29 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07 /20(火) 23:18:30.98 ID:A3KPZCYU0






('A`)と( ^ω^)は異世界で絆と出会うようです


     03「とある記憶の視点変更」







31 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07 /20(火) 23:20:16.45 ID:A3KPZCYU0




  目を覚まして最初に見たのは、苔でも生えてそうな、薄汚れた天井だった。
 やたら広い空間の四方はゴツゴツした石の壁に囲まれ、一部にだけ、重そうな鉄の扉がある。
その向こう側からは、今も何かの音がした、川の濁流のようでいて、吹き込む風にも聞こえる。

 石畳の上に寝そべっていた身体を起こすと、あちこちに痛みが走る。
固い上に寝ていたせいとも思ったが、この皮膚に感じる熱は、明らかにそれとは違っていた。

「……君、大丈夫か?」

  知らない声がした先を見れば、そこにもまた、知らない大人が居た。
 薄汚れた身なりに、髭の生えた顎、ボサボサの髪の毛。
それら全てが不信感を煽り、自分は何も答えなかった。

しかし、それは相手にとっても同様なのか、睨むような目を向けてくる。

 けれど、不思議と相手に対する恐ろしさは無く、他に何か、どうしようもなく怖いことがあって、
この恐ろしさに比べれば、警戒心を露にする大人には畏怖する理由が無かった。

 ふと奥を見ればそこには人の群れがある。まるで、捕食される事を恐れる動物のようだとさえ思った。
その中には若い男女も居た、幼い少年少女も居た、目を閉じて祈る老人も、多種多様に。


35 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07 /20(火) 23:24:24.06 ID:A3KPZCYU0

 自分は、そんな周囲を見回していた。
すると目の前の男は、睨むような視線はそのままに問いかけた。

「その剣は……何だ?」

  言われて、ようやく自分の傍らに剣が転がっている事に気がついた。
 剣は全体を半透明で、宝石を削って象ったような剣だった。
刀身はルビーのように赤く、柄の部分は全体的に紫に覆われている。

何だこれ、と思う僕と。

 見覚えがある、と思う俺が居て、とても奇妙な感覚だった。
そして思い出した、何よりも怖いと思っていたこと。

自分が、この牢獄へとやってきた、入れられた、その理由を。

(   、家に帰りたいなら)

 嫌だと言ったら、気を失うまで殴られた。
目を覚ます度に、それは何度も繰り返された。

やがてこう考えるようになった。

(―――そこに居る人間を、皆殺しにする事だ)

こんなに苦しい思いをしてまで、それを否定する必要は無いのだと。

38 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07 /20(火) 23:26:59.15 ID:A3KPZCYU0

 俺は目を閉じた、しかし見える物は変わらない、そして何かが聞こえた。
ばら撒かれる水の音と、誰かの悲鳴だった。

  倒れた人間の下から、赤い染みが歪に広がっていく。
 それが足を汚していくのを、僕はぼんやりと眺めていた。
俺は重なる悲鳴が嫌で、もう聞きたくないと叫んだ、けれど、声にはならない。


  何度それが繰り返されただろう、赤く綺麗だった剣はいつしか黒く染まり、
 自分に近づく人間は誰も居ない、けれど人が部屋から消える事はなかった、
何処から補充されているのかは知らないが、時折、投げ込まれるように誰かがやってきた。


そして世界が暗転した。


 僕は、衝撃に身体が転がる感覚と、鈍い痛みに目を覚ました。
腹の奥が熱く、呼吸ができず、もがく事しかできない。

「この野郎――」

「やられる前に―――」

  ふと見上げると、鬼のような形相で何かを振り上げる姿があった。
 椅子か何かだ、俺がそう思っていると、その何かが勢いよく振り下ろされ、
僕はその何かが折れる音と、耳の奥で何かが砕けるような音を聞いた。



39 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07/20(火) 23:30:20.75 ID:A3KPZCYU0

 横向きの世界に、足が並んでいて、伸ばした僕の手もその下にあった。
その足は次から次へとこちらへ飛んできて、その度に世界がぐるりと回る。

赤く染まっていく視界の中、最後に見えたのは目の下から広がっていく、どこかで見た黒い染み。

 目頭が熱くなるのを覚えた、言葉にしようとした声は、か、と言う単音にしかならない。
色々な思いが巡る、その中に俺の知る名前がいくつかあった。

もう痛みも何も感じないけれど、ただ、怖かった。

怖くて怖くて、自分は泣きながら求め続けた。

(だれか………たすけて………)

 目を閉じたら、もう二度と開けない気がして、僕は必死に目を開けようとした。
けれど、目を開けているのに視界がぼやけていく、何も見えなくなっていく。


そして、世界がまた暗転した。


 目を覚ますと、何があったのかはわからないけど、俺はまた剣を手にしていた。
若干、赤色に戻っている刀身は、見知らぬ男の首に突き立っている。

  喉から赤い気泡を浮かべながら、痙攣する男の顔をよく見れば、
 それは以前、椅子の様な物を振りかぶっていた人間と重なって見えた。
引き抜くと、何度か鼓動するように飛び散ったものが全身に降りかかる。


41 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07 /20(火) 23:32:45.76 ID:A3KPZCYU0

俺は泣いていた、僕も泣いていたと思う。

  嫌だ嫌だと叫んでも、その言葉は誰にも届かず。
 あの時に感じた、目を閉じてしまう事の恐怖が僕を狂わせていく、
痛いのが嫌で、怖いのが嫌で、苦しいのが嫌で、終わってしまう事が、

死ぬのが、どうしようもなく、恐ろしかった。

僕に帰りたい場所がある事を、俺も知っていた。

のどかな山の中だ。

そこには僕の両親が居た。

そして、二人の幼い兄妹が居た。

僕は兄の事をとても慕っていた、俺はその名を知っていた。

 だから、僕が感じている恐怖はよくわかる。
僕はただ、帰りたいだけなのだ。


最初は、間違いなく、そうだった。


やがて、僕にひとつの変化が現れる。


44 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07 /20(火) 23:34:49.90 ID:A3KPZCYU0


 したくない事をしているのは何故だろう。
こうまで誰かに恨まれているのは何故だろう。


それは僕が悪いのだろうか?


  少しずつその行為に慣れていく僕を、僕は正当化する事を考えていた。
 僕じゃない、僕のせいじゃない、そうやって逃げ続ける果てに、
僕の中にもう一つの僕が生まれ、生まれた僕は遠巻きに僕を眺めていた。

人を傷つける事に躊躇いの無い僕を、僕が眺めていた。

僕がよく使っていた、特徴的な語尾が消えた日を、俺はよく覚えている。




再び、世界が暗転した。







45 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07/20(火) 23:37:23.29 ID:A3KPZCYU0

 気がついたのは、身体を濡らす冷たさと、周囲に響く雨音だった。
見覚えのない山道、ぬかるんだ地面に幾度も足を取られ、体は泥にまみれている。

 つまづいて転ぶと、足元にあった石で膝をすりむいた。
その際に、自分の腰の辺りから金属的な音が聞こえた。

  木々に覆われた上天からは、葉に落ちる雨音が止むことなく響き、
 僕はどうしてここに居るのか分からない。
俺は行っちゃ駄目だと届かぬ言葉を叫んでいた。

(……)

 僕は何をしているのか、分からなかった。
俺はどうしようもなく嫌な予感を覚えた。

 身体に走る痛みと、訳の分からない虚無感に、自然と涙がこぼれた。
けれど、それも雨と一緒に流れていく。

嗚咽を漏らしながら、そうしてどれほど歩いただろうか。

やがて、広まった場所に出た。

47 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07 /20(火) 23:41:33.68 ID:A3KPZCYU0

 降りしきる雨の中、僕は立ちすくみ、ぼんやりと眺めていた。
すると、大きな窓に人影が浮かんだ。小さな影だった。

  よく見れば、まだ幼い少女だった。
 少女はすぐに僕を見つけ、指をさしながらふりむいて、何かを叫んでいる。
新たな人影が、釣られるように現れた。今度は大きな影だった。

  大人しそうな、それでいて綺麗な女性だった。
 けれど、僕を見るなりその表情を一変させ、酷く驚いた様子を浮かべると、
すぐにその場を離れていった。そして少女はまだ僕を見つめていた。

「   !!!」

 ややあって、玄関らしき扉が勢いよく開かれた。
続けて、中から二人の大人が現れて、靴も履かずに駆けてくる。

何か、叫んでいる。
何か、聞き覚えのある物だった気がする。

 こちらへ走ってくる一人、女の方は泣いているように見えた。
そして、彼女が僕の目の前にまでやってきて、手を広げた瞬間、

ひっ、という言葉に、俺は嫌な予感の正体を悟って。
いつかの、椅子のような物を振り上げる姿と重なって。

俺はやめろと叫んでいた。

僕はやめろと叫んでいた。


48 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07/20(火) 23:43:50.14 ID:A3KPZCYU0












雨が、より一層強く降り注いだ。















49 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07/20(火) 23:45:24.64 ID:A3KPZCYU0
 雨に混ざって、赤い雫が降り注いで、僕を染めていく。
足元には、血溜りが、大きく広がっていた。

一つが、呻き声を上げながら、僕を見上げていた。

「どうして」

続く言葉が、遠い日に聞いた、あの笑顔と重なった。

 そしてもう一つは、僕に覆いかぶさるようにしながら、
目には涙を溜め、口からは赤い筋を垂らしながら言った。

「よかった」

 そう言って、崩れていく体が、びしゃりと水溜りに沈む。
僕を抱きしめる感触を、遠い昔に知っていたような気がした。


降り続く雨の中、ふと、顔を上げた。


 あの家の玄関には、僕と同じくらいの背丈の男の子が居て。
驚きと、嘆きが混ざったような表情で、こっちを見ている。

それにも、見覚えがあった。

51 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07 /20(火) 23:48:10.54 ID:A3KPZCYU0

そして、僕の中で、何かが砕け散っていく音を聞いた。


気付けば、僕は来た道を駆け出していた。

 強烈な眩暈を感じて、世界がぐるぐると回り始める。
そして、頭の中が真っ白になって、僕は考えることをやめた。

「は」

走りながら、気付けば口元がつりあがっていた。

「はははははは」

 坂を駆け下りる最中、幾度と無く転び、木に衝突し、
顔面の至る所から血が垂れ、身体中が痛みを訴えている。

「はははははははははははははは」

 やがて僕は大きく躓き、そのまま転がり、木に衝突し、天を仰いだ。
喉から出てくる言葉は、意思とは関係なく出続けた。

「あはははははははははははははは――――――――――」

 感情の込められていない、笑う言葉がただの叫びになって、
雨が降りしきる木々の合間に、物悲しく響いていた。



52 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07/20(火) 23:50:48.13 ID:A3KPZCYU0


…………。



 その光景は、ここで途絶え、そこから先を見る事は無かった。
俺はただ、その全てが悲しく見えて、泣いていた。

すると、俺の前に誰かが現れた。

「……こんな物を見せたい訳じゃなかったんだけど」

 俺は、この声の主と、今までに見てきた物が何なのか、
その全てを悟った、理解ってしまった。

(;A;)「……モナー…さん」

( -∀-)「いや、違うよ、家族を想って生まれたモナーって人間はね、もう、ずっと昔に死んだんだ、
     ……僕はモララー、ただの人殺しさ、それ以外の何者でもない」

 許せない筈だった、例えどんな理由がそこにあったとしても、
この人を許せないと、そう思っていた。

なのに今は、ただ、悲しかった。

 今までにしてきた事も、今こうして俺に言う言葉も、
その全てが、とても悲しい物に思えて、ただ、あまりにも悲しくて、涙が止まらなかった。

54 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07 /20(火) 23:53:33.22 ID:A3KPZCYU0

( ・∀・)「ほら、泣いている暇はないよ、君にはやるべき事があるだろう?」

 思い出せ、とモララーは言った。
何を思い出すより先に、色々な顔が浮かんできた。

あの世界で出会った様々な人や、友達と、何より大切な人。

  そして、今に至るまでの最後の記憶。
 折れた剣、迫る黒い剣、そして身体が浮き上がる感覚。
ドクオは歯を食いしばり、涙を拭うと立ち上がり、辺りを見渡した。

(;'A`)「……ここは」

  そこは、何も無い空間だった。
 空も地面も無く、白い霧に包まれたようにあたり一面は真っ白。
訳が分からないと言った風に見回すドクオに、やがてモララーが口を開く。

( ・∀・)「ここは君と僕の記憶の狭間……まあ、有体に言えば夢の中ってやつだね、
      そして、ちょっと君に渡しておきたいモノ……見せたいモノがあるんだ」

('A`)「見せたい物……ですか?」

 あまりに非現実的な事だったが、ドクオは何故かそれを疑問に持つことはなく、
むしろ、それが当然であるような不思議な納得感を覚えた。



55 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07/20(火) 23:55:22.23 ID:A3KPZCYU0

( ・∀・)「うん、君はさ、あの剣を完璧に近いまでに操ってみせたけど……まだ一つ、足りない部分がある」

( ・∀・)「そしてそれは……君だけじゃ、絶対に埋める事の出来ない」

 あの剣、自分が受け継ぎ、管理者となった神具レーヴァテイン。
その全てを理解しても尚、足りない部分がある。ドクオ自身もそれを理解していた。

揺るぎの無い意思が、炎を出すあの剣を扱うことに置いて、足りない物。

( ・∀・)「君にはまだ、劣等感がある」

 かつて、伝説にまで謳われた神具と、その管理者。
ドクオはまだ、そこに自分を当てはめる事ができなかった。

  あの人たちの意思を継ぐ、という思いの傍らにある一つの感情、
 追いつきたい、と願いながら、どうしても拭いきれないもの。
それこそが、適わない、という劣等感だった。

( ・∀・)「だから僕は、この剣に刻まれた記憶の欠片で、一つの可能性を提示する」

(; A )「……え?」

 ドクオは驚きに目を見開き、呆然と肩を落とした。
モララーの言葉にではない、彼の背後、そこにあらわれた二つの人影に。

58 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07 /20(火) 23:59:00.31 ID:A3KPZCYU0









(,,゚Д゚)

ミ,,゚Д゚彡




  一つは、よく見知った、あの日に失った恩人。
 そしてもう一つは、見知らぬ姿だった、けれど、何故か名が浮かんだ、
何故なら、その知らぬ人物が手にするのは、炎が宿るあの、自身が持つ剣に他ならなかったから。


( ・∀・)「さあ、始めようか……叶わぬ夢への回帰を」




   03 「とある記憶の視点変更」終


62 名前: ◆6Ugj38o7Xg :2010/07 /21(水) 00:05:59.04 ID:cz/zXF9h0
一ヶ「終わりへと辿る」済          十一ヶ「       」
       ↓
二ヶ「それぞれの在り処」済        十二ヶ「        」
       ↓
三ヶ「とある記憶の視点変更」済     十三ヶ「       」
       ↓
四ヶ「激突する意思」            十四ヶ「       」

五ヶ「それぞれの決意」          十五ヶ「         」

六ヶ「夢で逢えたら」              十六ヶ「       」

七ヶ「         」           十七ヶ「      」

八ヶ「      」              十八ヶ「     」

九ヶ「      」              十九ヶ「          」

十ヶ「  」                  二十ヶ「              」

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