135名無しさん :2018/07/11(水) 20:16:36 ID:DAgs3L120

8ヶ「迷子の雪路」





昨晩から降っていた雪が、すこしづつ止んでいく。
山向こうまで続く曇り空の先に、青空は未だ見えず。

戸口からそんな曇天を眺める老人は、自らに積もる雪も気にせず立ちすくむ。

/ ,' 3

ζ(゚ー゚*ζ「あ、ちょうどいいところに!」

/ ,' 3 「む、なんじゃデレ?」

ζ(゚ー゚*ζ「ショボン君見なかった? あとお兄ちゃんも」

/ ,' 3 「いや、見とらんが、どうかしたかの?」

ζ(゚、゚*ζ「うん、なんか居なくなったとかで、皆探してるの」

/ ,' 3 「なんじゃ、二人ともか?」

ζ(゚、゚#ζ「うん、で、聞けば最後にショボン君に会ってたのお兄ちゃんらしくて」

ζ(゚、゚#ζ「またあのバカ兄が何かしたんじゃないかと思って!」

ζ(゚皿゚#ζ「もしそうなら……今度こそ思い知らせて」

/ 。゚ 3「お、おぅ……」

136名無しさん :2018/07/11(水) 20:16:59 ID:DAgs3L120

/ ,' 3 「いやしかし、信用ないのう、あやつも」

ζ(゚、゚*ζ「だって単純で! すぐ暴れること考えるし! えっちだし!」

ζ(゚、゚*ζ「今の今まで帰ってこないで皆に心配かけて!」

/ ,' 3 「……あやつは、あれで色々と考えておるんじゃがな」

ζ(゚、゚;ζ「考えてる? そ、そうかなぁ……」

/ ,' 3 「そうじゃよ、ああいった態度に見えて、周りは常に見ておる」

/ ,' 3 「あれで、あまり意味のない行動はしない輩じゃ」

/ ,' 3 「帰らなかったのも、ドクオを助ける為だったのじゃろう?」

ζ(゚ー゚*ζ「それは……そう、ですけど」

/ ,' 3 「デレ、お前も少しは信じておやり」

/ ,' 3 「特に今は、あやつも色々と……思い詰めておるじゃろうしの」

137名無しさん :2018/07/11(水) 20:17:50 ID:DAgs3L120

デレはそんな言葉を訝しげに聞いてたが、ややあって小さく頷いた。

そういう態度だけは、決して見せない男だから、それも仕方のないことかもしれない。


そう思い、思い返す遠い日のこと。

あの惨状を前にして、ただ泣きながら震える事しかできなかった少年が、
何もできない事を悔やみ、強くなる、と墓前で呟いていた、あの小さな背を。

だからそんな言葉を、一つの誓いを知る唯一の人間として、
せめて自分は信じていると、老人は再び空を見る。

空はそんな想いとは裏腹に、どこまでも、どこまでも曇り、影だけを落としていた。





…………。

138名無しさん :2018/07/11(水) 20:18:34 ID:DAgs3L120

その名を口にしたきり、ピクリとも動かない内藤を横目に、
ショボンは血まみれの姿を抱き起こした。

肩口から裂かれた傷跡から、血が未だ溢れてくる。
千切れた皮膚の奥から、いくつもの白い破片も一緒に。

処置のしようもない程に、その傷痕はもはや、すべてが手遅れだった。
すぐ横のアホ顔で天をあおぐ輩を睨み付けるが、そちらも反応は無い。


(;´・ω・`)「ジョルジュさん……! なんで……あんな真似を…!!」

( ゚∀゚)「お前が……はやまったこと、すっからだよ…たく、危ねぇなぁ……」

(;´・ω・`)「どうして……こんなこと、しなくたって……」

(;´・ω・`)「僕は………僕はもう、決めていたのに…!!」

( ゚∀゚)「…………お前らには…」

( ゚∀゚)「特に、お前には、かなり重てぇもん背負わせちまったよなぁ」

(;´・ω・`)「そんな事……何かを背負ってるのはみんな、誰だってそうでしょう?」

( ゚∀゚)「……ああ……理由だけならな、でもお前は……責任を、抱えたろ?」

( ゚∀゚)「だからさ…これ以上、それも、親友殺しなんざ、背負わせたく、ねぇんだ」

(;´・ω・`)「……っ」

139名無しさん :2018/07/11(水) 20:21:21 ID:DAgs3L120

( ゚∀゚)「なあ、ショボン」

(;´・ω・`)「……なん、ですか?」

( ゚∀゚)「物はついでだ……のこりの荷物も、俺に預けちまえよ」

( ゚∀゚)「お…まえは、オレに……命じられたとでも、しとけ」


( ゚∀゚)「人の生命を……弄んだ代償なんざ……考えてんな、よ」


その言葉に、ショボンは絶句した。


ずっと考えていた事だった。


自分のしていること、その行いのおこがましさに。

他人を駒のように扱い、他を潰し、他に潰させ、自分は手を汚さない汚さに。

この世界で戦い続けてきた、本物の人たちの隣で、知識だけを得た偽者の自分が、
本物であるかのように振舞い並び立つ、その醜さに。


そして、そんな偽者の自分を、本物と勘違いして慕ってくれる人たちの思いすらダシにして。
またこれから、更なる犠牲を生もうとしている、その罪深さに。

140名無しさん :2018/07/11(水) 20:22:05 ID:DAgs3L120

思っていた。


神もあの世も信じてなどいなかったが、きっと自分は地獄に落ちる、
人を使って命のやり取りをする事への贖罪、そう思うことだけが、ある種の赦しだったから。

しかし、誰にもそんな思いは知られていない。
そして、そんな思いを、あの二人にまで共有して欲しくもない。


穴を気にし過ぎて、下手糞な壁しか作れなかった友人と、
塞がれた心に気付いていない、しかし真っ直ぐな友人が、
それぞれの道を歩み始めた、それを、喜ばしいと、そう思えたから。


だから隠そうと、今は心に鍵をかけて。
もう、自分の本心で、何かを壊したくはない。

そう思っていた、思えるだけの演技はできていたはずだった。


(´ ω `)(どうして……この人は……こう)

あけすけで、能天気なようでいて、しかしその実どこか冷静で、
周りをよく見ている、見抜ける、そんな目を持っている。


(´ ω `)(………っそうだ、だから…)


走馬灯という物か、これまでの事が思い返される。
これまでの、旅のさなか、いや出会ったその時から、どれほど。

141名無しさん :2018/07/11(水) 20:22:49 ID:DAgs3L120

( ゚∀゚)「なあ…おまえ…は……あいつらの……これからに、必要、な」


(´ ω `)「……そんな、の、そんなの、ジョルジュさんだってそうでしょう!?」


(´・ω;`)「あなたも……あなたが! 僕らには必要なんですよ!? 」

(´・ω;`)「はじめて会った時からずっと…! あなたが居てくれたから…!」


( ゚∀ )「…………………」


(´;ω;`)「わけのわからないこの世界でも、恐れずに歩けたのは…!
      大丈夫だって、何とかなるって、そう思えたのは…ジョルジュさんが、居たから…」

(´;ω;`)「だから……だから僕は………きっと、ブーンも、ドクオも……
       ジョルジュさんを、信じて……その、おかげで………ぼくら、は……」


(  ∀ )「ああ…そりゃ、兄貴分としちゃ……ほこらしい、なぁ」


(´;ω;`)「…………っ……はい、僕も、ブーンも、ドクオも…! そう思ってましたよ…!」


(  ∀ )「は、は……やれ、やれ……だな、どい…つも……んと、せわ……やけて…なぁ」

(  ∀ )「ああでも………こんだぁ、……とめられた、よな、おとうとを………きょうだいげんか…も……」


(´;ω;`)「はい……っ…ジョルジュさんの…おかげで…っ」

( -∀-)「……ああ、ああ……だいじょ、ぶ…さ…おまえ、ら……なら」

142名無しさん :2018/07/11(水) 20:23:24 ID:DAgs3L120

既に光の消えた瞳で、空を見上げ、うわ言のような言葉が響く。
消えていく、無くなっていく、居なくなっていく。

手を取るが、返す感触はなにも無い。

声が届いているのかも、一秒ごとに怪しくなっていく。

こんな、誰も居ない寂れた場所で。

自分しか看取るものが居ないところで、この人を送らねばならない事が、今はただ悔しくて。
そして、その原因が何だったのか、もういちど、考えて。

(´ ω `)「………ぅ、く……」

(´;ω;`)「ごめん………ごめんなさい、ジョルジュさん……本当は…
      こうなること……わかっていたのに……だから僕は、僕がその前にって……」

( -∀-)「俺はさ」

最後の懺悔は、しかし消えかけていた瞳に、もう一度光を宿し、
ジョルジュははっきりとした声色で口にした。

(´;ω;`)「………え?」

( ゚∀゚)「ダメさ、結局……あの日の英雄たちに憧れちまった」


( ゚∀゚)「かっこいいよな………一人を守ろうと皆が動いて、
     その皆を守るために、その一人がまた命を賭けたんだ……」

( ゚∀゚)「俺は………俺も、そう、在りたかった…」

143名無しさん :2018/07/11(水) 20:24:45 ID:DAgs3L120

( ゚∀゚)「でも、お前らはそうじゃない……だろ?」

言って、ジョルジュはいつの間にかこちらを見やる内藤を指す。

あれが、あれの目指したその先にある物こそ、お前たちらしい、と。


だから、と続け。


( ゚∀゚)「……伝えてくれよ、それを」




( -∀-)「――――信じてる……と………ほん…と…に……ごめん……な…………と―――――」


言って、息を吐くように、眠りにつくようにして、
凄惨な傷痕からは考えられないほど、穏やかな表情で、

これまでの、彼らの旅路を支えてきた男がその生涯を終えた。


ショボンは堪えきれない思いをそれでも飲み込むように空を仰ぐ、
ひとひらの雪が瞼に落ちると、いくつもの雫が頬を伝った。

144名無しさん :2018/07/11(水) 20:25:39 ID:DAgs3L120

それを拭うと、立ち上がって剣、神具フレイを取る。

そしてこちらを見る、相変わらず唖然とした表情の内藤へと突きつけた。
しかし、それでも訳がわからない、という風に首をかしげるばかり。

( ^ω^)「……?」

(´・ω・`)「ブーン………僕がわかるかい?」

( ^ω^)「………? しってる……きが…する…」

(´・ω・`)「そう………じゃこの人は?」

( ^ω^)「…………じ、じょるじゅ、さん?」

(´・ω・`)「今の話…聞いてたよね? どう思う? 何か思うところない?」

( ^ω^)「はなし……?わから……ない、わから、ない」

(´・ω・`)「じゃあ……ブーン、きみ………死にたい?」


( ^ω^)「………」


( ^ω^)「うん」

( ^ω^)「死にたい」

145名無しさん :2018/07/11(水) 20:26:25 ID:DAgs3L120

(´・ω・`)「素直だねぇ」

( ^ω;)「あ、あ……」

( ^ω;)「死にたい、死にたい、しにたい、シニ……タイ…ダレ、か」

(´・ω・`)「君は言ったね、皆を守るために、すぐ側の誰かを救うために戦うって」

(´・ω・`)「そんな君は、この結果をどう受け止めるのかな」

( ^ω゚)「コ…ロし…テ……」

(´・ω・`)「いいや、悪いけど……君には生き地獄を味わってもらうことになる…ていうか」

(`・ω・´)「死んで済むと思うなよ、もう……逃げる事は許されないんだから」


僕も、君も。


言って、ショボンは手にした剣で、内藤のもつ剣を叩いた。
外見に何か変化があった様子はないが、ショボンは確かな手応えを得る。


ややあって、内藤がうめき声をあげた。

146名無しさん :2018/07/11(水) 20:27:28 ID:DAgs3L120

テレビがついている。
液晶に映るのは、誰かが自転車をこぐ姿。

もう一台、テレビが増えた。
今度は学校に居る、誰かの姿。

更にもう一台、そしてそれを切欠に無数の画面が点灯し、一気に映像と音声が流れ出す。
それは何気ない日常であり、そしてとんでもない非日常の様子まで。

しかし、いくつかノイズまみれでよく見えない物もあった。
見てはいけないものだった、だから内藤は見なかった。

自分の、これまでの、全てを、思い出しながら。


膨大で、音は滝のよう、映像は細かくなりすぎてステレオグラムのよう。


気が狂う。

ようで。

寝不足で眼を覚ました時の、混乱する頭のようで。



しかしはっきりと、意識がある。

自分は誰で、自分はどこで、自分が何をしているのか。
けれど思い出せないこともある。

それは、何を、したのか。

147名無しさん :2018/07/11(水) 20:28:25 ID:DAgs3L120

(;゚ω゚)「……う、うああああああああああああ!!!???」


一面の白に、美しいほど映える赤い染み。
内藤はつまづきながら、横たわる姿へと駆け寄った。

そして必死に名を呼ぶが、返事どころか身じろぎひとつしない。

(;゚ω゚)「ジョルジュさん! ジョルジュさん…!! 何で、いったい何が!?」

(;゚ω゚)「誰か…!? 誰か居ないのかお? こんなに、血が…血が!!」

(´・ω・`)「………ブーン?」

(;゚ω゚)「あっ、ショボ!? 何してんだお!? 早く…!!」

(´・ω・`)「……壊れた、ってやつじゃ…ないよね?」

(;゚ω゚)「何わけわかんないこと言ってんだお!? これが見えないのかお!!」

(;゚ω゚)「早く、早くなんとかしないと、ジョルジュさんが…!!!」

(´・ω・`)「……君、ほんとに大丈夫?」


(;゚ω゚)「ショボ!! ふざけてんのかお!? 早くジョルジュさんを助けなきゃ!!!」


(´・ω・`)「は? 助ける? はっ……ははははっ!!!!!! 君がそれを言うわけ? 君が?」


この状況下で笑みを浮かべるショボンに怒りの感情が湧き上がるが、
しかしそれ以上に、内藤はその言葉に寒気と、恐怖を覚えた。

148名無しさん :2018/07/11(水) 20:29:11 ID:DAgs3L120

(;゚ω゚)「ヒルトは…あっち…か? とにかく、町まで行けば!!」

(´・ω・`)「ふうん、ここに居る、って自覚はあるのか」

(;゚ω゚)「ジョルジュさん、死なないでくれお、今連れていくから、おねがいだから…!」

(´・ω・`)「…ああ、行くといい、でも、早まった事はしないようにね」

(;゚ω゚)「っっ……」

そうして、内藤はジョルジュを背負うなり駆け出した。
しかし雪に足をとられペースが落ちる、更には濡れた身体中が冷えて凍りつきそう。


けれどそれでも、と。


背中にまだ、暖かい物を感じて、暖かい物が、背を伝ってくる感覚があって、
手も、足も、どうなっても構わないと形振り構わず進んでいく。


(;゚ω゚)「まだ、間に合う……まだ、大丈夫、まだ…っ」


ただ、前へ。


赤く広がった雪の上から、赤い足跡を伸ばしていく。

ショボンは、そんな姿を小さくなるまで見送ってから、
ゆっくりと倒れこむように膝をつく。

頬をつたって流れた何かがまた、雪上に落ちた。

149名無しさん :2018/07/11(水) 20:31:26 ID:DAgs3L120

………。




やがて。


どれほど進んだのか、開けた道に出た。

この辺りはどこも似た景色だから、はっきり覚えているわけではないが、
ヒルトへ続く街道で違いない、もう少しだと、気合を入れなおした。


(;゚ω゚)「あと、もう少し…だお、ジョルジュさん…」


返事は無い。


けれど、背中はまだ温かさを感じる。

気持ち悪いねばつく感触には気付かないふりをした。

後ろを見れば、あの、嫌な赤い足跡はとうに無くなっていた。


血は止まった。

150名無しさん :2018/07/11(水) 20:32:47 ID:DAgs3L120

もしかしたらと、内藤は自分の持つ神具を握らせてみた。
あれだけ大怪我してもすぐに治した力だ、実績もある。

現にあれだけ流れていた血は止まっているし、
いつの間にか、自分にしがみついている腕にも力がある。

それも異様な硬さだ、人体の柔らかさを感じないほどの。

だから、大丈夫だと。

辺りは白い。

吐く息も白い。

自分も、背負う姿も、綺麗な白に染まっていくような誤解があった。



(  ω )「…大丈夫、だお、今度は……僕が、助ける、番…だから」


(  ω )「…ジョルジュさんは、ずっと、初めて会った時から、僕らを助けてくれてた」


(  ω )「…やたらと、僕らに鍛えるよう言ってたお……あれだって」


(  ω )「ジョルジュさんは、わかってたんだお? 僕らが……戦いに、巻き込まれること」


(  ω )「でも、そうさせないように、してくれていたことも……わかってたお」

151名無しさん :2018/07/11(水) 20:35:58 ID:DAgs3L120

(  ω )「でも、それでも、どうしようもなくなったときの、ために……」


(  ω )「僕らが、何もできずに潰されてしまわないように、歩いていけるように」


(  ω )「自分のためじゃなく……人が、無力だって、知っているから…」


(  ω )「ほんとは……最初は、疑ってたお、怪しいって…」


(  ω )「だけど、それは本当はお互い様なのに、ジョルジュさんは受け入れてくれてた」


(  ω )「あんなに強くて、弱音も吐かずに、いろんなことを背負っているのに」


(  ω )「それでも、何も知らない、弱くて、わがままな、僕たちを、助けてくれていた」


(  ω )「だから…気付いたら、いつのまにか………」


(  ω )「……………兄貴ってのは、こんなに頼れるものだったかなぁ、って」


(  ω )「もっと……頼りにならなくて、自分がしっかりしなきゃって思えるような……存在、のような……」


(  ω )「なんでかなぁ、そう……思ったんだお」


(  ω )「あ、でも……同じところも、あったんだお」


(  ω )「優しいところ、いざって時には、僕のために……立ち上がってくれる、そんなところ……」

152名無しさん :2018/07/11(水) 20:37:21 ID:DAgs3L120

(  ω )「だから――――」



(  ω )「だから……やめてくれお、ジョルジュさん」


 混濁した記憶の中で、一際色濃く残っている言葉がある。
今もその映像はノイズだらけで、何が何だかわかりたくないけれど、

強く、残る言葉がある。


(  ω )「ごめん、なんて……言わないでくれお」


謝罪。

悔やみ、嘆きの中で生まれる言葉。
そんな言葉を使わせてしまった。

苦しみながら、死んでいった。

他ならぬ、自分のせいで。


(  ω )「ジョルジュさんは……ずっと、守ってくれてたじゃないかお、
      そんなの知ってる、わかってる、みんなわかってる事だお」


(  ω )「ジョルジュさんは何も悪くない、悪いのは……」

153名無しさん :2018/07/11(水) 20:38:23 ID:DAgs3L120

(  ω )「わる……い……の……」


悪いのは?


 視界がぼやける、冷え切った手足はもとより、身体中が悲鳴をあげている。
しかしそれ以上に、何よりも、胸が苦しくて、内藤はついぞ膝をつく。


(; ω )「だめ……だお」

(  ω )「まだ……立ち止まってる暇なんて…ない…いそがない…と」


 立ち上がった、この誤解をやめるわけにはいかない、まだ勘違いしなければ駄目だ。
まだ忘れたままでいなければ、足が動かなくなる、頭がおかしくなってしまう。

だけどもう、どうしてか、内藤の視界は何かが邪魔をしていてよく見えない。

雪だ。

雪が目に入ってきて視界が歪む。

それも何度も何度も拭っても拭っても、雪が入ってくる。



そう思うことで、どうにか足を前に出す。


と、今度は完全につまづいて、前のめりに倒れこんだ。


ぱき、あるいは、ぱりん、と、小さな音がした。

154名無しさん :2018/07/11(水) 20:39:34 ID:DAgs3L120

反射的に内藤は音のする方を見た。
これまで、見ないようにしていた後ろの、もっとうしろ。

自分が背負っているモノを。

更に周囲には、赤茶色の錆のようなものが撒かれている。

それは自分が背負うモノから、今もまた、ぱりぱりと、
割れる氷のような音を立てて破片が落ちる。


(  ω )「ぅぁあ、あ、あ……」

(  ω )「いそごう、イソがなきゃ、ひぐ、急がナきゃ…」


立ち上がろうとして、足を滑らせ、背負っていたものが落ちる。
ごろり、ぼす、と雪に埋もれる姿は、見知った存在の筈なのに、見覚えが無い。

形もおかしい、なんとなく、腕に抱きつく人形を思わせる。



もう、ダメだった。



どんな誤解をしようとも、思い込みをしようとも、信じようとも、
これはもう、どうしようもない、どうしようもなく、誤魔化しようもなく。
156名無しさん :2018/07/11(水) 20:41:01 ID:DAgs3L120


(  ω )「………そんなの」

(  ω )「…そんなの……わかってたお……」


自分が斬ったのだ、手応えはこれ以上なく、今もこの手にある。

だから、今こうしている、あの場で、あの目が耐えられず、大義名分の下あの場から逃げ出して。
そして今度は、この先にある現実が近づいたことで、今度は足が進むことを拒み始めた。

守り、守られていくのだと、そう信じて疑わなかった相手から、
内藤はその両方を奪い、この温かさすら、二度と感じられないようにした。

そんな自分が悲しくて、そんな自分が許せない。

悲しい辛い苦しい痛い寒い寂しい怖い恐い不安憎い。


もう、あまりにも自分の感情がぐちゃぐちゃで、
もう、どうしたらいいのか分からない。


ただ、この先に行かなければならない事だけは間違いないと、
もう一度その姿を背負うと、内藤は歩き始めた。


(  ω )「いかな…きゃ」


(  ω )「いって……そして……そして……謝らな…きゃ……」

157名無しさん :2018/07/11(水) 20:42:46 ID:DAgs3L120

(  ω )「さむ…い、い……いた、い…」

(  ω )「あ、あ……ごめん…なさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

凍傷による刺すような痛みと、尚も吹いてくる冷たさは、まるで脅迫されているようで、
いつしか、ひたすら同じ言葉を繰り返し続けていた。

謝らなければと、もはや誰に対してなのかも分からないまま。

「あ!」

(; ω )「…!?」

と、街道の先から声がしてきた。

誰かが内藤を見つけたようで、声をあげ、指をむけて周りを呼ぶ。

どこか聞き覚えのある声だった、それが誰だったのかはわからないが、
それでも内藤は、今の自分を見つけたその相手に対して。


「こっちだ! あそこに誰か…」

「……あれ、おい、あれって…!」

(li゚ω゚)「ひっ……ぃ!!」

恐怖のあまりに後ずさり、雪に足を取られて倒れこんだ。
背負っていたものが、反動で横に転がった。

158名無しさん :2018/07/11(水) 20:43:43 ID:DAgs3L120

それを見て、そして近づいてくる姿を見て。

内藤はパニックを起こしたように叫びながら、
気付けば一人、街道を逆方向にむかって走り出していた。

背中から声がする。

転がった何かを見つけた声。
走り去る内藤の背に呼びかける声。

そして、自分自身を糾弾する、心の声が。

(何をしてる)
(何処へ行く)

(第一声で、言わなければいけない事があったのに)

(どうして僕は)


(逃げている?)



(怖いから?)

(自分のした事が)

159名無しさん :2018/07/11(水) 20:44:12 ID:DAgs3L120

(逃げ出した)(受け入れられない)

(許されないことをした)(恐ろしい)

(逃げるのか)(謝りもしないで)

(卑怯者)(最低な人間)

(あんな事をしておいて、逃げた)

(ちゃんと謝れ)(謝罪しろ)

(謝って済まされる問題じゃない)

(償え)(逃げるな)(どうしたら)


(罰を受けろ)(裁かれるべき)



(そして)


( ゚ω゚)(そうだ)


逃げながら、気付けば自分を許すための術を探していた。

そしてすぐに答えは出た、なんてことのない、当然の行為で。

160名無しさん :2018/07/11(水) 20:46:12 ID:DAgs3L120

覚えている、あの日の目的。

そしてそれは、これからの目的でもある。

なら、それだけが、今の自分にできる、そして許されたこと。


理解して、内藤はようやく笑みを浮かべた。


( ^ω^)




















奴を、殺せばいい。

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