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( ^ω^)が競輪に挑戦するようです
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:02:08.57 ID:TnWIaiW00
まとめサイト様
 http://boonsoldier.web.fc2.com/keirin.htm

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:02:27.97 ID:zchDNJDD0
競艇にしてくれ

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:04:12.20 ID:TnWIaiW00
登場人物

( ^ω^)
   内藤:陸上の400mで県で一位を取るほどの猛者。怪我により陸上を引退し、競輪選手を目指す。

('A`)
   毒男:内藤の中学時代の友人で、現競輪選手。なりたてで、実力はまだまだ。

J( 'ー`)し
   母親:内藤の母親、ギャンブルが嫌いで競輪を良く思っていない。目下、競輪を目指す内藤とは対立したまま。
(*ノωノ)
   風羽:陸上部のマネージャーで内藤の元彼女。すれ違いにより別れる。
(,,゚Д゚)
   コーチ:大学陸上部のコーチで、レースの度に怒鳴りあげた。内藤と仲違いの上、意思疎通が計れずに終わる。

ミ,,゚Д゚彡
   布佐:万夫不当の競輪選手だった。
ξ゚听)ξ
   津出:ロードバイクを乗りこなす女性、内藤に目をかける。

   高良:毒男の師匠
   長岡:毒男の尊敬する競輪選手
   高岡:S級1班(競輪の組分けで最上級)の競輪選手である長岡の弟子

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:06:15.62 ID:TnWIaiW00
     第十一レース「改心と変化」


( ^ω^)「昨日はすまなかったお」

次の日、内藤は毒男に電話をすると開口一番にこう謝した。
しばらく言葉が返ってこなかったので懸念したが、優しい口調が杞憂だと知らせてくれる。

('A`)『おう、全然いいさ、こっちこそ偉そうにすまなかったよ』

( ^ω^)「いや、そんなことは無いお、毒男がいなかったらきっと僕は堕ちるところまで堕ちていたお」

('A`)『たぶん、スポーツ選手、ましてや本気で高みを目指すなら一度は引っ掛かる壁なんだろうな。
  俺も似たような時期あってさ、あれは一回目の競輪学校の試験に滑ったときか。
  そもそもカーチャンが競輪を良く思っていなかったこともあって、喧嘩して荒れたんだよ』

( ^ω^)「……」

('A`)『なんだか、そんときの俺とかぶったからさ、ちょっと先輩面してみたw』

( ^ω^)「ううん、毒男は本当に先輩だお」

毒男にはその気はなくとも、彼の言葉が親と確執を残したままの内藤をきつく責め立てた。
しかしもう修復不可能ともいえる状態だ、こればかりは選手になって見返すことでしか解決できない問題なのだろう。

( ^ω^)(……トーチャンの子じゃない、かお)

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:07:55.81 ID:TnWIaiW00
自分を見直して、心を思い直して、生まれ変わったようにすっきりとしたところで、真に生まれ変わることはできない。
汚点と問題は依然残したままだが、まずは進まなくては何も始まらない。
心機一転したのだから尚更、今は前を向くべきなのだろう。

('A`)『内藤、確かに競輪はギャンブルだけどさ、そこにいる人たちは普段はただのサラリーマンだぜ?
  昼は会社で格好良くせっせと働いて、休みの日は奥さんに怒鳴られて子供に煙たがられている普通の人たちなんだ。
  そんな人たちが羽を伸ばして、一息をつく娯楽が競輪だ』

( ^ω^)「うん」

('A`)『だったら怒鳴られてやろうじゃないか、それでも自分の走りで見ず知らずの人間を元気づけることができるんなら。
  なんていうか、もっとお前も自分の道に自信持っていこうぜ。
  ギャンブルだなんて見下されるかもしれないけど、それにしかできない価値あることってのがあるんだよ』

そうだ、ギャンブルを良く見ないなんて内藤の親が殊更特異なわけではない、普通なら誰しも良い目で見たりしないだろう。
毒男もそんな中で、親のためを思っている心と現実の親との諍いという葛藤があったのだろう。
だからこそ重みのある一言を内藤に与え、またそれが体の髄に至るにまで響き渡ったのだろう。

( ^ω^)「そうなるように頑張るお、ありがとうだお」

内藤は自分自身でも驚くほどにさっぱりと清々しい受け答えをしていた。
今までだったなら上から目線だなり何かとケチをつけては毒男を責め立てただろうが、不思議とまったく嫌な気がしなかった。

自分を見つめ直せたことで、他人も見つめ直せたのかもしれない。
自分本位で他人を信じられないような昔はもう無くなって、相手の本気の心遣いを感じ取れるようになったのだろう。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:10:06.94 ID:TnWIaiW00
('A`)『何か俺も気分良くなってきたわ、それで内藤、師匠の件はどうするよ?
  高良師匠に話しつけとこうか?』

( ^ω^)「ありがとうだお、でもその件はまだ少し保留にしておいて欲しいお」

('A`)『ん、他に心当たりでもあるのか?』

そう言われると真っ先に、鋭い目つきの女性が内藤の頭に映る。

( ^ω^)「違うお、なんていうか……まだ、自分自身がそこはまとめきれていないんだお。
  気遣いは本当に嬉しいけど、もうちょっとちゃんと考えさせてほしいお」

('A`)『ああ、好きにすればいいさ』

( ^ω^)「それで、バイクを買おうと思うんだお。
  とりあえず試験までの時間を考えて、ピストとローラー台を買おうと思うんだけどどうだお?」

('A`)『おお、賢明な判断だな、実技試験を本気で狙っていくんなら、俺もそれがいいと思うぜ。
  バイクの感覚はジムでも養っているだろうしな、どれだけ応用できるかは知らんが』

( ^ω^)「そうかお」

昨日の津出の最後の言葉、予想以上に的確なアドバイスだったようだ。
内藤はどことなく遣る瀬無く思いながらも、それを厳粛に受け止める事とした。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:11:53.76 ID:TnWIaiW00
ドクオとの電話が終わると、すぐに内藤は昨日のバイク屋へと足を運んだ。
中に入って辺りを見渡すも、津出の姿は無かった。

( ^ω^)「……別にいいお」

ぼやきながら、展示されているピストレーサーのフレームを順々に見ていく。
内藤のような初心者では違いが全く分からない、とりあえず値段が控え目で、気にいるものを探す。

( ^ω^)「……」

しかし種類も少なく、内藤が特にこれと思える物もない。
仕方なく、店員さんに相談にのってもらい、決めることにした。

( ^ω^)「すみませんおー」

ξ゚听)ξ「はい、いらっしゃいませ、どうしたのでしょうかお客様」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「お客様、どうしましたか?」

( ^ω^)「……何やってんだお」

ξ゚听)ξ「アルバイト」

( ^ω^)「……」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:13:45.05 ID:TnWIaiW00
最も会いたくない相手と、何ゆえこんな形で出会わなくてはならないのか、内藤は運命の神の考えの理解に苦しんだ。
相手は先日のことなどまるでなかったかのように、相変わらずの鋭い目つきを武器に内藤に話しかけてくる。
もともとの性格が辛辣だから気にしていないように見えるだけかもしれないが、少なくとも先日の事を気負う必要がなく感じた。

( ^ω^)「昨日は、すまなかったお」

だからこそ素直に謝れたのかもしれない。
津出の表情が驚きで一瞬和らぎ、内藤は自分の行為の正しさに自信が持てた。

ξ゚听)ξ「昨日の話なんて別にいいわよ、それよりも何の用?」

( ^ω^)「ああ、聞きたいことがるんだお」

今までは何もせずともいがみ合っていたように感じたが、この日はなぜか居心地の悪さを感じなかった。
昨日は常に見ず知らずの人間といるような、余所余所しい空気の中で会話をしていたように思ったが、
この取り巻く空気の変わりようは内藤自身の心境の変化からきたものだろうか?

( ^ω^)「バイクを買おうと思うんだお、だけどどういったものがいいのか分からなくて……
  とりあえず昨日言われたとおりピストとローラー台を買うことは決めたんだけど、その知識がさっぱりなんだお」

ξ゚听)ξ「そんな事と思ったわよ……とりあえず、予算はいくら?」

( ^ω^)「できれば十万くらいに抑えたいお……」

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:14:18.89 ID:KdsrLHMnO
きたー

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:14:43.66 ID:BKGqzmGH0
sien

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:15:53.40 ID:1gYR05Z+0
ktkr支援

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:16:12.02 ID:TnWIaiW00
内藤は体の回復を待ちながら、体力を落とさないよう筋力トレーニングするだけでなく、バイトも毎日数時間行ってお金を貯めていた。
母親はなんだかんだと言いながらも、家賃と月五万ほどの仕送りを送ってくれていたが、それでもバイク費用には到底及ばない。
ここ二カ月ほどではあるがバイトを重ね、ジム代なども差し引いてようやく貯めたお金が、十万ほどだった。

本当はピストを買うお金ではなかった。
というのも、父親が異なることを告げられて以来、内藤には親に甘えてはいけないという意識が芽生えていた。
真実を知らずに脛を齧っていたという事実が悔しく、スポーツマン特有の負けず嫌いが、お金を貯めるという形で反抗心をむき出しにした。

競輪選手でお金が残ることに魅力を感じていた彼だ、短絡的にそういった行為に走ってしまったのは容易に想像がつく。
今ではそのお陰でピストを購入できるのだが、それでも費用としてはギリギリ、一式を揃えようと思うと無理な金額であることは重々承知していた。

ξ゚听)ξ「……じゅうまんえん?」

( ^ω^)「まず何を揃えるべきなのか、教えて欲しいお。
  少しずつ揃えていこうかなと思っているお」

ξ゚听)ξ「……」

内藤は言ったが、津出は耳もかさずに悩み始めた。
頭の中で何かを計算しているようだ、静かに結論を待つ。

ξ゚听)ξ「……あんた、師匠とかいないの? 愛好会とか行った?」

( ^ω^)「師匠はいないし、愛好会にも行っていないお」

ξ゚听)ξ「なんで? 行く気はないの?」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:18:17.22 ID:TnWIaiW00
( ^ω^)「……」

競輪学校を目指す選手は、愛好会に参加し、プロ選手のもとでライバルと練習に励むそうだ、内藤も毒男から聞いていた。
そこでより良いバイクの乗り方を学び、選手から目をかけられて師弟関係を結ぶ人も多い。

しかし、内藤にはそれこそが大学の部活と同様に映った。
仲間同士で、誰かの指導のもと、信頼関係……心を入れ替えたとしてもなお、内藤はそこに踏み出せなかった。
せっかく思いを改めたというのに、また部活の二の舞になってしまいそうで……結局一人で練習しようと考えていた。

( ^ω^)「行く気はないお、一人で練習する気だお」

ξ゚听)ξ「……フレームとか譲り受けると安く済むんだけどね、まだ乗り慣れてもいないんだから、特に拘らないわ。
  そもそも愛好会にも参加しないって、本気でプロ目指す気?」

( ^ω^)「本気だお」

ξ゚听)ξ「あんた、根本的に競輪を甘く見過ぎているわね。
  初めて会った時もそう、怪我してても自転車くらい余裕でこげるなんて言ったわよね。
  そして昨日も、突然諦めるだなんて言いだすし」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「ちょっと面構えは良くなったけど、まだ信用しきれないわ」

すべては自分のまいた種だ、内藤は俯くことしかできなかった。
毒男に対しても何度と失言をしていた、競輪を甘く見ていると言われると、とても言い返すことができなかった。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:20:02.58 ID:1gYR05Z+0
支援

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:19:59.55 ID:TnWIaiW00
しかしそれは昨日までの内藤だ、彼はすぐにも顔を上げて、津出と面と向かって言葉を放った。

( ^ω^)「その通りだお、今までの僕は過去の栄光にすがって、弱い自分を隠蔽しては周りを蔑んできたお。
  でも今は違うお、僕にはその道しかないし、本気だって胸を張って言えるお!」

内藤のはっきりとした言葉と態度に、津出は小さく感嘆の声を上げた。
昨日の事を謝れたのだ、内藤が昨日から心構えを一新したことは聞かずと分かったことだ。
挑発ついでに少し試してみたつもりだったが、津出は思わぬしっぺ返しに、口元を緩めた。

ξ゚听)ξ「まぁ口先だけなら何とでも言えるし、とりあえず店としても売り上げがあればそれでいいわ。
  最低限と言われると、ピスト本体にシューズにヘルメット、あとペダルとクリップバンドとクリートかしらね……。
  あっと、ローラー台もか……厳しい事言ってくれるわね……」

津出は眉をひそめながら再び一人の世界に入り込み、パンフレットを大げさに捲ってみせた。

ξ゚听)ξ「特に拘りはないわよね?」

( ^ω^)「全然ないお、任せるお」

ξ゚听)ξ「おk」

そして次は伝票のようなものを取り出し、派手に捲っては呟いて頭を抱えてみせた。
やはり、相当厳しい注文なのだろう。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:43:49.11 ID:TnWIaiW00
ξ゚听)ξ「身長と股下と靴のサイズは?」

( ^ω^)「身長は174センチ、股下は分からないお、靴は27くらいだお」

ξ゚听)ξ「それだけでいいわ、十分。
  カーボンは無理ね……アルミかクロモリなら……」

津出は何度と電卓を叩いたが、結局結論は出ないままでいた。
とうとう悩みあぐねたか、大きな溜息を吐く。

ξ゚听)ξ「やっぱり現状じゃ何とも言えないけど、十万の範囲でなんとかするわ。
  もしくは、ローラー台だけでも競輪場から借りるって手もあるけど」

( ^ω^)「ローラー台だけ借りれるのかお?」

ξ゚听)ξ「必要なら、空いてる時間でトラックも借りれるように話付けてあげましょうか?
  さすがに毎回一人貸切とはいかないでしょうけど、愛好会行かないとなるとトラック使う機会もないでしょうに」

( ^ω^)「……」

そうだ、前回も津出は30分ほどとはいえ競輪場を貸し切った挙句に、内藤にロードとピスト、ヘルメットにシューズまで貸してくれ

た。
そして今回も、時間を見つけて競輪場を貸してくれるというのだ、話として美味しすぎる。

( ^ω^)「……えっと、ツ……つー……」

ξ゚听)ξ「津出よ、まぁツンでいいわよ」

( ^ω^)「ツンは何なんだお、どうして僕にそこまでしてくれるんだお」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:43:58.80 ID:Vz2a1IZ7O
復活記念支援ぬるぽ

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:46:53.16 ID:TnWIaiW00
公共設備を借りるのだ、無料で借りれる訳はないだろう。
内藤の純粋な疑問だったが、津出は挑発的で面白そうな笑顔を向けるだけだった。

ξ゚ー゚)ξ「ねぇあんた」

津出は挑発的な笑顔のまま、内藤に顔を寄せた。
鋭い目が内藤を捉え、不覚にも胸が大きく高鳴った。
美しいと正直に感じたが、それは清楚とはかけ離れた、魅惑に満ちた美貌だ。

ξ゚ー゚)ξ「私が師匠になってあげましょうか?」

二度目の勧誘だった。
津出は権力もあり、競輪にも精通しているのはなんとなしに分かる。
正式でないにしても、ここで師弟関係を作っておくことは内藤にとってこの上なく有益なことだった。

何よりも、内藤は昨日に実際にピストに試乗して、その難しさを肌で感じたのだ。
ゼロから一人で練習しても無理だという毒男の言葉も、まんざら過剰表現ではないだろう。
なによりも、他人に教わることの方が近道なのは、どう考えても間違いない事だ。

だが、内藤は首を縦に振るうことができなかった。

やはり駄目だ、誰かの下で動くということはできない。
津出がこうも内藤に良くしてくれる理由も分からない、疑心がある以上、とてもではないが信頼できる自信が無かった。
ふとしたきっかけで、コーチとの仲のように、簡単に決裂してしまう気がした。

( ^ω^)「ゴメンだお、それは結構だお」

ξ゚听)ξ「……」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:48:19.96 ID:TnWIaiW00
津出の表情が曇ったのを内藤は見逃さなかった。
なぜこうも好待遇を用意しているのに私の元に来ないのか、津出の言いたいことはよく分かる。
誓約書も何もいらない、ただ師弟関係を結びましたと形だけ取り繕えばいいのだ、ママゴト感覚でいいのだ。

なのに内藤がそれを断った、津出としてもここまで尽くしているのだから、良い気がしないのは至極当然だ。
しかし内藤としても、なぜ津出がここまで師弟関係を結びたがるのか、理解できなかった。

ξ゚听)ξ「……まぁいいわ、とりあえず連絡先だけ教えて」

( ^ω^)「おっお?」

ξ゚听)ξ「バイクが組み上がったら知らせるから。
  あと、競輪場使えるときとか色々と連絡する必要があるでしょ?」

てっきり師弟関係を断ったため、今までの提案はおじゃんになるかと覚悟していたが、そうでもないようだ。

結局内藤の疑心は煙となり、連絡先を交換してその日は終わった。


内藤は競輪への新たな一歩を踏み出し、彼を取り巻く環境は確実に変化していた。




20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:50:34.63 ID:TnWIaiW00
久方ぶりとなってしまいました。
少し休憩して、十二話を22時くらいから投下するのでよろしくお願いします。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:52:35.46 ID:1gYR05Z+0
乙です
ストーリーの進行速度が心地いい

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:56:09.81 ID:Vz2a1IZ7O
乙です。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 21:59:10.32 ID:TnWIaiW00
     第十二レース「敵愾と屈辱」


津出にバイクを組んでもらう約束から三日が経ったが、依然彼女から内藤へは連絡が来なかった。
それでも内藤は焦ることなく、今の自分ができる事と必死に練習を重ねた。

特に一度ピストに乗れたことは大きい、その時使用した筋肉をイメージして、重点的に鍛える事が出来る。

(;^ω^)(……ッ!!)

彼はその他のすべてを振り払わんが如く、必死に練習を重ねた。

実際内藤自身が変わったことで、周囲も変化していった。
しかしそれでも不動の事も幾つとある。


例えばその一つが両親のこと。


例えばその一つが風羽のこと。


それらは内藤自身が変われたところで、すでにどうしようもない。
だからそれら雑念をはね除けるだけ練習を重ねては、必死に体を酷使し続けた。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:00:21.82 ID:Vz2a1IZ7O
(=ω=.)y-~~~ 紫煙

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:00:57.55 ID:TnWIaiW00
陸上時代にもかなりの練習量を積み重ねていた肉体だったが、それらが更に磨かれていくのが分かった。
必要な筋肉の違いだろう、肉体改造は着実に進められ、彼自身もその変化を敏感に感じ取った。

今までに縁のない筋肉の鍛練は、甚大な疲労を生んだ。

(;^ω^)「くはぁ……今日もつっかれたお……」

家に帰ると、すぐにも突っ伏して死んだように寝る。
単純ながらにも充実した一日一日を過ごしていた。

( -ω-)「ぉやすみだお……」

しっかりと体を鍛え、次こそはバンクを超えてやる。
今の内藤はそれだけを見据えていた。
そうすることこそが、過去の己を超えた証となるのだと信じていた。


今ならば物怖じすることなくバンクへと向かってやる、そして絶対に越えてやる、と。




26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:02:57.26 ID:TnWIaiW00
そして津出との約束から一週間ほど経ったか、ようやく携帯に連絡が入った。
ピストの完成と、月曜日と水曜日の夜に、競輪場の時間が取れたとの連絡だった。

一週間も待たされたか、しかし一週間の間で早くも内藤の体は筋力的な変化を見せていた。
バランス良く鍛え上げられた筋肉は、バイクに乗るのには十分なほど磨きかかっている。

( ^ω^)「絶対にバンクを超えてやるお、今度こそ……!」

この思いも一週間あったからこそだろう、待っていましたとばかりに内藤は意気込んだ。


津出からの連絡は、夕方に競輪場に来てほしいということだった。
津出と出会った、地方の競輪場の方だ。
ちょうど内藤がバンクで転んだのも、ここになる。

その日は筋肉を休めるためにも、ジムでゆっくりと固定バイクをこぐことにした。

(;^ω^)(早く行きたいお、早く乗りたいお……。
   でもまだ早いお、せめて一時間前……いや、一時間半前くらいでも……)

まだ昼前、約束の時間である17時までは時間は随分とある。
内藤ははやる気持ちを抑え、うずうずと落ち着かない気持ちでひたすらに固定バイクをこいだ。

高い買い物であったことに加え、これから先ずっと一緒になるのだろう愛機がとうとう手に入るのだ。
何色だろうか、格好いいのだろうか、協力してバンクを超えることはできるのだろうか。
遠足前日の子供のように浮かれる気持ちを落ち着けることで精一杯、今日ばかりは練習に身が入らなさそうだった。




27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:04:43.56 ID:1gYR05Z+0
内藤頑張れ

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:05:01.07 ID:TnWIaiW00
ξ゚听)ξ「さて……と」

津出はあらかたのパーツを組み終えたが、本人がいなければこれ以上の調整へは着手できなかった。
地方のバイク専門店で試乗用に使っていた新品同様の型落ちフレームを使うことで、大きな出費を避けた。
そして小物一つ一つに至るまで、バイト先の店主に交渉して、ほぼ入荷価格同様の破格で手に入れた。

特に厄介だったのはローラー台だったが、これは選手から直接お古を譲り受けた。
そうして余った分のお金は少しでもパーツのグレードアップに使い、ピストレーサー自体は値段の割にかなりの性能を携えることとなった。

ξ゚听)ξ「もうこれでよさそうね、後は微調整と、乗り手の育成だわ」

そう、後は初心者の内藤をどのようにして乗りこなせるにまで鍛え上げるか、それが重要だ。
本来であれば津出がなんとかしてやりたかったが、なぜか内藤は拒もうとする。

しかしあの筋力に運動センス、潜在能力は計り知れない。
はいそうですかと、みすみす逃す手はない。

ξ゚听)ξ「でもどうしてかしらね……」

師弟関係を嫌っていたのだから、津出以外の他の誰かに取られることはないだろう。
しかし一人で一から鍛えようなど、試験までの残された日付を考えれば不可能なことは一目瞭然だ。

ここまでしてやったのだ、師匠が必要と分かればあちらからコンタクトを取ってくるはずだ。
そのために競輪場で直接指導もしたし、限られた費用内でこうも優れたピストを準備してやるのだから。

ξ゚听)ξ「そうよ、絶対すぐにも私が必要となるわ……」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:06:14.32 ID:Vz2a1IZ7O
色は小麦色……な訳ないか

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:07:01.14 ID:TnWIaiW00
津出が直接指導したところで、春の試験に合格できるまで成長するとは考え辛い。
それほどまで競輪学校への壁は分厚いものなのだ。

しかしその次、秋の試験に合格できるまでの力はつけてやることができる。
合格できるかどうかは別の話だ、それでも合格レベルの力まで高めてやれる自信があった。

ξ゚听)ξ「きっとすぐにも挫折して、泣きついてくるに違いないわ」

今の彼は運動での挫折を知らず、なんだかんだ言ってもまだ競輪という世界を甘く見ているのだ。
だからまだ一人で大丈夫だなんて高をくくっていられるのだ。
理想と現実のギャップを目の当たりにすれば、否がおうにも誰かに頼らざるを得なくなるのは間違いない。

前回の二度目の勧誘では、内藤の心は確かに僅かに揺れていた。
実際に自分のピストを手に入れ、乗ればその心境はより彼女に傾き、きっとその力を必要とするはずだ。

気を取り直して、組み立てたばかりのピストの点検に入った。
時間は14時、内藤との約束まではまだまだ時間がある。
津出は入念に一つ一つ、チェックを開始した。

パーツ同士の締まりが弱くないか、反対に強すぎないか。
車輪であれば、過度な圧力は摩擦となって速度に影響を与えるし、弱ければ走行中のブレを生む。
ボルトの一つ一つに対しても、強く締めすぎてはそれぞれのパーツを痛め、脆くしてしまう恐れを多分に含む。

その辺りの調整は難しい、熟練の経験がものをいう部分が多ければ、選手によってもやはり異なる。

そして車輪やハンドルが曲がっていないか、油は十分に染みているか。
実際に回転させることで、車輪は小さなブレを最小限に留める必要がある。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:07:34.96 ID:233Pgwbv0
ktkr!
まってました!

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:07:40.79 ID:1gYR05Z+0
ツンも頑張れ

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:09:46.87 ID:Vz2a1IZ7O
wktk

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:09:58.62 ID:TnWIaiW00
無慈悲に時間は過ぎていくばかり、一通りのチェックが終われば、一時間など容易に過ぎ去った。

ξ゚听)ξ「この調子だと、アイツの体に合わせて微調整していたら今日が終わっちゃうかもね」

一息をつきながら、内藤の新しいピストを壁に立て掛けた。
真っ赤な原色フレームが目立つ、パーツの黒と銀が相まって力強いイメージのバイクに仕上がった。
格安で手に入れたが、様々なお店を回って内藤が気に入りそうな色を選び、店主や選手のツテを利用してようやく手に入れたものだった。

ξ゚听)ξ「気に入ってくれるかな……」

恋人へのプレゼントを選ぶわけでもあるまいに、自嘲気味に笑うと、津出は一息ついて体を伸ばそうと立ち上がった。
そして部屋を出た先には、体躯のいい一人の男が立っていた。

ミ,,゚Д゚彡「よう、お疲れ様」

ξ゚听)ξ「あ、布佐さん、お疲れ様です」

この地方競輪場を拠点に置いている愛好会、そして選手団、その頂点に君臨するのがこの布佐だ。
数年前に落車事故をして以来成績は芳しくないも、それ以前は最強の競輪選手として長く君臨していた男だ。
その実力と人望はともに厚く、沢山の弟子からも非常に慕われている。

津出もその人柄を尊敬しているからこそ、こうして彼の下についている。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:11:50.54 ID:TnWIaiW00
ミ,,゚Д゚彡「ピストの方は、いいの見つかったか?」

ξ゚听)ξ「はい、沢山のお店を紹介していただけたおかげ様でいいものになりました、本当にありがとうございます。
  ローラー台までいただいてしまって……」

ミ,,゚Д゚彡「気にするなよ、もう捨てる予定だったヤツだ。
  それよりも、弟子候補はどうなんだ?
  それだけ頑張ってピスト作ってやってんだ、いい返事くらいは貰えたのか?」

布佐の質問に、津出は返す言葉に窮した。
途端に師弟関係も結べていない相手にどうしてこうも御世話しているのかと、媚を売っているような錯覚すら覚えた。

ξ゚听)ξ「……まだ、師弟関係ではありません。
  でも、近いうちには……」

ミ,,゚Д゚彡「そんなことだと思ったよ」

そう区切ると、首を傾げる津出に、布佐はとっておきの話だと前置きして言葉をつなげた。

ミ,,゚Д゚彡「今日、一人弟子になりたいってヤツが来るんだ、どうやら師匠が引退するそうで、俺に教えてくれないかって連絡があってな。
  今ここに向かってきている、年齢は二十歳だからまだまだ若い。
  もともとトラックレースの選手だから、かなり素質は備えている」

ξ゚听)ξ「トラックレース出身者ですか?」

ミ,,゚Д゚彡「ああ、お前と同じ年齢だから知っているやつかもしれんな。
  競輪学校を目指しているが、ベストタイムではすでに1000mを1分10秒切っているそうだ、試験は問題ないと言っていた。
  そろそろ着くらしい、ちょっと時間あるか?」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:12:59.07 ID:Vz2a1IZ7O
フサが出てきたとな

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:14:07.60 ID:TnWIaiW00
ξ*゚听)ξ「……はい、全然大丈夫です!」

胸が高鳴る。
ようやくこの時が来たのだ、ようやく誰かに教える事が出来るのだ。

津出はしっかりと返事をし、顔には垣間笑みを浮かべた。
内藤という初心者に親切をしたことで、思わぬ大魚が釣れた。
神は見放していなかった、まだ見ぬ選手を待って、津出は緊張の面持ちを強くした。



内藤はついつい待ち切れず、早々練習を切り上げるとバイクを走らせて、約束の時間の一時間半も前に現地へと到着していた。

( ^ω^)「さすがの俺でもこれはひくお……」

いくらなんでも早過ぎる、30分程度早いなら分かるが、一時間半も前に来られては逆に迷惑なだけだろう。
そう反省しながら競輪場前をうろうろとしていると、一人のバイカーがやってくる。

( ^ω^)(あれはギアが無いし、ピストレーサーだお)

ブレーキを使わず、足に力を入れて減速停止したところを見ると、競輪選手ないし競輪選手希望と見て間違いなさそうだ。
反射的に隠れてしまった内藤に気付くことなく、男は競輪場内へと入っていった。

( ^ω^)「……?」

内藤もこのまま外でのんびりしているわけにもいかないだろう、後ろから気付かれないように、その男の後を追って競輪場へと入っていくことにした。




38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:14:24.49 ID:BKGqzmGH0
支援

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:15:45.35 ID:TnWIaiW00
(´・ω・`)「……はい?」

所歩(しょぼ)という男は、素っ頓狂な声を出した。
話がちゃんと通っていると思っていただけに、突然の宣告に理解しようという考えすら思いつかないほど虚をつかれた。

(´・ω・`)「すみません、言っている意味がよく分からないのですが」

自転車競技のスプリントで全国四位、当日は調子が悪く芳しい結果ではなかったが、前評判では優勝候補筆頭の鳴り物入りだった。
それだけの実力者、彼も自負している。

不運にも一週間前、彼の師匠が落車により骨折して入院を余儀なくされた。
選手生命も危ういそうで、新たな師匠を探す必要が出てきたため、名実ともに優れる布佐という男を頼ってやってきたのだ。
だというのに思わぬ提案、どういうことかと頭をもたげる。

ミ,,゚Д゚彡「いや、俺も沢山の生徒を持っていて大変なんだ、分かってくれ。
  むしろ君の実力をかってマンツーマンの指導ができる、津出を師匠としてつけようという配慮なんだ。
  納得いかないかもしれない、だが騙されたと思って手をうってくれないだろうか?」

(´・ω・`)「絶対嫌です」

ξ;゚听)ξ「……」

本人がいるにもかかわらず、けんもほろろに断りを入れるあたり、律儀で憎い男だ。
さすがに津出も居辛さを感じて、縮こまってしまう。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:17:09.01 ID:TnWIaiW00
(´・ω・`)「何がマンツーマンですか、そこの女は僕の練習についてこれるのですか?
  こんな何の保証もない女の口だけ指導になるなら、自分自身で十分事足ります。

ミ,,゚Д゚彡「お言葉だが、こいつは元ロードの選手だ、指導の腕も俺が信頼を置いている」

(´・ω・`)「僕の練習についてこれるのかと聞いているのです」

ミ,,゚Д゚彡「……」

そしてその場は静寂となった。

ミ,,゚Д゚彡「そうだな、おそらくは無理だろう。だが、絶対ではない」

(´・ω・`)「何が言いたいのですか?」

ミ,,゚Д゚彡「俺もちゃんと補助につく、ただ、少なくとも俺にだってお前の力や特性を見る期間が必要だ。
  その適性期間として、津出の元で練習をしてもらいたい」

ξ;゚听)ξ「それって……」

津出が口を挟むが、彼女に目配せ一つなく、布佐は所歩だけを見て言葉を続ける。

ミ,,゚Д゚彡「飛び込みの弟子入りなんだ、少しは譲歩してもらいたいね。
  お前の適性が見えたら俺が直接指導しよう、約束する」

(´・ω・`)「一理ありますね」

ξ;゚听)ξ「待ってよ、何それ!」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:17:44.82 ID:233Pgwbv0
おっ、ちゃんとショボだ


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:18:23.91 ID:Vz2a1IZ7O
けんもほろろとはこのことか

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:19:02.28 ID:TnWIaiW00
津出が叫んだが、当の二人は眉をひそめる何とも疎そうな反応だった。
悔しく気押されそうになるも、声を大きくして噛みついた。

ξ#゚听)ξ「なんで、そんなの教える意味ないじゃない、結局実力がついたら奪うの!?
  それに無理よ、こんなに教えられるわけないじゃない!」

ミ,,゚Д゚彡「方便だ、それくらい分かれ。
  むしろ、奪われないくらいちゃんと関係を築けばいいだろう、それが師弟関係というもんだ」

ξ#゚听)ξ「だから無理だって言っているのよ、こんなと信頼し合える仲なんてまっぴらごめんだわ」

(´・ω・`)「これまた早々に決裂ですね」

ピリッと空間が硬直した。
三者三様の意見で、とても事態の収拾は簡単に望めそうにない。

ミ,,゚Д゚彡「とりあえず、俺の条件はそれが限界だ。
  弟子たちが練習しているんでな、後は当人同士で話し合え」

そこで一番の大物布佐が抜け、さらに空気が硬直した。
鋭い目線で睨みつける津出に、それを毛ほども意識しない所歩は、大きな溜息を吐いた。

(´・ω・`)「それで津出さん、ロードレース高校総体入賞者が、一体何しているんですか?」

ξ゚听)ξ「!! 何でそれを……」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:21:19.46 ID:TnWIaiW00
(´・ω・`)「未来の競輪選手の玉の輿に乗りたい気持ちも分かりますが、随分とあざとい方法を選ぶんですね」

ξ゚听)ξ「黙りなさい!」

声を張り上げ、津出はそれまで以上に鋭い目つきを作った。
そして所歩に接近して、睨みあげる。

(´・ω・`)「図星だからって、そんなに怒らないでくださいよ」

ξ゚听)ξ「随分と口の利き方を知らない子ね、本当」

(´・ω・`)「あざといですよ」

ξ#゚听)ξ「なめないで頂戴」

津出は凄みを利かせようとするが、その背丈からか、背伸びしているようにしか見えず、所歩はつい失笑する。
そして中腰になると、挑発するかのように目線を合わせた。

津出は顔を引きつらせ、それでも気丈に所歩へ顔を近づけると、おでこ同士を当てた。

(´・ω・`)「背伸びしたって怖くないんですよ、あなたは」

ξ#゚听)ξ「女だと思って見くびっていると、痛い目見るわよ?」

(´・ω・`)「見くびるなんてとんでもない、それよりも随分とうまく立場を利用しているものだと感嘆するばかりですよ」

ξ#゚听)ξ「なんですって?」

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:22:00.68 ID:1n4v/Dme0
支援

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:23:50.92 ID:TnWIaiW00
津出は目を見開き、まるで恐怖と対峙するかのように顔をこわばらせた。
所歩はこれ見よがしに津出の顔をはね除けると、演説するかのように身振り手振りをしてたからかに力説を始めた。

(´・ω・`)「だってそうでしょう、女性という性別を利用して、こうもうまく布佐選手の集団に馴染めている。
  女性という立場から特別扱いされている、重宝されている。
  ああ羨ましいことです、男性の僕ではそんな媚の売り方、到底できそうにもない」

ξ#゚听)ξ「侮辱しないで!」

(´・ω・`)「あなたがいつからどれだけ大切に優しく扱われてきたのか僕は知りません。
  女性だからということで、どれだけもてはやされていたのか知りません。
  今まではさぞ女性ということで甘やかされてきたのでしょうね」

津出はまるで心臓を掴まれたかのように、苦しく悲愴な表情となった。
悔しいが言い返せない、利用していたつもりはなくとも、その女性という扱いは明らかに特別だったことは分かっていた。

そうだ、実際に愛好会の数名から誘われたことは勿論、手を出されそうになったこともあった。
明らかに下心を見える扱いも多い、下心を見せないまでも殆どの選手はわがままを快く聞きいれてくれる。
津出は女なのだ、どれだけ抗おうと、どれだけ気丈に振る舞おうと女なのだ。

(´・ω・`)「でも僕は違います、本気で競技をしているのです、本気で競輪選手を目指しているのです」

ξ#゚听)ξ「違う、私だって本気だから!」

(´・ω・`)「他は知りませんが、女という武器をいくら振るわれようと、その尻にホイホイとついて行くだなんて思わないでください。
  一晩一緒に寝ればたいていの男は誑かせるかもしれませんが、僕はそうはいきませんから。
  女だからなんでもまかり通るだなんて思わないでください」

ξ#゚−゚)ξ「……っ!!」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:25:52.95 ID:TnWIaiW00
所歩はそう言うと、すぐにもそこを後にした。
これ以上会話することは無意味と踏んで、用はないと判断したのだ。

残されたのは、瞼から涙を流す津出だった。
そう思われたことが悔しくて、でも何一つと言い返せなくて。

悔しさに、立ったまま頬を濡らした。
涙を拭うこともせず、その手は悔しさでこぶしを握りしめていた。

ξ#;凵G)ξ「違う……違う……っ!!」

その手を大きく震わすと、地団太を踏んだ。

ξ#;凵G)ξ「違うから、私だって、何よ、違うバカにしないで!
  言われるまでもないわ、私は女なの、そんなこと誰よりも私が痛感しているわよ!」

ひたすらに叫びあげると、次に来るのは言い知れぬ虚証心。
凌辱されたかのような、ぶつけようもない怒り、抗いようのない憤り。

そして自分だけでなく、自分のせいで女性にかまけていると扱われた選手たちへの懺悔。

ξ#;凵G)ξ「何でそんなこと……あんたに言われなきゃいけないのよ……」

いつもの彼女など消え去っていて、空気の抜けた風船のように弱々しくただ静かに、風前の灯火のような存在だった。




48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:26:16.26 ID:5mVmDEm+0
支援

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:26:43.38 ID:Vz2a1IZ7O
手を出したら負けだぞ!ツン

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:27:43.73 ID:TnWIaiW00
(#^ω^)「おまえ、ちょっと待つお」

(´・ω・`)「ん?」

津出に暴言を吐いた男をみすみす逃す手はない、物陰からやり取りを見ていた内藤は、その男を呼び止めた。

(´・ω・`)「なんですか、そんな怖い顔して」

(#^ω^)「何ですかじゃないお、今のやり取りを見ていたお!」

(´・ω・`)「だから、何ですか?」

七面倒くさそうに語る所歩に、内藤は殴りかかりたいまでの衝動に駆られた。

(#^ω^)「僕の知り合いだお」

(´・ω・`)「だから、何ですか?」

(#^ω^)「このまま帰すと思うかお?」

(´・ω・`)「……そうですね、男女の揉め事は厄介ですからね」

突然男女という言葉を出され、内藤は少し怯んだ。
別に下心はない、しかしどうして自分がこの男に突っかかっているのだろうと考えてしまったのだ。
知り合いとはいえ、友人というにも程遠い、津出という女性をどうして守ろうとしているのだろうかと。

心境変化による他人を庇う行為こそが、また内藤を困惑させたのだ。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:28:14.13 ID:Ay1YSMMP0
競輪って選手のほうか。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:29:26.00 ID:vF0peXCLO
支援

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:29:35.32 ID:TnWIaiW00
(#^ω^)「そんなんじゃないお!」

(´・ω・`)「じゃあ、どんな関係ですか?」

(;^ω^)「……知り合いだお、それ以上でもそれ以下でもないお!」

躍起に噛みつくだけの内藤に、所歩は冷笑を浴びせかけた。
『男女』という一言で内藤を疑心暗鬼に押し込めると、その所作はつぶさに観察できた。

所歩はここでまた大げさに身振り手振りを入れた。

(´・ω・`)「これだから女は羨ましい、そして男は卑しい。
  僕を引き留めて怒鳴っておいたと、武勇伝のように彼女に話しかけて慰めてあげるといいさ」

そんなつもりはないも、反論できるだけの理由も持ち合わせていず、内藤はただ押し黙った。
そして怒りの目で、その男を見送った。




54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:31:16.35 ID:233Pgwbv0
えらくひねたショボだな
だが、それがいい

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:33:16.10 ID:TnWIaiW00
これで十二話も終了です。
何かありましたらお願いします。

また、久しぶりの登場になりましたがまとめへの連絡、支援等ありがとうございます。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:35:16.10 ID:233Pgwbv0
乙!
やはり、面白い。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:35:23.20 ID:KdsrLHMnO


ショボは女嫌いだな


アッー

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:35:52.01 ID:Vz2a1IZ7O
乙でした!



次回も期待するぜッ!

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:38:35.77 ID:20GAU03O0
おっつー

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:47:29.51 ID:BKGqzmGH0
乙!!

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:49:52.48 ID:EHFXV2kGO
おつー

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 22:57:36.44 ID:bNLx2qke0
素晴らしく憎たらしいキャラだなwww乙

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 23:07:10.52 ID:PW8je5PSO
相変わらず面白い乙

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/06/02(月) 23:07:22.46 ID:RqcwsewWO
乙!


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