71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:05:46.78 ID:nWGK0R840




(*゚ー゚) 「遅いっ! ほらっ、早く来る!」

俺の姿を見つけるなり、しぃは叫んだ。
周囲の視線がいっせいに集まるが、しぃに気にした様子はない。

酔っているせいか慣れないせいか、おぼつかない手つきで煙草を取り出し、不機嫌そうな表情のままそれをくわえる。

(*゚ー゚)「座りなさい」

( ^ω^)「……お前、相当飲んだだろ」

(*゚ー゚)「うるさいこと言わないで座る! そして上司にお酌するっ! ほらっ!」

( ^ω^)「……」

どうやら同期の上司がご乱心の様子だ。
今日一日は我慢することにして、俺はしぃの正面に座った。

まずは言われたとおり、テーブルの上にあったビールをしぃのグラスに注ぐ。
それからやってきた店員にビールを頼み、しぃにならって煙草に火をつける。
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:07:01.40 ID:nWGK0R840

しぃがじっと俺を見つめていた。
意味ありげな視線を俺にぶつけ、

(*゚ー゚)「……で?」

尋ねられた。
意味がわからなかった。

( ^ω^)「お前……意味がわからんお。何が聞きたいかもっとわかりやすく頼むお」

(*゚ー゚)「どうしてこんなに遅くなったの」

( ^ω^)「そんなもん……」

聞くまでもなく仕事のせいじゃねぇか……と言いたかった。
しかし酔ったしぃの姿があまりに新鮮で、思わず笑ってしまった。

慌てて手で口元を覆うが、片手では隠しきれない笑顔の欠片が指の間から漏れる。
店内は飲み屋らしい喧騒で満ちていたが、しぃはしっかりと俺の押し殺した笑い声を聞き取ったらしい。

ただでさえ険しかったその顔が、余計に曇った。


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:08:09.96 ID:nWGK0R840

(*゚ー゚)「なによ。わたし、なにかおかしいこと言った?」

( ^ω^)「いや、違う。そうじゃなくて……」

(*゚ー゚)「じゃあなによ」

( ^ω^)「……エレベータがさ」

仕事のことを口にするのはやめようと思った。
酔っ払ったしぃに仕事のことを思い出させるのも嫌だったし……それになんだか、気分が良かった。

入社したての頃、同期の仲間で集まり、こうして酒を飲んだことを思い出していた。
新しいことだらけの毎日は文字通り修羅場で、しかし早く一人前になろうと必死だった……。
そんな、退屈ではなかった日々。

考えてみれば、あの頃はエレベータに苛立っている余裕さえなかった。
随分とたくさんのことが変わった今、こうしてしぃはまだ俺の目の前でビールグラスを傾けている。

名前の呼び方さえ変わってしまった、俺の前で。

最近ずっと重荷でしかなかった同期の縁が、狭い居酒屋の中で不思議なほど温かい。
仕事のことなんてすっかり消えた頭で、俺は続けた。
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:09:26.13 ID:nWGK0R840

( ^ω^)「ほら、あのエレベータ、頭悪いお?」

(*゚ー゚)「頭悪い?」

( ^ω^)「そ。誰も待ってないのに止まったりとか。
       まぁ、エレベータよりさらに頭悪い奴らがいるせいなんだけどさ」

(*゚ー゚)「この時間ならそんなこともないでしょ」

不機嫌そうな口調で言われる。
どうやら納得していただけなかったらしい。

だが、どれだけ反論されようと、事実なのだからしょうがない。

(*゚ー゚)「どうせわたしと飲むのが嫌で、だらだら仕事してたんでしょ」

しぃが拗ねるように言った。
その言葉はついさっきまでその通りだったが、もちろんうなずけるはずがない。

( ^ω^)「だからエレベータだって言ってるお」

(*゚ー゚)「……」
 
しぃが俺を睨んだ。
無言の視線は、なかなかに迫力があった。
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:10:42.70 ID:nWGK0R840

「お待たせいたしました」

タイミングよく、俺のビールを持った店員がやってくる。
ビンのビールとグラスを俺の目の前に置き、

「食べ物の注文はよろしいですか?」

( ^ω^)「あ、じゃあ、漬物と串の盛り合わせ一つずつ」

「かしこまりましたー」

気持ちのいい笑顔でうなずいて、店員が注文を伝票に書き込む。
俺は煙草を灰皿に押し付け、スーツの上着を脱ぐ。

(*゚ー゚)「あとビールもう一つ」

しぃが低い声で注文を追加した。

「はい、ありがとうございます」

店員は笑顔を崩さず答える。
やがて店員が立ち去ると、しぃは再び俺の顔を睨みつけた。

(*゚ー゚)「エレベータがなんだって?」

どうしても待たされたのが許せないらしい。
尋問でもするようにしぃは聞いた。
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:11:59.78 ID:nWGK0R840

(*゚ー゚)「こんな時間に混むはずもないエレベータが、なに?」

( ^ω^)「……だからな、止まるはずもないのに止まるんだお」

(*゚ー゚)「どうしてそうやって嘘つくのよ」

( ^ω^)「いや……嘘じゃないって。今日だって、八階で――」

(*゚ー゚)「ほーら、嘘だ」

しぃが俺の言葉を遮った。
してやったりと言わんばかりの顔で、しぃは俺を見る。

(*゚ー゚)「適当なことばっかり言うから、そうやってすぐばれる嘘になるの」

( ^ω^)「……は?」

こればっかりは本当に意味がわからなかった。
今の俺の言葉のどこが適当だったのか。少なくとも嘘はどこにもないはずだ。

しぃはグラスに余っていたビールを飲み干し、言った。

(*゚ー゚)「だって止まるはずないもんね、八階なんて」
85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:13:36.57 ID:nWGK0R840

( ^ω^)「……止まるはずない?」

(*゚ー゚) 「あれ? ブーン、知らないの? そっか。だからこんなわかりやすい嘘を――」

( ^ω^)「知らないって、なにをだお?」

(*゚ー゚)「……ブーン?」

思わず身を乗り出していた。しぃが不思議そうに俺を見る。

だが……知らない?

( ^ω^)「八階に止まるはずがないって、どうしてだお」

(*゚ー゚)「あ、うん、だって……」

どこか釈然としない様子で、しぃは話し出した。

(*゚ー゚)「知らない? うちのビル、八階にはテナント一つも入ってないの。
     入居の募集もしてない。ブーンは知らないみたいだけど……昔ね、事故があったの。
     まだビルの工事してた頃で、でもその頃から入居テナントの募集はしてて……それでね、下見に来てたある企業の人が、巻き込まれて――」

しぃの言葉は続く。
俺の背筋に、薄ら寒いなにかが走る。
88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:15:35.08 ID:nWGK0R840

(*゚ー゚)「――その人ね、亡くなったの。事故のこと、わたしは詳しく知らないけど……。
     このビルのオープン当初は、その事故のせいでテナント集まらなくて大変だったんだって。
     今はもう、八階以外の階は一杯になってるけど、それでも八階の募集はしないんだって」

( ^ω^)「それ、誰から聞いた話だお?」

(*゚ー゚)「ビルの管理会社の人。設備のメンテナンスとかの連絡、今はわたしが担当してるから。
     そのおかげで仲良くなった人に聞いたんだけど……ブーン? どうしたの?」

しぃの声の調子が、いつの間にか心配そうなものに変わっていた。
だが、どうしたと聞かれても、答えられるはずがなかった。

俺は……しぃの話が本当だとするなら、じゃあ、俺が見たあれはなんだった?
八階で止まったエレベータは?
明るい窓の向こうで動き回っていたのは誰だ?

……聞こえてきた声は?

( ^ω^)「……その、亡くなったって人」

俺は口を開く。

( ^ω^)「働き者だっただろ」

(*゚ー゚)「えっ? あ、そういえば……管理会社の人、そう言ってたかも。
     お葬式に出席したとき、家族の人から話を聞いたって……ブーン、この話、知ってるの?」
91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:18:46.65 ID:nWGK0R840

( ^ω^)「いや……」

知っているはずがない。
こんな話を知っていたら、八階でエレベータを降りようなんて考えるはずがない。

足を踏み出した先に、たとえどれだけ充実した日々が待っていようと……たとえ俺が、それを求めていようと。

求めていたから見えたのだろうか。
八階で止まったエレベータ、そのドアの向こうに見えたまぶしい世界は、俺の作り出した幻だっただろうか。

それとも、本当はそんな日々の中で生きるはずだった、生きるはずなのに生きられなかった誰かが。

――――諦めきれずにまだ八階にいるのだろうか。


92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:20:49.08 ID:nWGK0R840

( ^ω^)「はは……」

どえらい奴に見込まれたもんだ……俺は思わず苦笑する。
まさか俺のような人間を能力で見込むとは思えない。
ならば俺を誘った理由は、たぶん誘えばついてきそうに見えたからだろう。

甘い誘いに現実を放り出し、幻想でもいいから満ち足りた日々の中へ……そうかもしれない。
幻想でも良かったのかもしれない。

でも、俺は今、ここにいた。

どうひいき目に見ても楽しいとは言えない日々の中に。



93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:22:07.84 ID:nWGK0R840

(*゚ー゚)「ブーン? どうしたの? あの……もしかして、本当に八階でエレベータ止まったの?」

( ^ω^)「……止まったお」

(*゚ー゚)「え、じゃ、じゃあそれって――」

( ^ω^)「俺がボタン押し間違えたからな」

(*゚ー゚)「……」

しぃの表情が固まった。
たっぷり数秒かけて俺の言葉を理解し、

(*゚ー゚)「よっ、よくも騙したなっ!」

( ^ω^)「いってぇ……」

おしぼりを投げつけられた。

(*゚ー゚)「なによっ。やっぱりブーン知ってたんじゃないっ!」

( ^ω^)「詐欺ってのは、基本的に騙された奴が悪いお」

(*゚ー゚) 「うるさいっ! そんなの止まるに決まってるじゃない! ボタン押せばっ……」


94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:23:28.69 ID:nWGK0R840

( ^ω^)「ん? どうしたお?」

(*゚ー゚)「あれ? でもおかしいよ?
     今、たしかエレベータって、八階のボタン押しても止まらないように設定されて――」

( ^ω^)「こら、しぃ。あんまり複雑なことを考えるんじゃない」

投げつけられたおしぼりをしぃの手元に置きながら、その言葉を遮る。
最近のエレベータがコンピュータで制御されていることくらい、管理会社の人間と疎遠な俺でも知っている。

テナントが入っていないなら、素通りされるよう設定されているのは当然だ。

まだ納得できないらしいしぃは、身を乗り出して口を開くが、

(*゚ー゚)「あ、あの、ブーン――」

「お待たせいたしました」

最高のタイミングで店員が食い物を持ってきた。
言葉を遮られたしぃは、目の前に並べられる料理と酒を恨めしそうに眺め、並んだばかりのビールを勢いよくあおる。
96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:26:33.85 ID:nWGK0R840

(*゚ー゚)「ブーン」

( ^ω^)「ん?」

(*゚ー゚)「さっきの話は嘘? 作り話なんでしょ?」

( ^ω^)「真実はいつも心の中に」

(*゚ー゚)「うるさーいっ!」

( ^ω^)「痛いお……」

割り箸を投げつけられた。
おしぼりよりずっと痛かった。

(*゚ー゚)「もうっ、なんなのよっ!」

さっきから怒鳴りっぱなしのしぃは、身を乗り出して俺に詰め寄る。

(*゚ー゚)「酔っぱらいからかって楽しいの!?」

( ^ω^)「酔っぱらいだってわかってるなら、少し自重しろお」

(*゚ー゚)「いいのっ。最近上の人との付き合いばっかりでつまらなかったから、今日はブーンと一緒に楽しいお酒飲むって――」

そこでしぃは、口元を押さえた。
せわしなく泳ぐ視線は、やがてうつむき加減に手元にある灰皿へ向けられた。
99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:28:17.14 ID:nWGK0R840

俺は軽く息をつく。
同期では出世頭のしぃも、それなりの苦労を抱えている。……当然じゃねぇか。

( ^ω^)「俺さ、仕事辞めようかと思って」
 
心の中で鬱積していた気持ちが、不意に素直に口から出てきた。
口を開くと、しぃの視線は勢いよく上がった。

俺をまっすぐに見つめ、

(*゚ー゚)「……辞める?」

( ^ω^)「そう。ずっと考えてたんだお……いい加減、むかつく上司にゴマするのも疲れたお。
       仕事だって、そりゃ誰かがやらなけりゃならん仕事なのはわかるが、それでもやっぱ俺のしてることはちょっとな。
       俺に面倒ごと押し付けて、そしてなんかやる気満々で会議に出てるチーフとか見るとな……正直、耐えられなくなるんだお。
       俺だってあの場に立ちたいと思ったから、こんだけ必死にやってんのによ」

(*゚ー゚)「ブーン……仕事、好きなの?」

( ^ω^)「働くのは好きだったお、昔から。学生の頃もバイトは楽しかったし。
       典型的な日本人なんだろ、俺」

(*゚ー゚)「……でも、辞めるの?」

( ^ω^)「……」
102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:30:33.94 ID:nWGK0R840
すぐには答えず、俺はグラスに口をつける。
俺を見つめるしぃの瞳は揺れていて、聞こえてくる声は震えている気がした。
だから見ていられなくなって、俺は視線をはずした。

もっと前からこんな風に話ができたらよかった……そう、思った。
一歩先を行く同期の愚痴を聞きながら、一歩遅れる俺が愚痴を返す。

そんな風に退屈だと感じていた時間をすごせたら、八階でエレベータが止まることもなかったかもしれない。
俺が仕事を辞めたいと思うことも。

でももう遅いのだろう。
別に今の職場に問題があるわけではない、事実しぃは精力的に働いている。

問題があったのは俺だ。
転機はどこかに転がっていたかもしれないのに、現実に腐ってそれを見過ごしていただろう俺が、なにより問題だ。

自分でチャンスを不意にしたなら、今度は新しいそれを自分で探しに行かなければならない。
八階に足を踏み出そうとした俺は、きっとここに残っていたってなにもできない。

自分を誘う声に、現実を放り出してもいいと思ってしまった俺は。

( ^ω^)「前から考えてはいたんだお。消極的ではあったけど」

(*゚ー゚)「どういうこと?」
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:31:31.37 ID:nWGK0R840

( ^ω^)「どこかにチャンスがあれば、今の仕事くらいってさ。
       ……でも、そんな考え方じゃ、いつまで待ってたって、チャンスなんて来ない気がして」

(*゚ー゚)「で、でも、そんな急に――」

( ^ω^)「お前に敬語使うのも」

(*゚ー゚)「……えっ?」

( ^ω^)「本当は嫌だったんだお。敬語なんか使ってる自分が」

煙草を口にくわえなければ、同期と気楽に話すこともできない……。
それはきっと悲しいことだ。本当はどんな場所でも対等でいたかった。
たとえ上下の関係があったって、そんなものどうでもよく思えるくらい強い縁は――、

( ^ω^)「しぃさん……なんて、言ってる自分がさ」

あったはずなんだ。


105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:33:03.66 ID:nWGK0R840

( ^ω^)「……今のままじゃ、無理っぽいから。
       明日からいきなり変えるのは、俺にはできそうもないし」

(*゚ー゚) 「そんなの、気持ちの問題じゃん……」

( ^ω^)「その気持ちを変えるために、まず現実から変えてみようってことだお」

(*゚ー゚)「……」

しぃは沈黙した。
重々しい仕草でビールを口に運び、それから煙草に火をつけ、いかにもまずそうに吸い込む。

俺も黙ったまま、ずっと手をつけていなかった串焼きに手を伸ばす。
昼から何も食べておらず、体は食い物を求めているはずだった。

しかし少し冷めた焼き鳥はそれほど美味くなかった。
沈黙が料理の味を落としている感覚、せめて空気が少しやわらぐまで間をつなごうと、俺は煙草をくわえる。

(*゚ー゚)「相変わらずだね」

( ^ω^)「……はっ? なにがだお?」

(*゚ー゚)「それ」

言いながらしぃが指差したのは、俺の手に握られた煙草。
108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:35:22.58 ID:nWGK0R840

(*゚ー゚)「相も変わらず美味しくなさそうに吸うんだね。
     そんなに嫌なら吸うのやめればいいのに」

( ^ω^)「そんな簡単にやめれるなら――」

そこまで言って、俺は思わず言葉をとめる。
しぃがしてやったりという表情で笑った。

(*゚ー゚)「仕事、好きなようにすればいいと思うよ」

柔らかく微笑んで、しぃは続けた。

(*゚ー゚)「ビール片手に煙草吸うときくらい、誰だって笑っていたいだろうしね。
     ……実はね、なんとなくこうなる気はしてたよ。まさかもうブーンが決めてるとは思ってなかったけど。
     今日もね……なんかちょっと、愚痴とかこぼしてくれたら嬉しいなって思ってて……それで明日から、ブーンが少しでもやる気になれるなら……てね」

しぃはふ、と息を吐き

(*゚ー゚) 「でも残念、ちょっと遅かったんだね」
113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:37:46.09 ID:nWGK0R840

( ^ω^)「……肺がんになったら、全部俺の責任にしていいお。
       なんなら俺の生命保険の受取人、お前にするかお? 肺がんの治療費って名目で」

(*゚ー゚)「いいよ。なんか、すぐにやめれそうな気がするから」

( ^ω^)「あぁ……だよな」

(*゚ー゚)「がんばってよね」

明るい声でしぃが言う。

(*゚ー゚)「やさしい同期の気遣い無視して仕事辞めるんだから、煙草くらい美味しく吸ってもらわなきゃ困るからね」

( ^ω^)「善処するお」

(*゚ー゚)「うん。辞表はいつ出すの?」

( ^ω^)「時間かけたら迷いそうだから。明日にでもチーフに話すお」

(*゚ー゚)「そっか。……よし! じゃあ今日は仕事の話はここまでっ!」

強い調子で言って、しぃは立ち上がる。
店の奥に向かって、

(*゚ー゚)「店員さんっ! ビール追加! それから車エビの串焼き二人前お願いっ!」
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:39:41.48 ID:nWGK0R840

豪快なしぃの頼みっぷりに、店内の酔っぱらいたちが軽く拍手をした。
しぃは「どもども」なんて言いながら愛想を振りまき、店の奥からは「ありがとうございます!」という威勢のいい声が返ってくる。

ひとしきり店内を盛り上げ、満足したらしいしぃは腰を下ろす。
苦笑する俺を見、

(*゚ー゚)「次に二人で飲むときは、ブーンの就職祝いだね」

( ^ω^)「……そうだおね」

しぃの言葉に俺はうなずく。
美味しくなさそうと言われた煙草を灰皿に押し付け、

( ^ω^)「そのときはお前に、美味い煙草の吸い方ってやつを教えてやるお」

(*゚ー゚)「期待してるよ。……でもさ」

( ^ω^)「ん?」

(*゚ー゚)「もし美味しい煙草が吸えなくてもさ……たまにはこうやって会おうよね」

そこでしぃは、言葉を切った。
120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:40:43.73 ID:nWGK0R840

俺を恥ずかしそうに見つめ……入社してから今日までの、共に過ごした全ての時間を声に乗せて、

(*゚ー゚)「――せっかくの同期なんだから」

( ^ω^)「……」

俺はうなずいた。

何も言わず、でも……力強く。



俺が煙草を心から美味いと思えるようになったら――その時、しぃに伝えよう。

ありがとう、と。




( ^ω^)は空気が読めるようです  終

 

 

 

 

 

 

130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2007/08/22(水) 13:43:49.92 ID:nWGK0R840

あとがき

読んだ方、お疲れ様でした。そして付き合ってくれてありがとう。
本当は新ジャンルスレにでも投下するつもりで書いていたのですが、題名が思いつかなかったんです。
そんな時にブーンスレ検索したら、このスレがあったのでむしゃくしゃして投下しました。反省はしていない。

麦わら帽子もよろしく。ではさよーなら!

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