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( ^ω^)が競輪に挑戦するようです

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:03:09.10 ID:FSk9LSOY0
まとめサイト様
 http://boonsoldier.web.fc2.com/keirin.htm

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:06:11.27 ID:FSk9LSOY0
登場人物

( ^ω^) 内藤:陸上の400mで県で一位を取るほどの猛者。怪我により陸上を引退し、津出の弟子となって競輪選手を目指す。

('A`) 毒男:内藤の中学時代の友人で、現競輪選手。なりたてで、実力はまだまだ。
   高良:毒男の師匠

J( 'ー`)し 母親:内藤の母親、ギャンブルが嫌いで競輪を良く思っていない。目下、競輪を目指す内藤とは対立したまま。
(*ノωノ) 風羽:陸上部のマネージャーで内藤の元彼女。すれ違いにより別れる。
(,,゚Д゚) コーチ:大学陸上部のコーチで、レースの度に怒鳴りあげた。内藤と仲違いの上、意思疎通が計れずに終わる。

ミ,,゚Д゚彡 布佐:万夫不当の競輪選手だった。
ξ゚听)ξ 津出:内藤の師匠で、ロードバイクを乗りこなす女性。

(´・ω・`) 所歩:師匠の怪我で布佐の元に来るが、津出と決裂。群を抜いた実力の持ち主。

( ゚∀゚) 長岡:毒男の尊敬するS級1班の競輪選手。おどけた言葉が多い。
从 ゚∀从 高岡:長岡の弟子で、競輪選手で最高クラスのS級S班の選手。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:06:43.96 ID:4oL4n8txO
きたー

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:06:46.54 ID:26+VGR4VO
待ってたぜ

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:07:11.46 ID:N2ewlracO
イィィーヤァァアアアア!!
尊敬してる

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:08:34.85 ID:FSk9LSOY0
     第二十一レース「今日の戦友」


目標が競輪試験に定まったことで、内藤はいよいよ津出に専門的な練習を請うこととなった。
不運ともいえるのが、競輪試験までに残された時間か。
試験日は四月の第二週目、残る期間はおよそ五週間、またもやたった一か月程だった。

ξ゚听)ξ「とりあえず、初めの一週間はひたすらにフォーム徹底とバイクに馴染むことから始めるわよ。
  私も試験日まではバイトを控えるから、付きっきりで見てあげるわ、感謝なさいよ。
  毎日250km走らせるから、覚悟しておいて」

(;^ω^)「……にひゃくごじゅう?」

ξ゚听)ξ「ええ」

250km(東京から名古屋までの直線距離がそれに値する)、仮に時速30kmで走ったとしても、まるまる7時間以上かかるではないか。
そんな常識外れの距離を、津出はなにくわぬ表情とともに易々と言い渡した。


まずは外もまだ暗い朝4時半に集合し、そこから津出と一緒に100kmのライディングを開始する。
海岸沿いを走る平たんコース、信号も少なければ朝ということもあってか人も少ないが、風だけが激しく吹き荒び寝起きの体が縮こまる思いだ。
内藤は一日目にはヨーグルトと野菜ジュースを摂取して挑み、あわやエネルギー切れで病院送りとなることだった。

ξ゚听)ξ「気を付けてね、朝食前だからってなにも持っていないとエネルギー不足で倒れるから」

津出はしれっと言うと、ポシェットから簡単な固形食とゼリーを内藤に分け与えてくれた。
三月に入ったことで気候も暖かくなり、多分に発汗しては水分も沢山必要とした。

内藤はまだまだロングライドに慣れていない、乗り終えるとクタクタで、それからようやく朝食の時間を迎える。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:09:17.69 ID:8ku23vFo0
+   +
  ∧_∧  +
  (0゚・∀・) ワクワクテカテカ
  (0゚∪ ∪ +
  と__)__)   +

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:10:46.07 ID:FSk9LSOY0
食後は若干の自由時間が設けられ、昼前に改めて練習を開始する。
まずは30kmのスローライディングで軽く足を慣らすと、正午より競輪場でのトラック練習が始まる。
ここでようやくスピード練習が入るも、これがまた体を酷使する。

(;゚ω゚)「ふぉおおぉぉ……」

内藤は朝食が終わるとすぐに、疲労抜きのためと仮眠するのだが、それでも未明の疲労は抜けきらない。
内藤の大嫌いなもがき練習が何本と設けられ、疲労と酸欠の苦渋に涙を流しながら、もう嫌だと嘆いては酸素ボンベを口にあてがうのだった。
あまりに過度な苦しさに、比喩でなく死ぬのではないかと思った数は知れない、むしろ死んだ方が幾分も楽だろうなんて馬鹿な考えまでが頭を舞っていた。


昼のスピード練習が終わると、そこからまた100kmオーバーのライディングが待っている。
この時は、危険が伴うという理由で競輪場のブレーキのついた古いピストを借りて出かける。
津出が微調整をしてくれると、それだけで内藤の体にはよくなじみ、油を差せば古さなど感じず乗り心地は抜群だった。

競輪場をスタートして20km地点に津出の家がある。
そこまでは疲労抜きと足慣らしにゆっくりとピストをこいでいき、簡単な食事をご馳走になる。
それから更にバイクを走らせ、峠道へと入る。

(;゚ω゚)「ふごぉぉ、おおお……!」

標高何メートルにあるか知れないダムへのひたすらの登り道を、延々とこぎ続ける。

ギアの変えられないピストでは、坂道で勢いがなくなると途端にペダルが固まったかのように全く回転させられなくなる。
昼間の練習で酷使した足に力は入らず、途中で力が抜けては何度とピストをこかした。
初日には、山の中腹辺りで足がガクガクと笑い出し、自転車をこぐことさえままならず、最終的に内藤は歩いて登った。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:12:27.59 ID:FSk9LSOY0
ξ゚听)ξ「あんたまだ寝ぼけてんの?
  目をしっかりと覚まさなきゃ夢は見るだけで、一生現実にならないわよ」

津出のライディングは本当に綺麗だった、一緒に街道に出て走る事で、その凄まじさを実感した。
津出は内藤と違ってロードバイクに乗っているのでギアチェンジが可能だ、それにしても坂道に差し掛かろうとも平地同様にスイスイとバイクをこぐ様は、
まるで頂上から何かに引き上げられているかのようで、見ているだけで平衡感覚が狂いそうなほどだった。

筋肉質な方が登りは強いと思っていたが、そんな単純な話ではないようだ。
津出の体つきは、スラッと美しく絞れており、筋肉質とはまるで無縁だった。
マラソン選手と短距離選手を比べるようなものなのだろう、鍛えた筋肉の質が違うのだ。


そして帰りの坂道の降りもまた、体が凍えるほど恐ろしい体験だった。
足を逆回転させてピストのスピードを調整しつつ、一寸先が崖の九十九折りを下るのだ。

できる限りブレーキを使うなとは事前に忠告されていたが、そんなことできっこない。
一瞬でも気を抜けば崖から落ちて死ぬことだろう、ここでも内藤は涙目になりながら感覚無い足に力を込めて降った。

力の入らない足が、空回りのきかないピストにより勝手に高速回転させられる、回転リズムが崩れると途端に車体が浮き上がり、浮遊するかのような奇妙な感覚に幾度と肝を冷やした。
恐怖でハンドルがガタガタと揺れ、これが一週間続くと思っただけで怪我をして逃げたいと願ってしまうほどだった。

登りも降りも、初めは津出の注意を聞く余裕もないほどだったが、四日目には随所でフォームを意識できるほどにはなっていた。
しかし一週間経とうとも、とうとうダムへの登り道を歩かず最後まで登り切れなかったことだけが、内藤は心残りだった。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:13:40.25 ID:488/Ex2F0
競輪って続き待ってる作品では必ず上がるよな

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:14:19.94 ID:FSk9LSOY0
そしてすべての練習が終わると、津出のマッサージが90分ほど設けられる。

(;^ω^)「いた、ちょwww痛ッ……!!」

これもまた、非常に辛い所業となる。
痛いところに限って入念に揉みほぐされるのだ。
それでも次の日の疲労の残り具合を減らすためには省くことができない、歯をくいしばって毎日我慢した。


毎日寝ることが憂鬱だった。
目が覚めるとあっという間に朝になっており、また地獄のような一日が始まるのだと思うと夜眠ることが憚られた。

だというのに過度の疲労は憂鬱などお構いなしに睡眠を欲する。
当然、寝なくては次の日に体が持たないから寝るしかないのは内藤とて分かってはいるのだが。
毎晩毎晩、気が病んでは一人暗欝で、真暗い部屋にいた。

神経は糸のように細くなり、病み切っていたことだろう、ともすれば病院送りになったかもしれない。
しかし内藤は、その苦難を乗り越えた。




12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:16:26.00 ID:FSk9LSOY0
一週間が経過し、またひとつ、内藤は肉体改造を終えた。

( ^ω^)「人の太ももってこんなにも太くなるものなのかお……陸上やっていたから太いつもりでいたのに驚きだお」

ξ゚听)ξ「まぁ競輪を目指すに値するくらいにはなったんじゃないかしら?」

体は常に筋肉痛で、立っているだけでもピリピリと、血液が炭酸にでもなったかのようないじらしい痛みが付きまとった。
しかし何事も慣れか、今ではこの痛みがそれだけの努力を重ねたのだと、勲章のように誇らしく感じていた。

ξ゚听)ξ「さて、それじゃあそろそろ本格的な、1000mタイムトライアルの練習に入りましょうか」

津出の言葉から、内藤はいよいよ試験を意識せざるを得なくなり、体の震えを感じた。
季節はいよいよ三月の二週目、気温は然程低くはないも、風があってまだまだ寒気を感じる。

いつもと同じように、昼の合間を縫うように競技場へと移動する。
時間は12時から13時半までが、内藤と津出に用意された時間だ。
加えていつも、三十分ほど前に競輪場入りするようにしている。

時間になったらすぐに練習に取り掛かれるのはもちろんのこと、こうすることで少し余分に時間を貰えるのだ。

  「おお、もう来たのか、若いの!
  すぐ退くからな、ちょっと待ってろ」

( ^ω^)「はい、いつもいつもありがとうございますお」

この頃には内藤も愛好会の人たちと顔見知りとなっており、約束よりも多少長く時間を与えてもらったりは日常茶飯事だった。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:17:47.08 ID:FSk9LSOY0
しかし、ここで別の一人が、内藤へと声をかける。

  「おまえ、今日もここを使うのか?」

( ^ω^)「はいですお、いよいよ本格的な練習に入るんだお」

  「そうじゃねーって、だって今日は――」

その人の言葉が終わらない内に、内藤の後ろから大きな笑い声が聞こえた。
耳に入った瞬間、第六感が過敏に嫌な予感を察知しては、練習への熱意が僅かに綻びたのを感じた。
そうだ、この声の主は、あの男だ。

( ゚∀゚)「おー、なんだオマエ、随分と久しぶりだな」

从 ゚∀从「なんだ、この前負けたやつか」

( ^ω^)「……」

さっぱりとした気分が一気にどす黒い何かに閉ざされるのを感じた。
そうだ、どうして今日に限ってこの者たちと出会わなくてはならないのだ。

長岡の後ろには、この前一緒に試合を見ていた高岡を含め、十人ほどが並んでいた。

ξ゚听)ξ「長岡さん、お久しぶりです。
  それにお弟子さんまでこんなに……どうされたのですか?」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:19:18.00 ID:FSk9LSOY0
( ゚∀゚)「あー、どうしたもこうしたもねーよ、競技場借りに来たんだ。
  ちょうど俺らの地方の競輪場が大会で、でも競輪学校の試験も近いから、わざわざこっちまで来たんだよ。
  布佐から聞いてないか?」

ξ;゚听)ξ「いえ、聞いていませんが……それに、これからは私たちの時間です」

( ゚∀゚)「しらねーって、俺らは布佐に許可得てるんだ、お前らはどっか別の場所にでも行ってくれ」

そう言うと、構わずにどかどかと中へ入り込んでいく。
先まで話していた愛好会の人たちが内藤と津出に向かい、すまなさそうに頭を下げた。

ξ;゚听)ξ「駄目です、ちょっと待ってください!
  せめて私たちの練習が終わる、13時半まで待っていただけませんか?」

(#^ω^)「そうだお、お前らはここよりも近い競技場があるお、他の地域のやつがくんなお!」

ξ#゚听)ξ「ちょっと、内藤!」

(#^ω^)「……」

内藤の余所者扱いが気に障ったか、長岡の引き連れてきた人間のうち数名が目を尖らせた。
今にも掴みかかりそうな形相でにらみ合ったが、それを止めに入ったのは長岡だった。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:20:56.47 ID:FSk9LSOY0
(;゚∀゚)「こらこらオマエら、布佐に怒られるだけだ、殴り合いにだけはなってくれるなよ……。
 でだ、内藤だったか?」

(#^ω^)「なんだお?」

( ゚∀゚)「俺は言ったよな、競輪ほど努力が無駄になる競技は無いって。
  だからもう練習なんて止めて帰れ」

(#^ω^)「ふざけんなお!」

内藤が津出を振り切って長岡に掴みかかると、すぐにも長岡の後ろから数人が飛び出て来て内藤の襟や腕を掴みあげた。

(#^ω^)「離せお!」

  「おまえこそ師匠から手を放せよ、この屑が!」

(#^ω^)「くずはお前らだお、師匠はしょせん屑籠ってところかお」

  「その言葉そっくりそのまま返したらぁ!」

多人数に体を掴まれ、鋭い目にいくつも睨まれたが、それでも内藤は意地になって長岡を掴んだ手を離さなかった。
十人はいるだろう弟子の数に驚くも、同時にこんな師匠についているやつらに怯んでなるものかと闘志を燃やした。

そして叫びあげた。

(#^ω^)「だったら長岡、お前、僕と勝負するお!
  僕のこれまでの練習が本当に無駄だったかどうか、その眼で見て、その肌で体感するといいお!」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:22:36.61 ID:8ku23vFo0
勝負がすきだな…

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:23:10.53 ID:FSk9LSOY0
  「ふざけんなよガキが、お前なんて長岡さんが相手するか!」

(#^ω^)「くぉ……っ!」

更にいくつもの手に掴みかかられ、内藤は苦しさにとうとう長岡を掴んだ手を離した。
その折をチャンスと見たか、途端に多くの手にもみくちゃにされる。
今にも殴りかかられてボロ雑巾にされそうなほど、その場が切迫した。

( ゚∀゚)「お前ら、止めろって言ってんだろ、ホントいうこときかん奴らだな……。
  実際俺らがよそもんなのは事実だから、もめ事を起こすには分が悪いってもんだ。
  でだ内藤、俺が勝ったらここは譲ってもらえるのか?」

(;^ω^)「それは……」

内藤は自信満々に勝負を提案したが、そう言われてしまっては言葉に詰まる。
長岡は今なおS級1班で戦うエリート選手だと聞いた、そんな選手とまっとうに戦って勝てるわけがない。
歯を食いしばって言葉を出せずにいる内藤に、長岡は不敵に笑った。


( ・∀・)「こんなヤツなにも師匠が相手する必要無いですよ、俺がいきますよ、同じ競輪学校試験を受験する者として」

( ゚∀゚)「茂羅(もら)か、つっても相手にならんぞ……?」

( ・∀・)「でも、こいつがこの前、師匠と高岡さんが見に行った勝負で戦っていた奴ですよね?
  ちょっと気になっていたんですよ、同じ競輪学校試験を受ける者として。
  競輪をなめている初心者が、ね」

どいつもこいつも言葉に棘がある、長岡の弟子はみんなそうなのだろう。
常識もわきまえない、ゴロツキの集まりだ。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:25:11.61 ID:FSk9LSOY0
( ・∀・)「師匠と勝負したければ、俺に勝ってみなよ。
  師匠の弟子で今春試験受ける中では一番速いのは僕だ、不足はないだろう?」

(#^ω^)ξ゚听)ξ「……」

この勝負、負ければ自動的にこの競輪場を相手に譲ることとなるのだろう。
これから内藤の体を1000m向けに改造していこうとしていた津出には、このまま引こうと戦いに負けようと、いずれにしても競技場が使えなくなるのは致命的だった。

競輪場を使えるようになるには、勝つしかない。
しかしどうやって。

長岡が連れてきたのは十人ほど、高岡を除いたあとは皆競輪学校を受験する者なのだろう。
これだけでも十に満たないほどの人数がいる、その中から最も速い選手と戦うなれば、所歩と戦う事と相違ないのだろう。
賭けをするには、あまりに勝機の見えない話だ。

ξ゚听)ξ「茂羅とか言ったかしら、どうしてアンタが出てくるのよ、関係ないでしょう?」

( ・∀・)「難易度が落ちたんだから喜ぶべきですよ、分かりませんか?
  といいますか、もしかして……あなたが、こいつの師匠ですか?」

あからさまに唇が震え、笑いを我慢しているのが見て取れた。
津出は叫びあげたいほどの怒りの衝動に駆られるも、御世話になっている布佐の親友である長岡、その弟子ともなるととても無碍には扱えない。
渋々相手の挑発にかからないよう、普通の返答をしてみせる。

ξ゚听)ξ「そうよ、私が内藤の師匠の津出よ」

( ・∀・)「うはwww」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:26:46.25 ID:8ku23vFo0
支援

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:27:11.68 ID:FSk9LSOY0
唾を盛大にまき散らして大笑いを始めるものだから、危うく津出も叫びあげそうになった。
屈辱を受けながらもひたすらに我慢し、相手の笑いが落ち着くのを待った。
内藤が今にも飛びかかりそうだったので、そこは手を出して制止させる。

しかし相手は形振り構わず、笑いをとどめる事無く言葉を吐き出した。

( ・∀・)「なんだよ、なんで女が師匠なんだよマジわけわかんねぇwww
  つかそんなじゃ相手にならないわ、戦う必要無いなwww
  どうせ女の方も本を読んで勉強したくらいだろ、勤勉な事でww」

(#^ω^)「なんだとお前――


(´・ω・`)「まったく、黙って聞いていればある事無い事言って、随分と口の減らない奴だね。
  弱い奴ほどよく吠えるとは随分的を得た言葉かも知れないね」


(;^ω^)ξ;゚听)ξ「ってなんでこいつ普通に登場してきてんのー!?」


(´・ω・`)「津出を馬鹿にするのは一切構わない、もっとお洒落や化粧をしたらどうだとか、巻き髪が糞みたいだとか何とでも言ってくれて結構だ。
  ただそのフォームを貶すようなら、僕が黙ってはいないよ?」

ξ;゚听)ξ「ちょっと待って、別に私そこまで言われてないわよ!
  つーかなにコイツそんな風に私のこと見ていたの!?
  やっぱり普通にムカつくんですが!」

突然現れた所歩に内藤と津出も驚きを隠せない。
変態ストーカーの所歩、一体いつからどこにいたのだろうか、その疑問は野暮なのだろう。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:29:06.63 ID:FSk9LSOY0
( ゚∀゚)「所歩、お前もなんだ、津出に味方すんのか?」

( ・∀・)「……所歩?」

長岡が所歩に話しかけたが、その名前に茂羅が反応した。

(;・∀・)「所歩ってお前、高校総体の1000mで、第4位だった……!」

(´・ω・`)「それがどうかしたのかい?」

( ・∀・)「……ほう、どうやら事情が変わったようだ」

茂羅はその眼を強くして所歩に向かうと、その前に立った。
やはり所歩は大きい、身長はゆうに190センチはあるのだろう。
それでも茂羅は気押されることなく睨みを利かせている。

( ・∀・)「長岡さん、冗談のつもりでしたが、本当に勝負してもいいですかね?」

( ゚∀゚)「ああ、構わんが、勝てよ?」

( ・∀・)「もちろんです。
  俺が師匠の代理で出るんだ、そっちも代理でお前が出たって問題ないだろうさ。
  さあ、あの時の再戦といこうか?」

(´・ω・`)「あの時? それは勘違いだ、僕と君は初対面だろう?」

深く考えることもせずに首を傾げる所歩に、茂羅は叫びあげた。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:30:55.33 ID:FSk9LSOY0
(#・∀・)「忘れたとは言わせないぞ!
  高校総体1000m、お前が四位だった決勝レース、俺は五位だったんだ!
  優勝確実と言われたお前に、俺は100分の2秒差で負けたんだ、あの屈辱は忘れない!」

言われた途端に所歩は首を上下させ、なるほどと頷いて見せた。
ようやく思い出したか、そう思いながら好敵手を見つめる茂羅に、所歩はあろうことかこんな言葉を投げかけた。

(´・ω・`)「ああなるほど、だからか、それは記憶にないわけだよ。
  忘れるも何も、そもそも僕は自分よりも遅い奴を覚えてなどいないからね。
  覚えてすらいない相手を、どうやって忘れろというんだい」

一瞬その場が凍りついたかのような沈黙となった。
悪びれを微塵と感じさせない所歩の表情が、余計に相手の屈辱を煽ったことだろう。
傷口に塩を塗り込んだかのようだ、好敵手と思った相手に覚えられてもいなかった現実を、興味がなかったなどと公言されたのだから。

(#・∀・)「ふざけるな! あれは俺が高校一年でお前が高校三年だったから負けたんだ、あと二年あれば俺は負けてなかった!」

(´・ω・`)「分かったよ、御託は良い、それじゃあ二年越しの再戦といこうじゃないか。
  そもそもあの大会は体調を崩して挑んだから優勝できなくて、できる限り思い出したくないんだ、もう止めてくれ」

次には相手がずっと復讐してやると誓いを立てた件のレースについて、もう語るなという始末。
どれだけ相手を煽ればいいのか、どれだけ相手をなじれば気が済むのか。
そのわざとと感じられなくもない無表情がまた、憎らしい。

(´・ω・`)「走れば分かるさ、君が覚えるに値する選手かどうかは。そして君の師匠と僕の師匠、どちらが有能なのかはね」

(#・∀・)「お前……!」

あろうことか、この戦いで師匠の優劣まで付けると公言しだしたのだ。
どこまで自信に満ちているのだこの男は。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:33:08.48 ID:FSk9LSOY0
(´・ω・`)「それじゃ内藤、すまないけど僕が走らせてもらうよ、いいね?」

(;^ω^)「構わないお……」

昨日の敵はなんとやらか、所歩は内藤に味方してくれるようだ。
敵だったときはこの上なく厄介だったが、味方にしてもなかなかに厄介な男だ。
しかし、どこか心強い、変態だが心強い。

( ・∀・)「それじゃあレースといきたいが……いいのか? 俺はもうこの競輪場までピストで移動してきたから、いつでも走れるが」

(´・ω・`)「……ああ、それで、何秒欲しいんだい?」

(;・∀・)「は?」

(´・ω・`)「いや、もうここまでの走りで疲れています、普通に戦ったら負けて当然ですという言い訳じゃなかったのかい?
  事前に言い訳を作られるのは嫌いでね、だったらハンデを与えるのが僕のやり方なんだ」

茂羅は声を上げて笑った、精一杯笑って、この悔しさをあと一歩踏みとどめた。
怒りで震える両手足に肩、頬をバチンと大きく叩いて気持ちを落ち着けると、ぎこちない笑顔で所歩に向いた。

(#・∀・)「いい度胸だ、じゃあ始めようか、今すぐに、二年越しのリベンジ戦を……」

(´・ω・`)「震えているね、本当は怖いんだろう、僕の実力に津出の走りが加わったなら鬼に金棒だからね、震えない方がどうにかしているよ。
  恥をかくと分かっていても戦うのは見上げた勇気だが、僕としては七面倒くさい心の方が大きいね」

(#・∀・)「……」

相手はここで黙った。
内藤もそうだった、所歩とまっとうに話をしていても何一つと有益なことはなく、心に怒りばかりを溜めこむことにしかならない。
茂羅もそれを理解し、言われた分の怒りはすべて、勝負への集中力に向けた。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:34:20.48 ID:FSk9LSOY0
 
(´・ω・`)「それで津出、どうだろう、今さらかもしれないが、僕を正式に弟子と認めてもらえないだろうか?
  断られるなら僕はこの勝負、やはり止めることにするよ、赤の他人の僕には無益なものだ。
  このまま僕の助けを断って、むざむざ唯一弟子の敗北を指をくわえて見るならそれでもいい」

ξ゚听)ξ「言ってくれるじゃない……分かったわ、あんたを弟子にしてあげる事、考えてあげる」

(´・ω・`)「考える?」

ξ゚听)ξ「この勝負、あんたが勝ったなら弟子にしてあげるわ。
  その代わり負けでもしたなら、即刻ここから出て行ってちょうだい」

津出が強気に発言したが、所歩は口元を少し緩めてほぅと頷いただけだった。

(´・ω・`)「つまり弟子にしてくれるということだね、ありがたいことだ」

彼の頭の中では、自分が負けるという選択肢は無いらしい。
しかしこの男なら、やってしまいそうな気がする、負ける事など無いようにすら思えてしまう。
所歩の過度なまでの自信に触発されたかと、津出の口元も僅かに綻んだ。

ξ;゚ー゚)ξ「あんまり調子に乗って、足元をすくわれないようにね」

(´・ω・`)「心配無用さ、君の弟子になれる以外の勝負では、負ける気はないよ」

内藤との勝負はわざと負けたのだとここで言うと、所歩は笑みを止め、いつもの無表情へと戻っていた。
彼のこの顔こそが一番怖い、津出の表情がまた更に、僅かに緩んだ。




25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:35:39.14 ID:FSk9LSOY0
二十一話は終了です。
少し休んだのち、続いて二十二話を投下します、良ければお付き合いください。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:35:57.69 ID:8ku23vFo0
支援

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:37:08.39 ID:6ihHs+eK0
支援

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:39:03.59 ID:M+3eYKhbO
支援

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:41:40.09 ID:FSk9LSOY0
     第二十二レース「頂上の競争」


ξ゚听)ξ「内藤、分かっていると思うけど、たぶんここで見る戦いこそが、本当の、トップの戦いだと思う。
  トップと言っても、あくまで競輪学校へと向かう上で、と前置きしてになるけどね」

競輪学校のトップ、その響きは内藤の心を捉えるに十分余りあるものだった。
幾度とその壁の大きさに面食らった競輪学校、そしてそこへの入学が決まっていると言っても過言ではない、二人の戦い。

そして、何よりも内藤の心が捕らわれた理由は一つだ。

所歩の本気。

(;^ω^)「このレース、所歩は本気になるかお?」

ξ゚听)ξ「私に聞いても分からないわよ、ただ、本気なくして勝てる相手でもないでしょうね。
  もちろん本気で戦っても勝てるという保証はないわけだし」

(;^ω^)「そうだお……」

自分の唾を呑む音が、耳元で聞こえた。
自分が緊張してどうする、内藤は言い聞かせながら所歩を見、続いて長岡を見た。

( ゚∀゚)「……」

度々内藤の前に顔を出しては、やる気をそぐ一言を添えていく男。
なぜあそこまで弟子がいるのか理解に苦しむほどだ。
思い遣りもなければ、癖のあるふざけた一言を吐くばかり、とても他人をおもんぱかることができるようには思えない。

所歩には勝って貰わねばならない、そしてあの男に、自分の実力を見て貰わなくてはならない。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:43:06.28 ID:FSk9LSOY0
( ^ω^)「所歩、絶対勝てお!」

(´・ω・`)「やれやれ、君に言われるとは何とも悲しい気分だ」

(#^ω^)「どういう意味だお!」

やはり相変わらずだ、レース直前だというのに、マイペースな表情は集中しているそぶりが微塵と感じられない。
見ている者は不安に駆られたが、それでもこの男なら勝ってしまうのだろうという、常識外れた期待を抱いてしまうのが所歩だ。


結局所歩は本当にアップをすることもなく、簡単なストレッチと体操をしただけで発射台に構えた。
そして所歩と茂羅の二人がスタートに並ぶ。

(´・ω・`)「1000mのタイムトライアルでは完全な実力勝負で面白くないだろう。
  だから、同時スタートで勝負しようと思うが、どうだろう?」

( ・∀・)「ああ、それでいい」

実力勝負で面白くない、つまり圧勝で終わると言いたいのだ、どこまでも言葉に棘のある男だと、茂羅は舌打ちした。
そして気持ちを構え直し、大きく呼吸して気持ちを落ち着けると、ピストに構えた。

所歩も準備良しと合図して、ピストに体を預ける。

(´・ω・`)「……」

静寂、沈黙する一帯。
内藤が横眼で長岡を確認すると、いつものおどけた感じなど微塵と感じさせず、真面目な視線を構える二人に向けていた。


そしてスタートを告げるピストルが、乾いた音を鳴らす。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:44:27.25 ID:FSk9LSOY0
瞬間、まるで何かに引っ張られるかのように所歩は発射台からするりと抜け出しては、スピードを加速させていく。

あまりに美しすぎる一連の動作に、初めてそのスタートを外から見た内藤は呆然とした。
なるほど、これでは内藤と比べるべくもない、スタートであそこまで大差をつけられるわけだ。

茂羅も後ろから加速させていくが、それでも所歩には及ばない、早くも二人には大きな差がついた。


(;^ω^)「すごいお……」

口を挟む暇もない、「すごい」や「速い」といった月並みな表現をすることしかままならないほどだった。

二人のスピードは飛びぬけていた。
内藤と戦った時の所歩がいかに彼に合わせたものだったが、悔しいほどに感じられた。
傍から見ているだけでもそのスピードと臨場感は物凄く、二人が一流スポーツマンだと認めざるをえなかった。

初めの200mを通過する、所歩と相手の差は少し狭まっていた。
じわじわと二人の距離は近付いている。

(;^ω^)「追いつかれているお、大丈夫かお……」

ξ゚听)ξ「追いつかれるでしょうね」

津出が言うが早いか、二人の距離はとうとうほとんどなくなった。
しかし茂羅は所歩を抜かずに、ぴったりと後ろについている。

(;^ω^)「もしかして……」

ξ゚听)ξ「ええ、風除けにされているわ」

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:46:22.29 ID:FSk9LSOY0
(;^ω^)「そんな、それじゃスタートの上手い所歩の方が不利じゃないかお!?」

ξ゚听)ξ「そうね、あんたも分かったでしょうけど、風除けで得られるアドバンテージは半端ないわよ。
  所歩が確実に不利ね」

(;^ω^)「所歩……」

長く会話している余裕はない、そんなうちにもとうとう二人は最後の一周に差し掛かろうとしていた。

フォームの分かってきた内藤にも、二人の疲労の度合いが見てとれた。
一定のリズムでフォーム良く刻む相手に対し、所歩は若干肩が上下している。
表情は相変わらずだが、その真面目な面持ちが返って疲労と強くにじませているようにも思えた。


ラスト一周、初めのバンクで茂羅が僅かに速度を上げ、前に出るような素振りを見せた。
しかし所歩は動かない、フェイントだったか知らないが、茂羅は所歩を抜かず、
所歩の後輪に接触せんがほど車体を近付けてペースをキープする。

どこで仕掛けてくるのか。

所歩の体がまた一度、大きく上下した。


残りが200mを切ったあたりだろうか、一つ目のバンクを終えると同時に茂羅が所歩に並びかけた。
一瞬横になったかと思うと、更にスピードを上げて一気に抜き去る。

(;^ω^)「所歩……!!」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:47:34.92 ID:M+3eYKhbO
支援

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:48:34.29 ID:FSk9LSOY0
そのまま速度を変えぬ所歩を傍目に、茂羅はグングンとスピードをつけていく。
とうとうその差はピスト二台分近くにまで開いた。

そうだ、内藤との勝負でもそうだった、所歩はここで相手へのリードを許していた。
しかし今度は相手が悪い、すでに猛然と逃げ切る茂羅を捉えるのなど、無理無理としか思えなかった。
ピスト二台分、それは二度と縮まらないだろう、二人を隔てる亀裂のようにすら見えた。

今の相手よりも少し速いだけでは間に合わない、ここから逆転しようとなると、一体どれだけのスピードを出さないといけないのだ。

ξ;゚ー゚)ξ「まだよ……所歩が得意なのは、スタートだけじゃないわ」

津出が笑みをもらしながら口にしたと同時、所歩が若干前傾の姿勢をとった。

グッグッと、回転にすれば高々一回転か、もしくは一回転半だろうか、少なくとも内藤にはたったそれだけに感じるほど一瞬だった。
所歩は瞬間的に爆発的な加速をすると、今まで開いていた相手との距離が留まるだけでなく、一気に狭まっていった。

そしてバンクの中段に乗りあげて大回りをする。

(;^ω^)「あれって……」

ξ゚听)ξ「そう、バンクのカント(斜面)を利用しての、更にもう一段の加速よ」


所歩の顔が笑った、茂羅の顔が引きつった。

所歩の足の回転が、内藤の理解を超えた。
見ているだけで頭が混乱して足がもつれそうになるほどの回転数だ。

相手にリードを許していた所歩は、最後の最後で大外から完全に相手を追い抜いた。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:51:43.18 ID:FSk9LSOY0
そして所歩は、ゴール直前で、ちらりと後方を振り返った。


その余裕を茂羅は忘れないだろう、この上ない屈辱、完敗という事実を体に練り込められた。


無酸素運動だったのだろう、所歩はゴールをまたぐ直前で大きく息を吐き、ラインをまたぐ時にはリラックスしているかのようにまで見せた。
二人の差は僅かだった、茂羅は刹那遅れてラインをまたぐと、言いようのない嘔吐感に口を開けて唸り声をあげた。
その茂羅に向かって、所歩は息を弾ませながら軽く一言添える。

(´・ω・`)「大丈夫かい? そんなに無理して走っては、体に悪いよ」

この一言で分かった、所歩はまだ無理して走ったわけではないと言いたいのだ。
ひたすら限界まで自分を追い込んだ茂羅と違い、体に負担のかからない走りだったと公言したいのだ。

茂羅は悲愴な顔を貼り付け、「くそっ」と叫ぶと、そのまま重苦しい空気を引き連れ、ふさぎ込んでしまった。
苦難の表情で俯いたまま、ガタガタの体でピストをのろりのろりと動かし続けていた。


まだなお本気を見せずして勝つのか、誰もがそう思い、誰もがただ驚愕した。
観戦者の心も知らず、所歩は内藤たちの前でピストを止めると、こう口を開く。

(´・ω・`)「……ふぅ、やはりそうだ、仮に愛好会なんかでこうやって勝負をしても、何一つと有益なことなんてありはしない。
  仲良しこよし、和気藹々と気楽に練習したところで何一つと有益なことなんてありはしないのですよ、よっぽど一人の方が追い込めます。
  だから僕は愛好会に入らないですし、こうやって自分の師匠を選んでいるんですよ」

そして長岡の集団を愛好会と表現し、弟子で一番の有望株をそこここの愛好会参加者と同列に並べあげて見せた。
所歩の言葉はそれだけに留まらず、相手の毎日の必死の練習を気楽なものとまで揶揄したのだ、逆鱗に触れぬわけがない。
長岡の弟子は揃って「このやろう」と口にすれど、その実力を目の当たりにしたためか、内藤の時のように突っかかってきそうな雰囲気までは無かった。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:53:29.22 ID:FSk9LSOY0
所歩の言葉には、津出を師匠として認めているという意味も込められていた。
もともと津出を悪く言われた事が発端となりかった勝負だ、それでも津出はその所歩の言葉に素直に喜べず、一抹の悪寒さえ感じた。
所歩、この男は原石などではない、磨かずして光るダイヤモンドだ。

(´・ω・`)「まだまだ彼では僕の相手は荷が重かったようだよ。
  そうだね、どうせならヘルメットの色が違う人とやりたい、たとえば……そこの人とかね」

競輪場を使用するとき、ヘルメットをかぶるのは当然だが、競輪選手と志望者ではその色が違う。
ヘルメットの色が異なるとは、つまり現役選手のことを差し、所歩が直接指で示した先は、あろうことか高岡だった。

(´・ω・`)「勝敗が分からない方が、やはり楽しいだろう、レースとはそういうものだから」

さっきの勝負はするまでもなく、所歩が勝つと決まっていた、そして高岡となら勝敗が分からない。
茂羅を蔑み、高岡にも勝てる可能性が十分にあると、二重の皮肉を込めたのだ。
流石の高岡も、そうまで言われては黙っていられない。

从#゚∀从「てめぇ……ちょっと自信が過ぎてるんじゃねぇか?
  勝負を投げ出したようなお子様がな!」

勝負を投げ出したとは、前回の試合のことを指しているのだろう。
怒りを露わにしたのは高岡だけではない、長岡の弟子は総出で、強く所歩を非難してみせた。

(´・ω・`)「まぁ確かにオリンピック選手が競輪選手の卵に負けていては、笑えないでしょうね。
  戦わせたくないだろう気持ちもよくわかります」

从#゚∀从「勝てる気でいるなんて、相当夢見がちな年頃なんだな」

(´・ω・`)「ああ、よくよく考えると断るのは当然かもしれませんね、実際現役選手でも、競輪学校のタイムを上回れないことは多々あるそうですし」

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:54:56.40 ID:M+3eYKhbO
しかし主人公サイドに付くと何とも気持ちいいキャラだな(´・ω・`)

タルルートの原子力を思い出す

支援

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:55:01.27 ID:FSk9LSOY0
所歩の言うとおり、現役選手でも1000mが志望者たちに及ばぬことは多々ありうる。
それだけ志望者は「1000m」に向けた練習をし、現役選手は「競輪」に向けた練習をするのだ。
競輪学校の門の厳しさは、ここにも如実に表れているだろう。

もっともそれはそういうこともある、という一般的な話だ。
あろうことか、所歩はここで更に、高岡を一般論と一般選手に当てはめて見せたのだ。

津出と内藤は、さらに寒気を覚えた。
向こう見ずで怖いもの知らず、ここまで来るとその自信すら狂気の沙汰だ。

从#゚∀从「上等じゃねぇか、その長い鼻っぱし、真っぷたつに折り曲げてやりたくなったぜ……」

( ゚∀゚)「高岡、止めておけ」

从 ゚∀从「……長岡さんに言われれば、従うしかないじゃないですか。
  残念です、自分を中心に世界が回っていると勘違いしているお子様に、ちょっと大人の世界を教えてやりたかったんですがね」

(´・ω・`)「僕が子供なら、あなた方の競輪学校候補生たちは赤子にも満たないでしょうね。
  胎児でしょうか、自分で歩くことはおろか、しつけすらされていない状態だ」

ξ#゚听)ξ「ちょっと所歩、黙りなさい」

津出が言った途端に、所歩はその口をつぐんだ。
どうやらすでに師弟関係は成立しているようだ、所歩は津出に従うつもりらしいと分かり、その場は若干落ち着いた。
放っておいては何を言い出すか分からない、飼い主のいない野生のライオンを、公園に放し飼いには出来ないだろう。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:56:03.49 ID:1fsARYsHO
支援

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:57:02.85 ID:FSk9LSOY0
( ゚∀゚)「おーおー所歩、勝手にウチの有望株を潰してくれた挙句、随分と大口を叩くもんだな。
  これじゃぁこちとらも黙っちゃいれないぜ?」

(´・ω・`)「実力で敵わないなら当然、口で屁理屈をこねて反論するくらいしかないでしょうね、黙れないのは分かります」

( ゚∀゚)「おうおう言ってくれる、お前はじゃじゃ馬だよ、嬢ちゃんじゃ乗りこなせない。
  どうだ、俺の弟子にならないか?」

从;゚∀从「長岡さん!?」

( ゚∀゚)「ああ、ああ、黙ってろ。こいつは間違いなく俺のところ向きだ、そこここで丸く収まるタマじゃねーよ」

(;^ω^)ξ;゚听)ξ「……」

突然の提案に、内藤も津出もあんぐりと口を開けて呆然となった。
所歩が欲しいなど正気だろうか、この減らず口ばかり叩く、特上の変態を。
次に長岡は所歩の崇高なる変態性を知らないと思い返し、少し合点がいった。

なによりも、所歩の答えは聞くまでもないだろう。

(´・ω・`)「お誘いは嬉しいですが、自分は丸く収まるつもりは微塵とありませんので。
  僕は今以上に進化していきます、あなたたちのところで丸く収まって落ち着くなんて、まっぴらごめんですね」

( ゚∀゚)「ああ、そうかい、それは残念だ」

(´・ω・`)「長岡さんこそ、僕に目をかけるのは随分なものですが、それよりもご自分の心配をされてはいかがですか?
  内藤との勝負、忘れたわけではないでしょう?」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:58:05.49 ID:41TK3a24O
支援

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:58:26.17 ID:26+VGR4VO
この作品のショボンすっごい好きだわwwww
支援

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 00:59:17.80 ID:FSk9LSOY0
言われて内藤自身もハッと気付いた。
所歩の実力のすごさ、そして口の悪さに気をもんでいて、長岡への怒りなどどこかに吹き飛んでいた。
それでも努力を丸々否定する彼の言葉を思い出せば、消えかけた導火線は再び強く点火される。

( ゚∀゚)「ああ、すっかり忘れてたわ。
  そうだな、内藤、約束だし一緒に走るか?」

(#^ω^)「勝負してもらいますお!」

一緒に走るだなんてぬるい言い方をしてくれる、内藤は心に闘志をより強く灯らせた。


そしておよそ二十分のアップの時間を設け、二人の勝負は行われることとなった。
しかし相手は現役競輪選手、しかもトップクラスのS級1班の長岡だ、当然一筋縄で勝てる相手ではない。
実力でいけば大きく劣るのは明白だ、相手は何せ一時期競輪界を背負って立った大御所なのだから。

しかし、内藤には一つ、希望が持てる事項があった。
簡単にバイクを走らせると、ストレッチをしながら口を開く。

( ^ω^)「ツン、競輪選手が競輪学校試験の記録を超えられないことって、そんなにあるものなのかお?」

ξ゚听)ξ「まぁあくまでそんなこともあるというだけよ、あまり真に受けちゃいけないわね。
  ただ、競輪と1000mは全く別物だから、相手を自分の土俵に誘い込んだ方が当然有利よ」

( ^ω^)「土俵? つまり走り方か何かかお?」

ξ゚听)ξ「そんなものね、これからの勝負は1000mのタイムトライアルに近いのだから。
  1000mという種目で戦わないとね、競輪という舞台で勝負しちゃだめってことよ」

( ^ω^)「……良く分からないけどそんなものかお、気をつけるお」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:00:42.49 ID:FSk9LSOY0
決戦前という事で、内藤の心も比較的静かに落ち着いているのだろう、反応は些か芳しくなかった。
しかし津出は、この機会にと口を噤まずに続ける。

ξ゚听)ξ「それで内藤、今さらかもしれないけれど、これだけは分かっておいて欲しいの。
  私は、あんたに競輪選手へとなる最低限の練習しか見てあげられないわ。
  だから、きっとあんたは競輪学校に行ってから苦労すると思うし、基礎も盤石なまでに固めることはできない」

( ^ω^)「どういうことだお?」

ξ゚听)ξ「そうね、陸上に例えられるといいんだけど私はさっぱりだから……
  たとえばバスケットボールで試験があって、フリースローを10本中8本決めればいいとしましょう。
  私のできる練習は、ボールに親しむこととフリースローの練習だけってことよ」

( ^ω^)「つまり、ドリブルや別のシュート、ディフェンスなんかはさっぱりってことだお?」

ξ゚听)ξ「そうね、できる限り埋め込むつもりではいるけど、結局は本当に基本的な部分だけ、基礎の基礎よ。
  たとえば今のアンタはバイクのパンクを直すだけでもままならないでしょうし、競輪のルールも何も知らないでしょう?
  つまりはそういうことよ」


( ^ω^)「……。つまり、競輪学校を目指している僕にとって、この1000m勝負は僕の舞台としてみても問題ないお?」

ξ゚听)ξ「ええ、そういうことよ、長岡さんにだって一矢報いるチャンスがあるってことよ」

強く言うと、内藤は少し表情を緩めた。

ξ;゚ー゚)ξ(といっても、まだ1000mの専門練習に入る前なんだけどね……)

とは口が裂けても言えなかった。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:02:40.60 ID:FSk9LSOY0
内藤は所歩との決戦のために一週間ほど前までは1000mへ向けた練習をしていた、ここ一週間はロングライド中心だったが距離感は薄れていないだろう。
その距離をいかにして疲労少なく速く回るのか、その一点が最も大事だ。
展開がハイペースであれ、ラスト勝負であれ何ら変わらず、長岡に勝つ可能性は針の穴よりも小さいのだから。

ξ;゚听)ξ(まったく、競輪学校でトップになるだろう所歩の次は、競輪界のトップ選手の一人である長岡さんか……。
  一体どんな星の下に生まれてくれば、これほどまで数奇で無謀ばかりの運命に巡り合えるのかしら)

津出は勝負の行方については半ば諦めながらも、はいそうですかと素直に競輪場を譲ることはできない。
気合いを入れ直すと、内藤に簡単に指示を出す。

ξ゚听)ξ「とりあえず所歩の時と同じように走る、これが最善でしょうけど……
  長岡さんは、所歩みたいにあんたのペースに合わせることはまずないでしょうね。
  だから長岡さんと走るのではなく、タイムを狙う走りを意識するのが一番かもね」

(;^ω^)「タイムかお……でもまだ測定したこともないお」

ξ゚听)ξ「陸上やってたんだったら、感覚で分かるでしょ。
  ……まぁいいわ、どうせ先行されるんでしょうし、意地でも長岡さんの後ろに食らいつきなさい」

(;^ω^)「分かったお……」

(´・ω・`)「勝てばいいんだよ。タイマン勝負だ、走りにどうこう言われる筋合いはないからね」

(;^ω^)「それができれば苦労しないお」

勝てるとは確かに思えない、しかし努力を認められるだけの頑張りはしてきたつもりだ。
内藤は気持ちを強く持って、発射台へと構えた。


そして内藤は、競輪を知る。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:05:24.41 ID:FSk9LSOY0
ということで、二十二話も終わりです。
ようやく三十話予定で最後が見えてきました、まったく最後が見えない状態ですが。。。
支援ありがとうございました、質問等あればお願いします。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:09:35.94 ID:M+3eYKhbO


各キャラにモデルとなる選手とかいたりします?
既出ならスマソ

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:09:49.17 ID:FSk9LSOY0
相変わらず連絡職人に勝てる気がしない……投下連絡ありがとうございます。

また、ブーン芸さん、いつもありがとうございます。
もしよろしければ、十話区切りで一行空白行を設けて頂けると助かります。
お手すきのときで結構ですので、よろしくお願いいたします。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:10:21.87 ID:8ku23vFo0
乙!!待ってた甲斐がありました。
本当に三十話にまとめてしまうのですか?

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:10:50.47 ID:4oL4n8txO
乙!

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:11:34.69 ID:10hUDPETO


52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:11:52.54 ID:XbbtocbWO
毎回楽しんで読んでるお!

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:14:48.86 ID:FSk9LSOY0
>>47
特にモデルは特にいませんね。
強気なキャラしかいないので、差別化には気を使っていますが。

>>49
一応そのつもりです。
まとめの段階にまだ入れていないので、自信薄ですが多分なんとかなるかと。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:18:49.03 ID:RHw78X+xO

(´・ω・`)がだんだん好きになっていくww

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:25:28.55 ID:+KGvVzCo0
殺伐とした煽りあいがたまらんww乙

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 01:55:10.52 ID:M3jb2ewmO
きてたんか
読むから上げほ

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 02:19:40.63 ID:M3jb2ewmO
読んだ
おもろかったよ


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 02:48:02.90 ID:HWKWzngN0

面白いんで
まとめサイトも読んできました

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 03:50:55.99 ID:44gtij0BO
読むほ

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 04:07:34.83 ID:44gtij0BO
ショボンがいいw


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/09/07(日) 05:37:24.28 ID:gvCRec8uO
これは…面白い

なんかもう戦ってないしブーン小説書いたことないけど負けた


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