全部 1- 最新50  

赤い雨、のようです

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 21:42:45.11 ID:D4RrhA55O
代立

2 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 21:46:26.26 ID:ETkeZZFBO
>>1代理ありがとうございます



ジャンル:ジャパン・ダークサイド・モダンホラー

CERO:D(16歳以上推奨)



3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 21:47:47.92 ID:FaXKU/tMO
ロドラスカル

4 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 21:48:36.20 ID:ETkeZZFBO
てるてるぼうず てるぼうず

此岸の三晩に雨ふらせ

てるてるぼうず てるぼうず

彼岸のお空を染め上げれ



──赤い雨、のようです──

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 21:48:36.80 ID:DR0KT1dq0
しえんしようか

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 21:50:21.14 ID:D4RrhA55O
遅くなってすまない。支援しようか

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 21:50:58.79 ID:YIw/VS9JO
全米が無視した

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 21:51:06.30 ID:D4RrhA55O
>>3
ああくそ、涌くな!却下だ却下!

9 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 21:51:16.85 ID:ETkeZZFBO
【前日 内藤ホライズン 22:27:38 国道398号線 荒郷方面】

──それ、うるさいから止めてくれます?

助手席からの不機嫌極まりない声色に、僕はカーステレオのスイッチを渋々切った。車体を叩く雨の音が、余計に強くなった。

( ^ω^)「The Buster!は名曲なのに……」

ζ(゚、゚*ζ「あんなうるさいだけの曲、何がいいんですか。あんなの、歌ですらないです」

後輩の物言いに異を唱えようとして思いとどまる。これ以上、空気を重くするのは好ましくないと思った。

( ^ω^)「……」

ζ(゚、゚*ζ「……」

どちらかが口を噤めば、沈黙。ここ一時間近く、何度も繰り返されたパターンだった。

ζ(゚、゚*ζ「本当に、こっちの道であってるんですか?」

( ^ω^)「さっきのコンビニの兄ちゃんが嘘をついたんじゃなかったら、ね」

ζ(゚、゚*ζ「ブーン先輩が間違えた可能性は無いんですか?」

( ^ω^)「さあ?」

ζ(゚、゚#ζ「……」

ヘッドライトに照らし出されているアスファルトは、蛇のように曲がりくねっている。
両脇を崖で挟まれた山道は、夜中ということも相俟って不安を煽るには充分過ぎた。

10 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 21:53:12.55 ID:ETkeZZFBO
ζ(゚ー゚*ζ「……こんなとこに住んでる人って、どんな神経してるんですかね」

少しでも空気を変えようと思ったのか。
窓の外をぼうっと眺めながら、デレが呟いた。

( ^ω^)「うーん……少なくとも、みんなが住みたくて住んでるわけじゃないと思うお」

そう返しながら、僕はぼんやりとこれから訪れるだろう「荒郷村(あらさとむら)」について思いを巡らせた。

人口約2000人強。秋田県南、周りを山岳に囲まれた、所謂陸の孤島。
これといった特産品や伝統工芸があるわけでもない、文明に置いてけぼりをくった村。

ζ(゚ー゚*ζ「ショボ君も大したもんですよ。そんなに司書になりたかったんですかね?」

( ^ω^)「いや、ショボン先輩にとっては逆に天地だったんじゃないかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「どうしてです?」

視線を窓から僕に移してデレが尋ねる。
僕はブラックコーヒーを啜りながら、ハンドルを切った。

( ^ω^)「研究室に居たときから、先輩は荒郷村のことにご執心だったからさ」

ζ(゚ー゚*ζ「ふーん……民俗学って、そんなに楽しいものですか?」

( ^ω^)「僕に聞いたって、デレちゃんの望んでる答えは返ってこないお」

ちぇっ、と呟きデレは視線を逸らす。
僕が苦笑を漏らした時、その看板がヘッドライトに照らし出された。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 21:54:59.23 ID:zu2uvloBO
期待! 支援

12 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 21:55:37.72 ID:ETkeZZFBO
“荒郷村 これより15km先”

( ^ω^)「ほら、やっぱりこっちであってた」

ζ(゚、゚*ζ「でも、こんな時間じゃショボ君起きてるわけないです」

( ^ω^)「そこはデレちゃんのラブコールで起こしてあげてくれお」

ζ(゚ー゚*ζ「ええぇー」

頬を膨らませながらも、デレは心なしか嬉しそうにケイタイを取り出す。
スライド式のそれを開いてディスプレイを覗き込んだ所で、彼女の眉間が険しくなった。

ζ(゚、゚;ζ「圏外ですけど」

( ^ω^)「あれ?おっかしいなぁ……先輩とはこないだも電話で話したから、こっちに電波棟が立ってないって事は無いはずなんだおけど……」

ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、寝てても無理矢理起こしちゃうんですけどね」

あっけらかんとした表情でうそぶくデレ。
何時も何時も、天真爛漫というか、マイペースというか。
確かにこの子の恋人はショボン先輩ぐらいにしかつとまらないかもしれないな。

13 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 21:56:42.62 ID:ETkeZZFBO
なんて、思った時だった。

ζ(゚д゚;ζ「先輩!前!前!」

( ;^ω^)「!?」

前触れなく響き渡ったデレの頓狂な叫び声。
考えるよりも先に、足がブレーキを踏み込む。
耳をつんざくタイヤの悲鳴。急な減速による凄まじい慣性。
一瞬が数時間に感じられる体験を経て、車は雨粒を蒸発させながら止まった。

14 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:01:57.63 ID:ETkeZZFBO
( ;^ω^)「……」

ζ(゚ー゚;ζ「……」

何があったのか、と僕は尋ねない。

雨に煙る夜の峠道。

ヘッドライトの明かりの中。
荒郷村へ向かうであろう筈の道路の先は、崖崩れでもあったのか土砂で埋まっていた。

( ;^ω^)「……これは…」

ζ(゚、゚;ζ「……」

左右には切り立った山肌。目の前には、右手側の山から崩れた土砂。言うまでもなく通行止めだ。
迂回路の心当たりなど無い。八方塞がりを絵に描いたような状況だった。

( ;^ω^)「まいったもんだお……」

額をハンドルにつけてうなだれる。こうなったら引き返す他はない。

15 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:03:45.01 ID:ETkeZZFBO
最後にコンビニでトイレ休憩をとったのが三時間前。最後に対向車とすれ違ったのは五時間前。
デレの眉間のしわが増えるのは、免れそうも無かった。

( ;^ω^)「あの…デレちゃん……」

鉛の沈んだ胸中で隣を窺う。
恨み言の大洪水が待っているかと思うと、自然と声は尻切れトンボになる。

ζ(゚、゚ζ「……」

無言。
前を睨みつけるよう見開いた目に、真一文字に引かれた口。
ああ、だんまりか。勘弁してくれ。いっそ怒鳴ってもらった方がいい。

16 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:05:34.89 ID:ETkeZZFBO
( ;^ω^)「えーと……」

どう切り出したらいいものか。
言葉を探してあーでもないこーでもない、と一人で葛藤していると、デレがぽつりと呟いた。

ζ(゚、゚ζ「……鐘」

( ^ω^)「え?」

ζ(゚、゚ζ「鐘…聞こえる……」

譫言のように呟く彼女の表情に色はない。
鐘って何のことだ?そう聞こうとした時にはもう、彼女は助手席のドアを開けていた。

( ;^ω^)「ちょっ!デレちゃん!」

大きくなる雨音。
ふりそぼる雨と夜の闇の中へ、デレはふらふらとまろびいでる。
慌ててその後を追うように、僕も運転席から飛び出した。
大粒の雨がパーカーを濡らす。
軽四の反対側に向かうと、デレは既に暗闇の先へと歩き出していた。

ζ(゚、゚ζ「この鐘…」

夢見心地のように洩らしながら彼女は目の前の土砂の山へと向かうと、それを登り始める。

( ;^ω^)「デレちゃん!デレちゃん!どうしたんだお!何があったんだお!」

僕の問いかけにも彼女は振り返る事は無い。
憑かれたように土砂の山を登るその背中は、何だか別人のようにも思えた。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:06:26.65 ID:wt2HTI2EO
支援

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:08:18.80 ID:FaXKU/tMO
弟切草

19 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:08:30.33 ID:ETkeZZFBO
( ;^ω^)「……」

兎に角、追わない訳にもいかない。
パーカーについたフードを被ると、土砂の山へと小走りに向かう。
僕の身長のゆうに三倍はあろうか。既に登り終えたのか、見上げれどもデレの姿は見えなかった。

雨で崩れ易くなった土塊にしがみつくと、危うげにもそれを登っていく。
真っ黒な空に月は無く、無限とも思える雨粒だけがそこを支配していた。

( ;^ω^)「まったく…とんだ厄日だお」

ぼやきながらもがむしゃらに手足を動かしていると、やがて土砂山の頂に辿り着く。
見下ろせど何一つ見えない闇に、この結果を予想出来なかった事を後悔した。

( ;^ω^)「……」

デレの姿も、無論見えない。
既に降りきったのか。だとしたら、凄まじい体力だ。
このまま追い掛けたところで、追い付ける自信はなかった。一旦引き返して、車から懐中電灯を持って来るべきか。

( ;^ω^)「なんだってんだお…」

焦りに足を滑らせながらも、土砂山を下り愛車の元まで引き返す。

濡れ鼠のままに運転席の足元を漁っている時だ。

“その音”が響き渡ったのは。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:08:57.50 ID:YSu4+0mCO
ああ、あれか
書けたんだな

しえん

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:12:13.98 ID:zu2uvloBO
支援

22 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:12:36.49 ID:ETkeZZFBO
“かぁーん”

    “かぁーん”

  “かぁーん”

         “かぁーん”

 “かぁーん”

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:13:02.80 ID:i+6fU2g7O
しえん

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:15:22.02 ID:N1P5OUKqO
しえん

25 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:17:51.09 ID:ETkeZZFBO
( ;^ω^)「な、なんだお?」

突然のことに、思わず背筋が震える。鐘楼か何かだろうか。
乾いた金属音が、遠くの方から響いてきた。

( ;^ω^)「鐘…?」

学校のチャイムとはまた違った、単調なそれ。
聞き慣れない響きに妙な気持ち悪さを覚えながらも、僕は懐中電灯の明かりを点け、振り返った。

瞬間。

( ;゚ω゚)「ひっ!」

目の前に広がった、真紅の世界に、悲鳴を上げる。

( ;゚ω゚)「え…あ…お…」

赤い。アスファルトが、山肌が、そこに生える木々が、赤い。
愛車が、そのドアが、まるで血にまみれたように赤い。

( ;゚ω゚)「うあ…あ…」

どうして。どうして。わからない。わからない。どうなってる。どうなってる。わからない。

答えを求めて仰ぐ空。

赤い雨が、降り注いでいた。

26 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:20:04.57 ID:ETkeZZFBO
【アーカイブに、「内藤ホライズンの学生証」が追加されました】

27 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:23:45.01 ID:ETkeZZFBO
【第1日目 五柳ギコ 00:00:44 落人地区 山小屋方面】



──乾いた鐘の音に顔を上げる。薄暗い山小屋の床が、体重の移動でみしりと軋んだ。

(,,゚Д゚)「……なんだぁ?こんな時間に」

雨の音を背景に、鐘の音は虚ろに、物悲しい色を帯びて遠く響く。
どこぞの酔っ払いが火の見櫓にでも登ったのかと考えて、あながち冗談にならないことに苦笑が漏れた。

(,,゚Д゚)「まさか、モララーさんだったりしてな」

やれ集まりだ、とくれば浴びるだけ飲んだくれては悪乗りするような人だ。あの人ならばやりかねない。

(,,゚Д゚)「ったく…人をパシらせといて良いご身分だごど」

確証も無いのに完全に彼のせいだと決めつけてぼやく。
飲めもしない酒の席に呼ばれた挙げ句、山小屋の戸締まりを確認してこいとこんな真夜中に駆り出された身としては、
愚痴の一つもこぼさずにはやっていられないというものだ。

(,,゚Д゚)「神父さんも、新しいワインだかなんだか知らねえけど、余計なことすんなってなだ」

山の男ときたら、一年中飲んだくれているのが相場というもの。
善意の差し入れなのだろうが、付き合わされるこっちの身にもなって欲しい。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:24:05.07 ID:zu2uvloBO
しえん

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:25:05.79 ID:pZnCm7sw0
>>1
期待

>>7
ワロタ

30 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:25:34.91 ID:ETkeZZFBO
(,,゚Д゚)「……っと。こんなもんかね」

電気の通っていない山小屋の中を、懐中電灯で一通り照らす。
コンクリートの床の上には、昼間に伐った杉の丸太の山。
足元に転がったチェーンソーを壁に立て掛ければ、あとは小屋を出て南京錠を掛けるだけだ。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:26:37.69 ID:/W1eHMX/O
おぉ!スレ立ったのか!

32 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:27:32.66 ID:ETkeZZFBO
(,,゚Д゚)「……しかし黴臭ったらたまらねな。こったおんぼろ小屋、さっさと立て直したらえなさ」

外で風がびゅうと吹く。小屋のプレハブ壁 ががたがたと軋む。
よくは知らないが、先代の親方が若い頃に窮洞崎村の土方達にタダ同然の値で譲ってもらったらしい。
以来、この数十年間、補修に補修を重ねて使われ続けているようで、親方一家の守銭奴振りには一種尊敬の念さえ湧くというものだ。

(,,゚Д゚)「杉郷農林だって、最近だば充分儲けでらおの。山小屋の一つや二つ、買ったらいなさな」

一応、二、三人までなら泊まれるような寝床も有るとは言え、今じゃ誰も好んで泊まろうとはしない。
そりゃそうだ。こんな雨風の強い日には、まるで女の悲鳴みたいにして“小屋が泣く”のだから。
今だって、雨音に混じって遠くの方から……。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:29:16.21 ID:Kgnsxz58O
支援

34 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:30:07.25 ID:ETkeZZFBO
(,,゚Д゚)「……ん?」

耳を澄ます。
遠くの方から……なんだって?

今、俺は何を聞いた?

(,,゚Д゚)「……」

“──ぃ──コ──だが─?──”

プレハブの屋根を、大粒の雨が叩いている。
ぼつぼつぼつ。ぼつぼつぼつ。
声は、途切れ途切れに、その合間を縫うように聞こえてくる。

気のせい、では無い。梟の鳴き声でも、無い。

(,,゚Д゚)「こんな夜中に……?」

一体誰が?もう一度、その声がか細く響く。

35 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:32:21.24 ID:ETkeZZFBO
“ギコォ──さいだぁ──?”

掠れているが、はっきりと聞こえた。
確かに、自分の名を呼ぶ、その声が。

その声の主に、俺は心当たりがあった。

(,,゚Д゚)「モララーさん…?どうして?」

あまりにも帰りが遅いから、と様子でも見に来たのだろうか?

まさか。俺が席を立った時点であの人は充分に出来上がっていた。
あと二杯も飲めば何時もの泡踊りを始めそうだったから、使いっぱしりを言い渡されてほっとすらしたのだ。

36 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:35:34.76 ID:ETkeZZFBO
(,,゚Д゚)「……」

相変わらず、外では雨音が続いている。
自分を呼ぶモララーさんの声も、段々と近付いてきている。
風が吹く度に軋むこの小屋の中。急に背筋に寒気が走って、俺は足踏みした。

(,,゚Д゚)「……まぁ、あの人の事だしな」

大方、何時も通りの「悪乗り」が始まったのだろう。
肝試しだなんだと言いながら、ここまで来てしまったに違いない。

「ギコォ……どさいだぁ?」

山小屋のすぐ外で、モララーさんの声がする。今にも消え入りそうな、か細い声だ。悪い方に酔いが回ってしまったようだ。
酒が好きなのはわかったから周囲に迷惑だけはかけないでくれ。
こんな雨の中を歩いてきたら、間違いなく風邪を引く。
どうせ上がってきたらすぐさま“意識不明”になってしまうのだろう。
面倒を見る人間なんか、俺しかいない。
溜め息が、また漏れた。

37 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:37:30.96 ID:ETkeZZFBO
「ギコォ……どさいだぁ?」

小屋のガラス戸を、たたく音。
ここまで来て自分で戸も開けられないとは。最早、前後不覚になっているのは間違いない。
自分の運命を呪いながら、俺はガラス戸に向かって歩き出した。

(,,゚Д゚)「はいはい、こさいだんすよ。今開けるんすから、倒れねでけれんしよ」

ぼやきながら、戸に手をかけ、そこで俺は顔を上げる。

ガラスの向こうは、濃い闇でよく見えない。

代わりに、ガラスについた赤い手形が、はっきりと、この目に映った。

38 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:40:23.15 ID:ETkeZZFBO
(,;゚Д゚)「──っ!」

息を呑む。手を離す。一歩、後ずさる。

「ギコォ……どさいだぁ…?」

ガラスの向こう。闇の中。
真っ赤に染まった人の掌が、ガラスをゆっくりと叩いた。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:43:32.37 ID:f+PwDAK8O
支援だ

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:43:36.80 ID:ZL/UHIEtO
キン肉マンスレじゃないの?

41 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:43:38.54 ID:ETkeZZFBO
(,;゚Д゚)「な──な──」

真っ赤な手形を凝視する。生唾を嚥下する。

血だ。これは、血だ。

ここへ来る途中で、モララーさんは何かしらの大怪我をしてしまったのか。

大変なことになった。もう酔っ払いの世話どころの話じゃない。
応急手当て、119、薬箱はどこにやったか。様々な思考が頭の中をよぎった。

(,;゚Д゚)「えぇと…えぇと…!」

「ギコォ……」

外からの弱々しい声に、俺ははっとする。今は考えている場合じゃない。

(,;゚Д゚)「モララーさん、大丈夫ですか!?」

俺は、ガラス戸を勢いよく開けた。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:43:52.71 ID:/Y61oxojO
全力で支援しよう

43 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:45:23.96 ID:ETkeZZFBO
【アーカイブに、「泥まみれの結婚指輪」が追加されました】

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:46:40.66 ID:u5cpsL0y0
支援

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 22:47:41.49 ID:zu2uvloBO
サイレンみたいに複数の視点で進むのか
支援

46 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:50:02.70 ID:ETkeZZFBO
【第1日目 鬱田ドクオ 00:27:46 猿傘地区 戸夜川下流】



──走る、走る、走る。

(;'A`)「はっ、はっ、はっ……」

下草を踏みわけ、砂利を蹴散らし、泥を跳ね上げ、全速力でもって走る。闇の中を照らす、懐中電灯の頼りない明かり。
光の輪の中に見える河川敷は、血のような赤に染まっていた。

(;'A`)「一体…どういう…ことなんだ…」

常軌を逸した光景に、頭がパンクしそうになる。何故こうなった?何が起こっている?
理性は答えを求めて沈思黙考を要求するが、本能が足を動かせと絶叫していた。

(;'A`)「くそっ…!」

降りしきる赤い雨。一時間前までさしていた傘は、既に閉じられ右手に握られている。
おそらく、自分の体も奴らのように血でまみれたような有り様になっているだろう。

(;'A`)「……」

ぬかるむ足元に、体力が奪われていく。日頃から運動は怠っていないとはいえ、もう限界が近かった。

ここで止まるわけにはいかない。

本能の警鐘が、もつれそうになる足をぎりぎりで持ち直す。どこか、身を隠せる場所が必要だった。

47 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 22:55:04.10 ID:ETkeZZFBO
走りながら首を巡らす。
黒と赤の闇の中、右手前方にうっすらと背の高い木立を見つけた。

(;'A`)「!」

ライトを消して方向転換。
持てる体力の全てを動員して、転がり込むように木の陰に飛び込んだ。

(;'A`)「……ふぅ…ふぅ…ふぅ…」

息を押し殺し、身を縮こめて、木の幹に背を預けへたり込む。
耳をそばだてれば、雨音に混じって“奴”のぬかるみを走る粘着質な足音が微かに聞き取れた。

近付いてきては遠ざかり、遠ざかっては近付いて。

どうやら、俺を見失ったらしい。
うろうろとそこらを歩き回る気配に、俺は溜め息をつきたい衝動を抑えた。

どうしてこうなった?

緊張の糸が緩んだことで、理性が主導権を握る。

少なくとも数時間前までは何時もの夜だった筈だ。
静寂と闇が支配する、田舎の夜だった筈だ。
それが、どういう経緯でこうなった?

48 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 23:00:36.04 ID:ETkeZZFBO
認められない。こんなもの、現実として認められる訳がない。
だが、現にこうして俺は“奴”に追われている。
現実と認めない訳にはいかなかった。
差し迫った生命の危機を前にただ泣き叫んでいるばかりでは生き残れない。
多くのホラー映画が、そう教えてくれた。実際、これがホラー映画の収録か何かだったらどれほど良かったことか。

('A`)「はは…は…」

生き残る、か。
自分がこれほどまでに「生命」に執着しているとは意外だ。
やはり、どんな思考を繰ろうと所詮は人間も動物でしかないということか。

('A`)「…だが、神はそれを許してくれるだろうか」

多分、駄目だろう。どこの宗教のどの神かはこの際どうでもいい。
神には、俺のような汚物よりももっと他に救うべき人間が沢山居て忙しいに違いない。
ならば、少しでもその負担を減らしてやるべきだろう。

('A`)「ビロード……」

そっと、その名前を呟いた時だ。
木の陰で、あの足音がした。

唾を飲む。

上着を脱ぐと、俺は傘を構えた。

49 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 23:04:16.05 ID:ETkeZZFBO
【アーカイブに、「血塗れの背広」が追加されました】

50 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 23:07:06.28 ID:ETkeZZFBO
今日の本編投下はここまでで

続いてアーカイブの投下に移ります

51 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 23:11:35.41 ID:ETkeZZFBO
【アーカイブ No.01 内藤ホライズンの学生証】

・取得者/不明
・取得条件/車を飛び出す
・日時/前日 23:00

氏名:内藤ホライズン
生年月日:昭和61年5月7日
学籍番号:1170373688
所属:尾府大学 社会学部 民俗学科
キャンパス所在地:東京都 赤坂 ○○区
発行日:昭和80年3月15日

右の者を当大学の学生として認める。



──丁寧にパスケースに入れられていた学生証。
証明写真には、丸顔の人の良さそうな垂れ目の青年が写っている。
パスケースにはメモ用紙が一緒に入っており、何やら乱れた字でこう書かれていた。

“テーマ 東北の隠れキリシタンとその変遷について”

52 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 23:12:49.30 ID:ETkeZZFBO
【アーカイブ No.02 泥まみれの結婚指輪】

・取得者/不明
・取得条件/山小屋の戸を開ける
・日時/1日目 00:00

落人地区、敦社岳の山小屋の床で見つかった結婚指輪。
シンプルなデザインのシルバーリングで、サイズは約15号ほど。
リングの内側には、やや薄くなっているものの文字が彫り込まれている。

“from Sii to Giko”

53 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 23:14:01.86 ID:ETkeZZFBO
【アーカイブ No.03 血塗れの背広】

・取得者/不明
・取得条件/何者かに追われる
・日時/第一日目 00:00



──血で染まったかのように真っ赤に汚れた背広。荒郷村は戸夜川下流の河川敷で発見された。元々はダークグレーの配色だったと思われる。
内ポケットには一枚の写真がしわくちゃになって入っていた。

件の写真は同村内の板呼山で撮影されたようで、紅葉する山の木々を背景に、
小学生程の少年と顔色の悪い痩身の中年男性とが肩を組んで楽しそうに写っている。
中年男性の方が左手をファインダーの外に伸ばしていることから、この写真は彼が片手で撮影したものだと推測できる。

写真の裏にはボールペンで、「2009.10.17.親友と」と独特な達筆で書かれていた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 23:21:07.13 ID:1ddPAKZVO

秋田県南ってことは、ギコやモララーが話してるのは秋田弁なのか

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 23:22:27.57 ID:oDIi9oID0
乙!
モチーフはサイレンか。続き期待してます

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 23:24:02.83 ID:69DTu7uuO
SIRENのブーン系SSって完結したの無いんだよな

57 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 23:24:04.74 ID:ETkeZZFBO
今日の投下おしまい

お付き合いいただいた皆様、どうも有り難う御座いました

質問があればスレが落ちるまでの間は見てますのでどうぞお気軽に

では

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 23:26:13.19 ID:69DTu7uuO
>>57
落とし処の目処はついてる?

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 23:26:59.16 ID:zu2uvloBO
乙!


60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 23:30:36.20 ID:4KL0UdWMO
方言が全て脳内再生されるこのときめきは何だろう

乙っ

61 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/12(木) 23:42:20.98 ID:ETkeZZFBO
>>54
秋田弁と言っても地域により結構違うものなのです。
ですから、本編でギコ達が使ってるのは正確には「秋田県南」の方言です。
これが県北などに行くと、また少し変わってくるのですが、それはまた別のお話。

>>55
有り難う御座います。本家の劣化コピーと言われぬよう、頑張っていきたいと思います

>>56
そうなんですよね。どこを探しても未完ばかり。読みたくても読めないんです。じゃあ自分で作っちゃおうか、ってことで今に至ります。
きっと、SIREN系初の完結作になりますよ。

>>58
オチのイメージはぼんやりと決まっています。
あまりずるずると長引かせるのもイヤなので、今作は長編という割にはあっさり終わるかもしれません。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 23:45:32.75 ID:WA/7kVha0
鐘の音で1999ChristmasEveを思い出した俺はSIREN未経験者
これは期待

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 23:46:15.56 ID:69DTu7uuO
>>61
頑張れ、超頑張れ
SIRENのシナリオとか設定って気持ち悪いぐらい綿密に作られてるよね
それゆえモチーフ作も作りにくいんだろうか

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 23:47:04.66 ID:uPmwvQ1TP
ぶうんはほらいぞん
にしかわがほらいずんです
きたいします

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 23:51:31.66 ID:nVG9kxzKO
>>62

 <●>

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/12(木) 23:55:39.27 ID:Xd8OrwD8O
>>1
セクロスシーンを盛り込む予定はありますか?

67 名前: ◆fkFC0hkKyQ :2009/11/13(金) 00:04:38.82 ID:a+UWIS7aO
>>64
指摘有り難う御座います。次回から気をつけますね。

>>66
申し訳有りません。ネタバレの危険性がある質問には一切答えられません。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/13(金) 00:11:22.01 ID:AUzUhVO1O
原作在りのブーン系は展開が気になるな
頑張ってね!

俺も「あっち」へ行けるよう頑張ろう…ちょっと赤い水飲んでくる

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/13(金) 00:26:40.02 ID:4W0v9uUH0
SIREN元ネタのブーン系をどれほど待ちわびたことか……。
乙乙!次回もwktk!!

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/13(金) 00:33:52.37 ID:WfoW0M+DO
ブロッケンJr.かと思ったのに…

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/13(金) 00:35:34.17 ID:QyUvPdnVO
まーた秋田か
クトゥルー祭の時にしろ、どんだけ怖い土地なんだよ

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/11/13(金) 00:36:26.58 ID:UWLb0Co7O
頑張ってくれ
逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ


全部 最新50
DAT2HTML 0.35bp Converted.
inserted by FC2 system