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( ^ω^)が競輪に挑戦するようです

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:49:41.40 ID:raN78Cfe0
まとめサイト様
 http://boonsoldier.web.fc2.com/keirin.htm

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:50:00.05 ID:3y4YWjCf0
うわぁ、気持ち悪い人・・・

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:51:16.62 ID:b2BDukLJ0
輪姦に見えた

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:51:36.58 ID:raN78Cfe0
登場人物

( ^ω^) 内藤:陸上の400mで県で一位を取るほどの猛者。怪我により陸上を引退し、津出の弟子となって競輪選手を目指す。

('A`) 毒男:内藤の中学時代の友人で、現競輪選手。なりたてで、実力はまだまだ。
( ^Д^)高良:毒男の師匠

J( 'ー`)し 母親:内藤の母親、ギャンブルが嫌いで競輪を良く思っていない。目下、競輪を目指す内藤とは対立したまま。
(*ノωノ) 風羽:陸上部のマネージャーで内藤の元彼女。すれ違いにより別れる。
(,,゚Д゚) コーチ:大学陸上部のコーチで、レースの度に怒鳴りあげた。内藤と仲違いの上、意思疎通が計れずに終わる。

ミ,,゚Д゚彡 布佐:万夫不当の競輪選手だった。
ξ゚听)ξ 津出:内藤の師匠で、ロードバイクを乗りこなす女性。

(´・ω・`) 所歩:津出と一度決裂しながらも正式な弟子に。群を抜いた実力の持ち主。

( ゚∀゚) 長岡:毒男の尊敬するS級1班の競輪選手。おどけた言葉が多い。
从 ゚∀从 高岡:長岡の弟子で、競輪選手で最高クラスのS級S班の選手。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:52:27.72 ID:fuNd9nMU0
ktkr支援

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:53:34.45 ID:raN78Cfe0
     第二十八レース「母親と父親」


トンネルを抜けるとそこは……そんな表現がつい口を突いて出るほどに、山を一つ抜ければ周囲は見渡す限りの自然一色だった。
盆地にある集落、発展していないわけではないが、とても若い者たちは住めないだろう田舎に内藤の実家はある。

近くの町までは車で15分ほどと、意外にも近いがどうして、あぜ道を通らねば隣の家へも行けぬほど発展とは程遠い過疎地域だった。


春の到来と同時に芽吹き始めた周囲の鮮やかな緑を傍目に、どこか寂しさを感じさせる殺風景でもあった。

元々何ら特別な考えがあったわけでもないが、内藤は幼い頃よりずっと都会に出たいと思っていた。
母親が苦手であったが嫌いという事はない、ただ田舎にいる故が、漠然とそう感じていたのだ。
だからこそ、高校になると同時に都会へと通い出し、大学では一人暮らしを選択したのだ。

都会に出て以来、田舎風景の素晴らしさを感じたと同時に、田舎には激しい空虚感が共存しているという事実に気付くのだ。


いや、こと今回の気持ちの重さについてそれらは一切関係ないのだろう。
あくまで拍車をかけているただそれだけであり、真の要因は母親との仲違い、そして父親が異なるという事実なのだ。

( ^ω^)「……懐かしいお」

以前帰ったのは、年末にもなっていない、11月の下旬ごろだっただろうか。
競輪という道を見つけたばかりで、心の整理がつかぬまま話をしに行って意見の相違を起こした。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:54:09.85 ID:VSHegfVnO
わくてか

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:54:49.37 ID:b2BDukLJ0
まとめサイトもあるなら、sageるべきだと思うんだ

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:55:13.94 ID:raN78Cfe0
他人に相談するとき、すでに本人は結論を出していると言われるがなるほど、あの時の内藤はおそらく結論が出ていたのだろう。
親が何を言おうとも反対したかったのだろう、いや、親が怒るのを分かっていて発言し反抗することで、競輪の道を進む理由付けをしたにすぎない。


今なら良く分かる、当時の独りよがりで、何にでも反抗したかった自分。
何一つ自分で決められないからこそ、他人を挑発まがいに囃しては、自分の心を目的にそっぽ向けることしかできなかったのだ。


( ^ω^)(……もう昔とは違うんだお)


そうは思おうとも、ただ母親だけは、気持ちを通わせられる気がしなかった。

コーチについては自分が悪かったのだと認められたからこそ、なんだかんだ渋りながらも素直になれたし、
長岡についても彼の過去を知り、彼という人間の側面を見直してしまったからこそ捻くれた形で認め合う事が出来た。

しかし親に限っては違った。
内藤はまだ母親のことが好きとは言いがたく、愚直に父親を崇拝する限り少したりとも心が靡く気がしなかった。
極めつけにその父親については諦めきって考えることすら放棄しており、今でも思考の整理をする気すら起こらないほどだ。


長い電車の旅を終えると、何十年と舗装されていないだろうデコボコの道を歩き、すれ違う人も少なく実家へと到着した。

気乗りしない体に無理やり活を入れると、壊れていないのが不思議な色褪せた小さなインターホンを押す。
ドア越しに電子音が漏れ聞こえ、足音が近づいてくるのが分かる。

そして足音は玄関で止まると、草履に履き替えたのだろう、砂交じりの音がしたかと思うと、すぐにも門扉が開いた。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:57:39.16 ID:raN78Cfe0
J( 'ー`)し「はい、どなたですか……」

( ^ω^)「……ただいまだお」

内藤を見た途端、母親は悲愴に顔を青くした。
いや、そうでなくとも元々少し太っていたくらいの体躯は跡形もなく痩せこけており、髪の毛は遠目にも細く色褪せていた。

たった数か月会わなかっただけだというのに、母親は十数年と時を経たかのような変貌様だった。


内藤は途端、実家に戻ってきた時とは比べものにならないほど強烈な虚空感に駆られ、ともすればその場に座り込んでしまいそうだった。


親の生気ない目に見つめられ、絶句しながらに心が捻り潰されんが程辛かった。
父親を失い、子を失った独り身の女が辿る末路が垣間見え、あと一歩遅かったらどんな結果となっていたかと身震いした。


母親は子を見ても、しばらく茫然としていた。
少しでも微笑みかけてくれと内藤は終始祈っていた、その祈りが通じるまでに、十秒はゆうに経過していただろう。

J( 'ー`)し「おかえりなさい」

その僅かな笑顔に、助けられた思いだった。




11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:57:44.58 ID:U+wEdQ0c0
来た!!!!!
待ってたよーーーーーーー!!!

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:58:53.09 ID:flGT15Pi0
待ってたぜ!支援するぜ

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:59:17.00 ID:ZB4LIUQpO
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
支援!

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 19:59:20.71 ID:raN78Cfe0
本来であればけじめをつけにきたのだ。
競輪選手になるために、特に競輪学校に入ってからは一年は缶詰だから親と会う事など到底ままならない(もっとも一時的に帰宅する機会はあるが)。

それよりも何よりも、毒男に後ろめたいままというのが嫌だった。
沢山のものを与えてくれた彼へのせめてもの懺悔、そして内藤自身さっぱりと過去を清算して競輪学校へと挑みたかったのだ。


しかしそれらの打算はすべて吹き飛んでしまった。

悔しい程に母親への同情心が働き、何も言えなくなってしまったのだ。
母親に言われるがまま、台所のテーブルに座り、ただ何一つとやることもなく時間を持て余しながら夕食を準備する母親を見ていた。


化粧も洒落っ気も無い貧相な風貌、いつから使っているか分からない黒ずんだ鍋、清潔とは言い難い粘つくテーブル。

それら全てが母親なのだと感じて、「なんのためにこの人は生きているのか」などと哲学的なことが頭を舞った。


悲しくなった。

ただただ、悲しかった。


かぼちゃの煮物が出来上がると、周囲が溶けきったしゃもじで僅かに黒ずんだひび割れの見えるお椀にご飯をよそい、内藤の前に差し出した。
次いで自分の分を準備すると、母親もようやく腰をかけ、二人して食事を始めた。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:01:11.61 ID:raN78Cfe0
互いに思うところがあったのだろう、話すべきことは沢山あるにもかかわらず、食事をしながら時折り

J( 'ー`)し「元気しているかい?」

( ^ω^)「うん、今年は風邪もひいていないお。カーチャンは?」

J( 'ー`)し「ありがとう、大丈夫だよ」

だなんて当たり障りのない無味乾燥な話を繰り返すだけに留まった。


食事が終わると、そのまま風呂へと促され、逃げるように洗面所へと移動した。
そしてどっぷりとお風呂に浸かると、内藤は大きくため息をついた。

言い知れぬ悲しさの荒波に、今は自分の事など小さく些細なものにしか思えなかった。

何よりもここにいる母親が、普段どんな一日を過ごし、何のために一日一日を過ごしていたのだろうと考えると、
あまりに意味が見つけられない物寂しさに胸が引き裂かれるようで、酷く居た堪れなくなるのだった。


しかし内藤に反し、母親はしっかりと今日という日を想定していたのだろうか。
風呂から出てくる彼へと、父親の位牌の前に呆然と座り込みながら声をかけた。

J( 'ー`)し「ねえ、ちょっといらっしゃい」

( ^ω^)「……」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:01:59.98 ID:U+wEdQ0c0
あぷー

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:02:36.86 ID:z4WYMHv8O
よしきた支援だ全力だ。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:03:25.22 ID:Hpo9kV3/0
待ってました!
はげしくwktk

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:03:27.38 ID:raN78Cfe0
何を言われるのかと覚悟した。
やはり競輪を止めろと言うのだろうか、それならまだいい。
私のことを忘れて競輪を精一杯頑張りなさいなどと言われてみろ、一体その時自分はどんな顔をしてどんな返答をすればいいのだ。

内藤は口を強く締めたまま、俯いて母親の前に座り込んだ。

J( 'ー`)し「どうかしら、最近は、元気にしている?」

食事のときと同じような質問ではあったが、意外なほど口調はしっかりとしていた。
声からでも存分に母親の覚悟と強かさが垣間見えた。

( ^ω^)「僕は元気にしているお、見ての通りだお。
  そういうカーチャンはどうなんだお」

J( 'ー`)し「私のことは良いから、それでね、どうなの、競輪の調子は?」

さも当然のようにそんな言葉を出してくるものだから、内藤はまるで心臓が一瞬停止したかのように感じて言葉に詰まった。

あまりに自然過ぎる流暢さに、母親の思考が一切読めなかった。
反応を見るための質問か、暗に認めていることを示唆してくれているのか、一転この後に突き落としてくるのだろうか。

とどのつまり、このような聞き方をされたのでは正直に答えることしかできないのだ。

( ^ω^)「自己評価を挙げるならとても高くはないけれど、頑張っているとは言い切れるお。
  もうすぐ競輪学校の試験があるんだお、だから、その前にはっきりさせておこうと思って今日は来たんだお」

J( '-`)し「そう……」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:05:03.94 ID:raN78Cfe0
「はっきりさせる」、その意味はみなまで言わずとも伝わろう。
昔から自分勝手で内弁慶で、何かにつけて口うるさく威張っていた内藤が、今こうして自らをもってしてどっしり面と向かっているのだ。

「親の許可」というものを求めてきたのだ、その決心の強さや内藤の心の是正は否応にも分かろうというものだ。
以前の内藤であれば親の事など顧みずに、己の本能のまま猪突猛進につき進んでいたに違いない、変化は如実に捉えられることだろう。

しかし、だからといって誠意だけで解決する問題ではないのだ。
二人の個人が、我を賭けて対面しているのだから。

J( '-`)し「私が競輪をやめろと言ったのなら、あなたはやめるのかしら?
 だったらやめて」

( ^ω^)「……」

J( 'ー`)し「でも、そうじゃないなら……頑張って、精一杯」

母は偉大なものだ、その笑顔を見た時に内藤は思った。
昔のように一時の気持ちに心を乱しては揺らがせ、その都度別方向へ考えを固めては自暴自棄に振舞うような子供ではなく、
一つの意見を持ち周囲との調和を守りながらも自分を貫き通そうとする意志を持つ大人へと、内藤が育ったことを認めてくれたのだ。

母親の言いたいことはよく分かった、自分の意思で、その道を選べと言いたいのだ。
子供ではなく大人になったと、自分の足で進んで示せと言いたいのだ。

( ;ω;)「カーチャン……なんで……」

なんでそうも子を思い遣れるのか、家族というものの偉大さを知った。
いつか自分も一人の父親となったとき、このように振る舞えるのだろうか、その心は今の彼には想像できないほどに遠く広漠な御心だった。

これが親なのだ。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:07:42.89 ID:raN78Cfe0
目を母に向けたまま、内藤の頬を涙が伝った。
こらえきれずに流れた一筋の涙だったが、それだけで母親は満足だった。

J( 'ー`)し「本当に、この前はごめんね。
  本当にゴメン……でも、だから、お願いだからお父さんのことを悪く言わないで欲しいの」

( ;ω;)「……」

内藤はそれでも首を横に振るったが、母親はゆっくりと、とつとつと語り始めた。

J( 'ー`)し「あんたはね、そう、それは嫌な思い出しかないでしょう……でもね、私にはあの人を悪く言えないの。
  あの人は元からあんな人じゃなかったの、付き合い出した当初は学者になりたいだなんて言っていてね、
  しがないエンジニアだったけれど、本当に生真面目な人だったのよ」

元来の父親はまじめ過ぎるのがキズなほど、一辺倒な人間だった。
仕事も残業ばかりでなかなか家に帰ってこない父親のため、二人は比較的晩婚な家族だった。

結婚して子供の欲しい母、真面目な父親は仕事が落ち着いたらと、ずっとそれを後回しにしていた。


それらが二人の関係をモノクロームのように淡いものとしていったことは紛れもない事実だ。

真面目な父親は男は仕事だと常々言っており、子が生まれた時の養育費のためとどこまでが本気とも取れぬ理由とともに仕事ばかりに励んでいた。
しかし母にとっては夜遅く帰ってくる父、結婚も一段落ついてからだと言われてしまえば、家でただ待つだけだ。
同棲しながらにも、そこに「浮気」という疑念が付き纏わぬわけがない。

一度怪しんでしまえば加速的に粗捜しをしてしまうだろう、常に一人侘しいばかりの母親はただ黙っていたが、実際に探偵に浮気調査を依頼したこともあったほどだった。
もっともその結果は白であり、それが自己嫌悪を強めながらも、真白であればこうも自分を蔑ろにして仕事に打ち込んでいるはずがないと、
行動してしまった手前だろう、自己の正当化のために疑念までをも一層強めた。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:08:58.31 ID:oTvD1duGO
( ´゚ω゚`)^ω^)゚听)ξキターーーーー!!

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:09:33.52 ID:Hpo9kV3/0
いつもよりペースが早いな
支援

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:10:04.99 ID:raN78Cfe0
しかし当然だろう、朝六時に起きるとすぐに朝食をとって家を出、夜は夕食を済ませて十時に帰ってくる、その後は風呂に入って寝るだけだ。
そんな生活で干渉できることは、朝食を作ることと風呂を沸かすことだけ、よくもまあそれで三年ともったものだと思う。
口約束だけの婚約に、よくもそう愚直に待てたものだと思う、自分事ながら母親はその健気さの異常さに気付いていた。

三年間我慢した堤防を崩壊させたのは、知り合いに合コンに誘われたことがきっかけであった。
ちょうどその日は父親が出張だという絶妙なタイミングに心揺さぶられながらも、フィアンセがいる旨を伝えた母だったが、構わないと相手は言い出した。

  「それに同棲していても、結婚もしていないし子供もいないんでしょ?
  ただの恋人と一緒じゃん、よくその歳になってそんなに素直に待っていられるわね、尋常じゃないわ」

別に浮気をしてやろうとか、裏切ってやろうという気持ちは微塵ともなかった。
魔がさしたというと聞こえが良すぎるだろうが、実際女性としてはギリギリの年齢、
何一つと男女の付き合いができぬ奴隷のような生活だったのだ、目の前に提示された楽しそうな風景を絵の中の餅と指をくわえて見ているのはあまりに酷だ。

そうして合コンへと参加する羽目になったわけであるが、さて、そこで出会った内の一人こそが、父親の上司であったのだ。
その夜、普段飲まぬ酒に呑まれた彼女はまるで藁にもすがる思いで家のことをその上司に話し、なんとかして欲しいと懇願した。

あまりに夜遅くなってしまい終電を逃した上司を引き止め、家に連れ入れてずっと話を続けていたのだ。
上司がまた人情派であって聞き上手であったため、母親はその鬱憤を薙ぎ払うために夜中眠気や疲れを忘れてすべてを吐きだした。

もっとも異性を家に招き入れるなど酔っていなければとてもできない、到底正気の沙汰とは思えぬ愚行であった。
別に疚しい行為を行ったわけではない、それでも男女が一晩を明かしたという外見上の事実は体裁上とてもよろしいものではなかった。


父母は倦怠期になってはいたが、それでも幾度か行為をしていたのだ、腹に携えた子が丁度この時期のそれと合致していたのは偶然としか言いようがなく、運の尽きでもあった。
母親はそれでも件の一夜がばれるなどとは夢にも思ってもいなかった。
何よりもその行為を後悔し、ひどい自己嫌悪に心を悩ませたのは他の誰でもない母親自身だ。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:12:09.16 ID:fuNd9nMU0
支援支援

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:12:41.45 ID:raN78Cfe0
父親が、如何にしてその子が自分の子でないと考えるに至ったかは分からない。

その子は間違いなく二人の間の子であったのだが、父親は一体どうしてそれを訝しむに至ったのであろう。
件の一夜に自己嫌悪する彼女の暗鬼な態度からそこはかとなく感じ取ったのかもしれないし、不運にも父親とは似ても似つかなかった頬や鼻筋からかもしれない。
子はまるで父の子ではないと主張するかのように、あたかも有りもしない事実が水面下に隠れているかのように、風貌は父とはかけ離れていた。

後より振り返れば、元々父親も母親のことを訝しんでいたのかもしれない。
どうして仕事一辺倒の自分との結婚を黙って待ち続けてくれるのだろうと邪念が奔り、出張だったあの日、探偵にでも調査依頼していたのかもしれない。


子を授かったことで二人は結婚に至ったが、結果、父親は煙草を吸い、酒の量が増え、子のためと溜めこんだお金はギャンブルへと消えていった。
暴れては手をあげることもあったが、母親にそれを咎めることはできなかった。
それ以上に彼女は自分自身を責め苛み、父を悪くしか思えぬ子へとひたすらに父親を説いた。

そして何よりも、ギャンブルを嫌悪したのだ。

それのせいにしなくては、母親は心がもたなかっただろう。
父親は仕事熱も冷めきってしまい、毎日ギャンブルや居酒屋で夜遅くなる始末だ、結果結婚前の三年間と同じような生活を繰り返したのだ。


全ての勘違いを招き、誤解の引き金を引いたのは自分だったのだ。

J( ;ー;)し「後ろめたいことがあると、事実と異なる仮想すらも正せず、本当に何も言えなくなるものね……
  本当であれば離婚するくらいの気持ちを持って、トーチャンに言ってやるべきだったのよ、お酒やギャンブルは止めなさいと。
  何を言われても、トーチャンを助けてやるべきだったのに……駄目なカーチャンは保身に走っては、あの人を……」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:14:42.07 ID:raN78Cfe0
ああ、そうなのだ。
だから父親はああも手前勝手に暴れ、自分本位な行動をしていたのだ。
そうせねばやっていけなかったのだろう。

後ろめたい母親はただ相手の言う事に従うばかりで、自分を責めながら健気に過ごすしかならなかったのだろう。


今にして思えば、これと同じような関係があったではないか。


かつてより父親を反面教師とし、彼のようになりたくないと思っていたのに、父親が違うと言われた瞬間のあの空虚感。
ふと、長岡が競輪を止めると聞いた時の感じを思い出した。
どこか相手を信じていたのだろう、それゆえの筆舌に尽くし難いもどかしき感情。

J( ;ー;)し「父が違うなんて嘘ついてゴメン、あんたは、あんたは本当にトーチャンの子供なんだから……だから……」

( ^ω^)「……カーチャン、それでもやっぱり、トーチャンを殺したのはギャンブルでもカーチャンでもないお、トーチャン自身だお。
  だからカーチャン、ギャンブルを……競輪を嫌悪しないで欲しいお。
  代わりに僕も、トーチャンを嫌いだなんて言わないから、好きだって言えるように頑張るから」

J( ;ー;)し「……うん、もしあんたが競輪の道を進むというのなら、私はきっと許せると思う。
  許すだなんて本当傲慢な意見だけれど、それでも心が少しは楽になるかもしれないわ。
  だって、それでもアンタは私とトーチャンの大切な子供なんだから」

( ^ω^)「カーチャン、競輪学校は一年間あるんだお。
  だから、一年……いや、これからなら二年はかかるかもしれないお、その間これまで以上に迷惑かけると思うお。
  それでも、いずれ絶対に迎えに来るから……だから、もう少しだけ子の我儘を許して、待っていて欲しいお」

J( ;ー;)し「心配しないで、待つのは慣れているから。
  だからアンタも本気で頑張って、どこへ行ったってカーチャンは心から応援しているから」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:16:07.91 ID:mGHJp4qg0
支援

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:16:24.47 ID:raN78Cfe0
細くやつれた母親の体を強く抱きながら、内藤はその圧倒的な存在に感佩した。
絶対に迎えに来ると、母親の居場所は作ってやるからと、ただ強く抱きしめた。

なんだ、心が通わせられるか、互いを認められるだろうかという懸念など不要ではないか。

やはり親と子だ、どれだけの仲違いをしようともこうして一緒になれる。

こうして一つに向かって協力し合える。

理解し、分かり合える。


母親への絶対偉大な感謝とともに、内藤は一人の女性を思い浮かべた。

そう、最もカタをつけねばならぬ事項であり、ついぞ向かう勇気が持てなかった女性。

しかし今は違う、母との蟠りが払拭され、同時に彼女への気持ちや思い、その背景がおぼろげに見えてきたのだから。
今ならば素直に謝れる、そして一緒に話ができる。

今更ヨリを戻そうなどと虫のいいことは考えていない、ただ、彼女とこのままでいることだけは……どうしても、できなかった。


今こそ、彼女とも話をつけるべき時なのだろう。




30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:16:46.49 ID:waAG+A+GO
久々じゃねぇか!



よっしゃ、この俺様が支援してやるからジャンジャン投下するといいw

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:17:20.91 ID:raN78Cfe0
二十八話は以上で終わりです。
支援ありがとうございます、少し休憩して、次の投下に移ります。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:21:22.04 ID:z4WYMHv8O
乙だ!
続けて支援。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:25:48.22 ID:waAG+A+GO
今投下分読んできた。



僕たちの支援はこれからだ!

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:26:02.24 ID:raN78Cfe0
     第二十九話「内藤と風羽」


彼女の家は比較的大学から近いところにある。
内藤は実家で一晩を明かし、朝一で電車に乗って長岡の取り仕切る競輪場を一度通り過ぎると、大学の二駅手前で降りる。

駅を出て、今度はバスに乗り三十分ほど揺られると、もうすぐそこだ。

足の怪我直後に携帯を変えた時、古い携帯を廃棄するとともに彼女の電話番号の類は一切なくなった。
何年と一緒にいたにも拘らず、携帯がなくなってしまっただけで彼女のアドレスから何まで一切が霧がかったもやのように模糊となってしまった。
どれだけ携帯というものに依存し、どれだけ彼女を蔑ろに扱っていたのかと、ふと悲しさに心が沈んだ。

記憶の中の彼女の家は曖昧で、家の風貌から住所に携帯番号、メールアドレスすべてが不明だった。
どれだけ質素な付き合いをしていたのだろうかと、直に思い知らされた。
結局は友人に聞いたことで、ようやく彼女の家までの道のりをおぼろげながらにも思い出したのだ。


いざ玄関に立つと、体が酷く硬直した。
歯を喰いしばったまま、何を言うわけでもないのにまるで言葉に詰まったように息が喉元につっかえた。

インターホンを押す事自体が核の起動スイッチであるまいに、押してしまえばまるで世界が崩壊するかのごとく渋ってしまう。
指は震えだし、どれだけ息を呑み殺しても治まらずいよいよ踏ん切りはつかなかった。

風羽の家は共働きであるから両親は昼間は不在のはずだ、押せば出てくるのは間違いなく風羽だ。
そう思うからこそ、ついぞ指がインターホンを押すことはなかった。


そんな自分が情けないばかりで、大きくため息をついてふと振り返った内藤は、さらに仰天した。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:26:45.66 ID:k1MWsx800
表現が上手いなあ

支援

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:28:08.37 ID:raN78Cfe0
(;^ω^)「……!?」

(*ノωノ)「……せん……ぱい?」

まさかタイミングよく風羽が家に帰ってくるところに出くわすなど思いもしなかった。
いや、もしかすると相当長い時間家の前で頓着していたのかもしれない。
いつからいたのだろうか、風羽も相当に目を丸くして、今にも逃げだしてしまいそうだった。

ふとそんな事を考えた途端、内藤は慌てて手をかざすと、風羽に制止を促す。
自身の気持ちはなんとか落ち着けるも、どれだけ頑張っても彼女を落ち着かせるために笑顔を作るまでの余裕はとうとう生まれなかった。

(;^ω^)「風羽、久しぶりだお、突然ごめんだお。
  ……今日は、話があってきたんだお」

内藤が必死に温和に話しかけようとも、風羽は強張って小刻みに体を震わすばかりだった。
彼女の恐怖は相当に大きなものであろう、まるで殺人犯と対面でもしたかのようだった。

予想だにしない対面におののき顔を潰し、涙を流す生理的現象すら忘れるほどの畏怖を伴っている。
どれほどまでにすざまじい恐怖と対面しているかを計り知ることは到底できないと、内藤は内心酷く傷つきもした。
過去に付き合っていた男と対面するのはこうも恐ろしい事なのだろうか、先までの渋りから一転、内藤はあまりの傷心に言葉が続かなかった。

それだけひどいトラウマを植え付けたのは内藤なのだ、それを取り除くことこそまた、内藤にしかできないことだ。

買い物袋は風羽の手から離れ、地面に落ちると中からリンゴが転がり出てきた。
ああ、改めてみて見れば彼女は随分と痩せたのではないか、母親のように、まるで病人のようだった。
もとからか細い体躯であったが、それにしても痩せすぎだ、いや、痩せるというよりはやつれるという表現が的確なのだろう。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:30:08.83 ID:raN78Cfe0
(;^ω^)「本当に、ゴメンだお。
  何を言っても駄目だと思うお、それでも風羽の気持ちも何も知らずに以前は本当に悪かったお、謝ることしかできないけれど……
  僕はずっと独りよがりだったから、こんな時にどんな事をして誠意を見せればいいのか分からないんだお、だからただ平謝りしかできなくて……」

必死に訴えようとすれば言葉は勝手に口をついて出た。
思うがままに意味の分からぬ言葉を放つからだろう、ふと風羽の表情も若干和らいだように感じた。
その表情にはまだ訝しがる気持ちが十分に見えているも、少し和らいだだけでも内藤には飛び跳ねたい程に嬉しかった。

風羽はポケットから鍵を出すと、無言で内藤の隣を過ぎ去り、玄関のドアを開けた。
そして内藤を手招きしてみせる。

(;^ω^)「……」

内藤は促されるがまま、家の中へと足を進めた。



応接室に通されると、そこで気まずく待つ内藤に、風羽は丁寧にお茶を出すと対面にゆっくりと横座りする。
その表情はまるで風羽こそが後ろめたいことをしていたかのように暗く俯いており、また内藤の心は引き裂かれんがばかりに苦しくなった。

(*ノωノ)「先輩、私の家を、よく覚えてましたね」

切り出し方は、まるで来られたことが迷惑だと言わんがばかりの言葉だった。
気押されないように内藤は表情を凛と構え、目線をまっすぐにして風羽を見つめる。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:32:08.56 ID:raN78Cfe0
( ^ω^)「ああ、毒男に聞いたんだお」

(*ノωノ)「……そっか、毒男くんか……それじゃあ、もう知っているんですね。
  ……毒男くんと赤外線でアドレスを交換したのですけれど、それがこんな形であだになるなんてね……。
  ……先輩、怒っていますよね?」

( ^ω^)「怒ってないお、何を怒ればいいのか分からないお」

(*ノωノ)「嘘、たぶん先輩、心の底ではものすごく怒っていると思う。
  だから今日こうして私の家に来たんじゃないんですか、そうしてこうやって一緒にいるんだと思うの。
  ……ごめんなさい、何を言ってももう許されない事は分かっています、でも私こそ謝ることしかできなくて……ごめんなさい」

内藤には風羽が何を謝ればいいのかさっぱり見当がつかなかった。
いや、厳密に謝ることがないのに頭を下げる風羽に、確かに怒りたい気分でもあった。
悪いのは誰が見ても内藤なのだから、もっと堂々としていろと。

もっともそんなで怒っては見当違い甚だしく、またつまらぬ諍いを起こすだけだ。

( ^ω^)「毒男から手渡される資料が、やけに見易いと思ったんだお。
  どこかで見たことある、見慣れているまとめ方されていて、ようやく分かったんだお……ずっと選手を調査してくれていたのは、風羽だったんだって」

毒男から渡される資料、まとめ方など十人十色千差万別であるにもかかわらず、内藤は初見でやけに見易いまとめをされていると感じた。
その時には気付かなかったが、今から思えばそうだ、陸上時代にマネージャーが選手の記録をまとめた、まさにあれと同じ形式だったのだ。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:34:44.87 ID:raN78Cfe0
(*ノωノ)「毒男くんとはね、内藤先輩の家の前で初めて会ったの。
  ……先輩には内緒にして欲しいって言ったのにな……」

( ^ω^)「毒男は黙っていてくれたお、僕が気付いたんだお、影から僕を支えてくれる存在に」

(*ノωノ)「その時にね、私の鞄から情報科目の教科書が飛びだしていたんだって。
  それで私が大学で情報系の科目を専攻していると目途を立てたみたい。
  調べ物の時なんて、わざわざ学校に来て、部活の人から私の講義予定を聞いては教室の前で待っててくれたんだから」

風羽の言い方はまるでそれこそが失敗だったと言いたげで、内藤は強く奥歯を噛んだ。
そんなに自分と会いたくなかったのか、心より謝りたいと思っている内藤とは裏腹に、風羽は決してその償いを認めようとはしてくれなかった。

辛く悔しく悲しく、従来までのすれ違いがいちどきに今の二人にのしかかってきているのだ。

(*ノωノ)「毒男くんは、私に気を使ってくれただけなの。
  私が先輩のために何かをしたいって思っていたことを知っていたからこそ、こうやって私にチャンスをくれたの。
  別に毒男くんは悪くないんです」

( ^ω^)「別に毒男を悪く言うつもりもなければ、言っているように風羽を責め立てるわけじゃないお。
  そうやって陰で支えてくれて本当に感謝していると、お礼とお詫びをしたいんだお」

(*ノωノ)「違う、私は償いだけで、毒男くんに言われただけで何にも出来ていない!
  先輩に償いも果たせていないの!」

(#^ω^)「だったらどうして津出師匠にあんな電話したんだお!
  あれがなければ僕と津出師匠は仲違いしていたに違いないお、あの風羽の電話があったからこそ今こうしてここに来ることができたんだお!」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:36:23.88 ID:waAG+A+GO
支援

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:36:40.58 ID:raN78Cfe0
師弟関係を結んで間もない頃、津出に隠れて練習をしていた内藤、そこにかかってきた一本の電話。
陸上のコーチからだと思っていたが、コーチは津出のことを、そして競輪のことを本当に知らなかったのだ。

そうすれば導かれる答えはただ一つ、内藤の性格をよく知っていて、いつもそばにいた存在……風羽しかいない。
結果的にはその電話があったからこそ決裂を未然に防ぐ事が出来、今こうしていられるのだ。
それが彼女の功績と認めないなど納得がいかない、そう言われてしまえばこの感謝をどこの誰にぶつけろというのだ。

(#^ω^)「何もできていないわけないお、風羽がいたからこそ、僕はまたこうして目標に向かって邁進できているんだお!」

あまりに自分を卑下する風羽にもどかしく思い、どれだけ彼女が力を与えてくれたのか、つい感情的に大きく叫びあげると、あろうことか風羽は小さく縮こまった。
彼女の存在は大切で欠かせないものであったと、彼女なくして今の内藤は無かったと言いたいだけであるというのに、
感謝を口にしたいだけだというのに、彼女はそのすべてを真っ向から拒んだのだ。

自分が悪かったのだと頑なに譲らず、ただ神に祈りでもするかのように受動的で、恐怖に震えては「ごめんなさい」と繰り返した。

話になりもしない。

内藤は湧き出た蟠りのぶつけどころを失っていた。
必ず怒られるのだと、内藤を正当化してはひたすらに謝って譲らない風羽。
しかしこの風羽を作り上げたのは紛れもない、過去の自暴自棄な内藤であるのだ。

反省と改心を相手に伝えることもできないのだ、過去の内藤は最後にとんでもない試練を設けていった。
これを超えてこそ、内藤は真に変わったと言えるのだろう。
すぐに怒りを感じてしまっているようでは、結局のところ何一つと変わっていないのだ。

内藤は大きく息を吐いて心を落ち着けると、テーブルに肘をついて真面目な面持ちで彼女に向いた。
だったら今回は内藤がとことん付き合ってやろうじゃないか、彼女の我がままに。
どこまでも付き合って、過去のすべてを払拭しようじゃないか。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:38:08.46 ID:flGT15Pi0
支援

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:38:44.04 ID:raN78Cfe0
( ^ω^)「……風羽、本当に、本当にすまなかったお」

(*ノωノ)「いいんです、内藤先輩は謝る必要なんてどこにもないんです、ただ私がいけないんです」

( ^ω^)「だったら風羽の何がいけなかったっていうんだお?」

聞くと彼女は肩を震わせ、しばし無言でいた。
内藤が黙って彼女を見つめ続けると、震える口が僅かに動いた。

(*ノωノ)「先輩に黙って……先輩の家に行きました、毒男くんに出会って競輪を目指していることを知りました。
  先輩に隠れて選手のことを調べて毒男くんに預けました、勝手に津出さんに先輩の過去を話しました。
  全部私は隠れて勝手にしました、先輩が怒るのも当然です、私でも先輩の立場ならきっと怒っていますから……」

必死に羅列したすべてのことは、まったく頓珍漢な返答だった。
どうしてそうも嫌われようとするのだろうか、しかしそれらの理由に共通して「先輩に黙って」という理が付いていたことだけが内藤には堪らないほど辛かった。

( ^ω^)「それらは全部、僕のためじゃないのかお?」

(*ノωノ)「でも、勝手にこんな事をしました。
  本当に誰に聞いたわけでもないんだす、私一人の勝手な判断なんです、だから本当に私が悪いんです」

( ^ω^)「全く分からないお」

(*ノωノ)「嘘、先輩は絶対気付いています、分かっているから……だから今日も来たんですよね」

どれだけ問答をしても意思疎通は図れず堂々巡りとなるだろう、それを直観した。
風羽の頭の中では、彼女は内藤の許可なくして何もしてはいけないのだ。
今の内藤ですら、彼女の目には昔と何ら変わらずに映っているのだろう。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:40:03.81 ID:z4WYMHv8O
今日投下予定だったが競輪来てるなら喜んで支援一択だ。


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:40:06.11 ID:waAG+A+GO
下げ支援するか……






G+A+G ←どうでもいいが、耳のでかいピエロに見えなくもない件w

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:40:53.17 ID:raN78Cfe0
風羽のその言動は明らかに過剰な畏怖を抱いたものだった。
昔の男がヨリを戻しに来たと思っているのだろう、またその男との辛い日々を送る自分に怯え竦み、格段の恐怖心を抱いているのだろう。
それでも諦めきれず捨てきれないお人好しの彼女は、自分の非をもってして内藤に諦念を抱かせようと必死なのだろう。

それほどまでに、風羽にとって内藤は恐れを抱く存在であったのだという失念、そして自分が彼女に信じてもらえていないという失望を抱きながらも、
彼女の心にまだ内藤を想う気持ちが少しでも残っているかもしれないと、内藤自身さえ諦めなければいいのだと逆に心を鼓舞して強く持っては彼女に向き直った。

彼女の言い訳は滅茶苦茶だ、必ずどこかで綻びをみせて破綻する。
内藤はなにもヨリを戻そうなどと都合のいい事を掲げるつもりはないのだから。
ただ過去とは異なる今の彼を見て、本気の謝罪を受け取ってもらいたいだけなのだ。

ここで彼が信じてもらえるか否か、それこそが過去の清算につながるのだ。

( ^ω^)「風羽、勘違いしないで欲しいお。
  なにも僕は風羽を責めることはおろか、もう一度一緒になろうだなんて厚かましい事を言いに来たんじゃないんだお。
  何度でも言うお、僕はただ風羽に謝りたいんだお」

(*ノωノ)「いいです、謝ってもらう事なんてとてもありません。
  私はどうすればいいんですか、どうすればもう許して貰えるんですか?
  ……謝ってもらう事なんてないのに、謝りに来るわけないじゃないですか……」

わざわざ他人の家にまできて、何の用だと言いたいのか。
風羽の言葉は内藤の胸を鋭く抉った。

彼女も辛いのだろう、内藤とのやり取りはどんどんと底なし沼に引きずられていくように、苦しみを深くしていくのだろう。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:43:00.97 ID:z4WYMHv8O
支援

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:43:35.67 ID:raN78Cfe0
つまるところ、彼女は内藤のことを思ってではなく、自身の懺悔として調べ物をしたし津出に電話までかけたのかもしれない。
罪などどこにもないにも拘らず、彼女なりの方法で隠れて償いをしていたのだ、ただ必死にただただ愚直に。

その相手がこうしてすべてが風羽の仕業だと承知の上で目の前に現れたのだから、彼女が混乱するのはもっともかもしれない。


彼女の中で、彼女の罪は一生をもってしても償いきれないほど大きなものなのだろうから。


( ^ω^)「風羽、分かったお、聞き方を変えればよかったんだお。……一体何を僕に黙っていたんだお?」

(*ノωノ)「!!」

その時の風羽の表情は、まるで目の前にナイフでも突き出されでもしたかのように、悲愴に驚嘆に絶望に懺悔……全ての含まれた、観念の表情だった。
すでにナイフは彼女の体に刺さっており、もう少し力を入れでもすればきっと、心臓へと到達したことだろう。
それほどまでに彼女は絶望をありありと表情に滲ませており、慌ててその顔を両手で覆って隠した。

(*ノωノ)「なんで、そんな言い方……そんなこと聞くんですか……」

( ^ω^)「僕は昨日、カーチャンと話をしてきたんだお。
  そうして気付いたんだお、僕には大っ嫌いなトーチャンがいたけれど、それは昔の自分と全く一緒じゃないかって。
  自暴自棄で、時には手を振るって威嚇しては相手を道具としか思わない……まるで昔の僕と風羽のようだって」

そう、昔からずっと風羽は常に黙りこんで何も言わず、内藤だけを一直線に見ていた。
内藤の何に惹かれたのかはわからない、それでも何の取り柄もないような男に、彼女はずっと愚直についてきたのだ。
そんな風羽は母親と一緒だった、以前に母親と似ていると比喩したものだがそれは当然だ、まんま一緒なのだから。

だからこそ、母親が父親に隠し事をして自身を責めていたのと同様、風羽も内藤に後ろめいたことがあって自身を責めているのだと見当はついた。
だからこそ、以前から内藤が浮気をしていることにも薄々感ずいていながらも咎めず、ただ健気に彼のことを応援し続けたのだ。
だからこそ、今回もまた自分が悪いのだと言ってきかず、自身を責め続けるのだ。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:45:09.68 ID:raN78Cfe0
(*ノωノ)「私、私……」

( ^ω^)「……うん」

(*ノωノ)「ごめんなさい、隠すつもりはなかったの。
  ううん、嘘、隠していたの、私はずっと、ごめんなさい、だから先輩は私を怒って当然だし、恨んでいても分かります。
  私だって先輩の立場なら絶対に恨んでいました、最低なんです、本当に謝っても済むことじゃないんです」

( ^ω^)「……うん」

(*ノωノ)「そうです、先輩が怪我をした時に、先輩が200mをやっていたって過去を語ってくれたじゃないですか……
  でもそれをコーチから聞いたって言いましたよね、それで先輩は怒られて、私たちは終わってしまったんですよね……
  ごめんなさい、私はコーチから聞いたんじゃないんです、……ずっと知っていたんです」

怪我の直後に内藤が風羽に心許し、過去を告白したとき、彼女はすでにコーチから聞いてその事実を知っていたと言った。
そこに内藤は理不尽な怒りを覚えてしまい、自分には意見をしない風羽に対し見当違いの怒りを抱いたのだ。

しかし、それこそが間違っていたのだ。

(*ノωノ)「実は内藤先輩が200mを走れないことは大学は勿論、高校時代からずっと知っていました。
  それでもあの時はコーチと先輩がすれ違って欲しくなかったから、コーチは知っていて出場に反対していただなんて説明して……
  ごめんなさい、本当に嘘ばっかりでごめんなさい……」

内藤との関係に終止符を打った風羽の言葉こそが彼女の『嘘』であり『隠し事』であったのだ。
内藤とコーチのことを思い、風羽なりの気回しこそが、最終的に彼女の今の、そして往年の『後ろめたさ』であったのだ。
だからこうして過去にも増して、彼女は内藤に負い目を感じ、恐怖におののいてしまっているのだろう。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:46:29.05 ID:z4WYMHv8O





51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:47:20.82 ID:raN78Cfe0
なんという馬鹿なことだ、そこに恣意は幾分とも含まれていない、すべて内藤のためではないか。
確かに内藤は高校以来ずっと200mのことを忘れたくて走っていたし、それに触れられたくないがためずっと黙って隠し通してきた。
だから件の時も200mの参考タイムはなしで出場登録して、一番遅いレーンからスタートしたのだった。

だが、たったそれだけなのだ。

内藤が隠していたその過去を知っていた、ただそれだけで彼女は母親のように、内藤に何も言えずにずっと受動的になっていたのだ。
過去の記録でも追ったのだろう、それで偶然にも内藤が必死に隠していた過去を知ってしまい、秘密を知ってしまった後ろめたさから一人勝手に委縮してしまっていたのだ。


そんな馬鹿な話があるか。

たったそれだけで相手が何をしても許せるような後ろめたさを感じるなど、例え菩薩でもあり得ない話だ。


だというのに、当時の内藤と風羽はその関係が成立していたのだ。
風羽は『勝手に』知った内藤の過去を『勝手に』とてつもなく大きな罪だと受け取り、『勝手に』内藤へ申し訳なさを感じて『勝手に』萎縮していたのだ。

彼のためにと親切が招いた一つのアヤマチ、これなら余程両親のすれ違いの方が理解できる話ではないか。
母親を風羽、父親を内藤に当て嵌めていたがなんということはない、内藤などでは大嫌いな父親役すらとても恐れ多い。



風羽は内藤のために嘘をつき、内藤を騙し、後ろめたく感じては彼に意見する事ができず俯いて彼を応援し続けていたのだ。

これほど素晴らしい相手が他にいてか。

これほど自分のことを思ってくれる人が他にいてか。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:48:25.52 ID:waAG+A+GO



火炎


気炎

食えん


支援

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:49:07.74 ID:raN78Cfe0
内藤は風羽の肩を掴むと、引きよせて強くその体を抱いた。

(*ノωノ)「止めてください先輩、私はとても酷いことをしたんです、私は恨まれて当然なんです。
  先輩が中学時代に200mを走っていて怪我したことを知っていながら、コーチに向かって先輩を200mに推したのですから。
  私は本当に罪深い事をしたのです、もうとても許されるような人間じゃないんです……」

(#^ω^)「もういいお、もう直接コーチと話したんだお、そんなことは全部知っているお!
  コーチは言っていたお、僕が200mを『毛嫌い』していることはなんとなく気付いていたなんて……
  コーチは僕の過去なんて知らなかったお、手をこまぬく中で風羽が僕のためにそうしてくれたんだお!」

(*ノωノ)「でももう取り返しがつかないんです、どれだけ先輩のことを想った行為だったとしても、私には怪我を招くことしかできなかったんです!
  もう先輩の足は返ってこないんです、先輩の輝いていた足はなくなってしまったんです、私には返せないんです!」

(#^ω^)「もう十分代わりのものを返して貰ったお!」

内藤がさらに力を入れると、風羽はぐっと唇を噛んで口を噤んだ。

(#^ω^)「もう風羽には沢山協力して貰ったお、そうして僕は新しい競輪という道を手に入れたんだお!」

(*ノωノ)「でも……」

( ^ω^)「聞いて欲しいお、僕はこれからこの足をちゃんと療養するお。
  沢山の人に恩返しをしながら、昔の陸上の足とは違う、新しい競輪の足を僕は手に入れるんだお。
  だから……それを手伝って欲しいんだお、風羽に」


風羽はもう何も言わなかった。
代わりに内藤をギュッと抱くと、その顔を内藤の胸に埋めた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:50:55.63 ID:z4WYMHv8O
上手く言えんが、色々とカッコいいな……
支援

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:52:29.34 ID:raN78Cfe0
ようやく伝わったのだ。

内藤が変わったこと、風羽に謝罪をしたかったこと、重ねてお礼を言いたかったこと。

そして……


( ^ω^)「本当に都合が良すぎるかも知れないお、さっきはヨリを戻す気はないなんて言いながら……
  大穴かもしれないお、あまりに確率の低すぎる賭けかもしれないお。
  それでも、それでももし少しでもその気があるなら……もう一度、僕を支えて欲しいお」

(*ノωノ)「せんぱい……」

( ^ω^)「許されるなら、僕にもう一度だけ……チャンスが、欲しいお。
  今まで背負わせた辛さの何十倍もの幸せを、ホショウするお。
  絶対に風羽を苦しめないから、幸せにするから」

風羽は言葉を聞くと同時、嗚咽を漏らして顔を内藤の胸に強く押し付けた。
そうして消えそうな声を、ゆっくりと漏らした。

(*ノωノ)「……私は、先輩が笑っていてくれるなら……それで幸せですから……」

( ^ω^)「僕は、風羽が笑ってくれているなら、いつでも笑っていられるお」

(*ノωノ)「だったら……先輩に、私自身を、賭けます」

風羽はさらに顔を強く押し付けると、次は声をあげて泣いた。
内藤は涙腺の緩むことはなかったが、ただ何かすべてのものに感謝をしたいような、そんな漠然とした幸せだけを強く感じていた。



56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:54:43.06 ID:raN78Cfe0
 

  『はじめまして、本日よりマネージャーとして入部しました、風羽といいます』


内藤が高校二年の時に、風羽は陸上部にマネージャーとして入部した。
一つ違いゆえ、これが二人の初めの出会いだ。

しかし所詮は一選手と一マネージャー、よほど目をかけたり気を遣わない限りは特に目立つ関係とはなり難い。

  「マネージャー、まずは計測お願いしまーす」

マネージャーは特に慌ただしい、跳躍に投擲に短距離に長距離、ひっきりなしに呼ばれ求められるる。
マネージャーの少ない高校では、その雑務はことに多かった。
中長距離は各自で測定できる手前、とりわけ短距離に強く必要とされた。

  「マネージャー、加速走の計測お願いします」

(*ノωノ)「15分後ですね、準備しておきます」

だから内藤と風羽の関わり合いは全体としては多かった。

そのはずだった。


( ^ω^)「それじゃあ僕は坂道ダッシュへ行ってきますお」

内藤は常に一人で練習をしていた。
マネージャーが少ないことは前述した通りだ、そんな中一人の我儘な選手にマネージャーをつかせるわけにはいかない。
マネージャーと最も係り合いを持たない位置にいた選手こそ、内藤だった。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:55:02.37 ID:nVh8gS0oO
ケイリ――――――(゚∀゚)――――――ン!!!!

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:56:40.25 ID:raN78Cfe0
二人が関係を深めるに至る理由は、互いの性分にあった。

内藤は一人で練習しながらも、練習量は人一倍多かったしストレッチだって誰よりも入念に行った。
終わりがけにはちゃんとトラックを清掃していたし、一匹オオカミゆえだろうか、選手としてのプライドは決して忘れなかった。
その他の選手に反抗するかのように、挨拶もきちんとしたし練習では一本一本に全力で挑んでいた。

風羽はそのお人好しさゆえ、マネージャーは一番最後に部活を後にするべきだと考えていた。
特に入ったばかりだ、一年だからこそ余計に先に帰るわけにもいかず、一人ずっと最後の一人である内藤を待っていた。


それでも内藤は素っ気なく、待っていた風羽に礼を言うこともなければ「お疲れ様」の一言だけを添えて勝手に帰っていったものだ。

二人が接近したのは、風羽が入部してから三週間ほどたった雨の日だった。
雨天とのことで、部員が室内で筋トレをして早々に帰る中、内藤一人だけが雨の中坂道ダッシュへと向かった時だった。

内藤が戻るまでの二時間を、風羽は一人でずっと待ち続けた。
そしてやってきた内藤へ、一枚のタオルを差し出したのだ。

こんな些細な一コマから、二人の距離は確実に縮まった。

決して内藤は風羽に興味ある素振りを見せはしなかったし、独自の猛練習を主張することもなかった。
それでも風羽だけには「ありがとう」という一言が自然に口から出るようになった。

その一言が嬉しく、風羽は毎日欠かさず内藤を待っていた。
躍起になって練習時間を長くしていく内藤を、一日とも欠かさず待ち続けた。


(*ノωノ)「お疲れ様です、内藤先輩」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:57:17.00 ID:/xoSia9X0
内藤本当にいい子になったよなあ…支援

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 20:58:24.07 ID:raN78Cfe0
練習時間を長めていくことだけが内藤なりの反抗だったのだろう。
それでも風羽は不平を一つと漏らさなかったし、練習後にちゃんと部室に行って風羽に顔を見せていたあたりに内藤の良心が垣間見えもした。

だからこそ風羽も待ち続ける事が出来たのだろう、内藤の優しさが見え隠れしていたからこそ、その優しさを皆に見せたいと思ったからこそ。


そのうち風羽は内藤を待つ時間を使い、部活の新聞を作り始めた。
今でこそパソコンで手早く作っている風羽だったが、始まりはすべて手書きであり、そしてパソコンという情報系の分野に興味を持った発端こそがこの部内新聞だった。


(*ノωノ)「内藤先輩、この新聞、どう思いますか?」

風羽のこの一言こそが、二人を隔てる最後の壁を破ったのだろう。
内藤の事を褒めきった記事を見せると、内藤は不覚にも笑ってしまうことしかできなかった。

(;^ω^)「褒めすぎだお」

(*ノωノ)「これでも控えたつもりだったのですが」

二人は急速に関係を発展させた。



61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:00:18.91 ID:raN78Cfe0
もともと内藤は愛情や好意を表現することをとても苦手としていた。
風羽がどれだけ尽くそうと、彼は決して彼女を思い遣る素振りを見せたがらなかった。

風羽はそんな彼の性格を理解して受け入れていたが、内藤自身はそうもいかなかった。

好意を返せず、お礼も素っ気なく、気を使ってもらうだけの自分が汚く見え、次第に彼は自分という存在を汚していった。
そして残念にもそれこそが、彼の免罪符となってしまうのだ。


汚い自分だからと言い訳をしては、彼は自暴自棄になり始める。

ことある度に風羽をチクリとなじっては、一人自己嫌悪に陥る悪循環だった。


そうだ、内藤は風羽に好きだと言う事もなかったし、彼女に見合う人格へ強制しようという努力すらも放棄していた。

そんな二人の関係は別段どちらが告白したわけでもない、ただ自然と二人は恋人という関係となっただけに過ぎないのだ。


だからこそ風羽は、内藤からの告白をずっと待っていた。
何も言わなかったが、彼女はずっとその一言だけが欲しいと願い、それでいて不安定で自暴自棄な内藤であるからこそ彼女は彼から離れることはできなかった。




だから彼女はずっと……当時より長くにわたって、内藤からの正式な告白を待っているのだ。




62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:01:00.28 ID:raN78Cfe0
これにて二十九話は終わりです。

支援ありがとうございます。
また少し休憩を挟み、三十話を投下したいと思います。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:02:32.98 ID:waAG+A+GO
>>57がゲイリ――――――(゚∀゚)――――――ン!!!!に見えた俺はどうかしてる



ちょっとゲイリンに擬態して修験闘座行ってくる

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:03:00.08 ID:z4WYMHv8O
乙!!!
まだまだ続けて支援。
ひょっとして32話まで……!?


65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:03:40.77 ID:Hpo9kV3/0
なんて健気なんだ。
そしてとうとう予定では最終話か…

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:04:00.93 ID:waAG+A+GO



じゃあ俺は飯落ちする

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:04:53.82 ID:k1MWsx800


次で最終回かえ?

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:06:30.08 ID:nVh8gS0oO
まさかゲイリンガルを見破られるとはな……
そして>>1乙だぜ!

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:12:17.64 ID:raN78Cfe0
     第三十レース「各々の将来」


病院で精密検査を受けた結果は、残念ながら黒だった。
以前の怪我が再発し、再び内藤の足を蝕み始めていたことは紛れもない事実だった。

それでも怪我直後と比べれば状況は幾分もマシだ、今度はすぐに無理をせず、しっかりと治療していかなくてはいけない。


内藤は泣く泣く春の競輪学校試験を見送らざるをえなかった。


そうして当面は秋の試験を目指し、ゆっくりとそれでいて確実なリハビリが始まった。


(;^ω^)「ハッ……ハッ……」

(,,゚Д゚)「いいぞいいぞ、そのままもっと足を大きく開いて腰をおろして、一歩一歩もっとゆっくりと歩け」

(;^ω^)「はいですお……」

(,,゚Д゚)「あーもうちょっと腰を落として、胸を張って正面を見ろ」

(;^ω^)「くおおぉ……こんな感じですかおぉ……」

怪我中で激しい練習ができないとはいえ運動を蔑ろにはできない、療養中のリハビリには大学時代のコーチがついた。
なんでも大学では疲労蓄積についての研究実績が数多とあり、かかり付けの医者とも面識があったので償いも兼ねてお願いしたのだ。
返事は快諾で、内藤は毎朝陸上部に混ざって、基本動作など基礎的な動きで体の筋肉を落とさないように、バランス良く仕上げていった。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:15:34.91 ID:raN78Cfe0
(,,゚Д゚)「内藤、怪我の影響だろうが、右足を軸にすると途端に体が傾くな。
  無意識で庇おうとしているんだろう、そこへ重点的に筋力つけないと、完治なんてまだまだ先になるぞ。
  もうちょっと意識していこう、左右の均衡が悪くては、バイクに乗ったときに落車の原因にだってなりかねんだろうし」

(;^ω^)「うう……なんとか留意してみますお」

(,,゚Д゚)「右足だけ若干内股なんだよな、足先を正面向けろ、正面」

いざ耳を傾けてみればコーチのアドバイスは的確で、実際リハビリ期間にもかかわらず体の筋肉を落とさず、練習できない分体のバランスを確固たるものに仕上げることができた。
普段使う事無い部位の筋肉をつける事で、相対的に怪我をしにくい強い体が出来上がるらしい。

これらは当然、バイクに乗る時に大いに役立つだろう。



リハビリ期間は二ヶ月にも及んだが、その間内藤は津出より直接の指導を受けることはなかった。
毎日練習内容を書き留めた日記を作り、週一のペースでそれを郵送する程度だ。

それでも順調に回復に向かっている旨や上がり調子の体を追記明記すれば、しっかりと返事をくれて、完治後にはびしばし鍛えるという旨がつづられていた。


二人の縁は、空白期間を設けようとも決して綻びることはなかった。




71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:18:08.30 ID:z4WYMHv8O
支援

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:18:40.42 ID:Hpo9kV3/0
wktk支援

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:19:10.59 ID:raN78Cfe0
(; ω )『実は足が……膝が、痛いんだお。
  憶測だお、あくまで僕の考えだけれど……怪我が、再発したかもしれないお……昔の怪我が……』



――あの日、怪我の再発を告白した内藤に、流石の津出も驚きをあらわにした。
言葉を失った、怪我の調子によっては選手生命が終わる可能性もあるわけだ、無意識に口を一文字としていた。

次に内藤にかけられた言葉は、思いのほか、的外れなものだった。

ξ゚听)ξ「内藤、何で私はあんたを弟子にしていると思う?」

あまりに漠然とした抽象的質問に、いくつもの返答は思いつくもこれだと断定することができず、また、内藤は思わぬ質問に虚をつかれて黙りこんでいた。
津出は構わぬと、言葉を繋ぐ。

ξ゚听)ξ「別にあんたがいなくたって、もう私の弟子には所歩がいるわけよ。
  どうしてアンタが必要なのか分かるかしら、アンタと所歩の違いは何かしら?」

違いなど枚挙にいとまがない、またしても無数の答えが浮かぶも返答に適する答えは見つからず、内藤は黙り込んだままだった。

ξ゚听)ξ「布佐さんを超えたいって私は言ったわよね。
  何も超えるだけなら所歩がいれば事足りるわ、所歩ほど絶倫であれば放っておいても競輪のトップか、それに近い位置まで上り詰めるでしょう、間違いなく。
  分かって? 私はね、内藤、布佐さんを超える存在を育てたいのよ、私はあんたを育てたいの、アンタでなければだめなの」

(;^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「ええ、他の人じゃ駄目よ、私は布佐さんの見立てを否定してしまったんだから。
  私の眼鏡にかなったアンタでなくてはいけないの、私はあんたで布佐さんを超えなければならないのよ、だから……」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:22:00.41 ID:raN78Cfe0
津出はここで妖美に笑ってみせた。
布佐について語る時の彼女は、いつもこうして妖魔のような、一見甘美にも感じられる笑顔を向けて見せるのだ。


ξ゚ー゚)ξ「だから、いつまでもあんたを待っているわ」



内藤がリハビリに励んでいる間、津出は再び一から勉強という事で、布佐の元に戻った。
実際に弟子を持って分かるその気遣いの幅の広さ、声かけの一つ一つにおけるアメとムチの使い分け。
練習時間に始まり私生活への干渉など、津出が従来意識していない部分は数多とあった。

それを内藤が戻るまで、また布佐の元で勉強し直そうというのだ。
所歩はしばらく、津出のお願いもあって布佐の元で他の選手に混ざって練習をした。
布佐と津出の二つの意見に挟まれて所歩も大変だったろう、それでも彼は文句こそ言えど反抗することはついぞなかった。

ξ゚听)ξ「内藤が戻ってくるまでの辛抱だから、お願いね」

(´・ω・`)「別に僕がそれに付き合わされる義理はないけれどね。
  別にいいか、相手がいないのもつまらないものだから」

内藤と少しの間一緒に練習しただけであったが、それでも所歩に生まれた仲間意識は意外にも大きかったようだ。
『仲間』という存在の大きさ、そして津出を師匠として信頼したからこそ、こうやって文句を垂れながらにもちゃんと従うのだろう。

(´・ω・`)「全く、内藤もさっさと戻ってこないものだろうか」

文句を言う時には決まって最後にそう締めくくったものだが、そこには確固たる仲間意識が芽生えていると見て間違いないだろう。

布佐のコーチングを見ながら、所歩を練習台とし、内藤からの報告日記を読みながら師匠として様々に考えを逡巡させた。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:22:02.54 ID:/xoSia9X0
支援

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:25:12.89 ID:raN78Cfe0
ξ゚听)ξ「布佐さん、どうやら内藤は再来週には練習に復帰できる見込みだそうです。
  ちょうど二ヶ月くらいでしたが、改めて面倒見てくださりありがとうございました」

ミ,,゚Д゚彡「なんだ、まだ二週間あるのにもうお別れみたいな事言うなってw
  そうか、二週間か……うん、なぁ、今週末は時間あるか?」

ξ゚听)ξ「別にありますが、何か?」

ミ;゚Д゚彡「えーと、だな……それじゃ今週末にでも、息抜きに一緒に遊園地でも行かないか?」



ξ*゚−゚)ξ



ξ*--)ξ「遊園地って、子供じゃないんですから……でもたまにはいいかもしれませんね。
  面倒見てもらいましたし、それぐらいで良ければお付き合いしますよ」

津出の意地っ張りは筋金入りだ、まだ少し、二人の距離が近づくには時間がかかりそうだ。



津出が内藤を育て出し、一人立ちしてからだろうか、布佐は些かの物足りなさを感じ始めていた。
もっともそれが恋とか愛の類かと問われればそれほど明確なものではないだろう。
それこそ父子の親子愛にも似たものかもしれないが、子を持たぬ彼には断定に至るまでの材料がいかんせん乏しい。

その答えを出すのはまだしばらく先になるのだろう。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:28:03.48 ID:raN78Cfe0
不幸中の幸いとでも言おうか、弟子の怪我が原因で津出が少しの期間戻ってきたのは絶好の機会かと遊園地に誘ってもみたが、依然彼は心の整理などつかぬままだった。
哲学者であるまいに、スポーツマンが恋などという感情に真面目に対面しようなど、愚かしいのかもしれない。

( ゚∀゚)「よーよー布佐どうした、随分小難しい顔しているなw
  なんだよ、嬢ちゃんと遊園地行くときの服装でも悩んでのかよw」

ミ#-Д-彡「……どこで聞いた」

( ゚∀゚)「顔に書いてあるぜw」

長岡はおどけて言ってみるも、当然布佐の気を立てるだけだった。
世の中はなんとも巧妙にできており、絶対に知られたくない相手というものはえてして情報に目ざとく、いの一番に知っているものだ。

ミ#゚Д゚彡「それよりも、今日は俺の弟子の練習を見に来てくれたんだろ、ちゃんと活入れてくれよ?」

( ゚∀゚)「ああ、だからお前と嬢ちゃんはその間にどっか行っててもいいぜ?w
  なんてな、あ、怒ったか? な、怒ったのか? 怒ったろ?w」

ミ#-Д-彡「アンタ、年上のくせに本当子供っぽいよな……」

長岡が競輪に改めて熱を入れて以来、二人は定期的に会って弟子同士を競わせたり、情報交換を行っていた。
平生と違う環境、異なるメンバーで励むことにより、互いの士気とモチベーションを高め合うのだ。
とりわけ長岡と高岡が顔を出すのはとても大きい、現役競輪のツートップがいればそれだけで布佐の弟子には良い刺激になるし、実際に走ってでの指導はまた格別だ。

KEIRINグランプリの一件以来、長くにわたって二人にはどこかギスギスしい空気があった。
互いに他人行儀にならぬようにと無理やり言葉を崩しながら話ししてみせるが、結局は相手の顔色を覗いながら当たり障りない会話を済ませるだけに留まっていた。
しかし長岡が競輪復帰を公言したことで、ようやく待ちに待った本来あるべき二人の関係が復活した。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:28:19.45 ID:waAG+A+GO
2合分の卵掛けご飯はさすがに「餌」と呼ぶのに相応しい……



ソロモンよ!私は帰ってきたー!


( )) ドーン!
⌒ ))_∧__∧__
≡三(_(`・ω・)_()三三≡≡≡[|支援>
⌒)) ( ニつノ 
)  r-(_ ̄|  
  し―(__) 

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:30:34.27 ID:orm2JtK/0
支援支援支援


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:30:48.56 ID:raN78Cfe0
布佐自身、長岡を許容する気持ちと恨めしい気持ちの衝突にずっと苛まれていたものだが、いざ明言されれば思いのほか気持ちが軽くなるのを感じた。
そして僅かに生まれた悔しさは、長岡と高岡を倒せる弟子を育成してやろうと反抗心に変わり、せっせと手塩かけて弟子の育成に励んだ。

もっとも相手が悪いことはもちろん、未だもって兆しの見える選手は現れなかったが。
すぐに芽が出る選手ばかりでもない、気長に構えなくてはと、今少し辛抱が続きそうだった。


( ゚∀゚)「そういえば、ちょっと前に高良先輩に口きかれてよ」

ミ,,゚Д゚彡「高良先輩……最近調子良くなってきていたか、A級止まりと思っていると痛い目見るかもな。
  それで、あの人が何か?」

( ゚∀゚)「おう、それでさ、どこからか俺の出張授業を聞きつけて、今度一緒に弟子と走ってやってくれなんて言われたよw
  先輩の頼みならって返したが、その弟子ってのはまだまだこれからのあまちゃんだそうだ」

ミ,,゚Д゚彡「くれぐれも、口の悪さだけは移さないようにな」

( ゚∀゚)「せーよww」

言いながら、長岡はその弟子の走りを頭に浮かべていた。
高良に弟子を見てくれと言われ、出場レースのビデオをいくつか取り寄せて目を通した。
その率直な感想が、長岡自身に似ていると思わせるほどの、走りのスタイルだった。

( ゚∀゚)(たぶん、こいつは昔から自転車に乗っていたわけじゃないんだろうな……)

実力は実際何ともいい難かったが、それでももう少し乗り慣らせて判断力を養えば、かなりいい線にいくのではないだろうか。
高良よりその男が長岡を敬愛していると聞いたが故の、同族意識なのだろうかと皮肉に笑みをついた記憶が蘇った。

( ゚∀゚)(あー、高良先輩ってたしか弟子そいつだけだったかなぁ……
  毒男ってヤツ、貰えねーかなぁ……)

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:34:07.97 ID:raN78Cfe0
 

( ^Д^)「ああ、そいつは無理なご注文だ」

( ゚∀゚)「ですよねー」

( ^Д^)「つかお前には弟子がいっぱいいるだろ、俺は二人だけなんだから、とても渡せないな」

( ゚∀゚)「まぁいいよ、だったら今度の直接指導の時に打診してみるからよ」

(;^Д^)「俺の意見は関係なしかよ……勝手にするがいいさ。
  それにしても毒男に目をかけるとは、随分と変な奴だなお前は。
  まだまだ速くないし、伸びしろも未だ見えてこないっていうのによ」

( ゚∀゚)「なーに、悪趣味なだけだ、速くなるならないではなく、ちょっと育てたいと思ってさ。
  つか伸びしろなんて出てくるもんじゃないよ、師匠が出すもんだろ。
  まぁウチにいるのなんてそんな奴ばっかだ、おかげでへそ曲がりばっかになっちまったがな」

( ^Д^)「飼い主に似るんだよwつかお前今俺の手腕をなめてる発言したろ?
  ったく、いい加減口の悪い奴だな、そういうところ本当に変わってねーよな。
  まぁいい、とりあえず次の日曜にその弟子の指導、よろしく頼むからな」


高良は電話を切ると大きくため息をつき、一人の弟子を頭に思い浮かべた。
何事にも素直で、もの覚えは悪いがそれを補って余りあるほど忠実な彼だ、すぐに実力がつくわけではないが、十年もすればかなりの選手になるだろうと思えた。

その自慢の弟子が尊敬すべき競輪界のトップ選手に目をかけられたのだ、嬉しくないわけがない。
それと同時に、たまらないほどの悔しさも顔を覗かせていた。

( ^Д^)(そうだよな、あいつのことを思えば俺なんかよりも、長岡に任せるべきだよな……)

82 名前:スーパー支援タイム:2009/01/08(木) 21:34:23.23 ID:1d76baY50
( ^ω^) ずっと待ってた

( ^ω^) 全力で支援

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:34:28.94 ID:Hpo9kV3/0
なんというか、良いね

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:35:55.44 ID:waAG+A+GO
なんか色々丸く収まりそうだなw


支援

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:37:44.24 ID:raN78Cfe0
高良はどうするべきかと悩みながら、それでも結局は本人の決断にゆだねざるを得ない問題である。
それからしばらく後、ふと高良は練習終わりに毒男自身へと疑問を打ち明けた。

( ^Д^)「なぁ毒男、もし長岡がお前に目をかけたって言ったならどうする……?」

一瞬何を言われたのかと毒男は目をパチクリさせながら、実感がないだろう、やる気のないつまらぬ反応を見せるだけであった。

('A`)「はあ、それはなんとも光栄ですね」

( ^Д^)「実際そうなんだ」

('A`)「……そうですね、だったら師匠を抜いた日に、長岡さんに移りますねw
  それまではとてもとても自分なんて恐れ多いですよ」

(#^Д^)「うっわ、ちょっと待て今のそれムカつくな、ぜってーテメーには抜かせねー!」


実際毒男の芽が伸びるのはこれから五年も後の話になる。
最後のレースで師匠への勝利をプレゼントして、毒男は長岡の弟子へと移行することになるが、それはまた別の話だ。


('A`)(高良師匠も何を言い出すかと思えば、師匠問題なんて内藤じゃあるまいし……
  例え長岡さんに誘われようとも、とても高良師匠以外の元で動くなんて考えられないな。
  そういえば内藤、ようやく練習に復帰したんだっけか……春試験は見送っていたけど、秋の試験こそ受かるといいなぁ)

毒男と内藤は以前ほど密に連絡を取り合うことはなかったが、それでも一カ月に一度は必ず互いの状況を報告しあっていた。
二カ月もの療養期間を経てようやく練習に復帰した内藤は、現在は津出の元で本格的に練習を開始したと声を弾ませていたか。
リハビリ期間にも相当良い人に練習をつけてもらっていたのだろう、二ヶ月間のロスは感じないほど体の調子がいいとも言っていた。

('A`)(内藤とも、近いうちに一回一緒に走って、ハッパかけてやるかなw)

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:38:08.76 ID:orm2JtK/0
まだ追いつけてないが支援

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:41:18.36 ID:raN78Cfe0
毒男は内藤から長岡の過去、当時の心模様についての詳細を聞いたとき、ある程度予期していた通りであったにも拘らず何とも居た堪れない思いになった。
それは怪我というものに負けて心が折れていた長岡への失望もあり、そしてやはり彼は尊敬に値すべき人物だったという安堵もあり。

非常に混沌とした気持ちであり、高良にその旨を話すると、なんと彼はすべてを知っていた上で寸分違いない見当をつけていたのだから驚きだ。
ぷぎゃーなどと一度小馬鹿にした後に、毒男へ向かって「長岡が、やっぱり尊敬できる選手で良かったじゃないか」なんて言ってくれたのだ。
師匠であるという高良自身のプライドなどお構いなしに、毒男を気遣ってそんな言葉をかけてくれたのだ。

('A`)(やっぱ、俺の師匠は高良さんだけだよ……)

いずれその思いとは裏腹に長岡の元へとかわっていくのだが、人の決意とはえてしてそういうものだろう。
信念を貫きながらも別の道を長く考え経て、真に目前に迫ってから全霊で悩み抜き、誰かのひと押しを合図に変遷の一歩を進むのだ。

('A`)(そういえば……内藤の師匠も、弟子を二人持っているんだっけか……。
  随分と癖のあるヤツだと聞いているけど、実力抜群で長岡さんも目をかけたとか……)


内藤よりその所歩という人物の話は聞いていた。
競輪学校への試験では1000mは免除、200mではダントツ一位の成績を収めたらしく、競輪界では期待の超新星として話題騒然だ。
すでにKEIRINグランプリ優勝しか見ていないなどと、まことしやかに、彼ならば本気で言いかねない噂ばかりが飛び交っていた。

しかし本人は取材であったりインタビューについては然程興味はないらしく、報道陣は手をこまねいているそうだ。
師匠が女性であるというこのも話題を呼びはしたが、これまた津出が取材に応じないものだから噂が廃るのも早かった。

もっとも、だからこそ報道陣は常にKEIRINグランプリ優勝候補筆頭の高岡に集まっていたが。


从 ゚∀从「所歩? ちまたじゃ話題らしいですけど、速いだけじゃ競輪では勝てないでしょ?
  俺と勝負できるまで登ってこれるかどうかが楽しみですねw」

88 名前:スーパー支援タイム:2009/01/08(木) 21:42:08.53 ID:1d76baY50
( ^ω^)しえん

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:42:08.88 ID:waAG+A+GO
支援ガオレン

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:44:34.54 ID:raN78Cfe0
記者「しかしお二人はすでに顔見知りだと聞きましたが?」

从 ゚∀从「おまw誰から聞いたよww
  そうだな、でも今のあいつじゃ相手にならないよ、俺と勝負するまで上り詰める過程で、せいぜい鍛えることだな。
  実力と成績が結び付かないから、競輪はギャンブルなんだよ」



(*ノωノ)「……なーんて高岡選手に言われてますよ?」

風羽は競輪雑誌を読み上げてみせたが、ストレッチ中の所歩は些かともそれを気に留めなかった。

(´・ω・`)「構わないさ、一年後には同じ競輪の舞台に立つんだから。
  その時にKEIRINグランプリのトップにいなかったら逆に言い返してやるさ、僕はトップにしか見ていないから君に興味はないとね」

(*ノωノ)「相変わらず自信満々ですね」

(´・ω・`)「なに、自転車を始めて高々一年で競輪学校の門扉を叩こうとしている人よりは、よほど謙虚に生きているつもりだがね」

所歩と風羽が向いた先は、津出に付きっきりでフォーム注意を受ける内藤だった。
陸上のコーチのおかげもあって全体の筋肉は見事なほどバランス良かったが、代償として自転車の乗り方をまんま忘れてしまっていたのだ。
あまりに体つきが良いものだからこそ、それを無駄にしては勿体ないと逆に津出を強く刺激してしまい、彼女はより厳しく内藤を鍛えた。

(;゚ω゚)「はっ、はっ、はっ……」

ξ゚听)ξ「ほらほら、肩が上がってきた、何よ以前のアンタの方がよっぽど物覚えが良かったじゃないの!」

(;゚ω゚)「おお……どえす……」

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:48:28.26 ID:raN78Cfe0
(*ノωノ)「……」

(´・ω・`)「もし時間を弄んでいるようならちょっと足を支えてくれないかい?
  このうちに少し腹筋をしておくよ」

(*ノωノ)「あ、はい」

所歩が黙々と腹筋を繰り返す間、風羽は回数を数え上げながら、傍目で内藤と津出を追っていた。
思わず力が抜けて所歩の足が崩れそうになる度、目が覚めたかのように慌てて足を抑え直した。
しかしまた少しすれば意識はあさっての方向へと向いてしまう。

(´・ω・`)「……なんだい、内藤が気になるのかい?」

(*ノωノ)「あ、……すみません、大丈夫です、集中します」

(´・ω・`)「いや、別に構わないさ、適当に押さえてくれるだけでいい。
  ただ、嫉妬するならもう少し相手を選んだ方がいい、嫉妬対象が『アレ』ではつい口も挟みたくなってしまうね」

ξ#゚听)ξ「聞こえてるわよ、馬鹿弟子」

(´・ω・`)「性格を直してもらえないだろうかと聞こえるように言ったのだけれど、意図が伝わらなかったようで残念だよ」

一瞬にしてピキッと凍りつく空気に、また内藤のフォームがぎこちなくなった。

ξ#゚听)ξ「ほらまた崩れてきた、ちゃんと意識しなって言ってるでしょ!」

(;゚ω゚)(なんという理不尽……!!)



92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:49:42.68 ID:orm2JtK/0
追いついた
いい雰囲気になってる支援


93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:52:24.47 ID:waAG+A+GO
三角関係クルー?

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:52:53.29 ID:raN78Cfe0
それからおよそ二十分ほどして、ようやく内藤はフォームチェックから解放された。
未だ慣れないのか、背骨がキシキシと悲鳴を上げている。

(*ノωノ)「どうぞ先輩、氷です」

(;´ω`)「おおお……助かるお、天使かお……」

(*ノωノ)「あ、あぷー……」

ビニールに入った氷水を腰に当てると、飛び上がるほど冷たかったが、背骨と腰の筋肉が瞬く間に癒されていくのも感じた。
季節は早くも7月を迎えようとしていた、噴き出る汗は一向に収まる気配など見せない。

秋試験は10月だ、残された時間はおおよそ4ヶ月であった。
以前の感覚に加え、体のバランスの良さが飛び抜けたこともあって、フォームが正されるにつれみるみる内藤の走る速度は上昇した。


(´・ω・`)「まったく、これでは他の愛好会と一緒に走った方がいいね。
  もうしばらくリハビリをしていてはどうだい?」

ξ゚听)ξ「何よ、内藤が療養していた時は早く帰って来いだなんてピーピー喚いていたくせにさ」

(´・ω・`)「そうでも言わなきゃ割が合わなかっただけさ、何よりもこれほど乗り方を忘れているなんてね、逆に驚いたよ。
  まぁ内藤の怪我が心配だなんて県外の神社にまでサイクリングがてらお参りしに行くほどじゃないさ」

ξ#--)ξ「……何で知ってんのよ」

戻った当時など常々所歩にぼやかれたものだが(今でもなお言われているが)、次第に共に練習をこなせるようになり、7月に入る頃には以前の内藤と比べても遜色ないほどまでなり、
進化は止めどなく続いてむしろより速く走れるだろう程に鍛え抜かれていった。
この頃には秋より競輪学校へ入っていく所歩は、残されたわずかな時間が名残惜しいのか知れないが、内藤の練習に積極的に加わったりもした。

95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:55:28.81 ID:Hpo9kV3/0
なんという微妙なツンデレ

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:56:47.72 ID:raN78Cfe0
(*ノωノ)「お二人とも、お疲れ様でした!」

(;´・ω・`)「ふぅ……いや、いつも悪いね、そうやってタオルを差し出してもらえるだけでも幾分と助かるよ。
  これから競輪学校での一年は男の汗臭さに塗れざるを得ないからね、風羽さんがいてくれるだけで随分と環境が違うよ」

ξ゚听)ξ「……アンタ、それって私への遠まわしの当てつけに聞こえるんだけど」

(´・ω・`)「いや失礼、津出師匠のことは言わずもがなとあえて言わなかっただけさ」

ξ#゚听)ξ「どこの口がそんな事を言うのかしら……」

(*ノωノ)「……先輩、大丈夫ですか?」

(;´ω`)「……ッ、……ッ!!」
  (頭クラクラでツッコム余裕なんてないお、苦しいお……!
  所歩はどれだけ化け物的なんだお……!)


体全体で息をする内藤を傍目にする所歩、結果的にやはり彼の存在は内藤に多大なる影響を及ぼした。
津出一人では、おそらくこれほどまで内藤の底力を引き出すことはできなかっただろう。

なにせその津出こそ、内藤と師弟の契りを交わした時よりずっと、この秋試験において競輪学校に合格できる実力をつけられることを目標と据えていた。
ところがリハビリ期間があったにもかかわらず、とりわけこの七月より所歩が内藤の練習に積極的に協力し出してからというもの、その伸びは著しいものだった。

津出が作ったメニューを、所歩が一緒に走る事で最大限に効力を引き出させ、風羽がそのアフターケアをする。
練習後はボロ雑巾のようになる内藤だが、風羽はマッサージを勉強して常に体調子を整え、炊事洗濯なども引き受けていたおかげで彼は気兼ねなく打ち込むことができた。

幾度止めたいと思ったことか、なぜこれほど頑張ってるのかという彼の疑問は、風羽がすべて吹き飛ばした。
それほどに彼女の存在は大きく、彼を常に優しく抱擁していた。

97 名前:スーパー支援タイム:2009/01/08(木) 21:59:03.54 ID:1d76baY50
( ^ω^) やっと・・・やっと追いついた・・・

( ^ω^) なにこのフィナーレ的な空気

( ^ω^) しええええええん

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 21:59:24.78 ID:raN78Cfe0
9月、一足先に合格をものにしていた所歩は、競輪学校入学前に一時実家へと帰るため、内藤の元を去った。

( ;ω;)「所歩……憎たらしい奴だと今でも思っているけれど、……いなくなるとまた寂しいお。
  明日からの練習が一人だと思うと、正直残念な気持ちが大きいお」

(´・ω・`)「だったら競輪学校に来ることだね、そうすれば否が応でも毎日顔を合わせることになるさ」

半年遅れで入学して来いと、この秋試験で受かれと言いたいのだ。
さばさばした受け答えの中に垣間見える戦友の証は、二人の関係を明確に示していた。

(´・ω・`)「津出師匠も喧嘩相手がいなくなって寂しいだろうが、落ち込まないでくれ」

ξ--)ξ「誰が寂しいよ、いちいち小うるさいヤツね、いなくなって清々するわ。
  まぁ競輪学校での様子はまた報告してね、待ってるから」

(´・ω・`)「内藤と風羽さんに連絡するから、勝手に伝え聞いてくれ」

ξ#゚听)ξ「アンタって本当に弟子の実感ないでしょう?」


所歩がいなくなったことで士気が下がるかとの懸念があったが、思いのほか内藤は躍起に頑張った。
試験が近くなっているのだ、高ぶる心を練習をこなすことで発散する方が先決だったのだろう。

なまじか十分に力をつけ、合格タイムも何度か出せるようになっていたからこそ、志は目の前だけをしっかりと見据えていた。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:01:30.91 ID:raN78Cfe0
そして試験日当日、そのころには1000mを十本走れば、うち五本は規定タイムを上回る程度の力はついていた。

確率で考えれば五分と五分、しかし本番はたった一発きりの勝負だ。
通常以上の力を振り絞ってタイムを上回るか、それとも一発勝負のプレッシャーに呑まれるか。
津出と風羽は緊張で気が気でなかったが、反面内藤は落ち着きはらっていた。


練習以上のタイムは出せる、そう信じて疑わなかった。


それこそが様々な人たちへの最高の恩返しとなるのであれば、記録が出ないわけがない。






自信は心を強固にする。


その日、内藤から風羽への電話は、見事な朗報を伝えた。




100 名前:スーパー支援タイム:2009/01/08(木) 22:01:49.10 ID:1d76baY50
( ^ω^) 支援
 

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:02:17.97 ID:orm2JtK/0
ショボwww支援


102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:03:02.10 ID:Hpo9kV3/0
支援だ!

103 名前:スーパー保守タイム:2009/01/08(木) 22:03:28.56 ID:1d76baY50
( ^ω^) 朗報ktkr

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:03:43.37 ID:raN78Cfe0
(*ノωノ)「先輩、おめでとうございます!」

( ^ω^)「ありがとうだお、これで……少しは皆の期待に添えたことができたと思うお」

(*ノωノ)「はい、でもこれからが一番大切ですから気を緩めずに、ですよ」

( ^ω^)「分かっているお、風羽……炊事に洗濯、マッサージと色々沢山迷惑かけたお。
  間違いなく風羽の存在なくして僕はここまで来れなかったに違いないお、本当にありがとうだお」

(*ノωノ)「止めてください先輩、私が好きでやったことなんですから」

( ^ω^)「……それで、風羽。僕は入学までの三ヶ月あまりは、実家に帰ろうと思うお」

(*ノωノ)「……え?」

( ^ω^)「皆の力で競輪学校の試験に受かったけれども、今後は自分一人、おのれとの戦いになると思うお。
  競輪学校の試験合格は登竜門でありかつ通過点だお。
  大きな恩返しが終わったから、次は自分と向き合い、戒める時だと思うお」

(*ノωノ)「……」

( ^ω^)「だから風羽は……風羽の道を進んでほしいお。
  僕に合わせずに、学校を優先して……一年間余り、もし許されるならば僕のことを待っていてほしいお」


(*ノωノ)「……先輩がそう言うなら、私に断る権限はありません。
  だから、寂しいですが……分かりました。
  その代わり――



105 名前:スーパー保守タイム:2009/01/08(木) 22:04:37.25 ID:1d76baY50
( ^ω^) 支援

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:05:55.99 ID:raN78Cfe0
J( 'ー`)し「おめでとう、入学は春だったかしら?」

( ^ω^)「そうだお、それまでは練習三昧の日々だお。
  タイムもちょっと危なかったし、ここで気を抜かないように気を引き締めるお」

J( 'ー`)し「そう……いいことね」

( ^ω^)「それでカーチャン……さっそく迷惑をかけるようで申し訳ないけれど……
  実家に、勝手気ままな息子の居場所は、まだ残っているかお?」


J( 'ー`)し「ええ、歓迎するわよ。
  アンタの部屋なら、たまに掃除するだけでそのままの姿で残っているから」


( ^ω^)「ありがとうだお」


そうして内藤は春までの半年ほどを、実家にて過ごした。
それまでは風羽と共に暮らしていたが、彼女も大学の学業をおざなりにしてはならぬと、内藤はその選択に踏み切った。

実家は舗装もされていないあぜ道だ、毎朝自転車を担ぎながら電車に乗って町まで出ると、そこから競輪場へとアップがてら一時間余りバイクに乗る。
その後、津出と合流して練習をする、毎日がその繰り返しであった。




107 名前:スーパー保守タイム:2009/01/08(木) 22:06:44.01 ID:1d76baY50
( ^ω^) 支援!

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:07:22.81 ID:raN78Cfe0
( ゚∀゚)「よう内藤、試験に受かったらしいじゃないか、『ギリギリ』で」

(;^ω^)「余計なお世話ですお、長岡さんのところも、茂羅さんが会場で一番速い記録を出していましたお」

( ゚∀゚)「あいつは元々試験に受かるだけの力は余裕であったよ、ただ春試験は所歩にやられてスランプでボロボロだっただけだ。
  それに記録は良かったが、他の会場を加えると今期生で二番目の記録らしい。
  戻ってくるときは一番になってくるって息巻いているよ、お前にも一度たりとも負けないともなw」

( ^ω^)「上等だお、在学中に一度はその尻尾掴んでやるお。
  そうじゃないと、所歩と走ろうなんて夢のまた夢になってしまうお」


所歩がいなくなり、合格が確定すると、以来内藤はこの茂羅との練習がメインとなっていく。
茂羅とて相当の選手であり、内藤から見れば化け物じみている点では所歩と同じであった。


(;・∀・)「はぁ……はぁ……、どうしたよ内藤、ぜんっぜん、追い付けねぇじゃねぇか……はぁ」

(;^ω^)「んだお、そっちこそさっきは余裕面だったのに、今回はギリギリじゃないかお……ぉぇ。
  ……あと、五本だお、あと五本やれば抜き去ってやるお……」

(;・∀・)「おー、言ったな、……、絶対だぞ絶対、勝てるっつったな?」

(;^ω^)「おおお、あと五本いくお!」


ξ;--)ξ(やれやれ……)(゚∀゚;)


それでも所歩ほど底が見えぬような歪なる恐怖は感じられない、所歩とはまた違った方向で切磋琢磨し合える相手であった。

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:07:51.95 ID:TrPKF+iJO
今北支援

110 名前:スーパー保守タイム:2009/01/08(木) 22:08:54.67 ID:1d76baY50
( ^ω^) モララーかわええwww

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:10:05.70 ID:raN78Cfe0
 
そして春――



( ^ω^)「それじゃ、行ってくるお」



J( 'ー`)し「行ってらっしゃい、くれぐれも、怪我だけは無いようにね」



ξ゚听)ξ「手を抜かず、しっかりと頑張ってきなさいよ」



('A`)「おう、いよいよだな、頑張って来い」







(*ノωノ)「行ってらっしゃい、先輩。
  私は、待っていますから……一年でも、それ以上でも……」

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:12:01.34 ID:orm2JtK/0


みんないいやつだなー


113 名前:スーパー保守タイム:2009/01/08(木) 22:12:04.24 ID:1d76baY50
( ^ω^) 行ってこーーーい

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:12:16.52 ID:raN78Cfe0
 

( ^ω^)『だから風羽は……風羽の道を進んでほしいお。
  僕に合わせずに、学校を優先して……一年間余り、もし許されるならば僕のことを待っていてほしいお』


(*ノωノ)『……先輩がそう言うなら、私に断る権限はありません。
  だから、寂しいですが……分かりました。
  その代わり――








(*ノωノ)『一年後、今度は内藤先輩の方から迎えに来て、ちゃんと告白してください。
  私待っていますから、いつまでも、先輩からの告白を』






115 名前:スーパー保守タイム:2009/01/08(木) 22:13:08.52 ID:1d76baY50
( ^ω^) テンションあがってきた支援

116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:15:23.78 ID:raN78Cfe0
競輪学校では基本的にはルームメイトと茂羅と共に練習に励んだ。
とりわけ底力はあれどそれを活かすだけの基礎がまだまだ成り立っていない内藤だ、その力任せの走りは見る者の闘志をかきたてた。
所歩とはたまに顔を合わせもしたが、彼は彼で別の知り合いを見つけており、挨拶を交わすだけが多かった。

そもそも所歩はすでに競輪学校の歴史上においても、そしてかの布佐と比べても遜色ない記録や実力を身につけており、
歴代でも数人しかかぶることを許されなかった卓抜の証である「ゴールデンキャップ」なるものも、内藤が入る以前に一度かぶっていたそうだ。
それだけに彼は極めて異色であり、生徒たちの羨望の視線の中にいたから一新入生である内藤には遠い存在だ。

それでも時間のある時には二人して話に花を咲かせもしたし、茂羅がそこに加わることも多かった。


競輪学校の一年間、それはなにも完全な缶詰ではなく、夏季休暇には家に帰される。

しかし内藤はその時も風羽と連絡こそすれど顔を合わすことはなく、津出の元、久しい空気で修練に励んだ。


秋、所歩が競輪学校を一足先に卒業していき、後輩たちが入学した。


年明けには所歩の初レースがあり、彼は内藤の心配をよそに、しっかりとデビュー優勝を掻っ攫っていった。
それでも決勝レースでは明らかに全員からマークされており、薄氷の勝利であった。
鮮烈に、そして課題を残しながらも、所歩は競輪の長く険しい門出を見事に飾ったのだ。



そして、再び春が訪れた。



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:16:48.47 ID:8YA8Kwvm0
支援

118 名前:スーパー支援タイム:2009/01/08(木) 22:17:34.16 ID:1d76baY50
( ^ω^) 支援支援支援

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:18:38.68 ID:Hpo9kV3/0
>>112
最初はみんな歪んでたのにな。
まさかこうなるとは思ってもいなかった。脱帽

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:18:40.80 ID:raN78Cfe0
 

( ^ω^)「ただいまだお」


(*ノωノ)「お帰りなさい、先輩」


( ^ω^)「随分と、高校時代から本当に長く時間を要したお。
  それでも僕のことをまだ待っていてくれたのであれば……もう一度、僕を支えて欲しいお」


(*ノωノ)「はい、よろこんで!」




( ^ω^)「ただ、競輪学校の期間借りていたお金の返済もあるし、もう少し待ってもらう事になりそうだお……申し訳ないお」


(*ノωノ)「もう少し……待つ?」




121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:19:15.60 ID:raN78Cfe0
 

( ^ω^)「結婚だお」




(*ノωノ)「……っ!」




( ^ω^)「……」




(*ノωノ)「……はぃ……」









                    ( ^ω^)が競輪に挑戦するようです・END

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:19:54.98 ID:orm2JtK/0
気になる気になる支援


123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:19:59.45 ID:mGHJp4qg0
乙!

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:20:03.29 ID:1d76baY50
(*ノωノ)「断る」


( ゚ω゚)

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:21:27.45 ID:raN78Cfe0
以上にて「( ^ω^)が競輪に挑戦するようです」は終わりになります。
随分と長らくかかりましたが、お付き合い本当にありがとうございました。

何か質問などありましたらお願いいたします。

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:21:27.64 ID:orm2JtK/0
乙ーーーーーーーーーー!!!

終わるのは寂しいけど、ホント乙!
面白かった。

>>124
珈琲吹いたw


127 名前:スーパー保守タイム:2009/01/08(木) 22:22:04.45 ID:1d76baY50
( ^ω^) 完結

( ^ω^) 乙!!!!!!

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:22:23.33 ID:flGT15Pi0
ここで終わっちまうのか・・・寂しいが乙!

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:23:49.41 ID:1d76baY50
>>125
結局カーチャンと( ^ω^)の父の上司はギシアンしたの?
よくわからなかった。

130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:24:20.29 ID:/xoSia9X0
今までお疲れ様でした!

最初はみんなぎすぎすしまくってたのに、これが成長って奴か……

131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:26:10.40 ID:66Q4tm3W0
代表して言おう


過去作品が知りたいです

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:26:12.86 ID:raN78Cfe0
>>129
伝えきれずで申しわけないです。
母親と上司は交わってはいません。
しかしながら父親は関係したと勘違いし、母親はそれを正せなかっただけです。

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:26:42.20 ID:ei4T1TlgO
( ^ω^)「結婚だお」




(*ノωノ)「……っ!」




( ^ω^)「……」




(*´・ω・`)「……はぃ……」

134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:27:44.38 ID:Hpo9kV3/0
乙!!!本当に面白かった、現行の中では一番だった。
しかし、本当に、挑戦で終わったな。だが、それがいい。

まだブーン系は続けますか?



135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:29:22.67 ID:1d76baY50
>>132
把握。カーチャン一途だな・・・。

あとは从 ゚∀从の影の薄さが気になる。

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:31:45.91 ID:raN78Cfe0
>>131
いいえ、ふたなりではありません。

>>134
とりあえずひと段落はしますが、卒業はないですね。
まだまだ書きたい物語はありますので。

137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:33:11.36 ID:66Q4tm3W0
物凄い勢いで把握した

今後も頑張ってくださいね!

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:35:21.46 ID:raN78Cfe0
>>135
正直高岡と茂羅は登場自体が誤算でした。
高岡はそれなりに有名どころの位置取りでしたので、短期間でどうやってキャラを立たせるか……といった扱いでした。
それだけに登場自体は少なく、仰られるように影が薄くなってしまいました。

布佐と並んで印象弱く個人的にも反省点です。

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:35:43.79 ID:Hpo9kV3/0
なら、次回作も楽しみに待ってます
乙でした!

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:37:19.30 ID:1d76baY50
次回作にふたなりは作者だったのか

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:38:19.77 ID:CzhOIpg2O
乙!!

そういえば、今回は酉を出さないな。

142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:39:55.46 ID:k1MWsx800
なんで風羽のAAつかったん?
つかこれ自作?

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:40:04.05 ID:waAG+A+GO
>>133
その発想はなかったわwwwww

144 名前: ◆7at37OTfY6 :2009/01/08(木) 22:43:45.99 ID:raN78Cfe0
>>141
大半の方が気付かれているようですので、出さずとも分かるかなと。
(*ノωノ)←酉代わり

>>142
なぜと言われると可愛いからとしか言いようがありませんね。
最近は使われませんが、昔は結構総合で見かけました。

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:46:22.48 ID:raN78Cfe0
改めまして、支援や乙をくださった方はもちろん、読んで下さり本当にありがとうございました。
またここまで長らく作品をまとめてくださったブーン芸さんにも、この場でお礼をば、ありがとうございました。
もしかすると設定ミスのみまたもや修正のメールを送るやもしれませんが、その折はお手数ですがよろしくお願いしたいです。

146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:49:32.08 ID:5rdoB/RAO
やっと追いついた……長かった
だが現行で一番好きだった
作者マジで乙!

147 名前:スーパー保守タイム:2009/01/08(木) 22:51:36.16 ID:1d76baY50
(*ノωノ) 作者愛してる

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 22:58:26.90 ID:k1MWsx800
今まで本当にお疲れさま



149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 23:10:48.36 ID:TrPKF+iJO
作者乙
今作「も」楽しませてもらいました

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 23:16:19.43 ID:g+cRVH/AO
これ終わりかよ…初遭遇でいきなり最終回とかあんまりだ
ともあれ作者乙!


俺は他の作品しらないんだけど結構有名なのかな?

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 23:18:20.13 ID:orm2JtK/0
>>150
オムさんとこで
植物とか魔女狩りを見てくるんだ!


152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/01/08(木) 23:21:07.17 ID:Y4fIexFW0
乙!次回作も期待してます!


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