全部 1- 最新50  

从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

1 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:08:15.25 ID:9hseKW0x0
↓初北産業↓
サイバーパンク
オムニバス
ノワール

まとめサイト(ブーン芸vipさん)
http://boonsoldier.web.fc2.com/maiden.htm

とうかちんちん


2 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:12:38.18 ID:9hseKW0x0
track-δ

――無限にも思える数の星々が、夜空を埋め尽くしている。
ヴェルヴェットの天幕の中央には蒼い月がぼんやりとした燐光を放ち、さながら星屑の海に浮かぶ灯台のように思えた。

o川*゚ー゚)o「綺麗……」

背中合わせに座り込んだ“現相棒”がため息をつく。
大自然が作り出した幻想絵画のような幽玄な光景は、オレの胸の底に言いようもない感慨をもたらした。

(‘A`)「オレ、今ならもう死んだっていいや……」

o川*゚ー゚)o「私も……」

焚火がぱちりと爆ぜる。

o川;゚ー゚)o「いやいや、諦めたらそこで試合終了だよ!ね!ね!」

無粋な“現相棒”が、オレの意識を現実に連れ戻した。


3 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:15:59.40 ID:9hseKW0x0
(’A`)「もういいじゃん。どうしようもないんだ。運命を受け入れようぜ」

背中合わせに座ったオレ達。
胴を回る鎖と、背中で縛られた手が無ければ、思春期真っ盛りのカップルのようにも見えたことだろう。

o川;゚ー゚)o「護衛が先に諦めてどーすんの!普通逆だよね!?ね!?」

(’A`)「全てはアラーの導くままに…アッラーアクバル……」

o川;゚ー゚)o「おーい!待て待て!帰ってこーい!」

( ※∨゚)「おい、五月蝿いぞ」

o川;゚ー゚)o「す、すいません……」

(‘A`)「うぇーい怒られてやんのー」

o川#゚ー゚)o「あんたはもう黙れよ!」

捕虜。
つまりはそういうことだった。


4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 20:17:25.35 ID:HE3yxRJLO
これより支援を開始する

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 20:18:04.00 ID:4TKg75d+0
ドクオが顔面崩壊してるぞ

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 20:18:25.86 ID:zkDUvl+8O
ロンドベルにだけいいかっこはさせませんぜ支援

7 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:18:28.80 ID:9hseKW0x0
(’A`)「どうしてこうなった……」

砂漠をジープで走っていた。そこまでは覚えている。
地平線の向こうで、何かが光った。それも覚えている。
直後、凄まじい爆発がジープを巻き込んで……。
目が覚めたら、この状況。
二人仲良く縛られて、何処かも分らない岩屋の隅に転がっていた。

( ※∨゚)「……」

傍らに立つアラブ人は見張りだろうか。
中東特有の長衣を全身に纏いAKで武装した彼は、オレ達が目覚めてからの数時間、一度も口を開かない。
喋らないどころか立ったまま微動だにすらしないので、正直さっきまでマネキンかと思っていた。

(’A`)「なぁ、あんた」

( ※∨゚)「……」

(’A`)「そこのあんただよ。聞こえてんだろ?少し話しでもしないか」

( ※∨゚)「……」

(’A`)「スパッツとブルマだったら、お前さんはどっち派?ちなみにオレはスパッツ原理主義」

( ※∨゚)「……」

(’A`)「色は無論黒が好みだな。場合によってはボクサーパンツでもおk、とか言う奴がいるけど、オレはスパッツじゃなきゃ駄目だね。ノースパッツノ―ライフ。ノーモアブルマ」


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 20:23:14.14 ID:HE3yxRJLO
私怨

9 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:23:15.64 ID:9hseKW0x0
( ※∨゚)「……」

(’A`)「……」

この通り、何を話しかけても返答がない。
もしかしたら今のは彼がブルマ派だったからこその反応なのかも知れないが……。

o川;゚ー゚)o「そんなわけあるか!」

(’A`)「貴様…ついにモノローグ介入の力を手に入れたのか…いいぞ、それでなければオレの相棒は務まらん」

o川*゚ー゚)o「口に出してたよ」

(’A`)「え」

o川*゚ー゚)o「え」

(’A`)「……」

o川*゚ー゚)o「……」



10 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:30:40.13 ID:9hseKW0x0
……まぁいい。兎に角、今は状況の把握が最優先だ。首を巡らし周囲を窺う。
剥き出しの玄武岩で形成された十畳程の空間。
壁際には埃を被った木箱が幾つか積まれ、天井には先にオレ達が見上げていた明りとりの穴。
見張りらしき男の向こうに薄暗い通路が坂になって続いていることから、ここが何処かの洞窟の一部だということが分かった。

脱出するんだったら矢張り天井の穴からだろうが、見張りの男はああ見えてなかなか隙がない。
オレがこっそりもらしたすかしっぺに振り向いた時なんか、本気で殺されるんじゃないかと思った。

o川* ― )o「……ここで、何も知らないまま、死んじゃうのかな……」

珍しく弱気な言葉がキュート嬢の口から洩れる。

o川* ― )o「ここが何処なのかも、自分が誰に捕まったのかも分らないまま、死んじゃうのかな…」

('A`)「……」

o川*゚ー゚)o「そんなの…やだ。何も知らないまま、なんて、絶対やだ」

('A`)「なんともジャーナリストらしい志をお持ちで」

オレの皮肉にも彼女は反応しない。


11 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:32:58.14 ID:9hseKW0x0
o川*゚ー゚)o「どっくんも、そう思うでしょ?」

(;‘A`)「は?オレ?」

突然話を振られ戸惑う。
冗談を言っていい雰囲気でも無さそうなので、思わず考え込んでしまった。

(‘A`)「オレは……」

o川*゚ー゚)o「私は、イヤだな。絶対、イヤだ」

オレの言葉を遮るよう、力強く呟く彼女。

o川*゚ー゚)o「死んだ理由も分らないなんて…許せない。ううん、許していいことじゃないんだよ」

その口調は、過去に何かがあったことを匂わせる。
本来なら我関せずを貫く筈のオレも、その雰囲気に呑まれて訊いていた。

(‘A`)「何が…あったんだ?」


12 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:37:40.78 ID:9hseKW0x0
暫くの沈黙。
月明かりの降り注ぐ岩屋の中。時折奥から響く水の滴る音と、傍らの焚火の音だけが、世界を縁取る。

o川*゚ー゚)o「弟がね、死んだんだ」

ぽつり。ぽつり。
抑揚のない声で、彼女は語り出した。

o川*゚ー゚)o「結線コードをニューロジャックに刺したまま、自分の部屋の椅子の上で冷たくなってた。三週間前のことよ」

o川*゚ー゚)o「死因は不明。警察も検死医も、口を揃えて詳しい原因は分らないと、そう言ったわ」

o川*゚ー゚)o「勿論、そんなことで私が食い下がるわけがなかった。ニーソクの闇医者に頼ってでも死因を突き止めるつもりだった」

(‘A`)「……だったってのは?」

オレの問いに、彼女は一呼吸置くと。

o川* ー )o「遺体は、帰ってこなかったのよ」

重々しく、憎々しく、絞り出した。


13 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:40:28.31 ID:9hseKW0x0
o川*゚ー゚)o「検死医は、新種の電脳病の可能性があるからと言って、研究の検体として弟の遺体を使わせて欲しいという旨のメールを寄越した」

o川* ー )o「メールの最後には、これが厚生省直々のお達しで、拒むことは即ち国家反逆罪に値する、なんて律儀に脅迫紛いの一文まで添えてあってね……」

検体提供とそれに関する法律関係は、それに精通していない一般人でも一度は耳にした事があるだろう。
この日本でその法律がメジャーとなったのは、ツクバ軌道エレベーター倒壊事故の直後だった。

軌道エレベーターの倒壊でツクバの地下ラボラトリーから流出した「k-2」と呼ばれる新種のバクテリアによる未曾有のバイオハザード。
事故の影響でワクチンの研究データが消失してしまった為、政府は感染者の遺体を遺族から強制的に“提供”してもらい、その予防策の研究に取り掛かった。

これ以上の犠牲を出さないためとはいえ、自分の身内を墓に入れてやることも出来なかった遺族からしてみれば、それは“遺体を奪われた”ようなものだろう。
キュートの気持ちも、分らなくはない。ないが。


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 20:41:27.65 ID:HB+IzIh5O
しえん

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 20:42:23.52 ID:B9b/s9uZ0
s

16 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:43:14.45 ID:9hseKW0x0
(‘A`)「でもまぁ、しょうがない事だろう。弟さんの死を無駄にしないためにも……って言うと偽善者っぽいけどよ。その研究の結果、未知の病気の治療方法が……」

o川#゚ー゚)o「あれは、未知の病気なんかじゃない!」

糾弾するようなキュートの恫喝に、オレは思わず肩を震わす。
見張りが何事かと振り返った事で我に返った彼女は、声を顰めて謝った。

o川*゚ー゚)o「……私、前にDOSで死んだ人を見たことがあるの。弟の死に顔は、間違いなくDOSで脳髄を焼き切られた人のそれだった」

オレも実際に目にしたことは無いが、ブーンから聞いた話ではDOSでの脳死は相当悲惨だという。
眼球は眼窩から零れおちそうなくらいに跳び出し、妖怪の如く伸びた舌が開いた口から垂れ下がって、耳からは血と脳漿の混じった薄いピンクの液体が零れ落ちているらしい。
間違ってもそんな死に方はしたくないものだ、とオレが言うと、あの塩豚は淋しそうな顔で笑ったっけ。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 20:45:11.72 ID:B9b/s9uZ0
s

18 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:46:28.64 ID:9hseKW0x0
o川*゚ー゚)o「明らかにDOSなのに原因不明と突っぱねて、政府は遺体を返そうとしない。何か、そうまでして私達に隠したい事があるんじゃないか。私はそう思って、弟の情報端末(ターミナル)を調べたの」

o川*゚ー゚)o「アクセス履歴を見ると、どこかのチャットルームに入り浸っていた事は分った。けど、そこにアクセスしようとしても、404エラーが出るだけ。既にその構造体(ストラクチャ)は存在しなかったわ」

o川*゚ー゚)o「それでも諦めないでアクセス履歴を辿っていくと、ある一つの構造体に辿りついたの」

“そこは、黒山羊のサーカスの…あのテロリスト達の、ファンサイトだった”。

彼女の口から出た言葉に、オレは小さく目を見開く。

o川* ー )o「私も彼らが行った犯行現場に何度もレポートしに行ってたけど、まさか弟があのテロリスト達に感化されていたなんて……」

悲しげな彼女の声。彼女の弟の死因に何となく見当がついたオレは、それでも彼女の話を最後まで聞くことにした。


19 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:50:02.82 ID:9hseKW0x0
o川*゚ー゚)o「手掛かりとしてはあまりにも頼りない。それでも、私は黒山羊のサーカスについて調べてみることにしたの」

o川*゚―゚)o「同僚の記者に聞いた。業界内の伝手を頼ってフリーのジャーナリストにも聞いた。もう少しで彼らの本拠地のアドレスがわかる。そんな折だった。上司から、圧力がかかったのは」

あまり嗅ぎまわるな、と。それ以上は、アナウンサーとしてやっていけなくなるぞと。
人気の無い資料室に呼び出されて告げられたのだという。

o川*゚ー゚)o「それじゃあアナウンサーは辞めます、って言ってその日のうちに辞表出して。それからは、フリージャーナリストを名乗ってあちこち“嗅ぎまわって”るってわけ」

('A`)「……で、その成果は?」

背後で首を振る気配。

o川*゚ー゚)o「……分った事と言えば、あの日私達に圧力をかけてきたのが、どうやら渡辺グループ“らしい”ってことだけ」

そして、微かな溜息。


20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 20:51:21.90 ID:B9b/s9uZ0
s

21 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:53:19.63 ID:9hseKW0x0
o川*゚ー゚)o「あの子が何に巻き込まれたのか。あの子がどうして死ななきゃいけなかったのか。まだ輪郭しか見えないけど、これだけは分るんだ」

“私は確実に真実に近づいている”。

そう断言する彼女の語気は力強い。

('A`)「……そう、か」

恐らく、彼女の弟さんはあの時「黒山羊のサーカス」の電脳班としてシベリア掃討作戦に参加していたのだろう。

確証は無い。

だが、彼女の話を聞く限り、そうとしか思えない。

あの時、オレが“奴”を止める事が出来ればもしかしたら…などと考える。
「人の死」。そう、確かに、あの時、大量の人間が死んだのだ。
こうして彼女の口からこんな話を聞くまで、オレはそんな事など意識もしなかった。
所詮人間なんてこんなものなのだろうか?
それともやはりオレがおかしいのだろうか?
恐らく、“どっちも”なのだろう。
嗚呼、自己嫌悪。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 20:53:30.37 ID:B9b/s9uZ0
s

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 20:54:04.67 ID:HB+IzIh5O
支援

24 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:56:45.76 ID:9hseKW0x0
o川*゚ー゚)o「だから私は、こんな所で死ぬわけにはいかないの」

決意を込めた彼女の呟きに、「どうしてこんな打ち明け話をオレなんかにしたのだろう」という疑問が浮かぶ。
少なくとも、知りあって数日の男にするような内容では無い。加えて、その相手が“オレ”とくれば尚更だ。

('A`)「なぁ……」

o川*゚ー゚)o「ん?」

その事を本人に尋ねようとして、オレはその朗らかな声に気づく。

o川*゚ー゚)o「どったの?」

そうか。これも、彼女の魅力なのだと。
誰だろうと関係なく、心を開く事が出来る。
それは一つの才能であり、オレみたいな人間には到底真似の出来ない事なのだと。
根本的に住む世界が違うのだと。
気付かされたから。


25 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 20:59:39.02 ID:9hseKW0x0
A`)「……いや、なんでもねぇ」

オレは、自己嫌悪の中に言葉を飲み込んだ。

o川*゚ー゚)o「ふーん。……へんなどっくん」

くすくす、と笑う彼女は何時も自然体。
こんな風に生きられたら、と、叶いもしない事を願ってみたくもなった。

('A`)「……無理だっつうの」

小さなぼやきは、岩肌を叩く靴音にかき消された。

「――?――――!」

通路の奥から、人の声がする。
アラビア語だろう。複数の男の声と、濁った電子音声が何やら言い争っているようだ。
声達は段々と近づいてくる。
やがて、その主の輪郭が薄闇に見えてくる頃、見張りの男がその影に向かって敬礼した。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 21:00:02.28 ID:B9b/s9uZ0
s

27 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:02:48.93 ID:9hseKW0x0
o川*゚ー゚)o「何?何なの?」

何事か。
戸惑うオレ達の耳に、硬質な足音が迫り。

|::━◎┥「オ初ニオ目ニカカル、“ヤーバーニー”」

そいつが、目の前に現れた。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 21:03:08.33 ID:B9b/s9uZ0
s

29 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:05:05.09 ID:9hseKW0x0

※ ※ ※ ※

――薄く、砂塵を含んだ大空。
超高層ビルの灰色の輝き。ドーム型アーコロジーの仏頂面。
遥か、遥か彼方には、ハイレゾカメラでも果ての見えない砂の荒野。

ムズリーマ共和国、首都ナハブ。

砂漠の真ん中に突如出現したかの如き巨大都市(メガプレックス)。
大陸間大深度リニアのレールが地下を走り、摩天楼の足元をスーツ姿のビジネスマンが闊歩する近代都市。
灰の二年間以前は、白亜の土壁が並んでいたこの街は、日本の委任統治以降、急速な勢いで発展することになった。
渡辺グループを筆頭にした日系企業の進出、それに伴う入植者の増加と移民街の増設。
今や、日本の植民国とすら言えるようなこの国の様相はしかし、私には文字通り「砂上の楼閣」のように見えた。

――ちゃりんっ。

从 ゚∀从「むっ、もう時間切れか」

コインの落ちる音と共に、視界が黒く塗りつぶされた。
望遠鏡のレンズから顔を離す。観光スポットに置いてあるものとしては、中々の解像度だった。


30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 21:05:05.87 ID:tZKOpn9j0
いつもミてます支援

31 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:07:22.19 ID:9hseKW0x0
  _
( ゚∀゚)「どうだい。明日への希望は見つかったかい?」

从 ゚∀从「どうやら地上には存在しないらしい」

背後からの戯言に振り返ると、優男崩れが手にした携帯端末(ハンディターミナル)を懐にしまうところだった。

从 ゚∀从「…で、先方はなんと?」
  _
( ゚∀゚)「はぁ…女王様は本当に人使いが荒いものだよ」

展望台の中を行きかう人々に目を走らせながら、ジョルジュは珍しく苛立たしげな口調で頭をかく。
この男も、こんな顔をするのだなと、どうでもいい事を考えた。
  _
( ゚∀゚)「忙しくて自分から取りに来れないから、こっちまで直接持ってきて欲しい、だとさ」

从 ゚∀从「こっちまで、とは?」
  _
( ゚∀゚)「ムバラク砂漠」

「ムバラク砂漠」というワードを脳核地図で検索する。
表示された彼我の距離に、彼の態度の理由が分った。


32 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:10:30.57 ID:9hseKW0x0
  _
( ゚∀゚)「まぁ、指示された以上行かないわけにもいかんのだが…こりゃ、ジープでもチャーターしなきゃいかんかな」

能天気に金の心配をしだす色男崩れは、結局ここに至るまであのリニア内で敵の襲撃があった事には気付かなかった。
私の口から初めて聞かされた時も、「へぇ、そう」と気の抜けたようなリアクションをしただけ。
この男には、つくづく自分の命が狙われているという緊張感が足りない。

「はわわわっ!」

背後からの頓狂な声に、私は即座に振り返る。

「とっ!とっ!とっ!とぉぉぉ!?」

振り返った先には、アラブ圏独特の民族衣装に身を包んだ小柄な女性。
彼女はつんのめるような姿勢で今にも私の胸の中に倒れ込もうとしている。

从 ゚∀从「む……」

このまま私が後ろに下がればそのまま床に接吻することになるだろう。
それもそれであんまりなので、私はその場で彼女の体を受け止めた。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 21:11:36.74 ID:B9b/s9uZ0
s

34 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:12:57.52 ID:9hseKW0x0
川;゚ –゚)「…失礼しました、ちょっと、躓いてしまって……っ!?」

私の胸の中で女性が顔を上げる。
繻子のような長い黒髪、そこから深紅の瞳が、大きく見開かれた。

川 ゚ -゚)「姉…様……」

从 ゚∀从「は?」

川;゚ -゚)「いえ、人違いでした。すいません」

私の反応に女は慌てて立ち上がると、頭を下げて足早に駆けていく。
彼女が向かう先に目を向けると、そこには連れらしき男の姿。
「カップル」、というものだろうか。これ以上見るのも無礼だと視線を外そうとした時、その男がこっちをじっと見ている事に気付いた。

(´・ω・`)「――――」

ハイレゾで見たわけでは無いから断言は出来ない。
しかし、私には、彼がこちらを見て口を開いたような気がして。


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 21:15:47.50 ID:B9b/s9uZ0
s

36 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:16:02.98 ID:9hseKW0x0
从;゚∀从「待っ――!」

声を上げた時には、既に二人の姿は人ごみの中に消えていた。

从 ゚∀从「……まぁ、いいか」
  _
( ゚∀゚)「んん?愛しのドッくんでもいたかい?」

優男崩れ戯言を聞き流しながら、私は歩きだす。

――今思えば、その時から、私達の戦いは始まっていたのだろう。


37 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:19:14.66 ID:9hseKW0x0
※ ※ ※ ※

――エレベーターチューブの中で、僕は先から黙り込んだままの姫君の取り扱いについて頭を悩ませていた。

(´・ω・`)「で、試運転の方はどうだった?何か不具合は?」

川 ゚ -゚)「……」

(´・ω・`)「やっぱり人目を気にせず思いっきり撃てるってのはご機嫌だね。渡辺の社長さんには頭が上がらないよ」

川 ゚ -゚)「……」

(´・ω・`)「開発資金を投資してくれただけじゃなく、射爆場まで貸してもらっちゃって。君も、今度会ったらお礼を言うんだよ?」

川 ゚ -゚)「……」

(´・ω・`)「しかし彼女、いやにばたばたしてたなぁ。政府の勅令がどうだとか言ってたけど……これは、忙しい中我儘言っちゃったかな」

川 ゚ -゚)「……」


38 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:22:39.07 ID:9hseKW0x0
相変わらず、難しい顔をしたまま押し黙った彼女を、横目で見る。
情緒の揺らぎまで演出する技術まで身につけて、益々生意気になってきたじゃないか。
ならば、僕もその“遊び”に付き合ってやろう。

(´・ω・`)「…しかし、矢張りというかまだ出力面で課題が残るね。一回でジャイロがイカレちゃってたら、まだ実戦投入は見送らなきゃ」

川 ゚ -゚)「……」

(´・ω・`)「――それで、お姉さんとのご対面はいかがだったかな?」

川;゚ -゚)「!」

耳元で囁きかけた僕の言葉に、彼女はびくりと肩を震わせる。
予想通りの反応に、内心でほくそ笑んだ。

(´・ω・`)「まさか、彼女が此処に来ているなんて思いもしなかったから、僕も驚いたけど……」

舌の上に嘘を乗せて、僕はさもありなん。
顔に畏怖を張り付け彼女は僕を見上げる。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 21:25:10.46 ID:h29g9ZFK0
ハイパー支援 

40 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:26:59.23 ID:9hseKW0x0
相変わらず、難しい顔をしたまま押し黙った彼女を、横目で見る。
情緒の揺らぎまで演出する技術まで身につけて、益々生意気になってきたじゃないか。
ならば、僕もその“遊び”に付き合ってやろう。

(´・ω・`)「…しかし、矢張りというかまだ出力面で課題が残るね。一回でジャイロがイカレちゃってたら、まだ実戦投入は見送らなきゃ」

川 ゚ -゚)「……」

(´・ω・`)「――それで、お姉さんとのご対面はいかがだったかな?」

川;゚ -゚)「!」

耳元で囁きかけた僕の言葉に、彼女はびくりと肩を震わせる。
予想通りの反応に、内心でほくそ笑んだ。

(´・ω・`)「まさか、彼女が此処に来ているなんて思いもしなかったから、僕も驚いたけど……」

舌の上に嘘を乗せて、僕はさもありなん。
顔に畏怖を張り付け彼女は僕を見上げる。


41 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:32:54.83 ID:9hseKW0x0
川;゚ -゚)「マスター…一つ、お聞きしていいですか?」

(´・ω・`)「いいとも。なんだい?」

川;゚ -゚)「マスターは…その…姉様とは、どれ程の期間を、一緒に…?」

(´・ω・`)「そうだね…正確なところは覚えてないけど…」

川;゚ -゚)「マスターは、私のマスターですよね?」

(´・ω・`)「ははは、何を言ってるんだ。あたりまえじゃないか」

川;゚ -゚)「私は、マスターのお役に立ってますよね?」

捨てないで。
子犬のような瞳はしかし、“人間ごっこ”の演出。
そろそろ飽きてきたので、僕は肩をすくめるとため息をついた。

(´・ω・`)「そのキャラはいまいちかな。僕はどっちかっていうとツンデレが好みなんだ」

川 ゚ー゚)「あら、お気に召しませんでしたか。それは残念です」


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 21:34:02.60 ID:HB+IzIh5O
しえん

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 21:35:52.01 ID:9jrjgXIZO
支援

44 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:38:05.14 ID:9hseKW0x0
泣き顔から一転、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべて僕を見つめる。
紛いものとはとても思えない、人間に極限まで近付けた表情。
“Ver,Eve”。僕オリジナルの電脳核が完全に人間を再現する事に成功したことは、他ならぬ僕自身が知っている。

川 ゚ー゚)「……それで、お姉様は何時、私達と暮らせるのですか?」

エレベーターチューブの中から見える砂漠へと目を馳せながら、僕は答える。

(´・ω・`)「そうだな…今回はまだ、かな。近いうちに、とだけ言っておくよ」

川 ゚ー゚)「楽しみ、ですね」

もたれてくる彼女の髪からは、“電気の香りがした”。


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 21:38:24.88 ID:tupxFlH3P
来てるだと支援

46 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:44:29.08 ID:9hseKW0x0

※ ※ ※ ※

――誰が信じられるだろう。

|::━◎┥「私ハ人間ダ」

鋼のプレートボディ、ケーブルの露出したパイプ式マニュピレータ―、カメラアイの複眼が這うバケツのような頭部。
全身義体というにはあまりにもチープな外観。目の前のそれは、どう見ても旧世代の安価なドロイドだ。

|::━◎┥「私ニハ、感情モアレバ、脳核モアル」

濁った電子音でそう言われたとしても到底信じられない。
彼が、かのテロリスト集団「ウヒッブ派」の現首領、通称“歯車の王”だと言われても。
とても、オレには信じられなかった。

('A`)「……本当、なのか?」

|::━◎┥「ナラバ、実際ニ脳核ヲ見テミルカネ?」

(;'A`)「け、結構です」


47 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:50:31.14 ID:9hseKW0x0
どうやらオレ達は、砂漠の真ん中で倒れている所を、彼らの偵察兵に発見され保護されたらしい。
最も、保護なんていうのは名目上で、鎖で縛られていた事から察するにもオレ達は彼らの捕虜とみて間違いなさそうだった。

o川;゚ー゚)o「あの…私達、これからどうなるんですか?」

オレの半歩後ろを歩く“現相棒”が、おずおずと尋ねた。
鎖を外されたとはいえ、周りは銃で武装したアラブ人達が固めている。
暗い穴蔵の中を歩かされている事からも、不安は拭えなかった。

|::━◎┥「ソウ、警戒シナイデモライタイ……ト言ッタ所デ、無理ガアルカ」

先を行く“歯車の王”が顔だけで振り返り、妙な電子音を立てる。
耳障りなノイズの繰り返しが所謂「苦笑」だと気付くまで、しばらくかかった。

|::━◎┥「君達ガアクマデ人質ダトイウ事実ハ変ワラナイノダカラナ」

('A`)「……やっぱりか」

|::━◎┥「ダガ、私達モ君達ニ手荒ナ真似ヲスルツモリハ無イ。ムシロ客人トシテモテナシタイト思ッテイル」


48 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:56:46.78 ID:9hseKW0x0
(#※∨゚)「シャー!」

“歯車の王”の言葉に、先の見張りが異を唱えるよう声を上げる。
呼応するように、周囲の兵士達も口々に叫び出した。

自動翻訳ツールが視覚野の下に表示する字幕曰く、「日本人は祖国の仇である、生かしておくわけにはいかない」。

当然すぎる彼らの主張も、しかし戦争を経験した事のないオレの胸に実感をもたらすことは無かった。

|::━◎┥「沈マレ。我ラノ敵ハアクマデアノ独裁者ドモ。彼ラヲ殺シタトテ、何ガ変ワロウカ」

アラブ人達の怒りが、不鮮明な電子音声の静かな一喝に凪ぐ。

(;※∨゚)「しかし……」

|::━◎┥「大局ヲ見ルノダ。モトヨリ、無駄ナ血ガ流レルノヲ、母ナル大地ハ望ンデオラレナイ」

諭すよう、物静かに語る“歯車の王”。
ばつが悪そうに、それでも自分達の言動を恥じるように頭を下げるゲリラ達を見て、オレはこの鉛でできた男が確かに「人間」だと、「首領」だと認識した。


49 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 21:59:33.21 ID:9hseKW0x0
|::━◎┥「同志達ガ失礼ヲシタ。ドウカ気ヲ悪クシナイデホシイ」

('A`)「いや、別に…当然の事ですし」

|::━◎┥「ソウ言ッテモラエルト助カル」

平坦な電子音声の中にも申し訳なさそうな響きを込めて謝罪すると、彼は再び前を向いて歩きだす。
紳士然とした彼の振る舞いに、オレはいまいち“歯車の王”という人物の真意を計りかねていた。

捕虜、という事はやはり彼にとってオレ達は戦略的交渉の道具と言う事になるのだろう。
どんなに好意的な顔をされた所で、その関係は変わらない。
やはり、うかつに隙を見せていいとは思えなかった。

|::━◎┥「サァ、ツイタゾ」

“歯車の王”の言葉と同時、オレ達はひらけた空間に出た。
岩肌が剥き出しの壁、湿った空気、低い天井から吊り下がった義体パーツや銃器の群れ。
前方の壁を埋め尽くす、古めかしいスクリーンとコンソールパネル。
左腕をパイプ式マニュピレータ―に置換した男、顔の三分の一を鉄板で覆われた少年。
床に伏せた傷病兵の中には、下半身が“無い”者まで居て。

|::━◎┥「ココガ、我々“むずりーま解放軍”ノ作戦中枢ダ」

そこには、“ゲリラ軍の作戦本部”らしい疲弊の臭いが満ちていた。


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:00:57.78 ID:fZo6jomO0
支援

51 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:02:48.67 ID:9hseKW0x0
|::━◎┥「驚イタダロウ?君達ニシテミレバ“じゃんく”ニ等シイ鉄屑モ、ココデハ貴重ナ物資ナノダ」

自嘲気味に言いながら“歯車の王”は部屋の中を正面のコンソールへ向かって歩いていく。
彼の姿を認めた兵士たちは揃ったように敬礼の姿勢を取ると、思い思いの言葉で彼を迎えた。

シャーアーラ、シャーアーラ、シャーアーラ……。

直訳で“機械の王”であるそのアラビア語に、彼等は尊敬と親しみを乗せて口にする。
その一つ一つに返事を返しながら進む彼に、“その称号”は実に相応しく思えた。

o川;゚ー゚)o「あの、この人たちは、みんな……」

ゲリラ達の惨状にあてられたのだろう。
おずおずと、苦々しい顔でキュート嬢が口を開く。

|::━◎┥「我々ニ、同情ヲ向ケヨウ、トイウノカ?」

すかさず、“歯車の王”がこちらを振り返った。


52 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:05:15.20 ID:9hseKW0x0
o川;゚ー゚)o「いえ!そんな…そんな権利…私には……」

|::━◎┥「ナニ、責メテイル訳デハナイ。先ニ言ッタ通リ、君達ニナンラ罪ハ無イノダカラナ」

o川;゚ー゚)o「えと…その…」

|::━◎┥「タダ、コレダケハ覚エテオイテ欲シイ」

o川;゚ー゚)o「え?」

|::━◎┥「彼ラモ戦士ダ。祖国ノ為ニ戦ウト決メタ以上、傷ツクコトモ命ヲ落トス事モ全テ覚悟
ノ上デココニ居ル。ソノ“覚悟”ダケハ、決シテ辱メナイデモライタイ」

o川;゚ー゚)o「す、すいません……」

完全に委縮しきって頭を垂れるキュート嬢。
どうも間の抜けた光景だが、オレも彼女と同じ立場だったら同じように謝っていただろう。
それだけ、彼の貫録は様になっていた。

|::━◎┥「…サテ、ソレデハ本題ニ移ロウ」

“歯車の王”はコンソールの前の椅子に腰かけると、オレ達にも座るよう促す。
言われたままにオレ達が腰を下ろすと、彼はその歪な、それでいて威風堂々とした電子音声で話し始めた。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:06:18.98 ID:fZo6jomO0
支援

54 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:08:14.85 ID:9hseKW0x0
|::━◎┥「先ズハ我々ノ目的ニツイテダガ…ソレニツイテハゴ存知カナ?」

o川*゚ー゚)o「えーと…確か、日本からの関税自主権の奪還、それとムズリーマ領からの日本軍基地の立ち退き…それから……」

|::━◎┥「ウム。大方間違イナイ。ツマルトコロ、我々ハ“日本”カラノ独立ヲ目指シテ戦ッテイル」

|::━◎┥「君達ニハ、ソノ目的ノ為ニ協力シテモラウコトニナルノダガ……」

('A`)「日本大使館に電話して、“日本から独立させろ。じゃなきゃ、人質を殺すぞ”なんて言うのか?」

|::━◎┥「フハハ!ソレデ本当ニコノ国ガ解放サレルノナラバ願ッタリカナッタリナノダガナ!ソウ上手クモイクマイ」

強がりから出たオレの皮肉にも“歯車の王”は豪快に笑うと――それはひび割れた電子音だった――頭を振る。

|::━◎┥「モット小サナ規模ノ交渉トナル」

('A`)「というと?」

|::━◎┥「渡辺ぐるーぷ関連ノ施設ノ退去、ナイシハ規模縮小ダ」


55 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:11:14.67 ID:9hseKW0x0
(;'A`)o川;゚ー゚)o「なっ…!」

彼の発音マイクから出た言葉に、オレ達は同時に声を上げた。

(;'A`)「渡辺を動かすって…そんな・・・・・」

|::━◎┥「無理ダト思ウカ?」

(;'A`)「思うかって……」

無理に決まっている。渡辺と言ったら、そのもの日本政府を動かすのと大差ない。
大体、あの女悪魔のことだ。人質を取られたぐらいでこんな疲弊しきったゲリラ達の要求を呑むとも思えない。
最悪、人質――つまりオレ達だが――ごと此処を爆撃で消し飛ばし、素知らぬ顔で業務再開を宣言するだろう。
黒山羊のサーカスの二の舞になるのは目に見えていた。

(;'A`)「そんな……」

|::━◎┥「渡辺ノ大キサハ私モ知ラヌワケデハナイ。奴ラノヤリ方モ、実際ニコノ目デ何度モ見テキタ」

(;'A`)「だったら…!」

|::━◎┥「ダカラコソ、コノ交渉ヲ成功サセルコトニハ、大キナ意味ガアルノダ」


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:11:32.84 ID:B9b/s9uZ0
s

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:11:40.76 ID:fZo6jomO0
支援

58 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:13:40.93 ID:9hseKW0x0
(;'A`)「意味があるっていっても、勝算が無ければ……」

|::━◎┥「無イワケデハナイサ」

そう言うと、彼は椅子から立ち上がりオレ達に背を向け。

|::━◎┥「交渉ノ際、人質デアル君達ノ身柄ト同時ニ“私ノ首”モ差シ出ス」

静かに、迷いなく、そう、言い切った。

(;'A`)「首を差し出すって…それは……」

それは、それはつまり。

|::━◎┥「アノ女狐ナラバ、コノヨウナ趣向ハ大歓迎ダロウ。同志達ハ納得シナイダロウガ……」

(;'A`)「自分から、死にに行くってのかよ……」

確かに、あの女悪魔は人の生き死にに対してドラマ性を求める、という反吐の出るような趣味を持っている。
もしかしたら、彼の死と引き換えに要求を呑むかもしれない。

だが。


59 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:16:42.22 ID:9hseKW0x0
(:'A`)「……本当に、それでいいのかよ」

気付けばオレは。

(#'A`)「あんたが死んで、渡辺が規模縮小して、あんた本当にそれだけで満足なのかよ!」

馬鹿みたいに大声を上げて、叫んでいた。
部屋中の兵士達がこっちを振り向いたが、もの問いたげな彼らを“歯車の王”は振り向いただけで鎮めた。

|::━◎┥「何故、君ガ激昂スル?」

彼の言うとおり、オレが怒りを覚えるいわれなど無い。
オレはあくまで人質で、日本人で、彼等の土地を奪った仇の子孫だ、
彼らにしてみれば、馬鹿にされているようなものだろう。

それでも、オレは怒りを覚えずにはいられない。

だって、だってこれじゃ本当にあの女悪魔の思うつぼだ。
所詮はオレの私怨でしかないが、全てが奴の思うようにいくのは、それだけは甚だ我慢ならない。

(#'A`)「そんなの…そんなの……」

|::━◎┥「何故君ガ怒リニ震エテイルノカハ分ラナイガ、ソレデ私ハ満足ダヨ」


60 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:19:13.04 ID:9hseKW0x0
“歯車の王”はゆっくりと部屋の中を見渡しながら滔々と語る。

|::━◎┥「我々ガ日本ニ反旗ヲ翻シテ、モウ何十年ニナルカ」

|::━◎┥「多クノ同志達ガ倒レテイッタ。多クノ血ガ流レタ。多クノ薬莢ガ大地ニ落チタ」

|::━◎┥「ソノ間、私ハ常ニ同志達ノ上ニ立チ指揮ヲ執ッテキタガ、結局祖先カラ受ケ継イダ土地ヲ取リ返ス事ハ出来ナカッタ」

|::━◎┥「ナラバセメテ、コノ命ト引キ換エニ少シデモ奴ラノ支配体制ガ揺ラグノナラ…ソレハ、私ニトッテ本懐ト言ワズシテナンダトイウノカ」

言い終えると、彼はその無機質な、それでいて強い輝きを持ったカメラアイでオレを真正面から見据えた。

(;'A`)「……」

表情など無い筈の、LEDの白い輝き。
全てを悟ったような、そんな“諦観”にも似た色をそこに見て、オレは黙るしかなかった。


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:20:26.29 ID:qZvPZrRg0
しえん

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:21:47.26 ID:B9b/s9uZ0
s

63 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:23:30.40 ID:9hseKW0x0
作戦中枢内の兵士たちは、オレ達の様子を落ちつか無げに窺っている。
先にオレが思わず漏らしてしまった言葉が気になるのだろう。
幾つもの死線を掻い潜ってきたであろう機械化歩兵(マシントルーパー)達も、今はまるで幼子のように見えた。

o川;゚ー゚)o「あの…じゃあ、彼らはどうなるんですか?」

彼女もオレと考える事は同じだったのか。
横目で兵士達を見ながら彼らに聞こえないよう、声を顰めて尋ねる。
“歯車の王”は暫く沈黙を守ったが、やがて静かに言った。

|::━◎┥「……初メハ同志達モ混乱スルダロウ。何モ貢献出来ナカッタトハ言エ、指揮官ガ不在トナルノダカラナ」

|::━◎┥「新タナ指揮官ヲ選出シ、再ビ祖国ノ為ニ戦イ続ケルノカ…彼ラナラ、恐ラクハソウスルダロウ」

|::━◎┥「ダガ、私トシテハ彼ラガドノ道ヲ選ンデクレテモ構ワナイ。彼ラハ今マデヨク戦ッテクレタ。ソコカラ先ノ道ハ彼ラガ決メルコトダ」


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:24:55.35 ID:qZvPZrRg0
しえん

65 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:27:18.54 ID:9hseKW0x0
o川; ー )o「それって、無責任なんじゃないですか?」

ぽつり、呟かれたキュートの言葉。
それに、“歯車の王”は。

|::━◎┥「……私トテ…コンナ結末ナド望ンデハイナイ」

激情を押し殺すように唸った。


66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:31:20.26 ID:HB+IzIh5O
支援

67 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:31:41.79 ID:9hseKW0x0
※ ※ ※ ※

――白亜の街並みを横目に、蒼い月光の下を往く。
頬を撫でる風は、乾いた砂の香り。踏み出す足の裏に伝わる、さくさく、という感触。
肌を這う気流の流れ。

「あぁん…この感覚…っふぅん……たまらないわぁん……」

インサートしたばかりの五感が脳核に送ってくる莫大な情報に、私は軽い“絶頂(オーバーフロー)”を覚えた。

(*゚∀゚)「けっ、ド腐れ変態が」

隣を歩く“相棒”が唾と一緒に吐き捨てる。

「あんただって人の事言えないでしょおう?人をバラしてイくなんて信じらんないわ」

大仰に肩を竦める私を、彼女は殺気を剥き出しにして睨んだ。

(*゚∀゚)「信じられないなら今ここで見せてやんよ。昼間殺れなくて溜まってるんだわ」

黒眼と白眼が逆になった、彼女の瞳を覗き込む。
人工タペタムの縦に割れた瞳孔の中には、貪婪な破壊衝動が確かに浮かんでいた。


68 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:34:13.70 ID:9hseKW0x0
「やってみなさいよ。そしたらあんた、向こう十年はイけないように去勢してやるんだから」

レザーコートのポケットから注射器を取り出してちらつかせる。
途端、借りてきた猫のように大人しくなる“屠殺屋”。
毎度毎度、このじゃじゃ馬を相手にするのは疲れるというものだ。

(*゚∀゚)「…ちっ。わぁった。わぁったよ。今は我慢してやんよ。で、何時になったらあたしの番が回ってくるんだい?え?」

苛立たしげにドレッドヘアをかき上げ、彼女は“自慢の爪”を噛む。
雌獅子には定期的に餌をやらねばならないとはいえ、こう悪食では飼い主も参ってしまうというもの。
矢張り、目覚めさせるのが早すぎたか。

「そうねえ。もう一山ある予定だけど……」

(#*゚∀゚)「それは何時なんだよ……」


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:35:12.09 ID:ekJnvjCY0
おおお!初リアルタイム!支援!

70 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:37:06.00 ID:9hseKW0x0
「んー……まっ、そのうちねん」

(#*゚∀゚)「はぁ!?」

適当に会話を切り上げ、私は横目で隣の殺人狂を見下ろす。
左側頭部をドレッドに編みこんだブロンドヘアは腰まで届く長さ。
黒いレザーボンテージの上からは、全身の至るところを何重にも縛りつけた拘束ベルト。

彼女は「ダサいからこんな恰好はイヤだ」と言うけれど、こうでもしないとこの“けだもの”はとてもじゃないが制御しきれない。
最近は「オシャレ」と称して拘束衣の上から自分でイラストを描いた包帯を巻きつけているが、正直センスを疑う。
もっとも、狂人の思考など把握しきれるようなものではないが。

(#*゚∀゚)「――おい、聞いてんのかよ?」

物思いに耽っていると、彼女が横から鬼のような形相でこちらを覗いてくる。
黒眼と白眼が逆の人外のような瞳は、その実カラーコンタクトを入れただけのハリボテ。
彼女を真に狂人たらしめているのは、その光を全て吸いこんでしまいそうな程に濁った眼光だ。


71 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:39:26.17 ID:9hseKW0x0
絶望、孤独、憎悪、嫉妬、嫌悪……そして殺意。
この世の全ての“負の感情”を一人で体現する、暗く、底が見えない沼のような瞳。
殺人、ドラッグ、異常性愛……そして自傷行為。
彼女は「オシャレ」だと言っているが、本当は知っている。
幾重にも巻かれた包帯の下には、今も無数の傷跡が残っている事を。
“ウェイク・アップ・ザ・デッド”の処方の前から繰り返された、その悲痛な叫びは、それでも誰にも届く事は無かった。
どこまでも、どこまでも、暗闇の中に堕ちていく中、彼女が“正気”を捨てたのは当然のことだろう。
狂わなければ、生きていけない。

「えぇ……聞いてるわ」

哀れな“けだもの”に笑みをくれると、私は再び前を向く。
人知れず、乾いた唇を舌で湿らせた。



next track coming soon...


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:39:32.04 ID:fZo6jomO0
支援

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:43:21.77 ID:HB+IzIh5O

色んなキャラが出てきてるから続きが気になる

74 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2010/01/18(月) 22:43:33.55 ID:9hseKW0x0
以上で今日の投下を終わります

母上のパソコンタイムがきましたので、質問のある人はお手数ですが芸さんの掲示板か作者本人のブログまでどうぞ

次回投下は一週間以内には済ませたいと思います

お付き合いいただいた皆さん、有難うございました


75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:47:11.03 ID:B9b/s9uZ0


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:49:17.43 ID:qZvPZrRg0
乙ぅ

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 22:58:10.91 ID://Xd7s1a0


78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 23:05:01.23 ID:tupxFlH3P
乙です

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/18(月) 23:10:17.04 ID:fZo6jomO0


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/01/19(火) 00:06:30.12 ID:8FHWbZad0
a


全部 最新50
DAT2HTML 0.35bp Converted.
inserted by FC2 system