+60
( ;^ω^)「どうしたんだお!?早く逃げなきゃ、あいつが……」

ξ;゚听)ξ「……」

僕の言葉を無視して、彼女は首を左右させる。
――と。

ξ゚听)ξ「こっち!」

僕を振り返らず、再び走り出した。

( ;^ω^)「ちょ!待って……!」

膝に手を着いて休憩していた僕は、慌てて後を追う。
赤いワンピースは、そのまま藪の中へと吸い込まれるように消えていく。
現状での唯一の希望を見失う事を恐れて、僕もその後に続いた。

( ;^ω^)「うわっぷ!」

藪の中に飛び込んだ瞬間、大量のクマザサが顔面を引っかいた。
顔面を走る痛みを我慢して、草いきれの中を赤い背中を追って走る。
生い茂るクマザサに顔中を擦り剥きながら進むと、やがて開けた空間に飛び出した。

( ;^ω^)「あの子は……!?」

懐中電灯を振り、赤いワンピースを探す。


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:36:27.88 ID:ZXTZODhe0
支援

26 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:37:08.27 ID:fSa/jN+60
ξ゚听)ξ「こっちこっち!」

遥か向うで手を振る華奢な姿が、直ぐに見つかった。

( ;^ω^)「足、速すぎ……」

一息ついた所で、再び走る。
彼女の背後に見えるぼんやりとした明りに、僕たちはあそこを目指しているんだな、と察しがついた。

ξ;゚听)ξ「教会の中なら……」

並んで走る少女の息が乱れている事は無い。
あれだけのペースで走ってきたのに、大した体力だ。

藪を出てからこっち、背後からの足音は聞こえない。
やがて薄ぼんやりとした明りの正体が見えてくると、僕の口から安堵のため息が漏れた。

ξ゚听)ξ「取りあえず、ここに隠れましょう。建物の中なら大丈夫な筈よ」

赤く染まった教会の壁を見上げて言う少女。
ステンドグラスの向うには、煌々とした明りが灯っている。
中に人が居るのだろうか。
兎に角今は落ち着きたい。

( ;^ω^)「はぁ…はぁ……」

縋るような気持ちで、僕は扉に手をかけた。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:37:33.06 ID:K22RtbzRO
支援

28 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:39:34.81 ID:fSa/jN+60



【アーカイブに「内藤ホライズンの論文」が追加されました】





29 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:41:58.69 ID:fSa/jN+60
【第1日目 伊藤ペニサス 00:42:11 蛇ノ目坂地区 荒郷商店街】



――酸素を求めて口を開閉させるが、それが無駄な試みだと私は知っている。

('、`;川「――っ――ぁ――ぅ――」

どんなに口いっぱいに空気をため込んでも、それを肺に送り込む気道が閉まっていては、何の意味も無い。

「ペに…ちゃん…ああぁ…あえ…あ…あが……」

向かいの八百屋の太郎兵衛さんが、口元を引きつらせて、その手に力を込める。

('、`;川「か――はっ――ぁ――」

私の喉から、声にならない呻きが漏れる。
そろそろ、意識の限界が近かった。

「おへ…あひゃ…ええええぇえっぇぇええ……」

笑いに似た奇声を漏らす太郎兵衛さん。
その真っ黒い空洞となった眼窩に、赤い雨の滴が落ちる。
赤く濡れた彼の顔の皮膚は、所々が水膨れのように膨らんで弛んでいた。


30 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:44:09.20 ID:fSa/jN+60
「これ」は何だ。

私の知っている太郎兵衛さんじゃない。

理性は、飽きるほど繰り返した問いを、もう一度繰り返す。

逃げなきゃ。

本能が、生命の危機を訴えた。

膝が動く。
私の首を絞めて放さない「それ」。
その股間に、私の右膝が、勢い良く食い込んだ。

「けぇ――へっ――!」

首に巻きついていた「それ」の指が離れる。
激しくせき込みながら踵を返すと、もんどりうっている「それ」を残して走り出した。

('、`;川「なんなの…!なんなのよぉ!」

混乱する頭は、今すぐ遠くへ逃げる事を体に命令する。
粘つく赤い雨の中。
足が我武者羅にアスファルトを蹴るが、行先は私にも分らなかった。


31 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:46:22.55 ID:fSa/jN+60
殺されかけた。
その事実に、背筋が震える。
普通じゃない。
明らかに、おかしい。
何が起こっている。
分らない。
頭はとうの昔にパニックを起こしていて、まともな思考が紡げない。

いいいから逃げろ。
でも何処へ。
いいから逃げろ。
遠くへ。
誰か。そう、誰かが居る場所へ。

('、`;川「はっ――はっ――」

闇の向うに、懐中電灯の明かりが何本か交錯して見えた。

人だ。

そう思った瞬間、膝から一気に力が抜けた。

('、`;川「ああ…ぁあぁあぁ……」

よろけながら、ふらふらと光の方へと歩み寄る。
赤い闇の中に、三人の後ろ姿が何かを囲むようにしてしゃがみ込んでいた。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:47:11.47 ID:odnzTDe00
支援

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:48:14.09 ID:tGaOfBwNO
今北産業支援上げ

34 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:48:22.46 ID:fSa/jN+60
一人がしきりに腕を動かし、残りの二人は傍らに立つ家の軒を見上げたり、下を向いたりしては、何かを口走っている。
暗くて顔までは見えないが、恐らくは商店街の面々だろう。

('、`;川「あの……」

息も切れ切れの私の呼びかけに、三人が振り返る。

('、`;川「えっと、ああーと…ええと……」

先の出来ごとを何と説明したらいいものか。
言葉を探しながら、三人の間に懐中電灯を向けると、三人が何を囲んでいるのかがわかった。

('、`;川「――え」

全てのものが赤く染まった世界で、それも例外なく赤かった。

服は、着ていない。

剥き出しの肌、その全体に渡って、鈍い刃物で切り裂いたようなささくれ立った傷跡が走っている。
切り開かれた腹腔からは、中に収まっていたであろう内臓は見当たらない。
ごっそりと抉れたそれは、内臓の代わりに肋骨と肉壁の紅白模様を覗かせていた。

光を失った瞳球は、最後にどんな光景を見ていたのだろうか。
眼窩からえぐり出され、視神経でぶら下がっているその球体から表情は窺いようもない。

白い骨が覗く両足首は、荒縄で縛られている。
悪ガキが人体模型で悪戯をしても、ここまで酷くはならないな、なんて、どうでもいい事をぼんやりと考えた。


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:50:30.51 ID:K22RtbzRO
支援!

36 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:50:50.70 ID:fSa/jN+60
「ああぁ…はぁああぁ…ええ…えっえっ」

三対の“黒い空洞”が、私を見上げてくる。

「ペ…えぇ…ぃいっぃ…くぁ…っあは……」

絞り出すような、湿り気を帯びた息遣いが、雨音に混じって耳朶に這い込む。

('、`;川「あああああああああああああああああ!」

声の限りに叫ぶと、へたり込みそうになる足を無理矢理動かして走り出した。

なんだこれ。

なんなんだこれ。

あり得ない。意味が分らない。

どうして人が死んでいる?

どうして彼らには目がない?

わからない。わからない。わからない。わからない。わからない。
嘘だ。現実じゃない。こんなの現実じゃない。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:51:19.93 ID:tJFWBS0e0
三年前くらいに見た気がする

38 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:53:13.89 ID:fSa/jN+60
(;、; 川「あぁ…うあぁあぁ…っぃっく……」

夢だ。幻だ。幻覚だ。
人が殺されるのは映画やドラマの中だけだ。
死体があっていいのはブラウン管の中だけだ。

必死で先に見たものを忘れようとするも、脳裏に焼きついた凄惨な光景は、逆にその鮮明さを増す。
泣き叫び、現実を拒んでも、赤い雨が降り止む気配は無い。
真紅に染まった狂気の世界で、私は救いを求めていた。

もつれる様な足の回転は、もとより上手く回ってなどいなかったのか。
何かに躓いた拍子に、私の体は濡れたアスファルトに倒れ込んだ。

(;、; 川「うぅ…もうやだぁ…誰か…助けてよぉ……」

うつ伏せのまま、幼子の様に泣きじゃくる。
悪い夢なら覚めてくれ。
そんな祈りが通じたのか。

(;、; 川「あ…れ……?」

上げた視線の先に、緑色の光が小さく点滅しているのが見えた。
身を起して良く見る。
白い人型が中に浮かぶそれは、非常口を示すランプだった。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 21:55:52.82 ID:odnzTDe00
支援

40 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:56:28.98 ID:fSa/jN+60
闇雲に走ってきたのでここが何処かはわからない。
走った時間からして、蛇ノ目坂では無いのは何となくわかる。

のそりと立ち上がり、ランプの下まで歩み寄る。
スチール製のドアは何かの建物の非常口のようだ。

('、`*川「……」

ドアの嵌ったコンクリ壁は、まだ新しい。
荒郷村に最近建った建物は、一つしかない。

ダメ元でノブに手をかけると、すんなりと回った。
こんな時間にここが開いている事は普通ならあり得ない。

それでも、外に居るよりはマシに違いない。
ゆっくりとノブを回すと、私は音を立てないようにしてドアの隙間に滑り込んだ。


41 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 21:58:08.52 ID:fSa/jN+60



【アーカイブに「庚申塔」が追加されました】





42 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 22:01:20.93 ID:fSa/jN+60
【アーカイブ No.07 埜頭経羅絵巻 巻ノ伍 江殿出立ノ事】

・取得者/若梨ビロード
・取得条件/食堂の絵を目撃する
・日時/前日 22:00

サワチカ屋敷の食堂の壁に掛っていた絵画。
大きさは横5メートル、縦1メートル弱。檜の額に収められている。

――巨大なキャンバスの中では、異常に手足の長い人間達が、大勢で踊りまわっている様が描かれている。
彼らの頭上、天空には、巨大な渦巻きが浮かび、人々はそれに向かって手を差し伸べているようにも見える。
配色が赤系統のみと言う事もあり、言いようの無い不気味さが絵全体から漂ってくるようだ。

タイトルは額縁の下に金属のプレートで下がっているが、何と読むのかは不明。
専門家達もこの絵の作者は特定できず、恐らくは一般の手による宗教画かなにかだろう、というのがおおよその見解だという。


43 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 22:03:56.07 ID:fSa/jN+60
【アーカイブ No.08 内藤ホライズンの論文】

・取得者/不明
・取得条件/荒郷教会に辿りつく
・日時/第1日目 01:00

――秋田県に逃げのびた隠れキリシタンは数あれど、荒郷村に逃げ伸びた人々は、他の地方の同胞達とは一風変わった信仰の変遷を辿ったようだ。
信仰の隠れ蓑として、他宗教の教義を盛り込む。
別にそれ自体は珍しい事では無いが、荒郷村に逃げ込んだ隠れキリシタンは、それに至るまでの経緯が多少ユニークだ。
彼らが初めて荒郷村に足を踏み入れた時期は、残念ながら記録に残っていない。
幕末の終わり頃か、それより僅かに前かというのが一番有力な説だ。
彼らは荒郷村に落ちのび、そこで隠れ蓑とする地元の民間信仰と出会うわけだが、一つ面白い記録が残ってい

原稿用紙はここで途切れている。
用紙の端にはP2と通し番号が振られていた。


44 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 22:06:17.77 ID:fSa/jN+60
【アーカイブ No.09 庚申塔】

・取得者/伊藤ペニサス
・取得条件/庚申塔で躓く
・日時/第1日目 01:00

――人の体内には、三尸虫(さんしのむし)というものが潜んでおり、60日毎に回ってくる庚申(かのえさる)の夜、人間が眠っているうちに天へと昇り、天帝にその人間の犯した罪を報告する。
天帝は、この時報告された罪の軽重によってその人間の寿命を決めるので、長寿を願う人々は庚申の夜は三尸虫が体から抜け出さないように、宴会(庚申祭り)を開いて眠らないようにする。
というのが庚申信仰である。これは中国の道教から伝わった信仰だという。
庚申塔とは、その庚申祭りを三年間、述べ18回続けて行った事を記念して建てられるもので、全国に広くこの庚申塔が見られる。

荒郷村で見られる庚申塔は、他の地方で見られるそれに比べて高さ50センチ弱と非常に小さい。
また、村内に伝わる庚申信仰の内容は、厳密には庚申信仰とは細部が異なり、別の体系に基づ信仰であると思われる。
その為、荒郷村で見られる庚申塔も、「庚申塔に良く似た別物」である可能性が高い。


45 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 22:08:13.25 ID:fSa/jN+60
今日の投下はおしまい

お付き合いいただいた皆さん、お疲れさまでした

何時も短くてもうしわけありません。

次の投下は早くて明日、遅くても明後日だと思います

質問があれば、答えられる範囲でお答えします

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 22:08:47.33 ID:ryPJI2WWO


47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 22:10:37.31 ID:V8o0gwyIO
リアルタイムで見れたの初めてだ
これからも頑張ってくれ


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 22:10:40.35 ID:odnzTDe00
乙!長さはちょうどいいよ

三尸虫とかは何かモチーフがあるの?それともオリジナル?

49 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/03/06(土) 22:16:12.43 ID:fSa/jN+60
>>48
そう言って頂けると幸いです

三尸虫は庚申信仰という実際に存在する道教の信仰です。
皆さんの町にも、探せば何処かに庚申塔はあると思います。



50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/03/06(土) 22:21:50.64 ID:xhYA7XxJO
乙です
SIREN3だと思って見てます


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