( ^ω^)が競輪に挑戦するようです
- 1 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:08:55.69 ID:3O99mdVr0
- まとめサイト様
http://boonsoldier.web.fc2.com/keirin.htm
- 2 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:10:34.62 ID:3O99mdVr0
- 登場人物
( ^ω^) 内藤:陸上の400mで県で一位を取るほどの猛者。怪我により陸上を引退し、競輪選手を目指す。
('A`) 毒男:内藤の中学時代の友人で、現競輪選手。なりたてで、実力はまだまだ。
J( 'ー`)し 母親:内藤の母親、ギャンブルが嫌いで競輪を良く思っていない。目下、競輪を目指す内藤とは対立したまま。
(*ノωノ) 風羽:陸上部のマネージャーで内藤の元彼女。すれ違いにより別れる。
(,,゚Д゚) コーチ:大学陸上部のコーチで、レースの度に怒鳴りあげた。内藤と仲違いの上、意思疎通が計れずに終わる。
ミ,,゚Д゚彡 布佐:万夫不当の競輪選手だった。
ξ゚听)ξ 津出:ロードバイクを乗りこなす女性、内藤に目をかける。
(´・ω・`) 所歩:師匠の怪我で布佐の元に来るが、津出と決裂。群を抜いた実力の持ち主。
高良:毒男の師匠
長岡:毒男の尊敬する競輪選手
高岡:S級1班の競輪選手である長岡の弟子
- 3 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:13:00.58 ID:3O99mdVr0
- 第十三レース「滅裂の一転」
ξ゚听)ξ「遅いわよ、早い目に来るくらいしてもらわないと」
(;^ω^)「ごめんお」
内藤が怒りの鞘を収めるころには、ちょうど津出との待ち合わせ時間となっていた。
慌てて競輪場に戻ると、彼女は先ほどの出来事が無かったかのように、いつも通りのツンとした態度だった。
だからこそこの空元気が余計に先ほどの涙を彷彿とさせ、見ているだけでも痛々しく居た堪れなくなる。
ξ゚听)ξ「あら、体つき変わった?」
( ^ω^)「お? 一応この前ピスト乗れたから、それをイメージして練習していたお。
バイカーっぽくなっているといいお……」
ξ゚听)ξ「いいことね、そういえばこの前転んだ傷は大丈夫なの?」
( ^ω^)「全然平気だお」
肉体の変化は誰よりも内藤自身が感じていたが、他人に気付かれるとは思ってもみなかった。
津出は本当に相手の端々までよく見ている、普通の人間なら見逃すだろう内藤の努力をくみ取ってくれた。
ほのかなやりがいが心に現れたことに、内藤は嬉しさを感じていた。
そのまま津出に案内されて向かった部屋には、一台の赤いピストが設置されていた。
- 4 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:15:01.49 ID:3O99mdVr0
- ξ゚听)ξ「ほら、これがアンタのピストよ」
真新しく光沢を放つ真っ赤なバイク、白と黒のラインがわずかにはしる車体が、見た目にもとても速そうだ。
ヘルメットとシューズも色合いが統率されており、女性特有のセンスで上手くマッチしている。
内藤も一目見て「格好いい」と思えた。
だというのに。
念願の自分のバイクを手に入れたというのに、なぜか素直に喜べず、まるでピストまでが悲しんでいるかのように感じた。
内藤はできる限りの気遣いとして、ぎこちなく喜んでみせた。
( ^ω^)「おお、待ってましたお、赤くてかっこいいお、とても速そうだお!」
ξ゚听)ξ「本当に速いかは乗る人の腕次第よ、とりあえず微調整するから乗ってみて。
あ、ヘルメットとシューズはそこにあるから」
いつもの津出だった。
ツンとした具合がいつもの彼女過ぎて、ひどく不気味に感じた。
どうして悔しさをおくびにも出さずにいられるのか、先の出来事が夢じゃないかとすら思えるほど、彼女はいつもと寸分変わりない仕草だった。
内藤がピストに跨ると、その恰好を見て津出はあれこれと注文をつける。
もっと腕を伸ばして、もっとサドルの後ろに座って、腰を曲げないで、目線は前を見続けて。
そして一回一回、ミリ単位で微調整を行っていく。
一時間近く経過したのではないだろうか、そうしてとうとう内藤特製のピストが完成した。
やはり内藤は、心から喜べなかった。
- 5 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:16:58.36 ID:3O99mdVr0
- ξ゚听)ξ「ほら、試しに座ってみなさいよ、しっくりくるから」
( ^ω^)「ほんとだお、いい感じだお。
なんか自分専用って感じがするお!」
ξ゚听)ξ「そうでしょう、私が直々に調整したんだから、ありがたく思いなさい」
実際の乗り心地としては、些かの違和感が伴ったが、乗り慣れていないからだろう。
内藤はそう思いながら彼女のことをひたすらに褒めた。
先の所歩の言葉を否定するように、津出は最高のコーチだと、彼女を庇うかのように。
ξ゚听)ξ「……」
そんな内藤に向かって、津出は訝しげな目を向けた。
ξ゚听)ξ「あんた、なんでそんなに無理してるの?
さすがにこれだけ頑張ったのに空喜び見せられるだけだと、納得いかないわね」
(;^ω^)「いや、そんなわけじゃ……」
褒めていればいいなどと甘い考えで津出と話したことを後悔した。
彼女はその屈強な心で悔しさを見せぬよう自律しているだけでなく、決して高ぶることなく内藤を観察していた。
張本人を差し置いて、内藤が動揺していてどうするのだ。
( ^ω^)「……ツン」
ξ゚听)ξ「なによ」
- 6 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:18:07.39 ID:DUFbts4A0
- 支援
- 7 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:18:28.22 ID:3O99mdVr0
- ( ^ω^)「ツンについていけば、僕は本当に強くなれるのかお?」
この疑問には、さすがに彼女とて感情を見せぬわけにはいくまい。
口元を緩めると、隙を見せたカエルに食らいつく蛇のように、即座に身を乗り出して返答した。
ξ゚听)ξ「当たり前じゃない、強くなれるわよ、強くしてあげる。
すぐにも結果を見せてあげるわよ、一カ月もあれば十分にね」
具体的な期間を出して、津出はさらに内藤に歩み寄る。
彼女の嬉しそうな顔を見ると、先の涙が頭を掠めて、より内藤の心を締め付けた。
内藤は、津出に向かって笑顔を返した。
( ^ω^)「ピストありがとうだお。
喜びが中途半端ですまんかったお、僕は考えていたんだお。
……津出、僕に乗り方を教えて欲しいお」
ξ゚听)ξ「それって……」
( ^ω^)「僕の師匠になってほしいお」
途端に津出は人が変わったように満面の笑みを浮かべ、頬を緩めた。
ξ*゚听)ξ「もちろん、しっかりと鍛えてあげるから」
返答は今更確認するまでもない、当然の肯定だ。
師弟関係を結んだからといっても特に何の契りを交わすわけでもないが、互いの意思が通じ合った。
- 8 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:20:00.46 ID:3O99mdVr0
- 津出はようやくかと、今までの鬱憤を心の中で弾けさせた。
それ見たことか、やはり無償で親切をみせていれば、相手は靡いてくる。
内藤としても津出と組んで何の不利益もありはしない、むしろ断っていた今までがおかしかったのだ。
ξ゚听)ξ「すぐにもバイクのイロハを叩きこんであげるわ」
( ^ω^)「頼むお、僕は誰にも負けないくらい速くなりたいお。
誰にももう何も言わさないお」
ξ゚听)ξ「何があったか知らないけど、そうね、誰にも負けないくらい強くなりましょうか。
誰もに認めさせてあげるわ、あなたの力をね」
(*^ω^)「僕の力と、津出の力をだお!」
ξ゚听)ξ「……?」
津出が眉をひそめたことに、内藤は気付かない。
勢いづいた彼は、同意を求めながら高らかに声を上げた。
(*^ω^)「二人で倒すお、そして認めさせるお、あの所歩って男に!
僕たち二人で倒すんだお!」
瞬間に津出の表情が固く凍りつき、慌てて内藤は口をつぐんだ。
(;^ω^)「……ツン?」
ξ#゚听)ξ「ふざけないで!」
- 9 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:21:49.23 ID:3O99mdVr0
- あまりに鋭い一言に、途端に内藤は気押された。
失言したのだと手遅れにも分かった、それに触れてはいけなかったんだと、今更ながらに分かった。
どうしてこうも相手の気を立てることしか言えないのだろう、内藤は自分の粗相な性格を恨んだ。
(;^ω^)「違うお、勘違いだお!
違う、僕は別に所歩がどうだとか……」
ξ#゚听)ξ「止めて、何よあんた、さっきのやり取りを聞いていたのね!
私はそんなに惨めかしら!?」
津出の中でせき止められていた感情が、よりひどい形で氾濫した。
同情、憐れみ、どれだけ惨めでどれだけ可哀そうな存在なのだ。
あれだけ悔しい思いだって隠そうと頑張っていたのに、相手はそんな自分を哀れに思って囃したてては、譲歩してきたのだ。
ξ#゚听)ξ「ふざけないで、今まで私がどれだけ頑張って尽くしても拒んでいたくせに、憐れみなんかで心変えないでよ!
女だからって言われないよう頑張ってきたのに、今までの私の頑張りをそんなに簡単に否定しないでよ!」
津出が腕をふるって内藤の頬を叩き、乾いた音が部屋に反響した。
ξ#゚听)ξ「あんたもあいつと一緒よ、止めてよ、そんな下らない同情なんていらない……!
師弟関係もこっちから破棄するわ、もういい、アンタは勝手にやっていればいいわ」
(;^ω^)「ツン」
- 10 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:23:27.58 ID:3O99mdVr0
- 内藤が何をフォローしようと、彼女は耳を貸す様子すら見せない。
彼女にとっては思わぬ裏切りだったのだろう、所歩によって絶望の淵に立たされ、内藤の垂らした蜘蛛の糸にしがみついたなら、
それは今までの彼女を否定したも同然な同情でしかなかったのだ。
ふざけるな、馬鹿にするな。
蔑まされる覚えなど無い、優越に浸られる覚えなど無い。
ξ#゚听)ξ「今まで色々と付きまとって迷惑かけたわね、もういいわ。
あんたとはこれまで、もう金輪際構わないから安心して」
バッグからシューズとヘルメット、部屋の隅からローラー台を持ち寄ると、内藤に一方的に預けた。
ξ゚听)ξ「バイバイ」
立ちすくむ内藤に目配せ一つして、彼女は去っていった。
- 11 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:25:00.93 ID:3O99mdVr0
-
('A`)『もしもし?』
( ^ω^)「毒男かお?」
('A`)『俺の携帯だ、俺以外が出てたまるか。
で、どうしたんだ?』
津出と別れた後、内藤はしばしの間、ただ愕然と立ちすくんでいた。
納得がいかない、自分は悪くなかったはずだ。
なのにこうして意見の相違から津出と別れてしまったことが、心から悔しかった。
相手のことを思ってやったことだというのに、どうして喧嘩別れになってしまうのか。
自分が相手に何ができるのかと思い、必死で行動したことがどうしてこんな結果を招くのか。
意思と結果の相違と理不尽さに、釈然としない思いばかりが沸き立った。
しかしここで足を止めてしまってはいけない、彼にはこの道しかないのだから。
足を止めないためにも、今できる事を必死に考えた。
そして思い立ったと同時に、深い考えなしに毒男へと電話をしていた。
- 12 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:27:09.10 ID:3O99mdVr0
- ( ^ω^)「毒男、津出って知っているかお?」
('A`)『誰だそれ、有名人か?』
( ^ω^)「ロードレースでの高校総体入賞者だお」
('A`)『うーん……知らないが、それだけ実力があれば簡単に調べられそうだな』
( ^ω^)「調べて欲しいお」
(;'A`)『……は?』
毒男は完全に虚をつかれた。
(;'A`)『どんなキラーパスだ、自分で調べろよ、今の御世代ネットでも何でもあるだろ。
俺はからきしだがな』
( ^ω^)「僕もからきしだお、だから毒男の知り合いに、詳しい人いないかお?
できる限り綿密に調べてほしいんだお」
(;'A`)『お前な……』
毒男は呆れかえったが、大学から完全に縁を切った内藤には、友人と呼べる人自体がいない。
苦肉の策として、頼れるのは毒男だけだった。
しかし毒男も競輪学校に缶詰めだった一年があり、高校時代の仲間とはほとんど疎遠となっていた。
友人に付き合えば練習をおろそかにしてしまうだけでなく、飲み会や徹夜をしては体調管理にも響く。
結局競輪という狭い世界での係り合いがメインとなってしまう、生憎そこにパソコン等に秀でた人間の心当たりはない。
- 13 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:28:05.44 ID:F/0V7iUuO
- 支援
- 14 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:30:23.42 ID:3O99mdVr0
- 悩みながら記憶を弄ると、ふと救世主が脳裏をかすめた。
('A`)『……あ、あーあー、一人いたわ、友人とも言い難いけど一応顔見知りかな。
パソコン詳しそうだし、なんとか頼んでみるよ』
( ^ω^)「心の友よ、ついでに所歩ってやつも頼むお」
('A`)『俺は都合のいいドラえもんか、まぁ了解した、早い目に知らせるわ。
つっても調べるのは俺じゃないから、確かな補償はないがな。
とりあえずメールで本名とか分かるだけのことでも教えてくれ』
毒男から結果の連絡があったのは、それから四日後だった。
ポストに投函された分厚い封筒、中からは30枚にも及ぶ資料が飛び出してきた。
やはりメインはインターネット上の情報源だろう、レース結果がほとんどだったが、その整理が綺麗になされていた。
最高記録やシーズンの平均記録、天気や気温に至るまで、どこのサイトがこれほど膨大な資料をまとめていたのだろうか。
データのまとめ方には個人のセンスが出るものだろうが、幸運なことに内藤にとっては非常に見易い作りだった。
津出と所歩、両方の選手が同じようにまとめられているところからすると、相当な暇人がネット上で全選手データでもまとめているのだろう。
その他、新聞や雑誌の記事のコピーが、参照先まで丁寧に記載された状態で一緒にされていた。
中には五年ほど前のものもある、新聞では新聞名だけでなく日付とページまでが詳細に追記されていた。
新聞記事では結果や略歴が載っているだけがほとんどだったが、インタビュー記事がそれぞれ一つあった。
雑誌記事の方こそ大会の結果ばかりで有能な情報は少なかった。
しかしたった数日でどこまで調べ尽くしたのだろう、どこかの探偵にでも頼んだのかといいたくなるほどだ。
- 15 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:32:09.23 ID:3O99mdVr0
- それらに目を通すと、おぼろげに津出と所歩の人生の軌跡がうかがえてくる。
津出は小学校のころ、父親の友人から勧められてロードの世界に入り込んだらしい。
練習熱心で、時間をかけては地元にある様々な難所地形を練習の舞台としていた。
女性で早期からロードの世界に入り込む人は少ない、気づけば彼女は日本有数のロードバイカーとなっていた。
小学生のころから大会に出場し、子供を対象とした短い距離に満足できず大人の部門に参加していた。
当然ボロ負けはするのだが、その経験を糧として断続的な練習を重ねてきた。
特筆するのはそのバランスの良さだそうだ。
上りに下りに平坦、向かい風に追い風に雨天、あらゆるコンディションに満遍なく対応できる器用な選手。
そして芸術とさえ謳われるペダルの回転は、細身な彼女からロスの少ない、力強いパワーを生み出すそうだ。
( ^ω^)「すごいお、経歴も全国大会で入賞ばっかりだお……」
しかし内藤が釈然としない理由は、そんな彼女が競輪の世界に飛び込んできたことだ。
ロードであれば実績を携えているというのに、あえて競輪に飛び込んでくるのだから、
挑発を抜きにしてもお金が理由ではないだろうかと思えてしまう。
( ^ω^)「……」
考えても想像だけで終わってしまうだけだろう、津出の過去には見切りをつけて、所歩の資料を見てみる。
- 16 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:32:35.92 ID:F/0V7iUuO
- 支援
- 17 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:32:53.59 ID:/1F6qrSJO
- 支援
- 18 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:34:48.18 ID:3O99mdVr0
- 所歩は、小学校五年の頃に親戚からバイクを貰ったことがきっかけでこの世界に入ったそうだ。
中学の時、バイクに乗っているところを偶然、室内レースの選手に声かけられて競技として開始。
みるみる間に才能は開花し、高校時代には1000mスプリントで国内優勝を飾っている。
一年前の新聞では、『現在は、大学で勉強をしながら、将来入るチームを考えているところだ。』と締められていた。
それが今、どういうわけか進路を変更して競輪を見据えているのだ。
( ^ω^)「つまり、大学中退かお……」
悔しいかな、内藤と全く一緒だった。
ずっと続けてきた競技と大学を止めて、競輪という新たな道へ進んだのだ。
へたに共通点を見出してしまったことが心辛く、もどかしかった。
彼と同族にされたような嫌悪感を感じながら資料へと再び目を戻す。
無味乾燥な結果だけが羅列されている中、とある記事に内藤の目はくぎ付けになった。
内藤はすぐにも立ち上がり、真新しいピストに乗って外に飛び出した。
向かった先は、家から10分ほどで到着できる近場にある、橋のたもとだった。
資料に目を通しながら一時間余り待てば、一台のピストバイクが通りかかる。
- 19 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:37:32.27 ID:3O99mdVr0
- ( ^ω^)「久しぶりだお」
(´・ω・`)「おや、奇遇だね、こんなところでどうしたんだい?」
所歩は以前のやり取りを何ら悪びれる様子もなく、爽やかに話しかけてくるものだから余計に鼻についた。
(#^ω^)「お前が練習場としてここを通ると知ったから、すぐさま来て待っていたんだお」
(´・ω・`)「なんだい、そうまでして僕に何か用でもあるのかい?」
( ^ω^)「お前、結局今は一人で練習しているんだお?
どうだお、競輪場を使って誰かと走りたくないかお?
偶然にも明後日の月曜日の夕方から競輪場が空いているんだお」
内藤の挑発的な態度で、所歩はその質問の意図を読み取った。
期せずして口元がゆるむ。
(´・ω・`)「……いいね、確かに競輪場で実際に走りたいと思っていたところだよ。
だが、その真新しいピストを見る限り初心者に思えるけど、そんな君に僕の相手が務まるのかい?」
( ^ω^)「やってみないと分からないお」
内藤は今まで嫌だ嫌だと邪険にしてきた陸上でも全国レベルとなったのだ、本気でこの男を打ち負かしたいと考えた瞬間から負ける気がしなかった。
(´・ω・`)「確かに」
所歩は形ばかり悩んだ素振りを入れながら、淡泊な相槌を返した。
そして表情を変えるでもなく、相変わらずの悪気無い表情でこんな事を聞いてくる。
(´・ω・`)「それで、僕はわざと負ければいいのかい?」
- 20 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:39:19.61 ID:3O99mdVr0
- ( ^ω^)「お?」
(´・ω・`)「だって、この前の彼女が見に来るんだろう?
僕を負かして格好いいところを見せようというんじゃないのかい?」
内藤が咄嗟に掴みかかったが、所歩は身じろぎ一つしなかった。
面倒そうな表情が目に映り、思わず手を出そうになるも、すんでのところで引き止まった。
(#^ω^)「お前、いい加減にしろお。
さすがにそろそろ我慢の限界だお」
(´・ω・`)「……何の我慢だい? 気を遣ったことに感謝こそされど、そんな言葉を言われる覚えはないけどね」
(#^ω^)「舐めるなお!」
襟をつかむ腕の力を強くすると、所歩の口から舌打ちが漏れた。
(´・ω・`)「舐めているのはどっちだい、初心者が僕と真面目に競って勝つ気でいるのかい?
君の方こそふざけるのもいい加減にしてもらいたいね。
あと襟が伸びるから引っ張るのは止めてくれないか」
(#^ω^)「……!!」
(´・ω・`)「そうだね、条件をつけようか。
僕が負けたなら何でも言うことを聞くよ、あの女の弟子にでもなってやろうじゃないか。
その代わり君が負けたら……その、新しいピストを貰おうか」
(;^ω^)「ピストを……!?」
(´・ω・`)「それで良ければその勝負、受けて立つよ」
- 21 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:39:27.73 ID:F/0V7iUuO
- 支援
- 22 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:39:27.99 ID:iZ2UKIZh0
- 来てたのか
激しくwktk
- 23 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:40:42.99 ID:FpeABhbKO
- 支援
- 24 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:42:27.56 ID:3O99mdVr0
- 購入してからまだ間もないピストを渡せというのだ。
ようやく貯めたお金を使い、津出が苦労して調整してくれた特製のピストを。
良い返事など返すわけがない、所歩もそれを見越しているのだろう。
変化無い表情が、それ見たことかと話しかけてくる。
(´・ω・`)「僕は僕自身を賭ける、君はそのピストバイクというわけだ」
所歩が条件を復唱する、早く答えろと言いたいのだろう。
何くわぬ顔での催促は、この男とは相いれないと確信するには十分だった。
(´・ω・`)「どうだい、彼女からのピストを、君は賭けられるのかい?」
(#^ω^)「!!」
所歩と初めて出会った日に、津出がピストを調整しているところでも見ていたのだろう。
賭けるピストは津出が作ったものと知った上で、この条件を突きつけてきたのだ。
絶対に相手が呑むわけがないと分かっていたからこそ、こうやって提案してみせたのだ。
この男にとっては、まるで津出の事などどうでもいいのだろう。
彼女が悔しさに身もだえ泣こうと、感情を隠してピストを完成させ笑顔をみせようと、この男はすべてを奪うのだ。
何の権利があるのだ、どうして彼女の感情を蹂躙するのだ。
津出の泣き顔が頭をかすめた瞬間、内藤の口から言葉が先んじた。
(#^ω^)「望むところだお」
- 25 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:43:26.48 ID:F/0V7iUuO
- 支援
コレは負ける
- 26 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:44:06.54 ID:3O99mdVr0
- 瞬間の爽快と後悔。
悪事に手を染めた瞬間はこのような気分なのだろう、相反する感情が心を支配した。
僅かに見せる愉悦が懸念に押し潰されて、自身の今の感情を見失った。
杭で足を刺され固定された状態で、激しい後悔に後ろ髪を引かれるも、もう言葉を放った後だ、その場から後ろに引くことはできない。
(´・ω・`)「そうかい、月曜の夕刻だね、承知したよ」
所歩は間髪入れず受け答えすると、後悔に苛まれる内藤を傍目にその場を後にした。
最後まで表情を変えなかった、それが内藤をより後悔に導いた。
少しでも相手の意表をつけたならばまだ「してやった」と思えただろうが、結局相手は眉の一つも動かさずに受け答えをして去っていった。
(;^ω^)「……」
今まであった戦意が途端に消失していくのが分かった。
ここまで怒りばかりが先行していたが、冷静となったところでようやく、過酷な現状を受け止めざるをえなくなった。
決戦は明後日、残された時間は明日一日だけだ。
勝敗は手に取るように分かる。
絶望的だった。
- 27 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:45:42.03 ID:FpeABhbKO
- 支援
- 28 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:46:01.53 ID:3O99mdVr0
- これで13話目終わりです。
少し休んでから、14話目を投下しようと思います。
- 29 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:46:03.35 ID:FpeABhbKO
- 支援
- 30 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:50:57.12 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 31 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:55:11.61 ID:3O99mdVr0
- 第十四レース「無謀な挑戦」
ミ,,゚Д゚彡「なぁ、所歩って選手を知っているか?」
( ゚∀゚)「は?」
突拍子もなくそんな質問をされても疑問が出るばかりだ。
この日曜に弟子のレースが終わって一息ついたので、旧友に会いに隣県の競輪場まで出向いた。
久しぶりに出会ったのだから互いに積もる話もあるだろうというのに、相手の第一声はそれだった。
布佐は質問を投げては黙りっきりで、長岡の返答を待っていた。
布佐と長岡は競輪学校以来の竹馬の友で、学校では二人でトップの座を競い合った仲だ。
競輪選手となってからも二人は時に協力しては時に競り合い、よき友でよきライバルだった。
実力は布佐の方が幾分と強いも、長岡はそれを補って余りあるレース構成力で何度と布佐をかわしており、まさに一進一退の関係だ。
互いに第一線を退きはしたが、つい数年前までは競輪界を牽引した仲でもある。
この二人がマスコミに取り上げられたことで、世間へ競輪という競技が深く浸透した点でも、競輪界への貢献度は計り知れない。
そんな二人の久しい再開は、布佐の出し抜けの質問のために味気ないものとなってしまった。
だがそのどこか抜けた感じもまた彼らしいか、長岡は薄笑いで言葉を返した。
( ゚∀゚)「聞いたことある気はするが、それもだいぶ前だった気がするな……
いずれにしても思いつかないってことは、大した選手じゃないんだろ」
ミ,,゚Д゚彡「いや、競輪選手じゃなくてトラックレース選手だ。
二年前のスプリント競技で全国四位になっているが、実力的には優勝してもおかしくなかったヤツだ」
( ゚∀゚)「あーあー、だから聞いたことあるのかもな、思い出せないけど納得したわ」
- 32 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:55:29.92 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 33 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:55:54.54 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 34 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:56:55.72 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 35 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:57:39.77 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 36 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:58:09.77 ID:3O99mdVr0
- 自分で勝手に満足しているあたりどこか抜けている、それもまた彼らしいかと、布佐は話を続けた。
ミ,,゚Д゚彡「それでだ、もうすぐその選手がここで走るらしいんだ」
この日の夕刻、競輪場で布佐が弟子の練習を見終えたところに、一人の男がやってきた。
内藤という名の男は津出の名前を出すと、少しの時間だけ競輪場を貸し切らせて欲しいと提案してきたのだ。
その後に使用する予定はなかったが、一応理由を聞いてみれば勝負をするそうだ。
しかも相手はつい最近弟子入りを断ったばかりの所歩というから驚きだ。
ミ,,゚Д゚彡(内藤ってのが津出の弟子候補だったんだろうな……)
内藤、所歩、津出。
この三人の間に何があったかは知らないが、それぞれの関係が決裂しただろうことだけは分かった。
その証拠に、津出に確認を取ろうと連絡を入れると「どうでもいい」と一蹴されたのだから。
( ゚∀゚)「マジでか、それはちょっと興味あるな。
1000mタイムトライアルでもすんのか?」
ミ,,゚Д゚彡「それが二人での疑似レースだとよ」
( ゚∀゚)「二人のスプリントかよ、どっちかクソ速かったら勝負になんねーなw
そもそも所歩ってやつの専門じゃねーか、対戦相手ってのは速いのか?」
ミ,,゚Д゚彡「さーね、だから見に行くんだ」
- 37 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:58:52.11 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 38 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:59:00.75 ID:3O99mdVr0
- 布佐も内藤が初心者なことは承知していた。
津出が目をかけるのだから師匠はいないのだろうし、新しいピストを手に入れようというのだから未経験者だと目星がつく。
しかし今それを言ってしまっては長岡の興味をそぐと思ったか、口をつぐんだ。
予定時刻まであと30分、二人して観戦席へ行くと、話を聞きつけた選手も数名、まだかまだかと待機していた。
どうやら観戦者はそこそこ多そうだ。
ミ,,゚Д゚彡(さて、津出が目をかける青年か。
くれぐれもつまらない走りだけはしてくれるなよ……)
時節は一月の下旬、震えるのは寒さか、戦いの期待からくる武者震いだろうか。
- 39 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:59:32.92 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 40 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 20:59:58.25 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 41 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:00:20.48 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 42 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:00:41.97 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 43 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:01:06.39 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 44 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:01:25.43 ID:3O99mdVr0
- (´・ω・`)「さて、ピストとお別れの挨拶は終えたのかい?」
(#^ω^)「お前こそ、土下座の準備はしてきたかお?」
顔を合わせるや否や、二人の牽制が始まった。
内藤は約束を交わした日にこそ後悔が先んじたが、次の日には割り切り、陸上時代に培った根性と気迫で負の感情を薙ぎ払った。
それでもベストの体調で戦いをするために昨日は無理をせず、長距離のゆっくりとした練習でピストの感覚を磨いた。
ピストに乗ってから一週間、師匠もいない内藤には、乗り慣れるためにサイクリングするだけが精一杯だった。
そんな基礎すら盤石ではない彼が挑む敵は、あまりに大き過ぎた。
内藤が気持ちを昂らせて闘志をむき出しにしようとも、頭の片隅には「無謀」という単語がこびりついて取れなかった。
(#^ω^)(今更後悔しても遅いお、やるしかないお!)
心が折れそうになる度に、津出の涙を思い浮かべた。
彼女の涙が彼の気迫を再燃し、常に強気で勝負へ向かわせた。
二人は一言だけ言葉を交わすとそれ以上は不要と感じたか、黙って簡単にアップをする。
さして時間をかけることもなく、すぐにも発射台が準備された。
競輪の発射台は縦に平ぺったく、後輪をすっぽりと包む大きなケースのようになっている。
後輪のみを完全に固定することで、ピスト全体を安定させる仕組みだ。
しかし内藤は初体験で、設置の仕方が分からない。
手を拱きながら、横目で所歩を様子を伺った。
そして見よう見まねで、発射台のローラーを後輪で押し上げて設置した。
- 45 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:02:26.56 ID:3O99mdVr0
- (´・ω・`)「スタートもできないとか、せいぜい勝負以前の問題にはならないように頼むよ?」
( ^ω^)「……」
内藤が真似たのを気付いていたのだろう、相手の減らず口への怒りは、すべて集中力ではねのけた。
陸上の短距離では、スタートの集中力で順位がいくつも変わる。
上位選手になればなるほど、自分流の集中方を体得している。
内藤の場合は手、肘、肩の順に適度にほぐして、軽く三回ジャンプする。
その後めいっぱい、ゆっくりと時間をかけて息を吐くのだ。
(´・ω・`)「……」
所歩も黙ると、目を内藤から背けた。
スポーツにおいてまったくの素人ではないと判断したのだろう、その目は真剣なものになっている。
二人がスタートに構えると、愛好会の人がスタートを促した。
- 46 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:04:24.86 ID:3O99mdVr0
- ( ゚∀゚)「お、いよいよ始まるみたいだな。
……しかし構えで分かるな、挑戦者の方は乗り慣れてなさそうだぜ?」
ミ,,゚Д゚彡「みたいだな、当然だろうが」
( ゚∀゚)「ん?」
ミ,,゚Д゚彡「それもそうさ、あの男は乗り始めてから一週間程度しか経っていない。
しかも誰かに教えてもらっているわけでもないだろうし、初心者に毛すら生えていない状態だ。
それが所歩に挑戦しようなど、無謀もいいところだよ」
暴露を聞くや、長岡はブフッと盛大に空気を吐く。
そして布佐の背中を叩きながら、大袈裟に笑いだした。
( ゚∀゚)「なんだそりゃ、それじゃこの戦いは100mで終わるなw
見てみろよ、ピストに跨りながら左右に揺れて、発射台の安定性を見ているぜw
マジ初心者だ、マジうけるw」
ケラケラと笑い声をあげる長岡を無視して、布佐はその目を内藤に向けていた。
体格はしっかりとしている、いっぱしのスポーツマンではあるようだ。
土台はある、なるほど津出が目をかけるのも頷ける。
しかしスポーツマンとしての土台こそあれ、バイカーとしての基礎はまるで無い。
勝負を決するのに100mもいらない、10cmもあれば十分だろう。
- 47 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:04:32.46 ID:iZ2UKIZh0
- 支援
- 48 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:05:24.41 ID:3O99mdVr0
-
「それでは、いきまーす」
スターターがそのピストルを天へと掲げて支持した。
内藤と所歩の体が固まり、その場が静寂となった。
「構えて!」
完全なる音への集中、頭は音を聞くと同時に反射的に体を動かせるよう、明鏡止水の心境に。
ピストルの先端から小さな光が放たれ、刹那遅れて乾いた音が鳴り響いた。
- 49 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:06:09.51 ID:iZ2UKIZh0
- さあ、どうなる?
- 50 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:06:18.40 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 51 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:07:09.18 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 52 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:07:30.79 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 53 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:07:37.05 ID:3O99mdVr0
- 発砲音直後、すべてが止まったと錯覚するような一瞬の静寂の中、所歩はゆっくりと動いた。
まるでこの世界で彼だけが動いているような、美しく静かなスタートに誰もがその目をくぎ付けにされた。
池に波及する波のように、何にも抗わず、流れるようなその動き。
内藤は足が動かなかった。
音を耳に入れ、体に力を入れたというのに、まるで力が伝達されていないような、不可思議な状態。
暗礁に乗り上げた小舟のように、力を込めたにも拘らずペダルは動かなかった。
そして彼は微動だにせず、所歩のスタートを見送った。
悔しさ。
絶望。
あらゆる負の感情が彼を支配した。
無理だと思った瞬間、体の力が抜け、さらにスタートが一瞬遅れた。
ペダルが彼の力に応えたのはその後だった。
- 54 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:07:48.10 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 55 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:08:05.61 ID:RWwyzZX80
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- 56 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:08:22.29 ID:RWwyzZX80
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- 57 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:08:43.88 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 58 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:09:41.40 ID:3O99mdVr0
- (;^ω^)「……ッ!!」
後輪が発射台を乗り越えて地面に接触した瞬間、突然生まれた推力にハンドルがぶれた。
途端に後輪が弾む、一瞬ペダルが空回りした。
体とピストが瞬間に踊り、転びそうになるもギリギリで車体をコントロールする。
内藤がようやくピストを安定させて前を向いたとき、所歩はすでに小さくなっていた。
(;゚ω゚)(うそ……だお……?)
所歩はすでにバンクに差し掛かっている、内藤との距離は軽く見積もっても30mはあるだろう。
その差を埋められる気がしなかった。
( ゚∀゚)「何やってんだアイツ、スタートで力入れ過ぎだろw」
スタートはただ力を込めてこげばいいというものではない。
当然力はいるが、それ一つにも言葉だけでは伝えられないニュアンスを含む、いくつものコツがある。
初心者という証明、そして所歩の勝ちはこの瞬間に決まった。
( ゚∀゚)「これ以上は見ても無駄だな、勝因はスタートだw」
長岡は笑い飛ばしながらも試合から目を離さないが、スピードの乗り方も全く違う。
スムーズにあっという間にトップスピードにのった所歩に対し、内藤は出遅れの焦りもあってか、力任せで全くスピードに乗れない。
レース以前に、勝負するために必要な基礎が全くなっていない。
- 59 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:10:35.68 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 60 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:10:49.81 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 61 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:11:10.20 ID:3O99mdVr0
- 1000mの勝負では、400mトラックを2周半する。
カーブでは少しでも距離を短くするために最内側を走り、特にバンクに登ることはしない。
そうでなくとも内藤の頭には、バンクへのリベンジだとか、陸上時代の恐怖だとかが顔を覗かせることはなかった。
全く異質の恐怖、ならぬ絶望。
初めの半周が終わる頃、内藤と所歩の差は50m近くにもなっていた。
その距離はいつまでたっても詰まる事のない、永遠とも思えるほど長い距離に感じた。
(;゚ω゚)(遠い……離れるな……!!)
内藤は大きく口を開けては、オーバーなほど荒く呼吸した。
肩が揺れる、集中力が遠退く、足が震えだす。
すでに所歩を負かそうという考えは消え去り、次第に遠ざかっていく影を見て、離れるなと思うことだけに精一杯だった。
そしてもう止めたい、早く終わってほしいと。
どだい無理な話だったのだ、何を今さら、元から分かり切っていたことだろう。
何を調子に乗っている、勝とうだなんて本気だったのか、一瞬でも本気で勝てると思いこんだのか。
だったらどれだけおこがましい愚考か、本物の馬鹿だ、まだ競輪という世界をなめている証拠だ。
(;゚ω゚)(僕には無理だったんだお、ゴメンだお津出……)
脳裏に浮かんだ津出の涙も、彼の熱意の導火線に火を点けることなく、絶望の前では一瞬にして消し飛んだ。
もうネガティブな悪循環にしかならなかった。
- 62 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:11:23.04 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 63 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:11:54.95 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 64 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:12:10.40 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 65 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:13:12.35 ID:0dSa6Sd+O
- 歯痒いな
- 66 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:13:37.02 ID:3O99mdVr0
- ここで集中力の切れた内藤に余計な思考が働き、カーブで内側の傾斜の浅い所を走行している事に気付いてしまい、
自身がバンクへの挑戦を放棄していると誤認してしまった。
負けん気の一つも持たず、リベンジする意思もないのだ、所歩と勝負することでバンクの屈辱を忘れようとしていたのだ、愚かしい。
そうか、今頃気づいた、そもそも性格がスポーツに不向きだったのだ。
そんな結論まで出して悲愴に暮れる内藤が我に返ったのは、遠ざかるだけだった影が大きくなったからだった。
内藤が所歩に追いついているのだ。
しかし内藤はスピードアップをしていない、落ちないようにと必死にもがきながら、それでも速度は落ちる一方だというのに。
だとすれば、これは所歩が落ちてきたということだ。
(;゚ω゚)(もしかして、所歩のやつも……)
彼も調子に乗り過ぎてオーバーペースだったに違いない、内藤は気分を一新し、自分を信じる心を無理矢理ほじくり出した。
幼いころから陸上一本で鍛え続けた体だ、バイクに乗る基礎がなくとも、その積み重ねてきた基礎体力は想像以上に強靭で、
所歩の技術にも匹敵するスピードを生み出して追走していたのだ、間違いない。
想像以上の内藤の追い上げに、所歩は自分の力を見誤る逃げをしてしまい、無茶を生じたに違いない。
チャンスだ、ここで敵を喰らうしかない。
内藤は瞬間に闘志を燃やし、歯をくいしばって体を動かす。
残り一周となる頃に、内藤はとうとう所歩の影を捉えた。
そしてありったけの力を振り絞り、彼の隣に並びかける。
ここで抜けば勝てる、ここで相手を振り切って、相手を精神的に追い詰めるしかない。
- 67 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:15:07.70 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 68 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:15:57.04 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 69 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:16:04.47 ID:3O99mdVr0
- (´・ω・`)「ようやく登場か、遅かったね」
息を短く荒げながらも、澄ました顔で彼はそう言った。
つまるところ、内藤と並ぶためにわざとゆっくり減速して走っていたのだ。
「やはり勝てない」。
再びその支配に捕らわれた内藤に、所歩は思わぬ言葉を投げかけた。
(´・ω・`)「ほら、早くスパートをかけなよ。
僕はもう少しこのままでいるからさ、見せてもらおうか、君の頑張りを」
すでに内藤の体はボロボロだった、所歩に並びかけるだけでも彼は精一杯の力を使っていたのだ。
それでも、引けない。
風圧に負けて体が左右にぶれる有様だったが、所歩の言葉が彼を奮い立たせた。
陸上で鍛えた筋肉だ、どれだけ体が限界のボロボロであろうとも、短距離の瞬発力であれば勝てる自信があった。
(;゚ω゚)「お前が、自転車を、始めたのは、小学五年生だお……」
(´・ω・`)「そうだが、それがどうしたのかい?」
(;゚ω゚)「僕が、陸上を始めたのは、小学三年生だお。
お前よりも長く、僕は努力している、頑張ってきたんだお。
覚悟しとけお、後悔させてやるお……!!」
- 70 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:16:15.16 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 71 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:16:49.44 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 72 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:17:21.17 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 73 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:18:07.04 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 74 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:18:21.44 ID:3O99mdVr0
- 内藤は津出の言葉を思い出して、焦らずにゆっくりと、足に最後の力を込める。
速度がゆっくり確実に伸びていく、早くも所歩との差が開きだした。
息はずっと止めている、無酸素運動で体の力を極限まで絞り出す。
(#゚ω゚)(後悔させてやるお、地力勝負では、絶対に負けないお……!)
肉体は痛烈な悲鳴を上げ、自分の動きにも耐えられず体はブレて、運転の軌跡は蛇行していた。
それでも筋力で無理やりバランスを取りながら、転ぶのではないかと見る者を冷や冷やさせながら前へ前へと足を動かした。
何度とよろめき、何度と転びそうになりながらもあらん限りの力を振り絞ってこぎ進めた。
そして半周を通過するころには、所歩とは大きな差が開いていた。
瞬間、所歩がその距離をグッと詰めた。
背筋に蟻走を感じ、内藤は後ろをちらりと見た。
急発進できないというピストの常識を覆すような爆発的な推進力。
内藤が視界に所歩を捉え、慌てて前を向いた瞬間、外から所歩が追い抜きにかかってくる。
(´・ω・`)「そんなものかい?」
(;゚ω゚)「ふおおおおおおおお!!」
叫びあげ、更に力強くペダルをこぐも、三回転もさせれば足の力がスッと抜けた。
力が入らない、まるで足が鉛のように重くなり、鈍く痺れだした。
- 75 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:18:50.90 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 76 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:19:29.47 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 77 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:19:29.68 ID:d7xPHv/K0
- 支援
- 78 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:20:03.16 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 79 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:20:33.03 ID:3O99mdVr0
- (´・ω・`)「君は小学三年から、陸上をやっていたか知らないが、……僕は小学五年から、『自転車』をやっていたんだ」
さらに速度を上げる所歩を見て、内藤は完全に負けを悟った。
力勝負でも勝てない、酸欠も相まって脳がいかれそうになった。
すでに体は限界だというのに、今にも関節からボロボロに分解しそうだというほど、力を出しているというのに。
普通の自転車であれば、一時的な力で速度をつけたならば、後は足を止めていても慣性で前へと進む。
それがピストとなるとそうもいかない、一度速度をつけたならば、その足の回転を維持しない限り速度は保たれない。
力を使いきった内藤には、速度を維持できるだけのペダルの回転ができず、足が追い付かずにペダルの回転を阻害した。
最後の力を振り絞って必死に速度をつけたピストだが、今の内藤ではどれだけ頑張ろうと減速させることしかできなかった。
完全なる敗北。
寸劇も見えない勝機。
(;゚ω゚)(勝てないお……所歩、転べお、派手に転べ……!!)
こんな無様な姿、津出にでも見られれば甚だ幻滅されることだろう。
津出が苦労して作り上げたピストを勝手に賭けて勝負した揚句、
戦意喪失して相手の転倒を願うだけなのだから、プライドも何もあったものではない。
あっという間に十メートル近くも距離を離され、戦意を喪失する内藤の前方で、すました顔で所歩がゴールラインを超えた。
視界が黒く包まれようとする中、内藤が視界にとらえたのはゴールを跨ぐ所歩と、その奥で金網越しにレースを見守っていた津出の姿だった。
- 80 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:20:50.49 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 81 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:21:42.44 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 82 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:22:37.22 ID:RWwyzZX80
- 支援
- 83 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:22:42.49 ID:3O99mdVr0
- これで14話終了です、雑把なところは愛嬌でお願いします。
支援ありがとうございました。
また、何か質問等ありましたらよろしくお願いします。
- 84 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:23:14.46 ID:hqkgLFzt0
- 作者は競輪経験者?
- 85 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:25:37.58 ID:iZ2UKIZh0
- 乙!
- 86 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:27:39.17 ID:3O99mdVr0
- >>84
競輪選手という意味ならノーです。
競輪に行ったことがあるという意味でしたら、はいです。
これを書く前に賭博として競輪は経験しました。
- 87 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:28:32.41 ID:YVBIHRWBO
- 乙!
歯がゆいなぁ
- 88 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:30:01.15 ID:hqkgLFzt0
- 何かスポーツやってた?
- 89 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:36:21.72 ID:3O99mdVr0
- >>88
いくつか経験はありますが、特に自転車レースなどは経験ありません。
- 90 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:36:33.58 ID:hXitrkXCO
- 乙
- 91 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:40:57.49 ID:hqkgLFzt0
- 面白かったぜ
乙!!
- 92 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 21:43:40.14 ID:d7xPHv/K0
- 乙
- 93 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 22:00:03.80 ID:LXFFJb6/0
- 競輪キテタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
乙
- 94 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中 :2008/06/15(日) 22:29:45.75 ID:8svoD98o0
- ギャンブルレーサー
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