1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 21:48:11 ID:hEncrllJ0
はぁっ…はぁっ…

床に倒れたツンの腹に刺さったナイフからおびただしい量の血が流れ、
フローリングの床を赤く染めていた。
すでにこと切れたツンの顔は血を失い、開け放たれた窓から注ぐ月の光のせいか、
青白くなった顔はとても綺麗だ。
風が入ってきて、頬が冷える。

( ^ω^)「なぜ…なぜ…僕が…」

遠くからサイレンの音が聞こえる。僕は2階の窓から部屋を飛び出した。
逃げなくては。
降りたところは軟らかい土で、足が少ししびれただけで怪我は無い。
僕はサイレンの聞こえる方向を避けて走った。
7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 21:50:35 ID:hEncrllJ0
数十分後、ツンの部屋。
革のコートを着た二人の男と数人の制服警察官が部屋の中を調べまわっている。
現場保存のためのシャッター音がうるさく鳴る。

(´・ω・`)「これは、ひどいな…」
ショボンはしゃがみこんで死んだツンを見た。

('A`)「ショボン…こいつは…!」
ショボンの後ろに立っているドクオが驚いて声を上げた。

(´・ω・`)「現場ではショボン警視と呼びたまえ、ドクオ君」
('A`)「失礼しました、ショボン警視。でもこいつは…」
(´・ω・`)「あぁ」
('A`)「信じられねぇ…なんだってあのツンがこんな目に!」
(´・ω・`)「落ち着きたまえ、まだ何も分かっていない―」

8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 21:51:09 ID:hEncrllJ0
警官の制服に身を包んだ小柄な男が飛び込んできた。

(оДо)「失礼、警視!殺害直後の場面を目撃した住民を見つけました」

(´・ω・`)「ご苦労」

(оДо)「どうやら住民は犯人の顔を見ていたようで…目撃者の話を元に描いた似顔絵です」
ショボンは警官が差し出したスケッチブックを手に取った。ドクオもそれを覗き込む。

(´・ω・`)('A`)「!!!」


「    ( ^ω^)    」

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 21:51:31 ID:hEncrllJ0
('A`)「これは…ブーンじゃねぇか…」
ドクオの声はまるで捻り出されるかのようだった。

(´・ω・`)「残念ながら、そのようだな」
('A`)「あいつら…あいつらめちゃくちゃ仲良かったじゃねぇか…!」
ドクオは両の拳をこれでもかというくらい握り締めた。
声がわなわなと震える。

(´・ω・`)「…」
('A`)「ショボン!てめぇ、なんでそんなに冷静で居られるんだよ!」
ドクオがショボンの襟に掴みかかった。

(´・ω・`)「ドクオ警部補」
('A`)「…な、なんだよ」
ショボンは襟を掴んだドクオの手首を、左手で握り返す。
(´・ω・`)「まだ何も分かっていない」
('A`)「…」
ドクオはショボンの襟からゆっくりと手を離した。
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 21:52:13 ID:hEncrllJ0
('A`)「…だったら、だったら何もしないでいいのかよ!」
(´・ω・`)「違う…こんなところで君と嘆きあう時間はないということだ」
('A`)「…」


(´・ω・`)「初動捜査は事件解決の大きな分かれ道だ。君も警察官だろう、少しは
感情を抑えたまえ」

('A`)「だけど…」
('A`)「…!」

ショボンのスケッチブックを持つ手がかすかに震えているのをドクオは見た。

('A`)「…わかった。君、今すぐ半径10`以内の全ての交番にこの似顔絵のコピーを
配って警戒を強めるように伝えてくれ、それと最寄駅にも何人か張り込ませておいてくれ」
(оДо)「はい!」

(´・ω・`)「…それでいい。あと付近の主要な道路で検問を行っておくように」
(оДо)「了解しました!」
小柄な警官は部屋を走り去った。

('A`)「…すまねぇ、ショボン」
(´・ω・`)「気にするな。私もこんなことは初めてだ」
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 21:53:04 ID:hEncrllJ0
(^ω^;)「だめだ、こっちは検問が張られてるお」
もう三十分は走り続けている。
(^ω^;)「目立たずに走るのは難しいお…」

警官がせわしなく動いているのが見て取れる。ここから走って逃げるのは難しいようだ。
(^ω^;)「どうしようもないお」
( ^ω^)「…!」
ブーンは自分のすぐ横にあるマンホールに気づいた。
( ^ω^)(これなら逃げられるかもしれないお…でも中は真っ暗だお)

( ^ω^)(しょうがない…)
ブーンはうつむいて目立たないように交差点を渡り、角のコンビニに入った。
コンビニには客が二、三人いただけで、その誰もがブーンと目を合わせることは無かった。


15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 21:53:35 ID:hEncrllJ0
( ^ω^)「これくださいお」
ブーンはスケルトンの懐中電灯を店員に差し出した。
店員「かしこまりました」
店員はとくにブーンを不審がる事もなく軽快にレジを打つ。
( ^ω^)「ビニール袋は要らないお」

店員「はい。お釣りの135円になります」
店員はブーンの手を包んでつり銭を渡す。
( ^ω^)「どうもだお」

ふと、ブーンは思った。
人の手の暖かさを感じるのはこれが最後になるかもしれない。
ブーンはつり銭を置いた店員の右手を、差し出した右手で軽く握り返した。
店員「…っ!?あ、ありがとうございました」
戸惑う店員を残して、ブーンはコンビニを後にした。つり銭は全て、緑色の募金箱に
ぶちこんだ。
17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 21:54:09 ID:hEncrllJ0
ブーンは支払いをすませて店を出ると、すぐに先ほどのマンホールへ向かった。
ゆっくりと慎重に、マンホールのふたを持ち上げる…
(оДо)「…?」
(оДо)「あれは…?」


捜索を行っている警官のひとりがブーンに気づいた。
近づく警官。

(^ω^;)「やっと開いたお…音を立てないように開けるのは神経削るお」
懐中電灯を握り締めてブーンがつぶやく。

迫る警官。
(^ω^;)「暗いお…でも…僕は逃げなきゃいけないお…」
(оДо)「君、そこで何をしてる」
( ^ω^)「!!」
20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 21:57:07 ID:hEncrllJ0
ブーンは顔を隠していなかった。
警官はすぐさまポケットに手を突っ込み、コピーの似顔絵を取り出す。
二秒ほど眺め、
(оДо)「動くな!」

( ^ω^)「…っ!捕まるわけにはいかないお!」
ブーンは地面と水平に足を振り、興奮していた警官の足を蹴って転ばせた。そのまま
警官を置いてマンホールの中に飛び込む。
(оДо)「待てぇ!」

警官は起きながら無線機を取り出し、叫ぶ。
(оДо)「荒巻交差点脇のマンホールで容疑者発見、後逃走!
マンホールの中に逃げ込まれました!」
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 22:00:06 ID:hEncrllJ0
付近をパトカーに乗って巡回していたドクオとショボンの元にも知らせは届いた。
('A`)「何だと!」
(´・ω・`)「…マンホールとは」

ドクオとショボンが顔を見あわす。
('A`)「付近のマンホール全てに警官を回すか」
(´・ω・`)「いや、それではおそらく少なすぎるだろう。検問の外のマンホールにだけ
回しておく」
そしてショボンは自ら無線機をとって伝える。

('A`)「マンホールか…」
信号待ちの際にドクオがふと窓の外を見ると、交差点のふちにマンホールを見つけた。
('A`)「すまん、停めてくれ」
運転手は了解の返事と共に車を道の脇に停める。それと同時にドクオがドアを開けて外に出る。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 22:01:52 ID:hEncrllJ0
(´・ω・`)「どうした?」
('A`)「…奴はおそらく逃げ出す際にあまり準備はしていなかった筈。
方角の分からないマンホールの中の方がむしろ捕まえやすいかと思ってな」
そう言ってドクオはコートの内ポケットからコンパスとライトを取り出した。

(´・ω・`)「それを使うのか」
('A`)「…ああ」
ショボンは少し考えるように俯いた後、ドアを閉め、窓を開けた。
(´・ω・`)「分かった。ただし無理はするな。マンホールの中がどうなっているか
分からないのは奴だけじゃない、お前もだ」
('A`)「ああ」
(´・ω・`)「中の様子が分かればすぐに援軍を送る」
('A`)「わかった。感謝する」

そういうとドクオはコートを翻して走り出した。ショボンは窓を閉め、パトカーが走り出す。
(´・ω・`)「…」
35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 22:05:30 ID:hEncrllJ0
穴の中は暗いし、臭い。
( ^ω^)(だけど追手は来ていない様だお)
ブーンは後ろと思しき方向を振り向き、足音が聞こえないのを確認して、懐中電灯の
電源を入れた。

カチ、という音がしてトンネルの中がぼんやりと照らされる。
( ^ω^)(意外と広いお…)
ブーンは懐中電灯をあちこちに向けてみるが、表面のただれた灰色のコンクリートが
あるばかりでとくに気になるものは無い。
( ^ω^)(それでも追手がこないうちに急いで逃げるお)

ブーンは自分の足音の素になっているものが履いている靴だと気づいて、
それを脱いで下水に捨てようとしたが、
(^ω^;)(裸足はいくらなんでも怪しいお)
思い直して靴紐をベルトに巻きつけた。
( ^ω^)(これでいい)
ブーンは先ほどの検問の方向を頭に浮かべながらそれとは逆の方向に走った。

( ^ω^)(とりあえず検問を抜けさえすれば…)
コンクリートの床は滑らかで、裸足で走っても痛みを感じることは無かった。
38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 22:09:19 ID:hEncrllJ0
―白い月がとても綺麗な晩だった。

( ^ω^)「今日はツンのために鍋セットを買ってきたお」
買い物袋をゆらゆらさせながら、僕の顔は自然とにやける。
僕とツンはまだ新婚ほやほやの夫婦だ。仕事がてんでできない僕は
外に働きに出るツンを家で待つ、主夫をしていた。

( ^ω^)「いい加減この半インスタントから脱却したいものだお」
僕は鍋セットの入った買い物袋を恨めしそうに見る。
だが昼ごはんでは黒こげしか作ることのできていない僕が
疲れて帰ってきたツンに手料理を振る舞うのはまだ気が引ける。
( ^ω^)「まだ料理は上手くならないけど、愛するツンのために今日もがんばるお!」
そう言って僕は左手を高く突き上げる。
すれ違う老夫婦に笑われたようだが気にしない。
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 22:10:49 ID:hEncrllJ0
僕は時計をちらりと見た。
( ^ω^)「ツンが帰ってくるまでまだ少し時間があるお」

ちょうど良く公園を見つけたもんだから、僕はすこし時間をつぶすことにした。
( ^ω^)「懐かしいお、ぶらんこだお」
ここの公園は周辺がマンションに囲まれているにもかかわらず見晴らしが良く、
綺麗な月がよく見えた。
僕はブランコに揺られながら、初冬の乾いた風を全身に受けた。
( ^ω^)「気持ちいいおー」

鉄の鎖がキチキチと音を鳴らす中、かすかに別の音が聞こえた。
「にゃー」
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 22:13:09 ID:hEncrllJ0
( ^ω^)「…ぬこの声だお」
それはとてもか細く高い声で、子猫の声のようだった。
僕はブランコを降り、声の聞こえる方に近寄る。
どうやら茂みの中のようだ。僕がごそごそと茂みをあさっていると、
案の定小さな子猫が、ひどくぐったりとしてそこに居た。
( ^ω^)「!!!」
僕は急いでその子猫を両手で大事に拾い上げ、来ていたコートを
脱いでその子猫にかぶせた。
「みゃあ」
子猫は寒そうに体を震わせている。僕は柔らかい芝生の上に
コートに包まれた子猫を寝かせた。

( ^ω^)「ちょっと待つお!」
そう言って僕は買い物袋を残したまま子猫を置いてその場を去った。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2005/12/10(土) 22:16:14 ID:hEncrllJ0
( ^ω^)「少しだけあったかくしてくれお」
僕は先ほど通り過ぎたコンビニでパックのミルクを買った。
店員「これをですか?」
( ^ω^)「頼むお。ちょっとだけでいいお」
店員はしぶしぶといった顔でミルクを手に取り、それを電子レンジに放り込んだ。
破裂しないか心配だったが、程なくしてそれは人肌ほどの温かさになって出てきた。

ブーンは五百円玉を店員に差し出して言った。
( ^ω^)「代金はこれで。おつりは寄付しといてくれお」
僕は店員の手からミルクをひったくり、店を飛び出した。
曲がりざまに見ると、店員が呆けた顔で僕を見ているのが分かった。
僕は急いで子猫の元へ向かう。
53 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/10(土) 22:18:40 ID:hEncrllJ0
>>49
おk

僕が戻っても子猫はか細い声を上げているままだった。
僕はほっと息をついた後、ビニールの買い物袋から鍋セットを取り出して
そこに買ってきたミルクを注いだ。

( ^ω^)「あったかいお。飲むお」
僕は子猫の顔をミルクに近づけた。子猫は最初は警戒していたが、
すぐにちろちろと舌を出してミルクを飲み始めた。

あまり良い状況とはいえなかったが、必死にミルクを飲む子猫の姿はとても愛らしくて
僕は頬を緩めながらその猫を見つめていた。
( ^ω^)「ぬこはかわいいお」
ミルクを飲み干した子猫を僕が指で軽く突っつくと、子猫は元気を取り戻したようで
上半身を起こして前足をぱたぱたと動かした。
僕は猫をくるんであったコートをそっとゆるめ、子猫を外に出してやった。
57 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/10(土) 22:21:16 ID:hEncrllJ0
子猫は先ほどの衰弱がまるで嘘のように芝生をひょこひょこと跳ね回って
元気な泣き声を上げた。
「ニャーォ」
( ^ω^)「よかった、良かったお」
僕は立ち上がってコートを羽織り、買い物袋を拾い上げた。
(;^ω^)「しまったお!」
時計を見てみると、ツンが帰ってくるはずの時間はとうに過ぎてしまっている。

( ^ω^)「元気にするんだお」
僕はそう言って、少し名残惜しそうに、子猫を残して公園を出た。

初冬の風はまた一段と冷たくなった。僕は体を丸めて風の当たる面積を
少しでも小さくしようとする。
(;^ω^)「寒いお…」
59 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/10(土) 22:22:53 ID:hEncrllJ0
僕が最初の交差点を曲がろうとした時。
「ニャーン」
( ^ω^)「!!」
僕が振り向くと、足元でさっき助けた子猫が僕のことを見上げている。
白い月が写りこんで子猫の目はとても綺麗だった。
( ^ω^)「やれやれ、家のマンションはペット禁止なんだお…」
僕は足元の子猫をやさしく抱き上げた。月明かりに照らされたその子猫の毛は
黒と灰の縞に銀色が混じり、長い耳が目立ってとても愛らしかった。
69 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/10(土) 22:48:25 ID:hEncrllJ0
―マンホールの中には今日の綺麗な月明かりも入ってこない。

('A`)「やれやれ、真っ暗だな」
ライトのスイッチを入れる。
辺りが明るくなる。

('A`)「明かりを点けると向こうにも気づかれてしまうのが痛いが…背に
腹はかえられん」
ドクオは走り出した。すぐに革靴がカツカツと音を出して、閉鎖された穴の中に音が
反響しているのが分かった。

('A`)「捨てるか…いや、勿体ないからまた取りに来よう」
ドクオは革靴を綺麗に並べて置いておいた。
ドクオはコンパスを確認して、ブーンと思われる人物が目撃された方角へ走った。
71 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/10(土) 22:52:27 ID:hEncrllJ0
ツンの部屋から死体は持ち出され、部屋には少しの血の跡だけが残っている。
(´・ω・`)「やれやれ…」
鑑識班のなかで一人だけ居残っている者がタンスの引き出しの中を
せわしなく探っている。

(´・ω・`)「僕はどうすればいいんだろうね」
鑑識「今回の事件の被害者は、警視とドクオ警部補とどのようなご関係が?」
(´・ω・`)「…」
鑑識は焦った顔で付け加える。
鑑識「失礼しました。こんな時に」
(´・ω・`)「いや、構わないよ」
75 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/10(土) 22:59:22 ID:hEncrllJ0
ショボンはスーツのポケットから財布を取り出した。
(´・ω・`)「被害者と僕たちは親友なんだ」
鑑識「…!」
そういいながらショボンは財布の中に収められている写真を見た。ツンとブーンと
ショボンとドクオの四人が遊園地の一角で楽しそうにポーズを取っている。

(´・ω・`)「半年に一度は必ず会っていたよ。見てくれ、後ろに居るのが僕とドクオだ」
ショボンは鑑識に手紙を渡す。鑑識は白い布手袋を付けた右手でそれを大事そうに
手に取った。

(´・ω・`)「前列に居る被害者と隣の男…ブーンと呼ばれているんだが…この二人は
写真を撮った遊園地で集まる少し前に結婚したばかりでね」
鑑識は手に取った写真をまじまじと見た。
鑑識「この男は…」
(´・ω・`)「ああ、似顔絵にある容疑者だ」
鑑識「…!」
80 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/10(土) 23:05:41 ID:hEncrllJ0
鑑識「なにか取り返しのつかない諍いでもあったんでしょうか」
鑑識が恐る恐るショボンに聞いた。
(´・ω・`)「なんだかんだいって仲のいい夫婦だった。だから僕はまだ彼がツンを
殺したなんて信じてはいないよ」
鑑識「…そうですね」
鑑識は手に持った写真をショボンに返した。

そのとき、ピーッ、と耳障りな音がした。
(´・ω・`)「入電だ」
鑑識「…何でしょうね」

ザァザァとノイズが聞こえるだけで、無線からは何の声も聞こえてこない。
(´・ω・`)「どうした?何も聞こえないぞ…」
そしてがつん、がつんと二度。壁を叩く音だろうか。

『('A`)「容疑者…ザッ…発見…」』
(´・ω・`)「ドクオか…?」
無線機から流れるドクオの声はひどく息切れしている。
『('A`)「ですがその後、逃走し、行き先は不明…。ザッ…しかし、犯人について確定的な情報が
入ったので…ザザ…お知らせ、します…」』
ショボンはノイズのおさまらない無線機をぐっと握り締める。

『('A`)「犯人の氏名は、内藤ホライゾン…26歳の…男性です」』
83 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/10(土) 23:11:28 ID:hEncrllJ0
―なぜ、逃げる…?
('A`)「待て、ブーン!!」

俺とブーンが鉢合わせてどれくらい経つだろう。無線で犯人発見の報を
伝えるのも忘れ、俺は追い続けていた。
('A`)「お前が、お前がツンを殺したのか!」
俺の少し前を行くブーンは、振り返る様子も無く走る。
('A`)「認めるのか!ブーン!」

少しづつ俺とブーンの距離が離れていく。くそ、あいつはめちゃくちゃ脚が
速ぇんだった。
俺はコンパスを見るのも忘れて走り続けた。
俺が次の曲がり角を曲がった時。

('A`)「しめた!行き止まりだ!」
奥でブーンが立ち尽くしている。
92 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/10(土) 23:49:22 ID:hEncrllJ0
('A`)「うああああぁぁ!!!」
俺はブーンに飛びかかった。
ブーンは俺の腕を右に避ける。
とにかく、掴むんだ。掴んで引き倒せば確実に捕まえられる!
ブーンは俺に手を出す様子は全く無い。避けることにだけ意識を集中しているようで、
俺の腕は次々と宙を掴む。

('A`)「どうしてだ!ブーン!」
(;^ω^)「僕は殺してないお!」
ブーンは避けながら叫ぶ。
('A`)「だったら警察で、いくらでも…いくらでも、無実を証明すりゃいいだろ!」
(;^ω^)「それは…できないお!」

一瞬。はやる気持ちが俺に隙を作った。
ブーンは俺の懐に飛び込み、みぞおちに掌を叩きつけた。
俺の体は踏みしめる地面を失って後ろに飛ばされる。
('A`)「ぐうっ」
(;^ω^)「今は…今は捕まる訳にはいかないお!」
97 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/10(土) 23:54:04 ID:hEncrllJ0
起き上がれない。あいつ本気で…!
ブーンは横たわる俺を置いて走り出した。
('A`)「ブーン!逃げるな!」
ブーンは振り向かない。
('A`)「お前が無罪なら、俺はお前の仲間なんだぞ!ブーン!!」
俺は必死で起き上がろうとする。しかしブーンは先ほどの角を通って
俺の前から姿を消した。
俺はやり場の無い怒りを拳にこめ、床に打ちつける。

('A`)「ちくしょう、答えろ、ブーン!!!」

98 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/10(土) 23:54:26 ID:hEncrllJ0
―俺は警察官だ。奴より場数を踏んできたはずだった。
ガタイのよさそうなやつらとも何度もやりあったことがあるし、
ねじ伏せて捕まえたこともあった。
だから、ブーンみたいな素人は簡単に捕まえられると思っていた。
だけど、今回は違った。
被害者はツンで、犯人はブーン。
思えば俺が一人で飛び込んだときからこうなることは見えていたのかもしれない。
ショボンからの援軍が来るのをじっと待っていればよかったんだ。

拳を何度も何度も壁に打ち付ける。いつしか俺の拳は血で真っ赤に染まっていた。

俺の頭の中は混乱してぐるぐると沢山の言葉や光景が次々と浮かんでくる。
ツンの笑顔も、ブーンの笑顔も。
あの遊園地も。

“(´・ω・`)「初動捜査は事件解決の大きな分かれ道だ」”
だけど最後に浮かんできたのはショボンの落ち着き払った顔だった。
俺はあわてて無線機を取り出し、震える手でスイッチを押した。
100 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 00:00:37 ID:RRop2qup0
僕はドクオから逃げ出してしばらくがむしゃらに走った。
( ^ω^)「!」
ライトを照らしていないのに、頭の上から明かりが差し込んでくる。
上を見ると、マンホールがすこしだけ開いているのが分かった。
( ^ω^)(罠かお?…)
僕はそこから出てしまおうかしばらく迷っていた。
だがマンホールの外に目立った音は聞こえない。
( ^ω^)「ええい、どうせマンホールの中に居ることはばれてるんだお!」
僕は出口に繋がるはしごを急いで上った。

目をつぶって外に出た。
( ´ω`)(誰も居ませんように)

恐る恐る目を開けると、そこは静かな通りの交差点だった。
( ^ω^)「…」
周りには誰も居なかった。
( ^ω^)「助かったお…」
105 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 00:04:40 ID:RRop2qup0
僕は急いでマンホールのふたを閉めた。
とにかく近くの駅まで。電車に乗れば遠くへ逃げ出せる。
見覚えのある建物の群が見えた。ここから駅まではそう遠くはないはずだ。
僕は走った。

しばらくして辺りはにぎやかになる。
( ^ω^)「ついたお…」
だが、駅にはパトカーが二台。警官が忙しく辺りを動き回っているのが見える。
( ^ω^)「先を…越されてるお…」

だが、走るのをやめるわけにはいかない。
僕は駅を離れて、しばらく隠れられる場所を探すことにした。
107 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 00:07:19 ID:RRop2qup0
暗かったマンホールの中に次々と警官が入り、にわかに明るくなる。
とぼとぼと出口を探していた俺は警官に頭を下げながら歩いた。
情けなくて、胸が苦しい。

俺が出口から這い出すと、ショボンがそこに居た。

('A`)「すまねぇ」

ショボンは俺の傷ついた右腕を見ながらつぶやく。
(´・ω・`)「…無理はするなといっただろう」

('A`)「本当に…すまねぇ」
俺は血だらけになった右手をもっと血が出るくらい握り締めた。
111 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 00:11:49 ID:RRop2qup0
そんな俺を見て、ショボンが切り出した。
(´・ω・`)「まだチャンスはある。たった今奴が駅の付近で目撃されたという情報が
入った―」
('A`)「!…今すぐ行かせてくれ!」
(´・ω・`)「ああ。だが、今度は私がついていこう」

('A`)「感謝する。ほんとお前には…ずっと助けられっぱなしだな」
ショボンは返事をしなかった。

(´・ω・`)「…行こう。それと、体はもっと大事にしろ」
ショボンが返事の変わりに手渡してくれたのは、白いガーゼだった。

俺はショボンに頭を下げ、用意されていたパトカーにショボンに続いて乗り込んだ。
真夜中の町にサイレンが鳴り響く。

次は俺が必ず。

112 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 00:14:34 ID:RRop2qup0
「にゃあ!にゃあ!にゃあ!」
(;^ω^)「待つお!どこへ行くお!?」
子猫が何かにおびえてブーンから離れる。
(;^ω^)「外は寒いお!行かないでくれお!!」
「にゃあ!にゃあ!」
愛らしい子猫の顔がゆがみ、青白いツンの顔に変わっていく。
( ^ω^)「ツン…!」
ツンの顔をした子猫は階段を降り、ブーンの前から去った。
(;^ω^)「待つお!行くなお!」
だが声は答えない。
目の前が暗くなる。

( ^ω^)(…はっ!)
驚いて飛び跳ねた。まぶしい!
( ^ω^)「いつの間にか朝になっていたお…」
僕は身の回りを確認する。
そうだ。僕は警察をやりすごすために近くのマンションに隠れていたんだった。
辺りはとても静かで、寒い。
腕時計を見ると、まだ5時だった。
124 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 00:24:50 ID:RRop2qup0
( ^ω^)「じっとしているわけにはいかないお」
おそらくあの駅にはまだ警官が張り込んでいるだろう。僕はそれを見越して
ふたつ遠くの駅まで走っていくことにした。
幸い警察官の姿は見当たらない。

僕は途中のコンビニで買ったサングラスをかけ、上着を脱いでかりそめの変装をした。
(;^ω^)「寒いお…」
背に腹はかえられない。

途中で見つかってしまわないか心配だったが、何事も無く無事に電車に乗ることができた。

125 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 00:25:20 ID:RRop2qup0
(;^ω^)「助かったお…」
取り合えず遠くへ逃げよう。僕は終着駅まで乗ってそこからどこかへ
高飛びすることにした。

窓から差し込む朝日が僕の目を焼く。
いつの間にか、涙が出て来た。

日曜の早朝だからか、車両に居るのは僕一人。
僕は人目を気にすることなく大声で泣いた。
131 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 00:37:28 ID:RRop2qup0
太陽が少しばかり高くなってきた。車内の人も、駅を進むにつれ
少しづつ増える。

ようやく終着駅にたどり着き、ブーンはプラットホームに降りた。
涙は乾いていたが、ぬぐいすぎたせいか目の周りが痛い。
電車の車体に写った僕の顔は、まだ朝だというのにひどく疲れているように見える。

ため息を一つついて、僕は改札を通り抜ける。徐々に人が増えてきた。
紛れて逃げやすくなりそうだ。そんなことを考えていたが、どうも頭がはっきりしない。

サングラスを通して見える黒い町は、生気が無い。
ぼうっとする。
なぜだろう。
疲れているからか…?

僕はついに、歩くのをやめて立ち止まった。
ぼうっとして、何も聞こえなかった。

ドクオの怒号さえも。
134 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 00:40:20 ID:RRop2qup0
('A`)「捕まえたぞ、ブーン!!!!!」

ドクオの右手から伸びた手錠が、しっかりと僕の左手首に掛けられている。
しまった!
(;^ω^)「!!!!」
僕ははっと正気に戻って、ドクオの手を振りほどいた。
('A`)「ショボンとも約束したんだ!もうお前を、逃がさない!」

ドクオがまた手を伸ばす。僕はまた同じように、ドクオの手を避けようとした。
しっかりとドクオの手を見て、かわす―

だが、伸びた手には包帯がぐるぐると巻かれ、ところどころから鮮やかな
血の色が浮き出ている。

僕は、鮮やかな赤から、目が、離せなかった。
138 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 00:48:19 ID:RRop2qup0
一瞬の隙を突いて、ドクオの左手が僕の襟首を掴んだ。
景色が回る。
('A`)「うおおおおぁ!!!」

鈍い痛みと共に、僕は背中を強く打ち付けた。
コンクリートの床は冷たく、見えるのは白い蛍光灯。

ドクオが僕の上にのしかかる。

そして僕の左手首にかかった手錠を、しっかりと自らの血だらけの右手首にかけた。
('A`)「犯人確保」

いつしか僕は抵抗することを忘れてしまっていた。
警官が次々と辺りに集まってくる。
辺りが騒然としてきたのに、僕の耳から拾える音はどんどん小さくなり、
僕の視界はどんどん真っ白になっていった。
157 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 01:02:55 ID:RRop2qup0
―「あなた、また子猫なんて拾ってきちゃって」
部屋の中はとても暖かかった。
ツンは灰色のスーツを着たまま、ソファーに寝転んで酒を飲んでいた。
( ^ω^)「癒されないかお?」
僕がそういうと、ツンが突然立ち上がる。
「そういう問題じゃないでしょ!ここはペット禁止だ、って何度も言ってるじゃない!
あなたの悪い癖よ。直しなさい!」
(;^ω^)「だ、だって、すごく弱ってたし…」
「うるさい!うるさい!こんなに疲れてるときに、猫の鳴き声なんて聞きたくないのよ!
はやく、はやくその猫、外へ逃がしてきてちょうだい!」

叫ぶツンの顔がどんどんどす黒くなってゆく。
(;^ω^)「ツン!?どうしたお!?ツン!?」
ツンがこちらに近寄ってくる。次第にツンはその姿さえ変え、
大きな一匹の縞模様の猫になる。
『はやく!はやく逃がして!』
獣のうなり声のような低音が、猫の姿をしたツンの声に混じる。
その目がいやらしく光る。僕が子猫を離せないでいるのが分かると、ツンは僕に飛び掛ってきた。

(;^ω^)「ツン!!!」
164 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 01:12:12 ID:RRop2qup0
(;^ω^)「はっ!」
目を覚ますと、そこは白い部屋だった。

おびただしい量の冷や汗が流れているのが分かった。僕は自分の顔に
手を当てて、それを必死でぬぐう。

('A`)「起きたか」
僕が寝ていたベッドの隣には、ドクオが座っていた。
( ^ω^)「ドクオかお!ツンは!!!」
ドクオは先ほどまで読んでいた新聞を閉じて床に置いた。
('A`)「狂っちまったのか?ブーン。ツンは…ツンはお前が殺したんだろうが…!!」
そう言って僕の襟首を掴む。

(´・ω・`)「やめるんだ!ドクオ!」
('A`)「ショボン!」
突然部屋に入ってきたショボンは、僕を掴んでいるドクオの手を引き剥がした。
(´・ω・`)「混乱しているんだ、少し落ち着かせよう」
169 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 01:18:34 ID:RRop2qup0
何度かゆっくり呼吸をすると、頭がだんだんはっきりしてきた。
僕は捕まった後、警察のベッドで寝かされていたらしい。

(´・ω・`)「話せるかい?ブーン」
( ^ω^)「…大丈夫だお」
ドクオはさっきまで座っていた椅子に座りなおしている。ひどく気分の悪そうな
顔をしているのが分かった。

ショボンはとても優しい声で、ゆっくりと僕に話しかける。
(´・ω・`)「今日の朝、君は僕達警察に捕まえられたんだ」
( ^ω^)「…」
(´・ω・`)「なんで捕まえられたか、分かるね?」
僕は黙ってうなづいた。

(´・ω・`)「ツンを…ツンを殺したのは、君なんだね。」
( ^ω^)「…そうだお」
173 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 01:24:49 ID:RRop2qup0
ドクオが我慢できないといった感じで立ち上がる。
ショボンがドクオを睨みつけた。ドクオの手はガタガタと震えていたが、
椅子にドスンと音を立てて座り込んだ。

ショボンが僕のほうに向き直る。
(´・ω・`)「どうして、どうやって殺したのか、僕たちに話せるかい?」
( ^ω^)「…話せるお」

(´・ω・`)「ゆっくりでいい。僕たちは聞いているから、お願いできるかな」
( ^ω^)「…分かったお」

僕は、ゆっくりと、子猫が泣くような小さな声で話し始めた。
181 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 01:35:03 ID:RRop2qup0
( ^ω^)「クリスマスに、僕とツンが結婚を決めてから、仕事をしてない僕の代わりに、
ずっとツンが仕事をしてくれていたんだお」
ショボンがうなづいてくれる。
( ^ω^)「僕はツンが仕事に行っている間、家で洗濯をしたり、料理を作ったり…
いわゆる“主夫”ってやつをやっていたんだお。失敗してばっかりだったけど」

( ^ω^)「結婚して半年過ぎてから…ちょうどみんなで遊園地に行った少し後からだお。
ツンの様子が急におかしくなったお」
(´・ω・`)「おかしくなったって…どんなふうに?」
( ^ω^)「…いつもは仕事が終わって帰って来ると、ツンはいつも僕に笑顔で「ただいま!」って
言ってくれていたお。その笑顔が…急になくなってきたんだお」

( ^ω^)「僕はツンに、どうしてそんなに不機嫌な顔をしているのか何度も何度も訪ねたお。
でもツンは疲れて眠い、って僕のことを相手にもしてくれなかったお」

( ^ω^)「…ぼくはツンの夫なのにだお」
196 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 01:46:28 ID:RRop2qup0
( ^ω^)「僕は仕事でツンに何か嫌なことがあったんだと思って、ツンの勤める会社に
電話を掛けてみたんだお」
('A`)「…」

( ^ω^)「だけど会社では特にツンに変わったことはない、って、また相手にされなかったお」

( ^ω^)「その日、ツンが帰ってきて、…僕を殴ったお。」

―「あんた、なんで勝手に会社に電話なんてしてるのよ!」
( ^ω^)「そんな!だって、僕はツンが心配で…!」
「だったらなおさらよ!もう電話なんてかけてこないで!お願い!」

( ^ω^)「―そう言って、ツンは寝室の鍵をかけて閉じこもってしまったお。
僕はどうしていいかわからなくなったお」
(´・ω・`)「…」

( ^ω^)「だけど、鈍感な僕にも一つだけ分かったことがあったお。ツンが仕事場で
何かひどい目に遭っているってことだお」
202 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 01:54:53 ID:RRop2qup0
( ^ω^)「次の日の夜、僕はツンが寝てからこっそりツンの携帯を見てみたお。
そこにあったのは僕からのメールじゃなくて、会社の上司からのメールが
沢山入っていたお」
(´・ω・`)「そこには…何て?」

( ^ω^)「僕はとっさに浮気か何かだと思って、メールを次々見ていったお。
だけどそこに書いてあったのは愛の言葉じゃなくて」
僕は話すのを止めた。

(´・ω・`)「愛の言葉じゃ…なくて?」
僕は叫んだ。
( ^ω^)「ツンを…ツンと僕を侮辱するメールの数々だったお!」
213 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 02:02:56 ID:RRop2qup0
( ^ω^)「その上司は、女が職場に紛れ込むのをひどく嫌がる人だったらしいお。
その人の職場には半年前、ツンが笑わなくなったときにツン以外の最後の一人が会社を
辞めてから、女性がいなかった」

( ^ω^)「そいつはツンを会社から追い出すために様々な嫌がらせをしたお」

( ^ω^)「働かない僕のことを槍玉に挙げてツンを侮辱するメールもあったお」
('A`)「…」

( ^ω^)「…僕はそいつが憎くなった。やさしいツンをあんなにしたあいつが憎くなった!
殺してやろうかとも思った!!」
(´・ω・`)「…」
僕は息が自然と荒くなっているのに気がついて、落ち着こうと何度か深呼吸をした。
( ^ω^)「だけど、ツンは僕に何も話してくれなかったんだお」

( ^ω^)「僕にでも分かるお。ツンは僕に心配を掛けたくなかったんだお」
225 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 02:12:27 ID:RRop2qup0
( ^ω^)「そのときから、僕はツンのためにもっともっと一生懸命頑張って、
ツンが自分から僕に悩みを打ち明けてくれるような頼れる夫になろうと決心したお」

( ^ω^)「まだインスタントだけど、美味しい料理を作ってあげようともしたお」

( ^ω^)「だけど、次の日だったお。僕がツンを殺したのは」
(´・ω・`)「…!!」
( ^ω^)「その日の夜、僕は公園で小さな子猫を助けた」

( ^ω^)「家のマンションはペット持ち込み禁止で一度は逃がしたんだけど、
ツンが少しでも優しい気持ちになってくれればって、連れて帰ることにしたんだお」

( ^ω^)「…とってもかわいい子猫だったお」

( ^ω^)「僕が猫を連れて家に帰ると、ツンはすでに家に帰っていたお」
255 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 02:22:11 ID:RRop2qup0
―『はやく、はやく逃がして!』
(;^ω^)「落ち着くお!ツン!」
ツンがわめく。
僕は恐ろしくなってツンから離れる。
ツンがリビングの窓を開けた。
「ここから逃がせばすぐよ。さぁ、逃がして!」
(;^ω^)「ここは2階だお!危ないお!死んじゃうお!」

そうするとツンは叫ぶのを止めて僕の横を通り抜け、キッチンへ向かった。
「あなたが逃がせないって言うなら、私が逃がしてあげる」
ツンは包丁を手に持っていた。
(;^ω^)「ツン!?何を考えているお!?止めるお!ツン!」
「うあああああああああっ!!!」
ツンが飛び込んでくる。
僕は目をつぶってツンの包丁を持つ腕を振り払った。

( ´ω`)「…」
目を開ける。
( ^ω^)「ツン…?」

( ^ω^)「―そこに居たのは、腹にナイフの刺さったツンだったお」
279 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 02:32:51 ID:RRop2qup0
(´・ω・`)('A`)「…!!!」

( ^ω^)「窓が開いていたからか…見つかるのは早かったお…」

(´・ω・`)「…そうか…」
ショボンが辛そうに声を出した。握り締めた拳が震えていた。

急にドクオが立ちあがり、口を開いた。
('A`)「ならどうして…どうして逃げたんだ!ツンを殺した罪を、償おうとは
思わなかったのかよ!!」

( ^ω^)「ああ。確かに償おうと思ったお。だけど、僕は捕まる前に一つだけ
しておかなくてはならないことがあったお」
('A`)「…何だよ」
( ^ω^)「…ツンをあそこまで変えてしまったあの上司を殺すことだお!」

(´・ω・`)('A`)「…!!」
( ^ω^)「だけど次の日は日曜日だった。あいつの住所を知らない僕は、月曜になって
その上司が会社に来るのを待つまで逃げ続けなくてはならなかったお」

( ^ω^)「そのためとはいえ、突き飛ばしたりしてすまなかったお、ドクオ…」
302 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 02:44:23 ID:RRop2qup0
('A`)「…」
ドクオは何ともやりきれない思いでブーンを見る。

( ^ω^)「僕からの話は…それで全部だお」
そして三人の間に、長い沈黙が流れた。


口を開いたのは、ショボンだった。
(´・ω・`)「残念だけど、君がツンを殺したっていう事実は…変わらないんだ」
( ^ω^)「分かっているお」
(´・ω・`)「だから君はしばらく牢屋に入らなくちゃいけない」
( ^ω^)「…」
泣きそうな顔をしているブーンに、ドクオが言った。
('A`)「心配すんな。情状酌量、ってやつもある。そんなに長いこと入れられたりしねぇよ」
( ^ω^)「ありがとう、ドクオ…」
(´・ω・`)「僕たちも…証言台に立つよ!」

そしてショボンはこの部屋に居る三人の中で、はじめて小さな笑顔を浮かべた。
(´・ω・`)「あの上司には、僕らからしかるべき罰を与えることにする」
( ^ω^)「ありがとう…ショボン…」

僕はいつの間にか両目から大粒の涙を流していた。
324 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 02:57:55 ID:RRop2qup0
( ;ω;)「うわああああん!あああぁっ!!」
(´;ω;`)「ブーン…!」
('A`)「…ズズッ」
三人はしばらく泣き続けていた。

白いドアが開いて、警官が入ってきた。
(оДо)「失礼します。そろそろ…留置所の方へ」
(´・ω・`)「あぁ、分かった」
('A`)「歩けるか?ブーン」
( ^ω^)「大丈夫だお」
ブーンはベッドから下り、歩きだした。
(оДо)「…失礼します、これを」
警官は手錠を取り出し、ブーンにはめた。やけに丁寧な口調だな、とブーンが思っていたら、
その警官の眼鏡越しの目は赤く潤んでいた。

立ち上がったブーンは白衣を着せられていた。
( ^ω^)「あー、警官さん、僕の服、あるかお?」
(оДо)「…ズズッ、あ、はい!」
警官が部屋を走って出て、すぐに戻ってきた。
(оДо)「こちらですっ!」
警官が僕の服を差し出す。
( ^ω^)「ドクオ、ショボン、ちょっと待ってくれお…」
そうして僕はジーンズの尻ポケットにごそごそと手を入れた。
343 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 03:12:05 ID:RRop2qup0
( ^ω^)「…これ、預かっていて欲しいお」
ブーンが取り出したのは、二つの小さなコンパス。
“長岡遊園地”と小さなロゴが掘り込んである。

('A`)「こいつは…!」
ドクオが驚いて胸ポケットからそれと全く同じものを取り出す。
( ^ω^)「ツンが倒れたとき、スーツのポケットに入ってたやつと
僕が携帯していたやつだお」
(´・ω・`)「…ブーン、ずっと持っていたのかい?」
そのコンパスは、半年と少し前に4人で行った遊園地で、おそろいで買ったもの。
( ^ω^)「そうだお。ツンもこれを持っていたから、僕を裏切ったりしていないって
確信が持てたんだお。二人に、いっこづつ…」

ブーンの両の掌から、二人が一つづつコンパスを取る。
('A`)「…大事に保管させてもらう」
( ^ω^)「…ありがとう」

( ^ω^)「それじゃ…しばしのお別れだお」
(´;ω;`)「ブーン…!」
('A`)「…」

( ^ω^)「最後ぐらい、笑っていてくれお」
(´・ω・`)「そうだね…」
('A`)「…」

三人は泣きながら、笑いながら、しっかりと抱き合った。
そしてブーンは警官に連れられ、部屋を出た。

部屋の中では、残された二人の涙声がずっと、ずっと聞こえつづけて、止まることは無かった。
362 : ◆7Z.5LZhUW2 :2005/12/11(日) 03:26:22 ID:RRop2qup0
―あれから何度目の寒さだろうか。仕事を終えて帰ろうとした僕の携帯に、一通のメールが入っていた。

件名:( ^ω^)だお
本文:久しぶり!ツンと一緒に待ってるお!

(´・ω・`)「そうか…今日はブーンの…」
僕は走り出した。
ツンお墓まではそう遠くなく、僕の車ですぐ。
夕焼けに染められた西洋式の墓地には、30分も経たずに着いた。
僕は急いで車から出る。

('A`)「おせぇぞ!ショボン!」
墓地の入り口にドクオが居た。
(´・ω・`)「あれ?君は現場じゃなかったのかい?」
('A`)「…うるせぇよ。あいつに頼んできた」
(´・ω・`)「あぁ、あの涙もろい君の部下か」
('A`)「早く行こうぜ、あいつが待ってる」
(´・ω・`)「コンパスは持ってきたかい?」
('A`)「もちろん!」

そして僕らは二人のもとへと走り出す。ブーン、今日は久しぶりに3人で、

…いや、4人で、朝になるまで飲み明かそう。

                        ―fin
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