7ヶ「雪上に浮かぶ傷痕」
長く続く街道に、長蛇の列がつづいていく。
街道といっても、ただの踏み固められただけの道ではあるが、
草木も生えず、時折看板が行き先をしめす通りは果てなく見える。
それが幾つかの渓谷と山を越えた麓に、とても古い建造物がある。
岩山をくり貫いて作られたその様相はまるで遺跡のようであり、城砦のようでもある、
果たしてどれほど昔に作られたのか、たくさんの窓のような穴はどれも歪で、
そこかしこから大きな木が根を張り、そして天へと伸びていた。
そんな存在がいくつも並ぶこの場所は、ヒルトへと続く道の最中にあった。
今は戦乱の最中、ここは戦線を維持するための仮拠点。
かつて大きな戦いがあった際にも使われたという天然の要塞。
陽も暮れ始め、焚き火の光がつきはじめる時刻だが、
未だ行き交う人並みは留まることを知らない。
物資と、人の補充、戦の準備。
これらが終われば、再び戦争がはじまる。
と、そんな砦の頂上付近の窓辺から、遠く空を見る姿がある。
( メωФ)「……」
男はしばらく前に行われた争いと、その際に起きた出来事を思い返す。
男には、これまでの人生の記憶が無かった、それをいいように利用しようとする者達がいると、
自らを拾い、目をかけ世話をしてくれた恩人が言った。そしてそれはそのとおり、
この戦乱の世を生み出した、悪しき管理者たちは自分をとある名で呼んだ。
それだけならば、考えるまでも無い。
どちらが正しいのであれ、彼の王は殺しは望んでおらず、平和的解決を求めると言った。
一方で、悪しき管理者達はその名の通り、仲間達を次から次へと殺めてしまった。
どちらを信じるかで言えば王を信じたいと思う。
どこか似た容姿の、どこか懐かしいような空気をもつ、彼の王ロマネスク。
これまでは、周りも自分も、何も疑うことなく信じようと思えていた。
ただ、少しだけ。
幾つか気になることがあった。
一つは、つい先日、砦の中で耳にしてしまった話。
どこぞの国の人間かは不明だが、なんだか揉めているようだったため、
いざとなれば、と思い、聞き耳を立てていたときの事。
(ペニサス……大将が、裏切った?)
(ああ、敵側の管理者と一緒にいたって)
(それも、あれなんじゃないか? 神具の中には人を意のままにする物もあるって)
(でも今になってみるとさ……あいつら、そんな、悪い奴らには見えなかったなぁって)
(お前…! 連中を庇おうってのか!?
あいつらが何したか…!!)
(それは、それが……本当に、あいつらがやったのか…?)
(ペニサスさんが言ってたじゃねぇか!
間違いねぇって!)
(でもその大将が、今はあっちについてるんだぞ!?)
(……)
(俺…なんか、もう、わけわかんねぇよ……)
(それに、前から思ってたんだけどさ)
(あの、王の側に居る奴、なんか、ちょっと似てねぇか?)
(誰に?)
(ほら、連中の……歓迎試合のときの…)
(内藤って奴に)
これも、他人の空似と言えばそれまでだ。
そもそも詳しく聞けば、その内藤と言う人間と自分とでは相違点はいくつもある。
この顔の傷のような痣も、何より体格、背丈もまるで違うと聞く。
ならば別人だ、関係ないはずだ。
それだけならば、それでもまだ、割り切れる。
しかしもう一つが特に、大きな要因として胸にしこりを残す。
今はもう消えてしまった肩の小さな傷跡、軽い痛みだけは今も覚えている。
家族を守るためだと、最後の命を振り絞っていた、獣の姿。
何か、応えてあげるべきだったのではないだろうか。
本人かどうかなんて些細な話ではなく、必死の想いを斬り捨てるのは、
それは、それこそが、本当の悪と呼べるものなのではないだろうか。
でぃ、あの女は王の命に従い動くと聞く。
ならばあの選択もまた、王の選択という事なのか。
否、あれは、ああする事はやむを得ない状況だった。
生命を尊ぶべきという、王の言葉に偽りはないはずだ。
思いながらも、懸念は小さな波紋となって、気付けば足を外へと向かわせていた。
行き先は出口、そしてその先を越えて、ヒルトへ向かう街道へ。
傷男は一人、胸をざわつかせる衝動に従い、歩き始めた。
…………。
雷珠による明かりが、書斎を思わせる一室をやさしく照らしている。
室内にはいくつもの本と、壁には大きな地図、机には大量の紙面が積まれていた。
そんなテーブルに向かい合うのはショボンだった。
偵察に向かった人たちの報告から、こちらの準備状況、そしてこれまでの被害まで、
今や色々な情報が届くようになってしまっていた。
それらは考える必要はあるので、これも大事な事ではあるのだが。
最初はただ、戦争を知らないエッダの人々に知る限りの戦術、戦略を教えていただけの筈が、
気付けば状況に流されるまま、今では国の動向にまで首をつっこむレベルとなっており、
徐々に混ざり始めている食料や武器類の、いわば経済に関する報告までもが届き始め、頭を抱えていた。
わからない、という訳では無い。
今時よくある異世界ものよろしく、現代経済のマニュアルと前例に則ってみれば、
この世界のまだ発展途上レベルの社会はとてもよく噛み合う。
賢たる者、次元接続によってすでに蓄積されている情報からすれば、
解決とまでは行かずとも、いくつもの改善案は提示できる。
しかし問題なのは、この先。
(;´・ω・`)(こんな事続けてたら……もしかしてずっとこのまま……)
もしも平和な世の中が来たとして、解放される日はくるのだろうか、
なんだかとても嫌な予感に見舞われ、机の上から目を逸らし、窓の外を見た。
たくさんの白が降り注ぎ、窓枠にもまた雪が積もっていく。
外は雪景色、凍えそうな光景だが、室内は暖炉がパチパチと薪を燃やし、
ついでに最近ヒルトに出回っている、熱伝道送風機、つまりはストーブによって暖かい。
外で、屋根から落ちた雪が音を立てる。
ため息をつく。
すると、ノックの音が響いて、返事も待たずに扉が開く。
( ゚∀゚)「邪魔するぜ」
(´・ω・`)「どうしたんですか?」
( ゚∀゚)「いやちょっと様子見にな」
(´・ω・`)「なんだ、てっきりドクオの所在でもわかったのかと」
(;゚∀゚)「う゛……っ」
そう、あれからしばらく経つが、未だドクオは行方知れずのままだった。
街道で見かけたという情報もあるにはあるが、どれも不確定なものばかり、
更には最悪なことに、今やこのヒルトは各街道に検問を敷かれており、
聞けばドクオを匿っていたという場所は、その向こう側にあるというのだ。
これでは探し、迎えに行くこともできない。
ついでに一緒に居たはずのジョルジュも、聞けばもう大丈夫そうだからと、
まだ怪我も癒えてない状態のドクオを置いて、一人戻ってきたという。
その事で、ジョルジュが全員から総叩きにあったのは言うまでも無く、
某妹さんからは、連れて来るまで帰ってくるなと追い出されそうになっていた。
だが、もう少し深く容態までを聞いてみたところ。
巨大な剣で肩口から切り裂かれ、更にはそのまま谷底の川まで転落、
何とか救い上げたものの、すでに息絶えた所まで逝っていた、と。
それ本当に生きてるのかという疑惑まで浮上したが。
<_プー゚)フ(いや…それ、死んでるだろ……普通に)
川; - )(ぁぁ……っ)フラッ
从;゚∀从(ああっ、しっかりしろクー…!)
ノハ;゚ー゚)(そんな状態からどうやって……誰なの、そのもう一人って?)
(;゚∀゚)(……それは………)
(´-ω-`)(………)
('、`;川(―――死からの、蘇生……まさか)
(´・ω・`)(―――まあ、そんな重症なんじゃ、連れて来ないのは正解でしたね)
(;゚∀゚)(お、そ、そうか? そうだよな?)
(´・ω・`)(少なくとも戦力としては見れないし、安静にしてくれることを願いましょう)
ζ(゚- ゚*ζ(それで……もう一人って誰なの、お兄ちゃん?)
(;゚∀゚)(そりゃその、…たまたま!
たまたま奇跡のお医者さんが居たんだよ…!!)
ζ(゚- ゚*ζ(へーそう)
(´・ω・`)(……はぁ)
なんだかんだで有耶無耶となっていたが、ほぼ本当は死んでる空気になりかけるも。
クーが見せたとある物と、彼女の言葉でその場は収まりを見せたのだった。
川;゚ -゚)(大丈夫、取り乱した、だが大丈夫だ)
从;゚∀从(ほんとに大丈夫か?)
川 ゚ -゚)(ああ、ほら、これを見てくれ)
手にあるのは、布にくるまれた赤い物体。
それはあの最後の地で、唯一発見、拾われたという彼の炎の剣の欠片。
折られ砕けた、レーヴァテインの刀身、その一部だった。
触れれば、それが奇妙な暖かさを持っている事がわかる。
その熱こそが、管理者である人間が生きているその証だと彼女が言った。
その剣の存在が、幾度も大切な人や場所を傷つけてきた、
しかし今は、それこそが唯一の、大切な繋がりだと、彼女は真っ直ぐな目で言う。
その姿に、その強さに、意を唱える者はもはや居なかった。
(;゚∀゚)「…そ、そりゃあ、考えが足りなかったとは思うけどよぉ…」
(´・ω・`)「足りないのは事情を語る言葉じゃないですかね?」
(´・ω・`)「……いくらあの、弟さんに預けてきたからって」
(;゚∀゚)「…………………」
_,
( -∀-)「……やっぱ、バレちまうか」
(´・ω・`)「……人を蘇らせるような力、心当たりなんて一つしかないでしょ」
( ゚∀゚)「ああ……だから、ドクオの奴は、大丈夫さ」
(´・ω・`)「大丈夫、ね……そう、言えるほどなんですか」
( ゚∀゚)「………」
(´・ω・`)「何があったか、まで聞く気はないですけど」
(´・ω・`)「本当に、本当に、大丈夫なんですね?」
問われ、ジョルジュはあの日の光景を思い返す。
何度も、何度も、何度も、自分の身体に剣を突き刺す姿があった。
苦しみに喘ぎながら、それでも微笑だけは崩さない姿があった。
いいのだと。
ようやくだと。
見ていられない、そんな逃げがあった事は否定しない。
だがそれ以上に、そんな姿を疑うことは、まず人として許されない、と。
迷うことなく、ジョルジュは大丈夫だと断言した。
ショボンは目を伏せ、わかりました、とだけ返す。
と、そこでジョルジュは気がついた。
( ゚∀゚)(……そういやこいつ今)
( ゚∀゚)(弟さん、って言ったのか)
( ゚∀゚)(敵、じゃねぇのか)
思わず笑ってしまう自分を、ジョルジュは堪えることができなかった。
……………。
造船所、その中でも一際大きなテント張りの中から一隻の船が姿を現した。
その姿を一言で表せば、巨大、以外のものがない。
木造ではあるが、至るところに鉄板が敷かれ、装甲に覆われており、
特に前部、船首には刃のように研ぎ澄まされた鉄の塊が突き出し。
これまでの陸船に見られた風受けのマストは無く、代わりに巨大な円筒のような物が船尾に。
船体の側面にはいくつもの窓穴が開けられ、同時にその全てに珠が取り付けられている。
極めつけは、先ほどからの自走行動。
そこらの民家をまとめて収納できるようなサイズの物体が、今もゆっくりと前進を続ける。
見れば車輪の部分からは雷光が輝き、激しい唸り音が鳴り響いていた。
同時に、歓声があがる。
「成功だ!!!」
「うおおおおお!!!!」
「すごい……本当に、こんな巨大なのが動いてる…」
「やりましたね、高岡さん!!」
从 ゚∀从「ああ、私が持てる限りの技術と、この国の珠の応用力を合わせて建造した大陸船」
从 ゚∀从「こいつが、俺たちの切り札ってやつだぜ…!」
从 ゚∀从「でも完成したのは、ここにいる皆のおかげだ…」
从 ゚∀从「ありがとう、余所者の私の、わがままにつきあってくれて」
「何言ってるんですか、珠について、僕らも勉強になりました」
あの日から、このヒルトに残って研究を重ねたハインが作っていたのは、
数百人規模と物資を乗せたまま、従来の陸船を大きく上回る速度をもつ移動手段。
時刻や場所を示し合わせ、多大な労力をかけて戦場を作ってきた、
これまでの常識を大きく塗り替える代物だった。
从 ∀从「………」
だがそれは、自らの作った物が、これから大量の血を流す原因となる事を示す。
存在の大きさが、ここにきてハインの心を押し潰しそうになるが、
「でけー!」
「かっこいい!!」
「あれのりたーい!!」
从 ゚∀从「……」
聞こえてきた、そんな幼い声色に、ふと肩の力が抜けるのを感じ、
そっと心の中で、未来に必ず、と、ひとつ約束事をした。
从 ゚∀从「母者さん」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「なんだい」
从 ゚∀从「私の仕事はここまで……」
从 ゚∀从「俺にできること、やったつもりだよ」
从 -∀从「あとはもう……信じることしかできそうにないんだ」
从 -∀从「大丈夫、かなぁ?」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「んなもん、あたしに分かる訳ないだろ」
从;゚∀从「な、ちょ、ちょっとは応援してくれても…っ」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「結果はすべて、あんたたち次第だよ」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「叶えたい未来は、今を生きる人間が作るものだからね」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「だから今を生きるあんたが、精一杯の今をあがいてみせたなら」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「何もしない過去よりは、きっとそこに、望んだ未来があるはずさ」
从 ゚∀从「……」
从 -∀从「うん、ありがとう」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「よしな、それより……この船、名前はあるのかい?」
从 ゚∀从「ああ、こいつは……この雪降る大地から吹く風」
从 ゚∀从「今はきっと、ただ死を運ぶだけの存在かもしれないけど、それでも」
从 ゚∀从「今あるこの世の全てを破壊して、新たな道を目指すための船」
从 ゚∀从「駆逐船・雪風、それがこの船の名前だよ」
そして幾つかのからかうような声に、反論する声があって。
最後に、良い名じゃないかと、そんな言葉で締めくくられた。
…………。
場所は再び、ショボンの居る一室。
ところで、と、ジョルジュは先ほどまでの砕けた雰囲気を一変させ、
視線を窓の外へと向かわせたまま、こう切り出した。
( ゚∀゚)「……内藤の、あの神具、お前は何かわかるのか?」
(´・ω・`)「いえ…」
以前、本人の口から語られたのは、太陽の名を冠する通り、陽を受けることで力を得る強化と、
自身の身体を根本から作り変え、怪我すら治癒させる進化の能力。
だが、明らかにそれだけではない能力を見せている。
大剣の、それも神具の力でより強化された一撃を容易く受け止め、
放たれた雷をも消し去った、少なくとも、当時の本人すらも知り得ない力。
再び戦いが始まれば、今度は最初からそんな人間が出てくる。
もはや、無策で真っ向から挑める相手ではない、せめてもう少し情報が欲しい。
(´・ω・`)「あれは……本当にガラティンと呼ばれる剣なのかも怪しい所ですし」
剣の元のお話からして、確かに陽が昇ると強くなるというのは似ているが、
そもそもそんな能力は剣には無い、その能力は持主である騎士が生まれ持った能力なのだから。
(;゚∀゚)「その辺はまあ…よくわかんねーけど」
(´・ω・`)「むしろ人格があるだの選ばれた人にだけ聞こえるだの、ソーディアンの方がまだ……」
( ゚∀゚)「なんだ? そーでぃあん?
それが正体かもしれねぇのか?」
(;´・ω・`)「いえ冗談、というか、それだけは無いので忘れてください……」
(´・ω・`)「ああ、でも……選ばれた、ってのは、そうなんでしょうね」
( ゚∀゚)「これまで誰も使えなかった神具を、内藤だけが使えた……んだっけな」
(´・ω・`)「ええ、何故か」
( ゚∀゚)「じゃあむしろお前が知ってるんじゃねぇのか?
お前が渡したんだろ?」
(´・ω・`)「……確かに、ブーンに渡せば、って確信はありました」
(´・ω・`)「でもそれだけなんですよ、理由は僕にはわからない」
( ゚∀゚)「だからどうしてだよ? 未来を視たんだろ?」
(´・ω・`)「予知じゃないですよ、世界の流れから見た…あくまでも予測です」
(´・ω・`)「ただ……」
(´・ω・`)「あの瞬間の、あの行動に関してだけは、多分……逆なんだと思います」
( ゚∀゚)「逆…?」
(´・ω・`)「未来じゃなく、過去を見た、その結果」
(;゚∀゚)「あん? どういうこった?」
(´・ω・`)「この世界そのものが知っていたんですよ、ブーンこそがあの剣の管理者だと」
それゆえに、まだ自分も知らぬ衝動に駆られるまま、彼に渡さなければならないと、
戦場という危険を省みず、ショボンは内藤の元へ走ったのだ。
(;゚∀゚)「……つまり?」
(´・ω・`)「その正体も理由も、神のみぞ知るってやつですね」
(;゚∀゚)「お、おぅ……」
それで、と一呼吸置き。
( ゚∀゚)「んで、どうにか出来ねぇのか?
あれが神具による影響だってんなら、お前の力なら……」
軽い発言、しかし当然くるであろうその言葉は、ショボンを少しだけ動揺させた。
無意識に指先はすこし震えていたかもしれない、理解はしていても、それでも、迷ってしまったのは。
『誰かが悲しいのに』
『そんなのが救いだなんて』
『そんなのは、おかしい』
かつての言葉が、運命に抗うという可能性の探求が、
自分の中にある一つの決断を、今も揺るがせていたから。
(´・ω・`)「それは―――」
できない、だからこそ、先の戦いでショボンは殺すと口にした。
本来、フレイの無効化で可能なことと言えば、神具の効果を力の流れる線として、
それを一時的に断つという、繋ぎ直せば済んでしまう程度のもの。
自動迎撃可能なフレイの力もあり、あとは単純な腕が物を言う。
ゆえに既に強化された相手というのは、最悪の相性と呼べるものだった。
だが、今回の場合は話が違う。
通じないから、勝てないから、という理由ではなく。
剣の真髄は己が手足とするという言葉の通り、剣と一つになる特性がゆえ。
付与されているのが強化の力だけではなく、人格があることで精神的な意味合いでのリンクが生まれ。
これが不具合か否かはともかく、心を一つに合わせるのではなく、ついには混ざってしまった。
その感情が、思いが、誰のものだったのか、それすらわからなくなるほどに。
そうして二つ混ざり合い、一つの新たな形となってしまった今、
もはや元通りに戻すことはできない、不可能なのだと悟ってしまった。
むしろそんな事をすれば、おそらく彼の精神そのものを断ち切る事になる。
だから、次に対峙することがあれば。
一度でも斬りあいになれば、ただそれだけで、
おそらく内藤の攻撃は防げないが、同様に内藤もフレイによる能力は防げない。
あれが変わらずこちらを殺す気がないのであれば、結果は見えている。
この手で、友人を殺す事になる。
(´ ω `)「…………」
だからこそ。
(´・ω・`)「――――勿論可能ですよ、僕の神具の力を使えば、元のブーンを取り戻す事が」
本当は、今抱えている全てを、ぶちまけてしまいたかった。
そうすれば支えてくれる、優しい言葉がもらえる、そんな事はするなと。
可能も不可能も関係なく、力になってくれるだろう事は容易く想像できた。
だからこそ、真実を口にする事を嫌った。
( ゚∀゚)「……本当か?」
(´・ω・`)「ええ、本人も言ってたでしょう?
僕とは戦うなって」
心臓の音がやけに大きく響く聞こえてくる。
替わりに胸の奥からまた一つ、熱が消えるような感覚。
感情を切り離して、文書に書き連ねるように行動を決める。
そうして今までもやってきた、そうでなければ耐えられなかった。
今度もまた、同じようにするだけだ、しなければならない。
(´ ω `)(……そうだ、これでいい、これでいいんだ)
自分の中で悲しい声が響いているのを感じながら、
それでもショボンは、それらしい言葉を紡いでいく。
いつしか視線は、正面を向いていながら定まらず、視野の外を見ていた。
故に、気付いていなかった。
-
( ゚∀゚)「………」
_
( -∀-)「…………前から思ってたけどよ」
そんなショボンを見る、ジョルジュの目に。
(´・ω・`)「?」
_
( -∀゚)「お前、ウソつくの下手だよな?」
(´ ω `)「………っ!」
_
( -∀-)「自覚ねーのか? お前、嘘ついたり何か隠したりしてる時、
硬っ苦しい表情でよ、そうやって変に芝居がかった話し方するじゃねーか」
それは、当然のように言う言葉とは裏腹に、本当に些細な変化だった。
ショボンとてそれを自覚していた、けれど、気付く者は居ないと、そう思っていた。
( ゚∀゚)「……無理、なんだな?
あいつを元に戻してやる事は」
(´ ω `)「………………」
けれど、気付いてしまった。
冷え固まっていた指先に、少しだけ熱が戻る。
変わっていく自分達を、改めてこの人はずっと見守っていてくれたのだという事を。
ショボンはそれを嬉しいと思う反面、泣きたい衝動に駆られるほどの辛さを覚えた。
( ゚∀゚)「お前の考えてる事、当ててやろうか」
(´・ω・`)「………」
( ゚∀゚)「……内藤が元に戻れないと分かった以上、あいつの存在は脅威以外の何物でもない、
なら、これ以上の犠牲を払う前に……自分の手で、ケリをつける、だろ?」
( ゚∀゚)「悪ぃが、そいつは駄目だぜ?」
(´・ω・`)「……どうして、ですか」
_
( -∀-)「たりまえだろ、俺は内藤の奴が死ぬのも、お前が親友殺しをするようなのも、見たくねぇからだよ」
(´・ω・`)「そんな、そんなの……」
(`・ω・´)「……ジョルジュさん、あなたは、わかってない…!」
_
( -∀-)「分かってるさ」
(`・ω・´)「いや、分かってたらそんな事は言えない筈だ…!」
(`・ω・´)「ブーンが敵になるっていうのは、仲間だからとか、そんな人情的な問題じゃない!」
_
( -∀-)「ああ、分かってるよ……あいつは、内藤は……強く、なったからなぁ」
そう、内藤は強い。
人間を超越した身体能力に加え、ちょっとした怪我なら一瞬で治癒してしまうほどの再生力。
もはや純粋な剣の腕で見れば、世界を見渡しても敵う人間は居ない。
取り囲んだところで、最早無双ゲームの世界、やはり同じことだろう。
今でこそ、かつての甘さを残したままに見えたが。
そんな人間が、これからの戦いの中で甘さまでも捨て去ったなら。
事実、先の戦闘では管理者三人とも、手加減した内藤にすら太刀打ちできなかったのだ。
あの一人の存在によって、この戦争そのものが、決まってしまいかねない。
なら、と言い掛けたショボンの言葉を塞ぐように、ジョルジュが言った。
( ゚∀゚)「帰ってくるさ、必ずな」
(´・ω・`)「……無理、ですよ」
( ゚∀゚)「いいや、どんなに変わったって、何を忘れたってさ、内藤は内藤だ」
( ゚∀゚)「あいつ、敵だと言う相手を救うとか言いやがったんだぜ?」
( -∀-)「やっぱ根っこのとこは変わりゃしねぇんだよ、なら、きっと手はある」
(´・ω・`)「……死にますよ、そんな考えじゃ」
( ゚∀゚)「バカ言うな、死なねぇよ」
(´・ω・`)「でも前例がありますからね」
(;゚∀゚)「あ、あー……いやあれは……」
どさ、と、また屋根から落ちる雪が音を立てる。
目を泳がせるジョルジュは、つい窓の外へと視線を向けた。
そして、そこに、ありえないものを見た。
……………。
相変わらず雪が降り続く、ヒルトの街並み。
しかし人は忙しなく、そこら中で賑わいを見せている。
道、主に歩道となる箇所には火珠による熱が伝わり、雪は積もらず解けだし。
流れる水は用水路に流れこみ、いくつかの水車がまた違うエネルギーを循環させている。
これらは、とある接続珠に詳しい人間がつい最近この国に持ち込んだシステムである。
そんな変化を受け、住まう人々の思惑も色とりどり、しかしほとんどが肯定的なもの。
今も広場にある配給場では、いくつも湯気がたつ中談笑する姿がある。
「ま、屋根はまだ人力なんだけどな」
「つらら落とすのが日課だから俺は別に」
「そのうち不要になるかもってさ、用水路の温水を使うとかなんとか」
「でかい風呂作ってるとも聞いたぞ?」
「なんか最近すげーな、どうしちゃったんだこの国は」
<_プー゚)フ「そりゃ珠作った本人が知恵袋だもんよ」
「ん? 兄ちゃんどういうこった?」
<_プー゚)フ「それよりスープいいかい?
人数分ほしいんだけど」
「お、おう、いくつだい」
<_プー゚)フ「えーっと」
そうして、いくつかのお椀を板に載せ、エクストは広場の一角をめざす。
大した距離ではないが、幾度も人がすれ違っていく。
聞こえてくる声も活気がある、とても、今が戦争の最中とは思えない光景だ。
更に出店が並ぶ先まで歩いていくと、大きな傘がいくつも立ち並ぶ場所がある。
その内の一つに、目当ての姿がたむろしていた。
<_プー゚)フ「ほいほい、持ってきましたよと」
ξ゚听)ξ「ごふおう」
<_フ;゚ー゚)フ「ツンの兄貴……また買い食いして」
ξ゚听)ξ「肉が旨い」
<_フ;゚ー゚)フ「そっすか」
( 凸)「ツン様、この国来てから常になんか食ってません?」
ξ゚ー゚)ξ「私の功績から見れば、正当なる対価だろう?」
( 凸)「安上がりですね」
<_プー゚)フ「ほれ、お譲ちゃんたちも冷めない内に」
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます、すいませんわざわざ」
川#д川「誰がお譲ちゃんじゃ!! この、若造!!」
<_フ;゚ー゚)フ「痛っ、わ、わかったよ、杖で叩くなって」
川д川「こりゃ温かくてよいのぅ、ありがとうじゃよ」
<_プД゚)フ「情緒どうなってんだよ!?」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、ペニサスさんも、どうぞ」
('、`*川「……ええ、どうも…ありがとう」
差し出されたカップを見つめて、受け取るまでに僅かな間があった。
そんな様子に一同なんとも言えない空気になる。
今でこそ落ち着いているが、ペニサスがこの国を訪れた際のこと。
彼女は自らが悪者にしてしまった人たちへ謝罪を、
まるで縋りつくような姿勢のまま、涙とともに繰り返した。
デレは神具が世界を、そして人を狂わせるのだと、
改めて認識すると共に、頭を下げ続けるペニサスを励ました。
それ以来、デレはよくペニサスを誘って町へと出ていた。
ショボンと何とも言えない関係である事は察していたが、当の本人は不在続き、
ほぼ城に呼ばれたまま宿へは戻らず、近頃は専用の部屋まで用意されていると聞く。
ならここは自分が、と。
デレもまた、自分にも何かできることをと模索していたのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「最近、おじいちゃん寝てばかりなんですよね」
川д川「迫る年波には勝てん言う事じゃな」
('、`*川「……」
なんとなく側に居て、時折話しかけては相槌を返す程度のもの、
だが、その日は珍しくペニサスは顔を上げ、周囲を見る。
('、`*川「……あなたたちは……」
ζ(゚ー゚*ζ「え?」
('、`*川「どうして……戦えるの?」
('、`*川「こんな…世界中から敵視されて、状況も不利、なぜそれでも…」
突然の声かけ、それも非常に直接的なものだった。
答えあぐねる者たちの中、しかし即答する声もある。
ξ゚听)ξ「気に入らんからだ」
('、`*川「その為に祖国まで捨てたっていうの?」
ξ゚听)ξ「……む」
('、`*川「ツン、あなたは特にそう……湖鏡でも、あの連合の中でさえ地位があった」
('、`*川「それを捨ててまで、命を賭けるのは何故?」
全員の視線がツンへと向けられる、当人は目を伏せ思案した様子。
誰も言葉にはしていていないが、ツンという人物が居なければこうまで拮抗はできていない。
個人の戦力としても、結果的にだが彼が連れてきた兵達も含め、重大な戦力だ。
それ故、敵対していた筈の側に、こうして当たり前のように居るのか。
デレもまたその返答を固唾を呑んで見守っていた。
ξ--)ξ「………」
ξ゚听)ξ「……ロマネスク王、奴は確かに命を奪うことを否定した」
ξ゚听)ξ「先見の明をもちながら、寛大で人を認める姿は王の理想像とも言える……だが私には違うように見えた」
ξ゚听)ξ「あれは……人を尊んでいる訳じゃない、単に興味がないのだ」
どこで誰がどう生きようと、どこで誰が共食いしようとも、
あるいは自身に逆らった者でさえ、さして関心をもっていない。
ゆえに、ありのままを受け入れる、感情的になることもない。
神を名乗るあの男は、人を、人として見てすらいない。
よくて盤上の駒、あるいは羽すら持たぬ虫がもがく様を見るような。
ξ゚听)ξ「逆に、必要となれば人を、あるいは国すらも消すだろう」
ξ゚听)ξ「我が祖国は……とうにそんな人間の傀儡だ」
ξ゚听)ξ「ならば、真に人として想うならば、するべきは一つだろう、違うか?」
<_プー゚)フ「意外とちゃんと考えてんだなー」
<_プー゚)フ「てっきりここの飯が食いたいだけかと」
ξ;--)ξ「………」
<_プд゚)フ「なんで目をそらすんですかね?!」
('、`;川「………あなたは、強いのね」
ξ--)ξ「…お前とて、本当はそのはずだろう」
ξ゚听)ξ「幾度も剣を交わしてきた、ペニサスという人間は」
ξ゚听)ξ「少なくとも私の知るそいつなら、自分のすべき事に惑うほど弱い奴ではなかった筈だぞ」
('、`*川「私の…」
ξ゚听)ξ「分かっているはずだ、お前にしかできない事があるだろう?」
<_プー゚)フ「そうだぜペニサスの大将、いい加減立ち直ってもらわねぇと」
<_プー゚)フ「……旦那や、先に逝った連中にも、示しってのがねぇだろ」
('、`*川「…そう、ね……その通りだわ」
('ー`*川「………あっちでも、説教されたくはないものね」
<_プー゚)フ「そうだろ? おっさんは押し付けがましいんだから!」
<_プー゚)フ「ってな訳でツンの兄貴、次の戦いの際には俺ら日陽の連中はいったん離れるぜ」
( 凸)「?」
ξ-听)ξ「なんだ、聞いてないのか?」
<_フ;゚ー゚)フ「えっ」
ξ゚听)ξ「次の…おそらく最終戦、私は単独行動を取ることになる」
ξ゚听)ξ「最初からお前達は全員、ペニサスと共に行動してもらうんだぞ」
( 凸)「そういえば、戻ってからだいぶ上の空だったもんなぁ」
( 凸)「カービィ言われても反応しなかったしな」
ξ--)ξ「まあ、気持ちはわからんでもないが」
<_フ;゚ー゚)フ「……はは」
ξ゚听)ξ「そんな事だから腹ぺこキャラを私に奪われるんだぞ」
<_フ;゚Д゚)フ「いや別に……どうあってもカービィ!!」
川д川「そしてワシ等はもちろんシャキン様のためじゃ!!!!!!」
<_プд゚)フ「うわっびっくりした!
唐突だな!」
川д川「エッダの地はシャキン様のおかげで成り立った国、彼の力になることこそワシ等の本望!」
ξ゚听)ξ(さっきも言ってたなこれ)
川д川「大事なことなので」
ξ;゚听)ξ(心を読まれた?!)
ζ(゚、゚*ζ「でも…村長さん、エッダの村は…私たちが来たせいで…」
川д川「なんじゃまだそんな事気にしとるのか?」
ζ(゚、゚*ζ「……許してもらえているのは、わかります」
ζ(゚、゚*ζ「でも……私たちはその恩に、何も返せてない…」
川*д川「そんなこと、むしろシャキン様をお連れしてくれた事こそ最大の――――」
ζ(゚- ゚*ζ「………」
川д川「――-ふむ」
川д川「そうじゃな、確かに、彼はショボン、シャキン様ではないしの」
川д川「余所者がやってきて、そこに追っ手が来て、ワシ等の村は焼かれてしもうた」
川д川「誰も、何も文句が無いと言えば、確かに嘘になろう」
ζ(゚、゚*ζ「……はい」
川д川「じゃがワシ等はな、誰かに伝え聞いた話でも、どこぞの知らん国の声明でもない」
川д川「ワシ等自身が、お主たちと出会い、その人となりに触れてきたんじゃ」
川д川「その結果、ワシ等はおぬしらの力になりたいと思ったんじゃ、ワシ等の意思での」
ζ(゚、゚*ζ「……」
ζ(-、-*ζ(………みんな、すごい、なぁ…)
誰もが、色々な想いを秘めてここに居る。
当然のことなのだが、改めてそれを前にして、デレはなんだか愕然としてしまう。
これまで実際に戦ってきた彼らは、多くの悲しみを見せることなく前を向く。
そんな強さに対してここに居る、だけの自分はなんだろうと。
元々は、自分達が撒いた種であるというのに。
ここまでの事態を引き起こしておいて、何もせずに見守るだけ。
それを嫌だと願っても、力無き身では足を引っ張ることしかできない。
とは言え、この問答は既に何度も繰り返してきた。
しかしその度、様々な言い方はあれど、そのどれもが気にするな、だった。
言われてやがて気付いたのは、果たして自分は、そんな思いにどう応えられるのか。
いや、そもそも応えてきただろうか、と。
川д川「そういうお主こそどうなんじゃ」
ζ(゚、゚*ζ「私は……」
何もできないから、仲間達の影に隠れるように進んできた。
礼節程度に関わりはもてど、それ以上にはしなかった。
だけどもう、それだけじゃ駄目なのだ、恐れてはいけない。
いつだって、だれだって、本当はそうなのだから。
そんな決意を改めて。
ζ(゚、゚*ζ(……)
誰かの後を歩いていた少女はこうして今。
これまでを共にした仲間達を離れ、一人。
ζ(-、-*ζ「……」
ζ(゚ー゚*ζ「私、たちは、次元接続を受け継いできた家系です、もう、ご存知でしょうけど」
ζ(゚ー゚*ζ「神具をこの世界にもたらした、してしまったのは、私たちの祖先」
ζ(゚ー゚*ζ「そんな私たちが今、またあの三人をこの世界に連れ込み、目指したのは」
ζ(゚ー゚*ζ「神具を、この世界から追放すること」
ζ(゚ー゚*ζ「過去に生み出してしまった過ちを正し、世界を正常に戻すこと」
ζ(゚ー゚*ζ「それが、はじまりでした」
ζ(゚、゚*ζ「けど、私には戦う力なんてないし」
ζ(゚、゚*ζ「それどころか……私が死ねば、接続が切れてしまう恐れがある」
ζ(゚、゚*ζ「だから私は、身を隠す事しかできませんでした」
ζ(゚、゚*ζ「だから私には……こんな事態にあっても、命を賭ける皆さんのお力にはなれないと思います」
ζ(゚ー゚*ζ「だけど私は、ここから逃げません、最後まで……心は共にあるつもりです」
ζ(゚ー゚*ζ「そして祈ります、そして願います、みなさんの武運長久を」
自分と向き合い、自らの旅路をつくりはじめた。
そんな第一歩を、また新たな仲間達はそれぞれの受け止め方で頷いていた。
<_プー゚)フ「可愛い子に応援されちゃ、頑張らない訳にはいかないな!」
( 凸)「んだんだ」
川д川「…ワシも戦える訳ではないのじゃが……なんだか立つ瀬ないのう」
<_プー゚)フ「どんまい幼女」
川#д川「キエェーーーーーーーーーィ!!!」
<_フ;゚Д゚)フ「うおおおおおお!!?
先端はマジであぶねぇって!!?」
('、`*川「…デレさん」
ζ(゚ー゚;ζ「はいっ、あ、なんでしょうか?」
('ー`*川「……ありがとう」
ζ(゚ー゚;ζ「えっ、そんな、それは私の方が…っ」
('、`*川「私も……頑張るから、あなたの願いの、その先の為に」
ζ(゚ー゚*ζ「……はい!」
こうして広場の一角はなんだかほっこりした空気に包まれる。
ツンは一人、すこしばかり距離を置いてそんな様子を眺めていた。
そんな彼の元へ駆け寄る姿があった。
「あ、あの…!」
ξ゚听)ξ「ん、お前はヒルトの……どうした?」
「ショボンさん、見ませんでしたか?」
ξ゚听)ξ「いや、今日は会ってないな」
川д川「むむ、シャキン様と言ったかの?」
「いやショボン……あれ、今声がしたと思ったのに…」
川#д川「どこ見とるんじゃ!!」
「いてっ、あ、下か」
ξ゚听)ξ「その彼がどうした?」
「うん? ああ、部屋の方から消えてしまいましてね、探しているのですが…」
川;д川「行方不明じゃと!!!??」
「門番の連中も知らないって言いますし、どこに行ったのか…」
ξ゚听)ξ「腹でも減ったんじゃないのか」
<_プー゚)フ「ブレねえなぁ、ツンの兄貴は」
「ならいいんですけど、もし正門以外から外にでも行ってたら大変ですよ」
ξ゚听)ξ「なんだ? 危ないのか?」
「ええ、ほぼ未開拓地なんで一度奥まで行ったら迷いやすいですし」
「場所によっては崩れやすかったり、クレパスなんかもあるんで」
ξ゚听)ξ「ふむ……だが、そんなところに一人で行くような愚か者とは思えんが」
「そうなんですけど…裏山のほうに誰かが向かっていくのを見かけたって奴もいて」
ξ-听)ξ「やれやれ、仕方ない……お前達、すこし探すのを手伝ってやれ」
( 凸)「了解」
ζ(゚、゚*ζ(何か…あったのかな、周りに黙ってどこかに出かけるほどの用事…?)
ζ(゚ー゚*ζ「もしかして……ドクオ君の手がかりでもあったとか?」
ショボンはどこか一歩引いた態度ながら、友達二人を大切にしている。
だから今回も、その一端なのかもしれないと思いながら、ふとデレは空を見た。
傘の先からは、小降りながらも未だ雪が舞っている。
早く青い空が見たい、そんなことも考えていた。
この先に待ちうける未来のことも、今はまだ知る由も無く。
…………。
誰も、何の跡も存在しない雪道を行く人間が居た。
しかもその道は険しいもので、崩れやすい雪の坂道をくだるもの。
どれほど下ったのだろうか、やがてその内の、前を行く背中が振り返った。
( メωФ)「そろそろいいか」
( ゚∀゚)「……」
(´・ω・`)「……」
そう問われ、二人は周囲を見回す。
ここはヒルトの国を出て、街道を外れた山を一つ下った先。
かつてはここにも集落があったのか、大きく開けたその空間には、
雪の重みでどれもひしゃげた形の民家がいくつか点在している。
(´・ω・`)「誘いに乗ってノコノコとついて来てみれば」
(´・ω・`)「いかにも、誰か隠れてそうな場所ですね」
(;゚∀゚)「……う」
(´・ω・`)「だから罠だって言ったのに」
( メωФ)「心配するな、ここに居るのは間違いなく僕達だけだ」
(;゚∀゚)「ほら、だってよ!」
(´・ω・`)「……はぁ、呆れて何も言えないです」
(´・ω・`)「それで君、お前は、ロマネスクでいいのか?」
二人に相対する傷男は、そうだと頷く。
それは本当に唐突に現れた、雪の落ちるさまに引かれ視線を向けた窓の向こう。
金色の柄をもつ剣を携え、顔に大きな傷のような痕が見える男が、そこに立っていた。
驚愕に言葉を失う二人をよそに、傷男は窓に手をかけ静かに開けると、
( メωФ)(話がある、出られるか?)
そう言って、ここで事を構えるつもりも、街中で関係ない人間を巻き込むつもりもないと、
ただ話をしたいだけだと、二人をここから離れた場所へ来るように要求してきた。
ジョルジュは迷うことなく了承し、ショボンはそれに異を唱え、もとい罵倒した。
罠過ぎる、バカじゃないのかと。
だがそれでも、と、ジョルジュは半ば強引に出発。
仕方が無いとショボンもその後に続き、今に至った。
(´・ω・`)「それじゃ聞かせてもらおうか、話ってのを」
( メωФ)「……」
( メωФ)「無論、一つは降伏勧告だ」
( メωФ)「こちらの準備はほぼ完了しつつある、数日のうちには開戦通告が出されるであろう」
( メωФ)「そうなればまた、無駄な血を流すことになる」
( メωФ)「今素直に降伏するなら、僕の方から王へとりなそう」
(´・ω・`)「断ったら?」
( メωФ)「……理解できないな、何故戦う?
戦力差は明らかな筈だぞ」
(´・ω・`)「言ったら信じるのかい? 僕らは逆賊、非道な管理者たちなんだろ?」
( メωФ)「……」
( ゚∀゚)「神具をこの世界から消し去ること、それが俺たちの理由だよ」
(;´・ω・`)「ちょ…!」
( メωФ)「神具を…? 何のために…」
( ゚∀゚)「平和のためさ、その為にこの世界を狂わせる元凶を絶つ」
( メωФ)「平和だと…刃を向け、それを乱す者たちが、何を言っているんだ」
( メωФ)「それに、なら何故お前達は神具を手にしている」
( メωФ)「まずお前達が手放してから、話し合いでも何でもするべきなんじゃないのか」
( ゚∀゚)「ああ……そうだな、その通りだ」
( ゚∀゚)「……どうして、こうなっちまったんだろうな?」
ジョルジュは、何か言いたそうなショボンを腕と、目で制止して一歩踏み出す、
傷男は警戒しかけるが、両手をあげる仕草を前にすぐにそれを解いた。
( ゚∀゚)「俺たちはあくまで協力を求めるために、話をするために歩き始めた」
( ゚∀゚)「そうやって俺たちの旅は始まったんだよな」
( ゚∀゚)「……色々、あったよな、内藤、特にお前には手を焼かされて」
( メωФ)「………内藤、か」
( メωФ)「ああ、それが、ここに来たもう一つの理由だ」
( メωФ)「ダレだその内藤というのは、何故僕のことをそう呼ぶ?」
( ゚∀゚)「……お前が、俺たちの仲間の、内藤ホライゾンだからだ」
( ゚∀゚)「何も……なんもわかんねぇのか?
欠片も覚えはねぇのか?」
( メωФ)「無い、ただ……そもそも僕には、王と出会うより以前の記憶が無かった」
(;゚∀゚)「なら…!!」
( メωФ)「だが最近、いや、この剣を振るうその度に、思い出せることがある」
( メωФ)「ロマネスク王と、共に戦った記憶だ」
( メωФ)「そして共に、歩いてきた記憶も」
( メωФ)「巨大な敵に、共に立ち向かったこともある」
( メωФ)「あの人が、僕を半身と呼んでくれた意味が、今は少しだけ理解できる」
( メωФ)「だから今は間違いなく言える」
( メωФ)「僕はロマネスクだ、内藤なんていう人間じゃない」
( メωФ)「その誤解も、きちんと解いておきたかったんだ」
( ゚∀゚)「……」
( ∀ )「……………」
( ∀ )「…………本当に……忘れちまったのかよ」
( ゚∀゚)「俺たちが一緒に歩いてきた時間ってのは、この心ってのは…!」
( ゚∀゚)「そんな簡単に消えちまうような、儚いもんだったのか!?」
( メωФ)「……………」
( ゚∀゚)「俺たちが今、ここまで来れたのは、接続やら神具だのっていう力のおかげじゃねぇ!」
( ゚∀゚)「きっと、この心が……想いが、人を、今を結んできた…!
そんな強さがあったからだ!」
( メωФ)「……」
( ∀ )「思い出せよ…思い出してくれよ、俺はもう、あんな思いは…」
脳裏をよぎる遠い日の記憶、ふりしきる雨の中。
横たわる二人の姿、木々の隙間に消えていくあの背中。
あの時、あの背を追いかけることができていたなら、何か変わっていたのだろうか。
そして今、警告された言葉を素直に受け止めていたなら、何か変えられたのだろうか。
( ∀ )(俺が、俺が悪かったのか)
( ∀ )(俺が、お前をそんなにしちまったのか)
結局は後悔、そればかりが胸に重くのしかかる。
ふと傷男の目を見る、迷いの無いまっすぐな意思を感じさせるもの。
これも覚えがある、以前にもたった一人、危険を顧みずに行動したように。
いつも誰かのためにと、自分にできることをと頑張っている。
そんなところだけは変わらない、変わらないまま、変わってしまった。
( ゚∀゚)「……本当に何も、何もわからねぇのかよ、内藤」
( メωФ)「………」
( ゚∀゚)「お前と初めて会った時、この世界に来たあの時」
( ゚∀゚)「お前、接続をコントロールできなくてぶっ倒れたろ?」
( メωФ)「知らないな」
( ゚∀゚)「日陽の国じゃ、お前に振り回されっぱなしだったな」
( ゚∀゚)「行方不明になったと思えば、管理者になっちまってよぉ」
( ゚∀゚)「……そして、あんな事になっちまって」
( ゚∀゚)「でもお前の行動が、結果的には勇気をくれたんだ」
( メωФ)「……何のことだ?」
( ゚∀゚)「ここの闘技場じゃ、はじめてお前とやりあったっけな」
( ゚∀゚)「ま、選んだ武器が間違ってたけどな」
( ゚∀゚)「お前、隠してたけどめっちゃくちゃ凹んでたろ?」
( メωФ)「……お前に、負けた覚えはない」
( ゚∀゚)「そして――――」
( -∀-)「宿で、一緒に風呂覗きをしたよな」
(;メωФ)「………ッ」
(´・ω・`)「…ん?」
( -∀-)「あとちょっとの所で、向こうから来ちまってよ、おっぱいが―――」
(;メωФ)「お……おっぱい…?」
(;´・ω・`)「…んん?」
ここにきて、傷男の様子が変わった。
何処か、痛みを堪えるように苦悶の表情で頭を押さえている。
その姿に、むしろショボンが動揺した、え、そこなの、と―――。
( ゚∀゚)「そうだ、思い出せ内藤、あの夜の緊張と、興奮を……!!」
(;メωФ)「ぐ、う……うっ!!」
( ゚∀゚)「あの瞬間にこそ、俺たちは言葉もなくわかりあえたんじゃねぇか!!」
(;メωФ)「う、あ、あ、ああ……あっ!!」
( ゚∀゚)o彡゜「おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!」
(;メωФ)「っっ、うう……ぐああっっ!!!!!」
(´・ω・`)「なんだこれ」
あまりのアホな光景に、ショボンすらも油断したその時。
傷男を中心として、渦巻くような風が吹き荒れ、二人を大きく後退させた。
次いで、背中をぞわりとさせるような、奇妙な空気が場を包む。
発生源は、風の中心、傷男から発せられている。
(#メωФ)「……いい、加減にしろ」
手には剣が握られている、そして目には、明確な敵意が宿っていた。
(;メωФ)「なんだ、この頭痛は…!」
(#メωФ)「今、僕に何をしようとした…!」
(;゚∀゚)「内藤…お前…」
(#メωФ)「奪われた神具の中には、人を意のままにする物もあると聞く、さては……!」
( ゚∀゚)「確信したぜ……お前はまだ、そこに居るんだな…!」
(#メωФ)「……もう、いい、お前は、邪魔だ…!!」
ジョルジュはパリパリと雷光纏う槌を手に、
傷男は黄金の柄をもつ剣を手に、互いに一度向け合い。
(#゚∀゚)「まだ言いたい事はあるが……まずはお前を連れて帰ってからだ」
(#゚∀゚)「悪いが…今度こそ、ぶん殴ってでもなぁ!!!」
(#メωФ)「こうなったら誓賢だけでも…!!」
(#メωФ)「お前にもう用はない、そこを退け!!」
(#゚∀゚)「行くぞ内藤ぉおおお!!!」
(#メωФ)「邪魔だぁあああ!!!」
同時に駆け出すが、やはり初動には圧倒的な差がある。
しかしここは足を取られる雪上、馬力で勝るジョルジュはどうにかそれに追いつく。
互いが得物をふりかぶる。
手数で不利を承知しているからこそ、ジョルジュはとくに意識を視る事に注いでいた。
反応しろと、咄嗟にでも何でも、とにかく合わせて反応することに集中を。
ゆえに、視てしまった。
視界の隅にその姿を。
こちらへ向けて、手をかざすショボンの姿を。
浮かび上がる剣が、切っ先を向けている。
その意図を一瞬で理解したジョルジュは、咄嗟の行動を取った。
手にした槌を、フレイの切っ先の向かう先へと、放り投げたのだ。
対し、残る二人はとつぜんの行為に驚きながらも、始めた挙動を止められず。
ショボンは傷男へと神具を飛ばし、傷男は眼前のジョルジュへと剣を振り下ろす。
結果。
傷男の剣がジョルジュの身体を大きく切り裂いた。
噴出した鮮血が飛び散る。
返り血を浴びながら、呆然とその光景を見据えていた傷男だったが、
不意に訪れた更なる頭痛に苦しみあえぎ、手にした凶器を雪に埋没させた。
(;゚ωФ)「ア……あがっっ…づ、う、ぅ!!」
_
( -∀-)「―――――がふっ」
そんな傷男へと向かって、今尚、身体を真っ赤に染めながら、赤い足跡を残し歩く。
やがて目の前までたどり着くと、今だ頭を抱える傷男の両肩を掴み、倒れるように抱え込んだ。
(;゚ωメ)「…………え?」
( ゚∀゚)「――――づ、ぅ…………………」
寄りかかってきた姿を、反射的に受け止めてしまった傷男は戸惑いながらその姿を見た。
銀世界に異様なほど映える赤い血を吐き出しながら、苦悶の声を上げながら、
それでも男は、優しく微笑み、小さく、何度か、同じ単語を繰り返す。
傷男は戸惑いながらも、何故かもわからぬまま、
いつしか薄れていく頭痛も忘れ、その言葉に耳を澄ませた。
( ∀ )「ごめん……ごめんな………俺、お前を、守って、やれなかった……」
謝罪だった。
何に対してなのかわからない。
誰に対してなのかも、わからないが、痛みを伴うほど胸を打つ言葉だった。
それも圧のある物ではなく、もっと鋭利な物。
反射的に言葉が出た。
(; ω )「やめ……っ」
死よりも恐ろしい何かが、その先にあるような気がした。
理解してはいけない事が、その先にあるような気がして。
( ゚∀゚)「……しかも、こんな、辛いこと、させちまって……すまねぇ、本当に……すまねぇ…」
( ゚∀゚)「謝るよ、ごめんな…だから、だからさ……なぁ…?」
( ゚∀゚)「帰ってきちゃ、くれねぇか?
内藤…?」
( ゚ω゚)「……―――」
( ゚ω゚)「……―――――――」
( ゚ω゚)「……―――――――――――――ジ」
しばしの茫然自失、そして何かを呟きながら、傷男は膝から崩れ落ちる。
互いを支えあうようにしながら、やがて。
( ゚ω゚)「じょる………じゅ……さん…………?」
内藤 が、その名を口にした。
つづく。
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