9ヶ「喪失したもの」
( ^ω^)「……」
手にしたナイフを自らの額にあてがい、真っ直ぐに引く。
焼けるような痛みがすぐさま襲い、頬を伝って血が落ちた。
視界はすぐにピンクに染まる。
粘ついた感触で瞼が重く、切れた皮膚がじくじくと痛む。
洗い流そうとするかのように涙があふれるが、中々落ちてはくれなかった。
そうして内藤は水辺でしゃがみこんだまま、しばらく痛みを堪えていた。
何故こんな真似をしているかと言えば、剣に映りこんだ自分の顔に、
あの傷が無くなっている事に気がついたからだ。
このままでは奴の下へ行く前に、止められてしまうかもしれない。
そう思っての行為、そう、どこか言い訳めいた、自傷行為だった。
現に今も、痛みを堪えながら考えるのは、ただただ、誰かの痛み。
もっと痛かったはずだと、もっと苦しかったはずだと。
届かなかった手の先で、消えていった友人のことを。
そして自らの手で、消してしまった人のことを。
許せなかった。
頭の中で声がするのを感じてはいたが、今は何も聞こえない。
今はただ、あの人間をこの手で殺すことしか考えられない。
ロマネスク、神を自称するあの男。
何もかもが奴のせいだ、今自分が失った人たちの事だけじゃない。
遥か以前から、奴のてのひらで踊らされていたという。
そのせいで、大勢の人たちが傷ついてきた、犠牲になってきた。
死ぬべきだ。
殺すべきだ。
生きてちゃいけない。
殺されるべきだ。
本当なら無残に、無意味に、後悔と屈辱に塗れた死を与えるべきだ。
だけどそこまでの贅沢は言えない、だからせめてこの手で殺す。
彼らと同じ傷を、同じ苦しみをせめて与えてやらなければ。
当然の報い、因果応報というやつだ。
そもそも最初から、奴を殺すための戦いだ。
奴さえ居なくなれば争いだって無くなる。
すべてが上手くいく。
奴さえ死ねば、何もかもが終わる。
そうしたら。
そうしたら。
そうしなければ……自分はもう、どこにも帰れない。
本当は守りたかった。
助けたかった。
全ての人々を救うなんて、大それた事を言っている訳じゃない。
- これからも一緒に歩いていきたいと、そう思っていただけなのに。
それなのに。
それなのに。
それなのに。
奴のせいで。
奴のせいで。
あいつのせいで。
許せない。
ゆるせない、ゆるせない、ゆるせない、ゆるせない。
ゆるせない?
いいや、これはそんな愛らしい言葉で済まされるものじゃない。
憎しみ、憎悪、そういったものだ。
いっそ笑えてしまう。
人は、こんなにも誰かを憎むことができたのか。
いっそ楽しみにすら思えてしまう。
幼い日の、遠足前夜の布団の中にいるような。
ああ、はやくそのときがこないかなと。
( メω )「行かなきゃ……」
早く行かなければ。
今すぐ殺しにいかなければ。
太陽がまた輝くより先に。
星が瞬き流れるより早く。
今すぐ殺しにいかなくちゃ。
…………。
ヒルトから続く街道のずっと先、検問をいくつか越えた先にその拠点はあった。
雪山で内藤が口にしていた通り、各国の戦力はほぼ集結しつつあり、
今は拠点をより強固なものとする突貫工事が夜通し行われている。
傷女、でぃは王に半身とまで称された人物に従うよう命じられ、
今は姿の見えないその人物を探し、拠点をさまよっていた。
と、そんな彼女に一報が届く。
探し人が見つかったとの事。
街道の途中で発見され、先ほど貨物船に同乗してきたという。
(#゚;;-゚)「ロマネスク様、今までどちらに」
( メω^)「お……ああ、ちょっと…ね」
(#゚;;-゚)「…お怪我を?」
( メω^)「いいや、平気だ、よ、これくらい」
(#゚;;-゚)「……まさか、お一人でヒルトに?」
( メω^)「………実は、ああ、そう、なんだ」
(#゚;;-゚)「なんて無茶を…」
( メω^)「なんとか、説得を、と思ったけど、返り討ちにあってしまった」
(#゚;;-゚)「……奴らは、罪も無い民草を平気で惨殺するような連中です」
( メω )「――――」
(#゚;;-゚)「慈悲など、通じるとは思えません」
( メω )「……なら」
(・(エ)・)
ナラ オマエ ハ ドウナンダ
(#゚;;-゚)「……?」
( メω^)「……とにかく、王に報告したい、どこ……今はどちらに?」
(#゚;;-゚)「確か今は、中央塔の見晴らし場に」
「わかった」
内藤は身体ごと顔をそむけつつ言った。
自分でも、表情が歪みそうになるのを感じていたから。
そして怒りのあまり、震える腕を隠すために。
今はまだ、こいつは後でいい、とにかく今は奴を。
ロマネスクを、奴の息の根を止めれば、そうしたら今度こそ、
今度こそちゃんと謝れるはずだ、そう必死に自分を押さえつけながら、
まだ陽も上らぬ早朝、人はまばらでかがり火の側でなければ顔もよく見えない。
おかげで今の変化にも気取られていない、そう安堵する内藤だったが、
見え辛いからこそ、岩陰からこちらを凝視する姿があることにも、気付かなかった。
そうして、岩山の要塞内部へ。
ひんやりとした空気にぞわりとしたものを感じるが、歩を進める。
二つの歩く音が反響する。
話し声は微かに、あちらこちらから。
後ろをついてくるでぃを何とか撒くことを考えながら、階段を登る。
まるで虫に食われた跡のように、ところどころに空いた穴からは外が見える。
無数のかがり火に、それ以上の人影が蠢いている。
あんな男に騙されて、愚かな連中だと思う自分が居て、
それはそのまま、自分自身のことを指していることに嫌気がさす。
そして、これからする事を思いかえし、小さく喉が鳴る。
あれらはもうすぐ、その全てが自分を狙うことになるだろう。
生きては帰れないかもしれない。
でも構わないと、前を向く。
今更だ、あんな事をしておいて、今更何を言っているのか。
もはや自分がどんな目に合うかなど、考慮するべきじゃない。
結果死ぬことになったとしても、自業自得なのだ。
)「…………」
殺意を新たに、内藤は再び歩を進めた。
こうしてどれほど歩いたのか、異様に長く感じる通路を行く。
通路と言っても岩をくり貫いたものが、いくつも枝分かれした楕円の形状。
道は舗装されてはいるものの、砂利や細かい砂が積もっている。
合間の窪みにはオイルランプが置かれ、薄暗くも道を照らしていた。
壁にはいくつも、鳥避けで見たような、目を模した飾りが見える、
幸運を願うお守りのような物だと、誰かが言っていた。
また、対面から歩いてくる一人の人間がこちらへ声をかけてくる。
ただの挨拶だ、会釈だけしてやり過ごす。
耳を澄ませば、笑い声すら聞こえてくる。
ここにも、人が、生きている。
ただそれだけの事が、当たり前のことが、なぜか胸に痛みを与えた。
( メω )「……いつまで、ついて来るんだ?」
(#゚;;-゚)「王の下までご一緒します」
( メω )「なぜ、ちょっと報告してくるだけだぞ……」
(#゚;;-゚)「何か不都合が?」
( メω )「……ああ、いや、相談が…も、あるから」
(#゚;;-゚)「成程、では一つだけ聞いても?」
( メω )「なんだ」
(#゚;;-゚)「あなた」
(#゚;;-゚)「本当にロマネスク様ですか?」
言葉に、内藤は全身が冷えていくのを感じた。
動揺もある、がそれ以上に、こうなったら、という諦めを含めて。
しかしギリギリの所で、剣に伸ばしかけた手を止め、
平静を装いながら半身だけで振り返る。
( メω )「質問の意味がわからないな」
(#゚;;-゚)「……先ほど、お会いした時から思ってましたが」
(#゚;;-゚)「今、あなたの近くにいると、それだけで背筋が寒くなります」
(#゚;;-゚)「率直に申しまして、今のあなたが恐ろしい」
(#゚;;-゚)「まるで――――」
内藤自身、それを意識した事も無かったが、いわゆる、殺気という物だろうか。
あるいは戦場で命をかける物がもつ直感のようなものか。
どちらにせよ、ここまでか、と。
振り返りながら柄で一度突き、続けて抜き放った剣の腹で殴りつけた。
でぃは小さな呻き声を上げながら、壁に衝突。
うなだれたまま、動かなくなった。
さらに衝撃で明かりのランプが落下して、音を立てて砕ければ、
溢れ出た油に火がついて、すぐさま廊下の一部が炎に包まれていく。
すぐさまその場に背を向けて、内藤は駆け出した。
こうなったら、騒ぎが大きくなる前に、仕留めるしかない。
いくつもの通路を越え、そしていくつかの階段を越えると、
やがて広まった場所に出た、外を覗く穴からは、遠い空に日の出の兆候を映している。
そんなまだ小さな明かりを背景にして、その男がふりかえる。
( ФωФ)「戻ったか、我が半身よ」
それを見て、声を聞き、内藤は口を開いて笑みを作る。
手には抜き放ったままの剣が、薄明かりを浴びて徐々に輝きを取り戻し、
歩みは真っ直ぐに、段々と速度をあげながら。
明らかに様子のおかしい姿だが、対する男はただ見据えるばかり。
( メω゚)「――――ああ」
これを好機と、もう一度強く、地を蹴り。
( メω゚)「死ね……!!」
憎き人間を殺すべく、駆け出し。
「オーッホホホホ!!!!」
気色悪い声色と共に、内藤とロマネスクの間に割り込む姿があった。
フリルのついたドレスから、すね毛を覗かせる巨漢。
顔は化粧にまみれ、目元はどこからが目なのかわからないほど濃い目のアイシャドー。
変態がそこに居た。
( <●><●>)「本性を現したわね!!
この裏切り者!!!」
( <●><●>)「アンタの事は、ずっと怪しいと思っていたのよ!!」
( <●><●>)「見張っていて正解だったわ!!」
( メω゚)「………」
( <●><●>)「調べはついているのよ!
アンタ、逆賊の仲間ね」
( <●><●>)「どうやって麗しき我が王にとりなしたか知らないけど…ここまでよ!」
( メω゚)「……け…」
( <●><●>)「ご覧ください王よ、こやつは今、王に剣を向けるばかりか」
( <●><●>)「つい今しがたにも、でぃに暴力を働いてここにおります」
( メω )「……ま…を……」
( <●><●>)「完全な裏切り行為、しかしご安心くださいませ!」
(*<●><●>)「このワタクシが、これ以上の不埒は許しません!!」
( ФωФ)「ふむ、いや―――」
(*<●><●>)「見ていてください…!
真に忠誠を誓う姿を、そしてワタクシこそがあなたの傍に相応しい―――」
( ФωФ)「よいのだ、下がっておれ」
(;<●><●>)「!?」
(;<●><●>)(な、なぜ…!? 許すというの!?
まさかそれでも、それでもあいつの事を!?)
(#<●><●>)「ぐ、ぬ、ぬぬぬ、いいいいい…!!!」
ぎぎ、と音を立てんばかりの勢いで、壊れた人形のようにオカマが振り返る。
そこには内藤が、伏目がちにこちらを睨み付けていた。
そして目と目が合う瞬間、お互いの激情が弾けた。
( メω゚)「そこを……退け…!!」
(#<●><●>)「この、アンタ、目障りなのよ…!!」
切っ先を互いに向け。
(#<●><●>)「消え失せ(#メω゚)「邪魔をするなああああああああああああああああああああああああ!!!!」
た、瞬間。
オカマは身体の感覚がなくなった事を知る。
- そして奇妙な浮遊感、景色がぐるりと回って床が近づいてくる。
口は動く、しかし呼吸の仕方も、声の出し方もわからなくなってしまった。
やがて地面だけが見える視界に、赤い液体が広がっていく頃、
未だわけもわからず、急速に消えていく景色に困惑しながら意識も失くし。
そんな傍らには、首から先、頭の無い身体が横たわっていた。
( ФωФ)「なんと愚かな…命を粗末にするとは」
( メω゚)「次はお前だ……今度こそ、今度こそ殺してやる…!!」
( ФωФ)「はは、まるでいつかの再現ではないか」
( ФωФ)「どうやら自分を取り返したようだな、うむ、見事だ」
( ФωФ)「ならば我も神として、その努力に応えよう、かかってくるがよい」
(#メω゚)「うる、せぇ、言われなくても…!!」
( ФωФ)「今度は、せめて届かせてみよ」
言って、ロマネスクは剣を構える。
しかし何時か見た、あの黒線をまとう大剣ではない。
神具ですら無い、特に装飾もないような簡素な一振り。
他に武器らしきものは見当たらない。
よくよく見れば、服装も軽装でお休み前といった風貌。
どうやら、本当に不意打ちとなったようだ。
これなら、今度こそはと、勝利を確信する。
地を蹴る、間合いはすぐに無くなった。
その時、背後から何か叫ぶ声がした。
もう遅い、ロマネスクは当然のように反応してくるが、
得物の差は明らかだ、このままならあの剣ごと叩き斬れる。
斬りかかる、もう止められない。
が。
「ロマネスク様!!」
先ほど背中に響いていた声が、突如として眼前から響いてきた。
(;メω゚)(なっ…!?)
内藤は一連の動作の、その刹那に起きた事態に驚愕した。
対峙する内藤とロマネスクの間。
誰も、何も居なかったはずのその隙間に。
(#゚;;-゚)
でぃが、ロマネスクを庇うように現れたのだ。
そうなれば当然、内藤の剣は彼女へと向かう。
剣は肩口から袈裟切りに、深く、その身を斬り裂いた。
破裂したように、吹き出た血が降りかかる。
むせかえるような鉄の匂い、文字通り血の雨が降る。
剣を、身体を染めていく。
でぃはそのまま後ろへ倒れこむ。
ロマネスクはその身を受け止めた。
「ご無事ですか」
そんなか細い声が響く。
( ω )「―――――ぅ」
情景が。
何の因果か、偶然か。
あの瞬間の光景と重なって。
( ゚∀゚)
(; ω゚)「う、うぶ」
内藤はその場に膝をつき、呻きながらその場で嘔吐した。
あの感触が蘇ってくる、肉を千切り、骨を砕き、内臓を潰していく感触。
そしてそれ以上に、大事な存在に自ら手をかけた、その事実が。
今の今まで、恨みつらみで誤魔化していた感情が、
過剰なストレスが、ついには限界を超え身体に影響を与えた。
嗚咽が止まらない、震えも止まらない。
手の感覚が無くなって、しかし握った指が開かない、剣を手放すこともできない。
しかし握った剣がまた、その感触を髣髴とさせ恐怖が襲う
それら全てが堪えきれず。
(; ω゚)「ぜっ――ぜっ――は、あ、あ―――」
「あああああああああああああ―――――――――――――――――」
悲鳴にも似た叫びをあげながら、ついにはその場から。
またしても、逃げることを選んでいた。
そして内藤が裏切った事、管理者が二人殺された事は、すぐに砦に広まった。
城砦の中、外はともにすぐさま警戒態勢となり、その足取りを探す人間達であふれた。
あちらこちらで、人の声や足音が響く。
居たか、どこにいった、あちらを探せと。
内藤は、そんな喧騒が響く城砦の中。
その奥深くの一室にて、しゃがみこんでいた。
未だ、剣は指から離れない、まるで呪われた道具のよう。
嘔吐感は引いたものの、身体の震えは止まらない。
見つかれば、抵抗もできずに殺されるだろう。
覚悟をしていた筈なのに、それがとても恐ろしい。
そんな自分が、あまりにも無様で涙が出る。
それでも。
死ぬのが怖い。
死にたくない。
人は平気で殺してきたくせに、自分の番になったらこれだ。
そんな言い分は通らない、そうでなければならないのに。
それでも、恐怖のあまり、立ち上がることもできずにいた。
(; ω )(死にたく……ない……)
ずっと考えてきた、英雄のありかたも、その果てに得た答えも。
命はかけずに皆を守るなんていうのも、誰かが悲しむなんて詭弁だ、
結局はただ、自分が死にたくなかっただけなんじゃないか。
自分が安全だから、言えただけなんじゃないのか。
こうして命の危機に晒されてみればよくわかる。
要は、死にたくない、だけ。
なんて、みっともない人間だろう。
こんな奴が、誰かを救うとか、守るとか、できるわけが無かったんだ。
最初から間違っていた。
(; ω )(なんで、どうして……こんなことに…)
とまで考えて。
(; ω )(そもそも僕は……人を………)
既に、もう何人も、この手にかけている事を思い出した。
それなのに、どうしてこうまで心を揺さぶられるのだろう。
いや、それ以前に。
いつから、そんな真似ができる人間になった?
平和な時代、世界に生まれ育ち、殺し合いなど映画や漫画でしか知らない自分が、
どうして、今まで気にもかけずに、行えてきたのか、戦えたのか。
ゾ、と背筋にうすら寒いものを感じた。
神具を使ううちに、自分を失った、それは理解している。
ならそれは、いつから?
以前にも、戦いの中で記憶をなくした事はあった。
そして気付けば、自然と闘うことを受け入れるようになっていた。
それは、つまり。
(;^^ω)『……う……』
( ゚ω゚)「………!!」
(;^^ω)『内藤…? ああ、やっと声が…』
(;゚ω゚)「お前……か?」
(;゚ω゚)「お前が……僕を、そうさせた…!!」
(;^^ω)『何…? 何を言って』
(#゚ω゚)「お前が僕を、人殺しにしたんだな!!?」
(;^^ω)『…それは…』
(#゚ω゚)「何が…何が進化だ、何が神具だ!
何が太陽の管理者だ!!」
(#゚ω゚)「大層な言葉を並べて、人を狂わせるのがお前の、この剣の力か!!」
(;^^ω)『……落ち着け、パニックを起こすな』
(;^^ω)『気持ちはわかるが、今は』
(#゚ω゚)「気持ちだと!? お前に僕の何がわかるっていうんだ!」
(#゚ω゚)「大体気持ちが悪いんだよ、何なんだお前は!?」
(# ω )「お前のせいで僕は……ジョルジュさん……を、僕が…」
(#^^ω)『……待て、お前、それは違うぞ』
(# ω )「もういい、もう、やめてくれ」
(#^^ω)『あいつが願ったのは、その行為は、そんなことじゃないだろ!?』
(#゚ω゚)「うるさい…うるさい、うるさいうるさいんだよ…!!!」
(#^^ω)『ジョルジュは、お前をしん』
(#゚ω゚)「黙れ、黙れよ! この化物が!!!!!」
(#゚ω゚)「僕に話しかけるなああああああああああああああああ!!!!!」
ザ
ばつん。
ザザ ザ
(;´ω`)「――――あ…れ?」
気付けば、内藤は自分を支えきれずに横たわっていた。
何か、身体の、頭の奥底で、何かが千切れる様な感覚があった。
今は凄まじい脱力感に襲われ、全身に力が入らない。
なんとかして身を起こす。
人の体とは、こんなにも重たい物だったのだろうか。
手足が重い、腰に下げた鉄の塊は、本気で力をこめないと上がらない。
今まで、こんな重いものを振り回していたのかと、今更感心してしまう。
今、自分に起きていること、内藤はすぐに理解した。
先ほど自分でそう言ったのだから、当然の話だ。
与えられていた力を失い、本来の体力に戻っただけ。
要するに内藤は、管理者では無くなったのだ。
頭に響く声もしない。
不思議と、何も感じなかった。
金属の擦れる音を鳴らしながら、足音が近づいてきても。
あれだけ騒いだのだ、当然誰かしら気付く者が居るのも必然。
そして抵抗する力は、存在しない。
待っているのは、死、だけだ。
当然の、結果だと。
ただ、ただ全てを諦めるように。
目の前に現れた人影を、ぼんやりと眺めていた。
……………。
一つの検問所に一隻の陸船が通りがかった。
舵を握るのは初老の男、奥にはさらに二人同乗している。
このご時勢だ、どこで誰が何を企んでいるかもわからない。
精々水と食料が積まれているだけにしか見えない、ただの旅行者であっても、
お決まりの台詞として、木製の簡易的な門にたつ一人が、その船をひき止めた。
「この先に何の用だ?」
(´・_ゝ・`)「用って程じゃないが、順に国を巡っているところさ」
(´・_ゝ・`)「今の目的をしいて言うなら、エッダを目指したい」
(´・_ゝ・`)「あそこのヨジデーは良いものだからな」
「ふむ、だが残念ながら…今はエッダはもう、人が居ないと聞くぞ」
(´・_ゝ・`)「全ての集落がってわけじゃないだろう?」
「まあ、だがどちらにせよ……まだ、先日の争いの跡が残っている」
「すまないがこの先は危険だ、一介の旅人を通すわけにはいかない」
(´・_ゝ・`)「大丈夫だって、戦場は避ければいいんだろ?」
多少ごねてみるが、門番の男は首をよこに振るばかり、
やがて諦めたのか、船は反転してその場を離れていく。
そして門が遠く小さくなった頃。
男は無精髭をなでながら小さく唸る。
イ从゚ ー゚ノi、「オイなんだデミのおっさん、諦めよすぎだろ」
そんな背中へ声をかけたのは、ローブ姿の子供だった。
やけに可愛らしい声色とは裏腹に、態度は大きく、ついには足で小突いている。
イ从゚ ー゚ノi、「また逆戻りとか、いつんなったら先に進めんだよ!」
(´・_ゝ・`)「いてぇな糞ガキ、しょうがねぇだろ」
イ从゚ ー゚ノi、「早くしねぇと腐っちまうぜ、なあ?」
悪態つきながら、少女はもう一人の同乗者へ声をかける。
汚れたマントを頭から被るその人物は、傍らの人が入れるほどの箱を見る。
「いや、もう血も抜かれてミイラ状態だから、それはたぶん大丈夫」
イ从;゚ ー゚ノi、「ほら、またなんか怖いこと言い出したし!!」
イ从゚ ー゚ノi、「てか、お前も急いでるんじゃねぇの?」
('A`)「そうだけど……」
('A`)「いや、デミタスさんにはここまでお世話になってるし、これ以上無茶は…」
イ从゚ ー゚ノi、「あ?
じゃあどうすんだよ?」
歩いてでも、そう言いかけるドクオだったが、
デミタスは二人の前までやってくると、大きな紙面を広げて見せた。
(´・_ゝ・`)「今いるのがここだ」
太い線で塗られた長い道、その一点を指して言った。
続けて指を向かわせるのは、道を外れた先、連なる山を表すマークの場所。
イ从;゚ ー゚ノi、「山越え!? マジで言ってんの!?」
(´・_ゝ・`)「いいや、この麓のところ」
('A`)「ここは?」
(´・_ゝ・`)「そこそこ大きな河がある、ここへ向かう」
(´・_ゝ・`)「ちょいと迂回することになるが、ここを抜ければあとは一本道だ」
イ从゚ ー゚ノi、「いや川なんかどうすんだよ?」
(´・_ゝ・`)「船がどういうもんかも知らねぇのか糞ガキ、少しは勉強しろ」
('A`)「そこまで…いいんですか?」
(´・_ゝ・`)「好いも悪いもねぇよ、行くのに必要なだけだろうが」
ドクオが乗っているこの船は、デミタスという旅人のものだ。
あれから、不思議なことに身体はどんどん全快していき、
怪我の痛みどころか、手足が今まで以上に軽くなり、
人を担いだままでも歩けるほどに回復した。
ドクオは動かなくなった姿を破れた布で覆い隠し、
ついでにズタボロになった自分の衣服も捨て、マントを羽織ると、
皆のところへ帰るべく、遺体を背負いながら一路、街道を目指した。
歩き始めた当初は、行き先もわからないのにと不安になるが、
いざ進んでみればどの道も、景色も、見覚えがあった。
どう行けばいいのか、どこへ行けばいいのか、そういったものが頭にある。
奇妙な感覚だった。
そうして、不思議な記憶に導かれるように、先を急ぐ。
しかし、歩けど歩けど、遠い山にすら近づけない。
世界が広い、流石に息が切れて、ついにはその場で座り込んだ。
と、そんな時だ、一隻の船がやってきたのは。
船はドクオの横で停止すると、男が顔を覗かせる。
(´・_ゝ・`)「なんだ兄ちゃん、こんな何もないとこを一人で散歩かい?」
言いよどむドクオを、男は物色するように見据える。
ボロ切れに巻かれた妙な物を傍らに、薄汚れたマントを羽織る姿。
怪しいことこの上ないが、意外にもその男は、親指で自分の船を指す。
(´・_ゝ・`)「乗りな」
(;'A`)「え、でも…」
(´・_ゝ・`)「あ? ああ、そうか、どこ行きてぇんだ?」
(;'A`)「とりあえず、エッダに」
(´・_ゝ・`)「ああ、この道に居るならそうなんだろうけどよ」
(´・_ゝ・`)「けどお前、今あそこ行っても何もねぇだろ?」
(;'A`)「何もない…? それ、どういう意味ですか?」
(´・_ゝ・`)「どうもこうも……今がどういう状況か、知らんのか?」
(;'A`)「……聞いても、いいですか?」
そうしてドクオは、今の自分が、そして他の仲間達が置かれた状況を知る。
暢気にしている場合じゃない、急いで合流しなければと思う。
思うが、荷物を抱えて、徒歩で行くにはあまりにも時間がかかる。
かといって、今の話を聞いてヒルトへ行きたいとも言えない、
口ごもるドクオだったが、男はそんな内心を見透かしたように言った。
(´・_ゝ・`)「じゃ、行き先はヒルトでいいんだな?」
(;'A`)「はい―――えっ!?」
(´・_ゝ・`)「ほれ、とっとと行くぞ」
(;'A`)「ど、どうして? 今の話が本当なら…」
(´・_ゝ・`)「別に、他所の国がどこで戦争してようが、俺には関係のない話だ」
(´・_ゝ・`)「それより、ここで無視したらお前さん、野垂れ死にそうじゃねぇか」
(´・_ゝ・`)「そうなったら、なんか俺のせいみてぇで、寝覚めが悪いんだよ」
(´・_ゝ・`)「どうせ風任せの旅だ、送るだけしてやるから、後は好きにしろ」
(;'A`)「……はあ、えと、それじゃあ……はい、お願いします」
(´・_ゝ・`)「ああ、それと……その横の、そいつは……なんだ、家族か?」
問われて思う、その関係性とは。
助けられ、裏切られ、憎んで、傷つけあい、そして――――命を救われた。
今では自分がどう思っているのか、それもわからなくなってしまった。
歪な関係だ。
しかし今のこの瞬間だけを切り取ったなら、それを言葉にしたならば。
('A`)「……恩人、だと思います」
(´・_ゝ・`)「そうかい」
(´・_ゝ・`)「まあ、このご時勢だ、人の命も自然と軽くなる、容易く消えちまう」
男はどこか遠くを見るように、何かを思い出すように口にした。
しかしすぐに意識を戻し、ふたたびドクオと、横の物体を見やる。
(´・_ゝ・`)「とにかく野ざらしは色々とよくねぇ、ちょうどいい箱があるから棺桶代わりに使え」
('A`)「すみません、なんか」
(´・_ゝ・`)「どうせやかましい先客も居るからな、今更増えたとこで変わらねぇさ」
('A`)「先客…? 他にも誰か?」
船に足を踏み入れ、テント状の幕に覆われた奥を見る。
たしかに、そこには大の字で横になる姿があった。
見るからに小さい、身なりも同じようなローブを羽織った子供だ。
少し近づいてみる、容姿こそとても可愛らしいものだったが。
「んあー……くそっ、が……」
しかし丸出しのお腹を今もボリボリとかき、とても口の悪い寝言を呟き、
いびきを掻きながら寝ている姿は、おっさんにしか見えなかった。
(;'A`)「……えーと、お子さんで?」
(´・_ゝ・`)「いいや、知らんガキだ、いつの間にか居ついちまった」
(´・_ゝ・`)「起きろ、邪魔だ」
イ从;゚ ー゚ノi、「うおっ!?
いってーなぁ! 何しやがる!?」
(´・_ゝ・`)「寝たけりゃせめてもっと隅にしろ、荷物取るのに邪魔だろうが」
イ从゚ ー゚ノi、「はあ? 何をいきなり……」
イ从゚ ー゚ノi、「あれ、なんだ? 誰だ兄ちゃん?」
イ从;゚ ー゚ノi、「つーか、うしろの……うわっ!?
死体!?」
そんなこんなで、ドクオは彼、デミタスの船に同乗させてもらう事になった。
何にせよ、これで合流できると安心するのも束の間、
今度は街道が閉鎖されているため、どこも通ることができないという事態に陥った。
しかし、これは先に話したとおり、迂回路を通ることで解決を見る。
広大で緩やかに流れる川を、船が本来の役目をまっとうし、帆を張り上っていく。
しばらく進んでから上陸すると、林を抜け、再び街道へ出た。
先には真っ白い山が、先端に雲を被せている。
更に進めば冷えた空気が流れてきて、その場所が近づいている事を教えていた。
そういえば、この服装ではとても不味いと思ったが、
デミタスは荷物の中から厚手の服を用意してくれた。
どうやら、このヒルトには何度も訪れているらしい。
そして夕暮れを過ぎて暗くなった頃、軽めの食事を済ませ、
テント内にこもって明かりを囲む、外はやけに静かだ、
覗けばすでに雪が積もり始めていた、このままなら夜明け前には到着できる。
イ从;゚ д゚ノi、「うおお……さ、ささ、さみぃ……!!」
(´・_ゝ・`)「我慢しろ」
ドクオはふと思いついて、荷物の中からある物を取り出す。
刀身が半分以上失われた、波打つ刃の赤い剣だ。
(´・_ゝ・`)「……………」
イ从゚ ー゚ノi、「それ、まだ持ってんの?
んな折れたもん使いもんに……」
('A`)「いや、大丈夫」
言って、念じる。
力と思いを込めて、灯れと。
すぐに赤い剣はうっすらと輝きを放ち、陽炎のような揺らぎをつくる。
テント内を薄明かりが照らすと、同時に熱が空間を満たしていく。
イ从;゚ ー゚ノi、「は?
あったかくなった…? え、なんじゃそりゃ!?」
イ从;゚ ー゚ノi、「なにそれ!?
なにそれすげぇ! 欲しい!!」
(´・_ゝ・`)「火珠の剣か、ヒルトじゃよく見るもんだな」
イ从;゚ ー゚ノi、「そうなんか、へー」
こうして暖かな空気に包まれたテント内は、穏やかな時間に包まれる。
少女は眠気に襲われたのか、重そうな瞼をやがて閉ざし、寝息を立てた。
滑車と、船底のソリ部分だけが音を立てる。
ドクオは剣の輝きをぼんやりと眺めていた。
すぐ側で、地図をめくる音がした。
('A`)「……デミタスさん」
ヒルトにもうすぐ到着する。
その前に、尋ねておかなければいけない事があった。
これまで聞くに聞けなかったこと、この、今を作る理由。
('A`)「どうして……俺を乗せてくれたんですか?」
(´・_ゝ・`)「……言ったろ、寝覚めが悪いって」
('A`)「………」
(´・_ゝ・`)「ふぅ……ああ、そうだ、もういっこある」
(´・_ゝ・`)「お前が今持ってる、その剣……俺が聞いた代物に、よく似てたからだ」
(;'A`)(まさか……)
この人が、果たしていつから、どこからこうして旅を始めたのか分からない。
だけどもしかしたらと、そう思っていた。
そして今、この剣を知るなら、それは、もしかしたら。
VIPの、と言い掛けて、男の口からは違う言葉が放たれた。
(´・_ゝ・`)「俺は、アース国の人間だった」
ドクオは息を飲んだ、その名は、確かに聞かされてはいた、
けれど今はそれ以上に、実感として、記憶として、覚えている。
ギコと、フサギコが戦い、そして滅ぼしたという国。
民も領土もVIPが物とした、敗戦国。
(´・_ゝ・`)「祖国を滅ぼす原因を作ったとされる、炎の風、破壊の剣」
(´・_ゝ・`)「炎を操り、燃えるように赤く、波打つ刀身をもつ片刃の剣」
(´・_ゝ・`)「よく似ていると思わないか?」
('A`)「……」
ぼ、と赤い輝きだけを見せていた剣から、小さな炎が溢れる。
まるで心の惑いを、そのまま表現するかのように。
(´・_ゝ・`)「何故そんなことを知っているかというとな」
(´・_ゝ・`)「俺の弟が、その国の兵達を纏める存在だったからだ」
(´・_ゝ・`)「俺と違って出来の良い奴でな、王からの覚えもよく、おかげで良い暮らしもさせてくれたよ」
(´・_ゝ・`)「だからずっと思っていた」
(´・_ゝ・`)「あいつを殺した破壊の管理者を、この手で殺してやりたいと、ずぅっとだ…!!」
デミタスはそう言って、ドクオを睨み付けたまま動かない。
表情にも変化は見られない、真顔で、まっすぐに見据えている。
今までの自分なら、きっと恐怖で固まって、何も言えなかった。
だけど今は、たくさんの心が、勇気と、この状況の意図を伝えてくれていた。
だから一度目を閉じて、ドクオはふと笑みすら浮かべ。
('A`)「…立派な、人でした」
(´・_ゝ・`)「何?」
('A`)「敵ながら尊敬できる、堂々とした、とても強い人でした」
('A`)「そして……まだ、何もわかっていないあの人に、戦うことの意味を」
('A`)「その痛みを、教えてくれた人でした」
('A`)「ミルナさん、その名は、決して忘れません」
(;´・_ゝ・`)「お前…なぜ、その名を……」
そう言ったドクオの姿に、デミタスは驚きに固まった。
しばしの間があって、今度は表情をくずし、大声で笑い始めた。
(´・_ゝ・`)「ははは!! こりゃ参った、まさかそう返されるとはなぁ!!」
(´・_ゝ・`)「驚かすつもりがこっちが驚かされたわ!!
くく、はははは!!!」
('A`)(ああ、やっぱり……試されていたのか)
(´・_ゝ・`)「強かった、か……そうか、破壊の管理者が、そうまで言うほどに立派だったか」
('A`)「ええ、管理者にしか、止められない手合いでした」
(´・_ゝ・`)「そうか、ならば奴も、きっとそうは悔やまずに逝けたのだろうな……」
(;´・_ゝ・`)「て、ちょっと待て、何でお前がそんなの知ってるんだ?」
(;´・_ゝ・`)「見たとこそう年もとってねぇだろ?
」
(;'A`)「ええと……色々と事情がありまして…」
ドクオは、これまでの経緯と、VIPに纏わる全てを、できる限り説明をした。
あの戦争において隠されていた真実を、そして今それを自分が知る理由を。
(´・_ゝ・`)「そうか……本当の管理者は、終結時にはすでに…」
(´・_ゝ・`)「………」
(´・_ゝ・`)「国があんな事になっちまって、それが原因で家族もみな居なくなっちまった」
(´・_ゝ・`)「上が勝手に始めた事とは言え、そもそもこっちから仕掛けた戦争だ」
(´・_ゝ・`)「これでVIPを恨むのは……まあ、ちぃと筋が違うわな」
(´・_ゝ・`)「ああ、俺が根無し草になったのも、それが嫌になっちまったのさ」
(´・_ゝ・`)「恨みは……まあ、無かったとは言わねぇ、例の管理者の名はよく聞いたし、この手でとも本気で考えた」
(´・_ゝ・`)「だがな、結局は……どんな恨みも、憎しみも……それを思い続けなければ消えてしまう」
(´・_ゝ・`)「あれから、いくつもの国を渡った、数え切れないほど人に出会ってきた」
(´・_ゝ・`)「良い奴も、悪い奴も居た、腹がたってしょうがない奴も居た」
(´・_ゝ・`)「でもな、その全て、誰とだって会話ができたんだ」
(´・_ゝ・`)「当たり前のことだけどな、今こうしているように、どこの誰かもわからん奴等でも寝食共にできる」
(´・_ゝ・`)「そういう連中と会う度に、そういう連中と過ごす度に、そんな時間まで、憎しみを思い続けられやしなかった」
(´・_ゝ・`)「良くも悪くも、だがな、きっとそれはどんな思いもそうだ」
(´・_ゝ・`)「俺には世界がどうとか、今更興味もないが、お前は今何か、理由があってあの場へ行きたいんだろう?」
(´・_ゝ・`)「ああ、それなら言うまでも無いだろうが、想う事をやめない事だ」
(´・_ゝ・`)「思い続ける限り、想いは消えない、それが今居る誰かの為なら決してな」
(´・_ゝ・`)「……ん、お前を拾った理由を聞いてない?」
(´・_ゝ・`)「ただ、聞いてみたかったのさ、弟のこと、ミルナのことを」
(´・_ゝ・`)「………ありがとな」
陸船が行く。
雪上に三つの跡を作りながら、どこまでも線を伸ばしていく。
その先には、いつしか小さな灯りが見え始める。
巨大な渓谷と、その上に聳え立つ天空都市。
やがて船はその場所へ、ヒルトの国へとたどり着いた。
…………。
時は遡り。
ロマネスクの居城、岩山に造られた城砦の内部。
震えながら座り込む内藤の前に、一つの影が現れた。
その男は肩で息をしながら、内藤を見据え、笑みを浮かべて言った。
( ><)「やっと、見つけたんです……」
男が手を伸ばす、殺されると察した内藤は目を閉じる、
だが、両肩を掴まれる感触にふと前を見れば、男が頭を下げていた。
(;´ω`)「…え?」
( ><)「ありがとう、君のおかげで…ようやく自由になれた!」
( ´ω`)「なに……言って」
( ><)「君が倒してくれたあの変態……ワカッテマス、僕はあいつに脅されていたんだ」
( ><)「でも、こうなればもうこんな所に居る必要もない」
( ><)「だから今度は僕が君を助ける、さあ、こっちへ…!」
だけど、そう言いかける内藤だったが、引かれる力に一切抵抗できない。
引き摺られるようにして、内藤は隠れていた空間から廊下へ。
人気は今のところ見当たらない。
ここはかなり入り組んだ、その先のようだった。
無意識にでも、安全と思われる場所へと逃げていたのかと思ったが。
( ><)「違う塔で見かけたって誘導もしてきた、だから今の内です」
どうやら彼は、本気で内藤を助けようとしているようだった。
助かるのかと期待している自分に、足を止めたい衝動にかられるが、
それ以上に今は力が入らない、内藤は引かれるまま、さらに進んでいく。
( ><)「よし、この先だ……」
(;´ω`)「………はぁ、はぁ…」
( ><)「…実は、助ける代わりにと言ったら何ですが、頼みがあるんです」
( ><)「僕はここに、大切な子を幽閉されていたんです」
( ><)「あいつは、あの変態はそれを理由に僕を脅していた……」
( ><)「だから、君にその子を任せたいんです、守ってあげてほしいんです」
大切な存在を、守って欲しいと、男はそう嘆願する。
しかし内藤は冷め切った心でそれを否定した。
( ´ω`)「無理だお」
(;><)「え?」
( ´ω`)「それが……大切なら、僕には無理だお」
( ´ω`)「大事なものは、僕には守れない……無理、なんだお」
(;><)「そんな…そんなことはない、だって君は、あれだけの力を…!!」
( ´ω`)「無い、力なんて無い、できない、無理なんだお…」
(;><)「何故そんな………いや、それでも…!」
男は再び手を引いて、その部屋の奥へと進む。
いくつもの木柵が並ぶ、妙な匂いが充満する空間だった。
( ><)「ぽっぽちゃん…!! 助けに来たんです!!」
その先に、それは居た。
一目には巨大な黒い塊が、動いたように見えた。
しかし薄明かりの中、立ち上がった姿はよく見覚えのあるものだった。
(*'ω' *)「ぽヒヒヒーーン、ブルル…」
(;゚ω゚)「う、馬…!?」
( ><)「そう、馬の、ぽっぽちゃんです」
( ><)「この子は……特別な馬なんです、決して死なせたくない…」
( ><)「死なせちゃいけない子なんです!」
黒い体毛に、赤茶色のたてがみとしっぽが映える、
大きな、身の丈を軽くこえるような馬だった。
男が近づくと、馬は頬を摺り寄せ甘えたような声を発する。
( ><)「待たせてごめんよ、今自由にしてあげるから…!」
(*'ω' *)「ぽっぽ」
( ><)「そしてぽっぽちゃん……彼と一緒に、先にここを出てほしいんです」
(*'ω' *)「ぽひん?」
( ><)「まだ、追手をもう少し誤魔化さないといけない、まだ僕は行けない」
( ><)「だから、さあ、君も一緒に…!」
( ´ω`)「いや、だから僕は……」
ぽっぽと呼ばれた馬が、内藤の前でしゃがみこんだ。
まるで、本当に彼の言葉を理解しているような動きだった。
(*'ω' *)「ぽぽ!!」
そして乗れ、と言わんばかりに嘶く。
内藤は促されるまま、その背にしがみついた。
上からはシーツのような物が被せられる。
( ´ω`)(どうして…)
カツ、と立ち上がった馬はすぐさま歩き出す。
ちょうどその先には、出口があって、荒野がどこまでも続いている。
人の気配が、いつしかすぐ近くに来ている。
(;><)「さ、さあぽっぽちゃん、早く!」
(;*'ω' *)「ぽっ……ぽひぃん」
馬が振り返りながら男を見る。
何度かそんな動作を繰り返してから、やがて意を決したように地を蹴った。
風が、景色がものすごい速度で流れていく、蹄が地面を叩く音が響く。
しばらく駆け抜けると、被っていたシーツが外れ視界が開ける。
背に揺られながら振り向けば、
あの要塞は、とうに小さくなっていた。
( ´ω`)「………」
生きている。
生き延びた。
死ななかった。
助かった。
助けられた。
助けを求める手を、振り払っておきながら。
( ゚ω゚)「………!!」
こうして救われた事に、命があることに、安堵している。
どこまでも、どこまでも最低な、自分がそこに居た。
何も守れず。
人を裏切り。
人を傷つけ。
何も成せず。
力も失くし。
信じた願いも虚。
帰る場所も無い。
そして最後には。
誰かを助けたいという意思すら投げ捨てた。
死ねないでいるだけの、無為な存在がここに居る。
全て、本当に何もかも、失くしてしまった。
その大きな背に揺られながら、内藤は絶望感に身を委ねるように、やがて目を閉じた。
つづく。
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