104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 00:02:43.31 ID:27u6leUZO




(´・ω・`)「なんか、ごめんなさい、先生」

( ^^ω)「うん……」

 男2人、とぼとぼと並んで歩く。
 途中コンビニで買った肉まんとあんまんを食べながら反省会をした。
 あんまん美味しい。あったかい。甘い。

(´・ω・`)「知らなかったんですよ、クーさんが、は瀬川作品嫌ってるなんて……」

( ^^ω)「改めて言わないで……泣きそう……」

 あんまんがなかったら泣いていたかもしれない。



 ――素直さんは、僕が思っていた以上に優しい人だった。

 フリーターと聞いても引かなかった。
 それどころか、この不況に就職はなかなか難しいですよね、
 頑張って下さい、と励ましてくれたのだ。

 そのおかげで、割と和やかな雰囲気のままお茶会は終了した。
 一時はどうなることかと思ったが、まあ、結果オーライか。

107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 00:19:22.98 ID:27u6leUZO

(´・ω・`)「しっかしまあ……フリーターって」

( ^^ω)「あそこで作家って言ったら確実に終わってたホマ……」

(´・ω・`)「ですね」

( ^^ω)「……でも、嘘をつく方が駄目だったかもしれないホマ」

(´・ω・`)「いつか本当のこと言わなきゃいけませんね。
      ――ただし、もっと交流して、充分仲良くなってから」

( ^^ω)「ホマ……」

 担当さんが肉まんに噛みついているのを横目に、素直さんのことを考える。
 本当のことを話したら、軽蔑されるだろうか。
 少し、恐い――



    「――先生ぃいー!」

( ^^ω)「え」

「どーん!」从 >∀从)) ゚^ω)「ホマ゙ッ!!?」

 唐突に襲い掛かる衝撃。
 倒れそうになるのを、何とか堪えた。


111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 00:32:37.92 ID:27u6leUZO

从 ゚∀从「やーやー奇遇奇遇!」

(;^^ω)「は、ハイン君?」

 衝撃の正体は、後ろから体当たりを食らわせてきたハイン君だった。
 満面の笑みで、僕の肩や背中を叩く。
 だから痛いってば。

(´・ω・`)「久しぶりだね、熱心な読者さん」

从 ゚∀从「おー担当さん。男2人きりでデートかい。寂しいねー」

(;^^ω)「むむむ」

(´・ω・`)「さっきまで美女も一緒だったんだけどね」

从 ゚∀从「美女? 担当さんの恋人とか?」

(´・ω・`)「ううん、先生の恋人『予定』の人」

(;^^ω)「ちょっ!?」

 そういえば、一応それを前提とした話だった。
 素直さんにはその気は無いだろうけど。

从 ゚∀从「えっ」

 途端、ハイン君の表情が引き攣ったものになる。
 全く笑えないギャグを聞いたときのような顔だ。
114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 00:45:14.89 ID:27u6leUZO

从 ゚∀从「……二次元的な……」

(´・ω・`)「三次元だよ。予想以上に失礼だな君は」

从;゚∀从「えっ……えええええええ!?
     ガチか!!」

(;^^ω)「いやいやいやっ、多分向こうはそんなつもりは無い筈……」

(´・ω・`)「でも先生はそのつもりなんでしょう」

(;^^ω)「う、あー、あー……」

(´・ω・`)「見て見て、この人だよ」

 担当さんが携帯電話を取り出し、ハイン君に画面を見せる。
 素直さんの写真でも保存していたのだろうか。

从;゚∀从「どれどr……」




从 ∀从         ゚



118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 00:58:31.87 ID:27u6leUZO

从;゚∀从「すげええええええええええ!
     こんな美人いんの!? 勿体ねえ! 死ぬほど勿体ねえ!!」

:( ∩∩ω):

(;´・ω・`)「先生、泣かないで下さい」

从;゚∀从「こんだけ美人だったら恋人いるだろ!」

(´・ω・`)「それがね、いないんだよ。
      あんまり恋愛に興味ない人で」

从 ゚∀从「恋愛興味無いなら先生ますますアウトオブ眼中じゃん」

 酷い、本当に酷い子だ。
 しかし彼女の発言より、否定出来ないことの方が悲しい。

从 ゚∀从「まー……うん、がんば」

( ^^ω)「投げやりー」

从 ゚∀从「だって絶望的じゃん」

(´・ω・`)「君、好きな作家によくそこまで言えるね……」


121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 01:09:01.70 ID:27u6leUZO


 たしかに、ハイン君の言う通りだ。
 素直さんのように素敵な女性が、僕みたいなのと付き合うわけがない。

 それどころか、もう一度会ってくれるかさえ分からないほどだ。







 ――と、思っていたのだが。


川 ゚ -゚)「鯖味噌定食で」

( ^^ω)「……おすすめランチで」


 何故、僕は素直さんと2人きりで定食屋に居るんだろう。



122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 01:22:23.17 ID:27u6leUZO

川 ゚ -゚)「いやあ、良かった。1人より、2人で食べる方が楽しいですから」

( ^^ω)「はあ」

 ――今日は、素直さんと初めて会った日から3日後。
 昼、食料を調達するために外に出た僕は、偶然にも素直さんと遭遇した。

 素直さんは近所の会社に勤めているらしく、
 今は昼休みなので、行きつけの定食屋に向かうところだったとか。

 そして、成り行きで、こんなことに。



川 ゚ -゚)「いただきます」

( ^^ω)「いただきます」

 丁寧に手を合わせる素直さんに倣って、僕も同じようにし、頭を下げた。
 ご飯の良い匂いがするが、正直、それどころじゃない。
 心臓がばくばくだ。

125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 01:43:03.14 ID:27u6leUZO

 僕が注文したおすすめランチとやらは、何か凄かった。
 唐揚げ、鮭、トンカツ数切れ、海老フライ、ナポリタン。
 大盛りのご飯に、大根と油揚げの味噌汁。
 メインディッシュが複数ある上、量も多い。
 面倒臭いからって適当に選ぶんじゃなかった。多分、食べ切れない。

川 ゚ -゚)「ん、美味しい」

 素直さんは鯖の味噌煮を食べて、満足そうに呟いた。

( ^^ω)「……」

 とりあえず、海老フライに手をつけた。
 かじると、ざくりと衣が音をたてる。
 香ばしい衣と、旨味のある海老が絶妙だ。

 ……うん、美味しい。

 緊張感が解れてくる。
 思わずにやけてしまった僕の顔を、素直さんがじっと見つめてきた。

川 ゚ -゚)「美味しいですか?」

( ^^ω)「……はい」

川 ゚ー゚)「でしょう」
128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 01:56:58.60 ID:27u6leUZO

 自分が褒められたわけでもないのに誇らしげな素直さんが可笑しくて、
 少し、吹き出してしまった。

川 ゚ -゚)「む、何ですか」

( ^^ω)「いえ、お気になさらず」

川 ゚ー゚)「気になりますよ」

 くすくす、2人で笑い合う。
 楽しい。

 ――そういえば、こんなこと、過去になかった。
 初めてだ。


    「ちぃーっす! おばちゃん、焼肉定食ー!!」


 がらりと開かれた入口。
 元気の良い、聞き覚えのある声。

 その人は、僕らの隣のテーブルについた。

从 ゚∀从「あ」

 ――……やっぱり。


130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 02:05:00.79 ID:27u6leUZO

从 ゚∀从

 その人は――ハイン君は、僕と素直さんを見比べて、

从;゚∀从「せっ……!」

 あんぐりと口を開け、恐らくは「先生」と言いかけた。
 恐らく、というのは、彼女が何かを言い切る前に僕が彼女の口を塞いだから。

( ^^ω)「タイム!!」

川 ゚ -゚)「あ、はい」

 3日前のように――あのときは担当さんだったが――ハイン君を隅に引っ張る。

( ^^ω)「かくかくホマホマ!」

从 ゚∀从「しかじかリヒリヒ。把握した。馬鹿だねえ、先生」

(;^^ω)「ぐう……」

从 ゚∀从「あ、『先生』じゃ駄目か。えーと、」

(;^^ω)「『内藤さん』!」

从 ゚∀从「内藤さん、ね」


133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 02:17:36.10 ID:27u6leUZO

 席に戻ると、素直さんに訝しげな瞳を向けられた。

川 ゚ -゚)「お知り合いですか?」

( ^^ω)「えーっと、こ、この子も本が好きで」

从 ゚∀从「図書館で知り合ったんだ」

川 ゚ -゚)「ほうほう」

从 ゚∀从「相席いい?」

川 ゚ -゚)「私は構わないよ」

 どっかり、ハイン君は僕の隣を陣取った。
 不躾にも、じろじろ素直さんを眺め回している。

(;^^ω)「こら……」

从 ゚∀从「何歳?」

川 ゚ -゚)「25だよ」

从 ゚∀从「25! オレと同い年ぐらいに見えるねえ」

川 ゚ -゚)「君は?」

从 ゚∀从「19、大学生さ。今日は休み」

136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 02:26:00.40 ID:27u6leUZO

 話が弾んでる……のか?
 とりあえず、相性はあまり悪くなさそうだ。

 年下にも関わらずタメ口をきくハイン君を叱ろうと思ったが、
 素直さんは別段気にしてないようなので、僕は黙々と食事を続けた。

川 ゚ -゚)「そういえば、君も本が好きとか」

从 ゚∀从「おう! 好みは偏ってるけどな」

川 ゚ -゚)「たとえば、どんな作家が好きかな?」

(;^^ω)「、あっ、」

从 ゚∀从「マルタスニムは瀬川」

川 ゚ -゚)

( ∩∩ω)



 嬉しい。そりゃ嬉しいけど。

 何で正直に言っちゃうの。


141 :訂正:2010/12/10(金) 02:36:04.97 ID:27u6leUZO

川 ゚ -゚)「……あんなのを読むのは、暗い人ばかりだと思っていたが」

从 ゚∀从「そういう決め付けは良くないね。
     どんな人間だろうと、ビビッとくる作品はそれぞれさ」

川 ゚ -゚)「しかし理解に苦しむ……私は、あの作品を読んでいると、
     気持ちが悪くなるんだ。どす黒くて、意味が分からなくて……」

从 ゚∀从「それがいいのに。不安定さを楽しむんだよ。
     意味が分からない部分について考えるのも面白い」

川 ゚ -゚)「何より、単なる厨二臭さがキツい」

从 ゚∀从「そこが一番良いとこじゃねーか」

:(   ω):

 前言撤回。
 相性最悪だ。


144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 02:59:40.93 ID:27u6leUZO

川 ゚ -゚)「……」

从 ゚∀从「……」

川 ゚ -゚)「……すまない、こういう話題になると、つい」

从 ゚∀从「おう」

(;^^ω)(収まった……?)

 一応話題は終了したようだが、空気はぴりぴりしたまま。
 とても居心地が悪い。誰か替わってくれ。







从 ゚∀从「――アンチってのは面倒だなー」

( ^^ω)「仕方ないホマ、好みが違うんだから」

 一番最初に食事を終えた素直さんは、会社に戻ると言って、先程定食屋を出ていった。

 今は、定食を食べ始めたばかりのハイン君と、
 未だランチと戦っている僕の2人しかいない。


147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 03:12:42.29 ID:27u6leUZO

从 ゚∀从「ふん。あの女の味方かよ、先生」

(;^^ω)「味方っていうか……」

从 ゚∀从「デーレデレしちゃってさー」

 ハイン君が、箸の先を僕の手元に向けた。
 正確には、僕が握っているメモ用紙。



 ――素直さんが店を出る際、鞄から取り出したメモ用紙に何かを書き付け、
 僕に差し出してくれた。

( ^^ω)『?』

川 ゚ -゚)『携帯の電話番号とメールアドレスです。何かありましたら』

 女性から連絡先を教えてもらうなんて過去に一度も経験していない僕にとって、
 これはもう一大事であった。



从 ゚∀从「にやけてんぞ」

( ^^ω)「おっとっと」

 思い出している内に笑ってしまっていたらしい。慌てて表情を直す。
 「気持ち悪っ」と呟き、ハイン君は焼肉を口に運んだ。
149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 03:22:08.07 ID:27u6leUZO

从 ゚∀从「そんなに女のメルアドが嬉しいか」

( ^^ω)「家族と仕事以外に初めて他人のアドレス手に入れたホマ。
       その家族ももういないからデータ消すけど」

从 ゚∀从「ごめん」

( ^^ω)「いいホマ」

 唐揚げに噛りつく。
 かりかりの衣、柔らかい鶏肉。じゅわっと肉汁が溢れた。

 唐揚げは、皮の部分が一番美味しいと思う。
 薄くてぱりぱりの。

从 ゚∀从「……」

( ^^ω)「どうしたホマ?」

 ふと顔を上げると、ハイン君が手招きのような仕草をした。

从 ゚∀从「携帯」

( ^^ω)「?」

从 ゚∀从「携帯貸して」


152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 03:27:25.22 ID:27u6leUZO

( ^^ω)「どうして?」

从 ゚∀从「なんか可哀相だから、オレのアドレスも教えてやるよ」

( ^^ω)「お情けで教えてもらうのはちょっと……」

从#゚∀从

( ^^ω)「どうぞ僕の携帯です」





 女の子のアドレスを、2人分手に入れてしまった。


156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 03:39:40.82 ID:27u6leUZO



(´・ω・`)「仲良くやれているようで」

( ^^ω)「ホマホマ」

 12月も、もう20日になった。
 クリスマスまであと5日。

 素直さんとのメールのやり取りも増えてきたし、
 何度か食事もした。雰囲気なんざ糞喰らえという感じの定食屋で、だが。

 もしかしたらもしかするかも、という期待が沸き上がる。

 恋人でなくてもいい。
 クリスマスに、近しい女性と一緒にいられたなら、
 母も喜んでくれるだろう。

(´・ω・`)「クーさんお酒弱いから、こう、酔わせまくって、ホテルとかに」

(;^^ω)「それはさすがに……」

 担当さん、案外過激だ。

159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 03:55:00.80 ID:27u6leUZO

(´・ω・`)「それはさておき……お仕事の方もちゃんとやってくれてますよね」

( ^^ω)「分かってるホマ」

 原稿の束を渡すと、「よろしい」と担当さんが頷いた。
 要求されたのは5ページ程のショートショート。
 僕にしては、随分早く書き上がった方だ。

(´・ω・`)「……」

 無言で現行を読む担当さん。
 眉根に僅かな皺が寄っているのに気付き、不安になった。
 しかし予想に反して、読み終えた担当さんは、うんうんと頷いてくれた。

(´・ω・`)「まあ、いいと思います。いつもより内容が明るいですね」

( ^^ω)「そうホマか」

 それはそうかもしれない。
 素直さんの批判を思い出して、なるべく暗くなく、
 明瞭な内容にしようと書いたから。


161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 04:08:29.79 ID:27u6leUZO

 そのとき、どんどんとドアが叩かれた。
 誰なのかは大体分かる。

( ^^ω)「鍵開いてるホマー」

 そう告げると、勢いよくドアが開いた。

从 ゚∀从「おいっす!」

(´・ω・`)「こんにちは。丁度、先生の新作があるよ。ショートショートだけど」

从*゚∀从「オゥフ。見せて見せて」

 担当さんから原稿を受け取ったハイン君は座りもせずに、
 嬉しそうに文字を追い始めた。

从*゚∀从

从 ゚∀从

从 ゚‐从

( ^^ω)「……?」

 どうしたのだろう。
 顔が険しい――


从 ゚‐从「オレ、これ嫌いだ」
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/12/10(金) 04:19:02.00 ID:27u6leUZO

(;^^ω)「え……っ」

从 ゚‐从「……」

 原稿を担当さんへ投げ渡し、踵を返す。
 まだ来てから10分も経っていないというのに、
 ハイン君はさっさと出ていってしまった。

(;^^ω)「……」

(´・ω・`)「……先生らしくない作品ですからね。
      彼女には、合わなかったのかもしれません」

 言って、担当さんが立ち上がる。

 「また今度」と、担当さんは原稿を抱えて、部屋を出た。



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