( ^ω^)が競輪に挑戦するようです
- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 22:51:22.77 ID:FyN+jPMK0
- まとめサイト様
http://boonsoldier.web.fc2.com/keirin.htm
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 22:53:01.80 ID:q3/QV8750
- お
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 22:53:19.33 ID:FyN+jPMK0
- 登場人物
( ^ω^) 内藤:陸上の400mで県で一位を取るほどの猛者。怪我により陸上を引退し、競輪選手を目指す。
('A`) 毒男:内藤の中学時代の友人で、現競輪選手。なりたてで、実力はまだまだ。
高良:毒男の師匠
J( 'ー`)し 母親:内藤の母親、ギャンブルが嫌いで競輪を良く思っていない。目下、競輪を目指す内藤とは対立したまま。
(*ノωノ) 風羽:陸上部のマネージャーで内藤の元彼女。すれ違いにより別れる。
(,,゚Д゚) コーチ:大学陸上部のコーチで、レースの度に怒鳴りあげた。内藤と仲違いの上、意思疎通が計れずに終わる。
ミ,,゚Д゚彡 布佐:万夫不当の競輪選手だった。
ξ゚听)ξ 津出:ロードバイクを乗りこなす女性、内藤に目をかける。
(´・ω・`) 所歩:師匠の怪我で布佐の元に来るが、津出と決裂。群を抜いた実力の持ち主。
( ゚∀゚) 長岡:毒男の尊敬する競輪選手
高岡:S級1班の競輪選手である長岡の弟子
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 22:53:46.84 ID:gH7vSqR20
- しえn
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 22:54:59.30 ID:FyN+jPMK0
- 第十六レース「裏腹の焦燥」
('A`)『内藤か?』
( ^ω^)「僕の携帯電話だお、僕以外が出てたまるかお」
内藤と津出が正式に師弟関係を結んだ夜に、毒男から内藤の携帯に連絡が入った。
この上なくタイミングのいい事だといたく感心しながら、まず要件を聞き返す。
( ^ω^)「どうしたんだお、突然」
(*'A`)『おお、この土曜からレースがあってさ、ようやく俺、B級決勝に残ったんだよ!
結果は3位で、ついつい嬉しくて電話しちまったw』
( ^ω^)「そうかお、おめでとうだお」
3位という成績がどれほどいいものなのか、内藤にはてんで想像ができなかった。
それでも毒男の喜び様からすれば相当良い結果なのだろう、わざわざ電話をかけてくるほどに。
競輪の位分けが下からB級、A級、S級と組み分けされていることを考えると、陸上でいえば県大会レベルといったところか。
祝いの言葉を簡単にであれど捧げると、毒男は嬉しそうな言葉を漏らして、レースのことを熱く語った。
レース中は携帯電話はおろか、家族を含め外部との連絡が一切遮断される。
決勝進出の喜びは昨日に分かっていたことだが、結局翌日の決勝結果が出てから決勝に残った喜びを伝えるというあべこべな連絡になってしまったそうだ。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 22:56:27.27 ID:vHEKh9dz0
- VIPで競輪のスレ立ってるのにびっくり支援
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 22:57:00.10 ID:FyN+jPMK0
- ('A`)『俺もまだまだ捨てたもんじゃないな、そろそろ引き立て役の太鼓持ちに幕を下ろして、下剋上といくかな。
そういえば内藤、そっちの調子はどうなんだ?』
内藤は毒男にも色々と世話になっている、しばし黙って耳を傾けていたが、話が一段落したタイミングを狙い、弟子入りのことをきり出した。
( ^ω^)「実は、今日師匠が決まって、早くも本格的な練習を開始したお。
ちょうど試験申込用紙の師匠を書く欄を埋めているところだお」
(;'A`)『マジか!? ようやくか、だがやっぱり師匠は必要だよな、一人だと甘えが生じたりもするしさ。
それで、師匠ってのは誰に決まったんだ?』
内藤の師匠がよもや女性とは思っていないだろう。
答えるべきかと一瞬返答につまり、変な間が空きながらも、毒男の喜びと感謝を壊したくないがばかりにその名を口にした。
( ^ω^)「津出だお」
('A`)『津出……? 聞いたことある気がするが分からないな。
競輪選手だよな、出身はやっぱりこの地域か?
あー、なんてか喉元まで出かかってんだが、もどかしいなぁ……!』
名前など数億人の人間それぞれが所持しているのだ、大抵は耳にしたことあるものとなってしまうだろう。
毒男の心当たりは勘違いだろうなと思いながら、女性と知ったらどんな反応をするだろうと、内藤は僅かに頬を緩ませた。
( ^ω^)「たぶん気のせいだお、選手じゃないお」
('A`)『……選手以外で、師匠?
あ、あーあー、そうか、分かった、あのバイク店の看板娘か、そうだそうだどこかで見たと思ったんだよ……』
しかし内藤の思いとは裏腹に、選手でないと分かった途端に毒男はピンポイントで師匠を当ててみせた。
そうだ、今から思えば津出のバイトしていた店はドクオに紹介して貰った店だから、毒男に見覚えがあっても何ら不思議ではない。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 22:59:03.46 ID:FyN+jPMK0
- ( ^ω^)「まさかそれだけであてられると思わなかったお。
そうだお、その人が僕の師匠だけど……どこかで見たって何の話だお?」
('A`)『いやさ、以前内藤の家にパンフレット届けた日があっただろ、あの時に競輪場前でお前といるのを見かけてさ。
そうだそうだ、あの日――』
と、不自然にも突然毒男の声が止まった。
彼の脳裏に浮かんだのは、内藤の家の前で待つ一人の女性、大学の部活の後輩と言っていたか。
瞬間、咄嗟に話題を転換する方向へと頭は回転していた。
('A`)『――いや、あの日以外にも、そう、お前と競輪場行った時か、見かけてさ。
どこかで見たと思っていたんだが、そうだよあのバイク店の子だったな、今完璧に思い出したわ。
それで、その師匠っぷりはどうなんだ?』
( ^ω^)「なかなかにスパルタだけど、そこが逆に波長が合いそうだお。
まだ一日目だから何とも言えないけど、息が合いそうな気はして嬉しいお。
彼女は、信頼できるお」
内藤が『彼女は』の発言で言葉尻を尖らせたのを、毒男は聞き逃さなかった。
無意識だったのだろう、それでもその言葉からは裏の含みがまざまざと感じ取れるほどに意味ありげだった。
('A`)『それは良かったよ、師匠なんて必要無いって言っていたから心配したけど安心した。
今までどうして師匠をいらないと言っていたか知らないが、当然それを津出さんは知っているんだよな?』
(;^ω^)「……当然知っているお」
下手な嘘をつくものだ、毒男は内藤の愚直具合に呆れ、歓喜の念はたちまち気抜けした。
それは内藤自身ですら、発言後にしまったと思うほどあからさまな嘘だった。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:00:35.43 ID:q3/QV8750
- 支援
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:00:58.75 ID:3qDGvcxC0
- >
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:01:00.07 ID:FyN+jPMK0
- 内藤は毒男に確認を取られた瞬間、母親が競輪選手の道を反対していることが連想させられ、
毒男にそれを欺いていることを思い出したために、反応が一瞬遅れて不自然な間を作ってしまった。
それでも毒男は内藤に気を遣い、特に詮索はしなかった。
('A`)『それならいいけどよ、師弟関係っていうのは、恋人同士じゃなくて家族のようなもんなんだ。
相手に気遣わずに本音を交わさないと、些細なことから一気に崩壊するぜ。
まぁ今後もできる限り、相手には思ったことや自分を伝えていくようにな』
( ^ω^)「それくらい言われなくても分かっているお、大丈夫だお」
('A`)『ああ、心配してねーよ。
それじゃ、いきなり電話して悪かったな、おやすみ』
( ^ω^)「おやすみだお」
内藤は電話を切ってから、試合の喜びに満ちた毒男と気分良く電話を終えられなかった自分に憤りを覚えた。
後悔と欺瞞に塗れた自分にはそんな資格が無いように思え、残念でならなかった。
師弟関係を結んだ記念すべき日くらいは、気持ち良くその日を終えたかったというのに、悩みの種は尽きないものだ。
えてしてこんな日に限って気分を落ち込ませる事柄に遭遇するものだから、自分を呪いたくもなる。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:03:23.66 ID:FyN+jPMK0
- ξ゚听)ξ「ほらほら、回転落ちてきたわよ!
はい、いきなり戻そうとしない、顔も下向かないで正面を見て!
もっとおしりの位置は後ろ、下方向ばかりに力をかけないで、回すようにペダリング!」
(;^ω^)「おっおっ……!」
ξ゚听)ξ「ほら、内股になってきた、膝は足と水平に!
肩に力入れ過ぎ、もっと上体はリラックスして!」
津出のコーチングはローラー台から始まった。
天候や競輪場の使用状況いかんに左右されず、フォームを矯正できるという点では最も手軽で効力のある練習だ。
終了時間を指示せずにこぎ続けさせることで、集中力が散漫となりフォームが崩れたところに注意を重ねる。
ずっと集中などできるわけがない、単純動作の繰り返しならば尚更だ。
何度と同じ注意を重ねる事で、模範的な乗り方をまずは体に刻みこむ。
終了を便宜上無制限に設けることで集中力の持ちを悪くさせ、無理やりに注意回数を増やした。
荒療治ではあるが、集中の続いていないときでも文句ないペダリングができるように強制することが先決だった。
内藤は意外にも不器用で、はしご形をした左右の支えがないローラー台上で走らせるだけでまずは一苦労だった。
基礎もないのだから、当初のペダリングなど、どこから注意して強制すればいいのか分からなくなるほどお粗末なものだった。
それでも延々とローラー台練習だけを重ね、無理やり体に模範的ペダリングを刻み込んだ。
おおよそ三日もの間それを繰り返す事で、ようやく及第点のフォームを作り上げることができた。
(;^ω^)「もうそろそろそれなりにできるお、早く実際に走らせたいお……」
ξ゚听)ξ「そうね、そろそろいいかもね」
(*^ω^)「マジかお!?」
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:06:03.16 ID:FyN+jPMK0
- 会話をする余裕もあるなればフォームの基礎は十分だろう、次は実際の「走り」を内藤に埋め込む必要があった。
ローラー台だけではフォーム作りにも限界がある、実際の走行なくては、本当に肌に合う走りなど見出せるわけがない。
基礎から発展し、内藤に合致するフォーム諸々を身につけさせること、もっとも重要な部分だ。
基礎体力の向上には積み重ねが必要となるが、フォームはもっと手早く形にできて奥が深く、そしてもっと重要な要素なのだ。
どれだけ屈指の体力自慢であろうとも、フォームが悪ければ初心者にだって劣る。
逆を返すならばフォームを固めるだけで初心者も十分に化ける、それほどバイクにとってフォームは重要な要素なのだ。
次の日から、早朝と午後一にローラー台によるゆっくりと長い時間をかけたフォーム練習、夕方から実際に競輪場での練習を取り入れた。
地道な練習が功を奏したのか、ローラー台から降りた内藤の走りは見違えるほど安定していた。
ゆっくりと速度を上げ下げしたり、横の動きを見せたりと、基礎を固めたことで見事にピストを体の一部とし、余裕が出てきたようだ。
( ^ω^)「バンクも何にも感じないお……ちょっと寂しいお」
乗り慣れてバランス感覚を養ったことで、トップスピードでバンクに挑む必要もなくなった内藤にバンクの恐怖は再来しなかった。
喜ぶべき場所だろうが、完全に陸上とは別世界に来たのだと感じ、どことなく寂しくもなった。
ξ゚听)ξ「……内藤」
( ^ω^)「おっ?」
ξ゚听)ξ「今日はそんなものにしておきましょうか、結構疲労溜まっているみたいだしね」
せっかく競輪場に出られたというのに、すぐにも津出によるストップがかかった。
特段疲労を感じることがなければ、まだ乗り足りない気持ちもあったが、止められてしまってはしようがない、渋々ピストを止めた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:07:43.46 ID:PZqRUT85O
- 最高級の支援を貴方へ
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:09:01.90 ID:FyN+jPMK0
- ξ゚听)ξ「今まで使っていなかった筋肉を使っているから、やっぱり疲労が溜まっているみたいね。
走りの軸がぶれて安定していないわ、これで練習をしても、せっかく固まったフォームが崩れて逆効果よ。
仕方ないわ、あんたも超人じゃないんだから、今日はゆっくりと休みなさい」
(;^ω^)「……でも、勝負まで時間がないお、もう少しくらい」
ξ゚听)ξ「駄目よ、言ったでしょ、疲れた体で無理に練習をしてもフォームを崩したり怪我の可能性を増やすだけよ。
ここで一頑張りして怪我してみなさい、一週間以上を棒に振るって、今までの練習も飛んじゃうんだから」
( ´ω`)「……わかったお」
ξ゚听)ξ(ま、乗り始めだし仕方ないか)
基礎体力や基礎筋力があったので、慣れぬ練習にも対応できるかと目論んでいたが、やはりそうそううまくはいかないらしい。
津出の期待は早くも裏切られたが、そんなことは口が裂けても言えなかった。
焦って選手を壊してはいけない、選手のコーチングに携わる者として最もやってはいけないことだ。
ξ゚−゚)ξ(……まぁいいわよ、もうしばらく乗り慣らして、スピード練習も少し入れられるようになったら距離を稼いでいきましょうか)
( ^ω^)「ツン、一つ聞いていいかお?」
ξ゚听)ξ「なに?」
( ^ω^)「ツンは、僕をどんな選手に育てようとしているんだお?
競輪は三人くらいでグループを編成して戦っていたお、グループ内でも役割や走りが違うんだお?
どういった走りで所歩と勝負するつもりなんだお?」
ξ゚听)ξ「ああ、そうね、そう言えば言っていなかったわね」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:10:58.05 ID:PZqRUT85O
- 最高級の支援を貴方へ
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:11:20.28 ID:gH7vSqR20
- shien
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:11:43.45 ID:2vhmpp+PO
- 待ってた支援
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:13:32.65 ID:PZqRUT85O
- 最高級の支援を貴方へ
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:13:58.12 ID:PZqRUT85O
- 最高級の支援を貴方へ
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:14:21.65 ID:FyN+jPMK0
- あの所歩との勝負、普通に戦っても内藤の勝機は皆無だ。
それでも最大限の好勝負を演出でき、かつ彼に向いた走り方、それは津出の頭の中ではずっと決まっていた。
ξ゚听)ξ「まず体力、これはピストに乗った時間に比例するようなものだからとても所歩とは比較に及ばないわ。
スピード持久力も同様、ピストに乗った時間、そして技術があれば秀でるものだから比べるべくもない。
だから、あなたの陸上経験を最大限活かせる戦法……スパート、力任せの完全なスピード勝負よ」
(;^ω^)「……!」
ξ゚听)ξ「最後までは所歩の後ろについて風除け、そしてラストで陸上時代の力をフルに活かして、爆発的なスパートで勝つ、それしかないわ。
少なくとも普通に戦っても無理よ、相手を風除けにすることで体力を温存しながら相手を消耗させる。
そしてあんたも、一時的なスピードだけなら自信あるでしょう、勝つわよ、あの化け物に」
言われても内藤は少しの間思考が停止していた。
所歩のラストスパートを目の当たりにして、そのピストの常識を覆さんがダッシュ力にただただ唖然とした。
先天的な何かが違うのだ、そう思いきっていた。
そのラストのスパートで所歩と勝負するというのだ。
そして勝てというのだ。
ξ゚听)ξ「アンタが所歩と勝負できるのは、筋力だけなのが現状だからね、それで勝つしかないわ。
スプリント競技で名を残す猛者との、一瞬のスピードによる、最高速度の勝負よ」
(;^ω^)「望むところだお!」
ξ゚听)ξ「声上ずってるわよ」
(;^ω^)「武者震いだお、相手の土俵で相手を潰すなんて、最高なシチュエーションだお」
もっとも内藤に他のレース展開など考えつかない、理由を添えてそれが最善と言われればそれしか方法はないように感じられた。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:15:39.93 ID:q3/QV8750
- 支援
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:15:52.61 ID:FyN+jPMK0
- ξ゚听)ξ「初めは『自転車の』基礎体力と最低限のスピード持久力を目途に練習するわ、それでちゃんとしたフォームも体に覚えさせるから。
だからまずはフォームよ、それが完全に板についたら、スピード練習をじわじわと入れていきましょう。
後の話はいいわ、とりあえずある程度スピードを出しても崩れない、堅牢なフォームをものにするのが先決ね」
(;^ω^)「わかったお」
ξ゚听)ξ「今はまだ疲労も抜けきらないけど、慣れてきたなら大丈夫だから。
だから焦らずにね、休養も立派な練習よ、一流選手は休養の取り方も上手なものだから」
( ^ω^)「……」
乗り始めなのだから仕方ないのだ。
乗ってから間もないのだ。
「まだ乗り足りないのだ」
内藤にはそう聞きとれた。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:18:06.77 ID:FyN+jPMK0
- ξ゚听)ξ「……」
次の日も内藤の体は好調とは言い難かった。
津出の眉間に寄せられたしわを、内藤は逃さなかった。
(;^ω^)「すまないお」
ξ゚听)ξ「謝ったってどうしようもないわよ、それだけ練習に集中していた証拠よ。
三日で基本的なピストの乗り方をものにしたのだから、予想以上に大したものだわ。
だから気にしなくてもいいわよ」
そう言いながらも、津出は自問を繰り返すばかりだった。
なぜだ、自分の見立てが悪かったのか。
内藤に無理をさせてしまったのか、そんなにも自分は多くを望んでいたのか。
自分の練習方法に自信が持てなくなっていた。
本当に自分に他人を育てる事などできるのか、それが内藤にとって最善なのだろうか。
理想を内藤に当てはめていただけなのかもしれない、彼に期待し、無理やり彼に期待を寄せていたのかもしれない。
初めて目をかけたときから長らくの時を経たことで、その期待や彼を見る目が必要以上に肥えていたのかもしれない。
彼に失望しているのか?
違う、彼は普通なのだろう。
津出が彼に重荷を背負わせようとしているだけなのだ、なんという酷い師匠がいたものか。
ずっと欲しかった玩具が手に入った瞬間、なんとなく後悔を覚えてしまうことがある。
今こそまさにそれなのかもしれない、いや、大切な弟子を玩具に例えるとは何事だ、師匠としてあるまじき考えだ。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:19:46.80 ID:FyN+jPMK0
- (;^ω^)「……ツン?」
ξ゚听)ξ「あ、いえ、そうね、内藤は私が思っていたよりも沢山のことを吸収していたみたいだわ。
成長は私の想像を超えている、だから相応に体にも過負荷がかかっていたのよ、何らおかしくもないわ。
ちょっと私もこれから先の練習の方向性を考え直してみるわ」
(;^ω^)「お、これで今日も終わりかお……?」
ξ゚听)ξ「そうね、足りないと思うかもしれないけど、疲労ばかりは仕方ないわ、予定を後ろへとずらすから。
大丈夫、私が思う以上にしっかりと成長しているから、フォームだけみれば想像以上に早く綺麗に固まっていて驚いているくらい。
だからこそ、そのしっかりとしたフォームを疲れた体の練習で台無しにしたくないの、分かってくれるかしら?」
それは本当だった、内藤のフォームは想像以上に早い段階で固まった。
というのも、内藤は津出が教えたことを忠実に守り、あれよあれよという間に体に刻みこんだのだ。
彼が陸上時代に培ったバランス感覚、そして筋肉の使い方を知っていることは強みなのだ。
驚くべきことだったが、だからこそこうやって多大な疲労が蓄積されてしまったのだろう。
肉体的疲労だけでなく、集中しすぎた精神的な疲労の方が大きいのかもしれない。
津出が自分自身の方針を信じて、内藤を信じてやることで初めて、信頼し合える師弟関係が成り立つというものだ。
彼女が自分を信じられなくてどうする、自分の練習に自信を持たなくてどうする。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:21:53.71 ID:FyN+jPMK0
- そして次の日、津出に最大の苦悩が訪れた。
内藤のフォームが、激しいほどに崩れていたのだ。
ξ;゚听)ξ(どうして……休ませたから?
咄嗟の付け焼刃だったからこそ、少し休めただけでも簡単に感覚を忘れてしまうの?
これなら練習させた方が良かったのかしら……)
考えれば考えるだけ分からない、しかも内藤の体は、まだ疲労がとれていない状態だった。
ξ;゚听)ξ(所歩と勝負した日に練習させたからかしら、あの時の疲労を無碍に刺激したせいで、想像以上の疲労が蓄積されて……
なんでよ、どうして……一体いつの、何の疲労なのよ……)
分からないことばかりだった。
いままで敏腕布佐の傍で幾多のコーチングを見てきたが、いざ自分が弟子を持つとなれば全く勝手が違った。
布佐が当然のようにしていた選手管理を、津出は全く見れておらず、ものにできていなかったのだ。
ずっと布佐の傍につき、指示を逐一チェックしては血となり肉としていたつもりだったが、それは自己満足に過ぎなかったのだ。
そうでなければここまで早々に内藤が行き詰る理由がない、まだまだ吸収が足りなかったのだ。
そう、これでは弟子と師匠のおままごとに内藤を付き合わせてしまっているに過ぎないのだ。
ξ;゚−゚)ξ「……」
引き下がるのか?
いや、それもできない、いけない。
彼は、内藤は間違いなく輝ける原石、その彼を砕いてしまうなんて、とてもできない。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:22:41.69 ID:WrGWKzP/0
- 支援!
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:23:56.64 ID:gH7vSqR20
- 土器どき
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:24:07.35 ID:PZqRUT85O
- 最高級の支援を貴方へ
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:25:01.79 ID:FyN+jPMK0
- 彼女の脳裏は、全視野見渡す限りの荒漠で一人途方に暮れている幻想に埋め尽くされた。
どの方向へも一歩たりとも進むことのできない恐怖、認めたくない停止。
内藤と共に競輪への道を歩もうとしていた津出の足が、はたと止まった。
(;^ω^)「……ツン?」
フォームを見ても何一つと言葉を漏らさない津出を不審に思い、恐る恐る内藤は尋ねた。
津出がすぐにも向けた目線は、彼女の常とは遠く離れた、焦燥感に駆られるが故の弱々しい目つきだった。
その焦点の合わない眼を見た瞬間、内藤は悟った。
( ´ω`)(まだまだ、僕はダメなんだお……)
津出のコーチングは素晴らしいのだろう、それについていけず応えられない自分の歯がゆさから、彼は強く深く悄然となった。
どれだけ頑張って応えようとしても体は内藤の疲労状態を忠実に体現し、津出は彼に幻滅していくのだ。
彼女の元気が日に日に擦り減っていく様は、容易に見てとれた。
練習をさせたい、しかし内藤がまだそれをできる体ではない、そのジレンマに心がねじ切られそうなのだ。
彼女の想像に反して内藤の体は疲労に弱く、脆かったのだ。
津出の心境は悔しいほど内藤も感じ取れた。
そう思われた事が悔しくて屈辱的で。
それで練習量を落とされるのが、まるで陸上時代のコーチを連想させられた。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:26:31.83 ID:FyN+jPMK0
- ( ´ω`)(僕にはまだ足りないんだお、まだ……)
悔しさにこぶしを握り締めたところで疲労は取れやしない。
これまでも十分存分に練習を重ねたつもりだったが、「まだ乗り足りないのだ」。
ξ゚听)ξ「今日もこんなものにしましょうか、疲労抜きに軽く30分ほど、ローラー台でこいで。
当然フォームも意識してね、私はちょっと外の風にあたってくるから」
( ´ω`)「分かったお」
見切りをつけられた、諦められた。
内藤はそうとしか思えなかった。
認められることの無かった自分の不甲斐なさを、ただただ恥じた。
肉体だけは一人前だと驕り高ぶる自分がいかに愚かだったかを知った。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:28:32.52 ID:FyN+jPMK0
- ξ゚−゚)ξ(本当、私って最悪……)
津出は内藤と別れ、ロードバイクで競輪場から外へ出た。
考え事をする時はバイクを走らせる、これが津出の習慣だった。
考え事、そう、内藤の師匠をやっていけるのかどうか、だ。
内藤の練習時間は競輪場を使うため、愛好会の練習の合間を取らなくてはならず、変則的だ。
主に早朝、正午、夕方から夜にかけての三回で行われる。
さらに津出のアルバイトという要素でまた、時間は不規則に変化する。
ξ;゚−゚)ξ(一日三回の練習が疲労を抜け難くしているのかしら……いや、内藤だって陸上で毎日何度とトレーニングをしていたでしょうし。
そうなると、食事時間帯に練習を持ってこざるをえないために、体調を崩してしまっているのかしら……)
考えれば考えるだけ原因は思い当たり、自分の不甲斐なさばかりが浮き彫りになる。
これなら素直に愛好会を進めるべきだったかもしれない。
いや、今からでも遅くはないはずだ、師匠を辞退した方がいいのではないだろうか。
ξ#゚听)ξ(……。本当、どうしてこうも嫌なことは続くものなのかしら)
津出が考えを停止して悪態つくのも仕方ない、目の前には所歩という男がちょうど橋の袂で休息をとっているところだったのだから。
目が合ったが、津出はすぐに目線を逸らした。
所歩が何か言いたそうだったかは知らない、津出は速度を上げると、さも知らぬ顔で所歩の正面を過ぎ去った。
ξ#゚听)ξ(何の暗示かしら、本当嫌だわ……!!)
まるで運命からも所歩に勝てないと言われたような気がし、津出は一層速度を上げた。
考え事をするために乗ったロードバイクだったが、いつしかすべての思考を取っ払ってしまっていた。
だから彼女は知らない、所歩が過ぎ去った彼女の影を、見えなくなるまでずっと見ていたことに。
彼らしくもなく、その眼にはいささかの感情が覗けた。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:30:37.50 ID:FyN+jPMK0
-
津出が20分程の外出を終えて戻って来た時はちょうど、愛好会の人たちが午後の練習に取り掛かるところだった。
邪魔にならないよう端でローラー台を回す内藤は津出を見ると、すぐにも笑顔を作った。
( ^ω^)「ツン、見て欲しいお!
どうだお、フォームはしっかり直ったお!」
ξ゚−゚)ξ「……」
津出はあまりの悲しさに泣き出したい程の衝撃を受けた。
内藤のフォームがまた、誤った形で固定されていたのだ。
そうだ、なぜ付きっきりで内藤のフォーム矯正をしなかったのか、どうして諦めていたのか。
フォームチェックは一人でなどできっこない、ましてや初心者だというのに、どうしてその内藤をほっぽらかして外へ行ったのだ。
本当に彼を見てやる気があるのか。
ξ゚听)ξ「……内藤」
(;^ω^)「お?」
覇気のなくなった津出を見て、内藤は恐怖で体の動きがぎこちなくなる。
加えてたどたどしく崩れ出したフォームを見て津出は、またため息をついた。
ξ゚−゚)ξ(ねえ内藤、もしかすると、私についてくるのは競輪への回り道かもしれない)
心で何度も反芻せど、それはとうとう口から出なかった。
津出はずっと無言で立ちすくみ、内藤はぎこちなくピストをこぎ続けた。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:32:02.28 ID:q3/QV8750
- 支援
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:32:49.80 ID:FyN+jPMK0
- 「あ、ツンちゃん戻ってきてたのか、ちょっと前に事務所に電話が入ってさ、ツンちゃん宛に。
すぐかけ直すって言ってたし、事務所で待機しといてくれないか?」
ξ゚听)ξ「……ありがとうございます、分かりました」
津出は突然の声かけに助けられ、内藤に指示を出さずに足早に去って行った。
一人残された内藤は、津出が理解できない、本当にこれでいいのだろうかと疑問に押し潰されそうだった。
そう、師弟関係が綻び、崩壊してしまっていることは薄々感ずいていた。
( ´ω`)(やっぱり僕が駄目だったからだお……僕さえもっと疲労に負けない体を作れていればよかったんだお……)
津出から受けた練習は30分のローラー台だったが、時計を見ればもう時間は過ぎていた。
しかし何の指示も受けていない、どうしようかと回転を弱めたところに、軽々しい声がかけられる。
( ゚∀゚)「おー、オマエ本当に練習やってんのか、調子はいかがだ?」
( ^ω^)「……」
声をかけてきたのは長岡だ。
内藤は初見から、どうしてもこの男が好きになれなかった。
真面目に頑張ろうとする彼を小馬鹿にするような言葉が端々から取れ、おちょくっているようにすら感じた。
内藤はその声を無視し、改めて足に力をかけて練習を再開させる。
( ゚∀゚)「マジ勝つ気でやってんのか、ご苦労様なことだ。
まぁその乗り方と不貞腐れた面見れば、調子は聞かずもがなってかw」
そして以前出会った時のように、声を大きくして笑った。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:34:46.21 ID:I1eGELLEO
- お互い言いたいこと言えばいいのに支援
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:35:00.11 ID:FyN+jPMK0
- ( ゚∀゚)「あー、そうだ布佐に会いに来たんだった、前のレースで俺の弟子がヤツの弟子に勝ってよ……って聞いてないか。
まあくれぐれも無理のないように、適度に頑張れよ適度になw」
一方的に言葉を投げかけると、長岡はその場から去っていく。
内藤は一人、無言で真剣に、ローラー台をこぎ続けた。
ξ゚听)ξ「もしもし、津出です。
はい、そうですが。
失礼ですが、そちらはどちら様でしょうか?」
ツンが事務所に行くと、ちょうど電話があったようで真っ先に代わられた。
挨拶をするとすぐにも、内藤の師匠かと確認を取られた。
後ろ髪を引かれながらも肯定し、何者かと尋ね返すと、何とも不思議な答えが返ってきた。
ξ゚听)ξ「……それで、そんなあなたが何の用で私に電話を?」
それからしばらくは相手の言葉に耳を傾けていたが、すぐにも津出の言葉尻は強くなった。
ξ#゚听)ξ「なによ、どういうつもり!?
私と内藤が上手くいっていないだろうって、なんでそんなこと心配されなくちゃいけないの!?
余計なお世話よ!」
どうして今の自分たちの状況が分かるのだ。
思わず声を荒げたが、次第にその気持ちは落ち着きを取り戻していく。
そして相手の言葉を聞いていく内に、言わんとしていることが明確に形作られる。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:36:19.88 ID:PZqRUT85O
- 最高級の支援を貴方へ
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:37:06.32 ID:FyN+jPMK0
- ξ゚听)ξ「……」
相手の言いたいことはよく分かった。
憶測の話ではあったが、それこそ現状を打破できる、すべてを解決に導くことができる答えだった。
話を聞き終えたとき、どうして津出にわざわざ電話をしてきたのか、その理由をすべて理解した。
ξ゚听)ξ「わざわざ、ありがとうございます」
自分たちの荒んだ状況を見抜かれていたという痴情が妨げとなり、少しひねくれた礼の言い方しかできなかったが、
心の中では相手への感謝の念がいっぱいで、同じだけ内藤に対する怒号の念が入り混じっていた。
電話を終えると事務所の人間に礼を述べ、続いて携帯を取り出すと、バイト先へと電話をかけた。
ξ゚听)ξ「もしもし、店長ですか?
すみませんが、本日の夕方からのバイトは体調不良で休ませてもらえないですか?
……はい、……はい、ありがとうございます、いきなりですみませんでした」
これで準備は整った、電話の主の言う事を信じるならば、あとは現場を掴むだけだ。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:38:51.53 ID:FyN+jPMK0
-
ξ゚听)ξ「ねぇ、アンタ、何してんの?」
(;^ω^)「ツン……!?」
夜の帳も下りきった午後の遅く、暗く静まった競輪場で独りローラー台をこぐ内藤に向かい、津出は言い放った。
(;^ω^)「え、あ、……今日はバイトのはずじゃなかったのかお……」
この狼狽ぶりを見る限り、津出がバイトの日だけでなく、連日彼女との練習が終わった後も隠れて練習していたのだろう。
津出の思い悩みも知らず練習こそが一番だと信じる彼、見せかけだけの信頼関係は元から強く結ばれてなどいなかったのだ。
両端を引っ張れば簡単に解けてしまうような、結ばれたとも言い難い、お粗末な師弟関係だったのだ。
ξ゚听)ξ「アンタのその足、折ろうか?」
(;^ω^)「はい?」
ξ゚听)ξ「その足、今すぐ私が折ってあげようか?」
津出はその眼を今までにないほど強くギラつかせながら、その言葉を放った。
ξ#゚听)ξ「なんでそんな無謀なことするの、そんなに私が信頼できないの!?
無理と無茶は違うんだから、そんなに自分の体を酷使してどうするの!?
そんなに体を壊したいんだったら、コーチとしてひとおもいに私が足を折ってあげるって言ってんの!」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:38:52.66 ID:q3/QV8750
- 支援
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:40:44.03 ID:FyN+jPMK0
- これにて第十六レースは終わりです。
少し休んで、十七レースも投下しますので、よろしくお願いします。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:40:56.19 ID:gH7vSqR20
- しえn
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:41:14.29 ID:NL9S0c3x0
- 支援
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:41:40.48 ID:q3/QV8750
- よろすく
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:43:20.58 ID:gYtNAojGO
- 支援
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:46:06.21 ID:gH7vSqR20
- 深淵
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:48:12.05 ID:yf49DqeXO
- 支援
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:52:21.11 ID:FyN+jPMK0
- 第十七レース「信倚と聊頼」
津出に見つかるとは露ほども思っていなかったのだろう、タイミングを見計らっては彼女の期待に添えるようにと、内藤は極秘の練習を行っていたのだ。
なるほど、これでは津出が想像する以上に疲労もたまって当然だ。
三日でフォームをものにしたその練習熱心さはたまげたものだ。
しかし基礎が完成された時からその熱意は練習量にだけ向けられてしまい、フォームの意識がなおざりとなっていったのだろう。
ましてや一人だけの練習、日に日に溜まる疲労の中で誰にも注意されなければ、形が崩れていくのは自明の理だ。
ξ#゚听)ξ「アンタは何で私を選んだの、どうして私につくの、私は何であんたに教えているの、アンタ一体どういうつもりなの、
もうアンタが分からないわ、何を考えているのか分からないし、言葉だってもう何も信じられない!」
(;^ω^)「……違うんだお」
ξ#゚听)ξ「何がよ!」
内藤の力ない声は、津出の一言に一蹴された。
なにも違わないのだ、津出の憶測は9割以上正答しているだろうし、現に今こうして内藤はピストをこいでいるのだから。
津出の眼つきにはいつもの鋭さはなく、どこか疲れを見せるものだった。
ξ゚听)ξ「なんていうのかな……もう面倒臭くなってきた。
私たちって何回すれ違えばいいのかしらね、誘って断られて合意して裏切られて……いい加減疲れもするわよ」
心外を具現化したような表情のままで、笑顔がこぼれる様子は当然ない。
腹中に溜まりに溜まった憤懣をどのようにぶつけるべきか、試行錯誤しているようにも見える。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:54:11.01 ID:FyN+jPMK0
- ξ゚听)ξ「私も元来、気が長い方じゃないのよね、それでも随分と温和になってきたかと思っていたけど……
ええ、やっぱり今回ばかりは無理よ、それでも手が出なかった辺りはまだ温和になれた方だと思うんだけどいかがかしら?」
憮然とした様子のまま、言葉だけが無感情に内藤を責め立てる。
ξ゚听)ξ「先に言っておくけれど、今回ばかりは無理だから、抑制効かないからその辺よろしく」
内藤は何一つと返す言葉がない、教師に叱責される子供でもあるかのように、ただ黙って俯くだけだった。
構わずに津出は息をひとつ吐き、気合いを入れると口調をまた少し、咎めた。
ξ゚听)ξ「アンタは陸上やっていたのよね、もともと。
それでさ、どうして止めたの?」
(;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「いいわよ答えなくて、もう知っているから」
内藤の体が小さく震えたが、津出はそれを気にもかけない。
どうして津出がその事を知っているのか、思い当たる節は一つしかない。
昼の練習後に競輪場へあった、津出宛の電話、それだろう。
ξ゚听)ξ「今ならあんたの大嫌いなコーチの気持ちがよく分かるわ」
( ω )「……止めてくれお」
コーチの名を出され、思わず内藤は声を出していた。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:56:49.12 ID:gH7vSqR20
- しえn
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:56:48.95 ID:FyN+jPMK0
- 止めて欲しかった。
今回の件は九分九厘において内藤が悪い、それは分かっているので言い逃れする気はなかったが、津出に陸上時代のコーチと一緒だとは言って欲しくなかった。
あの人生を滅茶苦茶にした、最も忌むべき人物の気持ちが分かるだなんて比喩でも使って欲しくなかった。
どうやら電話の主はコーチと見て間違いなさそうだ、今頃になって一体何を津出に吹き込んだのだ。
どこで競輪を目指していることを知ったか知れないが、本当に邪魔ばかりをする、何につけても目障りな男だ。
( ω )「違うお、コーチとツンは違うお、止めてくれお」
ξ゚听)ξ「アンタさ、ちょっと顔つき良くなったけど、変わったと思ったのは私の早計だったようね。
内面は呆れるほど以前と何も変わっていないわ」
内藤は過去のプライドを脱ぎ捨てて、初心に戻って競輪を学ぶつもりだった。
驕らず、歯向かわず、他人を信頼して全力で競輪へと邁進しているつもりだった。
それはただの思い込みだ、津出はすべてを否定し、何一つと変わっていないと指摘してみせた。
ξ゚听)ξ「私とそのコーチは違わないわよ、きっと、前コーチはあんたを怪我させたかったんだろうね。
アンタの足を壊してそれを言い咎めたかった、ただそれだけよ」
あまりの堂々とした過激な発言に、内藤はまた一度体を震わせた。
そう、前コーチは明らかに内藤の体を壊そうとしていた、今でもそうだと思い込んでいる。
あまりにその発言は的を得過ぎていた。
ξ゚听)ξ「あんたは覚えていないでしょう、そのコーチとあんたが初めて衝突したのは、過負荷練習した時だったんだってね。
コーチがアンタを止めようとしたら、あんたはこれくらいじゃ音を上げないって練習したそうよ。
次の日、体を気遣って練習内容を落としたコーチに向かってあんたはなんて言ったか、覚えている?」
( ω )「……」
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/27(日) 23:59:43.51 ID:PPhWegloO
- し
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:00:10.00 ID:kK3kfs6HO
- しえん
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:01:04.71 ID:IsU7Ay59O
- し
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:01:18.28 ID:yh3YM5GnO
- 支援
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:02:14.46 ID:c9ewsmmu0
- >>54すげえ
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:03:41.27 ID:IsU7Ay59O
- さる?
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:04:39.94 ID:v4fOGnew0
- ξ゚听)ξ「『コーチは僕の練習を見る気がないんですね』だって。
それ以来、アンタとの付き合い方が分からなくなったそうよ、そして陸上から一度離れるべきだって思ったみたい。
でも何度ひき離そうとしても、決してあなたは陸上から離れなかったそうね、それがどれだけコーチを傷つけていたのかしら?」
やはり電話相手はコーチだったのだ、そして津出に「内藤」という人間を伝えたのだ。
コーチは気付いていたのだ、内藤が隠れて練習をしているだろうことに。
そしてその愚直さが根底にあるからこそ、津出との関係がコーチとの決裂の二の前になると予期していたのだ。
ξ゚听)ξ「そのコーチないし私がどれだけあんたを気遣っているのか分かっているの!?
アンタ、本当一回壊れる?
私がその足を壊してあげようか?」
今、内藤はそのすべてを理解した。
コーチが足を壊そうとしたのは、足を壊すことで「無茶」を内藤自身の体に刻みたかったのだろう。
言い渡された練習を守らずに、練習結果はいつもマネージャーに命じて捏造したものばかりだった。
コーチと選手の関係など名ばかりで、完全な管理下にはいなかった。
それが簡単で深淵な亀裂を生んだのだろう、そしてああも内藤に口うるさいコーチを作り上げてしまったのだ。
口煩くすれば内藤が怒りからより練習を重ねる事を知っていたからこそ、
コーチはあえて内藤へ具体的な内容を告げず、理由もへったくれもない嫌味ばかりを向けたのだ。
内藤の練習量に物を言わせた意識が間違っていると、指摘してみせたのだ。
その証拠に内藤は怪我こそなかったが、記録に伸び悩んでは結局全国大会に足を踏み入れることはなかったではないか。
過負荷で体を壊して、コーチも選手も悪かったと、互いに分かり合うきっかけのための辛辣だったのだ。
あのコーチは誰よりも内藤を理解し、内藤のために何かをしたかったのだ。
そして誰よりも内藤と分かり合いたかったのだ。
捻くれた内藤のためにこそ、苦渋の決断として捻くれた譲歩に踏み入ったのだ。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:07:02.02 ID:kK3kfs6HO
- なんという…
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:07:03.39 ID:v4fOGnew0
- ( ;ω;)「……ううぅ」
悔しかった。
なんだこれは、これでは完全な負けではないか。
ずっと躍起になっては敵対し、歯向かっていた相手はわざと自分を煽っていたのだ。
そして誰よりも自分のことを理解してくれていたのだ。
それも知らず、相手の意のままに自分は動かされていたわけだ。
( ;ω;)「嫌だお、信じたくないお、違う、そんなの嘘だお!
後からとってつけた言い訳だお、ツン、そんな嘘に騙されちゃいけないお、アイツの思う壺だお!」
ξ--)ξ「残念ながら私もコーチさんの意見に同感よ、今すぐあんたの足を折りたいくらい。
足を殴るくらいではさすがに折れ無いでしょうが」
愛する者と別れ、足を殴りつけた自分自身がフラッシュバックする。
コーチのせいだとすべてを否定していた自分、それらは全くの自分勝手な考えからくる産物だったのだ。
自分を落としこめたのは他の誰でもない、自分自身だったのだ。
ξ゚听)ξ「たぶん師弟関係とかコーチと選手のあるべき姿を一番分かっていないのは、アンタじゃないかしら?
実際、陸上のコーチさんをあなた以外の誰かが非難していたからしら?
していないのであれば、人望ある良いコーチだったんじゃないかしら」
そうだ、退部宣言した時も、コーチに歯向かう内藤を止めに入った主将は、断固として彼の言葉に同意をしなかった。
コーチは色々と尽くしてくれていると、これからも付いて行くと言っていた。
あのマネージャーだって、コーチは悪くないと言っていた。
そして常にコーチと、「内藤」についての意見を出し合っているような事を言っていた。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:09:15.77 ID:v4fOGnew0
- ξ゚听)ξ「本当もう無理しないで、あんたは自分に一層厳しくすることで逃げているだけなの。
そうでしょ、コーチを信じもしなかったくせに練習には難癖付けて、鬱憤はすべて独自練習にぶつけていただけで。
自分を分かってくれる人間なんて誰一人としていないだなんて、反抗期の子供じゃあるまいし」
もっと内藤が素直に、コーチを信頼していればよかったのだ。
だというのに歯向かい、練習を捏造し、揚句に怪我の責任を押し付けてサヨナラをしたのだ。
本当に無責任なのは誰だ、本当に自分勝手なのは誰だ。
( ;ω;)「僕は……なにも知らず、分かっていなかったお……」
ξ゚听)ξ「私もコーチさんに感謝しているわ、それが無かったなら、私が内藤と同じように決裂していただろうから。
コーチさんが犠牲になったお陰で、こうして今なお私たちは向きあうことができているのだから」
内藤は黙って頷いた。
コーチからの電話がなければ、津出との関係や練習も滅茶苦茶なままで所歩と戦い、負け、敗因を津出に押しつけて競輪からも逃げていたことだろう。
その想像は簡単に、それでいてとても鮮明に思い描かれた。
そうだ、津出の言うとおり自分は何も変わっていなかった。
自分のプライドを捨てたところで、根が変わらなければまた同じ道を歩むしかなかったのだろう。
ξ゚听)ξ「内藤、もう一度だけ、聞かせて欲しいの。
私を……津出を、師匠として信頼してくれるかしら?」
答えは言うまでもない、これほど信頼できる師匠がどこにいるだろうか。
これほど内藤を怒り、気遣い、熱心に語りかけてくれる師匠がどこにいるだろうか。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:09:25.02 ID:c9ewsmmu0
- ああ・・
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:10:50.14 ID:v4fOGnew0
- ( ;ω;)「ありがとうだお、ツン。
僕は信じるお、どこまででも付いて行くお、だからお願いしますお」
紆余曲折という言葉そのものだろう、幾度の誘惑と拒否、そして合意に決裂を経てとうとう二人は信頼し合えた。
長かった、それは両者共に感じたことだった。
一度は結ばれた偽りの契約が、余計に感慨深く思わせる。
ξ゚听)ξ「先に言っておくわ、もう次はないわよ?
いいわね、本当に私たちは信頼したと思って間違いないのね?
隠し事はもうないわね?」
(;^ω^)「確認まで取られると心苦しいお……。
大丈夫だお、なにがあっても包み隠さずに報告するお、だから、お願いしますお」
ξ゚ー゚)ξ「よろしい」
ふふんと強気に笑って見せる津出は、本当に嬉しそうだった。
内藤の暴挙のため、限られた一カ月の時間のうち、一週間が去ってしまった。
それでも二人は焦らず、諦めなかった。
その一週間には意義があった、それを共に確信していたから。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:10:58.08 ID:kK3kfs6HO
- ツンええ子や
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:11:56.66 ID:XQhnbbsV0
- この調子でアプーとも仲直りできれば良いな
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:12:52.48 ID:v4fOGnew0
- これで第十七レースも終わりです。
少し休んで、第十八レースも投下してしまおうと思いますので、お時間ありましたらよろしくお願いいたします。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:13:18.51 ID:KDLOdi2b0
- すげぇなwwwwwww
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:14:17.99 ID:IsU7Ay59O
- この作品って
ストーリーの面白ろさだけじゃなくて
なんか心に来るものがある
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:14:36.55 ID:XQhnbbsV0
- ウソ・・・だろ・・・?
お、俺はもうダメだ・・・・・・後は任せた
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:14:43.39 ID:kK3kfs6HO
- まじかよ
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:15:02.42 ID:zhjBJz5PO
- ね、寝れねぇ!
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:15:12.99 ID:IsU7Ay59O
- まだ来るか!
くそぅ 睡眠を諦めるぜ
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:15:57.52 ID:c9ewsmmu0
- なん・・だと・・?
でも支援
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/07/28(月) 00:16:08.59 ID:l2Hllmo6O
- 眠れないから支援
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:17:08.30 ID:v4fOGnew0
- 第十八レース「意気と奮起」
そうだ、津出はああ言いながらも確実に怒っていたのだ。
信頼はしたと言っていたが、それとこれとは話が別なのだろう、内藤の勝手のために焦燥した憂さを晴らすかのように、
そして失った一週間を取り戻すかのように、地獄のような特訓を毎日繰り返した。
津出とはもう無断で練習しないと約束したが、それが無くとも余力の残っている日など一日たりともなかった。
津出は妖美に笑いながら、
ξ#゚ー゚)ξ「疲労がたまっている状態でも上手にこげるようになれないとね」
だなどとのたまっては、過負荷としか思えないような練習を内藤へと次々に投げつけた。
(ヽ´ω`)「おおぉお……」
ξ゚听)ξ「何やってんのよ、まだあと3回もがき練習をするんだから、ゆっくり休んでいる暇なんてないわよ?
くれぐれも体冷やさないようにね。
あとさっきのラスト、前傾気味で体勢が危なかったから気をつけて、決して背筋を張っていろって意味じゃないからね」
(ヽ´ω`)「おおぉおぉぉ……」
ξ゚听)ξ「返事が聞こえないわ」
(ヽ´ω`)「おぉ……どえす……」
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:17:52.80 ID:a84HR6uK0
- 支援
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:19:05.60 ID:v4fOGnew0
- それでも怪我もなくやっていけたのは、津出の気配りが以前以上にきいているから他ならない。
食事管理に睡眠時間、練習前後のストレッチやアップの時間は入念なほど取ってあった。
本練習は愛好会の合間を縫って競輪場を使うだけだ、その時間をフルに使えるようにと、練習の時間設定もより厳しくなった。
ξ゚听)ξ「競輪学校も分単位行動だからね、まぁいい余興練習じゃないかしら」
一度目に交わした師弟約束は、本当に口だけの約束だったのかもしれない。
今こうして津出が厳しい口調になったのも、内藤への余計な遠慮がなくなったからだろう。
毒男が師弟関係は家族のようなものと言っていたか、そういった意味で今こそが本当の師弟関係なのだ。
一度目はよそよそしさと遠慮が覗けた、見せかけだけの、着飾った師弟関係だったのだ。
残された時間は三週間だった。
フォームを正確に直すのに、二日を費やした。
それからはスピードを上げながらの、より実用的なフォーム練習へと移行する。
同時にロードバイクを使っての、疲労を抜きながらの距離稼ぎが始まった。
当初はまだまだ筋肉が慣れていないようで、ロードバイクのゆっくりとした長時間ライドでも、次の日に疲労を残していた。
しかし毎日長時間繰り返すことで、一週間が過ぎればスローペースの距離稼ぎはさほど苦にならなくなった。
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:19:15.70 ID:kK3kfs6HO
- どSwww
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:20:55.35 ID:v4fOGnew0
- そして二週間目、地獄の特訓が始まった。
もがき練習という、限界状態で無理やりこぎ続ける練習を、気が遠くなりそうな本数重ねる事となった。
当時の一日の体感長さは異常だった、内藤の心も折れかけていることが多かった。
二月に入ったといっても、まだまだ風は冷たく強く吹きすさぶ。
手の感覚がなくなり、次にこいでいるはずの足の感覚がなくなった。
意識が朦朧とし、一日に何度転んだかもしれない、怪我がなかったのは運の要素もあった。
ξ゚听)ξ「怪我したら所歩とも勝負できないしね、試合日を延期できるんじゃない?
まぁサポーターもつけてるんだから擦りキズくらいで済むわよ、唾でもつけときなさい。
酸素もいっぱい用意してあるから、酸欠になるくらい頑張っても問題ないから」
津出の言ったことは間違っておらず、サポーターのお陰で大きな怪我はなかったが、足と腕はカサブタ塗れで変色した異様な状態となっていた。
この頃は筋肉痛も筋肉疲労も常で、多少の痛みでは何も感じなくなっていた。
後から考えても、救急車のお世話にならなかったのが不思議なほど過酷で激烈な練習だった。
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:21:06.57 ID:BBGFiL1Z0
- 支援
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:22:26.31 ID:IsU7Ay59O
- てか>>1の文章って
すげー状況が頭に浮かぶんすけど
まじやべーっすよ
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:22:43.95 ID:v4fOGnew0
- そして最後の一週間は、スピードと持久力を半分ずつにしたような練習だった。
スピードの限界練習もするが、何本も走るらせるような無茶はなく、フォームの固定に重きが置かれた。
そして試合のスピードを想定した練習が主になった。
発射台の練習も入り、形ばかりではあるが見られないほどではない、いっぱしのスタートも身につけた。
( ^ω^)「ツン、僕はこれで、所歩に勝てるかお……?」
ξ゚听)ξ「川原で花占いでもして来なさい」
これが決戦の前々日に、二人がした会話だ。
決戦一日前、いよいよ最後の調整となった。
最後の日は無理な練習はできない、それなりの距離をゆっくりと乗った後は、発射台の練習に使用した。
ξ゚听)ξ「あんたのは地面に一回大きくぶつかっているのよ、ドンって。
そうじゃなくて、流れるようにスムーズに発車、分かる?」
津出がピストに乗り、試しに発射してみせた。
しかし内藤の表情は曇ったままだ。
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:24:31.88 ID:kK3kfs6HO
- 支援
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:24:54.34 ID:v4fOGnew0
- (;^ω^)「言いたいことは分かるんだお、地面にぶつかってロスが生じているみたいな感じだお?
でもそれを自分でやるとなると、全然訳がわかんないお」
ξ゚听)ξ「体ごと移動する感じよ、こうやって……」
(;^ω^)「いやいや分かるんだお、分かるけど、それをやるとなるとやっぱり勝手が違うお」
スタートも練習を重ねたことでマシにはなったものの、やはり所歩のようにはうまくいかない。
ξ゚听)ξ「所歩ね、あいつはスタートおかしいわよ、上手過ぎて逆に気持ち悪いわ。
私はその点ちょっと頼りないかもね、ロード出身だから経験が浅くて……」
(;^ω^)「いやいやいやいや、自分には何が違うか分からないお」
スタートにはよほど自信がないのか、津出は似合わず言い訳じみた言葉を放ったが、内藤には謙遜にしか聞こえなかった。
津出や所歩のスタートは、流れるようにスムーズなものだった。
比べて内藤の場合、空白とでもいうのか、スタート途中に力をロスしている感覚が付き纏った。
模範となる二人のスタートが心地よいクラシック音楽であれば、内藤の場合は途中で音が割れてノイズが乗り、耳につく不快感が伴うのだ。
ξ゚听)ξ「とりあえず当初よりはよっぽど上手くなったわ、私も発射台には苦労させられたし、とりあえずは及第点かしら?
泣いても笑っても決戦は明日だから、今は回数だけ繰り返して当日にミスだけはないようにしましょう」
( ^ω^)「わかったお……」
そして何度と不協和音を感じながらも、聞けるようになっただけマシなクラシックの体現を繰り返した。
ロード経験者の津出も苦労したというのだから、一朝一夕で正しいスタートを身につけることはできないのだろう。
それでも繰り返したことに意味はあった、見るに堪えるスタートになったことは内藤自身が自負できる。
あとは津出の言うとおり、明日の本番で失敗してすべてを無駄にしてしまわないこと、だ。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:27:52.11 ID:v4fOGnew0
- ( ^ω^)(そうだお、津出もロードからの転向なんだお……)
スタート練習も何度と繰り返したのだろう、ピストだって他人に教えられるほど乗りこなせるように、延々と練習を続けたのだろう。
ロードとピストは同じ自転車でも構造は根本的に違い、感覚的にも随所に小さくも確実な異なりが点在した。
他人に教える道を選んだなら、当人が見合うだけ上手く乗れなくては話にならない、ピストを十分に乗りこなせている津出の苦労は計り知れない。
ξ゚听)ξ「あー、ちょっと懐かしいわね、私もロードでは、今のあんたみたいに四六時中バイクに乗っていた時期あったわ」
やはりそうなのだ、常にバイクと一心同体であり、常にバイクとつきあっていたからこそあれだけ輝かしい結果が残せるのだ。
悔しいが所歩もそうなのだろう、昔からずっとバイクに乗ってきているからこそ、内藤のように一朝一夕乗り始めのものに負けられないという思いもまたあるのだろう。
だからこそ内藤は前日でもこうして根気強く乗るのだ、努力を重ねるのだ。
努力は人を裏切らないと誰かも言っていたが、間違いなく努力が力となっているのは感じ取れた。
そして所歩との決戦、実力では間違いなく負けているが、それでも何とか一矢でも報いることができればきっと、己の努力を認められるだろう。
( ^ω^)「そういえば、津出はどうしてロードからこっちに転向したんだお?」
以前も気になったことだ。
津出はロードで輝かしい経歴をいくつも残していたはずだ、優勝こそなかったものの、陸上時代の内藤とも比べるべくもない成績が。
にも拘わらず女性の括りがない競輪へと転向したのだから、何か大きな理由があるはずだ。
津出は、まるで内藤が頓珍漢な質問でもしているかのような、小悪魔じみた微笑を浮かべた。
それは見惚れるほどに女性的で、津出らしからぬ優しさすら垣間見えた。
ξ゚ー゚)ξ「明日、勝ったら教えてあげるわ」
答えはお預けということだ、悪戯っぽい返しにまた、不思議と女性らしさを感じた。
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:27:58.83 ID:c9ewsmmu0
- しえn
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:30:09.68 ID:IsU7Ay59O
- し
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:30:25.48 ID:v4fOGnew0
- そうか、試合はもう明日なのだ。
ブルッと体が凍えたのは、寒さでなければ恐怖でもない。
武者震いだろう、今の自分がどこまでできるのか試したい気持ちが昂っているのだ。
( ^ω^)「津出、明日僕は、本当に勝てるのかお?」
ξ゚听)ξ「当たり前じゃない」
もっともこの答えは信頼には至らない、ここはこう答えるしかないのだから、内藤もそれを分かっていて聞いたのだろう。
ここで自信喪失させることなど言えるわけがない。
( ^ω^)「でも明日、所歩を本当に風除けにできるのかお……?
たぶん、スタートから一気に本気で飛ばされたら僕は後ろにつくこともままならないお」
ξ゚听)ξ「ねぇ内藤、アンタは負けに行くの?」
津出の言いたいことはよく分かる、同時に内藤の言いたいことだって津出は分かっているはずだ。
あまりに無謀な勝負、心配するなといっても勝敗が絡む以上、不安ばかりを考えずにはいられない。
ξ゚听)ξ「前の戦いのとき、アンタは初めに飛ばし過ぎると駄目だなんて思いながらセーブしていたかしれないけれど、
慣れない筋肉は簡単に疲弊し、結局はすぐにも限界が来てしまったのよ。
とりわけ先行されて負けを覚悟した精神状態が徒労感を生み、余計に疲労を蓄積したの」
( ^ω^)「わかるお、でもこの戦いだって、所歩が僕のスピードに合わせてくれるとは思えないお!」
ξ゚听)ξ「大丈夫よ、せっかくトラックが使えて対戦相手もいるのに、相手を蔑ろに独走するかしら?
そこは私を信じてとしか言えない、そして自分を信じろとしか言えないわよ、未来の話だから」
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:30:45.10 ID:BBGFiL1Z0
- 支援
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:32:04.42 ID:v4fOGnew0
- その通りなのだ、ただ内藤は不安を吐露したかっただけだ、誰かに話ししたかっただけだ。
不安は仕方ない、プロとなろうとも、誰もが悩まされ苦しむ。
内藤だって例外じゃない。
それを津出が強く咎めないのは、やはり内藤を信頼しているからだ。
明日になれば内藤はスポーツマンとして、心を落ち着けて闘志を剥き出しにしてくるだろう。
だから今は少しくらい言わせてあげよう、それをすべて受け入れ、明日への糧となる言葉を捧げよう。
ξ゚ー゚)ξ「自信を持ちなさいよ、私がこんなにも自信持っているのに、アンタが持たなければ意味がないでしょ?
無駄にしないでよ、アンタに捧げるこの自信を」
これでいいのでしょう、いつも通り自信に満ちた鋭い津出の目が、内藤に語りかけた。
ありがとう、それでいいのだと、内藤は黙って頷いた。
二人は最後に意思を確認し、ともに心が通っていることを確認した。
明日へと向けて、あとは臨むだけだ。
( ゚∀゚)「すっげ、マジ今日まで練習やってたw」
その場に突然、長岡の拍子抜けた声が響く。
せっかく意思疎通の確認ができて気持ちが奮ったというのに、内藤は眉間にしわを寄せ、嫌悪を示した。
津出も今回ばかりは、都合の悪い笑顔で出迎える。
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:32:08.81 ID:IsU7Ay59O
- し
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:33:06.81 ID:a84HR6uK0
- 支援
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:33:13.40 ID:c9ewsmmu0
- 支
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:33:33.50 ID:v4fOGnew0
- ξ;゚听)ξ「長岡さん、布佐さんならいつもの食堂で食事中ですから」
( ゚∀゚)「違う違う、俺はお前らを見に来たんだよw
しかし本当にいるとはな、マジ大ウケだわw」
立場も実力も経歴も、すべてにおいて長岡は一目を置くべき相手だ。
それでも性格は一癖も二癖もある、布佐の知り合いである手前無碍には扱えないが、この大事な時に首を突っ込まれるのは勘弁だ。
( ゚∀゚)「おーおー、それじゃ頑張っている……えーと、なんて言ったか、そこの少年に俺から助言をやるよ」
ξ;゚听)ξ「……お願いですから長岡さん、変なことは言わないでください」
( ゚∀゚)「あのな、競輪ほど、努力が無駄なものはねーわけよw」
聞いた瞬間、内藤がグッと長岡を睨みつけた。
今しがた津出の努力を感じ、頑張らねばと気を入れ直したばかりだというのに、その言葉は聞き逃せない。
津出を馬鹿にされたかと思った。
今までの練習を否定されたかと思った。
どこまでいい加減で堕落しているのだこの男は。
ξ;゚听)ξ「長岡さん、本当に止めてください!」
(#^ω^)「帰れお!」
( ゚∀゚)「怖い怖い、それじゃ布佐の元に逃げ込むとするかな……ああ、明日は見学に来るからよろしくな。
所歩じゃなくてお前の応援に来てやるからなw」
(#^ω^)「早く帰れお!」
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:33:38.29 ID:+iUxxuPg0
- これは・・・決戦前で今日は終わりフラグか・・・?
支援
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:33:42.73 ID:IsU7Ay59O
- し
- 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:35:16.98 ID:IsU7Ay59O
- し
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:36:21.09 ID:v4fOGnew0
- 内藤が怒鳴ってもへらへらと笑ったままで、長岡はトラックを後にした。
彼はどうしてこうも内藤の前に現れようとするのか、まったく変な人間に興味を持たれたものだ。
ξ;゚听)ξ「内藤、気持ちは大丈夫……?」
(#^ω^)「お生憎様、へそ曲がりは専売特許だお。
むしろムカついたお陰で吹っ切れたお、絶対明日はやってやるお」
ξ;゚ー゚)ξ「あんたらしいわ」
津出も安心し、呆れた笑いを添える。
内藤の負けず嫌いは折り紙つきだ、挑発された事で、逆に明日へ挑む気持ちが強まっていた。
相手の思い通りになど動いてやるものか、悔しさはすべて戦意と集中力に持っていってやる。
それだけが得意なのだから。
泣いても笑っても試合は明日、内藤は気持ちを強く持って、その日を迎えた。
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:38:14.89 ID:1jmLdi50O
- 支援
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:38:55.50 ID:v4fOGnew0
- と、よみ通りこれにて第十八レースは終了です。
夜遅くまでお付き合いいただきありがとうございました。
投下報告してくださる方、そして訂正を受け持って頂けたまとめサイト様。
また、随所ながら投下のために投下が遅れても支援をくれた皆様、ありがとうございました。
20話でまた一区切りをつけますので、次は二話一気に投下できるといいです。
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:39:29.21 ID:8EcDc9F70
- 乙
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:39:34.70 ID:BBGFiL1Z0
- 乙!
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:40:01.96 ID:kK3kfs6HO
- 乙
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:40:15.78 ID:c9ewsmmu0
- おつ!!
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:40:48.59 ID:IsU7Ay59O
- 乙
何気に一番楽しみにしてるよ
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:42:26.92 ID:+iUxxuPg0
- 乙( ;∀;)
- 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:46:24.77 ID:C6RDMJhEO
- 乙!
気になって眠れなかった
おやすみ!
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:48:43.66 ID:AI3CgsE0O
- 乙
三話同時投下とか、作者の執筆速度が一番過負荷掛かってる罠w
- 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:51:01.19 ID:yh3YM5GnO
- 乙
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:51:09.97 ID:a84HR6uK0
- 乙!
- 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/07/28(月) 00:55:29.76 ID:ZSOpRzbeO
- 乙!
面白かったが、ながら投下してる場所があるんだな・・・
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