- 6ヶ「激動する戦場」
その場所は、雄たけび、あるいは悲鳴が絶え間なく聞こえてきて、
更には地を踏みしめる大量の足音がつらなって、大きな地響きとなる。
だが派手なのは音だけではなく視覚的。
風が石を巻き込み吹きすさべば、大きな砂煙も同時に。
所々に炎が立ち上り、焼けるような熱気と眩しさを放ち。
人々の合間を青白いような線が走れば、叩きつけるような爆音が鳴る。
そしてその度、それらの後には凄惨な爪あとが残された。
並列された戦場はつづく、その争いの激しさに、
草木は薙ぎ倒され、地には消えぬ傷跡が刻まれ、
荒野はまさに文字通りの存在となっていく。
乱戦、誰が誰なのか、それを気にする余裕もなく、相手取りもめまぐるしく変わる、
だがそんな最中、いくつかの戦場では、固り、あるいは隔離された場所があった。
管理者、と呼ばれるものたちの戦いだ。
魔法的な力すら凌駕する彼らの姿は目を引くものではあるものの、
誰もそこへ割り込もうとはしない、近づくものすら存在しない。
それは真っ向からの衝突という、原始的な戦を主とする世界性か、
一騎打ちという形の様式美を守るものか、あるいは、畏怖そのものであるが故。
内の一つ、戦場のほぼ中央に位置する場所でもまた、対峙する姿があった。
しかし動きは無い、片方はうずくまり、もう片方はそれを呆然と眺めるのみ、
(;><)「………」
( 、 ;川「う……ぁ――――っっ」
自身を抱えるようにしながら、ペニサスが膝と頭を地に伏せる。
それをもう一人の男が見下ろす体制だった。
傍目に勝敗は決したように見える。
だが男はそれ以上何もしようとしない、どこか落ち着かない様子で佇むのみ。
周りの者たちもその異様さに近づくことをしない、
特に、そこに至るまでを見ていたら尚のことだった。
ただの一度。
駆けてくる姿に反応したペニサスが、その男に斬りかかった、その一度で、
何が起きたのか、一瞬輝いた光と共に、ペニサスは苦悶の声をあげて崩れ落ちた。
そして今も、男の持つ剣は、陽を受けたダイヤを思わせるような眩い輝きを刀身から放っている。
あれが管理者である事は、一目瞭然だった。
( ><)「……来ましたか」
ふと、男が正面に現れた人物に反応を示す。
宙に漂う剣をつれ、無手で戦場を歩く姿だった。
(´・ω・`)「ペニサス……神具も無いのに、まったく無茶して」
(;><)「あ…ぁ、いや、ちょっと…っ」
何ともなしに歩み寄る姿に、何故か対する男は後ずさる。
まるで脅えているように見える姿に、返ってショボンは困惑した。
(;><)「ま、待って…!
まってほしいんです…! 話を、話を聞いて欲しいんです!」
(;´・ω・`)「何なんだあんたは……とりあえず、よくもと言っておくよ」
(;><)「ちが、彼女は無事なんです、今はその…苦しんでるけど、命に別状は……」
(´・ω・`)「……へぇ、そうは見えないけどねぇ」
ショボンは言って、手を正面の男へと突き出す。
追従するように、浮かんだ剣が切っ先を変え男を向いた。
言うとおり、ペニサスの様子は尋常じゃない。
涙と嗚咽にまみれ、うめき声だったものも悲鳴に近いものになっていく。
(;><)「それは……いやだって、こんなはずは………」
(;><)「……まさか、それほど…?
そこまでの記憶が…?」
(´・ω・`)「時間が惜しいんだ、話は終わりでいいかい?」
言うなり、ショボンの元から剣が飛び立ち。
(;><)「ひっ……って、なん…っ!?」
男の持つ輝く剣へぶつかった。
しかしそれ以上に、男は驚いた様子で自らの剣を見た。
ゴッという鈍い金属音が響き、光を放つかのように見えていた刀身の輝きが、
みるみるうちに色あせて消えていき、純白のものへと変わったからだ。
同時に、苦しみに喘いでいたペニサスが、荒い呼吸そのままに顔を上げた。
(;><)「えっ……?」
(゚、゚;川「はっ…!? はあっ……はあっ……あ、あ…っ」
(´・ω・`)「大丈夫? 僕がわかる?」
(゚、゚;川「ショ…ショボン君………あ、ああ……わたし…」
(゚、゚;川「わたしが……この手で……巫女さま…っ!!」
(´・ω・`)「………そういうことか」
(;><)「神具の……まさかクラウソラスの幻影を、斬った…!?」
(;><)「これが誓賢……やはりフレイの…!
これならば…!」
(´・ω・`)「……人の、忌まわしい記憶を見せる、といったところかい?」
(´・ω・`)「ああ、悪夢とはよく言ったものだね……彼女には、さぞ辛いだろうさ」
(;><)「それは……だって、知らなかったんです、まさかそんな……!」
(´・ω・`)「…いいから、話があるんだろう?
早く言ってみなよ」
(´・ω・`)「くだらない話だったら……覚悟してもらうよ」
( ><)「…………」
怒気を含んだ声色に、しかし先ほどまで脅えた様子だった男は、
ちらりと周辺の様子を伺うように見やると、剣を構えなおし、雰囲気を変え。
( ><)「僕はワカン、ルファウス国の……今は管理者として、このクラウソラスを預かっている」
( ><)「だけど僕は……彼の王、ロマネスクを―――認めていない」
言って。
( ><)「そして……その王が自分の半身だと言った男の事で、話がある」
(´・ω・`)「……つまり何だ、反逆を…スパイでもしてくれるって言うのかい?」
(´・ω・`)「信じるとでも?」
( ><)「信じる必要は無い、ただの事実で、そしてすぐに起こる現実だ」
( ><)「そして……」
( ><)「今のままでは、君たちは負ける―――――」
……………。
ノハ;-听)「ぐっ…」
自らに返ってきた火球を、ヒートは巨大化させた剣で受け止める。
いくつもの衝撃と熱気が襲ってくるが、それ以上に困惑が大きい。
何かしらの力であることは理解できるが、その正体があまりにも掴めない。
ノパ听)「……なら!!」
ジジ、とも。
パリパリ、とも言える音と、雷光のようなエフェクトを纏わせながら、
ヒートは大剣を幾度か振り回しながら背に構えると、ふたたび眼前の敵へと駆ける。
ノパ听)「これなら――――」
(#゚;;-゚)「――――」
振り回した分の重量まで加算された剣の一撃は、
細腕のヒートが繰り出したとは思えない、威力を見せ、地面に大きな亀裂を作る。
どこか鈍重な挙動にはなってしまうため、相手の女には避けられてしまう。
ふと、おかしな動きにも見えたが、しかしこれはまだ予想の範疇。
(#゚;;-゚)「――剣よ」
ノパ听)「―――」
本命は、大降りの攻撃による大きな隙。
ノパ听)「――――どうだっ!!!」
を、狙って、迂闊に踏み込んできた相手を狙った、
重量反動による硬直を無視した、返しの剣。
でぃ、と呼ばれた女は、突きの姿勢ですでに踏み込んできている。
今度は避けられない、そう考えるヒートだったが、
すでに彼女の耳には、囁くような声が聞こえていた。
(#゚;;-゚)「すり抜けよ」
それが、違う確信を感じさせ、寸でのところでヒートは、
剣の重量操作を解き、発生した自身を引っ張る力に身を任せ、
柄と共に弾き飛ばされるように横へ飛んだ。
そして、今しがたヒートの立っていた場所を、でぃが通り抜ける。
ノハ;゚听)(……やはり)
離れた場所に着地しながら、ヒートは相手を見る。
剣線はずれたとは言え、薙ぎ払った一撃、まっすぐに来たなら触れているはずだ、
しかしでぃの姿にそんな様子は無い、理解できないが、当たっていないのだ。
それどころか、自分の胸元、着ている衣服が切り裂かれ、
柔肌と下着が覗いていることに気付き、ヒートは戦慄を覚えた。
もう少し、僅かにでも判断が遅れていたなら、あの剣がこの胸を貫いていたのだから。
(#゚;;-゚)「……」
(#゚;;-゚)「……届いたと、思ったのに……」
ノパー゚)「あら、無感情な方かと思ったのだけれど……意外と情熱的?」
(#゚;;-゚)「賞賛、今のは素晴らしい判断、逃げなきゃ死んでた」
ノパー゚)「そのようね……やはり、急所には防具が必要かしら」
(#゚;;-゚)「やはり、貴女があのヒルトの管理者、紅牙……」
(#゚;;-゚)「あの御方の、仰る通り」
ノパー゚)「……何を?」
言って、と返すより先にでぃが仕掛けた。
(#゚;;-゚)「あなたを、捕らえる」
ノパ听)「…っ」
向かい来るでぃに、ヒートはいくつかの思考をめぐらせながら迎え撃つ。
身体強化の剣を発動させつつ、その剣戟を受けながら見る。
身のこなしと、剣技は優れたものではあるが、異常ではない。
だが時折、先にも見せた飛翔とも呼べる跳躍や、必中の状況での攻撃を避けた事。
更には先ほどの、炎の石つぶてを返した手段、そのどれもが不可思議。
風は起きていなかった、火を操った様子もなかった、
そもそも火を操っただけならば、石つぶては返せない。
そうなると、遠距離からの攻撃は通用しないばかりか、すべて返される恐れがある。
ならば近づく、しかしあの重力を感じさせないような動き、どういった手段ならば捕らえられるのか。
しかし答えは、今している行為の中にあった。
(#゚;;-゚)「動きを―――」
ノパ听)「させない……っ!! 風よ!!」
でぃがまた、何かを口にしようとする。
だが、それをさせじとヒートが剣を魔法剣へと変え、突風を叩きつけて言葉を封じた。
そう、どういった原理か知らないが、でぃは先ほどから何かを囁いている。
そして、その内容こそがおよそ、ヒートの狙いを防ぐものであった、
つまり。
ノパ听)(ならば……!)
ヒートは再び、炎を纏った剣を地面につき立てながら振りぬく。
爆発めいた音、そして火の石つぶてが飛翔する。
(#゚;;-゚)「撥ね返れ飛礫」
剣を突き出しでぃが言う、するとその通り、火球は急カーブを描いて返っていく。
しかし今度は確信を得た、ヒートはお構い無しに突貫する。
ノパ听)「白刃轟剣…!」
火球が降りかかるが、しかし身に纏った風が、まるで障壁のように逸らしていく。
でぃは掲げた剣をすぐに握りなおし、駆けてくる姿を迎撃する。
ノパ听)「バサルト…!!」
(#゚;;-゚)「…っ、と…止ま…っ」
しかし風を連れた姿は用意には止まらず、押し出されるように交代、しばし突風に目を細め、
すぐに眼前を見るがすでにそこにヒートの姿はなく、代わりに地に落ちた影を見る。
(;#゚;;-゚)(上…っ)
ノパ听)「バスタァアアアアアアアア!!!!!!!!!」
未だ風を纏ったまま、巨大化させた剣で棒高跳びのように跳躍、更に回転しながら、
そのまま直下、でぃに向かって暴風纏う大剣を打ち下ろした。
大量の砂煙が地響きとともに巻き上がるが、それをも突風が吹き飛ばしてしまう。
ノパ听)「あなたの…きっとその、神具、その力は…」
ノパ听)「口にした言葉、その内容を現実に反映させるもの……!」
ノパ听)「なら、簡単だ、喋らせなければいいだけの事…!」
ヒートは、衝撃に吹き飛ばされ、地を転がるでぃの姿を見ながら、
しかし大したダメージは与えていないと確信を得つつ、その後を追う。
そして、それが事実である事を、近づくなり身に纏った風がかき消された事で知る。
(#゚;;-゚)「吹き止め………同じ手は、きかない」
ノパー゚)「ええ、そのつもりよ」
(#゚;;-゚)「しかし…紅牙……聞きしに勝るバーサーカーぶり」
ノハ;゚ー゚)「それは褒められてるのかしら…」
(#゚;;-゚)「やはり、あなたは捕らえるべき価値がある」
ノパー゚)「できるのかしら? あなたに?」
(#゚;;-゚)「可能」
言うなり、ヒートは背後に気配、というにはあまりにも明確な足音、
そして大きく倒れこむような音を聞いた。
ノハ;゚听)「……っ!?」
(#゚;;-゚)「手段を、選ばなければ」
…………。
虹がたつ戦場があった。
(メ._,)「咎人よ、我が極光の前に、己が罪を省みよ!!」
ξ゚听)ξ「まったくよく喋る…!」
剣戟が繰り出されるたびに、その後をなぞるように、虹の輝きが浮かび上がる。
そして虹はゆっくりと消えるまで、質量を持ってその場に残り続けた。
それが何を意味するかは、ツンがマント男に向けて放った飛刃が虹に阻まれ、
パリンと小気味良い音を立てて砕ける事で教えていた。
激しい攻撃を繰り出せばそのたび、マント男を守る虹の壁が強固なものとなり、
しかし手をこまねいて距離を取れば、瞬きの間に伸縮する剣が狙ってくる。
攻防一体、まさに文字通りの力だった。
ξ゚听)ξ(……厄介な)
分かっていた事で、仕方のない事で、自分も認めていた事とは言え、
管理者の相手をするというのは、やはり骨が折れる。
ξ゚听)ξ(さてはて、どうしたものか……)
(メ._,)「……愉快よな」
ξ゚听)ξ「ん?」
と、マント男がふと手を止め、若干落ち着いたトーンでそう言った。
構えは解かぬまま、しかし両者共に動きを止める。
(メ._,)「生命を奪い合う中で、我らは今のみ、互いを高めあう同志」
(メ._,)「貴様もそうだろう月鏡?
この瞬間に、喜びを得ている筈だ」
虹の向こうで、マント男はそう言った。
ツンは苦笑し、肩をすくめる。
同意を示したようにも見える行為だったが、やがて笑みは嘲笑に変わり。
ξ゚听)ξ「そうやって引きこもっているだけの臆病者が何を言っている?」
ξ゚听)ξ「口じゃなく手を動かせ手を」
(メ._,)「……ふっ」
(メ._,)「安い挑発だな、そうやって今も私を殺す算段でも立てているのだろう」
(メ._,)「だが無駄だ、どう足掻こうとも……何の理由も無く、私が貴様の相手を受けたとでも?」
ここに来て、マント男は非常に冷静な声色で、
自分が最初からツンを標的にしていたと語る。
確かに、互いの神具の能力を見れば、ツンは事実上、その能力を封じられたと言っても過言ではない。
それが、互いの全てであるならば。
ξ゚听)ξ「……」
(メ._,)「無駄と言っている」
マント男の背後、いつの間にか刃が現れ、その背中めがけて刃を向けるが、
剣線と共に現れた虹の輝きに、またしても防がれてしまう。
(メ._,)「うまく隠しているつもりだろうが……その刃、切っ先で操っているだろう?」
ξ゚听)ξ「……………………」
(メ._,)「所作含め、分かりやすい挙動だ、他の者がどうかは知らんが、私には通じぬよ」
ξ゚听)ξ「……」
(メ._,)「理解したならいい加減……手の内を見せたらどうだ?」
ξ゚听)ξ「……何だと?」
(メ._,)「その神具、その真価はよもや愚直に刃を飛ばすだけではあるまい?」
ξ゚听)ξ「いや、その通りだが」
(メ._,)「………」
ξ゚听)ξ「………」
(メ._,)「謀るか、貴様ほどの人間が、よもや神具の能力を磨くことなく戦いに赴いたと?」
ξ゚听)ξ「だったら何だ、バカにするなとでも言いたいのか?」
(メ._,)「馬鹿げていると言うのだ、なら、貴様のその余裕はなんだ」
(メ._,)「この圧倒的不利を前にして、何を平然としている!!」
ξ゚听)ξ「ああ、何だお前―――」
先ほどからの攻防、起きている事象が現実離れこそしているものの、どこか静けさがあった。
それは近接戦が行われない事以上に、攻防そのものがはっきりし過ぎている事が原因だ。
まるでターン制のバトルのように、どちらかが受け、どちらかが攻めるの繰り返し。
様子見である事は明白だったが、しかしどちらが不利かは見てとれる、
にも関わらず静けさが保たれたままである理由は。
ξ゚ー゚)ξ「怖いのか?」
瞬間、ツンの眼前に剣先が現れた。
寸でのところで身をかわすが、長めの髪が宙を舞う。
更に、伸びた剣をなぞる様に虹の輝きが螺旋をえがきながら追従し、
とっさに発生させた板状の刃がそれを受け止め、いくつかの割れ音を生んだ。
ξ゚听)ξ「何だ図星か、弱い犬ほど何とやらは本当だな」
(メ._,)「軽口を……いや」
煽り言葉に、しかし熱くなった様子もなく、マント男はしばし考えるような素振りを見せた。
(メ._,)「………どうにも、解せん、貴様本当にあの月鏡か?」
ξ゚听)ξ「何だ今度は人格批判か、いい加減にしろ」
(メ._,)「彼の王の御前で見かけた貴様は、もっと高潔だった、底知れぬ覇気を持っていた」
(メ._,)「そして武勇智謀にて湖鏡という国を纏め上げた稀代の天才と謳われ、
ついには王より直接神具を賜るという栄誉を得るに値する者と誰もが認めていた…」
ξ;゚听)ξ「お…おう…」
(メ._,)「それが何だ、その軽く薄っぺらい態度は…!
何が貴様をそうまで堕落させた!!」
ξ゚听)ξ「堕落ね……まあ、気負い無い、という面がある事は否定しないさ」
(メ._,)「…………」
<_プー゚)フ「オイオイオイ、メンヘラストーカーの次は何だよ!?
何ていうんだアレ!!」
( 凸)「属性過多でもうわかんねぇなこれ」
_、_
( ,_ノ` )「モテるねぇ大将は」
と、そんなツンの背後を守るかのように、しかし遠巻きに陣取る連中が、
さも面白いネタを見つけたと言わんばかりに、ワラワラと寄ってきた。
ξ゚听)ξ「やかましいぞガヤ共、ていうかこっち来るな」
_,
ξ゚听)ξ「あとカービィまだ生きてんのか」
<_フ;゚ー゚)フ「言い方ァ!!」
と、そんな様子を眺めていたマント男が、ふと言葉を漏らした。
笑みを微かに浮かべ、そうか、と一人納得するかのよう。
そしてツンは、自分の横を通り過ぎた刀身と、後を追う虹の光を見た。
反応できなかった訳ではない、見えていた、ただ自分に向かっていないから反応しなかった。
ξ;゚听)ξ「っ!!!」
それがどういう行為か、察するのは早かった。
故に焦燥と、後悔の入り混じった思いのままツンは振り返り見た。
<_プー゚)フ「痛っ――――」
(;凸)「―――ぁ」
見えたのは、倒れこむエクストの姿と。
_、_
( ,_ノ` )「…………」
そのエクストを突き飛ばし、迫る剣をその身に受け、串刺しとなった渋沢の姿だった。
遅れて虹の光が到達し、胸に大穴を空け、腕が千切れ、大量の血が宙を舞う。
<_プー゚)フ「は? だ……旦那…? なに、やって………」
引き抜かれた反動で、渋沢の身体が引きづられ、前のめりに倒れこむ。
すぐさま赤が広がっていく、血溜まりに沈むその姿は、ピクリともしない。
声すら、あげる間もなかった。
<_フ;゚ー゚)フ「何やってんだよ!?
おま、何、俺を庇ったりして、頼んでねぇぞオイ!!」
声をかけても、既に反応は無い。
<_フ;゚ー゚)フ「ば、ばっかやろ……っ……死ぬのは、死ぬのは俺だって…言ってたろ!!」
(;凸)「エクスト、早く立て!!
なんかやべぇぞ!!」
( 凸)「他の連中も来るぞ!」
(メ._,)「次」
そして再び、もう一度エクストへ向けて剣先が伸びていく。
やけにゆっくりと感じられた剣は、今度は別の剣戟によって叩き落され地に突き刺さる。
ξ゚听)ξ「………貴様、何をしている」
打ち落とした剣に足をかけつつ、ツンは瞳に影を落としながら言った。
背後では、一人倒された事もあってか再び争う音が響く、しかし今度は振り返らない。
その表情に、マント男はにぃと笑いかける。
(メ._,)「そこな雑多な者共だろう、お前をそうさせたのは」
ξ゚听)ξ「………自分が有利なんじゃなかったのか、人を怒らせて何がしたい?」
(メ._,)「怒りを示すのであれば、証明されたようで何よりだ」
(メ._,)「そして、そこな愚物共の影響で狂ったというのなら、私が正そう」
ξ゚听)ξ「狂っているのは貴様の方だ、唐突に対する意識も無い人間を手にかける等、ただの快楽殺人者だ」
ξ゚听)ξ「管理者を名乗っておきながら、恥を知れ」
(メ._,)「くく、ふはははっ、だが良い眼だ、その身に纏う威圧感、それこそあの日の貴様よ」
(メ._,)「だが、まだ不足だな、手下を一人殺された程度で憤りを隠せないとは、将にあるまじき姿」
(メ._,)「戦場の道理すら失くしたと見える」
ξ゚听)ξ「……」
剣先をマント男へ向け、今にも斬りかからんばかりの殺気を放つツンだったが、
そんな言葉に呼吸を一つ、姿勢を崩し、剣先を下げた。
訝しげにその様子を見るマント男だったが、ツンはむしろ笑みを浮かべ。
ξ゚ー゚)ξ「いや、いいや……アレは、手下なんかじゃないさ」
思う。
改めて考えれば不可思議な縁だった。
元より連中の存在は知っていた。
対戦国の中にある、尖兵とも取れる特殊な兵達。
戦場で見かけたこともあったかもしれない。
どちらにせよ、敵だ。
向こうからしても、敵だった。
気を許す関係になどなる筈も無い間柄。
しかしいつの間にか、気付けばツンの周りに当然のように居た。
協力関係を申し出たのは自分だったが、信用されるとまで考えていた訳では無い。
ただ、祖国、湖鏡にて貧民として生まれ、泥をすすり実力だけで成り上がった自分は、
あの国の将でいる間は、常に気を張り続け、相応しい自分でいなければならなかった。
しかしそれを失くし、上からでも下からでも無く自分に接する、その連中と過ごす時間は、
何を背負うでもなく自分の意思で生きられる日々は、どうやらとても。
ツン本人が自覚する以上に、とても、楽しかったのだ。
だからどんな状況でも、その態度は余裕にも見えた。
実際、心には常に余裕があった、生き死には当然として、
あとはどうするのか、それだけを考えるのは、当たり前の事だったから。
だからそう、そんな感情を抱く相手に対する関係は。
それを言葉にするならば。
ξ゚ー゚)ξ「あれは……"友"だ」
(メ._,)「―――――これ以上」
ξ゚听)ξ「そしてそんな友が死んだ、殺された、最低の気分だ」
(メ._,)「失望させてくれるな」
マント男は引き戻した剣を幾度か振るい、切っ先をツンへと向ける。
虹の光が男の周囲に浮かび上がり、またしても要塞のように守りを固める。
何らかの攻撃をしてくると、その対応だったのだが、しかしツンは動かない。
代わりに言葉が続いた。
これまでと違い、饒舌な姿にマント男は戸惑った。
威圧するでもなく、怒りを見せるでもなく、ただの語り掛けに。
ξ゚听)ξ「私はな、こう見えて、とても優しいんだ」
(メ._,)「……何を言っている?」
ξ゚听)ξ「戦う意思の無い人間を傷つける気もない」
ξ゚听)ξ「余程の事でも無ければ、命乞いも聞こう」
ξ゚听)ξ「お遊びで命を弄ぶ奴は許せないし、弱い者に手を差し出す事もある」
ξ゚听)ξ「そして……敵だからと、相手をいたぶる趣味も無い」
一陣の風が吹いた。
そよ風と呼べる。
まだ柔らかなものだった。
(メ._,)「だから何――」
ξ゚听)ξ「だから――――先に謝っておく」
ぴし、と小さな割れ音がどこかでした。
ξ゚听)ξ「悪いが楽には殺してやれん、苦しめて――――」
(メ._,)「……貴様!」
ξ゚听)ξ「―――悪かったな」
ツンの態度の違和感の正体を、マント男はようやく気がついた。
戦意も、怒りも感じないのは当然だ、既にこの戦いは、彼の中で終わっているのだと。
(メ._,)「何を勝った気でいる…!!」
切っ先をツンに向けたまま、円を描くように振るう、
虹がいくつも浮かび上がっては、剣に螺旋状の模様を描く。
一筋の虹の輝きでも、たやすく人を殺傷する威力だ。
これを開放すれば、広範囲にわたって光が暴れることになる、
少し避けただけでは、逃げられない。
ξ゚听)ξ「でも仕方ないだろ?」
ξ゚听)ξ「それが戦場の道理、お前もそう言ったじゃないか」
(メ._,)「おのれ…!!」
次いで、解放された虹光を纏う刃が伸びゆきツンの身体を貫いた。
同時に、その姿に亀裂が走り、音を立てて砕け散る。
映していた刃の破片が風に舞い、マント男は何事かと目を見開く。
自らのマントが、風になびいていたのを自覚したのはその後だった。
やがて男は視界いっぱいに広がる透明な煌きを見る。
その正体は、神具がその形を保てなくなるほどに生成された、細く、薄い無数の刃。
それが、空気に煽られ、回りだす。
ξ゚听)ξ「風刃―――」
(メ._,)「貴様…風使いだったのか……!?」
言うより先に、風が吹く。
それも強風、暴風とも呼べるほどの勢いをもった空気の圧力が、
虹の隙間を通り抜け、打ち付けるように男の身体を叩いた、薄い刃を乗せたまま。
結果、まず剣を握る指が数本、切り刻まれた。
次いで手の甲に、下手な盛り付けをしたお刺身のような不恰好な跡が生まれ、
血風を巻き上げながら腕を、それも皮膚だけを刻みながら上昇、
瞼に焼かれたような痛み、すぐに男の視界は暗闇に包まれ、
そのまま全身が同じように、うすく、しかし何度も、何度も、何度も、何度も、
暴れる風に乗った刃が切り斬り切り、いつしか血を纏った赤い刃が竜巻となって男を包み。
その間、ずっと絶叫が響いていた。
戦場に酔う周囲の人間をも一時止めるほどの、あまりにも悲痛な声だった。
やがて虹の輝きもとうに消え、赤い竜巻だけが残ると、
ツンは広げた手を男にむけ、強く、握りこんだ。
ξ゚听)ξ「――風縛刹…!」
そして血風と刃が、中心へと収束。
びしゃとぶちまけられた音がして。
残されたのは、最早原型もわからなくなった真っ赤な人型。
しかし何より恐ろしいのは、ずたずたの姿になって尚、震えと痙攣があり、
男はまだ息を、かろうじてではあるが、していた。
ツンはその惨状の元へと歩み寄ると、男の持っていた神具を拾い上げ。
ξ゚听)ξ「……すぐ楽にしてやる」
謝罪を口にしながら、振るい、男の首らしき箇所を切り落とした。
そして強めの接続を使用した反動に、眩暈を感じながら、凄惨な姿を見る。
ξ゚听)ξ「ああ―――」
「だから、これは使いたくなかったんだ」
眩暈と吐き気も未だ消えない、接続疲労は予想以上だった。
しかし、と。
そういえば今のよりも強い風を、広範囲で起こせる人間が居たな、と思う。
しかも直後にまだ動けるほどの容量だ、やはりあれも化物かと、思い浮かべるが、
未だ現れず、しかし彼の剣が別の誰かに渡った様子もない、生死不明の存在。
ξ゚听)ξ(……あれを信じるなら)
ペニサスが合流した際、彼女はある二人の生存を皆に伝えた。
一人はドクオ、深手を負ったためにある筋の人物に預けられているという。
だが迎えを出そうにも、どこに隠れ潜んだのかはわかっておらず、破壊の剣共に所在不明なまま。
しかし、破砕の管理者が共に居るという事で、ならひとまずは大丈夫という結論に達した。
もう一人は太陽の管理者、こちらに至っては無事なのかも定かではなく、
ただ、おそらくはロマネスクに敗れ、そのまま捕らえられている、と。
生かしておく理由も無い筈だが、ロマネスクは読めない人間だ。
現に一度、ツン自身も彼の王に逆らった事がある、しかし咎められる事なく、
神具すら与えたままで、ツンには自由にしていいと令を出した。
ならばそれも、ありえるのだろう。
問題はどうするのか、これについてはショボンが放っておく事を宣言している。
人質にでもされれば厄介だが、この情報の無さからその気はなく、
そしてルファウスという国が潔白の、正義を語っている事からも無いだろうと判断から。
ξ゚听)ξ(しかし随分と……覚悟の決まった事だ)
<_プー゚)フ「……大将、大丈夫かい?」
ξ゚听)ξ「む……」
(;凸)「おえ、こりゃ酷い……」
<_プー゚)フ「旦那の仇とはいえ…やりすぎじゃ」
ξ゚听)ξ「戦況は? どうなっている?」
( 凸)「それがどうも変でして」
ξ゚听)ξ「なんだ、はやく言え」
<_プー゚)フ「連中、なんか妙に綺麗なんだよ」
ξ゚听)ξ「は?」
( 凸)「ヒルトの連中、やはり各々の戦闘力と言いますか、そういった部分は圧倒してます」
ξ゚听)ξ「…向こうは、徴兵された人間も多かろうからな」
( 凸)「ええ、ただ、それに対抗するためなのか、複数人で構成した部隊が出来始めてます」
( 凸)「最初は国で分かれてるだけとも思ったんですがね、どうも違うようで…」
<_プー゚)フ「まあそのせいで攻めあぐねてるみたいな」
ξ゚听)ξ「陣形……もしやショボンの奴が言っていたような物か」
隊列を組み、人の行動を一貫させる事で士気を保ち、
個人でなく戦局に対して優位に立てるよう行動させる。
剣などの戦いでの定石だと、戦争等とは一見無縁そうにも見える人間が語った。
しかしこの世界では、接続という魔法の力により長距離および広範囲攻撃が可能であること、
防具等で防ぐことができる威力では無いことから、密集体系での戦いは元より選択肢に存在しなかった。
ツンは周囲を見渡しながら思考する。
管理者の相手を管理者が行う、これは想定どおりの行動だ、
しかし考えてみれば、相手側こそが、それを行ってきたようにも思える。
そも数で勝る状況で、なぜそうする必要があったのか、
数で劣るからこそ、こちらがそうする必要があったというのに、
ならばその狙いとは何なのか。
ξ゚听)ξ(………足止め、時間稼ぎ?…いや)
そして今の状況、ツンの方へと向かってくる者こそ居ないが、
辺りを埋めていくように散開している、これは。
ξ゚听)ξ「……分断されている」
<_プー゚)フ「んん?」
ξ゚听)ξ「おい、他の…ヒルトの女王と取り巻きはどこだ?」
(;凸)「え、ああ、確かあっちの方に」
ξ゚听)ξ「すぐに捜せ…!」
<_フ;゚ー゚)フ「そういや見ねぇな……おいおい、まさか…」
( 凸)「いや、そんな心配しなくても大丈夫じゃね?」
( 凸)「ああ、あれは謙遜してるけど相当な力の管理者でしょう」
( 凸)「んだんだ、簡単に遅れを取るようには」
ξ゚听)ξ「今の状況がわからんのか!
連中は、こちらを皆殺しにするつもりは無いんだぞ!」
未だ攻め込まれること無く、密集している自分達の姿を指してツンは言った。
今や世界の反逆者となった自分達は、戦争となれば当然、どちらかが滅びるまで。
そう思われた、しかしそれが盲点だった。
連中の狙いは、管理者そのものではなく、以前の戦いでツン達も行おうとした最短の手段。
要するに、組織の中枢となる存在を討つこと、そしてこの場合、頭となるのは、
失えば替えが効かない、一気に全てが崩れかねないほどの重要な存在となるのは、
これまで管理者を数人仕留めてきた英雄か、賢者と評されロマネスクすら特別視する誓賢か。
当然この場合、一人しか居ない。
<_フ;゚ー゚)フ「狙いは……女王ヒートだけか!」
例え敵であっても虐殺は望まない王の下、正義の戦い。
それがこの、連携と、それを支えるだけの士気を作る要因だった。
………………。
-
仮面をつけたグループが、互いに背を任せあうようにして、
しかし苦戦する様子もなく次々に襲い来る相手を斬り伏せていく。
だが、数が多い、休む間もなくそれは続き。
( - -)「次から次だなぁ…!」
(;<::V::>)「シュ……国王、ヒート様が…!」
( - -)「わかってるよ、しかしこれは…」
人の数が、この周辺だけ妙に多い。
明らかに集まってきている。
それにどこか違和感がある、正面からの戦いを主としていた筈の戦場が、
入り乱れているようで、どこか纏まっているように感じた。
具体的には、円。
広がる戦場の中に、いくつものグループができつつあった。
管理者を避ける為とも思えたが、しかしはっきりとした意思を感じる。
今もそう、まるでヒートの方へ合流することを阻むかのように。
( - -)(……あれ、やばくね)
そして状況は最悪な物となった事を知る。
いつの間にか、ヒートの近くへもう一人、大男が立っていた。
片腕には先端が勾玉のような形状をした大槌。
そして反対には何か、毛むくじゃらの大きな塊。
彼女の背後をとった大男は、担いでいた毛むくじゃらの何かを放り投げる。
( ゚∋゚)「……」
(;・(エ)・)「ぐっ……!」
ノハ;゚听)「…っ!」
人影に振り返った先には、大男に投げ捨てられ、横たわる熊の姿。
それはまるで、狩の獲物であるかのような絵面だった。
毛皮に包まれているため分かり辛いが、あちらこちらに血が滲んでいる。
ヒートは戦慄を覚えた。
そこらの剣では傷もつけられない分厚い皮膚と毛皮を持ち、
崖から落ちても平然と登り、多少の傷はむしろ野生の怒りを買う。
そんな彼をああまで痛めつけ、行動不能に追い込むなど可能なのか。
少なくともあの魔獣が圧倒されたのは、ただの一度しか見たことがなかった、
ともすれば、あの大男はそれほどの強さを持つということ。
あの鬼―――オーガに並ぶ。
しかし今はそれよりも、その行動こそが問題だった。
何故、その敗北を喫した存在を、今こうして突き出されたのか、と。
ノパ听)「なんの真似だ、よもや…人質などと言うまいな?」
(#゚;;-゚)「見捨てるの?」
ノハ#゚听)「ふざけるな…! 彼も獣である前に一人の戦士、生き恥など晒すものか!」
未熟な身なれど、そんな者たちを束ねる立場にある。
ヒートにとっても誇りにすべき事、ゆえにそれは彼にも、彼女にも侮辱に他ならない。
(;・(エ)・)「……っ、ま…て………」
(#゚;;-゚)「………」
ノハ#゚听)「私を捕らえるとか言ったな、なら無駄な事はやめてさっさと来るがいい!」
ノハ#゚听)「二人がかりだろうと、私は負けん…!」
ヒートは激情そのままに、自分を囲う二人を交互に見やり剣を構える。
しかし二人は未だ立ち尽くしたまま、しかし大男の方は手にした身の丈ほどの柄を握り、
巨槌をゴルフスイングの要領で振るう、狙いは正面の熊だった。
鈍い音と、同時に地震めいた振動が起こり、熊の身体が飛ぶ。
そして苦悶の声をあげながら、数度跳ねるようにヒートの近くへ転がった。
ヒートはそれを見据えると、音がするほど歯を噛み締め。
剣を肥大化させつつ地を蹴った、行く先は未だ振りぬいた姿勢のままの大男。
ノハ#゚听)「貴様……ッ!!!!」
( ゚∋゚)「………ふ」
対する大男は、向かい来る姿を見るなり小さく笑みを浮かべた。
そしてヒートは自分を覆い隠さんばかりの影が背に迫っている事を知る。
影の正体は、先ほど地に伏せたと思われた熊だった。
毛並みは乱れ、爪は折れ、口からは涎を垂らしながらも、
まるで子を守る獣の如き姿で、立ち上がるなりヒートの背を護るように後を追った。
(;・(エ)・)「ぬ、おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
ノハ;゚听)「クマちゃん…!? 何を!?」
(;・(エ)・)「止まれ、罠だ!!」
そんな姿に、迎え撃つ姿勢だった大男が前に出る。
背後の存在を気にしながらも、ヒートはすぐに前方へ意識を戻す。
巨漢に、大きなハンマー、見た目だけでもかなりの圧だ。
対するは細身の、華奢な女性の姿、しかし手にした剣は巨大。
互いがほぼ同時にふりかぶり、放つのもまた、同時。
裂帛の気迫と。
ノハ#゚听)「ハァアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
物言わぬ威圧感。
( ゚∋゚)「――――!」
しかしその衝突は、意外にも。
否、異常なまでに、一瞬の静寂を生み出した。
え?という疑問符は誰のものだったか。
放たれた巨大剣と巨槌は、両者の間で触れることなく、停止していた。
それも無音、風切る音を最後に、衝撃も何もなく。
続けて大男が口にしたものこそ、その結果を作る神具の名。
( ゚∋゚)「弾き返せ――――アイヤムル」
ノハ;゚听)「………!」
停止していた大剣が、そんな言葉と共に弾かれ、ヒートは身体ごと引きづられ体勢を崩す。
そんな彼女を熊が受け止めるなり、押し倒すように地面へと突き飛ばした。
衝撃に息を詰まらせるヒートの頭上で、熊が仁王立つ。
続けざまに声と、もう一つ小柄な影が動いた。
(;・(エ)・)「まだだ、もう一人…居る!!」
ノハ;-听)「く、熊ちゃん…もう、一人!?」
|/゚U゚|丿+激しく登場+
熊の背後には、いつからそこに居たのか、顔までを布で覆い隠した、
いわゆる忍者装束の人間が、手にした棒状の物体を振りかぶり、
ゴルフスイングのような軌道で、熊の脇腹を打つ。
|/゚U゚|丿+追放せよ、ヤグルシュ+
ノハ;゚ -゚)「…っっ!!!?」
音は、そう響くものではなかった。むしろ軽いとも言えた。
棒も先端にこそ勾玉の装飾がされているが、殺傷力があるようには見えない。
熊の大きさと比べてどちらも小さい存在だ、ダメージがあるとは思えない光景。
しかしそんな考えが浮かぶよりも先に、発生した事象にヒートは驚愕に固まった。
それはとても軽く、吊るした衣服が風に吹かれるようにして、熊の身体が浮き上がり、
数百キロはあろうかと言う巨漢が、打たれた慣性そのままに正面へと飛んでいく。
その先には、あの大男。
向かってくる熊に向け、もう一度ハンマーを振りかぶると、今度はまっすぐに、熊へと打ち下ろす。
衝撃に熊の身体がのけぞるが、しかしその先端にはやはり触れることないまま、
まるで見えない何かに押されるようにして、地面へと叩きつけられた。
が、と苦悶の声が上がるが、更に一瞬遅れて衝撃が、音と共に地面を砕いた。
(; (エ) )「が、あ、、ああああああああああああああああああああああああああ」
硬い地面に半身がめり込み、その周囲には圧の威力を示すようにクレーターが広がった。
血が、幾度かいたるところから噴出し、身体を埋める溝へと溜まっていく。
それでも槌を押し付けたままの大男だったが、自身の横に赤い影が走るのを見た。
ノハ#゚听)「図に乗るな!!!」
( ゚∋゚)「…!」
しかし、そこへ更に追撃する姿があった。
(#゚;;-゚)「させない」
ノハ#゚听)「こちらの台詞…!」
だがヒートはこの行動を読み、紫電の光を放つ剣を振るっていた。
帯電状態の剣は、触れた瞬間に相手の腕を焦がすだろう、
とっさの事ならば口にする暇も与えない、そのため神具は魔法剣状態にしていた。
(;#゚;;-゚)「ッッ!!!!」
衝突は一瞬、互いの剣が弾かれるや否や、
ヂヂッ、と弾けるような音がして、でぃの動きがピタリと止まる。
ヒートは剣を弾かれながらも、勢いそのままに女を蹴り飛ばす。
女の身体が大男にぶつかって、男はその身体を支えるように片手で受け止める、
でぃは口をパクパクさせているが、軽い痺れで声が出ていない。
この瞬間を勝機と見る、ヒートは剣を再び巨大化させようと思い、
しかしハッと周囲へと意識を向け、神具を大剣、魔法剣に次ぐもう一つの姿へと変えた。
|/゚U゚|丿+激しく隙在り+
ノパ听)「―――そんなものは無い、バルムンク…強化全開放!!」
ヒートの更に背後へ回り込んでいた忍者が、手にした棍棒を振るう、
しかし一度体勢を沈み込ませたように見えたヒートの姿が、その場から消えた。
忍者の攻撃は、と音を立てて空を切るだけに終わる。
|/;゚U゚|丿(……速い!?)
ノパ听)(あれに触れるのは駄目そうね)
横目に思いながら、眼前の二人を追い越し、更に回り込む。
この、一瞬の跳躍めいた疾走だけで、体中から軋むような音が響く、
やはり全体強化の負担は大きい、二度はないと考え、覚悟を決める。
ノハ#-听)(ここで……決めるっ!!)
三人共に反応できていない、行けると判断して地を蹴る。
だが、視界の隅に何かが見えた、大男が持つハンマーだった。
しかし自分を狙っていない、焦って振り回しているだけの行為に過ぎない。
真実、その通りだった。
大男はヒートを見失い、咄嗟にぶん回しただけである。
つまりは運、賭けの様なもの、攻撃ですらない。
それゆえの、誰も読めない挙動。
今回ばかりは運悪く、それはただの偶然の結果として、
ヒートの向かう先、およそ斬り付けた直後のあたりで打ち付けられる先を示していた。
その結果。
ノハ;-听)「ぐ……っっ!!」
ヒートは無理矢理に方向を変え、距離を取ってその場を離れる事を選んだ。
そしてすぐに強化を解く、気だるさのような物が全身を襲い、
足には痙攣と共に、はっきりとした痛みが走る。
正面を見れば、倒れ伏せた熊の前で、三人がゆっくりと体勢を整え、
ヒートの姿を見つけるなり、やけにゆっくりとした動作で並び歩いた。
( ゚∋゚)「先の僅かな一瞬の、その全ての判断力、見事、と言わせて貰おう」
|/゚U゚|丿+にんにん、これは確かに一人で相手をするのは難しいようでござる+
( ゚∋゚)「さぞ民にも慕われる存在だろう……ゆえに、その存在の大きさも噂通りという事」
|/゚U゚|丿+つまり失えば、激しく崩壊+
ノハ;゚ -゚)「………そう…あなた方、最初から……」
(#゚;;-゚)「あなたを捕らえる―――三人がかりで」
ノハ;゚ -゚)(落ち着け……落ち着いて、考えろ……どうする)
理性や、大局的なことを考えるなら、今すぐに逃げるべき。
連中の言うとおり、今のヒルトは団結しているようで危うい面もある、
何故なら、新たな王となった人間が、現在行方知らずとなっているからだ。
しかしそれが問題となっていないのは、代役を立てていることもあるが、
それ以上に、代役である事によってあまり現王との接点、会話等が少ない事に起因していた。
というにも、彼女自身としてはあまり理解したくない理由ではあるが、
どうやら民の多くがヒートの容姿に心を動かされているため、
要するに、イチャイチャしてないから許すよ、という若干気持ち悪い信仰心によるもの。
ゆえに、ヒルトの人間たちは、彼女を失うことがあれば、
少なくともその士気を無くし、全ては瓦解してしまう。
ノハ; )(……けれど)
だからといって、彼女を崇拝する全てがその容姿にある訳ではない。
当然ながら、ヒルトという武力国家における前提として、強き者である事は絶対条件。
いくら多対一、それも管理者とは言え、自ら戦いに背を向けるなど、
王として先頭にたつことで皆を率いた存在が、尻尾を巻いて逃げ出すなど、
そんな姿を、衆目にさらす訳にはいかない、民にも、敵にも。
そうなれば、それもすぐに信仰の崩壊を招いてしまう。
故に、やはりただ逃げるわけにはいかない。
王として、立ち向かう事をやめてはならない。
ならば、あと自分ができることは。
ノハ--)「………」
ヒートは、剣を構えなおし、迎撃の姿勢を取った。
( ゚∋゚)「……この状況下で、まだ戦意を失わぬか」
ノパー゚)「そちら様方こそ、随分と余裕ですのね?」
ノパー゚)「人数が増えたからと言って……あなた達自身が、私より強くなった訳じゃないでしょうに」
|/゚U゚|丿+そう言って一対一の状況でも狙ってるでござるか?
無駄にござるよ+
( ゚∋゚)「こちらは元より、強さへの誇りなど持ち合わせてはいない」
ノパ听)「いいえ、そうではなく――――」
(#゚;;-゚)「ただ、令に従うのみ」
ノハ#゚听)「余裕ぶって歩いてないで、とっととかかってこいと言っている…!!」
ヒートはそう叫び、魔法剣に炎を宿らせ、そのまま高く燃え上がらせる。
決死の覚悟、ではなく、もう一つの選択肢を信じたから。
この組織めいた動きは脅威ではあるが、しかしそれは自分も同じ、
かつて国内で、ただ一人現実に立ち向かっていた頃とは違う、
色々な考えや、色々な強さを持った人間達と、今ここに立っている。
誰かは気付く、誰かが動くはず、と。
仲間を信じ、今はせめて時間を稼ぐこと。
それが今のヒートが選んだ、最善の選択肢だった。
( ゚∋゚)「……!」
最初に動いたのは大男、次いで傷女、最後に忍者が男の背に隠れるように駆け出す。
ヒートの最大の攻撃を、不可視の力で難なく受け止めた大男に対して、
言葉を紡ぐ間を与えれば、何が起きるかも読めない傷女に対して、
そしておそらく、触れたものを吹き飛ばす力をもつ忍者に対して、
打開策が無い。
下手をすれば、次の一度の斬りあいで決着してしまうかもしれない。
それでも、と剣を振るう、炎が放たれた。
だが案の定、炎はすぐに大男のもつハンマーの一振りでかき消され、
傷女の囁きによるものか、更には剣先の火までも消えていく。
見て、ハ、と笑みを浮かべ。
覚悟を決め、死地とも呼べるこの先へ、その一歩を踏み出した。
その先に、雷が落ちた。
全員が足をとめ、一瞬の閃光と、地を揺らす轟音に身を強張らせる。
向かい合ったその中間には、ぱりぱりと青白い光を放つ、白く小さな小槌があった。
周囲には煙があがっているが、しかし砂煙の類ではなく、黒の混じったもの、
焼け焦げた地面が、ぶすぶすと煙をあげている、雷接続を使用したあとに見られる様子ではあるが。
ノハ;゚听)(何よこの威力……普通じゃない!)
( ゚∋゚)「……小槌……そして雷……?」
(;#゚;;-゚)「……」
明らかに、戦闘を妨害する行為だ、それぞれが周囲を見渡すが、
やがてすぐに視線は一点にむかうことになる。
何故なら地面にめり込んでいた槌が、突如として浮き上がり、その一点へと飛んでいったからだ。
弧を描き飛んでいく小槌が、銀色の篭手をもつ腕に吸い込まれるように飛来し、
やがて、ガシャァンと音を立てて手の中へ、視線を集めながら男はにぃと笑った。
( ゚∀゚)o彡゜「俺、参上!」
ノハ;゚听)「あなたは…!!
どうしてここに!?」
( ゚∀゚)「よお王女さん、お楽しみのとこ悪いな、邪魔するよ」
ノハ;゚听)「いやそんな事より――――」
ノハ;゚ー゚)「はぁ……まったく、今までどこで遊んでいたのかしら?」
(;゚∀゚)「あれ? 連絡いってるんじゃねぇの?」
ノハ;゚ー゚)「場所まではわからないって話だったわよ」
(;゚∀゚)「あー…そう、そうか、そうだよなぁ」
(;゚∀゚)(どおりで……迎えの一つも寄越さねぇと思ったら…)
(;゚∀゚)(…………あれ、置いてきちまったの、もしかしてまずったか?)
ノパ听)「あなたが居るって事は、例の、破壊の管理者の子もここに?」
(;゚∀゚)「え!? い、いやっ、ドクオは、まだ、その…療養、中、みたいな?」
ノパ -゚)「何をどもってるの」
(;゚∀゚)「それよりだ! あれ、敵だろ!
ほれこっち見てんぞ!」
( ゚∋゚)「……ミョルニル、破砕の管理者だな」
|/゚U゚|丿+もうずっと行方不明と聞いていたでござるが……本物?+
( ゚∀゚)「お、ご存知とは、俺も名が知れたもんだ」
(#゚;;-゚)「名は知らない」
(;゚∀゚)「そうかよ」
(#゚;;-゚)「興味も無い、前の戦場から逃げた、臆病者」
( ゚∀゚)「……まあ、な」
ノパ听)「…………」
( ゚∀゚)「んなわけだ王女さん、とにかく手を貸すぜ」
( ゚∀゚)「俺はそうだな……あっちのでかい奴、得物も似てるしあいつだな」
( ゚∋゚)「………む」
( ゚∀゚)「それと、さっき見えたけど後ろの奴、あれもセットで相手してやる」
|/゚U゚|丿+……+
ノハ;゚听)「管理者の手はありがたいけれど……大丈夫なの?」
(;゚∀゚)「あん? 信用ねぇなー……ってそういや、みっともないとこ見られたっけな」
( ゚∀゚)「ん、まあ、心配ご無用、でも今はもうちょい、こっち来てくれっか?」
|/゚U゚|丿+舐められているでござるな+
|/゚U゚|丿+卑劣な手段は認めよう、だが、拙者等も管理者の端くれ+
|/゚U゚|丿+激しく後悔するがいい―――クックル!!+
( ゚∋゚)「…!!」
大男と忍者が、再び一列となって駆ける。
対するジョルジュは槌を掲げ。
ノパ听)「何をする気?」
( ゚∀゚)「まあ見てな」
その場で、地面を殴りつけ。
(#゚∀゚)「行くぜ、俺の必殺技…パート4!!」
その箇所を中心として、大地に四方八方へ伸びゆくひび割れが走り、
続くもう一打にて、砕かれた箇所が一気に隆起、あるいは陥没し、いくつもの亀裂が広がっていく。
ノハ;゚听)「んな……!?」
(;゚∋゚)「う、おっ!?」
大地が揺れるどころではない、いくつもの地割れが直に足を取る、
駆けていた大男はつまづき、ついでにヒートも巻き込まれてよろけた。
(#゚∀゚)「ライジングメテオ・インフェルノオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
次いで小槌、ミョツルニルが纏う青白い光がより強く閃いた。
瞬間、亀裂のいたるところから閃光がほとばしり、わずかに辺りが膨らんだように見えると、
今度は突き上げるような爆発が、隆起した地面ごと宙へと吹き上がらせた。
突如として目の前に起きた事態に、ヒートは背筋を凍らせ、悲鳴を上げそうになるのを何とか堪えた。
光の中、大小様々な岩石が空へ登り、次いで落ちていく。
巻き込まれたらどうなるか、それは直撃を受けたと思われる、大男の姿が教えていた。
雷に焼かれたのか、むき出しの両足は黒く爛れ。
吹き上がる岩に撃たれた全身には裂傷と打撲痕。
うめき声を上げ倒れかけた姿を、更に上から落ちてきた岩が頭上に落ちると、
糸が切れたように倒れ伏し、その姿を土砂が埋めていく。
そんな光景を見た周囲からも悲鳴があがり、散り散りに逃げていく背が見えた。
( ゚∀゚)「あいつ……小さいほうを庇いやがったぞ、やるなぁオイ」
ノハ;゚听)「な……」
|/゚U゚|丿+激しく憤怒、よくもクックルを……!!+
( ゚∀゚)「ま、これでタイマンだ、暴れるぜぇ……!!」
瓦礫を避け、忍者が怒りを顕に駆けてくる。
対してジョルジュはヒートから離れ、迎撃の構えを取った。
ノハ;゚听)「いけない…あの神具に触れては…!!」
(;゚∀゚)「!?」
|/゚U゚|丿+激しく遅い、その神具、追放する―――+
忍者が、打ち上げるように棍棒を振るい。
ジョルジュは小槌で受けるように上から殴りつけ。
カコン、という異様なほどに澄んだ音を響かせて、
ジョルジュは凄まじいまでの衝撃と、反動で槌を握る腕が頭上まで返された事を知る。
しかも、ただ弾かれただけではなく、引っ張られる感覚は消えることなく、
何とか飛ばされないよう強く握るがそれでも、及ばず。
(;゚∀゚)「ぬ、あああああ、なん、じゃこりゃ……あっ!?」
ついには、すっぽ抜けた白い槌が、頭上へと飛ばされてしまった。
ジョルジュはどんどん上昇する己の神具を、呆然と見ている事しかできなかった。
|/゚U゚|丿+神具ヤグルシュ、その力は力にあらず+
ノハ;゚听)(やはりあれは………っ不味い!)
(;゚∀゚)「あーあー……」
|/゚U゚|丿+お覚悟、何か言い残すことは?+
忍者が、腰に携えたもう一振り、細身の剣を抜き放ち、
丸腰となったジョルジュへ向けて言う。
( ゚∀゚)「そうだな………お前がな、かな」
しかしジョルジュは大胆不敵に笑みをつくり、篭手のついた手を向ける。
瞬間、空から一筋の閃光が、空間を裂くように走り抜け、忍者の身体を貫いた。
|/;゚U゚|丿+……!? ……!?!?!?!+
光に打たれた忍者は、全身に痺れを感じ、身じろぎもままならない、
ただ全身には青白い光が、ぱりぱりと音を立てて浮かんでいる。
何が起きたのか、誰も理解できずに見守る中、そして次の瞬間。
再びの閃光。
しかし今度は物理的に地面に平伏せる圧力を伴い、
打ち上げられた筈の小槌が、忍者の体を押し潰す勢いで飛来した。
腹の底にまで響くほどの重低音が遠く響く。
雷が余波となって地を焦がし、すぐに黒い煙が立つ。
( ゚∀゚)「名付けて、神雷」
返ってきた小槌を、篭手が大きな音を立てて受け止める。
辺りは、遠巻きにこそ未だ戦火の声が響くものの、妙に静まり返っていた。
連続して起こった圧倒的な破壊力と、立て続けに、あっさりと管理者を二人下した存在によって。
ノハ;゚听)「………」
ノハ;゚听)「……あら?」
同様に、唖然とするヒートだったが、ふと気付く。
あの傷女が見当たらない、今の隙を狙ってのものかと警戒するが、
どこにもその姿は見当たらなかった、おそらく、最初の爆発の際に引いたのだろう。
( ゚∀゚)「こっちは終わったぜ」
ノハ;゚听)「………」
( ゚∀゚)「ま、ちょい物足りねぇし、何ならもう一人も……」
(;゚∀゚)「ってありゃ? どこいった?」
ノハ;゚ー゚)「……あなたも、人が悪いわね、闘技場では手を抜いていたのかしら?」
( ゚∀゚)「いや、あの時はあれが全力だったさ」
( -∀゚)「ま、事情があってな、今はまあ、こんなもんよ」
<おーい
ノパ听)「?」
と、そんな二人へと駆け寄る姿がある、ヒート側近の者達だ。
彼らは女王の無事に安堵すると、これからの行動について示唆を問う。
戦場の真っ只中であるはずだが、不思議と周囲には攻め寄ってくる姿は無い。
管理者を恐れてのことかは不明だが、ちょうどいいとそれぞれ口を開く。
( ゚∀゚)「攻め時だな?」
ノパ听)「……そう、ね…でも」
( - -)「ツンさんの方もまた一つお手柄みたいだし」
(;<::V::>)「あの人、聞けば管理者を過去何人も葬ってきたとか…やばいすね」
( - -)「ヤバみだね」
( ゚∀゚)「押せ押せムードだな、よし行こうぜ」
ノパ听)「………」
確かに、管理者を三人撃破、一人は逃走。
果たしてこれで全てなのかは不明だが、それでも今現れないのであれば同じこと、
ただの接続使いが相手なら、もはや自分ら管理者は居るだけで敵の戦意を削ぐ。
ましてや相手には非接続者までもが混ざっている。
ヒルトの民ならば、一人一人がそう遅れは取るまい。
このまま押し切る形で降伏を迫ることができれば、あとは裸の王が残るのみ。
いかにロマネスクが強大な力を持つ存在であったとしても、
この情勢が出来上がってしまえば、少なくとも戦争という意味合いの物は終わる。
ならば行くべきだ、しかしヒートは未だひっかかる部分があった。
敵方の行動に違和感がある。
明らかに一つの意思を感じる行動ばかりだった。
これがあのロマネスクという男によるものならば、
それならば、本当に今は優位に立っている状態なのだろうか、
自分達が相手をしているのは、管理者を失うだけで瓦解してしまうような物なのだろうか。
意図は分からずとも、いくつもの国の存亡すら手玉にした人間が、本当にその程度の。
と思案するヒートの耳に、聞き慣れない音が響く。
キ と イ が連続したような、甲高く鼓膜をくすぐるような音だった。
(;゚∀゚)「うっせ、なんだこりゃ?」
( - -)「前に使ったまいく? とかいう拡声器の音だよ」
ちなみにその失敗作であり、ノイズと騒音を撒き散らすだけの代物だったが、
音だけはよく通るため、いくつかの合図、信号代わりに持ち込まれた物だった。
そしてこの場合。
( ゚∀゚)「で、これが何だって?」
( - -)「合図だよ、たしかこう鳴らしっぱなしなのは…」
ノパ听)「…急ぎ撤退せよ」
( ゚∀゚)「……」
( - -)「ショボンって子の指示かな?
なんでだろうね?」
( ゚∀゚)「……ああ、そう、それなら、そうだな、撤退か」
( - -)「認めるの?」
( ゚∀゚)「あいつがそう指示したんなら間違いねぇだろ」
( - -)「ふぅん……実力はありそうなのに、逃げ腰とは」
ノパ听)「………シュー、やめなさい」
( - -)「"また"逃げるなんて、やっぱり臆病者って噂は本当だったのかな?」
( ゚∀゚)「………」
ノパ听)「やめろと言ってるのが聞こえないの?」
( - -)「だっておかしいじゃないか、今は間違いなく好機のはずだよ」
「確かに…向こうが引くならわかるけどさ」
「いやでも、何か理由があるんじゃ?」
「なんだお前もびびってんのかよ」
「そうじゃねぇけど、ただ――」
ノハ;゚听)「……っ」
( <::V::>)「……ジョルジュ、だったか、一ついいか?」
( ゚∀゚)「ん? あー…お前、たしか闘技場で会ったな」
( <::V::>)「そうだ、俺はあんたが確かな実力者だって事を身を持って知ってる」
( <::V::>)「だから分からない、何故だ、あんたが居れば戦局すら変わりかねないのに」
( <::V::>)「何故今、いや以前にも、そうやって逃げを選ぼうとする?」
(;゚∀゚)「何故ったってなぁ……」
( <::V::>)「本当に臆病風に吹かれたとでも言うのか?
あのオーガにすら恐れず最後まで立ち向かったあんたが!?」
( ゚∀゚)「……臆病風か」
( ゚∀゚)「確かにそうさ、俺はずっと……ビビッてたよ、だから耳を貸さなかった」
( ゚∀゚)「そういう可能性からも、目を背けちまってた…その結果がこれさ」
( <::V::>)「な、何を言って…」
ノパ听)「……あなた、何を知っているの?」
( ゚∀゚)「現実だよ、これから起こる」
( ゚∀゚)「なあ?」
ジョルジュが槌を向ける、その先にはいつの間にか一人の男が立っていた。
背は高く、顔面には大きな傷跡、手には剣が握られている。
剣は、金色の柄に、白銀の刀身。
ノハ;゚听)「あの剣――――あれ、は…!?」
傍らには、先ほど見失った傷女、でぃがかしずくように控えていた。
だがヒート達はそれ以上に、現れた男の、どこか見覚えのある姿に驚愕した。
( ゚∀゚)「……内藤」
( メωФ)
ノハ;゚听)「……っ、まさか…!?」
( - -)「……!」
( ゚∀゚)「よお、久しぶりだな」
( メωФ)「……? 僕のことを言っているのか?」
背丈も雰囲気もまるで違うが、それでも顔には確かな面影と、
そして声はそのまま、かつてヒルトの地を共にした少年の物だった。
(#゚;;-゚)「ロマネスク様、世を混乱に陥れる者の狂言など、聞いてはいけません」
( メωФ)「そう、だったな…」
( メωФ)「お前達、逆賊の管理者だな……ここからは、僕が相手だ」
顔に傷をもつ男は、そう言って剣の切っ先を向ける。
その瞳に惑いの色はなく、明確な敵意だけを宿して。
(;゚∀゚)「やれやれ、ほんとに忘れちまってんだな」
ノハ;゚听)「どういう事…!? 何故彼が…あれは、本当に!?」
( ゚∀゚)「話は後だ王女さん、あの通りあいつは今は敵、だから早く逃げな、ここは俺が引き受けた」
( - -)「いや駄目だ、あれが本当にそうなら……ここで討つ」
ノハ;゚听)「シュール!? 今度は何を…」
( - -)「まったく、戦闘モードが切れるとこれだ」
( - -)「彼が捕らえられたと聞いた時点でこうなる事は予想できたし、
それに何より、あれが本物で万が一うちの人間達に知られてご覧よ、それこそ問題」
ノハ;゚听)「それは……」
ノパ听)「いえ、そうね………その通りだわ」
(;゚∀゚)「おいおい話聞いてたか? 逃げろって」
( メωФ)「……」
未だ鳴り響くハウリングノイズ、そして響く喧騒。
その場を見据えるものたちは、遠巻きながらヒートの指示を待っていた。
顔に傷をもつ男女は、眼前のジョルジュ達を見据えたまま動かない。
シュールと呼ばれた仮面姿の人間が、静止の声も聞かず傷男へ向かい駆けていく。
遅れてジョルジュとヒートが続いた。
まず斬りかかったのはシュール、薙ぎ払うような素振りをフェイントに、
胸を狙っての突き、傷男は手にした剣で切り払う。
とても軽い所作だった、それは衝突の音も同様で、甲高くもよく響く金属音。
(;- -)「……っ!?」
シュールは困惑した、攻撃を払われた事にではなく。
眼前、宙を回転しながら飛んでいく自らの剣の、その刀身に。
剣戟がぶつかり合いになることなく、ただ、自らの剣が根元から手折られる結果に終わった事に。
( メωФ)「……降伏しろ」
(;- -)「何…を!」
つんのめるような体制で立ち止まったシュールの喉元へ、傷男は切っ先を突きつけ言い放つ。
ノパ听)「下がりなさい!!」
(;゚∀゚)「しょうがねぇな…っ」
そして二人がほぼ同時に、傷男へと襲い掛かる。
ヒートが大剣を頭上から振り下ろし、傷男は横へと身をかわす。
地面を砕く勢いで降りぬかれた大剣は、しかし途中で軌道を変えてVの字を描く。
咄嗟に傷男は自らの剣で受ける構えをとるが、大剣の勢いを見ればとめられる筈もない。
だが、大剣は軽やかな金属音だけを残し、細身の剣に容易く受け止められていた。
( メωФ)「お前達もだ」
ノパ听)(…!)
そのまま、鍔迫り合いのような形で動きが止まる。
ヒートが平静を保てたのは、この状況に覚えがあったからだ。
いつかの闘技場でもそうだったように、いかな理屈か強力な一撃が通用しない。
と、その隙にジョルジュがシュールを引っ張りあげ、後方へと投げつけるように逃がすと、
今度は傷男へと向きなおし、一瞬だけ、躊躇うように歯を鳴らすが、
すぐさま動きを止めた姿へと、青白く発行する槌で殴りかかった。
対する傷男の反応は、あまりにも早く。
ヒートは僅かな拮抗すらできぬまま、払われた大剣に引っ張られるように姿勢を崩し。
迫るジョルジュに対し、一度剣を振りまわす余裕を見せた上で、打ち下ろしの槌を弾き返して見せた。
(;゚∀゚)「ん、なろ…!!」
( メωФ)「…遅いな」
( ゚∀゚)「まだまだ!!」
しかしジョルジュは怯むことなく、腕ごと弾かれた槌をその場で手放し、もう片手を男へと向ける。
すぐさま槌から雷光が走り、白銀の刀身を貫き傷男へと飛び掛った。
傷男はその槌を正面から受け止めるが、勢いは止まらず、
踏ん張った両足で跡を作りながら、そのまま後方へと押し出されていく。
しかし異様なのはそれを堪えている事よりも、槌から放たれている雷光だ。
打ち付けた瞬間こそ、四方に電撃が散らばったものの、それらはすぐに収束を始めてしまう。
まるで、剣に光が吸い込まれていくように。
(#゚;;-゚)「ご無事で?」
( メωФ)「……ああ、大丈夫」
押し出された先で、傷男は女に対して手で近づかないよう制止した。
返ってきた槌を受け止めながら、ジョルジュはそんな様子にため息をつく。
落胆にも見えるが、しかしそれはどこか、安堵も含む。
ノパ听)「……あの神具、どういうこと?」
( ゚∀゚)「あん?」
ノパ听)「太陽の剣……身体強化の力を持っているとは聞いたけど、今のは……」
( ゚∀゚)「さあ……俺も詳しくは知らねぇんだ、ただ……」
ノパ听)「ただ?」
( ゚∀゚)「あのロマネスクって奴が言ってたらしいぜ、我が半身の力、ってよ」
ノパ听)(半身……? そういえば……前に母者さんも何か、変な事を…)
( メωФ)「お前達……そこの、赤い髪の女がヒルトの女王だな?」
( ゚∀゚)「ああ、しかし随分とまあ、偉そうな喋り方になったもんだな?」
( メωФ)「……?」
( メωФ)「…なら、ちょうどいい、そもそも僕は戦いに来た訳じゃない」
( ゚∀゚)「ほぉ? じゃあ何しに来たんだよ」
( メωФ)「降伏しろ」
ノパ听)「何…?」
( メωФ)「我が王は慈悲深い御方だ、抵抗を止めればこれ以上無駄に血を流すこともない」
( メωФ)「当然、首謀者と見られる誓賢と、紅牙、そして月鏡は引き渡して貰う必要があるが…」
( メωФ)「それも悪いようにはしない、我が王は、過ちと死は同義では無いと言っている」
( ゚∀゚)「何だ…結局はつまりお前もあれか、王女さん狙いって事か」
ノハ;゚ー゚)「人気者は辛いわね」
( - -)「でもそういうのは、ちゃんと許可得てからにして貰わないと」
( <::V::>)「……ええ、時間を作ります、二人は隙を見て撤退を」
ノパ听)「……私に言っているのか?」
( - -)「そうだよ、一旦任せて僕らは引こう」
ノパ听)「あなた、さっきと言ってることが違うんじゃなくて?」
(;- -)「ああ、撤回させてもらう……あれは駄目だ、まともにやりあっちゃいけない」
ふと横に並ぶシュールを見れば、腕が微かに震えている。
そしてこう口にした、違いすぎる、人間じゃない、と。
ノハ;゚听)(あのシュールが……脅えて?)
最初に剣を折られてからの、ほんの僅かな攻防。
それらを見続けた結果として、得た感想は。
まるで違う時間を生きているかのように、速度が違うということ。
野生の生き物が、その為だけの器官を使って得物を捕るような。
本能的に、敵わないということを悟らせる動きだった。
( メωФ)「逃がしはしない」
( ゚∀゚)「いいや、逃がしてもらうぜ、そのために俺は来たんだからな」
( - -)「……さあ、今のうちに!」
ノハ;゚听)「……くっ」
…………。
撤退の合図が出てからしばらく、ツン達は周りの逃走の手助けをしつつ、
姿の見えなくなった女王ヒート達の姿を探していた。
やがてようやく姿を見つけるも、その状況に思わず駆ける足を止めた。
焼け焦げた地面が煙を上げ、隆起した地面が亀裂をつくり、
そこかしこに倒れた人間がうめき声を上げている。
その中に、探していた人物も居た。
そして、唯一無傷で立ちすくむ人間には見覚えがある。
ξ゚听)ξ「あれは……太陽、なのか?」
<_プД゚)フ「それにあれ、ジョルジュじゃん!
…いつの間に!?」
(;凸)「あんたら、大丈夫か!?
女王様も!」
(;- -)「……ぐ…それより、はやく、ヒートを連れて…!」
(;凸)「これ…無事、なのか?」
(;- -)「ああ、ただ情けないけど、さっきしこたま殴られてね」
ξ゚听)ξ「…私が行く、お前達は女王をつれて引け」
シュールの傍らには、額から血を流し横たわるヒートの姿がある、
息はあるが、意識を失っているようで、剣も手放したまま動かない。
そして、相対しているであろう傷男に今もまた一人向かっていく姿があるが、
すぐさま剣の腹の部分で横ばいに殴られ、地に伏せた。
と、そんな隙を突くかのように、白い小槌が傷男へと飛翔するが、
それもまたすぐに切り払われ、持ち主の下へと返っていく。
ガシャンと、重い金属的な音を鳴らして受け止めると、
ジョルジュはそのままの勢いで殴りかかる。
(#゚∀゚)「おらあああああ!!」
( メωФ)「いい加減に…しろ!」
衝突する二人を中心に雷光がばら撒かれ、辺りを焦がしていく。
傷男は苛立ちを顕に切り払い、ジョルジュを大きく後退させた。
( メωФ)「無駄だと言ってるのがわからないのか」
傷男はこれまで、ヒート含めて何人もの人間を切り伏せてきたが、
未だその剣に血の類は付着していない、そのすべてを柄や腹で殴りつける形で行ってきた為だ。
( メωФ)「言ったはずだ、僕はお前達を殺しに来た訳じゃない」
( メωФ)「むしろお前達を"救いに"来たと言ってもいいくらいだ」
(;゚∀゚)「……っ」
( ゚∀゚)「そいつは、嬉しいことを聞いたぜ」
( メωФ)「……だからといって、いつまでも抵抗を許す訳じゃない、勘違いするな」
( ゚∀゚)「そうじゃねぇよ、安心しただけさ」
( ゚∀゚)「救いに来たなんざ、やっぱ、お前は、どう変わってもお前なんだな」
( メωФ)「……?」
( ;メωФ)「っ……!?」
一度だけ、傷男はこめかみの辺りを押さえるような素振りを見せた。
ジョルジュはそんな姿に笑みを浮かべ、小槌を向ける。
( ゚∀゚)「ああ、やっぱぶん殴ってでも、お前を連れて帰ってやる」
( メωФ)「わけのわからない…事を…!」
(#゚;;-゚)「そう、あなた、いい加減邪魔」
(;゚∀゚)「うお!?」
そんな会話の隙を縫い、傷女がジョルジュへと駆け寄る。
ジョルジュは咄嗟に槌を振るい、女のもつ剣とが間で交差し、激しく音を立てた。
(#゚;;-゚)「止まれ」
(;゚∀゚)「…っ」
(;゚∀゚)(なんだこりゃ…雷が消える?!)
彼女が持つ神具の名はフラガラッハ、およそ先にヒートが予想した通り、
持ち主が望んだことの一部を現実とする剣、つまり実際には言葉すら必要としていない。
一見とんでもない能力だが、全てを現実にするわけではなく、制限が多い。
特に大きいのは、別で既に起きている現象にしか干渉できないということ。
もう一つは、管理者本人が心からその結果を信じなくてはならないこと。
つまりは後出しでしか効果を得られず。
かつ一切の躊躇いもなく高所から飛び降りるような精神性が必要となる。
むしろ後者に至っては、自らの死を強く想起すればそちらが優先されかねないという。
戦いにおいては非常に危険とも言える能力だった。
ゆえに正常な人間であればとても耐えられる代物ではなく、
彼女自身、それがどれほど大変な事であったか、傷だらけの容姿が語っている。
(#゚;;-゚)「…!」
傷女は視界の中にもう一人、駆けてくる姿を見つけるなり、
さらに自分へと飛翔する刃を一瞥する。
それだけで、ツンが走りながら発射させた刃は、彼女の横を通り過ぎるだけの結果に終わった。
ξ;゚听)ξ「外れ――いや、逸れた…!?」
( ゚∀゚)「が、隙ありだ!!」
(#゚;;-゚)「……」
と、傷女がツンへと視線をやった合間をついて、ジョルジュがもう一度槌を打ち下ろす。
剣を構えなおす間もない攻撃、ただ掲げた姿勢で受けきれる衝撃じゃない、
( ゚∀゚)(貰った…!!)
と、確信するジョルジュだったが、目の前の女はむしろ構えを解き、
棒立ちの状態で、眼前にせまる槌をまばたきもせず眺めていた。
(#゚;;-゚)「……」
(;゚∀゚)「な、んだそりゃぁああああ!!?」
そしてジョルジュの攻撃は彼女の身体をすりぬけ、地面を砕いた。
ツンはそんな様を見るなり、急ブレーキをかけてその場で立ち止まる。
傷女は感情のない瞳を向けたまま、剣を構えなおしてジョルジュへ斬りかかった。
この際に続けざま、二人がかりで攻めれば先のような回避はできないが、
今の光景を見せられて、攻撃をしかけようという判断はできず、ジョルジュとツンは距離をとった。
(#゚;;-゚)「……」
(;゚∀゚)「おいおい、なんだ今のは…!
きもちわりぃ!!」
ξ゚听)ξ「……おい、お前がジョルジュって奴でいいのか?」
( ゚∀゚)「ん、そうだぜ? そういうお前さんは…味方でいいんだよな?」
ξ゚听)ξ「ああ、だが挨拶は後にさせてもらう…時間稼ぎならもういい、撤退だ」
(;゚∀゚)「お、おう、けど俺は…あいつを…」
ξ゚听)ξ「……理由は知らんが、状況は見ろ」
言われてジョルジュは辺りへと意識を向ける。
どうやら撤退は進んでいるようで、争いの光や音はどんどん減り。
代わりに相手側の、勝利を喜ぶかのような雄叫びが聞こえてくる。
(;゚∀゚)「ずいぶんスムーズだなオイ……」
ξ゚听)ξ「ヒルトの連中、確かに腕は良いが長期的な殺し合いには慣れていないのだろう」
優位に事を運べているように見えて、その実戦意を失いかけた者が多い。
それもそのはず、なにせ彼らは殺戮で腕を磨いてきたわけではない。
互いを強者と見たうえでの競い合い、その中に、戦意無く脅える人間を斬るような機会は無かった。
しかし何時何処で襲われるか分からない状況で、見逃している余裕までは無い。
狂気に酔えるほど不慣れでもない彼らは、ただ単純に精神を磨耗させていた。
このタイミングでの撤退は、全体を見れば正しい判断であり、逃げる行為を受け入れる者も多かった。
そしてそれはお互い様のようで、引いていく姿を追いかけ殲滅しようとする者たちも見当たらない、
戦場はこうして、どこか矛盾した絵面を描きながらひとまずの終わりへと向かっていく。
ξ゚听)ξ「それに…奴が何者であれ、今あの場に立ち、こちらに相対している」
ξ゚听)ξ「ならば再び、必ずまた現れる」
(;゚∀゚)「……次を待てってか…」
( メωФ)「相談中に悪いが、お前達は…管理者は逃がさない」
( メωФ)「特にそこの水晶剣の……月鏡だな、お前には何人も仲間をやられている」
( メωФ)「これ以上放ってはおくわけには、いかない」
(#゚;;-゚)「女王ヒートも、あの様子ではそう遠くないはず…私はそちらを」
( ゚∀゚)「……だってよ」
ξ-听)ξ「また指名か、やれやれだ」
(´・ω・`)「いいや、見逃がしてもらうよ」
( メωФ)「…!」
(;#゚;;-゚)「…っ!!」
と、ジョルジュたちの後ろから不意にかけられた声とその姿に、
その場の全員が一様に驚きの表情を作る。
(;゚∀゚)「あ?」
ξ゚听)ξ「お前、なぜここに…」
(´・ω・`)「いや撤退が遅れてるって聞いたので…それと」
(´・ω・`)「……確かめたい事もあったんで」
(#゚;;-゚)「…いけませんロマネスク様、あれはフレイ…誓賢です」
( メωФ)「……あれが」
ショボンは傍らに剣を浮かべたまま、対する二人組みを見据える。
何か言いかけたようにも見えたが、しかし開きかけた口をすぐに閉ざす。
代わりに誤魔化すように、ジョルジュへと向きなおし声をかけた。
(´・ω・`)「そういえば大丈夫でした?」
( ゚∀゚)「おう、言われた通り女王さんは何とか逃がしたぜ」
(´・ω・`)「よかったです、それじゃあ僕らも引きましょう…積もる話はその後で」
(;゚∀゚)「そうしたいのは山川なんだがな…」
ξ゚听)ξ「逃がす気はないらしいぞ」
そんな言葉が指すとおり、傷男は彼らを真っ直ぐに見据えたまま踏み出す。
傷女はそんな彼を制止するが、聞く耳持たず。
( メωФ)「……」
(#゚;;-゚)「ロマネスク様、彼奴と戦うのは……」
( メωФ)「王は僕に言った、まずは自分の目で見ろと」
( メωФ)「その上で判断し、自らの意思で動けと」
( メωФ)「だから僕は見ていた、そしてわかった事がある」
(#゚;;-゚)「……」
( メωФ)「こんな戦争、誰も求めちゃいないんだ、皆決着を望んでる」
( メωФ)「終わらせなければいけない、だからその根源を絶つ、今、ここで…!」
ξ;゚听)ξ「!」
言って、傷男は剣を腰構えに地を蹴った。
わずか数歩で距離を詰め、斬りかかる。
その動作をジョルジュ達は見ていた、警戒していなかった訳では無い、
しかし見ている以上のこと、迎撃するまでの行為には至れなかった。
まさに一瞬の出来事だった。
(;゚∀゚)(速…!?)
ξ;゚听)ξ「ぐ……っっ!」
ろくな反応もできぬまま、まずツンが胴を殴りつけられ倒れこむ。
続けてジョルジュも同様に、幾度か弾かれるように地を転がった。
しかし斬られた様子はなく、血も出ていない、剣の腹で叩いただけ。
未だ手加減したまま、だが二人は呻き声をあげ立ち上がれない。
そんな様を見たショボンは、忌々しげに誰かの名を口にする、
傷男はその名に首をかしげるが、すぐに剣の切っ先をショボンへと向けた。
(;´・ω・`)「…っ」
( メωФ)「あとはお前だ、降伏するならこれ以上は――」
(´ ω `)「馬鹿野郎…ほんとうに、バカだよ、君は…」
( メωФ)「……何?」
(´・ω・`)「…このままだと君は、この先……きっと取り返しのつかない間違いを犯す」
浮遊する剣を取り、ショボンもまた傷男へと剣を向け。
(´・ω・`)「だからこれが最後だ、このまま見逃すなら良し、そうでなければ……」
(`・ω・´)「斬りあった瞬間に君は死ぬ、僕が殺す」
(;゚∀゚)(……っっ!!)
( メωФ)「……確かに、誓賢とぶつかるのは控えるよう言われているが……」
( メωФ)「それは逆を言えば、誓賢、お前こそが最も捕らえるべき敵…!」
対峙する二人が、互いに剣を向ける。
皮肉なことに、そのどちらも相手に対する憎しみではなく、
相手の事を思っての行為から、片や生存を、片や死を願う。
しかしその相対は衝突することなく、傷男のうしろに現れた大きな影によって中断した。
(・(エ)・)
それは熊だった、とても大きな森のくまさん。
二本足で立ち、毛並みはボロボロでそこかしこに血が滲んでいる。
(・(エ)・)「……お前達、ここは俺が引き受けよう」
(;メωФ)(……熊が喋った……!!!?)
突然現れたかと思えば、流暢に話し始めた動物に困惑する傷男。
そんな隙をつくようにして、熊は男に覆いかぶさるように羽交い絞めにした。
(;メωФ)「……こいつ、この怪我でなんて力を…これが野生…!」
(#・(エ)・)「さあ行け、今のうちだ!」
(´・ω・`)「……」
しかしショボンは切っ先を向けたまま、今にも飛び掛らんと構える。
傷男はそんな空気を察し、すぐに意識を眼前の相手へと向けるが、
( ゚∀゚)「……引くぞ」
(;´・ω・`)「わっ…と、ジョルジュさん!?」
ξ-听)ξ「時間切れだ、お前の指示だろう?」
両側からの制止に引きずられるようにして、ショボンはその場に背を向けた。
そのまま三人駆けていく姿を、傷男はただ見据え、熊はどこか満足げに鼻を鳴らす。
( メωФ)「その身体でよく動けるものだな……仲間のためか」
(・(エ)・)「……勘違いするな、俺が守りたかったのは……」
(・(エ)・)「……お前だ、内藤」
( メωФ)「…何か、勘違いしているようだな」
(・(エ)・)「いいや、どう変わろうと匂いでわかる」
と、熊の全身がいちど痙攣し跳ねたかと思うと、
足元に大量の血が一気に流れ落ちる。
(#゚;;-゚)「離れろ獣め」
傷女は引き剥がそうと、さらに攻撃を続ける、斬り、突き、その度に毛が舞う、
分厚い毛皮はそう刃物を通さないが、幾度もの切り傷が重なり血が噴出する。
(;・(エ)・)「ぐ……あ」
( メωФ)「いい加減離せ、死ぬぞ」
(;・(エ)・)「だめだ……お前を、奴らに、渡さない…」
(;・(エ)・)「お前の居るべき場所は……ここじゃない…だろう!」
( メωФ)「……」
(#゚;;-゚)「しぶとい……」
(; (エ) )「が…ぁ…!!!」
( メωФ)「何故そうまでして……」
( (エ) )「お前は……こんな俺を、対等に見て、接してくれた」
( (エ) )「短い時間ではあったが……そうして、同じ時を過ごしたのだ」
( (エ) )「お前はもう……俺にとって、家族同然」
(# (エ) )「獣とは、死に物狂いで家族を護るのだ……!!!」
そして熊は足を引き摺り、傷男を抱えたまま前へと進もうとする。
だが最早目も見えていないのか、方向も空ろで右往左往するばかり、
やがて、ずん、と一際大きな衝撃が走ると、熊の身体がゆっくりと倒れこんでいく、
最後まで傷男を掴んでいた腕が、最後に小さな引っかき傷をつくり血が滲む。
男は、血溜まりにしずむ熊を見下ろしながら、
これまでにも幾度か呼ばれた名を反芻する。
そして自らの肩についた傷を押さえながら、遠く、彼の王の方向を見やる。
問わなければならない事ができたと、そう思いながら。
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