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( ^ω^)が競輪に挑戦するようです

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:40:17.70 ID:dyHUaFWu0
まとめサイト様
 http://boonsoldier.web.fc2.com/keirin.htm

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:41:11.65 ID:dyHUaFWu0
しばらく時間が空いてしまいすみません。
ゆっくりの投下になりそうですが、ぼちぼち投下していきますのでよろしくお願いします。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:43:06.82 ID:jw4yXj190
内田。。。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:43:07.74 ID:dyHUaFWu0
登場人物

( ^ω^) 内藤:陸上の400mで県で一位を取るほどの猛者。怪我により陸上を引退し、津出の弟子となって競輪選手を目指す。

('A`) 毒男:内藤の中学時代の友人で、現競輪選手。なりたてで、実力はまだまだ。
   高良:毒男の師匠

J( 'ー`)し 母親:内藤の母親、ギャンブルが嫌いで競輪を良く思っていない。目下、競輪を目指す内藤とは対立したまま。
(*ノωノ) 風羽:陸上部のマネージャーで内藤の元彼女。すれ違いにより別れる。
(,,゚Д゚) コーチ:大学陸上部のコーチで、レースの度に怒鳴りあげた。内藤と仲違いの上、意思疎通が計れずに終わる。

ミ,,゚Д゚彡 布佐:万夫不当の競輪選手だった。
ξ゚听)ξ 津出:内藤の師匠で、ロードバイクを乗りこなす女性。

(´・ω・`) 所歩:津出と一度決裂しながらも正式な弟子に。群を抜いた実力の持ち主。

( ゚∀゚) 長岡:毒男の尊敬するS級1班の競輪選手。おどけた言葉が多い。
从 ゚∀从 高岡:長岡の弟子で、競輪選手で最高クラスのS級S班の選手。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:43:33.94 ID:nBL9+oX60
これは期待ww


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:47:23.58 ID:dyHUaFWu0
     第二十五レース「毒男と高良」


ξ゚听)ξ「体調は悪くないみたいね二人とも、今日はいい走りだったわ。
  それじゃ一通りの練習は終わりだから、最後に一時間ほどバイク走らせて疲労抜きして来なさい」

その日も練習が終わると、内藤と所歩は二人して海岸沿いの歩道でバイクを走らせた。
風は些か緩くなっており、すぐにもその棘をひそめて柔らかい空気を運んできては、春の到来を感じさせることだろう。
つまるところ、競輪学校の試験日が近づいてきたのだ。

( ^ω^)「んー、汗かいた後だとこの風が気持ちいいお」

(´・ω・`)「時間は一時間と長いんだ、調子にのってくれぐれも風邪ひかないようにだけ気をつけることだね。
  何せまだまだ春とは言い難い寒さも感じる気候だよ」

( ^ω^)「余裕ですお、それとも心配してくれるのかお?」

(´・ω・`)「うんとでも返答すると思ったかい、馬鹿言わないでくれ、社交辞令さ。
  なにせ競輪学校試験まではあと三週間だからね、追い込める期間はもう限られている」

( ^ω^)「微々たる期待は抱いたけれど、もし所歩に肯定されたなら逆に気持ち悪かったおw
  でも受験仲間同士だし、本心では切磋琢磨する相手がいなくなるのを寂しいと思っているんだお?」

内藤もいよいよ所歩の扱いに慣れており、所歩の皮肉を促しながら、相手へと言い返すことも多かった。
当の所歩はそれを歯牙にもかけるでなく、あっさりとした態度のままだが。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:48:44.43 ID:esbGZZilO
wktk

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:49:23.48 ID:N1BgOvHG0
ktkr!待ってたぞ。
激しくwktk

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:49:28.26 ID:dyHUaFWu0
(´・ω・`)「おやおや、受験仲間ね……君は僕が実技試験免除になっていることを知らないのかい?」

(;^ω^)「めん……じょ?」

内藤の表情は一瞬で凍りついた。
一緒に練習を重ね、当面は競輪学校試験へ向かって二人して励み合っていたと思っていたのだが、それはとんでもない誤解だったらしい。
そうだ、世界大会も経験している所歩であれば競輪学校の試験免除に関する事項に触れていても何らおかしくない。

( ´ω`)「出足が挫かれた思いだお……。
  何で黙っているんだおそんな重大なこと……テンション下がるお」

(´・ω・`)「特に聞かれもしないことをホイホイと言いふらす必要はないだろう?
  何よりも試験なんて結局のところは本人次第さ、僕がいようといまいと、落ちる時は落ちる」

( ´ω`)「鬱になりそうだお、わざわざ否定的な言葉を選ばないで欲しいお……」

練習を共にしたことで芽生えた仲間意識はとても肥大しており、それだけに一緒に試験を受けないという事実は非常に残念だった。
しかし所歩の言うことが心理なのだろう、二人で藹々とするわけでなし、いっそ一人だけの勝負と割り切った方が自分を戒められるに違いない。

内藤は日に日に進化していく自分を感じられた、ちょうど今こそが体が出来上がり、成果が表れ出す時期なのだろう。
走れば走るだけ体力がついていき、まるで骨格までが変化していく錯覚があったほどだ。
実際、成長期の子供のような関節を針で刺したような脚の痛みがあったが、それこそが成長の証なのだと、筋肉痛のような進化の証明だと喜んで受け入れることができた。

おおよそ一時間ほど海岸沿いを走らせて戻ると、津出は後かたづけを済ませ、飲み物を二人に手渡した。
内藤はゆっくりとストレッチをしながら、時間を持て余している津出へ呼びかける。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:52:57.62 ID:0ukF8NMjO
待ってた支援

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:53:10.92 ID:dyHUaFWu0
ξ゚听)ξ「なに?」

( ^ω^)「待ってもらっているところ申し訳ない、今日だけど勉強会なしでもいいかお?」

ξ゚听)ξ「別に、私は構わないけど」

( ^ω^)「助かるお、せっかく待ってもらっていたのにすまないお」

(´・ω・`)「さて、僕も早々に帰るとしようか……今晩は26時からアニメ三本立てだからその前に軽く寝ておきたいしね。
  おっと、そういえばDVD-Rを買って帰らないと」

ξ;゚听)ξ(深夜アニメ!? ってか私の前くらいちょっとは躊躇して話したらどうなのコイツ!?
  何か女性として致命的な扱いを受けているようで屈辱的なんですけれど!)

余計なやり取りがあったがさておいて。
季節の変わり目ゆえか、空は藍一色だったが、澄んだ空気と僅かな明るさが保たれていた。
内藤は競輪場から出るとオートバイクにまたがり、毒男と落ち合うレストランへと走らせた。

昨晩に毒男から長岡の調査結果がきたと連絡があり、すぐにも出会う約束を取り付けた。
その時は夜も遅く、しっかりと睡眠と疲労抜きすることを考慮して、次の日の夕方にレストランで会う事としたのだ。

練習中、内藤の頭は常にこの事ばかりが舞っていて、急いる気持ちは意外にも練習効率を上げていた。
予定通り夕方に練習が終わり、これからいよいよ長岡のベールが剥げるのだと、バイクのアクセルを強く踏みながら興奮を覚えた。

( ^ω^)(しかし、長岡選手の過去かお……きっと相当な苦労を負っているのだろうけど、それでも努力が報われないなんて簡単に言う奴は信用できないお。
  そもそも努力なくして競輪のトップクラスに立てるのなら、誰も苦労しないお)

風を切って進むと、目的のレストランにはすぐにも到着した。
外に立て掛けられているロードバイクを見る限り、ドクオはもう中にいるようだ。
隣合わせにどっしりとオートバイクを立て掛けると、駆け足で中へと向かう。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:55:23.25 ID:N1BgOvHG0
所歩はアニオタなのかwwwwww
また意外なwwwwww

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:55:26.05 ID:dyHUaFWu0
  「いらっしゃいませー」

中に入って周囲を一瞥すると、こちらへ向かって手招きする毒男がいた。
ウェイトレスの案内を差し止めると、すぐにも毒男の正面席へと歩いた。

座るとすぐにパスタとフリードリンクを注文し、ふぅと一息ついてようやく、改めて毒男に向きあった。

( ^ω^)「待たせたお」

('A`)「言うのがおせーよw
  別にいいけどさ……それでな、長岡選手の資料はこれになるんだが」

毒男が取り出した封筒の分厚さに、内藤もギョッと目を見張った。
正常な感覚でいえば、やはりこれは多いらしい。

内藤は無言で封筒を手にすると、中からデータの束を抜き出して、想像通りの量に再びため息をついた。

('A`)「それでよ、内藤。資料見ながらでいいから聞いてくれ」

( ^ω^)「なんだお?」

('A`)「何で長岡さんなんて調べるんだ?」

( ^ω^)「……」

内藤は押し黙って口をとがらせて見せたが、毒男はそれで満足しなかったらしく、無言で返答を待っていた。
情報を渡してもらった手前分が悪い、内藤は渋々といった様子で、仏頂面のままで口を開いた。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:57:21.20 ID:dyHUaFWu0
( ^ω^)「その長岡選手が、ツン……じゃない、津出師匠の知り合いだったんだお」

('A`)「津出……あー、そうかそうか、そういや一回目に調べたのも津出って選手だったよな、今頃思い出したわ。
  バイク屋の看板娘だった子だよな確か、今更だけどようやく繋がったわ。
  つーことは何だ、長岡さんは店の常連かなんかだったのか?」

( ^ω^)「津出師匠は、布佐選手の下についてずっと学んでいたんだお。
  布佐選手と長岡選手が知り合いだった、ただそれだけの遠縁みたいなもんだお」

まさか敬愛している競輪界の重鎮と内藤が早くも知りあっていたとは思わず、毒男は少なからず羨んだ。
しかし内藤のむすっとした表情から、彼が長岡に対し好印象を持っていないのが良く分かる。

長岡の話に目を輝かせる毒男に対し、内藤は軽蔑を感じさせるほどあからさまな嫌悪の目をよこした。

('A`)「……なんだよ」

( ^ω^)「僕は毒男がどうしてそうも長岡選手のことを尊敬できるのか、さっぱり理解に苦しむお。
  毒男は本人と話したことがないからこそ、そうやって羨望できるんだろうと思うお」

つっけんどんな内藤の反応に、ドクオこそムッとして厳しい目を向け返した。
自分のことならいざ知らず、尊敬すべき人間をそう否定されればとても良い気持ちなどしまい。

(#'A`)「だったらお前は何を知っているっていうんだよ」

( ^ω^)「長岡選手に、競輪は努力が最も無駄になる競技だから努力なんて止めろと言われたお」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:58:04.48 ID:vKeacZI5O
しえん

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 22:59:39.43 ID:dyHUaFWu0
この言葉には流石のドクオも驚き、閉口した。
競輪界の頂点に君臨した事のある人間が、どうしてそんなことを言えるのだろうか、さっぱり理解できなかった。
初心者を戒めるにしても、やり方があまりにあざと過ぎる。

いやそれよりも、そうであるならこの長岡の戦歴に合点などいくまい。
冷や冷やした面持ちで静寂に身を投じた毒男だったが、内藤はペラペラと資料のページを捲るうちに、やはり表情を厳しく変えていった。
そしてその手が競輪日本一を決めるKEIRINグランプリの結果に差し掛かった時、とうとうその重い口を開いた。

(#^ω^)「なんだおこれは……馬鹿にしてんのかお……」

内藤の怒りももっともだった。
そのKEIRINグランプリこそ、一番人気である布佐を筆頭に二番人気と四番人気が軒並み落車して、五番人気だった長岡は勝利をもぎ取っていたのだから。


( ゚∀゚)『分かっただろう、どれだけ努力しても転んだら終わるのが競輪なんだよ』


長岡の言葉を聞いたとき、内藤は怒りの反面、何の経験もない者が口にできる言葉ではないとどこかで感じていた。
悔しさを噛み殺しながらも、競輪の辛さを断片的にも感じ始めた内藤はどこかで長岡を信じていたのだろう。
きっと過去に落車などして悔しい経験をしたのだろうと、勝手に思い込んでいた。

ところがどうだ、長岡とくれば試合での落車は皆無、どころか他人の落車に助けられて競輪の階段を上っていき、果ては日本一の座に輝いているのだ。
落車は競輪学校で経験して以来一度もないとコメントした切り抜きまで用意されていた。

(#^ω^)「ふざけんなお!」

思わず資料を机に叩きつけていた。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:02:25.63 ID:N1BgOvHG0
支援

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:02:36.14 ID:dyHUaFWu0
なんだ、己よりも実力があって努力した者が落車で脱落していき、最終的に自分が勝つからこそ努力が無駄になるとでもいう気か、ふざけるな。
他の誰に言われようとも、この男は、長岡こそはその言葉を言ってはならぬのだと、内藤は息を荒くした。

('A`)「落ちつけよ内藤」

(#^ω^)「これが落ち着いていられるかお、長岡は実力はいまいちなくせに、落車で勝利しているんだお!
  落車した選手たちの悔しさや哀しさを一度も経験していないくせに、あんな言葉を吐きやがったんだお!
  どれだけ努力しても転んだら終わるのが競輪だなんて笑わせるお、だったらテメーは何の努力もないんじゃないかお!」

内藤が叫ぶものだから、毒男は逆に押し黙って彼を睨みつけた。
怒りにまかせすべてをぶちまけると、無言の毒男を見て内藤は口を一文字にし、目を悔しさでしかめながらも押し黙った。

( ^ω^)「すまないお、どなったってどうなるものでもないだろうのに」

('A`)「いや、それはもっともだとも思うがな、俺はこうも思うんだ。
  今の内藤みたいに言われて、努力が認められない長岡選手も気の毒だなって」

(;^ω^)「!」

そう気付かされた瞬間、内藤は今までの自分がいかに無能な発言であったかと強烈に恥じた。
長岡と同じように相手を考えない残酷な言葉を放っていた自分に気付き、何ともいえぬ敗北感が押し寄せた。

(;^ω^)「……それでも、僕は長岡選手に対し納得していないお」

('A`)「だろうな、俺もこれとそれとは別の話だと思うわ。
  少なくとも俺だって長岡選手に幻滅もしたしさ」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:04:08.60 ID:OZ9vNmmI0
三十話までだっけか
支援

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:06:46.76 ID:dyHUaFWu0
そんな毒男の言葉を聞いてまた、内藤は陰口をたたいているかのような気分に良心が呵責された。
どうして長岡のためにこんなに辛く苦しい思いをせねばならぬのかと、混沌とした渦巻く意識に心がねじ切られそうだった。

この悲哀はどこから押し寄せるのだろうか、この敗北感は何から引き起こされるのだろうか。

('A`)「あのな、実は長岡選手、最近ほとんど試合でていなくってさ……このままだと今年も降格だろうな。
  いや、たぶん近いうちに引退すると思う」

(;^ω^)「……!」

絶対に負けたくないと思った相手、にべもない酷い言葉を漏らすものだと軽蔑した相手。
だというのに、引退という言葉を耳にした瞬間に心を駆け抜けた一抹の虚脱感。
まがりなりにも競い合った相手だ、まだまだ元気だと思っていたのに、いや、間違いなく走れていたはずだ。

(;^ω^)「それでも、僕だって……納得できないお……」

整理のつかぬ心をもどかしく思いながら辛うじて口から漏らした内藤の言葉に、毒男も「そうだな」とだけ返した。

その言葉がまた、内藤の心を強く深く抉った。




21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:08:41.99 ID:N1BgOvHG0
これから残り6話でいったいどうやって終わるのか気になるな。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:08:50.46 ID:dyHUaFWu0
次の日の練習において、毒男はずっと身の入らない情けない走りをしていた。
師匠である高良に何度怒鳴られたかは知れない、最後には呆れられ、注意すらされなかった。
それがまた毒男を激しく気落ちさせた。

(;'A`)「くっそ、全然気合が入らねぇ……くそ……」

気合いの入らない自分の体を如何に鼓舞しようとも、頭の片隅に置かれた鮮烈なる阻喪がすべての力を吸い尽くしてしまった。
長岡に憧れて競輪の世界に足を踏み入れたのに、あの人のようになりたいと夢見たというのに。
頑張ろうとするたび昨日内藤に言われた長岡の幻滅像が頭を舞い、踏ん張るという行為が無価値に感じてしまってもがき切れないのだ。

偶像崇拝は砕け散ってしまったのだ。
神を失ったキリスト教徒がいたとして、一体何を糧にして精進しろというのか。


練習がすべて終わった後も、毒男の体はピンピンとしていた。
にも拘らず顔は悲愴とともに疲れ果てており、どこかやつれた感を漂わせる始末だ。

そんなドクオを不憫に思ってか、師匠である高良が肩を叩いた。

( ^Д^)「おう毒男、今日はまた随分とお疲れだったな」

(;'A`)「師匠……いえ、本当今日はすみません、明日こそは頑張ります、本当すみません。
  怒鳴られるかと思っていたのですが、お気遣いありがとうございます」

( ^Д^)「練習中だけで怒鳴られるのは満足だろう、怒鳴って治るんだったらいくらでも怒鳴ってやるがなw
  これからは師弟関係の介入しない、気心知れた仲同士だろ?
  ちょっと飯に付き合えよ」

('A`)「……はい」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:10:57.97 ID:dyHUaFWu0
これだけ気の滅入っている日であれば、すぐにも断るところであろうが、やはりどこかで他人に話したかったのだろうか。
少なくとも母子家庭の毒男にとって、高良は競輪に関しては師匠であり、普段は父親のような尊敬と敬服の混在した相手だった。

むしろ家族という余計なしがらみを持たぬ分、実の父親よりも親友に近い位置に立っており、なんでも話しできたし、変なプライドを抱くこともなかった。

二人して向かった先は、高良行きつけの飲み屋だった。
だだっ広い割に客は少なく、解放感がいいとお勧めしているが料理はとても褒められたものではなく、客が少ない理由は一度行けば知れた。
それでも飲み物に関しては良し悪しもなく料金も手軽だ、今日の毒男のように気の落ち込んでいる時には趣があって良い場所かもしれない。

二人してカウンターに座りこみ、飲み物だけを手早く頼んだ。

( ^Д^)「……んで、一体お前は何が引っ掛かってんだ?」

('A`)「……」

内藤と話している時とはうって変わり、毒男は無言で俯き手でコップを回した。
不満があるのに打ち明けられない子供のような、頼りないくせに強情ばかりが氾濫している姿だった。

('A`)「高良さんは、俺が競輪したいって言った理由、知らないですよね」

そうして毒男は、本題と外れた場所から会話を切り出した。
無言に我慢できずそのくせ真意とは関係のない話をしようとする、まるで言い逃れようとする子供そのものだった。

( ^Д^)「親さんを助けたいんだろ、違ったか?」

('A`)「はい、違います」

( ^Д^)「……そうか、それは残念だな」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:13:58.07 ID:dyHUaFWu0
今まで騙していたのだと暴露したが、高良は何一つと嫌な顔をせず、毒男の辛さを汲み取ろうとしてくれた。
そして次に何を言うのかと急かさず待ってくれる師匠の動作に感化され、毒男は大きく伸びをすると意地をすべて投げ出した。

('A`)「知っていると思うんですが、俺、中学までは野球やっていたんですよ、野球。
  体小さくて、筋肉もなかったしセンスも皆無だったけれど、俺なりにかなり頑張ったと思っています。
  プロ野球選手だなんてバカみたいな夢を持って、名門の高校へ進学したんですよ、この結果は言わずと知れているでしょうね」

( ^Д^)「やっぱり名門はすごかった、ってか」

('A`)「ええ、ただそれでも俺は頑張っていましたよ、だって野球が好きでしたから。
  そうしたら何が起きたのか、俺、一年生にして補欠に選ばれたんですよ。
  代打要員でしたが、俺の他一年生で選ばれたのは当時名を轟かせていた期待の新人一人だけでしたからね、嬉しくて天にも昇る気分でしたよ」

毒男は当時の嬉しさを思い出したか、顔に僅かな笑みを浮かべた。
それでもどこか儚げなのは、その話がハッピーエンドに収束しないことを暗示していた。

( ^Д^)「なんだよ、お前そんなにすごかったのか?」

('A`)「選球眼みたいなものでしょうか、力はなかったですがバッドの真心でボールをミートできる点だけは、人よりも優れていたんですよ。
  俺自身それを知っていたもんで、そればっかり鍛えてはアピールしていたら監督の目にとまったんですよね。
  ……まぁそんな俺が、どんな目で見られたかは想像に難くないでしょうね」

名門ともなれば、小学校や物心ついた時からバットやボールに触れてきた野球少年が数多と集まっている。
そんな中、中学から始めたばかりの毒男が、しかも新入生にして補欠という夢のある枠を一つ奪ったのだ。

正選手になるには生半可ではない努力に加えセンスがいる、それゆえに補欠枠ばかり狙っている選手は意外にも多い。
少なからず正選手へ向かう道程において登竜門であるのは事実だ、オーダーに加われない者にすれば毒男は目の上のタンコブだろう。
特に選球眼という非常に曖昧な要素により、非力のドクオが選出されていては良い目で見られるわけがない。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:16:47.41 ID:N1BgOvHG0
支援

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:17:32.97 ID:dyHUaFWu0
グローブを隠されたり、溝に捨てられたり、雑務を言われてはミスをなじられるのは当然の光景だった。
同年代もそんな先輩の行為に追随したし、同じ補欠の新人選手には偶然で抜擢男と同一視されたくないという軽蔑の眼を向けられて無視された。
集団競技というものはどうしてだろうか、個人技よりもそういった派閥が大きい、そんな派閥により統率感を感じようとするのだ。

('A`)「バットを振るのだけは一流だなんて言われて、守備練習は千本ノックだってホームランボールを何度も拾わされに行きました。
  泣きたいと思ったことは幾度もあったし、家に帰ってからは何度と泣きました、野球なんて嫌いだと思いながら練習に行っていました。
  それでも俺、負けないように、親の前でだけは気丈に振る舞って頑張っていたんですよ」

偶然だと周りが言う中、構わずに誰にも認められない素振り練習を毎日行っていた。

そしてとうとう野球に見切りをつける事件が起きたのだ。
毒男が高校一年生にして早々にベンチを盤石にした夏、なんと高校が甲子園の県予選で決勝に勝ち残ったのだ。

決勝戦、0−1で一点を追う最終回、ツーアウトにして毒男は出番を言い渡された。

予選で初の舞台、そして最後になりかねない打席が彼に回ってきたのだ。
打てなければその瞬間負けが確定する、そう思った瞬間に酸欠にでもなったかのように頭が重くなり、体温が上昇するのを感じた。
目は焦点を合わせられず、飛んでくるボールを見ることがままならなかった。

('A`)「俺、本当に怖くて、バットを一度も振れなかったんですよ……。
  本当に振ってもいいのかと自問自答しているうちにボールはミットに収まっていって、一度もバットを振らずに見逃し三振、試合終了です」

その後どうなったか、みなまで言わずとも分かろう。
代打で活躍していた彼のことなど忘れ、それどころか肝心な時はカカシかと揶揄される始末だ。
そして彼らは鉄槌だと、一人一発、順々に毒男を蹴った。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:19:10.45 ID:F5FaLGJZO
お、ついに更新か。よかたよかた

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:20:32.17 ID:N1BgOvHG0
監督もエグイことするなあ…

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:22:49.03 ID:dyHUaFWu0
全員が帰った後、毒男は一人でとぼとぼと球場を後にした。
そしてバットを一度振って、肩から肘にかけて疼く激烈な痛みを確認した。

('A`)「俺、身体的にも精神的にももう野球は駄目だなって、その時になってようやく思いました。
  本当に馬鹿ですよね、そんな時まで気付かないなんて……」

帰りのバスはすでに発進してしまっているだろう、後の祭りだと分かっていながら周囲を覗ったが、やはりそれらしい影は一つとしてなかった。
しかしそこで毒男は異常な数の車に気付いたのだ。

野球が終わったにもかかわらず、どうしてこれほど多くの車が駐車しているのだろうか。
そこで毒男は球場隣の競輪場に気付いたのだ。
それこそが毒男が初めて内藤を連れて行った競輪場に当たる。

野球のユニフォームだから高校生が一目瞭然のため中には入れないが、毒男は投げやりな思いで、浮浪者のような汚らしい集団に紛れ込んだ。
そして場外の大画面モニターに目をやった。


それが毒男と競輪の出会いだった。


鐘が鳴った最後の周回、一人が前に出ようとする、一人がそれを止めに入る、その隙に入ろうとする一人を、さらに別の人間が止める、
すると別の一人が大外から駆けてくる、そう思うと別の人が内からも猛烈なスピードで駆けてくる。

筆舌に尽くし難いほど瞬間に無数に変わる状況、それに応じて変わる隊列に個人の動き。
毒男はそのすべてを把握しながらも、考えの追いつかないほど目まぐるしく変わる配置と攻めに、とりつかれたように画面を睨んでいた。
たった一人の人物が、他の選手の間を物怖じすることなくスルリとかわして前に出るではないか。

針を縫うような細い活路、すべての選手が動くたびに一斉に動きは変わり、その動きが波及して編隊を変えると塞がってしまうような微々たるものだ。
その時の毒男は知らなかったが、ライン(隊列)という要素のために敵味方が別れており、それが戦況をより高度な空間として作り上げていた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:26:18.84 ID:dyHUaFWu0
('A`)「あの時の興奮だけは忘れられません、人とぶつかりながらもよろめくこともなく、あんな安定しないもので思いっきり走る、とても人間の芸とは思えませんでした。
  あれなら針の上に座る人間の方がよっぽどあり得る話だと、平然と見流したことでしょう。
  ボロボロだった俺はそれに興奮し、感動し、勇気を貰ったんです」

結果からいえば、その時に毒男が追っていた選手こそが長岡だったのだ。
その選手が実力はまずまずだが、人並み外れた状況把握能力と乗車技術を兼ね揃えていると知り、毒男は目に見えない要素という点で似ていると思った。
以来、ずっと長岡を目標として毒男は頑張っているのだ。

なにもそれが競輪である必要はなかった。
ただ、夢も情熱も失った人間が目の前に出された勇気ある行動に心を打たれたにすぎない、それでも理由としては十分だった。

お金だとか母親を助けたいだとか、常々それらを理由として口にしていたが、実際そんなものは二の次だった。
結果的にそれらがあったことで心がより強固になったというだけだ、本当の理由など子供が大工や警官になりたいと言うような深い考えのない単純なものだった。


すべてを吐き切った毒男に対し、高良は同情染みた表情を見せることなく、優しく声をかけた。

( ^Д^)「黙っていられたのは残念だが、お前らしい理由で安心したよ。
  やっぱりお前はお金だとか、そんな現金なもので動いて欲しくないんだよな」

('A`)「でも俺、こんな事よりもよっぽどお金の方が理由になると思って。
  長岡選手を目指しているだなんて、言ったら師匠怒るんじゃないかって……」

( ^Д^)「本当心配症な奴だな、気にすんなよ、A級止まりの俺よりも長岡を目標と見て貰っている方がよっぽど良いと思うしな、事実。
  あいつは良いヤツだ、競輪学校を共にした俺が言うんだ、間違いない」

('A`)「……でも、……」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:28:35.45 ID:0ukF8NMjO
やべ、読むのに没頭してて支援してねえw

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:28:38.53 ID:dyHUaFWu0
毒男はつい言葉を漏らしてしまった。
長岡が良い奴だという言葉、毒男も今まではそう信じて目途としていたが、昨日の内藤の言葉がずっと引っ掛かり続けていた。

('A`)「師匠って、長岡選手と同期でしたか?」

( ^Д^)「いや、一期違いだから、競輪学校で一緒だったのは半年だけだよ」

('A`)「あの人はどんな人なんですか?」

( ^Д^)「どんなって……口は悪いが、情に熱くて熱心で、頭の良く回るヤツだったよ」

('A`)「正直なところ、俺はあの人に幻滅しました、それでなんだか分かんなくなってしまって……」

そして毒男は昨日内藤から聞いたことをすべて、包み隠さずに話した。
努力は無駄だ、怪我をしたら終わりだなんて内藤を挑発したこと、そして当の本人は落車に助けられ試合を勝っていること。
真面目に練習している人たちを貶しては、運によって引き寄せた自分の勝利を信じて疑わない、あまりに勝手な言動。

('A`)「最悪ですね、はっきり言って。
  運で自分が勝っているからこそ言えるだけじゃないですか。
  努力は認めますが、それでも他人を蹴落としてそんな事を言えるだなんて信じられません」

( ^Д^)「んーそうか、なるほどな、そういう風に見えるのか……。
  言われるとそうだな、うん、確かにそうだ」

高良は合点いったようにうんうんと頷いてみせた。
そして毒男に声をかける。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:31:31.92 ID:dyHUaFWu0
( ^Д^)「別にいいじゃないか、長岡に幻滅したなら俺についてこいよ。
  それみろ、万事解決だ、一体お前は何に悩んでいたんだよ」

('A`)「……何ですか、それ」

あまりに投げやりな言葉に、毒男はつい失笑してしまった。
そんな簡単に片付けられては困るというのに、そう言われてしまってはまったくそこまでではないか。


注文したドリンクを飲み終わると、毒男は高良の家に呼ばれて一緒に夕食を食べた。
そして夜も深まり帰ろうかという時に、一本のビデオテープを渡された。

それこそが、長岡が日本一に輝いたKEIRINグランプリが録画されているものだった。




34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:32:50.69 ID:N1BgOvHG0
支援

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:35:46.60 ID:dyHUaFWu0
とりあえずこれにて第二十五レースは終わりです、支援ありがとうございました。
投下感覚長くなってしまい申し訳なかったです。
本日は一話だけで投下を終わります。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:36:45.02 ID:vuxLsEdZ0
おつ 次回はいつ頃?

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:36:52.72 ID:q+cgM/P40
乙!
次も楽しみに待ってるぜ

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:37:34.14 ID:dyHUaFWu0
大きな伏線はないものの、小さな伏線の回収がこれほど大変だったとは……

>>21
三十話という長さをちょっと過信しすぎていました……
多分これからの一話は今までの二話分に相当するかもしれませんが、そのあたりはどうぞご愛嬌で。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:37:38.70 ID:N1BgOvHG0
乙!!

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:38:28.51 ID:0ukF8NMjO
乙、自分の現行投下するの取り止めて読むぐらい期待wktkしてる。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:39:46.08 ID:dyHUaFWu0
>>36
次回は、いつとはいえませんが終わりが近いのであまり感覚開かないようにしたいです。
自分を追い込む意味でも、遅くとも今月中には投下すると宣言いたします。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:43:19.28 ID:HUvlS/POO
乙!次の投下もwktkしながら待ってます。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:44:11.14 ID:F5FaLGJZO
乙でした。
区切りが悪くなるようであれば、30話→35話くらいに変更してみては?

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:48:41.72 ID:OZ9vNmmI0
乙でした!

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:49:47.64 ID:dyHUaFWu0
>>43
諸事情により話数が動かせないので、詰め込むか一話の量を増やすかという葛藤です。
なるようにしかならないと割り切って、とりあえず書き進めていきます。


改めましてありがとうございました。
……次は半ながら投下の無いように努めます。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/12(水) 23:50:06.88 ID:g2I2ATz3O



47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/13(木) 00:01:23.64 ID:dGTyYr9fO
読むほ

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/13(木) 00:12:05.76 ID:F0B3AXvwO
これで半ながら……?

49 名前:ブラック・サバス:2008/11/13(木) 00:31:19.85 ID:yELzam8OO
読むほ

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/13(木) 00:46:34.65 ID:yELzam8OO
95点

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/13(木) 00:53:52.82 ID:6zd1FfDp0
otu

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/11/13(木) 01:01:55.24 ID:VnVBn7dHO
乙!
それはそうと>>40は何書いてるかしらんが、早く書いちまえw


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